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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C23F |
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管理番号 | 1349527 |
審判番号 | 不服2018-1662 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-02-06 |
確定日 | 2019-03-26 |
事件の表示 | 特願2014- 63955「金属の腐食抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日出願公開、特開2015-183285、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年 3月26日の出願であって、平成29年 6月27日付けで拒絶理由通知がされ、同年 9月 4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月 7日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年 2月 6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年 3月29日付けで前置報告がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年11月 7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1、3?5に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本願請求項2に係る発明は、以下の引用文献1又は1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2006-233287号公報 2.特開2005-42026号公報(技術常識を示す文献) 3.特開2003-105674号公報(技術常識を示す文献) 4.特開昭56-77383号公報(技術常識を示す文献) 第3 本願発明 本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成30年 2月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 冷却水系における金属の腐食を抑制する方法において、 ランジェリア指数が1.5未満で、かつ[SiO_(2)]が10mg/L以上(ただし、[SiO_(2)]は水中のSiO_(2)濃度(mg/L))である該冷却水系の水に、 マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体(以下、「マレイン酸系重合体」と称す。)を30?150mg/L添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法。 【請求項2】 請求項1において、マレイン酸系重合体の重量平均分子量が500?2500であることを特徴とする金属の腐食抑制方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、さらにアクリル酸系重合体を前記冷却水系に添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記冷却水系は開放循環冷却水系であることを特徴とする金属の腐食抑制方法。」 第4 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献と、引用発明について 以下において、下線は当審で付与したものであり、「…」により記載の省略を示す。 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2006-233287号公報)には、次の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 マレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩とを含有することを特徴とする腐食防止用組成物。 【請求項2】 マレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩とを処理対象水系に添加することを特徴とする腐食防止方法。」 「【発明の効果】 【0009】 本発明の腐食防止用組成物によれば、マレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩とを含有し、これら成分の相乗効果によって低濃度の使用でも有効に鉄系金属材料の腐食を防止できるうえ、リン及び重金属類を含有しないので、環境汚染を引き起こす恐れがなく、装置の保守管理に関する負担が軽減される効果がある。」 「【0017】 上記のようなマレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩とは、重量比で1:10?10:1となるように対象水系に添加することにより高い効果が得られるため好ましい。さらに好ましい範囲は1:4?4:1である。 【0018】 水と接触する機器の材質にもよるが、マレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩とは対象水系での濃度が合計で1mg/L以上、また1000mg/L以下となるように添加することが好ましく、より好ましい添加量は、10mg/L以上、また100mg/L以下である。」 「【実施例】 【0022】 以下に本発明の腐食防止用組成物の実施例について具体的に説明する。 表1に示す水質を有する試験用水(つくば市水)と、表2に示す薬剤A?Cとを用意した。 【0023】 【表1】 【0024】 【表2】 【0025】 開放容器に入れた試験用水1000mLに、これらの薬剤をそれぞれ表3に示す濃度(mg/L)となるよう添加し、その中に20mm×60mm×2mmの大きさの研磨鋼板(SPCC-SB)を浸漬して、300rpmで攪拌しながら35℃で3日間の腐食試験を行った。3日後に鋼板の腐食減量を測定して腐食度(mg/dm^(2)/日(mdd))を算出し、その結果を表3に併せて示した。 【0026】 【表3】 【0027】 表3の結果から、マレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩とを含有する本発明に係る腐食防止用組成物が、その他の単独添加あるいは組み合わせ添加と比べて、遙かに高い、鉄を主成分とする金属に対する防食性を有することがわかる。 【0028】 本発明は鉄を主成分とする金属で構成された設備内を循環する水系などに添加して用いられる腐食防止用組成物、及び、腐食防止方法であり、基本的に2成分系であり、リンや重金属を有しないため毒性が低いので冷却水系にも好適に用いることができ、かつ、環境汚染を引き起こすおそれがなく、また、スケール生成の恐れがなく、しかも使用量が少なくても炭素鋼や鋳鉄などの鉄を主成分とする金属に対して優れた防食効果を示す腐食防止用組成物で、かつ、低濃度での添加であっても高い腐食防止性能が得られる。」 (2)引用発明 前記(1)によれば、次のとおりである。 引用文献1には、マレイン酸重合体及び又はその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/又はその塩とを処理対象水系に添加することを特徴とする腐食防止方法が記載されている(請求項2)。 引用文献1の前記腐食防止方法は、鉄系金属材料の腐食を防止できるものであり(段落【0009】)、冷却水系に好適に用いることができるものである(段落【0028】)。 引用文献1の実施例1?4は、表1に示される試験用水に対し、ポリマレイン酸である薬剤Aとアクリル酸-アクリル酸メチル共重合体である薬剤Bを表3に示す濃度となるように添加し、研磨鋼板を浸漬して、300rpmで攪拌しながら35℃で3日間の腐食試験を行うものである。 以上を踏まえ、引用文献1の実施例1?4のうち、最も腐食度が低い例である実施例3に基づき、引用文献1には、以下の引用発明が記載されていると認められる。 [引用発明] 「冷却水系の水に対し、ポリマレイン酸を10mg/L添加し、アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体を20mg/L添加する、冷却水系における鉄系金属材料の腐食防止方法。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2005-42026号公報)には、次の事項が記載されている。 「【0059】 試験例2においては、アルカリ溶液に沈殿防止剤としてのポリマレイン酸(グレートレイクスケミカル日本株式会社のベルクリン200、分子量:1000以下)をさらに溶解させた以外は、試験例1と同様にして酸溶液及びアルカリ溶液を調製した。…」 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2003-105674号公報)には、次の事項が記載されている。 「【0016】… 実施例3 合成例1で得られた濃度15重量%のカチオンポリマーの水溶液4重量部、ポリマレイン酸水溶液[チバ・スペシャリティ・ケミカルス社、ベルクリン200、不揮発分50重量%、重量平均分子量800?1,000]1.2重量部、グリセロールポリグリシジルエーテル[ナガセ化成工業(株)、デナコールEX-313、エポキシ当量141]0.1重量部及び水94.7重量部を配合して、処理液を調製した。…」 4 引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開昭56-77383号公報)には、次の事項が記載されている。 「ポリ無水マレイン酸として市販されているものとして、チバガイギー社のベルクリン200(分子量約900)があり、本発明法において最適なものとして使用しえる。」(第2頁右上欄第7行?第10行) 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明が「冷却水系における鉄系金属材料の腐食防止方法」であることは、本願発明1が「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法」であることに相当する。 イ 引用発明の「ポリマレイン酸」は、本願発明1の「マレイン酸系重合体」に相当する。 ウ 上記イを踏まえると、引用発明と本願発明1とは、「冷却水系の水」に、「マレイン酸系重合体」を添加する方法である点で共通する。 エ ゆえに、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法において、 冷却水系の水に、 マレイン酸系重合体を添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法。」 (相違点1) 「マレイン酸系重合体」の添加量が、本願発明1では「30?150mg/L」であるのに対し、引用発明では「10mg/L」である点。 (相違点2) 「マレイン酸系重合体」を添加する「冷却水系の水」が、本願発明1では「ランジェリア指数が1.5未満で、かつ[SiO_(2)]が10mg/L以上」の「冷却水系の水」であるのに対し、引用発明では、「冷却水系の水」が具体的に特定されず、そのため「ランジェリア指数」及び[SiO_(2)]についても特定されない点 (2)判断 (2)-1 相違点1について ア 引用発明の「冷却水系における鉄系金属材料の腐食防止方法」は、引用文献1の段落【0009】、【0027】、【0028】によれば、「ポリマレイン酸」と「アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体」の二つの成分の相乗効果によって、低濃度であっても腐食防止の効果を発揮するものであり、そのことは、引用文献1の実施例の欄の記載からも裏付けられている。 イ そして、引用文献1には、段落【0018】にあるとおり、マレイン酸重合体及び/またはその塩と、アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体及び/またはその塩との合計での濃度を規定する記載はあるものの、各成分の濃度を単独で規定する記載はない。 そうすると、引用発明において、「ポリマレイン酸」と「アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体」の濃度を各成分ごとに変更するための具体的な指針を、引用文献1の記載からは見いだすことはできない。 ゆえに、当業者といえども、引用発明において、相乗効果を発揮させるための二つの成分のうちの一方である「ポリマレイン酸」に着目して、その濃度を「10mg/L」から「30?150mg/L」へ増加させることを容易になし得たとはいえない。 ウ また、上記アで述べたとおり、引用発明は、「ポリマレイン酸」と「アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体」の二つの成分の相乗効果によって、低濃度であっても腐食防止の効果を発揮するものであるところ、二つの成分の濃度の合計は30mg/Lであり、これは、引用文献1の段落【0018】の記載において、二つの成分の濃度の合計としてより好ましいとされる「10mg/L以上、また100mg/L以下」の範囲内の数値である。 そうすると、引用発明において、二つの成分の濃度の合計を、30mg/Lからあえて高い数値へ変更しようとすることの積極的な動機付けは存在するとはいえない。 ゆえに、当業者といえども、引用発明における二つの成分の濃度の合計を30mg/Lよりも高い数値へ変更することを容易になし得たとはいえず、この観点からみても、当業者は、引用発明の「ポリマレイン酸」の濃度を「10mg/L」から「30?150mg/L」へ増加させることを容易になし得たとはいえない。 エ そして、引用文献2?4は、引用文献1で用いられているポリマレイン酸である「グレートレークスケミカル社製」の「ベルクリン200」と関連し、「ベルクリン200」なる商品名のポリマレイン酸の分子量が800?1000の範囲の数値を持つことを開示するに過ぎないから、引用文献2?4の記載をさらに考慮したとしても、当業者が、引用発明の「ポリマレイン酸」の濃度を「10mg/L」から「30?150mg/L」へ増加させることを容易になし得たとはいえない。 オ 以上の検討のとおり、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 (2)-2 相違点2について ア 引用文献1には、引用発明である「冷却水系における鉄系金属材料の腐食防止方法」が、具体的にどのような水質の「冷却水系の水」に適用されるのかについての記載はない。 イ また、引用文献1の実施例の欄では、「表1に示す水質を有する試験用水(つくば市水)」を用いて腐食試験を行って、「ポリマレイン酸」と「アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体」とを含有する腐食防止用組成物の防食性を評価することが記載されている。 当該「試験用水(つくば市水)」のランジェリア指数は、下記カに示すとおり「-1.0」又は「-1.1」と計算され、この数値は本願発明1の「冷却水系の水」のランジェリア指数である「1.5未満」に包含される。しかし、当該「試験用水(つくば市水)」の[SiO_(2)]は、引用文献1の表1によれば、2mg/Lであり、この数値は本願発明1の「冷却水系の水」の[SiO_(2)]である「10mg/L以上」に包含されない。 そうすると、仮に、引用発明の「冷却水系における鉄系金属材料の腐食防止方法」を、前記「試験用水(つくば市水)」と同じ水質の「冷却水系の水」に適用することまでは当業者が容易になし得たといえたとしても、「冷却水系の水」について「[SiO_(2)]が10mg/L以上」であることを特定している本願発明1を想到することはできない。 ウ また、引用文献2?4の記載をさらに考慮したとしても、当業者が、引用発明の「冷却水系の水」について、「[SiO_(2)]が10mg/L以上」とすることを容易になし得たとはいえない。 エ そして、「[SiO_(2)]が10mg/L以上」であることを特定する本願発明1が奏する効果について検討しておく。 本願明細書には、以下の記載がある。 「【0014】 一般に、開放循環冷却水系において、運転時間の経過に伴って水の濃縮度が高くなると、水中に含まれるカルシウムイオンや重炭酸イオンの濃度が増加し、CaCO_(3)皮膜の生成により腐食が抑制されることはよく知られている。この水系のCaCO_(3)析出傾向を示す尺度として、ランジェリアの飽和指数が提案されている。これは、カルシウム濃度、Mアルカリ度、全溶解固形物及び水温、pHから、その水のCaCO_(3)析出傾向を一つの目安として示すものである。このランジェリア指数が1.5以上であると、CaCO_(3)皮膜が付着する傾向が大きくなるため、水の防食性も大きくなる。また、水系に含有されるシリカも防食上極めて重要な役割を果す。特許文献1は、ランジェリア指数が1.5以上かつ[SiO_(2)]×[CaH]≧2000の水系にマレイン酸重合体を添加して防食効果を得るものである。これに対し、本発明は、ランジェリア指数が1.5未満であるか[SiO_(2)]×[CaH]が2000未満である開放循環冷却水系の運転開始時における低濃縮水質においても十分な防食効果を得るものである。」 「【0021】 [処理対象水系] 本発明においては、処理対象水系は、ランジェリア指数が1.5未満であるか、又は[SiO_(2)]×[CaH]が2000未満特に1000未満である。処理対象水のランジェリア指数及び/又は[SiO_(2)]×[CaH]が小さく、水中のCaCO_(3)及び/又はシリカ濃度が低い水系であっても、マレイン酸系重合体を30mg/L以上添加することにより、CaCO_(3)、シリカを巻き込んで、金属表面に良好な防食皮膜が形成され、優れた防食抑制効果が得られる。 【0022】 水系のシリカ濃度は1?150mg/L特に10?100mg/L程度が好ましい。150mg/L超ではシリカスケールが発生するおそれがある。[CaH]は10?500mg/L特に20?200mg/L程度が好ましい。Mアルカリ度は10?500mg/LasCaCO_(3)が好ましくpHは7?9が好ましい。」 これらの記載に照らすと、本願発明1である「金属の腐食抑制方法」は、「ランジェリア指数が1.5未満」という防食性が小さい条件である「冷却水系の水」においても、「マレイン酸系重合体」を「30?150mg/L添加する」とともに、シリカの濃度を「[SiO_(2)]が10mg/L以上」とすることで、シリカを巻き込んで、金属表面に良好な防食皮膜が形成され、十分な防食効果を得ることができるという効果を奏するものであると認められる。 このような効果は引用文献1?4には記載されていない。そればかりか、引用文献1の表3(前記第4の1参照)において、[SiO_(2)]が2mg/Lである「試験用水(つくば市水)」に「マレイン酸系重合体」を30mg/L添加する比較例1が、十分な腐食抑制効果を奏しないことが開示されていることからみて、本願発明1は、「[SiO_(2)]が10mg/L以上」とすることで、「マレイン酸系重合体」を「30?150mg/L添加する」ことと相まって、当業者が予測し得ない効果を奏するものであるといえる。 オ 以上の検討のとおり、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。 その上、「冷却水系の水」に対し「マレイン酸系重合体」を「30?150mg/L添加する」ことを特定した上で、「冷却水系の水」について「[SiO_(2)]が10mg/L以上」であることを特定する本願発明1は、当業者が予測し得ない効果を奏するものである。 カ 上記イで言及した、引用文献1の「表1に示す水質を有する試験用水(つくば市水)」のランジェリア指数について (ア)ランジェリア指数の算出については、例えば、特開2015-168875号公報(前置報告書において、引用文献6として引用された文献)に以下の記載がある。なお、下記においては「ランゲリア指数」と記載されているが、これは「ランジェリア指数」と同じ意味であると認められる。 「【0027】 … 上記ランゲリア指数LI計算法については、種々提案されているが、本発明では、水の実際のpH値、水温、蒸発残留物の濃度、カルシウム硬度および総アルカリ度から、下記(2)式で簡便に求めることができるノーデル法を採用する。 ランゲリア指数LI=pH-pHs=pH-(pHs=9.3+(A値+B値)-(C値+D値)) ・・・(2) ただし、pH:水の実際のpH値 pHs:理論的pH値 A値:蒸発残留物の濃度により定まる値 B値:水温により定まる値 C値:カルシウム硬度により定まる値 D値:総アルカリ度(Mアルカリ度)により定まる値 であり、上記A値?D値は、表1から求めることができる。 【0028】 【表1】 【0029】 上記(2)式から、冷却水のランゲリア指数LIを求めるには、冷却水の実際のpH値、蒸発残留物の濃度、温度、カルシウム硬度および総アルカリ度(Mアルカリ度)を測定すればよいことがわかる。…」 (イ)上記(ア)の表1と「(2)式」に基づき、引用文献1の「試験用水(つくば市水)」のランジェリア指数を算出できる。 引用文献1の表1によれば、「試験用水(つくば市水)」のpHは7.2である。また、カルシウム硬度は49mg/Lであるから、C値は1.3であり、M-アルカリ度は45mg/Lであるから、D値は1.7である。また、引用文献1の段落【0025】によれば、実施例における腐食試験は35℃で行われているから、B値は1.8である。 そうすると、 ランジェリア指数 =水の実際のpH値-pHs値 =水の実際のpH値-{(9.3+A値+B値)-(C値+D値)} =7.2-{(9.3+A値+1.8)-(1.3+1.7)} =7.2-(A値+8.1) =-0.9-(A値) となる。 ここで、A値は0.1又は0.2であるから、引用文献1の「試験用水(つくば市水)」のランジェリア指数は「-1.0」又は「-1.1」である。 (3)小括 以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づき、引用文献2?4の記載を参酌しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明2?4について 本願発明2?4は、いずれも、本願発明1の発明特定事項を全て備える発明であるから、本願発明1と同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1?4は、引用文献1に記載された発明に基づき、引用文献2?4の記載を参酌しても、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-03-12 |
出願番号 | 特願2014-63955(P2014-63955) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C23F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 辰己 雅夫、印出 亮太 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
▲辻▼ 弘輔 中澤 登 |
発明の名称 | 金属の腐食抑制方法 |
代理人 | 重野 剛 |