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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1349473
審判番号 不服2018-2125  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-15 
確定日 2019-03-19 
事件の表示 特願2014- 54131「光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月 6日出願公開、特開2014-209202、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年3月17日(優先権主張平成25年3月29日)の出願であって、平成29年2月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月1日に意見書が提出され、同年11月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し平成30年2月15日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成30年11月26日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成31年1月21日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


2 原査定の概要
原査定における拒絶理由の概要は、本願の請求項1、2、6、9、11に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、本願の請求項1?11に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2012-166527号公報
引用文献2:特開2010-286512号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2003-255108号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2012-93683号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2004-325861号公報(周知技術を示す文献)


3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本願の請求項1?11に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>
引用文献A:特開2012-166527号公報(原査定の引用文献1)
引用文献B:特開2011-133569号公報(周知技術)
引用文献C:特開2010-271517号公報(周知技術)
引用文献D:特開2010-286512号公報
(周知技術:原査定の引用文献2)
引用文献E:特開2001-124906号公報(周知技術)


4 本件発明
本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
表面に凹凸パターンを含む形状が形成された光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法であって、
任意の不規則な凹凸形状の表面の位置情報を計測して3次元の数値情報を得る工程と、
前記任意の不規則な凹凸形状の3次元の数値情報を電子的情報として格納する工程と、
前記電子的情報を元に、光学特性を調整した凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程と、
前記光学特性を調整した凹凸パターンの3次元の数値情報を元に、光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程と、を有し、
前記任意の不規則な凹凸形状の3次元の数値情報が、X軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報から成り、
前記光学特性を調整した凹凸パターンが、前記任意の不規則な凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の内の少なくとも1つの数値情報を拡大または縮小した3次元の数値情報であって、かつ前記任意の不規則な凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の拡大または縮小倍率が同一倍率でない3次元の数値情報から作成された凹凸パターンであることを特徴とする光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項2】
前記任意の不規則な凹凸形状が平面上に形成された凹凸形状であり、光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程が、光学部材用の凹凸パターン形成シートの曲面上に光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程である請求項1に記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項3】
前記光学部材用の凹凸パターン形成シートの凹凸パターンの最頻ピッチが1?500μm、アスペクト比が0.1?3.0となるように凹凸パターンを含む形状を形成する請求項1または2に記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項4】
前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程が、印刷により前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程である請求項1?3のいずれかに記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項5】
前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程が、全光線透過率85%以上の樹脂を印刷することにより前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程である請求項1?4のいずれかに記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項6】
前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程が、基材を切削することにより前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程である請求項1?3のいずれかに記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項7】
前記光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程が、基材上にフォトレジスト層を積層する工程、前記光学特性を調整した凹凸パターンの3次元の数値情報を元に、フォトレジスト層上に、露光位置および露光量が制御されたレーザー光を照射する工程、前記フォトレジスト層を現像してマスクパターンを形成する工程、および前記マスクパターンを介して前記基材をエッチングすることにより、光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程を含む請求項1?3のいずれかに記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法により得られた光学部材用の凹凸パターン形成シートを母型とするインプリント法または射出成法を含む方法により前記光学部材用の凹凸パターン形成シートの表面形状転写品として光学部材を得る光学部材の製造方法。」(以下、請求項1?8に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明8」という。)


5 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日前の平成24年9月6日に頒布された刊行物である、特開2012-166527号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が発明の認定等に用いた箇所を示す。

ア 「【請求項1】
表面上に凹凸パターンが形成された凹凸パターン形成モールドを製造する方法であって、
予め形成された凹凸パターン形成シートの3次元データを計測する工程と、その計測データを元に、金属、金属化合物、樹脂の少なくとも1種からなる表面上に、切削加工により、前記凹凸パターン形成シートと同等または相似形の凹凸パターンを形成する工程とからなることを特徴とする凹凸パターン形成モールドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の凹凸パターン形成モールドの凹凸パターンが形成された面に、未硬化の硬化性樹脂を塗工する工程と、
該硬化性樹脂を硬化させた後、硬化した塗膜を凹凸パターン形成モールドから剥離する工程とを有する光拡散体の製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸パターンが表面に形成された光拡散体を製造するための型として用いられる凹凸パターン形成モールドに関する。さらに、光拡散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光拡散体として、波状の凹凸パターンが表面に形成された凹凸パターン形成シートが利用されている。
例えば、特許文献1には、凹凸パターンが形成された光拡散体として、光透過性基材の少なくとも片面に突起体が複数形成され、突起体の高さが2?20μm、突起体の頂点の間隔が1?10μm、突起体のアスペクト比が1以上のものが開示されている。また、特許文献1には、突起体を形成する方法として、光透過性基材の表面を、KrFエキシマレーザー等のエネルギービームの照射により加工する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10-123307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の光拡散体は充分な光拡散性を有するものである。しかしながら、特許文献1に記載の、エネルギービームの照射による加工方法は製造工程が煩雑であるという問題を有していた。
【0004】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、光拡散体を簡便に製造できる凹凸パターン形成モールドの製造方法を提供することを目的とする。

(中略)

【発明の効果】
【0006】
本発明の凹凸パターン形成モールドの製造方法によれば、光拡散体を簡便に製造できる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(凹凸パターン形成シート)
本発明の凹凸パターン形成シート10の一実施形態について説明する。但し、本実施形態に限定されるものではない。
図1及び図2に、本実施形態の凹凸パターン形成シート10を示す。図1は、本発明に係る凹凸パターン形成シートの一例を示す拡大斜視図である。
本実施形態の凹凸パターン形成シート10は、基材11と、基材11の片面に設けられた硬質層12とを備え、硬質層12が凹凸パターン12aを有するものである。
【0009】
凹凸パターン形成シート10の凹凸パターン12aは、略一方向に沿った波状の凹凸を有し、その波状の凹凸が蛇行しているものである。また、本実施形態の凹凸パターン12aの凸部の先端は丸みを帯びている。
凹凸パターン形成シート10では、凹凸パターン12aの最頻ピッチAが1μmを超え20μm以下であることが好ましく、1μmを超え10μm以下であることがより好ましい。最頻ピッチAが1μm未満であると、可視光の波長以下となり、可視光が凹凸パターン12aにて屈折せずに光が透過してしまい、前記上限値を超えると、輝線として視認される場合があるからである。
【0010】
凹凸パターン12aの最頻ピッチAに対する凹凸パターンの平均深さBの比(B/A、以下、アスペクト比という。)は0.1?3.0であることが好ましく、0.3?2.0であることがより好ましい。アスペクト比が0.1未満であると、目的の光学特性が得られないことがある。一方、アスペクト比が3.0より大きくなると、凹凸パターン形成シート1の製造にて凹凸パターン12aを形成しにくくなる傾向にある。
ここで、平均深さBとは、凹凸パターン12aの底部12bの平均深さのことである。
また、底部12bとは、凹凸パターン12aの凹部の極小点であり、平均深さBは、凹凸パターン12aを短径方向に沿って切断した断面(図2参照)を見た際の、凹凸パターン形成シート10全体の面方向と平行な基準線L_(1)から各凸部の頂部までの長さB_(1),B_(2),B_(3)・・・の平均値(B_(AV))と、基準線L_(1)から各凹部の底部までの長さb_(1),b_(2),b_(3)・・・の平均値(b_(AV))との差(b_(AV)-B_(AV))のことである。
平均深さBを測定する方法としては、原子間力顕微鏡により撮影した凹凸パターン12aの断面の画像にて各底部12bの深さを測定し、それらの平均値を求める方法などが採られる。」
なお、図1及び図2は、以下のとおりのものである。


エ 「【0015】
(凹凸パターン形成モールド)
凹凸パターン形成モールドは、表面に、前記凹凸パターン形成シート10と同一または相似形の凹凸パターンを有する。
ここで相似形の凹凸パターンとは、前記凹凸パターン形成シートの凹凸パターン12aの最頻ピッチと平均深さがそれぞれt倍された凹凸パターンであり、前記相似の凹凸パターンのスケールを1/t倍すると、凹凸パターン12aと同一になるような凹凸パターンのことである。
凹凸パターン形成モールドは、金属ロール表面に前記凹凸パターン12aを同一または相似の凹凸パターンが形成されている。」

オ 「【0016】
(凹凸パターン形成シート10の製造方法)
[第1の製造方法]
凹凸パターン形成シート10を製造する方法の例について説明する。但し、本実施形態に限定されるものではない。
本実施形態の凹凸パターン形成シートの製造方法は、図6に示すように、樹脂製の基材である加熱収縮性フィルム11aの片面に、表面が平滑な硬質層13(以下、表面平滑硬質層13という。)を設けて積層シートを形成する工程(以下、第1の工程という。)と、加熱収縮性フィルム11aを加熱収縮させて、積層シートの少なくとも表面平滑硬質層13を折り畳むように変形させる工程(以下、第2の工程という。)とを有する方法である。
ここで、表面平滑硬質層13とは、JIS B0601に記載の中心線平均粗さ0.1μm以下の層である。」
なお、図6は、以下のとおりのものである。


カ 「【0027】
(凹凸パターン形成モールドの製造方法)
本発明の凹凸パターン形成モールドとは、予め形成された凹凸パターン形成シート10の原子間力顕微鏡などで測定した3次元データを元に、切削加工により、凹凸パターン12aと同一または相似形の形状を有する凹凸パターン形成モールドを製造する。
本発明の切削加工の方法としては、例えば、金属製のロールにダイヤモンドバイトを施した方法などが挙げられる。その中でも、数種の刃先のダイヤモンドバイトの使用などにより凹凸パターン12aを同一または相似形の形状を形成することが精度的に好ましい。
本製造方法により、複雑な凹凸パターンの情報を実際の凹凸パターンの3次元データを元に作成可能であり、また、本製造方法によりシームレスロールを製造することが可能となる。」

キ 「【0028】
(光拡散体の製造方法)
前記凹凸パターン形成モールドを使用して光拡散体を製造する方法である。
【0029】
光拡散体の製造方法の具体的な方法としては、例えば、下記(a)?(c)の方法が挙げられる。
(a)凹凸パターン形成モールドの凹凸パターンが形成された面に、未硬化の電離放射線硬化性樹脂を塗工する工程と、樹脂製の基材を電離放射線硬化性樹脂の凹凸パターン形成モールドと接触していない側に接触させる工程と、電離放射線を照射して前記硬化性樹脂を硬化させた後、硬化した塗膜を工程シート原版から剥離する工程とを有する方法。ここで、電離放射線とは、通常、紫外線または電子線のことであるが、本発明では、可視光線、X線、イオン線等も含む。
(b)凹凸パターン形成モールドの凹凸パターンが形成された面に、未硬化の液状熱硬化性樹脂を塗工する工程と、加熱して前記液状熱硬化性樹脂を硬化させた後、硬化した塗膜を凹凸パターン形成モールドから剥離する工程とを有する方法。
(c)凹凸パターン形成モールドの凹凸パターンが形成された面に、シート状の透明熱可塑性樹脂を接触させる工程と、該シート状の透明熱可塑性樹脂を凹凸パターン形成モールドに押圧しながら加熱して軟化させた後、冷却する工程と、その冷却したシート状の透明熱可塑性樹脂を凹凸パターン形成モールドから剥離する工程とを有する方法。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記記載事項アに基づけば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「光拡散体の製造方法に用いられる、表面上に凹凸パターンが形成された凹凸パターン形成モールドを製造する方法であって、予め形成された凹凸パターン形成シートの3次元データを計測する工程と、その計測データを元に、金属、金属化合物、樹脂の少なくとも1種からなる表面上に、切削加工により、前記凹凸パターン形成シートと同等または相似形の凹凸パターンを形成する工程とからなる凹凸パターン形成モールドの製造方法。」(以下、「引用発明」という。)


6 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明における「光拡散体」は、光を拡散するという光学特性を有する部材であるから、本件発明1の「光学部材」に相当する。
また、引用発明の「凹凸パターン形成モールド」は、「表面上に凹凸パターンが形成された」モールドであって、「光拡散体の製造方法に用いられる」ものであるから、光学部材用の凹凸パターン形成物であるといえる。そうすると、引用発明の「凹凸パターン形成モールドの製造方法」と、本件発明1の「表面に凹凸パターンを含む形状が形成された光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法」とは、「表面に凹凸パターンを含む形状が形成された光学部材用の凹凸パターン形成物の製造方法」である点で共通する。

(イ)引用発明の「予め形成された凹凸パターン形成シートの3次元データを計測する工程」と本件発明1の「任意の不規則な凹凸形状の表面の位置情報を計測して3次元の数値情報を得る工程」とは、「凹凸形状の表面の位置情報を計測して3次元の数値情報を得る工程」である点で共通する。

(ウ)引用発明の「その計測データを元に、金属、金属化合物、樹脂の少なくとも1種からなる表面上に、切削加工により、前記凹凸パターン形成シートと同等または相似形の凹凸パターンを形成する工程」は、少なくとも相似形の凹凸パターンを形成するときには、計測した3次元データを元に、相似形の3次元のデータを計算し、計算された3次元のデータを元に、凹凸パターンを形成しているといえる。したがって、引用発明の「その計測データを元に、金属、金属化合物、樹脂の少なくとも1種からなる表面上に、切削加工により、前記凹凸パターン形成シートと同等または相似形の凹凸パターンを形成する工程」と、本件発明1の「前記電子的情報を元に、光学特性を調整した凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程と、前記光学特性を調整した凹凸パターンの3次元の数値情報を元に、光学特性を調整した凹凸パターンを含む形状を形成する工程」とは、「前記情報を元に、凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程と、前記凹凸パターンの3次元の数値情報を元に、凹凸パターンを含む形状を形成する工程」である点で共通する。

(エ)以上より、本件発明1と引用発明とは、
「表面に凹凸パターンを含む形状が形成された光学部材用の凹凸パターン形成物の製造方法であって、凹凸形状の表面の位置情報を計測して3次元の数値情報を得る工程と、前記情報を元に、凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程と、前記凹凸パターンの3次元の数値情報を元に、凹凸パターンを含む形状を形成する工程と、を有する光学部材用の凹凸パターン形成物の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件発明1は、凹凸パターン形成「シート」を製造するのに対し、引用発明は、凹凸パターン形成「モールド」を製造しており、モールドの形状がシート状とされていない点。
[相違点2]凹凸形状が、本件発明1は、「任意の不規則な」凹凸形状であるのに対し、引用発明は、任意の不規則な凹凸パターンであるか明らかでない点。
[相違点3]本件発明は、3次元の数値情報を電子的情報として格納する工程を有するのに対し、引用発明は、3次元の数値情報を電子的情報として格納する工程を有するかどうか明らかでない。
[相違点4]本件発明は、「光学特性を調整した」凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程を有し、3次元の数値情報が、X軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報から成り、前記光学特性を調整した凹凸パターンが、凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の内の少なくとも1つの数値情報を拡大または縮小した3次元の数値情報であって、かつ凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の拡大または縮小倍率が同一倍率でない3次元の数値情報から作成された凹凸パターンであるのに対し、引用発明は、前記凹凸パターン形成シートと同等または相似形の凹凸パターンを形成する工程を有する点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点4]について検討する。
引用発明は、凹凸パターン形成シートと同等または相似形の凹凸パターンを形成する工程を有するところ、相似形の凹凸パターンは、引用文献1の記載事項エに基づけば、「凹凸パターン形成シートの凹凸パターン12aの最頻ピッチと平均深さがそれぞれt倍された凹凸パターンであり、前記相似の凹凸パターンのスケールを1/t倍すると、凹凸パターン12aと同一になるような凹凸パターンのこと」であるから、3次元データを構成する全ての軸方向の倍率をそれぞれtとしたものであるといえる。一方、本件発明1は、「凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の拡大または縮小倍率が同一倍率でない3次元の数値情報から作成された凹凸パターン」とされているから、引用発明における「同等または相似形の凹凸パターン」を排除しているといえる。そうすると、上記[相違点4]は、実質的な相違点であるといえる。
そして、引用文献1の記載事項イには、背景技術として挙げた特許文献1について、「特許文献1に記載の光拡散体は充分な光拡散性を有するものである。しかしながら、特許文献1に記載の、エネルギービームの照射による加工方法は製造工程が煩雑であるという問題を有していた。」(段落【0003】)と記載されており、引用発明は、「光拡散体を簡便に製造できる凹凸パターン形成モールドの製造方法を提供すること」(段落【0004】)を目的とするものであって、同等または相似形以外の凹凸パターンを形成して光拡散性などの光学特性を改善または変更しようとするものとはいえない。また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2010-286512号公報)、引用文献3(特開2003-255108号公報)、引用文献4(特開2012-93683号公報)、引用文献5(特開2004-325861号公報)や、当審拒絶理由において新たに引用した引用文献B(特開2011-133569号公報)、引用文献C(特開2010-271517号公報)、引用文献E(特開2001-124906号公報)にも、凹凸パターンの3次元の数値情報の光学特性を調整することは記載されておらず、凹凸パターンの3次元の数値情報の光学特性を調整することが、本願の優先権主張の日前に当業者に知られていた、あるいは周知技術であったということはできない。
したがって、当業者であっても、引用発明に、相似形以外の「光学特性を調整した」凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程を設けることが、容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、上記[相違点1]?[相違点3]について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたということはできない。

(2)本件発明2?8
本件発明2?8は、いずれも、本件発明1の「前記電子的情報を元に、光学特性を調整した凹凸パターンの3次元の数値情報を計算する工程」を有し、「前記任意の不規則な凹凸形状の3次元の数値情報が、X軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報から成り」、「前記光学特性を調整した凹凸パターンが、前記任意の不規則な凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の内の少なくとも1つの数値情報を拡大または縮小した3次元の数値情報であって、かつ前記任意の不規則な凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の拡大または縮小倍率が同一倍率でない3次元の数値情報から作成された凹凸パターンである」とする要件を具備するものである。そうすると、本件発明2?8も、本件発明1と同じ理由によって、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたということはできない。


7 原査定についての判断
本件発明1?8は、本件補正によって、「前記光学特性を調整した凹凸パターンが、前記任意の不規則な凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の内の少なくとも1つの数値情報を拡大または縮小した3次元の数値情報であって、かつ前記任意の不規則な凹凸形状のX軸方向の数値情報、Y軸方向の数値情報、及びZ軸方向の数値情報の拡大または縮小倍率が同一倍率でない3次元の数値情報から作成された凹凸パターンである」という要件を具備するものとなった。その結果、前記6において検討したとおり、本件発明1?8と引用発明とは、少なくとも[相違点4]において実質的に相違するものであって、引用発明を本件発明1の[相違点4]に係る構成とすることは、当業者であっても容易になし得たということはできない。


8 当審拒絶理由についての判断
前記6に記載したとおり、本件発明1?8と引用発明とは、少なくとも[相違点4]において実質的に相違するものである。そして、引用発明を本件発明1の[相違点4]に係る構成とすることは、当業者であっても容易になし得たということはできない。


9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-05 
出願番号 特願2014-54131(P2014-54131)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
宮澤 浩
発明の名称 光学部材用の凹凸パターン形成シートの製造方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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