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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1349296
審判番号 不服2017-18788  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-19 
確定日 2019-02-20 
事件の表示 特願2015-527837号「自動車のガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月27日国際公開、WO2014/029605、平成27年11月19日国内公表、特表2015-533113号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年(2013年)8月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年8月21日(以下、この最先の優先権主張の日を「優先日」という。) (BE)ベルギー王国)を国際出願日とする出願であって、平成29年6月5日付けの拒絶理由を通知し、同年9月7日付け意見書及び手続補正書が提出され、同年9月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、 同年12月19日に審判請求書と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明は、平成29年12月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。
「【請求項1】
湾曲しかつ強化された外側ガラス板と、同様に強化された薄い内側ガラスシートとを含み、これらのガラス板とシートは、熱可塑性プラスチック製の中間層シートによって接合されている自動車の合わせガラスユニットであって、前記ガラスユニットは、機械的な移動および/または締結手段を収容することを意図しており、前記ガラスユニットでは、前記外側ガラス板の一部分が前記薄い内側ガラスシートによって覆われておらず、前記ガラスユニットは、前記薄い内側ガラスシートによって覆われていないゾーンにおいて締結されており、前記外側ガラス板と前記薄い内側ガラスシートが重ならない部分が、前記外側ガラス板の領域の20%以下に相当し、前記薄い内側ガラスシートが、前記中間層の方に向いたその面上で、熱を持たない特性をもたらす1組の機能層によって被覆されている、ガラスユニット。」

第3 原査定の理由
平成29年9月19日付けの拒絶査定は、「この出願については、平成29年6月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、3によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、同拒絶理由通知書によれば、そのうちの理由3は、「3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、引用された文献は、下記のものである。
1:特開2007-197288号公報(引用文献1)
2:特表2003-500260号公報(引用文献2)

第4 当審の判断
当審は、上記拒絶の理由3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると判断する。
その理由は、以下のとおりである。
1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1の記載事項
原査定で引用され本願優先日前に公知となった引用文献1には、以下の事項が記載されている。(当審注:以下の下線は当審が付した。)
1a「【請求項1】
互いに対向する一対のガラス板と、該一対のガラス板の間に介装された中間膜とを備える合わせガラスにおいて、
前記一対のガラス板のうちの一方のガラス板は、他方のガラス板よりも厚く、所定方向への曲げ形状を有する強化ガラス板であり、
前記他方のガラス板は、前記一方のガラス板の前記曲げ形状に沿って湾曲可能な未強化ガラス板、半強化ガラス板、又は化学強化ガラス板であることを特徴とする合わせガラス。」

1b「【0032】
請求項9記載の合わせガラスは、他方のガラス板は合わせガラスを車両の窓開口部に開閉可能に取り付けるための開閉機構と合わせガラスとの接合部に配置されていないので、厚さの薄い他方のガラス板に開閉機構用の孔等を形成する必要がなく、孔あけ加工を省略することができる。また、昇降時に他方のガラス板に余計な力がかかることがないので他方のガラス板の割れを防止することができる。」

1c「【0040】
第1ガラス板11として、一般的に、自動車のドアガラスに用いられる湾曲した強化ガラス板を使用することができ、第1ガラス板11の縁部11aが略半円形に研磨加工(面取り加工)されている。第1ガラス板11は、厚さが2.5?6.0mmの範囲内、湾曲の曲率半径が1000?4000mmの範囲内となるように適宜選択される。
【0041】
第2ガラス板12は、第1ガラス板11の曲げ形状に沿って湾曲可能な未強化ガラス板、半強化ガラス板、又は化学強化ガラス板を使用することができる。第2ガラス板12は、厚みが0.3?0.9mmの範囲内となるように適宜選択される。」

1d「0055】
上記構成の合わせガラス10の縁部においては、第1ガラス板11の縁部11aが所定距離だけ第2ガラス板12の縁部12aよりも突出しており、これにより、第2ガラス板12の縁部12aの欠けや割れを防止する。」

1e「【0081】
図4において、合わせガラス10は、第2ガラス板12が車内側となるように配置されている。合わせガラス10は、第1ガラス板11の孔16(図2)により、自動車ドア内部に設置されている窓の昇降機構(図示せず)と連結されている。これにより、重量が軽いと共に、外部応力が強い割れを防止するドアガラスを実現することができる。」

1f「【0083】
本実施の形態では、ガラス板11,12の間に中間膜13が介装されているが、この中間膜13は、特に限定されるものではなく、紫外線対策としてのUVカット機能、暑さ対策としてのIRカット機能、プライバシー保護対策及び直達日射軽減対策としての視界制御機能等を有する膜であってもよい。また、液状樹脂14の他にシート状の樹脂を用いてもよい。」

1g「 【図2】




1h「 【図4】




(2)引用文献2の記載事項
原査定で引用され本願優先日前に公知となった引用文献2には、以下の事項が記載されている。
2a「【0010】
(好適実施例の説明)
図1は、本発明の特徴を有する積層品10を示している。以下の説明では、この積層品は、自動車のサイドライトであるが、当業者には明らかなように、自動車のサイドライトに限定されるものではなく、住居用および/または商業用の合わせガラス窓、および/または陸上用、航空用、宇宙用、水上用、水中用の車両の透明積層品、例えば、幾つかの積層品の名を挙げれば風防サイドライト、バックライト、サンルーフ、ムーンルーフ等であってもよい。より詳しく後述するように、積層サイドライト10は、外側主表面13および内側主表面14とを有する第1ブランク、つまり第1層12と、内側主表面14の少なくとも一部に施された任意の機能性被覆16と、内側主表面22および層主表面23を有する第2ブランク、つまり第2層20とを含んでいる。通常、外側主表面13は、車外に面しており、外側主表面23は、車内に面している。・・・
【0011】
第1層12および第2層20は、それぞれ好ましくは透明または半透明な材料製、例えばプラスチック製かセラミック製、より好ましくは熱処理または熱強化されたガラス製である。ここで用いる「熱強化」という用語は、焼き入れ、または少なくとも部分的な焼き入れを意味する。・・・」(当審注:段落【0010】の上記「層主表面23」は「外側主表面23」の誤記であると認める。)

2b「【0012】
機能性被覆16は、所望のどのような種類のものでもよい。機能性被覆16は、被覆された層のソーラー制御特性、例えば放射率、遮光係数、透過率、吸光率、反射率等々、または伝導特性、例えば伝熱性もしくは導電性に影響する被覆であるのが好ましい。本発明を制限するものと考えるべきではないが、機能性被覆16は、若干例を挙げれば、例えば、導電性被覆、加熱可能な被覆、アンテナ被覆のいずれか、またはソーラー制御被覆、例えば少なくとも1層の誘電層と、少なくとも1層の赤外反射層、例えば銀層とを有する低放射率被覆にすることができる。
【0013】
ここで用いる「ソーラー制御被覆」の用語は、1個以上の層またはフィルムから成る被覆であって、被覆された積層品のソーラー特性に影響を与える被覆、例えば、制限的意味ではないが、積層品への太陽放射線入射量および/または積層品を透過する太陽放射線入射量、赤外線または紫外線の吸収率または反射率、遮光係数、放射率等々に影響を与える被覆を言う。ソーラー制御被覆は、太陽光スペクトルの選択部分、例えば、制限的意味ではないが、可視スペクトルを遮断、吸収、濾過のいずれかが可能である。・・・
【0014】
本発明を制限するものではないが、機能性被覆16は、内側主表面14に設けることで、被覆を積層外側に設けるより、環境による影響や機械的摩耗にさらされることが少なくなるようにするのが好ましい。しかし、機能性被覆16は、また表面13,22,23の1つ以上に設けることもできる。・・・」

2c「【0015】
中間層18は、好ましくはプラスチック材料製、例えばポリビニルブチラールまたは類似材料製であり、約0.50mm?約0.80mm、好ましくは約0.76mmの厚さを有している。・・・」

2d「【0026】
・・・下型52は、上昇し、ガラスブランクを持ち上げ、熱で軟化したガラスブランクを上型58の付形面60に対し押圧し、付形面60の形状、例えば曲面に合致させる。・・・」

2e「




2 引用文献1に記載された発明
(α)記載事項1a、1c及び1fからして、「互いに対向する一対のガラス板と、該一対のガラス板の間に介装されたシート状の樹脂の中間膜とを備え、一方のガラス板(第1ガラス板)は、他方のガラス板(第2ガラス板)よりも厚く、所定方向への曲げ形状を有する強化ガラス板であり、他方のガラス板(第2ガラス板)は、一方のガラス板(第1ガラス板)の曲げ形状に沿って湾曲可能な」「半強化ガラス板、又は化学強化ガラス板である、自動車の合わせガラス」が記載されていると認められる。

(β)記載事項1b、1d、1g及び1hからして、「一方のガラス板(第1ガラス板)の縁部が所定距離だけ他方のガラス板(第2ガラス板)よりも突出し、突出した部位に設けられた孔により、自動車ドア内部に設置されている窓の昇降機構と合わせガラス10とが連結される、自動車の合わせガラス」が記載されていると認められる。

(γ)記載事項1fからして、「中間膜は、暑さ対策としてのIRカット機能を有する膜であってもよいものである」ことが記載されていると認められる。

上記(α)ないし(γ)からして、引用文献1には
「互いに対向する一対のガラス板と、該一対のガラス板の間に介装されたシート状の樹脂の中間膜とを備え、一方のガラス板(第1ガラス板)は、他方のガラス板(第2ガラス板)よりも厚く、所定方向への曲げ形状を有する強化ガラス板であり、他方のガラス板(第2ガラス板)は、一方のガラス板(第1ガラス板)の曲げ形状に沿って湾曲可能な」「半強化ガラス板、又は化学強化ガラス板である、自動車の合わせガラスであって、当該自動車の合わせガラスは、一方のガラス板(第1ガラス板)の縁部が所定距離だけ他方のガラス板(第2ガラス板)よりも突出し、突出した部位に設けられた孔により、自動車ドア内部に設置されている窓の昇降機構と合わせガラス10とが連結され、中間膜は、暑さ対策としてのIRカット機能を有する膜であってもよいものである、合わせガラス。」(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明との対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
○引用発明の「一方のガラス板(第1ガラス板)」、「他方のガラス板(第2ガラス板)」、「シート状の樹脂の中間膜」、「中間膜」及び「自動車の合わせガラス」は、本願発明の「外側ガラス板」、「内側ガラスシート」、「プラスチック製の中間層シート」、「中間層」及び「自動車の合わせガラスユニット」にそれぞれ相当する。

○引用発明の「自動車ドア内部に設置されている窓の昇降機構と合わせガラス10と」を「連結」する「孔」を有する「自動車の合わせガラス」は、本願発明の「機械的な移動および」「締結手段を収容することを意図」する「自動車の合わせガラスユニット」に相当する。

○引用発明の「互いに対向する一対のガラス板と、該一対のガラス板の間に介装されたシート状の樹脂の中間膜とを備え、一方のガラス板(第1ガラス板)は、他方のガラス板(第2ガラス板)よりも厚く、所定方向への曲げ形状を有する強化ガラス板であり、他方のガラス板(第2ガラス板)は、一方のガラス板の曲げ形状に沿って湾曲可能な」「半強化ガラス板、又は化学強化ガラス板である、自動車の合わせガラスであって、当該自動車の合わせガラスは、一方のガラス板(第1ガラス板)の縁部が所定距離だけ他方のガラス板(第2ガラス板)よりも突出し、突出した部位に設けられた孔により、自動車ドア内部に設置されている窓の昇降機構と合わせガラス10とが連結される」と、
本願発明の「湾曲しかつ強化された外側ガラス板と、同様に強化された薄い内側ガラスシートとを含み、これらのガラス板とシートは、熱可塑性プラスチック製の中間層シートによって接合されている自動車の合わせガラスユニットであって、ガラスユニットは、機械的な移動および/または締結手段を収容することを意図しており、ガラスユニットでは、外側ガラス板の一部分が薄い内側ガラスシートによって覆われておらず、ガラスユニットは、薄い内側ガラスシートによって覆われていないゾーンにおいて締結されて」いるとは、
「湾曲しかつ強化された外側ガラス板と、同様に強化された薄い内側ガラスシートとを含み、これらのガラス板とシートは、」「プラスチック製の中間層シートによって接合されている自動車の合わせガラスユニットであって、ガラスユニットは、機械的な移動および」「締結手段を収容することを意図しており、ガラスユニットでは、外側ガラス板の一部分が薄い内側ガラスシートによって覆われておらず、ガラスユニットは、薄い内側ガラスシートによって覆われていないゾーンにおいて締結されて」いるという点で一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「湾曲しかつ強化された外側ガラス板と、同様に強化された薄い内側ガラスシートとを含み、これらのガラス板とシートは、プラスチック製の中間層シートによって接合されている自動車の合わせガラスユニットであって、前記ガラスユニットは、機械的な移動および締結手段を収容することを意図しており、前記ガラスユニットでは、前記外側ガラス板の一部分が前記薄い内側ガラスシートによって覆われておらず、前記ガラスユニットは、前記薄い内側ガラスシートによって覆われていないゾーンにおいて締結されている、ガラスユニット」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明は、中間層シートのプラスチックが「熱可塑性」であるのに対し、引用発明は、シート状の樹脂(中間層シートのプラスチック)が「熱可塑性」であることの特定がない点。

<相違点2>
本願発明は、「外側ガラス板と薄い内側ガラスシートが重ならない部分が、外側ガラス板の領域の20%以下に相当」するのに対して、引用発明は、一方のガラス板(第1ガラス板)(外側ガラス板)の縁部が所定距離だけ他方のガラス板(第2ガラス板)(薄い内側ガラスシート)よりも突出することからして、「外側ガラス板と薄い内側ガラスシートが重ならない部分」があるものの、この部分が、「外側ガラス板の領域の20%以下に相当」することの特定がない点。

<相違点3>
本願発明は、「薄い内側ガラスシートが、中間層の方に向いたその面上で、熱を持たない特性をもたらす1組の機能層によって被覆されている」のに対して、引用発明は、中間膜(中間層)が、暑さ対策としてのIRカット機能を有する膜であってもよいものである点。

イ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
自動車の合わせガラスの中間層シートとして、熱可塑性樹脂シートを用いることは、本願優先日前の周知技術(必要であれば、特表2003-528791号公報の段落【0002】、【0009】及び【0010】、並びに、特開平07-172880号公報の段落【0019】を参照されたい。)であるので、引用発明の自動車の合わせガラスの「シート状の樹脂の中間膜(中間層シート)」を「シート状の熱可塑性樹脂の中間膜(中間層シート)」とすること、つまり、「熱可塑性プラスチック製の中間層シート」とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(イ)相違点2について
引用発明の「一方のガラス板(第1ガラス板)(外側ガラス板)と他方のガラス板(第2ガラス板)(薄い内側ガラスシート)が重ならない部分」について、この部分の広さをどれくらいにするか、例えば、一方のガラス板(外側ガラス板)の全体領域に占める割合をどれくらいにするかの検討は、昇降機構を取り付けるのに充分な広さと強度を確保しつつ、コスト増加を招かないように可能な限り小さくしようとする当然の観点より、当業者であれば普通に行うことである。
また、本願明細書の「本発明によるガラスユニットの部分的に積層された構造は、ガラスユニットを締結できるようにする。これは、この締結が、例えば機械的手段と相互作用するための孔をユニットに機械加工することを必要とする場合にも当てはまる。この非積層部分のサイズは、ガラスユニットの全領域に対して比較的限定され得る。この部分が、厚みのあるシートを締結する手段を生じるために実際に必要なものよりもさらに延在することは、必要ではなく、または望ましくもない。実際、非積層部分は、好ましくは、厚みのあるシートの領域の20%以下に相当し、特に好ましくは、この領域の10%以下に相当する。」(【0025】)及び「それにもかかわらず、ガラスユニットの締結手段を好適に配置できるようにするために、非積層領域は、一定のサイズである。好ましくは、最大のシートの領域の少なくとも0.5%であり、および多くの場合、この領域の少なくとも1%である。」(【0026】)等の記載からして、上記相違点2に係る本願発明の「20%以下(最大20%)」という特定に臨界的意義があるとは言い難い。
したがって、引用発明の「一方のガラス板(外側ガラス板)と他方のガラス板(薄い内側ガラスシート)が重ならない部分」について、この部分が、「一方のガラス板(外側ガラス板)の領域の20%以下に相当」するようにすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(ウ)相違点3について
引用発明の「中間膜(中間層)が、暑さ対策としてのIRカット機能を有する膜であってもよい」ことは、合わせガラスに、暑さ対策としてのIRカット機能が求められることを示すものであるといえることからして、引用発明の合わせガラスは、熱を持たない特性をもたらす機能が求められるものであるということができる。
そして、引用文献2には、上記1(2)からして、強化された外側のガラス製の第1層(外側ガラス板)と、同様に強化された内側のガラス製の第2層(内側ガラス板)とを含み、これらは、プラスチック材料製の中間層によって接合されている合わせガラスが記載されており、特に、上記1(2)の2bの「機能性被覆16は、若干例を挙げれば、例えば、導電性被覆、加熱可能な被覆、アンテナ被覆のいずれか、またはソーラー制御被覆、例えば少なくとも1層の誘電層と、少なくとも1層の赤外反射層、例えば銀層とを有する低放射率被覆にすることができる。」(【0012】)、同2bの「機能性被覆16は、内側主表面14に設けることで、被覆を積層外側に設けるより、環境による影響や機械的摩耗にさらされることが少なくなるようにするのが好ましい。しかし、機能性被覆16は、また表面13,22,23の1つ以上に設けることもできる。」(【0014】)及び同2eの【図1】からして、第2層(内側ガラス板)が、中間層の方に向いたその面上で、低放射率被覆(誘電層と赤外反射層を有する機能層)(熱を持たない特性をもたらす1組の機能層)によって被覆されることの示唆がある。
そうすると、引用発明と引用文献2の記載事項とは、強化された外側ガラス板と、同様に強化された内側ガラス板とを含み、これらは、プラスチック製の中間層によって接合されている合わせガラスであって、熱を持たない特性をもたらす機能が求められるものであるという点で軌を一にすることからして、引用発明の「暑さ対策としてのIRカット機能を有する膜(熱を持たない特性をもたらす機能層)」を「低放射率被覆(熱を持たない特性をもたらす1組の機能層)」に代えると共に、この「熱を持たない特性をもたらす1組の機能層」により、「他方のガラス板(第2ガラス板)(薄い内側ガラスシート)」の「中間層の方に向いたその面上」を「被覆」することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(エ)まとめ
上記3(1)イ(ア)ないし(ウ)より、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易になすことができたものである。
そして、本願発明は、「本発明によるガラスユニットは、合わせガラスユニットの利点をもたらす一方で、特に、強化されたモノリシックガラスユニットの必要な機械的強度を保証し得る。」(【0010】)との記載からして、合わせガラスユニットの利点がもたらされる一方で、特に、強化されたモノリシックガラスユニットの必要な機械的強度が保証されることを、発明の効果にするものであるといえるところ、上記3(1)イ(イ)で検討したように、引用発明について、充分な強度を有する合わせガラス(合わせガラスユニット)が構成され、また、上記1(1)1bで示した引用文献1の【0032】の記載からして、本願発明の効果は、引用発明、引用文献2の記載事項及び本願優先日前の周知技術からみて格別顕著なものであるとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2の記載事項及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用文献2に記載された「機能層」はガラスユニット中での配置場所が全く異なるため、引用文献2には、薄い内側ガラスシートが、中間層の方に向いたその面上で、熱を持たない特性をもたらす1組の機能層によって被覆されている技術が記載されておらず、また、「ソーラー制御」を目的とする機能層の場合、自動車の外側から車内に入射する太陽光のエネルギーを制御することにあるから機能層の配置場所は、サイドライトの外側ガラス板の内側表面にならざるを得ないとも主張するが、上記3(1)イ(ウ)で示したように、引用文献2には、第2層(内側ガラス板)が、中間層の方に向いたその面上で、低放射率被覆(誘電層と赤外反射層を有する機能層)(熱を持たない特性をもたらす1組の機能層)によって被覆されることの示唆があるので、審判請求人の上記主張は失当である。

第5 結び
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献2の記載事項及び本願優先日前の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-26 
結審通知日 2018-09-28 
審決日 2018-10-10 
出願番号 特願2015-527837(P2015-527837)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 頼通  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 菊地 則義
山崎 直也
発明の名称 自動車のガラス  
代理人 浅野 典子  
代理人 風早 信昭  

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