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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06C
管理番号 1348747
異議申立番号 異議2018-700803  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-03 
確定日 2019-02-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6304634号発明「立毛シートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6304634号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6304634号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年12月27日に特許出願され、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされた(平成30年4月4日に特許掲載公報の発行)。
その後、平成30年10月3日に、請求項1?4に係る特許について、特許異議申立人白崎ベルベット工業有限会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
特許第6304634号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、「本件発明1?4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
熱可塑性繊維糸からなる一対の織物基布の間にパイル糸を織り込んで、ベルベット織組織の基材生地を製織する製織工程と、
前記パイル糸をカットして2枚の立毛シートを形成する切断工程と、
この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程と、
前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程と、
前記立毛シートを洗浄する精練工程と、
前記立毛シートを染料により着色する染色工程と、
脱水機により前記染料を脱水する脱水工程と、
前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程とを含んで構成されることを特徴とする立毛シートの製造方法。
【請求項2】
蒸し工程において、スチーマー内で立毛シートを垂下させた状態で配置して蒸すことを特徴とする請求項1記載の立毛シートの製造方法。
【請求項3】
乾燥工程において、タンブラーにより回転させながら立毛シートを熱風で乾燥させることを特徴とする請求項1または2記載の立毛シートの製造方法。
【請求項4】
切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布から3?10mmの範囲で突出させることを特徴とする請求項1?3の何れか一つに記載の立毛シートの製造方法

3.申立理由の概要
申立人は、以下の理由により、本件発明1?4に係る特許を取り消すべきである旨を主張している。
《理由》
本件発明1?4は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法113条第2号に該当し、取り消すべきである。


《刊行物一覧》
甲1.特開昭62-191566号公報
甲2.特開昭64-40637号公報
甲3.特開2000-80556号公報
甲4.特開昭56-123473号公報
甲5.特開昭59-20123号公報
甲6.特開平9-228229号公報
甲7.特開平9-157995号公報
甲8.武部猛 “改訂新版 捺染技術のすべて”、繊維社、昭和54年8月10日改訂新版発行、p.40
甲9.星野慶司他1名 “増補改訂版 合繊の染色設備”、繊維社、昭和46年1月16日発行、p.77-83
ここで、甲1?9は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された甲第1号証?甲第9号証である。

4.甲1?9の記載
甲1?9の各々に記載された事項を甲1記載事項?甲9記載事項という。
(1)甲1記載事項
ア.「2.特許請求の範囲
少なくとも合成繊維をパイル繊維に用いたパイル織編物の仕上げ加工に際し、該パイル織編物を揉み乾燥で仕上げることを特徴とするパイル織編物の仕上げ方法。」(1頁左下欄3?7行)

イ.「3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は、優れたソフトな感触・外観・ふくらみ感と高級な光沢をもつパイル織編物に仕上げ加工する方法に関するものである。
〔従来の技術〕
パイル織編物は、独特の表面光沢や優雅なタッチを持つことから、高級な衣料素材やインテリヤ素材として巾広く展開されている。従来よりこれらの素材としてはレーヨン・アセテート・木綿・絹等が主に用いられている。そして、これらの加工仕上げ方法としては、加工中のパイルの乱れや脱落を防ぐために、パイル面が接触しないように揉みやしごきのない染色方法がとられ、またパイル面およびパイル先端の均一化と毛ザバキ仕上げのために、パイル面にブラシング・ボリシング・シャーリングを適宜くり返し処理されている。
これら諸々の仕上げ工程は、通常一般的な(非立毛〉織編物の工程に比べ非常に繁雑でかつ繊細なものである。
一方、合成繊維の長所(寸法安定性、イージケア性・高強力等)を生かして、合成繊維をパイルに用いた織編物の展開がなされてきているが、これらの仕上げ方法も、前述の繁雑かつ繊細なブラシング・ポリシング・シャーリング等の適宜くり返しが必要でめった。また、合成繊維の熱可塑性からくる、乾燥工程通過におけるパイル形態の保持が非常に難しかった。」(1頁左下欄8行?右下欄16行)

ウ.「これらのことから更に近年、パイル繊維を細い繊維即ち極細繊維使いとすることによって、極細繊維のもつ気品ある光沢と優雅で柔らかな触感を生かしたパイル織編物の研究が種々なされている。特にパイル長を長くしたもので高級な毛皮の特徴を具備した人工毛皮の提案がなされている。
・・・
即ち、細い繊維使いのパイル織編物はブラシングで毛さばき仕上げをするには限界があった。」(2頁左上欄5行?右上欄2行)

エ.「本発明は、パイル繊維が極細繊維であって、更にそれらにケン縮がかかっていたり、束状のパイルであっても、容易にかつ安定に仕上げうる方法を提供することを目的とする。」(2頁右上欄6?9行)

オ.「本発明のパイル繊維に用いられる合成繊維の製法は・・・特に限定されない。また合成繊維の基質としては何ら限定はされないが、通常の各種ポリエステル系繊維、各種ポリアミド系繊維が好適例として挙げられる。」(2頁左下欄4?11行)

カ.「本発明のパイル織編物とは、ベース生地部からカットパイルが出たものであり、ビロード・コール天・シール・モケット・トリコットパイル品等が挙げられる。」(2頁左下欄12?15行)

キ.「また紡績糸の場合は、揉み乾燥時に、カットパイルによる脱毛がからみつき易くパイル面の品位を損ない易いが、高分子弾性体例えばポリウレタンのバインダーの付与等によりこの欠点は防止可能である。」(2頁右下欄6?10行)

ク.「上述の構成から成るパイル織編物を、通常布帛の加工と同じく精練・熱セットおよび、更にはパイルの繊度を細くするための処理などを施し、染色を行なう。これらの工程処法は何ら限定されるものではない。」(2頁右下欄11?15行)

ケ.「即ち、染色加工をした後、回転揉み乾燥機(例えばタンブラ-乾燥機)で加工反を揉み回転させながら乾燥する。
乾燥機に投入するに際しては適度に脱水するのが好ましい。脱水は通常の遠心脱水やマングル絞り・真空絞りが用いられ、その絞り率(含水率は30?100%が好ましい。100%を越えると液が滴下し、仕上げ油剤の付着により機内を汚す原因となったり、また乾燥に必要以上長時間を要すこととなる。一方、30%未満まで絞ると脱水時のシワなどが入り好ましくない。
・・・
乾燥温度は、好適例としてよく用いるポリエステル繊維パイルの場合120℃以下、好ましくは80?100℃の熱風を循環すると都合が良く、余り高い温度ではパイルの異方向へのセット固定を生じ表面品位を損なう。また乾燥後は、加熱を止め、そのまま揉み回転を続け50℃以下まで冷却してから回転を止めるのが好ましい。乾燥温度のままで回転を止めるのは、パイルの異方向へのセット固定が生じやすく好ましくない。
こうして回転揉み乾燥したものは、更に仕上げ加工を施さなくても、優れた感触及び、外観、ふくらみ感、シルキーな光沢を備えている。」(3頁左上欄17行?3頁左下欄5行)

コ.「実施例1
2種類の海島形複合繊維を同時に紡糸しうる3成分紡糸機を用いて、次の2種の海島形複合繊維を紡糸(1200m/分)延伸(3.1倍、90℃ホツトロールで350m/分)して73デニール18フィラメントの混合複合糸を得た。
島成分1=ポリエチレンテレフタレート
(16島〉
島成分2=イソフタル酸10モル%を共重合したポリエチレンテレフタレート
(16島)
海成分 =ポリスチレン
島成分1の複合繊維(島80%、海20%〉は36.5デニール、9フィラメントであり、島成分2の複合繊維(島80%、海20%)は36.5デニール、9フィラメントで合計73デニール18フィラメントの混合糸であった。」(3頁左下欄13行?右下欄9行)

サ.「この混合複合糸をパイル糸として、ポリエチレンテレフタレートの50デニール24フィラメントの加工糸をグランドのタテ糸およびヨコ糸にして2重ビロード織機にて、パイル長10mmのパイル織物を作った。
織り密度は、パイル糸が47本/in、グランドのタテ糸が94本/in、ヨコ糸が146本/inであった。」(3頁右下欄10?17行)

シ.「この布帛を180℃で熱セットを施した後、トリクロールエチレンで処理をして、パイルに用いた混合複合糸の海成分を除去し極細立毛織物を得た。
この布帛の裏面に、ポリウレタン25%DMF溶液をナイフでコーティングし100℃で乾燥ポリウレタンをバッキングした。ポリウレタンの付着量は10g/m^(2)であった。
こうして単糸繊度が0.2デニールのパイル布帛の生機を得た。」(3頁右下欄18行?4頁左上欄7行)

ス.「このものを加圧型液流染色機(サーキュラーM/C)にかけ120℃で60分間、薄茶色に分散染料を用いて染め上げた。更にハイドロサルファイトと苛性ソーダを用いて還元洗浄し、湯通し洗いした。
この湯洗い液に静電防止剤(三洋化成株式会社製”シルスタット#1173”) 1g/lと柔軟剤(三洋化成株式会社製”ベビナS783”)3g/lを加えて染色仕上げ品を得た。」(4頁左上欄8?16行)

セ.「この後、遠心脱水機で含水率100%としてからタンブラ-乾燥機で揉み乾燥した。100℃の熱風を送りながら、30rpmの回転で30秒毎に反転させるようにして40分間乾燥した。乾燥後加熱を止め回転・反転しながら50℃まで冷却して布帛を取り出した。」(4頁左上欄17行?右上欄2行)

ソ.「このものは、パイルが薄茶色の極めて滑らかなタッチであり、かつチンチラやミンクの毛皮を触っていると間違えんばかりの外観とタッチを有していた。パイルはゆるやかな捲縮がかかり、小さな束集団(織りの1単位、即ち18×16=288フィラメントの束〉となり、よく立っており、へたりやもつれも見られず、高級な毛皮調のふっくらとしたふくらみ感を有していた。更に、立毛はいずれの方向へも倒すことができ、それがほぼ可逆的であった。このため、モトリング、ライティング効果が得られた。」(4頁右上欄3?13行)

タ.「[発明の効果]
本発明によって工程の簡略化にとどまらず、パイル織編物を極めて能率的、かつ安定に製造することが可能となった。
本発明によってチンチラやミンク調の優れた感触と外観、ふくらみ、高級な光沢をもつ極細繊維パイル織編物の商品化が可能となった。」(4頁右下欄3?9行)

(2)甲2記載事項
ア.「2.特許請求の範囲
1.地緯糸と地経糸および地組織に参加しないパイル引出し用抜緯糸による二重織組織の上下両織物地にパイル糸を掛け渡して製織し、この両織物地間の中央で前記パイル糸をカットして、2枚の織物地を形成した後、両織物地の前記抜緯糸をパイルのない裏面側に脱することにより、この裏面側に一部パイルを引き出すようにした両面パイル織物の製造方法において」(1頁左下欄5?13行)

イ.「従来より、毛布等に使用される二重織組織による両面パイル織物は、地緯糸と地経糸および地組織に参加しないパイル引出し用抜緯糸による二重織組織の上下両織物地にパイル糸を掛け渡して製織し、両織物地間の中央で前記パイル糸をカットして、2枚の織物地を形成した後、両織物地の前記抜緯糸をパイルのない裏面側に脱することにより、この実面側に一部パイルを引出し、さらに必要により前記パイルを毛割り(起毛)、剪毛加工を施して製造するものであって、その織組織としては種々の構造のものが知られている。」(2頁左下欄1?12行)

ウ.「また地経糸および地緯糸等の地糸およびパイル引出し用抜緯糸としては、アクリル系繊維やポリエステル系繊維等の糸が用いられる。・・・前記地経糸および地緯糸の一方らしくは双方に、収縮性の紡績糸、例えばアクリル繊維、ポリエステル繊維からなる収縮率17?30%の糸を用い、製織後の蒸気加熱により、あるいは反染め、タンブラ乾燥によって、経緯1方向もしくは両方向に収縮せしめことにより、高密度の両面パイル織物とするのが望ましい。」(4頁左上欄18行?右上欄12行)

(3)甲3記載事項
ア.「・・・図1において10は基布であり、横糸12と縦糸14とで織成されている。横糸12と縦糸14は、それぞれ熱収縮性アクリル繊維と熱非収縮性アクリル繊維(通常のレギュラータイプのアクリル繊維、以下同じ)とを混紡してなる混紡糸である。・・・図1(イ)?(ニ)は模式的に誇張して示すが、同図(イ)のように比較的粗い織目を有する基布10は、例えば加熱水蒸気を当てればその後の自然冷却時に同図(ロ)に示すように横糸12と縦糸14は収縮し、織目は小さくなる。上記加熱水蒸気の温度範囲は約100?120℃位である。・・・」(段落【0005】)

イ.「パイル織物を製造するには、図1(イ)に示す上記加熱処理前の広い織目にフックガン(パイル植込装置)によりパイル糸16を植え込み、しかる後上記加熱水蒸気による熱処理を施こして行なう。・・・従って、パイル糸16は基布10に緻密に植え込まれた状態となり、丈夫になると共にボリューム感を増し、今までになかったような風合の異なる織物ができる。また、横糸12、縦糸14の収縮により基布10の厚さが増え、パイル糸の支持力が大きくなり、丈夫になる。さらに、従来は基布裏側でパイル糸の根元側を接着剤で固着してパイル抜け防止加工をしていたのでパイル織物自体が板状に固くなって、家庭での洗濯が困難であり、また取扱もしにくかったが、本実施例では接着剤を使用しなくてもよいので、家庭での洗濯も可能となり、取扱も容易となる。」(段落【0006】)

(4)甲4記載事項
ア.「実施例1
・・・ループ状の極細ポリブチレンテレフタレート繊維からなる立毛を有する起毛織物を得た。この織物を180℃のヒートセット後、分散染料染浴中サーキュラー液流染色機により120℃×60分の染色処理を行なった。かくして得られたスエード調起毛織物は、獣毛調のぬめり感と良好な風合を有するものであった。」(5頁左上欄8行?右上欄11行)

(5)甲5記載事項
ア.「尚図に示した蒸し室(8)は、その左右壁上部のそれぞれに案内レール(16)を水平架設し、この左右壁の案内レール(16)上に被処理織物(5)を掛け垂らす紐が張設された移動掛枠(17)を架設した場合を示している。」(2頁右下欄10?14行)

イ.「従来より被処理織物などに発色,色留を施すのに、蒸し箱の中に被処理織物を掛け垂らして蒸す蒸し処理方法が多用されている。」(3頁左上欄15行?右上欄2行)

(6)甲6記載事項
ア.「従来、パイル布帛におけるパイル繊維の糸抜けを防止するために、種々の方法が講じられている。その1つは、織物の経糸または緯糸に熱収縮糸を使用し、パイル繊維を植え込んだ後、熱処理して収縮糸を収縮させ、経糸または緯糸の密度を上げる方法であり・・・」(段落【0003】)

(7)甲7記載事項
ア.「本発明の立毛部の立毛部分の長さは、用途により異なるが0.1mm?10mmの範囲で好ましく使用できる。」(段落【0020】)

イ.「第1図は本発明の一態様であるベルベット織物の構造と製造工程を説明するための断面図である。第1図のように、2組の地経糸1、2と2組の地緯糸3、4を用いて2枚の織物が製織され、その間を毛経糸5が接結糸となって往復することによって両者が接結される。そして、製織過程で織物の幅方向に往復運動するカッター6で毛経糸5を切断することにより、2枚の向合った面に毛経糸5による毛羽が布面全面を覆ったベルベット織物7が得られる。」(段落【0027】)

(8)甲8記載事項
ア.「2.2.9 蒸熱工程(蒸し)
挿し友禅,引染め,すり込み友禅などは,加工,乾燥後吸湿させずに蒸熱するため,・・・布は蒸しわくに紐,棒,鉤及びナイロンのモノフィラメントあるいはスフ糸などで懸垂し,・・・あらかじめ蒸気を通入して予熱した蒸熱機中に入れて所定時間,蒸熱する。」(40頁左欄7行?右欄10行)

(9)甲9記載事項
ア.「2-1 一般的染色加工工程
カセの染色にはいろいろの形態がある。また糸もフィラメント糸,スパン糸,加工糸などがある。しかしその染色加工工程を大別すると,詰め込み方式のパッケージ染色機によるものと,懸垂型染色機によるものとにわけられ,その一般的な染色加工工程は右図のように理解される。」(78頁左欄1?7行)

イ.79?80頁に掲載された「2-1-2 懸垂型染色機によるカセ染め」の表から、「カセをバーに懸垂状態にかけ100℃×20?30分のスチーム処理を行う」という「バルキー出し」工程が、「精錬」、「染色」、「洗浄および水洗」、「オイリング」、「脱水」、「乾燥」といった工程に先だって行われることが看取される。

ウ.「さてアクリル繊維で作られたハイバルキー糸やコンジュゲート糸の場合は,精錬,染色に先立ってバルキー出し工程を通す。
これはごく簡単な装置で,多くの場合木製(ステンレス鋼やアルミニウム製もある)の箱を用いる。カセはバーにかけて箱の中に懸垂され,生蒸気を導入する。」(82頁右欄12?18行)

5.判断
(1)本件発明1について
ア.甲1発明
甲1記載事項(上記4.(1)ア.?タ.を参照)からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されているといえる。
《甲1発明》
パイル織編物を、精練・熱セットした後、染色加工し、脱水し、回転揉み乾燥機(例えばタンブラ-乾燥機)で加工反を揉み回転させながら乾燥する、パイル織編物の加工方法。

イ.甲1発明との対比、一致点、相違点
甲1発明の「パイル織編物」、「精練・熱セットし」、「染色加工し」、「脱水し」、「回転揉み乾燥機(例えばタンブラ-乾燥機)で加工反を揉み回転させながら乾燥する」、は、各々、本件発明1の「立毛シート」、「前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程」及び「前記立毛シートを洗浄する精練工程」、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程」、「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」、「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点》
本件発明1は、「この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程」を含むものであるのに対し、甲1発明は、そのような蒸し工程を含むものではない点。

ウ.相違点の判断
上記相違点について検討する。
本件発明1における上記「この立毛シート」とは、「前記パイル糸をカットして2枚の立毛シートを形成する切断工程」を経て得られた「2枚の立毛シート」のうちの1枚の「立毛シート」であって、「前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程」、「前記立毛シートを洗浄する精練工程」、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程」、「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」及び「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」を経る前の「立毛シート」であるといえる。
しかし、甲1には、「精練・熱セット」や「回転揉み乾燥機(例えばタンブラ-乾燥機)で加工反を揉み回転させながら乾燥する」ことに加えて、前記「精練・熱セット」、「染色加工」、「脱水」、「回転揉み乾燥機(例えばタンブラ-乾燥機)で加工反を揉み回転させながら乾燥」といった工程を経る前の「パイル織編物」を蒸す蒸し工程を備えるべきことを示唆する記載がない。
そして、甲2?甲9にも、パイル織編物の加工において、熱セット工程や乾燥工程に加えて、熱セット、精錬、染色、脱水、乾燥といった工程を経る前の「パイル織編物」を蒸す蒸し工程備えることは記載されていないし、これを示唆する記載もない。
すなわち、甲2には「製織後の蒸気加熱により、あるいは反染め、タンブラ乾燥によって、経緯1方向もしくは両方向に収縮せしめことにより、高密度の両面パイル織物とするのが望ましい。」との記載があり(上記4.(2)ウ.を参照)、甲3には「比較的粗い織目を有する基布10は、例えば加熱水蒸気を当てればその後の自然冷却時に同図(ロ)に示すように横糸12と縦糸14は収縮し、織目は小さくなる。」及び「パイル糸16を植え込み、しかる後上記加熱水蒸気による熱処理を施こして行なう。・・・従って、パイル糸16は基布10に緻密に植え込まれた状態となり、丈夫になると共にボリューム感を増し、今までになかったような風合の異なる織物ができる。」との記載がある(上記4.(3)ア.及びイ.を参照)ものの、甲2及び甲3には、「蒸気加熱」による処理や「加熱水蒸気による熱処理」を、熱セット工程や乾燥工程を経る前の「パイル織物」に施すことは記載されていないし、これを示唆する記載もない。
また、甲4には「起毛織物」を「ヒートセット後」、「染色処理」することが記載され(上記4.(4)ア.を参照)、甲5には「従来より被処理織物などに発色,色留を施すのに、蒸し箱の中に被処理織物を掛け垂らして蒸す蒸し処理方法が多用されている」ことが記載され(上記4.(5)イ.を参照)、甲6には「パイル布帛におけるパイル繊維の糸抜けを防止するため」に、「織物の経糸または緯糸に熱収縮糸を使用し、パイル繊維を植え込んだ後、熱処理して収縮糸を収縮させ、経糸または緯糸の密度を上げる方法であ」ることが記載され(上記4.(6)ア.を参照)、甲7には「2組の地経糸1、2と2組の地緯糸3、4を用いて2枚の織物が製織され、その間を毛経糸5が接結糸となって往復することによって両者が接結され」、「製織過程で織物の幅方向に往復運動するカッター6で毛経糸5を切断することにより、2枚の向合った面に毛経糸5による毛羽が布面全面を覆ったベルベット織物7が得られる」ことが記載されている(上記4.(7)イ.を参照)ものの、熱セット工程、乾燥工程を経る前の起毛織物やパイル布帛を蒸す蒸し工程を備えるべきことが記載されているわけではない。
さらに、甲8には「挿し友禅,引染め,すり込み友禅など」で,「蒸熱する」ことが記載され(上記4.(8)ア.を参照)、甲9の記載からは「懸垂型染色機によるカセ染め」において、「カセをバーに懸垂状態にかけ100℃×20?30分のスチーム処理を行う」という「バルキー出し」工程が、「精錬」、「染色」、「洗浄および水洗」、「オイリング」、「脱水」、「乾燥」といった工程に先だって行われることが看取される(上記4.(9)イ.を参照)ものの、パイル織編物の加工において、熱セット工程、乾燥工程を経る前のパイル織編物を蒸す蒸し工程を備えるべきことが記載されているわけではないし、このことが看取されるわけでもない。

したがって、甲1発明において、「精練・熱セット」、「染色加工」、「脱水」、「回転揉み乾燥機(例えばタンブラ-乾燥機)で加工反を揉み回転させながら乾燥」といった工程を経る前の「パイル織編物」を「スチーマーにより高温水蒸気で蒸す」工程を備えるようにすることは、甲1?甲9に接した当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

そして、本件発明1は、「立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程」を、「立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程」や「立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」に加えて備えることにより、本件特許明細書の段落【0008】に記載された「簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても立毛性を確実に付与することができ、特に、化粧用具の材料に適した立毛シートの製造方法を提供する」という課題を解決し、段落【0014】に記載された「簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても確実に立毛性を付与することができ、特に、化粧用具の材料に適した立毛シートの製造することができる。」及び段落【0015】に記載された「蒸し工程による湿潤下における加熱処理と、乾燥工程による湿潤下における加熱処理とが相俟って、熱可塑性繊維糸が収縮して熱履歴によって織物基布の地組織を確実に締め付けるとともに、立毛部分も収縮して熱履歴によって高い立毛性を得ることができる。」という格別な効果を奏するものである。

エ.まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲1記載事項?甲9技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-28 
出願番号 特願2016-252762(P2016-252762)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D06C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
蓮井 雅之
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6304634号(P6304634)
権利者 有限会社ブイテック
発明の名称 立毛シートの製造方法  
代理人 増田 恵美  
代理人 増田 建  
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