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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04B
管理番号 1349595
審判番号 不服2017-13454  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-11 
確定日 2019-03-07 
事件の表示 特願2013-239757「クライオポンプシステム、及びクライオポンプシステムの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月28日出願公開、特開2015- 98844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年11月20日の出願であって、平成28年11月22日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年1月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年6月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年9月11日に審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、その後、当審において、平成30年8月15日付けで拒絶理由が通知され、平成30年10月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「低温冷却ステージ及び高温冷却ステージを備えるGM冷凍機と、前記低温冷却ステージにより冷却される低温クライオパネルと、前記高温冷却ステージにより冷却される高温クライオパネルと、を備える少なくとも1つのクライオポンプと、
前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備え、前記圧縮機本体の運転周波数が可変である圧縮機ユニットと、を備え、
前記作動ガスは、ヘリウムガスであり、
前記圧縮機ユニットは、前記圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比が1.9から2.1の範囲で運転され、前記低温クライオパネルは、10Kから12Kの温度領域に冷却され、前記GM冷凍機は前記低温冷却ステージでの冷凍効率が、前記温度領域のある冷却温度につき前記範囲から選択された圧力比で最大化されることを特徴とするクライオポンプシステム。」

第3 拒絶の理由

平成30年8月15日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうちの理由Aは、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術若しくは引用例3に記載された技術に基いて、引用例2に記載された発明及び引用例1に記載された技術に基いて、又は引用例3に記載された発明及び引用例1に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1.特開2005-283026号公報
引用例2.国際公開第2010/038415号
引用例3.特開2009-275579号公報
引用例4.特開2002-243294号公報(周知引例として)

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明1
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【0005】
このような蓄冷式冷凍機の代表的なものとしては、GM型パルス管冷凍機、GM冷凍機、スターリング冷凍機などがある。
・・・(中略)・・・
【0010】
このような蓄冷式冷凍機における膨張は基本的にはサイモン膨張であり、冷凍部低温端での寒冷発生量(以下では冷凍能力と表現する)は原理的に、膨張前後の圧力差と膨張容積に比例し、冷凍効率(=冷凍能力/消費電力)は膨張前後の圧力比に反比例するので、この冷凍能力と冷凍効率を向上させるためいろいろな改良が提案されている。」
イ.「【発明が解決しようとする課題】
・・・(中略)・・・
【0026】
従ってこの種の冷凍機の冷凍効率(ηとする)の低下を抑えるためには、原理的には、膨張前後の圧力比を小さくすることが必要で、いま、圧縮機から供給される膨張前の高圧側圧力をPh、膨張後の低圧側圧力をPlとすると、膨張前後の圧力比(Ph/Pl)は出来るだけ小さくする必要がある。
【0027】
一方、この種の冷凍機の冷凍能力(Qとする)を向上させるには、理想気体の場合、原理的には冷凍能力Qは冷媒の膨張仕事に等しく、膨張前の高圧側圧力をPh、膨張後の低圧側圧力をPlとすると、冷凍能力Qは膨張容積Vと膨張前後の圧力差(Ph?Pl)との積、すなわちQ=V(Ph?Pl)となるので、この冷凍能力であるQ=V(Ph?Pl)を増加させるには、膨張容積Vを一定とした場合、膨張前後の圧力差(Ph?Pl)を大きくする必要がある。
・・・(中略)・・・
【0032】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、圧縮部と冷凍部が分離した構成にあるGM型パルス管冷凍機やGM冷凍機などの蓄冷式冷凍機において、冷凍能力と冷凍効率とを同時に向上させることを技術的課題とするものである。」
ウ.「【0053】
前記圧力振動装置11は、GM型パルス管冷凍機10内に充填してあるヘリウムなどの冷媒に圧力振動を発生させるもので、圧縮部21、高圧弁22及び低圧弁23を備えている。」
エ.「【0139】
以上では蓄冷式冷凍機の例としてGM型パルス管冷凍機で説明したが、このGM型パルス管冷凍機と同じように室温部におかれた圧縮部と、低温部におかれ、それぞれ蓄冷器とディスプレーサピストンを内包した多段の膨張室で構成される冷凍部を有し、同時に多段膨張するように構成されるGM冷凍機であっても、本実施形態は適用される。」
オ.「【0140】
GM冷凍機における実施形態について以下に図7、図8の基づき説明する。
【0141】
図7に、2段膨張する構成にあるGM冷凍機における実施形態を示す概略構成図を示し、図8に、同2段膨張する構成にあるGM冷凍機の開閉弁及び各ディスプレーサピストンの作動状況と冷凍部の圧力状況を示す。
【0142】
本実施形態におけるGM冷凍機30は、圧力振動装置11と、冷凍部31と駆動部48を持つ。」
カ.「【0143】
圧力振動装置11は、吐出口21a及び吸入口21bを有する圧縮部21と、圧縮部21の吐出口21a側に連結された高圧弁22と、圧縮部21の吸入口21b側に連結された低圧弁23とを有する。高圧弁22は、高圧配管28aにより圧縮部21の吐出口21aに連結され、低圧弁23は、低圧配管28bにより圧縮部21の吸入口21bに連結されている。高圧弁22及び低圧弁23は、本例においては、ロータリ弁で構成されており、ロータ(図示せず)の回転によって、高圧弁22と低圧弁23とが交互に排他的に開閉する動作を繰り返す。」
キ.「【0144】
冷凍部31は、1段目シリンダ41、2段目シリンダ42、1段目ディスプレーサピストン43、2段目ディスプレーサピストン44、及び駆動機構48を備える。
・・・(中略)・・・
【0151】
1段目シリンダ41の後端面側には室温プレート32が、前端面側(即ち、第1膨張空間35の外周側)には第1コールドステージ33が、2段目シリンダ42の前端面側(即ち、第2膨張空間36の外周側)には第2コールドステージ34が、それぞれ取り付けられている。第1及び第2コールドステージ33、34は、各膨張空間35、36で発生した寒冷を被冷却体に伝達させるものであり、いずれも、熱伝導の良好な銅などの材質で構成される。」
ク.「【0155】
この構成において、圧縮部21から供給された冷媒が、2段に形成された1段目ディスプレーサピストン43,2段目ディスプレーサピストン44の動作と位相差をもたせて開閉動作が行われる高圧弁22及び低圧弁23を介して、1段目蓄冷器45及び2段目蓄冷器46に導かれ、ここで予冷されたのち、1段目ディスプレーサピストン43、2段目ディスプレーサピストン44の膨張仕事に相当した寒冷を発生し再び、蓄冷器45、46を通って蓄冷材を冷やしながら温度上昇し、室温に戻って圧縮部21に回収され、この行程を1サイクルとして周期的に動作し、第1コールドステージ33及び第2コールドステージ34に寒冷を発生させる。
【0156】
またこの構成において、圧縮部21から冷凍部31に供給される冷媒の膨張前の高圧側圧力Phを、従来の特許文献2などで設定されている2MPa前後の値に対し、2.8MPa以上にするとともに、冷凍部31から圧縮部21に回収される冷媒の膨張後の低圧側圧力Plを、1MPa以上に設定するものである。
【0157】
以下に図7、及び図8によって本実施形態の作動について説明する。
【0158】
図7、及び図8に示すこのGM冷凍機30における、圧縮部21から冷凍部31に供給される高圧側圧力Phと、冷凍部31から圧縮部に回収される低圧側圧力Plの圧力は、以下の説明では、特許文献2と冷凍能力に比例する膨張前後の圧力差(Ph-Pl)を同じ1.5MPaにして冷凍効率を比較検討するために、高圧側圧力Phを2.8MPa以上の1例として例えば3MPaとし、低圧側圧力Plを1MPa以上の1例として例えば1.5MPaとする。
【0159】
図8において、高圧弁22、低圧弁23ごとに描画された太実線はその開状態を示し、同細実線はその閉状態を示すものとする。
【0160】
図8に基づいて、本実施形態におけるGM冷凍機30の1サイクル内の動作と圧力状態を説明する。
【0161】
なお図8では、当該GM冷凍機30の1サイクル内の動作は、以下に説明する4つの段階(第1段階A、第2段階B、第3段C、第4段階D)からなり、各段階は、高圧弁22、低圧弁23の開閉状態及び、1段目ディスプレーサピストン43、2段目ディスプレーサピストン44の第1膨張空間35、第2膨張空間36での変位状態に対応して区分される。
・・・(中略)・・・
【0170】
以上のように本実施形態では、高圧側圧力Phを3MPaとし、低圧側圧力Plを1.5MPaとして、第1段階Aから第4段階Dまでの一連の動作を1サイクルとし、これを繰り返すことによりGM冷凍機30の低温熱交換器33,34において極低温を発生するものである。」
ケ.「【0171】
従って、例えば、この実施形態における冷凍能力に比例する圧力差(Ph-Pl)(高圧側圧力Ph:3MPa、低圧側圧力Pl:1.5MPa)を、特許文献2と同じ1.5MPa(高圧側圧力Ph:2MPa、低圧側圧力Pl:0.5MPa)とした時の圧力比(Ph/Pl)を比較すると、特許文献2では圧力比(Ph/Pl)は4となるのに対し、実施形態の例では圧力比(Ph/Pl)は2となって、圧力比が下がった分だけ冷凍効率が向上する。
【0172】
すなわち既述したように蓄冷型冷凍機の理想状態における冷凍能力は、膨張容積Vと膨張前後の圧力差(Ph?Pl)との積で表わされるが、本実施形態におけるGM冷凍機も、特許文献2に代表されるような従来の膨張前の高圧側圧力Phが2MPa前後であったのに対し、この膨張前の高圧側圧力Phを2.8MPa以上に設定することにより、差圧(Ph?Pl)を同じとすれば、圧力比(Ph/Pl)は小さくなり冷凍効率は向上するし、また、圧力比(Ph/Pl)を同じとすれば、膨張前後の圧力差(Ph?Pl)が大きくとれ、冷凍能力を向上させることができる。」
そして、記載ウ及びエからみて、次の事項が理解できる。
コ.GM冷凍機において、冷媒は、ヘリウムである。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)及び技術が記載されていると認められる。
「1段目シリンダ、2段目シリンダ、1段目ディスプレーサピストン、2段目ディスプレーサピストン及び駆動機構を備え、1段目シリンダの前端面側(即ち、第1膨張空間の外周側)には第1コールドステージが、2段目シリンダの前端面側(即ち、第2膨張空間の外周側)には第2コールドステージが、それぞれ取り付けられている冷凍部と、
冷凍部に冷媒を供給する圧縮部を有する圧力振動装置と、を持ち、
前記冷媒は、ヘリウムであり、
圧縮部から冷凍部に供給される高圧側圧力Phを3MPaとし、冷凍部から圧縮部に回収される低圧側圧力Plの圧力を1.5MPaとした、2段膨張する構成にあるGM冷凍機。」

2.引用例2の記載及び引用発明2
(1)引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「[0018] 上記の課題を鑑み、本発明は、冷却ステージ部を有する複数の真空排気ポンプが圧縮機に繋がれて動作する真空排気システムにおいて、エネルギー消費の少ない真空排気技術の提供を目的とする。」
イ.「[0030] 本発明によれば、冷却ステージ部を有する複数の真空排気ポンプが圧縮機に繋がれて動作する真空排気システムにおいて、エネルギー消費の少ない真空排気技術の提供が可能になる。」
ウ.「[0037] 以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。まず、本実施形態の真空排気システムで使用する、冷却ステージを有する真空排気ポンプについて説明する。真空排気ポンプの一例としてのクライオポンプの原理について説明する。
[0038] クライオポンプを用いた真空排気システムは、極低温を発生させる冷凍機を搭載したクライオポンプと、その冷凍機に圧縮したヘリウム等のガスを供給する圧縮機とを備えている。圧縮機から高圧のガスを冷凍機に供給し、この高圧のガスを冷凍機内の蓄冷器で予め冷却してから膨張室に充填後、膨張させて低温を発生させ周囲を冷却し、さらに蓄冷器を冷却した後、低圧となったガスを圧縮機に戻すサイクルを繰り返す。この冷凍サイクルにより得られる極低温により気体を凝縮又は吸着させることで真空排気を行っている。
[0039] 冷凍機の構成は、例えば特開平7-35070公報の図9に示されている。図11は前記公報の図9に開示された、冷凍機の構成を示す図である。図11は、ポンプ容器内に配置される冷凍機のシリンダの内部構造と、高圧側バルブおよび低圧側バルブを示す。円筒型シリンダ71の中にスライド状態で往復運動するディスプレーサ72が配置される。ディスプレーサ72とシリンダ71の間にはリング形状のシール部材73,74が設けられる。シリンダ71とディスプレーサ72の形状について、図中下部の径が小さくなっており、2段構造となっている。シリンダ71の径の大きい方の一方の端面には冷却ステージ701が接続されている。また、シリンダ71の径の小さい方の端面には冷却ステージ702が接続されている。シリンダ71の径の大きい方の、軸方向の他の端面は板部材86が接続されている。ディスプレーサ72の内部には、例えば2つの蓄冷器75,76が設けられる。蓄冷器75,76は基本的にガスを通過させる構造を有し、その構造は既知であるので詳細な説明を省略する。ディスプレーサ72の移動状態に応じて、例えば破線77のごとくガスが流れる。破線77で示されたガスの流れでは、流れが生じる可能性のあるすべての方向が矢印で示されている。実際には、図中、上から下、または下から上へのいずれか一つの方向の流れが、作動条件に応じて発生する。・・・(中略)・・・
[0049] 上記のごとく、工程(1)?(4)を繰り返すことにより冷却が行われる。上記のサイクルが基本的な冷却サイクルである。上記の基本的な冷却サイクルでは、ディスプレーサ72が上死点の位置にある時に高圧側バルブ84を閉じて低圧側バルブ82を開き、ディスプレーサ72が下死点の位置にある時に低圧側バルブ82を閉じて高圧側バルブ84を開くように、各バルブの開閉動作が制御される。従って、ディスプレーサ72が上死点または下死点に達したときに、各バルブの開閉タイミングが制御され、ガスの流れの方向が逆転される。」
エ.「[0050] 図1は、本実施形態の真空排気システムで使用する真空排気ポンプの一例を示す構成図である。具体的には、図1に示す真空排気ポンプは、二段の冷却ステージを有する冷凍機を搭載したクライオポンプである。図1において、1はクライオポンプ本体、2は二段式冷凍機、3は圧縮機、4は冷凍機駆動電源、5は冷凍機駆動電源4に内蔵されているインバータである。
[0051] クライオポンプ1に設けられている二段式冷凍機2は、第一冷却ステージ6と、第一冷却ステージ6より低い温度に維持される第二冷却ステージ7とを備えている。第二冷却ステージ7には、第二冷却ステージ7によって極低温に冷却されるクライオパネル8が接続されている。また、第一冷却ステージ6には、第一冷却ステージ6によって極低温に冷却される輻射シールド9が接続されている。輻射シールド9は、第二冷却ステージ7及びクライオパネル8を囲むように構成されている。輻射シールド9の上部開口部には、輻射シールド9を介して第一冷却ステージ6によって極低温に冷却されるルーバ10が設けられている。更に、輻射シールド9の外側を囲んで、ケーシング11が設けられている。
[0052] 二段式冷凍機2の第一冷却ステージ6には、第一冷却ステージ6を加熱するための加熱手段である電気ヒータ12と、第一冷却ステージ6の温度を測定する温度センサ(第一温度センサ)13が設けられている。また、第二冷却ステージ7には、第二冷却ステージの温度を測定するための温度センサ(第二温度センサ)14が設けられている。
[0053] 二段式冷凍機2は、高圧のヘリウム等のガスが圧縮機3から冷凍機2に供給される流路である高圧配管15aと、低圧のヘリウム等のガスが冷凍機2から圧縮機3に還流する流路である低圧配管15bとで、圧縮機3に接続されている。圧縮機3で圧縮された高圧のガスは、高圧配管15aを通って二段式冷凍機2に供給される。そして、高圧のガスは、第一膨張室と第二膨張室(いずれも図示されていない)で断熱膨張し、第一冷却ステージ6及び第二冷却ステージ7を冷却した後、低圧配管15bを通って圧縮機3に還流される。」
オ.「[0058] また、第二温度設定・制御器17には、第二冷却ステージ7の目標温度範囲が設定される。ここで、本明細書を通して、目標温度範囲とは第二冷却ステージ7が維持される温度範囲をいう。通常この目標温度範囲としては、ガスを凝縮又は吸着する能力を考慮すると第二冷却ステージ7の温度はある程度低い温度が必要であるが、一方エネルギー消費を低減する観点からは、必要以上に第二ステージを低温にする必要はない。
[0059] そこで、目標温度範囲は、例えば、10から12Kの温度範囲に設定する。」
カ.「[0118] 次に、本発明の第二の実施形態である複数の2段の冷却ステージを有する真空排気ポンプを一台の圧縮機で運転する場合について、図8に基づいて説明する。ここで、2段の冷却ステージを有する真空排気ポンプとしては、クライオポンプを使用している。
[0119] 図8において、1a乃至1eはクライオポンプ、2a乃至2eは冷凍機、3は圧縮機、15a及び15bはそれぞれ高圧配管及び低圧配管、36a乃至36eはクライオポンプ1a乃至1eのコントローラである。また、32及び33はそれぞれ高圧配管用及び低圧配管用の圧力計、34は圧力計32からの圧力と圧力計33からの圧力との差を求め、圧縮機3の駆動周波数を制御する周波数制御部である。また、35は各クライオポンプのコントローラ36a乃至36eを統括制御するコントローラである。・・・(中略)・・・
[0121] 本実施形態においても、第一の実施形態と同様に図7に示す制御をすることで、起動運転又は再生運転していないクライオポンプが繋がれている真空室では通常のプロセスを行いつつ、起動運転及び再生運転しているクライオポンプを通常運転の状態に迅速に復帰させることが出来る。」
そして、記載ウ及び図11の記載からみて、次の事項が理解できる。
キ.二段式冷凍機は、GM冷凍機である。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)及び技術が記載されていると認められる。
「第一冷却ステージと第二冷却ステージとを備えているGM冷凍機と、第一冷却ステージによって極低温に冷却されるルーバと、第二冷却ステージによって極低温に冷却されるクライオパネルと、が設けられるクライオポンプと、
その冷凍機に圧縮したヘリウムを供給する圧縮機と、
圧縮機で圧縮された高圧のガスがGM冷凍機に供給される高圧配管用の圧力計からの圧力とGM冷凍機の第一膨張室と第二膨張室で断熱膨張したガスが圧縮機に還流される低圧配管用の圧力計からの圧力との差を求め、圧縮機の駆動周波数を制御する周波数制御部と、を備え、
第2冷却ステージの目標温度範囲が10から12Kの温度範囲に設定される、クライオポンプを用いた真空排気システム。」

3.引用例3の記載及び引用発明3
(1)引用例3には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】
内部に吸入した作動気体を膨張させて吐出する熱サイクルによって寒冷を発生する冷凍機と、該冷凍機に熱的に接続されて目標温度へと冷却されるクライオパネルと、該クライオパネルの実温度が該目標温度に追従するよう該熱サイクルの周波数指令値を決定して該冷凍機に与える制御部と、を備えるクライオポンプであって、
前記制御部は、前記周波数指令値に対応する冷凍能力を前記冷凍機が出力しているか否かを作動気体の流量に基づいて推定することを特徴とするクライオポンプ。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
前記冷凍機から吐出された作動気体を高圧に圧縮して前記冷凍機に送出する圧縮サイクルを実行する圧縮機をさらに備え、
前記制御部は、前記冷凍機から吐出された作動気体圧と前記冷凍機に送出される作動気体圧との差圧が一定となるように前記圧縮サイクルの周波数を制御し、前記熱サイクルの周波数指令値に対応する冷凍能力を前記冷凍機が出力しているか否かを前記圧縮サイクルの周波数に基づいて推定することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。」
イ.「【0025】
クライオポンプ10は、第1の冷却温度レベルに冷却される第1のクライオパネルと、第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される第2のクライオパネルと、を備える。第1のクライオパネルには、第1の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。例えば基準蒸気圧(例えば10^(-8)Pa)よりも蒸気圧が低い気体が排気される。第2のクライオパネルには、第2の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。第2のクライオパネルには、蒸気圧が高いために第2の温度レベルにおいても凝縮しない非凝縮性気体を捕捉するために表面に吸着領域が形成される。吸着領域は例えばパネル表面に吸着剤を設けることにより形成される。非凝縮性気体は、第2の温度レベルに冷却された吸着領域に吸着されて排気される。
【0026】
図1に示されるクライオポンプ10は、冷凍機12とパネル構造体14と熱シールド16とを備える。パネル構造体14は複数のクライオパネルを含み、これらのパネルは冷凍機12により冷却される。パネル表面には気体を凝縮または吸着により捕捉して排気するための極低温面が形成される。クライオパネルの表面(例えば裏面)には通常、気体を吸着するための活性炭などの吸着剤が設けられる。
【0027】
クライオポンプ10は、いわゆる縦型のクライオポンプである。縦型のクライオポンプとは、熱シールド16の軸方向に沿って冷凍機12が挿入されて配置されているクライオポンプである。なお、本発明はいわゆる横型のクライオポンプにも同様に適用することができる。横型のクライオポンプとは、熱シールド16の軸方向に交差する方向(通常は直交方向)に冷凍機の第2段の冷却ステージが挿入され配置されているクライオポンプである。」
ウ.「【0028】
冷凍機12は、ギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)である。また冷凍機12は2段式の冷凍機であり、第1段シリンダ18、第2段シリンダ20、第1冷却ステージ22、第2冷却ステージ24、及び冷凍機用モータ26を有する。第1段シリンダ18と第2段シリンダ20とは直列に接続されており、互いに連結される第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサの内部には蓄冷材が組み込まれている。・・・(中略)・・・
【0030】
第1冷却ステージ22は、第1段シリンダ18の第2段シリンダ20側の端部すなわち第1段シリンダ18と第2段シリンダ20との連結部に設けられている。また、第2冷却ステージ24は第2段シリンダ20の末端に設けられている。第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24はそれぞれ第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20に例えばろう付けで固定される。」
エ.「【0032】
冷凍機12は、圧縮機40から供給される高圧の作動気体(例えばヘリウム等)を内部で膨張させて第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24に寒冷を発生させる。圧縮機40は、圧縮機40は、冷凍機12で膨張した作動気体を回収し再び加圧して冷凍機12に供給する。
【0033】
具体的には、まず圧縮機40から高圧配管42を通じて冷凍機12に高圧の作動気体が供給される。このとき、冷凍機用モータ26は、高圧配管42と冷凍機12の内部空間とを連通する状態にモータ用ハウジング27内部の可動バルブを駆動する。冷凍機12の内部空間が高圧の作動気体で満たされると、冷凍機用モータ26により可動バルブが切り替えられて冷凍機12の内部空間が低圧配管44に連通される。これにより作動気体は膨張して圧縮機40へと回収される。可動バルブの動作に同期して、第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサのそれぞれが第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20の内部を往復動する。このような熱サイクルを繰り返すことで冷凍機12は第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24に寒冷を発生させる。また、圧縮機40においては、冷凍機12から吐出された作動気体を高圧に圧縮して冷凍機12に送出する圧縮サイクルが繰り返される。」
オ.「【0035】
冷凍機12の第1冷却ステージ22には熱シールド16が熱的に接続された状態で固定され、冷凍機12の第2冷却ステージ24にはパネル構造体14が熱的に接続された状態で固定されている。このため、熱シールド16は第1冷却ステージ22と同程度の温度に冷却され、パネル構造体14は第2冷却ステージ24と同程度の温度に冷却される。
・・・(中略)・・・
【0040】
また熱シールド16の開口部31にはバッフル32が設けられている。バッフル32は、パネル構造体14とは熱シールド16の中心軸方向に間隔をおいて設けられている。バッフル32は、熱シールド16の開口部31側の端部に取り付けられており、熱シールド16と同程度の温度に冷却される。バッフル32は、真空チャンバ80側から見たときに例えば同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。なお、バッフル32と真空チャンバ80との間にはゲートバルブ(図示せず)が設けられている。このゲートバルブは例えばクライオポンプ10を再生するときに閉とされ、クライオポンプ10により真空チャンバ80を排気するときに開とされる。」
カ.「【0043】
図2は、本実施形態に係るクライオポンプ10に関する制御ブロック図である。クライオポンプ10に付随して、クライオポンプ10及び圧縮機40を制御するためのクライオポンプコントローラ(以下ではCPコントローラとも称する)100が設けられている。CPコントローラ100は、は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。CPコントローラ100は、クライオポンプ10と一体に構成されていてもよいし、クライオポンプ10とは別体に構成され互いに通信可能に接続されていてもよい。」
キ.「【0044】
なお図1及び図2においては、クライオポンプ10及び圧縮機40をそれぞれ1台ずつ備える真空排気システムが示されているが、本実施形態においてはクライオポンプ10及び圧縮機40をそれぞれ複数台備える真空排気システムを構成してもよい。そのために、CPコントローラ100は、複数のクライオポンプ10及び圧縮機40を接続可能に構成されていてもよい。
ク.「【0053】
また、CPコントローラ100は、圧縮機40の出入口間の差圧(以下では圧縮機差圧ということもある)を目標圧に維持するように圧縮機40で実行される圧縮サイクルの周波数を制御する。例えば、CPコントローラ100は、圧縮機40の出入口間の差圧を一定値とするようにフィードバック制御により圧縮サイクル周波数を制御する。具体的には、CPコントローラ100は、第1圧力センサ43及び第2圧力センサ45の測定値から圧縮機差圧を求める。CPコントローラ100は、圧縮機差圧を目標値に一致させるように圧縮機用モータ60の運転周波数(例えばモータの回転数)を決定して圧縮機用周波数変換器56にモータ運転周波数の指令値を出力する。
【0054】
このような差圧一定制御により、更なる消費電力の低減が実現される。クライオポンプ10及び冷凍機12への熱負荷が小さい場合には、上述のクライオパネル温度制御により冷凍機12での熱サイクル周波数は小さくなる。そうすると、冷凍機12で必要とされる作動気体流量は小さくなるから、圧縮機40の出入口間差圧は拡大しようとする。しかし、本実施形態では圧縮機差圧を一定にするように圧縮機用モータ60の運転周波数が制御され圧縮サイクル周波数が調整される。よって、この場合、圧縮機用モータ60の運転周波数は小さくなる。したがって、典型的なクライオポンプのように圧縮サイクルを常に一定とする場合に比べて、消費電力を低減することができる。」
ケ.「【0058】
温度による診断処理は単純な制御アルゴリズムにより実現することができるという利点がある。しかし、正常時の第2段クライオパネル及び第2冷却ステージ24の温度は比較的狭い範囲に保つことが必要とされるため、クライオパネル温度が判定基準温度に到達してからごく短時間のうちにプロセス限界温度にまで到達してしまうおそれがある。例えば、正常時において第2段クライオパネル温度は例えば10K乃至15K程度とされ、プロセス限界温度は例えば20Kである。判定基準温度は例えば15Kから20Kの間に設定される。」
コ.「【0073】
以上の構成のクライオポンプ10による動作を以下に説明する。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプを用いて真空チャンバ80内部を1Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。冷凍機12の駆動により第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24が冷却され、これらに熱的に接続されている熱シールド16、バッフル32、パネル構造体14も冷却される。
【0074】
冷却されたバッフル32は、真空チャンバ80からクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。バッフル32の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はバッフル32を通過して熱シールド16内部へと進入する。進入した気体分子のうちパネル構造体14の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えばアルゴンなど)は、パネル構造体14の表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、パネル構造体14の表面に接着され冷却されている吸着剤により吸着されて排気される。このようにしてクライオポンプ10は真空チャンバ80内部の真空度を所望のレベルに到達させることができる。」
そして、記載ア、イ、オ及びコ並びに図1の記載からみて、次の事項が理解できる。
サ.第1のクライオパネルは、第1冷却ステージに熱的に接続され、第1のクライオパネルよりも低温に冷却される第2のクライオパネルは、第2冷却ステージに熱的に接続される。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)及び技術が記載されていると認められる。
「第1冷却ステージが第1段シリンダの第2段シリンダ側の端部に設けられ、第2冷却ステージが第2段シリンダの末端に設けられた2段式のGM冷凍機と、第1冷却ステージに熱的に接続された第1のクライオパネルと、第2冷却ステージに熱的に接続され、第1のクライオパネルよりも低温に冷却される第2のクライオパネルと、を備えるクライオポンプ10と、
冷凍機から吐出された作動気体を高圧に圧縮して冷凍機に送出する圧縮サイクルを実行する圧縮機と、
圧縮機の出入口間の差圧を目標圧に維持するように圧縮サイクルの周波数を制御するCPコントローラと、を備え、
作動気体がヘリウムであり、
第2段クライオパネル温度は10K乃至15K程度とされた真空排気システム。」

4.引用例4の記載
(1)引用例4には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【0003】多段蓄冷器式冷凍機を用いたクライオポンプは、図5に示すように、コンプレッサ31と、このコンプレッサ31ヘガス配管32により接続された極低温冷凍機、例えばGM(ギフォード・マクマホン)冷凍機20とからなり、この冷凍機20へ真空容器30(一部のみ示す)を連結する。
【0004】冷凍機20は、第1段冷却ステージ21に第1段クライオパネル23を取付け、第2段冷却ステージ22に第2段クライオパネル24を取り付けている。第2段クライオパネル24上には活性炭等の吸着剤25が載置されている。第2段クライオパネル24の上方にはシェブロン26が配置されている。
・・・(中略)・・・
【0006】このような原理のクライオポンプに対して様々な改良が加えられ、第1段冷却ステージ21を50K程度、第2段冷却ステージ22を4K程度まで冷却可能として、第2段クライオパネル24上の吸着剤25を不要としたクライオポンプも提供されている。」
イ.「【0007】次に、図6を参照して、多段蓄冷器式冷凍機の概略を説明する。ここでは2段GM冷凍機の場合について示している。図6において、この冷凍機は、直径の異なるパイプを同軸上に連結して構成された第1段シリンダ41、第2段シリンダ42を有する。第1段シリンダ41内には、上死点及び下死点間を往復運動可能に第1段ディスプレーサ43が配設されている。また、第2段シリンダ42内には上死点及び下死点間を往復連動可能に第2段ディスプレーサ44が配設されている。図6では具体的構造について図示を省略しているが、第1段ディスプレーサ43と第2段ディスプレーサ44は、自在継手で連結されている。
【0008】第1段シリンダ41の内壁と第1段ディスプレーサ43の外壁との間には第1段シ一ル46が設けられ、第2段シリンダ42の内壁と第2段ディスプレーサ44の外壁との間には第2段シール47が設けられている。詳しい構造は図示を省略するが、第1段ディスプレーサ43内には第1段蓄冷器48が充填され、第2段ディスプレーサ44内には第2段蓄冷器49が充填されている。第1段シリンダ41の低温側の端部の外周面には第1段冷却ステージ51が配設され、第2段シリンダ42の低温側の端部の外周面にはこれを覆うように第2段冷却ステージ52が配設されている。
【0009】第1段シリンダ41の低温側の端部内には、第1段ディスプレーサ43の往復運動により容積が変化する第1段膨張室53が形成され、第2段シリンダ42の低温側の端部内には、第2段ディスプレーサ44の往復運動により容積が変化する第2段膨張室54が形成されている。」
ウ.「【0010】この冷凍機には、作動ガスとしてのへリウムガスを圧縮するコンプレッサ61(図5のコンプレッサ31に対応)を含む冷媒回路が接続される。」
エ.「【0021】例えば、クライオポンプ用の2段GM冷凍機の場合、冷却ステージの冷凍温度は、通常運転において第1段冷却ステージ温度が80?90K、第2段冷却ステージ温度は10?12Kが要求される。
オ.「【0035】
【発明の実施の形態】図1を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。図1は、クライオポンプに使用されている2段GM冷凍機における第1段ディスプレーサ43と第2段ディスプレーサ44との間の作動ガスの流れを、図7あるいは図8と同じ部分について示した図である。それ故、図7、図8と同じ部分には同一番号を付している。」
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例4には次の技術が記載されていると認められる。
「第1段シリンダの低温側の端部の外周面には第1段冷却ステージが配設され、第2段シリンダの低温側の端部の外周面には第2段冷却ステージが配設された2段GM冷凍機と、第1段冷却ステージに取り付けられた第1段クライオパネルと、第2段冷却ステージに取り付けられた第2段クライオパネルと、作動ガスを圧縮するコンプレッサと、備え、
作動ガスは、ヘリウムガスであり、
第2段冷却ステージ温度は10?12Kが要求されるクライオポンプ。」

第5 対比・判断

1.引用発明1を主発明とする特許法第29条第2項について
(1)対比
本願発明と引用発明1を対比する。
ア.引用発明1の「第1コールドステージ」、「第2コールドステージ」及び「冷媒」は、それぞれ、本願発明の「高温冷却ステージ」、「低温冷却ステージ」及び「作動ガス」に相当する。そして、本願の請求項1の記載からみて、本願発明において、GM冷凍機は、該GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備える圧縮機ユニットを含まない。
そうすると、引用発明1の「1段目シリンダ、2段目シリンダ、1段目ディスプレーサピストン、2段目ディスプレーサピストン及び駆動機構を備え、1段目シリンダの前端面側(即ち、第1膨張空間の外周側)には第1コールドステージが、2段目シリンダの前端面側(即ち、第2膨張空間の外周側)には第2コールドステージが、それぞれ取り付けられている冷凍部」は、本願発明の「低温冷却ステージ及び高温冷却ステージを備えるGM冷凍機」に相当する。そして、引用発明1の「冷凍部に冷媒を供給する圧縮部」は、本願発明の「前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体」に相当し、引用発明1の「冷凍部に冷媒を供給する圧縮部を有する圧力振動装置」は、本願発明の「前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備え、前記圧縮機本体の運転周波数が可変である圧縮機ユニット」と、「GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備える圧縮機ユニット」である点で一致する。
イ.引用発明1の「前記冷媒は、ヘリウムであ」ることは、本願発明の「前記作動ガスは、ヘリウムであ」ることに相当する。
ウ.引用発明1の「圧縮部から冷凍部に供給される高圧側圧力Ph」及び「冷凍部から圧縮部に回収される低圧側圧力Pl」は、それぞれ、本願発明の「前記圧縮機本体の高圧」及び「前記圧縮機本体の」「低圧」に相当する。そして、引用発明1は、前記高圧側圧力Phを3MPa、前記低圧側圧力Plの圧力を1.5MPaとしており、前記高圧側圧力Phと前記低圧側圧力Plとの圧力比が2となるから、引用発明1の「圧縮部から冷凍部に供給される高圧側圧力Phを3MPaとし、冷凍部から圧縮部に回収される低圧側圧力Plの圧力を1.5MPaとした」ことは、本願発明の「前記圧縮機ユニットは、前記圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比が1.9から2.1の範囲で運転され」ることに相当する。
エ.引用発明1の「2段膨張する構成にあるGM冷凍機」は、冷凍部と圧縮振動装置とを持つものであるから、本願発明の「クライオポンプシステム」と、少なくとも「GM冷凍機と、圧縮ユニットと、を備えるシステム」である点で一致する。
オ.以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「低温冷却ステージ及び高温冷却ステージを備えるGM冷凍機と、
前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備える圧縮機ユニットと、を備え、
前記作動ガスは、ヘリウムガスであり、
前記圧縮機ユニットは、前記圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比が1.9から2.1の範囲で運転されるシステム。」
【相違点1】
本願発明は、システムがクライオポンプシステムであって、GM冷凍機と、該GM冷凍機の低温冷却ステージにより冷却される低温クライオパネルと、該GM冷凍機の高温冷却ステージにより冷却される高温クライオパネルと、によって少なくとも1つのクライオポンプを構成し、前記低温クライオパネルが10Kから12Kの温度領域に冷却され、前記GM冷凍機が、前記低温冷却ステージでの冷凍効率が前記温度領域のある冷却温度につき1.9から2.1の範囲から選択された圧力比で最大化されるのに対し、
引用発明1は、システムがクライオポンプシステムではなく、低温冷却ステージ(第2コールドステージ)の温度領域が特定されておらず、圧力比が2である点。
【相違点2】
本願発明は、圧縮機本体の運転周波数が可変であるのに対し、引用発明1は、圧縮機本体(圧縮部)の運転周波数が可変であるか否か不明である点。
(2)判断
ア.相違点1について検討する。
低温冷却ステージと高温冷却ステージを備えるGM冷凍機を、該低温冷却ステージにより冷却される低温クライオパネルと該高温冷却ステージにより冷却される高温クライオパネルとを備える少なくとも1つのクライオポンプシステムに用いることは、例えば引用例2?4に記載されているように周知であり、クライオポンプシステムにおいて低温クライオパネルが冷却される温度領域として、10Kから12Kも、例えば引用例2?4に記載されているように特別なものではない。
引用例1の記載、特に記載ア、イ及びケを参照すると、引用例1には、GM冷凍機において,冷凍能力と冷凍効率とを同時に向上させるという技術的課題が記載され、当該課題を解決するために、圧縮機本体の高圧(圧縮部から冷凍部に供給される高圧側圧力Ph)を高く設定することにより、所望の冷凍能力を得るために必要な、前記高圧と圧縮機本体の低圧(冷凍部から圧縮部に回収される低圧側圧力Pl)との圧力差を確保しつつ、前記高圧と前記低圧との圧力比を小さくして冷凍効率を向上させることが記載されている。そうすると、引用発明1において、圧縮機ユニット(圧縮振動装置)を前記圧力比が第1の所定値以下で運転し、冷凍効率を向上させることは、当業者が容易に想到し得る事項である。また、冷凍効率を向上させつつ、所望の冷凍能力を得るために必要な前記圧力差を確保するためには、前記高圧を高く設定することとなるが、圧縮機本体(圧縮部)の能力やGM冷凍機(冷凍部)や前記圧縮機本体等の機械的強度により、前記高圧を高く設定していくことには限度があることは、当業者にとって明らかであるから、前記圧縮機本体の能力や前記GM冷凍機や前記圧縮機本体等の機械的強度を考慮して、前記圧縮機ユニットを前記圧力比が第1の所定値より小さい第2の所定値以上で運転することも、当業者が容易に想到し得る事項である。そして、前記のとおり、引用発明1は、冷凍効率を向上させることを解決すべき課題の一つとしているから、引用発明1において、前記圧縮機ユニットを、前記第2の所定値以上かつ前記第1の所定値以下の範囲内であって冷凍効率が最高となる圧力比で運転するようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。そして、引用例1の記載ア(前記「第4 1(1)」参照)からみて、引用例1に記載された「冷凍効率」は、本願発明の「低温冷却ステージでの冷凍効率」に相当するものである。
更に、引用発明1において、前記圧力比を具体的に定めるにあたり、前記範囲を、引用例1に実施形態として記載された前記高圧を3MPa、前記低圧を1.5MPa、すなわち前記圧力比2を含む範囲とし、当該範囲内で冷凍効率が最大値となる圧力比とすることは、当業者が通常発揮し得る創作力の範囲内のものである。
一方、本願発明において、前記圧力比の範囲を1.9から2.1の範囲とすることに、臨界的な意義は見いだせない。
そうすると、引用発明1において、相違点1に係る本願発明1を特定する事項を備えるようにすることは、前記周知技術に基いて、当業者が容易になし得る事項である。
イ.相違点2について検討する。
GM冷凍機に作動ガスを供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体の運転周波数を可変とすることは、例えば引用例2及び3に記載されているように周知である。
そうすると、引用発明1において、相違点2に係る本願発明1を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得る事項である。
ウ.本願発明の奏する効果に、引用例1に記載された事項及び前記周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
エ.したがって、本願発明は、引用発明1及び前記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.引用発明2を主発明とする特許法第29条第2項について
(1)対比
本願発明と引用発明2を対比する。
ア.引用発明2の「第一冷却ステージ」及び「第二冷却ステージ」は、それぞれ、本願発明の「高温冷却ステージ」及び「低温冷却ステージ」に相当するから、引用発明2の「第一冷却ステージと第二冷却ステージとを備えているGM冷凍機」は、本願発明の「低温冷却ステージ及び高温冷却ステージを備えるGM冷凍機」に相当する。
そして、引用発明2の「ルーバ」及び「クライオパネル」は、それぞれ,本願発明の「高温クライオパネル」及び「低温クライオパネル」に相当するから、引用発明2の「第一冷却ステージによって極低温に冷却されるルーバ」及び「第二冷却ステージによって極低温に冷却されるクライオパネル」は、それぞれ,本願発明の「前記高温冷却ステージにより冷却される高温クライオパネル」及び「前記低温冷却ステージにより冷却される低温クライオパネル」に相当する。
そうすると、引用発明2の「第一冷却ステージと第二冷却ステージとを備えているGM冷凍機と、第一冷却ステージによって極低温に冷却されるルーバと、第二冷却ステージによって極低温に冷却されるクライオパネルと、が設けられるクライオポンプ」は、本願発明の「低温冷却ステージ及び高温冷却ステージを備えるGM冷凍機と、前記低温冷却ステージにより冷却される低温クライオパネルと、前記高温冷却ステージにより冷却される高温クライオパネルと、を備える少なくとも1つのクライオポンプ」に相当する。
イ.引用発明2の「その冷凍機に圧縮したヘリウムを供給する圧縮機」は、本願発明の「前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体」に相当し、引用発明2の「圧縮機の駆動周波数」は、本願発明の「圧縮機本体の運転周波数」に相当する。
そして、引用発明2は、「圧縮機で圧縮された高圧のガスがGM冷凍機に供給される高圧配管用の圧力計からの圧力とGM冷凍機の第一膨張室と第二膨張室で断熱膨張したガスが圧縮機に還流される低圧配管用の圧力計からの圧力との差を求め、圧縮機の駆動周波数を制御する周波数制御部」を備えており、圧縮機の駆動周波数が前記高圧配管用の圧力計からの圧力と前記低圧配管用の圧力計からの圧力との差に基づいて制御されるから、引用発明2の「その冷凍機に圧縮したヘリウムを供給する圧縮機」と「圧縮機で圧縮された高圧のガスがGM冷凍機に供給される高圧配管用の圧力計からの圧力とGM冷凍機の第一膨張室と第二膨張室で断熱膨張したガスが圧縮機に還流される低圧配管用の圧力計からの圧力との差を求め、圧縮機の駆動周波数を制御する周波数制御部」は、合わせて、本願発明の「前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備え、前記圧縮機本体の運転周波数が可変である圧縮機ユニット」に相当する。
ウ.引用発明2は、圧縮機がヘリウムをGM冷凍機に供給するから、本願発明の「前記作動ガスは、ヘリウムガスであ」ることに相当する事項を備えている。
エ.引用発明2は、クライオパネルが第二冷却ステージによって冷却されており、該クライオパネルの温度は該第二冷却ステージの温度に等しいといえるから、引用発明2の「第2冷却ステージの目標温度範囲が10から12Kの温度範囲に設定される」ことは、本願発明の「前記低温クライオパネルは、10Kから12Kの温度領域に冷却され」ることに相当する。
オ.引用発明2の「クライオポンプを用いた真空排気システム」は、本願発明の「クライオポンプシステム」に相当する。
カ.以上のことから、本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
低温冷却ステージ及び高温冷却ステージを備えるGM冷凍機と、前記低温冷却ステージにより冷却される低温クライオパネルと、前記高温冷却ステージにより冷却される高温クライオパネルと、を備える少なくとも1つのクライオポンプと、
前記GM冷凍機に供給される作動ガスを圧縮する圧縮機本体を備え、前記圧縮機本体の運転周波数が可変である圧縮機ユニットと、を備え、
前記作動ガスは、ヘリウムガスであり、
前記低温クライオパネルは、10Kから12Kの温度領域に冷却され、るクライオポンプシステム。
【相違点3】
本願発明は、圧縮機ユニットが、圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比が1.9から2.1の範囲で運転され、GM冷凍機が、低温冷却ステージでの冷凍効率が10Kから12Kの温度領域のある冷却温度につき前記範囲から選択された圧力比で最大化されるのに対し、
引用発明2は、圧縮機本体(圧縮機)の高圧(圧縮機で圧縮された高圧のガスが二段式冷凍機に供給される高圧配管用の圧力計からの圧力)と低圧(二段式冷凍機の第一膨張室と第二膨張室で断熱膨張したガスが圧縮機に還流される低圧配管用の圧力計からの圧力)との差を求め、前記圧縮機本体の運転周波数(駆動周波数)を制御するものであるが、圧縮機ユニット(圧縮機及び周波数制御部)圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比がどの程度で運転されるのか不明である点。
(2)判断
ア.相違点3について検討する。
引用例2の記載ア及びイ(前記「第4 2(1)」参照)からみて、引用発明2は、エネルギー消費の少ない真空排気技術の提供を解決すべき課題としている。そして、引用例1に記載された技術は、前記「1(2)」において述べたとおり、冷凍効率を向上させることを解決すべき課題の一つとしているから、引用発明2と引用例1に記載された技術は、同一又は類似した課題を有するものであって、前者に後者を適用することは、当業者にとって容易である。
そして、前記「1(2)」において検討した理由と同様の理由により、引用発明2に引用例1に記載された技術を適用するにあたり、圧縮機ユニットを、所定の範囲内であって冷凍効率が最高となる、圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比で運転するようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、前記所定の範囲を具体的に定めるにあたり、引用例1に実施形態として記載された前記圧力比2を含む範囲とすることは、当業者が通常発揮し得る創作力の範囲内のものである。
そうすると、引用発明2において、相違点3に係る本願発明1を特定する事項を備えるようにすることは、引用例1に記載された技術に基いて、当業者が容易になし得る事項である。
ウ.本願発明の奏する効果に、引用例1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
エ.したがって、本願発明は、引用発明2及び引用例1に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.請求人の主張
(1)請求人は、平成30年10月19日付けの意見書において、「請求項1に係る発明は、『前記圧縮機ユニットは、前記圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比が1.9から2.1の範囲で運転され、前記低温クライオパネルは、10Kから12Kの温度領域に冷却され、前記GM冷凍機は前記低温冷却ステージでの冷凍効率が、前記温度領域のある冷却温度につき前記範囲から選択された圧力比で最大化される』との構成を有するのに対し、引用文献1(当審注:本審決における引用例1)に記載された発明は、このような構成を備えない点で、両者は相違します。
とくに、『前記GM冷凍機は前記低温冷却ステージでの冷凍効率が、前記温度領域のある冷却温度につき前記範囲から選択された圧力比で最大化される』ことに相当する事項は、引用文献1に開示は無く、これを示唆する記載もありません。」と主張している(「【意見の内容】3-2(c)」参照)。
請求人の当該主張について検討する。本願の発明の詳細な説明(特に段落0042?0050参照)には、ある実施形態に関して、低温冷却ステージの冷凍効率は、圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比のある圧力比において最大値をとること(段落0044)、例えばヘリウムである作動ガスの温度が約8Kから約20Kである場合、前記冷凍効率を最大化する前記圧力比が存在すること(段落0044)、前記作動ガスの温度が約9Kから約15Kである場合、前記冷凍効率は、約1.6から約2.5の圧力比範囲の中で最大値をとること(段落0045?0046)、及び前記作動ガスの温度が11Kである場合、前記冷凍効率は、前記圧力比が約1.9であるとき最大値の約0.028となること(段落0044)が記載され、更に「好ましくは、圧縮機ユニット50は、約1.9から約2.1の圧力比範囲から選択される圧力比Prで運転されてもよい。この場合、冷凍機12の第2ステージ16は約10Kから約12Kの温度領域に冷却されてもよい。」(段落0047)と記載されているが、低温冷却ステージが約10Kから約12Kの温度領域に冷却される場合、前記冷凍効率が約1.9から約2.1の圧力比範囲の中で最大値をとるとは記載されていない。
更に、本願の図3の記載を参照すると、前記作動ガスの温度が12Kである場合、前記冷凍効率は、前記作動ガスの温度が11Kである場合に前記冷凍効率が最大値をとる前記圧力比(約1.9)よりも低い、前記圧力比1.8付近で最大値をとること、及び前記作動ガスの温度が10Kである場合、前記冷凍効率は、前記作動ガスの温度が11Kである場合に前記冷凍効率が最大値をとる前記圧力比(約1.9)よりも高い、前記圧力比2.2付近で最大値をとることが看取できる。
そうすると、本願の請求項1に記載された「前記圧縮機ユニットは、前記圧縮機本体の高圧と低圧との圧力比が1.9から2.1の範囲で運転され、前記低温クライオパネルは、10Kから12Kの温度領域に冷却され、前記GM冷凍機は前記低温冷却ステージでの冷凍効率が、前記温度領域のある冷却温度につき前記範囲から選択された圧力比で最大化される」との事項は、前記低温クライオパネルが10Kから12Kの温度領域に冷却される場合、前記冷凍効率は、1.9から2.1の範囲内のある圧力比において、1.9から2.1の範囲を超えた前記圧力比の範囲(例えば図3に記載された、1.4から4.0の範囲)における前記冷凍効率の最大値をとると解すべきものではなく、前記低温クライオパネルを10Kから12Kの温度領域のある冷却温度に冷却するとともに、1.9から2.1の前記圧力比の範囲の中で、当該冷却温度での前記冷凍効率が最大値となる圧力比で前記圧縮機ユニットを運転する(すなわち、1.9から2.1の範囲を超えた前記圧力比の範囲において前記冷凍効率が最大値をとる圧力比が1.9から2.1の範囲の外にある場合を含む)と解すべきものである。
前記低温クライオパネルを10Kから12Kの温度領域のある冷却温度に冷却するとともに、1.9から2.1の前記圧力比の範囲の中で、当該冷却温度での前記冷凍効率が最大値となる圧力比で前記圧縮機ユニットを運転することは、前記「1(2)」及び「2(2)」で検討したとおり、引用発明1及び周知技術に基いて、又は引用発明2及び引用例1に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、請求人の前記主張は、これを認めることができない。
(2)請求人は、前記意見書において、「引用文献1は、請求項1に係る発明の契機となった作動ガス(ヘリウムガス)を実在気体として考察することを提示しておりません。
さらに、請求項1に係る発明の作用効果、すなわち、GM冷凍機を10Kから12Kの温度領域において最大の又はそれに近い冷凍効率εで運転することができ、それにより、クライオポンプシステムの省エネルギー性能を向上することができることについても、引用文献1には記載されておりません。」と主張している(「【意見の内容】3-2(d)」参照)。
確かに、引用例1には、作動ガスを実在気体として考察する旨の記載はない。しかしながら、前記「第4 1(1)」において検討したとおり、引用例1には、作動ガス(冷媒)をヘリウムガスとすることは記載されているといえ、作動ガスはヘリウムガスであるである点において、引用発明1と本願発明との間に違いはない。
そして、請求人が本願発明に係る効果と主張する、GM冷凍機を10Kから12Kの温度領域において最大の又はそれに近い冷凍効率εで運転することができるという点は、前記「(1)」で検討したのと同様の理由により、前記圧力比を1.9から2.1の範囲とした場合における当該範囲内での最大の又はそれに近い前記冷凍効率で運転することができると解すべきものであって、引用例1に記載された事項及び周知技術に基いて、又は引用例1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。更に、GM冷凍機の冷凍効率が高くなれば、当該GM冷凍機を用いたクライオポンプシステムの省エネルギー性能が向上することは、当業者が当然に想到し得る事項である。
したがって、請求人の前記主張も、本願発明の特許性に関する判断を異ならせるものではない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-20 
結審通知日 2019-01-08 
審決日 2019-01-21 
出願番号 特願2013-239757(P2013-239757)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 長馬 望
久保 竜一
発明の名称 クライオポンプシステム、及びクライオポンプシステムの運転方法  
代理人 森下 賢樹  
代理人 富所 輝観夫  

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