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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1349294
審判番号 不服2017-14474  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-29 
確定日 2019-02-20 
事件の表示 特願2015-500833「アミドを作るための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日国際公開、WO2013/139627、平成27年 4月13日国内公表、特表2015-510903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年3月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年3月19日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成28年 9月 9日付け 拒絶理由通知
平成29年 2月10日 意見書・手続補正書の提出
同年 5月23日付け 拒絶査定
同年 9月29日 拒絶査定不服審判の請求
同年10月16日 手続補正書(方式)の提出
平成30年 5月 7日付け 当審における拒絶理由通知
同年 8月 6日 意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年8月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、このうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

「メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、メチルn-プロピルアミン、n-メチル-n-エチルアミンおよびメチルイソプロピルアミンからなる群から選択されるアミンと、イソ酪酸、イソ吉草酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸および乳酸からなる群から選択されるカルボン酸とを反応させることによる、カルボン酸のアミドを作るための方法であって、前記アミン:前記カルボン酸のモル比は1.2:1?1:1の範囲で選択され、以下の段階:
(a)前記アミンと前記カルボン酸とを、水および前記アミンがガス状である温度および圧力条件で反応させる段階、ここで、該反応(a)は単一反応器内で行われる、
(b)未反応の前記アミンと共に、生じた水を留去する段階、
(c)未反応の前記アミンを水から分離する段階、および
(d)前記アミンを段階(a)における反応混合物中に再導入する段階
を含み、ここで、段階(a)および(b)はいずれの有機溶媒をも使用することなく行われる、方法。」

第3 当審において通知した拒絶理由
当審において、平成30年5月7日付けで通知した拒絶理由は理由1?3からなるところ、このうち、理由2は
「本願の請求項1、2、4?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものであり、引用した刊行物は
刊行物1:米国特許3627830号明細書
である。

第4 当審の判断
当審は、平成30年5月7日付けで通知した拒絶理由のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
理由は次のとおりである。

1 引用刊行物の記載事項
刊行物1には以下の事項が記載されている(訳文で示す。)。

a)「高温での過剰のジメチルアミンと2?4つの炭素原子を有する脂肪族カルボン酸との反応、形成されたN-ジメチルアシルアミドの蒸留によって、アシル基が2?4つの炭素原子を有する純粋なN-ジメチルアシルアミドを製造するための改良した方法であって、反応と蒸留は1つのカラム内で連続的に行われ、当該改良は、導入するジメチルアミンとカルボン酸がモル比で1.1:1?5:1であり、温度が80?220℃であり、圧力が0.1?2気圧であり、N-ジメチルアシルアミドとそのカルボン酸の混合物にはいかなる触媒も存在せず、混合物のカルボン酸の含有量は、少なくとも、N-ジメチルアシルアミドとカルボン酸との共沸混合物中に存在するカルボン酸の量に対応することにある方法。」(4欄、請求項1)

b)「酢酸、プロピオン酸及びブタン酸、特に酢酸は、この発明の方法のための脂肪族カルボン酸として使用することができる。」(2欄1?3行)

c)「気相で回収された過剰のジメチルアミンは、有利には反応に戻される。反応水に溶解したジメチルアミンは、また、例えば加熱により回収し、反応に再利用することもできる。反応は実質的に定量的なので、ほぼ化学量論量のカルボン酸及びジメチルアミンが定常状態で供給される。」(2欄36?42行)

d)「実施例
使用したカラムは、100個のトレイを有し、トレイ効率が0.55であるバブルトレイカラムである。酢酸とジメチルアミンが、モル比1:1.7で、底から数えてカラムの4番目のトレイに導入される。水とジメチルアミンは還流比10でカラム頂部から抜き出される。気体として抜き出されるジメチルアミンは4番目のトレイに再導入される。不純物は80番目のトレイで及び蒸留器から抜き出される。蒸留器の温度は201℃であり、頂部の温度は98℃である。
以下の表は出発原料と抜き出される生成物の量及び組成を示す。
出発物質:

トレイNo. g/時間 重量%による組成
---------------------------
4 1200 酢酸 99.75
蟻酸 0.15
水 0.10
4 1700 ジメチルアミン 99.2
モノメチルアミン 0.5
メタノール 0.2
トリメチルアミン 0.1
2900
---------------------------

抜き出された生成物:

トレイNo. g/時間 重量%による組成
----------------------------
52 1685 ジメチルアセトアミド 99.48
水 0.52
80 80 ジメチルアセトアミド 70.46
ジメチルホルムアミド 3.04
水 26.50
頂部 420 水 82.6
ジメチルアミン 17.4
ジメチルアミン(気体状)

底部 15 モノメチルアセトアミド 81.55
ジメチルアセトアミド 9.59
酢酸 8.86
2900
----------------------------
・・・
ジメチルアセトアミド(酢酸を参照して)の収率は理論値の97.3パーセントである。・・・」(3?4欄の実施例)

e)「本発明の目的は、出発物質の実質的に完全な変換が達成される、N-ジメチルアシルアミドを製造する改良された方法を提供することである。本発明の別の目的は、最終生成物が高い純度で得られる方法を提供することである。」(1欄、34?38行)

f)「この新しい方法によれば、最終生成物は、実質的に完全な変換で高い純度で得られる。」(1欄、56?57行)

2 引用発明
上記した刊行物1には、請求項1の記載(摘示a))及びその請求項1に対応した実施例の記載(摘示d))があり、実施例において、酢酸とジメチルアミンからジメチルアセトアミドを製造する方法が記載されているといえるから、実施例に基づく発明として、
「100個のトレイを有し、トレイ効率が0.55であるバブルトレイカラムを使用し、酢酸とジメチルアミンを、モル比1:1.7で、底から数えてカラムの4番目のトレイに導入し、水とジメチルアミンは還流比10でカラム頂部から抜き出し、気体として抜き出されるジメチルアミンは4番目のトレイに再導入され、不純物は80番目のトレイで及び蒸留器から抜き出され、蒸留器の温度は201℃であり、頂部の温度は98℃であることにより、ジメチルアセトアミドを製造する方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明は「ジメチルアミン」と「酢酸」から「ジメチルアセトアミドを製造する方法」であり、「カルボン酸のアミドを作るための方法」といえる。
そして、引用発明の「ジメチルアミン」は本願発明1のアミンの選択肢のうちの「ジメチルアミン」に相当し、「酢酸」は本願発明1の「カルボン酸」に対応する。
さらに、引用発明は「ジメチルアミン」と「酢酸」とが反応するものであるといえるところ、該反応は、「バブルトレイカラム」(原文ではa bubble tray column(下線は当審が付与。以下同様。))で行われるから、「単一反応器内で行われる」といえる(なお、バブルトレイカラムは、以下の文献に記載されるとおり本願優先日当時周知の棚段塔の一形式である。特表2003-507447号公報(【0036】、図1)、特開平10-59905号公報(【0058】、図4)、特開平2-268126号公報(実施例、第1図)、特表2002-523389号公報(【0061】)、特表2007-509029号公報(【0058】))。
また、引用発明において水とジメチルアミンは一定の還流比を以てカラム頂部から抜き出し、ジメチルアミンは気体として抜き出されるところ、カラム頂部から抜き出しているから、水とジメチルアミンを留去しているといえ、当該ジメチルアミンが未反応のものであることは明らかである。したがって、引用発明の「水とジメチルアミンは還流比10でカラム頂部から抜き出」すことは、本願発明1の「(b)未反応の前記アミンと共に、生じた水を留去する段階」に相当する。
さらに、引用発明では、気体として抜き出されるジメチルアミンを4番目のトレイに再導入し、4番目のトレイには、酢酸とジメチルアミンが導入されているのであるから、引用発明の「気体として抜き出されるジメチルアミンは4番目のトレイに再導入され」ること、及び「酢酸とジメチルアミンが、モル比1:1.7で、底から数えてカラムの4番目のトレイに導入」することは、本願発明1の「(d)前記アミンを段階(a)における反応混合物中に再導入する段階」に相当する。
そして、引用発明の方法は、有機溶媒を使用していない。
したがって、本願発明1と引用発明とは、
「メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、メチルn-プロピルアミン、n-メチル-n-エチルアミンおよびメチルイソプロピルアミンからなる群から選択されるアミンと、カルボン酸とを反応させることによる、カルボン酸のアミドを作るための方法であって、以下の段階:
(a)前記アミンと前記カルボン酸とを、反応させる段階、ここで、該反応(a)は単一反応器内で行われる、
(b)未反応の前記アミンと共に、生じた水を留去する段階、および
(d)前記アミンを段階(a)における反応混合物中に再導入する段階
を含み、ここで、段階(a)および(b)はいずれの有機溶媒をも使用することなく行われる、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
カルボン酸について、本願発明1が、「イソ酪酸、イソ吉草酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸および乳酸からなる群から選択される」カルボン酸としているのに対し、引用発明は「酢酸」である点

<相違点2>
アミン:カルボン酸のモル比について、本願発明1が、「前記アミン:前記カルボン酸のモル比は1.2:1?1:1の範囲で選択され」るとしているのに対し、引用発明は1.7:1である点

<相違点3>
アミンとカルボン酸との反応について、本願発明1が、「前記アミンと前記カルボン酸とを、水および前記アミンがガス状である温度および圧力条件で反応させる」としているのに対し、引用発明は、温度については「蒸留器の温度は201℃であり、頂部の温度は98℃である」とされ、圧力については不明である点

<相違点4>
本願発明1が、「(c)未反応の前記アミンを水から分離する段階」を含むのに対し、引用発明はかかる段階を含むと特定されていない点

以下、相違点1?4について検討する。
<相違点1>について
上記1のa)、b)で摘示したとおり、刊行物1には、ジメチルアミンと反応させる2?4つの炭素原子を有する脂肪族カルボン酸に対応する例として、酢酸と共に、プロピオン酸、ブタン酸(本願発明1の酪酸に相当)を用いることが記載されているから、引用発明の酢酸に代えてプロピオン酸、ブタン酸を用いることは当業者が容易になし得る技術的事項である。

<相違点2>について
上記1のa)、c)で摘示したとおり、刊行物1には、ジメチルアミン:カルボン酸のモル比が1.1:1?5:1であることが記載され、ほぼ化学量論量のカルボン酸及びジメチルアミンが定常状態で供給されることが記載されている。したがって、刊行物1に示されている範囲の下限比である1.1:1は本願発明1の範囲に該当しているし、ほぼ化学量論量であることも記載されているのであるから、引用発明においてジメチルアミンとカルボン酸のモル比を1.7:1から、1.1:1?5:1の範囲内であり、化学量論量に近い範囲である1.1:1?1.2:1の範囲とすることは当業者であれば容易になし得る技術的事項である。

<相違点3>について
引用発明において、水及びジメチルアミンに関しては、水とジメチルアミンは還流比10でカラム頂部から抜き出され、ジメチルアミンは気体として抜き出されるから、反応は水及びジメチルアミンがガス状である温度及び圧力条件で行われるものといえる。したがって、この点は実質的な相違点ではない。

<相違点4>について
引用発明において、水とジメチルアミンをカラム頂部から抜き出し、気体として抜き出されるジメチルアミンは4番目のトレイに再導入されることが特定されている。そして、再導入するのはジメチルアミンと特定されており、水を再導入することは特定されていないから、ジメチルアミンの再導入の前に水とジメチルアミンとを分離していることは自明である。したがって、引用発明は本願発明1の段階(c)を含むものといえ、この点は実質的な相違点ではない。
仮に、引用発明においてジメチルアミンの再導入の前に水とジメチルアミンとを分離しているものでなかった場合において、引用発明においてトレイに導入する物質はジメチルアミンと酢酸であり、水を導入するとはされておらず、また、刊行物1には、反応水に溶解したジメチルアミンは、例えば加熱により回収し、反応に再利用することもできる旨記載されており(摘示c))、該回収には、反応水からジメチルアミンを分離することが必要であると認められる。したがって、ジメチルアミンを再導入するに際して、再導入の前に、水と、ジメチルアミンとを分離することは当業者が容易になし得る技術的事項である。

本願発明1の効果について
本願発明1が奏する効果は、大過剰のアミンを必要とせず、アミドを高収率かつ高純度で得ることであると認められるところ(【0006】)、刊行物1には、摘示d)「ジメチルアセトアミド(酢酸を参照して)の収率は理論値の97.3パーセントである。」、摘示e)「本発明の目的は、出発物質の実質的に完全な変換が達成される、N-ジメチルアシルアミドを製造する改良された方法を提供することである。本発明の別の目的は、最終生成物が高い純度で得られる方法を提供することである。」、摘示f)「この新しい方法によれば、最終生成物は、実質的に完全な変換で高い純度で得られる。」との記載があり、引用発明においてもアミドを高収率かつ高純度で得ており、引用発明におけるアミンとカルボン酸のモル比を刊行物1で想定しているほぼ化学量論量とした場合には、大過剰のアミンを用いていることにならないのであるから、本願発明1が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年8月6日付けの意見書において、
刊行物1には、「過剰のジメチルアミンとカルボン酸とを反応させる方法が記載されており(第1欄第40?46行)、この記載から当業者は、本願請求項1に記載の特定のモル比の下限値である1:1を選択すべきでない、という教示を得ます。また、同文献における好ましい当該モル比は1.5:1?2:1であり、実施例における当該モル比は1.7:1であって、これらのモル比はいずれも本願請求項1における特定の範囲から逸脱します。」(意見書4頁5?10行)と主張し、したがって、刊行物1には、モル比を1.2:1?1:1の範囲とする動機付けがない旨主張している。
この主張について検討する。
刊行物1の、導入するジメチルアミンとカルボン酸についての記載から、両原料のモル比を本願発明1の範囲のうちの下限の1:1にすることの示唆があるかどうかはさておき、刊行物1においては、好ましいモル比や実施例の値が相違するものの、ジメチルアミンとカルボン酸の反応をほぼ化学量論量で行うことも記載されているのであるから、前記3の「<相違点2>について」で述べたように、明記されているモル比の範囲1.1:1?5:1のうち、より化学量論量に近い1.1:1?1.2:1のモル比とすることは当業者が容易になし得る技術的事項である。
よって上記審判請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-20 
結審通知日 2018-09-25 
審決日 2018-10-09 
出願番号 特願2015-500833(P2015-500833)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
佐々木 秀次
発明の名称 アミドを作るための方法  
代理人 森住 憲一  
代理人 松谷 道子  

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