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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01J
管理番号 1348479
審判番号 不服2018-7338  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-29 
確定日 2019-02-19 
事件の表示 特願2014- 90983「流動床反応器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-208705、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月25日の出願であって、平成29年10月11日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年3月13日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年5月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年6月28日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
(進歩性)平成29年12月7日付け手続補正後の請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?8に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特公昭49-011550号公報
2.特表2002-529222号公報
3.特開2010-248062号公報
4.特開2004-346000号公報
5.特開2000-279751号公報
6.特開平8-219412号公報
7.特開平3-039807号公報
8.特開昭59-155492号公報

第3 本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成30年5月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される発明であり、請求項1?4には、次のように記載されている。
「【請求項1】
流動床触媒粒子を収納する気相アンモ酸化反応を行う流動床反応器であって、反応器内に存在する張り出し部に前記触媒粒子の堆積防止手段を設けた、流動床反応器であって、前記張り出し部がサイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つである流動床反応器。
【請求項2】
前記触媒粒子の堆積防止手段が前記張り出し部の上部を上に凸の傾斜構造または上に凸の曲面構造で構成することである、請求項1に記載の流動床反応器。
【請求項3】
前記触媒粒子の堆積防止手段が前記張り出し部に気体を吹き付ける事である、請求項1に記載の流動床反応器。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の流動床反応器を用いて、前記反応器内に存在する張り出し部への触媒粒子の堆積を防止しながらアンモ酸化反応を行う、ニトリル化合物の製造方法。」

第4 引用文献の記載、引用文献に記載された発明(引用発明)
1.引用文献の記載(下線は当審が付与した。)
(1)引用文献1について
引用文献1には、「熱交換部を内蔵する流動床装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「発明の詳細な説明
本発明は伝熱部を内蔵する流動床装置に関するものであり、特に伝熱部を内蔵することにより生起する流動の不均一性、伝熱部による流動死角の発生、およびこれによる被流動粉粒体の堆積を防止するための伝熱部および気流分散部の構成および配列を考慮した流動床装置に関するものである。」(1頁1欄20?26行)
「本発明は流動床内に伝熱管を挿入してその伝熱能力を飛躍的に向上すると同時に、流動死角の発生、粉粒体の堆積などの悪影響を解消するものであり、以下図面によりその詳細を説明する。
第1図および第2図において、1は流動床本体であり、その外周壁には、ジャケットによる伝熱部を設けることもできるが、本図ではこれを省略している。2は流動用気体の導入室であって、通常フランジその他の方法で流動床本体1の下端に接続されその底部を構成する。3は上蓋で、流動床本体1の上端にフランジその他の方法により接続される。4は流動用気体の導入口であり、5は該気体の分散噴射用の多孔板、6および6′は流動用気体の排出口、7は流動床本体1内に被流動粉粒体を供給する供給口、8は上蓋3の頂部に設けられた熱冷媒の入口、9は上蓋3の側面に設けられた熱冷媒の出口であるが、入口、出口を逆にしても何等さしつかえない。10は上蓋3の内部空間を2室あるいはそれ以上に区劃する仕切板であり、これにより熱冷媒はU字状をなす多数の伝熱管11を順次通過して、入口8より出口9に至り系外に排出される。
伝熱管11は流動床の頂部を構成する管板12に第3図に示すように一定の向きに並列に溶接または管端を拡管して固定され、彎曲部を下方にして流動床本体1内に垂下して伝熱部を構成する。13は流動床空間を示し、外周を流動床本体1の外周壁により、上端を管板12、下端を分配板5により限定されている。そのなかに多数のU字状伝熱管11が垂下しているが、その方向は垂直であるから、これにより粉粒体の流動は伝熱管11の下端の彎曲連通部以外ではなんら支障を受けることはない。
第5図および第6図に示すように、内周壁14の支持部15はフランジその他の方法で流動床本体1に接続される。内周壁14の外側には流動用気体が到達するように、流動用気体の導入室2に接続した環状空間が設けられている。内周壁14の下端はフランジその他の方法で多孔板5を支えている。多孔板5の支持方法は掃除、点検などを考慮して着脱容易な方法が望ましいが、これに限定するものではない。また内周壁14の直径は流動床本体1の内径に一致せしめ流動床本体1との間に凹凸のない滑らかな流動空間の周壁を構成することが望ましい。内周壁14には多数の平行した水平管路16が設けられている。
水平管路16の両端は内周壁の外側に設けた環状の空間に開口しており、その配列は第1図および第4図に示すように、伝熱管11の下端彎曲部が丁度水平管路16の相隣る間隙部に突入し、伝熱管11の下端彎曲部と水平管路16が交互に位置することとなる。水平管路16はその上端に粉粒体が静止滞留し得ないように、その斜面が粉粒体の息角以上の傾きをなすように鋭角に突出することが望ましいが、単なる円管を用いることも可能である。水平管路16の側面、特に伝熱管11の彎曲部と相隣る部分には多数の小孔を穿ち、水平管路16に進入してその小孔より噴出する気流が丁度彎曲部上面に接するようにし、その部分に堆積する粉粒体を吹飛ばしてその堆積を防止するとともに、彎曲部により阻害された多孔板5よりの上昇気流を補足して、伝熱管11の下端による流動死角を防止し本発明の目的を達成するものである。
多孔板5のかわりに無孔の平板を用いて流動床空間13の底部を構成し、水平管路16よりの噴出気流を水平方向の外下方およびまたは斜下方とし、噴出気流が底板に衝突する反射流をもって、多孔板による気流の分散にかえることも可能である。この場合には気流の均一分散度は多少多孔板に劣るが、実用上差支えない程度であって、これにより多孔板においてしばしば発生する多孔板からの粉粒体の脱落を完全に防止することができる。
本発明の流動床装置の運転状況、特に気体の進路と熱冷媒の流通をさらに詳述すれば、まづ運転開始にさいし、流動床空間13に粉粒体をその供給口7より所望の量だけ供給したのち、上蓋3の熱冷媒入口8より上蓋3内に熱冷媒を導入する。熱冷媒は上蓋3に設けられた仕切板10により構成される熱冷媒入口8の直下の仕切空間より流動床空間13内に垂下する伝熱管11内を流下し下端において、反転上昇し仕切板10により構成される次の区劃にはいり、更に次列の伝熱管内を流下しその下端で反転上昇を繰返して、熱冷媒出口9に到り装置外に排出される。第2図は入口1ケ出口2ケの場合を例示しているが、必ずしも本図により限定されるものではない。熱冷媒が伝熱管11を流下上昇する間に、流動床空間13内の流動気体および粉粒体との間に充分な熱交換が行われる。
熱冷媒を伝熱管11内に流通せしめた後、流動用気体が底部の導入口4より系内に導入され、分流して多孔板5を通過する気流と内周壁14の外側に設けた環状空間に進入し、ついで水平管路16に入り、水平管路16に設けられた噴出口より水平方向にまたは下方あるいは斜下方に噴出される気流とになる。多孔板5を通過する気流は一様に分散して流動床空間13を上昇するが、伝熱管11の下端彎曲部に衝突する気流は偏流のため伝熱管下端彎曲部上面に流動死角を生じ、この部分の粒子密度が増加し、場合により該面に粒子の堆積がおこる。水平管路16よりこの部分に水平に噴出される気流は該流動死角部分の流動化を促進するとともに、該部の粒子の堆積を防止して流動床空間13内全体に均一有効な流動を行なわしめるのに効果的である。」(1頁2欄16行?2頁4欄40行)



(2)引用文献2について
引用文献2には、「渦流動層形反応器におけるマンホール開口部等のブロックフランジ」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、反応器壁に固定された壁フランジを有する、特にエチレン、酸素およびHClのオキシクロル化のための渦流動層形反応器に関する、マンホール開口部等のブロックフランジを調製するための装置に関する。」
「【0002】
所謂オキシクロル化の際に、エチレン、酸素およびHClは、渦流動層形反応器(酸化反応器)内において銅を含有した触媒で、1、2-ジクロルエタンおよび水へと転化される。反応器内において、設備の運転および停止の際、触媒堆積物は、全てのよどみ領域において生じる。このHClの存在は、露点を下回る場合に、塩酸の形成および従って激しい腐食に導く。特にその場合に、全てのマンホールおよび全ての測定接続用パイプのような、外套領域におけるよどみ領域は、危険にさらされている。そこでまた、測定することおよび露点を下回ることの被害を回避するために、例えば全ての測定接続用パイプに、加熱される洗浄導管が配置されていることによって、この欠点に対策を講じることを試みた。
【0003】
マンホールを形成する場合、このマンホールの蓋が、内側に向かって付加的な排除体を備えていることは公知であり、この排除体は、反応器外套内面と平滑な面位置の状態の移行部が可能な限り得られるように形成されている。
【0004】
そこで、本発明の課題は、解決策を提供することであり、これらの解決策によって、これら上記の全ての付加的な対策が不必要であり、且つこれに伴って関連する労力が節約され、そのことでシステムの機能を果たす能力が損なわれることがなく、且つ所望されない堆積物がこれら領域内において生じることがない。
【0005】
冒頭に示された様式の装置でもって、この課題は本発明によって、内側に向かっておよび重力方向で下側に向かって指向したフランジ面が、少なくとも領域的に傾斜を付けられて形成されていることによって解決される。
【0006】
本発明によって一連の利点が得られ、従って、触媒堆積物において生じる、起こり得るよどみ領域が減少させられ、且つ全ての公知の解決策において使用された、ろ過ステーション、流量計、凝縮収集器、保持具等を有する加熱される洗浄導管は、設けなくて済む。
【0007】
実施形態において、面傾斜が、触媒顆粒等の堆積が防止されるように、少なくとも、この傾斜の重力方向で最も深い領域において大きく形成されている。
【0008】
特に本発明で行なわれているように、面傾斜が、内側縁部領域において水平の中心面から開始し、フランジリングの垂直方向の中心へと拡大されて形成される場合は、有利である。
【0009】
この形態によって、円滑で、均質な、ホッパー形状の、内側へと反応器に向かって指向するシュートが得られ、従って、例えば渦流動層の運転停止および低下の際に、触媒材料の堆積物等が、確実に防止される。」
「【0010】
本発明の他の特徴、詳細および利点は、後に続く説明に基づいて、並びに図によって得られる。図1に関連して、本発明による、一般的に、符号1によって表示されたブロックフランジは、反応器壁2に溶接して固定されている。このブロックフランジは、特定の円筒形の延在を持ち、且つ、例えば測定機器、ゾンデ等のための貫通開口部3を有している。
【0011】
図2において符号2aで表示した、この貫通開口部の内側に向かって指向する領域において、フランジ内側面4は傾斜を付けられており、この傾斜は、図1において符号5によって指示されている。この傾斜を付けられた面5は、フランジ1のほぼ中心水平線6において開始し、符号7で指示したフランジの水平の中心部にまで、且つそこから再び垂直の中心6まで延在し、従って、一種のシュートが得られる。従って、そこで落ちて当たる材料は、自動的に重力によってぶつかって落とされる。」

【図2】

(3)引用文献3について
引用文献3には、次の記載がある。
「【0093】
図1(a)に示す態様では、反応器内部10aにサイクロン11が配置されており、図1(b)に示す態様では、反応器よりも下流側にサイクロン11が配置されており、該サイクロンによって、触媒粒子(A)や不活性粒子(B)の一部(反応器内部で浮遊・上昇した粒子)を捕集する。
【0094】
捕集された反応器内部で浮遊・上昇した粒子は、サイクロンの粒子出口13から、サイクロンよりも上流側の反応器内部10aに戻される。
図1(a)、(b)の態様のように、サイクロンを配置することにより、触媒粒子(A)や不活性粒子(B)の一部が、反応器内部で浮遊・上昇した場合であっても、触媒粒子(A)や不活性粒子(B)を反応器内部10aに好適に循環させることが可能である。」

(4)引用文献4について
引用文献4には、次の記載がある。
「【0011】
流動床反応器20は、その内部に、粒状材料で形成された流動床21が作られる反応容器である。流動床反応器20は密閉されており、また、下部に設けられた加熱器22によってその内部を加熱できるようになっている。なお、加熱器22は、流動床反応器20内部の加熱を行えればよく、必ずしも流動床反応器20の下部に設けられている必要はない。
流動床反応器20の内部には、その下方から、流動ガスを供給できるようになっている。流動ガスは図示せぬ配管を介して、図1中で矢示したように、流動床反応器20内部に供給される。
また、流動床反応器20の内部上方には、サイクロン23が設けられている。このサイクロン23は、遠心分離装置として機能するものであり、素材から発生した生成物、流動ガス、流動床21を形成する粒状物を比重に応じて選別するものである。なお、サイクロン23の下方には、貯留ケース24が設けられており、比重が所定の値よりも大きいものはここに溜まるようになっている。
流動床反応器20の上方には、図示せぬ配管が接続されており、これを介して流動床反応器20はサイクロン30と接続されている。素材のうち未だ固体のもの、素材から発生した生成物、流動ガス、流動床21を形成する粒状物のうち、比重が小さく、貯留ケース24に溜まらなかったものは、この配管を介して、図1に矢示したように、サイクロン30へと運ばれるようになっている。
【0012】
サイクロン30は、遠心分離装置として機能するものであり、素材のうち未だ固体のもの、素材から発生した生成物、流動ガス、流動床21を形成する粒状物を、その比重に応じて選別するものである。サイクロン30の下方には、貯留ケース31が設けられており、比重が所定の値よりも大きいものはここに溜まるようになっている。このケミカルリサイクル装置では、ここまでで、ほぼすべての固形物が取り除かれるようになっている。」

(5)引用文献5について
引用文献5には、次の記載がある。
「【0056】サイクロン2において脱塵された300?900℃の高温の排ガスは、圧力容器3の外部に配設されたセラミックチューブフィルタ4に送入され、排ガスから微粒子の灰燼が除塵される。このとき、排ガスに混入してセラミックチューブフィルタ4に流入する脱硫剤も灰燼として除塵される。除塵された排ガスは後流の排ガス流路5に送出される。セラミックチューブフィルタ4のフィルタチューブ表面には、加圧流動床ボイラ1から流出する未反応の脱塩剤や脱硫剤が付着しており、セラミックチューブフィルタ4においても脱塩・脱硫が行われる。」

(6)引用文献6について
引用文献6には、次の記載がある。
「【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明の加圧流動床燃焼プラントに於けるサイクロン灰の排出装置は、圧力容器内に流動床ボイラーと多数の内部サイクロンを装備して、該流動床ボイラーからの燃焼ガスをサイクロンに導入して該燃焼ガス中の灰を集塵し、該集塵された灰を上記圧力容器の外に搬出して減圧器から外部サイクロンを経て灰を回収する装置に於いて、上記多数の内部サイクロンから灰排出管を個々に圧力容器外に導出せしめて単独で上記減圧器まで配管し、該減圧器に装備した各々単独のオリフィスから噴射せしめるように構成したことを特徴とする。また、上記灰排出管からバイパス管を分岐せしめると共に、該バイパス管に遮断弁および補助オリフィスを装備して上記減圧器に導くように構成したことも特徴とする。上記複数のオリフィスを減圧器の一側の壁面に直列に配列すると共に、該減圧器の反対側の壁面にも複数のオリフィスを上記複数のオリフィスに向かい合わせるように直列に配列させる。」

(7)引用文献7について
引用文献7には、次の記載がある。
「触媒は、前記の本発明の方法によってひとたび冷却されると、触媒が以前に流れていた反対の方向に流れ、同じ連結装置(10)を経て、第一再生器(1)の濃密流動床内に再上昇する。触媒粒子は、燃焼ガスによってエントレインされ、内部サイクロン(11)によって分離される。これらのサイクロンは、有利には第一再生器(1)の上部に配置されている。硫化水素、酸化炭素および水に富む燃焼ガスは、加圧下、後の処理のために管路(12)から排出される。一方触媒粒子は、脚部(7)を経て、第一再生器(1)の底部の方へ再び落ちる。次に触媒粒子は、導管(14)を経て第二再生器(13)へ送られる。導管(14)には管路(15)から空気が供給される。」(8頁右下欄6?19行))

(8)引用文献8について
引用文献8には、次の記載がある。
「熱分解から発生したガスは、流動化ガス14とともに、内部サイクロン21を通過し、流動床の上方表面20から出て、ダクト22を介して熱分解容器12を出る。この粗製ガス流24は部位26において再循環ガス分28と生成ガス分30に分けられる。再循環ガス分はガスベンチュリ32のスロート部に導かれる。加圧オキシダント34はこのベンチュリ32の入口から、ベンチュリ32のスロートにおいて減圧域を発生させるに適する速度で導入される。この減圧域はベンチュリへの再循環ガス分28の流入を誘発し、ベンチュリ32の下流側の加圧域36において再循環ガス分28と加圧オキシダント34との混合物を生成する。」(3頁左下欄10行?右下欄2行)

2.引用文献に記載された発明(引用発明)の認定
(1)引用文献1に記載された発明(引用発明1)
上記1(1)の下線部より、引用文献1には、「伝熱部を内蔵することにより生起する流動の不均一性、伝熱部による流動死角の発生、およびこれによる被流動粉粒体の堆積を防止するための伝熱部および気流分散部の構成および配列を考慮した流動床装置」について、図1?6には、
「内周壁14には多数の平行した水平管路16が設けられ、水平管路16の上端に粉粒体が静止滞留し得ないように、その斜面が粉粒体の息角以上の傾きをなすように鋭角に突出する、流動床装置。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用文献2に記載された発明(引用発明2)
上記1(2)の下線部より、引用文献2には、
「反応器壁に固定された壁フランジを有する、エチレン、酸素およびHClのオキシクロル化のための渦流動層形反応器において、
触媒堆積物において生じる、起こり得るよどみ領域を減少させるために、
円筒形の延在を持ち、且つ、測定機器、ゾンデ等のための貫通開口部3を有するブロックフランジ1は、反応器壁2に溶接して固定され、貫通開口部3の内側に向かって指向する領域2aにおいて、フランジ内側面4は傾斜5を付けられている渦流動層形反応器。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1に基づく進歩性の判断
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
本願発明1の「流動床触媒粒子」と引用発明1の「粉粒体」とは、「流動床粒子」である点で共通する。
引用発明1の「流動床装置」は、本願発明1の「流動床反応器」に相当し、本願発明1の「流動床触媒粒子を収納する気相アンモ酸化反応を行う流動床反応器」と、引用発明1の「流動床装置」とは、「流動床粒子を収容する流動床反応器」である点で共通する。
引用発明1の「水平管路16」が、本願発明1の「反応器内に存在する張り出し部」に相当する。
また、引用発明1の「粉粒体が静止滞留し得ないように」する構成は、本願発明1の「粒子の堆積防止手段」に相当する。
そうすると、本願発明1の「反応器内に存在する張り出し部に前記触媒粒子の堆積防止手段を設けた」構成と、引用発明1の「水平管路16の上端に粉粒体が静止滞留し得ないように、その斜面が粉粒体の息角以上の傾きをなすように鋭角に突出する」構成とは、「反応器内に存在する張り出し部に粒子の堆積防止手段を設けた」点で共通する。
そうすると、本願発明1と引用発明1とは、
「流動床粒子を収納する流動床反応器であって、反応器内に存在する張り出し部に前記粒子の堆積防止手段を設けた、流動床反応器。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-1)
流動床反応器における反応について、本願発明1では、「気相アンモ酸化反応」であるのに対し、引用発明1に係る「流動床装置」における反応は規定されていない点。
(相違点1-2)
流動床粒子について、本願発明1では、「触媒粒子」であるのに対し、引用発明1の「粉粒体」は触媒粒子かどうか不明な点。
(相違点1-3)
粒子の堆積防止手段が設けられた、反応器内に存在する張り出し部について、本願発明1では、「サイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つ」であるのに対し、引用発明1は、「水平管路16」である点。

イ 相違点についての検討
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点1-3について検討する。
引用文献3?8に記載されるようにサイクロンを備えた流動床装置は周知であるといえる。しかしながら、引用文献3?8のいずれにも、「サイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つ」に、粒子が堆積することや、粒子の堆積防止手段を設けることについては記載も示唆もされていない。

そうすると、引用発明1に係る流動床装置に、サイクロンを備えることがあるとしても、粒子の堆積防止手段が設けられた部材として、上記相違点1-3に係る本願発明1の発明特定事項である「サイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つ」を採用する動機付けは見出すことができない。

そして、本願発明1は、「本発明の堆積防止手段により、張り出し部や反応器内部の付帯装置の水平部とその周辺への触媒粒子が堆積することを防止できるので装置の材質劣化や反応への悪影響を防止することができる。また、本発明の堆積防止手段により、堆積していた還元劣化触媒が、マンホール開放の際に急激に酸化発熱する事態を防止することができる。」(本願明細書【0027】)という、引用発明1及び引用文献3?8の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、相違点1-1?1-2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献3?8の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)引用発明2に基づく進歩性の判断
ア 対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「渦流動層形反応器」は、本願発明1の「流動床反応器」に相当し、引用発明2の「渦流動層形反応器」には、「触媒堆積物」が生じているから、本願発明1の「流動床触媒粒子を収納する気相アンモ酸化反応を行う流動床反応器」と、引用発明1の「流動床装置」とは、「流動床触媒粒子を収容する流動床反応器」である点で共通する。
引用発明2の「フランジ内側面4」の「傾斜5」は、本願発明1の「触媒粒子の堆積防止手段」である点で共通する。
そうすると、本願発明1と引用発明2とは、
「流動床触媒粒子を収納する流動床反応器であって、反応器内に前記触媒粒子の堆積防止手段を設けた、流動床反応器。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-1)
流動床反応器における反応について、本願発明1では、「気相アンモ酸化反応」であるのに対し、引用発明2では、「エチレン、酸素およびHClのオキシクロル化」である点。
(相違点2-2)
触媒粒子の堆積防止手段について、本願発明1では、「反応器内に存在する張り出し部」であって、「前記張り出し部がサイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つ」であるのに対し、引用発明2では、「フランジ内側面4」の「傾斜5」である点。

イ 相違点についての検討
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点2-2について検討する。
引用文献3?8に記載されるようにサイクロンを備えた流動床装置は周知であるといえる。しかしながら、引用文献3?8のいずれにも、「サイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つ」に、粒子が堆積することや、粒子の堆積防止手段を設けることについては記載も示唆もされていない。

そうすると、引用発明2に係る渦流動層形反応器に、サイクロンを備えることがあるとしても、粒子の堆積防止手段が設けられた部材として、上記相違点2-2に係る本願発明1の発明特定事項である「サイクロン上部、およびサイクロンを固定するために取り付けられた梁またはサポート部より選ばれる少なくとも一つ」を採用する動機付けは見出すことができない。

そして、本願発明1は、「本発明の堆積防止手段により、張り出し部や反応器内部の付帯装置の水平部とその周辺への触媒粒子が堆積することを防止できるので装置の材質劣化や反応への悪影響を防止することができる。また、本発明の堆積防止手段により、堆積していた還元劣化触媒が、マンホール開放の際に急激に酸化発熱する事態を防止することができる。」(本願明細書【0027】)という、引用発明2及び引用文献3?8の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、相違点2-1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2及び引用文献3?8の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明1又は2及び引用文献3?8の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?4は、引用発明1又は2及び引用文献3?8の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-05 
出願番号 特願2014-90983(P2014-90983)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松井 一泰  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 天野 宏樹
川端 修
発明の名称 流動床反応器  

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