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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1349100 |
審判番号 | 不服2017-18076 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-05 |
確定日 | 2019-03-05 |
事件の表示 | 特願2016-543864「高分子圧電フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月25日国際公開、WO2016/027587、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2015年7月10日(優先権主張2014年8月22日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成28年12月1日付けで拒絶理由通知がされ,平成29年1月30日に意見書が提出され,平成29年4月11日に刊行物等提出書が提出され,平成29年4月24日付けで拒絶理由通知がされ,平成29年6月12日に意見書と手続補正書が提出され,平成29年8月10日に刊行物等提出書が提出され,平成29年9月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成29年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がされ,平成30年4月13日に刊行物等提出書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成29年9月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1-7に係る発明は,以下の引用文献1-5に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2014-93487号公報 2.特開2000-44701号公報 3.特開2014-86703号公報 4.国際公開第2013/111841号 5.国際公開第2010/104196号 第3 本願発明 本願請求項1-7に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は,平成29年6月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み,DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり,かつ,マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が25?700であり,少なくとも一つの面の表面粗さが共焦点型レーザー顕微鏡で測定される非接触三次元表面粗度Saで0.040μm?0.105μmであり,可視光線に対する内部ヘイズが1%以下である,高分子圧電フィルム。」 なお,本願発明2-7は,それぞれ本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。) 「【請求項1】 重量平均分子量が5万以上100万以下である光学活性を有するヘリカルキラル高分子と結晶核剤とを含み, DSC法で得られる結晶化度が20%以上80%以下であり, 可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり, マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40以上700以下である高分子圧電材料であり, 前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが下記式(1)を満たし,かつ, 前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下である高分子圧電材料。 式(1):Tmb≦Tma+70℃」 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は,上記の事情に鑑みて,透明性を大きく損ねることなく製造効率が向上された高分子圧電材料を提供することを目的とする。 また,本発明は,透明性を大きく損ねることなく製造効率が向上された高分子圧電材料を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。」 「【0040】 〔その他の成分〕 本発明の高分子圧電材料は,本発明の効果を損なわない限度において,ヘリカルキラル高分子及び結晶核剤以外に,ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や,シリカ,ヒドロキシアパタイト,モンモリロナイト等の無機フィラー,フタロシアニン等の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。 【0041】 -無機フィラー- 例えば,高分子圧電材料を,気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために,高分子圧電材料中に,ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが,無機のフィラーをナノ分散させるためには,凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり,また,フィラーがナノ分散しない場合,フィルムの透明度が低下する場合がある。本発明に係る高分子圧電材料が無機フィラーを含有するとき,高分子圧電材料全質量に対する無機フィラーの含有量は,1質量%未満とすることが好ましい。 なお,高分子圧電材料がヘリカルキラル高分子以外の成分を含む場合,ヘリカルキラル高分子以外の成分の含有量は,高分子圧電材料全質量中に対して,20質量%以下であることが好ましく,10質量%以下であることがより好ましい。」 「【0045】 〔透過ヘイズ(透明性)〕 本発明の高分子圧電材料の透明性は,例えば,目視観察や透過ヘイズの測定により評価することができる。高分子圧電材料の透過ヘイズは,可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり,0.0%以上20%以下であることが好ましく,5%以下であることが好ましく,さらに1%以下であることがより好ましい。 ここで,透過ヘイズは,厚さ0.05mmの高分子圧電材料に対して,JIS-K7105に準拠して,ヘイズ測定機〔(有)東京電色製,TC-HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり,測定方法の詳細は実施例において後述する。 なお,本願でいう「透過ヘイズ」とは,本発明の高分子圧電材料の内部へイズをいう。内部へイズとは,実施例において後述するように前記高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。」 「【0087】 〔実施例1〕 実施例1の高分子圧電材料は,各工程を連続して行う連続1軸延伸法で製造した。詳細は,以下に示す。 三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万)100重量部に対して,結晶核剤としてチラバゾールP-4(太陽化学(株)製)を0.5質量部と,安定化剤としてStabaxol 1(Rhein Chemie社製)を1質量部と,をドライブレンドして原料を作製した。作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて,220℃以上230℃以下に加熱しながらTダイから押し出し,50℃のキャストロールに18秒間接触させて,厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ5.63%であった。 得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで,延伸倍率990mm/分で延伸を開始し,3.3倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。得られたフィルムの厚さは53μmであった。 その後,前記一軸延伸フィルムを,ロールtoロールで,130℃に加熱したロール上に78秒間接触させアニール処理し,高分子圧電材料を作製した(アニール処理工程)。」 「【0095】 〔物性測定および評価〕 以上のようにして得られた実施例1?7,比較例1?6の高分子圧電材料について,各高分子圧電材料の重量平均分子量,結晶化度,透過ヘイズ,MORc,圧電定数d_(14)を測定した。結果を表2に示す。」 「【0098】 <融点,結晶化度> 実施例および比較例の各高分子圧電材料を,それぞれ10mg正確に秤量し,示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC-1)を用い,昇温速度500℃/分の条件で140℃まで昇温し,さらに昇温速度10℃/分の条件で200℃まで昇温して融解曲線を得た。得られた融解曲線から融点Tm及び結晶化度を得た。 【0099】 〔透過ヘイズ〕 本願でいう「透過へイズ」とは本発明の高分子圧電材料の内部へイズのことをいい,測定方法は一般的な方法で測定される。」 「【0100】 〔規格化分子配向MORc〕 規格化分子配向MORcは,王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA-6000により測定した。基準厚さtcは,50μmに設定した。」 【0104】の【表2】から,実施例1の結晶化度が40.4%,透過ヘイズが0.5%,MORcが4.46,MORc×結晶化度が180であることが読み取れる。 したがって,上記引用文献1には,引用文献1の請求項1の実施例1である,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万)100重量部に対して,結晶核剤としてチラバゾールP-4(太陽化学(株)製)を0.5質量部と,安定化剤としてStabaxol 1(Rhein Chemie社製)を1質量部と,をドライブレンドして原料を作製し, 作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて,220℃以上230℃以下に加熱しながらTダイから押し出し,50℃のキャストロールに18秒間接触させて,厚さ150μm,結晶化度5.63%の予備結晶化シートを製膜し, 得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで,延伸倍率990mm/分で延伸を開始し,3.3倍までMD方向に一軸延伸して,厚さ53μmのフィルムを得て, その後,前記一軸延伸フィルムを,ロールtoロールで,130℃に加熱したロール上に78秒間接触させアニール処理して作製した高分子圧電材料からなるフィルムであって, 前記高分子圧電材料からなるフィルムは, 示差走査型熱量計を用い,昇温速度500℃/分の条件で140℃まで昇温し,さらに昇温速度10℃/分の条件で200℃まで昇温して得られた融解曲線から得た結晶化度が,40.4%であり, 可視光線に対する透過ヘイズ(高分子圧電材料の内部へイズ)が,0.5%であり, 基準厚さtcを50μmに設定して,マイクロ波方式分子配向計により測定した規格化分子配向MORcと,前記結晶化度との積が,180である 高分子圧電材料からなるフィルム。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,次の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(RはHまたは,炭素数1?3のアルキル基を示す。)である脂肪族ポリエステルを主成分とした乳酸系ポリマーからなるフィルムにおいて,少なくとも片面の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値が 600個/mm^(2)以上,2500個/mm^(2)以下であり,かつ三次元表面粗さSRa が0.03μm 以上,0.07μm 以下であることを特徴とする乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム。 【請求項2】 ヘイズが8%以下であることを特徴とする請求項1記載の乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム。 【請求項3】 平均粒子系が 0.5μm以上,5μm以下の滑剤を0.02重量%以上 0.5重量%以下添加したことを特徴とする請求項1および2記載のいずれかの乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム。 【請求項4】 脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1から3記載のいずれかの乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム,特にハンドリング性,走行性,透明性および接着性にに優れた乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムに関する。さらに,印刷時に印刷抜けのない,包装用途などに好適な乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムに関する。」 「【0006】一般にフィルムは,成形加工時の巻取り性,及び製品使用時の滑り性が要求される。この滑り性が不十分な場合,フィルムの製造時及び加工時のハンドリング性の不良が生じ,フィルムの走行時のガイドロール等との接触において滑り性不良により,張力が増大し,フィルム表面に擦り傷を発生する。この滑り性の改良のため,フィルムに,脂肪酸エステル系や,脂肪酸系および脂肪酸アマイド系などの有機系滑剤および,シリカ,炭酸カルシウムなどの無機の微粒子のアンチブロッキング剤などを添加することにより滑り性を改善し,ハンドリング性を改善した適用例が,特開平8-34913号,特開平9-278997号に開示されている。そこで,ハンドリング性の改良のために特開平8-34913および特開平9-278997に記載の滑剤を添加したところ,走行性は改善されたが,包装用の袋とするにあたり,ポリオレフィン等からなるシーラントフィルムとラミネートする必要があるが,その接着強度が有機系滑剤の添加により不十分となった。上記の滑剤や,アンチブロッキング剤の添加により,フィルムの加工適性や包装用途に要求される,走行性と接着性を両立する事は困難であった。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明は,ハンドリング性,走行性,透明性および接着性に優れた乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム,さらに印刷時に印刷抜けのない,包装用途などに好適な乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムを提供するものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】上記目標を達成するために鋭意検討した結果,本発明に達した。すなわち,乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムにおいて,該フィルムの少なくとも片面の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値が 600個/mm^(2)以上,2500個/mm^(2)以下であり,かつ三次元表面粗さSRa が0.03μm 以上,0.07μm 以下であることを特徴とする乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムである。 【0009】本発明における乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムにおいて,粗さの中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値は 600個/mm^(2)以上であることが必要である。 PCC値が 600個/mm^(2)未満ではハンドリング性が不良となる。また, PCC値が2500個/mm^(2)より大きいと透明性が不良となる。好ましくは PPC値が1000?2200個/mm^(2)である。 【0010】更に,本発明における乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムにおいて,三次元表面粗さSRa が0.03μm 以上であること必要である。三次元表面粗さSRa が0.03μm 未満ではハンドリング性が不良となる。また,三次元表面粗さSRa が0.07μm より大きいと透明性が不良となり,さらに印刷時に突起が削れて発生した白紛によって印刷抜けが発生する。 【0011】包装用途などの透明性が要求される用途に本発明の乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムを使用する場合,上記の中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値および三次元表面粗さSRa を所定の範囲内にすることにより良好なものとなるが,ヘイズを8%以下にすることにより更に好ましいものとなる。」 「【0014】また,本発明の乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムは滑剤として無機粒子,有機塩粒子や架橋高分子粒子を添加することが出来る。 【0015】無機粒子としては,炭酸カルシウム,カオリン,タルク,炭酸マグネシウム,炭酸バリウム,硫酸カルシウム,硫酸バリウム,リン酸リチウム,リン酸カルシウム,リン酸マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,酸化チタン,酸化ジルコニウム,フッ化リチウム等が挙げられる。 【0016】特に,良好なハンドリング性を得たうえに更にヘイズの低いフィルムを得るためには無機粒子としては一次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子が好ましい。 【0017】有機塩粒子としては,蓚酸カルシウムやカルシウム,バリウム,亜鉛,マンガン,マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。 【0018】架橋高分子粒子としては,ジビニルベンゼン,スチレン,アクリル酸,メタクリル酸,アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン,ベンゾグアナミン樹脂,熱硬化エポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,熱硬化性尿素樹脂,熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いても良い。 【0019】上記滑剤の本発明の乳酸系ポリマーへの添加方法は特に限定しないが,滑剤を所定の溶媒に分散あるいは溶解させ,その系に上記滑剤を分散させる方法,または合成重合反応中に該滑剤を分散する方法がある。 【0020】前記の粗さの中心面における突起数 PCC値及び三次元表面粗さSRa は,フィルムの製膜条件及び滑剤粒子によって調整される。滑剤粒子の種類及び添加量は粗さの中心面における突起数 PCC値,及び三次元表面粗さSRa が所定の範囲内に入るならば特に限定されるものではないが,滑剤の平均粒子系は 0.5μm以上5μm以下,特に1μm以上4μm以下が好ましく,添加量としては0.02重量%以上 0.5重量%以下,特に好ましくは0.03重量%以上 0.5重量%以下である。 【0021】滑剤の平均粒子径が 0.5μm未満では三次元表面粗さSRa を0.03μm以上にすることが難しく,5μmより大きいと中心面における突起数 PCC値を 600個/mm^(2)以上で三次元表面粗さSRa が0.07μm以下にすることが困難となる。また添加量は0.02重量%未満では中心面における突起数 PCC値が 600個/mm^(2)以上で三次元表面粗さSRa を0.03μm以上にすることが難しく, 0.5重量%より大きいと三次元表面粗さSRa を0.07μm以下にすることが困難となる。 【0022】本発明の乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムは,その用途に応じて結晶核剤,酸化防止剤,着色防止剤,顔料,染料,紫外線吸収剤,離型剤,易滑剤,難燃剤,帯電防止剤を配合しても良い。」 「【0032】実施例 以下に実施例にて本発明を具体的に説明するが,本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお,フィルムの評価方法を以下に示す。 (1)三次元表面粗さSRa フィルム表面を触針式3次元表面粗さ計(SE-3AK, 株式会社小坂研究所社製)を用いて,針の半径2μm,荷重30mgの条件化に,フィルムの長手方向にカットオフ値0.25mmで,測定長1mmにわたって測定し,2μm ピッチで 500点に分割し,各点の高さを3次元粗さ解析装置(SPA-11) に取り込ませた。これと同様の操作をフィルムの幅方向について2μm 間隔で連続的に 150回,即ちフィルムの幅方向0.3mm にわたって行ない,解析装置にデータを取り込ませた。次に,解析装置を用いて,SRa を求めた。 【0033】(2)PCC(peak count contribution)値 SRa の算出時における基準高さを有する基準面から0.00625 μm以上の高さをもつ突起数を1mm^(2)当たりについて表したもの。 (3)ヘイズ ヘイズをJIS-K6714 に準じ,日本精密光学(株)製300Aを用いて測定した。 (4)屈折率 アタゴ光学社製アッベ屈折計1T を用い,フィルムの長手方向の屈折率を求めた。 【0034】(5)フィルムのハンドリング性,印刷性 フィルムを細幅にスリットしたテープ状とし,これを金属製ガイドロールにこすり付けて高速でかつ長時間走行させ,このガイドロール擦過後のテープ張力の大小およびガイドロールの表面に発生する白紛量の多少を,それぞれ以下に示すように5段階評価し,ランク付けした。 (イ)ハンドリング性 1級;張力大(擦り傷多い) 2級;張力やや大(擦り傷かなり多い) 3級;張力中(擦り傷ややあり) 4級;張力やや小(擦り傷ほとんどなし) 5級;張力小(擦り傷発生なし) (ロ)印刷性 1級;白紛の発生非常に多い 2級;白紛に発生多い 3級;白紛の発生ややあり 4級;白紛の発生ほぼなし 5級;白紛の発生なし 【0035】(6)接着性評価 各実施例,比較例で得られた乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムのコロナ処理面上に接着剤AD585/CAT-10(東洋モートン社製)を2g/m^(2) 塗布した後,常法に従って未延伸ポリプロピレンフィルム,60μm(P1120,東洋紡績製)をドライラミネート法にて貼り合わせシーラント層を設け,乳酸系ポリマー二軸延伸フィルム積層体を得た。乾燥時および湿潤時の剥離強度を測定した。測定条件は,引張速度100mm/分での90°剥離試験結果である。 【0036】実施例1,2,比較例1,2 Lラクチド 100重量部に触媒としてオクチル酸スズ0.03重量部を,反応缶に仕込み缶内の温度を190℃で1時間反応を行い,反応終了後,得られた反応系を減圧にして,残留するLラクチドを留去した。得られたポリマーの極限粘度は1.85,粘度平均分子量で68600であった。滑剤はLラクチドのスラリーにして平均粒子系 1.8μmの凝集体シリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA 350)をLラクチド重合反応開始前に添加量を変え添加した。 【0037】上記乳酸系ポリマーを常法により110℃で4時間真空乾燥させた後,200℃でTダイから押し出し,静電荷により16℃のキャスティングドラムに密着させ急冷固化し,キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを75℃に加熱したロールで加温後長手方向に3.5倍延伸後,テンター内で60℃に予熱し70℃から75℃に昇温しながら幅方向に 3.8倍延伸し, 155℃で熱固定し,さらに 150℃で幅方向に5%リラックスさせ横弛緩処理後,厚みが12μmの乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの特性値を表1に示す。ここで,縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.469 であった。また,実施例1,2および比較例1で得られたフィルムは透明性良好であったが,比較例2で得られたフィルムの透明性は不良であった。 【0038】実施例3 添加した滑剤を球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#100B)を0.10重量部添加した以外は実施例1と同様にしてフィルムを作成し,得られた結果を表1に示す。縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.469 であった。また,得られたフィルムの透明性は良好であった。」 「【0041】 【表1】 」 したがって,上記引用文献2には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。 (1)一般にフィルムは,成形加工時の巻取り性,及び製品使用時の滑り性が要求され,この滑り性が不十分な場合,フィルムの製造時及び加工時のハンドリング性の不良が生じ,フィルムの走行時のガイドロール等との接触において滑り性不良により,張力が増大し,フィルム表面に擦り傷を発生すること。 (2)フィルムに,有機系滑剤および,シリカ,炭酸カルシウムなどの無機の微粒子のアンチブロッキング剤などを添加することにより滑り性を改善し,ハンドリング性を改善する方法が公知であるが,前記公知の方法では,有機系滑剤の添加により,包装用の袋とするにあたり必要とされるポリオレフィン等からなるシーラントフィルムとのラミネートの際の接着強度が不十分となることから,上記の滑剤や,アンチブロッキング剤の添加により,フィルムの加工適性や包装用途に要求される,走行性と接着性を両立する事は困難であったこと。 (3)主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(RはHまたは,炭素数1?3のアルキル基を示す。)である脂肪族ポリエステルを主成分とした乳酸系ポリマーからなるフィルムにおいて,少なくとも片面の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値を 600個/mm^(2)以上,2500個/mm^(2)以下となし,かつ三次元表面粗さSRa が0.03μm 以上,0.07μm 以下とすることで,ハンドリング性,走行性,透明性および接着性に優れ,さらに印刷時に印刷抜けのない,包装用途などに好適な乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムが得られること。 (4)引用文献2で特定される乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムにおいて,粗さの中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値が 600個/mm^(2)未満ではハンドリング性が不良となり, また, PCC値が2500個/mm^(2)より大きいと透明性が不良となること。 (5)引用文献2で特定される乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムにおいて,三次元表面粗さSRa が0.03μm 未満ではハンドリング性が不良となり,また,三次元表面粗さSRa が0.07μm より大きいと透明性が不良となり,さらに印刷時に突起が削れて発生した白紛によって印刷抜けが発生すること。 (6)包装用途などの透明性が要求される用途に本発明の乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムを使用する場合,中心面における単位面積当たりの突起数 PCC値および三次元表面粗さSRa を所定の範囲内にすることにより良好なものとなるが,ヘイズを8%以下にすることにより更に好ましいものとなること。 (7)引用文献2で特定される乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムは,滑剤として, 炭酸カルシウム,カオリン,タルク,炭酸マグネシウム,炭酸バリウム,硫酸カルシウム,硫酸バリウム,リン酸リチウム,リン酸カルシウム,リン酸マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,酸化チタン,酸化ジルコニウム,フッ化リチウム等の無機粒子, 蓚酸カルシウムやカルシウム,バリウム,亜鉛,マンガン,マグネシウム等のテレフタル酸塩等の有機塩粒子や, ジビニルベンゼン,スチレン,アクリル酸,メタクリル酸,アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体等の架橋高分子粒子, その他ポリテトラフルオロエチレン,ベンゾグアナミン樹脂,熱硬化エポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,熱硬化性尿素樹脂,熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子, を添加することが出来るが, 特に,良好なハンドリング性を得たうえに更にヘイズの低いフィルムを得るためには無機粒子としては一次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子が好ましいこと。 (8)粗さの中心面における突起数 PCC値及び三次元表面粗さSRa は,フィルムの製膜条件及び滑剤粒子によって調整されること。 (9)滑剤粒子の種類及び添加量は粗さの中心面における突起数 PCC値,及び三次元表面粗さSRa が所定の範囲内に入るならば特に限定されるものではないが, 滑剤の平均粒子径が 0.5μm未満では三次元表面粗さSRa を0.03μm以上にすることが難しく,5μmより大きいと中心面における突起数 PCC値を 600個/mm^(2)以上で三次元表面粗さSRa が0.07μm以下にすることが困難となり, また添加量は0.02重量%未満では中心面における突起数 PCC値が 600個/mm^(2)以上で三次元表面粗さSRa を0.03μm以上にすることが難しく, 0.5重量%より大きいと三次元表面粗さSRa を0.07μm以下にすることが困難となるから, 滑剤の平均粒子系は 0.5μm以上5μm以下,特に1μm以上4μm以下が好ましく,添加量としては0.02重量%以上 0.5重量%以下,特に好ましくは0.03重量%以上 0.5重量%以下であること。 (10)重合反応開始前に,滑剤として,平均粒子系 1.8μmの凝集体シリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA 350)を所定量添加した,Lラクチド 100重量部に触媒としてオクチル酸スズ0.03重量部を反応缶に仕込み,缶内の温度を190℃で1時間反応を行い,反応終了後,得られた反応系を減圧にして,残留するLラクチドを留去して得た,極限粘度が1.85,粘度平均分子量で68600である乳酸系ポリマーを,常法により110℃で4時間真空乾燥させた後,200℃でTダイから押し出し,静電荷により16℃のキャスティングドラムに密着させ急冷固化し,キャストフィルムとなし,該キャストフィルムを75℃に加熱したロールで加温後長手方向に3.5倍延伸後,テンター内で60℃に予熱し70℃から75℃に昇温しながら幅方向に 3.8倍延伸し, 155℃で熱固定し,さらに 150℃で幅方向に5%リラックスさせ横弛緩処理して得た,厚みが12μmの乳酸系ポリマー二軸延伸フィルムの,フィルム表面を触針式3次元表面粗さ計(SE-3AK, 株式会社小坂研究所社製)を用いて測定した三次元表面粗さSRa は, 前記滑剤の添加量が,0.13重量部である実施例1において,SRaが,0.047μm,ヘイズが3.3%であり, 前記滑剤の添加量が,0.22重量部である実施例2において,SRaが,0.070μm,ヘイズが6.8%であり, 前記滑剤に替えて,平均粒子径が1.65μmの球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#100B)を0.10重量部添加した実施例3において,SRaが,0.068μm,ヘイズが7.3%であること。 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には,次の事項が記載されている。 「【0119】 〔透明性(内部ヘイズ)〕 高分子圧電材料の透明性は,例えば,目視観察やヘイズ測定により評価することができる。高分子圧電材料のヘイズは,可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であることが好ましく,20%以下であることがより好ましく,15%以下であることがさらに好ましい。 ここで内部ヘイズは,厚さ0.05mmの高分子圧電材料に対して,JIS-K7105に準拠して,ヘイズ測定機〔(有)東京電色製,TC-HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり,測定方法の詳細は実施例において後述する。高分子圧電材料のヘイズは,低ければ低いほどよいが,圧電定数などとのバランスの観点からは,0.01%?13%であることが好ましく,0.1%?5%であることがさらに好ましい。なお,本願でいう「ヘイズ」または「内部ヘイズ」とは,本発明の高分子圧電材料の内部へイズをいう。内部へイズとは,実施例において後述するように前記高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。」 したがって,上記引用文献3には,高分子圧電材料の透明性は,例えば,目視観察やヘイズ測定により評価することができ,高分子圧電材料のヘイズは,可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であることが好ましく,20%以下であることがより好ましく,15%以下であることがさらに好ましく,高分子圧電材料のヘイズは,低ければ低いほどよいが,圧電定数などとのバランスの観点からは,0.01%?13%であることが好ましく,0.1%?5%であることがさらに好ましいという技術的事項が記載されていると認められる。 4.引用文献4について 原査定に引用された上記引用文献4には,次の事項が記載されている。 「[0030] 圧電性フィルム20は,互いに対向する第1主面と第2主面を備える矩形状の平膜からなる。圧電性フィルム20は,一軸延伸されたL型ポリ乳酸(PLLA)によって形成されている。 [0031] PLLAは,キラル高分子であり,主鎖が螺旋構造を有する。PLLAは,一軸延伸等により分子が配向されると,圧電性を生じる。一軸延伸されたPLLAの圧電定数は,高分子中で非常に高い部類に属する。 [0032] なお延伸倍率は3?8倍程度が好適である。延伸後に熱処理を施すことにより,ポリ乳酸の延びきり鎖結晶の結晶化が促進され圧電定数が向上する。尚,二軸延伸した場合はそれぞれの軸の延伸倍率を異ならせることによって一軸延伸と同様の効果を得ることが出来る。 [0033] また,PLLAは,延伸等による分子の配向処理で圧電性を生じ,PVDF等の他のポリマーや圧電セラミックスのように,ポーリング処理を行う必要がない。すなわち,強誘電体に属さないPLLAの圧電性は,PVDFやPZT等の強誘電体のようにイオンの分極によって発現するものではなく,分子の特徴的な構造である螺旋構造に由来するものである。このため,PLLAには,他の強誘電性の圧電体で生じる焦電性が生じない。さらに,PVDF等は経時的に圧電定数の変動が見られ,場合によっては圧電定数が著しく低下する場合があるが,PLLAの圧電定数は経時的に極めて安定している。」 したがって,上記引用文献4には,キラル高分子であり,主鎖が螺旋構造を有するL型ポリ乳酸(PLLA)は,一軸延伸等により分子が配向されると,圧電性を生じ,二軸延伸した場合も,それぞれの軸の延伸倍率を異ならせることによって一軸延伸と同様の効果を得ることが出来るという技術的事項が記載されていると認められる。 5.引用文献5について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には,次の事項が記載されている。 「[0057] 高分子圧電材料の延伸温度は,1軸延伸方法や2軸延伸方法等のように,引張力のみで高分子圧電材料を延伸する場合は,高分子圧電材料のガラス転移温度より10℃?20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。例えば,ポリ乳酸を高分子圧電材料として用いる場合においては,60℃?80℃で高分子圧電材料を延伸することが好ましい。」 したがって,上記引用文献5には,高分子圧電材料を2軸延伸方法で延伸する場合があるという技術的事項が記載されていると認められる。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 引用発明における「三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万)」,「示差走査型熱量計を用い,昇温速度500℃/分の条件で140℃まで昇温し,さらに昇温速度10℃/分の条件で200℃まで昇温して得られた融解曲線から得た結晶化度」は,本願発明1における「重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)」,「DSC法で得られる結晶化度」に相当する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み,DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり,かつ,マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が25?700であり,可視光線に対する内部ヘイズが1%以下である,高分子圧電フィルム。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は,「少なくとも一つの面の表面粗さが共焦点型レーザー顕微鏡で測定される非接触三次元表面粗度Saで0.040μm?0.105μmであ」るという構成を備えるのに対し,引用発明はそのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 ア 上記相違点1について検討すると,「第4 引用文献,引用発明等」の「2.引用文献2について(10)」に記載のとおり,引用文献2には,滑剤として,平均粒子系 1.8μmの凝集体シリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA 350)を,0.13重量部添加した実施例1のSRaが,0.047μmであり,0.22重量部添加した実施例2のSRaが,0.070μmであり,前記滑剤に替えて,平均粒子径が1.65μmの球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#100B)を0.10重量部添加した実施例3のSRaが,0.068μmであるという技術的事項が記載されている。 イ しかしながら,引用文献2に記載された「SRa」は,「第4 引用文献,引用発明等」の「2.引用文献2について(10)」に記載のとおり,「触針式3次元表面粗さ計(SE-3AK, 株式会社小坂研究所社製)」を用いて測定した値であって,「共焦点型レーザー顕微鏡で測定される非接触三次元表面粗度Sa」とは,測定方法が異なるから,引用文献2の前記記載から,引用文献2の実施例1-3の表面粗度が,「少なくとも一つの面の表面粗さが共焦点型レーザー顕微鏡で測定される非接触三次元表面粗度Saで0.040μm?0.105μmであ」るとは,直ちには認めることはできない。 ウ さらに,「第4 引用文献,引用発明等」の「2.引用文献2について(8)」に記載のとおり,「粗さの中心面における突起数 PCC値及び三次元表面粗さSRa は,フィルムの製膜条件及び滑剤粒子によって調整される」,すなわち,「三次元表面粗さSRa」は,「滑剤粒子」によってだけではなく,「フィルムの製膜条件」によっても「調整」されるのであるから,引用文献2の実施例1-3とは異なる「フィルムの製膜条件」によって製膜される引用発明において,引用文献2の実施例1-3と同一の「滑剤粒子」を添加した場合に,引用文献2の実施例1-3と同一の三次元表面粗さSRa が得られるとは認めることができない。 したがって,本願発明1は,引用発明と引用文献2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ しかも,仮に,引用文献2に記載された実施例1-3の表面粗度を,共焦点型レーザー顕微鏡で測定した場合の非接触三次元表面粗度Saが,前記「触針式3次元表面粗さ計(SE-3AK, 株式会社小坂研究所社製)」を用いて測定した値と同等であり,かつ,引用発明に引用文献2の実施例1-3で使用した滑剤を用いた場合に,引用文献2の実施例1-3と同等の「三次元表面粗さSRa」が得られたとしても,引用文献2において,当該滑剤を使用した実施例1,実施例2及び実施例3におけるヘイズの値は,それぞれ,3.3%,6.8%及び7.3%であるから(「第4 引用文献,引用発明等」の「2.引用文献2について(10)」),引用発明に,引用文献2の実施例1-3で使用した滑剤を用いた場合には,引用発明は,「可視光線に対する内部ヘイズ」が「1%」を超えることとなり,「可視光線に対する内部ヘイズが1%以下」という本願発明1の条件を満たすものではなくなるから,この点においても,本願発明1は,引用発明と引用文献2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ さらに,引用文献1には,「-無機フィラー- 例えば,高分子圧電材料を,気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために,高分子圧電材料中に,ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが,無機のフィラーをナノ分散させるためには,凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり,また,フィラーがナノ分散しない場合,フィルムの透明度が低下する場合がある。」(「第4 引用文献,引用発明等」の「1.引用文献1について」の【0041】)と記載されており,引用発明においては,気泡等のボイドの発生を抑えて透明なフィルムを得るために,高分子圧電材料中に無機フィラーを含有させる場合には,凝集塊を解砕して,無機フィラーをナノ(可視光の波長約400nm?800nmより小さい粒径に)分散させる必要があり,フィラーがナノ分散しない場合,フィルムの透明度が低下する場合があることが示されているところ,引用文献2においては,「第4 引用文献,引用発明等」の「2.引用文献2について(7)」に記載のとおり「特に,良好なハンドリング性を得たうえに更にヘイズの低いフィルムを得るためには無機粒子としては一次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子が好まし」いものとされており,さらに,「2.引用文献2について(9)」に記載のとおり「滑剤の平均粒子径が 0.5μm未満では三次元表面粗さSRa を0.03μm以上にすることが難しく」「滑剤の平均粒子系は 0.5μm以上5μm以下,特に1μm以上4μm以下が好まし」いことから,引用文献2の実施例1-3では,滑剤として「平均粒子系 1.8μmの凝集体シリカ粒子」及び「平均粒子径が1.65μmの球状シリカ粒子」を用いているのであるから,引用発明と,引用文献2に記載された技術的事項の間には,好ましいとされる無機フィラーの態様が異なり,引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用するには阻害事由が存在するといえる。 カ すなわち,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から,本願発明1と引用発明との一致点である,「可視光線に対する内部ヘイズが1%以下」という条件を満たしながら,相違点1に係る本願発明1の「少なくとも一つの面の表面粗さが共焦点型レーザー顕微鏡で測定される非接触三次元表面粗度Saで0.040μm?0.105μmであ」るという構成を容易に想到することはできない。 また,引用文献3-5に記載された技術的事項を併せて参酌しても,上記構成を容易に想到することができたとは認められない。 したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明2-7について 本願発明2-7も,本願発明1の「可視光線に対する内部ヘイズが1%以下」及び「少なくとも一つの面の表面粗さが共焦点型レーザー顕微鏡で測定される非接触三次元表面粗度Saで0.040μm?0.105μmであ」るという構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明1-7は,当業者が引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-02-20 |
出願番号 | 特願2016-543864(P2016-543864) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 上田 智志 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
加藤 浩一 梶尾 誠哉 |
発明の名称 | 高分子圧電フィルム |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 福田 浩志 |