• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A62C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A62C
管理番号 1348653
審判番号 不服2018-5211  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-16 
確定日 2019-02-07 
事件の表示 特願2014-3541「スプリンクラ消火設備」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月23日出願公開、特開2015-130967〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年9月5日付け :拒絶理由通知書
平成29年11月13日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年1月12日付け :拒絶査定
平成30年4月16日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年4月16日の手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成30年4月16日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 補正事項
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成29年11月13日の手続補正書)の請求項3に、

「【請求項3】
流水検知装置の二次側に設けられ、加圧流体が充填された二次側配管と、該二次側配管に接続されたスプリンクラヘッドとを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放状態にある開閉弁と、所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段と、前記スプリンクラヘッドと同じ防護領域に設置される火災感知器とを更に備え、
前記地震検知手段による地震検知信号の出力があったときに、前記開閉弁を閉止状態に閉止制御するように構成されていると共に、その閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力があったときに、前記開閉弁を開放状態に開放制御するように構成されており、
また、前記閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きないとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力がないときには、前記開閉弁の開放制御をするように構成されていることを特徴とするスプリンクラ消火設備。」
とあったものを、

「【請求項1】
流水検知装置の二次側に設けられ、加圧流体が充填された二次側配管と、該二次側配管に接続されたスプリンクラヘッドとを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放状態にある開閉弁と、所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段と、前記スプリンクラヘッドと同じ防護領域に設置される火災感知器とを更に備え、
前記地震検知手段による地震検知信号の出力があったときに、前記開閉弁を閉止状態に閉止制御するように構成されていると共に、その閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力があったときに、前記開閉弁を開放状態に開放制御するように構成されており、
また、前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるように構成されていると共に、
前記閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きないとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力がないときには、前記開閉弁の開放制御をするように構成されていることを特徴とするスプリンクラ消火設備。」
と補正すること(以下「補正事項1」という。)を含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。以下同様。)。

(2)本件補正は、特許請求の範囲の請求項2について、補正前(平成29年11月13日の手続補正書)の請求項4に、

「【請求項4】
流水検知装置の二次側に設けられ、加圧流体が充填された二次側配管と、該二次側配管に接続されたスプリンクラヘッドとを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放状態にある開閉弁と、所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段と、前記スプリンクラヘッドと同じ防護領域に設置される火災感知器とを更に備え、
前記地震検知手段による地震検知信号の出力があったときに、前記開閉弁を閉止状態に閉止制御するように構成されていると共に、その閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力があったときに、前記開閉弁を開放状態に開放制御するように構成されており、
また、前記閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときには、前記開閉弁の閉止状態が維持されるように構成されていることを特徴とするスプリンクラ消火設備。」
とあったものを、

「【請求項2】
流水検知装置の二次側に設けられ、加圧流体が充填された二次側配管と、該二次側配管に接続されたスプリンクラヘッドとを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放状態にある開閉弁と、所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段と、前記スプリンクラヘッドと同じ防護領域に設置される火災感知器とを更に備え、
前記地震検知手段による地震検知信号の出力があったときに、前記開閉弁を閉止状態に閉止制御するように構成されていると共に、その閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力があったときに、前記開閉弁を開放状態に開放制御するように構成されており、
また、前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるように構成されていると共に、
前記閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときには、前記開閉弁の閉止状態が維持されるように構成されていることを特徴とするスプリンクラ消火設備。」
と補正すること(以下「補正事項2」という。)を含むものである。

2 新規事項
(1)補正事項1
補正事項1によって、請求項1は、「前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるように構成されている」との発明特定事項(以下「発明特定事項1」という。)及び「前記閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きないとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力がないときには、前記開閉弁の開放制御をするように構成されている」との発明特定事項(以下「発明特定事項2」という。)を含むものとなった。
他方、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、上記発明特定事項2を備える第1の態様(段落【0035】及び図2等)及び上記発明特定事項1を備える第2の態様(段落【0038】及び図3等)が記載されているものの、上記発明特定事項1及び2の両方を備える態様は記載も示唆もされていない。また、上記発明特定事項1及び2の両方を備えることは、当初明細書等に記載された事項から自明でもない。
そうすると、補正後の請求項1のスプリンクラ消火設備は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

(2)補正事項2
補正事項2によって、請求項2は、上記発明特定事項1及び「前記閉止制御により前記開閉弁が閉止状態にある間、前記火災感知器による火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときには、前記開閉弁の閉止状態が維持されるように構成されている」との発明特定事項(以下「発明特定事項3」という)を含むものとなった。
他方、当初明細書等には、上記発明特定事項3を備える第1の態様(段落【0035】及び図2等)及び上記発明特定事項1を備える第2の態様(段落【0038】及び図3等)が記載されているものの、上記発明特定事項1及び3の両方を備える態様は記載も示唆もされていない。また、上記発明特定事項1及び3の両方を備えることは、当初明細書等に記載された事項から自明でもない。
そうすると、補正後の請求項2のスプリンクラ消火設備は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

(3)まとめ
そうしてみると、本件補正は、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しない。

3 独立特許要件
次に、本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合する場合を予備的に検討する。

補正事項1は、発明を特定するために必要な事項である開閉弁の「閉止制御」について、「前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるように構成されている」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正事項2も同様に、発明を特定するために必要な事項である開閉弁の「閉止制御」について、「前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるように構成されている」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1及び2に記載される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(1)サポート要件
上述したとおり、発明の詳細な説明には、上記発明特定事項1及び2の両方を備える態様は記載されていないから、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、上記発明特定事項1及び3の両方を備える態様は記載されていないから、請求項2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
したがって、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1及び2に記載される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)明確性
請求項1に記載される発明は、開閉弁の閉止制御が「前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われる」ことを前提に、「火災信号の出力がない場合、所定の時間内に、二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きないとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力がないとき」に、前記開閉弁の開放制御をすることを特定するものである。
そうすると、請求項1に記載される発明は、圧力低下(流水信号の出力)の有無について、相反する2つの条件を共に満たす場合の開閉弁の制御を特定するものであり、どのような場合にその相反する2つの条件を共に満たすのかは、当業者といえども理解し得ないから、請求項1に記載される発明は明確でない。
したがって、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1に記載される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しておらず、仮に適合するとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成29年11月13日の手続補正書の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
流水検知装置の二次側に設けられ、加圧流体が充填された二次側配管と、該二次側配管に接続されたスプリンクラヘッドとを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放状態にある開閉弁と、所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段と、前記スプリンクラヘッドと同じ防護領域に設置される火災感知器とを更に備え、
前記地震検知手段による地震検知信号の出力があったときに、前記開閉弁を閉止状態に閉止制御するように構成されており、
また、前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるよう構成されていることを特徴とするスプリンクラ消火設備。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定(平成30年1月12日付け拒絶査定)の拒絶の理由は次のとおりである。

本願発明は、引用文献3に記載された発明及び引用文献4ないし7に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献一覧>
3.特開2008-253312号公報(本審決における引用例1)
4.特開昭59-200669号公報
5.特開昭56-160519号公報
6.特開2013-108755号公報
7.特開2000-193114号公報(同引用例2)

3 引用例、引用発明等
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2008-253312号公報(以下「引用例1」という。)には、「スプリンクラ消火設備」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。

ア 「【0015】
本発明の実施形態を図1により説明する。図1は本発明のスプリンクラ消火設備のシステムを示す図である。図において、1は流水検知装置で、流水現象を検知するもので、検知手段としての圧力スイッチを有する。2は二次側配管で、流水検知装置1の二次側に設けられ、加圧流体としての加圧水が充填されている。二次側配管2には、複数のスプリンクラヘッド3が接続され、また、末端には、排水用の弁としての末端試験弁4が設けられている。」

イ 「【0017】
8は流水検知装置1の一次側に設けられた一次側配管である。9は一次側配管8に設けられた止水弁である。止水弁は、常時は、開放しており、後述の制御盤20からの制御信号によって開閉される。この止水弁9は、二次側配管2に設けてもよい。
【0018】
10はポンプで、水槽11と共に加圧送水装置を構成しており、一次側配管8の基端側に設けられている。ポンプ10はポンプ起動盤12からの信号によって起動される。一次側配管8において、ポンプ10の二次側には、配管内を所定圧に加圧する圧力空気槽13が設けられる。この圧力空気槽13は、圧力スイッチを有し、配管内の圧力低下を検知する。
【0019】
20は制御盤で、受信装置21と、機能停止手段22とを備えている。受信装置21は、気象庁30からの緊急地震速報を通信網40を介して受信する。また、機能停止手段22は、緊急地震速報を受信したとき、スプリンクラ設備の給水機能を一時的に停止させるものである。
【0020】
機能停止手段22は、弁閉止制御手段24、排水制御手段25、起動停止制御手段26の3つの手段を有しているが、少なくとも一つの制御手段を有していればよい。弁閉止制御手段24は、緊急地震速報を受信したときに、止水弁9を閉じるように制御する手段である。また、排水制御手段25は、緊急地震速報を受信したときに、排水弁5又は末端試験弁4を開放して、二次側配管2内の加圧水を排水するように制御する手段である。また、起動停止制御手段26は、ポンプ10の起動を停止するように制御する手段である。」

ウ 「【0023】
また、弁閉止制御手段24は、緊急地震速報を受信したときに、閉弁信号を出力して、止水弁9を閉じるように制御する。これにより、一次側配管8内の流路は閉止するので、二次側配管2への給水は、主要動が到達する前に、直ちに停止されることになる。このため、大きな地震が発生して、ヘッド3が破損したとしても、加圧送水装置10,11から水がスプリンクラヘッド3側へ給水されないので、ヘッド3から継続して水が漏れたりすることはない。」

エ 「【0029】
また、機能停止手段は、緊急地震速報を受信したときに、設備の給水機能を、少なくとも「一時的」に停止させるものである。ここで、一時的と限定したのは、地震の後に、火災の発生が予想されるからである。このため、緊急地震速報を受信した後に、図示しない火災感知器が動作した場合や、防災センターの要員によって、火災の発生が確認された場合には、制御盤に火災信号を入力させて、制御盤の機能停止手段を解除して、スプリンクラ消火設備から給水を行えるように設備を復旧させるようにしてもよい。なお、設備の復旧にあっては、時間的に余裕がある場合には、スプリンクラヘッドが破損している場合も予想されるので、二次側配管にエア配管を介してコンプレッサを接続し、まず、二次側配管に空気を入れて、ヘッド破損による漏れが生じていないかを確認してから、機能停止手段による制御を解除させるようにしてもよい。」

オ 上記イから、止水弁9は、流水検知装置1の一次側又は二次側に設けられることが分かる。

カ 上記イの「受信装置21は、気象庁30からの緊急地震速報を通信網40を介して受信する。」(段落【0019】)との記載及び「弁閉止制御手段24は、緊急地震速報を受信したときに、止水弁9を閉じるように制御する」(段落【0020】)との記載からみて、気象庁30からの緊急地震速報を受信した受信装置21が、その旨の緊急地震速報受信信号を出力することは明らかである。

上記アないしカ及び図1の図示内容を総合すると、引用例1には、「スプリンクラ消火設備」に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「流水検知装置1の二次側に設けられ、加圧流体としての加圧水が充填された二次側配管2と、該二次側配管2に接続されたスプリンクラヘッド3とを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置1の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放している止水弁9と、気象庁30からの緊急地震速報を受信したときに緊急地震速報受信信号を出力する受信装置21と、火災感知器とを更に備え、
前記受信装置21による緊急地震速報受信信号の出力があったときに、前記止水弁9を閉じるように制御するように構成されているスプリンクラ消火設備。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2000-193114号公報(以下「引用例2」という。)には、「緊急遮断弁および緊急遮断弁制御方法」に関して、次の事項が記載されている。

「【0002】
【従来の技術】飲料水の供給や非常用水確保のための給水設備として、従来から受水槽や高置水槽が設置されている。これらの給水設備においては、地震時の給水配管破損による貯留水の流出を防止するために、感震器により地震を検知し、この感震器から出る信号をもとに遮断弁を自動的に閉鎖するようにしたものが一般的に知られている。しかしながら、このような感震器の信号のみによって遮断弁を閉鎖するものは、地震時の万一の給水配管破損を考慮して強制的に給水配管を閉鎖してしまうものであるため、地震による火事など早急に水が必要な場合であっても水槽内の貯留水を使用することができないという問題があった。
【0003】そのため、流量センサを併用して感震器の出力信号と異常流量を同時に検出した時のみ遮断弁を閉鎖するようにしたものや、遮断弁の出力側に圧力センサを設け、感震器の出力信号と異常低圧を同時に検出した時のみ遮断弁を閉鎖するようにしたものがあった。しかしながら、流量センサや圧力センサの併用によって、地震時に給水配管が破損していない場合における強制的な閉鎖の可能性は軽減されるものの、流量や圧力を異常と判断する際の設定値の決定が困難であるという問題があった。」

上記記載事項からみて、引用例2には、次の技術(以下「引用例2技術」という。)が記載されている。

〔引用例2技術〕
「遮断弁の閉鎖は、感震器による信号の出力があり、且つ遮断弁の出力側の異常低圧を検出した時、又は流量センサによる異常流量を検出した時に行われる技術。」

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「流水検知装置1」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「流水検知装置」に相当し、以下同様に、流水検知装置1の「二次側」は、流水検知装置の「二次側」に、「加圧流体としての加圧水」は「加圧流体」に、「二次側配管2」は「二次側配管」に、「スプリンクラヘッド3」は「スプリンクラヘッド」に、「スプリンクラ消火設備」は「スプリンクラ消火設備」に、流水検知装置1の「一次側」は、流水検知装置の「一次側」に、「常時は開放している止水弁9」は「常時は開放状態にある開閉弁」に、「火災感知器」は「火災感知器」に、「閉じるように制御する」は「閉止状態に閉止制御する」に、それぞれ相当する。
また、本願明細書の「地震検知手段として感震器8を用いているが、地震検知手段としては、気象庁等より通信網を介して取得可能な「緊急地震速報」による地震動の予報・警報信号を利用するものとしてもよい。」(段落【0032】)との記載、及び気象庁からの緊急地震速報が所定の震度以上が予想されるときに発表されるものであることを踏まえると、引用発明における「気象庁30からの緊急地震速報を受信したときに緊急地震速報受信信号を出力する受信装置21」は、本願発明における「所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「流水検知装置の二次側に設けられ、加圧流体が充填された二次側配管と、該二次側配管に接続されたスプリンクラヘッドとを備えたスプリンクラ消火設備において、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設けられ、常時は開放状態にある開閉弁と、所定の震度以上の地震が発生したときに地震検知信号を出力する地震検知手段と、火災感知器とを更に備え、
前記地震検知手段による地震検知信号の出力があったときに、前記開閉弁を閉止状態に閉止制御するように構成されているスプリンクラ消火設備。」

〔相違点1〕
本願発明においては、火災感知器は「前記スプリンクラヘッドと同じ防護領域に設置される」のに対して、
引用発明においては、火災感知器の設置領域は不明である点。

〔相違点2〕
本願発明においては、「前記開閉弁の閉止制御は、前記地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ前記二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は前記流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われるよう構成されている」のに対して、
引用発明においては、かかる事項を備えていない点。

(2)判断
ア 相違点1
上記相違点1について検討する。
火災感知器とスプリンクラヘッドとを同じ防護領域に設置することは、消火設備における常とう手段である。
そうすると、引用発明において、上記常とう手段を適用して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2
上記相違点2について検討する。
引用例2技術は、「遮断弁の閉鎖は、感震器による信号の出力があり、且つ遮断弁の出力側の異常低圧を検出した時、又は流量センサによる異常流量を検出した時に行われる技術」である。
本願発明と引用例2技術とを対比すると、引用例2技術における「遮断弁」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「開閉弁」に相当し、以下同様に、「閉鎖」は「閉止制御」に、「感震器による信号」は「地震検知手段による地震検知信号」に、それぞれ相当する。
また、引用例2技術における「遮断弁の出力側の異常低圧を検出した時」と本願発明における「二次側配管内の所定値以上の圧力低下が起きたとき」とは、「所定値以上の圧力低下が起きたとき」という限りにおいて共通する。また、引用例2技術における「流量センサによる異常流量を検出した時」は、本願発明における「流水検知装置による流水信号の出力があったとき」に相当する。
そうすると、引用例2技術は、本願発明の用語で表すと、「遮断弁の閉止制御は、地震検知手段による地震検知信号の出力があり、且つ所定値以上の圧力低下が起きたとき、又は流水検知装置による流水信号の出力があったときに行われる技術」といえる。

引用例2の「これらの給水設備においては、地震時の給水配管破損による貯留水の流出を防止するために、感震器により地震を検知し、この感震器から出る信号をもとに遮断弁を自動的に閉鎖するようにしたものが一般的に知られている。しかしながら、このような感震器の信号のみによって遮断弁を閉鎖するものは、地震時の万一の給水配管破損を考慮して強制的に給水配管を閉鎖してしまうものであるため、地震による火事など早急に水が必要な場合であっても水槽内の貯留水を使用することができないという問題があった。」(【段落【0002】)との記載、「そのため、流量センサを併用して感震器の出力信号と異常流量を同時に検出した時のみ遮断弁を閉鎖するようにしたものや、遮断弁の出力側に圧力センサを設け、感震器の出力信号と異常低圧を同時に検出した時のみ遮断弁を閉鎖するようにしたものがあった。」(段落【0003】)との記載、及び「流量センサや圧力センサの併用によって、地震時に給水配管が破損していない場合における強制的な閉鎖の可能性は軽減される」(段落【0003】)との記載から、引用例2技術は、地震時の給水配管破損による貯留水の流出を防止するものであり、さらに、地震時に感震器から出る信号のみをもとに遮断弁を自動的に閉鎖するものでは、地震による火事など早急に水が必要な場合であっても水槽内の貯留水を使用することができないという課題を解決するためのものであることが分かる。
また、引用例1の「大きな地震が発生して、ヘッド3が破損したとしても、加圧送水装置10,11から水がスプリンクラヘッド3側へ給水されないので、ヘッド3から継続して水が漏れたりすることはない。」(段落【0023】)との記載、及び「火災の発生が確認された場合には、制御盤に火災信号を入力させて、制御盤の機能停止手段を解除して、スプリンクラ消火設備から給水を行えるように設備を復旧させるようにしてもよい。なお、設備の復旧にあっては、時間的に余裕がある場合には、スプリンクラヘッドが破損している場合も予想されるので、二次側配管にエア配管を介してコンプレッサを接続し、まず、二次側配管に空気を入れて、ヘッド破損による漏れが生じていないかを確認してから、機能停止手段による制御を解除させるようにしてもよい。」(段落【0029】)との記載から、引用発明は、地震時のスプリンクラヘッド3の破損による漏水を抑制することを課題とするものであることが分かる。また、引用発明は、「前記受信装置21による緊急地震速報受信信号の出力があったときに、前記止水弁9を閉じるように制御する」ものであり、緊急地震速報受信信号の出力のみをもとに前記止水弁9を閉じるものであるから、引用例2の段落【0002】の上記記載に照らせば、地震時に早急にスプリンクラヘッド3へ水を供給する必要がある場合であっても対応できないという課題を内在するものといえる。
そうすると、引用発明と引用例2技術とは、地震時の設備破損による漏水を抑制するという点で共通しており、さらに、引用例2技術は、引用発明が内在する、地震時に早急に水が必要な場合に対応できないという課題を解決するためのものであるから、引用発明において、当該課題解決のために、引用例2技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そうしてみると、引用発明の二次側配管2に、引用例2技術を適用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ そして、本願発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明、引用例2技術及び上記常とう手段から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものではない。

エ したがって、本願発明は、引用発明、引用例2技術及び上記常とう手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成30年4月16日の審判請求書の「(4-2)相違点の検討」の「・相違点1について」において、「引用発明3(審決注:本審決における引用例1に記載された発明)において、本願発明の相違点1に係る前記の構成のようにすることは、引用発明7(審決注:本審決における引用例2に記載された発明)が否定している技術を採用することになり、阻害要因のある変更をすることになる。」と主張する。
しかしながら、引用例2には、「しかしながら、流量センサや圧力センサの併用によって、地震時に給水配管が破損していない場合における強制的な閉鎖の可能性は軽減されるものの、流量や圧力を異常と判断する際の設定値の決定が困難であるという問題があった。」(段落【0003】)と記載されているものの、当該記載は「設定値の決定が困難である」ことをいうに過ぎず、否定までするものではないから、上記請求人の主張には根拠がなく、採用できない。
さらに、請求人は、「スプリンクラ消火設備の場合、常時、流水検知装置により流水の有無を検知できるようになっており、また、配管内の圧力を一定に維持できるようになっている。そのため、流量や圧力の異常を判断する際の値の設定を容易にすることができる。つまり、本願発明は、相違点1に係る前記の構成を備えつつも、引用発明7が課題として認識している前記の問題点を解消することができるものであり、引用発明に対する有利な効果を奏するものでもある。」と主張する。
しかしながら、引用発明は「流水検知装置1」を備えるものであり、引用例1の「一次側配管8において、ポンプ10の二次側には、配管内を所定圧に加圧する圧力空気槽13が設けられる。この圧力空気槽13は、圧力スイッチを有し、配管内の圧力低下を検知する。」(段落【0018】)との記載から、配管内の圧力を一定(所定圧)に維持することが分かるから、それらを踏まえて流量や圧力の異常を判断することの効果は当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものではないから、上記請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
本願発明は、引用発明、引用例2技術及び上記常とう手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-27 
結審通知日 2018-12-04 
審決日 2018-12-18 
出願番号 特願2014-3541(P2014-3541)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A62C)
P 1 8・ 561- Z (A62C)
P 1 8・ 537- Z (A62C)
P 1 8・ 575- Z (A62C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔小笠原 恵理  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 スプリンクラ消火設備  
代理人 彩雲国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ