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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
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管理番号 | 1348707 |
異議申立番号 | 異議2017-701180 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-12 |
確定日 | 2018-12-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6146400号発明「フェライト系ステンレス鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6146400号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6146400号の請求項1、3?5に係る特許を維持する。 特許第6146400号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6146400号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年11月28日(優先権主張 平成26年 8月14日)を出願日とする出願であって、平成29年 5月26日に特許権の設定登録がされ、同年 6月14日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1?5に係る特許について、同年12月12日(受理日12月14日)に特許異議申立人岩谷 幸祐(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年 3月23日付けで当審より取消理由が通知され、特許権者より同年 5月25日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、異議申立人より同年 7月13日付けで意見書が提出され、同年 7月31日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者より同年 9月20日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、同年 9月27日付けで当審より特許法第120条の5第5項による訂正請求があった旨の通知がされたところ、指定期間内に異議申立人より意見書は提出されなかったものである。 第2 本件訂正の請求による訂正の適否 1 訂正の内容 平成30年 9月20日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 なお、平成30年 5月25日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「Ti:0.11?0.40%」と記載されているのを、 「Ti:0.20?0.40%」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項3?請求項5も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項3?請求項5も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に 「Mo:0.01?0.30%、Cu:0.03?0.50%、Co:0.01?0.50%」と記載されているのを、 「Mo:0.01?0.30%、Co:0.01?0.50%」に訂正する。 (請求項3を引用する請求項4?請求項5も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に 「請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」に訂正する。 (請求項3を引用する請求項4?請求項5も同様に訂正する。) (6)訂正事項6 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「Zr:0.01?0.30%、B:0.0003?0.0030%、Mg:0.0005?0.0030%、」と記載されているのを、 「Zr:0.01?0.30%、Mg:0.0005?0.0030%、」に訂正する。 (7)訂正事項7 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1?3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「請求項1又は3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」に訂正する。 (請求項4を引用する請求項5も同様に訂正する。) (8)訂正事項8 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に 「請求項1?4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「請求項1、3又は4に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、請求項1に記載されるフェライト系ステンレス鋼板のTi含有量の下限値を、「0.11%」から「0.20%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書の【0034】には、 「【0034】 その効果はTi含有量が0.11%以上で得られる。・・・従って、Ti含有量は0.11?0.40%の範囲とする。より好ましくは0.20?0.35%の範囲である。」(当審注:下線は当審で付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)と記載されているから、Ti含有量の下限値を「0.20%」と訂正する訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、訂正事項1による訂正は、フェライト系ステンレス鋼板のTi含有量の下限値を、「0.11%」から「0.20%」に限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、請求項1に記載されるフェライト系ステンレス鋼板のTi含有量およびNb含有量を、上記式(1)を満たすものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書の【0015】には、 「【0015】 [2]Ti含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たすことを特徴とする[1]記載のフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」 と記載され、【0037】には、 「【0037】 この効果を発現させ、かつ、加工性を良好とするためには、TiとNbの含有量がそれぞれ前述した範囲内にあることが必要である。より好ましくは、Ti含有量に対するNb含有量の比(Nb/Ti)を0.10以上0.30以下とする。これにより耐食性はさらに向上する。・・・」と記載されているから、フェライト系ステンレス鋼板のTi含有量およびNb含有量を、上記式(1)を満たすものに訂正する訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、訂正事項2による訂正は、フェライト系ステンレス鋼板のTi含有量およびNb含有量を、上記式(1)を満たすものに限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項4、6について 訂正事項4による訂正は、請求項3において、請求項1に係る発明としてのフェライト系ステンレス鋼板に更に追加的に含有される元素からCuを削除するものであり、訂正事項6による訂正は、請求項4において、請求項1又は3に係る発明としてのフェライト系ステンレス鋼板に更に追加的に含有される元素からBを削除するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (5)訂正事項5、7、8について 訂正事項5、7、8による訂正は、訂正事項3により請求項2を削除する訂正がされたのに伴って、請求項3?5において請求項2を引用しないものに訂正するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (6)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2?請求項5は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5は、一群の請求項である。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 むすび したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2に記載したとおり、本件訂正は適法であるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.01?1.00%、Mn:0.05?1.00%、P:0.020?0.040%、S:0.030%以下、Al:0.001?0.100%、Cr:12.5?14.4%、Ni:0.01?0.80%、Ti:0.20?0.40%、Nb:0.010?0.100%およびN:0.020%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 さらに、質量%で、Mo:0.01?0.30%、Co:0.01?0.50%、およびW:0.01?0.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項4】 さらに、質量%でV:0.01?0.25%、Zr:0.01?0.30%、Mg:0.0005?0.0030%、Ca:0.0003?0.0030%、Y:0.001?0.20%、およびREM(希土類金属):0.001?0.10%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項5】 さらに、質量%でSn:0.001?0.50%およびSb:0.001?0.50%のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1、3又は4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。」 第4 異議申立理由の概要 1 各甲号証 甲第1号証:特開2000-282187号公報 甲第2号証:特開平11-106875号公報 甲第3号証:特開2012-207298号公報 甲第4号証:特開2007-270226号公報 甲第5号証:特開2010-31315号公報 甲第6号証:特開2001-294991号公報 2 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について (1)異議申立理由1 本件発明1、3、4は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 (2)異議申立理由2 本件発明1?4は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 (3)異議申立理由3 本件発明4、5は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明4、5は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証、甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 第5 取消理由の概要 1 平成30年 3月23日付けの取消理由通知書の取消理由の概要 平成30年 3月23日付けの取消理由通知書における取消理由の概要は、以下のとおりである。 1-1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性) (1)甲第1号証を主引用例とする場合について (ア)本件発明1、3、4は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (イ)本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (ウ)なお、上記取消理由通知書においては、甲第1号証に記載された発明において、本件発明2に特定される発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない、とされている。 (2)甲第2号証を主引用例とする場合について (ア)本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (イ)本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (ウ)なお、上記取消理由通知書においては、本件発明1?3が、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない、とされている。 (3)甲第3号証を主引用例とする場合について (ア)本件発明4、5は、甲第3号証に記載された発明であるか、又は、甲第3号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項4、5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (イ)なお、上記取消理由通知書においては、本件発明1?3が、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証、甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、とされている。 2 平成30年 7月31日付けの取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の概要 平成30年 7月31日付けの取消理由通知書(決定の予告)における取消理由の概要は、以下のとおりである。 2-1 特許法第29条第2項(進歩性) (ア)請求項3を引用するものを含む本件発明4は、甲第3号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)請求項3及び4を引用するものを含む本件発明5は、甲第3号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)なお、上記取消理由通知書(決定の予告)においては、本件発明1、3が、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証、甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、とされている。 第6 各甲号証の記載事項 1 甲第1号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1号証(特開2000-282187号公報)には以下の記載がある。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 重量%でC:0.02%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:9.0?35.0%、N:0.02%以下、Ni:1.0%以下、Al:1.0%以下、Ti:1.0%以下、Nb:0.03%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe-Cr系合金であって、PとNbとの含有量がP×Nb≦0.0005の関係を満たし、圧延方向、圧延45度方向及び圧延直角方向の各ランクフォード値を夫々rL、rD及びrCとし、全方向のランクフォード値の最小値をr_(MIN)としたときに、rL≧rD、rC≧1.3及びr_(MIN)≧1.0の関係を満たすように設定されていることを特徴とする加工性の優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項2】 重量%でMo:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Co:2.0%以下、V:0.5%以下、Zr:2.0%以下、B:0.005%以下、Ca:0.005%以下のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の加工性の優れたフェライト系ステンレス鋼板。」 (1b)「【0002】 【従来の技術】TiやNb等の炭窒化物形成元素を添加したいわゆる高純度フェライト系ステンレス鋼板はー般的に熱間圧延、熱間圧延板焼鈍、酸洗、冷延、焼鈍、酸洗の工程を経て製造され、各工程において加工性、表面品質、製造性の向上のために多大な努力が払われている。このフェライト系ステンレス鋼板は比較的安価で優れた耐蝕性を有するため、自動車排気系材料や電気器具、建築材料などとして使用される。・・・ ・・・ 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板にあっては、加工性の改善は得られるものの、仕上圧延前での待機を必要とする前者の技術では、生産能率を低下させるという新たな課題が生じ、また、高温での巻取りを必要とする後者の技術では、熱間圧延後のコイル形状での自熱による焼鈍効果を利用するため、コイルの先端部、尾端部やエッジ部では冷却し易く、十分な効果が得られず、特性が安定しないという新たな課題が生じている。 【0005】これらの結果から、近年の複雑な部品加工の要求を満たす、良好な特性の製品を生産効率を低下させることなく、且つ安定して生産するには至っていないのが現状である。そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、複雑な部品加工の要求を満たし、良好な特性の製品を安定して高生産効率で生産することができる加工性の優れたフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供することを目的としている。」 (1c)「【0013】この請求項2に係る発明では、Mo,Cu及びCoを含有させることにより、耐蝕性を改善する効果があるが、過剰な添加は脆化をもたらすため上限は夫々2.0%とする。また、V,Zrを含有させることにより、特に溶接部でのCr炭窒化物の生成を抑制し、耐蝕性を向上させることができるが、過剰な添加は靱性や延性を低下させるため上限は夫々5%とする。 【0014】さらに、Bを含有させることにより、特にNを固定し耐蝕性や加工性の改善に寄与するが、過剰に添加してもその効果は飽和するため上限を0.005%とした。さらにまた、Caを含有させることにより、連続鋳造時のイマージョンノズル詰まりを抑制し、生産中断のトラブルを防止する効果があるが、過剰な添加は介在物による表面品質の劣化を招くため上限は0.005%とする。」 (1d)「【0033】 【実施例3】下記表3に示す前述した実施例1におけるPとNbとの含有量がP×Nb≦0.0005の関係を満足する成分組成のステンレス鋼スラブを1100℃に加熱し、粗圧延に引き続き仕上圧延するに際し、仕上の圧下率、前段2パス及び後段3パスの摩擦係数及び仕上圧延終了温度(FDT)について種々の条件で熱間圧延を実施した。これらの熱間圧延板に900℃で3分以内の焼鈍と酸洗とを連続して行なった後、圧下率65%の冷間圧延を施し、860℃で3分以内の焼鈍と酸洗とを連続して行い製品板とした。 【0034】 【表3】 」 (ア)上記(1a)によれば、甲第1号証にはフェライト系ステンレス鋼板に係る発明が記載されており、上記(1d)の鋼Dによれば、上記フェライト系ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.020%、Si:0.21%、Mn:0.22%、P:0.03%、S:0.004%、Al:0.02%、Cr:13.4%、Ni:0.33%、Ti:0.28%、Nb:0.01%、N:0.0150%、Cu:0.1%、B:0.003%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものといえる。 (イ)また、鋼DのNb及びTi含有量からみれば、鋼Dにおいては、 Nb/Ti=0.01/0.28=0.04となるものである。 (ウ)そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.020%、Si:0.21%、Mn:0.22%、P:0.03%、S:0.004%、Al:0.02%、Cr:13.4%、Ni:0.33%、Ti:0.28%、Nb:0.01%、N:0.0150%、Cu:0.1%、B:0.003%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量及びNb含有量が下記式(i)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 Nb/Ti=0.04 (i) 式(i)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」(以下、「甲1発明」という。) 2 甲第2号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第2号証(特開平11-106875号公報)には以下の記載がある。 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項2】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、さらにMo:2.0 wt%以下、Ni:1.0 wt%以下およびCu:1.0 wt%から選ばれる1種又は2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項3】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、さらにB:0.0005?0.0030wt%、Ca:0.0007?0.0030wt%およびMg:0.0005?0.0030wt%から選ばれる1種又は2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項4】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、さらにMo:2.0 wt%以下、Ni:1.0 wt%以下およびCu:1.0 wt%から選ばれる1種又は2種以上と、B:0.0005?0.0030wt%、Ca:0.0007?0.0030wt%およびMg:0.0005?0.0030wt%から選ばれる1種又は2種以上とを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」 (2b)「【0032】 【実施例】以下に、実施例に基づき本発明について説明する。表1に示す組成を有する鋼を、VOD→連鋳工程にて厚さ200mm の連鋳スラブとし、3スタンドより成る粗圧延機と7スタンドより成る連続式の仕上圧延機より構成される熱間圧延機にて、スラブ加熱温度(SRT):1150?1180℃、粗圧延終了温度(RDT):940 ?1090℃、仕上げ圧延終了温度(FDT) :800 ?950 ℃で板厚4mmの熱延鋼帯に圧延した。得られた熱延鋼帯を、880 ?1000℃の間で連続焼鈍し、酸洗の後、冷間圧延により、板厚0.8mm の鋼帯とした。この冷延鋼帯を、脱脂後、880 ?1000℃の間で連続仕上げ焼鈍し、酸洗後、スキンパス圧延を行って2B(JIS G4307で規定された表面仕上げ記号) 仕上げのステンレス鋼板とした。以上の方法で得られた冷延焼鈍板より試料を採取し、以下に示す各種の試験を行った。」 (2c)「【0034】 【表1】 」 (ア)上記(2a)によれば、甲第2号証にはフェライト系ステンレス鋼板に係る発明が記載されており、上記(2b)、(2c)の鋼記号13の鋼によれば、上記フェライト系ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Ti:0.14%、Nb:0.018%、V:0.039%、N:0.007%、O:0.0015%、B:0.0008%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものといえる。 (イ)また、鋼記号13の鋼のNb及びTi含有量からみれば、鋼記号13の鋼においては、Nb/Ti=0.018/0.14=0.13となるものである。 (ウ)そうすると、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Ti:0.14%、Nb:0.018%、V:0.039%、N:0.007%、O:0.0015%、B:0.0008%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量及びNb含有量が下記式(ii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 Nb/Ti=0.13 (ii) 式(ii)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」(以下、「甲2発明」という。) 3 甲第3号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第3号証(特開2012-207298号公報)には以下の記載がある。 (3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、 C:0.01%以下、 Si:1%以下、 Mn:1%以下、 P:0.04%以下、 S:0.005%以下、 Mo:0.1%以下、 Cr:11%?19%、 Ti:10×(C+N)以上0.3%以下、 Al:0.02?0.2%、 N:0.015%以下、 B:0.0004%?0.0015%、 をそれぞれ含有し、かつ固溶Bを0.0003%以上含有し、 残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、 JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行った際に、ボライドを起因とするエッチピットが、粒界上に2×10^(-5)個/μm以下であることを特徴とする疲労特性に優れた容器用フェライト系ステンレス鋼板。 【請求項2】 質量%で、さらに V:0.005?0.2%、 Nb:0.005?0.2%、 の1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の疲労特性に優れた容器用フェライト系ステンレス鋼板。 【請求項3】 さらに、質量%で、 Ni:0.005?0.5%、 Cu:0.005?0.5%、 Sn:0.005?0.3%、 の1種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の疲労特性に優れた容器用フェライト系ステンレス鋼板。」 (3b)「【0007】 そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、良加工性を有する高純度フェライト系ステンレス鋼板において、B添加量を調整するとともに、粒界上へのボライドの析出を抑制することにより疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。」 (3c)「【0022】 Cr:11?19% Crは耐食性を発現するための必須な元素である。その効果を発現するためには、11%以上の添加が必要である。しかし、過度の添加は加工性が低下するため、19%を上限とする。耐食性と加工性のバランスを考慮すると、好ましくは、16?18.5%である。」 (3d)「【0027】 B:0.0004%?0.0015% 固溶B:0.0003%以上 Bは本発明において、疲労特性を向上させるために非常に重要な元素である。Bを固溶Bとして粒界に偏析させることにより粒界強化を図ることができる。その結果として、疲労特性が向上する。その効果を発現させるためには、0.0004%以上の添加が必要である。しかし、0.0015%を超えて添加すると、粒界上へのボライド析出が抑制できず、疲労特性向上の効果が消滅するため、上限を0.0015%とする。 また、このようなB添加による効果発現は、固溶B量に左右される。そのため、固溶Bを0.0003%以上含有する必要がある。なお、疲労特性の向上とボライド析出の抑制とのバランスを考慮すると、B含有量を0.0008?0.0012%とすることが好ましい。」 (3e)「【0032】 また、本実施形態において、上記元素に加えて、Ni:0.005?0.5%、Cu:0.005?0.5%、Sn:0.005?0.3%の一種以上を添加してもよい。 Ni、Cu、Snはそれぞれ、耐食性を向上させる元素であり、耐食性の向上が必要な場合添加できる。その効果を発現させるためには、0.005%以上の添加が望ましい。しかし、Ni、Cu、Snは多量に添加すると、加工性を著しく低下させるため、その上限を、Ni、Cuは0.5%、Snは0.3%とすることが望ましい。」 (3f)「【0042】 本実施例では、まず、表1及び表2に示す成分組成の鋼を溶製してスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延して4mm厚の熱延コイルとした。その後、この熱延コイルを酸洗し、0.8mm厚まで冷間圧延を行い冷延板とした。次いで、水素-窒素混合雰囲気にて焼鈍した後、酸洗を行い、製品板とした。なお、このときの冷延板の焼鈍条件は、表3に示すように、焼鈍温度920℃、そして600℃までの平均冷却速度を25℃/sを主とし、実施例34?38においては、焼鈍温度を820?970℃、平均冷却速度を5?25℃/sの範囲で変化させて行った。なお、表1及び表2に示す成分組成において、本発明範囲から外れる数値にはアンダーラインを付している。 次に、このようにして得られた製品板から、各種試験片を採取し、評価・測定した。」 (3g)「【0046】 【表1】 」 (ア)上記(3a)によれば、甲第3号証には容器用フェライト系ステンレス鋼板に係る発明が記載されており、上記(3f)、(3g)の実施例15の鋼によれば、上記容器用フェライト系ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Cr:18.0%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、V:0.05%、N:0.009%、B:0.0006%、Mo:0.02%、Cu:0.10%、Sn:0.1を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものといえる。 (イ)また、実施例15の鋼のNb及びTi含有量からみれば、実施例15の鋼においては、Nb/Ti=0.05/0.20=0.25となるものである。 (ウ)そうすると、甲第3号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Cr:18.0%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、V:0.05%、N:0.009%、B:0.0006%、Mo:0.02%、Cu:0.10%、Sn:0.1を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量及びNb含有量が下記式(iii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 Nb/Ti=0.25 (iii) 式(iii)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」(以下、「甲3発明」という。) 4 甲第4号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第4号証(特開2007-270226号公報)には以下の記載がある。 (4a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、 C:0.010%以下、 N:0.010%以下、 Si:0.25%以下、 Mn:0.2%以下、 P:0.03%以下、 S:0.01%以下、 Cr:16.0?20.0%、 Mo:0.5?2.0%未満、 Ti:0.05?0.25%、 Nb:0.05?0.40%、を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、下記 (A)式および(B)式を満足することを特徴とする、加工性、溶接性、耐すき間腐食性に優 れた貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼。 ここに、 (Ti+Nb)/(C+N)≧20 かつ 0.2≦Ti/(Nb+Ti)≦0.8 ・・・・(A) 21.5 ≦(Cr+3.3Mo)≦ 26 ・・・・(B)」 (4b)「【0009】 そこで、本発明は、Moなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は、前述の課題を解決するため鋭意検討の結果、CrとMoバランスならびに安定化元素であるNbとTiバランスの最適化を図ることによりMoなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。」 (4c)「【0016】 これより、すき間腐食が生じなかった組成範囲は、Cr+3.3Moが本試験範囲では21.5以上26以下、かつTi/(Nb+Ti)が0.2以上であることが判明した。なおTi/(Nb+Ti)が0.2を下回ると、水溶性介在物を基点としたすき間腐食が発生する。またTi/(Nb+Ti)が0.8をこえると、圧延時にTi系の介在物を起因とした表面疵を生じ、外観上問題があるだけでなく、この疵部を基点としたすき間腐食も発生する場合があった。またCr+3.3Moが26を超えると加工性が低下してしまう。」 5 甲第5号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第5号証(特開2010-31315号公報)には以下の記載がある。 (5a)「【背景技術】 【0002】 排気系部品にはフェライト系ステンレス鋼板・鋼管が多用されてきている。たとえば、SUH409Lは、Crを11%含有しC,NをTiで固定して溶接部の鋭敏化を防止すると共に優れた加工性を有する鋼種であり、700℃以下で十分な高温特性を有し、凝縮水腐食に対してもある程度の抵抗性を発揮するため、最も多く用いられている。また、C,NをTiで固定しCrを17%含有するAISI439や、さらにMoを含有させたSUS436Lなど、耐凝縮水腐食性と塩害耐食性を高めた鋼種も使用されている。 ・・・ 【0004】 本発明では、SUH409L(11Cr系)とAISI439(17Cr系)の中間に位置付けられる鋼種を研究開発の対象とした。・・・ ・・・ 【0006】 例えば、特許文献1では、C,NをTiで固定しCrを9.0?15.0%含有させ、0.10?0.80%のNi,Cuを含有させて耐食性と加工性を両立させた鋼が開示されている。・・・ 【0007】 また、特許文献2では、C,NをNb,Tiで固定しCrを11.0?15.0%含有させ、0.6%以下のNiと1.0%以下のVを含有させて造管性、耐粒界腐食性、高温強度を確保した鋼が開示されている。・・・ 【0008】 また、特許文献3では、C,NをTiで固定しCrを10?14%含有させ、適量のS(C含有量の0.5倍以上、0.010%以下)を含有させて耐食性と加工性を両立させた鋼が開示されている。・・・」 (5b)「【発明が解決しようとする課題】 【0014】 本発明は、SUH409L(11Cr系)よりも加熱後耐食性に優れ、AISI439(17Cr系)よりも加工性とコストが優れる自動車排気系部材用の省合金型フェライト系ステンレス鋼の提供を目的とするものである。」 6 甲第6号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第6号証(特開2001-294991号公報)には以下の記載がある。 (6a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 mass%で、 C :0.0005?0.03%、 Si:0.01?1%、 Mn:0.01?1%、 P :0.04%未満、 S :0.0001?0.01%、 Cr:10?25%、 Ti:0.01?0.8%、 Al:0.005?0.1%、 N :0.0005?0.03%、 Mg:0.0005?0.01% を含有し、最大径が0.05?5μmのMg系介在物をTiNで覆った形態を有する介在物が3個/mm^(2)以上の密度で鋼中存在し、さらに、{100},{110},{111}コロニーのうち最も大きいコロニーの大きさが圧延方向に2000μm以下、幅方向に500μm以下、板厚方向に300μm以下であることを特徴とする成形性とリジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 ・・・ 【請求項6】 mass%で、 Sb:0.0002?0.005%、 Sn:0.001?0.1% の1種もしくは2種を、さらに含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか記載の成形性とリジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」 (6b)「【0027】Sb,Sn:これらの元素は圧延時に変形帯を生成しやすくするため、リジング向上効果がある。Sb:0.0002%、Sn:0.001%以上で効果を発揮するためこれを下限とした。しかしSb:0.005%、Sn:0.1%超添加すると強度上昇等成形性への悪影響をもたらすため、これを上限とした」 第7 異議申立理由及び取消理由についての当審の判断 1 異議申立理由について (1)甲第1号証を主引用例とする場合について (1-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明と甲1発明とは、組成が、質量%で、C:0.020%、Si:0.21%、Mn:0.22%、P:0.03%、S:0.004%、Al:0.02%、Cr:13.4%、Ni:0.33%、Ti:0.28%、Nb:0.01%、N:0.0150%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる点で重複している。 (イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、質量%で、C:0.020%、Si:0.21%、Mn:0.22%、P:0.03%、S:0.004%、Al:0.02%、Cr:13.4%、Ni:0.33%、Ti:0.28%、Nb:0.01%、N:0.0150%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1-1:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がCu及びBを含有しないのに対して、甲1発明は、Cu:0.1%、B:0.003%を含有する点。 相違点1-2:本件発明1は、Ti含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たすのに対して、甲1発明は、Ti含有量およびNb含有量が、Nb/Ti=0.04なる関係にあり、下記式(1)を満たさない点。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 イ 判断 (ア)上記相違点1-1、1-2は、いずれも、フェライト系ステンレス鋼板の物性に影響する成分組成の相違に係るものであるから、実質的な相違点といえるので、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 そこで、事案に鑑みて、上記相違点1-2から検討すると、上記第6の4(4a)?(4c)によれば、甲第4号証に記載される貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼は、CrとMoバランスならびに安定化元素であるNbとTiバランスの最適化を図ることにより、Moなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とするものであり、上記課題を解決するために、下記(A)式及び(B)式を満足する必要があるものである。 (Ti+Nb)/(C+N)≧20 かつ 0.2≦Ti/(Nb+Ti)≦0.8 ・・・・(A) 21.5 ≦(Cr+3.3Mo)≦ 26 ・・・・(B) (イ)ところが、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、Cを0.020%、Crを13.4%、Nを0.0150%、Tiを0.28%、Nbを0.01%含有し、Moを含有しないから、これに上記式(A)、(B)を適用すると、 (Ti+Nb)/(C+N)=(0.28+0.01)/(0.020+0.0150) =8.29 となり、 Cr+3.3Mo=13.4+3.3×0 =13.4となる。 そうすると、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、上記式(A)のうち(Ti+Nb)/(C+N)≧20と、式(B)を満足し得ないものである。 (ウ)してみれば、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼に対して、課題を解決するために、上記(A)式及び(B)式を満足する必要がある甲第4号証に記載される技術事項を適用することはできないから、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼に、甲第4号証に記載される上記式(A)のうち0.2≦Ti/(Nb+Ti)≦0.8のみを選択して適用するべき合理的な動機付けは存在しない。 そして、このことは、甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証の記載事項に左右されるものでもない。 (エ)したがって、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Ti含有量およびNb含有量を上記式(1)を満たすものとして、上記相違点1-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第1号証?甲第6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。 (オ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (1-2)本件発明3?5について ア 対比・判断 (ア)本件発明3と甲1発明とを対比すると、本件発明3は請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板、すなわち、本件発明1を引用する関係にあるものであるから、本件発明3と甲1発明とは、少なくとも、上記相違点1-1及び相違点1-2を有するものであるので、本件発明3も、本件発明1と同様に、甲1発明であるとはいえない。 このことは、本件発明3と同様に、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にある本件発明4についても同様である。 (イ)そして、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Ti含有量およびNb含有量を上記式(1)を満たすものとして、上記相違点1-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第1号証?甲第6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(1-1)イ(エ)に記載のとおりである。 (ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 このことは、本件発明3と同様に、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明4?5についても同様である。 (1-3)小括 したがって、上記第4の2(1)に記載される異議申立理由1は理由がない。 (2)甲第2号証を主引用例とする場合について (2-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1と甲2発明とは、組成が、質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Nb:0.018%、N:0.007%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる点で重複している。 (イ)また、本件発明1と甲2発明とは、Ti含有量及びNb含有量が、本件発明1の式(1)に含まれる、Nb/Ti=0.129の点で重複しているから、甲2発明のTi含有量及びNb含有量は、上記式(1)を満たすものである。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Nb:0.018%、N:0.007%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量及びNb含有量が下記式(1)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点2-1:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がNiを0.01?0.80%含有するのに対して、甲2発明は、Niを含有しない点。 相違点2-2:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がTiを0.20?0.40%含有するのに対して、甲2発明は、Ti含有量が0.14%である点。 相違点2-3:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がVを含有しないのに対して、甲2発明は、V:0.039%を含有する点。 相違点2-4:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がO及びBを含有しないのに対して、甲2発明は、O:0.0015%、B:0.0008%を含有する点。 イ 判断 (ア)上記相違点2-1?2-4は、いずれも、フェライト系ステンレス鋼板の物性に影響する成分組成の相違に係るものであるから、実質的な相違点といえるので、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。 そこで、事案に鑑みて、上記相違点2-2から検討すると、上記第6の2(2a)によれば、甲2発明においては、Tiは、0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み得るものであり、かつ、甲2発明のNの含有量は0.007%であるから、甲2発明は、Ti含有量を0.08?0.25%とし得るものである。 すると、甲2発明は、Ti含有量を、本件発明1と重複する範囲である、0.20?0.25%とし得るものである。 (イ)ところが、その場合、甲2発明におけるNb含有量は0.018%であるから、甲2発明におけるNb/Tiは、0.018/0.25≦Nb/Ti≦0.018/0.20、すなわち、0.072≦Nb/Ti≦0.09となるので、本件発明1の発明特定事項である上記式(1)を満足しない。 してみれば、甲2発明において、Ti含有量を、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項と重複する範囲である0.20?0.25%とすると、Ti含有量およびNb含有量について、本件発明1の発明特定事項である上記式(1)を満足することができなくなるから、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Tiを0.20?0.40%含有するものとして、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第2号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るものではない。 (ウ)ここで、甲2発明においては、Ti含有量を0.20?0.25%とすると同時にNb含有量を変化させて上記式(1)を満足させることも考えられるので、以下、甲2発明において、Ti含有量を0.20?0.25%とすると同時にNb含有量を変化させて上記式(1)を満足させることを、当業者が容易になし得るか否かについて検討する。 (エ)上記甲第2号証には、上記式(1)については記載も示唆もされていない。 ここで、上記甲第4号証に記載される貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼は、Moなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供する、という課題を解決するために、上記(A)式及び(B)式を満足する必要があるものであることは、上記(1)(1-1)イ(ア)に記載のとおりである。 (オ)ところが、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、Crを13.2%含有し、Moを含有しないから、これに上記式(B)を適用すると、 Cr+3.3Mo=13.2+3.3×0 =13.2 となるので、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、少なくとも上記式(B)を満足し得ないものである。 (カ)してみれば、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼に対して、課題を解決するために、上記(A)式及び(B)式を満足する必要がある甲第4号証に記載される技術事項を適用することはできないから、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼に、甲第4号証に記載される上記式(A)のうち0.2≦Ti/(Nb+Ti)≦0.8のみを選択して適用するべき合理的な動機付けは存在しないので、甲2発明において、Ti含有量を0.20?0.25%とすると同時にNb含有量を変化させて、上記式(1)を満足させるものとする合理的な動機付けも存在しない。 そして、このことは、甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証の記載事項に左右されるものでもない。 (キ)そうすると、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Tiを0.20?0.40%含有すると共にNb含有量を変化させて、Ti含有量およびNb含有量が上記式(1)を満たすものとすることを、甲第1号証?甲第6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、結局のところ、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Tiを0.20?0.40%含有するものとして、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第1号証?甲第6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。 (ク)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-2)本件発明3?5について ア 対比・判断 (ア)本件発明3と甲2発明とを対比すると、本件発明3は本件発明1を引用する関係にあるものであるから、本件発明3と甲2発明とは、少なくとも、上記相違点2-2を有するものであるので、本件発明3も、本件発明1と同様に、甲2発明であるとはいえない。 このことは、本件発明3と同様に、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にある本件発明4についても同様である。 (イ)そして、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Tiを0.20?0.40%含有すると共に、Ti含有量およびNb含有量が上記式(1)を満たすものとして、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第1号証?甲第6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(2-1)イ(キ)に記載のとおりである。 (ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 このことは、本件発明3と同様に、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にある本件発明4?5についても同様である。 (2-3)小括 したがって、上記第4の2(2)に記載される異議申立理由2は理由がない。 (3)甲第3号証を主引用例とする場合について (3-1)本件発明4について ア 対比 (ア)本件発明4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にあるものであるので、まず、本件発明1を引用する関係にある場合について検討する。 本件発明1を引用する関係にある本件発明4(以下、「本件発明4-1」という。)と甲3発明とを対比すると、本件発明4-1と甲3発明とは、質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、N:0.009%、V:0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板である点で重複している。 (イ)また、本件発明4-1と甲3発明とは、Ti含有量及びNb含有量が、本件発明4の式(1)に含まれる、Nb/Ti=0.25の点で重複しているから、甲3発明のTi含有量及びNb含有量は、上記式(1)を満たすものである。 (ウ)そうすると、本件発明4-1と甲3発明とは、 「質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、N:0.009%、V:0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Ti含有量及びNb含有量が下記式(1)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点3-1:本件発明4-1は、フェライト系ステンレス鋼板が、質量%でCrを12.5?14.4%含有するのに対して、甲3発明は、Crを18.0%含有する点。 相違点3-2:本件発明4-1は、フェライト系ステンレス鋼板がBを含有しないのに対して、甲3発明は、質量%でBを0.0006%含有する点。 相違点3-3:本件発明4-1は、フェライト系ステンレス鋼板がMo、Cu、Snを含有しないのに対して、甲3発明は、質量%でMo:0.02%、Cu:0.10%、Sn:0.1%を含有する点。 イ 判断 (ア)上記相違点3-1?3-3は、いずれも、フェライト系ステンレス鋼板の物性に影響する成分組成の相違に係るものであるから、実質的な相違点といえるので、本件発明4-1が甲3発明であるとはいえない。 そこで、事案に鑑みて、上記相違点3-2から検討すると、上記第6の3(3b)によれば、甲3発明は、良加工性を有する高純度フェライト系ステンレス鋼板において、B添加量を調整するとともに、粒界上へのボライドの析出を抑制することにより疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを課題とするものである。 そして、上記第6の3(3a)、(3d)によれば、甲3発明は、B:0.0004%?0.0015%、固溶B:0.0003%以上を含む必要があるものであって、Bを固溶Bとして粒界に偏析させることにより粒界強化を図ることができ、その結果として、疲労特性が向上するものである。 (イ)してみれば、甲3発明は、容器用フェライト系ステンレス鋼板において、質量%で、B:0.0004%?0.0015%、固溶B:0.0003%以上を必須の元素として含むものであり、そうすることにより、疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供する、という課題を解決するものというべきである。 (ウ)そして、そのような甲3発明においてBを含有しないものとすることは、容器用フェライト系ステンレス鋼板の疲労特性を向上させる、という特性を損なうものとなるから、当業者が容易になし得るものとはいえず、このことは、甲第4号証?甲第5号証の記載事項に左右されるものでもない。 してみれば、甲3発明に係る容器用フェライト系ステンレス鋼板においてBを含有しないものとして、上記相違点3-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第3号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。 (エ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4-1は、甲3発明及び甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (オ)更に、本件発明3を引用する関係にある本件発明4(以下、「本件発明4-3」という。)について検討すると、本件発明4-3に係るフェライト系ステンレス鋼板もBを含有しないことは、本件発明4-1と同様であるから、本件発明4-3と甲3発明とを対比すると、本件発明4-3と甲3発明は、少なくとも上記相違点3-2の点で相違するものであるので、本件発明4-3が甲3発明であるとはいえない。 そして、甲3発明に係る容器用フェライト系ステンレス鋼板においてBを含有しないものとして、上記相違点3-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第3号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(ウ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、本件発明4-3も、甲3発明及び甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (カ)したがって、本件発明4は、甲3発明及び甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3-2)本件発明5について ア 対比・判断 (ア)本件発明5は、本件発明1、3又は4を引用する関係にあるものであって、本件発明1、3又は4のいずれを引用したとしても、本件発明5に係るフェライト系ステンレス鋼板はBを含有するものではないから、本件発明5と甲3発明とを対比すると、本件発明5と甲3発明とは、少なくとも上記相違点3-2の点で相違するものであるので、本件発明5が甲3発明であるとはいえない。 (イ)そして、甲3発明に係る容器用フェライト系ステンレス鋼板においてBを含有しないものとして、上記相違点3-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第3号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、本件発明4は、甲3発明及び甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(3-1)イ(ウ)?(カ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、本件発明5も、甲3発明及び甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3-3)小括 したがって、上記第4の2(3)に記載される異議申立理由3は理由がない。 (4)むすび 以上のとおりであるので、上記第4の2(1)?(3)に記載される異議申立理由1?3は、いずれも理由がない。 2 平成30年 3月23日付け取消理由通知書の取消理由及び平成30年 7月31日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由について (ア)本件発明1及び本件発明3?4が甲1発明であるとはいえないことは、上記1(1)(1-1)イ(ア)、1(1)(1-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明1及び本件発明3?5は、甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(1)(1-1)イ(オ)、1(1)(1-2)ア(ウ)に記載のとおりである。 (イ)本件発明4が甲2発明であるとはいえないことは、上記1(2)(2-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明4?5は、甲2発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(2)(2-2)ア(ウ)に記載のとおりである。 (ウ)本件発明4?5が甲3発明であるとはいえないことは、上記1(3)(3-1)イ(ア)、(オ)、1(3)(3-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明4?5は、甲3発明及び甲第3号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(3)(3-1)イ(カ)、1(3)(3-2)ア(イ)に記載のとおりである。 (エ)したがって、平成30年 3月23日付け取消理由通知書の取消理由及び平成30年 7月31日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由は、いずれも理由がない。 4 平成30年 7月13日付け意見書の主張について (1)平成30年 7月13日付け意見書の主張の概要 (ア)平成30年 7月13日付け意見書の主張の概要は、以下のとおりである。 (イ)本件発明4は、甲第2号証に記載の発明であるか、甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であり、本件発明5は、甲第2号証及び甲第6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である。 (ウ)本件発明4及び5は、甲第3号証に記載の発明であるか、甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である。 (2)判断 (ア)本件発明4が甲2発明であるとはいえないことは、上記1(2)(2-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明4?5は、甲2発明及び甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(2)(2-2)ア(ウ)に記載のとおりであるので、上記(1)(イ)の主張は採用できない。 (イ)本件発明4?5が甲3発明であるとはいえないことは、上記1(3)(3-1)イ(ア)、(オ)、1(3)(3-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明4?5は、甲3発明及び甲第4号証、甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(3)(3-1)イ(カ)、1(3)(3-2)ア(イ)に記載のとおりであるので、上記(1)(ウ)の主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1、3?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件請求項2に係る特許に対して異議申立人岩谷 幸祐がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.01?1.00%、Mn:0.05?1.00%、P:0.020?0.040%、S:0.030%以下、Al:0.001?0.100%、Cr:12.5?14.4%、Ni:0.01?0.80%、Ti:0.20?0.40%、Nb:0.010?0.100%およびN:0.020%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 さらに、質量%で、Mo:0.01?0.30%、Co:0.01?0.50%、およびW:0.01?0.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項4】 さらに、質量%でV:0.01?0.25%、Zr:0.01?0.30%、Mg:0.0005?0.0030%、Ca:0.0003?0.0030%、Y:0.001?0.20%、およびREM(希土類金属):0.001?0.10%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項5】 さらに、質量%でSn:0.001?0.50%およびSb:0.001?0.50%のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1、3又は4に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-11 |
出願番号 | 特願2014-240888(P2014-240888) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 113- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 守安 太郎 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
長谷山 健 金 公彦 |
登録日 | 2017-05-26 |
登録番号 | 特許第6146400号(P6146400) |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | フェライト系ステンレス鋼板 |
代理人 | 森 和弘 |
代理人 | 森 和弘 |