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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1348713
異議申立番号 異議2017-700926  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-29 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6105922号発明「非発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6105922号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6105922号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6105922号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年12月26日に特許出願され、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年3月29日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1ないし5に係る発明の特許について、平成29年9月29日に特許異議申立人古藤弘一郎により特許異議の申立てがされ、平成30年1月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成30年4月3日に特許権者より意見書の提出がされ、平成30年7月4日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内の平成30年8月23日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年10月9日に特許異議申立人古藤弘一郎から意見書の提出がされた後、平成30年11月1日に特許異議申立人古藤弘一郎から上申書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否の判断
1 平成30年8月23日の訂正の請求の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求めるものであり、訂正の内容は以下のとおりである(なお、下線は、訂正箇所を示すものである。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記煮沸工程後、糖溶液を10℃以下に冷却した後、又は糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」と記載されているのを、「前記煮沸工程後、糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記煮沸工程後の糖溶液中の銅イオン濃度が450ppb以下である」と記載されているのを、「前記煮沸工程後の糖溶液中の銅イオン濃度が450ppb以下であり、糖溶液のpHの4.0未満への調整を10℃を超える温度で行う」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正の目的について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明が、「(前記煮沸工程後、)糖溶液を10℃以下に冷却した後、又は糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」と択一的に記載されていたもののうち、「糖溶液を10℃以下に冷却した後」の選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明が、「pHを4.0未満に調整する」温度について特定していなかったものを、「10℃を超える温度で行う」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
ア 訂正事項1は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2については、以下のとおりである。
本件特許明細書には、「[pH調整工程]
本発明においては、煮沸工程後、糖溶液を10℃以下に冷却した後、又は糖溶液を銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整することが好ましい。一般に、銅を含む容器から、pH4.0未満の糖溶液に銅イオンが溶出するのは、糖溶液の温度が10℃を越えるとき、及び糖溶液が実際に銅と接触しているときである。このため、煮沸工程後、糖溶液を10℃以下に冷却した後、又は糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後にpHを4.0未満に調整することにより、銅イオンの溶出を抑制して、DMTSの生成を防止しつつ、非発酵ビールテイスト飲料のpHを適切な範囲に調製することができる。」(【0011】)と記載されている。そして、訂正後の請求項2が引用する訂正後の請求項1が「銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」と特定していることから、請求項2に係る発明は、「銅を含まない容器」で、「pHを4.0未満に調整する」ものであって、「銅を含まない容器」であれば「10℃を超える温度で行」ってよいことは明らかであり、訂正事項2は、その温度について特定するものであって、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) さらに、訂正事項1、2は、訂正前に引用関係を有する請求項1?5に対して、請求されたものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されている。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
非発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する煮沸工程を有し、
前記煮沸工程後、糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記煮沸工程後の糖溶液中の銅イオン濃度が450ppb以下であり、糖溶液のpHの4.0未満への調整を10℃を超える温度で行う請求項1に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記煮沸工程後に、糖溶液をろ過するろ過工程を有する請求項1又は2に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ろ過工程後の糖溶液中の銅イオン濃度が60ppb以下である請求項3に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
前記ろ過工程後の糖溶液中のジメチルトリスルフィド(DMTS)の濃度が50ppt以下である請求項3又は4に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。」

第4 取消理由について
1 平成30年7月4日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。なお、上記取消理由は本件特許異議の申立てにおいて申立てられたすべての申立理由を含んでいる。
(取消理由)
本件発明1?5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第8?11号証に記載された周知慣用技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2011/145671号
甲第2号証:2017年9月7日付けの実験報告書
甲第3号証:Toshiya Furusawa、「THE FORMATION AND REACTIONS OF SULPHUR COMPOUNDS DURING DISTILLATION」、1996年2月、表紙、奥付、略語、目次、要約、P.34、35、52?56、127、128
甲第4号証:長嶺敬外4名、「大麦の種子・麦芽の機能性成分含量の品種間差異と製麦による変化」、栃木県農業試験場研究報告、2008年、第63号、p.69-75
甲第5号証:「中学理科の学習 SCIENCE」のウェブページのプリントアウト、2017年、[2017年9月21日検索]<URL:https://science.005net.com/yoten/3_acid.php>
甲第6号証:「新・銅と衛生」、社団法人日本銅センター、平成17年2月10日、表紙、奥付、p.34、35、44
甲第7号証:加藤喜徳外1名、「銅試験板による酸性雨影響調査 -銅の腐食と酸性雨による溶解-」、横浜市環境科学研究所報、1998年、第22号、p.27-35
甲第8号証:MICHAEL J.LEWIS外1名、「BREWING Second Edition」、Kluwer Academic/Plenum Publishers、2002年、表紙、目次、奥付、p.271-272甲第9号証:松山茂助、「麦酒醸造学」、東洋経済新報社、昭和45年5月1日、表紙、目次、奥付、p.36-41、P.294-295、312
甲第10号証:Von H.-J.Berger、Brauwelt Jg.115、1975年、No.20、15、Mai、p.661-665
甲第10号証の1:甲第10号証のScifinderによる検索結果のプリントアウト<URL:https://scifinder.cas.org/scifinder/view/link_v1/reference.html?l=BmxxGlm8wGqrJb7uwWl7R_fJOF6sqmVimgT3UWh4Eny13njhULktQ>
甲第11号証:WOLFGANG KUNZE、「TECHNOLOGY BREWING AND MALTING」、VLB Berlin、1999年、表紙、目次、奥付、p.257、383
甲第12号証:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、表紙、目次、奥付、p.230、240、247
甲第13号証:Manfred Moll、「BEERS & COOLERS」、Lavoisier Publishing Inc.、1994年、表紙、目次、奥付、p.152
以下、各証拠を証拠番号に従って「甲1」などという。

第5 取消理由(29条2項)についての検討
1 甲各号証に記載された事項及び発明
(1) 甲1
ア 甲1に記載された事項
(ア) 「発明が解決しようとする課題
[0006] 特許文献1及び2に記載の技術は、酵母細胞壁由来可溶性画分、カルノシン酸、カルノソールという特殊な物質を用いることを必要とする。また、当該物質の飲料の香味等に対する影響も懸念される。
[0007] 従って、ビールテイスト飲料における泡品質の改善が切望されている。」
(イ) 「[0022] (ビールテイスト飲料)
本明細書における『ビールテイスト飲料』とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。本発明は、この飲料の内の、低アルコール又はノンアルコールタイプのものに向けられ、そのアルコール度数は、1.0%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.005%以下であり、さらにより好ましくは、アルコールを含まない。ここで、アルコールを含まない本発明の飲料(ノンアルコール飲料)は、検出できない程度の極く微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。アルコール度数が四捨五入により0.0%となる飲料、中でも、アルコール度数が四捨五入により0.00%となる飲料は、本発明のノンアルコール飲料に包含される。本発明のビールテイスト飲料の種類としては、例えば、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料などが含まれる。」
(ウ) 「[0032] (ビールテイスト飲料の製造)
本発明のビールテイスト飲料は、当業者に知られる通常の方法で製造することができる。すなわち、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料を、仕込釜又は仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、必要に応じてホップなどを加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。
[0033] 低アルコール飲料の場合には、次いで酵母を添加して発酵を行なわせ、ろ過機などで酵母を取り除いて製造することができる。発酵条件は、知られている条件を用いればよい。必要であれば、膜処理や希釈などの公知の方法によりアルコール濃度を低減させる。あるいは、発酵工程を経る代わりに、スピリッツなどアルコール分を有する原料を添加してもよい。更に、貯蔵、必要により炭酸ガス添加、濾過、容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、低アルコールビールテイスト飲料を得ることができる。
[0034] 一方、ノンアルコール飲料の場合、アルコールが生成しない非発酵性の方法によって飲料を製造することが好ましい。例えば、発酵工程を経ることなく、上記固形分除去工程に次いで、貯蔵、炭酸ガス添加、濾過、容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料を得ることができる。
[0035] この製造方法においては、得られたビールテイスト飲料中の麦由来エキス分の総量が0.1?2重量%、好ましくは0.2?2重量%、より好ましくは0.2?1.3重量%、より好ましくは0.25?1.3重量%、より好ましくは0.3?1.3重量%、より好ましくは0.35?1重量%であることが重要であり、その量は、製造工程のいずれにおいて調節しても良い。
[0036] また、この製造方法においては、得られたビールテイスト飲料中の麦芽由来エキス分の総量を0.1?2重量%、好ましくは0.2?2重量%、より好ましくは0.2?1.3重量%、より好ましくは0.25?1.3重量%、より好ましくは0.3?1.3重量%、より好ましくは0.35?1重量%に調節してもよい。その量は、製造工程のいずれにおいて調節しても良い。」
(エ) 「[0052] 実施例1
<ノンアルコールビールテイスト飲料の製造>
麦由来のエキス分の総量が所望の範囲内にある、本発明のビールテイスト飲料(飲料1?7)、及び麦由来のエキス分の総量が所望の範囲外であるビールテイスト飲料(比較例1?3)を、以下の方法により製造した。飲料1?4については、麦芽20kg(全麦芽のうち色麦芽であるカラメル麦芽の占める割合が60重量%)を用い、また、飲料5?7、及び比較例1?4については、麦芽20kg(全麦芽のうち色麦芽であるカラメル麦芽の占める割合が50重量%)を用いた。
[0053] 麦芽を適当な粒度に粉砕したものを仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作った。50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃?72℃で60分間、糖化を行った。糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得た。
[0054] 得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の量が目標とする値になるよう調節した。製造スケールを100Lとし、ホップを約100g添加し、100℃で80分間煮沸をした。煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却後、酸化防止剤、香料、酸味料(pHが4未満となる量を添加)、甘味料、必要によりカラメル色素を各々適量加えて約24時間貯蔵した。その間、炭酸ガスを適量添加した。その後、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、本発明のビールテイスト飲料1?7を得た。このうち、飲料3及び4、或いは飲料5及び6は、同じ方法により得られた異なるバッチである。また、比較例1?3の三つの飲料は、同じ方法により得られた異なるバッチである。」
イ 甲1に記載された発明
上記記載事項(ア)?(エ)の事項を総合し、実施例1のノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法に着目すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「麦芽20kg(全麦芽のうち色麦芽であるカラメル麦芽の占める割合が60重量%)を用い、麦芽を適当な粒度に粉砕したものを仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作り、50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃?72℃で60分間、糖化を行い、糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得、得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の量が目標とする値になるよう調節し、製造スケールを100Lとし、ホップを約100g添加し、100℃で80分間煮沸をし、煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却後、酸化防止剤、香料、酸味料(pHが4未満となる量を添加)、甘味料、必要によりカラメル色素を各々適量加えて約24時間貯蔵し、その間、炭酸ガスを適量添加し、その後、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経る、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(2) 甲3
ア 甲3に記載された事項
(ア)

(55ページ)
(イ)

(128ページ)
イ 上記(イ)によると、ジメチルトリスルフィド(以下「DMTS」という。)について、(第2)銅イオンの存在下で含硫化合物であるメチオニンからメチオナールが生成され、次いでDMTSが生成される経路が示されている。
また、上記(ア)によると、(第2)銅イオン濃度が高いほどDMTSの発生量が増えることが示されている。
(3) 甲4に記載された事項

(72ページ)
(4) 甲8に記載された事項
「15.5KETTLE BOIL
Boiling wort in a kettle has indubitably been a part of brewing technology since early times, though when it was introduced is not clear. Until comparatively recent times boiling was done with external sources of heat. Copper was (and still is) the preferred metal of construction for such kettles because it has a high thermal conductivity compared with stainless steel.」(271ページ下から7行?下から1行。翻訳:15.5 煮沸容器での煮沸
煮沸容器中での麦汁の煮沸は、いつ導入されたかは明確ではないが、昔から間違いなくビール醸造技術の一部であった。比較的最近まで、煮沸は外部の熱源によって行われていた。ステンレス鋼よりも高い熱伝導性を有するため、銅はそのような煮沸容器を製造するための好ましい金属であった(そして現在もそうである)。)
(5) 甲9に記載された事項
ア 「麦汁釜 濾過した麦汁を収容し、加熱煮沸するのに使用する鉄製または銅製の釜である。」(294ページ7?8行)
イ 「煮沸凝集物の生成 麦汁中の凝固性蛋白質は加熱によって次第に凝固し、初めは微細な凝固物であるが、漸次集結して、凝集物あるいは凝塊となる。これをブルッフ(Bruch)という。・・・ブルッフ生成に最適な麦汁酸度は、およそpH5.2である。」(312ページ17?24行)
(6) 甲10に記載された事項


(翻訳:銅製煮沸容器の腐食に対する洗浄剤の影響)


(661ページ)

(7) 甲10の1に記載された事項
「Effect of cleaning agents on corrosion of copper boiling vessels
By: Berger,Hans Juergen
Increased corrosion was obsd. recently in Cu vessels. Corrosion tests were carried out in the lab. by using com. cleaning agents. These solns. removed 0.6-0.8 g Cu/m2-hr. When cleaning Cu, cleaning agents giving the min. oxide formation are recommended. Otherwise, Cu ions(1)increase formation of diacetyl in beer(2)are responsible for protein turbidity(3)cause spoilage of rubber beer hoses. Effluent levels of under 1-2 mg Cu/l. are required.」(スクリーンショットの中段。翻訳:銅製煮沸容器の腐食に対する洗浄剤の影響
近年銅製容器において増加した腐食が観察された。市販の洗浄剤を用いて研究室にて腐食テストを実施した。これらの溶液は0.6?0.8gCu/m2-hrを除去した。Cuを洗浄する場合、洗浄剤としては最低限の酸化物形成をもたらすものが推奨される。さもなければ、Cuイオンが(1)ビール中のジアセチルの形成を増加し、(2)タンパク質濁りの原因となり、(3)ビールのゴムホースの損傷を引き起こす。1?2mgCu/lの排水レベルが求められる。)
(8) 甲11に記載された事項
ア 「3.4.1.7 Wort acidification
The wort becomes slightly more acidic since the melanoidins formed on boiling are acidic and the hops also contribute some acid.
■ The pH of unboiled wort is about 5.8 to 5.9.
■ The pH of cast wort is about 5.5 to 5.6. 」(257ページ「3.4.1.7」の項。翻訳:3.4.1.7 麦汁(wort)の酸化
煮沸によって形成されるメラノイジン酸性であり、ホップもいくらかの酸の一因となるため、麦汁はわずかにより酸性となる。
■煮沸を行っていない麦汁のpHは約5.8?5.9である。
■煮沸を経た麦汁(cast wort)のpHは約5.5?5.6である。)
イ 「3.6.3 Vessel material
The conventional material for brewhouse vessls is copper. For hundreds of years the copper brewhouse has been the brewers pride. If possible located on the main street, the brewhouse was exhibited through a large show window to the passing citizens ant thereby made a very impressive advertisement for the brewery.」(383ページ「3.6.3」の項。翻訳:ビール醸造所の容器の伝統的な材料は銅である。数百年の間、銅を用いた醸造所は醸造化の誇りであった。可能であればメインストリートに位置し、大きなショーウィンドーを通して通行する市民に醸造所は展示され、それにより醸造所の非常に印象的な宣伝を行っていた。)
(9) 甲12に記載された事項
「b)麦汁のpHは、仮性最終発酵度と糖化時間に影響する。
pH 6.08 5.86 5.64 5.42 5.19
最終発酵度%72.7 76.5 77.0 77.4 69.9
糖化時間 分 30 20-25 10-15 15-20 30
(Tech.Wurz. s. 124)
β-アミラーゼの最適pH5.4-5.6、αアミラーゼ最適pHは5.6-5.8であるが実際にはpH5.6-5.4であることが望ましい。
マイシェのpHは5.85より酸麦芽または乳酸でpH5.40に低下させると取り切り麦汁えのpHはpH5.78に煮沸により5.56に低下し、発酵により更に低下しビールでは4.38となる。」(229ページ)
(10) 甲13に記載された事項
ア 「3.4.10 pH DECREASE DURING WORT BOILING
The desired pH value for pure malt worts(end of boiling) is about 5.4 and for worts made using adjuncts about 5.2.
The pH decreases during boiling is about 0.2 units and is caused by the calcium and magnesium ions, the residual alkalinity, the formation of Maillard reaction products and the addition of bittering substances.Methods for pH crrection are described in §2.4.5」(152ページ「3.4.10」の項。翻訳:3.4.10 麦汁(wort)の煮沸中のpH減少
ピュアモルトの麦汁にとって望ましいpH値(煮沸後)は、約5.4であり、添加物を用いて製造した麦汁にとって望ましいpH値は約5.2である。
煮沸中のpH減少量は約0.2ユニットであり、これはカルシウム及びマグネシウムイオン、残留アルカリ度、メイラード反応生成物の形成並びに苦味物質の添加によって引き起こされる。pH訂正の方法は、§2.4.5に示す。)

2 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比するに、甲1発明において、その製造工程で発酵を行わないので、甲1発明の「ビールテイスト飲料」は、本件発明1の「非発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
甲1発明の「麦芽20kg(全麦芽のうち色麦芽であるカラメル麦芽の占める割合が60重量%)を用い、麦芽を適当な粒度に粉砕したものを仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作り、50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃?72℃で60分間、糖化を行い、糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得、得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の量が目標とする値になるよう調節し、製造スケールを100Lとし、ホップを約100g添加し、100℃で80分間煮沸」することと、本件発明1の「加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する煮沸工程」とは、甲1発明のマッシュを糖化した後、濾過して得られる濾液は糖溶液といえ、煮沸に際して加熱部を有する容器中で行うことが明らかなので、両者は、「加熱部を有する容器中、糖溶液を煮沸する煮沸工程を有」する限りで共通する。
甲1発明の「煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却後、酸化防止剤、香料、酸味料(pHが4未満となる量を添加)、甘味料、必要によりカラメル色素を各々適量加えて約24時間貯蔵し、その間、炭酸ガスを適量添加し、その後、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経る」ことと、本件発明1の「煮沸工程後、糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」こととは、「煮沸工程後、糖溶液を、pHを4.0未満に調整する」ことの限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点)
「非発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
加熱部を有する容器中、糖溶液を煮沸する煮沸工程を有し、
前記煮沸工程後、糖溶液を、pHを4.0未満に調整する非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点1)
糖溶液を煮沸する煮沸工程及びpHを調整することについて、本件発明1は、「加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する」とし、(煮沸工程後、糖溶液を)「銅を含まない容器に移送した後に、」(pHを4.0未満に)「調整する」としているのに対して、甲1発明は、「100℃で80分間煮沸をし、煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却後、酸化防止剤、香料、酸味料(pHが4未満となる量を添加)、甘味料、必要によりカラメル色素を各々適量加えて約24時間貯蔵し、その間、炭酸ガスを適量添加し、その後、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経る」としていて、「100℃で80分間煮沸を(し)」する際に用いる容器の材質、及び「酸味料(pHが4未満となる量を添加)」する際の容器の材質については不明である点。
(2) 判断
ア 甲1発明は、加熱部に銅を含む容器を用いているとは必ずしもいえないし、「製造スケールを100Lとし、ホップを約100g添加し、100℃で80分間煮沸をし、煮沸後の液からオリを分離し」た後に、「約2℃に冷却後、酸化防止剤、香料、酸味料(pHが4未満となる量を添加)、甘味料、必要によりカラメル色素を各々適量加え(て)」る工程に用いる容器について、液を冷却することを考慮すると、冷却時の熱効率から、容器に熱伝導率のよい銅を含まないものを用いていると必ずしもいうこともできない。
そうすると、甲1発明は、「加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する煮沸工程」を行った後、「前記煮沸工程後、糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」ものであるといえないし、また当該事項についての記載や示唆が、甲1?甲13になされているともいえない。
イ そうすると、本件発明1は、少なくとも上記アの点で、甲1発明及び甲1?13に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ したがって、本件発明1は、甲1発明、甲1記載の事項及び本出願前周知慣用技術(技術常識)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件発明1に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

3 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記2で検討したのと同様に、甲1発明、甲1記載の事項及び本出願前周知慣用技術(技術常識)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件発明2?5に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

なお、特許異議申立人古藤弘一郎は、「煮沸工程後に、『糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する』ことが規定されているのに対して、甲1では糖溶液のpHを4.0未満に調整する際に銅を含まない容器に移送することが特定されていない点」(平成30年10月9日の意見書4ページ9?13行)を相違点2とし、「(2)相違点2は実質的な相違点ではない
次に、今回の訂正請求によって生じた相違点2は、甲1に記載されている事項であり、実質的な相違点ではない。
・・・特許法29条2項の規定に違反してされたものである。」(同5ページ3行?17ページ21行)と主張している。
しかしながら、訂正後の本件発明1の「加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する煮沸工程を有し、
前記煮沸工程後、糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」との特定事項は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、「加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する煮沸工程を有し、
前記煮沸工程後、糖溶液を10℃以下に冷却した後、又は糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する」と特定されていた事項であり、また、特許異議申立人の上記主張は、平成29年9月29日の特許異議の申立てにおいて、なされていなかった新たな取消理由であるので、当該主張を採用しないこととした。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
加熱部に銅を含む容器中、pH5.0以上の糖溶液を煮沸する煮沸工程を有し、
前記煮沸工程後、糖溶液を、銅を含まない容器に移送した後に、pHを4.0未満に調整する非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記煮沸工程後の糖溶液中の銅イオン濃度が450ppb以下であり、糖溶液のpHの4.0未満への調整を10℃を超える温度で行う請求項1に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記煮沸工程後に、糖溶液をろ過するろ過工程を有する請求項1又は2に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ろ過工程後の糖溶液中の銅イオン濃度が60ppb以下である請求項3に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
前記ろ過工程後の糖溶液中のジメチルトリスルフィド(DMTS)の濃度が50ppt以下である請求項3又は4に記載の非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-21 
出願番号 特願2012-282362(P2012-282362)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 名和 大輔  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 山崎 勝司
槙原 進
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6105922号(P6105922)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 非発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法  
代理人 服部 博信  
代理人 浅井 賢治  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 弟子丸 健  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  

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