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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1348554
審判番号 不服2017-9424  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-28 
確定日 2019-02-06 
事件の表示 特願2015-548455「半導体レーザ素子の製造方法および半導体レーザ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月26日国際公開、WO2014/095903、平成28年 1月12日国内公表、特表2016-500486〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2013年(平成25年)12月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年12月18日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 5月20日付け:拒絶理由通知(同年同月24日発送)
同年11月21日 :意見書・手続補正書の提出
平成29年 2月20日付け:拒絶査定(同年同月28日送達)
同年 6月 28日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 6月 5日付け:拒絶理由通知(同年同月12日発送。以下、「当審拒絶理由」とする。
同年 8月13日 :意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、平成30年8月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 半導体レーザ素子(1)を製造する方法であって、
A)前記半導体レーザ素子(1)のための複数のキャリア(2)を有する少なくとも1つのキャリア複合体(20)を作製するステップと、
B)共通の成長基板(31)と、前記成長基板の上に成長させる半導体積層体(32)とを備えた複数の半導体レーザダイオード(3)を有する少なくとも1つのレーザバー(3)を作製するステップであって、前記半導体積層体(32)が、n型側と、p型側と、前記n型側と前記p型側との間に位置する活性ゾーンと、を備えており、前記n型側が前記成長基板(31)に面している、ステップと、
C)前記成長基板(31)の基板裏面(34)に所定の破断箇所(35)を生成するステップであって、前記基板裏面が前記半導体積層体(32)とは反対側である、ステップと

D)前記レーザバー(30)を前記キャリア複合体(20)のキャリア上面(23)に取り付けるステップであって、前記成長基板(31)中の前記所定の破断箇所(35)が前記半導体積層体(32)と前記キャリア(2)との間に位置するように、前記基板裏面(34)が前記キャリア上面(23)に面し、前記取付けが、高い温度において実行され、
取り付けた後に冷却する、ステップと、
E)複数の前記半導体レーザ素子(1)に個片化するステップと、
を含み、
ステップB)?ステップE)が示した順序で実行される、
方法。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開昭63-204687号公報
引用文献2:特開平11-220204号公報

第4 刊行物の記載事項
1 引用文献1について
本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開昭63-204687号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付加した。以下同様。)。

(1) 「 半導体レーザのヘキ開バーもしくは発光ダイオードウェーハをヒートシンク上にソルダーにより融着する工程と、融着した後レーザ照射により個片の半導体ペレットを個片のヒートシンクに融着された状態で切断分離する工程とを含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(2) 「 従来、半導体レーザ,発光ダイオード等の半導体素子の組立工数においては、放熱及び熱膨張率差による歪の対策が問題となっているが、この歪の防止のためにペレットを直接ステムにマウントせずにシリコン等のヒートシンク上にマウントしている。
第3図はかかる従来のヒートシンク上へのペレットのマウント方法を説明するための半導体ペレットの斜視図である。
第3図に示すように、ペレット31を1個づつヒートシンク32上にソルダー材33によりマウントしていた。尚、このときのソルダー材33としてはヒートシンク上に蒸着された金-錫(AuSn)や錫(Sn)等を用い、ヒーター上で加熱してペレット31とヒートシンク32とを融着しマウントしていた。」(1頁右下欄1?6行)

(3) 「 第1図(a)に示すごとく、まず長さl=10?20mm,幅w=0.3mm,厚さt=0.1mmのレーザバー11をAuSn又はSnが表面に蒸着されたヒートシンクバー12(l’=30mm,w’=0.6mm,t’=0.3mm)の上に平行に乗せヒーター等で加熱融着する。
次に、第1図(b)に示すごとく、一体となったレーザバー11とハートシンクバー12(以下、一体化バーと略記)(当審注:他の記載からみて「ヒートシンクバー12」の誤記。)をタングステン等の高耐熱材質よりなるステージ14の上に配置固定する。ついで、YAGレーザ15を照射しながらステージ14をX方向(バーの長手方向の直交する方向)に動かすことにより、ヒートシンクバー12の下面より20?30μm程度の深さの加熱溶断部16に致るまで局部的に加熱溶断する。次に、YAGレーザ15の出力をOFFにして、ステージ14をY方向(バーの長手方向)に所定のピッチ間隔(例えば0.3mm)移動した後、YAGレーザ15をONにし、ステージ14をX方向に動かして前述したのと同様に加熱溶断する。かかる操作を繰り返して、レーザバー11を等しいピッチで加熱溶断する。尚、この操作は公知のウェハースクライバーの技術がそのまま適用でき容易に自動化をすることができる。次に、加熱溶断作業終了後公知のウェハースクライブ用テープに貼り付け、このテープを引き伸ばすことにより個々のペレットに分離することができる。
第1図(c)は上述した個々のペレットに分離された状態を示している。
すなわち、個片のペレット17が個片のヒートシンク18上に融着された状態で分離されている。」(2頁右上欄5行?左下欄16行)

(4) 第1図は、次のものである。

これらの記載によると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 個片の半導体ペレット17が個片のヒートシンク18上に融着されたものを製造する方法であって、
シリコン等からなり、AuSn又はSnが表面に蒸着されたヒートシンクバー12を準備する工程と、
レーザバー11を準備する工程と、
前記レーザバー11を、前記ヒートシンクバー12の上に平行に載せヒーター等で加熱融着する工程と、
前記レーザバー11と前記ヒートシンクバー12が一体となった一体化バーをYAGレーザ15を照射して局部的に加熱溶断し、次に、前記個片の半導体ペレット17が前記個片のヒートシンク18上に融着されたものに分離する工程を含む、
方法。」

2 引用文献2について
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【請求項7】 アレイ型半導体レーザ装置の製造方法であって、
半導体基板上に複数のレーザ発光領域を有する多層成長層を形成した半導体レーザアレイの前記レーザ発光領域の間に前記半導体基板に至る溝を形成する溝形成工程と、
前記半導体レーザアレイの線膨張率と異なる値の線膨張率を有するベース部材とを、接合材を介し前記接合材を加熱させて接合させる接合工程と、
前記接合材を冷却する冷却工程と、
を含むことを特徴とするアレイ型半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項8】 前記冷却工程は、前記接合材を常温以下に冷却することであることを特徴とする請求項7に記載のアレイ型半導体レーザ装置の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(2)「【0007】また、応力緩和材14およびベース材12は、半導体レーザアレイ1に生じる熱を放散するヒートシンクとしても機能し、半導体レーザアレイ1の複数の半導体レーザ素子2全体で、高品質かつ高出力なレーザビームを得ることができる。なお、一般に高出力アレイ型半導体レーザ装置において、半導体レーザアレイ1は、図10に示すように発光領域11に近い面、すなわち後述する成長層側を応力緩和材14に接合する。」

(3) 「【0013】
【発明が解決しようとする課題】半導体レーザアレイの接合時や高出力アレイ型半導体レーザ装置の駆動前後の温度差により発生する熱応力を緩和するための応力緩和材は、GaAsなどの半導体レーザ材料と同じ線膨張率あるいは非常に近い線膨張率を有する必要がある。しかしながら、このような材料は一般に高価であり、また熱伝導率などの特性も限定される。
【0014】コスト低下のために応力緩和材としてSiなどの安価な材料を使用することは、単独の半導体レーザ装置においては問題とならないが、大型のアレイ型半導体レーザ装置の場合には線膨張率差に起因する熱応力が問題となる場合がある。
【0015】また、部品点数を削減するために応力緩和材を使用せずに、ベース材として比較的半導体レーザ材料の線膨張率に近い値の線膨張率を有する材料を使用して、半導体レーザアレイをベース材に直接接合した構造としても、上記同様に大型の半導体レーザアレイにおいてはベース材との線膨張率差に起因する熱応力の問題は解消されない。
【0016】また、半導体レーザアレイの放熱性を向上させるために、非常に高い熱伝導率を有するダイヤモンド、BN(ボロンナイトライド)等を材料とするベース材に直接に半導体レーザアレイを接合する場合にも、大型の半導体レーザアレイにおいてはそれらベース材との線膨張率差に起因する熱応力が問題となる。
【0017】大型の半導体レーザアレイに及ぼされる熱応力を低減する手段として、半導体レーザアレイを接合するのではなく、分割された各半導体レーザ素子を個々に並列に複数個並べて接合し、熱応力を分散させる方法が考えられるが、この方法においてはレーザビームが出力される半導体素レーザ素子端面を高精度に位置合わせして接合することが困難となり、生産性が低下してしまう。
【0018】この発明は上記に鑑みてなされたものであって、安価で低い熱応力化が図れるアレイ型半導体レーザ装置およびその製造方法を得ることを目的とする。」

(4) 「【0031】図1において、半導体レーザアレイ1は、複数の半導体レーザ素子2から構成され、各半導体レーザ素子間には分割溝3が形成されている。分割溝3はバッファ層5、活性層6、クラッド層7、コンタクト層8およびp電極9から成る成長層のみでなく、半導体基板4の深部に至る部分まで形成されている。図12に示された従来のアレイ型半導体レーザ装置における特性分離溝18のように、数μm程度の深さしかないものではこの発明の特徴を生かせない。
【0032】分割溝3が形成された半導体レーザアレイ1の各レーザ素子2はn電極10および半導体基板4の一部によって連結されている。半導体基板4において分割溝3の先端部から半導体基板4のn電極10側表面に至るまでの長さ、すなわち半導体基板4の連結部の厚さは、後述する半導体レーザアレイの分割時において利用される反りの程度を鑑みて設計される。すなわち、半導体基板4の連結部の厚さは、反りの程度が小さい場合は薄くされ、反りの程度が大きい場合は厚くされる。
【0033】p電極9を陽極、n電極10を陰極として両電極間に順方向電圧を印加することにより電流を流すと、各半導体レーザ素子2における活性層6の発光領域11よりレーザビームを得ることができる。図1において、活性層6の発光領域11は約100μmであり、隣り合う発光領域11間の距離は約400μmである。
【0034】分割溝3は発光領域11に接触しないように形成位置および溝幅が決定される。実施の形態1においては、発光領域間距離が約400μmであるため、発光領域間中心部に溝を形成する場合、溝幅として400μm以下を選択できるが、半導体レーザ素子の放熱性を考慮して約50μm以下にするのが妥当である。なお、分割溝3の先端部は応力を集中させるために可能な限り鋭く形成することが好ましい。
【0035】つぎに図2(a)?(c)を用いて、実施の形態1による半導体レーザアレイをベース材上へ接合する際の半導体レーザアレイの分割過程について説明する。図2(a)?(c)において、ベース材12の上面には接合材13としてAuSnはんだなどの金属融材が約3?5μmの厚みで蒸着されている。ベース材12の材料としては、半導体レーザより線膨張率の小さい材料、例えばダイヤモンド、SiC、Si等を使用する。
【0036】図2(a)において、半導体レーザアレイ1は、前述したように各半導体レーザ素子間に分割溝3が形成されており、成長層側を下にしてベース材12上へ搭載されている。この状態において、金属融着材である接合材13の融点以上の温度まで加熱すると、p電極9と接合材13が合金化される。続く常温までの冷却過程において、接合材13がその融点以下の温度になると、図2(b)に示すように半導体レーザアレイ1とベース材12との線膨張率差に起因する反りが発生する。
【0037】この反りによって、分割溝3の先端部に応力が集中し、GaAs基板の結晶方向に、すなわち図2(b)に示すようにベース材12と接合した面に垂直な方向に、亀裂が進展する。そして十分に温度が低下すると、半導体レーザアレイ1およびベース材12の線膨張が解消され、図2(c)に示すように互いに反りのない状態に落ち着く。結果的に、半導体レーザアレイ1は、前記亀裂によって各半導体レーザ素子2の分割を達成している。
【0038】従って、図10に示すような従来のアレイ型半導体レーザ装置において必要であった応力緩和材14が排除され、図3に示すように半導体レーザアレイをベース材12に直接接合する構造が可能となる。さらに、半導体レーザアレイおよびベース材との間の線膨張率差により生じる熱応力を、分割溝において亀裂を生じさせるための力として利用し、発生した亀裂は半導体レーザアレイの意図的な分割を達成させているために、半導体レーザ素子が破損されることはない。
【0039】また、分割された半導体レーザアレイは熱応力に対して緩和された状態であるため、後のアレイ型半導体レーザ装置の駆動前後における温度差が生じた場合にあっても熱応力に起因する半導体レーザ素子の破損を回避できる。
【0040】実施の形態2.この発明による実施の形態2を図4を用いて説明する。図4は、実施の形態2によるアレイ型半導体レーザ装置の半導体レーザアレイ部を示したものである。
【0041】図4において、半導体レーザアレイ1は、各発光領域間に成長層側と半導体基板側との両側に、且つ互いに対向する位置において、半導体基板のほぼ中心部に向かって分割溝3が形成されている。このような半導体レーザアレイ1が図示しないベース材上に接合材を介して搭載された状態において、上述した半導体レーザアレイ1とベース材とを加熱して接合する際に生じる反りの方向に関わらず、半導体レーザアレイ1の分割が可能になる。」

(5) 図1は、次のものである。

(6) 図2は、次のものである。

(7) 上記(4)の「ベース材12の材料としては、半導体レーザより線膨張率の小さい材料、例えばダイヤモンド、SiC、Si等を使用する。」からみて、
半導体レーザアレイ1を搭載するためのベース材12が半導体レーザより線膨張率の小さい材料であるダイヤモンド、SiC、Si等からなることが読み取れる。

(8) 上記(4)の「半導体レーザアレイ1は、前述したように各半導体レーザ素子間に分割溝3が形成されており、成長層側を下にしてベース材12上へ搭載されている。」、及び、
「分割溝3はバッファ層5、活性層6、クラッド層7、コンタクト層8およびp電極9から成る成長層のみでなく、半導体基板4の深部に至る部分まで形成されている。」からみて、
半導体レーザアレイ1において、ベース材12上へ搭載される側に、分割溝3を形成する工程が読み取れる。

(9) 上記(5)の「つぎに図2(a)?(c)を用いて、実施の形態1による半導体レーザアレイをベース材上へ接合する際の半導体レーザアレイの分割過程について説明する。」、
「ベース材12の上面には接合材13としてAuSnはんだなどの金属融材が約3?5μmの厚みで蒸着されている。」、
「ベース材12の材料としては、半導体レーザより線膨張率の小さい材料、例えばダイヤモンド、SiC、Si等を使用する。」、
「半導体レーザアレイ1は、前述したように各半導体レーザ素子間に分割溝3が形成されており、成長層側を下にしてベース材12上へ搭載されている。この状態において、金属融着材である接合材13の融点以上の温度まで加熱すると、p電極9と接合材13が合金化される。続く常温までの冷却過程において、接合材13がその融点以下の温度になると、図2(b)に示すように半導体レーザアレイ1とベース材12との線膨張率差に起因する反りが発生する。」、及び、
「この反りによって、分割溝3の先端部に応力が集中し、GaAs基板の結晶方向に、すなわち図2(b)に示すようにベース材12と接合した面に垂直な方向に、亀裂が進展する。そして十分に温度が低下すると、半導体レーザアレイ1およびベース材12の線膨張が解消され、図2(c)に示すように互いに反りのない状態に落ち着く。結果的に、半導体レーザアレイ1は、前記亀裂によって各半導体レーザ素子2の分割を達成している」 からみて、
半導体レーザアレイ1を分割溝3が形成された側を下にしてベース材12上へ搭載し、加熱した後、常温まで冷却する工程、及び、
上記工程において、ベース材12上面のAuSnはんだなどの接合材13が融点以上の温度まで加熱され、半導体レーザアレイ1とベース材12とが接合し、続く常温までの冷却過程において分割溝3に生じた亀裂によって半導体レーザアレイ1が分割がされることが読み取れる。

これらの記載によると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体レーザアレイ1を搭載するためのベース材12が半導体レーザより線膨張率の小さい材料であるダイヤモンド、SiC、Si等からなるものであって、
A)前記半導体レーザアレイ1において、前記ベース材12上へ搭載される側に、分割溝3を形成する工程、
B)前記半導体レーザアレイ1を前記分割溝3が形成された側を下にして前記ベース材12上へ搭載し、加熱した後、常温まで冷却する工程、及び、
上記B)工程において、前記ベース材12上面のAuSnはんだなどの接合材13の融点以上の温度まで加熱し、半導体レーザアレイ1とベース材12とが接合し、続く常温までの冷却過程において分割溝3に生じた亀裂によって前記半導体レーザアレイ1が分割される方法。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明1と引用文献1発明とを対比する。

(1) 引用文献1発明の「個片の半導体ペレット17が個片のヒートシンク18上に融着されたもの」は、「個片の半導体ペレット17」が、「前記レーザバー11と前記ヒートシンクバー12が一体となった一体化バーをYAGレーザ15を照射して局部的に加熱溶断」されることで、前記「加熱溶断」によりレーザバー11が分離された半導体レーザであるから、本願発明1の「半導体レーザ素子(1)」に相当する。

(2) 本願発明1の「A)前記半導体レーザ素子(1)のための複数のキャリア(2)を有する少なくとも1つのキャリア複合体(20)を作製するステップ」と、
引用文献1発明の「シリコン等からなり、AuSn又はSnが表面に蒸着されたヒートシンクバー12を準備する工程」とを対比する。

引用文献1発明の「ヒートシンクバー12」は、「レーザバーを載せる」ためのものであり、「個片のヒートシンク18」に分離されるものであり、準備の前に、当然、作製されるものである。

よって、両者は、相当関係にある。

(3) 本願発明1の「B)共通の成長基板(31)と、前記成長基板の上に成長させる半導体積層体(32)とを備えた複数の半導体レーザダイオード(3)を有する少なくとも1つのレーザバー(3)を作製するステップであって、前記半導体積層体(32)が、n型側と、p型側と、前記n型側と前記p型側との間に位置する活性ゾーンと、を備えており、前記n型側が前記成長基板(31)に面している、ステップ」と、
引用文献1発明の「レーザバー11を準備する工程」とを対比する。

引用文献1発明の「レーザバー11」は、「前記レーザバー11と前記ヒートシンクバー12が一体となった一体化バーをYAGレーザ15を照射して局部的に加熱溶断」されることで、前記「加熱溶断」によりレーザバー11が分離された半導体レーザを含むから、複数の半導体レーザを有するものである。
そして、レーザバー11は、準備の前に、当然、作製されるものである。

よって、両者は、「B)複数の半導体レーザダイオード(3)を有する少なくとも1つのレーザバー(3)を作製するステップ」という点で一致する。

(4) 本願発明1の「D)前記レーザバー(30)を前記キャリア複合体(20)のキャリア上面(23)に取り付けるステップであって、前記成長基板(31)中の前記所定の破断箇所(35)が前記半導体積層体(32)と前記キャリア(2)との間に位置するように、前記基板裏面(34)が前記キャリア上面(23)に面し、前記取付けが、高い温度において実行され、
取り付けた後に冷却する、ステップ」と、
引用文献1発明の「前記レーザバー11を、前記ヒートシンクバー12の上に平行に載せヒーター等で加熱融着する工程」とを対比するに、両者は、
「D)前記レーザバーを前記キャリア複合体のキャリア上面に取り付けるステップであって、前記取付けが、高い温度において実行される、ステップ」という点で一致する。

(5) 引用文献1発明の「前記レーザバー11と前記ヒートシンクバー12が一体となった一体化バーをYAGレーザ15を照射して局部的に加熱溶断し、次に、前記個片の半導体ペレット17が前記個片のヒートシンク18上に融着されたものに分離する工程」は、本願発明1の「E)複数の前記半導体レーザ素子に個片化するステップ」に相当する。

(6) 本願発明の「ステップB)?ステップE)が示した順序で実行される」構成と、
引用文献1発明の「レーザバー11を準備する工程と、
前記レーザバー11を、前記ヒートシンクバー12の上に平行に載せヒーター等で加熱融着する工程と、
前記レーザバー11と前記ヒートシンクバー12が一体となった一体化バーをYAGレーザ15を照射して局部的に加熱溶断し、次に、前記個片の半導体ペレット17が前記個片のヒートシンク18上に融着されたものに分離する工程」とを対比するに、上記(ウ)?(オ)の対比から、両者は、
「ステップB)、ステップD)、ステップE)が示した順序で実行される」という点で一致する。

したがって、本願発明1と引用文献1発明との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「 半導体レーザ素子を製造する方法であって、
A)前記半導体レーザ素子のための複数のキャリアを有する少なくとも1つのキャリア複合体を作製するステップと、
B)複数の半導体レーザダイオードを有する少なくとも1つのレーザバーを作製するステップと、
D)前記レーザバーを前記キャリア複合体のキャリア上面に取り付けるステップであって、前記取付けが、高い温度において実行される、ステップと、
E)複数の前記半導体レーザ素子に個片化するステップと、
を含み、
ステップB)、ステップD)、ステップE)が示した順序で実行される、
方法。」

(相違点1)
レーザバーが有する複数の半導体レーザダイオードが、本願発明1では、「共通の成長基板(31)と、前記成長基板の上に成長させる半導体積層体(32)とを備えた」ものであり、「前記半導体積層体(32)が、n型側と、p型側と、前記n型側と前記p型側との間に位置する活性ゾーンと、を備えており、前記n型側が前記成長基板(31)に面している」のに対し、
引用文献1発明の「レーザバー11」が有する「個片の半導体ペレット17」は、そのような特定がない点。

(相違点2)
本願発明1は、「C)前記成長基板(31)の基板裏面(34)に所定の破断箇所(35)を生成するステップであって、前記基板裏面が前記半導体積層体(32)とは反対側である、ステップ」を含むのに対し、引用文献1発明には、そのようなステップを含まない点。

(相違点3)
レーザバー(レーザバー11)をキャリア複合体(ヒートシンクバー12)のキャリア上面に取り付けるステップが、本願発明1では、「前記成長基板(31)中の前記所定の破断箇所(35)が前記半導体積層体(32)と前記キャリア(2)との間に位置するように、前記基板裏面(34)が前記キャリア上面(23)に面し」ており、かつ、「取り付けた後に冷却する」のに対し、
引用文献1発明では、「前記レーザバー11を、前記ヒートシンクバー12の上に平行に載せヒーター等で加熱融着する」ものであるが、レーザバー11に破断箇所を有しておらず、取り付けた後に冷却することの特定がない点。

(相違点4)
本願発明1では、「ステップB)?ステップE)が示した順序で実行される」のに対し、引用文献1発明では、ステップC)と一致するものがないから、そのようなものでない点。

2 判断
(1) 上記(相違点1)について
引用文献1発明の「レーザバー11」が有する「個片の半導体ペレット17」は、放熱機能を有する「個片のヒートシンク18」に取り付けられるものである。

放熱機能を有する部材に取り付ける半導体レーザとして、成長基板にn型層、活性層、p型層の順で、結晶成長したものであって、成長基板側を放熱機能を有する部材に取り付けるものは、一例として特開2008-235682号(以下、「周知例1」という。)の段落【0021】、【0037】?【0038】に、
「【0021】
ステム1は、鉄または銅などの金属材料から構成されており、円板状に形成されている。また、ヒートシンク2は、銅などの金属材料によって構成されており、ステム1の上面(主面)の中央部近傍領域に固定されている。このヒートシンク2は、半導体レーザ素子10の熱を、サブマウント3を介して放熱する機能を有している。なお、ヒートシンク2は、ステム1に一体に形成された構成となる場合もある。」、
「【0037】
まず、図8に示すように、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)を用いて、約350μmの厚みを有するとともに、{100}結晶面から約4°傾斜したGaAs基板11の上面上に、約3.3μmの厚みを有するn型Al_(0.48)Ga_(0.52)Asからなるn型クラッド層12、発光層13、約1.2μmの厚みを有するp型Al_(0.49)Ga_(0.51)Asからなるp型クラッド層14、約1.0μmの厚みを有するp型GaAsからなるp型コンタクト層15、および、約1.0μmの厚みを有するp型GaAsからなるp型キャップ層16を順次成長させる。
【0038】
なお、発光層13は、図3に示したように、約30nmの厚みを有するAl_(0.39)Ga_(0.61)Asからなる光ガイド層13d上に、MQW構造を有する活性層13c、および、約30nmの厚みを有するAl_(0.39)Ga_(0.61)Asからなる光ガイド層13eを順次成長させることにより形成する。また、活性層13cは、約9nmの厚みを有するGaAsからなる2つの量子井戸層13aと、約8nmの厚みを有するAl_(0.39)Ga_(0.61)Asからなる1つの障壁層13bとを交互に積層することにより形成する。」、
段落【0031】に、「また、ブロードエリア型の半導体レーザ素子10では、発熱量が比較的大きくなるため、半導体レーザ素子10とサブマウント3(サブマウント基板3a)との熱膨張係数の差に起因して半導体レーザ素子10に生じる熱応力も比較的大きくなる。このため、半導体レーザ素子10を、発光層13がサブマウント3から遠ざかるジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合した場合の方が、発光層13がサブマウント3に近付くジャンクションダウン方式でサブマウント3上に接合した場合に比べて、発光層13へのひずみの導入が抑制される。したがって、半導体レーザ素子10をジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合することによって、ジャンクションダウン方式でサブマウント3上に接合する場合に比べて、放熱性は劣るものの、発光層13へのひずみの導入が抑制される分、素子特性の低下が抑制される。」、すなわち、放熱機能を有する「サブマウント3」にジャンクションアップ方式で接合した「半導体レーザ素子10」として記載されているように、周知の技術である。

したがって、引用文献1発明の「ヒートシンク12」に取り付けられる「レーザバー11」の構成として、上記周知のものを採用し、(相違点1)に係る本願発明1の発明特定事項となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(2) 上記(相違点2)?(相違点4)について
引用文献1発明は、「レーザバー11」を、「シリコン等」からなる「ヒートシンクバー12の上に平行に載せヒーター等で加熱融着する工程」を有し、
引用文献2発明は、「ベース材12」が「ダイヤモンド、SiC、Si等からなるものであって」、「半導体レーザアレイ1」を「ベース材12上へ搭載し、加熱」する工程を有するものである。
したがって、「レーザバーをシリコン等からなるヒートシンクバーに載せ加熱する工程」を有する技術である点で共通している。

そして、引用文献1発明は、「半導体レーザ,発光ダイオード等の半導体素子の組立工数においては、放熱及び熱膨張率差による歪の対策が問題」であることを課題とし、引用文献2発明は、「大型の半導体レーザアレイにおいてはそれらベース材との線膨張率差に起因する熱応力が問題となる」ことを課題としている。
したがって、両者は、「半導体レーザにおける、熱膨張率差による歪」を課題とする点で共通している。

よって、引用文献1発明の「レーザバー11を、ヒートシンクバー12の上に平行に載せヒーター等で加熱融着する工程」に対して、引用文献1発明と共通の技術分野、及び、共通の課題を有する引用文献2発明の「A)前記半導体レーザアレイ1において、前記ベース材12上へ搭載される側に、分割溝3を形成する工程、
B)前記半導体レーザアレイ1を前記分割溝3が形成された側を下にして前記ベース材12上へ搭載し、加熱した後、常温まで冷却する工程、及び、
上記B)工程において、前記ベース材12上面のAuSnはんだなどの接合材13の融点以上の温度まで加熱し、半導体レーザアレイ1とベース材12とが接合し、続く常温までの冷却過程において分割溝3に生じた亀裂によって前記半導体レーザアレイ1が分割される」方法を適用することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、上記適用において、引用文献2発明の「分割溝3」が、上記(相違点1)で判断した周知の半導体層を採用した引用文献1発明の「レーザバー11」 の「ヒートシンクバー12」側に形成されることとなり、「前記ベース材12上面のAuSnはんだなどの接合材13の融点以上の温度まで加熱し、半導体レーザアレイ1とベース材12とが接合し、続く常温までの冷却過程において分割溝3に生じた亀裂によって前記半導体レーザアレイ1が分割」するためのものであるから、前記周知の「成長基板にn型層、活性層、p型層の順で、結晶成長したものであって、成長基板側を放熱機能を有する部材に取り付ける」半導体層の構成を備えるものにあっては、「分割溝3」を「成長基板」側に形成するのは当然のことである。

したがって、引用文献1発明に対して、引用文献2発明を適用し、(相違点2)、及び、(相違点3)に係る本願発明1の発明特定事項となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、引用文献1発明及び引用文献2発明の各工程からみて、引用文献1発明に対して、引用文献2発明を適用することにより、(相違点4)に係る本願発明1の発明特定事項となすことも、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(3) 審判請求人の主張及び当該主張についての当審の判断
ア 審判請求人の主張
審判請求人は、平成30年8月13日に提出された当審拒絶知通知に対する意見書の「3.本願発明が特許されるべき理由について」において、次の主張をしている。

「又、引例文献2(図1、図2を参照)には、分割溝3を、電極層9,クラッド層7、活性層6、コンタクト層8及びバッファ層5を貫いて半導体基板4まで到るように、半導体レーザアレー1の正面側に形成した後、半導体レーザアレー1を破断することが記載されています。つまり、引例文献2に係る発明は、分割溝3を、半導体基板4の半導体積層体とは反対側の下面に形成するものではなく、活性層6とキャリア12の間に配置するものではありません。
より詳細には、引例文献2に係る発明においては、分割溝3は、活性層6と半導体基板4の表面を貫くように形成されなければならないとされています(段落[0031])。従いまして、引例文献2に係る発明においては、当業者が、分割溝3を、半導体基板4の活性層6と反対側の下面に形成する工程と、分割溝3がキャリア12と活性層6との間に配置されるように、キャリア12上に基板4を取り付ける工程と、を行うように、設計変更される動機付けがありません(以下、「主張A」という。)。
換言すると、引例文献2には、半導体レーザアレー1を破断するに際して、本願発明のように、破断箇所(35)が半導体積層体(32)とキャリア(2)との間に配置されるように、下方からキャリア複合体(20)、成長基板(31)、半導体積層体(32)の順番に配置された態様については、記載も示唆もされておりません(以下、「主張B」という。)。そして、引例文献2には、当業者が当該態様とする動機が一切ありません。」

イ 審判請求人の主張に対する判断
(ア) 主張Aについて
上記(1)で検討したとおり、引用文献1発明の「レーザバー11」が有する「個別の半導体ペレット17」は半導体積層構造が特定されていないが、周知技術のとおりの半導体の積層構造を採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

そして、上記(2)で検討したとおり、引用文献2発明は、引用文献1発明とは、「半導体レーザにおける、熱膨張率差による歪」を課題とする点、及び、技術分野が共通するため、引用文献1発明に引用文献2発明のような「A)前記半導体レーザアレイ1において、前記ベース材12上へ搭載される側に、分割溝3を形成する工程、
B)前記半導体レーザアレイ1を前記分割溝3が形成された側を下にして前記ベース材12上へ搭載し、加熱した後、常温まで冷却する工程、及び、
上記B)工程において、前記ベース材12上面のAuSnはんだなどの接合材13の融点以上の温度まで加熱し、半導体レーザアレイ1とベース材12とが接合し、続く常温までの冷却過程において分割溝3に生じた亀裂によって前記半導体レーザアレイ1が分割される方法」を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。

そして、引用文献2発明が半導体の積層構造に依存する技術であるとはいえず、引用文献1及び引用文献2の記載全体からみても、各発明を組み合わせることを阻害する要因があるとはいえない。

よって、上記主張Aは採用できない。

(イ) 主張Bについて
上記(2)、及び、上記(ア)で検討したとおり、引用文献2発明の「分割溝3」が、周知の半導体層を採用した引用文献1発明の「レーザバー11」 の「ヒートシンクバー12」側に形成されることにより、「分割溝3」は、「前記ベース材12上面のAuSnはんだなどの接合材13の融点以上の温度まで加熱し、半導体レーザアレイ1とベース材12とが接合し、続く常温までの冷却過程において分割溝3に生じた亀裂によって前記半導体レーザアレイ1が分割」するためのものであるから、半導体層の構成からみて当然のことである。

よって、上記主張は採用できない。

ウ 効果について
本願発明1の奏する効果についても、引用文献1発明、引用文献2発明、及び、周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

(4) 小括
したがって、本願発明1は、引用文献1発明、引用文献2発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1発明、引用文献2発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-04 
結審通知日 2018-09-11 
審決日 2018-09-26 
出願番号 特願2015-548455(P2015-548455)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 居島 一仁
近藤 幸浩
発明の名称 半導体レーザ素子の製造方法および半導体レーザ素子  
代理人 鷲田 公一  

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