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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1348761
異議申立番号 異議2018-700848  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-17 
確定日 2019-02-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6341313号発明「非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6341313号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6341313号の請求項1?9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年3月24日(優先権主張 平成28年3月31日、日本国)に出願され、平成30年5月25日に特許権の設定登録がされ、同年6月13日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年10月17日付けで特許異議申立人である特許業務法人藤央特許事務所(以下「申立人」という。)により全請求項に対して特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
体積基準による累積粒度分布の90%粒径^(1)D_(90)の10%粒径^(1)D_(10)に対する比^(1)D_(90)/^(1)D_(10)が3以下であり、ニッケルを含む複合酸化物粒子を準備することと、
前記複合酸化物粒子及びリチウム化合物を含み、前記複合酸化物に含まれる金属元素の総モル数に対するリチウムの総モル数の比が、1以上1.3以下である原料混合物を得ることと、
前記原料混合物を熱処理して熱処理物を得ることと、
前記熱処理物を乾式で分散処理して第一分散物を得ることと、
前記第一分散物を液媒体と接触させて第二分散物を得ることと、を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であり、
前記正極活物質が、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径^(2)D_(SEM)に対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径^(2)D_(50)の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1以上4以下であり、下記式(1)で表される組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物粒子を含む、製造方法。
Li_(p)Ni_(x)Co_(y)M^(1)_(z)O_(2+α) (1)
(式(1)中、p、x、y、z及びαは、1.0≦p≦1.3、0.6≦x<0.95、0≦y≦0.4、0≦z≦0.5、x+y+z=1及び-0.1≦α≦0.1を満たし、M^(1)はMn及びAlの少なくとも一方を示す。)
【請求項2】
式(1)におけるpが、1.0≦p≦1.1を満たす請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子が、体積基準による累積粒度分布の90%粒径^(2)D_(90)の10%粒径^(2)D_(10)に対する比^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が4以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料混合物の熱処理が、第一温度での熱処理と、第一温度よりも高い第二温度での熱処理とを含む請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物の熱処理が、前記第二温度での熱処理の後に、前記第二温度よりも低い第三温度での熱処理を更に含む請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物の熱処理が、酸素を含む雰囲気下で行われる請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第一分散物と液媒体との接触は、第一分散物に対する液媒体の質量比率が2質量%以上20質量%以下で行われる請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子が、体積基準による累積粒度分布の90%粒径^(2)D_(90)の10%粒径^(2)D_(10)に対する比^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が4以下である請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記^(2)D_(50)の前記^(2)D_(SEM)に対する比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1以上3以下である請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法。」


第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、以下の理由1及び2により、請求項1?9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?9に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2
請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。


第4 当審の判断
1 申立理由1(実施可能要件)
実施可能要件の判断については、以下のとおりである。
特許法36条4項1号は、発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと規定している(実施可能要件)。
そして、方法の発明における発明の実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号)、方法の発明については、明細書にその発明の使用を可能とする具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。すなわち、方法の発明について上記実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する(知的財産高等裁判所平成25年4月11日判決(平成24年(行ケ)第10299号)、同平成27年11月26日判決(平成26年(行ケ)第10254号)参照)。さらに、物を生産する方法の発明における実施とは、その方法の使用のほか、その方法により生産した物の使用をする行為を含むものである(特許法2条3項3号)。

イ 上記の観点により実施可能要件について検討するにあたり、まず、願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の記載がある。

「【実施例】
【0056】
以下、本発明に係る実施例を具体的に説明する。
【0057】
まず以下の実施例及び比較例における物性の測定方法について説明する。
^(1)D_(10)及び^(2)D_(10)、^(1)D_(50)及び^(2)D_(50)、並び^(1)D_(90)及び^(2)D_(90)については、レーザー回折式粒径分布測定装置((株)島津製作所製SALD-3100)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定し、小径側からの累積に対応してそれぞれの粒径を求めた。
電子顕微鏡観察に基づく平均粒径^(1)D_(SEM)及び^(2)D_(SEM)は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1000?10000倍で観察した画像において、粒子の輪郭が確認できる粒子を100個選択し、選択された粒子について画像処理ソフトウエア(ImageJ)を用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として求めた。
【0058】
ニッケル元素のディスオーダーの値(Niディスオーダー量)については、X線回折法により以下の手順で求めた。
得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子について、CuKα線によりX線回折スペクトル(管電流200mA、管電圧45kV)を測定した。得られたX線回折スペクトルに基づいて、組成モデルをLi_(1-d)Ni_(d)MeO_(2)(Meは、リチウム遷移金属複合酸化物中のニッケル以外の遷移金属)として、リチウム遷移金属複合酸化物について、Rietan2000ソフトウエアを用いたリートベルト解析により、構造最適化を行った。構造最適化の結果算出されるdの百分率をNiディスオーダー量とした。
【0059】
(実施例1)
(種生成工程)
まず、反応槽内に、水を10kg入れて撹拌しながら、アンモニウムイオン濃度が1.8質量%になるよう調整した。槽内温度を25℃に設定し、窒素ガスを流通させ、反応槽内空間の酸素濃度を10%以下に保持した。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、槽内の溶液のpH値を13.5以上に調整した。
次に、硫酸ニッケル溶液と硫酸コバルト溶液および硫酸マンガン溶液をモル比で6:2:2の混合水溶液を調製した。
前記混合水溶液を、溶質が4モル分になるまで加え、水酸化ナトリウム溶液で反応溶液中のpH値を12.0以上に制御しながら種生成を行った。
【0060】
(晶析工程)
前記種生成工程後、晶析工程終了まで槽内温度を25℃以上に維持した。また溶質1200モルの混合水溶液を用意し、アンモニア水溶液と共に、溶液中のアンモニウムイオン濃度を2000ppm以上に維持しながら、反応槽内に新たに種生成が起こらないよう5時間以上かけて同時に投入した。反応中は水酸化ナトリウム溶液で反応溶液中のpH値を10.5?12.0を維持するように制御した。反応中に逐次サンプリングを行い、複合水酸化物粒子のD50が約4.7μmとなった所で投入を終了した。
次に生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。
得られた水酸化物前駆体を大気雰囲気下、300℃で20時間、熱処理を行い、Ni/Co/Mn=0.60/0.20/0.20の組成比率を有し、^(1)D_(10)=4.0μm、^(1)D_(50)=4.7μm、^(1)D_(90)=6.2μm、^(1)D9_(0)/^(1)D_(10)=1.6である第一複合酸化物粒子を得た。
【0061】
(合成工程)
得られた第一複合酸化物粒子と水酸化リチウム一水和物とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.06となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を酸素気流中870℃で7時間焼成の後、970℃で7時間焼成し、焼結体(熱処理物)を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行って粉状体を得た。更に回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水とを加え、2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させて分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径^(2)DSEMが3.7μmであり、^(2)D_(10)=3.4μm、^(2)D_(50)=5.4μm、^(2)D_(90)=7.7μm、平均粒径^(2)D_(SEM)に対する^(2)D_(50)の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1.5であり、粒度分布における比^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が2.3であり、Niディスオーダー量が1.5%であり、組成式:Li_(1.06)Ni_(0.60)Co_(0.20)Mn0.20O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の物性値を表1に、SEM画像を図1に示す。
【0062】
(実施例2)
実施例1と同じ条件にて第一複合酸化物粒子を得た。得られた第一複合酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.17となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中930℃で10時間焼成し、焼結体(熱処理物)を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行って粉状体を得た。更に回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水を加え2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させることで分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径^(2)D_(SEM)が3.2μmであり、^(2)D_(10)=3.6μm、^(2)D_(50)=6.1μm、^(2)D_(90)=9.2μm、平均粒径^(2)D_(SEM)に対する^(2)D_(50)の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1.9であり、粒度分布における比^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が2.6であり、Niディスオーダー量が1.2%であり、組成式:Li_(1.17)Ni_(0.60)Co_(0.20)Mn_(0.20)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の物性値を表1に、SEM画像を図2に示す。
【0063】
(実施例3)
実施例1と同じ条件にて第一複合酸化物粒子を得た。得られた第一複合酸化物粒子と、炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)=1.17となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中930℃で10時間焼成し、焼結体(熱処理物)を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行って粉状体を得た。更に回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水を加え2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させることで分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径^(2)D_(SEM)が3.1μmであり、^(2)D_(10)=3.8μm、^(2)D_(50)=6.3μm、^(2)D_(90)=9.6μm、平均粒径^(2)D_(SEM)に対する^(2)D50の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が2.0であり、粒度分布における比D90^(2)/D10^(2)が2.5であり、Niディスオーダー量が2.2%であり、組成式:Li1._(17)Ni_(0.60)Co_(0.20)Mn_(0.20)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の物性値を表1に示す。」

「【0066】
(実施例4)
実施例1における硫酸ニッケル溶液、硫酸コバルト溶液及び硫酸マンガン溶液の混合比をモル比で8:1:1に変更して混合水溶液を得たこと以外は同じ条件にて行い、Ni/Co/Mn=0.80/0.10/0.10の組成比率を有し、^(1)D_(10)=3.4μm、^(1)D_(50)=4.6μm、^(1)D_(90)=6.1μm、^(1)D_(90)/^(1)D_(10)=1.8である第一複合酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.04となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を酸素気流中780℃で5時間焼成の後、1000℃で10時間焼成の後、780℃で5時間焼成し、焼結体(熱処理物)を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行って粉状体を得た。更に回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水を加え2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させることで分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径^(2)D_(SEM)が3.1μmであり、^(2)D_(10)=3.7μm、^(2)D_(50)=7.1μm、^(2)D_(90)=12.0μm、平均粒径^(2)D_(SEM)に対する^(2)D_(50)の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が2.3であり、粒度分布における比^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が3.2であり、Niディスオーダー量が1.7%であり、組成式:Li_(1.04)Ni_(0.80)Co_(0.10)Mn_(0.10)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の物性値を表1に、SEM画像を図5に示す。
【0067】
(実施例5)
実施例4と同じ条件にて第一複合酸化物粒子を得た。得られた第一複合酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.04となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を酸素気流中780℃で5時間焼成の後、950℃で10時間焼成し、焼結体(熱処理物)を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行って粉状体を得た。更に回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水を加え2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させることで分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径^(2)D_(SEM)が2.5μmであり、^(2)D_(10)=3.0μm、^(2)D_(50)=5.3μm、^(2)D_(90)=8.2μm、平均粒径^(2)D_(SEM)に対する^(2)D50の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が2.1であり、粒度分布における比^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が2.7であり、Niディスオーダー量が2.3%であり、組成式:Li_(1.04)Ni_(0.80)Co_(0.10)Mn_(0.10)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の物性値を表1に、SEM画像を図6に示す。
【0068】
(実施例6)
実施例4と同じ条件にて第一複合酸化物粒子を得た。得られた第一複合酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.04となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を酸素気流中780℃で5時間焼成の後、1000℃で10時間焼成し、焼結体(熱処理物)を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行って粉状体を得た。更に回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水を加え2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させることで分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径^(2)D_(SEM)が3.0μmであり、^(2)D_(10)=3.7μm、^(2)D_(50)=6.6μm、^(2)D_(90)=9.6μm、平均粒径^(2)D_(SEM)に対する^(2)D_(50)の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が2.2であり、粒度分布における比^(2)D_(90)/2D_(10)が2.6であり、Niディスオーダー量が4.2%であり、組成式:Li_(1.04)Ni_(0.80)Co_(0.10)Mn_(0.10)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の物性値を表1に、SEM画像を図7に示す。」

「【0070】
【表1】


「【0071】
上述した製造方法によって製造されるリチウム遷移金属酸化物粒子においては、単一からなる粒子であるか、又は数少ない一次粒子から構成されていることから、得られたリチウム遷移金属酸化物を粉砕して粒度を調整したのち、再度熱処理することなく効率的に製造することができる。
【0072】
上述した製造方法によって製造されるリチウム遷移金属酸化物粒子においては、比較例1?3と比較して^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)と^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が小さいことから単一からなる粒子であるか、又は数少ない一次粒子から構成されており、かつ粒子のサイズが揃っている。特に実施例1は、実施例2、3と比較して^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)と^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が小さいことから非水系電解質二次電池の正極活物質に適用することで、出力特性と耐久性に優れる非水系電解質二次電池を構成することができる。また、特に実施例5は、実施例4より^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)と^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が小さく、実施例6よりNiディスオーダー量が小さいことから非水系電解質二次電池の正極活物質に適用することで、出力特性と耐久性に優れる非水系電解質二次電池を構成することができる。」

ウ 上記した本件明細書の記載を参酌すると、本件発明1?9の「発明の実施の形態」である実施例として実施例1?6が記載されており、少なくとも上記6つの例について、「非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法」の発明の使用としての「非水系電解質二次電池用正極活物質」の製造を可能とする具体的な記載が、発明の詳細な説明にあるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまでいうことはできない。

エ そして、上記ウのとおり、発明の詳細な説明において、物を生産する方法の発明の使用を可能とする具体的な記載がある以上、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載もあるといえる。

オ 申立人は、特許異議申立書の第4頁第12行?第5頁第13行において、正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子におけるNiの組成xについて、本件発明1?9は「0.6≦x<0.95」であるが、実施例1?6において実際に製造されたものにおけるNiの組成xは、0.6と0.8であって、「0.6≦x≦0.8」という範囲のものしかなく、以下(ア)?(ウ)の点から、Niの組成xについて、実施例の上限値である0.8を超えても、本件発明1?9の規定を充足するものを製造できることが発明の詳細な説明には記載されておらず、Niの組成が0.8を超えるものを製造することは、過度の試行錯誤が必要になる旨主張している。

(ア)Niの組成xが、なぜ「x<0.95」まで含むことができるのかについて、何ら説明されていないこと。

(イ)Ni組成xが0.8を超えるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の平均粒径^(2)D_(SEM)を具体的にどのように制御したらよいのか不明確であること。

(ウ)本件明細書の【0011】によれば、本件発明1?9では、原料混合物中のNiを還元してLi化合物を析出させており、このような方法によると、原料混合物中のNi量に異存して焼成雰囲気における酸素分圧の必要量が変化し、上記析出物について焼結のほぐれやすさに大きな影響が生じることが明らかであること。

カ 上記主張について検討すると、上記(ア)について、Niの組成xとして「x<0.95」まで含ませることが不可能であるとの技術常識の存在は特段認められないから、「x<0.95」まで含むことができる理由の記載が、実施可能要件として求められるとまでいうことはできない。

キ また、上記(イ)について、本件明細書の【0028】には、「ボールミルによる分散処理の条件としては、所望の^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が達成できるように、原料となる第一複合酸化物粒子の^(1)D_(90)/^(1)D_(10)等に応じて、メディア量、回転もしくは振幅速度、分散時間、メディア比重等を調整すればよい。」と記載されており、Niの組成xにかかわらず、^(2)D_(SEM)の制御ができるものと認められる。

ク さらに、上記(ウ)について、Ni量に依存して焼成雰囲気における酸素分圧の必要量が変化する場合、必要な酸素量となるように調整すれば良いことであって、そのことに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要とまでいうことはできない。

ケ 以上のとおりであるから、申立人の上記主張を検討しても、「非水系電解質二次電池用正極活物質」の製造を可能とする具体的な記載が、発明の詳細な説明にないとまではいえないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?9を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載したものである。

コ したがって、本件出願に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものではない。


2 申立理由2(サポート要件)
ア サポート要件の判断については、以下のとおりである。

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知的財産高等裁判所平成17年11月11日判決(平成17年行(ケ)第10042号)参照。)。

イ 上記の観点によりサポート要件について検討するにあたり、まず、本件明細書には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の正極活物質の製造方法は、熱処理により得られた二次粒子が凝集したリチウム遷移金属複合酸化物を粉砕して粒度を調整したのち、再度熱処理を行うことから、煩雑であり非効率的であった。
本開示に係る一実施形態は、単一粒子からなるか、又は1つの2次粒子を構成する1次粒子の数を少なくするようにしたリチウム遷移金属酸化物粒子を含む正極活物質を得るための効率的な製造方法を提供することを課題とする。」

「【0010】
^(1)D_(90)/^(1)D_(10)が3以下という粒径が揃った第一複合酸化物粒子を原料とし、これをリチウム化合物と共に熱処理した後、粉砕処理に代えて乾式の分散処理及び液媒体との接触処理を行うことで、単一からなる粒子であるか、又は数少ない一次粒子から構成された粒子(以下、併せて単に「単粒子」ともいう)であるリチウム遷移金属複合酸化物粒子が効率的に製造される。従来の単粒子からなる正極活物質の製造方法では、粉砕による粒度調整を行うが、粒度分布のコントロールが難しく、特に粒度が揃ったシャープな粒度分布を得ることは困難であった。」

「【0036】
^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1以上4以下であることは、リチウム遷移金属複合酸化物粒子が単一からなる粒子であるか、数少ない一次粒子から構成されており、一次粒子間の接触粒界が少ない状態となっていることを意味する。また^(2)D_(90)/^(2)D_(10)が4以下であることは、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の体積基準による累積粒度分布における分布幅が狭く、粒子サイズが揃っていることを意味する。このような特徴を備えるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を含む正極活物質は、優れた出力特性と優れた耐久性とを両立できる。」

ウ 上記記載から、発明が解決しようとする課題は、「単一粒子からなるか、又は1つの2次粒子を構成する1次粒子の数を少なくするようにしたリチウム遷移金属酸化物粒子を含む正極活物質を得るための効率的な製造方法を提供すること」にあり、発明の詳細な説明において、当該課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は、「^(1)D_(90)/^(1)D_(10)が3以下という粒径が揃った第一複合酸化物粒子を原料とし、これをリチウム化合物と共に熱処理した後、粉砕処理に代えて乾式の分散処理及び液媒体との接触処理を行うこと」により、「リチウム遷移金属複合酸化物粒子が単一からなる粒子であるか、数少ない一次粒子から構成されており、一次粒子間の接触粒界が少ない状態」である「^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1以上4以下」となることと理解できる。

エ そして、請求項1においては、「体積基準による累積粒度分布の90%粒径^(1)D_(90)の10%粒径^(1)D_(10)に対する比^(1)D_(90)/^(1)D_(10)が3以下であり、ニッケルを含む複合酸化物粒子を準備すること」、「前記複合酸化物粒子及びリチウム化合物」を含む「原料混合物を熱処理して熱処理物を得ること」、「前記熱処理物を乾式で分散処理して第一分散物を得ること」、「前記第一分散物を液媒体と接触させて第二分散物を得ること」及び「正極活物質が、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径^(2)D_(SEM)に対する体積基準による累積粒度分布の50%粒径^(2)D_(50)の比^(2)D_(50)/^(2)D_(SEM)が1以上4以下」であることが規定されていることから、本件発明1?9が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているということはできない。

オ 申立人は、特許異議申立書の第5頁下から第7行?第6頁第24行において、正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子におけるNiの組成xについて、本件発明1?9は「0.6≦x<0.95」であるが、実施例1?6において実際に製造されたものにおけるNiの組成xは、0.6と0.8であって、「0.6≦x≦0.8」という範囲のものしかなく、以下(ア)?(ウ)の点から、Niの組成xについて、実施例の上限値である0.8を超えても、本件発明1?9の規定を充足するものを製造できることが発明の詳細な説明には記載されていないから、本件発明1?9は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張している。

(ア)Niの組成xが、なぜ「x<0.95」まで含むことができるのかについて、何ら説明されていないこと。

(イ)Ni組成xが0.8を超えるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の平均粒径^(2)D_(SEM)を具体的にどのように制御したらよいのか不明確であること。

(ウ)本件明細書の【0011】によれば、本件発明1?9では、原料混合物中のNiを還元してLi化合物を析出させており、このような方法によると、原料混合物中のNi量に異存して焼成雰囲気における酸素分圧の必要量が変化し、上記析出物について焼結のほぐれやすさに大きな影響が生じることが明らかであること。

カ しかしながら、上記(ア)?(ウ)については、上記1のオ?クにおいて検討したとおりであって、本件発明1?9の規定を充足するものを製造できることが発明の詳細な説明には記載されているということができ、申立人の上記主張を採用することはできない。

キ したがって、請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものではない。


第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-13 
出願番号 特願2017-59655(P2017-59655)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
亀ヶ谷 明久
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6341313号(P6341313)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法  
代理人 言上 惠一  
代理人 柳橋 泰雄  
代理人 鮫島 睦  
代理人 膝舘 祥治  

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