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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1348709 |
異議申立番号 | 異議2018-700157 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-23 |
確定日 | 2018-12-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6185203号発明「偏光板および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6185203号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6185203号の請求項1-8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6185203号の請求項1-8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年1月16日(優先権主張 平成28年1月19日)に特許出願され、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされた。 本件特許について、平成29年8月23日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である平成30年2月23日に、特許異議申立人阿部紀子から本件特許に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成30年 4月25日付け:取消理由通知書 平成30年 7月31日付け:意見書(特許権者) 平成30年 8月27日付け:取消理由通知書(決定の予告) 平成30年10月 5日付け:意見書(特許権者) 平成30年10月 5日付け:訂正請求書 (この訂正請求書による訂正の請求を、以下、「本件訂正請求」という。) 平成30年11月20日付け:意見書(特許異議申立人) 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨及び訂正の内容 (1)請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第6185203号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-8について訂正することを求める、というものである。 (2)訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「偏光板であって、」の後に「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率が、4711MPa以上4838MPa以下であり、」との記載を追加すると共に、「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上1668MPa以下」との記載を「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上748MPa以下」 に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2-8も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7において、「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、1500MPa以下である」との記載を「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、604MPa以下である」に訂正する。 請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。 2 訂正の適否 (1)特許法120条の5第4項について 特許請求の範囲の請求項1-8の引用関係からみて、本件訂正請求は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である、〔請求項1-請求項8〕ごとにされたものである。 (2)訂正事項1について ア 特許請求の範囲の請求項1についての、訂正事項1による訂正は、請求項1-8に係る発明について、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率を4711MPa以上4838MPa以下に限定し、また、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値を-1100MPa以上748MPa以下に限定する訂正である。 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 イ 訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項(同明細書の段落【0077】-【0086】、【0088】-【0090】、【0093】-【0098】参照。)の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項2について ア 特許請求の範囲の請求項7についての、訂正事項2による訂正は、請求項7及び8に係る発明について、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値を604MPa以下に限定する訂正である。 したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 イ 訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項(同明細書の段落【0077】-【0086】、【0088】-【0090】、【0093】-【0098】参照。)の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1及び訂正事項2による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 第3 当合議体が通知した取消の理由について 1 本件特許発明について 前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。 したがって、本件特許の請求項1-請求項8に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」-「本件特許発明8」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-請求項8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 偏光子と、偏光子の少なくとも片面に積層された機能層とを含む偏光板であって、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率が、4711MPa以上4838MPa以下であり、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上748MPa以下である、偏光板。 【請求項2】 機能層が保護フィルムを含む、請求項1に記載の偏光板。 【請求項3】 機能層が位相差フィルムを含む、請求項1または2に記載の偏光板。 【請求項4】 偏光子の片面に機能層が積層され、偏光子のもう片面に粘着剤層が積層されている、請求項1?3のいずれかに記載の偏光板。 【請求項5】 偏光板の片面側の表面に粘着剤層または剥離層付き粘着剤層が積層されている、請求項1?4のいずれかに記載の偏光板。 【請求項6】 粘着剤層の偏光子透過軸方向の弾性率が、50kPa以上1000kPa以下である、請求項4または5に記載の偏光板。 【請求項7】 偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、604MPa以下である、請求項1?6のいずれかに記載の偏光板。 【請求項8】 液晶セルまたは有機エレクトロルミネッセンス素子と、請求項1?7のいずれかに記載の偏光板とを含む、画像表示装置。」 2 取消の理由の概要 平成30年8月27日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由(以下、「取消の理由」という。)は、概略、(1)本件訂正請求による訂正前の請求項1及び2に係る発明は、いずれも、その優先権主張の日前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2008-7780号公報(甲第2号証:以下、「引用例」という。)に記載された発明、引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許は取り消されるべきものである、(2)本件訂正請求による訂正前の請求項3-8に係る発明は、いずれも、その優先権主張の日前に当業者が引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許は取り消されるべきものである、というものである。 3 当合議体の判断 (1)引用例の記載 取消の理由で引用された引用例(特開2008-7780号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 架橋剤により架橋されたことを特徴とするセルロースエステルフィルム。 【請求項2】 該架橋剤が、ビニルスルホン基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基、活性ハロゲン基、アルデヒド基、エチレンイミン基、活性エステル生成基から選ばれる少なくとも一種の基を有することを特徴とする請求項1記載のセルロースエステルフィルム。 【請求項3】 前記セルロースエステルフィルムが偏光板用保護フィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルム。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、セルロースエステルフィルムに関し、更に詳しくは偏光子との接着性にすぐれた偏光板保護用のセルロースエステルフィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 一般に、液晶画像表示装置の形成に用いられる偏光板は、通常偏光機能を有する二色性染料で着色し一軸延伸されたポリビニルアルコールからなる偏光子に、トリアセチルセルロースからなる偏光板用保護フィルム2枚を両側より貼り合わせることにより製造されている。 【0003】 この場合、トリアセチルセルロースフィルムと偏光膜の接着性を高めるために、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせる前に苛性ソーダのようなアルカリ水溶液に浸漬、鹸化することが行われている。 【0004】 近年、液晶画像表示装置は、カーナビゲーション、携帯電話表示装置に代表されるように外部で使用される機会が多くなり、様々な環境下での高い耐久性が強く求められている。 【0005】 しかしながら、これまでの偏光板は、ガラス基板に偏光板を貼り付ける工程の一部で偏光板が裂けてしまうという欠点があった。」 ウ 「【発明を実施するための最良の形態】 ・・・(中略)・・・ 【0020】 本発明に用いられる偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、セルロースエステルフィルムをアルカリ処理し、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。 【0021】 アルカリケン化処理とは、このときの水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に浸ける処理のことをいう。 【0022】 本発明に用いられる偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。 【0023】 これらは、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。該偏光膜の面上に偏光板用保護フィルムである透明なプラスチックフィルムが張り合わされて偏光板を形成する。【0024】 しかしながら、従来の偏光板は、基盤に偏光板を貼り付ける工程の一部で、偏光板が裂けてしまうという重大な欠点を生じることが判明した。 【0025】 本発明者らは、この原因が、偏光子と偏光板用保護フィルムの接着性の不足であることを突き止めた。本発明者らは、鋭意検討の結果、偏光子と偏光板用保護フィルムの引っ張り弾性率を近づけることにより、偏光子と偏光板の裂ける欠点が改良されることを見いだした。 【0026】 引っ張り弾性率を調整する方法としては、製造工程の最終段階で強い加熱処理を行う、引っ張り弾性率の大きいポリマーを混合する、架橋する方法等が挙げられる。 【0027】 引っ張り弾性率は、23℃相対湿度55%にて引っ張り試験器により測定しS-S曲線より求めた。引っ張り弾性率は、3.3×10^(9)?3.9×10^(9)Pa(340?400Kgf/mm^(2))が好ましく、更に好ましくは3.4×10^(9)?3.9×10^(9)Pa(345?395Kgf/mm^(2))、特に好ましくは3.4×10^(9)?3.8×10^(9)Pa(350?390Kgf/mm^(2))である。 【0028】 本発明におけるポリマーとしては、セルロースエステルフィルムとの相溶性の点からは、多糖類が挙げられ、特にキチン及びキトサンが好ましい。」 エ 「【実施例】 【0099】 以下に実施例を用いて、本発明の態様を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。 【0100】 下記の方法に従いセルロースエステルフィルム試料を作製した。 《試料1の作製》 (ドープ液の作製) 綿花リンターから合成されたセルローストリアセテート 85質量部 (酢化度61.0%) 木材パルプから合成されたセルローストリアセテート 15質量部 (酢化度61.0%) UV-2(紫外線吸収剤) 1質量部 エチルフタリルエチルグリコレート(可塑剤) 4質量部 メチレンクロライド 475質量部 エタノール 50質量部 アエロジルL200 平均粒径0.3μmに分散 2質量部 以上を密閉容器に投入し、70℃まで加熱、攪拌しながらセルローストリアセテート(TAC)を完全に溶解し、ドープ液を調製した。溶解に要した時間は、4時間であった。 【0101】 上記で調製したドープ液を濾過した後、ベルト流延装置を用い、ドープ液温度35℃で30℃のステンレスバンド支持体上に均一に流延し、110℃以下の乾燥風でフィルム中の残留溶媒量が25%になるまで溶媒を蒸発させ、次いでステンレスバンド支持体上からフィルムを剥離した。 【0102】 ドープ液の流延から剥離までに要した時間は3分であった。ステンレスバンド支持体から剥離した後、さらに多数のロールを搬送させながら50℃、90℃、120℃の乾燥ゾーンで乾燥を終了させ、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムの試料1を得た。 《試料2の作製》 乾燥終了後さらに120℃で5分間乾燥ゾーンを通した以外は、試料1と同様にして、試料2を作製した。 《試料3、試料4の作製》 セルローストリアセテート(TAC)の代わりにアセチルプロピルセルロース(イーストマンケミカル社製CAP482-0.5)に変更した以外は試料1、試料2と同様にして、それぞれ試料3、試料4を作製した。 《試料5、試料6の作製》 ドープ液の溶解、調製の際に、下記に示す冷却法を用いた以外は試料1、試料2と同様にして、それぞれ試料5、試料6を作製した。 【0103】 実施例1のドープ組成物において、溶媒としてメチレンクロライドから酢酸メチルに変更し、以下の組成物を作製した。 【0104】 エチルフタリルエチルグリコレート(可塑剤) 4質量部 酢酸メチル 475質量部 エタノール 50質量部 得られた上記組成物を-100℃に冷却後、残りのトリアセチルセルロース、UV-2、アエロジルL200を添加し、0℃から120℃に加温する過程で有機溶媒に完全に溶解した以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。 《試料7?試料14の作製》 表1に記載したように、ドープ液作製時にポリマー及び架橋剤を添加した以外は試料1と同様にして試料7から試料14を作製した。 【0105】 以上の様にして得られた試料1?試料14について、弾性率、水分率及びヘイズを測定し、得られた結果を表1に示す。なお、ヘイズは、ASTM-D1003-52に従って測定した。 【0106】 次いで、得られた各セルロースエステルフィルムを用いて以下の方法にて偏光板を作製した。 【0107】 試料1?試料14を40℃の2.5N-水酸化ナトリウム溶液に60秒間浸漬しアルカリ処理し、3分間水洗して鹸化処理層を形成し、アルカリ処理フィルムを得た。 【0108】 次に、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸してそれぞれの偏光膜を作製した。 【0109】 得られた偏光膜の両面に前記アルカリ処理済み試料フィルムを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、各々貼り合わせて偏光板試料を作製した。得られた各偏光板試料について、脆弱性試験器により脆弱度を測定した。 【0110】 得られた結果を表1に示す。なお、脆弱度は、35mm×1mの試料を作製し、23℃相対湿度55%の条件下でウエッジ・ブリトルネス・アパレイタスを用いて測定した。数値は低いほど破断強度が高いことを示している。 【0111】 【表1】 」 (2)引用発明 上記(1)によると、引用例には、試料7を用いて作製した偏光板試料に係る発明として、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。 「厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して作製した偏光膜の両面に、アルカリ処理済みセルロースエステルフィルムを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として各々貼り合わせて作製された偏光板であって、 上記アルカリ処理済みセルロースエステルフィルムは偏光板用保護フィルムであり、 上記アルカリ処理済みセルロースエステルフィルムは、綿花リンターから合成されたセルローストリアセテート(酢化度61.0%)85質量部、木材パルプから合成されたセルローストリアセテート(酢化度61.0%)15質量部、UV-2(紫外線吸収剤)1質量部、エチルフタリルエチルグリコレート(可塑剤)4質量部、メチレンクロライド475質量部、エタノール50質量部、アエロジルL200(平均粒径0.3μmに分散)2質量部、ポリマーである甲陽ケミカル社製キチンTC-L10量重量部を密閉容器に投入し、70℃まで加熱、攪拌しながらセルローストリアセテート(TAC)を完全に溶解(溶解に要した時間は4時間)し、ドープ液を調製し、調製したドープ液を濾過した後、ベルト流延装置を用い、ドープ液温度35℃で30℃のステンレスバンド支持体上に均一に流延し、110℃以下の乾燥風でフィルム中の残留溶媒量が25%になるまで溶媒を蒸発させ、次いでステンレスバンド支持体上からフィルムを剥離し(ドープ液の流延から剥離までに要した時間は3分)、ステンレスバンド支持体から剥離した後、さらに多数のロールを搬送させながら50℃、90℃、120℃の乾燥ゾーンで乾燥を終了させ、膜厚40μmで弾性率が365Kgf/mm^(2)のセルローストリアセテートフィルムを得、上記セルローストリアセテートフィルムを、40℃の2.5N-水酸化ナトリウム溶液に60秒間浸漬しアルカリ処理し、3分間水洗して鹸化処理層を形成して得られるものである、偏光板。」 (3)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して作製した偏光膜」は、本件特許発明1の「偏光子」に相当する。 (イ)引用発明において、「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」は、「偏光膜の両面に」「貼り合わ」されており、また、「偏光板用保護フィルム」であるから、「偏光板」を「保護」する機能を有するといえる。 そうすると、引用発明の「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」は、本件特許発明1の「偏光子の少なくとも片面に積層された機能層」に相当する。 イ 一致点 上記アによると、本件特許発明1と引用発明は次の点で一致する。 「偏光子と、偏光子の少なくとも片面に積層された機能層とを含む偏光板。」 ウ 相違点 他方、本件特許発明1と引用発明は次の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1では、「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率が、4711MPa以上4838MPa以下であり、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上748MPa以下である」のに対し、引用発明では、偏光膜の偏光膜透過軸方向の弾性率が定かでなく、また、偏光膜の偏光膜透過軸方向の弾性率から、アルカリ処理済みセルロースエステルフィルムの偏光膜透過軸方向の弾性率を差し引いた値が定かでない点。 エ 判断 相違点1について検討する。 引用例の【0027】には、偏光板用保護フィルムの引っ張り弾性率の好ましい範囲が、3.3×10^(9)?3.9×10^(9)Paであることが記載されている。ここで、引用発明において、偏光板用保護フィルムとして用いているのは「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」であるところ、その引っ張り弾性率が方向によらず一定であることは、その製造方法や技術常識から当業者に自明である。したがって、引用例の前記記載から、当業者は、引用発明の「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率の好ましい範囲は、3.3×10^(9)?3.9×10^(9)Paであると理解するものと認められる。なお、本件特許明細書【0019】の記載によると、本件特許発明1の「弾性率」とは、引用例における「引っ張り弾性率」と同義に解される。 また、引用例の【0025】には、偏光子と偏光用保護フィルムの引っ張り弾性率を近づけることにより、偏光子と偏光板の裂ける欠点が改良されることが記載されている。 以上によると、引用発明において、「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率を3.3×10^(9)?3.9×10^(9)Paに設定した上で、偏光膜の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率を前記「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の引っ張り弾性率に近い値に設定することは、引用例の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たこととはいえる。 しかしながら、当該構成の変更を行った引用発明において、偏光膜の偏光子透過軸方向の弾性率が、相違点1に係る本件特許発明1の「4711MPa以上4838MPa以下」を満足する場合は、偏光膜の偏光子透過軸方向の弾性率から、「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率を差し引いた値は、+811MPa以上1538MPa以下の範囲となるのであって、相違点1に係る本件特許発明1の「-1100MPa以上748MPa以下」という範囲は満足せず、また、偏光膜の偏光子透過軸方向の弾性率から、「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率を差し引いた値が、相違点1に係る本件特許発明1の「-1100MPa以上748MPa以下」という範囲を満足する場合には、偏光膜の偏光子透過軸方向の弾性率は2200MPa以上4648MPa以下の範囲となるのであって、相違点1に係る本件特許発明1の「4711MPa以上4838MPa以下」という範囲を満足しない。すなわち、「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率を好ましいとされた3.3×10^(9)?3.9×10^(9)Paの範囲に設定した引用発明が、相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備することは、物理的にあり得ない。 また、引用例の記載からは、引用発明において、「アルカリ処理済みセルロースエステルフィルム」の偏光子透過軸方向の引っ張り弾性率を、好ましいとされた3.3×10^(9)?3.9×10^(9)Paの範囲以外の値にする動機付けを見い出すことはできない。 さらに、特許異議申立人が提出した各証拠を含め、本件特許の優先権主張の日より前に、「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率が、4711MPa以上4838MPa以下であり、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上748MPa以下である」との構成を具備した偏光板、すなわち、相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備した偏光板が当業者に知られていたことを示す証拠は、見当たらない。 そうすると、引用発明において、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 オ 小括 よって、本件特許発明1は、当業者が引用発明1及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 カ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、平成30年11月20日付け意見書において、参考資料1(特開2004-20830号公報)を挙げて、本件特許発明1は、依然として、甲第2号証(特開2008-7780号公報:引用例)に記載の発明により進歩性を有しない旨主張している。 しかしながら、参考資料1には、前記相違点1に係る本件特許発明1の構成は記載されていないし、また、引用発明において、参考資料1に記載された偏光子を採用する動機付けも見出せないから、前記主張は採用できない。 (4)本件特許発明2-8について 本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項2-8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2-8は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。 そうすると、前記(3)のとおり、本件特許発明1は当業者が引用例に記載された発明及び引用例に記載された事項等に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2-8も、当業者が引用例に記載された発明及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、(1)本件訂正請求による訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証(特開2012-220764号公報)、又は甲第2号証(特開2008-7780号公報:引用例)に記載された発明である(特許法29条1項3号:新規性)、(2)本件訂正請求による訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、又は甲第3号証(特開2010-9027号公報)に記載された発明並びに甲第2号証、甲第4号証(国際公開第2011/136326号)及び甲第5号証(特開2012-247620号公報)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許法29条2項:進歩性)、旨主張している。 (2)特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正請求による訂正前の請求項2-8に係る発明についても、新規性違反又は進歩性違反の取消理由を主張している。 2 前記第3の3(3)エでも述べたように、甲第1号証ないし甲第5号証のいずれにも、「偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率が、4711MPa以上4838MPa以下であり、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上748MPa以下である」との構成を具備した偏光板は記載されていない。 3(1)前記2からすると、本件特許発明1は、甲第1号証、又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。 また、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明、又は甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項2-8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2-8は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。 そうすると、本件特許発明2-8についても、前記(1)と同様に、新規性違反又は進歩性違反があるとはいえない。 4 したがって、特許異議申立人の主張は、採用できない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、決定の予告で通知した取消の理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1-8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 偏光子と、偏光子の少なくとも片面に積層された機能層とを含む偏光板であって、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率が、4711MPa以上4838MPa以下であり、偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、-1100MPa以上748MPa以下である、偏光板。 【請求項2】 機能層が保護フィルムを含む、請求項1に記載の偏光板。 【請求項3】 機能層が位相差フィルムを含む、請求項1または2に記載の偏光板。 【請求項4】 偏光子の片面に機能層が積層され、偏光子のもう片面に粘着剤層が積層されている、請求項1?3のいずれかに記載の偏光板。 【請求項5】 偏光板の片面側の表面に粘着剤層または剥離層付き粘着剤層が積層されている、請求項1?4のいずれかに記載の偏光板。 【請求項6】 粘着剤層の偏光子透過軸方向の弾性率が、50kPa以上1000kPa以下である、請求項4または5に記載の偏光板。 【請求項7】 偏光子の偏光子透過軸方向の弾性率から、機能層の偏光子透過軸方向の弾性率を差し引いた値が、604MPa以下である、請求項1?6のいずれかに記載の偏光板。 【請求項8】 液晶セルまたは有機エレクトロルミネッセンス素子と、請求項1?7のいずれかに記載の偏光板とを含む、画像表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-13 |
出願番号 | 特願2017-4833(P2017-4833) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小西 隆、山▲崎▼ 和子 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 清水 康司 |
登録日 | 2017-08-04 |
登録番号 | 特許第6185203号(P6185203) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 偏光板および画像表示装置 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 松谷 道子 |