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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1349304
審判番号 不服2017-10654  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-18 
確定日 2019-02-21 
事件の表示 特願2013- 91635「光制御シート、EL素子、照明装置、ディスプレイ装置、および液晶ディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月17日出願公開、特開2014-215404〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成25年4月24日の出願であって、平成29年1月13日付けで拒絶理由が通知され、同年3月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年4月17日付けで拒絶査定がなされ、同年7月18日付けで本件拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。
その後、当審において平成30年5月1日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月12日付けで、拒絶理由(最後)(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月13日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

第2 平成30年11月13日付けの手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成30年11月13日付けの手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成30年11月13日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、同年6月20日付けの手続補正書による補正後(以下、「本件補正前」という。)の特許請求の範囲及び明細書についてするものであって、そのうち特許請求の範囲についての補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1が次の(1)のとおりであったものを、次の(2)のとおりに補正するものであり、次の(3)の補正事項からなる(下線は、当合議体が付したものであり、本件補正による補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の請求項1
「入射面から入射する光の光学特性を制御して、前記入射面と反対側の表面から出射させる光制御シートであって、
一方の面が前記入射面を構成するシート状の光透過性基材と、
該光透過性基材における前記一方の面と反対側の面に積層された一定の厚さを有する層状部と、
該層状部を挟んで前記光透過性基材と反対側に前記層状部と一体成形して形成され、複数個が互いに離間して配置された第1のレンズ部と、
前記層状部を挟んで前記光透過性基材と反対側に前記層状部と一体成形して形成され、一定方向に延長された複数列の三角プリズムもしくは複数列のシリンドリカルレンズを交差させた形状か、または複数個の四角錐、三角錐もしくは正六角錐から選択される単位レンズを隣接した形状であり、前記層状部からの高さが前記第1のレンズ部よりも低い第2のレンズ部と、
を備え、
前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、
活性エネルギー線硬化型樹脂を用いて一体成形され、
前記層状部は、
前記第1のレンズ部および前記第2のレンズ部によって覆われており、
前記第2のレンズ部の底辺の幅が20μm以上200μm以下であり、
前記第1のレンズ部の高さをTM(μm)、前記第2のレンズ部の高さをTL(μm)、前記層状部の厚さをTB(μm)と表すとき、下記式(1)および(2a)、または下記式(1)および(2b)を満たす、光制御シート。
TM/20≦TB ・・・(1)
5≦TM-TL<10 ・・・(2a)
15<TM-TL<30 ・・・(2b)」

(2)本件補正後の請求項1
「入射面から入射する光の光学特性を制御して、前記入射面と反対側の表面から出射させる光制御シートであって、
一方の面が前記入射面を構成するシート状の光透過性基材と、
該光透過性基材における前記一方の面と反対側の面に積層された一定の厚さを有する層状部と、
該層状部を挟んで前記光透過性基材と反対側に前記層状部と一体成形して形成され、複数個が互いに離間して配置された第1のレンズ部と、
前記層状部を挟んで前記光透過性基材と反対側に前記層状部と一体成形して形成され、一定方向に延長された複数列の三角プリズムもしくは複数列のシリンドリカルレンズを交差させた形状か、または複数個の四角錐、三角錐もしくは正六角錐から選択される単位レンズを隣接した形状であり、前記層状部からの高さが前記第1のレンズ部よりも低い第2のレンズ部と、
を備え、
前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、
活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され、
前記層状部は、
前記第1のレンズ部および前記第2のレンズ部によって覆われており、
前記第2のレンズ部の底辺の幅が20μm以上200μm以下であり、
前記第1のレンズ部の高さをTM(μm)、前記第2のレンズ部の高さをTL(μm)、前記層状部の厚さをTB(μm)と表すとき、下記式(1)および(2a)、または下記式(1)および(2b)を満たす、光制御シート。
TM/20≦TB ・・・(1)
5≦TM-TL<10 ・・・(2a)
15<TM-TL<30 ・・・(2b)」

(3)補正事項
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂を用いて一体成形され」とあるのを、「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され」に補正する。

2 補正の目的について
前記補正事項は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部」について、「活性エネルギー線硬化型樹脂を用いて一体成形され」という構成を、「活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され」という構成に限定するものである。
また、前記補正事項による補正の前後において、請求項1に係る発明の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、前記補正事項は、特許法17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

3 新規事項の追加の有無について
前記補正事項は、本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0043】?【0046】、【0050】、【0053】等に記載されているから、前記補正事項は、本件出願の願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。

4 独立特許要件について
前記2で述べたように、請求項1についての本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正後発明」という。)について、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用例1とその記載事項
当審拒絶理由において引用例1として引用された、本件出願の出願前に、日本国内または外国において頒布された刊行物である特開2012-247559号公報には次の記載がある(なお、下線は、当合議体が付したものであり、後述する引用発明の認定に関連する箇所を示す。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基材の一方の表面に、少なくとも1または2種類以上の異なる形状の単位レンズからなるレンズ群が部分的もしくは全面に一次元方向または二次元方向に配列されており、
前記レンズ群は、活性エネルギー線硬化性樹脂に硬化収縮率と離型性を調整できる成形補助剤が添加されたもので形成されていることを特徴とする光学シート。
【請求項2】
・・・略・・・
【請求項4】
透光性基材の一方の表面に少なくとも1種類または2種類以上の異なる形状の単位レンズからなるレンズ群を配列してなる光学シートの製造方法において、
前記レンズ群を形成するための活性エネルギー線硬化性樹脂に硬化収縮率と離型性を調整できる成形補助剤を予め添加する工程と、
前記成形補助剤を添加した前記活性エネルギー線硬化性樹脂を前記レンズ群の母型によって圧着することで前記母型の形状を転写して成形し、前記透光性基材の一方の表面に部分的もしくは全面的に且つ一次元方向または二次元方向に前記単位レンズを配列させて前記レンズ群を形成する工程と、
を有することを特徴とする光学シートの製造方法。
【請求項5】
前記レンズ群のレンズパターンが転写して形成された金型を前記レンズ群の母型として、前記レンズ群は前記母型の形状を転写することによって前記透光性基材上に形成されていることを特徴とする請求項4に記載された光学シートの製造方法。
【請求項6】
・・・略・・・
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載された光学シートが、透光性の第1基板とその背面側の第2基板の間に発光構造体が配設されてなるELパネルの光射出側の最表面に積層されてなることを特徴とするEL素子。
【請求項10】
請求項9に記載されたEL素子を発光手段として備えたことを特徴とする照明装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ、液晶用バックライト、照明用光源、電飾、サイン用光源等に用いられるEL素子(エレクトロルミネッセンス素子)及びEL素子を用いた表示装置、ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置等に用いられる光学シート及びその製造方法、そして光学シートを用いたEL素子及びそれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フラットパネルディスプレイ、液晶用バックライト、照明用光源、電飾、サイン用光源等に用いられる光源としてのEL素子、そしてEL素子を用いた各種の表示装置、ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置等の照明装置では、光源から射出される光を拡散や集光等するための光学シートが備えられている。この光学シートは、透光性基材上に特定の透光性の凹凸パターン(レンズパターン)を付与することで作製されている。
【0003】
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、光学シートの製法において、上述した母型を用いた手法では、ディスプレイ装置においては水平方向と垂直方向の光学特性の調整、照明装置においては光取り出し効率の向上や表面の耐擦傷性能の向上、更には活性エネルギー線硬化性樹脂を用いた転写における使用樹脂量を減らすことでのコストダウンなどを目的にして、母型の形状の複雑化や微細形状化が進んでいる。
しかしながら、このような製造方法で光学シートを製造した場合、切削や腐食等の手法を用いて母型の表面に凹凸パターン形状を付与する段階において錆などを含む表面面質の悪化が生じることがある。すると、母型の表面面質が悪化することに起因して、転写時に母型から凹凸パターン製品を離型させる際、版離れが悪く成形性が低下する等の問題が生じている。
【0006】
また、版離れの悪化を抑えるために、成形時に使用する樹脂に離型剤などを添加する方法も提案されてはいるが、そうすると、略平坦部を有するようなパターン形状の製品においては表面形状部分が母型からの離型性が高いために成形樹脂の硬化前に剥がれてしまうデラミといった現象が発生し、製品の外観不良を生じるという問題もある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて、複雑かつ微細な表面形状や平坦な表面形状を転写成形し、或いは、それらが複合された表面形状を転写成形する場合に、転写率や外観形状が良好で版離れの調整が可能な光学シート及びその製法、この光学シートを用いたEL素子及びそれを備えた照明装置を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光学シートは、透光性基材の一方の表面に、少なくとも1または2種類以上の異なる形状の単位レンズからなるレンズ群が部分的もしくは全面に一次元方向または二次元方向に配列されており、レンズ群は、活性エネルギー線硬化性樹脂に硬化収縮率と離型性を調整できる成形補助剤が添加されたもので形成されていることを特徴とする。
本発明による光学シートは、レンズ群の素材である活性エネルギー線硬化性樹脂に、硬化収縮率と離型性を調整できる成形補助剤を予め添加することで、これらの素材を母型に相対的に圧着してレンズ群を硬化させて成形する際、硬化収縮に際して成形樹脂が硬化前に母型から離れるデラミ現象を防ぎ、母型に樹脂が残ったりせず樹脂取られを生じないから、転写率が良好で成形の安定性が高い光学シートが得られる。
【0009】
・・・略・・・
【0011】
本発明による光学シートの製造方法は、透光性基材の一方の表面に少なくとも1種類または2種類以上の異なる形状の単位レンズからなるレンズ群を配列してなる光学シートの製造方法において、レンズ群を形成するための活性エネルギー線硬化性樹脂に硬化収縮率と離型性を調整できる成形補助剤を予め添加する工程と、
成形補助剤を添加した活性エネルギー線硬化性樹脂をレンズ群の母型によって圧着することで母型の形状を転写して成形し、透光性基材の一方の表面に部分的もしくは全面的に且つ一次元方向または二次元方向に単位レンズを配列させてレンズ群を形成する工程と、を有することを特徴とする。
本発明による光学シートの製造方法によれば、レンズ群の素材である活性エネルギー線硬化性樹脂に、硬化収縮率と離型性を調整できる成形補助剤を予め添加することで、これらの素材を母型等に圧着してレンズ群を硬化させて成形する際、硬化収縮に際して成形樹脂が硬化前に母型から離れるデラミ現象を防ぎ、母型に樹脂が残ったりせず樹脂取られを生じないから、転写率が良好で成形の安定性が高い光学シートが得られる。
【0012】
また、レンズ群の凹凸パターンが転写して形成された金型をレンズ群の母型として、レンズ群は母型の形状を転写することによって透光性基材上に形成されていることが好ましい。
レンズ群の素材である活性エネルギー線硬化性樹脂に成形補助剤を予め添加したものを、母型に圧着してレンズ群を硬化させて転写成形することで、透光性基材上にレンズ群が転写して形成され、成形樹脂が硬化前に母型から離れるデラミ現象や母型に離型時に樹脂が残る樹脂取られを生じないから、転写率が良好で成形の安定性が高い光学シートが得られる。
【0013】
・・・略・・・
【0015】
本発明によるEL素子は、上述した光学シートが、透光性の第1基板とその背面側の第2基板の間に発光構造体が配設されてなるELパネルの光射出側の最表面に積層されてなることを特徴とする。
EL素子の光射出側に積層した光学シートは、活性エネルギー線硬化性樹脂に予め成形補助剤が添加されて硬化成形されているため、成形安定性がよく転写率が良好であり、しかも成形補充剤の微粒子を分散させたことで光の拡散性が向上する。
【0016】
本発明による照明装置は、上述したEL素子を発光手段として備えたことを特徴とする。
これによって、光学シートの成形時にデラミ現象や樹脂取られを生じないから、成形性と転写性と光拡散性が良好であり、EL素子から射出された光の光学特性が均一で良好な照明装置が得られる。」

エ 「【発明の効果】
【0017】
本発明による光学シートとその製造方法によれば、光学シートが複雑かつ微細な表面形状や平坦な表面形状等の様々な表面形状を有していたり、それらの表面形状が複合されてなる母型を用いた転写成形において、成形補助剤の添加によって、樹脂選定が容易で転写率や外観形状が良好であり、版離れの調整ができる。特に、レンズ群を硬化させて成形する際、硬化収縮に際して成形樹脂が硬化前に母型から離れるデラミ現象を防ぐと共に母型に樹脂が残ったりせず樹脂取られを生じない特性が高まるから、一層、転写率が良好で成形の安定性が高い光学シートが得られる。
また、そのような製法で製造された光学シートを用いたEL素子や照明装置によって、発光性が良好で輝度の高い照明が得られる。」

オ 「【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態による光学シートを含むEL照明素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す光学シートの斜視図である。
【図3】図2に示す光学シートの縦断面図である。
【図4】第一実施形態による光学シートの製造方法を示す模式図である。
・・・略・・・
【図6】本発明の第一変形例による光学シートの斜視図である。
【図7】図6に示す光学シートの縦断面図である。」

カ 「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態による光学シートとその製造方法、そして光学シートを含むEL照明素子及びEL照明素子を含むEL照明装置について添付図面により説明する。
図1乃至図4は本発明の第一実施形態による光学シートとその製造方法、光学シートを備えたEL照明素子(EL素子)を示す図である。このEL照明素子は、例えば発光手段として、EL照明装置、ディスプレイ装置、または液晶素子等の画像表示素子の背面に配設して液晶ディスプレイ装置等の各種のディスプレイ装置を含む照明装置に具備されて使用される。
図1に示すEL照明素子1(EL素子)は、ELパネル2の光射出側の面に第一実施形態による光学シート3が積層されて構成されている。
【0020】
ELパネル2は、光の出射側に配設された透光性の第1基板5と、第1基板5の裏面側に配置された第2基板6と、第1基板5及び第2基板6の間に挟持された発光構造体7とが一体的に積層して形成されている。発光構造体7は、第1基板5の裏面側に配置される陽極8と、第2基板6の表面側に配置される陰極9と、陽極8及び陰極9の間に挟持された発光層10とで構成されている。
発光構造体7は、発光層10が陽極8と陰極9に電圧を印加することにより発光するものであり、従来公知のさまざまな構成を採用することができる。ELパネル2は、陽極8と陰極9の間に電圧を印加して発光層10から光を出射させ、この光が第1基板5を透過して光学シート3に入射し、さらに光学シート3を透過して外部へ出射することになる。
【0021】
図2及び図3に示す光学シート3は、ELパネル2の第1基板5の光射出側の面である上面に積層されており、透光性基材12と、透光性基材12上に積層形成された複数の単位レンズ13が二次元方向に配列されてなるレンズ群14とで形成されている。単位レンズ13は例えば断面略三角形をなすプリズムレンズ15であり、本第一実施形態では、透光性基材12の一方向に比較的大きな断面略三角形の略柱状のプリズムレンズ15Aが平行に配列され、これに略直交する他方向にはプリズムレンズ15Aとは大きさの異なる断面略三角形の略柱状のプリズムレンズ15Bが平行に配列されて構成されている。
【0022】
・・・略・・・
【0023】
ここで、光学シート3の材質について説明する。
透光性基材12として、例えばポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、シクロオレフィンポリマーやこれらの複合体などの合成樹脂が用いられる。
・・・略・・・
【0024】
また、本実施形態では、複数種類の単位レンズ13を有するレンズ群14について、活性エネルギー線硬化性樹脂を使用する。活性エネルギー線硬化性樹脂として、例えば紫外線硬化型フォトポリマーが用いられ、具体的にはアクリル系ポリマー、アクリル系モノマーまたは光開始剤等を含んだ公知のものが用いられる。レンズ群14の材質として活性エネルギー線硬化性樹脂を用いて賦型する際には、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されたときに硬化して接着性を有するものが使用できる。
レンズ群14を製造するには、活性エネルギー線硬化性樹脂として、例えば紫外線硬化型フォトポリマー、具体的にはアクリル系ポリマー、アクリル系モノマー及び光開始剤等を含んだものを用いて後述する成形補助剤を混入して、透光性基材12上に紫外線硬化型フォトポリマーを塗布する。そして、予めレンズ群14のパターンが賦型された金型の母型(版)を圧着させた状態で硬化させることで、所望のレンズ群14を有する光学シート3を得ることができる。
【0025】
ここで、レンズ群14の材質として活性エネルギー線硬化性樹脂を用いて母型(版)を圧着して成形する場合、単位レンズ13の外観形状において平面部などの樹脂密着性が非常に低い部分があると、活性エネルギー線硬化性樹脂が硬化した際に、この部分では、凹凸形状からなる凹凸部位と比較して母型からの離型が早く、その部分がムラになって視認されてしまう「デラミ」という現象が起こる。
また、レンズ群14の成形方法では、母型の凹凸パターン部(レンズパターン)においても腐食などに起因した表面が錆びた部位や、単位レンズ13の高さと幅の比である高アスペクトの凹凸部位などにおいては、活性線硬化性樹脂が硬化した後の母型からの剥離が困難であり、母型側に樹脂が残ってしまう「樹脂取られ」という現象が発生するおそれがある。
そこで、本発明の第一実施形態では、レンズ群14を形成する活性エネルギー線硬化性樹脂に成形補助剤を予め所定の範囲で添加するようにしてデラミや樹脂取られを抑制するようにした。成形補助剤は活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化収縮率と離型性を調整する機能を発揮できる。
【0026】
成形補助剤は微粒子であり、例えばスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、ホルムアルデヒド縮合物などからなる有機系粒子や、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、金属酸化物などからなる無機系微粒子、または気泡や可視光の特定の波長に吸収性を有するような色素顔料なども使用することができ、これら複数種類の微粒子を併用して混合することも可能である。
【0027】
成形補助剤として微粒子を添加することで活性エネルギー線硬化樹脂が硬化する際の硬化収縮率を調整することができて、離型性を調整できると共に成形樹脂が硬化前に母型から剥がれるデラミ現象を防止できる。
また、母型に成形されたレンズ群14の表面に成形補助剤の微粒子による微細な凹凸が形成されることになり、硬化したレンズ群14の母型からの離型が容易となり、母型側に樹脂が残ってしまうといった樹脂取られ現象を防止できる。
また、光学シート3に光の拡散性を付与したい場合には、微粒子の種類を適宜選択して活性エネルギー線硬化性樹脂との屈折率差をつけることでレンズ群14に所望の光拡散性を付与することも可能となる。
【0028】
ここで、光学シート3のレンズ群14を製造する際に使用する材料である活性エネルギー線硬化性樹脂及び添加された成形補助剤の総体積Vに対する成形補助剤の総体積をfとした場合、レンズ群14の総体積Vに対する成形補助剤の体積fの百分率を成形補助剤の含有率Eとすると、成形補助剤の含有率E(=f/V)は次式(1)の範囲に設定する。なお、V、fは硬化前の体積である。
0.5%≦E≦31% …(1)
(1)式の範囲内であれば、成形補助剤を添加しない場合と比較して、成形補助剤の微粒子が表面に露出するために硬化した活性エネルギー線硬化性樹脂と母型との密着力が低下して離型性が向上する。しかも、硬化した上記樹脂と透光性基材12との密着力が顕著に高くて製品の信頼性が向上すると共に、母型の細かいパターンに上記樹脂が入り込んで転写性が良好である。
なお、0.5%≦E≦30%の範囲であれば更に良好である。
【0029】
一方、E<0.5%の場合には、透光性基材12上に活性エネルギー線硬化性樹脂を用いて母型のパターンを転写してレンズ群14を成形する際に、硬化した樹脂と母型との密着力が成形補助剤を添加しない場合に対して変化が無く、離型性の向上につながらない。また、E>31%の場合には、硬化した樹脂と透光性基材12との密着力が顕著に低下し、製品の信頼性が損なわれてしまうとともに、使用樹脂と成形補助剤との組み合わせ次第では樹脂粘度が著しく増加してしまい、母型の細かいパターンに樹脂が入りこまず、転写性が低下してしまうこととなる。
【0030】
また、成形補助剤の含有率E(=f/V)に関し、より望ましくは次式(1)′を満足するものとする。
1%≦E≦25% …(1)′
ここで、(1)′式に関し、25%<E≦31%では樹脂への微粒子の分散状態が悪化し、溶融樹脂の送液時のフィルターの詰まりや母型に微粒子の凝集物が付着することによる母型傷やパターンの目詰まりといった現象を引き起こす可能性があり、レンズ群14に光拡散性を付与したい場合などには1%≦Eであることが望ましい。
従って、1%≦E≦25%の場合においては、活性エネルギー線硬化性樹脂への微粒子の分散混合が比較的容易に行えるため所望のパターン形状や光拡散性能、母型と樹脂との密着性能などの諸物性に併せて微粒子の添加量を適宜選択することが可能となるとともに微粒子や活性エネルギー線硬化性樹脂の選定が簡便となる。
【0031】
次に、成形補助剤としての微粒子の粒径と単位レンズ13の高さとの関係について説明する。
まず、成形補助剤としての微粒子の粒径について説明する。本発明者らの後述する試験により、活性エネルギー線硬化性樹脂に添加する成形補助剤の平均粒子径rは0.5μm?12μmの範囲が良好であり、この範囲を外れると特に成形安定性を損なう割合が高い。成形補助剤の平均粒子径は0.5μm?10μmの範囲がより好ましく、2.0μm?10.0μmの範囲がレンズ群14の成形安定性と転写率の両方が最も好ましかった。
【0032】
また、成形補助剤としての微粒子の粒径を成形される単位レンズ13の高さとの関係で論述すると、以下のように規定できる。
成形補助剤としての微粒子の平均粒径をrとし、光学シート3に形成したレンズ群14のうちで単位レンズ13の最も小さいプリズムレンズ15Bの透光性基材12からの高さをhとする。
この場合、成形補助剤の微粒子の平均粒径rと最小の単位レンズ13の高さhの比r/hは、
1/50≦r/h≦1/2 …(2)
であることが望ましい。
(2)式の範囲内であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂の粘度を適度に抑えて転写率を確保すると共に、レンズ形状が微粒子によって変形することなく良好な光学特性を確保して母型からの離型時に活性エネルギー線硬化性樹脂の離型性が良好で離型時に母型側に樹脂が残存してしまう樹脂取られという現象を生じないという利点がある。
【0033】
これに対し、r/h<1/50の場合には、微粒子が小径になって使用可能な微粒子の選択肢が非常に狭くなると共に、活性エネルギー線硬化性樹脂の粘度が著しく増加するため転写率が下がってしまう不具合が生じる。また、r/h>1/2の場合には、微粒子が大径化してレンズ形状を変形させてしまう割合が大きくなり、光学特性を損ねるとともに母型からの離型時に活性エネルギー線硬化性樹脂の樹脂硬化膜が凝集破壊されてしまい母型側に樹脂が残存してしまう樹脂取られといった現象を引き起こしてしまう不具合が生じる。
【0034】
また、(2)式に関し、より望ましくは、成形補助剤の微粒子の平均粒径と最小の単位レンズ13の高さの比は、次式(2)′に設定される。
1/20≦r/h≦1/4 …(2)′
ここで、1/4<r/h≦1/2の場合においては、凹凸パターン部に微粒子が挟まってしまい成形安定性が低下する可能性があり、1/50≦r/h<1/20においては添加する微粒子の個数が増加するため活性エネルギー線硬化性樹脂の粘度が上昇して転写率が低下してしまう可能性がある。
従って、(2)′式の範囲内においては安定な成形条件を決定するのが容易で所望のパターン形状や光の拡散性能、製造時における母型への密着性能などの諸物性に併せて微粒子の添加量を適宜選択することが可能となるとともに微粒子や活性エネルギー線硬化性樹脂の選定が簡便となるため、(2)式の範囲よりも一層好ましい。
【0035】
・・・略・・・
【0038】
本実施形態による光学シート3は上述の構成を備えており、次にその製造方法について説明する。
図4は本実施形態による光学シート3の製造装置の模式図である。
この光学シート3の製造装置16は、シート状に連続する透光性基材12を透光性基材シート12Aとして繰り出す透光性基材ロール17と、透光性基材シート12Aに予め微粒子の成形補助剤を混入させた活性エネルギー線硬化性樹脂を塗布する樹脂供給ノズル18と、レンズ群14の転写形状が円筒状の表面に形成されている金型をなす金属製シリンダー状母型19と、この母型19に圧着された母型圧着用ロール20と、金属製シリンダー状母型19に塗布された活性エネルギー線硬化性樹脂に紫外線を照射して樹脂を硬化させる紫外線露光装置21と、レンズ群14が成形された透光性基材シート12Aを巻き取る光学シートロール22とを備えている。
【0039】
・・・略・・・
【0040】
次に、この光学シート3の製造装置16を用いた本実施形態による光学シート3の製造方法について説明する。
先ず、透光性基材ロール17から透光性基材12がシート状に連続する透光性基材シート12Aを繰り出し、受けロール23に対向して配置された樹脂供給ノズル18から透光性基材シート12A上に微粒子の成形補助剤を予め添加して均一に分散させた活性エネルギー線硬化性樹脂を塗布する。
【0041】
活性エネルギー線硬化性樹脂が塗布された透光性基材シート12Aは、この活性エネルギー線硬化性樹脂が塗布された面を金属製シリンダー状母型19に対面させてこの母型19と母型圧着用ロール20とで挟持されて圧着され、この活性エネルギー線硬化性樹脂は金属製シリンダー状母型19の凹凸パターンに沿って成形される。
そして、金属製シリンダー状母型19で成形された透光性基材シート12Aは紫外線露光装置21から照射される紫外線等の活性エネルギー線によって硬化させられ、テンションロールを介して光学シートロール22に巻き取られる。その後、透光性基材シート12Aは別工程でレンズ群14が形成された透光性基材12の単位毎に切断されることで光学シート3が得られる。
【0042】
上述のように、本第一実施形態による光学シート3の製造方法及びこの方法で得られた光学シート3によれば、レンズ群14が複雑かつ微細な表面形状や平坦な表面形状等の様々な表面形状を有していたり、それらの表面形状が複合されてなる母型19を用いた転写成形において、活性エネルギー線硬化性樹脂に微粒子の成形補助剤を(1)式及び(2)式の条件で、選定して添加したことで、成形が容易である上に、金属製シリンダー状母型19に対する活性エネルギー線硬化性樹脂の転写率や外観形状が良好であり、しかも母型19からの版離れが確実であり、略平坦部の離型が硬化前に起こるデラミや離型時に母型19に樹脂が残る樹脂取られといった現象を防止できる。
この製法で製作された光学シート3は、デラミや樹脂取られといった現象を生じないで外観形状が良好なものを得られる。
【0043】
・・・略・・・
また、そのような製法で製造された光学シート3を用いてEL照明素子1やこのEL照明素子1を発光装置として用いた照明装置を得られて、発光性が良好で照度の高い照明が得られる。
【0044】
・・・略・・・
【0049】
なお、上述の実施形態による光学シート3の製造方法で製造される光学シート3の変形例について、図6乃至図11により説明する。
図6及び図7に示す第一変形例による光学シート32は、構造層31として透光性基材12の表面に断面略三角形のプリズムレンズ33が互いに直交する方向に交差して配列されており、プリズムレンズ33に重ねて所定間隔を開けてマイクロレンズ34が配列されている。これらプリズムレンズ33とマイクロレンズ34はそれぞれ単位レンズ13を構成し、これらの組合せでレンズ群14を構成する。そして、マイクロレンズ34はプリズムレンズ33よりも高さが大きく形成されている。」

キ 「【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1として、活性エネルギー線硬化性樹脂に対する成形補助剤の添加割合を試験した。実施例1では、図6及び図7に示す光学シート32を、図4に示す金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法によって製造した。金属製シリンダー状母型19を製作するに際して、マイクロレンズ34の反転形状を腐食方式で、プリズムレンズ33の反転形状を切削方式で形成した。そして、レンズ群14の材料となる活性エネルギー線硬化性樹脂としてウレタンアクリレート系樹脂を用い、成形補助剤としてPMMA微粒子を用い、樹脂の全体積Vに対して成形補助剤の体積fの含有割合E(%)を、表1に示すように変化させて、それぞれ光学シート32を製造した。
【0054】
光学シート32の各単位レンズ13の製造基準は次の通りである。
(1)プリズムレンズ33について
プリズムレンズ33の頂角90°
プリズムレンズ33のピッチ測定値:50μm
プリズムレンズ33の高さ測定値:25μm
(2)マイクロレンズ34について
マイクロレンズ34の形状:アスペクト40%
マイクロレンズ34の最大直径測定値:100μm
マイクロレンズ34の高さ測定値:40μm
単位レンズの面積比率:プリズムレンズ33/マイクロレンズ34=1
活性エネルギー線硬化性樹脂:ウレタンアクリレート系樹脂
成形補助剤:PMMA微粒子
成形補助剤の平均粒子径r:4μm
【0055】
成形補助剤の含有率Eを表1に示すように変えて製造された各光学シート32について、成形安定性は目視による外観評価して実施し、転写率については走査型レーザー顕微鏡によって測定した。
評価基準は下記通りである。合否の判定基準として、評価に×がなく、最低でも○で、少なくとも一方は◎であることとした。
(1)外観評価
◎:外観不良部無し
○:外観不良部1000m^(2)に10個未満
×:外観不良部1000m^(2)に10個以上
(2)転写率評価
◎:転写率99%以上
○:転写率95%以上99%未満
×:転写率95%未満
【0056】
【表1】


【0057】
表1に示す結果から、活性エネルギー線硬化性樹脂に対する成形補助剤の添加率(%)は0.5%?31%の範囲が良好であり、0.5%?30%の範囲がより良好であった。
【0058】
・・・略・・・
【0070】
なお、実施例1、3,4に示す表1、3,4において、活性エネルギー線硬化性樹脂に対する成形補助剤の体積添加率(%)は、1.0%?25%の範囲が成形安定性と転写率がいずれも最も良好であり、この範囲が最も好ましい範囲であることを確認できた。
・・・略・・・
【符号の説明】
【0071】
1 EL照明素子
2 ELパネル
3 光学シート
12 透光性基材
12A 透光性基材シート
13 単位レンズ
13A、13B プリズムレンズ
14 レンズ群
17 透光性基材母型ロール
18 樹脂供給ノズル
19 金属製シリンダー状母型
20 母型圧着用ロール
21 紫外線露光装置
22 第二シート状母型ロール」

ク 「【図1】



ケ 「【図2】







コ 「【図3】



サ 「【図4】



シ 「【図6】



ス 「【図7】



(3) 引用発明
ア 引用例1の【技術分野】(段落【0001】)や【背景技術】(段落【0002】)の記載によれば、引用例1における本発明は、「フラットパネルディスプレイ、液晶用バックライト、照明用光源、電飾、サイン用光源等に用いられるEL素子(エレクトロルミネッセンス素子)及びEL素子を用いた表示装置、ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置等に用いられる光学シート」であって、「光源としてのEL素子」「から射出される光を拡散や集光等するための光学シート」に係るものである。

イ 引用例1の【発明を実施するための形態】の段落【0019】?【0024】の記載や図1?3によれば、引用例1における本発明の「第一実施形態による」「光学シート3は」、「EL照明素子1(EL素子)」に「備え」られ、「ELパネル2の第1基板5の光射出側の面である上面に積層され」、「透光性基材12と、透光性基材12上に積層形成された複数の単位レンズ13が二次元方向に配列されてなるレンズ群14とで形成され」るものである。また、「EL照明素子1(EL素子)」の「ELパネル2は」、「光を出射させ、この光が第1基板5を透過して光学シート3に入射し、さらに光学シート3を透過して外部へ出射する」ものである。

ウ 引用例1の【発明を実施するための形態】の段落【0038】?【0041】の「本実施形態による光学シート3」「の製造方法について」の説明及び図4(第一実施形態による光学シートの製造方法を示す模式図)によれば、図4に示す「レンズ群14の転写形状が円筒状の表面に形成されている金型をなす金属製シリンダー状母型19」を用いた第一実施形態による光学シートの製造方法は、「透光性基材12がシート状に連続する透光性基材シート12A」「上に微粒子の成形補助剤を予め添加して均一に分散させた活性エネルギー線硬化性樹脂を塗布」し、「活性エネルギー線硬化性樹脂が塗布された透光性基材シート12A」は、その「活性エネルギー線硬化性樹脂が塗布された面を金属製シリンダー状母型19に対面させてこの母型19と母型圧着用ロール20とで挟持されて圧着され、この活性エネルギー線硬化性樹脂は金属製シリンダー状母型19の凹凸パターンに沿って成形され」、「金属製シリンダー状母型19で成形された透光性基材シート12A」を「活性エネルギー線によって硬化させ」るものである。
ここで、引用例1の段落【0025】の記載によれば、引用例1における本発明の「第一実施形態」の「成形補助剤は活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化収縮率と離型性を調整する機能を発揮できる」ものである。

エ 引用例1の段落【0049】の記載及び図6(本発明の第一変形例による光学シートの斜視図)、図7(図6に示す光学シートの縦断面図)によれば、引用例1における本発明の「実施形態による光学シート3の製造方法で製造される光学シート3の変形例」である図6及び図7に示された「第一変形例による光学シート32」は、「透光性基材12の表面に断面略三角形のプリズムレンズ33が互いに直交する方向に交差して配列され」、「プリズムレンズ33に重ねて所定間隔を開けてマイクロレンズ34が配列され」、「これらプリズムレンズ33とマイクロレンズ34はそれぞれ単位レンズ13を構成し、これらの組合せでレンズ群14を構成」し、「マイクロレンズ34はプリズムレンズ33よりも高さが大きく形成されている」ものである。

オ 引用例1の「実施例1」の段落【0053】、【0054】及び【0056】【表1】等の記載によれば、引用例1には、「実施例1」として、「図4に示す金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法によって製造した」「図6及び図7に示す光学シート32」であって、「レンズ群14の材料となる活性エネルギー線硬化性樹脂としてウレタンアクリレート系樹脂を用い、成形補助剤としてPMMA微粒子を用い」、「樹脂の全体積Vに対して成形補助剤の体積fの含有割合E(%)を、表1に示すように変化させ」、「光学シート32の各単位レンズ13の製造基準」を段落【0054】に記載のようにした「光学シート32」が記載されている。また、段落【0056】【表1】には、「実施例1」の「光学シート32」において、「樹脂の全体積Vに対して成形補助剤の体積fの含有割合E(%)を」「20(%)」としたものが記載されている。

カ そうすると、上記(2)ア?ス及び上記ア?オより、引用例1には、「実施例1」の「図4に示す金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法によって製造した」「図6及び図7に示す光学シート32」であって、「樹脂の全体積Vに対して成形補助剤の体積fの含有割合E(%)を」「20(%)」とした、次の「光学シート32」が記載されているものと認められる(以下、「引用発明」という。)。

「フラットパネルディスプレイ、液晶用バックライト、照明用光源、電飾、サイン用光源等に用いられるEL素子(エレクトロルミネッセンス素子)及びEL素子を用いた表示装置、ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置等に用いられ、光源としてのEL素子から射出される光を拡散や集光等するための光学シート32であって、
光学シート32は、EL照明素子1(EL素子)に備えられ、ELパネル2の第1基板5の光射出側の面である上面に積層され、透光性基材12と、透光性基材12上に積層形成された複数の単位レンズ13が二次元方向に配列されてなるレンズ群14とで形成され、ELパネル2は、光を出射させ、この光が第1基板5を透過して光学シート32に入射し、さらに光学シート32を透過して外部へ出射するものであり、
光学シート32は、透光性基材12の表面に断面略三角形のプリズムレンズ33が互いに直交する方向に交差して配列され、プリズムレンズ33に重ねて所定間隔を開けてマイクロレンズ34が配列され、これらプリズムレンズ33とマイクロレンズ34はそれぞれ単位レンズ13を構成し、これらの組合せでレンズ群14を構成し、マイクロレンズ34はプリズムレンズ33よりも高さが大きく形成されているものであり、
光学シート32は、金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法によって製造したものであり、レンズ群14の材料となる活性エネルギー線硬化性樹脂としてウレタンアクリレート系樹脂を用い、成形補助剤としてPMMA微粒子を用い、樹脂の全体積Vに対して成形補助剤の体積fの含有割合E(%)を20(%)とし、
光学シート32の各単位レンズ13の製造基準を、
(1)プリズムレンズ33について、
プリズムレンズ33の頂角90°、
プリズムレンズ33のピッチ測定値:50μm、
プリズムレンズ33の高さ測定値:25μm、
(2)マイクロレンズ34について、
マイクロレンズ34の形状:アスペクト40%、
マイクロレンズ34の最大直径測定値:100μm、
マイクロレンズ34の高さ測定値:40μm、
単位レンズの面積比率:プリズムレンズ33/マイクロレンズ34=1、
成形補助剤の平均粒子径r:4μmとし、
金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法は、透光性基材12がシート状に連続する透光性基材シート12A上に微粒子の成形補助剤を予め添加して均一に分散させた活性エネルギー線硬化性樹脂を塗布し、活性エネルギー線硬化性樹脂が塗布された透光性基材シート12Aは、その活性エネルギー線硬化性樹脂が塗布された面を金属製シリンダー状母型19に対面させてこの母型19と母型圧着用ロール20とで挟持されて圧着され、この活性エネルギー線硬化性樹脂は金属製シリンダー状母型19の凹凸パターンに沿って成形され、金属製シリンダー状母型19で成形された透光性基材シート12Aを活性エネルギー線によって硬化させるものであり、
成形補助剤は活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化収縮率と離型性を調整する機能を発揮できるものである、光学シート32。」

(4) 対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 「シート状の光透過性基材」
(ア) 引用発明の「光学シート32」は、「ELパネル2の第1基板5の光射出側の面である上面に積層され」、「複数の単位レンズ13が二次元方向に配列されてなるレンズ群14」が「透光性基材12上に積層形成された」ものである。また、引用発明においては、「ELパネル2は、光を出射させ、この光が第1基板5を透過して光学シート32に入射し、さらに光学シート32を透過して外部へ出射するものであ」る。
そうすると、「ELパネル2の第1基板5」、「透光性基材12」及び「レンズ群14」の積層関係・上下関係からみて、引用発明の「透光性基材12」の「レンズ群14」が形成された面とは反対側の面が、「光学シート32」の「ELパネル2」からの「光」の入射面を構成し、引用発明の「光学シート32」の該入射面とは反対側の面が、「ELパネル2」からの「光」を出射させる面を構成していることが分かる。

(イ) 引用発明の「光学シート32」はシート状であるということができるから、引用発明の「光学シート32」を形成している「透光性基材12」もシート状であるということができる。

(ウ) 引用発明の「透光性基材12」における「透光性」は「光透過性」と同じ意味であるから、引用発明の「透光性基材12」は、本件補正後発明の「光透過性基材」に相当する。
上記(イ)より、引用発明の「透光性基材12」は、本件補正後発明の「光透過性基材」の「シート状の」との要件を備える。
上記(ア)より、引用発明の「透光性基材12」は、本件補正後発明の「光透過性基材」の「一方の面が」「入射面を構成する」との要件を備える。

イ 「第1のレンズ部」及び「第2のレンズ部」
(ア) 引用発明の「透光性基材12上に積層形成された複数の単位レンズ13が二次元方向に配列されてなるレンズ群14」の「単位レンズ13を構成」している「断面略三角形のプリズムレンズ33」は、「透光性基材12の表面に」「互いに直交する方向に交差して配列され」たものであり、また、「プリズムレンズ33の頂角90°」、「プリズムレンズ33のピッチ測定値:50μm」、「プリズムレンズ33の高さ測定値:25μm」である。
そうすると、引用発明の「断面略三角形のプリズムレンズ33」は、「透光性基材12上に」、「ピッチ」「50μm」で「互いに直交する方向に交差して配列され」、「互いに直交する」各「方向」に沿って伸びる、「高さ」「25μm」の複数列の直角「三角形プリズム」からなることが分かる。
引用発明の「断面略三角形のプリズムレンズ33」は、本件補正後発明の「第2のレンズ部」に相当し、引用発明の「断面略三角形のプリズムレンズ33」は、本件補正後発明の「第2のレンズ部」の「一定方向に延長された複数列の三角プリズム」「を交差させた形状」であるとの要件を備える。
また、「プリズムレンズ33」の「ピッチ」が「50μm」であるということは、「プリズムレンズ33」の底辺の幅が「50μm」であると言い換えることができるから、引用発明は、本件補正後発明の「前記第2のレンズ部の底辺の幅が20μm以上200μm以下であ」るとの要件を備える。

(イ) 引用発明の「レンズ群14」の「単位レンズを構成」している「マイクロレンズ34」は、「プリズムレンズ33に重ねて所定間隔を開けて配列され」たものであり、「高さ」「40μm」である。
引用発明の「マイクロレンズ34」は、本件補正後発明の「第1のレンズ部」に相当し、引用発明の「マイクロレンズ34」は、「所定間隔を開けて配列され」たものであるから、本件補正後発明の「第1のレンズ部」の「複数個が互いに離間して配置された」との要件を備える。

(ウ) 引用発明においては、「マイクロレンズ34はプリズムレンズ33よりも高さが大きく形成され」、「プリズムレンズ33」の「高さ」「25μm」は、「マイクロレンズ34」の「高さ」「40μm」よりも低いものとなっている。
上記(ア)と(イ)より、引用発明の「断面略三角形のプリズムレンズ33」は、本件補正後発明の「第2のレンズ部」と、「高さが前記第1のレンズ部よりも低い」点で共通する。

(エ) 引用発明は、「金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法によって製造したものであり、レンズ群14の材料となる活性エネルギー線硬化性樹脂としてウレタンアクリレート系樹脂を用い、成形補助剤としてPMMA微粒子を用い、樹脂の全体積Vに対して成形補助剤の体積fの含有割合E(%)を20(%)とし」たものである。また、「金属製シリンダー状母型19を用いた製造方法」は、「微粒子の成形補助剤を予め添加して均一に分散させた活性エネルギー線硬化性樹脂」「は金属製シリンダー状母型19の凹凸パターンに沿って成形され、金属製シリンダー状母型19で成形された透光性基材シート12Aを活性エネルギー線によって硬化させるものであ」る。
技術的にみて、引用発明の「レンズ群14を構成」する「マイクロレンズ34」及び「プリズムレンズ33」は、「活性エネルギー線硬化性樹脂」である「ウレタンアクリレート系樹脂」と「成形補助剤」である「PMMA微粒子を用い」て、「成形され」るということができる。
引用発明の「活性エネルギー線硬化性樹脂」である「ウレタンアクリレート系樹脂」は、本件補正後発明の「活性エネルギー線硬化型樹脂」に相当する。
引用発明の「成形補助剤」は「活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化収縮率と離型性を調整する機能を発揮できるものである」から、引用発明の「成形補助剤」である「PMMA微粒子」は、本件補正後発明の「成形補助材」に相当する。また、引用発明の「成形補助剤」である「PMMA微粒子」は、本件補正後発明の「成形補助材」の「微粒子からなる」との要件を備える。
してみると、上記(ア)と(イ)より、引用発明と、本件補正後発明は、「前記第1のレンズ部」「および前記第2のレンズ部は」、「活性エネルギー線硬化型樹脂および微粒子からなる成形補助材を用いて」「成形され」ている点で共通する。

ウ 「光制御シート」
(ア) 引用発明は、「光源としてのEL素子から射出される光を拡散や集光等するための光学シート32」である。
そうすると、上記ア(ア)より、引用発明は、「光学シート32」の該入射面から入射する「ELパネル2」からの「光を拡散や集光等」して、該入射面とは反対側の表面から出射させるものということができる。
引用発明の「ELパネル2」からの「光を拡散や集光等する」ことは、 「ELパネル2」からの「光」の光学特性を制御しているということができる。

(イ) 上記(ア)と上記ア及びイより、引用発明の「光学シート32」は、本件補正後発明の「光制御シート」に相当する。また、引用発明の「光学シート32」は、本件補正後発明の「光制御シート」の「入射面から入射する光の光学特性を制御して、前記入射面と反対側の表面から出射させる」との要件を備える。

エ 一致点・相違点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、
「入射面から入射する光の光学特性を制御して、前記入射面と反対側の表面から出射させる光制御シートであって、
一方の面が前記入射面を構成するシート状の光透過性基材と、
複数個が互いに離間して配置された第1のレンズ部と、
一定方向に延長された複数列の三角プリズムを交差させた形状であり、高さが前記第1のレンズ部よりも低い第2のレンズ部と、
を備え、
前記第1のレンズ部および前記第2のレンズ部は、
活性エネルギー線硬化型樹脂および微粒子からなる成形補助材を用いて成形され、
前記第2のレンズ部の底辺の幅が20μm以上200μm以下である、光制御シート。」で一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1)
本件補正後発明は、「該光透過性基材における前記一方の面と反対側の面に積層された一定の厚さを有する層状部」を有し、「第1のレンズ部」及び「第2のレンズ部」が、「該層状部を挟んで前記光透過性基材と反対側に前記層状部と一体成形して形成され」、「第2レンズ部」は、「前記層状部からの」高さが前記第1のレンズ部よりも低」く、「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され」、「前記層状部は、前記第1のレンズ部および前記第2のレンズ部によって覆われており」、式(1)を満たすのに対して、
引用発明は、そのような構成となっているのかどうか不明な点。

(相違点2)
本件補正後発明は、式(2a)または式(2b)を満たしているのに対して、
引用発明は、「プリズムレンズ33」の「高さ」「25μm」、「マイクロレンズ34」の「高さ」「40μm」である点。
(ここで、「第1のレンズ部の高さ」を「TM(μm)」、「第2のレンズ部の高さ」を「TL(μm)」、「層状部の厚さ」を「TB(μm)」と表すとき、式(1)、(2a)及び(2b)は、次のとおりのものである。
TM/20≦TB ・・・(1)
5≦TM-TL<10 ・・・(2a)
15<TM-TL<30 ・・・(2b) )

(5) 判断
ア 相違点1について
(ア) 面光源装置に用いられる突出高さが10?50μmの単位プリズムが表面に複数形成された光制御シートにおいて、その製造にあたって離型の際に単位プリズムが本体部から剥離することを防ぐために、厚みが2?20μmの層状部(支持部)を、光透過性基材上に、活性エネルギー線硬化型樹脂を用いて単位プリズムと一体成形して設けた構成とすることは、本件出願前に周知の技術である(以下、「周知技術1」という。例えば、当審拒絶理由において引用した特開2011-187300号公報(以下、「引用例2」という。)の【0059】、【0062】、【0063】、【0115】(特に、「支持部の厚さts」(2μm)について)、図4,5等、特開2011-34801号公報(以下、「引用例3」という。)の【0041】、【0087】【表1】(特に、「支持部の厚さts(μm)」(10μm)(実施例)について)、図4等を参照。)。
あるいは、面光源装置に用いられるピッチあるいは厚さが数十μm程度の微細なレンズ(プリズム)単位を形成するレンズ(プリズム)シートにおいて、活性エネルギー線硬化型樹脂の重合収縮によるレンズ(プリズム)形状の変形を緩和し、かつ厚み斑(不均一)による光学特性の低下を防ぐために、厚みが1?100μm、あるいは1?50μmm、あるいは1.5?10μmの範囲の層状部(緩和層)を、光透過性基材上に、活性エネルギー線硬化型樹脂を用いてレンズ(プリズム)単位と一体成形して設けた構成とすることは、本件出願前に周知の技術である(以下、「周知技術2」という。例えば、当審拒絶理由において引用した特開平11-281805号公報(以下、「引用例4」という。)の【0009】、【0024】(特に、「2μmの厚さの緩和層」について)、図1等、特開2002-67057号公報(以下、「引用例5」という。)の【0047】(特に、「約2μmの厚さ(レンズ高さの8%)の緩和層」について)、図1等、特開2010-250237号公報(以下、「引用例6」という。)の【0061】、【0071】?【0076】(特に、「5μmの厚さの緩和層」について)、図1等を参照。)。

(イ) また、引用例1の段落【0027】には、「成形補助剤」として「活性エネルギー線硬化性樹脂」に添加される「微粒子」に関し、「光学シート3に光の拡散性を付与したい場合には、微粒子の種類を適宜選択して活性エネルギー線硬化性樹脂との屈折率差をつけることでレンズ群14に所望の光拡散性を付与することも可能となる」ことも記載されている。

(ウ) 引用発明は、版離れが悪く成形性が低下してしまうこと、成形樹脂の硬化前に剥がれてデラミ現象が発生すること、あるいは母型に樹脂が残ってしまい樹脂取られ現象が生じることを解決し、転写率や成形の安定性が高く、外見形状が良好で版離れの調整が可能な光学シートの提供することを課題とする(引用例1の段落【0005】?【0008】、【0017】、【0025】?【0027】等)ものであるから、引用発明において、層状部を設けることにより離型の際に単位プリズムが本体部から剥離することを防ぐ上記の周知技術1を採用して、2?20μmの厚み(本件補正後発明の「TB」に相当)の層状部を有し、「プリズムレンズ33」、「マイクロレンズ34」及び層状部が、「活性エネルギー線硬化性樹脂」である「ウレタンアクリレート系樹脂」と「成形補助剤」を用いて一体成形された構成として、「マイクロレンズ34」の高さ(本件補正後発明の「TM」に相当)が「40μm」、層状部の厚み「TB」が2?20(μm)とし、式(1)「TM/20≦TB」を満たす構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、引用発明は、「光源としてのEL素子から射出される光を拡散や集光等するものための光学シート32」であるところ、「光源としてのEL素子から射出される光」に拡散性を付与するため、上記(イ)の引用例1の記載・示唆に基づき、「成形補助剤」である「PMMA微粒子」を、「活性エネルギー線硬化性樹脂」との間に屈折率差を有する種類・材料の「微粒子」からなる構成とすることも、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、引用発明において、上記の構成としたものは、「該光透過性基材における前記一方の面と反対側の面に積層された一定の厚さを有する層状部」を有し、「第1のレンズ部」及び「第2のレンズ部」が、「該層状部を挟んで前記光透過性基材と反対側に前記層状部と一体成形して形成され」、「第2レンズ部」は「前記層状部からの」高さが前記第1のレンズ部よりも低」く、「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され」、「前記層状部は、前記第1のレンズ部および前記第2のレンズ部によって覆われて」いる構成を備えたものとなるから、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
あるいは、引用発明においても、金属製シリンダー状母型19を用いた製造に際し、活性エネルギー線硬化型樹脂の重合収縮によるレンズ(プリズム)形状の変形や厚み斑(不均一)による光学特性の低下は当然に考慮されることであるから、上記の周知技術2に基づいて、厚みが2μm、あるいは5μmの層状部を設けた構成として、上記相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

イ 相違点2について
(ア) 当審拒絶理由において引用した特開2011-216414号公報(以下、「引用例7」という。)(図13、図15や段落【0055】?【0063】(特に、【0062】、【0063】)等参照)あるいは特開2011-102848号公報(以下、「引用例8」という。)(図14や段落【0048】、【0053】等参照)には、EL素子を用いた照明装置、ディスプレイ装置あるいは液晶ディスプレイ装置に用いられる第1のレンズ部(マイクロレンズ部)と第2のレンズ部(プリズム部)を備えた光制御シートにおいて、第2のレンズ部の高さ/第1のレンズ部の高さが小さくなるほど輝度あるいは外部取り出し効率が大きくなること、また、第2のレンズ部の高さ/第1のレンズ部の高さが0.1より小さくなると、第2のレンズ部(プリズム部)のピッチが細かくなりすぎて回折光が発生してしまうことや、光の外部取り出し効率が飽和し小さくなることが記載されている。

(イ) また、EL素子を用いた照明装置、ディスプレイ装置あるいは液晶ディスプレイ装置に用いられる第1のレンズ部(マイクロレンズ部)と第2のレンズ部(プリズム部)を備えた光制御シートにおいて、プリズム部の幅が20μm以下(あるいは高さであれば10μm以下)であると回折光が発生し、プリズム部の幅が200μm以上(あるいは高さであれば100μm)以上であると視認されやすいことから、プリズム部の幅を20?200μm(あるいは高さであれば10?100μm)とすることは、本件出願前に周知の技術である(以下、「周知技術3」という。例えば、当審拒絶理由において引用した特開2012-242649号公報(以下、「引用例9」という。)の段落【0040】、特開2013-73819号公報(以下、「引用例10」という。)の段落【0054】、引用例7の段落【0054】等参照。)。

(ウ) 引用発明においても、輝度あるいは光の外部取り出し効率がより高いものが好ましいこと、また、回折光や視認の問題が生じない方が好ましいことは明らかなことである。
そうすると、引用発明において、引用例7や引用例8に記載された技術に基づき、「プリズムレンズ33の高さ/マイクロレンズ34の高さ」(TL/TMに相当)を小さくし高い輝度あるいは光の外部取り出し効率が得られるよう、頂角90°のプリズムレンズ33の高さを25μmからより低く(ピッチを50μmからより小さい)ものとすることは当業者であれば容易になし得たことである。その際、上記周知技術3に基づき、プリズムレンズ33のピッチ(プリズムレンズ33の底辺の幅)が小さくなりすぎて回折光が発生することがないよう、プリズムレンズ33のピッチ(プリズムレンズ33の底辺の幅)を20μmよりも大きく、すなわち、頂角90°のプリズムレンズ33の高さ(TL)を10μmよりも大きいものとして、式(2b)「15<TM-TL<30」を満たす構成とすることは、当業者の設計上の事項にすぎない。

ウ 本件補正後発明の効果及び請求人の主張について
(ア) 平成30年11月13日付けの意見書において、請求人は、
「補正後の本願[請求項1]に係る発明(以降、「本願発明1」とします)と引用例1記載の発明を対比しますと、本願発明1は、活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて、第1のレンズ部および第2のレンズ部と一体成形される層状部を備えるのに対し、引用例1記載の発明にあってはそのような層状部についてはなんら記載されていないで相違します。」、
「本願発明1にあっては、上記、活性エネルギー線硬化型樹脂に成形補助材を加えた層状部を備えることにより、
(1)成形時の気泡の噛み込みによる形状不良の発生を防ぐことができ(本願明細書段落[0056]?[0066]等)、
(2)転写形状によって樹脂密着性が低くなる部分で母系からの離型が早まることによる成形不良の発生を防ぐことができ(本願明細書段落[0045]等)、さらに、
(3)光拡散性を付与することができる(本願明細書段落[0044]等)
という効果を奏します。」、
「(3)の効果について補足しますと、本願発明1の光制御シートは、活性エネルギー線硬化型樹脂に成形補助材を加えた層状部を備えることにより、第1のレンズ部および第2のレンズ部にのみ活性エネルギー線硬化型樹脂に成形補助材を加えた光制御シートと比較して、層状の光拡散層を備えることにより光の外部取り出し効率および色ズレを飛躍的に向上することが可能となります。」、
「このような、(1)?(3)の効果のすべてを有する本願発明1の効果は、引用例1乃至12にはなんら記載されておらず、顕著な効果です。」と主張している。

(イ) しかしながら、上記ア及びイにおいて示したとおり、引用発明において、「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され」た構成とすること、式(1)「TM/20≦TB」及び式(2b)「15<TM-TL<30」を満たす構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、上記(1)?(3)の作用・効果は、引用例1、引用例7,8に記載された事項や(引用例2?7、9、10等に記載された)上記の周知技術1?3に基づき、当業者にとって自明な、あるいは予測可能なものであって、いずれも格別・顕著なものとは認められない。

エ よって、本件補正後発明は、引用発明、引用例7,8に記載された技術及び(引用例2?7、9、10等に記載された)上記の周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 小括
以上のとおり、本件補正後発明は、引用発明、引用例7,8に記載された技術及び(引用例2?7、9、10等に記載された)上記の周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

6 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、前記「第2」「1(1)」に記載したとおりのものである。

2 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1:特開2012-247559号公報
引用例2:特開2011-187300号公報
引用例3:特開2011-34801号公報
引用例4:特開平11-281805号公報
引用例5:特開2002-67057号公報
引用例6:特開2010-250237号公報
引用例7:特開2011-216414号公報
引用例8:特開2011-102848号公報
引用例9:特開2012-242649号公報
引用例10:特開2013-73819号公報
引用例11:特開2012-199062号公報
引用例12:特開2011-103237号公報
引用例13:特開2010-44379号公報

3 引用例1とその記載事項及び引用発明
当審拒絶理由において引用された引用例1とその記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]4(2)」及び「第2[理由]4(3)」に記載されたとおりである。

4 対比・判断
本件発明は、「第2[理由]4」で検討した本件補正後発明において、「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂および該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材を用いて一体成形され」という発明特定事項から、「該活性エネルギー線硬化型樹脂と屈折率差を有する微粒子からなる成形補助材」という事項を除いて、「前記層状部、前記第1のレンズ部、および前記第2のレンズ部は、活性エネルギー線硬化型樹脂を用いて一体成形され」という発明特定事項としたものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、これをより限定したものである本件補正後発明が、上記「第2[理由]4 独立特許要件について」において検討したとおり、引用発明、引用例7,8に記載された技術及び周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明、引用例7,8に記載された技術及び周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-11 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2013-91635(P2013-91635)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 575- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
関根 洋之
発明の名称 光制御シート、EL素子、照明装置、ディスプレイ装置、および液晶ディスプレイ装置  

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