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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1349377
審判番号 不服2018-3127  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-05 
確定日 2019-03-19 
事件の表示 特願2013-138886「電気回路の評価方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 5日出願公開、特開2015- 1517、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月13日にした特願2013-124404号の一部を、平成25年7月2日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年6月20日付けで手続補正がなされたが、平成29年11月28日付けで、拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、平成29年12月5日に拒絶査定の謄本が送達され、これに対し、平成30年3月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成30年12月14日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成31年1月23日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明11」という。)は、平成31年1月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
対象電気回路を含む被試験デバイスが誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記被試験デバイスへの注入電力で表した誤動作電力周波数特性を求める第1ステップと、
前記誤動作電力周波数特性、前記被試験デバイスの等価回路、及び、前記対象電気回路の等価回路に基づいて、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記対象電気回路の信号入力端子に流れる端子電流で表した誤動作電流周波数特性及び前記対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記対象電気回路の前記信号入力端子に現れる端子電圧で表した誤動作電圧周波数特性の双方をそれぞれ求める第2ステップと、
を有し、
前記第2ステップでは、
前記対象電気回路の端子電流I_LSI及び端子電圧V_LSIを、それぞれ、前記被試験デバイスへの注入電力Piの関数として表した、
I_LSI=fI(√(Pi×200)) … (1)
V_LSI=fV(√(Pi×200)) … (2)
なる数式に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の前記注入電力Piを代入することにより、前記ノイズ信号の発振周波数毎に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の端子電流I_LSI及び端子電圧V_LSIを得る、
ことを特徴とする電気回路の評価方法。」

本願発明2-11は、本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(秋山雪治,出井正彦,八木芳雄,岩崎英治,堀江俊晴,白井淳一,西澤明美,中村篤,島本晴夫,DPI法によるLSI導電性イミュニティ評価技術の開発,エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集,一般社団法人エレクトロニクス実装学会,2009年)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
a 「2. DPI法イミュニティ測定方法
図1に規格(IEC62132-4)にあるDPI法イミュニティ測定方法を示す。LSIの各端子に直接RF信号を注入し、LSIが正常動作する限界電力を周波数毎に測定することを基本とする。ここで、注入電力は実効電力ではなく進行波電力として定義される。またRF注入回路には結合・減結合回路網(以降CDN)を用いて、他の信号とデカップリングすることが規定されている。」(第1頁左欄第7-14行)

b 「3. 開発装置の概要
図2に本開発のDPI法イミュニティ試験装置の外観を示す。本装置はRF信号発生器(10W、10kHz?1GHz)、DC電源(4ch)、DUTモニタ、端子電圧モニタ(1GHz)、外部トリガ発生器、及び制御PCで構成され測定は全自動で行われる。なお、漏洩電磁界測定用のE/Hモニタはオフラインで使用する。
図3にDPI専用基板を用いた場合のDUT部を示す。RF信号は測定端子毎に設けた専用のSMA端子から供給される。RF注入回路(CDN)はLSI実装面(裏面)に注入経路毎に設置されている。
図4に汎用基板を用いた場合のDUT部を示す。RF信号は汎用のBias-T(100kHz?4.2GHz、DCR:3Ω、Imax:0.5A)を介してVCCコネクタに注入される。」(第1頁左欄第15行-最下行)

c 「5. マイコンのDPI法イミュニティ測定例
図8に汎用基板とBias-Tを用いた場合のマイコンのDPI法イミュニティ測定例を示す。評価はVCC端子のパスコン(0.1uF×5)の有無、DC入力の分離・直結の各組合せで実施した。評価ではDPI特性(注入電力特性)と共に、端子電圧特性も同時測定した(図9)。これから、DPI特性はRF信号の注入回路系に大きく依存するのに対して、端子電圧特性は、これに依らずほぼ一定であることを明らかにした。」(第2頁左欄第1-8行)


上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所を示す。)。
「LSIの各端子に直接RF信号を注入し、LSIが正常動作する限界電力を周波数毎に測定することを基本とするDPI法イミュニティ測定方法であって(上記a)、
汎用基板を用いたDUT部のVCCコネクタにRF信号を注入し(上記b)、
DPI特性(注入電力特性)と共に、端子電圧特性も同時測定する(上記c)、
DPI法イミュニティ測定方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(市川浩司,櫻井礼彦,稲垣正史,松井武,馬淵雄一,中村篤,林亨,基板解析への応用に向けたLSIイミュニティ評価法の検討,電子情報通信学会技術研究報告.EMJ,環境電磁工学,一般社団法人電子情報通信学会,2004年,77?82頁)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「そこで今回はDPI法でLSIを含めたEMS解析技術を検討した。
図5-1に試験装置の概要を示す。また、この試験に用いた基板を図5-2に示す。試験は正弦波発生器の出力を増幅し、その信号を容量結合でDUTに供給する。直流バイアスは正弦波信号が直流電源に影響を及ぼさぬようデカップリングネットワークを介してDUTに供給する。DUTの誤動作判定については、LSIが一定の処理を行うプログラムとした。その上でその動作の挙動を出力端子の波形で観測した。
・・・図5で示した試験装置で測定した結果を図6に示す。」(第79頁左欄下から9行-右欄第5行)

「4.2 LSIの誤動作しきい値電圧の把握
図6の試験を実施した際、LSIの電源端子における印加電圧Verrを測定した結果を図9に示す。」(第80頁右欄下から8-6行)

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(高橋英治,柴田修,福本幸弘,米田貴史,辨野宏,等価内部インピーダンスを用いたシミュレーションによるLSIのEMS評価,電子情報通信学会技術研究報告.EMCJ,環境電磁工学,一般社団法人電子情報通信学会,2001年,25?30頁)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「4.実測評価
ターゲットとなるLSIに対して、実際に信号源からノイズを印加して誤動作の有無を観測した。
4.1 評価方法
実測評価は、現在IECでLSIのEMS評価方法として規格化が検討されている、ダイレクトRF電力注入法(Direct RF Power Injection Method[3])を参考に評価環境を構成して行った。・・・
この評価方法では、信号源からの正弦波信号をアンプを通して増幅し、容量結合により評価基板上の電源ラインに注入することによってノイズの印加を行う・・・また、回路に実際に注入された電力を測定するために、アンプとRF注入点間に方向性結合器を挿入し、評価基板に入力された電力を高周波電力計で測定する。」(第29頁左欄第6-27行)

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(Sergey Miropolsky,Stephan Frei,Comparability of RF Immunity Test Methods for IC Design Purposes,Electromagnetic Compatibility of Integrated Circuits(EMC Compo),2011 8th Workshop on,IEEE,2011年,59?64頁)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「B. Measurement in DPI Setup
The measurement of the DUT response was performed in the DPI setup. The IC was brought to the corresponding operating point. The constant forward power level was injected in the frequency range from 1 MHz to 1 GHz. The DC level at the output pin was measured at each frequency step. The RF signal amplitudes were measured at both input and output pins with active probes (LeCroy HFP2500, 0.7 pF || 100 kΩ, and LeCroy ZX1000, 0.9 pF || 1.0 MΩ) to be used later as a reference for method comparison.
For method comparison purposes the measurement was also performed at several fixed frequencies vs. injected power level. The dependencies of the output DC voltage on the input RF voltage amplitude were analysed.」(第60頁右欄第1-14行)
(当審訳:B. DPI設定での測定
DUT反応の測定はDPI設定で行われた。ICは、対応する作動点に送られた。定常前方電力レベルが1 MHzから1 GHzの周波数域で注入された。出力ピンでのDCレベルは、各周波数段階で測定された。RF信号振幅が、アクティブプローブ(LeCroy HFP2500, 0.7 pF || 100 kΩ、およびLeCroy ZX1000, 0.9 pF || 1.0 MΩ)を用いて入力ピンと出力ピンの両方で測定され、方法比較の基準として以後用いられた。
方法を比較する目的で、注入された電力レベルに対しいくつかの固定周波数でも測定が行われた。入力RF電圧振幅に対する出力DC電圧の依存の分析を行った。)

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(Yasunori OGURI,Kouji ICHIKAWA,Simulation Method for Automotive Electronic Equipment Immunity Testing,Electromagnetic Conmatibility(EMC EUROPE),2012 Intemational Symposium on,IEEE,2012年)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「In particular, this sensor was equipped with three terminals: two power supply terminals (V, G) and one analogue signal output terminal (O), and was housed in an enclosure constructed of plastic and a metal, as shown in Figure 1. 」(第1頁右欄第5-9行)
(当審訳:図1に示すように、特にこのセンサには3つの端子がついており、それは2つの電源端子(V、G)と1つのアナログ信号出力端子(O)である。)

「B. Immunity Performance for Automotive Sensor
The Direct Power Injection (DPI) test was used to evaluate the immunity characteristics of the automotive sensor.」(第2頁左欄第16-18行)
(当審訳:B 車載センサのノイズ耐性性能
車載センサのノイズ耐性の特性を評価するために、直接電力注入(DPI)試験を用いた。)

「In the present study, RF power was injected to the V-terminal, noticing automotive sensor malfunctions caused by power source instability. To judge whether or not the automotive sensor malfunctioned, the sensor output was monitored on an oscilloscope. If the output variation exceeded a specific value, the sensor was judged to have malfunctioned. The immunity performance evaluation result for the automotive sensor is shown in Figure 5. It is the acceptable RF power Pnet .」(第2頁右欄第17-25行)
(当審訳:本研究においては、電源の不安定性に起因する車載センサの誤動作に留意して、高周波電力をV端子から入力した。車載センサが誤動作を起こしたかどうかを判断するために、センサの出力をモニタした。出力変動が特定の値を超えた場合、センサが誤動作を起こしたと判断した。車載センサのノイズ耐性性能の評価結果を図5に示す。これは許容可能高周波電力Pnetである。)

「Instead, to evaluate the simulation result, we calculate the amplitude of RF current (or voltage) from the power that was judged to have caused the EUT to malfunction by DPI-based evaluation, and used it as a simulation result evaluation parameter. In the new evaluation method, the parameters necessary for simulating an immunity test were the input impedance Zin of EUT that was necessary for calculating the current (or applied voltage) flowing through the automotive sensor and the tolerance of the current (or applied voltage). In this paper, Zin is the impedance between the V-terminal and GND plane, as shown in Fig. 3. The acceptable RF current Ia calculated from
Ia=√(Pnet/Zin) (1)
are shown in Figure 6.」(第3頁左欄第9-22行)
(当審訳:その代わりに、シミュレーション結果を評価するために、我々はDPIによる評価からEUTの誤動作の原因となったと判断された電力からのRF電流(または電圧)の振幅を計算するのである。そして、これをシミュレーション評価結果パラメタとして用いた。新しい評価手法において、ノイズ耐性試験のシミュレーションに必要なパラメタは、車載センサ中に流れる電流(または印加電圧)の計算に必要なEUTの入力インピーダンスZin と電流(または印加電圧)の公差であった。本論文では、Zin は図3に示すように、V-端子とGND面との間のインピーダンスである。
Ia=√(Pnet/Zin) (1)
から導出される許容高周波電流Iaを図6に示す。)

上記記載より、引用文献5には、
「センサが誤動作を起こしたと判断した許容可能高周波電力PnetからのRF電流の振幅を、センサのV端子とGND面との間のインピーダンスをZinとした、
式 Ia=√(Pnet/Zin)
により計算して、許容高周波電流Ia又は電圧を求める技術。」が記載されている。

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「LSI」は、本願発明1の「対象電気回路」に相当し、引用発明の「汎用基板を用いたDUT部」は、「LSI」を搭載しているので、本願発明1の「対象電気回路を含む被試験デバイス」に相当する。
そして、引用発明の「LSIが正常動作する」「RF信号」の「限界電力」は、「LSI」が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを表したものといえ、その「限界電力」は、「DUT部」に「注入」した「RF信号」の「電力」であるから、
引用発明の「汎用基板を用いたDUT部のVCCコネクタにRF信号を注入し」「LSIが正常動作する限界電力を周波数毎に測定すること」は、本願発明1の「対象電気回路を含む被試験デバイスが誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記被試験デバイスへの注入電力で表した誤動作電力周波数特性を求める第1ステップ」に相当する。

イ 引用発明の「DPI特性(注入電力特性)と共に」「同時測定」した「端子電圧特性」は、「LSI」が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを「LSI」の端子に現れる「端子電圧」で表した周波数特性であるから、
引用発明の「DPI特性(注入電力特性)と共に、端子電圧特性も同時測定する」ことと、本願発明1の「前記対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記対象電気回路の前記信号入力端子に現れる端子電圧で表した誤動作電圧周波数特性」「を」「求める第2ステップ」とは、「前記対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記対象電気回路の端子に現れる端子電圧で表した誤動作電圧周波数特性を求める第2ステップ」である点で共通する。

ウ 上記イを踏まえると、引用発明の「DPI特性(注入電力特性)と共に、端子電圧特性も同時測定する」ことと、本願発明1の「前記第2ステップでは、前記対象電気回路の」「端子電圧V_LSIを、」「前記被試験デバイスへの注入電力Piの関数として表した、」「V_LSI=fV(√(Pi×200)) … (2) なる数式に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の前記注入電力Piを代入することにより、前記ノイズ信号の発振周波数毎に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の」「端子電圧V_LSIを得る」こととは、「前記第2ステップでは、前記ノイズ信号の発振周波数毎に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の端子電圧V_LSIを得る」ことである点で共通する。

エ 引用発明の「DPI法イミュニティ測定方法」は、本願発明1の「電気回路の評価方法」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「対象電気回路を含む被試験デバイスが誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記被試験デバイスへの注入電力で表した誤動作電力周波数特性を求める第1ステップと、
前記対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記対象電気回路の端子に現れる端子電圧で表した誤動作電圧周波数特性を求める第2ステップと、
を有し、
前記第2ステップでは、
前記ノイズ信号の発振周波数毎に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の端子電圧V_LSIを得る、
電気回路の評価方法。」
(相違点1)
本願発明1は、「前記誤動作電力周波数特性、前記被試験デバイスの等価回路、及び、前記対象電気回路の等価回路に基づいて」、対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを対象電気回路の端子に現れる端子電圧で表した「誤動作電圧周波数特性」を求める第2ステップと、を有し、前記第2ステップでは、「前記対象電気回路の」「端子電圧V_LSIを、」「前記被試験デバイスへの注入電力Piの関数として表した、」「V_LSI=fV(√(Pi×200)) … (2) なる数式に、前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の前記注入電力Piを代入することにより」、ノイズ信号の発振周波数毎に、対象電気回路が誤動作を起こす限界の「端子電圧V_LSI」を得るのに対して、
引用発明は、「DPI特性(注入電力特性)と共に、端子電圧特性も同時測定」するのであって、「限界電力」、「DUT部」の等価回路、及び、「LSI」の等価回路に基づいて、「端子電圧特性」を求めるものではなく、「端子電圧」を「DUT部」への注入電力の関数として表した数式に、「限界電力」を代入することにより、「端子電圧特性」を求めるものでもない点。
(相違点2)
本願発明1は、「誤動作電圧周波数特性」を求める端子が、「信号入力端子」であるのに対して、引用発明は、「端子電圧特性」を求める端子について、「信号入力端子」との特定がない点。
(相違点3)
本願発明1は、「誤動作電流周波数特性」及び「誤動作電圧周波数特性」の「双方」をそれぞれ求め、「端子電流I_LSI」及び「端子電圧V_LSI」を得るのに対して、引用発明は、「端子電圧特性」を「測定」するが、「端子電圧特性」及び「端子電流特性」の「双方」を求める旨の特定がない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用文献5には、センサが誤動作を起こしたと判断した許容可能高周波電力PnetからのRF電流の振幅を、センサのV端子とGND面との間のインピーダンスをZinとした、式 Ia=√(Pnet/Zin)により計算して、許容高周波電流Ia又は電圧を求める技術が記載されているが、「センサ」をプリント配線基板に搭載して、被試験デバイスを構成することは記載されておらず、まして、被試験デバイスへの注入電力で表した「許容可能高周波電力Pnet」、被試験デバイスの等価回路、及び、「センサのV端子とGND面との間のインピーダンス」に基づいて、信号入力端子に現れる「許容高周波電流Ia又は電圧」を求めることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

また、引用文献2-4にも、被試験デバイスへの注入電力で表した誤動作電力周波数特性、被試験デバイスの等価回路、及び、対象電気回路の等価回路に基づいて、対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを対象電気回路の信号入力端子に現れる端子電圧で表した誤動作電圧周波数特性を求めることは、記載されていない。

したがって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明、引用文献2-5に記載された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2-5に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2-11について
本願発明2-11は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、本願発明1と同じ理由によって、引用発明、引用文献2-5に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-12
・引用文献等 1-5

<引用文献等一覧>
1.秋山雪治,出井正彦,八木芳雄,岩崎英治,堀江俊晴,白井淳一,西澤明美,中村篤,島本晴夫,DPI法によるLSI導電性イミュニティ評価技術の開発,エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集,一般社団法人エレクトロニクス実装学会,2009年
2.市川浩司,櫻井礼彦,稲垣正史,松井武,馬淵雄一,中村篤,林亨,基板解析への応用に向けたLSIイミュニティ評価法の検討,電子情報通信学会技術研究報告.EMJ,環境電磁工学,一般社団法人電子情報通信学会,2004年,77?82頁
3.高橋英治,柴田修,福本幸弘,米田貴史,辨野宏,等価内部インピーダンスを用いたシミュレーションによるLSIのEMS評価,電子情報通信学会技術研究報告.EMCJ,環境電磁工学,一般社団法人電子情報通信学会,2001年,25?30頁
4.Sergey Miropolsky,Stephan Frei,Comparability of RF Immunity Test Methods for IC Design Purposes,Electromagnetic Compatibility of Integrated Circuits(EMC Compo),2011 8th Workshop on,IEEE,2011年,59?64頁
5.Yasunori OGURI,Kouji ICHIKAWA,Simulation Method for Automotive Electronic Equipment Immunity Testing,Electromagnetic Conmatibility(EMC EUROPE),2012 Intemational Symposium on,IEEE,2012年

2 原査定の拒絶の理由についての判断
平成31年1月23日付け手続補正により補正された請求項1-11は、「前記誤動作電力周波数特性、前記被試験デバイスの等価回路、及び、前記対象電気回路の等価回路に基づいて、」「前記対象電気回路が誤動作を起こす限界のノイズ信号の大きさを前記対象電気回路の前記信号入力端子に現れる端子電圧で表した誤動作電圧周波数特性」「を」「求める」という構成を有するものであり、上記のとおり、本願発明1-11は、引用発明、引用文献2-5に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
特許法第36条第6項第2号について
1 当審では、請求項1の「前記対象電気回路への注入電力Pi」の記載は、「前記被試験デバイスへの注入電力」の記載と対応しておらず、請求項1の記載が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成31年1月23日付けの補正において、「前記被試験デバイスへの注入電力Pi」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 当審では、請求項1に記載された「前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の注入電力Piを代入することにより」は、「注入電力Pi」が、どの部分へ注入された電力であるのか不明であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成31年1月23日付けの補正において、「前記対象電気回路が誤動作を起こす限界の前記注入電力Piを代入することにより」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

3 当審では、請求項5に記載された「前記対象電気回路の前記所定部分」及び「前記対象電気回路の前記所定点間」は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成31年1月23日付けの補正において、「前記対象電気回路の前記信号入力端子」及び「前記対象電気回路の前記信号入力端子」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-11は、引用発明、引用文献2-5に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2013-138886(P2013-138886)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
P 1 8・ 537- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中村 説志
須原 宏光
発明の名称 電気回路の評価方法  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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