• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01T
管理番号 1349326
審判番号 不服2018-1116  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-26 
確定日 2019-02-21 
事件の表示 特願2013-236693「放射線検出器、及び放射線検出器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月21日出願公開、特開2015- 96823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月15日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 7月20日 :手続補正書の提出
平成29年 4月28日付け:拒絶理由通知
平成29年 6月22日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年11月 7日付け:拒絶査定(同月14日送達)
平成30年 1月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 9月28日付け:拒絶理由通知
平成30年11月14日 :意見書、手続補正書(以下、「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
1次元又は2次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び前記光電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光電変換素子アレイと、
前記受光部を覆うように前記光電変換素子アレイ上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の積層方向から見た場合に、前記シンチレータ層及び前記ボンディングパッドから離間して前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間を通り且つ前記シンチレータ層を包囲するように、前記光電変換素子アレイ上に形成された樹脂枠と、
前記シンチレータ層を覆い、前記樹脂枠上に位置する外縁を有する保護膜と、
前記保護膜の前記外縁を覆うように、前記樹脂枠に沿って配置された被覆樹脂層と、
を備え、
前記樹脂枠の内縁と前記シンチレータ層の外縁との間の第1距離は、前記樹脂枠の外縁と前記光電変換素子アレイの外縁との間の第2距離よりも短くなっており、
前記保護膜の前記外縁、及び前記樹脂枠において前記保護膜の前記外縁に対応する対応領域は、レーザ光によって加工されることにより、前記積層方向から見た場合に、波形状となっており、
前記対応領域は、前記樹脂枠に形成された溝部である、放射線検出器。」

第3 拒絶の理由
平成30年9月28日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由4は、次のとおりのものである。

本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2により例示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.韓国公開特許第10-2011-0113482号公報
2.特開2005-338067号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア 引用文献1には、段落0001ないし0036の記載がある。なお、引用文献1については、その文字が表示できないため、摘記を省略し、当審による翻訳文のみを示す。

以下、当審による翻訳文(下線は、当審で付した。以下同じ。):
「技術分野
[0001]
本発明は、直接蒸着方式による放射線イメージセンサーの製造方法に関するものであり、より詳細には、シンチレータ層を保護するための保護膜を形成する前に、電極部を保護するマスキング層を形成することを特徴とする、直接蒸着方式による放射線イメージセンサーの製造方法に関するものである。

背景技術
[0002]
従来のX線(X-ray)撮影の場合は、フィルムとスクリーンを利用した方式を使用していたが、これは撮影されたフィルムの保管上の問題により空間と人の力が必要であった。このように、撮影されたフィルムの保管上の理由から、フィルムをスキャナでスキャンしてデジタル化する作業が進められたが、これもフィルムを使用するしかないため、二重に経費がかかるという問題点があった。したがって、フィルムを使用せずに直接検出器を介して放射線を受け入れ、コンピュータに伝送するデジタル放射線映像装置が登場するようになった。
[0003]
デジタル放射線映像装置は、大きくはその変換方法により、直接変換方式と間接変換方式に分けられる。直接変換方式は、照射されたX線(X-ray)を電気信号に直接変換して映像信号として検出する方式であり、間接変換方式は、X線(X-ray)を可視光線に変換した後、この可視光線をフォトダイオード、CMOSやCCDセンサー等のイメージセンサー素子を利用して電気信号に変換し、画像を実現する方式である。上記直接変換方式は高電圧を印加させなければ検出が不可能なため、間接変換方式が多く使われている。
[0004]
この間接変換方式を用いた検出器としてX線検出器(Xray dectector)が挙げられるが、上記X線検出器は、一般的に入力面に設置されたシンチレータ(scintillator: 閃光体)によって対象物を通過したX線(Xray)が光に変換された後、この光が再び光電子に変換され、内部の電子銃によって増幅された後、出力部の蛍光物質に衝突する過程で可視光線に変換されるが、これをフォトダイオード等の受光素子を用いて電気信号に変換し、画像を実現する構造である放射線イメージセンサーを含む。
[0005]
前述したように、X線検出器に採用される放射線イメージセンサーを製造する方法には、大きく、間接蒸着方式と直接蒸着方式がある。このうち間接蒸着方式は、放射線を透過させて可視光線を反射するアルミ基板上に、シンチレータ層、パリレン(Parylene)でできた保護膜を順に積層して形成し、シンチレータパネルを独立した工程で製作し、これをガラス基板上の中央部の表面に配列された多数の受光素子及び基板上の縁の表面に配置されて受光素子と電気的に接続された多数の電極パッドが設けられた撮像素子に光学接着剤を用いて一体化させ、放射線イメージセンサーを製造する方法である。間接蒸着方式は、シンチレータパネルを撮像素子の電極パッドを除いた部分に容易に結合させることができるという利点があるが、シンチレータパネルの表面と撮像素子の表面が接着剤によって向かい合わせに結合されるため、シンチレータで発生した光が光学接着剤や接着面の間の物理的な空間を通過しながら、光の損失や光の散乱現象が発生し、映像の分解能が低下する問題点があった。
[0006]
一方、直接蒸着方式は、ガラス基板上の中央部の表面に配列された多数の受光素子及び基板上の縁の表面に配置されて受光素子と電気的に接続された多数の電極パッドが設けられた撮像素子の表面に、直接シンチレータを蒸着させてシンチレータ層を形成させ、シンチレータを含む撮像素子全体の表面にパリレン(Parylene)でできた保護膜を積層し、ここに再び反射板としてアルミ膜を配置させてイメージセンサーを製造する方法である。直接蒸着方式による場合、パリレンでできた保護膜は、撮像素子の受光素子だけでなく、電極パッド上にも積層されるが、パリレンは絶縁特性を持っているので、電極パッドを介して電気信号を読むためには、保護膜が除去される必要がある。一般的に、カッターでパリレン保護膜を切開し、これを剥がして電極パッド上に形成されたパリレン保護膜を除去するが、このとき、カッターによって撮像素子の表面が損傷するおそれがあり、電極パッド上のパリレン保護膜が完全に除去されない場合、電極パッドの性能を低下させ、最終的にX線検出器の映像分解能を低下させるという問題点がある。

発明の内容
解決しようとする課題
[0007]
本発明は、従来の問題点を解決するために案出されたものであり、本発明の目的は、パリレン等のシンチレータ層の保護膜形成過程で発生する電極パッドの性能低下を防止し、湿気等の外部環境からシンチレータ層を十分に保護して、長時間の使用によって画像の分解能が低下することを防止できる放射線イメージセンサーの直接蒸着方式による製造方法を提供することにある。

課題の解決手段
[0008]
本発明の上記目的を解決するために、本発明は、(a)受光素子が基板表面に配置されて構成された受光部と、受光素子と電気的に接続された電極パッドが基板表面の縁に配置されて構成された電極部が設けられた撮像素子を準備する段階、(b)上記撮像素子の受光部の上にシンチレータを蒸着させてシンチレータ層を形成する段階、(c)上記撮像素子の電極部を含み、シンチレータ層の外側周囲から離隔した撮像素子の表面上に電極部を保護するためのマスキング層を形成する段階、(d)上記マスキング層が形成された撮像素子の表面全体の上に保護膜を形成する段階、(e)上記マスキング層とシンチレータ層の外側周囲の間に沿って保護膜を切開し、マスキング層及びその上に形成された保護膜を除去する段階、及び(f)上記保護膜の切開面に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させる接着剤層を形成する段階、を含む放射線イメージセンサーの製造方法を提供する。
[0009]
本発明による放射線イメージセンサーの製造方法において、上記(c)段階のマスキング層は、保護膜形成過程で電極部に保護膜が形成されないようにするためのものであり、電極部の電気的特性を損なわずに、保護膜が電極部に直接蒸着されることを防止し、同時に保護膜形成後に除去する過程で電極部から容易に分離することができるものであれば、その形態や材料に制限がなく、具体的にはUVテープ、熱硬化性樹脂、又はジグ(Jig)等が使用される。このうちUVテープは、撮像素子の基板表面を保護するとともに、UVを照射すると瞬間的に粘着力がなくなり、基板の表面にストレスをほとんど与えずに剥離が可能なテープである。マスキング層がUVテープでできている場合、上記(e)段階は、保護膜を切開してマスキング層にUVを照射した後、マスキング層及びその上に形成された保護膜を除去することを特徴とする。
[0010]
又、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法において、上記(e)段階の保護膜の切開方法は、保護膜を均一かつ容易に切開することができる方法であれば、その種類に制限がなく、具体的には、一般的なカッターによる切開、レーザートリム(Laser trim)による切開等があり、このうちレーザートリム(Laser trim)によって実行されるのが望ましい。レーザートリムによる切開方法は、一般的なカッターによる切開より精密な制御が可能であり、切開速度も速く正確な位置及び正確な深さで保護膜を均一に切開することができる。
[0011]
又、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法において、上記(f)段階の接着剤層をなす接着剤は、保護膜の切開面を十分に密封して撮像素子上に密着させ、同時に耐湿、耐水等の特性を持つものであればその種類は大きく制限されないが、UV硬化型接着剤であることが望ましい。UV硬化型接着剤は、UV照射によって接着剤の中にある光反応開始剤が反応を開始した後、早い時間内に固体の接着剤に固形化する製品であり、塗布が容易で強固な接着力を持つため、さまざまな材質に簡単手軽に適用することができる。
[0012]
又、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法において、上記(c)段階は、望ましくは、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面に沿って、樹脂でできた凸形状のダム構造物を形成し、上記撮像素子の電極部を含み、ダム構造物の外側に位置する撮像素子の表面上に電極部を保護するためのマスキング層を形成することを特徴とする。このとき、ダム構造物は、凸形状をしているため、撮像素子上での保護膜の密着力をより向上させ、保護膜の切開がダム構造物の上部で行われるため、撮像素子の表面に傷ができるのを防止する。この際、上記(e)段階は、上記ダム構造物の周方向に沿ってダム構造物の上部に形成された保護膜をレーザートリム(Laser trim)によって切開し、マスキング層及びその上に形成された保護膜を除去することを特徴とする。又、上記(f)段階の接着剤層は、保護膜の切開面及びダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させることを特徴とする。
[0013]
又、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法において、上記(c)段階は、望ましくは、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面及び基板の縁の表面にそれぞれ基板表面に沿って樹脂でできた凸形状の第1ダム構造物及び第2ダム構造物を形成し、上記撮像素子の電極部を含み、第1ダム構造物と第2ダム構造物の間に位置する撮像素子の表面上に電極部を保護するためのマスキング層を形成することを特徴とする。このとき、上記(c)段階のマスキング層は、望ましくは、熱硬化性樹脂が使用されるが、より具体的には、熱硬化性樹脂のシルクスクリーン印刷方式により形成される。又、上記(e)段階は、上記第1ダム構造物の周方向に沿って第1ダム構造物の上部に形成された保護膜をレーザートリム(Laser trim)によって切開し、マスキング層、第2ダム構造物、及びその上に形成された保護膜を除去することを特徴とする。又、上記(f)段階の接着剤層は、保護膜の切開面及び第1ダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させることを特徴とする。
[0014]
又、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法において、上記(c)段階は、望ましくは、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面に沿って樹脂でできた凸形状のダム構造物を形成し、上記撮像素子の電極部及びダム構造物の上部のうち一部を包んで保護するジグ(Jig)を装着してマスキング層を形成することを特徴とする。このとき、上記(e)段階は、上記ダム構造物の周方向に沿ってダム構造物の上部に形成された保護膜をレーザートリム(Laser trim)によって切開し、ジグ(Jig)及びその上に形成された保護膜を除去することを特徴とする。又、上記(f)段階の接着剤層は、保護膜の切開面及びダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させることを特徴とする。

発明の効果
[0015]
本発明による直接蒸着方式の放射線イメージセンサーの製造方法は、シンチレータ層を保護するためのパラリン等の保護膜を形成する前に、あらかじめ電極部をマスキングする段階を導入するため、絶縁特性を持つパラリン等による電極部の性能低下を事前に防止することができ、撮像素子に損傷を与えることなく保護膜の一部を効率的に除去することができる。又、凸形状のダム構造物及び接着剤層によって保護膜の外側部が密封されて撮像素子上に十分密着するため、シンチレータ層を湿気等の外部環境から安定的に保護することができ、これにより、本発明による放射線イメージセンサーを採用したX線検出器の長時間の使用によるイメージの劣化を防止することができる。

図面の簡単な説明
[0016]
図1は、本発明の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例により製造された放射線イメージセンサーの断面図であり、
図2は、本発明の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例により製造された放射線イメージセンサーの平面図である。
図3は、本発明の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第2実施例から第4実施例により製造された放射線イメージセンサーの断面図である。
図4は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例を図示したものであり、図5は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第2実施例を図示したものであり、図6は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第3実施例を図示したものであり、図7は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第4実施例を図示したものである。

発明を実施するための具体的な内容
[0017]
本発明は、シンチレータ層を保護するための保護膜を形成する前に、電極部を保護するマスキング層を形成することを特徴とする直接蒸着方式による放射線イメージセンサーの製造方法に関するものであり、以下、本発明の望ましい実施例を添付した図面を参照して詳細に説明する。まず、各図面の構成要素に参照符号を付加するにあたり、同一の構成要素については、たとえ他の図面上に表示されていたとしても、可能な限り同一の符号を有するようにしている点に留意しなければならない。又、本発明を説明するあたり、関連した公知の構成又は機能に対する具体的な説明が、本発明の要旨を曖昧にする可能性があると判断される場合には、その詳細な説明は省略する。なお、以下では、本発明の望ましい実施例を説明するが、本発明の技術的思想はこれに限定又は制限されず、当業者によって変形され、多様に実施可能であることはもちろんである。
[0018]
図1は、本発明の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例により製造された放射線イメージセンサーの断面図であり、図2は、本発明の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例により製造された放射線イメージセンサーの平面図である。図1又は図2に示すように、本発明の第1実施例により製造された放射線イメージセンサー(100)は、撮像素子(10)、撮像素子の表面に積層されたシンチレータ層(20)、シンチレータ層を含む撮像素子上に積層された保護膜(30)、及び上記保護膜の外側周囲(切開面)を密封し、撮像素子上に密着させて固定するための接着剤層(50)を含んでいる。又、図1には図示されていないが、本発明による放射線イメージセンサーは、望ましくは、保護膜上に固定配置され、放射線を透過させながら、同時に可視光線を反射させることができる材料で形成された反射板をさらに含むことができる。
[0019]
撮像素子(10)は、基板(11)、基板の表面に配列された受光素子(12)で構成された受光部、そして基板表面の縁に配置された電極パッド(13)で構成された電極部を含む。より具体的には、受光部は、Si基板、又はガラス基板(11)上に1次元又は2次元状に配列されて形成された光電変換を行う複数の受光素子(12)で構成され、上記受光素子(12)は、後述するシンチレータ層により入射した放射線が変換された光を検出し、これを電気信号に変換する機能を持った光電変換素子であり、その種類は大きく制限されず、非晶質シリコン製のフォトダイオード(PD)や薄膜トランジスタ(TFT)等がある。電極部は、受光部外側の基板表面の縁に形成された複数の電極パッドで構成されるが、電極パッドは、受光素子によって発生される電気信号を読み取り、これを映像解析装置等に伝達する機能をし、図1には図示されていないが、ワイヤ等の配線等により、受光素子と電気的に接続されている。
[0020]
撮像素子(10)の受光部上には、入射した放射線を受光素子(12)で検出可能な波長帯域を含む光に変換する柱状構造のシンチレータ層(20)が形成されている。本明細書では、光とは、可視光線に限定されるものではなく、紫外線、赤外線、あるいは所定の放射線等の電磁波を含む概念である。シンチレータ層(20)は、図1に示すように、受光素子(12)の形成面全体とその周辺まで覆うように形成されていることが望ましい。シンチレータ層(2)を形成するための材料としては、放射線を特定の波長帯域の光に変換させることができるものであれば、その種類は大きく制限されず、具体的にはCsI、タリウム(Tl)がドープされたCsI、ナトリウム(Na)がドープされたCsI、タリウム(Tl)がドープされたNaI等がある。このうち可視光線を発光し、その発光効率が良好なタリウム(Tl)ドープのCsIが望ましい。上記シンチレータ層(20)の各柱状構造の頂部は平らでなく、頂部に向かって尖った形状をなしており、シンチレータ層は、外側周囲の部分でその高さが徐々に減少する形状を有する。又、シンチレータ層の厚さは約20?2000?程度である。
[0021]
典型的なシンチレータ層の材料であるCsIは、吸湿性材料であり、空気中の水蒸気(湿気)を吸収して溶解する。シンチレータ層に水分が吸収されてシンチレータ層が損傷すると、放射線イメージセンサーの解像度が劣化するため、シンチレータを湿気から保護する構造を採用する必要がある。したがって、本発明による放射線イメージセンサーには、シンチレータ層(20)の柱状構造を覆ってその間隙まで入り、シンチレータ層(20)を密閉するように保護膜(30)が形成されている。上記保護膜は、図1に示すように、シンチレータ層の形成面全体とその周辺まで覆うように形成されていることが望ましい。保護膜(30)を形成する材料は、放射線(X線)を透過させ、同時に水蒸気を遮断するものであれば大きく制限されず、望ましくは、有機樹脂、より望ましくはパリレンベースの樹脂であることを特徴とする。パリレンは、化学的に蒸着したポリパラキシレンポリマーの商品名で、パリレンN、パリレンC、パリレンD、パリレンAF-4等があり、パリレンによるコーティング膜は、水蒸気及びガスの透過が非常に少なく、撥水性、耐薬品性が高く、薄膜でも優れた電気絶縁性を有し、放射線、可視光線を透過させる等、保護膜に適した優れた特徴を持っている。パリレンは、金属の真空蒸着と同様に真空中で支持体上に蒸着する化学的蒸着(CVD)法によってコーティングすることができる。これは原料となるジパラキシレンモノマーを熱分解して、生成物をトルエン、ベンゼン等の有機溶媒中で急冷させ、ダイマーと呼ばれるジパラキシレンを得る工程と、上記ダイマーを熱分解して、安定したラジカルパラキシレンガスを生成させる工程と、発生したガスを素材上に吸着、重合させて分子量約50万のポリパラキシレン膜重合形成させる工程で構成される。
[0022]
又、本発明による放射線イメージセンサーにおいて、保護膜は、図1に示すように、パリレンで形成された単層膜だけでなく、いくつかの種類の材料が順次層をなして形成された多層膜としても構成可能である。より具体的には、パリレン(例えば、無置換ポリパラキシレンとして、パリレンN)膜と異なる特性を持つパリレン(例えば、置換ポリパラキシレンとして、パリレンC、D、AF-4、VT-4等)膜でできた二層膜、パリレン膜+無機膜+パリレン膜でできた三層膜、パリレン膜+パリレン以外の有機材料で形成された有機膜+パリレン膜でできた三層膜、パリレン膜+パリレン以外の有機材料で形成された有機膜+無機膜+パリレン膜でできた四層膜等で構成することができる。このうち、有機膜を形成するパリレン以外の有機材料としては、アクリル樹脂、シリコン樹脂等があり、特に熱硬化型又はUV硬化型樹脂であることが望ましい。有機膜は、パリレン膜上に有機樹脂を塗布して硬化させ形成されるが、熱硬化又はUV硬化に形成された樹脂膜は、硬度が非常に高いハードコーティング膜であり、外部の衝撃から保護膜が摩耗することを防止して耐久性を高め、湿気に対する強固な障壁を形成して保護膜の防湿効果をより向上させる。又、無機膜を形成する無機材料としては、アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、フッ化マグネシウム(MgF_(2))、ダイヤモンド、金、銀、炭化ホウ素(B_(4)C)、窒化ホウ素(BNO_(2))、硝酸ケイ素(SiNO_(3))、酸化ケイ素(SiO_(2))等があり、このうちから1つ以上選択することができる。無機膜を形成する方法としては、電子ビーム蒸着、スパッタリング、熱蒸着のような物理的気相蒸着や化学的気相蒸着等がある。又、保護膜の全体の厚さは、約10?100μm程度であり、このうち無機膜の厚さは約50?200nm程度である。保護膜が無機膜や有機ハードコーティング膜等を含む多層膜で構成される場合、パリレン断層膜で構成される場合よりも約100倍程度改善された防湿効果を有し、耐摩耗性が増加する。
[0023]
本発明の第1実施例による放射線イメージセンサーの製造方法において、電極部と同じ垂直線上に存在する保護膜は、切開及び剥離によって除去される。このとき、保護膜の切開面のうち撮像素子の表面と接している部分は、外部環境に容易にさらされており、その密着力も大きくないため、湿気、衝撃等の外部刺激が長時間持続する場合、結合が離れてしまい、最終的にはシンチレータ層が湿気等によって破損する恐れがある。したがって、本発明による放射線イメージセンサーには、保護膜の外側周囲(切開面)を密封し、撮像素子上に密着させて固定するための接着剤層(50)が形成されている。図1又は図2に示すように、接着剤層の一部は、保護膜の切開面を包んで密封し、残りの一部は、撮像素子の表面に結合して保護膜を撮像素子上に密着固定させる。上記接着剤層をなす接着剤は、保護膜の切開面を十分に密封して撮像素子上に密着させ、同時に耐湿、耐水等の特性を持つものであれば、その種類は大きく制限されず、具体的には、シリコン接着剤、アクリル接着剤、エポキシ接着剤等があり、より望ましくは、これらの接着剤は、UV硬化型接着剤であることを特徴とする。UV硬化型接着剤は、UV照射によって接着剤の中にある光反応開始剤が反応を開始してから、早い時間内に固体の接着剤に固形化する製品であり、塗布が容易で強固な接着力を持つため、さまざまな材質に簡単手軽に適用することができる。
[0024]
本発明による放射線イメージセンサーは、図1又は図2に図示されていないが、望ましくは、保護膜上に固定配置され、放射線を透過させながら、同時に可視光線を反射させることができる材料で形成された反射板をさらに含むことができる。反射板としては、主にアルミ又は銀のように、可視光線に対して所定の反射率を有する金属膜や誘電体多層膜を使用するのが適しており、上記反射板は、保護膜に向いていない他の表面に形成された放射線透過材をさらに含むことができる。上記放射線透過材としては、ガラス、塩化ビニル等の樹脂、炭素性基板等がある。
[0025]
図3は、本発明の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第2実施例から第4実施例により製造された放射線イメージセンサーの断面図である。以下、図3に示された放射線イメージセンサーの構成要素のうち、図1と同じ構成要素については省略し、その相違点を中心に説明する。
[0026]
図3に示すように、本発明の第2実施例から第4実施例により製造された放射線イメージセンサー(200)は、第1実施例により製造された、図1の放射線イメージセンサーと比較すると、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面に沿って樹脂でできた凸形状のダム構造物(40)をさらに含んでいる。より具体的には、ダム構造物は、シンチレータ層の周囲に、シンチレータ層を取り囲むようにその側面から離隔して基板表面に配置され、高さはシンチレータ層最大の高さの1/2又は同一の高さを有する。上記凸形状のダム構造を形成するための材料としては、接着力が強く強固な枠を形成することができる樹脂であれば、大きく制限されず、具体的には、シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂から選択可能である。ダム構造物は、保護膜を形成する前に形成されるため、図3に示すように、シンチレータ層の外側部分に形成される保護膜は、基板の外側方向に行くほどその高さがだんだん減少し、シンチレータ層の外側周囲とダム構造物の間の基板表面で最も低い高さを見せ、ダム構造物の側面に沿ってだんだん高さが増加する様相を見せる。保護膜の端部は、縦方向に切開された状態で、ダム構造物の上部に接して結合されており、ここに保護膜の切開面及びダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させる接着剤層が形成される。接着剤層は、より望ましくは、保護膜の切開面及びダム構造物全体に被着し、電極部が形成されていない位置の基板表面に接着されることを特徴とする。図3の放射線イメージセンサーでは、保護膜がダム構造物と接着剤層の間に挿入されているため、保護膜の撮像素子上での密着力がさらに向上し、保護膜が接着剤層によって完全に密封されるので、保護膜によってシンチレータ層に湿気が侵入するのを確実に防止することができ、長時間使用する場合にも、シンチレータ層の吸湿劣化による放射線イメージセンサーの解像度の低下を防止することができる。
[0027]
以下、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法を説明する。図4は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例を示すものである。本発明の第1実施例による放射線イメージセンサーの製造方法は、(a)受光素子(12)が、基板(11)の表面に配置されて構成された受光部と、受光素子と電気的に接続された電極パッド(13)が基板表面の縁に配置されて構成された電極部を設けた撮像素子(10)を準備する段階と、(b)上記撮像素子の受光部の上にシンチレータを蒸着させてシンチレータ層(20)を形成する段階、(c)上記撮像素子の電極部を含み、シンチレータ層の外側周囲から離隔した撮像素子の表面上に電極部を保護するためのマスキング層(60)を形成する段階、(d)上記マスキング層が形成された撮像素子の表面全体の上に保護膜(30)を形成する段階、(e)上記マスキング層とシンチレータ層の外側周囲の間に沿って保護膜を切開し、マスキング層及びその上に形成された保護膜を除去する段階、及び(f)上記保護膜の切開面に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させる接着剤層(50)を形成する段階、を含む。
[0028]
上記(b)段階で、シンチレータを撮像素子の受光部上に蒸着させる方法としては、望ましくは、物理的蒸着法の一つとして、原料物質であるCsI、Cs(Tl)、CsI(Na)等を蒸発させて基板に蒸着する方法である熱気相蒸着(Thermal Vapor Deposition)方法が使用される。このとき、上記基板を回転させながら、上記気相蒸着を行う場合、位置分解能(Spatial resolution)をさらに向上させることができる。
[0029]
上記(c)段階で、マスキング層は、保護膜形成過程で電極部に保護膜が形成されないようにするためのものであり、電極部の電気的特性を損なわずに、保護膜が電極部に直接蒸着されることを防止し、同時に保護膜形成後に除去する過程で電極部から容易に剥離及び除去が可能なものであれば、その形態や材料に制限がない。具体的には、UVテープ、熱硬化性樹脂等が使用され、後述する第4実施例のように、ジグ(Jig)構造物等も使用可能である。このうち望ましくは、UVテープが使用されるが、UVテープは、撮像素子の基板表面を保護するとともに、UVを照射すると、瞬間的に粘着力がなくなり、基板の表面にストレスをほとんど与えずに剥離が可能なテープであり、不純物の含有量が非常に少ないため基板を汚染させることなく、効果的に基板表面を保護することができる。商業的に利用できるUVテープとしては、フルカワ(Furukawa)社のSPシリーズがある。このとき、マスキング層にUVテープが使用される場合、上記(e)段階は、保護膜を切開してマスキング層にUVを照射し、UVテープの粘着力を取り除いた後、マスキング層及びその上に形成された保護膜を剥がすことにより、基板表面及び電極部を損傷させることなく、簡単に保護膜を除去することができる。
[0030]
又、上記(e)段階の保護膜の切開方法は、保護膜を均一かつ容易に切開することができる方法であれば、その種類に制限がなく、具体的には、一般的なカッターによる切開、レーザートリム(Laser trim)による切開等があり、このうち望ましくはレーザートリム(Laser trim)によって実行されることを特徴とする。レーザートリムによる切開方法は、一般的なカッターによる切開より精密な制御が可能であり、切開速度も速く正確な位置及び正確な深さで保護膜を均一に切開することができる。
[0031]
又、上記(f)段階の接着剤層をなす接着剤は、保護膜の切開面を十分に密封して撮像素子上に密着させ、同時に耐湿、耐水等の特性を持つものであれば、その種類は大きく制限されず、望ましくは、UV硬化型接着剤であることを特徴とする。接着剤としてUV硬化型接着剤を使用する場合、UV硬化型接着剤を保護膜の切開面及び周辺の基板表面に塗布し、UVを照射して硬化させることにより、保護膜の切開面に被着し、基板表面と結合する接着剤層を形成する。
[0032]
図5は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第2実施例を図示したものであり、図6は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち第3実施例を図示したものであり、図7は、本発明による放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第4実施例を示すものである。以下、第2実施例から第4実施例の放射線イメージセンサーの製造方法のうち、第1実施例と同じ部分の説明を省略し、その相違点を中心に説明する。
[0033]
第2実施例は、第1実施例に比べて、(c)段階で、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面に沿って樹脂でできた凸形状のダム構造物(40)を形成する点で違いがあり、これによりマスキング層(60)は、ダム構造物の外側に位置し、撮像素子の電極部を含む撮像素子の表面上に形成される。ダム構造物は、シンチレータ層の周囲に、シンチレータ層を取り囲むようにその側から離隔して基板表面に配置されるが、上記凸形状のダム構造を形成するための材料としては、接着力が強くて強固な枠を形成することができる樹脂であれば、大きく制限されず、具体的には、シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂から選択されることができ、望ましくは、UV硬化型樹脂がよい。まず、シンチレータが蒸着した撮像素子を約200℃でアニーリングした後、シンチレータ層の周囲に枠状にUV硬化型樹脂を塗布し、UVを照射して硬化させることにより、ダム構造物を形成する。マスキング層としては、UVテープ、熱硬化性樹脂、又は後述する第4実施例のようにジグ(Jig)構造物等が使用されることもあり、このうち望ましくは、UVテープが使用される。又、(e)段階で、マスキング層及びその上に形成された保護膜の除去は、ダム構造物の周方向に沿ってダム構造物の上部に形成された保護膜を切開(望ましくは、レーザートリムによる切開)した後、マスキング層及びその上に形成された保護膜を剥離させることにより構成される。又、(f)段階で、接着剤層は、保護膜の切開面及びダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させることを特徴とする。このとき、接着剤としてUV硬化型接着剤を使用する場合、UV硬化型接着剤を保護膜の切開面、保護膜の切開によって露出したダム構造物の上部及び周辺の基板表面に塗布し、UVを照射して硬化させることにより、保護膜の切開面、ダム構造物の上部に被着し、基板表面と結合する接着剤層を形成する。
[0034]
第3実施例は、第1実施例に比べて、(c)段階で、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面に沿って樹脂でできた凸形状の第1ダム構造物(41)を形成し、電極部上の基板の縁の表面に沿って樹脂でできた凸形状の第2ダム構造物(42)を形成する点に違いがあり、これにより、マスキング層(60)は、第1ダム構造物と第2ダム構造物の間に位置し、撮像素子の電極部を含む撮像素子の表面上に形成される。このとき、マスキング層としては、UVテープ、熱硬化性樹脂、又は後述する第4実施例のようにジグ(Jig)構造物等が使用されることもあり、このうち望ましくは熱硬化性樹脂が使用される。熱硬化性樹脂は、液状の形で提供され、これをシルクスクリーン印刷方式でコーティングしてマスキング層を形成する。シルクスクリーン印刷方式は、紙や布のような柔軟な素材だけではなく、ガラス、金属、硬質プラスチックをはじめとする硬い板や成型物の面にも容易に接着印刷が可能であり、印刷層の厚さは約30?100μmまで可能である。 又、(e)段階で、マスキング層、第2ダム構造物及びその上に形成された保護膜の除去は、第1ダム構造物の周方向に沿って第1ダム構造物の上部に形成された保護膜を切開(望ましくは、レーザートリムによる切開)した後、マスキング層、第2ダム構造物、及びその上に形成された保護膜を剥離させることにより構成される。又、(f)段階で、接着剤層は、保護膜の切開面及び第1ダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させることを特徴とする。このとき、接着剤としてUV硬化型接着剤を使用する場合、UV硬化型接着剤を保護膜の切開面、保護膜の切開によって露出した第1ダム構造物の上部及び周辺の基板表面に塗布し、UVを照射して硬化させることにより、保護膜の切開面、第1ダム構造物の上部に被着し、基板表面と結合する接着剤層を形成する。
[0035]
第4実施例は、第1実施例に比べて、(c)段階で、シンチレータ層の外側周囲と電極部の間の基板表面に沿って樹脂でできた凸形状のダム構造物(40)を形成し、撮像素子の電極部及びダム構造物の上部のうち一部を包んで保護するジグ(Jig、61)を装着してマスキング層を形成する点に違いがある。又、(e)段階で、ジグ(Jig)とその上に形成された保護膜の除去は、ダム構造物の周方向に沿ってダム構造物の上部に形成された保護膜を切開(望ましくは、レーザートリムによる切開)した後、ジグ(Jig)を解体し、ジグ(Jig)及びその上に形成された保護膜を撮像素子から分離させることにより構成される。又、(f)段階で、接着剤層は、保護膜の切開面及びダム構造物の上部に被着し、保護膜を撮像素子上に密着させることを特徴とする。このとき、接着剤としてUV硬化型接着剤を使用する場合、UV硬化型接着剤を保護膜の切開面、保護膜の切開によって露出したダム構造物の上部及び周辺の基板表面に塗布し、UVを照射して硬化させることにより、保護膜の切開面、ダム構造物の上部に被着し、基板表面と結合する接着剤層を形成する。

符号の説明
[0036]
10: 撮像素子 11: 基板 12: 受光素子
13: 電極パッド 20: シンチレータ層 30: 保護膜
40: ダム構造物 41: 第1ダム構造物 42: 第2ダム構造物
50: 接着剤層 60: UVテープ又は熱硬化性樹脂のマスキング層
61: ジグマスキング層」

イ 引用文献1の図3は以下のとおりである。


ウ 引用文献1の図3からは、ダム構造物(40)の内縁と前記シンチレータ層(20)の外縁との間の第1距離は、ダム構造物(40)の外縁と基板(11)の外縁との間の第2距離よりも短くなっていること、及び、ダム構造物(40)は、シンチレータ層(20)及び電極パッド(13)から離間していることが理解できる。

(2)引用発明
引用文献1の記載は、上記(1)のとおりであるから、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
「基板(11)と、基板(11)の表面に1次元又は2次元状に配列されて形成された複数の受光素子(12)で構成された受光部と、基板(11)の表面の縁に配置された受光素子(12)と電気的に接続された複数の電極パッド(13)で構成される電極部とを含む撮像素子(10)と、
受光素子(12)の形成面全体とその周辺まで覆うように形成され、入射した放射線を受光素子(12)で検出可能な波長帯域を含む光に変換するシンチレータ層(20)と、
シンチレータ層(20)の外側周囲と電極部の間の基板(11)の表面に沿って樹脂でできた凸形状のダム構造物(40)と、
シンチレータ層(20)を含む撮像素子(10)上に積層された保護膜(30)であって、保護膜(30)の端部分は縦方向に切開された状態でダム構造物(40)の上部に接して結合されている保護膜(30)と、
保護膜(30)の切開面及びダム構造物(40)の上部に被着し、保護膜(30)を撮像素子上に密着させる接着剤層(50)と、
を備えた放射線イメージセンサーであって、
ダム構造物(40)の内縁と前記シンチレータ層(20)の外縁との間の第1距離は、ダム構造物(40)の外縁と基板(11)の外縁との間の第2距離よりも短くなっており、
ダム構造物(40)は、シンチレータ層(20)及び電極パッド(13)から離間しており、
ダム構造物(40)の上部に形成された保護膜(30)は、ダム構造物(40)の周囲方向に沿ってレーザートリムにより切開した後剥離されるものである、
放射線イメージセンサー。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 本願発明の「光電変換素子アレイ」について
引用発明の「受光素子(12)」は、本願発明の「光電変換素子」に相当し、引用発明の「受光部」は、「1次元又は2次元状に配列されて形成された複数の受光素子(12)」で構成されているので、本願発明の「受光部」と引用発明の「受光部」は、「1次元又は2次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部」である点で共通する。
また、引用発明の「電極部」を構成する「複数の電極パッド」は、「基板(11)の表面の縁に配置され」、「受光素子(12)と電気的に接続された」ものであるので、本願発明の「ボンディングパッド」と引用発明の「複数の電極パッド」とは、「電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置されたボンディングパッド」である点で共通する。
以上のことから、本願発明の「光電変換素子アレイ」と引用発明の「撮像素子(10)」とは、「1次元又は2次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び前記光電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光電変換素子アレイ」である点で共通する。

2 本願発明の「シンチレータ層」について
引用発明の「シンチレータ層(20)」は、「受光素子(12)の形成面全体とその周辺まで覆うように形成され、入射した放射線を受光素子(12)で検出可能な波長帯域を含む光に変換する」ものであるから、本願発明の「シンチレータ層」と引用発明の「シンチレータ層(20)」とは、「受光部を覆うように前記光電変換素子アレイ上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層」である点で共通する。

3 本願発明の「樹脂枠」について
引用発明の「ダム構造物(40)」は、「樹脂でできた凸形状」であって、「シンチレータ層(20)の外側周囲と電極部の間の基板(11)の表面に沿って」おり、また、「シンチレータ層(20)及び電極パッド(13)から離間して」いるので、本願発明の「樹脂枠」と引用発明の「ダム構造物(40)」とは、「シンチレータ層の積層方向から見た場合に、前記シンチレータ層及び前記ボンディングパッドから離間して前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間を通り且つ前記シンチレータ層を包囲するように、前記光電変換素子アレイ上に形成された樹脂枠」である点で共通する。

4 本願発明の「保護膜」について
引用発明の「保護膜(30)」は、「シンチレータ層(20)を含む撮像素子(10)上に積層され」ており、その「部分は縦方向に切開された状態でダム構造物(40)の上部に接して結合されている」ので、本願発明の「保護膜」と引用発明の「保護膜(30)」とは、「前記シンチレータ層を覆い、前記樹脂枠上に位置する外縁を有する保護膜」である点で共通する。

5 本願発明の「被覆樹脂層」との発明特定事項について、
引用発明の「接着剤層(50)」は、「保護膜(30)の切開面及びダム構造物(40)の上部に被着し、保護膜(30)を撮像素子上に密着させる」ものであるので、本願発明の「被覆樹脂層」と引用発明の「接着剤層(50)」とは、「前記保護膜の前記外縁を覆うように、前記樹脂枠に沿って配置された被覆樹脂層」である点で共通する。

6 本願発明の「前記樹脂枠の内縁と前記シンチレータ層の外縁との間の第1距離は、前記樹脂枠の外縁と前記光電変換素子アレイの外縁との間の第2距離よりも短くなっており」との発明特定事項について

引用発明において、「ダム構造物(40)の内縁と前記シンチレータ層(20)の外縁との間の第1距離は、ダム構造物(40)の外縁と基板(11)の外縁との間の第2距離よりも短くなって」いるものであるので、本願発明と引用発明とは、「前記樹脂枠の内縁と前記シンチレータ層の外縁との間の第1距離は、前記樹脂枠の外縁と前記光電変換素子アレイの外縁との間の第2距離よりも短くなっており」との発明特定事項で共通する。

7 本願発明の「前記保護膜の前記外縁、及び前記樹脂枠において前記保護膜の前記外縁に対応する対応領域は、レーザ光によって加工されることにより、前記積層方向から見た場合に、波形状となっており、前記対応領域は、前記樹脂枠に形成された溝部である」との発明特定事項について

引用発明において、「ダム構造物(40)の上部に形成された保護膜(30)」は、本願発明と同じく、「ダム構造物(40)の周囲方向に沿ってレーザートリムにより切開した後剥離される」ものである。
そうすると、引用発明において、レーザートリムにより切開された「保護膜(30)」の断面は、レーザ光の熱により、自然に波形状になるものと考えられることから、保護膜(30)の外縁は、シンチレータ層(20)の積層方向(基板(11)の上方向)から見た場合に、「波形状となっている」ものといえる。
他方、引用発明では、「ダム構造物(40)の保護膜(30)の外縁に対応する対応領域」が、「溝部」となっているか否か、及び、「積層方向から見た場合に波形状」となっているか否か、については、不明である。

8 本願発明の「放射線検出器」について
引用発明の「放射線イメージセンサー」は、本願発明の「放射線検出器」に相当する。

9 一致点・相違点
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明との間には、以下の一致点・相違点がある。

・一致点
「1次元又は2次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び前記光電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光電変換素子アレイと、
前記受光部を覆うように前記光電変換素子アレイ上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の積層方向から見た場合に、前記シンチレータ層及び前記ボンディングパッドから離間して前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間を通り且つ前記シンチレータ層を包囲するように、前記光電変換素子アレイ上に形成された樹脂枠と、
前記シンチレータ層を覆い、前記樹脂枠上に位置する外縁を有する保護膜と、
前記保護膜の前記外縁を覆うように、前記樹脂枠に沿って配置された被覆樹脂層と、
を備え、
前記樹脂枠の内縁と前記シンチレータ層の外縁との間の第1距離は、前記樹脂枠の外縁と前記光電変換素子アレイの外縁との間の第2距離よりも短くなっており、
前記保護膜の前記外縁は、レーザ光によって加工されることにより、前記積層方向から見た場合に、波形状となっている、
放射線検出器。」

・相違点
「前記樹脂枠において前記保護膜の前記外縁に対応する対応領域」が、本願発明では、「前記樹脂枠に形成された溝部」であって、「積層方向から見た場合に波形状」であるのに対し、引用発明では、そのようなことが不明である点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
引用発明の保護膜(30)は、ダム構造物(40)の周囲方向に沿ってレーザートリムにより切開した後剥離されるものであることを踏まえると、保護膜の切断時に確実に切断されていることが望ましいことは当業者であれば容易に理解できることである。
また、膜やシート等を切断する際に、下地まで切断することにより確実に切断を行うことは従来から広く行われていることである。
そうすると、引用発明において、保護膜(30)の厚さ以上にレーザ光を照射し、ダム構造物(40)の一部も併せて切断除去し、溝を形成するようになすことは、当業者であれば、必要に応じて適宜なし得ることである。
また、上記のとおり、レーザ光により溝が形成される際には、上記第5の7で検討したように、レーザ光の熱により、溝についても自然と波形状になるものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
そして、引用発明において、レーザ光によって上記保護膜の外縁及び上記樹脂枠の対応領域に形成される「波形状」により、「接着がより強固」となるとの作用効果を奏することは、当業者であれば容易に予測し得ることである。

また仮に、引用発明において、レーザ光の熱により自然に生じる「波形状」では、上記のような「接着がより強固」となるような「波形状」とはならないと仮定しても、接着をより強固にするために、接着部分の形状を波形状とする技術自体は、例えば、引用文献2(段落0012、図1ないし図3を参照。)に見られるように、本願の出願前に周知であることから、引用発明における「波形状」を「接着がより強固」となるような「波形状」となすことは、上記周知技術を考慮すれば、当業者であれば容易になし得ることである。

さらに、審判請求人は、平成30年11月14日提出の意見書において、
「引用文献1の段落0010及び0030には、レーザートリムによれば正確な制御が可能であり、正確な位置及び正確な深さで保護膜を均一に切断することができる旨の記載があります。その一方で、引用文献1の明細書全体を見渡しても、専ら保護膜(30)を切断することしか記載されておらず、本願発明1のように保護膜(30)と共にダム構造物(40)の一部をあえて切断して溝部を形成することについて、何らの記載も示唆もありません。以上のことから、引用発明1が保護膜(30)のみを正確に切断することを意図していることは明らかです」との主張、及び、本願発明が「保護膜の外縁を覆うように樹脂枠に沿って配置される被覆樹脂層を備えることにより、上述したように保護膜の外縁及び溝部と被覆樹脂層との接触面積が増え、保護膜の外縁及び溝部と被覆樹脂層との接着をより強固にすることができる」という顕著な効果を奏する旨の主張をしている。
しかし、「保護膜の外縁及び溝部と被覆樹脂層との接着をより強固にすることができる」との作用効果を奏すためには、被覆樹脂層が保護膜と樹脂枠の両方に接触して接着し得る「溝部」の深さが少なくとも必要と考えられるが、本願発明においては、「溝部」の深さについては何ら特定されていないから、本願発明の溝部がそのような作用効果を奏するものとはいえない。
また、上記で判断したように、膜やシート等を切断する際に、下地まで切断することにより確実に切断を行うことは従来から広く行われていることであって、正確な位置及び正確な深さで保護膜が均一に切断できるとしても、引用発明において、より確実に保護膜(30)を切断するために、その下の樹脂枠まで切断するようになすことは、当業者であれば、必要に応じて適宜なし得ることである。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することができない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて、または、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明ないし引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-12 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2013-236693(P2013-236693)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 聡一郎  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
山村 浩
発明の名称 放射線検出器、及び放射線検出器の製造方法  
代理人 柴山 健一  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 黒木 義樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ