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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1348749
異議申立番号 異議2018-700906  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-09 
確定日 2019-02-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6321589号発明「光ファイバ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6321589号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6321589号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成27年7月17日に出願され、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年11月9日に特許異議申立人山田均は特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6321589号の請求項1ないし7に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
コアと前記コアを囲むクラッドとを備え、
前記コアは、前記コアの中心軸を含み径方向における屈折率が一定である内側コア部と、前記内側コア部に接して前記内側コア部を囲む外側コア部とを有し、
前記クラッドは、径方向における屈折率が一定であり前記コアに接する内側クラッド部と、径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部とを有し、
前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く、
前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くなり、
前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側コア部の最外周における屈折率と等しくされると共に前記外側クラッド部の屈折率以下とされ、
前記中心軸から前記外側コア部の内周までの距離をr1とし、前記中心軸から前記外側コア部の外周までの距離をrsとし、
前記中心軸から距離rにおける前記外側コア部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ(r)とし、
前記内側クラッド部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ2とする場合に、
下記式(1)で示されるSが0.1以上0.3以下とされる

ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記内側クラッド部の屈折率は前記外側クラッド部の屈折率よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記内側クラッド部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差が-0.02%以上とされる
ことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記内側クラッド部の屈折率と前記外側クラッド部の屈折率とが互いに等しい
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記Sが0.25以下とされる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記外側コア部における前記内側コア部と接する領域の前記外側クラッド部に対する比屈折率差は、0.02%以上0.12%以下とされる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
rs/r1が1.7以上とされる
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の光ファイバ。」

3 申立理由の概要
(1)特許異議申立人山田均は、主たる証拠として特開2012-133388号公報(以下、「文献1」という。)、特許第4247997号公報(以下、「文献2」という。)及び特表2013-512463号公報(以下、「文献3」という。)を提出し、従たる証拠として特開平6-235839号公報(以下、「文献4」という。)を提出し、請求項1ないし7に係る発明は特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張する。

(2)特許異議申立人山田均は、請求項1ないし7に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである旨主張する。

(3)特許異議申立人山田均は、請求項1ないし7に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである旨主張する。

4 文献の記載
(1)文献1
文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】
ダウン・ドーピングされた内側クラッディング層によって囲まれたアップ・ドーピングされたコアを含む光ファイバであって、前記ダウン・ドーピングされた内側クラッディング層は、
VADまたはOVDによってスートから得られたガラスを含む、前記コアに隣接する第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域と、
オーバークラッド・チューブから得られたガラスを含む、前記第1クラッディング領域を囲む第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域とを含むことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記ダウン・ドーピングされたクラッディング領域にはフッ素がドーピングされていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記内側クラッディング層は、
W_(D)=(D_(F)-D_(C))/2
(D_(F)は前記ダウン・ドーピングされた領域の直径、D_(C)は前記コアの直径、そしてW_(D)は12ミクロンより大きい)によって定義される幅W_(D)を有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記第1ダウン・ドーピングされたクラッディング領域の幅は少なくとも0.25W_(D)であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記第1ダウン・ドーピングされたクラッディング領域の少なくとも50%は-0.0005より負のデルタを有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記第2ダウン・ドーピングされたクラッディング領域は-0.0008より負のデルタを有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記ディプレスト・クラッディング領域の幅W_(D)の少なくとも75%は-0.0005より負のデルタを有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項8】
1383nmで0.31dB/km未満の水ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。」

イ 「【0001】
本発明は、ディプレスト・インデックス(depressed index)光ファイバの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
ディプレスト・クラッド光ファイバは、1980年代はじめに、ドーピングされたコアと、より軽くドーピングされたまたはドーピングされていない環状クラッディングとを有するファイバの代替品として開発された。たとえば、米国特許第4、439、007号を参照されたい。ディプレスト・クラッディングを使用することによって、比較的低いコア・ドーピングを有する光ファイバの製造が可能になる。これらのコアは、低い光損失を生じる。より一般的には、ディプレスト・クラッディングは、現在はよく認識されている「W」プロファイルを有する高デルタコア設計を作るために、普通のコア・ドーピング・レベルと組み合わせて使用される。ディプレスト(depressed)された内側クラッディング(inner cladding)は、ドーピングされていない外側クラッディング(outer cladding)の使用を可能にする。ディプレストされた内部クラッディングがなければ、同一の「W」プロファイルを実現するのに、ドーピングされた外側クラッディングを使用することが必要になるはずである。
【0003】
応用例が、シングルモードとマルチモードの両方のディプレスト・クラッド・ファイバについて開発され、ディプレスト・クラッド・ファイバを製造するさまざまなプロセスも、開発された、たとえば、その開示が参照によって本明細書に組み込まれている米国特許第4、691、990号を参照されたい。
【0004】
最近、非線形効果の制御が重要である光波システム用のディプレスト・クラッド・ファイバへの新たな関心があった。たとえば、DWDMネットワークが動作する1.5?1.6μm波長領域の光周波数の4波ミキシングでは、低勾配低分散ファイバが必要である。この要件を満足するファイバ構造は、1つまたは複数のダウン・ドーピング(down-doped)されたシリカを含む複数のクラッディングを有するファイバ構造である。
【0005】
ディプレスト・クラッド・ファイバを作る最も一般的な技法は、ファイバのクラッディングにフッ素またはホウ素をドーピングし、したがって、ゲルマニウムがドーピングされたコアまたは純シリカ・コアより低い屈折率を有するクラッディングを作ることである。たとえば、0.05?0.7%の範囲内の負の正規化屈折率差Δnを有するファイバが、フッ素ドーピングを使用して得られてきた。この手法は、通常、「W」インデックス・プロファイルを作るのに使用され、分散制御に望ましいことがわかっている。これらのファイバの製造は、気相軸付け(Vapor Axial Deposition:VAD)プロセスを含む標準的な製造プロセスのいずれかを使用して達成することができるが、このプロセスは、シェル領域にフッ素を選択的にドーピングするステップによって複雑になっている。フッ素は、多孔性構造に容易に拡散し、ゲルマニウムがドーピングされたコア領域へのフッ素マイグレーションを防ぐことは難しく、したがって、フッ素でカウンタ・ドーピング(counter-doped)されたコアがもたらされる。これによって、クラッドをダウン・ドーピングすることの利益が無になる。コア・カウンタ・ドーピング(core counter-doping)の効果を克服する手法は、コア内のゲルマニウムのドーピング・レベルを高めることである。しかし、コア内の高いドーピング・レベルは、増えた散乱損失につながる。
【0006】
ディプレスト・インデックス・コアまたはディプレスト・インデックス・クラッディングを有するファイバは、通常の光ファイバ製造技法のいずれかを使用して作成されてきた。これには、ロッド・イン・チューブ(RIT)プロセス、インサイド・チューブ・デポジション(inside tube deposition)プロセス、すなわち、内付け化学気相成長法(Modified Chemical Vapor Deposition:MCVD)と化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition)とプラズマ化学気相成長法(Plasma Chemical Vapor Deposition:PCVD)、及びアウトサイド・チューブ・デポジション(outside tube deposition)プロセス、すなわち、気相軸付け(Vapor Axial Deposition:VAD)および外付け気相成長法(Outside Vapor Deposition:OVD)とが含まれる。シングル・モード・ディプレスト・クラッド・ファイバについては、必要な大量のクラッディング材料に起因して、ロッド・イン・チューブ手法が好ましい場合がある。これらの光ファイバのプレフォームは、高品質低損失クラッディング・チューブを必要とする。
【0007】
上で述べた多孔性スート(soot)本体のカウンタ・ドーピングの効果は、ロッド・イン・チューブ(RIT)プロセスに有利であるようにも見えるはずである。RITプロセスでは、コアは、焼固されたロッドであり、クラッディングは、焼固されたチューブである。この場合に、フッ素イオンの移動は最小化される。というのは、すべての移動が、スート本体内で発生するはるかに高速の蒸気/固体浸透ではなく、固体/固体拡散を介するからである。しかし、ガラスのオーバークラッディング・チューブを使用するプレフォーム製造技法は汚染で損害を受ける。微量の汚染物質であっても、ガラスの透過特性に悪影響する。外側クラッディングのオーバークラッディング・チューブは効果的であり、しばしば使用されるが、内側クラッディングに関するオーバークラッディングの使用は、完全には成功していない。」

ウ「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、内側クラッディングに関する従来技術の選択は、内側クラッディング全体が時間のかかるスート堆積を用いて作られるスート法と、内側クラッディングに関するオーバークラッド・チューブの使用が損失を生じるRIT法との間にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、上で述べた問題を少なくとも部分的に克服する方法を開発した。この方法には、フッ素ドーピングされた内側クラッディングを2ステップで作成ことが含まれる。内側クラッディングの最も内側の部分はスート法を使用して作成され、これによって、ほとんどの光出力を運ぶクラッディングの領域についてスート法の利益を引き出し、その後、ロッド・イン・チューブ・ステップを使用して内側クラッディング層の残りの部分を形成する。この方法は、両方の方法の利益と不利益を効果的に密接に結合させる。」

エ 「【0012】
本発明は、少なくとも1つのディプレスト・インデックス領域を有する屈折率プロファイルを有する光ファイバの製造を対象とする。好ましい実施形態では、ディプレスト・インデックス領域は、光ファイバの内側クラッディングを含む。ディプレスト領域は、2ステップの組合せを使用して形成される。第1ステップでは、スート形成を使用して、内側クラッディング層の最も内側の部分を作り、その後、第2ステップで、RITを使用して、内側クラッディング層を完成する。これを、概略的に図1に示す。
【0013】
図1を参照すると、正規化屈折率差 対 距離として概略的にプロットされた屈折率プロファイルが、コア11、内側クラッディング12、および外側クラッディング13について示されている。内側クラッディングの、コアに隣接する部分15は、スート法を使用して形成される。内側クラッディングの部分16は、RIT法を使用して形成される。正規化屈折率差の縦座標の0点は純シリカの屈折率を表す。Δは、半径rでの屈折率と純シリカの屈折率との間の差として定義される。
Δ=(n(r)-n_(SiO2))/n_(SiO2)
ただし、n(r)は半径方向位置の関数としての屈折率であり、n_(SiO2)は純シリカの屈折率である。コアは正のΔを有し、内側クラッディングは負のΔを有し、外側クラッディング13は0のΔを有する。通常、外側クラッディング領域13はシリカ・チューブを使用して形成される。
【0014】
コア11および最も内側のクラッディング領域15は、好ましくはVADを使用して準備される。図2を参照すると、VAD法を使用してスートブール(soot boule)を引っ張る概略配置が示されている。全体的に21に示されたスートブールは、支持ロッド22の周囲に形成される。ロッドは、矢印によって示されるように、引張り中に回転される。この回転は、プレフォーム組成内のx-y変動を最小にする。x軸、y軸、およびz軸は、プレフォームの左側に図示されている。スートブールは、クラッディング部分24およびコア部分25を含む。」

オ 「【0021】
ディプレスト・クラッディング層12の第2部分16は、RIT法を使用して形成される。このチューブは、前に説明したように、フッ素がドーピングされたシリカ・チューブである。フッ素チューブ内のドーピングのレベルは、少なくとも、最も内側のクラッディング領域15の屈折率と同程度に負である、ガラス・チューブの屈折率をもたらすように選択される。このチューブ内のドーピング・レベルは、傾斜付きとすることができるが、通常は均一である。」

カ 「【0026】
本発明の原理を上で説明したように実例説明したが、本発明による光ファイバ屈折率プロファイルの特定の設計を図6に示す。コアは、約0.0035のΔを有する、Geがドーピングされたシリカである。ディプレスト・クラッディングの最も内側の部分は、SiCl_(4)およびCF_(4)を使用して作成され、図示の深いディプレスト領域をもたらす。ディプレスト・クラッディングのうちでスート堆積によって作られた部分は、光ファイバの中心から約13μまで延びる。スート堆積された内側クラッディング領域のΔは、約-0.0003から約-0.0008まで変化する。ディプレスト・クラッディングの残りの部分は、約13ミクロンから約23ミクロンまで延びるが、フッ素ドーピングされたオーバークラッド・チューブを用いて作られる。コア(11)の直径に対する内側クラッディング(12)の直径の比は、約5であり、通常は3?8までの範囲にわたる。
【0027】
本発明の2ステップ・クラッディング形成プロセスの使用は、非常に幅広く非常に深いディプレスト・インデックス領域の製造を可能にする。図6のディプレスト・インデックス領域は、約19ミクロン幅であり、大部分が-0.0008より負のディプレスト・インデックスを有する。ディプレスト・インデックス領域の幅WDは、
W_(D)=(D_(F)-D_(C))/2
として表すことができ、ここで、D_(F)は、Fドーピングされた領域の直径(図6では約46ミクロン)であり、D_(C)は、コアの直径(図6では約8ミクロン)である。
【0028】
最も内側のクラッディングにスートから得られるガラスを使用することの重要な利益は、高い品質、即ち、伝搬する波の光出力エンベロープの外側領域での低損失ガラスをもたらすことであるから、ディプレスト・クラッディングのスートから得られる部分の幅は、かなりのもの、すなわち、少なくとも0.25W_(D)、好ましくは少なくとも約0.5W_(D)であることが好ましい。また、好ましい事例で、スートから得られるガラス・ディプレスト・インデックス・内側クラッディング・ガラスの幅の少なくとも50%が、-0.0005より負のΔを有する。チューブから得られるガラスの本質的にすべてが、-0.0005より負のΔを有することも好ましい。これらの特性を組み合わせると、ディプレスト層の幅W_(D)の少なくとも75%が、-0.0005より負のΔを有するようになる。」

キ 文献1の図1は、次のとおりのものである。


ク 文献1の図2は、次のとおりのものである。


ケ 文献1の図6は、次のとおりのものである。


ケ 図1、図6に示された光ファイバの屈折率分布において、中心のコアは一定の屈折率を有しておらず、上に凸又は径方向に変動する屈折率を有している。また、上記オの記載において、内側クラッディング領域は、請求項1の記載においては、前記コアに隣接する第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域に対応するものであり、上記カの記載において、ディプレスト・クラッディングの残りの部分は、請求項1の記載における、第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域に対応していることを踏まえ、図6及び上記カの記載から、その第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差を基準としたときの第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率との差分を内側クラッド領域の内周から外周までの距離で積分した値Sを%μmを単位として概算すると、(13(光ファイバの中心から第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の外周までの距離)-4(=8÷2、コアの直径の2分の1であり、コアの半径である))×(-0.03(-0.0003の%表示)+0.08(-0.0008の%表記×-1))÷2=約0.23となる。

したがって、文献1の上記記載事項及び図面に示された事項から、文献1には次の発明(以下、「文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ダウン・ドーピングされた内側クラッディング層によって囲まれたアップ・ドーピングされたコアを含み、外側クラッディングを含む光ファイバであって、
前記ダウン・ドーピングされた内側クラッディング層は、VADまたはOVDによってスートから得られたガラスを含む、前記コアに隣接する第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域と、オーバークラッド・チューブから得られたガラスを含む、前記第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域を囲む第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域とを含み、
前記コアは、一定の屈折率を有しておらず、上に凸又は径方向に変動する屈折率を有し、約0.0035の正規化屈折率差を有し、
前記コアの直径は約8ミクロンであり、
前記第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域は、光ファイバの中心から約13ミクロンまで延び、
前記第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差は、約-0.0003から約-0.0008まで変化し、
前記第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域は、約13ミクロンから約23ミクロンまで延び、
第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差を基準としたときの第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差との差分を内側クラッド領域の内周から外周までの距離で積分した値Sは%μmを単位として約0.23であり、
外側クラッディングは0の正規化屈折率差を有する、
光ファイバ。」

(2)文献2
文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
光ファイバであって、
外部クラッド領域の屈折率に対して正の屈折率を有するようドープされたコア領域と、
前記コア領域を取り囲む体積増加領域とを含み、前記体積増加領域は、前記外側クラッド領域の屈折率に等しい屈折率の外周から前記コア領域の屈折率よりも実質的に低い屈折率の内周に向かって上方に傾斜する屈折率を有するようにドープされ、前記ファイバの屈折率体積を増加するものであり、さらに、
前記体積増加領域を取り囲むカットオフ低減領域を含み、前記カットオフ低減領域は、前記外側クラッド領域の屈折率に対して負の屈折率を有するようドープされ、前記体積増加領域に起因する前記ファイバのカットオフ波長の増加を相殺することを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記カットオフ低減領域は階段状の屈折率プロファイルを有することを特徴とする請求項1に記載のファイバ。
【請求項3】
前記カットオフ低減領域は、異なる屈折率を有する内側部分と外側部分とを有することを特徴とする請求項2に記載のファイバ。
【請求項4】
前記カットオフ低減領域の前記外側部分が前記内側部分より多くドープされていること
を特徴とする請求項3に記載のファイバ。
【請求項5】
前記体積増加領域がゲルマニウムでドープされ、そして前記カットオフ低減領域がフッ素でドープされていることを特徴とする請求項1に記載のファイバ。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一態様に従う光ファイバは、所望のカットオフ波長を維持する一方で、低減されたスプライス損失を示す。以下に詳細に記述するように、そのようなファイバは、そのファイバのモードフィールド直径(MFD)がスプライスに際して拡張された場合に、一般的にテーパー損失を低減する、より良く限定されたモードフィールドを有する。本発明は、標準シングル・モード・ファイバ(SSMF)にスプライスされたエルビウム・ドープ・ファイバEDFに関して記述されるにもかかわらず、本発明の精神から離れることなく他のファイバおよび他のスプライスの組合せについても本発明が用いられてもよい。これらの他のファイバおよび他のスプライスの組合せは、例えば以下を含む:ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)等の他の微量添加物をドープしたファイバ;高度に非線形のファイバ;拡散補償モジュール(DCM)の製造時に用いられる中間ファイバ。
【0010】
EDFおよび他の型式のファイバをSSMFにスプライスする困難は、ステップ・インデックス・プロファイル特性の場合を維持する、以下の考察により、理解されることができる。そのようなファイバのカットオフは、コア半径rおよびクラッド指数に対する屈折率の変化Δnに依存する。
カットオフ∝r*(Δn)^(1/2)
理想的な場合、スプライス点におけるEDFのΔnおよびrは、SSMFのΔnおよびrと同一である。Δnおよび微量添加物の濃度が比例しており、拡張されるプロファイルが階段状であり、かつSSMFはスプライス後に変化しないと仮定すると、EDFの屈折率体積Δn*r^(2)は以上の仮定により保存されるので、EDFとSSMFのカットオフの間に以下の関係が得られる:
カットオフ(EDF)-カットオフ(SSMF)
このように、従来技術のEDFをSSMFにスプライスする場合に、2つのファイバのモードフィールド直径を適合させるために必要な熱コア拡散は、スプライス領域内のEDFのカットオフをほぼSSMFのカットオフに近似させる。しかしながら、典型的なSSMFのカットオフは1250nmであり、これはある種の用途におけるEDFへの期待値からほど遠い。
【0011】
図1は、縮尺は正しくないが、本発明の第1の態様による光ファイバ10の断面を示す。図2は、ファイバ10のモデル的な屈折率プロファイル(RIP)20を示す。図1に示されるように、ファイバ10は複数の領域:中央コア領域12、およびコア領域12を同心の層で取り囲む、第1、第2、第3のクラッド領域14、16、18を含む。図2に示されるRIP20は、ファイバ10の屈折率Δnの直径方向の変化を示す。
【0012】
RIP20において、中央の突起22はファイバのコア領域12に対応する。中央の突起22の左右の2つの傾斜領域24は、第1クラッド層14に対応する。傾斜領域24の左右の2つの溝26は、第2クラッド層16に対応する。溝26の左右の2つの平坦領域28は、第3クラッド層18に対応する。
【0013】
RIP20において、屈折率Δnの変化は、外側のクラッド層18の屈折率に言及される。こうしてRIP20の左右の2つの平坦領域28に対応する第3クラッド層18は、0.0のΔnを有する。RIP20に示されるように、図1に示されるファイバ10の第1クラッド層14は、ファイバ・モードフィールドの体積を増加させる正のΔnを有し、以下では「体積増加領域」と呼ばれる。RIP20に示されるように、体積増加領域14の屈折率は傾斜している。本発明の一態様によれば、体積増加領域14のΔnはその領域の外側の環境からその領域の内側の環境のより高い値まで、線形に増加する。体積増加領域14の屈折率の形状は、変更することができる。例えばその形状は、MFDがファイバの軸に沿って徐々に拡張される場合、テーパー損失が最少になるように最適化することができる。
【0014】
第2クラッド層16は、ファイバのカットオフ波長を低減する負のΔnを有し、以下では「カットオフ低減領域」と呼ばれる。以上に議論したように、屈折率体積の増加はファイバのカットオフ波長を増加させがちである。カットオフ低減領域16は、体積増加領域14に起因するファイバのカットオフの増加を相殺する。こうして、この本発明の他の態様によれば、体積増加領域14およびカットオフ低減領域16は、所望のカットオフ波長を維持しながら、ファイバの屈折率体積を増加させるために組み合わせられる。さらに、以下で議論するように、図1に示されるファイバのデザイン10はまた、広範なスプライス条件の元で改善されたスプライス品質を示す。
【0015】
図3は、図1に示されるファイバのデザイン10を採用した、試作品のファイバのRIP30を示す。RIP30は、ファイバのコア12に対応する中央の突起32、体積増加領域14に対応する1対の傾斜肩34、カットオフ低減領域16に対応する1対の溝36およびファイバ10の外部クラッド18に対応する1対の平坦領域38を含む。
【0016】
試作品のファイバは、修正された化学気相成長(MCVD)技術を用いて製造された。しかしながら本発明の精神から離れることなく、他の製造技術が用いられうる。これらの他の技術は、気相軸成長法(VAD)、外部気相成長法(OVD)または溶液ドープ法を含む。本発明によるファイバの製造に用いるのに好適なMCVD技術の例は、本発明の出願人に譲渡され、参考としてここに添付された、タンカラの米国特許第6,578,387号に記載されている。MCVDでは、所望の外部クラッド材料で製造された、中空外部チューブが、レーズその他の適宜の装置に回転可能に取り付けられる。中空チューブが回転されるにつれ、チューブの裏面の全長にわたってバーナが前進後退する中を、一連の化学気体がチューブを通って流れるようにされる。これらの化学薬品は、例えば、O_(2)、SiCl_(4)、GeCl_(4)等を含む。トーチにより加えられた熱は、チューブの内部に一連の層となって気体が堆積するようにさせる。各々の層の屈折率は、堆積されるSiO_(2)と微量添加物の相互の比率により決定される。成長プロセスが完了すると、チューブはより高い温度、より低い気圧で加熱され、チューブおよび堆積された化学薬品が固体プリフォームになるようにする。プリフォームは引き出し塔に装填され、加熱され引き出されて、光ファイバになる。」

ウ 文献2の図2は、次のとおりのものである。


エ 文献2の図3は、次のとおりのものである。


オ 文献2の図2において、コア領域2、請求項1の記載におけるカットオフ低減領域に対応する、1対の溝36、及び、請求項1の記載における外側クラッド領域に対応する、溝26の左右の2つの平坦領域28は、一定の屈折率を有していることが示されている。

カ 文献2の図3において、縦軸に「Δn×0.01」と記載されている。文献2の上記ウの記載において、Δnはクラッド指数に対する屈折率の変化とされており、このΔnは比屈折率差に比例するものであるとは思われるが、具体的にどのような数値であるのかは不明であるから、この図3から具体的な比屈折率の数値を読み取ることはできない。なお、仮に、文献2におけるΔnが比屈折率差の値を意味しており、図3のグラフがΔn×0.01をそのまま示しているとすると、コア領域における比屈折率差の値が25%となって現実的でない値となり、体積増加領域14に対応する1対の傾斜肩34の部分における比屈折率差の差分を積分した値Sはμm%で表して0.3を大きく上回ることとなる。また、図3の「Δn×0.01」が誤記である可能性もあるが、これが誤記であるとして、実際の比屈折率差の値との関係でどのような比率で図3が書かれているのかを文献2の発明の詳細な説明から把握することはできない。

したがって、文献2の上記記載事項及び図面に示された事項から、文献2には次の発明(以下、「文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

「一定の屈折率を有する外側クラッド領域の屈折率に対して正の屈折率を有するようドープされ、一定の屈折率を有するコア領域と、
前記コア領域を取り囲む体積増加領域とを含み、前記体積増加領域は、前記外側クラッド領域の屈折率に等しい屈折率の外周から前記コア領域の屈折率よりも実質的に低い屈折率の内周に向かって上方に傾斜する屈折率を有するようにドープされ、前記ファイバの屈折率体積を増加するものであり、さらに、
前記体積増加領域を取り囲むカットオフ低減領域を含み、前記カットオフ低減領域は、前記外側クラッド領域の屈折率に対して負の屈折率を有するようドープされ、一定の屈折率を有し、前記体積増加領域に起因する前記ファイバのカットオフ波長の増加を相殺する、
光ファイバ。」

(3)文献3
文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
コアおよびクラッディングを含む、光導波ファイバであって、
前記コアが、%単位で表わされる相対屈折率プロファイルΔ(r)を有し、かつ、該コアが、初期点r_(i)および最終点r_(f)を有し、アルファ(α)が2.5より大きく3.0未満であるアルファプロファイル、最大相対屈折率Δ_(1MAX)、および外半径R_(1)を含み、
前記コアおよび前記クラッディングが、1310nmの波長における0.331dB/km未満の減衰、1383nmの波長における0.328dB/km未満の減衰、1410nmの波長における0.270dB/km未満の減衰、および1550nmの波長における0.190dB/km未満の減衰を有するファイバを提供する、
光導波ファイバ。
【請求項2】
0.30%<Δ_(1MAX)<0.40%であることを特徴とする請求項1記載の光導波ファイバ。
【請求項3】
前記コアおよび前記クラッディングが、1310nmの波長における0.325dB/km未満の減衰、1383nmの波長における0.323dB/km未満の減衰、1410nmの波長における0.264dB/km未満の減衰、および1550nmの波長における0.186dB/km未満の減衰を有するファイバを提供することを特徴とする請求項1記載の光導波ファイバ。
【請求項4】
2.6<アルファ(α)<2.9であることを特徴とする請求項1記載の光導波ファイバ。」

イ 「【0002】
本開示は、一般に光ファイバに関し、特に、低い減衰を有する単一モード光ファイバに関する。
【背景技術】
【0003】
さまざまな用途に適した、ITU-T G.652などの工業規格を満たす単一モード光ファイバに対する需要は増加の一途をたどっている。しかしながら、減衰および曲げ損失などの光ファイバの特性は、このようなファイバの信号劣化の一因となる。結果として、減衰および曲げ損失を低下させることに関し、大きな商業的関心が寄せられている。」

ウ 「【0010】
「屈折率プロファイル」とは、屈折率または相対屈折率と導波管ファイバの半径との関係である。
【0011】
「相対屈折率パーセント」は、Δ%=100×(n_(i)^(2)-n_(c)^(2))/2n_(i)^(2)として定義され、ここで、n_(i)は、他に特に規定されない限り、領域iにおける最大屈折率であり、n_(c)は、クラッディングの最外領域の平均屈折率である。本明細書では、相対屈折率はΔで表わされ、その数値は、他に特に規定されない限り、単位「%」で与えられる。」

エ 「【0015】
「α-プロファイル」または「アルファプロファイル」とは、「%」単位のΔ(r)で表した相対屈折率プロファイルを意味し(rは半径)、次式に従う:
【数2】

【0016】
ここで、r_(o)は、が最大値であるアルファプロファイルに沿った点であり、r_(1)はΔ(r)が最小値であるアルファプロファイルに沿った点であり、rは、r_(i)<r<r_(f) の範囲にあり、ここで、Δは先に定義された通りであり、r_(i)はα-プロファイルの初期点であり、r_(f)はα-プロファイルの最終点であり、αは実数の指数である。」

オ 「【0025】
本明細書に開示される実施の形態に従って、図1に示すように、光導波ファイバ10は、コア12、および、コア12を取り囲む少なくとも1つのクラッディング14を備える
。好ましい実施の形態では、クラッディング14は純シリカであり、コア12は1種類以上のドーパントをドープされたシリカである。特に好ましい実施の形態では、コア12は、所望の相対屈折率変化を得るためにGeなどの屈折率上昇ドーパントをドープされる(例えば、3.5?4.2モル%のGe)。コア12はまた、ホウ素またはフッ素など1種類以上の屈折率低下ドーパントを随意的にドープされて差し支えない。好ましくは、コア12の直径は、約9?約16μmの範囲で変化する。好ましくは、光ファイバ10のクラッディング14の外径は約125μmである。好ましくは、クラッディング領域14は、少なくとも約40μmの外半径を有する。慣例として、ファイバは、ポリマーコーティング16および18の層でコーティングされて差し支えない。
【0026】
光導波ファイバ10のコア12は、中心線から半径R_(1)に至るまで半径方向に外側に伸び、最大相対屈折率パーセントΔ_(1MAX)を有する、%単位で表わされる相対屈折率プロファイルΔ(r)を有する。R_(1)は、Δ(r)が最初にΔ_(1MAX)から半径方向に外側に向かって0.02%の位置に達する場合の半径において生じるように定義される。」

カ 「【0029】
本明細書に開示される光ファイバの追加の典型的な実施の形態の屈折率プロファイルは、図3に、24(プロファイル2)、26(プロファイル3)、28(プロファイル4)、および30(プロファイル5)として示されている。図3に示される実施の形態のプロファイルパラメータが表3に記載されている。
【表3】

【0030】
図3に示される実施の形態のモデル化(予測)性能パラメータが表4に記載されている。表4に記載される減衰値は、以下に詳細に説明する処理区域にファイバを通過させる工程を含む、処理方法から得られた予測値である。
【表4】



キ 文献3の図3は、次のとおりのものである。


ク 図3に対応する上記ウの記載中の【表3】及び【表4】から、図3において示されている、光導波路ファイバの屈折率プロファイルにおいて、アルファは2.62という値が取られ、コアの半径は約4μm、コアにおいてクラッディングに接する領域の相対屈折率パーセントは0.202?0.330、クラッディングにおいてコアと接する領域の相対屈折率パーセントは0.051?0.056とされていることがわかる。図3において、約4μmの半径のコアの外側から徐々に低くなる屈折率を有する領域がクラッディング内において径方向に約12μmまで続いていることが読み取れる。このクラッディング内において径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域における相対屈折率パーセントを径方向の距離で積分した値Sを%μmを単位として概算すると、(12-4)×0.051÷2=約0.20?(12-4)×0.056=約0.22となる。

したがって、文献3の上記記載事項及び図面に示された事項から、文献3には次の発明(以下、「文献3発明」という。)が記載されていると認められる。

「コアおよびクラッディングを含む、光導波ファイバであって、
前記コアが、%単位で表わされる相対屈折率プロファイルΔ(r)を有し、かつ、該コアが、初期点r_(i)および最終点r_(f)を有し、アルファ(α)が2.5より大きく3.0未満であるアルファプロファイル、最大相対屈折率Δ_(1MAX)、および外半径R_(1)を含み、
前記コアおよび前記クラッディングが、1310nmの波長における0.331dB/km未満の減衰、1383nmの波長における0.328dB/km未満の減衰、1410nmの波長における0.270dB/km未満の減衰、および1550nmの波長における0.190dB/km未満の減衰を有するファイバを提供し、
前記アルファプロファイルとは、「%」単位のΔ(r)で表した相対屈折率プロファイルを意味し(rは半径)、次式に従い、

アルファは2.62という値が取られ、コアの半径は約4μmとされ、
前記コアの外側から前記クラッディング内において径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域が約12μmまで続き、
前記コアにおいて前記クラッディングに接する領域の相対屈折率パーセントは0.202?0.330、前記クラッディングにおいて前記コアと接する領域の相対屈折率パーセントは0.051?0.056とされ、
前記径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域における相対屈折率パーセントを径方向の距離で積分した値Sは%μmを単位として約0.20?0.22である、
光導波ファイバ。」

(4)文献4
文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 コア領域とクラッド領域を有し、前記コア領域は外側コア領域よりも高い屈折率デルタを有する内側コア領域を具備し、前記コア領域とクラッド領域との間の拡散テ-ルのサイズが数1によって決定されるように0.006μm^(2)以下であり、
【数1】

ただし、r_(c)は前記コア領域の最外側エッジにおける屈折率デルタが前記外側コア領域の屈折率デルタの半分に等し点によって定義されるコア半径である光導波通路ファイバ。」

イ 「【0016】図2はステップインデックス型単一モ-ド光導波通路ファイバ(曲線20)と本発明に従って作成された低曲げ損失単一モ-ド光導波通路ファイバ(曲線21)の屈折率分布を示している。図2は%Δをファイバの半径の関数として示している。%Δはクラッド領域の屈折率に対するコア領域の屈折率の百分率差である。
【0017】図2の曲線20で示されたステップインデックス型単一モ-ド・ファイバ屈折率分布は全コア半径r_(c)に対してほぼ一定の%Δである。ステップインデックス型単一モ-ド・ファイバ屈折率分布はファイバのコア領域とクラッド領域との間の境界面における拡散テ-ルをも示している。この拡散テ-ルは製造時におけるコア領域とクラッド領域との間におけるド-パントの拡散によって生じ、かつそれはすべてのファイバ製造方法において回避するのが困難である。SiO_(2)をベ-スとしたファイバは典型的にSiO_(2)クラッド領域の屈折率に対してコア領域の屈折率を増大させるためにコア領域にGeO_(2)を含んでいる。コアおよびクラッド領域の境界面の近傍におけるGeO_(2)の一部分はファイバの製造時にコア領域からクラッド領域内に拡散しうる。この拡散はコア領域とクラッド領域との間の境界面の近傍におけるクラッド領域の部分の屈折率を増加させる。ファイバの中心近傍における%Δの落込みはファイバを製造するために用いられる方法のア-チファクトである。図2において曲線21で示された本発明の低曲げ損失分布は、増大した%Δの内側コア領域22(r_(i)の半径まで)、外側コア領域23(r_(o)の半径まで)、減少した%Δの任意のリング24(r_(o)からr_(c)まで)、そしてコア領域とクラッド領域との間の境界面における減少した拡散テ-ル25を含んでいる。r_(c)は、本発明に従って作成されたファイバにおいて、リング屈折率デルタを除いて、屈折率Δが外側コア屈折率デルタの半分に等しい値に達するコア領域とクラッド領域との間の境界面近傍の点として定義される。内側コア領域におけるより高い%Δは、λ_(C)がほんの少し(約3nm)増加してもMFDを低下させる。図2では内側コア・デルタはほぼ直線的に減少するものとして示されているが、内側コア・デルタは一定であってもあるいは直線的以外の態様で減少されてもよい。このようなグラジエント分布(gradient profile)を形成するように内側コア・デルタを減少させることが好ましい。なぜなら、そのような分布設計は作成が容易であるからである。減少された拡散テ-ルはλ_(C)を低下させる。コア領域の外側エッジにおけるより高い%Δを有する任意のリングは、内側コア領域における増大された%Δによる導波路拡散から生ずるλ_(0)の増加を打消すために用いられる。ファイバの中心近傍における%Δの落込みは、ファイバを作成するために用いられた外付け法(OVD)によって生じた現象(artifact)であり、それは本発明にとっては重要ではない。」

ウ 文献4の図2は、次のとおりのものである。


5 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 請求項1に係る発明について
(ア)文献1発明との対比
請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と文献1発明を対比する。

a 文献1発明の「光ファイバ」は、本件発明の「光ファイバ」に相当する。文献1発明の「コア」は、光ファイバのコアの中心軸を含む最も内側のコアであるから、本件発明の「内側コア部」に相当する。文献1発明の「正規化屈折率差」は、本件発明の「比屈折率差」に相当する。文献1発明の「第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域」は、コアに隣接するものであるから、本件発明の「前記内側コア部に接して前記内側コア部を囲む外側コア部」に相当する。文献1発明の「オーバークラッド・チューブから得られたガラスを含む、前記第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域を囲む第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域」は、第1クラッディング領域を囲むものであるから、本件発明1の「前記コアに接する内側クラッド部」に相当する。文献1発明の第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域は、約13ミクロンから約23ミクロンまで延び、第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域と異なり、変化する正規化屈折率差を有していないから、文献1発明も、本件発明の「径方向における屈折率が一定であり前記コアに接する内側クラッド部」という構成を有しているといえる。文献1発明の「外側クラッディング」は、最も外側に設けられているクラッディングであるから、本件発明の「前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部」に相当する。文献1発明の外側クラッディングの正規化屈折率差は0であるから、径方向における屈折率は一定であり、文献1発明も、本件発明の「径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部」という構成を有しているといえる。そして、文献1発明の「コア」及び「第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域」は合わせて、本件発明の「コア」に相当し、文献1発明の「オーバークラッド・チューブから得られたガラスを含む、前記第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域を囲む第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域」及び「外側クラッディング」は合わせて、本件発明の「クラッド」に相当する。

b 文献1発明において、第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差は、「約-0.0003から約-0.0008まで変化」するものであり、コアの正規化屈折率差は、「約0.0035」であり、コアは、一定の屈折率を有しておらず、上に凸又は径方向に変動する屈折率を有し、約0.0035の正規化屈折率差を有するものであるが、コアにおいて第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域に接する領域におけるコアの正規化屈折率差の変化は負となるほどのものではなく、第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域に接する領域におけるコアの正規化屈折率差は、第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差よりも高くなっており、文献1発明も、本件発明の「前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く」なっているという構成を有しているといえる。

c 第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差は、「約-0.0003から約-0.0008まで変化し」するものであり、この正規化屈折率差は内周から外周に徐々に変化するものであるから、文献1発明も、本件発明1の「前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くな」るという構成を有しているといえる。

d 第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差は、「約-0.0003から約-0.0008まで変化し」て、このような変化により、その最外周における屈折率は、第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の屈折率と等しくなっている。また、第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域の正規化屈折率差も負であるから、その屈折率は、0の正規化屈折率差を有する外側クラッディングの屈折率以下とされている。これらから、文献1発明も、本件発明1の「前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側コア部の最外周における屈折率と等しくされると共に前記外側クラッド部の屈折率以下とされ」ているという構成を有しているといえる。

e 文献1発明の「S」は本件発明の「S」に相当し、文献1発明の「S」は約0.23であるから、0.1以上0.3以下となっている。

したがって、本件発明と文献1発明を対比したときの一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「コアと前記コアを囲むクラッドとを備え、
前記コアは、前記コアの中心軸を含む内側コア部と、径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部とを有し、
前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く、
前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くなり、
前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側コア部の最外周における屈折率と等しくされると共に前記外側クラッド部の屈折率以下とされ、
前記中心軸から前記外側コア部の内周までの距離をr1とし、前記中心軸から前記外側コア部の外周までの距離をrsとし、
前記中心軸から距離rにおける前記外側コア部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ(r)とし、
前記内側クラッド部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ2とする場合に、
下記式(1)で示されるSが0.1以上0.3以下である、

光ファイバ。」

[相違点1]
本件発明1において、内側コア部は、「径方向における屈折率が一定である」のに対し、文献1発明においては、コアは、「一定の屈折率を有しておらず、上に凸又は径方向に変動する屈折率を有し」ている点。

そして、上記相違点1を実質的なものでないとすることはできないから、本件発明は引用文献1に記載されたものではない。

また、請求項2ないし7は、請求項1の従属請求項であることから、本件発明の構成を全て含む請求項2ないし7に係る発明も、引用文献1に記載されたものではない。

(イ)文献2発明との対比
本件発明と文献2発明を対比する。

a 文献2発明の「光ファイバ」は、本件発明の「光ファイバ」に相当する。文献2発明の「コア領域」は、光ファイバのコアの中心軸を含む最も内側のコア領域であるから、本件発明の「内側コア部」に相当する。文献2発明のコア領域は、一定の屈折率を有しているから、文献2発明も、本件発明の「屈折率が一定である内側コア部」という構成を有しているといえる。文献2発明の「体積増加領域」は、コア領域を取り囲むものであるから、本件発明の「前記内側コア部に接して前記内側コア部を囲む外側コア部」に相当する。文献2発明の「カットオフ低減領域」は、体積増加領域を取り囲むものであるから、本件発明の「前記コアに接する内側クラッド部」に相当する。文献2発明のカットオフ低減領域は、一定の屈折率を有しているから、文献2発明は、本件発明の「径方向における屈折率が一定であり前記コアに接する内側クラッド部」という構成を有しているといえる。文献2発明の「外部クラッド領域」は、最も外側に設けられているクラッド領域であるから、本件発明の「前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部」に相当する。文献2発明の外側クラッド領域は、一定の屈折率を有しているから、文献2発明も、本件発明の「径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部」という構成を有しているといえる。そして、文献2発明の「コア領域」及び「体積増加領域」は合わせて、本件発明の「コア」に相当し、文献2発明の「カットオフ低減領域」及び「外側クラッド領域」は合わせて、本件発明の「クラッド」に相当する。

b 文献2発明において、体積増加領域は、「外側クラッド領域の屈折率に等しい屈折率の外周から前記コア領域の屈折率よりも実質的に低い屈折率の内周に向かって上方に傾斜する屈折率を有する」から、コア領域の体積増加領域に接する領域の屈折率は、体積増加領域の屈折率より高くなっており、体積増加領域においてコア領域に接する内周から外周に向って見たときには屈折率は徐々に低くなっているといえ、文献2発明も、本件発明の「前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く」、「前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くな」るという構成を有しているといえる。

c 文献2発明において、カットオフ低減領域は、「前記外側クラッド領域の屈折率に対して負の屈折率を有する」から、文献発明2も、本件発明の「前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側クラッド部の屈折率以下とされ」るという構成を有しているといえる。

したがって、本件発明と文献2発明を対比したときの一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
コアと前記コアを囲むクラッドとを備え、
前記コアは、前記コアの中心軸を含み径方向における屈折率が一定である内側コア部と、前記内側コア部に接して前記内側コア部を囲む外側コア部とを有し、
前記クラッドは、径方向における屈折率が一定であり前記コアに接する内側クラッド部と、径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部とを有し、
前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く、
前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くなり、
前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側クラッド部の屈折率以下とされる、
光ファイバ。」

[相違点2]
本件発明においては、「前記中心軸から前記外側コア部の内周までの距離をr1とし、前記中心軸から前記外側コア部の外周までの距離をrsとし、前記中心軸から距離rにおける前記外側コア部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ(r)とし、前記内側クラッド部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ2とする場合に、下記式(1)で示されるSが0.1以上0.3以下とされる

」のに対し、文献2発明では、Sに相当する比屈折率差の積分の値が不明である点。

[相違点3]
本件発明においては、「前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側コア部の最外周における屈折率と等しくされる」のに対し、文献2発明ではそうなっていない点。

そして、上記相違点2及び3を実質的なものでないとすることはできないから、本件発明は文献3に記載されたものではない。

また、請求項2ないし7は、請求項1の従属請求項であることから、本件発明の構成を全て含む請求項2ないし7に係る発明も、引用文献2に記載されたものではない。

(ウ)文献3発明との対比
本件発明と文献3発明を対比する。

a 文献3発明の「光導波路ファイバ」は、本件発明の「光ファイバ」に相当する。文献3発明の「コア」は、光ファイバのコアの中心軸を含む最も内側のコアであるから、本件発明の「内側コア部」に相当する。文献3発明の「相対屈折率パーセント」は、本件発明の「比屈折率差」に相当する。文献3発明の「前記クラッディング内において径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域」は、コアの外側から続くものであって、コアと接しているから、本件発明の「前記内側コア部に接して前記内側コア部を囲む外側コア部」に相当する。文献3発明の「前記クラッディング内において径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域」は、径方向に徐々に低くなる屈折率を有しているから、文献3発明も、本件発明1の「前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くな」るという構成を有しているといえる。そして、文献3発明の「コア」及び「前記クラッディング内において径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域」を合わせたものは、本件発明の「コア」に相当し、文献3発明の「クラッディング」において「前記クラッディング内において径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域」を除く領域は、この径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域に接して光導波路ファイバの最も外側まで続くものであるから、本件発明1の「クラッド」に相当し、「前記コアに接する内側クラッド部」及び「前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部」を合わせたものにも相当する。文献1発明のクラッディングにおいて径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域を除く領域は、徐々に低くなる屈折率を有していないことから、一定の屈折率を有し、径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域と接する領域の屈折率と径方向に徐々に低くなる屈折率を有する領域の最外周における屈折率とは等しくなっていることから、文献3発明は、本件発明の「径方向における屈折率が一定であり前記コアに接する内側クラッド部」、「径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部」及び「前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側コア部の最外周における屈折率と等しくされると共に前記外側クラッド部の屈折率以下とされ」るという構成も有しているといえる。

b 文献3発明において、「前記コアにおいて前記クラッディングに接する領域の相対屈折率パーセントは0.202?0.330、前記クラッディングにおいて前記コアと接する領域の相対屈折率パーセントは0.051?0.056とされ」ていることから、文献3発明も、本件発明の「前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く」なっているという構成を有しているといえる。

c 文献3発明の「S」は本件発明の「S」に相当し、文献発明1の「S」は約0.20?0.22であるから、0.1以上0.3以下となっている。

したがって、本件発明と文献3発明を対比したときの一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「コアと前記コアを囲むクラッドとを備え、
前記コアは、前記コアの中心軸を含む内側コア部と、径方向における屈折率が一定であり前記内側クラッド部に接して前記内側クラッド部を囲む外側クラッド部とを有し、
前記内側コア部における前記外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く、
前記外側コア部の屈折率は、前記内側コア部に接する内周から前記外側コア部に接する外周まで徐々に低くなり、
前記内側クラッド部の屈折率は、前記外側コア部の最外周における屈折率と等しくされると共に前記外側クラッド部の屈折率以下とされ、
前記中心軸から前記外側コア部の内周までの距離をr1とし、前記中心軸から前記外側コア部の外周までの距離をrsとし、
前記中心軸から距離rにおける前記外側コア部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ(r)とし、
前記内側クラッド部の前記外側クラッド部に対する比屈折率差をΔ2とする場合に、
下記式(1)で示されるSが0.1以上0.3以下である、

光ファイバ。」

[相違点4]
本件発明1において、内側コア部は、「径方向における屈折率が一定である」のに対し、文献3発明においては、コアは、特定のアルファプロファイルとされている点。

そして、上記相違点4を実質的なものでないとすることはできないから、本件発明は文献3に記載されたものではない。

また、請求項2ないし7は、請求項1の従属請求項であることから、本件発明の構成を全て含む請求項2ないし7に係る発明も、引用文献3に記載されたものではない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 文献1発明を主引用発明とする場合について
(ア)対比
本件発明と文献1発明を対比したときの一致点及び相違点は、上記5(1)アに記載したとおりである。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。

文献1発明は、文献1の段落【0004】、【0009】、【0010】等に記載されているように、より良い品質のダウン・ドーピングされたシリカを含む複数のクラッディングを有するファイバ構造を有する低勾配低分散ファイバを得るため、スート法とロッド・イン・チューブ法のそれぞれに利点及び不利な点があったということを課題として、内側クラッディングの最も内側の部分をスート法を使用して作成し、ロッド・イン・チューブ・ステップを使用して内側クラッディング層の残りの部分を形成することをその課題解決手段とするものであり、「前記ダウン・ドーピングされた内側クラッディング層は、VADまたはOVDによってスートから得られたガラスを含む、前記コアに隣接する第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域と、オーバークラッド・チューブから得られたガラスを含む、前記第1クラッディング領域を囲む第2のダウン・ドーピングされたクラッディング領域とを含」むという点をその主たる特徴とするものである。

そして、このようにコアに隣接する第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域を気相成長により形成する場合、径方向に完全に屈折率を制御することは困難であって、文献1の図3の屈折率プロファイルに示されているとおり、コアの屈折率は通常変動するものとなる。また、コアに隣接する第1のダウン・ドーピングされたクラッディング領域を気相成長により形成される場合、文献1の段落【0014】、図2に示されているとおり、コアも通常気相成長によって形成されるものであって、このことによっても、コアの屈折率は通常変動するものとなる。さらに、仮に、文献1発明において、コア及びクラッディング領域の屈折率をある程度制御しようとしたとしても、文献1発明において、設計として求められるコアの屈折率は文献1の図1のように上に凸なものである。

したがって、文献2発明が一定の屈折率を有するコア領域を有し、同様に、文献4に、全コア半径に対してほぼ一定の屈折率を有するステップインデックス型光導波路ファイバが記載されていることから、光ファイバにおいてコア領域が一定の屈折率を有するようにすることが周知技術であるとしても、文献1発明において周知技術を適用しようとすると、その課題解決手段及び主たる特徴を変更することになるから、そのようにする動機づけはなく、上記相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たことではない。

そして、仮に、周知技術を考慮して、このような課題解決手段及び主たる特徴を変更することを当業者が想到し得たとしても、本件特許の明細書の段落【0006】等に記載されているとおり、本件発明において、光のモードフィールド径が小さくなること及び構成が複雑化することを抑制しつつ、曲げ損失を抑制することができるという効果が得られることを当業者が予測し得たとまでは認められない。

よって、本件発明は、文献1を主引例として当業者が容易になし得たものではない。

また、請求項2ないし7は、請求項1の従属請求項であることから、本件発明の構成を全て含む請求項2ないし7に係る発明も、文献1を主引例として当業者が容易になし得たものではない。

イ 文献2発明を主引用発明とする場合について
(ア)対比
本件発明と文献1発明を対比したときの一致点及び相違点は、上記5(1)イに記載したとおりである。

(イ)判断
事案に鑑みて、まず上記相違点2について検討する。

文献2発明では、本件発明のSに相当する比屈折率差の積分の値が不明であるが、特にSという値と光のモードフィールド径及び曲げ損失との関係に注目してこのSを0.1以上0.3以下とすることは文献1から文献4に記載されていない。

文献1発明においてはSが約0.23であり、文献3発明においては約0.20?0.22であるが、これらのSの値はそれぞれ文献1、3に記載されている屈折率分布から概算したものであって、特にSという値に注目してこのSを0.1?0.3にするという技術思想はこれらの文献に記載されていない。

文献4には、μm^(2)を単位としていることから、厳密には異なるものであるが、本件発明のSに対応し得る比屈折率差の積分値である、コア領域とクラッド領域との間の拡散テ-ルのサイズであるS_(dt)について記載されているが、その請求項1に記載されているとおり、この文献4はステップインデックス型光導波路ファイバにおいて拡散テールの領域のサイズであるS_(dt)が0.006μm^(2)以下のように小さい方が良いとするものであって、本件発明のSに相当する値についてこれを0.1?0.3にすることは記載されていない。

したがって、文献2発明において、特にSという値に注目してこのSを0.1?0.3にすることに関する動機づけはなく、そして、文献2発明を主引用発明とした場合についても、結果として、本件発明において、光のモードフィールド径が小さくなること及び構成が複雑化することを抑制しつつ、曲げ損失を抑制することができるという効果が得られることは当業者が予測し得たものではない。

よって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明は、文献2を主引例として当業者が容易になし得たものではない。

また、請求項2ないし7は、請求項1の従属請求項であることから、本件発明の構成を全て含む請求項2ないし7に係る発明も、文献2を主引例として当業者が容易になし得たものではない。

ウ 文献3発明を主引用発明とする場合について
(ア)対比
本件発明と文献1発明を対比したときの一致点及び相違点は、上記5(1)ウに記載したとおりである。

(イ)判断
上記相違点4について検討する。

文献3発明は、文献3の段落【0003】等に記載されているとおり、低い減衰および曲げ損失の光ファイバを得るため、そのコアの屈折率にアルファプロファイルを採用することを主たる特徴とするものであり、このアルファプロファイルはその数式を見れば明らかなとおり、また、文献3の図3等にも示されているとおり、上に凸の形状を有するものであって、一定の屈折率となるものではない。

したがって、文献2発明が一定の屈折率を有するコア領域を有し、同様に、文献4に、全コア半径に対してほぼ一定の屈折率を有するステップインデックス型光導波路ファイバが記載されていることから、光ファイバにおいてコア領域が一定の屈折率を有するようにすることが周知技術であるとしても、文献3発明において、その主たる特徴を変更することに対する動機づけはなく、上記相違点4に係る構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たことではない。そして、仮に、周知技術を考慮して、このような主たる特徴を変更することを当業者が想到し得たとしても、結果として、本件発明において、光のモードフィールド径が小さくなること及び構成が複雑化することを抑制しつつ、曲げ損失を抑制することができるという効果が得られることまでは当業者が予測し得たものではない。

よって、本件発明は、文献3を主引例として当業者が容易になし得たものではない。

また、請求項2ないし7は、請求項1の従属請求項であることから、本件発明の構成を全て含む請求項2ないし7に係る発明も、文献3を主引例として当業者が容易になし得たものではない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
ア 「径方向における屈折率が一定である」について
特許異議申立人山田均は、異議申立書において、実際に製造された光ファイバにおいて直線的な屈折率分布が得られることはなく、特許請求の範囲における「径方向における屈折率が一定である」という事項について、どのような屈折率分布を含むものであるのか不明確である旨主張する。

しかし、実際に製造された光ファイバにおいて完全に直線的な屈折率分布が得られることはないとしても、光ファイバにおいて製造時の誤差は必ず発生するものであるから、このような製造時の誤差は当業者であれば当然考慮するものである。したがって、「径方向における屈折率が一定である」とは、設計として求められる屈折率分布及び製造時の誤差を考慮して実質的に一定の屈折率を有すると当業者に評価される物が含まれ、それ以外の物は含まれないと考えられるから、特許請求の範囲における当該事項は明確である。このことは、文献1及び2において、光ファイバについて設計として求められる屈折率分布及び製造された物の屈折率分布が示され、両者はある程度の誤差を含めて一致しており、屈折率分布において実質的に直線的と評価できる部分があるものが示されていることからもわかることである。

イ 「内側コア部における外側コア部に接する領域」について
特許異議申立人山田均は、異議申立書において、内側コア部と外側コア部はひと続きにつながる状態が想起され、これらが接する領域においては屈折率が等しくなると考えられることから、特許請求の範囲における「内側コア部における外側コア部に接する領域での屈折率は、前記外側コア部の屈折率よりも高く」という事項について、どのような屈折率の関係を特定しているのか不明確である旨主張する。

しかし、「内側コア部における外側コア部に接する領域」とは、その記載に照らして、内側コア部と外側コア部の完全な境界領域を指すものではなく、内側コア部の領域であって外側コア部に近接して存在する領域(境界領域よりわずかに内側の領域)を指すものであるから、特許請求の範囲における当該事項は明確である。

(4)特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人山田均は、異議申立書において、本件特許の明細書及び図面には、シミュレーションによる評価が記載されているのみで、実際に製造された光ファイバの屈折率分布の測定結果やその曲げ損失等の特性を評価した結果が記載されておらず、実際に製造された光ファイバにおいて直線的な屈折率分布が得られることはないから、そのような場合において、どのようにして本件発明において「内部コア部」、「外側コア部」、「内側クラッド部」、「外側クラッド部」を定めるのかについて当業者が理解しうるように記載されていない旨主張する。

しかし、本件特許の明細書及び図面の記載中の評価結果はシミュレーションとしてその技術上の意義を理解できるものであり、シミュレーションであることのみをもって当業者に本件発明の技術上の意義が理解できないとすることはできない。そして、上記5(3)アにも記載したとおり、設計として求められる屈折率分布及び製造時の誤差を考慮して直線的な屈折率分布を有する部分を評価し、各領域を定めることは当業者にとって可能なことであるから、本件特許の明細書及び図面は当業者が本件発明の技術上の意義を理解できるように記載されているといえる。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-31 
出願番号 特願2015-142741(P2015-142741)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G02B)
P 1 651・ 536- Y (G02B)
P 1 651・ 537- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 奥村 政人  
特許庁審判長 西村 直史
特許庁審判官 星野 浩一
古田 敦浩
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6321589号(P6321589)
権利者 株式会社フジクラ
発明の名称 光ファイバ  
代理人 森村 靖男  

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