• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1349419
審判番号 不服2018-4394  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-03 
確定日 2019-02-28 
事件の表示 特願2013-174863「吸水処理材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日出願公開、特開2015- 42155〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月26日の出願であって、平成28年11月22日付け(発送日:平成28年11月28日)で拒絶理由通知がされ、平成29年1月25日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年5月25日付け(発送日:同年5月30日)で拒絶理由通知がされ、同年7月26日に意見書が提出され、同年12月27日付け(謄本送達日:平成30年1月4日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は、平成29年1月25日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
粒状芯部と、
前記粒状芯部を覆う被覆層部と、を備え、
前記被覆層部は、
接着性材料と非接着性材料との混合物によって構成された第1の被覆層と、
前記第1の被覆層を覆い、接着性材料を含まない第2の被覆層と、
を有することを特徴とする吸水処理材。
【請求項2】
請求項1記載の吸水処理材において、
前記第1の被覆層に含まれる前記接着性材料は、吸水性ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルアミド、ポリアクリルアミド、又は澱粉である吸水処理材。
【請求項3】
請求項2に記載の吸水処理材において、
前記第1の被覆層は、前記吸水性ポリマーを含み、
前記吸水性ポリマーの粒度は、20μm以上100μm以下である吸水処理材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の吸水処理材において、
前記第2の被覆層は、有機繊維材料のみを含む吸水処理材。
【請求項5】
請求項4に記載の吸水処理材において、
前記有機繊維材料は、着色されている吸水処理材。
【請求項6】
粒状芯部を形成する工程と、
前記粒状芯部を覆う被覆層部を形成する工程と、を備え、
前記被覆層部を形成する工程は、
前記粒状芯部を覆うように、接着性材料と非接着性材料との混合物によって構成された第1の被覆層を形成する工程と、
前記第1の被覆層を覆うように、接着性材料を含まない第2の被覆層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする吸水処理材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の吸水処理材の製造方法において、
前記第2の被覆層を形成する工程は、前記第1の被覆層に対して、カルボキシメチルセルロースの希釈液又はポリビニルアルコールの希釈液を加える工程を含む吸水処理材の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の吸水処理材の製造方法において、
前記第1の被覆層に含まれる前記接着性材料は、吸水性ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルアミド、ポリアクリルアミド、又は澱粉である吸水処理材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の吸水処理材の製造方法において、
前記第1の被覆層は、前記吸水性ポリマーを含み、
前記吸水性ポリマーの粒度は、20μm以上100μm以下である吸水処理材の製造方法。
【請求項10】
請求項6乃至9の何れかに記載の吸水処理材の製造方法において、
前記第2の被覆層は、有機繊維材料のみを含む吸水処理材の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の吸水処理材の製造方法において、
前記第2の被覆層を形成する工程は、前記有機繊維材料を着色する工程を含む吸水処理材の製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定(平成29年12月27日付け拒絶査定)の理由は次のとおりである。

本願請求項1ないし2、4、6、8、10に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項2ないし4、8ないし10に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項5、11に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項7ないし11に係る発明は、以下の引用文献1ないし6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧
1.特開平9-313060号公報
2.特開平9-23776号公報
3.特開2004-73190号公報 (周知技術を示す文献)
4.特開平5-328866号公報 (周知技術を示す文献)
5.特開2005-40048号公報 (周知技術を示す文献)
6.特開2012-170379号公報 (周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペットなどからの排泄物(主に尿)を処理するために用いられる粒状の排泄物処理材に係り、特に尿などを吸収したときに塊を形成できるようにした排泄物処理材に関する。」

(2)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記特開平7-184502号公報に記載されたものでは、外殻部が水分を吸収しやすく、またわずかな水分でも粘着性を呈するものとなっているため、高温多湿となる季節や、または密閉度の高い室内で使用されていると、外殻部が空気中の水分を吸収し、尿を吸収していない状態でも粒子どうしが互いに粘着し合い、ブロッキングする問題点がある。
【0008】
そこで、前記外殻部を吸水性ポリマーとパルプの混合物で構成することも考えられている。外殻部にパルプを混入することにより、粘着性物質の密度が低くなり、粘着性を下げ空気中の水分によるブロッキングを防止できる。しかしこの場合には、逆に外殻部の粘着性が低下しすぎて、尿によって粒子どうしが塊を形成しにくくなり、また猫が触れたり、除去しようとしたときに塊がすぐに崩れてしまい、排泄物を塊として取り除きにくくなる。
【0009】
すなわち、この種の排泄物処理材では、外殻部に水分を吸収しやすく且つ粘着性を呈しやすい材料を使用すると、ブロッキングが発生しやすく、またブロッキングを発生させないためには、粘着性を低下させるかまたは吸水性を低下させる必要があり、その結果、尿により塊を形成できずあるいは尿の吸収が低下するものとなる欠点がある。
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、排泄物の水分を吸収しやすく且つこの水分によって塊が形成されやすく、さらに空気中の水分などではブロッキングを発生しにくく、さらに全体の重量を低減できるようにした排泄物処理材を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の排泄物処理材は、コアと、コアの表面を覆う外殻層とを有し、前記外殻層は水分を吸収すると粘着性を呈する材料により形成され、且つこの外殻層の表面には、外殻層どうしの粘着を防止し且つ尿によって外殻層の表面から流れる繊維状または粉状のブロッキング防止材が付着していることを特徴とするものである。」

(3)「【0025】
【発明の実施の形態】
以下本発明を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の排泄物処理材の外観図である。排泄物処理材は円柱形状の粒状体であり、室内で飼われている動物、例えば猫のトイレの砂としてトイレ用の容器に敷かれて使用される。
【0026】
図2はこの粒子の断面図である。この粒子の中心部または内殻部(コア1)は例えばパルプや木屑などの吸水性物質とスターチの混合物により造粒される。スターチは水分を吸水して膨潤し粘着性を呈するので、パルプや木屑をつなげるバインダーとして使用されている。このように、コアをパルプや木屑で形成しているので、処理材の粒径および粒長を大きくでき、しかも比重を小さくできる。本発明では排泄物処理材の粒子の径dおよび粒子の長さLを4mm好ましくは5mm以上にすることが望ましい。粒子をこのように大きくすることにより、猫の爪に処理材が入ることを防止でき、処理材が室内に散らばるのを防止できる。また、処理材の稿比重は0.5g/cm^(3)以下さらには0.4g/cm^(3)以下と小さくすることが好ましい。このように比重を小さくすることにより、この処理材が袋などに積められて製品となったときに、この製品の重量を軽くできる。このため、製品を運搬などするときに扱いやすくなる。
【0027】
このコア1の外側には、ポリアクリル酸塩などの高吸水性ポリマー(SAP)、スターチ、ベントナイトのうちのいずれか1つ、または2つ以上の混合物から成る外殻層2が形成されている。SAP、スターチ、ベントナイトは吸水性で、水を吸うことにより膨潤し粘着性を呈するものである。したがって、処理材に尿が与えられると、処理材の外殻層2がこれの水分を吸水し膨潤して粘りを生じ、処理材の粒子どうしが結合する。これにより、処理材が尿を含んで固まる。このため、尿により汚れた処理材を塊として取り出し廃棄できる。
【0028】
そして、外殻層2の表面にはブロッキング防止材3がまんべんなく付着している。図3は、粒子表面の拡大断面図である。図3では、ブロッキング防止材3として長さ1mm以下のパルプなどのセルロース繊維が外殻層2の表面に付着しているものを示しているが、カオリンなどの無機塩の粉末が付着しているものであってもよい。パルプやカオリンは水に濡れ易く、多量の水分が与えられると、外殻層2の表面から流されやすくなる。あるいは外殻層2に多量の水分が含まれ膨潤することにより、パルプやカオリンが外殻層2から取れやすくなる。よって、処理材に排泄物の多量の水分が与えられると、ブロッキング防止材3が外殻層2から離れて流され、水分を含んで粘着性を呈した外殻層2どうしが互いに粘着し塊を形成できる。ただし、空気中の水分程度ではブロッキング防止材3が外殻層2の表面から取れることがなく、空気中の水分で外殻層2が粘着性を呈しても、外殻層2どうしの粘着がブロッキング防止材3で防止され、ブロッキングが生じなくなる。」

(4)「【0032】
【実施例】次に、本発明の排泄物処理材の各実施例について以下に示す実験を行い、比較例と比較した。表1はこの実験に使用した排泄物処理材のサンプルの成分配合表である。以下の検査では、排泄物処理材は猫のトイレ用の猫砂として使用されることを想定している。この表1では、コア1の重量を100としたときの重量比(重量部)で他の材料の重量を表している。

【0033】
【表1】

【0034】
この全サンプルにおいて、コア1は木屑、スターチ、パルプを混合比63:24:13(重量%)で混合したものである。この混合物は加圧成形などで円柱形状に成形されて、これによりコア1が形成される。前記スターチはパルプおよび木屑をつなげるための糊剤として機能する。
【0035】
また、外殻層2は各サンプルごとに材料を変え、または材料の混合比を変えて形成した。比較例1では、外殻層2をSAP(高吸水性ポリマー)で形成し、その重量比はコアの重量を100としたとき31とした。また、比較例2および3では外殻層2をSAPとパルプの混合物で形成し、コアの重量を100としたときに、比較例2ではSAPの重量を31、パルプの重量を13とし、比較例3の外殻層2ではSAPの重量を66、パルプの重量を41の比で混合した。また、比較例4では、外殻層2としてSAPとパルプとスターチを同量づつ混合して形成し、その重量比はコアの重量を100としたときにそれぞれ30とした。」

(5)「【0044】
以上の測定結果および検査結果を以下の表2に示す。
【0045】
【表2】


【0046】
表2に示されている測定結果及び検査結果について、各例ごとに説明する。
(ゼオライト)表2に示されているように、ゼオライトで形成された粒子の稿比重は0.8g/cm^(3)であり、非常に重いものになる。また、粒径を2ないし5mmの大きさに形成でき、猫の爪の間には入りにくいことが確認できた。ただし、ゼオライトは吸水して粘性を帯びる性質を持たないため、吸湿ブロッキング検査ではブロッキングしないが、人工尿を用いた検査でも全く固まらなかった。
【0047】
(ベントナイト)ベントナイトで形成された粒子の径は2mm程度であり、しかも稿比重が1.0g/cm^(3)以上と本発明で設定された値の2倍である。したがって、猫の爪の間に入り込みやすく、しかも比重が重くて取扱いにくいものであることが確認できた。また、人工尿により固まり、その固まり強度も607gfと大きいが、気温25℃、相対湿度75%の環境下では、尿が滴下されなくても空気中の水分を吸湿してブロッキングする。ブロッキング状態では粒子がシャーレ形状に固まってしまい、容易に崩すことができないことが確認できた。
【0048】
(比較例1)コア1がパルプと木屑とスターチの混合物により形成されているため、稿比重が0.268g/cm^(3)と軽く、粒径も6mm以上と大きく形成できる。よって猫の爪の間に入りにくい。しかし、外殻層2の表面にブロッキング防止材が設けられていないため、吸湿ブロッキング検査で示されたように、高湿度下に置かれると外殻層が空気中の湿気を吸って粘性を帯び、ブロッキングしてしまう。また、固まり強度の検査では、人工尿により塊を形成することが確認されたが、この塊の固まり強度は215gfと余り大きくなく崩れ易いことが確認できた。すなわち、外殻層としてSAPを使用しているが、このSAPの重量比が31と比較的少ないために、人工尿による固まりが不十分であり、処理材を部分的に廃棄しようとしたときに、崩れやすく取扱上不便である。しかも、SAPの量が少ないのにもかかわらず、ブロッキング防止材が用いられていないために高温多湿時にブロッキングを起こしやすく、商品として好ましくないことが確認できた。
【0049】
(比較例2)比較例2も比較例1と同様に稿比重が0.243g/cm^(3)と軽く、また粒径が6.5mm、粒長を13.3mmと大きくでき、猫の爪に挟まりにくい。しかし比較例2では、外殻層のSAPの量が重量比で31と少なく、さらに外殻層に粘着材として機能していないパルプが重量比で13だけ含まれているため、尿による固まりの強度が175gfときわめて弱くなり、排尿後に塊を持ち上げたときに崩れやすくなり取り扱いにくいものとなる。また尿による固まり強度が弱いのにもかかわらず、高温多湿環境下ではブロッキングを生じてしまい、使用に適さないことが確認できた。
【0050】
(比較例3)比較例3は、比較例2よりも外殻層のSAPの量を多くしているが、これに伴いパルプの含有量も多くしている。外殻層にパルプを多く含むために、高温多湿時でのブロッキングが生じなくなるが、外殻層に含まれるパルプの量が多すぎるために、人工尿が滴下されたときの固まり強度が225gfと弱いものになり、排尿後に処理材を固めて捨てようとしたときに崩れやすくなり、固めて捨てる排泄物処理材としてはきわめて品質の劣るものとなることが確認できた。
【0051】
(比較例4)比較例4の外殻層は、外殻層にSAPと共にパルプとスターチを含めたものである。粘着材として機能するものが重量部30のSAPと重量部30のスターチであり、粘着材そのものが多くなっている。しかし外殻層にパルプが30重量部含まれているために、外殻層の粘着性が低下し、高温多湿の環境下でブロッキングを起こしにくい反面、人工尿による固まり強度が125gfと非常に弱いものとなり、塊が崩れやすく、固めて捨てる排泄物処理材としては不適である。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「ペットなどからの排泄物(主に尿)を処理するために用いられる、粒状であり、尿などを吸収して塊を形成する、排泄物処理材であって、
猫が触れたり、除去しようとしたときに塊がすぐに崩れてしまい、排泄物を塊として取り除きにくくなることを解決するために、
コア1と、コア1の表面を覆う外殻層2とを有し、外殻層2は水分を吸収すると粘着性を呈する高吸水性ポリマー(SAP)、スターチ、ベントナイトのうちのいずれか1つ、または2つ以上の混合物から成る粘着性物質により形成され、
且つこの外殻層2の表面には、外殻層2どうしの粘着を防止し且つ尿によって外殻層2の表面から流れるパルプなどのセルロース繊維からなる、外殻層2どうしの粘着を防止するブロッキング防止材3がまんべんなく付着しており、
排泄物処理材に尿が与えられると、外殻層2がこれの水分を吸水し膨潤して粘りを生じ、排泄物処理材の粒子どうしが結合し、これにより、排泄物処理材が尿を含んで固まる、排泄物処理材。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、以下のことが記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペットなどの動物の排泄物用処理材に関する。さらに詳しくは、猫や犬など動物の排泄物を簡便に効率よく処理できる処理材に関するものである。」

(2)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし1?4(審決注:「1」、「4」は、原文では丸数字。)の吸水性樹脂と無機物系粒子や製紙カス、パルプ等天然有機物、パルプ等のフィラ材などとの造粒物は、吸水性樹脂により排泄物用処理材の吸水力は改善されているが、吸水性樹脂に対してかなり多量の無機物、有機物、製紙カス、フィラ材などを用いているため、吸水性樹脂同士の緊密な接触が阻害され接着力が低下して、排泄物処理用基材が吸尿後団子状に固まらなかったり、固まった場合でも固まった部分の崩壊が生じやすく団子状の形状が保持しにくいという問題点があった。
【0006】
また、5(審決注:「5」は、原文では丸数字。)の排泄物処理用基材の表面に吸水性樹脂をまぶしたものに関しては、吸水性樹脂が基材表面にあるため、吸水性樹脂を有効利用でき吸水性樹脂の膨潤倍率も比較的低く押さえられまた樹脂同士の接触点も多いため、固まり性にしては良好な結果をあたえるものの、排泄物基材表面に吸水性樹脂をまぶしているため、排泄物処理用基材表面から吸水性樹脂が脱落しやすく、飼育箱や便器の底に吸水性樹脂がたまったり、脱落した吸水性樹脂がペットの足や毛に付着して吸水性樹脂を部屋中にまきちらすなどの問題が発生した。
【0007】
本発明者らは、この吸水性樹脂等の排泄物からの脱落を防止する方法として、吸水性樹脂をまぶす際に多量の水を添加したりバインダーを添加するなどの方法も検討したが、多量の水を添加すると、排泄物用処理材成型時に吸水性樹脂同士が合着してしまい、吸水性樹脂の比表面積が小さくなるため、吸水速度が極端に低下し、排泄物用処理材の吸収倍率の低下が起こった。また、バインダーを添加して吸水性樹脂の脱落を防止する方法についても、バインダーが吸水性樹脂の吸収を阻害するため、吸収速度や吸収力が低下したり、バインダーが吸水性樹脂同士の接触を阻害し、粘着力が低下するなどの問題点があった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記に示したような吸水性樹脂を使用したものの問題点を改善するために鋭意検討を行った結果、排泄物処理基材の表面が、吸水性樹脂と特定繊維長の繊維状物質との特定比率の複合体により被覆された排泄物用処理材は、吸水とともに容易には形が崩れにくい粘着性良好な団子を形成すること、吸水性樹脂の脱落がほとんど起こらないこと、及び吸水速度が速いことを見いだし本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、無機質粉末、有機質単繊維、セルロース質粉砕物及びこれらの造粒物から選ばれる一種以上の排泄物処理用基材(A)100重量部及び下記の吸水性樹脂/繊維複合体(B)5?300重量部からなり、基材(A)の表面が複合体(B)により被覆されてなるペットの排泄物用処理材;並びに無機質粉末、有機質単繊維、セルロース質粉砕物及びこれらの造粒物から選ばれる一種以上の排泄物処理用基材(A)100重量に、水3?200重量部及び下記の吸水性樹脂/繊維複合体(B)5?300重量部を添加し、基材(A)の表面を複合体(B)により被覆し、必要により加熱乾燥することを特徴とするペットの排泄物用処理材の製法である。
吸水性樹脂/繊維複合体(B):吸水性樹脂微粉末(1)50重量%を越え95重量%以下、平均繊維長50?2,000ミクロンの繊維状物質(2)5重量%以上、50重量%未満及び必要により親水性熱可塑性物質(3)10重量%以下を混合した複合体。」

(3)「【0013】
吸水性樹脂微粉末(1)は、純水に対する吸水性能として少なくとも50ml/g以上、好ましくは100?1,000ml/gのものが適している。また、該吸水性樹脂微粉末(1)の平均粒径は通常400ミクロン以下、好ましくは1?150ミクロンである。吸水性樹脂の粒径が平均粒径が400ミクロンを超えると、ペットの尿など吸水速度が遅くなり、ペットの排泄物用処理材の吸収倍率が低下したり、ひどい場合は尿が排泄物用処理材を通過して飼育箱や便器の底を汚すといった問題がある。
【0014】
本発明に使用する繊維状物質(2)の平均繊維長は、通常50?2,000ミクロン、好ましくは平均繊維長100?1,000ミクロン、更に好ましくは、200?800ミクロンである。平均繊維長が50ミクロン未満では、繊維によるマトリックス化は期待できず吸水性樹脂微粉末(1)の脱落が多くなる。一方、平均繊維長が2,000ミクロンを越えると、吸水性樹脂と繊維状物質(2)の均一な混合が困難となり吸水性樹脂微粉末(1)と繊維状物質(2)が分離したり、基材(A)の表面の複合体(B)による被覆が困難となったり、複合体(B)の流動性が低下して、作業性が極端に低下するなどの問題点が起こる。
【0015】
また、繊維状物質(2)の平均繊維長が50?2,000の範囲であっても、繊維長30ミクロン以下の含量が多すぎると、部分的に繊維によるマトリックス化が困難となり吸水性樹脂微粉末(1)が脱落したり、繊維自体が脱落したりする場合がある。従って、繊維状物質中(2)の繊維長30ミクロン以下のものの含量は、30重量%以下が好ましく、更に好ましくは20重量%以下である。繊維状物質(2)の繊維の太さに関しては特に限定はないが、通常0.1?100ミクロン、好ましくは1?50ミクロンである。
【0016】
本発明に使用する繊維状物質(2)の組成は、通常一般に使用されている繊維の組成と同じ物が使用できるが、好ましいものは、尿の吸収を補助できる親水性繊維、並びに、比較的低温の加熱で繊維マトリックスの形成が可能な熱可塑性繊維である。親水性繊維の例としては、セルロース繊維、レーヨン繊維などが、熱可塑性繊維の例としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維などがあげられる。これらの繊維の中で特に好ましいものとしては、親水性繊維としてはセルロース繊維、熱可塑性繊維としては、ポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維である。これらの繊維は、単独で用いても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0017】
本発明で用いる吸水性樹脂/繊維複合体(B)は、吸水性樹脂微粉末(1)、繊維状物質(2)及び必要により親水性熱可塑物質(3)が混合された複合体である。即ち、複合体(B)には、吸水性樹脂微粉末(1)、繊維状物質(2)を含有し、(1)と(2)を更に複合一体化する目的で、必要により親水性熱可塑物質(3)を含有させても良い。
【0018】
親水性熱可塑性物質(3)は、基本的に親水性の物質であり、かつ室温では固体であるが、100℃程度の加熱で液状となる物質が好ましく、乾燥などの工程を経ることにより、吸水性樹脂微粉末(1)と繊維状物質(2)をより一層一体化させ、吸水性樹脂微粉末(1)等の脱落を更に防止するのに効果がある。この様な物質(3)の例としては、平均分子量3,000以上のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールのウレタンジョイント化合物、ポリエチレングリコールのエステルジョイント化合物などを例示することができる。
【0019】
複合体(B)の作成方法を例示すると、吸水性樹脂微粉末(1)と繊維状物質(2)及び必要により親水性熱可塑化合物(3)を用い、通常の混合機で混合する方法、混合時に少量の水を添加して複合体を作成する方法、混合後加熱して複合体を作成する方法などをあげることができる。
【0020】
該複合体(B)中の吸水性樹脂微粉末(1)の含量は、通常50重量%を越え95重量%以下、好ましくは、60?90重量%、更に好ましくは70?90重量%である。吸水性樹脂微粉末(1)の含量が50%以下[繊維状物質(2)の含量が50重量%以上]では、ペットの尿を吸収したときに団子状にならなかったり、団子状となっても粘着性が低く容易に団子が壊れてしまう。一方、吸水性樹脂微粉末(1)の量が95重量%を越えると[相対的に繊維状物質(2)の量が5重量%未満となると]、繊維状物質(2)によるマトリックス化の効果が乏しくなり、該基材(A)を複合体(B)で被覆した際に、基材からの吸水性樹脂微粉末(1)等のの脱落が多くなる。親水性熱可塑性物質(3)を使用する場合、複合体(B)中のその含量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。含量が、10重量%を越えると(3)の量が多すぎて、尿を吸収したときの粘着性が低下したり、吸水速度が低下したりする。」

(4)「【0037】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、%は重量%を示す。・・・
【0041】実施例-1・・・平均繊維長200ミクロンの市販のセルロース繊維(商品名:ARBOCELBC-200、J.RETTENMAIER&SOHNE GMBH CO製、繊維直径:20ミクロン、繊維長30ミクロン以下含量:15%)100gと、「サンウェット IM-5000MPS」(三洋化成工業株式会社製品、架橋ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、平均粒径:35ミクロン)を均一に400gを混合し、吸水性樹脂/繊維複合体(B1)を得た。・・・
【0043】実施例-2・・・平均繊維長700ミクロンの市販のセルロース繊維(商品名:ARBOCELBC-1000、J.RETTENMAIER&SOHNE GMBH CO製、繊維直径:20ミクロン、繊維長30ミクロン以下含量:7%)75gと、「サンウェット IM-1000MPS」(三洋化成工業株式会社製品、デンプン-ポリアクリル酸(塩)グラフト系吸水性樹脂、平均粒径:35ミクロン)425gを均一に混合し、吸水性樹脂/繊維複合体(B2)を得た。・・・
【0045】実施例-3・・・平均繊維長700ミクロンの市販のセルロース繊維(商品名:ARBOCELBC-1000、繊維直径:20ミクロン、繊維長30ミクロン以下の含量:7%)100gと、「サンフレッシュ ST-100」(三洋化成工業株式会社製品、デンプン-ポリアクリル酸(塩)グラフト系吸水性樹脂、平均粒径:550ミクロン)を粉砕して平均粒径60ミクロンとしたもの390g、及び粉末状のポリエチレングレコール6000(三洋化成工業製品、融点60?70℃)を均一に混合し、吸水性樹脂/繊維複合体(B3)を得た。・・・
【0047】実施例-4 平均繊維長500ミクロンの市販のポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維(商品名:ES繊維、繊維直径:5ミクロン、チッソ株式会社製)と50gと「サンウェット IM-1000MPS」450gを均一に混合し、吸水性樹脂/繊維複合体(B4)を得た。・・・」

(5)「【0056】
【発明の効果】
(1)基材の表面を相対的に多量の吸水性樹脂微粉末と特定繊維長を有する相対的に少量の繊維状物質との複合体で被覆することにより、排泄物用処理材の表面に多量の吸水性樹脂微粉末を配置できる。従って、
1(審決注:「1」は、原文では丸数字。)吸水性樹脂を有効利用でき、吸尿時の吸水性樹脂同士の接触点を非常に多くできることから、吸尿時接着力の非常に強いゴム状のダンゴを形成できる。同時に、
2(審決注:「2」は、原文では丸数字。)特定繊維長の繊維状物質が、相対的に少量の添加で効率的なマトリックス構造を処理材表面に形成するため、排泄物用処理材からの吸水性樹脂粉末等の脱落が殆ど起こらないという効果をともに発揮する利点がある。従来、この何れについても十分に満足するものはなかったが、本発明は両者を十分にかつ同時に改善するものである。更に、
3(審決注:「3」は、原文では丸数字。)繊維の毛細管現象を利用することにより、吸水性樹脂単独で被覆した場合より、吸水性樹脂が均一にかつすばやく尿を吸収できるため、吸収速度及び吸収倍率にも優れている。」

したがって、上記引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「排泄物処理材において、基材の表面を、相対的に多量の吸水性樹脂微粉末と特定繊維長を有する相対的に少量の繊維状物質との複合体で被覆することにより、排泄物用処理材は、吸水とともに容易には形が崩れにくい粘着性良好な団子を形成し、排泄物用処理材からの吸水性樹脂粉末等の脱落が殆ど起こらず、吸水性樹脂単独で被覆した場合より、吸水性樹脂が均一かつすばやく尿を吸収できるため、吸収速度及び吸収倍率にも優れる。」

第5 対比・判断
1 対比
(1)引用発明1の「尿などを吸収して塊を形成する排泄物処理材」は、水分である尿を吸収して処理するものであるから、本願発明1の「吸水処理材」に相当する。

(2)引用発明1の排泄物処理材は「粒状」であるから、その「コア1」も粒状と解される。
よって、引用発明1の「コア1」は、本願発明1の「粒状芯部」に相当する。

(3)引用発明1の「コア1の表面を覆う外殻層2」及び「外殻層2の表面に」「まんべんなく付着している」「ブロッキング防止材3」よりなる層は、「コア1」を覆う層であるから、本願発明1の「粒状芯部を覆う被覆層部」に相当する。
そして、本願明細書の、第2の被覆層は第1の被覆層の表面に「付着」させて形成する旨の記載(「【0036】次に、被覆層22を覆うように被覆層24を形成する(図2(c))。被覆層24の形成は、コーティング装置等を用いて、接着性材料を含まない第2の被覆材料(被覆層24を構成する材料)を被覆層22の表面に付着させることにより行われる。第2の被覆材料の付着は、例えば、散布又は噴霧により行うことができる。このとき、第2の被覆材料が被覆層22に付着し易くするため、第2の被覆材料を付着させる前に、被覆層22に加水してもよい。」)を参照して、
引用発明1の「外殻層2の表面に」「まんべんなく付着している」「ブロッキング防止材3」は、本願発明1の「第1の被覆層を覆」う「第2の被覆層」に相当し、
引用発明1の「外殻層2」は、本願発明1の「第1の被覆層」に相当する。

(4)本願明細書の、被覆層部の接着性材料は、使用時に塊状化機能を発揮するためのものである旨の記載及び該接着性材料はべたつくものである旨の記載(「【0006】この吸水処理材においては、被覆層部が第1の被覆層及び第2の被覆層を有している。これらの被覆層のうち第1の被覆層が接着性材料を含んでいるため、被覆層部は、使用時に塊状化機能を発揮することができる。他方、第1の被覆層の外側に位置する第2の被覆層は接着性材料を含んでいないため、吸水処理材の表面のべたつきを抑えることができる。」)を参照して、
引用発明1の、「排泄物処理材に尿が与えられると」「これの水分を吸水し膨潤して粘りを生じ、排泄物処理材の粒子どうしが結合し、これにより、排泄物処理材が尿を含んで固まる」ものである外殻層2を形成する「水分を吸収すると粘着性を呈する高吸水性ポリマー(SAP)、スターチ、ベントナイトのうちのいずれか1つ、または2つ以上の混合物から成る粘着性物質」は、本願発明1の「第1の被覆層」の「接着性材料」に相当する。
よって、引用発明1において、「外殻層2」が「粘着性物質により形成」される点と、本願発明1において、「第1の被覆層」が「接着性材料と非接着性材料との混合物によって構成」される点とは、「第1の被覆層」が「接着性材料を含む」という点で共通する。

(5)引用発明1の「ブロッキング防止材3」は「粘着を防止」するものであるから、「ブロッキング防止材3」を構成する「セルロース繊維」が非粘着性(非接着性)物質であることは明らかである。
よって、引用発明1の「ブロッキング防止材3」が「セルロース繊維」で構成されることは、本願発明1の「第2の被覆層」が「接着性材料を含まない」ことに相当する。

(6)以上(1)ないし(5)から、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「粒状芯部と、粒状芯部を覆う被覆層部と、を備え、被覆層部は、接着性材料を含む第1の被覆層と、第1の被覆層を覆い、接着性材料を含まない第2の被覆層と、を有することを特徴とする吸水処理材。」

(相違点)
本願発明1は、「第1の被覆層」が、「接着性材料と非接着性材料との混合物によって構成」されているのに対し、引用発明1では、外殻層2が、接着性材料を含むものの、接着性材料と非接着性材料との混合物によって構成されているとはいえない点。

2 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用発明1の「猫が触れたり、除去しようとしたときに塊がすぐに崩れてしまい、排泄物を塊として取り除きにくくなることを解決する」ことと、引用文献2記載事項の、「吸水とともに容易には形が崩れにくい粘着性良好な団子を形成」することは、表現は異なるものの同じことを指すことは明らかであるから、引用発明1と引用文献2記載事項は、共通の課題を有しているといえる。
また、引用発明1においても、排泄物処理材からの粘着性物質の脱落が起こらないようにすることや、排泄物処理材の尿の吸水速度や吸水倍率が優れる方が望ましいことは、当然内在している課題である。

以上のことから、引用発明1において、上記課題に鑑みて、「外殻層2」を、引用文献2記載事項のように、相対的に多量の吸水性樹脂微粉末と特定繊維長を有する相対的に少量の繊維状物質との複合体で形成して、上記相違点に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、以下aないしcのように主張をするので検討する。
a 「このように外殻層の表面にブロッキング防止材を付着させるというブロッキング対策が講じられている主引用発明において、外殻層にパルプを混入させても、外殻層の粘着力の低下を招き、「塊が形成されやすく」する上で不利に働いてしまう。それゆえ、引用文献2に記載された発明(以下「副引用発明」という。)において排泄物処理基材の表面が吸水性樹脂と繊維状物質との複合体により被覆された構成が採用されているとしても、主引用発明において敢えて当該構成を採用する動機に乏しい。むしろ、主引用発明において外殻層にパルプ等の非接着材料を混入することは、上述のとおり外殻層の粘着力の低下を招くため、「塊が形成されやすく、さらに空気中の水分などではブロッキングを発生しにくく」するという目的に反する。それゆえ、主引用発明に副引用発明を適用するには阻害要因がある。したがって、主引用発明において、副引用発明を適用して、外殻層を接着性材料と非接着性材料との混合物によって構成することは、容易でない。」(審判請求書第3頁第13行?25行)。

b 「副引用発明においては、「50重量%を超え95重量%以下」の吸水性樹脂に対し、「5重量%以上、50重量%未満」の繊維状物質が混合されている(引用文献2の段落0009)。ここでは、吸水性樹脂と繊維状物質との重量比が約1:1になる場合(例えば、51重量%の吸水性樹脂と49重量%の繊維状物質とが混合された場合)や、当該重量比が約2:1になる場合(例えば、67重量%の吸水性樹脂と33重量%の繊維状物質とが混合された場合)も想定されている。他方、主引用発明においては、SAPとパルプとの重量比が、1:1である場合は勿論、2:1である場合も、塊の固まり強度が不充分であるとされている(引用文献1の段落0033,0049?0051)。 このように副引用発明においては、主引用発明において許容できない程度の接着力低下を招く量の繊維状物質を添加することが想定されている。」(審判請求書第4頁第9行?19行)

c 「また、「引用文献1に記載された発明において、粘着性物質の脱落を防ぐとともに、吸収速度及び吸収倍率を向上させるために、引用文献2に記載された発明を適用する」という指摘について、「粘着性物質の脱落を防ぐとともに、吸収速度及び吸収倍率を向上させる」ことは、あくまで副引用発明の課題であって、主引用発明の課題ではない。それゆえ、「粘着性物質の脱落を防ぐとともに、吸収速度及び吸収倍率を向上させる」ことは、主引用発明において副引用発明の構成を採用することの動機付けになるものではない。 仮に主引用発明において「粘着性物質の脱落を防ぐとともに、吸収速度及び吸収倍率を向上させる」ことが好ましいにしても、「塊が形成されやすく、さらに空気中の水分などではブロッキングを発生しにくく」するという主引用発明本来の目的を犠牲にしてまで、副引用発明を適用する動機はない。すなわち、主引用発明において副引用発明を適用して繊維状物質を混合させた場合に、外殻層の粘着力の低下を招き、上記目的に反することは、上述のとおりである。」(審判請求書第4頁第24行?第5頁第7行)

まず上記aの主張について検討すると、引用文献2記載事項は、固まり(団子状の形状)が形成されにくいという課題(上記第4の2(2)に摘記した、「【0005】【発明が解決しようとする課題】・・・吸水性樹脂に対してかなり多量の無機物、有機物、製紙粕、フィラ材を用いているため、吸水性樹脂同士の緊密な接触が阻害され接着力が低下して、排泄物処理用基材が吸尿後団子状に固まらなかったり、固まった場合でも固まった部分の崩壊が生じやすく団子状の形状が保持しにくいという問題点があった。」という記載参照。)に対し、「吸水とともに容易には形が崩れにくい粘着性良好な団子を形成」するものであるから、請求人主張のように引用発明1の目的に反するものとはいえない。

次に上記bの主張について検討すると、まず、引用文献1の、【0048】段落には、外殻層のSAPのコア1に対する量が、「比較例2」と同じでかつパルプが含まれていない「比較例1」について、「SAPの重量比が31と比較的少ないために、人工尿による塊が不十分であ」ると記載されており、「比較例1」及び「比較例2」については、そもそも粘着材のコア1に対する絶対量が少ないものと認められる。
また、引用文献1の、【表2】では、粘着性物質を実施例1等と同程度とした「比較例3」及び「比較例4」について、粘着性物質とパルプとの比が、「66:41」(比較例3)または「60:30」(比較例4)とした場合、塊の固まり具合が△という結果が示されているが、パルプの粘着性物質に対する比がそれよりも小さい場合においても塊の固まり具合が悪いというものを示してはいない。
加えて、引用文献2記載事項は、そもそも「相対的に多量の吸水性樹脂粉末」に「相対的に少量の繊維状物質」を複合させることにより、吸水性樹脂粉末等の脱落が殆ど起こらず、また吸収速度及び吸収倍率にも優れるという効果を奏するというものであり(上記第4の2(5)に摘記した、引用文献2の「【0056】【発明の効果】(1)基材の表面を相対的に多量の吸水性樹脂微粉末と特定繊維長を有する相対的に少量の繊維状物質との複合体で被覆することにより・・・」という記載参照。)、さらにその具体例として引用文献2に記載された各実施例を参照しても(上記第4の2(4)に摘記した「実施例-1」?「実施例-4」参照。)、吸水性樹脂に対する繊維状物質の重量比が「約1:1」あるいは「約2:1」になるものではない。
してみると、引用発明1に引用文献2記載事項を適用して、「外殻層2」に相対的に少量の繊維状物質を添加することが、請求人主張のように引用発明1において許容できない程度の接着力低下を招くものとはいえない。

次に上記cの主張について検討すると、上記a、bの主張についての検討で述べたように、引用文献2記載事項を引用発明1に適用して繊維状物質を混合させた場合、請求人主張のように「外殻層2」の粘着力の低下を招き、引用発明1本来の目的を損なうとまではいえない。

よって、請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-27 
結審通知日 2019-01-04 
審決日 2019-01-16 
出願番号 特願2013-174863(P2013-174863)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成川野 汐音竹中 靖典  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 富士 春奈
有家 秀郎
発明の名称 吸水処理材及びその製造方法  
代理人 西村 公芳  
代理人 大坂 憲正  
代理人 松田 純一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ