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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M
管理番号 1349414
審判番号 不服2017-16250  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-01 
確定日 2019-02-28 
事件の表示 特願2013- 18871「集合住宅の資源管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月21日出願公開、特開2014-150455〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年2月1日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 2月 6日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月17日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 7月10日付け:拒絶査定
平成29年11月 1日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出
平成30年 9月26日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月 3日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
平成30年12月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「集合住宅の住戸ごとに配置されデジタル信号を伝送する構内通信網に接続された住宅情報盤を備え,
前記住宅情報盤は,
前記構内通信網を介してロビーインターホンと通信するものであり,
前記住戸における資源の使用量を制限しない通常モードと,前記住戸における前記資源の使用量に上限となる制限値が設定される制限モードとの選択が可能であり,外部の管理装置から前記資源の使用量の低減を要請された場合に前記制限モードを選択するモード選択部と,
前記モード選択部が前記制限モードを選択している期間において,前記資源の使用量が前記制限値以上になった場合に,前記資源の使用量が低減されるように,前記資源を消費する設備機器の動作状態を指示する指示部とを備える
集合住宅の資源管理システム。」

第3 拒絶の理由
当審が通知した平成30年9月26付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は,次のとおりのものである。
請求項1に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2008-295193号公報
引用文献2:特開2012-16248号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2006-345662号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載,引用発明,周知技術
1 引用文献1及び引用発明
(1)当審拒絶理由で引用された特開2008-295193号公報(上記第3に合わせて,以下「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0021】
図1は,本実施形態による電力供給システムの構成例を示すブロック図である。図1を参照すると,電力デマンド制御装置11,需要家装置12,および電力供給装置13を有している。電力デマンド制御装置11は需要モデル化演算部14および最適化演算部15を有している。需要家装置12は需要家の備える装置群であり,通信装置16,デマンド調整装置17,および電力デマンド機器18を含む。
【0022】
電力デマンド制御装置11と需要家装置12は通信網等の通信線19で接続されており,相互に通信を行うことができる。電力供給装置13から需要家装置12へ電力線20が接続されており,電力線20によって電力が供給される。
【0023】
通信装置16は,電力デマンド制御装置11からの制御信号を受信し,制御信号に含まれている協力要請情報および協力報酬情報を需要家に提示するか,またはデマンド調整装置17に通知する。通信装置16は例えばパソコン,サーバ,携帯電話などで構成される。協力要請情報は,節電等の電力デマンド制御に対する協力を需要家に要請するための情報である。協力報酬情報は,協力要請情報による要請への協力に対して与えられる報酬を需要家に知らせるための情報である。
【0024】
電力デマンド機器18は,空調,照明,その他,電力を消費して動作する電気機器類全般である。
【0025】
デマンド調整装置17は,各電力デマンド機器18の電力消費を調整する装置である。デマンド調整装置17には,例えば,スイッチやリモコン等の人手によって操作するものから,電力デマンド制御装置11からの制御信号に基づいて人手を介さずに自動的に電力デマンド機器18の電力消費を調整するものまで様々なものがある。
【0026】
デマンド調整装置17が人手を介するものであれば,協力要請情報および協力報酬情報を提示した電力デマンド制御の要請を受けた需要家が要請に協力するか否か判断する。要請に協力する場合,需要家がデマンド調整装置17を操作して電力デマンド機器18の電力消費を調整する。
【0027】
デマンド調整装置17が人手を介さないものであれば,電力デマンド制御装置11から通信装置16経由で協力要請情報および協力報酬情報を含む電力デマンド制御の要請を受けたデマンド調整装置17が,予め設定されている判断基準に従って,要請に協力するか否か判断する。判断基準は例えば需要家によって設定される。協力すると判断した場合,デマンド調整装置17は電力デマンド機器18の電力消費を調整する。
【0028】
電力デマンド制御に協力するか否かは需要家あるいはデマンド調整装置17が適宜判断すればよい。需要家は,電力デマンド制御に協力すれば協力報酬情報にて提示された報酬を受けることができ,協力しなければ報酬を受けることができない。報酬は,例えば報酬金の支払いや基本料金の割引などである。需要家は,電力デマンド制御の要請を受けたとき,無理なく可能な範囲で要請に協力することができる。需要家に無理な負担をかけずに電力消費を制御することができる。また,需要家の電力利用の効率化に対する協力意識を高めることができ,コスト削減や電力の効率的な利用がより促進されることも期待される。
【0029】
電力デマンド制御装置11において,需要モデル化演算部14は,電力デマンド制御の要請に対する各需要家の過去の協力の実績データから各需要家の協力行動をモデル化した需要家モデルを生成する。各需要家の需要家モデルは需要家モデル群21として電力デマンド制御装置11に保持される。実績データは,例えば,電力デマンド制御の制御信号に対する応答の制御信号によって需要家装置12から電力デマンド制御装置11に通知されることにしてもよく,また課金等のために測定されている,需要家における消費電力量から判断することにしてもよい。需要モデル化演算部14は機械学習により需要家モデル群21の需要家モデルを更新する。電力デマンド制御装置11による電力デマンド制御に対する需要家装置12からの応答がフィードバックされ需要家モデルに反映される。
【0030】
最適化演算部15は,需要モデル化演算部14で生成された需要家モデルを用いた最適化処理を行い,得られた結果に基づいて協力要請情報および協力報酬情報を含む制御信号を生成し,需要家装置12に送信する。最適化処理は,例えば,どの需要家にどのような報酬を提示して協力を要請すればよいかを算出する処理である。システムが電力デマンドを制御する目的に適合させた,目的達成の度合いを評価するための目的関数を最適化処理に用いればよい。例えば,電力供給コストを目的関数とし,その目的関数の値を最小化すればよい。あるいは,各需要家から回収される料金の総和と電力供給コストとの差を目的関数とし,その目的関数を最大化すればよい。電力供給コストは電力供給装置13の特性に依存するので,最適化演算部15は電力供給装置13の特性の情報を予め記憶しており,その情報を電力供給コストの算出に用いればよい。
【0031】
電力供給装置13は需要家の電力デマンド機器18に電力を供給する各種装置であり,例えば発電装置や電力貯蔵装置である。発電機により発電した電力を供給する発電装置としてベースロード用発電機やピークロード用発電機がある。各種の電力供給装置13は出力の可変性や発電効率等の特性が異なる。これらの特性は電力供給コストに影響する。」

イ 図1


(2)上記(1)の記載及び図1から,以下の各事項を導出することができる。
ア 電力供給システムにおいて,需要家の備える装置群である需要家装置12は,通信装置16,デマンド調整装置17,および電力デマンド機器18を含み,需要家装置12は,通信網に接続されている(段落【0021】,【0022】,図1)。また,通信装置16は,協力要請情報を需要家に提示することやデマンド調整装置17に通知することを行い,パソコンなどで構成される(段落【0023】)。

イ デマンド調整装置17は,通信網に接続された電力デマンド制御装置11から,節電等の電力デマンド制御に対する協力を需要家に要請するための協力要請情報を含む電力デマンド制御の要請を受け,需要家によって設定される判断基準に従って要請に協力するか否か判断し,協力すると判断した場合,デマンド調整装置17は電力デマンド機器18の電力消費を調整する(段落【0022】,【0023】,【0027】)。

(3)上記(1)及び(2)から,引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「需要家の備える装置群である需要家装置が,通信網に接続されるとともに,協力要請情報を需要家に提示することやデマンド調整装置に通知することを行いパソコンなどで構成される通信装置,及びデマンド調整装置を含み,
デマンド調整装置は,
通信網に接続された電力デマンド制御装置から,節電等の電力デマンド制御に対する協力を需要家に要請するための協力要請情報を含む電力デマンド制御の要請を受け,需要家によって設定される判断基準に従って要請に協力するか否か判断し,
協力すると判断した場合,電力デマンド機器の電力消費を調整する
電力供給システム。」

2 周知技術
(1)周知技術1
ア 特開2012-39722号公報(以下「周知例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。
(ア)「【0014】
以下に説明する実施形態は,電力の需要家が占有するスペースを複数設けた集合住宅のような建物を対象にしている。また,以下に説明する充電システムでは,建物内の各需要家(スペース)における電力使用量を,建物とは異なる場所で取得し管理する。建物への電力の供給は配電網を用いて行われる。また,以下に説明する実施形態において,複数の需要家が存在する建物は,集合住宅に限られず,事務所や店舗として使用されるテナントビルなど,複数の需要家がそれぞれ独立したスペース(事務所,店舗)を占有する建物であってもよい。ただし,以下の実施形態については,建物が集合住宅であって,需要家が占有するスペースが住戸である場合を例として説明する。
【0015】
図1に示すように,建物である集合住宅10には複数の住戸101が存在し,各住戸101にはそれぞれ分電盤21と情報端末である住戸端末11とが配置される。分電盤21は,集合住宅10に敷設された配電線22から受電した電力を,住戸101に敷設された分岐線(図示せず)に分岐させるための分岐ブレーカ(図示せず)と,配電線22と分岐ブレーカとの間に配置したメインブレーカ(図示せず)とを内蔵する。また,分電盤21は後述する通信装置12を内蔵する。通信装置12は,分電盤21に内蔵したメインブレーカの一次側と,住戸端末11に電源を供給する分岐ブレーカの二次側との間に接続される。なお,通信装置12は,必ずしも分電盤21に収納する必要はなく,分電盤21の外部に配置してもよい。
【0016】
一方,住戸端末11は,集合住宅10に敷設された構内通信網1を通して管理人室102などに配置されたコンピュータサーバからなる集約装置13と通信する。住戸端末11と構内通信網1と集約装置13とは,集合住宅10の基幹設備として設けられている。構内通信網1で用いるプロトコルにはとくに制限はないが,有線通信において一般に用いられているEthernet(登録商標)などが用いられる。また,構内通信網1には,専用のプロトコルを用いる場合もある。
【0017】
各住戸端末11は,具体的には,当該住戸端末11が設置されたそれぞれの住戸101においてドアホン子機やロビーインターホンとの通話のための機能を備える。また,各住戸端末11は,各住戸101に設置された感知器(火災感知器,ガス感知器など)で異常が検知されたことを集約装置13に通知する機能を備え,集約装置13は各住戸端末11に警報を通知する機能を備える。
【0018】
ところで,集合住宅10は,多くの場合,6600V等の高電圧で配電網24から受電し,集合住宅10の電気室103に配置された降圧トランス23により100V/200Vに降圧した後に各住戸101に給電する。電気室103には,降圧トランス23に加えて,外部に敷設された配電網24から受電した電力量を計量する買電用の電力メータ25と,後述する売電用の電力メータ26とが配置される。電力メータ25,26は降圧トランス23の一次側に接続される。
【0019】
集合住宅10の配電線22は降圧トランス23の二次側に接続されており,この配電線22からは各住戸101にそれぞれ給電する専用配電線221が分岐する。専用配電線221には,各住戸101での使用電力量を計量するメータとしての電力メータ20が設けられる。電力メータ20はメータボックス27に収納されている。メータボックス27には,図2に示すように,電力メータ20が計量する計量値を検針情報として取得して記憶する検針端末15も収納される。検針端末15は,電力メータ20から一定時間毎(たとえば,5分毎,30分毎など)に検針情報を取得し,一定期間分(たとえば,40日分)の検針情報を記憶する。」
(イ)「【0027】
住戸端末11は,液晶表示器のような表示器(図示せず)と押釦スイッチのような入力操作部(図示せず)を備えており,検針情報を受け取ることによって検針情報を表示器に提示することができる。表示器および入力操作部にはタッチパネルを用いてもよい。検針情報は一定時間毎の消費電力量であるから,検針情報と併せて消費電力量の積算値(使用開始からの積算値や1ヶ月間の積算値)を表示器に提示するのが望ましい。また,1ヶ月間の積算値を表示器に提示する場合には,電気料金も併せて提示するのが望ましい。」

イ 特許第4455782号公報(平成22年4月21日発行)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【0031】
実施形態1では集合住宅1の構内にLAN回線14を敷設しており,管理会社や燃料供給会社のサーバ4,5から,インターネット3とLAN回線14とを介して各住戸2に設置されたホームサーバ12にアクセスして電力使用量のデータを送信させているのに対して,本実施形態では集合住宅1内にルータ16を介してインターネット3に接続される共用サーバ18を1台設置し,各住戸2に設置された住宅情報盤17から集合住宅1内に敷設されたHA幹線31と後述の警報監視盤19とを介して共用サーバ18に電力使用量のデータを出力させており,既設のHA幹線31とは別にLAN回線14を引き回す必要がなく,コストダウンを図っている。そして,管理会社や燃料供給会社のサーバ4,5からは,インターネット3を介して共用サーバ18にアクセスし,電力使用量の計測データを送信させている。尚,エネルギー供給管理システムの基本的な構成は実施形態1と同様であるので,同一の構成要素には同一の符号を付して,その説明は省略する。
【0032】
集合住宅1の各住戸2には,共同玄関に設置されたロビーインターホン30や各戸の玄関に設置されたインターホン(図示せず)との間で通話を行ったり,住戸2内に設置された火災感知器(図示せず)などの警報を監視するための住宅情報盤17が設置されており,住宅情報盤17はHA幹線31を介して管理人室などに設置された警報監視盤19に接続されている。また,警報監視盤19はHA幹線31を介してロビーインターホン30や共用サーバ18に接続されている。
【0033】
住宅情報盤17は,図7に示すように,信号出力部11bの出力信号を受けてパルス状の受信信号を発生する信号受信部17aと,信号受信部17aの発生する受信信号の数をカウントする信号カウント部17bと,警報監視盤19との間でデータを送受信する通信送受信部17cとを備える。」
(イ)「【0043】
また従来は,各住戸2の入居者が月に一度の検針時にしか電力使用量を把握できなかったが,各住戸2では住宅情報盤17が,電力量計11から読み込んだ電力使用量のデータに基づいて,瞬時使用量や月間使用量や電力料金などのデータを作成してLCDのようなモニタ画面17dに表示させたり,前年との比較結果を表示させたりしているので,電力使用量や電力料金などのデータを逐次把握することができる。」

ウ 例えば上記ア,イによれば,次の技術事項は周知技術(以下「周知技術1」という。)と認められる。
「住宅情報盤を集合住宅の住戸ごとに配置し,デジタル信号を伝送する構内通信網に接続して,住宅情報盤が当該構内通信網を介してロビーインターホンと通信すること。」

(2)周知技術2
ア 当審拒絶理由で引用された特開2012-16248号公報(上記第3の「引用文献2」)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0017】
電流制御判定部130は,判定基本情報受信部120により受信した各電流値情報を用いて電流制限の必要性を判定するプログラムである。例えば,各電流値情報の和(アンペアブレーカーから取得した情報であってもよい)を,運転制御装置100の記憶部に予め記憶されている電流制限値と比較する。比較の結果,例えば,各電流値情報の和が電流制限値を超えている場合,あるいは,電流制限値に対して所定の閾値以上(例えば電流制限値の90%以上)であるならば,電流制限が必要であると判定する。もちろん,各電流値情報を,予め上記記憶部に記憶されているそれぞれの電流制限値と比較して,電流制限の必要性を判定するようにしてもよい。
【0018】
制御内容決定部140は,判定基本情報受信部120において受信した判定基本情報及び環境情報計測部110により計測した環境情報に基づき,電力制御を実行する電気機器200,210,220・・・の制御内容を決定するコンピュータプログラムである。具体的には,電流制御判定部130において,判定基本情報である電流値情報と電流制限値とを比較して電流制御が必要であると判定されたならば,環境情報計測部110により計測され記憶されている環境情報を読み出し,電力制御を実行する電気機器200,210,220・・・の選択及び制御の方法を決定する。例えば,環境情報として,A区域における室温が20度と測定されている場合において,その温度を,運転制御装置100の記憶部に予め記憶されているA区域における適正温度と比較し,適正温度を下回っていると判断したとする。この場合には,使用者による電気機器200(エアコン)の冷房設定温度が低すぎることにより,上記適正温度を下回っていると判断できるため,電気機器200(エアコン)を制御対象として選択する。そして,冷房運転の出力を所定値まで下げる,あるいは,冷房運転を停止する等の制御方法を決定する。あるいは,それぞれの区域において,冷房運転がなされており,しかも,仮に,いずれの区域でも室温が適正温度を上回っているとした場合,適正温度との差が小さい区域の電気機器200(エアコン)から運転を停止するように制御対象の選択及び制御方法を決定することもできる。さらに,制御内容決定部140は,各電流値情報を参照して,消費電力の大きい割には室内環境制御に貢献していない電気機器(例えば,液晶テレビ,洗濯機等)を選択し,それらの運転を停止したり出力を弱めたりするように制御内容を決定することもできる。」

イ 当審拒絶理由で引用された特開2006-345662号公報(上記第3の「引用文献3」)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0030】
さて電流値監視制御装置2は,図2(b)に示すように遠隔監視制御装置1のL-IF13との間で制御/監視の情報信号を授受する情報送受信ブロック20と,CPUブロック21と,JEM-AIF22…,電流検知手段たる電流検知ブロック23とを備えたものである。
【0031】
CPUブロック21は情報送受信ブロック20を通じて制御要求の信号を遠隔監視制御装置1から受け取ると,JEM-A規格の運転制御信号をJEM-AIF22…を通じて各JEM-AIF22に接続されている接続線H3上に送出させ,IFU33と同じ機能を持つIFU33’を介して接続線H3に接続されているJEM-A規格の電気機器50を制御する機能と,各電気機器50からJEM-A規格の運転モニタ信号をIFU33’,JEM-AIF22を通じて受け取ると対応する電気機器50の監視情報の信号として情報送受信ブロック20から信号線H2を介して遠隔監視制御装置1へ送出させる機能とを備えるとともに,電流検知ブロック23の検知電流値が予め設定している電流値を越えたときに電力量超過信号を監視情報の信号として情報送受信ブロック20から信号線H2を介して遠隔監視制御装置1へ送出させる機能を備えている。つまりCPUブロック21は監視制御手段と電流値監視手段とを構成する。
【0032】
電流検知ブロック23は電流値監視制御装置2の配下にある電気機器50…が接続される電源線7に流れる電流をCTなどの電流検知センサ23aにより検知してA/D変換した上でCPUブロック21へ送る機能を有するものである。上述の設定電流値は電気機器50…の全使用電力量が省エネルギー化のために定めた所定の電力量を越えるような使用電力量に対応する電流値に対応して設定される。
【0033】
ここで本発明の特徴であるデマンド制御について説明する。まず遠隔監視制御装置1の記憶部17には遠隔監視制御装置1の直接的な配下にある電気機器40…の内,デマンド制御の対象となるものと,そのデマンド制御時に切断の優先順位の設定内容を記憶させてある。
【0034】
CPUブロック11のデマンド制御機能は電流値監視制御装置2から上述の電流量超過信号がL-IF13に送られてくると,記憶部17に記憶されている設定内容に基づいて最も切断優先順位の高い電気機器に対してIFU33と接続線H1を介して接続されているJEM-AIF12から通電を切断するための運転制御信号を送出させ,当該.電気機器において通電を切断させるデマンド制御を行う。」

ウ 例えば上記ア,イによれば,次の技術事項は周知技術(以下「周知技術2」という。)と認められる。
「電力の使用量に上限となる制限値を設定して制限値以上になった場合に電力の使用量が低減されるようにすること。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明において,通信装置は,協力要請情報を需要家に提示することやデマンド調整装置に通知することを行い,パソコンなどで構成されるものであり,デマンド調整装置は,電力デマンド制御の要請を受け,要請に協力するか否か判断する等を行うものである。また,引用文献1の図1において,需要家装置12は複数存在している。
他方で,周知例1(上記第4の2(1)ア(ア)の段落【0014】)に記載されているように,「需要家」とは住戸を含む概念である。
そうすると,引用発明において,需要家の需要家装置が含む,通信装置及びデマンド調整装置からなる部分は,「住宅情報盤」といえるものであり,当該部分と,本願発明の「集合住宅の住戸ごとに配置され」る「住宅情報盤」とは,「住戸ごとに配置され」る「住宅情報盤」という点で一致する。
(2)引用発明の「通信網」と,本願発明の「構内通信網」とは,「通信網」という点で一致する。
(3)引用発明は,デマンド調整装置において,電力デマンド制御装置から協力要請情報を含む電力デマンド制御の要請を受け,需要家によって設定される判断基準に従って要請に協力するか否か判断するものであるから,住戸において要請に協力するか否かの選択が可能であり,要請に協力することを選択するのは,少なくとも,電力デマンド制御装置から電力デマンド制御の要請を受けた場合においてであるといえる。
(4)引用発明において,需要家装置と電力デマンド制御装置とは通信網を介して接続されているといえるから,引用発明の「電力デマンド制御装置」は,需要家の備える装置群である需要家装置からみて「外部」のものといえ,本願発明の「外部の管理装置」に相当する。
(5)引用発明は,電力デマンド制御の要請に協力すると判断した場合,電力デマンド機器の電力消費を調整するものであるところ,電力は単位時間当たりのエネルギーの量であるから,電力消費の調整は,要請に協力することを選択している期間において行われるものであるといえる。ここで,電力は資源の一種である。
また,引用発明の電力デマンド制御は節電等のものであるから,引用発明における,上記(3)の要請に協力しないことの選択は,住戸における資源の使用量を制限しない通常モードを選択することであり,同じく電力デマンド制御装置から電力デマンド制御の要請を受けた場合における要請に協力することの選択は,上記(4)の外部の管理装置から資源の使用量の低減を要請された場合に,住戸における資源の使用量を制限する制限モードを選択することであるといえ,さらに,引用発明における電力消費の調整は,資源の使用量の低減であるといえる。
(6)引用発明のデマンド調整装置は,節電等の電力デマンド制御の要請に協力すると判断した場合に電力デマンド機器の電力消費を調整するものであるから,電力デマンド機器の動作状態を指示する手段を備えていることが明らかであり,当該手段を「指示部」と称することは任意である。また,引用発明の「電力デマンド機器」は,本願発明の「資源を消費する設備機器」に相当する。
(7)引用発明の「電力供給システム」は,電力消費を調整することが行われるものであるから,本願発明の「資源管理システム」に相当する。
(8)そうすると,本願発明と引用発明とは,
「住戸ごとに配置され,通信網に接続された住宅情報盤を備え,
前記住宅情報盤は,
前記住戸における資源の使用量を制限しない通常モードと,前記住戸における前記資源の使用量を制限する制限モードとの選択が可能であり,外部の管理装置から前記資源の使用量の低減を要請された場合に前記制限モードを選択するモード選択部と,
前記モード選択部が前記制限モードを選択している期間において,前記資源の使用量が低減されるように,前記資源を消費する設備機器の動作状態を指示する指示部とを備える
資源管理システム。」
という点で一致している。
(9)また,両者は以下の点で相違する。
(相違点1)「住戸」が,本願発明では「集合住宅の住戸」であって,「資源管理システム」が「集合住宅の」ものであるのに対し,引用発明1では,「需要家」及び「電力供給システム」に関してそれらの特定がない点。
(相違点2)一致点の「通信網」に関し,本願発明では「デジタル信号を伝送する」ものであり,かつ「構内通信網」であるのに対し,引用発明では「通信線」の信号形式が特定されず,種類が「構内通信網」であるとの特定もない点。
(相違点3)本願発明では,「住宅情報盤」が「前記構内通信網を介してロビーインターホンと通信する」ものであるのに対し,引用発明では,「通信装置」等に関してその特定がない点。
(相違点4)「制限モード」に関し,本願発明では,「前記住戸における前記資源の使用量に上限となる制限値が設定される」ものであり,かつ,当該モードを選択している期間における「前記資源の使用量が低減される」ことが,「前記資源の使用量が前記制限値以上になった場合に」行われるものであるのに対し,引用発明では,「要請に協力する」こと及び「電力消費を調整する」ことに関してそれらの特定がない点。

2 判断
(1)まず,相違点1?3について判断する。
上記第4の2(1)ウのとおり,「住宅情報盤を集合住宅の住戸ごとに配置し,デジタル信号を伝送する構内通信網に接続して,住宅情報盤が当該構内通信網を介してロビーインターホンと通信すること。」は周知技術(周知技術1)である。
そして,引用発明の資源管理システムが具体的にどのような形態の需要家を対象とするものとするかは適宜決定することであり,他方で,通信装置等の通信設備が果たす機能を高度化することは一般に追求されることであるから,引用発明に周知技術1を適用して,住宅情報盤を配置する対象を集合住宅の住戸ごととして,集合住宅の電力供給システムとするとともに,住宅情報盤をデジタル信号を伝送する構内通信網に接続し,これを介してロビーインターホンと通信する機能を追加することは,当業者が容易に想到し得ることである。
(2)次に,相違点4について判断する。
上記第4の2(2)ウのとおり,「電力の使用量に上限となる制限値を設定して制限値以上になった場合に電力の使用量が低減されるようにすること。」は周知技術(周知技術2)である。
そして,引用発明において,電力デマンド制御の要請に協力する場合における,電力デマンド機器の電力消費を調整することの具体的な内容に関し,周知技術2を適用して,制限モードで,住戸における資源の使用量に上限となる制限値が設定されるものとするとともに,資源の使用量が当該制限値以上になった場合に資源の使用量が低減されるものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
(3)本願発明の作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる程度のものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-21 
結審通知日 2018-12-25 
審決日 2019-01-15 
出願番号 特願2013-18871(P2013-18871)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤江 大望寺谷 大亮  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 衣鳩 文彦
富澤 哲生
発明の名称 集合住宅の資源管理システム  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  

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