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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 G03G |
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管理番号 | 1348726 |
異議申立番号 | 異議2018-700324 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-17 |
確定日 | 2019-01-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6223109号発明「トナー用結着樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6223109号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8、11-17〕、〔9、10〕について訂正することを認める。 特許第6223109号の請求項1、2、4、7-10に係る特許を維持する。 特許第6223109号の請求項3に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6223109号の請求項1-10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成25年10月10日に特許出願され、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、同年11月1日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、平成30年4月17日に、その特許の請求項1-4、7-10に係る特許に対し、特許異議申立人中村光代(以下「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立てがされ、同年7月6日付けで取消理由が通知され、同年9月6日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされたものである。 なお、特許法第120条の5第5項の規定に基づいて、特許異議申立人に意見書提出の機会を与えたが、意見書の提出はなされなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第6223109号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?17について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容 本件訂正による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正された箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックス」と記載されているのを、 「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス 」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4、7、8も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1?3いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂組成物」に訂正する。 (4)訂正事項 4 特許請求の範囲の請求項5に 「酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項1?4いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。」と記載されているのを、 「結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、トナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に 「非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、請求項1?5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。」と記載されているのを、 「結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、トナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に 「請求項1?6いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」と記載されているのを、 請求項1、2、4?6いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に 「請求項1?7いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1、2、4?7いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に 「融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックス」と記載されているのを、 「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス 」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。) (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項5に 「水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項1?4いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項2を引用するものを新たな請求項11として、 「非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項5記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項5に 「水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項1?4いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項3を引用するものを新たな請求項12として、 「水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量が350?2000である、請求項5又は11記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (11)訂正事項 11 特許請求の範囲の請求項5に 「水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項1?4いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項4を引用するものを新たな請求項13として、 「水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項5、11、又は12記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (12)訂正事項 12 特許請求の範囲の請求項6に 「非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、請求項1?5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項2を引用するものを新たな請求項14として、 「非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項6記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項6に 「非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、請求項1?5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項3を引用するものを新たな請求項15として、 「水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量が350?2000である、請求項6又は14記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (14)訂正事項 14 特許請求の範囲の請求項6に 「非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、請求項1?5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項4を引用するものを新たな請求項16として、 「水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項6、14、又は15記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (15)訂正事項 15 特許請求の範囲の請求項6に 「非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、請求項1?5いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物」とあるうち、請求項5を引用するものを新たな請求項17として、 「水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項6、14?16いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。」に訂正する。 (16)本件訂正請求について 本件訂正請求は、一群の請求項〔1-8〕、〔9、10〕に対して請求されたものである。 3 訂正の目的の適否 (1)訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1、2、4、7、8に記載された発明における「融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックス」を「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス 」に減縮するものである。また、訂正事項8による訂正も、本件訂正前の請求項9、10について、上記訂正事項1と同じ事項の訂正を行うものである。 したがって、訂正事項1及び訂正事項8は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 (2)訂正事項2による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 (3)訂正事項3による訂正は、訂正事項2による、特許請求の範囲の請求項3の削除にともない、請求項3の記載を引用して記載された請求項4の記載が明瞭でないものとなることを回避するよう(請求項3を引用しないよう)に、請求項4の記載を改めたものといえる。 したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。 (4)訂正事項4及び9?11による訂正は、訂正前の請求項1?4の記載を引用する請求項5の記載を、訂正前の請求項1?4の記載を引用しない請求項5、11?13とするものである。 したがって、訂正事項4及び9?11による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。 (5)訂正事項5及び12?15による訂正は、訂正前の請求項1?5の記載を引用する請求項6の記載を、訂正前の請求項1?5の記載を引用しない請求項6、14?17とするものである。 したがって、訂正事項5及び12?15による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。 (6)むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。 4 新規事項の有無 (1)訂正事項1及び8 本件特許の願書に添付した明細書の【0042】には、「水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量は、保存性の観点から、350以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がより好ましく、700以上がさらに好ましく、900以上がさらに好ましく、1100以上がさらに好ましい。」と記載されている。 そうしてみると、訂正事項1及び8による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2による訂正は、請求項を削除するものであるから、訂正事項2による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (3)訂正事項3 訂正事項3による訂正は、訂正事項2による、特許請求の範囲の請求項3の削除にともない、請求項3の記載を引用して記載された請求項4の記載が明瞭でないものとなることを回避するよう(請求項3を引用しないよう)に、請求項4の記載を改めたものにすぎないから、訂正事項3による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (4)訂正事項4及び9?11 訂正事項4及び9?11による訂正は、訂正前の請求項1?4の記載を引用する請求項5の記載を、訂正前の請求項1?4の記載を引用しない請求項5、11?13とするにすぎないものであり、発明としての内容に変更はない。 したがって、訂正事項4及び9?11による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (5)訂正事項5及び12?15 訂正事項5及び12?15による訂正は、訂正前の請求項1?5の記載を引用する請求項6の記載を、訂正前の請求項1?5の記載を引用しない請求項6、14?17とするにすぎないものであり、発明としての内容に変更はない。 したがって、訂正事項5及び12?15による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (6)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 5 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1及び8による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明における「「融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックス」、 を「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス 」に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項2による訂正は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項3による訂正は、訂正事項2による、特許請求の範囲の請求項3の削除にともない、請求項3の記載を引用して記載された請求項4の記載が明瞭でないものとなることを回避するよう(請求項3を引用しないよう)に、請求項4の記載を改めたものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項4及び9?11による訂正は、訂正前の請求項1?4の記載を引用する請求項5の記載を、訂正前の請求項1?4の記載を引用しない請求項5、11?13とするにすぎないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、訂正事項5及び12?15による訂正は、訂正前の請求項1?5の記載を引用する請求項6の記載を、訂正前の請求項1?5の記載を引用しない請求項6、14?17とするにすぎないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 6 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8、11-17〕、〔9、10〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 前記第2のとおり、本件訂正請求は認められることとなったので、本件特許の請求項1、請求項2、請求項4?請求項17に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」「本件特許発明4」?「本件特許発明17」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1、請求項2、請求項4?請求項17に記載された事項により特定されるとおりの、以下のものである。なお、請求項3は、本件訂正により削除された。 「【請求項1】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られる、トナー用結着樹脂組成物。 【請求項2】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項1記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項4】 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項5】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、トナー用結着樹脂組成物。 【請求項6】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、トナー用結着樹脂組成物。 【請求項7】 炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物の総含有量が、水酸基を有する炭化水素ワックスを除いた結晶性ポリエステルの原料モノマー中、80?100モル%である、請求項1、2、4?6いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1、2、4?7いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー。 【請求項9】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られる、静電荷像現像用トナー。 【請求項10】 さらに、融点が65?120℃のワックスを、結着樹脂100質量部に対して、2?15質量部含有する、請求項9記載の静電荷像現像用トナー。 【請求項11】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項5記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項12】 水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量が350?2000である、請求項5又は11記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項13】 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項5、11、又は12記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項14】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項6記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項15】 水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量が350?2000である、請求項6又は14記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項16】 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項6、14、又は15記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項17】 水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項6、14?16いれか記載のトナー用結着樹脂組成物。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 平成30年7月6日付けで通知した取消理由の概要は、本件訂正前の請求項1?4、7?10に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた(特許法第41条第3項の規定により当該特許出願を優先権主張の基礎とする特願2014-154775号の出願公開がされた時に出願公開されたものとみなされた)下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許についての出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記発明をした者と同一ではなく、また本件特許についての出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるというものである。 1:特願2013-160759号(特開2015-45849号) (当合議体注:甲第2号証及び甲第1号証は、それぞれ、特願2013-160759号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面及び特開2015-45849号公報である。) 2 特願2013-160759号の記載事項及び特願2013-160759号に記載された発明 (1)特願2013-160759号の記載事項 取消理由に引用され、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものとみなされた特願2013-160759号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当該記載事項は、特願2013-160759号を優先権主張の基礎とする特願2014-154775号の願書に最初に添付された明細書及び図面にも記載されている。また、合議体が発明の認定等に用いた箇所に、下線を付した。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、電子写真法、静電荷像を顕像化するための画像形成方法及びトナージェットに使用されるトナーに関する。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は上記問題点を解消したトナーを提供することである。 つまり、本発明の目的は、厚紙使用における低温定着性、トナーの耐久性、トナー帯電立ち上がり速度に優れたトナーを提供することにある。」 イ 「【0011】 本発明によれば、厚紙使用における低温定着性、トナーの耐久性、トナー帯電立ち上がり速度に優れたトナーを提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】本発明のトナー中における結晶性ポリエステル樹脂Aの微視的な存在状態を表す模式図。 ・・・(中略)・・・ 【0014】 本発明はSc、Sd、Se、Sfが特定の関係性を満たすようにしたことで、トナー中における結晶性ポリエステル樹脂Aの微視的な存在状態を制御したことを特徴とする。 図1は本発明のトナー中における結晶性ポリエステル樹脂Aの微視的な存在状態を模式的に示したものである。当然ながら本発明は図1によって制限されるものではない。 図1において、CとDは、結晶性ポリエステル樹脂Aのポリエステル分子鎖(C)と結晶核剤部位(D)をそれぞれ表している。EとFは非晶性樹脂Bのポリエステルユニット(E)、ビニル系重合ユニット(F)をそれぞれ表している。 本発明の非晶性樹脂Bは、ポリエステルユニット(E)とビニル系重合ユニット(F)が化学的に結合したハイブリッド樹脂であるため、巨視的には均?な樹脂である。 しかし微視的にみた場合、ポリエステルユニット(E)とビニル系重合ユニット(F)の分子構造が異なるため、それぞれのユニットは自己疑集し易く、いわゆるミクロ相分離構造を有している。 本発明において、該ミクロ相分離構造におけるポリエステル(E)による相をE相と呼び、ビニル系重合ユニット(F)による相をF相と呼ぶこととする。 ・・・(中略)・・・ 【0022】 本発明の結晶性ポリエステル樹脂Aは、ポリエステル分子鎖(C)の末端に結晶核剤部位(D)を有する樹脂であることが必要である。 ・・・(中略)・・・ 【0023】 本発明の該結晶核剤部位(D)としては、ポリエステル分子鎖(C)のみで構成される結晶性ポリエステル樹脂Aよりも結晶化速度が速い化合物に由来する部位であれば、特に制限されるものではない。 しかし、より安定的に造核効果を発現できる観点で、主鎖が直鎖の炭化水素系部位を含んでなり、結晶性ポリエステル樹脂の分子鎖末端と反応しうる1価以上の官能基を有する化合物に由来する部位であることが好ましい。 その中でも、より厚紙使用における低温定着性や耐久性が良好なトナーとなる観点で、該結晶核剤部位(D)は、炭素数10以上、30以下(より好ましくは、炭素数14以上、30以下)の脂肪族モノアルコール及び/または炭素数11以上、31以下(より好ましくは、炭素数15以上、31以下)の脂肪族モノカルボン酸に由来する部位である事が好ましい。 すなわち、結晶核剤部位(D)は、結晶性ポリエステル樹脂Aにおいて、上記脂肪族モノアルコール及び/または脂肪族モノカルボン酸が、ポリエステル分子鎖(C)の末端に縮合した構造を有することが好ましい。 該結晶核剤部位が、炭素数10以上の脂肪族モノアルコール及び/または炭素数11以上の脂肪族モノカルボン酸に由来する部位であると、分子鎖の規則性が高まるために造核速度が高まり、トナーの耐久性を良化できるため好ましい。 一方で、炭素数30以下の脂肪族モノアルコール及び/または炭素数31以下の脂肪族モノカルボン酸に由来する部位であると、熱溶融した際の分子運動性が高まってビニル系重合ユニット(F)を可塑し易くなる。そのため厚紙使用の低温定着性をより良化できるため好ましい。 脂肪族モノアルコールとしては、1-デカノール、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、1-ドコサノール、1-オクタコサノール、1-トリアコンタノール等が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 【0056】 原料混合工程では、トナー粒子を構成する材料として、結晶性ポリエステル樹脂A、非晶性樹脂B、着色剤、および必要に応じてその他の添加剤等を、所定量秤量して配合し、混合する。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、メカノハイブリッド(日本コークス工業株式会社製)などが挙げられる。 次に、混合した材料を溶融混練して、結晶性ポリエステル樹脂Aおよび非晶性樹脂Bからなる結着樹脂中に着色剤等を分散させる。溶融混練工程では、加圧ニーダー、バンバリィミキサーの如きバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。連続生産できる優位性から、1軸又は2軸押出機が好ましい。KTK型2軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型2軸押出機(東芝機械社製)、PCM混練機(池貝鉄工製)、2軸押出機(ケイ・シー・ケイ社製)、コ・ニーダー(ブス社製)、ニーデックス(日本コークス工業株式会社製)などが挙げられる。」 ウ 「【0066】 <結晶性ポリエステルA1の製造例> 窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、ポリエスエル分子鎖(C)のアルコールモノマーとして1,10-デカンジオールを、酸モノマーとして1,10-デカン二酸を表1に示す配合量で投入した。 そして触媒としてジオクチル酸錫をモノマー総量100質量部に対して0.8質量部添加し、窒素雰囲気下で140℃に加熱して常圧下で水を留去しながら7時間反応させた。 次いで200℃まで10℃/時間で昇温しつつ反応させ、200℃に到達してから2時間反応させた後、200℃にて反応槽内を5kPa以下に減圧して2時間反応させた。 その後、反応槽内の圧力を序々に開放して常圧へ戻して、表1に示した結晶核剤部位(D)のモノマー(1-オクタデカノール)を加え、常圧下にて200℃で1.5時間反応させた。その後、200℃にて再び反応槽内を5kPa以下へ減圧し、200℃で2.5時間反応させることにより結晶性ポリエステル樹脂A1を得た。 得られた結晶性ポリエステル樹脂A1の諸物性を表2に示す。 得られた結晶性ポリエステル樹脂A1のMALDI-TOFMSのマススペクトルには、ポリエステル分子鎖(C)の末端に1-オクタデカノールが結合した組成のピークが確認された。このことから、結晶性ポリエステル樹脂A1は、ポリエステル分子鎖(C)の末端に結晶核剤部位(D)が結合した樹脂であることが確認された。 【0067】 【表1】 ・・・(中略)・・・ 【0069】 <結晶性ポリエステル樹脂A2乃至A24の製造例> 結晶性ポリエステル樹脂A1の製造例において、表1に記載のようにポリエステル分子鎖(C)のモノマー種、結晶核剤部位(D)のモノマー種、およびこれらの配合量を変更した以外は結晶性ポリエステル樹脂A1の製造例と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂A2乃至A24を得た。これらの諸物性を表2に示す。 また得られた 結晶性ポリエステル樹脂A2乃至23のMALDI-TOFMSのマススペクトルにおいて、ポリエステル分子鎖(C)の分子末端に結晶核剤部位(D)モノマーが結合した組成のピークが確認された。そのため、結晶性ポリエステル樹脂A2乃至23は、ポリエステル分子鎖(C)の末端に結晶核剤部位(D)が結合している樹脂であることが確認された。 【0070】 <非晶性樹脂B1の製造例> 窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、表3に示す配合量のポリエステルユニット(E)のモノマーを入れた後、触媒としてジブチル錫をポリエステルユニット(E)のモノマー総量100質量部に対して1.5質量部添加した。そして窒素雰囲気下にて160℃に撹拌しながら昇温した。 次に表3に示す配合量のビニル系重合ユニット(F)のモノマー(両反応性化合物を含む)と、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイドを2.0mol部を混合したものを調製し、滴下ロートから4時間かけて反応槽中に滴下した。このとき滴下量は表3に示すポリエステルユニット(E)とビニル系重合ユニット(F)の質量比となるように調整した。滴下終了後、160℃で4時間反応させた後、230℃に昇温しながら反応系を減圧して縮重合反応を行った。このときここで減圧開始後からの重縮合時間は非晶性樹脂B1の軟化点が表3の値となるように設定した。 非晶性樹脂B1の反応終了後、反応槽から取り出し、冷却、粉砕して非晶性樹脂B1を得た。非晶性樹脂B1の諸物性については表3に示した通りである。 なお、所望の軟化点する重縮合時間を決定するために、予備検討として、減圧開始後からの重縮合時間を複数点変更して非晶性樹脂を反応槽から樹脂を取り出し、冷却、粉砕した後に軟化点を測定した。この予備検討で得られた非晶性樹脂B1処方における重縮合時間と軟化点との対応関係を元に、表3に記載の軟化点となるように重縮合時間を決定した。 【0071】 <非晶性樹脂B2乃至B12の製造例> 非晶性樹脂B1の製造例において、表3に記載のようにポリエステルユニット(E)のモノマー種、ビニル系重合ユニット(F)のモノマー種、およびこれらの配合量、ならびに重縮合時間を変更した以外は非晶性樹脂B1の製造例と同様にして、非晶性樹脂B2乃至B12を得た。これらの諸物性を表3に示す。重縮合時間は非晶性樹脂B1の製造例と同様に予備検討を行い、得られたそれぞれの非晶性樹脂処方における重縮合時間と軟化点との対応関係を元に、表3に記載の軟化点となるように重縮合時間を決定した。 ・・・(中略)・・・ 【0075】 【表3】 ・・・(中略)・・・ 【0077】 <トナー1の製造例> ・結晶性ポリエステル樹脂A1 15.0質量部 ・非晶性樹脂B1 85.0質量部 ・カーボンブラック 5.0質量部 ・フィッシャートロプシュワックス(融点105℃) 6.0質量部 ・3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸アルミニウム化合物 0.8質量部 上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井三池化工機(株)製)で混合した後、二軸混練機(池貝鉄工(株)製PCM-30型))にて回転数3.3s^(-1)、混練樹脂温度が非晶性樹脂B1の軟化点+10℃となるように混練機バレルの温度を調整して混練した。 得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(ターボ工業(株)製T-250)にて微粉砕した。さらに、得られた微粉砕粉末をコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)が7.1μmの負摩擦帯電性のトナー粒子を得た。 得られたトナー粒子100質量部に、イソブチルトリメトキシシラン15質量%で表面処理した一次平均粒子径50nmの酸化チタン微粒子1.0質量部、及びヘキサメチルジシラザン20質量%で表面処理した一次平均粒子径16nmの疎水性シリカ微粒子0.8質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株)製FM-75型)で混合して、トナー1を得た。 トナー1の諸物性、およびSc((cal/cm^(3))^(1/2))、Sd((cal/cm^(3))^(1/2))、Se((cal/cm^(3))^(1/2))、Sf((cal/cm^(3))^(1/2))を表5に示す。 またトナー1のSc乃至Sfにかかる関係式1乃至式4について表6に示す。 【0078】 【表5】 ・・・(中略)・・・ 【0080】 <トナー2乃至32の製造例> トナー1の製造例において、結晶性ポリエステル樹脂Aと非晶性樹脂Bの種類と、これらの質量比を表5に示したように変更した以外は、トナー1の製造例と同様にしてトナー2乃至32を製造した。トナー2乃至32の諸物性を表5に示す。 またトナー2乃至32のSc乃至Sfにかかる関係式1乃至式4について表6に示す。」 エ 「【図1】 」 (2) 特願2013-160759号に記載された発明 上記記載事項(1)に基づけば、特願2013-160759号の当初明細書等には、実施例3として、以下の発明が記載されていると認められる。 なお、結晶性ポリエステル樹脂A3及び非晶性樹脂B2の各原料成分とその配合量及びポリエステルユニット(E)とビニル系重合体ユニット(F)の質量比は、それぞれ、【0067】の表1及び【0075】の表3に記載された数値である。また、結晶性ポリエステル樹脂A3及び非晶性樹脂B2の質量比は、【0078】の表5に記載された数値である。 「 窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、ポリエステル分子鎖(C)のアルコールモノマーとして1,12-ドデカンジオールを、酸モノマーとして1,10-デカン二酸を、両者のモル比を47.5:47.5とした配合量で投入し、 そして触媒としてジオクチル酸錫を添加し、窒素雰囲気下の常圧下で反応させ、 次いで昇温しつつ反応させた後、反応槽内を減圧して反応させ、 その後、常圧へ戻して、結晶核剤部位(D)のモノマーとして1-トリアコンタノールを加え、常圧下にて反応させ、その後、再び反応槽内を減圧し、反応させることにより結晶性ポリエステル樹脂A3を得、 窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、ビスフェノールA-PO2mol付加物37質量部、ビスフェノールAEO2mol付加物20質量部、テレフタル酸39質量部、トリメリット酸4質量部とした配合量のポリエステルユニット(E)のモノマーを入れた後、触媒としてジブチル錫を添加し、そして窒素雰囲気下にて昇温し、 アクリル酸10質量部、スチレン10質量部、ベヘニルアクリレート80質量部とした配合量のビニル系重合体ユニット(F)のモノマー(両反応性化合物を含む)と、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイドを混合したものを調製し、滴下量がポリエステルユニット(E)とビニル系重合体ユニット(F)の質量比が60:40となるように反応槽中に滴下し、反応させた後、昇温しながら反応系を減圧し非晶性樹脂B2の軟化点が123℃となるように縮重合反応を行い、 反応終了後、反応槽から取り出し、冷却、粉砕して非晶性樹脂B2を得、 下記材料をヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機にて混練し、 得られた混練物を冷却し、粉砕し、分級して、負摩擦帯電性のトナー粒子を得、 得られたトナー粒子に、酸化チタン微粒子、及び疎水性シリカ微粒子を添加し、ヘンシェルミキサーで混合して得た、 トナー3。 (材料) ・結晶性ポリエステル樹脂A3 15.0質量部 ・非晶性樹脂B2 85.0質量部 ・カーボンブラック 5.0質量部 ・フィッシャートロプシュワックス(融点105℃) 6.0質量部 ・3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸アルミニウム化合物 0.8質量部」(以下「先願発明」という。) 3 当審の判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と先願発明とを対比する。 (ア)結晶性ポリエステル、非晶質ポリエステル、トナー用結着樹脂組成物 先願発明の「結晶性ポリエステル樹脂A3」、「非晶性樹脂B2」及び「トナー3」は、技術的にみて、それぞれ、本件特許発明1の「結晶性ポリエステル」、「非晶質ポリエステル」及び「トナー用結着樹脂組成物」に相当する。 また、先願発明の「トナー3」は、「結晶性ポリエステル樹脂A3」及び「非晶性樹脂B2」を「混合」して得たものである。そうしてみると、先願発明の「トナー3」は、本件特許発明1の「トナー用結着樹脂組成物」が「結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有する」という要件を満たすものである。 (イ)脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸 先願発明の「1,12-ドデカンジオール」及び「1,10-デカン二酸」は、技術的にみて、それぞれ、本件特許発明1の「炭素数6?14の脂肪族ジオール」及び「炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸」に該当する。 そして、先願発明の「結晶性ポリエステル樹脂A3」は、「アルコールモノマーとして1,12-ドデカンジオールを、酸モノマーとして1,10-デカン二酸」を用いて得られたものである。 そうしてみると、先願発明の「結晶性ポリエステル樹脂A3」と、本件特許発明1の「結晶性ポリエステル」は、「結晶性ポリエステルが」、「炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物」とを含む「原料モノマーを用いて得られる」点で共通する。 イ 一致点・相違点 以上より、本件特許発明1と先願発明とは、 「 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含む原料モノマーを用いて得られる、トナー用結着樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1では、「結晶性ポリエステル」が「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス」を含み、「該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である」のに対して、先願発明では、このように特定されたものではない点。 ウ 判断 上記相違点1について検討する。 本件特許発明1の「結晶性ポリエステル」に相当する先願発明の「結晶性ポリエステル樹脂A3」は、「1-トリアコンタノール」、「1,12-ドデカンジオール」及び「1,10-デカン二酸」以外の原料モノマーを含有しないものである。また、これらモノマーは、いずれも、前記相違点1に係る本件特許発明1の「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス」に該当するものではない(なお、「ジオクチル酸錫」は、触媒である。)。 そうしてみると、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1と先願発明が同一の発明であるとはいえない。 次に、本件特許発明1と先願発明が実質同一であるか否かについて検討する。 まず、先願発明の「結晶性ポリエステル樹脂A3」の材料のうち、「1,12-ドデカンジオール」及び「1,10-デカン二酸」は、本件特許発明1の「脂肪族ジオール」及び「脂肪酸ジカルボン酸化合物」に相当するものである。また「ジオクチル酸錫」は触媒である。したがって、仮に、先願発明のこれら材料について微差といえる程度の変更(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等)が施されたとしても、前記相違点1に係る本件特許発明1の「結晶性ポリエステル」が「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス」を含む構成に到ることはないといえる。 次に、先願発明の「結晶性ポリエステル樹脂A3」の材料のうち、「1-トリアコンタノール」について検討する。 当初明細書等の【0023】の記載からみて、先願発明の「1-トリアコンタノール」は、炭素数10以上30以下の脂肪族モノアルコールの具体例(炭素数30、分子量約439の脂肪族モノアルコール)と理解される。そうしてみると、仮に、先願発明の「1-トリアコンタノール」に対して、微差といえる程度の変更が施されることがあるとしても、分子量500以上のもの(炭素数35以上の脂肪族モノアルコール)に変更されることはないといえる。したがって、仮に、先願発明の「1-トリアコンタノール」について微差といえる程度の変更が施されたとしても、やはり、前記相違点1に係る本件特許発明1の「結晶性ポリエステル」が「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス」を含む構成に到ることはないといえる。 以上のことから、上記相違点1が課題解決手段における微差であるとはいえず、本件特許発明1と先願発明が実質同一であるとはいえない。 また、特許異議申立人は、甲第1号証及び甲第2号証に加え、甲第3号証?甲第5号証を挙げているが、これら各甲号証の記載内容を考慮しても、本件特許発明1と先願発明が実質同一であるということはできない。 (2)本件特許発明2、4、7-10について 本件特許発明2、4、7-10は、本件特許発明1と同じく、「結晶性ポリエステル」が「融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックス」を含み、「該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である」という要件を具備するものである。 そうしてみると、本件特許発明2、4、7-10も、本件特許発明1と同じ理由により、先願発明と同一の発明であるとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載された取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、7-10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、2、4、7-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られる、トナー用結着樹脂組成物。 【請求項2】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項1記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項5】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、トナー用結着樹脂組成物。 【請求項6】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られ、前記非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分が、炭素数2?3の脂肪族ジオールを含有する、トナー用結着樹脂組成物。 【請求項7】 炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物の総含有量が、水酸基を有する炭化水素ワックスを除いた結晶性ポリエステルの原料モノマー中、80?100モル%である、請求項1、2、4?6いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1、2、4?7いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、静電荷像現像用トナー。 【請求項9】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結晶性ポリエステルが、融点が70?120℃であり、分子量が500?2000である水酸基を有する炭化水素ワックスと、炭素数6?14の脂肪族ジオール及び炭素数10?14の脂肪族ジカルボン酸化合物とを含み、該炭化水素ワックスの含有量が1.0?15質量%である原料モノマーを用いて得られる、静電荷像現像用トナー。 【請求項10】 さらに、融点が65?120℃のワックスを、結着樹脂100質量部に対して、2?15質量部含有する、請求項9記載の静電荷像現像用トナー。 【請求項11】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項5記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項12】 水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量が350?2000である、請求項5又は11記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項13】 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項5、11、又は12記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項14】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、65/35?95/5である、請求項6記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項15】 水酸基を有する炭化水素ワックスの分子量が350?2000である、請求項6又は14記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項16】 水酸基を有する炭化水素ワックスの水酸基価が、40?140mgKOH/gである、請求項6、14、又は15記載のトナー用結着樹脂組成物。 【請求項17】 水酸基を有する炭化水素ワックスが、さらにカルボキシ基を有する、請求項6、14?16いずれか記載のトナー用結着樹脂組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-28 |
出願番号 | 特願2013-213012(P2013-213012) |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YAA
(G03G)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 倉持 俊輔 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
清水 康司 川村 大輔 |
登録日 | 2017-10-13 |
登録番号 | 特許第6223109号(P6223109) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | トナー用結着樹脂組成物 |
代理人 | 細田 芳徳 |
代理人 | 細田 芳徳 |