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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 B60C 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 B60C 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 B60C |
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管理番号 | 1348711 |
異議申立番号 | 異議2017-700649 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-26 |
確定日 | 2019-01-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6054910号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6054910号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6054910号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6054910号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年6月29日に出願した特願2012-148041号の一部を平成26年6月9日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月9日にその特許権の設定登録がされ、平成28年12月27日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。 平成29年6月26日 :特許異議申立人小林敏樹(以下、「異議申立 人」という。)による特許異議の申立て 平成29年9月21日付け :取消理由通知書 平成29年11月27日 :意見書、訂正請求書(特許権者) 平成29年12月14日付け:特許法第120条の5第5項の通知書 平成30年1月18日 :意見書(異議申立人) 平成30年3月29日付け :取消理由通知書(決定の予告) 平成30年6月1日 :意見書(特許権者) 平成30年8月2日 :上申書(特許権者) 平成30年8月30日付け :審尋(異議申立人) 平成30年10月9日 :回答書(異議申立人) 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成29年11月27日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であることを特徴とする空気入りタイヤ。」とあるのを、「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。 」に訂正する。 (2)訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0008】の「すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であることを特徴とするものである。」との記載を、「すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とするものである。」に訂正する。 (3)訂正前の請求項1?3について、請求項2及び3は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にある。 したがって、本件訂正請求のうち、特許請求の範囲の訂正(訂正事項1)は、一群の請求項1?3についてされており、また、明細書の訂正(訂正事項2)は、一群の請求項の全てについて行うものである。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的 訂正前の請求項1に係る発明では、空気入りタイヤのベルト層に関して何ら特定されていなかった。 これに対して、本件訂正後の請求項1に係る発明では、空気入りタイヤにおいて、カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であるという限定を付すものである。 また、訂正前の請求項1の「60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。」という記載の「。」を「、」と訂正するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであるといえる。 イ.新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1の、ベルト層の特定については、本件訂正前の明細書の段落【0025】及び【0027】の記載に基づくものであるといえるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 さらに、訂正事項1により、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア.訂正の目的 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。 したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。 イ.新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないといえる。 (3)小括 上記(1)及び(2)より、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1、2及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求は認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた2列の陸部をセンター陸部としたとき、全陸部に対する2列の前記ショルダー陸部の割合がそれぞれ20?35%であり、全陸部に対する2列の前記センター陸部の割合がそれぞれ15?30%である請求項1記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が25?30%である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。」 第4 取消理由の概要 訂正後の請求項1?3に係る特許に対して、当審が平成30年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。 [取消理由]本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 また、本件特許の請求項2及び3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 刊行物1:特開平7-81303号公報 刊行物2:特開平5-25327号公報 刊行物3:特開2005-8804号公報 刊行物4:特開平9-67469号公報 刊行物5:自動車用タイヤの基礎と実際 編著者:株式会社ブリヂストン 発行所:学校法人東京電機大学 東京電気大学出版局 2008年 4月10日 第1版1刷発行、 2012年12月10日 第1版4刷発行、 283頁-285頁 刊行物6:特開2002-29215号公報 刊行物7:特開2009-161112号公報 なお、刊行物1?7は、それぞれ、異議申立人による特許異議申立書での甲第1?7号証である。 第5 当審の判断 1.刊行物1の記載 刊行物1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付した。)。 (i)「【請求項1】 トレッド面の接地形状を、接地幅中心を通るタイヤ周方向の接地長を最大とし、前記接地幅中心から左右両側に向かうほど徐々に短かくなる形状にした空気入りタイヤにおいて、 前記タイヤ周方向の最大接地長Mと前記接地幅中心から左右両側へそれぞれ接地最大半幅の90%の位置におけるタイヤ周方向の接地長mとの両接地長の比m/Mを0.65?0.80にすると共に、全接地領域の全接地部溝面積率を20?50%とし、かつ接地最大幅Wの40%の幅に相当する接地中央部領域の中央部溝面積率を前記全接地部溝面積率よりも小さくした空気入りタイヤ。」 (ii)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は転がり抵抗の悪化を抑制しながら、ウェット性能を向上するようにした空気入りタイヤを提供することにある。」 (iii)「【0006】 本発明において、タイヤの接地形状とはタイヤにJATMAに規定する設計常用荷重に対応する空気圧を充填し、設計常用荷重の85%の荷重を負荷したときに、トレッド面が平坦な路面に形成する形状のことをいう。以下、図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は本発明タイヤのトレッドパターンの一例を示し、タイヤ周方向に延びる3本の主溝1とこれら主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなすブロックパターンを形成している。」 (iv)「【0008】・・・しかし、m/M=0.65?0.80にしただけでは、0.8?0.9の従来タイヤに比べてウェット性能の向上効果が十分ではないため、トレッド面の全接地部溝面積率を20?50%にすると共に、接地最大幅Wの40%に相当する中央部領域Eにおける中央部溝面積率を全接地部溝面積率よりも小さくすることにより一層の向上を可能にする。・・・」 (v)「【0009】・・・キャップトレッドゴムとして・・・ゴム組成物を使用することが望ましい。」 2.刊行物1に記載の発明 以上の記載事項、および図示内容からみて、本件発明1の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「トレッドパターン幅内に設けられた3本のタイヤ周方向に延びる主溝1と、該主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3と、該ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなす、空気入りタイヤにおいて、 キャップトレッドゴムがゴム組成物であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、前記3本の主溝1と前記副溝2とで区分された前記ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなし、トレッド面の全接地部溝面積率が20?50%である空気入りタイヤ。」 3.対比・判断 (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 (ア)後者の「空気入りタイヤ」は、前者の「空気入りタイヤ」に相当する。 (イ)後者の「トレッドパターン」は、トレッド面の接地形状のことであるから(摘記1.(i)、(iii))、前者の「トレッド接地面」に相当する。また、「タイヤ周方向に延びる主溝1」は、機能または構造からみて、前者の「周方向主溝」に相当する。そして、後者において、主溝1が3本であるということは、主溝1が複数本あるといえるから、後者の「3本のタイヤ周方向に延びる主溝1」ないし「3本の主溝」は、前者の「複数本の周方向主溝」に相当する。 (ウ)後者の「主溝1と副溝2とで区分されたブロック3」が「タイヤ周方向に4列のブロック列をなす」ことで、周方向によって区画された陸部を形成しているといえるから、後者の「ブロック列」は前者の「陸部」に相当し、したがって、後者の「該主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3と、該ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなす」は、前者の「該周方向溝によって区画された陸部と、を有する」に相当する。 (エ)キャップトレッドゴムがタイヤのトレッドを構成するものであることは当業者には明らかであるから、後者の「キャップトレッドゴムがゴム組成物であり」と前者の「前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり」とは、「前記トレッドをトレッドゴムで構成し」の限りにおいて共通する。 (オ)上記(ウ)での説示を踏まえると、後者の「前記トレッドの接地幅内が、前記3本の主溝1と前記副溝2とで区分された前記ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をな」すことは、前者の「トレッド接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有」することに相当する。 (カ)前者の「ネガティブ率」は、「トレッドの接地面幅w内の全面積に対する全溝面積(図示例においては、周方向溝1、および幅方向溝3a、3bの面積の合計)の割合」(本件の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0016】)を意味するから、後者の「トレッド面の全接地部溝面積率」は前者の「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率」に相当するところ、後者の「トレッド面の全接地部溝面積率を20?50%である」と前者の「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%である」とは、「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率を定める」の限りにおいて共通する。 (キ)そうすると、両者の一致点および相違点は次のとおりといえる。 [一致点] 「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドをトレッドゴムで構成し、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率を定める空気入りタイヤ。」 [相違点1] 「トレッドゴム」に関し、 本件発明1は、「0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であ」るのに対し、引用発明は、かかるtanδの値が特定されていない点。 [相違点2] 「ネガティブ率」に関し、 本件発明1は、「20?40%」であるのに対し、引用発明は、「20?50%」である点。 [相違点3] 本件発明1は、「カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層である」という構成を備えるものであるのに対し、引用発明はかかる構成について特定されていない点。 イ.判断 相違点1について検討する。 (ア)刊行物1の段落【0009】、刊行物2の段落【0002】、【0005】、および、刊行物5の記載内容からすれば、空気入りタイヤにおいて、転がり抵抗の低減のためには60℃でのtanδを小さく、ウェット(ブレーキ)性能向上のためには0℃でのtanδを大きくすれば良いということは、本件出願前、当業者には周知の技術事項であったといえる。 ここで、引用発明の技術的課題は、「転がり抵抗の悪化を抑制しながら、ウェット性能を向上するようにした空気入りタイヤを提供する」ことである(刊行物1の段落【0002】,【0003】、参照。)から、当業者は、上記周知の技術事項を引用発明に適用し、引用発明の課題を解決しようとする動機付けはあったといえる。 しかしながら、本件発明1は、「従来よりもウェットブレーキ性能を向上させ、かつ、転がり抵抗を低減させた空気入りタイヤを提供する」ために(本件明細書段落【0006】)、特定の測定条件下でのトレッドゴムのtanδの値を発明特定事項としている。すなわち、「トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.90以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であ」るとしている。 これに対して、刊行物1の表2、および、刊行物2の【表2】には、60℃でのtanδが0.12に近似した値が示されており、刊行物3の【表1】、および、刊行物4の表I、表IIには、0℃でのtanδが1.00に近似した値が示されているものの、いずれも、0℃でのtanδが1.00以上であり、60℃でのtanδが0.12以下というものではないし、しかも、トレッドゴムの測定条件を周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件としたものではない。 したがって、引用発明に、刊行物1?5に記載の技術事項を適用しても相違点1に係る本件発明1の構成に達し得ない (イ)ここで、ゴムのtanδを測定する条件として、ゴムを使用するタイヤの実際の走行状態を見据えた条件を設定することが通常であり(特開2011-89788号公報の段落【0003】)、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%という測定条件が本件出願前当業者によって既に採用されていた測定条件であったとしても(特開2011-190329号公報の段落【0057】、特開2009-91410号公報の段落【0055】、特開2009-91409号公報の段落【0053】、特開2011-140258号公報の段落【0054】、特開2011-84222号公報の段落【0055】、特開2010-270175号公報の段落【0177】)、ゴムのtanδの値が測定条件(周波数、歪)によって大きく変わるものであるという当業者における技術的知見(「新版 ゴム技術の基礎」(社団法人日本ゴム協会編 平成11年4月30日発行)第77頁の式(4.64及び4.65)、第82頁の図4.14、第84頁の図4.16、特開2004-115751号公報の【図2】、【図4】、特開2007-130781号公報の【図2】)からすれば、刊行物1?4には、トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.90以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であるとするものが示唆されているともいえない。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、刊行物1?5に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるともいえない。 なお、刊行物6にも、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。 (ウ)以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1に記載の発明および刊行物1?6に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み更に限定構成を付加するものものであるから、本件発明2及び3と引用発明1との間には、少なくとも、上記(1)ア.の相違点1?3が存在する。 そうすると、上記(1)イ.で述べたように、相違点1に係る本件発明1の構成が刊行物1に記載の発明及び刊行物1?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないし、刊行物7にも相違点1に係る本件発明1の構成が記載も示唆もされていない以上、本件発明2及び3は、刊行物1に記載の発明及び刊行物1?7に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によっては、本件請求項1?3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 空気入りタイヤ 【技術分野】 【0001】 本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、従来よりもウェットブレーキ性能を向上させ、かつ、転がり抵抗を低減させた空気入りタイヤに関する。 【背景技術】 【0002】 従来より、空気入りタイヤにおいては、安全性の向上を目的として、湿潤路面での駆動性および制動性であるウェット性能の向上させることができる種々のトレッドパターンが提案されている。例えば、特許文献1には、トレッドに第1周方向溝、およびトレッドが接地して圧縮変形した際に溝壁同士が接触する第1細溝を形成してセンターリブを区画し、第1細溝のタイヤ幅方向外側に第2周方向溝および、第1細溝から第2周方向溝に延びるセンターラグ溝をそれぞれ形成してセンターブロックを区画し、センターブロック表面に一方の壁面から他方の壁面に向かいタイヤ周方向に延びブロック内で終端する第1サイプ、および他方の壁面から一方の壁面に向かいタイヤ周方向に延び途中で曲がり壁面に開口し、平面視で第1サイプと交差しない第2サイプを有するタイヤが提案されている。 【0003】 また、昨今の環境問題への関心の高まりに伴う世界的な二酸化炭素排出規制の動きに関連して、自動車の低燃費化に対する要求も強まりつつある。このような要求に対応するため、転がり抵抗の低減が求められている。このような要求に応えるため、トレッドを構成するトレッドゴムの改良についても、検討が進められている。例えば、特許文献2には、トレッドゴムの0℃付近、30℃付近、および60℃付近におけるtanδを所定の範囲に制御し、タイヤのウェット性能の向上、および転がり抵抗を低減を実現したゴム組成物が提案されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2010-23549号公報 【特許文献2】特開2006-274049号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、今日の市場においては、湿潤路面におけるブレーキ性能(安全性能)のさらなる向上や、転がり抵抗のさらなる低減(燃費性能の向上)が求められており、特許文献1で提案されているトレッドパターンや、および特許文献2で提案されているゴム組成物では、必ずしも満足できるものではなくなりつつあり、さらなる改良が求められているのが現状である。 【0006】 そこで本発明の目的は、従来よりもウェットブレーキ性能を向上させ、かつ、転がり抵抗を低減させた空気入りタイヤを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、所定のトレッドゴムを用いることにより、転がり抵抗の低減およびウェットブレーキ性能の向上を実現し、かつ、適切なトレッドパターンとすることにより、排水性能、接地面積、および接地状態を確保し、これにより、従来よりも高次元でウェットブレーキ性の向上および転がり抵抗の低減を両立させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0008】 すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とするものである。 【0009】 ここで、接地面幅とは、タイヤをJATMA YEAR BOOK(2008年度版、日本自動車タイヤ協会規格)に規定されている標準リムに装着し、JATMA YEAR BOOKでの適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力(内圧-負荷能力対応表の太字荷重)に対応する空気圧(最大空気圧)の100%の内圧を充填し、最大負荷能力の80%を負荷したときのタイヤ幅方向最外の接地部分を指す。使用地又は製造地において、TRA規格、ETRTO規格が適用される場合は各々の規格に従う。また、ネガティブ率とは、接地面幅内の全面積に対する全溝面積の割合である。 【0010】 本発明の空気入りタイヤにおいては、トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた2列の陸部をセンター陸部としたとき、全陸部に対する2列の前記ショルダー陸部の割合がそれぞれ20?35%であり、全陸部に対する2列の前記センター陸部の割合がそれぞれ15?30%であることが好ましい。また、本発明の空気入りタイヤにおいては、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が25?30%であることが好ましい。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、従来よりもウェットブレーキ性能を向上させ、かつ、転がり抵抗を低減させた空気入りタイヤを提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】本発明の一好適な実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッドパターンの部分展開図である。 【図2】本発明の一好適な実施の形態に係る空気入りタイヤの幅方向断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。 図1は、本発明の一好適な実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッドパターンの部分展開図であり、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅w内に設けられた3本の周方向溝1と、周方向溝1によって区画された4列の陸部と、を有する。図示例においては、トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部2a、2d、ショルダー陸部2a、2dに挟まれた2列の陸部をセンター陸部2b、2cとしたとき、各ショルダー陸部2a、2dには、それぞれトレッド幅方向に延びる幅方向溝3a、3bが設けられている。 【0014】 図示例においては、ショルダー陸部2aに設けられた幅方向溝3aは、緩やかな湾曲を有する曲線形状であり、ショルダー陸部2dに設けられた幅方向溝3bは、トレッド幅方向に対して傾斜を有する直線状の溝と略トレッド幅方向に延びる直線とが交わった形状を有しているが、本発明のタイヤにおいては、幅方向溝の形状はこれに限られるものではない。また、図示例においては、センター陸部2bには、両側部を結ぶ曲線状のサイプ4aが、センター陸部2cには両側部を結ぶ直線状のサイプ4bが、それぞれ設けられている。 【0015】 本発明の空気入りタイヤにおいては、トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδは0.90以上である。0℃におけるtanδが0.9以上のトレッドゴムを用いることで、優れたウェットブレーキ性能を得ることができる。好適には1.0以上である。また、本発明の空気入りタイヤにおいては、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下である。60℃におけるtanδが0.12以下のトレッドゴムを用いることで、優れた転がり抵抗を得ることができる。好適には0.10以下である。なお、トレッドゴムのtanδは、常法に従い適宜調整することができ、例えばゴム組成物中の樹脂、カーボンブラック、シリカ等の量を増減させることにより適宜調整することができる。なお、トレッドゴムの組成については、後に説明する。 【0016】 また、本発明の空気入りタイヤにおいては、トレッドの接地面幅w内の全面積に対する全溝面積(図示例においては、周方向溝1、および幅方向溝3a、3bの面積の合計)の割合であるネガティブ率が20?40%、好適には25?30%である。ネガティブ率を20?40%の範囲とすることで、湿潤路面におけるブレーキ性能および転がり抵抗を維持しつつ、排水性能を確保することができる。すなわち、ネガティブ率が20%未満になると、湿潤路面での排水性能を十分に得ることができず、ウェットブレーキ性能が低下してしまう。また、ネガティブ率が20%未満であると、接地面幅w内における陸部2の占める割合が多くなるため、転がり抵抗が大きくなってしまう。さらに、接地面幅w内における陸部2の割合が多くなるとタイヤ重量が増加してしまい、これもまた、転がり抵抗を悪化させる要因となる。一方、ネガティブ率が40%を超えると、接地面幅w内における陸部2の割合が小さすぎるため、ウェットブレーキ性能が低下してしまう。 【0017】 本発明の空気入りタイヤにおいては、図示するように、周方向溝1を3本、陸部2を4列とし、トレッド幅方向両外側の2列の陸部2をショルダー陸部2a、2d、ショルダー陸部2a、2dに挟まれた2列の陸部2をセンター陸部2b、2cとしたとき、全陸部に対する2列のショルダー陸部2a、2dの割合がそれぞれ20?35%であり、全陸部に対する2列のセンター陸部2b、2cの割合がそれぞれ15?30%であることが好ましい。 【0018】 2列のショルダー陸部2a、2d、および2列のセンター陸部2b、2cの割合を上記範囲とすることで、各陸部2a、2b、2c、2dの剛性を均一化して、接地圧を均一にすることができ、また、ブレーキをかけずに転がすフリーロール時の局所的な抵抗を減らすことができるため、転がり抵抗をより小さくすることができる。さらに、ブレーキ力を各陸部で均等にすることができるため、ウェットブレーキ性能をより向上させることができる。かかる効果をより良好に得るためには、全陸部に対する2列のショルダー陸部2a、2dの割合がそれぞれ26?27%であり、全陸部に対する2列のセンター陸部2b、2cの割合がそれぞれ23?24%であることが好ましい。 【0019】 また、本発明の空気入りタイヤにおいては、センター陸部2b,2cの少なくとも一方に、両側部を結ぶサイプであって、このサイプの両端部を結ぶ直線とトレッド幅方向とがなす角をθとしたとき、θが16?24°の範囲となるサイプ(図示例においてはサイプ4b)を有することが好ましい。かかる構成とすることにより、蹴り出し時に、接地面幅w内の水膜を掻き出すことができるため、湿潤路面走行時におけるウェットブレーキ性能を、良好に向上させることができる。なお、本発明のタイヤにおいては、ショルダー陸部2a、2dにもサイプを設けてもよく、この場合は、ショルダー陸部2a、2bの両側部に開口を有していてもよく、一方のみに開口を有していてもよい。 【0020】 次に、本発明の空気入りタイヤのトレッドゴムについて説明する。 上述の通り、本発明の空気入りタイヤのトレッドゴムは、トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.90以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下である。かかる物性を満足することで、ウェットブレーキ性能の向上、および転がり抵抗の低減を実現することができる。前述のとおり、トレッドゴムのtanδは、ゴム組成物中の樹脂、カーボンブラックおよびシリカ等の量を調整することにより適宜調整することができる。例えば、tanδの値を大きくしたい場合は、ゴム組成物中のカーボンブラックおよびシリカの量を多くすればよく、tanδの値を小さくしたい場合は、カーボンブラックおよびシリカの量を少なくすればよい。 【0021】 本発明の空気入りタイヤにおいては、トレッドゴムのゴム成分としては、具体的には、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、天然ゴム(NR)や、スチレン・イソプレン共重合体ゴム(SIR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、およびエチレン・プロピレン共重合体等の合成ゴムを用いることができる。 【0022】 また、本発明の空気入りタイヤにおいては、カーボンブラックとしては、特に制限されるものではないが、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等を用いることができ、中でも特に、ヨウ素吸着量(IA)が60mg/g以上でかつ、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以上のものが好適である。カーボンブラックをトレッドゴムに配合することでゴム組成物の諸物性を改善することができるが、耐摩耗性の観点からはHAF、ISAF、SAFグレードのものがより好ましい。本発明のタイヤにおいては、カーボンブラックの配合量としては、ゴム成分100質量部に対して0?50質量部であることが好ましい。また、シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、破壊特性の改良効果とウェット性能及び転がり抵抗性との両立に優れる点で、湿式シリカが好ましい。なお、シリカを用いる場合、その補強性をさらに向上させる観点から、配合時にシランカップリング剤を添加することが好ましい。かかるシランカップリング剤としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトメチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N、N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられ、これらの中でも、補強性改善効果の観点から、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドおよび3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドが好ましい。これらシランカップリング剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、本発明のタイヤでは、シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して0?50質量部であることが好ましい。 【0023】 本発明の空気入りタイヤにおいては、トレッドゴムには、一般的なゴム用架橋系を用いることができ、架橋剤と加硫促進剤とを組み合わせて用いることが好ましい。また、上記のほか、例えば、軟化剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤等のゴム業界で通常用いられる添加剤を、本発明の目的を害しない範囲で適宜選択して配合することができる。例えば、架橋剤は、ゴム成分100質量部に対して硫黄分として0.1?10質量部の範囲が好ましく、1?5質量部の範囲がより好ましい。また、加硫促進剤は、ゴム成分100質量部に対して0.1?5質量部の範囲が好ましく、0.2?3質量部の範囲がより好ましい。軟化剤を添加する場合は、ゴム成分100質量部に対して0?30質量部とすることができる。 【0024】 本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地幅w内に設けられた複数本の周方向主溝1と、周方向溝1によって区画された陸部2と、を有し、トレッドの接地面幅w内におけるネガティブ率が20?40%であり、かつ、トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.90以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であることのみが重要であって、その他の部材の構造や材質については、特に制限されるものではない。 【0025】 図2は、本発明の一好適な実施の形態に係る空気入りタイヤの幅方向断面図である。図示するタイヤは、ビードコア11が埋設された左右一対のビード部21および一対のサイドウォール部22と、両サイドウォール部22に連なるトレッド部23とを有し、左右一対のビードコア11間にまたがってトロイド状に延在して、これら各部を補強する1枚のカーカスプライ12を備えている。また、カーカスプライ12のクラウン部のタイヤ径方向外側には、タイヤ周方向に対し傾斜して配列された補強コードのゴム引き層よりなる2層のベルト層13a,13bと、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き層よりなるベルト補強層であるキャップ層14とレイヤー層15と、が配置されている。 【0026】 なお、図2に示す例では、カーカスプライ12は、1枚であるが、本発明において、カーカスプライ12の枚数はこれに限られるものではなく、2枚以上であってもよい。また、その構造も特に限定されるものではない。ビード部21におけるカーカスプライ12の係止構造についても、図示するようにビードコア11の周りに巻き上げて係止した構造に限られず、カーカスプライ12の端部を2層のビードコア11で挟み込んだ構造でもよい(図示せず)。 【0027】 また、ベルト層13a,13bは、タイヤ周方向に対し、例えば、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなる。図示する例では、2層のベルト層13a,13bが、各ベルト層を構成するコード同士がタイヤ赤道面を挟んで互いに交差するように積層されて交錯層を構成しているが、本発明においては、少なくとも1層のベルト層が配置されているものであればよく、図示する例に限られるものではない。 【0028】 さらに、本発明に係るベルト補強層は、図示する例では、ベルト層13a、13bの全幅以上にわたり配置されるキャップ層14と、ベルト層13a、13bの両端部を覆う領域に配置されるレイヤー層15とからなるが、これには限られず、キャップ層14またはレイヤー層15のみ、または、2層以上のキャップ層14および/または2層以上のレイヤー層15の組み合わせであってもよい。かかるベルト補強層は、例えば、複数本の有機繊維コードを引き揃えてゴム被覆してなる一定幅のストリップを、タイヤ周方向に螺旋巻きすることで形成することができる。 【0029】 さらに、図示はしないが、本発明において、タイヤの最内層には通常インナーライナーが配置され、トレッド表面には、上記ネガティブ率の範囲を満足するトレッドパターンが適宜形成される。さらにまた、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。 【実施例】 【0030】 以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。 <実施例1?7、参考例および比較例1?5> 図2に示すタイプの空気入りタイヤを、タイヤサイズ195/65R15にて作製した。タイヤのトレッドのパターンは図1に示すタイプである。トレッドゴムは、表1に示す配合に従い、0℃および60℃におけるtanδの値が表2、3に示す値となるように、カーボンブラック、シリカおよびシランカップリング剤の添加量を同表の範囲で適宜増減させて調整した。また、各供試タイヤのネガティブ率が、表2および3に示す値になるように、各供試タイヤの周方向溝1の幅を調整した。全陸部に占める両ショルダー陸部2a、2dの割合は、それぞれ26.0%とし、2列のセンター陸部2b、2cの割合はそれぞれ24.0%とした。 【0031】 得られた各供試タイヤを、6.0J×15のリムに組み付けて、内圧を180kPa、タイヤの最大負荷能力の0.8倍の荷重条件で、下記の手順に従い転がり抵抗およびウェットブレーキ性能について評価した。なお、センター陸部2cに設けられたサイプ4bのタイヤ幅方向に対する角度は20°とした。 【0032】 【表1】 【0033】 <tanδの測定> レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件で、0℃および60℃におけるtanδを測定した。 【0034】 <転がり抵抗> リムに組み付けた上記タイヤを、外径1.7mのドラム上に設置してドラムを回転させ、回転速度を120km/時まで上昇させた後、ドラムを惰行させて、回転速度80km/時のときの慣性モーメントを算出し、下記式に基づき評価した。結果は、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、良好である。 指数値=[(供試タイヤの慣性モーメント)/(実施例1のタイヤの慣性モーメント)]×100 得られた結果を表2および表3に併記する。 【0035】 <ウェットブレーキ性能> 各供試タイヤを実車に装着して、実車走行を行い、ドライバーのフィーリングによるフィーリング試験にて湿潤路面でのブレーキ性能を評価した。得られた結果は実施例1を100として指数にて表2および表3に併記した。この値が大きいほど、ウェットブレーキ性能が優れている。 【0036】 【表2】 【0037】 【表3】 【0038】 上記表2および3より、本発明の空気入りタイヤは、ウェットブレーキ性能が向上し、かつ、転がり抵抗が低下していることがわかる。 【符号の説明】 【0039】 1 周方向溝 2a、2b、2c、2d 陸部 3a、3b 幅方向溝 4a、4b サイプ 10 空気入りタイヤ 11 ビードコア 12 カーカスプライ 13a、13b ベルト層 14 キャップ層 15 レイヤー層 21 ビード部 22 サイドウォール部 23 トレッド部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20?40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15?40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた2列の陸部をセンター陸部としたとき、全陸部に対する2列の前記ショルダー陸部の割合がそれぞれ20?35%であり、全陸部に対する2列の前記センター陸部の割合がそれぞれ15?30%である請求項1記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が25?30%である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-17 |
出願番号 | 特願2014-118931(P2014-118931) |
審決分類 |
P
1
651・
851-
YAA
(B60C)
P 1 651・ 852- YAA (B60C) P 1 651・ 853- YAA (B60C) P 1 651・ 121- YAA (B60C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 倉田 和博、平野 貴也 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
氏原 康宏 尾崎 和寛 |
登録日 | 2016-12-09 |
登録番号 | 特許第6054910号(P6054910) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 本多 一郎 |
代理人 | 本多 一郎 |