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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C23C
審判 一部無効 2項進歩性  C23C
管理番号 1348996
審判番号 無効2013-800226  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-12 
確定日 2019-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5348431号「熱間プレス部材」の請求項1-6に係る特許について、請求項1-5に係る特許に対する無効審判事件に対して、請求項1-3に係る特許を無効とし、請求項4-5に係る特許を維持する平成28年12月27日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、平成29年(行ケ)第10042号(平成30年3月12日判決言渡)において請求項1-3に係る特許を無効とする審決取消判決がなされ、平成29年(行ケ)第10041号(平成30年3月12日判決言渡)において請求項4-5に係る特許を維持する審決維持判決がなされたので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5348431号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。  
理由 第1 手続の経緯
1 1次審決までの手続の経緯の概要
本件特許第5348431号についての1次審決までの手続の経緯は、以下のとおりである。

平成21年10月28日 国内優先出願(特願2009-247384号)
平成22年 4月28日 国内優先出願(特願2010-102849号)
平成22年 9月29日 原出願(特願2010-218094号)
平成23年 7月13日 本件分割出願(特願2011-154708号)
平成25年 8月30日 特許権の設定登録(請求項の数:6)
平成25年12月12日 無効審判請求(無効2013-800226号)
平成26年 3月 6日 被請求人:訂正請求書、答弁書
平成26年 4月16日 請求人:弁駁書
平成26年 8月 8日 被請求人:口頭審理陳述要領書
平成26年 8月22日 請求人:口頭審理陳述要領書
平成26年 8月29日 口頭審理
平成26年 9月12日 被請求人:上申書
平成28年 4月26日 補正許否の決定
平成28年 6月15日 審決の予告
平成28年 8月15日 被請求人:訂正請求書、意見書
平成28年 9月21日 請求人:弁駁書
平成28年11月30日 補正許否の決定
平成28年12月 7日 審理終結通知
平成28年12月27日 1次審決(起案日)
平成29年 1月12日 1次審決(謄本送達日)

2 1次審決
上記1次審決の結論は、「特許第5348431号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第5348431号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。
特許第5348431号の請求項4ないし5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その5分の2を請求人の負担とし、5分の3を被請求人の負担とする。」というものである。

3 審決取消訴訟
知的財産高等裁判所に対して、請求人は、平成29年2月10日、前記1次審決中、本件特許の請求項4及び5に係る部分の取消しを求める訴えを提起し、被請求人は、同日、1次審決中、本件特許の請求項1ないし3に係る部分の取消しを求める訴えを提起した。
前記訴えは、知的財産高等裁判所において、平成29年(行ケ)第10041号(以下「甲事件」という。)、平成29年(行ケ)第10042号(以下「乙事件」という。)として審理され、主文を「1 特許庁が無効2013-800226号事件について平成28年12月27日にした審決のうち,特許第5348431号の請求項1ないし3に係る部分を取り消す。
2 甲事件原告・乙事件被告の甲事件請求を棄却する。
3 訴訟費用は,甲事件乙事件を通じて,甲事件原告・乙事件被告の負担とする。」とする判決の言渡しが平成30年3月12日にあった。
そして、上記判決はその後確定したので、無効2013-800226号事件は、再度審理すべきものとなった。


第2 平成28年8月15日付けの訂正請求の適否について
1 訂正請求の内容
・訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項1に「であることを特徴とする熱間プレス部材。」とあるのを、「であり、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材。」に訂正する。

・訂正事項2:
特許請求の範囲の請求項2に「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有されることを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス部材。」とあるのを、「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種、又は、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種と、Ti:0.2%以下が含有されることを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス部材。」に訂正する。

・訂正事項3:
特許請求の範囲の請求項4に「Ni拡散領域が鋼板の深さ方向に1μm以上にわたって存在することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の熱間プレス部材。」とあるのを、「(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)もしくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記Ni拡散領域が鋼板の深さ1μm以上にわたって存在し、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中へ水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材(但し、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除く)。」に訂正する。

・訂正事項4:
特許請求の範囲の請求項5に「金属間化合物層が島状に存在することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱間プレス部材。」とあるのを、「(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記金属間化合物層が島状に存在し、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中へ水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材(但し、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除く)。」に訂正する。

・訂正事項5:
特許請求の範囲の請求項6に「ZnO層の直下にSi含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の熱間プレス部材。」とあるのを、「(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記ZnO層の直下にSi含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を有することを特徴とする熱間プレス部材。」に訂正する。

なお、平成26年3月6日付けの訂正請求書による訂正請求は、平成28年8月15日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がなされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げたものとみなされる。

2 当審の判断
・訂正事項1について
「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」という事項を付加することにより、請求項1に記載される「熱間プレス部材」について、その特性を明らかにするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、願書に添付した明細書の【0009】、【0015】の記載に基づくものといえるので、同明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項2について
訂正前の請求項2においては、「Cr:0.01?1%」、「Ti:0.2%以下」、「B:0.0005?0.08%」のうちから選ばれた少なくとも一種が任意含有成分として記載されていたが、訂正後の請求項2では、「Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%から選ばれた少なくとも一種」を必須含有成分とし、「Ti:0.2%以下」のみを任意含有成分とするものであり、訂正前に7通りあった選択枝が該訂正により6通りになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、請求項2や【0013】の記載に基づくものといえるので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の範囲内においてしたものであり、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項3について
訂正前の請求項4が、「請求項1から3のいずれか一項に記載される」との引用形式の記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、「請求項1から5のいずれか一項」のうちの「請求項1から3のいずれか一項」を独立形式の記載に改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
また、「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」という事項を付加し、請求項1に記載される「熱間プレス部材」について、その特性を明らかにし、さらに、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除くことは、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、【0009】、【0015】の記載に基づくものといえるので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の範囲内においてしたものであり、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項4について
訂正前の請求項5が、「請求項1から4のいずれか一項に記載される」との引用形式の記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、「請求項1から5のいずれか一項」のうちの「請求項1から3のいずれか一項」を独立形式の記載に改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
また、「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」という事項を付加し、請求項1に記載される「熱間プレス部材」について、その特性を明らかにし、さらに、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除くことは、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、【0009】、【0015】の記載に基づくものといえるので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の範囲内においてしたものであり、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項5について
訂正前の請求項6が、「請求項1から5のいずれか一項に記載される」との引用形式の記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、「請求項1から5のいずれか一項」のうちの「請求項1から3のいずれか一項」を独立形式の記載に改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
ここで、訂正事項5は、特許無効審判の請求がされていない請求項6に係る訂正であるが、上記のとおり、当該訂正の目的は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることであって、特許請求の範囲の限縮又は誤記若しくは誤訳の訂正ではないことから、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかについての判断は要しないものである。

また、本件訂正前の請求項2-6は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正は、一群の請求項毎に請求されたものである。

したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1、3、4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第3項、同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。


第3 請求人の主張の概要
請求人は、特許第5348431号の請求項1ないし5に係る特許は無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下のとおり主張し、その証拠方法として、下記甲1号証ないし甲5号証を、また、平成26年4月16日付け弁駁書とともに、下記甲5号証(差し替え)及び甲6号証ないし甲12号証を、さらに、口頭審理陳述要領書とともに、下記甲13号証ないし甲20号証を提出した。

(i)無効理由1の1
本件特許請求項2、4及び5の発明は、甲1号証【0064】乃至【0066】段落の実施例4のうち、【表5】の例No.2の鋼板と同じ構成を有する熱間プレス部材であるから、特許法第29条第1項第3号及び特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。(審判請求書第14-15頁「(3)無効審判請求の根拠」)

(ii)無効理由1の2
本件特許請求項2、4及び5の発明は、甲1号証【0064】乃至【0066】段落の実施例4の【表5】の例No.2の鋼板について、甲4号証の1及び2に開示されたプレス方法を組み合わせることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。(同上)

(iii)無効理由2の1
本件特許請求項1の発明は、甲1号証【0064】乃至【0066】段落の実施例4の【表5】の例No.2の鋼板について、甲3号証に開示された鋼板の組成についての開示を組み合わせることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。(同上)

(iv)無効理由2の2
本件特許請求項1の発明は、甲1号証【0064】乃至【0066】段落の実施例4の【表5】の例No.2の鋼板について、甲3号証に開示された鋼板の組成についての開示と、甲4号証の1及び2に記載されたプレス方法を組み合わせることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。(同上)

(v)無効理由3
本件特許請求項3の発明は、甲1号証実施例4の【表5】の例No.2の鋼板、又は甲1号証実施例4の【表5】の例No.2に甲4号証の1及び2の開示を組み合わせた鋼板に、更に、甲5号証の1乃至4に開示された鋼板の組成についての開示を組み合わせることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。(同上)

(vi)訂正後の請求項1乃至5に係る本件特許発明は、進歩性を欠き無効である。
(vi-1)無効理由1
本件特許請求項2、4及び5の発明は、甲1号証【0064】乃至【0066】段落の実施例4の【表5】の例No.2の鋼板について、甲4号証の1及び2に開示されたプレス方法を組み合わせ、甲9号証の1乃至4に開示された周知技術に基づいて実施例4の例No.2において用いる熱間プレス鋼板の下地鋼板にCr,Bを含有するものを用いることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。(平成26年4月16日付け弁駁書第13-14頁「6-2-2.無効審判請求の根拠」)

(vi-2)無効理由2
本件特許請求項1の発明は、甲1号証【0064】乃至【0066】段落の実施例4の【表5】の例No.2の鋼板について、甲3号証に開示された鋼板の組成についての開示と、甲4号証の1及び2に開示されたプレス方法を組み合わせることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。(同上)

(vi-3)無効理由3
本件特許請求項3の発明は、甲1号証実施例4の【表5】の例No.2に甲4号証の1及び2に開示されたプレス方法を組み合わせ、更に、甲5号証の1乃至4に開示された鋼板の組成についての開示を組み合わせることで、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項及び特許法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。(同上)
なお、無効理由3は、具体的には、無効理由1、2に甲5号証の開示を組合わせれば、本件特許請求項3の発明は、容易想到である旨の主張と認められる。(同弁駁書第44頁19行-第45頁20行)

(vii)訂正が認められた場合であっても、訂正後の本件請求項1乃至5は、「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」という構成要件P以外の各構成要件を充足する、そのような熱間プレス部材について、具体的に、どのような構成をどのように調整・変更すれば、構成要件Pの作用効果を充足し、あるいは充足しないのか、本件特許明細書にはこの点について何の記載もなされていない。
したがって、構成要件Pを含む訂正後の請求項1乃至5は、実施可能要件違反、又は明確性要件違反の無効理由(特許法123条1項4号)がある。(平成28年9月21日付け弁駁書第47頁第3行-第48頁16行)


甲1号証 :特許第3582504号公報
甲2号証 :Zn-Ni合金電気めっきを施した鋼板の熱間プレス後の
表面皮膜状態の調査結果
甲3号証 :特開2006-110713号公報
甲4号証の1:特開2002-102980号公報
甲4号証の2:特開2002-282951号公報
甲5号証の1:特開2005-139485号公報
甲5号証の2:調質鋼の靱性値に及ぼすMnSの影響について
(鉄と鋼 Vol.65(1979)No.11,354
頁)
甲5号証の3:特開2004-315826号公報
甲5号証の4:特開2004-323951号公報
甲5号証の3:特開2004-315836号公報(差し替え)
甲6号証 :「Zn-Ni合金電気めっきを施した鋼板の熱間プレス後 の表面皮膜状態の調査結果」に関する陳述書
甲7号証 :JISハンドブック 鉄鋼 1986 社団法人日本規格 協会(24頁)
甲8号証 :レスリー鉄鋼材料学(監訳:幸田成康、訳:熊井 浩、野 田龍彦、丸善株式会社、昭和62年3月30日第2刷発行 、第273頁)
甲9号証の1:特開2004-315927号公報
甲9号証の2:特開2003-147499号公報
甲9号証の3:特開2008-240046号公報
甲9号証の4:Development of Pre-Coated Boron Steel for Applicatio ns on PSA Peugeot Citroen and RENAULT Bodies in Whit e(2002 Society of Automoti ve Engineers(2002-01-2048) 甲10号証 :1420MPa級高強度鋼の遅れ破壊特性に及ぼすNi, Siの影響(鉄と鋼 Vol.82(1996)No.9 、777-782頁)
甲11号証 :特開2006-70327号公報
甲12号証 :鉄鋼材料の水素含有量の電気化学測定法におけるニッケル 被覆法の開発(防食技術,24,第511-515頁(1 975))
甲13号証 :特公昭62-15635号公報
甲14号証 :高電流密度下でのNi-Zn合金の電析(金属表面技術 Vol.33,No.10,1982、第106-111 頁)
甲15号証 :亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板の開発(金属表面技術 V ol.37,No.2,1986、第11-17頁)
甲16号証 :Zn-Ni合金電気めっきに及ぼす浴中鉄イオンの影響
(鉄と鋼 1985年、第68頁)
甲17号証 :電着亜鉛-ニッケル合金の結晶形態と微細構造(鉄と鋼 第77年(1991)第7号,第28-33頁)
甲18号証 :ZnおよびZn-Ni合金電析膜のエピタキシャル成長( 鉄と鋼 第77年(1991)第7号、第34-39頁) 甲19号証 :電気化学概論(松田好晴 岩倉千秋共著 丸善株式会社、 平成21年2月10日第16版発行、第32-43頁)
甲20号証 :特開昭60-56088号公報


第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、請求人が主張する無効理由はいずれも理由がない旨主張し、平成26年8月8日付け口頭審理陳述要領書において、下記乙1号証ないし乙3号証を提出し、同年9月12日付け上申書において、下記乙4号証及び乙5号証を提出した。


乙1号証:自動車外板用Zn-Niめっき鋼板のプレス成形性とりん酸塩 処理性に及ぼすNi含有率の影響(川崎製鉄技報 Vol.2 3 No.4 1991 第57-62頁)
乙2号証:特開2004-124207号公報
乙3号証:審査基準「第2章 新規性進歩性」の第1、25、35頁
乙4号証:新電気亜鉛めっき設備(KM-RCEL)の概要(川崎製鉄技 報 Vol.15 No.1 1983 第1-9頁)
乙5号証:THE FOURTH AES CONTINUOUS ST RIP PLATING SYMPOSIUM May 1- 3,1984 「Zn-Ni ALLOY PLATING AT HIGH CURRENT DENSITIES」p. 1-29


第5 審理範囲について
請求人が、平成26年4月16日付け弁駁書において主張する「無効理由1」ないし「無効理由3」(「上記「第3」(vi))については、検討を行うものとした。(平成28年4月26日付け補正許否の決定。以下、これら理由を、それぞれ、「無効理由4」、・・・「無効理由6」という。)
また、 請求人が、平成28年9月21日付け弁駁書において新たに主張する上記(vii)の無効理由(36条4項1号36条6項2号)については、審理範囲に含めない(平成28年11月30日付け補正許否の決定)。


第6 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、・・・、「本件特許発明6」という。)は、平成28年8月15日付け訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載される事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材。
【請求項2】
部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種、又は、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種とTi:0.2%以下が含有されることを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス部材。
【請求項3】
部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間プレス部材。
【請求項4】
(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記Ni拡散領域が鋼板の深さ1μm以上にわたって存在し、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中へ水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材(但し、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除く)。
【請求項5】
(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記金属間化合物層が島状に存在し、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中へ水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材(但し、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除く)。
【請求項6】
(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記ZnO層の直下にSi含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を有することを特徴とする熱間プレス部材。」


第7 甲各号証の記載事項
1 甲1号証(特許第3582504号公報)
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛または亜鉛系合金のめっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700 ?1000℃に加熱されてプレスされる熱間プレス用鋼板。
【請求項2】
前記酸化皮膜が亜鉛の酸化物層から成る請求項1記載の熱間プレス用鋼板。」
(1b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このような難プレス成形材料をプレス成形する技術として、成形すべき材料を予め加熱して成形する方法が考えられる。いわゆる熱間プレス成形および温間プレス成形である。以下、単に熱間プレス成形と総称する。
【0006】
しかし、熱間プレス成形は、加熱した鋼板を加工する成形方法であるため、表面酸化は避けられず、たとえ鋼板を非酸化性雰囲気中で加熱しても、例えば加熱炉からプレス成形のため取り出すときに大気にふれると表面に鉄酸化物が形成される。この鉄酸化物がプレス時に脱落して金型に付着して生産性を低下させたり、あるいはプレス後の製品にそのような酸化皮膜が残存して外観が不良となるという問題がある。しかも、このような酸化皮膜が残存すると、次工程で塗装する場合に鋼板との塗膜密着性が劣ることになる。またスケールが残存する場合、次工程で塗装してもスケール/鋼板間の密着性不芳のせいで塗膜密着性が劣る。」

(1c)「【0014】
ここに、本発明の課題は、いわゆる難プレス成形材料について熱間プレスを行っても所定の耐食性を確保でき、外観劣化が生じない熱間プレス用の鋼材を提供することである。
【0015】
さらに本発明の具体的課題は、耐食性確保のための後処理を必要とせずに、例えば難プレス成形材料である高張力鋼板の熱間プレス成形を可能とし、同時に耐食性をも確保できる技術を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決する手段について種々の角度から鋭意検討の結果、前記のような難プレス成形材料をそのままプレス成形するのではなく、変形抵抗を低減させるべく高温状態でプレス成形を行い、同時にそのときに、後処理を行うことなく優れた耐食性を確保すべく、もともと耐食性に優れるめっき鋼板を用いてその熱間プレス成形を行うというアイデアを得た。そして、これに基づき、耐食性湿潤環境において鋼板の犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板に熱間プレスを適用することを着想した。しかし、熱間プレスは700 ?1000℃という温度で加熱することを意味するのであって、この温度は、亜鉛系めっき金属の融点以上の温度であって、そのような高温に加熱した場合、めっき層は溶融し、表面より流失し、あるいは溶融・蒸発して残存しないか、残存しても表面性状は著しく劣ったものとなることが予測された。
【0017】
しかしながら、さらに、その後種々の検討を重ねる内に、加熱することによりめっき層と鋼板とが合金化することで何らかの変化が見られるのではないかとの見解を得て予備試験として各種めっき組成および各種雰囲気で、実際に700 ?1000℃の温度に加熱を行い、次いで熱間プレスを行ったところ、それまでの予測に反して、一部の材料について問題なく熱間プレスを行うことができることが判明した。
【0018】
そこで、700 ?1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行っても表面性状が良好であるための条件を求めたところ、めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が、下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として全面的に形成されていることが判明した。このバリア層は、熱間プレスに先立つ加熱前にある程度形成されていることが必要で、その後700 ?1000℃に加熱されることによっても形成が進むと推測している。
【0019】
さらに、めっき層の分析を行ったところ、かなり合金化が進んでおり、それにより、めっき層が高融点化してめっき層表面からの亜鉛の蒸発を防止しており、かつ鋼板の鉄酸化物形成を抑制していることが判明した。しかも、このようにして加熱されためっき層は熱間プレス成形後においてめっき層と母材である鋼板との密着性が良好であることが判明した。」

(1d)「【0029】
素地鋼材
本発明にかかる熱間プレス用の素地鋼材は、溶融亜鉛系めっき時のめっき濡れ性、めっき後のめっき密着性が良好であれば特に限定しないが、熱間プレスの特性として、熱間成形後に急冷して高強度、高硬度となる焼き入れ鋼、たとえば下掲の表1にあるような鋼化学成分の高張力鋼板が実用上は特に好ましい。」

(1e)「【0035】
亜鉛系めっき層/バリア層
本発明において、バリア層を備えた亜鉛系めっき層を設けるには、例えば通常の溶融亜鉛めっき処理を行ったのち、酸化性雰囲気中での加熱、つまり通常の合金化処理を行えばよい。このような合金化処理はガス炉等で再加熱することにより行われるが、そのときめっき層表面の酸化ばかりでなく、めっき層と母材の鋼板との間で金属拡散が行われる。通常このときの加熱温度は550 ?650 ℃である。
・・・
【0037】
もちろん、所定厚みのめっき層が得られるのであれば、例えば、電気めっき、溶射めっき、蒸着めっき等その他いずれの方法でめっき層を設けてもよい。
亜鉛合金めっきとしては、次のような系が開示されている。
【0038】
例えば亜鉛-鉄合金めっき、亜鉛-12%ニッケル合金めっき、亜鉛-1%コバルト合金めっき、55%アルミニウム-亜鉛合金めっき、亜鉛-5%アルミニウム合金めっき、亜鉛-クロム合金めっき、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき、スズ-8%亜鉛合金めっき、亜鉛-マンガン合金めっきなどである。
【0039】
めっき付着量は90g/m^(2)以下が良好である。これを超えるとバリア層としての亜鉛酸化層の形成が不均一となり外観上問題がある。下限は特に制限しないが、薄過ぎるとプレス成形後に所要の耐食性を確保できなくなったり、あるいは加熱の際に鋼板の酸化を抑制するのに必要な酸化亜鉛層を形成できなくなったりすることから、通常は20g/m^(2)程度以上は確保する。加熱温度が高くなるなど、より過酷な加熱の場合、望ましくは40?80g/m^(2)の範囲で性能良好となる。
【0040】
亜鉛系めっき層の組成は特に制限がなく、純亜鉛めっき層であっても、Al、Mn、Ni、Cr、Co、Mg、Sn、Pbなどの合金元素をその目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層であってもよい。その他原料等から不可避的に混入することがあるBe、B、Si、P、S、Ti、V、W、Mo、Sb、Cd、Nb、Cu、Sr等のうちのいくつかが含有されることもある。
【0041】
しかし、純亜鉛めっき層または合金化亜鉛めっき層の方が低コストで望ましい。・・・」

(1f)「【0050】
【実施例】
[実施例1]
本例では、板厚み1.0mmの表2に示す鋼種Aの溶融亜鉛めっき鋼板を650 ℃で合金化処理を行い、次いで大気雰囲気の加熱炉内で950 ℃×5分加熱して、加熱炉より取り出し、このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行った。このときの熱間プレス成形条件は、絞り高さ25mm、肩部丸み半径R5mm、ブランク直径90mm、パンチ直径50mm、ダイ直径53mmで実施した。成形後のめっき層の密着状態をめっき層の剥離の有無を目視判定して成形性として評価した。なお、本例においては、鋼板の温度はほぼ2分で900 ℃に到達していた。
【0051】
このようにして得られた熱間プレス成形品について下記要領で塗膜密着性、塗装後耐食性( 単に耐食性という) をぞれぞれ評価した。
塗膜密着性試験
・・・
【0053】
評価基準は残存マス数 90?100 個を良好:評価記号○、0 ?89個を不良:評価記号×とした。
塗装後耐食性試験
・・・
【0055】
評価基準は錆幅、塗膜膨れ幅のいずれか大きい方の値で 0mm以上?4mm 未満を良好:評価記号○、4mm 以上を不良:評価記号×とした。」

(1g)「【0064】
[実施例4]
表1に示す鋼種Aの成分をもち、厚さ1.0mmの鋼板を使用し、実験室でめっきを施した。電気めっきは実際の製造ラインで使用されているめっき浴を用い、実験室でめっきを施した。溶融めっきは実際の製造ラインで用いられる浴を実験室で再現して溶融めっきを行った。亜鉛-鉄めっきの合金化処理は550 ℃の溶融塩浴に浸漬する方法を用いた。得られためっき鋼板は実施例1と同様の熱間成形、評価を実施した。熱間プレスに先立つ加熱は、大気炉で850 ℃、3分間行った。
【0065】
得られた結果を、表5に示すが、めっき方法、めっき層の組成に関係なく、良好な特性が得られている。」

(1h)「



(1i)「【0067】
これらの結果からも分かるように、本発明によれば、いずれの場合にあっても、プレス成形性のすぐれた材料が得られ、成形品としてすぐれた塗膜密着性および耐食性を示すことが分かる。」

2 甲2号証(「Zn-Ni合金電気めっきを施した鋼板の熱間プレス後 の表面皮膜状態の調査結果」)
(2a)「1.目的
特許3582504号の実施例4【0064】記載のZn-12%Ni合金電気めっきを施した鋼板(以下、Ni%の異なるZn-Ni合金めっき鋼板も含め「Zn-Niめっき鋼板」という。)の熱間プレス後の表面皮膜状態の再現実験(以下、「本実験」という。)を行い、特許5348431号の請求項1、4および5に記載の表面皮膜状態に関する項目の調査を行う。」(第1頁第2-6行)

(2b)「2. 本実験内容
2.1. 供試鋼
特許3582504号の明細書【0034】,【0064】に記載の鋼種Aを含む、以下の2種類を用いた。
・鋼種A :特許3582504号の明細書【0034】,【0064】に記載の成分を狙って製造(ラボにおいて製造、製造方法は、下記1)?5)参照。)
・鋼種X :鋼種Aに近い成分にCr、Bを加えて製造(実機において製造)


1)表1に示す鋼種Aの化学成分を狙い値として、高周波真空熔解を行い、17kgインゴットを鋳造した。
※実機では転炉により成分調整後に連続鋳造されるが、この工程を模擬したもので、ラボにおいては常法として行われる。
2)17kgインゴットを、1250℃で30分加熱した後に、950℃以上の温度域で熱間鍛造し、板厚20mm、幅110mmに展伸した後に、長さ180mm毎に切断した。
3)2)で得られた板厚20mm、幅110mm、長さ180mmのスラブを、1250℃で30分加熱した後に、シングルスタンドの圧延機で、厚さ6.0mmまで熱間圧延した。熱間圧延は、4パス行い、狙いの板厚を1パス目15mm、2パス目11mm、3パス目8.5mm、4パス目6.0mmとした。熱間圧延温度は、4パス目の開始を860℃とした。熱間圧延後、得られた熱延鋼板を送風機で600℃まで冷却し、その後600℃に保持された徐冷炉に挿入した。徐冷炉は、熱延鋼板挿入後30分経過後に、炉温を毎時20℃ずつ低下させた。
※実機ではスラブを粗圧延後多段スタンドの圧延機で熱間圧延されるが、この工程を模擬したもので、ラボにおいては常法として行われる。熱間圧延後の送風冷却は、熱間圧延後コイルに巻き取るまでの冷却を模擬したものである。熱延鋼板がコイルに巻き取られると、温度の低下が遅くなるため、徐冷炉はコイルを巻き取られた場合の温度履歴を模擬したものである。いずれも、ラボにおいては常法として行われる。
4)徐冷炉で冷却された熱延鋼板は、表面の機械研削を行い、板厚4.0mm、幅110mm、長さ260mmの研削板に加工した。
・・・
2.2. Zn-Niめっき鋼板の作成
・・・

※A1?A4およびB1?B6、B11,B12については、表3に記載のA浴を用い、表4に示した条件にて電気Znめっきを行い、水洗・乾燥を行い、各鋼板の片面にめっき層を形成させた。ただし、A1?A4とB1?B6、B11、B12については、異なるチャンスで、電気Znめっきを行ったために、Al?A4についてのめっきNi%は12.0%であり、B1?B6、B11、B12についてのめっきNi%は12.1%であった。B7、B8については表3に記載のB浴を用い、B9、B10については表3に記載のC浴を用い、それぞれ表4に示した条件にて電気Znめっきを行い、水洗・乾燥を行い、各鋼板の片面にめっき層を形成させた。

2.3.熱間プレス試験
作成したZn-Niめっき鋼板を用い、熱間プレス試験を行った。

1-a) フラットな金型が設置されたプレス試験機を用いた熱間プレス試 験(平板プレス)
所定のサイズに切断した表5に記載のA1?A4のZn-Niめっき鋼板を用い、850℃に設定した電気加熱炉内に挿入し加熱した。このときZn-Niめっき鋼板に熱電対を接続し、その昇温挙動を調査すると、850℃まで2分程度で昇温した。炉内でZn-Niめっき鋼板を850℃×3分加熱した後、そのまま高温状態で炉から出し、その出炉後5秒以内に、フラットな金型が設置されたプレス試験機に当該Zn-Niめっき鋼板を設置し、直ちにプレスを実施し、上下のフラットな金型で挟むことにより急速冷却し、焼きを入れた(以下、本工程を平板プレスとする。)。・・・

1-b1) クランクプレス試験機を用いた熱間プレス試験1(ハット絞り 成形)
所定のサイズに切断した表5に記載のB1、B2、B3、B4、B7、B8、B9、B10、B11、B12のZn-Niめっき鋼板を用い、850℃に設定した電気加熱炉内に挿入し加熱した。このときZn-Niめっき鋼板に熱電対を接続し、その昇温挙動を調査すると、850℃まで2分程度で昇温した。B1、B3、B7、B9、B11については炉内でZn-Niめっき鋼板を850℃×3分加熱した後、B2、B4、B8、B10、B12については炉内で材料を850℃×5分加熱した後、そのままの高温状態で炉から出し、その出炉後3秒後までに、図5に記載のクランププレス試験機に当該Zn-Niめっき鋼板を設置し、直ちにハット絞り成形を実施し、急速冷却し、焼きを入れた。・・・

1-b2) クランクプレス試験機を用いた熱間プレス試験3(ハット絞り 成形)
所定のサイズに切断した表5に記載のB5、B6のZn-Niめっき鋼板を用い、950℃に設定した電気加熱炉内に挿入し加熱した。このときZn-Niめっき鋼板に熱電対を接続し、その昇温挙動を調査すると、950℃まで75s程度で昇温した。B5については炉内で950℃×3分加熱した後、B6については炉内で950℃×5分加熱した後、そのままの高温状態で炉から出し、その出炉後3秒後までに、図5に記載のクランププレス試験機に当該Zn-Niめっき鋼板を設置し、直ちにハット絞り成形を実施し、急速冷却し、焼きを入れた。・・・

2.4. 熱間プレス材の調査・評価
1) 2.3で得られた、平板プレスを行ったZn-Niめっき鋼板(A1?A4)およびハット絞り成形を行ったZn-Niめっき鋼板(B1?B12)を、25mm×40mmのサイズで切り出した(ハット絞り成形を行ったZn-Niめっき鋼板(B1?B12)については、図9に図示するとおり部材頭部の平坦部から切り出した。)(以下、切り出したA1?A4およびB1?B12をそれぞれ「試料」という」。)につき、熱間プレス後のめっき皮膜の調査・評価を行った。試料についての調査・評価方法は、特許5348431号公報に記載されている方法にて行った。その方法は表7に記載の通りである。」(第1頁第7行-第10頁第7行)

(2c)「3.実験結果
3.1. 熱間プレス後のZn-Niめっき鋼板の皮膜状態
写真4にハット絞り成形を行ったZn-Niめっき鋼板の外観を示す。ハット絞り成形を行っても皮膜が剥離することなく、熱間プレスが可能なことが確認された。・・・
なお、表9、10に分析結果のまとめを記載する。・・・

3.2. X線回折分析
分析結果と得られた回折パターンから同定した結果を図10に示す。図10から明らかなように、試料にはZnOおよびZn-Ni平衡状態図に含まれるγ相、そしてフェライト相(α相)とZnO相が含まれていることがわかった。
・・・

・・・
3.4. 電気化学測定
25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で測定した自然浸漬電位測定結果を表8に示す。自然浸漬電位は通常、水溶液に浸漬した後に電位が安定した値をとるが、安定の目安として100秒間での電位変化が5mV以下となった場合を安定とした。ここで、取り扱いの都合上測定は参照極に甘こうカロメル電極(標準電位:水素電極基準-224mV)を用い、対極にはカーボン電極を用いて行った。その結果、全ての条件で水素電極基準の自然浸漬電位が-600mV?-360mVの値であることがわかった。
・・・

・・・

・・・


3.7. まとめ
3.1から3.5に記載した特許3582504号の再現試験実験結果と、特許5348431号の請求項1、4および5に記載の表面被膜状態に関する項目との関係を表9、10に示す。
請求項1、4及び5に記載の表面被膜状態に関する項目は、具体的には以下のとおりである。
請求項1
1a.鋼板の表層に、Ni拡散領域
1b.Ni拡散領域上に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に 相当する金属間化合物層
1c.金属間化合物層の上に、ZnO層
1d.自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mV
請求項4
Ni拡散領域が鋼板の深さ方向に1μm以上にわたって存在
請求項5
金属間化合物層が島状に存在

特許3582504号、実施例4 表5のNo.2に記載の鋼板を、実施例4に記載の熱間プレスを行った時の、鋼板の表面構造・組成・構成は、前記請求項1、4および5に記載の表面被膜状態に関する項目を満たしていることがわかった。



なお、試料A3の「1d 電化」の値「-308」は、表8に示されるような「-508」の誤記と認められる。

3 甲3号証(特開2006-110713号公報)
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05?0.55%、Mn:0.1?3%、Si:1.0%以下、Al:0.005?0.1%、S:0.02%以下、P:0.03%以下、N:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる化学成分を含有する鋼板を用い、水素量が体積分率で10%以下、かつ露点が30℃以下である雰囲気にて、Ac3?融点までに鋼板を加熱した後、フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト変態が生じる温度より高い温度で成形を開始し、成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造した後に部品の一部を溶融して切断する加工を施すことを特徴とする高強度部品の製造方法。」

(3b)「【0004】
このように、自動車等に使用される高強度鋼板は高強度化されるほど上述した成形性の問題や特に1000MPaを超えるような高強度材においては従来から知られているように水素脆化(置きわれや遅れ破壊と呼ばれることもある)という本質的な課題がある。ホットプレス用鋼板として用いられる場合、高温でのプレスによる残留応力は少ないものの、プレス前の加熱時に水素が鋼中に浸入すること、また後加工での残留応力により水素脆化の感受性が高くなる。したがって単に高温でプレスするだけでは本質的な課題解決にならず、加熱工程および後加工までの一貫工程での工程条件最適化が必要となる。
【0005】
剪断加工などの後加工時の残留応力を減少する可能性がある技術としては、後加工を行う部位の冷却速度を低下させて焼入れを不十分として、その部位の強度を低下させる技術が特許文献5に示されている。この方法によれば部品の一部の強度が低下し、剪断加工などの後加工後の残留応力が低下する可能性が考えられる。しかし、この方法を用いる場合には、金型構造が複雑になり、経済的に不利であると考えられる。さらに、この方法では水素脆化に対してはなんか言及しておらず、この方法により鋼板強度が若干低下して後加工後の残留応力がある程度低下した場合であっても、鋼中に水素が残存した状態であれば水素脆化が生じる可能性は否定できない。本発明は上記のような従来技術の問題点を解決し、高温成形後に1200MPa以上の強度を得ることができる耐水素脆性に優れた高強度部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々の検討を実施した。その結果、水素脆化を抑制するためには、成形前の加熱炉中の雰囲気を制御して鋼中の水素量を減少させ、さらに加工後の残留応力が小さい溶断や切削などの加工方法にて後加工を行うことが効果的であることを見出した。
・・・」

(3c)「【0016】
TiはBの効果を有効に発揮させるため、Bと化合物を生成するNを固着する目的で添加する。この効果を発揮させるためには、(Ti-3.42×N)が0.001%以上必要であるが、Ti量がむやみに増加するとTiと結合していないC量が減少し冷却後に十分な強度が得られなくなるため、その上限として、Tiと結合していないC量が0.1%以上確保できるTi当量、すなわち、3.99×(C-0.1)%とした方がよい。
スクラップから混入すると考えられるNi, Cu, Snなどの元素が含有してもよい。更に介在物の形状制御の観点からCa, Mg, Y, ,As, Sb, REMを添加してもよい。さらに強度を向上する目的でTi, Nb, Zr, Mo, Vを添加してもよいが、これらの元素がむやみに増加するとこれらの元素と結合していないC量が減少し冷却後に十分な強度が得られなくなるため、各々1%以下の添加が望ましい。
その他、不可避的に含まれる不純物が含有しても特に問題は生じない。」

(3d)「【実施例】
【0018】
表1に示す化学成分のスラブを鋳造した。これらのスラブを1050?1350℃に加熱し、熱間圧延にて仕上温度800?900℃、巻取温度450?680℃で板厚4mmの熱延鋼板とした。その後、酸洗を行った後、冷間圧延により板厚1.6mmの冷延鋼板とした。また、その冷延板の一部に溶融アルミめっき、溶融アルミ?亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛めっきを施した。表2にめっき種の凡例を示す。その後、それらの冷延鋼板、表面処理鋼板を炉加熱によりAc3 点以上である950℃のオーステナイト領域に加熱した後、熱間成型加工を行った。・・・」

(3e)「



4 甲4号証の1(特開2002-102980号公報)
(4a)「【0041】次に、前記長尺状の金属板30を加熱装置内に封入し、所定の目標温度(本実施形態では950℃)にまで加熱した。加熱装置として電気炉を用いると共に、電気炉内を不活性ガス雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)とし、常温から徐々に温度を上げて目標温度に到達させ、若干時間その目標温度を保持した。続いて、目標温度に加熱した金属板30を加熱装置から成形用プレス機の固定型11及び可動型12間に高速搬送し、直ちにプレス加工を施した。すなわち、金属板30を加熱装置から取り出してプレス機にセットし押圧動作を開始するまでの時間を5秒以内として、プレス直前の金属板30の温度が摂氏850度を下回らないように配慮した。プレス型としての固定型11及び可動型12の温度は常温(又は室温)のままとした。更に、可動型12を固定型11に押圧するときの圧力(プレス圧)を、1千MPa?1万MPaに設定(本実施形態では約5千MPaに設定)するとともに、可動型12が上死点位置から下死点位置に移動し再び上死点位置に復帰するまでの一押圧工程に要する時間を5秒以内とした。なお、押圧完了後、プレス型から取り出した直後の製品の温度は100?200℃であったが、その後、数十分間自然放冷することで常温近くに達した。
【0042】このようなプレス加工により、図6(B)、図7及び図8に示すように、金属板30には横断面ハット形の形状が付与されてその本体部31には左右一対の側壁31aが出現する・・・」

(4b)「



5 甲4号証の2(特開2002-282951号公報)
(5a)「【0028】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)本実施例1は、被加工材の冷却を金型の接触抜熱効果で行うタイプであって、クリアランスClwを変更した際のプレス製品の強度、寸法精度及び生産性について検討したものである。また、本実施例1では、実施態様1で説明したプレス成形装置1(図1参照)を使用して、ハット絞り成形によりハット製品25(図4(a)参照)を試作した例(後述する表1の実験例1?10)を示す。また、金属板材20として、冷延鋼材:300mm×80mm×1.2mm(板厚t)を用いた。また、上記プレス成形装置1において、ダイス幅:80mmとし、ダイス及びパンチ肩幅:10mmとした。また、パンチ幅及び成形深さを変更して、クリアランスClwを絶対値0.8?2.4mmの範囲内で変更し、クリアランスClhは絶対値1.2mmで固定した。特に、実験例1,2は、クリアランスClwを冷延鋼材の板厚tの0.8倍未満とした例である。また、実験例3?9は、クリアランスClwを板厚tの0.8?1.9倍とした例である。また、実験例10は、クリアランスClwを板厚tの1.9倍を超える例である。これら実験例1?10の各クリアランスClwの具体的な値を表1に示す。尚、潤滑剤としてグラファイト系潤滑剤を用いた。また、ダイス2と板押えホルダ6との間のクッション圧は9.8kNとした。
・・・
【0030】上記ハット製品25の成形手順として、先ず、冷延鋼材20を雰囲気炉内で約950℃まで加熱した。次に、この加熱された鋼材を、プレス成形装置1まで搬送し、パンチ4とダイス2との間の成形位置にセットした。その後、鋼材20の温度が900℃以上の状態で、パンチ4とダイス2で熱間プレス成形を行い、・・・」

(5b)「



6 甲5号証の1(特開2005-139485号公報)
(6a)「【請求項1】
質量%で、
C :0.1?0.55%、
Si:1.0%以下、
Mn:0.2?3%、
Al:0.005?0.1%、
S :0.02%以下、
P :0.03%以下、
Cr:0.0l?1%、
Ni,Cu,Snの1種または2種以上の合計が0.005?2%、
Ca,Mg,Y,As,Sb,REMの1種または2種以上の合計が0.0005?0.05%、
残部Fe及び不可避的不純物(付随的不純物を含む)からなることを特徴とする熱間成形加工後の衝撃特性・遅れ破壊特性に優れた熱間成形加工用鋼板。」

(6b)「【0011】
本発明においては、特定の化学組成を有する熱延素材あるいは冷延素材を用いるが、その熱延素材あるいは冷延素材を製造する手段は特に限定されない。また、熱間成形加工とは、Ac3 変態点以上のオーステナイト領域に加熱後、Ac3 変態点以上の温度で成形加工(例えばプレス加工)を開始し、加工と同時に金型で抜熱することにより急速冷却し、マルテンサイト変態させて硬化させる加工をいう。」

(6c)「【0020】
Ca,Mg,Y,As,Sb,REMは、主な硫化物であるMnSの形状を変化させて衝撃特性と遅れ破壊特性を向上させると考えられるため、これらの1種または2種以上の合計が0.0005%以上の添加が必要である。しかし過度の添加は加工性を劣化させるため、その上限を0.05%以下に規制した。」

7 甲5号証の2(調質鋼の靱性値に及ぼすMnSの影響について(鉄と 鋼 Vol.65(1979)No.11,354頁)
「1. 緒言
・・・今回は、MnSの量、形状の靱性に及ぼす影響を、脆性破壊の発生及び伝播・停止特性の観点から詳細に調査、検討し、・・・
2. 実験方法
・・・。機械試験は、シャルピー衝撃試験、疲労ノッチ付COD試験、及びNRL落重試験を行ない、それぞれvTs、TδC=0.1mm、及びNDTTの各特性値を求め、これらの値により靱性を評価した。
3. 結果
a)シャルピー試験においては、MnS量の低減、及び形状制御により、vEsとともにvTsも改善される現象が認められた。・・・」

8 甲5号証の3(特開2004-315836号公報)(差し替え)
(8a)「【請求項2】
質量%で、
C :0.2?0.35%、
Si:0.03?0.3%、
Mn:0.15?1.2%、
Cr:0.02?1.2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下、
Mo:0.2%以下、
Ti:0.01?0.10%、
B :0.0005?0.0050%
を含み、かつ、Sn,Sb,Bi,Seの一種以上を合計で0.0003?0.5%含むことを特徴とする加工性、焼き入れ性、溶接性、耐浸炭および耐脱炭性に優れた高炭素鋼板。」

(8b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工用に熱処理することにより硬化させる高炭素鋼板に関するものであり、熱処理時の鋼板表層での浸炭、脱炭を抑制することが出来る高炭素鋼板に係るものである。」

(8c)「【0016】
Sn,Sb,Bi,Seは本発明で最も重要な元素である。本発明者らは、Cを含有する鋼板にSn,Sb,Bi,Seを添加することで、顕著に表面での炭素の反応を抑制できることを見出し本発明を完成した。これらSn,Sb,Bi,Seのメカニズムについて詳細は分かっていないが、これら元素が鋼板の最表層に偏析して表面での反応を抑制しているのではないかと考えている。
表面での浸炭、脱炭を抑制するためにはSn,Sb,Bi,Seの一種以上を合計で0.0003%以上必要である。しかし、Sn,Sb,Bi,Se含有量が高くなると、浸炭、脱炭を抑制する効果が飽和するので、上限を0.5%とした。浸炭、脱炭の抑制のために、Sn,Sb,Bi,Seの一種以上を0.003%以上添加することが望ましい。さらに好ましくは0.010%以上添加することにより有効に効果を発揮する。」

9 甲5号証の4(特開2004-323951号公報)
(9a)「【請求項3】
更に、質量%にて、
Se:0.0002?0.05%、
As:0.0002?0.05%、
Sb:0.0002?0.05%、
Sn:0.0002?0.05%、
Pb:0.0002?0.05%、
Bi:0.0002?0.05%、
の1種または2種以上を含有し、かつ、それらの合計が0.05%以下を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の耐水素脆化、溶接性および穴拡げ性に優れた高強度薄鋼板。」

10 甲6号証(「Zn-Ni合金電気めっきを施した鋼板の熱間プレス 後の表面皮膜状態の調査結果」に関する陳述書)
甲2号証(「Zn-Ni合金電気めっきを施した鋼板の熱間プレス後の表面皮膜状態の調査結果」)における実験が、熱間プレス技術について専門性を有する請求人従業員らが、請求人及び請求人子会社の事業所内において、平成25年4月?8月の間に実施した旨、説明されている。

11 甲7号証(「JISハンドブック 鉄鋼 1986(24頁)」)
「AC3点:亜共析鋼において、加熱に際しα鉄からγ鉄へ、またはフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度。」

12 甲8号証(「レスリー鉄鋼材料学」(監訳:幸田成康、訳:熊井浩 、野田龍彦、丸善株式会社、昭和62年3月30日第2刷発行)
「VII.8 恒温変態図」の欄に、 「A_(c3)=910-203√%C-15.2(%Ni)+44.7(%Si)+104(%V)+31.5(%Mo)+13.1(%W)(VII-20)
Ac3に対する式(VII-20)以外の含有成分の影響は,次項を追加することで補うことができる.
-[30(%Mn)+11(%Cr)+20(%Cu)-700(%P)-400(%Al)-120(%As)-400(%Ti)]」(273頁22?27行)

13 甲9号証の1(特開2004-315927号公報)
(13a)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、これまでに開示されている技術を用い、高温成形後に高強度となる高温プレスに適した鋼板を製造することは困難である。また、加熱時に鋼板表面に生成するスケールは、高温プレス時に鋼板表面あるいは金型表面の疵発生原因の一つとなる。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、熱間成形後にHv400以上の高い硬度を得ることができる、高温成形後の硬化能および衝撃特性に優れた鋼板およびその使用方法を提供することを目的とする。」

(13b)「【0028】
また、表1および表2の組成をもつ冷延鋼板を炉加熱により950℃のオーステナイト領域に加熱した後、900℃から水冷式金型を有するプレス機にてハットフォーム成形加工を行った。成形時間を約1秒とし、成形完了10秒間はプレス金型をそのままの状態にして金型による冷却を行った。また10秒後の鋼板温度を測定した。」

(13c)「【請求項1】
Raで0.1?1μmの表面粗度を有することを特徴とする高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。
【請求項2】
質量%で、
C :0.2?0.35%、
Si:1%以下、
Mn:0.3?1.5%、
Al:0.01?0.1%、
Ti:0.001?0.04%、
B :0.0005?0.005%、
N :0.001?0.01%、
P :0.03%以下、
S :0.02%以下、
O :0.015%以下、
残部がFeおよび不可避の不純物および/または付随的成分よりなり、下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。」

(13d)「【0014】
Tiは、B添加による焼入れ性を安定かつ効果的に向上させるために作用するが、0.001%未満およびTi/47.88-N/14.01≧0式を満足しない範囲では効果が期待できず、0.04%超ではTiの窒化物が多く生成して、靭性が劣化する傾向があるため、Tiは0.001?0.04%の範囲が望ましい。
【0015】
Bは、微量添加で鋼材の焼入れ性を大幅に向上させる元素であり、また粒界強化およびM23(C、B)6 などとして析出強化の効果もある。添加量が0.0005%未満では焼入れ性に効果が期待できず、また0.005%を超えると粗大なB含有相を生成する傾向があり、また脆化が起こりやすくなる。このためBは0.0005?0.005%の範囲が望ましい。
・・・
【0020】
Crは、焼入れ性を向上させる元素であり、またマトリックス中へM23C6 型炭化物を析出させる効果を有し、強度を高めるとともに、炭化物を微細化する作用を有する。0.01%未満ではこれらの効果が十分期待できず、また1%を超えると降伏強度が過度に上昇する傾向にあるため、Crは0.01?1%の範囲が望ましい。より望ましくは0.05?1%である。」

14 甲9号証の2(特開2003-147499号公報)
(14a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%で、C:0.08?0.45%、Mnおよび/またはCr合計で0.5 ?3.0 %を含有する鋼板に、Fe含有量が5?80質量%であるFe-Zn 合金から成りかつZn付着量が10?90g/m2であるZnめっき層を有することを特徴とする熱間プレス用鋼板。
【請求項2】 前記鋼板が、さらに、質量%で、Si:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Ni:2%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、Ti:1%以下、Nb:1%以下、Al:1%以下、およびN:0.01%以下から成る群から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス用鋼板。」

(14b)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋼板の表面処理によってスケール生成を防止すべく鋭意検討の結果、Zn-Fe合金皮膜の存在がスケール防止に有効であるとの知見を得た。
【0010】一般にこれらの合金相の融点は約800 ℃以下であるため、熱間プレスに必要な800 ?1000℃という温度に加熱するとZn-Fe合金被膜層(以後、めっき層と呼称する)が溶融して表面より蒸発・消失し、熱間プレスに有害な鉄系酸化物からなるスケール(以後、単にスケールと呼称する)が発生すると考えられた。」

(14c)「【0021】Mnおよび/またはCr (合計) :0.5 ?3.0 %
MnおよびCrは、鋼板の焼入れ性を高めかつ熱間プレス後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。しかし(Mnおよび/またはCr)の合計含有量が0.5 %未満ではその効果は十分ではなく、一方で(Mnおよび/またはCr)合計含有量が3.0%を超えるとその効果は飽和し、逆に安定した強度確保が困難となる。より望ましい(Mnおよび/またはCr) の合計含有量は0.8 ?2.0 %である。
・・・
【0023】本発明の好適態様にあっては、さらに強度を高めるために、あるいは、それらを一層安定して実現するために、次のようにその添加元素を規定する。
Si:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Ni:2%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、Ti:1%以下、Nb:1%以下、Al:1%以下、N:0.01%以下
これらの元素も、鋼板の焼入れ性を高めかつ熱間プレス後強度の安定確保に効果の有る元素である。しかし、上限値を超えて含有させてもその効果は小さく、かついたずらにコスト増を招くため、各合金元素の含有量は上述の範囲とする。
【0024】ただし、P、Sについては不可避的に存在することがあり、またSiおよび/またはAlについては脱酸材として添加されることもある。B:0.0001?0.004 %
Bは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス後強度の安定確保効果をさらに高める重要な元素である。しかし、B含有量が0.0001%未満ではその効果は十分ではなく、一方でB含有量が0.004 %を超えるとその効果は飽和し、かつコスト増を招く。より望ましいB含有量は0.0005?0.002%である。」

(14d)
「【0052】
【表1】

【0053】本発明例である鋼種No.1?10では、鉄系酸化物の形成状況、金型汚染、塗膜密着性および耐食性ともに良好な結果であった。一方、比較例である鋼種No.11 ?15では、鉄系酸化物の形成状況、金型汚染、塗膜密着性および耐食性を同時に満足できるものはなかった。」

15 甲9号証の3(特開2008-240046号公報)
(15a)「【請求項4】
さらに、質量%で、
Cr:0.1?5%、
Mo:0.1?3%、
B:0.0003?0.005%、
V:0.01?2%、
W:0.01?3%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の熱間プレス時のスケール密着性に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
さらに、質量%で、
Ti:0.01?1%、
Nb:0.01?1%、
Al:0.005?1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の熱間プレス時のスケール密着性に優れた高強度鋼板。」

(15b)「【0027】
以上の基本成分として、C,Si,Mn,P,S,Nの含有量を規定することにより、強度1000Mpa以上の高強度鋼板を提供することができる。
<Cr:0.1?5%>
Crは焼入れ性の観点から有用な元素であり、0.1%以上にて効果を発揮する。但し、5%を超えて添加しても効果は飽和し、またコストも上昇するので上限を5%とした。また、請求項1のような表面形態が存在する場合、Crは地鉄とスケールの密着性を向上させる効果が考えられ、熱間プレスの場合の熱歪み、塑性ひずみ、表面摺動が加わるような状態でのスケール密着性に対して有効である。
<Mo:0.1?3%>
Moは焼入れ性の観点から有用な元素であり、0.1%以上にて効果を発揮する。但し、3%を超えて添加しても効果は飽和し、またコストも上昇するので上限を3%とした。
<B:0.0003?0.005%>
Bも焼入れ性の観点から有用な元素であり、0.0003%以上の添加が必要である。但し、0.005%を超えて添加しても効果は飽和し、また鋳造欠陥や熱間圧延時の割れを生じさせるなど製造性を低下させるので、上限を0.005%とした。
・・・
【0028】
以上の選択成分としてCr、Mo、V、B、V,Wの1種または2種以上を含有することにより、焼き入れ性を向上させることができる。
<Ti:0.01?1%>
TiはN固定の観点から添加することができ、質量%にてNの約3.4倍添加することが必要であるが、Nは低減しても10ppm程度であるので、下限を0.01%とした。またTiを過剰に添加しても焼入れ性を低下させ、また強度も低下させるためその上限を1%とした。」

16 本件特許の優先日前に外国において頒布された甲9号証の4(「

」(2002 Society of Automotive Engineers(2002-01-2048))
(16a)「The addition of carbon,manganese,and chrome give good quenchability and the slight addition of boron increases this latter considerably. The boron,in effect, enables the ferritic zone to be shifted towards low cooling speeds thus ensuring good quenchability of parts during heat treatment (critical quenching speed:27℃/s).
The titanium acts as a nitrogen scavenger thus protecting fhe boron.」(第2頁右欄第1?10行)
(当審訳:「炭素、マンガン、クロムの添加は焼き入れ性を向上させ、微量なボロンの,添加はこれを相当に増大する。ボロンは、実際、フェライトの領域を低冷却速度側へシフトさせ、熱処理中の部材の焼き入れ性向上を確実にすることができる。
チタンは、窒素の補足作用を奏し、ボロンを保護する。」

(16b)「The hot stamping process is composed by different steps: a blanking press,a furnace, a roboted arm to transfer the hot blanks in the press and a tool with a water cooling system to stamp and quenchein the same step.」 (第6頁右欄第2?6行)
(当審訳:「ホットスタンプのプロセスは、異なるステップから構成される:鋼板をブランキングし、炉で加熱し、ロボットアームで熱いブランクをプレス機に移送し、水冷システムを備えた工具でスタンプし同時に焼き入れする。」)

17 甲10号証(「1420MPa級高強度鋼の遅れ破壊特性に及ぼすNi,Siの影響」(鉄と鋼 Vol.82(1996)No.9、第59-64頁)
「本研究ではこれまでとは視点を変え、水素の侵入抑制からNi添加に着目し、高強度鋼の遅れ破壊特性の向上を検討した。すなわち、Ni添加鋼では鋼が酸化するときNiが表面に濃化すること、また、Ni中では水素の拡散係数が小さいことを活用した。」(第59頁左欄下から第2行-右欄第3行)

18 甲11号証(特開2006-70327号公報)
(18a)「【0002】
自動車や産業機械の軽量化、建築構造物の大型化に伴い、高い締め付け力に耐える高強度ボルトへの要望が高まっている。従来、一般に使用されている高強度低合金鋼には、例えばJIS G 4105(1989)に規定された引張強度1000MPa級のSCM 440等がある。しかし、今日では強度レベルがより高い材質が求められているが、引張強さが1200MPaを超えるとボルトの破壊が発生し易くなることが知られており、ボルトの高強度化の最大の障害となっている。この破壊は遅れ破壊と呼ばれ、静荷重下に置かれた鋼が、一定時間経過後に脆性的に破断する現象であり、腐食により鋼中に侵入した水素による水素脆化の一種と考えられている。」

(18b)「【0008】
種々の検討の結果、水素侵入抑制には、硫化物の制御がもっとも効果的であり、さらに、必要により、Ni、Cuの活用、そして、さらにMo、W、Vの活用が有効であることを知り、本発明を完成した。」

(18c)「【0025】
(2) Cu、 Ni
表1中の鋼FはCuおよびNiを含有させた鋼である。この鋼は図3に示したように、鋼A?Eに比べて水素侵入の抑制効果が改善されている。Cu、Niは酸化されにくい元素であり、鋼材中に含有させた場合には、大気腐食に伴って鋼材が腐食されていくと、鋼材の表層に残留し堆積する。CuおよびNiそのものは水素透過能が小さいため、堆積物による水素侵入抑制効果が発現する。さらにこれらの元素はMn硫化物の溶出に伴って発生する硫化水素と結びつき、不溶性のCu系硫化物および不溶性のNi系硫化物を生成することにより、硫化水素による水素侵入を阻害する効果も有する。」

(18d)「【実施例】
【0048】
表3に示す化学組成の鋼を溶製し、種々の寸法のビレットを鋳造し、熱間加工と焼鈍を施し外径30mmの線材とした。この際のビレットの冷却速度と加工度を種々変化させた。線材から冷間転造により、M22の寸法のボルトを作成した。その後、焼入れ焼戻し処理により引張り強さを1500MPa級に調質した。
【0049】
このようにして製造したボルトを用いて、以下の試験により水素侵入特性と耐遅れ破壊性を調査した。まず、ボルトから径20mm、厚さ0.5mmの円板試験片を採取し、前述した酸浸漬法(a法)および温度湿度制御法(b法)により水素侵入特性を評価した。また、ボルトを85%降伏応力で板材に締結した物を試験片に用いて、a法と同じ浴中に200時間浸漬し、破断の有無により耐遅れ破壊性を評価した。表4に、鋼の化学組成、製造条件、介在物組成、最大水素透過係数、遅れ破壊試験結果を示した。表中、遅れ破壊試験の結果は「○」は破断がみられなかった場合、「×」は破断がみられた場合をそれぞれ示す。」

19 本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲12号証(「鉄鋼材料の水素含有量の電気化学測定法におけるニッケル被覆法の開発(防食技術24、511-515頁(1975))
(19a)「1.緒言
鋼中の水素溶解量をもとめるのに、最近電気化学測定法がしばしば用いられている。この測定法では、板状鉄鋼試料の両側に2個の電解槽をとりつけ,試料片面に陰極電流を流して水素ガスを発生させて中間生成物である水素原子を材料中に溶解させる(以下、この面を水素供給面と呼ぶ)。溶けこんだ水素は拡散によって試料他面に達するが,この面(以下,水素引き抜き面と呼ぶ)はポテンショスタットにより水素のイオン化反応に十分な電位に設定されているので,その時流れる電流の経時変化をもとめることにより水素溶解量および拡散定数を算出することができる。・・・
・・・ 極微量の(<0.1μgH/gFe)の水素溶解量を定量するにはパラジウム被覆法では困難であると判断し、他種金属の被覆法について種々検討を加えた結果,ニッケル被覆法を見つけた。」(第511頁左下欄第1行-右下欄第18行)

(19b)「また,メッキ層厚さがますとDがふたたび減少するのは,ニッケル中での拡散定数(10-7cm2/sec程度)が鉄鋼材料中にくらべて小さいので当然の帰結である。」(第514頁右欄第26-29行)

20 甲13号証(特公昭62-15635号公報)
(20a)「この発明は、高耐食性Ni-Zn合金メッキ鋼板の製造方法に関する。」(第1頁第1欄第11-12行)

(20b)「(1)メッキ浴:硫酸ニツケル(NiSO_(4)・6H_(2)O)265g/lと硫酸亜鉛(ZnSO_(4)/7H_(2)O)145g/lを添加してNi^(2+)/Zn^(2+)を1.99に調整(Ni^(2+)濃度59.1g/l、Zn^(2+)濃度33.1g/l)し、これにNa_(2)SO_(4)75g/lを加えてpH2.1?2.5としたもの、・・・」(第2頁第4欄第21-26行)

21 甲14号証(「高電流密度下でのNi-Zn合金の電析」金属表面技術 Vol.33,No.10,1982,第106-111頁)
(21a)「ニッケル含有量10?16%でγ相単相よりなるZn-Ni合金めっき皮膜が最も耐食性が良く、鋼板を十分に防食する…」(第106頁左欄第12-14行)

(21b)「Ni-Zn合金めっき被膜を安定に析出させるために異常析出といわれている高電流密度下でのNi-Zn合金電析被膜組成の影響を調べ、その電析挙動の考察を行なった。」(第106頁左欄第21行-右欄第2行)

(21c)「めっき浴は硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、硫酸ソーダより成る硫酸浴を用い、種々のめっき条件下でめっきを行なった。」(第106頁右欄第15-17行)

22 甲15号証(「亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板の開発」金属表面技術 Vol.37,No.2,1986、第11-17頁)
(22a)「ニッケル含有量が10wt%を超えるとγ相単相析出になり、しかも(411,330)面の配向性が非常に強くなる。・・・」 (第12頁左欄第28-30行)

(22b)図2には、γ相単相よりなる亜鉛-ニッケル合金(Ni含有量10?16wt%)の5%NaCl水溶液中での腐食電位(V,vs.SCE)が、測定開始時において、-0.94V程度であることが示されている。

23 甲16号証(「Zn-Ni合金電気めっきに及ぼす浴中鉄イオンの影響」(鉄と鋼 1985年、68頁))
「Zn-Ni合金電気めっき鋼板はめっき皮膜中Ni含有率10?16wt%のγ相のとき、最も耐食性に優れていることが知られている。」(第68頁第2-3行)

24 甲17号証(「電着亜鉛-ニッケル合金の結晶形態と微細構造」(鉄と鋼 第77年(1991)第7号,第28-33頁)
(24a)「Zn-Ni合金めっき鋼板は、自動車の外板など耐食性とともに加工性が要求される部材に広く利用されている。これらの性能は電着物の組成、結晶構造、結晶形態また微細構造に支配される・・・」(第28頁左欄第2-5行)

(24b)「電解浴にZnSO_(4)を添加することによりZn^(++)濃度を増加させ、異なったZn含有量の電着物を得た。・・・。Table2のZ浴が基本浴であり、この浴にZnSO_(4)を添加しZn^(++)濃度が0.174から1.62×10^(3)mol・m^(-3) の電解浴を得た。・・・」(第29頁左欄第2-6行)

(24c)Table2には、電解めっき浴の構成が示されており、BathAないしZの6種類全てが、NiSO_(4)、ZnSO_(4)及びNa_(2)SO_(4)から成っている。

25 甲18号証(「ZnおよびZn-Ni合金電析膜のエピタキシャル成長」(鉄と鋼 第77年(1991)第7号、第34-39頁)
「電解浴には、所定の組成のZn-Ni合金電析膜を得るために、ZnSO_(4)・7H_(2)OとNiSO_(4)・6H_(2)Oの比率を変化させたものを用いた。支持電解質としてNa_(2)SO_(4)を加えた。・・・」(第35頁左欄下から16-19行)

26 甲19号証(電気化学概論(松田好晴 岩倉千秋共著 丸善株式会社、平成21年2月10日第16刷発行、32-43頁)
「表3・1 標準電極電位(25℃)」には、Fe^(2+)+2e^(-)⇔FeのE0(V)が、-0.440であることが示されている。

27 甲20号証(特開昭60-56088号公報)
(27a)「また、5%食塩水浸漬電位の測定用に、Zn-Ni合金めっき、Zn-Fe合金めっきの夫々単独の電気めっきをも実施した。この電位測定用試片は5%食塩水、中性、室温で飽和甘汞電極(SCE)を基準としてその浸漬電位を測定した。」(第5頁左上欄第6-10行)

(27b)
第1表には、Zn-Ni合金の5%食塩水の浸漬電位が、Ni含有率11%、13%、15%、17%でそれぞれ-920mV、-825mV、-780mV、-760mVであることが示されている。


第8 当審の判断
1 無効理由1の1及び1の2について
(1)甲1号証記載の発明
上記記載事項(1e)ないし(1h)及び鋼には何らかの不可避的不純物が含有されるとの技術常識によれば、甲1号証には、表1における鋼種A(mass%で、C:0.2%、Si:0.3%、Mn:1.3%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.05%、Ti:0.02%,N:0.004%、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する)の鋼板表面に、亜鉛-12%ニッケル電気めっき(表5におけるNo.2)を50g/m^(2)施すこと、そして、同(1g)から該めっき鋼板は、熱間プレス成形に先立ち、大気炉で850℃、3分間加熱されること、同(1f)、(1h)、(1i)によれば、これらにより、すぐれた塗膜密着性および塗装後耐食性を示すプレス成形品が得られることが記載されている。

よって、甲1号証には、
「mass%で、C:0.2%、Si:0.3%、Mn:1.3%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.05%、Ti:0.02%,N:0.004%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板の表面に亜鉛-12%ニッケルめっきを50g/m^(2)施しためっき鋼板を、大気炉で850℃、3分間加熱した後、熱間プレスを行った、酸化皮膜が形成され、塗膜密着性と塗装後耐食性を有する熱間プレス成形品。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明2について
(2-1)対比・判断
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「mass%」、「塗膜密着性」及び「成形品」、は、本件特許発明2における「質量%」、「塗装密着性」及び「部材」にそれぞれ相当する。
また、上記(1a)によれば、甲1発明における「酸化皮膜」は、「亜鉛の酸化物」であるから、本件特許発明2における「ZnO層」に相当する。

そして、甲1発明の「mass%で、C:0.2%、Si:0.3%、Mn:1.3%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.05%、Ti:0.02%,N:0.004%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板」が、本件特許発明2における「部材」を構成する「鋼板」であることは明らかである。

よって、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「質量%で、C:0.2%、Si:0.3%、Mn:1.3%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.05%、Ti:0.02% 、N:0.004%、Fe及び不可避的不純物を含有する成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層にZnO層を有し、塗装密着性と塗装後耐食性を有する熱間プレス部材。」である点。

・(相違点1)
部材を構成する鋼板の成分組成に、本件特許発明2では、「さらに、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される」のに対し、甲1発明では、「Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される」ものではない点。

・(相違点2)
本件特許発明2では、「部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVである」のに対し、甲1発明では、それが明らかではない点。

・(相違点3)
本件特許発明2では、「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」のに対し、甲1発明では、「塗装密着性と塗装後耐食性を有する」ものの、「腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」ことについては明らかではない点。

上記各相違点について検討すると、少なくとも上記相違点1が実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、本件特許発明2は、甲1号証に記載された発明であるとはいえない。

そして、上記記載事項(4a)、(5a)によれば、甲4号証の1、甲4号証の2には、それぞれ、熱間プレス成形においてハット絞り成形を行うことが記載されるものの、「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される」ことについては、記載も示唆もない。

したがって、本件特許発明2は、甲1号証に記載された発明に甲4号証の1及び2に記載される事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、以下の一致点および相違点を有する。

(一致点)
「質量%で、C:0.2%、Si:0.3%、Mn:1.3%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.05%、Ti:0.02%、
N:0.004%、Feおよび不可避不純物を含有する成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層にZnO層を有し、塗装密着性と塗装後耐食性を有する熱間プレス部材。」 である点。

・(相違点4)
本件特許発明4では、「鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記Ni拡散領域が鋼板の深さ1μm以上にわたって存在」するのに対し、甲1発明では、それが明らかではない点。

・(相違点5)
本件特許発明4では、「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中へ水素侵入が抑制される」のに対して、甲1発明では、「塗装密着性と塗装後耐食性を」有するものの、「腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」ことについては明らかではない点。

・(相違点6)
本件特許発明4では、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面付着量で50g/m^(2) 有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除くものであるのに対し、甲1発明では、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」である点。

上記(相違点6)について検討する。
上記(1e)のとおり、甲1号証には、「亜鉛系めっき層の組成は特に制限がなく、純亜鉛めっき層であっても、Al、Mn、Ni・・・などの合金元素をその目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層であってもよい。」(【0040】)、「めっき付着量は90g/m^(2 )以下が良好である。・・・通常は20m^(2 )以上程度以上は確保する。」(【0038】)と記載され、実施例として、亜鉛-12%ニッケルめっきを片面付着量で50g/m^(2 )有するめっき鋼板が示されているところ、特に、Ni添加及びその含有量とそれらの目的との関係についての記載はなく、また、【表5】に示されるとおり、当該実施例においては、加熱後には均一酸化皮膜が形成され、プレス成形性、塗膜密着性、塗装後耐食性のいずれも良好なのであるから、Ni含有量およびめっき付着量について、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面付着量で50g/m^(2)」を、あえてそれを除く態様に変更することが動機付けられるものとは認められない。
そうすると、該相違点6は当業者が容易になし得たこととはいえないから、相違点4、5について検討するまでもなく、本件特許発明4については、甲1発明及び甲4号証の1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、両者は、本件特許発明4と甲1発明との上記相違点5、6と同じ相違点を有するほか、下記の点で相違する。

・(相違点4’)
本件特許発明5では、「鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであ」るのに対し、甲1発明では、それが明らかではない点。

・(相違点7)
本件特許発明5では「前記金属間化合物層が島状に存在」するのに対し、甲1発明ではそれが明らかではない点。

上記のとおり、相違点6に係る構成を有する本件特許発明4が、甲1発明及び甲4号証の1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができないから、同じ相違点6を有する本件特許発明5についても、甲1発明及び甲4号証の1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

2 無効理由2の1及び無効理由2の2について
(1)本件特許発明1について
(1-1)対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「質量%で、C:0.2%、Si:0.3%、Mn:1.3%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.05%、N:0.004%、Fe及び不可避的不純物を含有する成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層にZnO層を有し、塗膜密着性と塗装後耐食性を有する熱間プレス部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・(相違点8)
部材を構成する鋼板が、甲1発明では「Ti:0.02%を含有」するのに対し、本件特許発明1では、Tiを含有しない点。

・(相違点9)
本件特許発明1では、「部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVである」のに対し、甲1発明では、それが明らかではない点。

・(相違点10)
本件特許発明1では、「優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」のに対し、甲1発明では、「塗装密着性と塗装後耐食性を有する」ものの、「腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制される」ことについては明らかではない点。

上記各相違点について検討する。

・(相違点8)について
ア 甲3号証について
甲3号証には、ホットプレス(熱間プレス)用鋼板として、本件特許発明1に係る鋼板と重複する成分組成を有するものが記載され(同(3a))、その実施例として、Tiを含有しないもの(鋼種A、C)と、Ti及びBを含むもの(鋼種B)が示されており(同(3d)、(3e))、TiはBの効果を発揮させ、また、強度向上のために添加されるものであることが記載されている(同(3c))。

イ 相違点8の容易想到性
(ア)甲1号証には、甲1発明は、熱間プレスを行っても所定の耐食性を確保でき、外観劣化が生じない熱間プレス用の鋼材を提供することを課題とするものであること(同(1c))、熱間プレス用の素地鋼材として、熱間成形後に急冷して高強度、高硬度となる焼き入れ鋼、例えば【表1】の成分の鋼板が特に好ましいこと(同(1d))、【表1】に記載された5つの鋼種のうち、鋼種AはTiの含有量が0.02mass%、鋼種B?DはTiの含有量が0.01mass%の鋼板であり、Tiを含有していない鋼種Eは、鋼種AないしDには含有されていないCrが12mass%の鋼板であること、鋼種Aの鋼板にZn-Ni合金めっきを施した鋼板については、良好な特性が得られたこと(同(1d)、(1e))が記載されている。

(イ)一方、甲3号証には、上記アの各事項が記載されているものの、これらの記載は、Bを含有しない鋼板にTiを含有させることを否定するものではなく、Bを含有しない鋼板であれば、所望する強度の程度に応じてTiを含有させないことが好ましいことなどを示すものでもない。かえって、甲3号証には、「強度を向上する目的でTi…を添加してもよい」と記載されている(同(3c))。

(ウ) そうすると、甲1発明及び甲3号証に接した当業者が、甲1発明における鋼板について、鋼板の強度を向上させる効果を有するTiをあえて含有しない構成とすることの動機付けは存在せず、むしろ阻害事由があるものと認められる。
したがって、当業者が、甲1発明に基づいて、相違点8に係る本件特許発明1の構成を容易に想到できるということはできない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、甲3号証の記載を参照して、Bを含有しない甲1発明において、Tiを含有しないようにすることは、所望する強度の程度に応じて適宜なし得る事項である旨主張する。
しかし、甲3号証の記載を考慮しても、甲1発明の鋼板から、Tiを含有させないとする動機付けが存在しないことについては、上記イのとおりである。

・(相違点9)について
ア 甲1号証の記載
甲1号証には、(i)甲1発明の課題は、難プレス成形材料について熱間プレスを行っても所定の耐食性を確保でき、外観劣化が生じない熱間プレス用の鋼材を提供することであり、具体的課題は、耐食性確保のための後処理を必要とせずに、難プレス成形材料である高張力鋼板の熱間プレス成形を可能とし、同時に耐食性をも確保できる技術を提供することであること(同(1b)、(1c))、(ii)鋼板の犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板に熱間プレスを適用することにより、めっき層表面に亜鉛の酸化皮膜が、下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層として全面的に形成されること、また、めっき層は、かなり合金化が進んでおり、それにより、めっき層が高融点化してめっき層表面からの亜鉛の蒸発を防止しており、かつ鋼板の鉄酸化物形成を抑制していること、このようにして加熱されためっき層は、熱間プレス成形後においてめっき層と母材である鋼板との密着性が良好であること(同(1c))、(iii)実施例として、亜鉛-12%ニッケル合金めっきが具体的に記載されており、プレス成形性のすぐれた材料が得られ、成形品としてすぐれた塗膜密着性及び耐食性を示したこと(同(1d)?(1f))が記載されている。
一方、甲1号証には、甲1発明が相違点9に係る構成、すなわち、甲1発明の鋼板表面の皮膜状態の構造が、Ni拡散領域上に、順にγ相に相当する金属間化合物層及びZnO層を有しており、かつ、25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであることを示す記載はなく、このことを示唆する記載もない。

イ 技術常識
本件特許の優先日時点におけるZn-Niめっき鋼板の熱間プレス部材の表面構造に関する技術常識については、以下のとおりであると認められる。
(ア)Ni拡散領域
甲1号証には、「本発明において、バリア層を備えた亜鉛系めっき層を設けるには、例えば通常の溶融亜鉛めっき処理を行ったのち、酸化性雰囲気中での加熱、つまり通常の合金化処理を行えばよい。このような合金化処理はガス炉等で再加熱することにより行われるが、そのときめっき層表面の酸化ばかりでなく、めっき層と母材の鋼板との間で金属拡散が行われる。」との記載があり(同(1e))、乙2号証(特開2004-124207号公報)には、「…表面処理鋼板を加熱、成形して部品とした後に具えるべき要件について述べる。加熱後、めっき層成分と鋼板成分との相互拡散が起こり、鋼板表面層の組成が変化する」との記載がある(【0018】)。
しかし、これらに記載されているのは、亜鉛系めっき鋼板を加熱した場合にめっき層と母材の鋼板との間で金属拡散が行われることや、表面処理鋼板を加熱すると、めっき層成分と鋼板成分との相互拡散が起こることに関する記載のみであり、亜鉛-ニッケルめっき鋼板を加熱後の熱間プレス部材の表面構造に関する記載はない。

(イ)Ni拡散領域上のγ相である金属間化合物層
甲14号証には、「ニッケル含有量10?16%でγ相単相よりなるZn-Ni合金めっき皮膜が最も耐食性が良く、鋼板を十分に防食する…」(同(21a))、甲15号証には、「ニッケル含有量が10wt%を超えるとγ相単相析出になり…」(同(22a))、甲16号証には、「Zn-Ni合金電気めっき鋼板はめっき皮膜中Ni含有率10?16wt%のγ相のとき、最も耐食性に優れていることが知られている。」(同(23))との記載がある。これらの記載から、10重量%程度以上のNiを含むZn-Niめっき層は、γ相の金属間化合物から構成されることが認められる。
一方、甲14ないし16号証には、加熱をしていないZn-Niめっきの皮膜構造に関する記載があるだけであり、加熱後の熱間プレス部材の表面構造に関する記載はない。

(ウ)ZnO層
Zn-Niめっき層の大半はZnであるため、熱間プレスの加熱を行えば、その表面にZnO層が形成されることが技術常識である。他方、このZnO層の下の構造、すなわち、Zn-Niめっき鋼板を加熱後の熱間プレス部材の皮膜状態の構造については、上記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日以前に頒布された刊行物には記載されていない。

(エ)自然浸漬電位
甲19号証には、Feの標準電極電位が-440mVであること(同(26))、甲15号証には、γ相単相よりなる亜鉛-ニッケル合金(Ni含有量10?16wt%)の5%NaCl中での腐食電位(V、vs.SCE)が、測定開始時において-0.94V程度であること(同(22b))、甲20号証には、Zn-Ni合金の食塩水の浸漬電位が、Ni含有率11%、13%、15%、17%でそれぞれ-920mV、-825mV、-780mV、-760mVであること(同(27b))が記載されている。
一方、甲15、19及び20号証に記載されているのは、鉄や亜鉛-ニッケル合金の電位に関する記載であり、Zn-Niめっき鋼板の熱間プレス部材の表面構造における自然浸漬電位に関する記載はない。

(オ)以上のとおり、本件優先日以前に頒布された刊行物である上記(ア)、(イ)及び(エ)記載の文献には、Zn-Niめっき鋼板の熱間プレス部材の表面構造に関する記載はない。したがって、これらの記載から、熱間プレス部材である引用発明の鋼板表面の皮膜状態の構造が、Ni拡散領域上に、順にγ相に相当する金属間化合物層及びZnO層を有しており、25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであることが技術常識であったと認めることはできない。また、本件特許の優先日時点の当業者において、技術常識に基づき、引用発明の鋼板表面の皮膜状態の構造が、Ni拡散領域上に、順にγ相に相当する金属間化合物層及びZnO層を有しており、かつ、25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであることを認識することができたものとも認められない。

ウ よって、相違点9は実質的な相違点ではないとはいえないし、相違点9につき、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到できたものということもできない。

エ 請求人の主張について
請求人は、Zn-Niめっき鋼板に熱間プレスを施した場合、Ni拡散領域、γ相、ZnO層が、下から上にこの順番で形成され、そのような表面構造を有するめっき部材が本件発明1の自然浸漬電位を有することは、当業者の技術常識に基づいて容易に予測されるものであり、甲2号証による甲1発明の再現実験により、確かにこの表面構造が生成することが確認されている旨主張する。
しかし、上記アにおいて認定したことに照らすと、当業者が、本件特許の優先日時点において、甲1発明の鋼板表面の皮膜状態の構造が、Ni拡散領域上に、順にγ相に相当する金属間化合物層及びZnO層を有しており、かつ、25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであることを甲1発明が本来有する特性として把握していたと認めることはできない。
また、甲2号証は、甲1発明に係る亜鉛-12%ニッケル合金電気めっき鋼板につき、甲2号証の【表1】及び【表5】に記載される鋼種Aの化学成分を狙い値として製造された鋼種(鋼種A)に対し、鋼板表面の皮膜状態の構造の調査を行った請求人従業員作成の実験結果の報告書であるところ、甲2号証(表9、10)には、16個のうち6個の試料(A1?A4、B1、B11)について、その鋼板表面の皮膜状態の構造が、Ni拡散領域上に、順にγ相に相当する金属間化合物層及びZnO層を有しており、かつ、25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであることが確認されたことが記載されている。
しかし、甲2号証の記載は、あくまで、請求人が本件各発明を認識した上で本件特許の優先日後に行った実験の結果を示すものであり、本件特許の優先日時点において、当業者が、甲1発明の鋼板表面の皮膜状態の構造が上記のとおりであることを認識できたことを裏付けるものとはいえない。

・(相違点10)について
ア 甲1号証の記載等
甲1号証には、甲1発明が耐水素侵入性を有していることを示す記載はなく、このことを示唆する記載もない。また、本件特許の優先日当時において、甲1発明が耐水素侵入性を有していることが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。本件特許の優先日時点の当業者において、技術常識に基づき、引用発明が耐水素侵入性を有していることを認識することができたものとも認められない。
よって、相違点10は実質的な相違点ではないとはいえないし、相違点10につき、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到できたものということもできない。

イ 請求人の主張について
請求人は、本件特許明細書には、「Ni拡散領域により耐水素侵入性が得られる」と説明されているところ、甲2におけるZn-Ni鋼板への熱間プレス実験により、Ni拡散領域が生成することが確認されていることから、引用発明が耐水素侵入性を有していることは明らかである旨主張する。
しかし、上記アにおいて認定したことに照らすと、当業者が、本件優先日時点において、引用発明が耐水素侵入性を有することを、甲1発明が本来有する特性として把握していたと認めることはできない。
また、甲2号証には、16個のうち6個の試料(A1?A4、B1、B11)について、Zn-Ni鋼板への熱間プレス実験により、Ni拡散領域が生成することが確認されたことが記載されているが、上記「(相違点9)について」のエのとおり、甲2号証の記載は、あくまで請求人が本件特許の優先日後に行った実験の結果を示すものであり、本件特許の優先日時点において、当業者が、引用発明の鋼板表面にNi拡散領域が生成することや、引用発明が耐水素侵入性を有することを認識できたことを裏付けるものとはいえない。
なお、本件明細書には、本件各発明に係る熱間プレス部材は、部材を構成する鋼板の深さ方向にNi拡散領域を有することにより、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されること、より好ましい態様は、拡散領域の深さが3μm以上であることが記載されている(【0017】?【0019】)。しかし、他方で、本件明細書には、本件各発明の実施例及び比較例について、腐食部に純水を滴下しながら水素透過電流値を連続的に5日間測定し、その最大電流値から腐食に伴う耐水素侵入性を評価したところ、Zn-Ni鋼板の熱間プレス部材である比較例の中には、Ni拡散領域が生成しているにもかかわらず、耐水素侵入性を有すると評価できないものが存在したことが記載されている(【0053】)。したがって、本件明細書には、Ni拡散領域が存在することや、Ni拡散領域の深さが3μm以上であることにより、当然に耐水素侵入性を有するものと記載されているとはいえず、上記【0053】に記載されたような実験をしてみなければ、耐水素侵入性を有するか否かは明らかでないというべきであるから、そもそも、甲2号証の記載から、甲1発明が耐水素侵入性を有していると認めることもできない。

(1-2)以上によれば、当業者が、甲1発明に基づいて、相違点8ないし10に係る本件特許発明1の構成を容易に想到できるということはできない。

3 無効理由3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2における発明特定事項に加え、さらに、「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される」ことを特定するものである。
そして、本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「1.(2)(2-1)」の相違点1-3、あるいは、上記「2.(1)(1-1)」の相違点8-10と同じ相違点を有するほか、以下の点で相違する。

・(相違点11)
本件特許発明3では、「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される」のに対し、甲1発明では、Sbを含有しない点。

しかるところ、相違点1、8については、甲4号証の1、2、甲5号証の1ないし4のいずれにも記載されていないから、本件特許発明3は、甲1発明及び甲4号証の1、2、甲5号証の1ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 無効理由4
(1)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明を対比すると、両者は、上記「1.(2)」で述べたとおりの一致点及び相違点1ないし3を有する。

ここで、相違点2及び3は、相違点9及び10と同じであり、上記2のとおり、相違点9及び10は、いずれも実質的な相違点ではないとはいえず、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到できたものということもできない。

したがって、当業者が、甲1発明に基づいて、相違点2及び3に係る本件特許発明2の構成を容易に想到できるということはできない。

(2)本件特許発明4について
上記「1(3)」のとおり、本件特許発明4と甲1発明とは、相違点4ないし6で相違するところ、相違点6は当業者が容易に想到し得たこととはいえないから、相違点4、5について検討するまでもなく、本件特許発明4については、甲1発明及び甲4号証の1及び2、甲9号証の1ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明5について
上記「1(4)」のとおり、本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、両者は、本件特許発明4と甲1発明との上記相違点5、6と同じ相違点を有するほか、さらに、下記の点で相違する。

・(相違点4’)
本件特許発明5では、「鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであ」るのに対し、甲1発明では、それが明らかではない点。

・(相違点12)
本件特許発明5では「前記金属間化合物層が島状に存在」するのに対し、甲1発明ではそれが明らかではない点。

上記のとおり、相違点6に係る構成を有する本件特許発明4が、甲1発明及び甲4号証の1、2、甲9号証の1ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同じ相違点6を有する本件特許発明5についても、甲1発明および甲第4号証の1、2、甲9号証の1ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

5 無効理由5
本件特許発明1と甲1発明とは、上記「2(1)」で述べたとおりの一致点及び相違点8ないし10を有し、該相違点についての判断も、上記したとおりである。

よって、本件特許発明1は、甲1発明あるいは甲1発明及び甲4号証の1,2に記載された事項と、甲3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

6 無効理由6
該無効理由6は、上記「第3(vi-3)無効理由3」に記載のとおり、具体的には、上記無効理由4、5に甲5号証の開示を組合わせれば、本件特許請求項3の発明は、容易想到である旨の主張と認められる。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2における発明特定事項に加え、さらに、「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される」ことを特定するものである。
そして、本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「4(1)」の相違点1ないし3、あるいは、上記「5」の相違点8ないし10と同じ相違点を有するほか、下記の点で相違する。

・(相違点13)
本件特許発明3では、「部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される」のに対して、甲1発明では、Sbを含有しない点。

ここで、上記相違点8ないし10については、上記「2(1)」のとおり、当業者が容易に想到できたものではない。

よって、当業者が、甲1発明に基づいて、相違点8ないし10に係る本件特許発明3の構成を容易に想到できるということはできない。


第9 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし5に係る特許は、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定によって、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材。
【請求項2】
部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種、又は、Cr:0.01?1%、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種とTi:0.2%以下が含有されることを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス部材。
【請求項3】
部材を構成する鋼板の成分組成に、さらに、質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有されることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱間プレス部材。
【請求項4】
「(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記Ni拡散領域が鋼板の深さ方向に1μm以上にわたって存在し、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材(但し、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除く)。
【請求項5】
(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記金属間化合物層が島状に存在し、優れた塗装密着性と塗装後耐食性を有するとともに、腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材(但し、「亜鉛-12%ニッケルめっきを片面めっき付着量で50g/m^(2)有するめっき鋼板の熱間プレス部材」を除く)。
【請求項6】
(1)質量%で、C:0.15?0.5%、Si:0.05?2.0%、Mn:0.5?3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する部材を構成する鋼板、(2)前記(1)の成分組成に、さらに、質量%で、Cr:0.01?1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005?0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板、又は(3)前記(1)若しくは(2)の成分組成に、さらに質量%で、Sb:0.003?0.03%が含有される成分組成を有する部材を構成する鋼板の表層に、Ni拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、およびZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600?-360mVであり、前記ZnO層の直下にSi含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を有することを特徴とする熱間プレス部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-10-26 
結審通知日 2018-10-30 
審決日 2018-11-20 
出願番号 特願2011-154708(P2011-154708)
審決分類 P 1 123・ 113- YAA (C23C)
P 1 123・ 121- YAA (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 祢屋 健太郎  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
長谷山 健
登録日 2013-08-30 
登録番号 特許第5348431号(P5348431)
発明の名称 熱間プレス部材  
代理人 増井 和夫  
代理人 松本 悟  
代理人 奥井 正樹  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 奥井 正樹  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 松本 悟  

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