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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1348418
審判番号 不服2018-512  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-16 
確定日 2019-02-22 
事件の表示 特願2014-52341「光ファイバコネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月5日出願公開、特開2015-175979、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年3月7日付け :拒絶理由通知書
平成29年5月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年10月6日付け:拒絶査定(同年同月17日送達。以下、「原査定」という。)
平成30年1月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年11月6日付け:当審拒絶理由通知書
平成30年12月14日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、以下の引用文献A及び周知例BないしFに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献等一覧
A.特開平08-15567号公報
B.特開2004-62064号公報
C.特開2008-151843号公報
D.特開2006-84890号公報
E.特開平10-227953号公報
F.特開2003-241020号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、以下の引用文献1ないし6並びに周知例7及び8に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献等一覧
1.特開2006-84890号公報(原査定時の周知例D)
2.特開2004-233469号公報(新たに引用した文献)
3.特開2008-151843号公報(原査定時の周知例C)
4.特開2007-156190号公報(新たに引用した文献)
5.特開平08-15567号公報(原査定時の引用文献A)
6.特開2003-241020号公報(原査定時の周知例F)
7.特開平07-168063号公報(新たに引用した文献)
8.特開平08-29638号公報(新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成30年12月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。

「【請求項1】
光ファイバと、
前記光ファイバが光学的に接続される光学部品と、
前記光ファイバの端末を保持すると共に前記光ファイバの光軸と前記光学部品の光軸とを調芯する調芯溝を有する保持部品と、
前記光ファイバの端末を前記保持部品に押さえ付ける押さえ部品と、
を備え、
前記光ファイバと前記保持部品は、線膨張係数が相互に異なる材料で形成されており、
前記光ファイバは、先端部が屈折率整合接着剤により覆われていると共に、端末が前記屈折率整合接着剤により前記押さえ部品と共に前記光ファイバの先端部が前記光学部品に当接するように前記保持部品に固定されており、
前記屈折率整合接着剤により覆われている前記光ファイバの先端部が角部が存在しないように先球化されていることにより、前記光ファイバの先端部に発生する応力集中が緩和されることを特徴とする光ファイバコネクタ。
【請求項2】
前記保持部品は、前記調芯溝の先端を横断して形成されると共に、前記光ファイバの先端部を前記調芯溝から露出させる凹溝を更に有しており、
前記光ファイバは、先端部が前記凹溝に充填された前記屈折率整合接着剤により前記保持部品に固定されている請求項1に記載の光ファイバコネクタ。
【請求項3】
前記凹溝は、少なくとも先球化された前記光ファイバの先端部の全体を前記調芯溝の先端から露出させる幅を有している請求項2に記載の光ファイバコネクタ。
【請求項4】
前記凹溝は、前記調芯溝よりも深く形成されている請求項2又は3に記載の光ファイバコネクタ。
【請求項5】
前記屈折率整合接着剤は、硬化後のヤング率が100MPa以上である請求項1から4の何れか一項に記載の光ファイバコネクタ。
【請求項6】
前記光ファイバと前記押さえ部品は、石英ガラスで形成されており、
前記保持部品は、石英ガラスよりも線膨張係数が大きな材料で形成されている請求項1から5の何れか一項に記載の光ファイバコネクタ。」

第5 引用文献等
1 引用文献1について
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は当審で付したものである。以下同じ。)

(1)「【0016】
図1は本発明の一実施例の光接続装置21の断面図(図2のA-A断面図)、図2は図1の光接続装置21の一部切欠き平面図(但し接着剤は不図示)、図3(イ)は図1のB-B断面図、図3(ロ)は同C-C断面図、図4は図1の光接続装置21の基板側部分についての要部の斜視図である。これらの図において、22は樹脂製の基板で、例えば射出成形により成形されたものである。この基板22に例えばV溝による複数の調心溝23が互いに平行に形成され、各調心溝23に光ファイバ24が収容され接着剤で固定されている。
【0017】
前記光ファイバ24は、図5に要部を拡大して示すように、先細端部24dのコア先端を凸曲面に形成して凸レンズ部24cとした光ファイバ、いわゆるレンズファイバである。光ファイバ24のコアを24a、クラッドを24bで示す。図示例の先細端部24dは円錐状であるが、必ずしも円錐状に限定されない。コア先端に凸レンズ部24cを形成できるような先細状であればよい。また、この光ファイバ24は、例えば、単心光ファイバの裸ファイバ、あるいは光ファイバテープ心線から分離させた個別の光ファイバ(裸ファイバ)、あるいは光ファイバシートから延出させた個別の光ファイバ(裸ファイバ)等である。
また、基板22の前記調心溝23の先端側に光ファイバ並び方向をなす凹所25が形成され、この凹所25の壁面として45°の傾斜の斜面が形成され、この斜面に反射膜を形成してミラー26を形成している。
【0018】
前記ミラー26の上方に光学素子28が配置されている。光学素子28は、面発光レーザ等の発光素子又はフォトダイオード等の受光素子であり、基板22に固定されたマウント29に設けられている。光学素子28は、光ファイバ24から出た光がミラー26で上向きに直角に反射した方向にあり、かつ、光ファイバ24から出た光が収束する位置に位置している。
基板22は簡略化して示したが、実際には印刷配線が形成され、電子部品を搭載している。すなわち、装置全体としては、光ファイバ、光学素子等の光回路を構成する要素と、発光素子を電気信号で変調・駆動しあるいは受光素子の出力電気信号を処理する等の電子回路とを同一基板上に搭載した光・電子混載基板を構成する。」

(2)「【実施例3】
【0023】
実施例では、光軸変換の空間となる凹所25、65を単なる空間としたが、この凹所25、65に透明接着剤を充填してもよい。
また、凹所25、65内に塵埃が入らないように、凹所25、65にガラス板などで蓋をすることもできる。
また、光ファイバを収容する調心溝に蓋をすることもできる。」

(3)また、引用文献1の図1、5において、ミラー26及び光学素子28は光ファイバ24と光学的に接続されていること、並びに、光ファイバ24の先細端部24dは基板22に設けられた凹所25内にあることが示されている。

上記記載及び図面に示された事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「先細端部のコア先端を凸曲面に形成して凸レンズ部とした光ファイバと、
光ファイバと光学的に接続される、ミラー及び光学素子と、
複数の調心溝が形成され、各調心溝に光ファイバが収容され接着剤で固定されている、樹脂製の基板を有し、
光ファイバの先細端部は基板に設けられた凹所内にあり、
凹所に透明接着剤が充填され、
調心溝に蓋がされた、
光接続装置。」

2 引用文献2について
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような光デバイスM3の構成では、素子体実装溝7に光学ブロック体B2を載置し、接着剤8を充填して固定した際に、接着剤8の硬化収縮による応力が生じ、光学ブロック体B2を構成している光学素子体K2の偏光子10、検光子11、及びファラデー回転子12が角型であるため、その角稜に集中的に応力が加わる。これが原因となって光学素子体K2の面内特性の劣化を招き、ひいては光デバイスM3の光学特性が劣化してしまうという問題があった。また、このため、この光学特性の劣化を考慮して一回り大きなサイズの光学素子体を使用せざるを得なく、小型化・安価の実現に向けて支障をきたすという問題があった。」

(2)「【0032】
かくして、本発明の光デバイスM1によれば、保護体1内に光導波体F1を設け、この光導波体F1を分断する素子体実装溝7内に光学素子体K1を接着剤8で充填固定する構成において、前記素子体実装溝7に実装される光学素子体K1の断面形状が円形状であることにより、接着剤の硬化収縮により光学素子体K1に発生する応力を一様に分散させることが可能となる。したがって、応力が局所的に集中することがなく光学素子の有効領域にて安定した光学特性が得られ、信頼性に優れた光デバイスを供給できる。また、光学素子体K1の外周側面に配置される磁石13を例えば安価な金属の筒状部材に変更することにより、光デバイスM1の低コストでの供給が実現可能となる。」

上記の記載から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「角型の光学素子を樹脂により固定した場合に、その角稜に集中的に応力が生じること、及び、このような角稜をなくすことにより、光学素子体に発生する応力を分散させ、応力の集中をなくすこと。」

3 引用文献3について
引用文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0041】
次に、上記光伝送用光学部品21の製造工程を説明する。はじめに、接続部33よりも線膨張係数の小さな接着剤35を用いて光伝送用光学部品21を組立てる場合の製造工程を図7、図8及び図9に従って説明する。なお、ファイバ芯線25をV溝26に載置し、ファイバ芯線25の上に上側ホルダー部23aを重ねて置いた状態では、光学機能アレイ22の背面とファイバホルダー23の前面との間には、上側ホルダー部23aの上面と同じ高さからV溝26の最下位置あたりの深さまで空間32が形成される。以下においては、この空間32のうち、ファイバ芯線25の端面と光学機能アレイ22の背面との間の空間をギャップ部分34と呼び、ギャップ部分34の上方で、かつ、上側ホルダー部23aの前面と光学機能アレイ22の背面との間に位置する空間を補充空間36と呼ぶことにする。)」

(2)「【0043】
これらの部品を組立てる工程では、図7(a)に示すように、下側ホルダー部23bのV溝26に各ファイバ芯線25を並べて位置決めし、ファイバ芯線25の端面を光学機能アレイ22の背面に対向させる。このときファイバ芯線25の端面と光学機能アレイ22の背面との間のギャップ部分34の距離αは、10μm以上30μm以下となるようにする。この距離αが10μmよりも短いと、ここに接着剤35を充填したときに、硬化収縮によって接着剤35の界面に剥離や微細な気泡が発生し易くなり、また距離αが30μmよりも長いと、硬化収縮による引っ張り応力が大きくなり、剥離しやすくなる。」

(3)「【0046】
ついで、図7(c)に示すように、光学機能アレイ22の背面と上側ホルダー部23aの前面との間の補充空間36から、ディスペンサ37等により紫外線硬化型の透明な接着剤35を空間32内へ注入する。空間32内へ注入された接着剤35は、空間32内に充填される。このとき接着剤35は、ギャップ部分34の上の補充空間36まで十分に充填される。なお、可能であれば、予めV溝26内や上側ホルダー部23aとファイバ芯線25との間に接着剤35を塗布せず、空間32内に注入された接着剤35が、上側ホルダー部23aの下面とファイバ芯線25の間の隙間やV溝26内などに流入するようにしてもよい。」

(4)上記の段落【0046】の記載において、空間32内に注入された接着剤35が、上側ホルダー部23aの下面とファイバ芯線25の間の隙間やV溝26内などに流入するとされていることから、この接着剤は、下側ホルダー部にファイバ芯線を固定するとともに、上側ホルダーも固定しているといえる。

(5)また、図7において、ファイバ芯線25の先端部は、光学部品である光学機能アレイ22の背面と上側ホルダー部23aの前面との間の補充空間36の部分に置かれることが示されている。

上記の記載及び図面に示された事項から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3技術」という。)が記載されていると認められる。

「V溝を有する下側ホルダー部、V溝に並べて位置決めされるファイバ芯線及び上側ホルダーを有する光伝送用光学部品において、接着剤により、下側ホルダー部にファイバ芯線を固定するとともに、上側ホルダーも固定する技術。」

4 引用文献4について
引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0047】
図9は本発明の実施例4による光導波路モジュール104を示す部分断面図であって、凹溝35の近傍における要部の断面を表わしている。実施例4の光導波路モジュール104では、光ファイバ37の端面が略球面状に凸設されており、光ファイバ37の端面中央部44が突出している。そして、光ファイバ37の端面中央部44が光導波路領域Aの凹溝側端面に当接している。」

(2)また、図9において、光ファイバは、光学部品である光導波路領域に光学的に接続されている。

上記の記載及び図面に示された事項から、引用文献4には、次の技術(以下、「引用文献4技術」という。)が記載されていると認められる。

「略球面状に凸設された光ファイバの端面中央部を、光学的に接続される光学部品に当接させる技術。」

5 引用文献5について
引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0025】図11は本発明の第7の実施例を示す図である。図11(a)は、1組の基板11と蓋3、精密円筒部材5a,5bと固定剤6a,6bで構成される整列用V溝部材を積層状に2層だけ積み上げ、互いに固定した例を示している。図11(b)は、第1の基板11aに第2の基板11bを積層しさらに蓋3を固定した構造を示している。図12には、図11(b)の整列用V溝部材を使用した場合の本実施例の光コネクタの構成例を示した。テープファイバも対向する位置でそれぞれ積層状に配置され、テープファイバが整列用V溝に挿入後は、図7で示した状態で各ファイバは光接続される。図11では2層に積層された場合を示しているが、原理的には何層にでも拡張は可能であり、V溝の数も必要に応じて設定して置けば良いのは明白である。図13は本発明の第8の実施例で、光ファイバと光導波回路間の光接続を実現するための構造を提供するものである。11は基板であり、片端部にはファイバ整列用V溝2′が形成されている。7は光導波回路、8は光導波回路7とテープファイバと光接続を行うコアが露出した光導波回路端面である。整列用V溝2′と蓋3とは、図8(a)などで示した構成であり、テープファイバ4の挿入方法は、第一の実施例で説明したのと同様の方法で行い、座屈部4′が形成されて光接続が完了する。挿入を容易にするため、テーパを設けることも可能である。テープファイバ先端を凸球面加工しておくことによって、光導波回路端面8とテープファイバ4とを容易に低反射・低損失で光接続できる。
【0026】図14(a)、(b)は本発明の第9の実施例で、図14(a)は光ファイバ挿入方向より見た場合のファイバ挿入・接続時の構造図であり、図14(b)は光ファイバ光軸中心で切った場合の断面構図であり、9は座ぐり部である。光導波回路端面8と整列用V溝2′とのコーナー部の加工だけによる接続不良を防ぐため、座ぐり部9を採っておくことも、高品質の接続には有用である。」

(2)また、引用文献5の図14には、座ぐり部9の深さはファイバ整列用V溝2′より深く形成されており、座ぐり部9の部分において、凸球面加工されたテープファイバの先端部は露出されており、先端部の全体が座ぐり部の部分の幅に位置し、先端部は光導波回路端面に当接し、基板、蓋及びファイバが固定されていることが示されている。

上記の記載及び図面に示された事項から、引用文献5には、次の発明(以下、「引用文献5発明」という。)が記載されていると認められる。

「ファイバ整列用V溝が形成された基板に、座ぐり部を整列用V溝より深く形成し、座ぐり部9の部分において、凸球面加工されたファイバの先端部が露出されるようにし、先端部の全体が座ぐり部の部分の幅に位置し、
ファイバの先端部は光導波回路端面に当接し、
蓋を備え、
基板、蓋及びファイバが固定された
光コネクタ。」

6 引用文献6について
引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0022】V溝7と押え部材6で位置決めされる裸ファイバ部3を第1の接着剤11で接着固定し、ファイバ被覆2の先端部分を第2の接着剤12で台座部5b上に接着固定し、第1の接着剤と第2の接着剤の間の裸ファイバ部3を第3の接着剤13で接着固定する。第1の接着剤11には、硬化後のヤング率が500MPa以上で比較的硬く、硬化前の粘度が10Pa・s以下の比較的小さい接着樹脂を用いる。第2の接着剤12には、硬化後のヤング率が500MPa以上で第1の接着剤11と同様に比較的硬いが、硬化前の粘度が10Pa・sを越える第1の接着剤11より比較的大きい接着樹脂を用いる。また、第3の接着剤13には、ヤング率が500MPa未満で第1の接着剤11より比較的軟らかい接着樹脂を用いる。」

上記の記載から、引用文献6には、次の技術(以下「引用文献6技術」という。)が記載されていると認められる。

「V溝と押え部材で位置決めされるファイバを、硬化後のヤング率が500MPa以上の接着剤で接着固定する技術。」

7 周知技術1について
(1)周知例7について
周知例7には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0016】図4(a)?(c)は、本発明における光ファイバ保持基板の他の実施例を示す図で、図(a)は光ファイバの出射端が平面のものを用いた場合の側面図、図(b)は光ファイバの出射端が球面ないしは非球面のものを用いた場合の側面図、図(c)は図(a)あるいは図(b)における右側面図の部分図である。」

イ また、周知例5の図4(b)には、光ファイバの先端部として、角部が存在しないものが示されている。

(2)周知例8について
周知例8には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0121】なお、図52に示す光導波路基板21では、図34?図43により前述した第2実施例のものと同様、ガイド溝形成用兼凹部形成用のマスクパターン(低屈折率層31および高屈折率層32)をそのまま残しておき、そのマスクパターン自体を、幅の狭い溝部24Aとして用いている。上述の構成により、第1,第2実施例と同様にファイバブロック25(図52,図53では図示省略)によりテーパ先球光ファイバ71を保持した状態で、このテーパ先球光ファイバ71を光導波路基板21の第1ガイド溝24に嵌合させることにより、光導波路22に対するX軸方向およびY軸方向の位置決めを行なう。」

イ また、周知例6の図53には、テーパ先球光ファイバ71の先端部として、角部が存在しないものが示されている。

(3)周知技術1
周知例7及び8に記載された、次の技術は周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。

「光ファイバの先端部を球状のように角部が存在しないものとする技術。」

8 周知技術2
原査定時の周知例Bには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0029】
光ファイバ32と光導波路コア12の端面間の間隙は、屈折率整合材42によって充填されている。屈折率整合材42は、光ファイバ32のコアおよび光導波路コア12と実質的に等しい屈折率を有している。屈折率整合材42は透光性である。光ファイバ32と光導波路とは、屈折率整合材42を介して光学的に結合されている。屈折率整合材42は、光ファイバ32の端面および光導波路コア12の端面での光反射を低減する。また、屈折率整合材42は、光ファイバ32と光導波路コア12の間を伝搬する光の結合損失を低減する役割を持つ。
【0030】
屈折率整合材42としては、シリコーン系の樹脂接着剤を使用することができる。シリコーン系の樹脂は、アクリル系の樹脂に比べて軟質である。例えば、シリコーン系紫外線硬化樹脂の硬度は、ショアA20程度であるのに対し、アクリル系紫外線硬化樹脂の硬度は、ショアA100程度である。軟質の材料を屈折率整合材42として使用すると、光ファイバ32に与えるストレスが少なくて済む。このため、光ファイバ32の断線や、光ファイバ32への外部応力により生じる損失の増加を防ぐことができる。」

周知例Bに記載された、次の技術は周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。

「光ファイバと光学的に接続される光部品の端面間の間隙を接着剤である屈折率整合材によって充填する技術。」

9 周知技術3
原査定時の周知例Eには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0028】このSi基板6上に、通常の光ファイバ2や、またはエッチング等によりファイバ先端部を半球状にレンズ加工した先球加工ファイバ10(図1(b)参照)と、LD素子1とを無調整で実装し、その後、液状のSi樹脂7をLD素子1と光ファイバ2の間隙に充填する。
【0029】Si樹脂7を充填後、紫外線照射や加熱することにより、ゲル状に固化させて光結合系を作製する。」

また、周知例Eの図1(b)において、樹脂はファイバ端面全体を覆うように充填されていることが示されている。

周知例Eに記載された、次の技術は周知技術(以下、「周知技術3」という。)である。

「ファイバ先端部を半球状にレンズ加工した先球加工ファイバと光学的に接続される光部品の間の間隙にファイバ端面全体を覆うように樹脂を充填して固化し、光結合系を作製する技術。」

第6 対比・判断
1 当審拒絶理由について
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と引用文献1発明とを対比する。

(ア)引用文献1発明の「光ファイバ」、「先細端部」は本願発明1の「光ファイバ」、「先端部」にそれぞれ相当する。

(イ)引用文献1発明の「ミラー」及び「光学素子」は、光ファイバと光学的に接続されたものであるから、本願発明1の「前記光ファイバが光学的に接続される光学部品」に相当する。

(ウ)引用文献1発明の「調心溝」は、光ファイバの調心すなわち光学素子との光軸合わせをするとともに、光ファイバの端末部分の固定すなわち保持をするものであるから、本願発明1の「前記光ファイバの端末を保持すると共に前記光ファイバの光軸と前記光学部品の光軸とを調芯する調芯溝」に相当し、引用文献1発明の調心溝が形成された「基板」は、本願発明1の調芯溝を有する「保持部品」に相当する。

(エ)引用文献1発明の「基板」は樹脂製であることから、通常の石英ガラス系の光ファイバであると考えられる引用文献1発明の「光ファイバ」と線膨張係数は異なっている。

(オ)引用文献1発明において、「光ファイバ」の「先細端部」は「基板」に設けられた「凹所」内にあり、凹所に「透明接着剤」が充填されていることから、この透明接着剤によって光ファイバの先細端部は覆われる。この透明接着剤は1以上の屈折率を有するものであるから、引用文献1発明においても、屈折率は整合されることとなる。

(カ)引用文献1発明において、「調心溝」にされる「蓋」は、光ファイバの端末部分上で光ファイバを押さえ付けることとなることから、本願発明1の「前記光ファイバの端末を前記保持部品に押さえ付ける押さえ部品」に相当する。

(キ) 引用文献1発明の「光接続装置」は、光ファイバの接続すなわち光ファイバのコネクトを行うものであるから、「光ファイバコネクタ」に相当する。

したがって、本願発明1と引用文献1発明の間には、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「光ファイバと、
前記光ファイバが光学的に接続される光学部品と、
前記光ファイバの端末を保持すると共に前記光ファイバの光軸と前記光学部品の光軸とを調芯する調芯溝を有する保持部品と、
を備え、
前記光ファイバと前記保持部品は、線膨張係数が相互に異なる材料で形成されており、
前記光ファイバは、先端部が屈折率整合接着剤により覆われていると共に、
前記屈折率整合接着剤により覆われている、
光ファイバコネクタ。」

[相違点1]
本願発明1においては、「前記光ファイバの先端部が角部が存在しないように先球化されていることにより、前記光ファイバの先端部に発生する応力集中が緩和される」のに対し、引用文献1発明においては、光ファイバの先細端部において角部が存在しているかどうか及び応力集中が緩和されているかどうかが特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1においては、光ファイバの「端末が前記屈折率整合接着剤により前記押さえ部品と共に」「前記保持部品に固定され」ているのに対し、引用文献1発明においては、凹所に充填される透明接着剤が蓋も固定することが特定されていない点。

[相違点3]
本願発明1においては、光ファイバの先端部が「前記光学部品に当接するように」保持部品に固定されているのに対し、引用文献1発明においては、光ファイバは光学部品に当接していない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討する。

上記1(1)アにおいて記載したとおり、引用文献1発明において、本願発明1の「前記光ファイバが光学的に接続される光学部品」に相当しているのは、引用文献1発明の「ミラー」及び「光学素子」であり、引用文献1発明において、光ファイバから出射して光学素子に向かう光又は光学素子から光ファイバに入射する光はミラーにおいて反射されるものであり、ミラーは反射のために光ファイバに対して傾斜して設けられる。

そのため、引用文献1発明において、「略球面状に凸設された光ファイバの端面中央部を、光学的に接続される光学部品に当接させる」という引用文献4技術を適用しようとすると、引用文献1発明の光ファイバの先細端部を傾斜したミラーに当接させることとなるが、このように光ファイバの先細端部を傾斜したミラーに当接させると、その部分において光が散乱等によって損失を受ける可能性がある。引用文献1においては、このような可能性も考慮して十分に光が反射されるように光ファイバの先細端部とミラーを離間して配置しているものと考えられることから、この点において、引用文献4技術を引用文献1発明に適用することには阻害要因がある。

そして、他の引用文献及び周知技術を考慮しても、このような阻害要因を排除することはできない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1ないし6及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし6
本願発明2ないし6は、請求項1に従属する請求項に係るものであり、本願発明1の全ての構成を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1ないし6及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 原査定の理由について
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と、引用文献5発明(引用文献5は、原査定時の引用文献Aである。)を対比する。

ア 引用文献5発明の「ファイバ」、「先端部」は、本願発明1の「光ファイバ」、「先端部」に相当する。

イ 引用文献5発明の「光導波回路」は、ファイバと光学的に接続されたものであるから、本願発明1の「前記光ファイバが光学的に接続される光学部品」に相当する。

ウ 引用文献5発明の「整列用V溝」は、本願発明1の「調芯溝」に相当する。引用文献5発明の「整列用V溝」はファイバの整列のためのものであり、ファイバの光軸を光導波回路の光軸に合わせて調芯するものであるから、引用文献5発明の「ファイバ整列用V溝が形成された基板」は、本願発明1の「前記光ファイバの端末を保持すると共に前記光ファイバの光軸と前記光学部品の光軸とを調芯する調芯溝を有する保持部品」に相当する。

エ 引用文献5発明の「蓋」は、ファイバの端末部分を押さえているから、本願発明1の「前記光ファイバの端末を前記保持部品に押さえ付ける押さえ部品」に相当する。

オ 引用文献5発明においては、「ファイバの先端部は光導波回路の端面に当接し」、「基板、蓋及びファイバが固定され」ていることから、本願発明1の「前記光学部品に当接するように前記保持部品に固定されて」いるという構成を備えているといえる。

カ 引用文献5発明の「光コネクタ」はファイバを接続するものであるから、本願発明1の「光ファイバコネクタ」に相当する。

したがって、本願発明1と引用文献5発明の間には、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「光ファイバと、
前記光ファイバが光学的に接続される光学部品と、
前記光ファイバの端末を保持すると共に前記光ファイバの光軸と前記光学部品の光軸とを調芯する調芯溝を有する保持部品と、
前記光ファイバの端末を前記保持部品に押さえ付ける押さえ部品と、
を備え、
前記光ファイバの先端部が前記光学部品に当接するように前記保持部品に固定されている、
光ファイバコネクタ。」

[相違点4]
本願発明1においては、「前記光ファイバは、先端部が屈折率整合接着剤により覆われていると共に、端末が前記屈折率整合接着剤により前記押さえ部品と共に前記保持部品に固定されており、」「前記光ファイバの先端部が角部が存在しないように先球化されていることにより、前記光ファイバの先端部に発生する応力集中が緩和される」のに対し、引用文献5発明においては、基板、蓋及びファイバの固定に屈折率整合接着剤を用いることが特定されておらず、ファイバの先端部が屈折率整合接着剤により覆われておらず、ファイバの先端部が角部が存在しないように先球化されていることにより、ファイバの先端部に発生する応力集中が緩和されてもいない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点4について検討する。

ここで、「光ファイバと光学的に接続される光部品の端面間の間隙を接着剤である屈折率整合材によって充填する」という周知技術2、「ファイバ先端部を半球状にレンズ加工した先球加工ファイバと光学的に接続される光部品の間の間隙にファイバ端面全体を覆うように樹脂を充填して固化し、光結合系を作製する」という周知技術3は、ともに周知技術であるが、ファイバの先端部を光導波回路の端面に当接させ、基板、蓋及びファイバを固定している本願発明1において、固定に用いられている何らかの固定剤に替えて屈折率整合接着剤を用い、屈折率整合接着剤により端面が覆われるようにする構成を備えたものとする動機づけはない。

また、仮に、周知技術2及び3がともに周知技術であることを考慮して、引用文献5発明において、屈折率整合接着剤を用いて固定し、屈折率整合接着剤により端面が覆われるようにする構成を備えたものとすることを当業者が想到し得たと仮定しても、引用文献1において、ファイバの先端部は角部が存在しないように先球化されておらず、ファイバの先端部に発生する応力集中が緩和されるとはいえない。

そして、「光ファイバの先端部を球状のように角部が存在しないものとする」という周知技術3も周知技術であるが、屈折率整合接着剤を用いて固定し、屈折率整合接着剤により端面が覆われるようにする構成を備えたものとすることに加えて周知技術3まで適用し、引用文献5発明に基づき、2つの段階を経て上記相違点4に係る構成を備えた本願発明1の構成に至ることは、格別の努力を要するものといえ、当業者にとって容易なことであったとはいえない。

ここで、「角型の光学素子を樹脂により固定した場合に、その角稜に集中的に応力が生じること、及び、このような角稜をなくすことにより、光学素子体に発生する応力を分散させ、応力の集中をなくす」という引用文献2技術が知られていたとしても、上記のように2つの段階を経ることを要する本願発明1の効果が当業者にとって自明のものであったとすることまではできない。

したがって、本願発明1は、原査定時の引用文献Aである引用文献5及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし6
本願発明2ないし6は、請求項1に従属する請求項に係るものであり、本願発明1の全ての構成を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、原査定時の引用文献Aである引用文献5及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-06 
出願番号 特願2014-52341(P2014-52341)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹岸 智史  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
古田 敦浩
発明の名称 光ファイバコネクタ  

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