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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C04B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C04B |
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管理番号 | 1348461 |
審判番号 | 不服2017-19322 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-26 |
確定日 | 2019-02-19 |
事件の表示 | 特願2016- 57357「セメントクリンカ組成物およびポルトランドセメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017-171518、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成28年3月22日の出願であって、原審にて、平成29年9月25日付けの拒絶査定がされ、これを不服として同年12月26日付けで本件審判が請求されると同時に手続補正がされたものであり、その後、当審にて、平成30年1月22付けの刊行物提出と同年8月1日付けの上申書の提出がされ、同年9月5日付けで拒絶理由を通知したところ、同年11月2日付けの手続補正がされ、同年11月27日付けで再度の刊行物提出がされたものである。 第2.本願発明の認定 本願の請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1?3」という。)は、平成30年11月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりものと認められる。 【請求項1】 ボーグ式で算出された3CaO・SiO_(2)の割合が50?75質量%であり、 ボーグ式で算出された2CaO・SiO_(2)の割合が5?25質量%であり、 ボーグ式で算出された3CaO・Al_(2)O_(3)および4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計の割合が10?25質量%であり、 MgO、SO_(3)およびFを含み、 MgOの含有量が0.5?3.0質量%であり、 SO_(3)の含有量が0.3?1.5質量%であり、 Fの含有量が100?800質量ppmであり、 前記MgOの含有量、前記SO_(3)の含有量および前記Fの含有量が下記の式(1)の関係を満たし、 C_(3)S-M3相比率が0.72?1.0であるセメントクリンカ組成物。 1215≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))≦1800 (1) 【請求項2】 SbおよびSb化合物の少なくとも1種を含み、 前記セメントクリンカ組成物1kgに対する前記SbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量が、Sb元素に換算して4?80mgである請求項1に記載のセメントクリンカ組成物。 【請求項3】 請求項1または2に記載のセメントクリンカ組成物と、石膏とを含むポルトランドセメント組成物。 第3.当審拒絶の理由について 1.拒絶理由の要旨 当審にて通知した拒絶理由は、 引用例1:特開2012-197197号公報 引用例2:MAKI, I., GOTO K., FACTORS INFLUENCING THE PHASE CONSTITUTION OF ALITE IN PORTLAND CEMENT CLINKER, CEMENT and CONCRETE RESEARCH, Printed in the USA, 1982, Vol.12, Issue 3, PP.301-308 引用例3.特開平9-30856号公報 を引用し、 「本願発明1,3は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願発明1?3は、引用例1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである。 2.引用発明について 引用文献1の段落0031,0034,0036には、原料配合や焼成温度の異なる各種セメントクリンカを試製したことが記載され、ここで表3,4には、当該セメントクリンカの「試験例9(試製9)」として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ボーグ式による主要鉱物組成として、C_(3)Sの割合が62%、C_(2)Sの割合が16%、C_(3)Aの割合が9%、C_(4)AFの割合が10%、主要化学組成において、MgOの割合が1.51%、T-Sの割合が0.24%、Fの割合が0.042%(=420ppm)であるセメントクリンカ」 3.本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「C_(3)S」「C_(2)S」「C_(3)A」「C_(4)AF」は、それぞれ本願発明1の「3CaO・SiO_(2)」「2CaO・SiO_(2)」「3CaO・Al_(2)O_(3)」「4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)」に相当し、「%」は「質量%」であると解されるから、3CaO・Al_(2)O_(3)と4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計割合は19質量%となる。また、「T-S」が「全硫黄量」であることは当業者に自明であるところ、当該硫黄は、大気焼成により酸化硫黄となっていると解されるので、引用発明のT-S(0.24質量%)を原子量及び分子量を用いてSO_(3)に換算すると0.60質量%となる。 すなわち、本願発明1のうち、 「ボーグ式で算出された3CaO・SiO_(2)の割合が50?75質量%であり、 ボーグ式で算出された2CaO・SiO_(2)の割合が5?25質量%であり、 ボーグ式で算出された3CaO・Al_(2)O_(3)および4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)の合計の割合が10?25質量%であり、 MgO、SO_(3)およびFを含み、 MgOの含有量が0.5?3.0質量%であり、 SO_(3)の含有量が0.3?1.5質量%であり、 Fの含有量が100?800質量ppmであるセメントクリンカ組成物。」 の点は、引用発明と一致し、両者は、次の点において相違する。 相違点1:本願発明1では、 「前記MgOの含有量、前記SO_(3)の含有量および前記Fの含有量が下記の式(1)の関係を満たす、 1215≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))≦1800 (1)」 のに対し、引用発明では、 (MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))=1.51(質量%)×420(質量ppm)÷0.60(質量%)=1057となるから上記式(1)を満たさない点。 相違点2:本願発明1では「C_(3)S-M3相比率が、0.72?1.0」であるのに対し、引用発明では不明な点。 ここで、相違点1は明らかな相違点と認められるから、本願発明1は、引用例1に記載された発明ではない。 (2)そこで相違点1について検討するに、引用例1には、セメントクリンカのMgOの含有量やFの含有量を変更することについて記載も示唆もないが、段落0011等に、SO_(3)の含有量に関し、セメントクリンカの原料に硫黄を含む脱硫スラグを使用すべきことが記載されている。 してみると、段落0034,0036にて、脱硫スラグを使用していない比較例として記載された引用発明において、SO_(3)の含有量を増やすことは容易といえるが、それでは上記式(1)を満たすものにはならない。 次に、引用例2の図1等には、クリンカ中のC_(3)SにおけるM1とM3の相構成が、原料混合物中のSO_(3)含有量及びMgO含有量並びにクリンカ焼成温度によって変化すること、引用例3の段落0011等には、セメントクリンカ中に少量のSbを含有させることでセメントの強度が向上することが記載されているが、いずれの文献も、引用発明において、上記式(1)を満たすようにMgO、F又はSO_(3)の含有量を変更することを示唆するものではない。 してみると、引用発明において上記相違点1を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用例1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.本願発明2,3について 本願発明1を引用し本願発明1と同様に上記相違点1に係る発明特定事項を有する本願発明2,3についても、引用例1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5.まとめ 以上のとおりであるから、当審拒絶の理由によって本願を拒絶することはできない。 第4.原査定の理由について 原査定の理由は、引用例1,3に加え、 引用例4:特開2014-162712号公報 引用例5:特開2015-171974号公報 を引用して、本願発明1の新規性ないし進歩性要件違反、本願発明2,3の進歩性要件違反を指摘するものであるが、引用例4は、セメントクリンカ中に少量のSbを含有させること、引用例5は、セメントクリンカに石膏を加えてポルトランドセメントとすることを記載したものにすぎず、「第3.」にて検討した引用例1,3同様、本願発明1?3に共通する発明特定事項である上記式(1)を満たすようにセメントクリンカ中のMgO、F又はSO_(3)の含有量を調整することを記載や示唆するものではない。 したがって、原査定の理由によっても、本願を拒絶することはできない。 第5.刊行物提出の理由について (1)再度の刊行物提出書には、次の理由1,2が記載されている。 理由1:平成30年11月2日付けの手続補正において、本願明細書に記載された実施例8を根拠に、式(1)の下限を「1000」から「1215」に変更しているが、実施例8の「式値X=(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SO_(3)の含有量(質量%))」を計算すると、実際には「1223」になるから1215に根拠はなく、本願発明1?3は明確でない。 理由2:本願発明1は、引用発明に対し顕著な効果も異質な効果も奏しないから、式値Xを限定した数値限定発明として進歩性はない。 (2)そこで、理由1について検討するに、本願明細書の表2には、実施例8のセメントクリンカ組成物の組成について「MgO(質量%)0.90、SO_(3)(質量%)0.44、F(質量ppm)598」と記載されているから、この値から式値Xを計算すると約1223となって、表3に記載された「1215」と整合しない。 しかしながら、例えば、SO_(3)の含有量が実際には0.443質量%であれば式値Xは約1215となるから、この不整合は、表2の各値が、表3の式値Xの計算に用いた値の端数を丸めて記載したことによるものと解され、「1215」が必ずしも誤記であるとはいえない。 さらに、「1215」が仮に誤記であったとしても、式(1)の下限を「1000」から「1215」としたことにより、本願発明1?3が新たな臨界的意義をもつわけではないから、上記手続補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく、発明を不明確にするものでもない。 したがって、理由1には理由がない。 (3)次に、理由2について検討するに、請求項に係る発明と主引用発明との相違点が数値限定の有無のみであれば、通常、進歩性の要件として、当該数値限定による顕著な効果や異質な効果が必要であるが、「第3.3.(1)」にて検討したとおり、本願発明1と引用発明との相違点は、式値Xの限定の有無ではなく、式値Xが異なる点である。 したがって、理由2には理由がない。 第6.むすび 以上のとおり、本願については、原査定及び当審の拒絶理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-02-04 |
出願番号 | 特願2016-57357(P2016-57357) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C04B)
P 1 8・ 113- WY (C04B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 増山 淳子、浅野 昭 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 宮澤 尚之 |
発明の名称 | セメントクリンカ組成物およびポルトランドセメント組成物 |
代理人 | 大谷 保 |