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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1349658
異議申立番号 異議2017-701072  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-14 
確定日 2019-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6128242号発明「非水系電解液用添加剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6128242号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-2〕、〔3-4〕、〔5-6〕、7について訂正することを認める。 特許第6128242号の請求項5に係る特許を維持する。 特許第6128242号の請求項1?4、6?7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6128242号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年4月13日(優先権主張 平成23年4月13日 日本国(JP))を出願日とする特願2012-92111号の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づき、平成28年2月10日に分割して新たな特許出願としたものであって、平成29年4月21日に特許権の設定登録がされ、同年5月17日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、本件特許の全請求項(請求項1?7)に対し、特許異議申立人 松永健太郎(以下「異議申立人」という。)より、平成29年11月14日に特許異議の申立てがなされ、平成30年1月24日付けで当審より異議申立人に対して審尋をして回答書の提出を求めたが、その審尋の指定期間内に回答書は提出されず、同年4月23日付けで当審より取消理由が通知され、同年6月13日に特許権者代理人 弁理士 金山賢教らとの面接が行われ、前記取消理由の通知の指定期間内である同年6月26日付けで特許権者より訂正請求書及び意見書の提出があり、前記訂正請求書に対し、同年8月24日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、これに対し、その指定期間内である同年10月1日付けで特許権者より前記訂正請求書についての手続補正書及び意見書の提出があり、同年11月14日付けで異議申立人より意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成30年6月26日付けの訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)」)は、請求項1?2の一群の請求項、請求項3?4の一群の請求項、請求項5?6の一群の請求項について訂正を請求するとともに、請求項7について請求項ごとに訂正を請求するものであり、本件訂正請求の内容は、同年8月24日付けで当審より通知された、請求項1?7についての明細書の記載の訂正事項を含む訂正請求は適法な訂正請求とはいえない旨の訂正拒絶理由に対処するために行われた、明細書の記載の訂正事項を削除する旨の同年10月1日付けの手続補正書によって補正され、以下のとおりとなった。
(1) 訂正事項1
請求項1?2の一群の請求項についての訂正事項を訂正事項1にまとめ、当該訂正事項に関する個々の訂正事項は訂正事項1-1等とした。
(1-1) 訂正事項1-1
請求項1を削除する。

(1-2) 訂正事項1-2
請求項2を削除する。

(2) 訂正事項2
請求項3?4の一群の請求項についての訂正事項を訂正事項2にまとめ、当該訂正事項に関する個々の訂正事項は訂正事項2-1等とした。
(2-1) 訂正事項2-1
請求項3を削除する。

(2-2) 訂正事項2-2
請求項4を削除する。

(3) 訂正事項3
請求項5?6の一群の請求項についての訂正事項は、次のとおり。
請求項6を削除する。

(4) 訂正事項4
請求項7についての請求項ごとの訂正事項は、次のとおり。
請求項7を削除する。


2. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許
請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
(1-1) 訂正事項1-1
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(1-2) 訂正事項1-2
訂正事項1-2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2
(2-1) 訂正事項2-1
訂正事項2-1は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2-2) 訂正事項2-2
訂正事項2-2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項1?4について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1?4には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。
また、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1を引用する請求項であって請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるし、訂正前の請求項4は訂正前の請求項3を引用する請求項であって請求項3の訂正に連動して訂正されるものであるし、訂正前の請求項6は訂正前の請求項5を引用する請求項であって請求項5の訂正がある場合には、その訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?2、訂正前の請求項3?4、訂正前の請求項5?6は、それぞれ、一群の請求項であるところ、訂正事項1?3は、それら一群の請求項に対してされたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項4は請求項ごとに請求されたものであるから、特許法120条の5第3項の規定に適合する。
そして、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1-2〕、〔3-4〕、〔5-6〕、7をそれぞれ訂正単位として訂正の請求をするものである。


3. むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-2〕、〔3-4〕、〔5-6〕、7について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、平成30年10月1日付けの手続補正書によって補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲(以下、単に、「訂正特許請求の範囲」という。)の請求項1?7に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを含み、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して1.0×10^(-5)mol/kg以上2.5×10^(-1)mol/kg以下であることを特徴とする非水系電解液用添加剤。
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)」

すなわち、訂正特許請求の範囲においては、訂正前の請求項1?4、6?7に係る発明は存在しないものとなった。
訂正特許請求の範囲の請求項5に係る発明を、以下では、「本件特許発明」ということがある。


第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第3号証を提出して、以下の申立理由1?3によって、訂正前の本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1
本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に対して、新規性及び進歩性を具備せず、請求項1?7に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものである。

(2) 申立理由2
本件特許の請求項3、5に係る発明は、甲第2号証に記載の発明に対して、新規性及び進歩性を具備せず、請求項3、5に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものである。

(3) 申立理由3
以下の(A)?(E)の理由により、本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項1?7に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(A) 本件特許の請求項1?7の「非水系電解液用添加剤」には、フルオロスルホン酸リチウムとカルボン酸、ハロゲン元素及び/又は硫酸イオンとを極微量しか含有しない「非水系電解液用添加剤」の態様も含まれるが、本件特許の実施例においてその効果が確認されているのは、「所定の割合でカルボン酸、ハロゲン元素及び/又は硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウム」のみで、フルオロスルホン酸リチウムとカルボン酸、ハロゲン元素及び/又は硫酸イオンとを極微量しか含有しない「非水系電解液用添加剤」であっても、課題が解決できるとは、当業者には到底認識されない。

(B) 本件特許の請求項1、3、5においては、それぞれ、カルボン酸、ハロゲン元素又は硫酸イオンのいずれかの含有量のみが規定されているが、甲第3号証において得られているフルオロスルホン酸リチウム等、常法で製造されるフルオロスルホン酸リチウムには、カルボン酸イオン、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン等の不純物が複数種混在しており、これらの不純物のうち、一種のみの不純物の濃度が所定の範囲であったとしても、他の不純物の濃度が所定の範囲から外れる場合には、本件特許の発明の課題を解決し得ないため、本件特許の請求項1、3、5は、本件特許の発明の課題を解決し得ない範囲を含む。

(C) 本件特許の請求項2、4、6、7においては、カルボン酸、ハロゲン元素及び硫酸イオンの全ての含有量が規定されているが、本件特許の発明の詳細な説明の実施例には、カルボン酸、ハロゲン元素及び硫酸イオンの全ての含有量が所定の範囲にあるフルオロスルホン酸リチウムは記載されていない。

(D) 本件特許の請求項5においては、「硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して1.0×10^(-5)mol/kg以上2.5×10^(-1)mol/kg以下である」と広範な数値範囲が規定されている一方で、本件特許の実施例において確認されているのは、上記数値範囲の上限値近傍において、0.263mol/kgの硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを用いた場合(比較例1)よりも、0.115mol/kgの硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを用いた場合(実施例1)の方が初期放電容量及び高温保存時のガス発生の抑制に関して良好な結果が得られたことのみであり、出願時の技術常識に照らしても、実施例1に基づいて、本件特許の請求項5の広範な数値範囲の下限値近傍にまで拡張ないし一般化することはできない。
これは、本件特許の他の請求項においても同様である。

(E)
(E-1) 本件特許の請求項1?7は、特許文献1等の従来のフルオロスルホン酸リチウムを電解質として用いた場合よりも、「初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性」を改善することを課題としていることは明らかであり、本件特許の発明の詳細な説明全体を考慮したとしても、この課題が変わることはないが、本件特許の発明の詳細な説明の実施例の記載を参酌しても、初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性についての具体的評価は一切示されておらず、本件特許の請求項1?7の課題が解決できていることを把握することができない。
(E-2) 本件特許の発明の詳細な説明の実施例においては、「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調整し、この基本電解液に、カルボン酸、ハロゲン元素又は硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを所定量含有するように混合した」ことを前提として、比較例よりも実施例の方がガス発生抑制等に関して良好な結果が得られることが示されているが、前記前提に基づく一例の実験結果のみでは、ガス発生抑制等に関して良好な結果が得られることが、所定のカルボン酸、ハロゲン元素及び/又は硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムのみによってもたらされるとは認められないし、さらに、前記前提は本件特許の請求項1?7に一切反映されていない。
したがって、仮にガス発生抑制等が本件特許の請求項1?7の課題であると仮定したとしても、実施例に基づいて、本件特許の請求項1?7により課題が解決されていることを把握することはできない。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開2012-230897号公報
甲第2号証:V.I.Sirenko et al.,“Aprotic Electrolytes Containing
Lithium Fluorosulfonate”,Rusian Journal of
Electrochemistry,Vol.35,No.10,1999,p.1133-1136.
Translated from Elektrokhimiya,Vol.35,No.10,1999,
p.1286-1289
甲第3号証:特開2012-218985号公報


2. 取消理由の概要
訂正前の請求項1?7に係る特許に対して、上記(B)、(C)、(E-1)の理由をおおむね採用して、「本件の請求項1?7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである」旨の平成30年4月23日付けの取消理由を特許権者に通知した。


第5 当審の判断
1. 取消理由についての検討
特許法第36条第6項第1号に規定する要件、いわゆる、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決すべき課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明が解決すべき課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから(知的財産高等裁判所特別部 平成17年(行ケ)第10042号判決参照。)、以下、当該観点に立って検討する。

(1) 発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。
(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)
ア. 「【技術分野】
【0001】
本発明は、特定量のカルボン酸が含まれるフルオロスルホン酸リチウム、特定量のハロゲン元素が含まれるフルオロスルホン酸リチウム、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムのいずれかを含有する非水系電解液用添加剤に関するものである。」

イ. 「【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等の広範な用途にリチウム二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており、電池特性、例えば高容量、高出力、高温保存特性、サイクル特性等を高い水準で達成することが求められている。
【0003】
特に電気自動車用電源としてリチウム二次電池を使用する場合、電気自動車は発進、加速時に大きなエネルギーを要し、また、減速時に発生する大きなエネルギーを効率よく回生させなければならないため、リチウム二次電池には、高い出力特性、入力特性が要求される。また、電気自動車は屋外で使用されるため、寒冷時期においても電気自動車が速やかに発進、加速できるためには、リチウム二次電池には、特に、-30℃のような低温における高い入出力特性(電池内部インピーダンスが低いこと)が要求される。加えて、高温環境下で繰り返し充放電させた場合においてもその容量の劣化が少なく、電池内部インピーダンスの増加が少ない必要がある。
【0004】
また、電気自動車用途のみならず、各種バックアップ用途や、電力供給の負荷平準化用途、自然エネルギー発電の出力安定化用途等の定置用大型電源としてリチウム二次電池を使用する際には、単電池が大型化されるだけでなく、多数の単電池が直並列接続される。このため、個々の単電池の放電特性のばらつきや、単電池間における温度のばらつき、個々の単電池の容量や充電状態のばらつきといった各種の非一様性に起因する信頼性や安全性の問題が生じやすい。電池設計や管理が不適切であると、上記のような組電池を構成する単電池の一部だけが高い充電状態のまま保持されたり、あるいは電池内部の温度が上昇して高温状態に陥るというような問題を生じる。
即ち、現在の非水系電解液二次電池には、初期の容量と入出力特性が高く、電池内部インピーダンスが低いこと、高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後の容量維持率が高いこと、耐久試験後でも入出力性能とインピーダンス特性に優れること、といった項目が、極めて高いレベルで要求される。
【0005】
これまで、非水系電解液二次電池の入出力特性、インピーダンス特性、高温サイクル特性、高温保存特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質や、非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。例えば特許文献1には、LiFSO_(3)を電解質とすると、60℃充放電サイクル評価時の放電容量が高い電池が得られることが記載されている。特許文献1によると、電解質にLiClO_(4)を用いた場合、正極活物質の貴な電位によりLiClO_(4)が分解し活性酸素が生成し、この活性酸素が溶媒を攻撃して溶媒の分解反応を促進させる。また、電解質にCF_(3)SO_(3)Li、LiBF_(4)およびLiPF_(6)を用いた場合は、正極活物質の貴な電位により電解質の分解が進行してフッ素が生成し、このフッ素が溶媒を攻撃して溶媒の分解反応を促進させると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-296849号公報」

ウ. 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性が改善されることで、初期の電池特性と耐久性のみならず、耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液を提供することにあり、また、この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供することにある。

エ. 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定量のカルボン酸、ハロゲン元素、硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えた場合、初期充電容量、及び容量維持率が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液が実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、下記フルオロスルホン酸リチウム…に関する。

<5>
硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して、2.5×10^(-1)mol/kg以下であるフルオロスルホン酸リチウム。
…」

オ. 「【発明の効果】
【0009】
発明者らは、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムを、非水系電解液中に含有させることにより、電池内部インピーダンスが低下し、低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されることを見出し、更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特性が持続するとの知見を得て、本発明を完成させた。詳細は詳らかではないが、フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗効果が発現されていると考えられる。」


カ. 「【発明を実施するための形態】
【0012】
<フルオロスルホン酸リチウム>
フルオロスルホン酸リチウムを電池等に用いた場合により高い性能を示す為に、純度は高いことが好ましい。
その中でも、例えばカルボン酸リチウムを用いて製造した場合、電池内で容易に酸化されるカルボン酸イオンが電解液中に溶解しないように除去されていることが電池特性を制御する上で望ましい。…

【0014】
また、電池内で容易に酸化されるハロゲン化物イオン、電池内に混入する微量の水で容易にハロゲン化物イオンを生成する化学種、又は、電池内の反応によってハロゲン化物イオンを生成する可能性のある、ハロゲン元素を有する化合物が電解液中に溶解しないように除去されていることが電池特性を制御する上で望ましい。…
【0015】
フルオロスルホン酸リチウムのハロゲン元素の含有量は、上限値としては、1.5×10^(-3)mol/kg以下であ…る。…

【0017】
また、本発明は、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムに関する。硫酸イオンは、例えば、上記ハロゲン化リチウムを用いてフルオロスルホン酸リチウムを製造する際に副生することがある。硫酸イオンは、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、硫酸のいずれの形態で含有していてもよい。本発明のフルオロスルホン酸リチウムは、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して下限値として、1.0×10^(-5)mol/kg以上で…ある。また、フルオロスルホン酸リチウム中に含有する硫酸イオン分のモル含有量が、上限値として、2.5×10^(-1)mol/kg以下で…ある。硫酸イオン分のモル含有量が上記範囲内にあることにより、電解液に加えた際の電池内での硫酸イオン分の効果が十分に発現し、また、副反応による抵抗の増加を抑制する。

【0021】
<1.非水系電解液>
本発明の非水系電解液は、少なくとも、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩、及びこれらを溶解する非水系溶媒を含有するものである。
<1-1.フルオロスルホン酸リチウム>
本発明の非水系電解液に用いるフルオロスルホン酸リチウムは、前項に記載されたフルオロスルホン酸リチウムを用いることができる。

【0061】
<1-4.助剤>
本発明においては、非水系溶媒中に以下に挙げる助剤を含有させることができるが、本発明の効果を著しく損なわない限り特にこれらの例示に限定されない。
<炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート>
本発明の非水系電解液において、非水系電解液電池の負極表面に皮膜を形成し、電池の長寿命化を達成するために、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」と略記する場合がある)を用いることができる。

【0070】
…フッ素化不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。…

【0107】
<過充電防止剤>
本発明の非水系電解液において、非水系電解液二次電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制するために、過充電防止剤を用いることができる。

【0108】
過充電防止剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。…
【0109】
<その他の助剤>
本発明の非水系電解液には、公知のその他の助剤を用いることができる。その他の助剤としては、…N-メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;…シクロヘプタン等の炭化水素化合物、…ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物;…チタンテトラキス(トリエチルシロキシド)等のシラン化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0110】
その他の助剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意
である。…」


キ. 「【実施例】
【0244】

<実施例1?15、比較例1?9>
[試験例A]
[硫酸イオン分の測定]
フルオロスルホン酸リチウムに含まれる硫酸イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を表1に示す。
[電池の製造]
【0245】
[負極の作製]
炭素質材料98質量部に、増粘剤及びバインダーとして、それぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、それぞれ実施及び比較例に用いる負極とした。
【0246】
[正極の作製]
正極活物質としてコバルト酸リチウムを90質量%と、導電材としてのアセチレンブラック5質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、厚さ15μmのアルミ箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、それぞれ実施例及び比較例に用いる正極とした。
【0247】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを5質量%含有するように混合した。
【0248】
[リチウム二次電池の製造]
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設させながら挿入した後、表に記載の化合物を混合した電解液をそれぞれ袋内に注入し、真空封止を行い、シート状電池を作製し、それぞれ実施例1及び比較例1に用いる電池とした。
【0249】
[初期容量評価]
リチウム二次電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において0.2Cに相当する定電流で4.1Vまで充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。これを2サイクル行って電池を安定させ、3サイクル目は、0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電を実施し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。その後、4サイクル目に0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電を実施し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電して、初期放電容量を求めた。評価結果を表1に示す。尚、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、2Cとはその2倍の電流値を、また0.2Cとはその1/5の電流値を表す。
【0250】
[高温保存膨れ評価]
初期放電容量評価試験の終了した電池を、0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した。これを85℃で24時間保存し、電池を冷却させた後、エタノール浴中に浸して体積を測定し、高温保存前後の体積変化から発生したガス量を求めた。評価結果を表1に示す。
【0251】
【表1】


【0252】
表1より、同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた電池においては、フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる硫酸イオンの量が少ない方が、初期放電容量が高く、かつ高温保存時のガス発生量が低いことから、電池特性に優れることが分かる。
【0253】
[試験例B]
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表2に記載の割合となるように混合した。
【0254】
[リチウム二次電池の製造]
実施例1及び比較例1と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0255】
【表2】

【0256】
表2より、製造された電解液の硫酸イオンの量が1.00×10^(-7)×mol/L?1.00×10^(-2)mol/Lの範囲内であれば、初期放電容量が向上し、高温保存時のガス発生量が低下することから、電池特性が向上することが分かる。 …
[試験例C]
[カルボン酸イオン分の測定]
フルオロスルホン酸リチウムに含まれる酢酸イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を表3に示す。
【0257】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを1質量%含有するように混合した。
【0258】
[リチウム二次電池の製造]
実施例1?7及び比較例1?3と同様の方法にてシート状電池を作製し、高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0259】
【表3】


【0260】
表3より、同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた電池においては、酢酸イオンの量が少ない方が高温保存時のガス発生量が少なく、電池特性に優れることが分かる。
【0261】
[試験例D]
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表に記載の割合となるように混合した。
【0262】
[リチウム二次電池の製造]
上記負極、正極並びに上記電解液を使用した以外、実施例1?8及び比較例1?4と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0263】
【表4】

【0264】
表4より、製造された電解液の酢酸イオンの量が1.00×10^(-6)mol/L?4.00×10^(-3)mol/Lの範囲内であれば、初期放電容量が高く、かつ高温保存時のガス発生量が低下することから、電池特性が向上することが分かる。
[試験例E]
[ハロゲン分の測定]
フルオロスルホン酸リチウムに含まれるハロゲン化物イオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を表5に示す。尚、フッ化物イオン、塩化物イオン以外のハロゲン化物イオンは検出されなかった。
【0265】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを2.5質量%含有するように混合した。
【0266】
[リチウム二次電池の製造]
実施例1?12及び比較例1?6と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価を行った。評価結果を表5に示す。
[高温保存特性の評価]
初期放電容量評価試験の終了した電池を、0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した。これを85℃で24時間保存し、電池を冷却させた後、25℃において0.2Cの定電流で3Vまで放電させて残存容量を求めた。(残存容量/充電容量)×100より容量維持率を求めた。評価結果を表5に示す。
【0267】
【表5】


【0268】
表5より、同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた電池においては、フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量が少ない方が、初期放電容量と容量維持率が明らかに高く、電池特性に優れることが分かる。
【0269】
[試験例F]
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF_(6)を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表6に記載の割合となるように混合した。
【0270】
[リチウム二次電池の製造]
上記負極、正極並びに上記電解液を使用した以外、実施例1?13及び比較例1?7と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保存特性評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0271】
【表6】


【0272】
表6より、製造された電解液の塩化物イオンの量が1.00×10^(-6)mol/L?1.00×10^(-3)mol/Lの範囲内であれば、初期放電容量や高温保存特性といった電
池特性が向上することが分かる。」


(2) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
上記1.に示した判断手法に従い、上記第3に示した訂正特許請求の範囲の記載と上記(1)に示した発明の詳細な説明の記載とを対比して、訂正特許請求の範囲に記載された本件特許発明と、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係を検討することとなるから、まず、発明の詳細な説明の記載に基づき本件特許発明の課題を確認し、次に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲につき整理した後、最終的に、訂正特許請求の範囲に記載された発明との対比関係の検討を行うこととする。

ア. 本件特許発明が解決しようとする課題
(ア-1) 上記(1)のア.に示したように、発明の詳細な説明においては、本発明は、特定量のカルボン酸が含まれるフルオロスルホン酸リチウム、特定量のハロゲン元素が含まれるフルオロスルホン酸リチウム、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムのいずれかを含有する非水系電解液用添加剤に関するとされている。
しかし、上記第3に示したとおり、訂正特許請求の範囲には、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムを含有する非水系電解液用添加剤だけが記載されることとなったことに鑑み、以下では、発明の詳細な説明の記載についての、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムを含有する非水系電解液用添加剤に関する記載に注目して、検討を行うこととする。

(ア-2) 発明の詳細な説明には、上記(1)のイ.に示したように、【背景技術】について、現在の非水系電解液二次電池には、初期の容量と入出力特性が高く、電池内部インピーダンスが低いこと、高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後の容量維持率が高いこと、耐久試験後でも入出力性能とインピーダンス特性に優れること、といった項目が、極めて高いレベルで要求されるところ、これまで、非水系電解液二次電池の入出力特性、インピーダンス特性、高温サイクル特性、高温保存特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質や、非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について、特開平7-296849号公報である特許文献1等、数多くの技術が検討されていると記載されている。

(ア-3) そして、上記(1)のウ.に示したように、【発明が解決しようとする課題】について、本発明の課題は、初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性が改善されることで、初期の電池特性と耐久性のみならず、耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤を提供することにあると記載されている。

(ア-4) そして上記(1)のエ.に示したように、【課題を解決するための手段】について、特定量の硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えた場合、初期充電容量、及び容量維持率が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液が実現できることを見出し、本発明を完成させるに至ったとの記載があり、<5>として記載したものが本発明であるとされている。

(ア-5) また、上記(1)のオ.に示したように、【発明の効果】について、発明者らは、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムを、非水系電解液中に含有させることにより、電池内部インピーダンスが低下し、低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されることを見出し、更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特性が持続するとの知見を得て、本発明を完成させたところ、詳細は詳らかではないが、フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗効果が発現されていると考えられるとされている。

(ア-6) しかしながら、上記(1)のキ.に示したとおりの、発明の詳細な説明の【実施例】の記載によると、試験例A?Fのいずれにおいても初期充電容量、入出力特性、電池内部インピーダンス特性について具体的評価を行ったことは記載も示唆もされていない。
そのため、上記(ア-2)に示したとおり、現在の非水系電解液二次電池には、初期の容量と入出力特性が高く、電池内部インピーダンスが低いこと、高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後の容量維持率が高いこと、耐久試験後でも入出力性能とインピーダンス特性に優れること、といった項目が、極めて高いレベルで要求されることが、本発明の【背景技術】となっており、本発明は、上記(ア-3)に示したとおり、「初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性が改善されることで、初期の電池特性と耐久性のみならず、耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤を提供すること」を、【発明が解決しようとする課題】としており、上記(ア-4)に示したとおり、【課題を解決するための手段】として、特定量の硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えた場合、初期充電容量、及び容量維持率が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液が実現できることを見出し、<5>として記載される本発明を完成させるに至ったとされており、上記(ア-5)に示したとおり、【発明の効果】として、発明者らは、特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウムを、非水系電解液中に含有させることにより、電池内部インピーダンスが低下し、低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されることを見出し、更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特性が持続するとの知見を得て、本発明を完成させたところ、詳細は詳らかではないが、フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗効果が発現されていると考えられるとされているものの、発明の詳細な説明全体の記載からは、前記の【発明が解決しようとする課題】に記載された、「初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性が改善されることで、初期の電池特性と耐久性のみならず、耐久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤を提供すること」との課題が解決できていることを具体的に把握することはできない。

(ア-7) 他方、上記(1)のキ.に示したとおり、発明の詳細な説明の【実施例】の記載からは、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液に加えた、試験例A?Bにおいて、初期容量評価試験から求まる初期放電容量、高温保存膨れ評価試験から求まるガス発生量に基づいて、電池特性の優劣を評価しているため、「初期放電容量が改善され、ガス発生量が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤を提供すること」を、試験例A?Bにおける、発明が解決しようとする課題として把握することができ、また、この課題が、例えば試験例Aにおいて用いられた実施例1の非水系電解液用の添加剤により解決できていることも具体的に把握できる。

(ア-8) 上記(ア-1)?(ア-7)の検討を踏まえ、発明の詳細な説明の記載に基づき本発明の課題を確認すると、本発明は、「初期放電容量が改善され、ガス発生量が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤を提供すること」を発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」、あるいは、「本発明の課題」ということがある。)にしていると認められる。


イ. 発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者
が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
(イ-1) 上記(1)のア.に示したように、発明の詳細な説明においては、本発明は、特定量のカルボン酸が含まれるフルオロスルホン酸リチウム、特定量のハロゲン元素が含まれるフルオロスルホン酸リチウム、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムのいずれかを含有する非水系電解液用添加剤に関するとされている。
しかし、上記第3に示したとおり、訂正特許請求の範囲には、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムを含有する非水系電解液用添加剤だけが記載されることとなったことに鑑み、上記(ア-1)?(ア-8)の検討と同様に、以下では、発明の詳細な説明の記載についての、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムを含有する非水系電解液用添加剤に関する記載に注目して、検討を行うこととする。

(イ-2) 発明の詳細な説明によれば、上記(1)のキ.に示したとおり、試験例Aの評価結果である表1において、初期放電容量143.4mAh/gでガス発生量100%であったという、比較例1の非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加した場合に対し、実施例1の非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加した場合には、初期放電容量146.5mAh/gでガス発生量85%であったことから、比較例1の非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加した場合と比べて、実施例1の非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加した場合に初期放電容量とガス発生量が改善できたことが把握でき、また、当該比較例1の非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加した場合の143.4mAh/gという初期放電容量は、実施例1及び比較例1と同様の方法にてシート状電池を作成して電池特性を評価したという、試験例Bの評価結果である表2において、非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加しなかった比較例2の場合の145.8mAh/gという初期放電容量と比べても、低いのに対し、表1の実施例1の場合の146.5mAh/gという初期放電容量は、表2の比較例2の場合の145.8mAh/gという初期放電容量と比べても、初期放電容量が改善できたことが把握できることから、表1の実施例1の非水系電解液用添加剤を基本電解液に添加した場合、すなわち、表1の実施例1の非水系電解液用添加剤を用いた場合に、上記(ア-8)に示した課題が解決したことが把握できる。
ここで、発明の詳細な説明によれば、表1の実施例1の非水系電解液用添加剤は、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して、0.115mol/kgという添加剤であったのに対し、表1の比較例1の非水系電解液用添加剤は、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して、0.263mol/kgという添加剤であったとされている(【0244】?【0255】)。

(イ-3) また、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対する、硫酸イオン分のモル含有量について、発明の詳細な説明には、上記(1)のカ.に示したように、下限値は1.0×10^(-5)mol/kgで、上限値は2.5×10^(-1)mol/kgであり、硫酸イオン分のモル含有量がこの範囲内であることにより、電解液に加えた際の電池内での硫酸イオン分の効果が十分に発現し、また、副反応による抵抗の増加を抑制するとの説明がある(【0017】)ところ、このような説明は、上記(イ-2)に示した表1?2の結果と整合する。

(イ-4) 上記(イ-2)?(イ-3)の検討から、硫酸イオン分のモル含有量が1.0×10^(-5)mol/kg以上、2.5×10^(-1)mol/kg以下であるフルオロスルホン酸リチウム、換言すると、特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムを、上記(ア-8)に示した課題が解決できる非水系電解液用添加剤として把握できる。

(イ-5) また、上記(イ-4)に示した非水系電解液用添加剤としての特定量の硫酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウムに対し、上記(1)のカ.に示した、発明の詳細な説明によれば、前記フルオロスルホン酸リチウム以外に、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、含窒素化合物、炭化水素化合物、含フッ素芳香族化合物、シラン化合物及び過充電防止剤等の助剤も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意に用い得るとされている(【0061】?【0110】)ことから、これらの助剤を、前記フルオロスルホン酸リチウムとともに、非水系電解液用添加剤として含み得るため、上記(ア-8)に示した課題が解決できる非水系電解液用添加剤として、前記フルオロスルホン酸リチウムを含む非水系電解液用添加剤を把握することができる。
そして、上記(イ-2)?(イ-4)の検討によれば、前記フルオロスルホン酸リチウムを含む非水系電解液用の添加剤においては、硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムが、上記(ア-8)に示した課題を解決するための有効成分になっていることは、明らかである。

(イ-6) 上記(イ-1)?(イ-5)の検討を踏まえると、上記(ア-8)に示した課題について、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲(以下、「発明の詳細な説明の記載に基づく発明の範囲」という。)は、非水系電解液用添加剤としては、「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを有効成分として含み、硫酸イオン分のモル含有量が1.0×10^(-5)mol/kg以上、2.5×10^(-1)mol/kg以下であるフルオロスルホン酸リチウムを含む、非水系電解液用添加剤」であるといえる。


ウ. 発明の詳細な説明の記載に基づく発明の範囲と訂正特許請求の範囲
に記載された発明との対比・検討
(ウ-1) 訂正特許請求の範囲によれば、上記第3に示したとおり、本件特許発明は、「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを含み、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して1.0×10^(-5)mol/kg以上2.5×10^(-1)mol/kg以下であることを特徴とする非水系電解液用添加剤。」というものである。

(ウ-2) 上記(ウ-1)に示した本件特許発明に対して、上記イ.の検討からすると、発明の詳細な説明の記載に基づく発明の範囲は、上記(イ-6)に示したとおり、「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを有効成分として含み、硫酸イオン分のモル含有量が1.0×10^(-5)mol/kg以上、2.5×10^(-1)mol/kg以下であるフルオロスルホン酸リチウムを含む、非水系電解液用添加剤」である。

(ウ-3) そこで、上記(ウ-1)に示した非水系電解液用添加剤と、上記(ウ-2)に示した非水系電解液用添加剤とを対比すると、両者は、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対する硫酸イオン分のモル含有量の範囲が一致しており、また、上記(ウ-1)に示した「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを含」むという「特徴」が、上記(ウ-2)に示した「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを有効成分として含」むことに対応している。
ここで、上記(ウ-2)に示した非水系電解液用添加剤における有効成分は、上記イ.の検討によれば、課題を解決するための技術事項であるから、非水系電解液用添加剤に係る発明という観点からすると、当該発明を特徴付ける技術事項といえるため、上記(ウ-2)に示した「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを有効成分として含」むことは、上記(ウ-1)に示した「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを含」むという「特徴」と等価である。
そうすると、上記(ウ-1)に示した本件特許発明の非水系電解液用添加剤には、上記(ウ-2)に示した、発明の詳細な説明の記載に基づく発明としての非水系電解液用添加剤の範囲を越えるところは見当たらない。
してみると、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。


エ. 小括
上記ア.?ウ.の検討によれば、訂正特許請求の範囲に特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという記載不備はないから、上記第4の2.に示した取消理由により、本件の請求項5に係る特許を取消すことはできない。


2. 申立理由についての検討
(1) 申立理由1についての検討
申立理由1は、上記第4の1.(1)に示したとおり、本件特許発明は、甲第1号証に記載の発明に対して、新規性及び進歩性を具備しない旨の申立理由で、その証拠方法となっている、甲第1号証は、特願2012-92111号の公開公報(特開2012-230897号公報)であるところ、本件特許は、上記第1に示したとおり、その特願2012-92111号(以下、「原出願」という)の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づき、分割して新たな特許出願としたものであることから、この申立理由1は、異議申立人が、特許異議申立書において主張している、本件特許発明が原出願の出願当初明細書に記載された事項の範囲内であるとの分割要件を満たしていない旨の分割要件違反についての主張が妥当であることを前提とする申立て理由である。
ところで、本件特許発明は、上記1.のア.?ウ.の検討のとおり、本件特許の明細書の【0017】、【0061】?【0110】、【0244】?【0255】の記載事項により、裏付けられているものであるが、それらの記載事項は、甲第1号証における【0017】、【0061】?【0110】、【0244】?【0255】にも記載されおり、すなわち、本件特許発明は、原出願の出願当初明細書の【0017】、【0061】?【0110】、【0244】?【0255】の記載事項により、裏付けられているものでもあることから、本件特許発明は、原出願の出願当初明細書に記載された事項の範囲内であるとの、分割要件を満たしているものである。
してみると、申立理由1は、その前提において誤解のある申立理由であって、妥当性を欠くものである。
よって、申立理由1は理由がない。

(2) 申立理由2についての検討
申立理由2は、上記第4の1.(2)に示したとおり、本件特許発明は、甲第2号証に記載の発明に対して、新規性及び進歩性を具備しない旨の申立理由で、その証拠方法となっている、甲第2号証に記載されているフルオロスルホン酸リチウム(LiSO_(3)CF_(3))について、再現実験を行って製造してみたところ、その再現実験で製造された、フルオロスルホン酸リチウムには、塩素イオン及び硫酸イオンが、それぞれ、本件特許の請求項3と請求項5に記載される範囲内で含まれていた旨の再現実験の結果を根拠とする申立理由である。
ここで、平成30年1月24日付けで当審より異議申立人に対して、特許異議申立書に記載された再現実験に関し、下記の疑義があるとする審尋をして回答書の提出を求めたが、その審尋の指定期間内に回答書は提出されなかった。
「 記

特許異議申立書によれば、甲第2号証(RUSSIAN JOURNAL OF ELECTROCHMISTRY Vol.35 No.10 1999, pp.1133-1136、以下、単に「甲2」という。)には、「リチウム電池(lithium batteries)の電解質成分として用いられるフルオロスルホン酸リチウム(lithium fliorosulfonete:LiSO_(3)CF_(3))の製造方法が記載されているということができる」(第15頁第1?4行)ところ、甲2の第1133頁左欄のEXPERIMENTALにおける第1?13行に記載された「フルオロスルホン酸と塩化リチウムとの反応により、フルオロスルホン酸リチウムを得た」ことに関し、再現実験を行うことで得られたフルオロスルホン酸リチウムに対する、塩素イオン及び硫酸イオンのそれぞれの含有量を評価した旨の主張をしている(第16頁第23行?第17頁第19行)。

しかしながら、特許異議申立人は、前記の再現実験に関する、実施日、実施者、実施場所、用いられた具体的試薬、特許異議申立書での主張のとおりの、フルオロスルホン酸リチウム(lithium fliorosulfonete:LiSO_(3)CF_(3))が得られたのか否か等が記載された、当該実施者の署名、捺印を伴う、実験成績証明書を提出していない。
そのため、前記の再現実験を行ったことを裏付け得る、真正に成立している書証は存在していない。

また、仮に、前記の再現実験を行ったことを裏付け得る、真正に成立している書証が存在していることを、公的な第三者機関による証明書等により立証できたとしても、前記の再現実験によって得られたフルオロスルホン酸リチウムが、特許異議申立書での主張のとおりの、フルオロスルホン酸リチウム(lithium fliorosulfonete:LiSO_(3)CF_(3))であるのか否かが明らかではない上、当該フルオロスルホン酸リチウムを用いると、甲2に記載されているのと同一のCVAを得られたことまで明らかとされているわけではないから、前記の再現実験は甲2の忠実な再現実験であったとも認められない。

ついては、特許異議申立書に記載された再現実験に関する、上述の指摘に対し、意見があれば、回答書で回答して下さい。

なお、回答書を提出されても、その内容を検討した結果、特許異議申立書に記載された再現実験に基づく主張を一切採用しないことがあります。 」

そして、特許異議申立書に記載された再現実験に関する、このような疑義は、依然として、解消していないことからして、この再現実験の結果を根拠とする申立理由2は妥当性を欠くものである。
よって、申立理由2も理由がない。


(3) 申立理由3についての検討
申立理由3は、上記第4の1.(3)に示した、上記の(A)?(E)の理由により、請求項1?7に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨の申立理由であることから、上記の(A)?(E)の理由に基づく、申立理由3の主張の妥当性について、順次、検討を行う。

(3A) 上記の(A)の理由に基づく主張は、フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを極微量しか含有しない「非水系電解液用添加剤」であっても、課題が解決できるとは、当業者には到底認識されない旨の主張であるが、本件特許発明の非水系電解液用添加剤に係る発明における、「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを含」むという「特徴」は、上記1.(2)ウ.の(ウ-3)の検討のとおり、「硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを有効成分として含」むことを意味している。
ここで、前記有効成分を有効量含有することは、技術常識に照らし、当然のことであるから、本件特許発明の非水系電解液用添加剤に係る発明においては、課題を解決できないほどに極微量しか前記有効成分を含有しない場合は、排除されていることは明らかである。
換言するに、技術常識からすると、本件特許発明の非水系電解液用添加剤に係る発明においては、硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを、課題を解決できないほどに極微量しか含有しない場合は、排除されている。
してみると、上記の(A)の理由に基づく主張は妥当性を欠いていることとなる。

(3B) 上記の(B)の理由に基づく主張は、甲第3号証において得られているフルオロスルホン酸リチウム等、常法で製造されるフルオロスルホン酸リチウムには、カルボン酸イオン、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン等の不純物が複数種混在しており、これらの不純物のうち、一種のみの不純物の濃度が所定の範囲であったとしても、他の不純物の濃度が所定の範囲から外れる場合には、本件特許の発明の課題を解決し得ないため、本件特許の請求項1、3、5は、本件特許の発明の課題を解決し得ない範囲を含む旨の主張である。
甲第3号証には、硫酸イオン0.062mol/kg、塩化物イオン0.056mol/kgを含むフルオロスルホン酸リチウムが記載されているところ(【0060】)、このフルオロスルホン酸リチウム(以下、「甲3記載のフルオロスルホン酸リチウム」という。)は、硫酸イオンの濃度が所定の範囲であるものの、塩化物イオンの濃度が所定の範囲から外れるフルオロスルホン酸リチウムであるから、異議申立人の上記の(B)の理由に基づく申立理由3の主張の根拠となる具体例であると認める。
ここで、本件特許の訂正特許請求の範囲の記載だけでは、本件特許発明の非水系電解液用添加剤に係る発明が、甲3記載のフルオロスルホン酸リチウムを包含しているのか否かが、必ずしも、明らかではない。
そこで、特許法第70条第2項の規定に基づき、「フルオロスルホン酸リチウム」という用語の意義を解釈するために、本件特許の明細書の記載を見てみると、本件特許の明細書には、上記1.(1)カ.に示したとおり、フルオロスルホン酸リチウムを電池等に用いた場合により高い性能を示す為に、純度は高いことが好ましく、フルオロスルホン酸リチウムのハロゲン元素の含有量は、上限値としては、1.5×10^(-3)mol/kg以下であることが記載されており(【0012】?【0015】)、また、上記1.(1)キ.に示したとおり、フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量が1.5×10^(-3)mol/kg以下よりも少ない方が、初期放電容量と高温保存特性が明らかに高いことも記載されている(【0264】?【0267】)し、また、上記1.(1)カ.に示したとおり、フルオロスルホン酸リチウム以外の成分についても、本発明の効果を著しく損なわない限り配合量は任意であると記載されている(【0061】?【0110】)。
そうすると、本件特許発明の非水系電解液用添加剤に係る発明においては、本件特許の明細書の記載を考慮すると、「フルオロスルホン酸リチウム」は、純度は高く、したがって不純物は、本発明の効果を著しく損なわないように、ほとんど含まれておらず、例えば塩化物は1.5×10^(-3)mol/kg以下であるということが明らかであるから、その上限値を超えて塩化物を含んでいる、甲3記載のフルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液用添加剤に含有することは、本件特許発明の非水系電解液用添加剤に係る発明からは排除されていることと解される。
してみると、上記の(B)の理由に基づく主張も妥当性を欠いていることとなる。

(3C) 上記の(C)の理由に基づく主張は、本件特許の請求項2、4、6、7が本件特許の発明の課題を解決し得ない範囲を含む旨の主張であるが、上記第3に示したとおり、訂正特許請求の範囲においては、訂正前の請求項2、4、6、7に係る発明は存在しないものとなった。
してみると、上記の(C)の理由に基づく主張も妥当性を欠いていることとなる。

(3D) 上記の(D)の理由に基づく主張は、実施例1に基づいて、本件特許の請求項5の広範な数値範囲の下限値近傍にまで拡張ないし一般化することはできない旨の主張であるが、上記1.(2)イ.の(イ-2)?(イ-6)で行った検討のとおり、硫酸イオン分のモル含有量の下限値を1.0×10^(-5)mol/kgとする本件特許発明によれば、課題を解決することを把握することができるし、上記の(D)の理由に基づく主張を裏付け得る、客観的かつ具体的な証拠は見当たらない。
してみると、上記の(D)の理由に基づく主張も妥当性を欠いていることとなる。

(3E) 上記の(E)の(E-1)の理由に基づく主張は、「初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性」を改善することを課題としているが、本件特許の請求項1?7の課題が解決できていることを把握することができない旨の主張であるが、上記1.(2)のア.?ウ.で行った客観的検討のとおり、本件特許発明によれば、初期充電容量、入出力特性およびインピーダンス特性を改善するとの課題ではなくて、「初期放電容量が改善され、ガス発生量が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液用の添加剤を提供する」との課題を解決できることが把握される。
してみると、上記の(E)の(E-1)の理由に基づく主張も妥当性を欠いていることとなる。

また、上記の(E)の(E-2)の理由に基づく主張は、基本電解液に、カルボン酸、ハロゲン元素又は硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを所定量含有するように混合したことを前提として、比較例よりも実施例の方がガス発生抑制等に関して良好な結果が得られることが示されているが、前記前提に基づく一例の実験結果のみでは、ガス発生抑制等に関して良好な結果が得られることが、所定のカルボン酸、ハロゲン元素及び/又は硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムのみによってもたらされるとは認められないし、さらに、前記前提は本件特許の請求項1?7に一切反映されていないので、仮にガス発生抑制等が本件特許の請求項1?7の課題であると仮定したとしても、実施例に基づいて、本件特許の請求項1?7により課題が解決されていることを把握することはできない旨の主張である。
本件特許発明は非水系電解液用添加剤に係る発明であって、上記1.(2)イ.の(イ-2)?(イ-6)で行った検討のとおり、試験例A?Bでは、基本電解液を用いて、比較例の非水系電解液用添加剤と実施例の非水系電解液用添加剤とを評価し、比較例の非水系電解液用添加剤では解決できない課題が実施例の非水系電解液用添加剤によって解決できるという、試験例A?Bについての記載事項を含む、本件特許の明細書の【0017】、【0061】?【0110】、【0244】?【0255】の記載事項により、課題が解決できることを把握できる発明であるところ、その課題が解決できることを把握できる物の発明としての実体は、「非水系電解液」ではなく、「添加剤」であるし、また、試験例A?Bで用いられた基本電解液は非水系電解液に属することから、基本電解液を用いて課題が解決できることを把握できる添加剤に係る発明であることを根拠として、当該添加剤を非水系電解液用添加剤と記載し得ると認められる。
そして、このような認定は、電解液用添加剤に関する、特許第4112988号公報、特許第5095883号公報、特許第5340860号公報、及び、特許第5428274号公報等の先行技術文献において、発明の課題が解決できるか否かを、比較例と実施例の添加剤とを、同一で単一の非水系電解液を用いて評価し、比較例では解決できない発明の課題が実施例の添加剤によって解決できることをもって、当該添加剤を各請求項に係る非水系電解液用添加剤と記載していることからして、正当である。
してみると、上記の(E)の(E-2)の理由に基づく主張も妥当性を欠いていることとなる。


第6 むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法なものであるから、その訂正を認めるところ、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正請求による訂正で、本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項1?4、6?7に係る特許は存在しないものとなった。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
硫酸イオンとフルオロスルホン酸リチウムを含み、硫酸イオン分のモル含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して1.0×10^(-5)mol/kg以上2.5×10^(-1)mol/kg以下であることを特徴とする非水系電解液用添加剤。
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-28 
出願番号 特願2016-23960(P2016-23960)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 浅野 裕之  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
結城 佐織
登録日 2017-04-21 
登録番号 特許第6128242号(P6128242)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 非水系電解液用添加剤  
代理人 五味渕 琢也  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 城山 康文  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 小野 誠  
代理人 金山 賢教  
代理人 重森 一輝  
代理人 金山 賢教  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 重森 一輝  
代理人 坪倉 道明  
代理人 小野 誠  
代理人 飯野 陽一  
代理人 城山 康文  
代理人 坪倉 道明  
代理人 飯野 陽一  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 五味渕 琢也  
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