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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1348751
異議申立番号 異議2018-700542  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-05 
確定日 2019-02-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6263307号発明「熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6263307号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6263307号は、平成29年9月12日に特許出願され、同年12月22日付けでその特許権の設定登録がなされ、平成30年1月17日に特許公報への掲載がなされ、その後、同年7月5日に請求項1-4に係る特許に対して、特許異議申立人 森川真帆(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

平成30年 9月 7日付け:取消理由の通知
同年11月 8日 :意見書の提出(特許権者)
同年11月19日 :取消理由の通知<決定の予告>
平成31年 1月16日 :意見書の提出(特許権者)

第2 本件発明
本件の請求項1-4に係る発明(以下、本件の請求項1等に係る発明を「本件発明1」等という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-4に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
加熱されて成形品の形態の殆どが燃焼で変化した状況における、膨張性黒鉛を含む膨張体が優れた形状保持性及び機械的強度を有するものになる熱膨張性樹脂組成物であって、
樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40?100質量部及びスピロ環ジホスフォネート化合物を2?50質量部含有してなり、
前記スピロ環ジホスフォネート化合物が、下記の一般式の構造のものであることを特徴とする熱膨張性樹脂組成物。

(式中、Ar_(2)及びAr_(3)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、式中、R_(4)、R_(5)、R_(6)及びR_(7)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基又は炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記樹脂成分が、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エラストマー及びゴムからなる群から選ばれる請求項1に記載の熱膨張性樹脂組成物。
【請求項3】
その形状が、シート状、ペースト状又は塗料状であり、請求項1又は2に記載の熱膨張性樹脂組成物からなることを特徴とする熱膨張性樹脂製材料。
【請求項4】
窓枠、ドア枠、柱、壁又は電線のいずれかに、設置或いは充填或いは塗工するためのものである請求項3に記載の熱膨張性樹脂製材料。」

第3 異議申立ての理由の概要
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
申立ての理由1:本件請求項1?4に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
申立ての理由2:本件請求項1?4に係る発明の特許は、甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明、又は、甲第3号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
申立ての理由3:本件請求項1?4に係る発明の特許は、甲第5号証及び甲第1号証に記載された発明、又は、甲第5号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
申立ての理由4:本件請求項1?4に係る発明の特許は、甲第6号証及び甲第1号証に記載された発明、又は、甲第6号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2004-35480号公報
甲第2号証:林日出夫、「難燃コンパウンドの現状と課題」、
ファインケミカル、46(4)、2017、
p.34?41、シーエムシー出版
甲第3号証:特開平11-217508号公報
甲第4号証:国際公開第2017/126654号
甲第5号証:特許第5992589号公報
甲第6号証:特公昭63-7238号公報

第4 異議申立ての理由についての判断
1 申立ての理由1
(1)本件明細書には以下の記載がある。
ア「【0001】
本発明は、熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料に関し、特に、加熱されて膨張した膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるため、該膨張体は、低温域における火炎及び煙の遮断機能をより効果的に発揮でき、シート状の製品や、パテ又は塗料等の不定形の製品にして有効利用できる性能に優れた熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料に関する。

【0004】
また、特許文献2で提案されている熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物は、膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れ、低温域から、火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得るため、膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性シート、パテ、塗料等の、延焼防止材として効果的で有用な各種製品(成形品)が提供されるとしている。
【0005】
上記した従来技術は、加熱により炭化するポリ塩化ビニル系樹脂の有する難燃性と成形性を利用し、また、その粘結力を生起させるものであり、塩化ビニル系樹脂以外の一般的樹脂は、対象外となっている。
【0006】
これに対し、塩化ビニル系樹脂は、燃焼時に、塩化水素や種々の塩素系ガスを発生させるので、ハロゲンを含有しない樹脂を使用することについての検討が進められている。熱膨張性樹脂組成物の樹脂成分として、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びオレフィン樹脂等、多数の一般的な樹脂について検討されており、性能や加工方法等により、熱可塑性、熱硬化性が適時採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4250153号公報
【特許文献2】特許第5992589号公報
【0008】
しかしながら、これらの一般的な樹脂は、一般的に可燃性であり、火災時のような高温にさらされると燃焼して消失してしまう。そして、膨張性黒鉛は、高温になると急激に体積が増加するので、延焼防止材として機能することが期待されるが、膨張した黒鉛自体は極めて脆く、僅かな外力で散失してしまう。
【0009】
これらのことから、単純に、樹脂成分と膨張性黒鉛とを含む混合物を延焼防止材として使用しても、良好な火炎及び煙の遮断機能を得ることはできない。そのために、熱膨張性樹脂組成物を構成する成分中に、加熱で炭化する塩化ビニル系樹脂を使用する場合も含め、一般的に、樹脂成分とともに難燃剤が添加されている。ここで、難燃剤の使用目的は、熱膨張性樹脂組成物の成形品に炎が近接した際に、成形品の表面に炭化層を形成させて、断熱効果を生起させることにある。すなわち、難燃剤によってもたらされる効果は、成形品の内部まで燃焼が進む速度を遅らせたり、或いは、炎を離すと消火したりすることを期待するものであり、前記した特許文献2に記載の技術によって達成される、「膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる」とした効果を期待したものではない。なお、この点についての詳細は後述する。
【0010】
上記した状況下、本発明者らは、本発明者らが提案している前記した特許文献2に記載した発明をさらに進めていく過程で、以下の認識をもつに至った。特許文献2では、塩化ビニル系樹脂と、新たに見出した脱塩触媒を必須成分としたことで、「加熱されて膨張した後の膨張体が、形状保持性及び機械的強度に優れ、低温域から、火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得るものになる」、優れた熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の実現を達成している。上記した従来技術に対し、本発明者らは、熱膨張性樹脂組成物の構成成分に、従来用いられていない新たな成分を用いるだけの簡便な手段で、特許文献2に記載した技術で必須としている塩化ビニル系樹脂の場合は勿論、一般的な可燃性樹脂を樹脂成分(バインダー成分)とした場合においても、特許文献2に記載の技術で達成したと同様の、上記効果が得られる技術が達成できれば極めて有用であるとの認識をもった。
【0011】
従って、本発明の目的は、樹脂成分と膨張性黒鉛とを構成成分として含む熱膨張性樹脂組成物において、加熱されて形態の殆どが燃焼で変化した状況における膨張性黒鉛を含む膨張体の粘結力を高める有効な効果を生み出す新たな成分を見出し、樹脂成分の種類によらず、特許文献2に記載の発明で得られたと同様の効果を実現できる熱膨張性樹脂組成物を提供することにある。すなわち、本発明の技術的課題は、従来技術において行われている、難燃剤を添加することで得られる効果の向上を目指すものではない。」

イ「【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂成分の種類によらず、加熱による膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性樹脂組成物、及び、該組成物を用いた熱膨張性シート、パテ、塗料等の有用な各種製品が提供される。本発明によれば、例えば、熱膨張性シート等を窓枠等に納めて設置した場合に、熱膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになるので、延焼防止材としてより効果的に機能し得、火災と炎とを効果的に遮断することができるものになる。本発明によれば、例えば、熱膨張性樹脂組成物をペースト状にして、解放空間に充填して使用できるパテや、塗料状の製品とすれば、金属製或いは木製の柱や壁、或いは電線等に塗工等することで、形状保持性及び機械的強度に優れる熱膨張性の被覆物を形成でき、火災と炎とを効果的に遮断することができるものになる。」

ウ「【0022】
上記のことから、本発明が目的としている「膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる」とした効果の検証は、従来より行われている一般的な難燃剤の効果を評価する試験法、例えば、LIL規格等は、本発明の目的の評価方法としては適用できない。このように、加熱されて膨張した後の膨張体の強度についての公式の試験方法は、存在していないため、本発明では、後述する方法で評価した。具体的には、一定量の膨張性樹脂組成物を所定の型枠の中に置き、高温で一定時間燃焼させたときに生成した膨張体を上部から一定の厚みまで圧縮し、その時の最大抗力を粘結力として表現し、この値を強度の比較目安とした。」

エ「【0026】
本発明者らは、前記した「加熱されて膨張した膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性樹脂組成物」を可能にする構成成分について鋭意検討していく過程で、驚くべきことに、スピロ環ジホスフォネート化合物を配合した膨張性黒鉛を含有してなる樹脂組成物が、用いる樹脂成分の種類によらず、黒鉛の膨張体の粘結力を非常に高めることができることを見出して本発明を達成した。
【0027】
本発明を構成するスピロ環ジホスフォネート化合物としては、下記式で表される構造のものが好ましい。

(式中、Ar_(2)及びAr_(3)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、式中、R_(4)、R_(5)、R_(6)及びR_(7)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基又は炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。)
【0028】
上記した化合物は、特開2004-035480号公報に記載の製造方法を参照することで容易に得ることができる。その配合量は、樹脂成分100質量部に対して、2?50質量部、好ましくは、4?20質量部程度であることが好ましい。上記範囲より少ないと添加による十分な効果が得られないし、過剰に加えても、さらなる効果が得られず、経済性に劣る。」

オ「【0040】
本発明者らは、上記した認識の下、様々な検討をする過程で、偶然にも、スピロ環ジホスフォネート化合物を樹脂組成物に組み込んだところ、火災初期を想定した200?800℃の温度域で生成した膨張体が、樹脂成分の種類によらず、高い粘結力を示すことが判った。
【0041】
スピロ環ジホスフォネート化合物は、リン系難燃剤として市販されているが、後述するように、本発明者らの検討によれば、他のリン系難燃剤は、本発明が目的とした膨張体の粘結力の向上効果に殆ど寄与しないことが確認された。」

カ「【実施例】
【0043】
次に、検討例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。尚、文中、「部」又は「%」とあるのは、特に規定されていなければ質量基準である。
【0044】
以下に、例で使用した主な成分を記載した。なお、商品名、製造元・販売元が記載されていない場合は、試薬品或いは一般的な市販品である。
【0045】
〔塩化ビニル系樹脂〕
リューロンペースト772A(商品名、東ソー社製、平均重合度1650)。以下、PVCと略す。
【0046】
〔可塑剤〕
・フタル酸ジオクチル。DOPと略す。
・トリクレジルフォスフェート。TCPと略す。
【0047】
〔膨張性黒鉛〕
SYZR802、SYZR803、SYZR502(商品名、三洋貿易社が販売)。SYZR802の膨張開始温度は、180℃である。
【0048】
〔ホスフォネート化合物〕
スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210(帝人社製)。以下、FCX210と略す。
【0049】
〔ポリウレタン樹脂の原料〕
・ポリイソシアート成分:平均NCOを30%含有のクルードMDIであるルプラネートM20S(BASF INOAC ポリウレタン社製)。M20と略す。
・ポリオール成分:平均分子量2000のポリエチレングリコールであるD-2000(商品名、三井化学社製)。D-2000と略す。
【0050】
〔不飽和ポリエステル樹脂の原料〕
・主剤:スチレンモノマー含有の不飽和ポリエステル(日本特殊塗料社製)。
・硬化剤:過酸化物系触媒(日本特殊塗料社製)。
【0051】
〔難燃剤及び無機物〕
・リン酸エステル:PX200(商品名、大八化学社製)。PX200と略す。
・リン酸亜鉛:Z-PO-3(商品名、鈴裕化学社製)。Z-PO-3と略す。
・ポリリン酸アンモニウム:試薬。表中、PPNと略す。
・硫酸メラミン:アピノン901(商品名、三和ケミカル社製)。アピノン901と略す。
・ポリリン酸メラミン・メラム・メレム:ホスメル200(商品名、日産化学工業社製)。ホスメル200と略す。
・ホスフィン酸金属塩:OP1230(商品名、鈴裕化学社製)。OP1230と略す。
・ホスフィン酸金属塩:OP1232(商品名、鈴裕化学社製)。OP1312と略す。
・臭素/三酸化アンチモン:FCP1590(商品名、鈴裕化学社製)。FCP1590と略す。
・水酸化マグネシウム:試薬。MgOHと記載。
・シリカ:試薬。
・酸化亜鉛:試薬。
【0052】
[実施例1、比較例1](樹脂成分がPVCである場合の添加剤の検討)
樹脂成分としてPVCとDOPとを用い、膨張性黒鉛として、SYZR802とSYZR502との混合物を用い、さらに、前記特許文献2に記載の脱塩性触媒である酸化亜鉛を、添加した場合と添加しない場合の2通りをそれぞれ基本構成とした。そして、これらの基本構成に対し、本発明が目的とする、加熱後の膨張体の粘結力を高めることができる新たな成分を見出すために、表2に添加剤として示した各化合物を添加したことによる上記効果の違いについて検討した。
【0053】
表1に具体的な配合を示した。

【0054】
(評価方法)
表1の各配合物をそれぞれ、離型紙上に厚みが約2mmになるようにコートして、110℃、10分間加熱してシートを得た。得られた各シートから約1.6gを採取して試料とした。そして、採取した各試料を、横27mm、縦27mm、高さ50mmの、上部が開放され、下部が閉じたスチール製の容器に入れ、下記のようにして、膨張体の形状保持性及び機械的強度を調べた。
【0055】
予め、500℃に設定されている電気炉に、上記した試料の入った容器を置き、直ちに昇温を開始させ、800℃まで20分間要する条件で加熱した。800℃に達したら約50分間かけて放冷して室温まで冷却した。
【0056】
室温まで放冷してから膨張した試料を取出した。取出し後、膨張した試料(以下、膨張体と呼ぶ)について、下記のようにして圧縮試験をして強度を測定した。すなわち、上記容器の開放部側の部分を膨張体の上部とし、この上部表面に、膨張体の上部面積よりも大きい平滑な板をあて、圧縮試験機を用いて圧縮し、強度を測定した。具体的には、膨張体が下部から15mmの厚みになるまで圧縮して、その位置まで圧縮した際の圧縮強度を粘結力M35とし、下部から5mmの位置まで圧縮した際の圧縮強度を粘結力M45として表示した。粘結力の単位は、ニュートン(N)で示した。結果を表2に示した。
【0057】
また、表2に、膨張体について測定した高さを示した。膨張体の高さは、圧縮試験前の、容器から取出した膨張体の下部からの高さをmmで表示した。表2中に示した残渣率は、加熱前の試料の重量と、加熱後の膨張体の重量とを測定し、両者の重さの比を%で示した。
【0058】

【0059】
表2に示されているように、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の膨張体は、他の添加剤を添加した試料の膨張体に比べて、粘結力M35及び粘結力M45の測定値において、いずれも極めて優れた粘結力を示すことが確認された。
【0060】
酸化亜鉛の添加の有無である配合1と2の違いは、添加剤によって膨張体の粘結力に及ぼす影響がバラついていた。スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の膨張体では、酸化亜鉛を添加した配合2の試料の方が高い粘結力の膨張体が得られることが確認された。先に挙げた特許文献2に記載の発明の構成を満足するNo.10の、ポリリン酸アンモニウム(PPN)と酸化亜鉛を添加した試料の場合も、特許文献2に記載されているように膨張体の粘結力を高くできる。しかし、スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の場合に得られる粘結力には及ばないことがわかった。また、膨張体の高さは、多くの場合、添加剤を添加することで若干低くなる傾向がみられた。膨張体の残渣率は、添加剤の種類によって異なるものの、添加剤を添加することで若干高くなるものが多かった。膨張体の高さ或いは膨張体の残渣率と、膨張体の粘結力との間に相関性は見られなかった。
【0061】
[実施例2、比較例2](樹脂成分がポリウレタン樹脂である場合の検討)
実施例1の結果から、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を用い、樹脂成分として、ポリオール成分とポリイソシアート成分とを重付加反応してなるポリウレタン樹脂を用いた構成の膨張性樹脂組成物について検討した。具体的には、表3の配合物を、実施例1と同様に、離型紙上にコートして、110℃、10分間加熱してシートを得た。得られた各シートから約1.6gを採取して試料とした。得られた試料を用いて、加熱温度を500℃で5分間ホールドとした以外は実施例1と同様にして膨張体を得た。得られた膨張体を用い、実施例1と同様にして圧縮試験をして強度を測定した。結果を表4に示した。圧縮試験は、下部から5mmの位置まで圧縮して行い、得られた圧縮強度を粘結力M45として表示した。
【0062】

【0063】

【0064】
表4に示したように、樹脂成分としてポリウレタン樹脂を用いた場合も、FCX210の添加で、粘結力が増加することが確認された。また、その添加量は、樹脂成分100部に対して、4部?20部程度でよく、15部より多く添加しても、粘結力のさらなる向上効果は認められなかった。膨張体の高さは、添加剤を添加することで若干低くなる傾向がみられた。膨張体の残渣率は、添加剤の添加による明確な影響は認められなかった。
【0065】
[実施例3、比較例3](樹脂成分が不飽和ポリエステル樹脂である場合の検討)
実施例1の結果から、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を用い、樹脂成分として、スチレンモノマー含有の不飽和ポリエステルを主剤とし、過酸化物系触媒を硬化剤とした構成の膨張性樹脂組成物について検討した。具体的には、表5の配合物を、金属製の平底容器に入れて、60℃、12時間加熱して試料とした。得られた試料を用いて、加熱温度を500℃で5分間ホールドとした以外は実施例1と同様にして膨張体を得た。
【0066】
得られた膨張体を用い、実施例1と同様にして圧縮試験をして強度を測定した。結果を表6に示した。圧縮試験は、下部から5mmの位置まで圧縮して行い、得られた圧縮強度を粘結力M45として表示した。また、実施例1と同様にして得た膨張体の高さ及び残差率も表6中に示した。表6に示したように、樹脂成分が不飽和ポリエステル樹脂の場合も、スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加したことによって得られる膨張体の粘結力の向上効果が確認された。
【0067】

【0068】

【0069】
[実施例4、比較例4](樹脂成分がPVCである場合のFCX210と無機物の添加による効果の違いの検討)
実施例1の結果から、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を用い、塩化ビニル系樹脂組成物の基本構成を表7のようにして構成した場合と、上記FCX210に替えて無機物を添加した場合における、それぞれの膨張体の粘結力の向上効果について、実施例1で行ったと同様の方法で検討した。その結果を表8に示した。
【0070】

【0071】

【0072】
表8に示したように、表7に示したPVCの配合でも、表4に示した膨張性ポリウレタン樹脂組成物の場合と同じく、FCXの添加量に従って、膨張体の粘結力が向上することが確認された。一方、水酸化マグネシウムやシリカを添加しても、膨張体の粘結力向上に寄与しなかった。
【0073】
その他、樹脂成分として、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、イソブチレン樹脂、熱可塑性エラストマーをそれぞれに用い、樹脂成分100部に、熱膨張性黒鉛を40部に、添加剤としてFCX210を18.0部入れた場合と、FCX210を添加しない場合について検討した。その結果、FCX210を添加することで、加熱後の膨張体の粘結力が大きくなることが確認された。」

(2)要件1について(申立書32頁)
ア 本件明細書によれば、本件発明は、「『加熱されて膨張した後の膨張体が、形状保持性及び機械的強度に優れ、低温域から、火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得るものになる』、…一般的な可燃性樹脂を樹脂成分(バインダー成分)とした場合においても、…上記効果が得られる」(上記(1)イ)との課題を有するものである。

イ 申立ての理由1において、申立人は、「『FCX210(帝人社製)』の化学構造式は、甲第2号証の37頁表4に記載されているように『非開示』であり、また、実際にインターネットなどにより調査してもその化学構造式は明らかではないので、『FCX210(帝人社製)』が『一般式のスピロ環ジホスフォネート化合物』に含まれることは明らかでない。」と主張する。

ウ しかし、実施例(上記(1)カ)で使用される帝人社製の「FCX210」は、平成31年1月16日提出の意見書、及び、これに添付された帝人株式会社樹脂事業本部開発・技術生産部門長石畑浩司を証明者とする「製品確認書」によれば、この「FCX210」は同社の製品であり、本件請求項1の一般式で示されるスピロ環ジホスフォネート化合物の構造を有するものと認められる。そして、上記実施例をみれば、本件発明1が、上記アに示した本件発明の課題を解決するように実施しうることを、当業者が認識できるものと認められる。このため、上記主張に基づく申立ての理由には理由がない。

エ また、申立人は、「『FCX210(帝人社製)』が『一般式のスピロ環ジホスフォネート化合物』に含まれることが明らかになったとしても、本件特許明細書には、難燃剤が加熱・膨張後の膨張体の形状保持性及び機械的強度に及ぼす影響・機構については理論的に何ら説明されておらず、広範な『一般式のスピロ環ジホスフォネート化合物』全体において、『FCX210(帝人社製)』と同程度の作用効果が奏されるとはいえない。」と主張する。

オ ここで、本件発明1が解決しようとする課題は、上記アに示したものであるといえるところ、本件請求項1の一般式で示されるスピロ環ジホスフォネート化合物の実施例として「FCX210」が示されるのみであるとしても、本件明細書(特に、上記(1)イ?カ)をみれば、本件発明1が該スピロ環ジホスフォネート化合物を含むものとすることにより、上記アに示した本件発明の課題を解決できると認識しうるといえ、一方、「FCX210」以外の該スピロ環ジホスフォネート化合物を用いた場合において、「同程度の作用効果が奏されるとはいえない」と解される根拠を見いだすことはできない。このため、上記主張に基づく申立ての理由には理由がない。

(3)要件2について(申立書33頁)
ア 申立人は、「本件特許明細書の[実施例1、比較例1]?[実施例4、比較例4]において加熱・膨張後の膨張体が、形状保持性及び機械的強度に優れることが具体的に確認できるものに比べ広範であって、本件発明1の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は上記課題を解決できるとは到底いえないものである。」と主張する。

イ しかし、特定の塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂並びに不飽和ポリエステル樹脂以外の樹脂を樹脂成分とした場合においても、上記(2)アに示した本件発明の課題を「解決できるとは到底いえない」と解される根拠を見いだすことはできない。このため、上記主張に基づく申立ての理由には理由がない。

(4)まとめ
してみると、本件明細書は、本件発明1の課題を解決するように実施しうる程度に記載したものといえる。
また、本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様に、本件明細書は、これらの発明の課題を解決するように実施しうる程度に記載したものといえる。
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできない。

2 申立ての理由2
(1)甲第3号証の記載事項
ア「【請求項1】(A)熱可塑性樹脂 100重量部と、(B)加熱膨張性黒鉛 2?100重量部と、(C)下記式[I]?[IV]で示される化合物から選ばれる少なくとも1種以上の環状リン化合物 2?100重量部とからなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【化5】

[式[IV]中、RおよびR’は、それぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基よりなる群から選ばれる基を示し、A、B、CおよびDは、それぞれ独立に、O、NH、Sよりなる群から選ばれる基を示し、YおよびZは、それぞれ独立に、O、S、もしくは省略してもよい。]

【請求項6】 (C)前記環状リン化合物が上記式[IV]の化合物であり、RおよびR’が、芳香族炭化水素基であり、A、B、CおよびDが、すべてOであり、YおよびZもOであるホスホネート化合物であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】 (C)前記環状リン化合物が上記式[IV]の化合物であり、RおよびR’が、フェニル基であるホスホネート化合物であることを特徴とする請求項6に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】 (A)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリフェニレンエーテル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種類の樹脂であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。」

イ「【0006】本発明者らは、熱可塑性樹脂の難燃化について、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂に、加熱膨張性黒鉛と特定の環状リン化合物を配合することにより高い難燃効果を発揮することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
【発明の目的】本発明は、熱可塑性樹脂に加熱膨張性黒鉛と特定の環状リン化合物を配合することで、ハロゲンを用いずに高い難燃性をもつ熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的としている。」

ウ「【0079】本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、家庭用品から工業用品に至る広い用途、例えば、電気部品、電子部品、自動車部品、機械機構部品、パイプ、電線などに材料として使用される。
【0080】
【発明の効果】本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、優れた難燃性を有している。また、使用する特定の環状リン化合物は、ハロゲンを含むことなく、少ない添加量で優れた難燃性を発現させることができる。さらに、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、従来知られていた膨張性黒鉛のみを含む難燃性熱可塑性樹脂組成物と比べて高い難燃性を有している。」

エ「【0088】
【製造例4】攪拌機、還流コンデンサーおよび温度計を備えた四つ口フラスコに、窒素気流下、フェニルホスホン酸ジクロリド39g、ペンタエリスリトール13.6g、1、4-ジオキサン500mlおよび脱塩酸触媒としてピリジン31.6gを入れ、60?80℃の反応温度で3時間反応させ、次いで145?150℃の温度で1時間反応させた。その後、反応混合物を冷却し1リットルのメタノール中にこの反応混合物を少量ずつ攪拌しながら加えることにより白色結晶が得られた。この結晶を濾別し、メタノールで洗浄して精製した後乾燥し、下記式で示される環状リン化合物(C-4)を30.2g(収率80%)得た。
【0089】
【化38】

【0090】
【実施例1】プロピレンホモポリマー(230℃、2.16kg荷重時のMI=12g/10分)(A)100重量部に対し、加熱膨張性黒鉛(CA-60;中央化成(株)製)(B)を12.5重量部、環状リン化合物として製造例1で合成された化合物(C-1)を12.5重量部、イルガノックス1010(チバガイギー社製)0.1重量部、イルガフォス168(チバガイギー社製)0.1重量部、ステアリン酸カルシウム0.1重量部を混合し、ラボプラストミル(東洋精機社製)を用い200℃の温度で溶融混練した。得られた樹脂組成物を加熱温度200℃、冷却温度20℃でプレス成形し、各種試験片を作成した。
【0091】これらの試験片を用いて各種測定を行った結果を表1に示す。
【0092】なお、各種の物性測定は次の条件で行った。
燃焼性 :UL-94V規格に準じ、試料厚さ1/8インチおよび1/16インチで測定した。ランクと1回目着火の平均燃焼時間で難燃性を示した。
機械物性 :厚さ1.0mmのダンベル型試料をチャック間距離30mm、クロスヘッドスピード30mm/分の条件で23℃、相対湿度50%下にて引張試験を行い、ヤング率および破断点強度を求めた。

【0095】
【実施例4】実施例1において、環状リン化合物(C-1)の代わりに、製造例4で合成された環状リン化合物(C-4)を12.5重量部添加した以外は、実施例1と同様にして試験片を作成し、この試験片について実施例1と同じ条件で試験を行った。結果を表1に示す。

【0100】
【表1】



(2)対比・判断
ア 甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
特に、上記(1)アからみて、甲第3号証には以下の甲3発明が記載されていると認められる。
「(A)熱可塑性樹脂 100重量部と、(B)加熱膨張性黒鉛 2?100重量部と、(C)下記式[IV]の環状リン化合物 2?100重量部とからなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。」

イ 本件発明1と甲3発明との対比
甲3発明の「熱可塑性樹脂」は、本件発明1の「樹脂成分」における熱可塑性のものに相当する。甲3発明の「加熱膨張性黒鉛」は本件発明1の「膨張性黒鉛」に相当する。甲3発明の「式[IV]の環状リン化合物」と本件発明1の「一般式の構造のもの(注:一般式を略す。)」とは、「スピロ環ジホスフォネート化合物」という点で共通する。各成分の存在量は、本件発明1と甲3発明においていずれも共通する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致する。
「樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40?100質量部及びスピロ環ジホスフォネート化合物を2?50質量部含有してなる熱膨張性樹脂組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1は「加熱されて成形品の形態の殆どが燃焼で変化した状況における、膨張性黒鉛を含む膨張体が優れた形状保持性及び機械的強度を有するものになる」と規定されているのに対し、甲3発明にはこのような規定はない点。
相違点2:使用されるスピロ環ジホスフォネート化合物に関し、本件発明1は

との構造のもの(以下、これを「化合物A」という。)であるのに対し、甲3発明は

との構造のもの(以下、これを「化合物3」という。)である点。

ウ 判断
相違点2について検討する。
甲第1号証には以下の記載がある。
「【請求項1】
有機媒体の共存下、不活性雰囲気下で三塩化リンとペンタエリスリトールとを反応させて下記式(1)で表されるペンタエリスリトールジクロロホスファイト化合物を得て、次いで、その反応液と水素導入剤とを反応させ、不活性雰囲気下で濾過精製し、下記式(2)で表されるペンタエリスリトールジヒドロホスホネート化合物の湿潤物を得て、この下記式(2)の化合物の湿潤物を未乾燥のまま、下記式(3)で表される金属アルコキシドと、有機媒体の共存下、不活性雰囲気下で反応させ、下記式(4)で表される金属含有リン系化合物を含む溶液を得て、この下記式(4)の化合物を含む溶液から該化合物を単離することなく、下記式(4)の化合物を含む溶液と下記式(5)で表されるハロゲン化化合物を反応させることを特徴とする下記式(6)で示されるスピロ環ジホスホネート化合物の製造方法。

【化6】

(式中、Ar^(2)およびAr^(3)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(4)、R^(5)、R^(6)およびR^(7)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。)」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の構造を有するスピロ環ジホスホネート化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、難燃剤、結晶核剤、可塑剤、酸化防止剤等の添加剤として使用でき、殊に樹脂用難燃剤として優れた効果を有するスピロ環ジホスホネート化合物の製造方法に関する。」
「【0006】
一方、特定の構造を有するスピロ環ジホスホネート化合物は、樹脂用難燃剤を中心に種々の検討がなされている。この化合物を熱可塑性樹脂に配合することにより、熱可塑性樹脂の難燃化を達成することができる。このホスホネート化合物が配合された熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤の配合による耐熱性、および耐衝撃性等の特性が低下することなく、しかも混練の際に化合物が揮発、あるいはブリード等により樹脂中から失われることのない特徴を有する。」

また、甲第4号証には以下の記載がある。
「[0019] 本発明の耐火部材を構成する耐火性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び低級リン酸塩を含有し、耐火性樹脂組成物中の低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であり、可燃物成分量が65質量%以下である。
[マトリクス樹脂]
マトリクス樹脂としては、公知の樹脂を広く使用でき、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
[0020] 熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、TPO等のエラストマー等の合成樹脂が挙げられる。
[0021] 熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
[0022] ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
[0023] これらの合成樹脂及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
[0024] 耐火性樹脂組成物中のマトリクス樹脂の含有量は特に限定されないが、5質量%以上90質量%未満、好ましくは10質量%以上70質量%未満である。
[0025] 好ましくは、マトリクス樹脂はポリ塩化ビニル樹脂を含む。ポリ塩化ビニル樹脂は難燃性および自己消化性に優れている。」

上記甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、本件発明1の化合物Aに相当するスピロ環ジホスフォネート化合物を、難燃剤等の添加剤として各種樹脂に使用することが記載されているといえる。
ところで、本件明細書には以下の記載がある。
「【0029】
本発明者らは、本発明の目的を達成できる成分について検討を重ねた結果、火災初期に想定される温度域、すなわち、200?500℃の温度域で加熱されて得られた膨張体が、樹脂成分の種類によらず、スピロ環ジホスフォネート化合物の配合の有無で、その粘結力の値に大きな差を生じることを見出した。さらに、800℃まで加熱した時にも同様の効果があることが判った。」
甲3発明において、スピロ環ジホスフォネート化合物である化合物3の代わりに、甲第1号証に記載された化合物Aを使用してみることは、当業者が容易になしうるように見受けられる。
しかし、甲第1号証や甲第3号証、更には甲第4号証のいずれからも、化合物Aを膨張性黒鉛と共に使用したことにより、「火災初期に想定される温度域、すなわち、200?500℃の温度域で加熱されて得られた膨張体が、樹脂成分の種類によらず、スピロ環ジホスフォネート化合物(決定注:すなわち、化合物A)の配合の有無で、その粘結力の値に大きな差を生じることを見出した。さらに、800℃まで加熱した時にも同様の効果があることが判った。」という本件発明の有利な効果を奏することが予見できる記載ないし示唆は見いだせない。
このため、相違点2において、本件発明1は、甲3発明、及び、甲第1号証や甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえず、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

エ 本件発明2?4と甲3発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1の樹脂成分を限定するもの、本件発明3は、本件発明1ないし2からなる熱膨張性樹脂製材料と限定するもの、本件発明4は、本件発明3の適用対象を限定するものである。
そして、上記ウで検討したことと同様の理由で、本件発明2?4は、甲3発明、及び、甲第1号証や甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許と同様、本件発明2?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立ての理由2には理由がない。

3 申立ての理由3
(1)甲第5号証の記載事項
ア「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である膨張性黒鉛と難燃材と、更に前記膨張開始温度における前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒とを含有してなる、火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料であり、
前記脱塩酸触媒は、前記塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、前記可塑剤として、フタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
該物質の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、前記フタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記難燃材が、ポリリン酸アンモニウム系化合物であり、
更に、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。

【請求項7】
その形状が、シート状であり、且つ、厚みが0.5mm?2.0mmである請求項1?6のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。
【請求項8】
窓枠に設置するための請求項7に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。
【請求項9】
その形状が、ペースト状又は塗料状である請求項1?6のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」

イ「【0001】
本発明は、熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物及びこれを用いた熱膨張性シート等の製品に関し、特に低温域における火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得、膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物、これを用いた熱膨張性シート、パテ及び塗料に関する。」

ウ「【0045】
<難燃剤>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物は、難燃剤を含有してなる。難燃剤としては、例えば、リン化合物やアンチモン化合物が用いられているが、本発明では、リン化合物の中でも特にポリリン酸アンモニウムを用いることが好ましい。本発明者らの検討によれば、難燃材として、特にポリリン酸アンモニウムを用いると、例えば、コンマコート成形法を利用してある程度の厚みのある熱膨張性シートを得る場合において、その成形性に優れたものになる。また、熱膨張性シートが熱で発泡(膨張)して形成される膨張体は、より崩れのない、炎の圧力で容易には吹き飛ばない、形状保持性に優れたものとなる。本発明者らの検討によれば、これらの効果は、他のリン酸塩を用いた場合と比較して明らかに異なり、効果の点で優位性があった。本発明者らの検討によれば、上記のポリリン酸アンモニウムを用いたことによる効果の優位性は、本発明で規定した脱塩酸触媒との併用によって得られており、理由は定かではないが、これらの成分を併用したことによって有用な相乗効果が得られることを確認している。
【0046】
ポリリン酸の具体例としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、ペンタポリリン酸等を挙げることができる。また、その添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して50?150質量部であることが好ましく、より好ましくは、70?100質量部である。この添加量が少なすぎると、難燃効果、膨張時の形状保持効果が現れず、多すぎると、組成物の成形加工が困難になる傾向があると共に、膨張率が低くなるので好ましくない。」

エ「【0058】
(熱膨張性シート)
本発明の熱膨張性シートは、上述の熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物をコンマコート成形することによって得られたものである。本発明の熱膨張性シートは、例えば、ガスバーナー等による炎、熱風等によって膨張温度(通常、180℃)以上に加熱することにより膨張する。熱によって膨張した膨張体は、それ自体で形状を保持することができるだけでなく、火炎と煙とを遮断するのに十分な機械的強度を有する。従って、本発明の熱膨張性シートを住宅、ビル等の建物の窓枠(例えば、サッシと壁との間)等に用いることで、火災等の際にも成形体は燃焼せずに窓ガラスを保持し、火炎が裏面に伝播することを防止することができる。本発明の熱膨張性シートは、その他、防火戸等の隙間等の耐火性が必要とされる用途又は防火に必要な場所に用いることができる。」

オ「【実施例】
【0059】
次に、検討例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは、特に規定されていなければ質量基準である。
【0060】
実施例及び比較例で使用した主な成分は以下の通りである。脱塩酸触媒に該当するか否かに用いた物質は、いずれも試薬として販売されているものである。
・塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂には、平均重合度が1,650の、東ソー社製のリューロンペースト772A(商品名)を用いた。以下、PVCと略記する場合がある。
・可塑剤
塩化ビニル系樹脂の可塑剤であるフタル酸ジオクチル(新日本理化社製、サンソサイザーDOP(商品名))を用いた。以下、DOPと略記する場合がある。
・熱膨張性黒鉛
熱膨張性黒鉛には、膨張開始温度が180℃、平均粒径が180μmの三洋貿易社製のSYZR802(商品名)を用いた。
・難燃材
難燃材には、CBC社製のポリリン酸アンモニウム系化合物であるテラージュC-70(商品名)を用いた。
・熱安定剤
熱安定剤には、Zn/Caの複合系のものを使用した。具体的には、大協化成(株)製のLX-550を用いた。

【0075】
〔検討例6〕-熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物の発泡倍率と粘結力についての考察
検討例1?5で得られた知見に基づき、表7に示したように、膨張性黒鉛と難燃剤としてポリリン酸アンモニウムと、各種の添加物を配合して熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物をそれぞれ用意した。そして、用意した配合品を800℃まで加熱した時の発泡倍率と粘結力を測定し、得られた結果を表8に示した。
【0076】

【0077】
発泡倍率と粘結力は、それぞれ下記のようにして求めた値である。
発泡倍率=試験後の膨張体の垂直高さ/試験前の厚み
粘結力=加熱試験後の膨張体を100φの円柱で押して、5mmまで圧縮する間に測定された最大抗力(kgf)

【0079】
〔実施例及び比較例〕
上記で本発明で規定する脱塩酸触媒に該当することが明らかとなった酸化亜鉛、金属亜鉛粉末、炭酸亜鉛を、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して表9に示した質量部でそれぞれ配合した、表7に記載した配合の配合品を用意し、各配合品についての800℃加熱時の燃焼試験後の膨張体の発泡倍率と粘結力を表9に示した。表9中に、本発明の実施例に該当するものを示した。なお、表9中に示した残量%は、検討例-3で行った検討結果であり、この値に並べて括弧書きで記載した重量減%が25%以上である添加量の場合が本発明に使用可能になる。
【0080】

【0081】
表9に示されているように、添加物の種類によって添加量の範囲は多少異なるが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して5?10質量部の範囲で本発明の顕著な効果を示し、燃焼試験後の膨張体は、粘結力の大きい形状保持性及び機械的強度に優れるものになる。また、表9に示されているように、添加量の増加とともに粘結力が良化するが、この点も、添加量を10質量部超と多くしても粘結力は大きく変化していないことを確認した。」

(2)対比・判断
ア 甲第5号証に記載された発明(甲5発明)
特に、上記(1)アからみて、甲第5号証には以下の甲5発明が記載されていると認められる。
「塩化ビニル系樹脂100質量部に、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部含み、難燃材としてのポリリン酸アンモニウム系化合物と、前記膨張開始温度における前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒とを含み、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」

イ 本件発明1と甲5発明との対比
甲5発明の「塩化ビニル系樹脂」は、本件発明1の「樹脂成分」に含まれる。甲5発明の「熱膨張性黒鉛」は本件発明1の「膨張性黒鉛」に相当する。甲5発明の「ポリリン酸アンモニウム系化合物」と本件発明1の「一般式の構造のもの(注:一般式を略す。)」とは、「リン系難燃剤」という点で共通する。膨張性黒鉛の存在量は、本件発明1と甲5発明において共通する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは以下の点で一致する。
「樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40?100質量部及びリン系難燃剤を含有してなる熱膨張性樹脂組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点3:本件発明1は「加熱されて成形品の形態の殆どが燃焼で変化した状況における、膨張性黒鉛を含む膨張体が優れた形状保持性及び機械的強度を有するものになる」と規定されているのに対し、甲5発明は「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上である」と規定されている点。
相違点4:使用されるリン系難燃剤に関し、本件発明1は化合物Aの構造のものであるのに対し、甲5発明は「ポリリン酸アンモニウム系化合物」である点。
相違点5:使用されるリン系難燃剤に関し、本件発明1は、樹脂成分100質量部に対して「2?50質量部」含有するのに対し、甲5発明は、その含有量が規定されていない点。

ウ 判断
相違点3及び4について検討する。
粘結力に関し、本件発明の実施例では、難燃剤としてFCX210を使用し、脱塩酸触媒と認識される(本件【0031】)酸化亜鉛を塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、0又は5.6質量部添加したものにつき、本件発明に係る樹脂組成物を膨張させた膨張体を5mmまで圧縮したものが80又は141N、15mmまで圧縮したものが10又は22Nであることが記載されている。これに対し、比較例では、難燃剤としてポリリン酸アンモニウムを使用し、酸化亜鉛を実施例と同様に添加したものにつき、5mmまで圧縮したものが67又は95N、15mmまで圧縮したものが7又は13Nであることが記載されている。(いずれも上記1(1)カ)
この実施例と比較例の対比からみて、上記1(1)カ【0060】に記載されるように、「スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の膨張体では、酸化亜鉛を添加した配合2の試料の方が高い粘結力の膨張体が得られることが確認された。先に挙げた特許文献2に記載の発明の構成を満足するNo.10の、ポリリン酸アンモニウム(PPN)と酸化亜鉛を添加した試料の場合も、特許文献2に記載されているように膨張体の粘結力を高くできる。しかし、スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の場合に得られる粘結力には及ばないことがわかった。」ということができる。
このため、甲第5号証からは、化合物Aを膨張性黒鉛と共に使用したことにより、粘結力に関し、本件発明と同程度の有利な効果を奏することが予見できる記載ないし示唆は見いだせない。そして、甲5発明における「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上」という点は、本件発明1でいう「加熱されて成形品の形態の殆どが燃焼で変化した状況における、膨張性黒鉛を含む膨張体が優れた形状保持性及び機械的強度を有するものになる」点に相当するということはできない。更に、甲第1号証や甲第4号証のいずれからも、化合物Aを膨張性黒鉛と共に使用したことにより、粘結力に関し、本件発明と同程度の有利な効果を奏することが予見できるとはいえないことは、上記2(2)ウで検討したとおりである。
よって、相違点3及び4において、本件発明1は、甲5発明、及び、甲第1号証や甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえず、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

エ 本件発明2?4と甲3発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1の樹脂成分を限定するもの、本件発明3は、本件発明1ないし2からなる熱膨張性樹脂製材料と限定するもの、本件発明4は、本件発明3の適用対象を限定するものである。
そして、上記ウで検討したことと同様の理由で、本件発明2?4は、甲5発明、及び、甲第1号証や甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許と同様、本件発明2?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立ての理由3には理由がない。

4 申立ての理由4
(1)甲第6号証の記載事項
ア「特許請求の範囲
1 膨張性黒鉛とリン又はリン化合物とからなり、リン又はリン化合物の量はリン元素量に換算して膨張性黒鉛100重量部あたり5?300重量部であることを特徴とする発泡性防火組成物。」

イ「本発明は、発泡性の防火組成物に関する。
膨張性又は発泡性黒鉛(以下単に膨張性黒鉛と称す)を発泡性の防火用材料として使用する試みが種々行われているが、膨張性黒鉛を火焔で加熱したとき、飛散し易い微細な膨張片が生じるのみで遮熱あるいは防火上有効な発泡炭化物魂となり難い問題がある。
ところで、本発明者らの研究によれば、膨張性黒鉛はリン又はリン化合物の共存下で加熱されると、詳細な機構は未だ不明であるが、リン成分が微細な発泡膨張性黒鉛の生成を防止し、遮熱あるいは防火上有効な発泡炭化物の連続体乃至発泡炭化物魂を形成させる作用をなす。」(1欄7?19行)

ウ「本発明においては、粒状あるいは粉末状の膨張性黒鉛と粒状、粉末状、あるいは液状のリン又はリン化合物とを単に機械的に混合するのみでよい。粒状、粉末状の本発明の組成物は、自己形態保持性はないが、底壁、側壁でかこまれる場所等に使用して充分発泡防火機能を発揮する。
本発明の組成物(以下特定発明組成物と称す)は、以下に記載する(a)?(d)成分の一種又は二種以上を併用すると一層好ましい。
(a)成分-有機の液体あるいは半固体;
(a)成分は、室温(約20℃)下で液状、あるいは半固体状を呈し、かつ210°Fにおいて50-100000c.st.の粘度を有するものが用いられる。上記で云う半固体状とはJIS K2560-1969で測定した稠度(円錐の実針入深さの10倍値)が50以上のものである。特定発明組成物は概して自己形態保持性の乏しいものが多いが、本(a)成分と均一な混合物とすることによりパテ状物質となすことができるので防火材料として格段に使用し易くなる。しかもリン又はリン化合物による膨張性黒鉛の発泡改善効果は損われることはない。
(a)成分は化学的には炭化水素類であるが、炭素原子10個あたり水素以外の元素たとえば酸素、窒素、ハロゲン、硫黄を6個以下の量範囲で含む有機化合物も使用することができる。更にシリコン類も使用することができる。例を挙げると、ブデン、プロピレン、エチレン等のオレフインの低乃至中重合体類、石油系炭化水素油類、ポリアルキレングリコール油類、塩素化パラフイン、臭素化エポキシ、塩素化ジフエニル、塩素化トリフエニル等のハロゲン化有機物質類、クロロプレン、ウレタン、ブタジエン、ニトリル等のゴム類の低重合体類、アスフアルト類、シリコン油、シリコンゴム低重合体等のシリコン類等である。室温で固体の天然又は合成の有機物質とその他の有機物質、たとえば有機液体、との混合物であつて上記した要求を満すものも(a)成分として使用することができる。かゝる混合物の例としては各種のゴム、プラスチツクス類、ワツクス類、ロジン類等と先に例示した有機物質との混合物が挙げられる。(a)成分の使用量は特定発明組成物100重量部あたり10?200重量部程度である。」(3欄18行?4欄15行)

(2)対比・判断
ア 甲第6号証に記載された発明(甲6発明)
特に、上記(1)ア及びウからみて、甲第6号証には以下の甲6発明が記載されていると認められる。
「膨張性黒鉛とリン又はリン化合物とからなり、リン又はリン化合物の量はリン元素量に換算して膨張性黒鉛100重量部あたり5?300重量部である組成物を、該組成物100重量部あたり、各種のゴムやプラスチツクス類10?200重量部と併用する発泡性防火組成物。」

イ 本件発明と甲6発明との対比
甲6発明の「各種のゴムやプラスチツクス類」は、本件発明1の「樹脂成分」に相当する。甲6発明の「膨張性黒鉛」は本件発明1の「膨張性黒鉛」に相当する。甲6発明の「リン又はリン化合物」と本件発明1の化合物Aの構造のものとは、「リン化合物」という点で共通する。各成分の存在量は、本件発明1と甲6発明においていずれも共通する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致する。
「樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40?100質量部及びリン化合物を2?50質量部含有してなる組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点6:本件発明1は「加熱されて成形品の形態の殆どが燃焼で変化した状況における、膨張性黒鉛を含む膨張体が優れた形状保持性及び機械的強度を有するものになる」と規定されているのに対し、甲6発明にはこのような規定はない点。
相違点7:使用されるリン化合物に関し、本件発明1は化合物Aの構造のものであるのに対し、甲6発明は単に「リン化合物」である点。
相違点8:本件発明1は「熱膨張性樹脂組成物」であるのに対し、甲6発明は「発泡性防火組成物」である点。

ウ 判断
相違点7について検討すると、上記2(2)ウに示したことと同様、甲6発明において、リン化合物の代わりに、甲第1号証に記載された化合物Aを使用しうるとしても、甲第1号証や甲第6号証、更には甲第4号証のいずれからも、化合物Aを膨張性黒鉛と共に使用したことにより、「火災初期に想定される温度域、すなわち、200?500℃の温度域で加熱されて得られた膨張体が、樹脂成分の種類によらず、スピロ環ジホスフォネート化合物の配合の有無で、その粘結力の値に大きな差を生じることを見出した。さらに、800℃まで加熱した時にも同様の効果があることが判った。」という本件発明の有利な効果を奏することが予見できる記載ないし示唆は見いだせない。
このため、相違点7において、本件発明1は、甲6発明、及び、甲第1号証や甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえず、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

エ 本件発明2?4と甲6発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1の樹脂成分を限定するもの、本件発明3は、本件発明1ないし2からなる熱膨張性樹脂製材料と限定するもの、本件発明4は、本件発明3の適用対象を限定するものである。
そして、上記2(2)エに示したことと同様、本件発明2?4は、甲6発明、及び、甲第1号証や甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許と同様、本件発明2?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立ての理由4には理由がない。

5 まとめ
以上検討したとおり、申立人が主張する申立ての理由1?4には、いずれも理由がなく、これらの理由によって、本件発明1?4の特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由についての判断
平成30年11月19日付け取消理由の通知<決定の予告>に関し、当審が示した取消理由は第4 1(2)アと同旨である。そして、同イと同旨により、この取消理由には理由がなく、この理由によって本件発明1?4の特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-12 
出願番号 特願2017-175143(P2017-175143)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 海老原 えい子  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 橋本 栄和
大熊 幸治
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6263307号(P6263307)
権利者 株式会社レグルス 都化工株式会社
発明の名称 熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料  
代理人 岡田 薫  
代理人 岡田 薫  
代理人 竹山 圭太  
代理人 近藤 利英子  
代理人 近藤 利英子  
代理人 菅野 重慶  
代理人 竹山 圭太  
代理人 菅野 重慶  

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