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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1349659
異議申立番号 異議2016-701198  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-27 
確定日 2019-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5945739号発明「重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5945739号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3?5〕、〔6〕、〔7〕、〔2、8?10〕について訂正することを認める。特許第5945739号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5945739号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成22年10月4日の出願であって、平成28年6月10日にその特許権の設定登録がされ、平成28年7月5日にその特許公報が発行され、その後、その請求項1?7に係る発明の特許について、平成28年12月27日に特許異議申立人平居博美(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年2月23日付け 取消理由通知
同年5月1日 意見書(特許権者)
同年5月23日付け 取消理由通知
同年7月25日 訂正請求書・意見書(特許権者)
同年8月7日 手続補正指令書(方式)
同年9月8日 手続補正書(特許権者)
同年9月29日付け 通知書
同年11月6日 意見書(異議申立人)
同年11月30日付け 訂正拒絶理由通知
同年12月27日 意見書(特許権者)
平成30年1月12日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年3月19日 訂正請求書・意見書(特許権者)
同年3月29日付け 手続補正指令書(方式)
同年5月2日 手続補正書(特許権者)
同年5月8日付け 通知書
同年6月11日 意見書(異議申立人)


第2 訂正の適否
平成30年5月2日提出の手続補正書により補正された同年3月19日提出の訂正請求書において、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2?5、8?10について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
なお、平成29年7月25日提出の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 本件訂正の内容
(1)訂正事項1
請求項2の「前記流量を流量計により測定する、請求項1に記載の添加方法。」を「精製塔から液体として抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有し、
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置であり、
前記流量を流量計により測定する、添加方法。」に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項3の「請求項1又は2に記載の添加方法」を「請求項1に記載の添加方法」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項4の「請求項1?3のいずれか1項に記載の添加方法」を「請求項1又は3に記載の添加方法」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項5の「請求項1?4のいずれか1項に記載の添加方法」を「請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の添加方法」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項3に係る発明特定事項を有し、請求項2を引用する「前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項2に記載の添加方法」である請求項8を新たに設ける。
(6)訂正事項6
訂正前の請求項4に係る発明特定事項を有し、請求項2又は8を引用する「前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は8に記載の添加方法」である請求項9を新たに設ける。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項5に係る発明特定事項を有し、請求項2、8及び9のいずれか1項を引用する「前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項2、8及び9のいずれか1項に記載の添加方法」である請求項10を新たに設ける。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項
訂正事項1?7に係る訂正前の請求項2?5に関し、訂正前の請求項3?5は、訂正前の請求項1又は2を引用するものであって、訂正前の請求項2を引用する請求項3?5は、訂正事項1によって訂正される請求項2に連動する訂正事項5?7によって訂正されるものであり、訂正前の請求項1を引用する請求項3?5は、訂正事項2?4によって訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項2?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は一群の請求項に対してなされたものである。

(2)訂正の目的、新規事項、特許請求の範囲の拡張・変更についての適否
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項1との引用関係を解消して、独立形式請求項に改めるための訂正であることから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
さらに、前記目的に加え、訂正前の請求項1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」との記載が技術的意味が不明確との指摘に対して、「精製塔から液体として抜き出され」ることを明らかにする訂正であることから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
そして、当該「液体として」は、本件特許明細書【0017】の記載から液体として抜き出されていることが明らかであるから、新規事項の追加に該当せず、事実上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

イ 訂正事項2、3及び4は、いずれも引用する複数の請求項の中から請求項2についての引用を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、事実上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

ウ 訂正事項5は、訂正前の請求項3が引用する請求項2について、訂正事項1により、請求項1との引用関係を解消して、独立形式に改めるための訂正をしたことによる訂正前の請求項3が引用する請求項2を新たな請求項8として設ける訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、事実上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

エ 訂正事項6は、訂正前の請求項4が引用する請求項2を、訂正事項1により、請求項1との引用関係を解消して、独立形式に改めるための訂正をしたことによる訂正前の請求項4が引用する請求項2を新たな請求項9として設ける訂正に加え、訂正前の請求項4が引用する請求項3の前記訂正事項5の内容を含み、請求項8を引用するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、事実上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

オ 訂正事項7は、訂正前の請求項5が引用する請求項2を、訂正事項1により、請求項1との引用関係を解消して、独立形式請求項に改めるための訂正をしたことによる訂正前の請求項5が引用する請求項2を新たな請求項10として設ける訂正に加え、訂正前の請求項4が引用する請求項3の前記訂正事項5の内容を含み、請求項8を引用するもの、及び、訂正前の請求項5が引用する請求項4の前記訂正事項6の内容を含み、請求項9を引用するもの、をそれぞれ含むものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、事実上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合する。
よって、本件訂正に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
そして、特許権者から訂正後の請求項2、8?10について訂正が認められるときは、他の請求項とは別途訂正することの求めがあったことから、訂正後の請求項2、8?10について請求項ごとに訂正することを認める。
よって、本件訂正に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3?5〕、〔6〕、〔7〕、〔2、8?10〕について訂正することを認める。


第3 本件特許に係る発明
上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有し、
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、添加方法。
【請求項2】
精製塔から液体として抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有し、
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置であり、
前記流量を流量計により測定する、添加方法。
【請求項3】
前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項1に記載の添加方法。
【請求項4】
前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は3に記載の添加方法。
【請求項5】
前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項6】
精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、
前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、
を含む精製方法であって、
前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有し、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、精製方法。
【請求項7】
モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、
前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定内になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備え、
前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、精製装置。
【請求項8】
前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項2に記載の添加方法。
【請求項9】
前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は8に記載の添加方法。
【請求項10】
前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項2、8及び9のいずれか1項に記載の添加方法。」


第4 平成30年1月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)並びに当該取消理由(決定の予告)において採用しなかった取消理由及び特許異議申立理由の概要

1 平成30年1月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
(1)本件の特許請求の範囲の記載は、訂正前の請求項1?5に記載された特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、訂正前の本件発明1?5に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「取消理由1」という。)。

(2)本件の特許請求の範囲の記載は、訂正前の請求項1?5に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、訂正前の本件発明1?5に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

2 当該取消理由(決定の予告)において採用しなかった取消理由及び特許異議申立理由の概要

(1)本件の特許請求の範囲の記載は、訂正前の請求項6?7に記載された特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、訂正前の本件発明6?7に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「取消理由3」という。)。

(2)本件の特許請求の範囲の記載は、訂正前の請求項6?7に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、訂正前の本件発明6?7に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「取消理由4」という。)。

(3)訂正前の請求項1?7に係る発明は、下記甲第1号証を主引用例として甲第2号証?甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
よって、訂正前の請求項1?7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という)。


甲第1号証:特開2002-205971号公報
甲第2号証:特開2000-290226号公報
甲第3号証:特開2000-355570号公報
甲第4号証:特開2004-358387号公報
甲第5号証:特開2004-331599号公報
甲第6号証:特開2006-169220号公報
甲第7号証:特開2003-171342号公報
甲第8号証:特開2000-239228号公報
甲第9号証:特開平9-295958号公報
甲第10号証:特開2001-131116号公報
甲第11号証:特開平8-266802号公報


第5 当審の判断
当審は、本件発明1?10は、当審が通知した取消理由1?4によっては取り消すことはできないと判断する。
また、異議申立人の申立理由1によっても取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 取消理由1について
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には以下の記載がある。
ア「【0002】
ポリマーの原料となるモノマーを製造する際、一般的に、モノマーの合成に続いて精製のための蒸留操作が行われる。ところが、重合しやすいモノマー(以下、このようなモノマーを「易重合性モノマー」ともいう。)は、蒸留操作の際に重合してしまい、モノマーとしての収率の低下及び機器の閉塞を招く。そのため、蒸留操作に当たっては、系内に適当な重合防止剤を加えることによりモノマーの重合を防ぐことが行われている。
【0003】
蒸留系の最も後段に設けられた蒸留塔で蒸留され、そこから抜き出された易重合性モノマーを含む液(以下、「含モノマー液」という。)は、抜き出す段によっては実質的に重合防止剤を含んでいないため、配管内を流れる段階でモノマーが重合しやすい。そこで、含モノマー液に重合防止剤を何らかの形で添加する必要がある。
例えば、特許文献1には、フェノチアジン等の化合物とアルカリ金属塩とを重合防止剤として使用するビニル化合物の重合防止方法が記載されている。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1には、重合防止剤の添加量等についての記載はあるものの、その添加量を制御することについては何も記載されていない。
上記含モノマー液への重合防止剤の添加方法としては、一旦中間品タンクに溜め込み、重合防止剤をその中間品タンクへ添加した後に、そのタンク内の含モノマー液を分析して製品規格を満足することを確認してから、最終的に製品タンクへ移送する方法が採用されている。しかしながら、このような方法では、中間品タンクに溜められて重合防止剤を添加された含モノマー液を、バッチ形式で製品タンクへ移送せざるを得ない。そのため、易重合性モノマーを連続的に製品タンクに移送することができず、中間品タンクの切り替え作業が発生し、作業負荷の上昇に繋がっている。また、その代替方法として、配管内を流れる含モノマー液に重合防止剤を直接添加してから製品タンクにそのまま移送する方法が考えられる。しかしながら、そのようにして添加された重合防止剤は、当然、不純物として製品中に残存することになり、含モノマー液が製品規格を満足し難くなるため、その含モノマー液をそのまま製品タンクに移送することは好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法、並びに、その添加方法を利用した精製方法及び精製装置を提供することを目的とする。」

ウ「【0016】
図1は、本実施形態の重合防止剤の添加方法に用いられる装置の一例を概略的に示すものであり、本実施形態の精製装置の一例である。図1に示す装置100は、蒸留塔である精製塔1と、含モノマー液を貯留する製品タンク7と、精製塔1及び製品タンク7を接続する抜出ライン10とを備える。精製塔としては、易重合性モノマーの精製を目的とする機器であれば、特に限定されない。精製塔として、より具体的には、棚段塔(多孔板塔、泡鐘塔など)、充填塔、吸収塔及び吸着塔が挙げられる。
【0017】
抜出ライン10は、精製塔1から抜き出された含モノマー液を製品タンク7まで移送するための配管であり、抜出ライン10には、上流側から順に冷却機器である熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70が設けられている。精製塔1から抜き出された精製流である含モノマー液が熱交換器4によって冷却されることにより、その熱が熱交換器4によって有効に回収され、また、流量計5によって含モノマー液の流量が測定される。流量計5により測定された流量データは、流量計5に隣接する発信機50から流量調節弁70に送信される。また、流量調節弁70には、精製塔1内の液面高さを測定するために設けられたレベル計(図示せず)によるデータも送信される。精製塔1の含モノマー液の抜き出し段における液のレベルを一定の範囲に維持するように、流量調節弁70の開度が調節されるようになっている。流量調節弁70の開閉操作(開度調節)により、精製塔1からの含モノマー液の流出量を連続的に調整することができる。
【0018】
精製塔1と熱交換器4とを接続する抜出ライン10には、重合防止剤を収容するための第1及び第2の重合防止剤タンク2、3が、それぞれ流量調節弁20、30を介して接続されている。図1に示す例では、精製装置100は2つの重合防止剤タンクを有するが、もちろん、重合防止剤タンクは1つのみであってもよく、3つ以上であってもよい。また、各重合防止剤タンク2、3は、それぞれ異なる種類の重合防止剤が収容してもよく、同じ種類の重合防止剤を収容して、いずれか一方をバックアップ用タンクとして用いてもよい。流量調節弁70と同様に、流量調節弁20、30は、重合防止剤を任意の流量に調整できる。流量計5の発信機50から含モノマー液の流量データが制御システムの1種である分散型制御システム(図示せず。Distributed Control System。以下、単に「DCS」と表記する。)に送信され、そのデータに基づいて、重合防止剤濃度が一定になるように、流量調節弁20、30の開度が調節される。流量調節弁20、30の開度調節により、第1及び第2の重合防止剤タンク2、3から、抜出ライン10を流れる含モノマー液に適切な量の重合防止剤が添加される。」

エ「【0020】
第1及び第2の重合防止剤タンク2、3から重合防止剤を移送するラインが抜出ライン10に接続される位置、すなわち重合防止剤の添加位置は、製品分析計6の上流であれば好ましいが、精製塔1の直近であるのが好ましい。ここで、本明細書中、精製塔1の「直近」とは、機器又は配管等による場所の制約を除き、抜出ライン10上の含モノマー液の流れ方向に沿って、抜出ライン10の精製塔1との接続点から150cm以内の位置を意味する。精製塔1から流出した直後の含モノマー液は実質的に重合防止剤を含まないので、抜出ライン10内での重合が生じ得るが、重合防止剤の添加位置を精製塔1の直近にすることで、重合の可能性を低減することができる。」

オ「【0035】
[実施例1]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.30質量%、35ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20、30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0036】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.30±0.02質量%、メトキノンの濃度は35±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図4に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0037】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0038】
[実施例2]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.50質量%、45ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した以外は実施例1と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0039】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.02質量%、メトキノンの濃度は45±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図5に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0040】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0041】
[実施例3]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてハイドロキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.30質量%、30ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20、30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0042】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.30±0.02質量%、ハイドロキノンの濃度は30±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図6に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0043】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0044】
[実施例4]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.50質量%、50ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した以外は実施例3と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0045】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.02質量%、ハイドロキノンの濃度は50±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図7に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0046】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0047】
[実施例5]
図1に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてTBCを用い、第2の重合防止剤タンク3は使用しなかった。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はスチレンを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が10ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を、流量調節弁20の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0048】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は10±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図8に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0049】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0050】
[実施例6]
含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が20ppmになるように、流量計5が示す含モノマー液の流量からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を添加した以外は実施例6と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0051】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は20±1ppmの範囲で調整できたことがわかった。図9に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0052】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0053】
[実施例7]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてメトキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.30質量%、35ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20、30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0054】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水濃度は0.30±0.10質量%、メトキノンの濃度は35±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図10に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0055】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0056】
[実施例8]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びメトキノンの濃度が、各々0.50質量%、45ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びメトキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とメトキノンの30質量%水溶液とを添加した以外は実施例7と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0057】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.08質量%、メトキノンの濃度は45±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図11に、4秒毎に測定した水及びメトキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0058】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0059】
[実施例9]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤として水、第2の重合防止剤タンク3に収容される重合防止剤としてハイドロキノンを用いた。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はアクリロニトリルを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.30質量%、30ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを、それぞれ流量調節弁20、30の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0060】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水濃度は0.30±0.09質量%、ハイドロキノンの濃度は30±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図12に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0061】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0062】
[実施例10]
含モノマー液100質量%に対して、水の濃度及びハイドロキノンの濃度が、各々0.50質量%、50ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中の水及びハイドロキノンの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、純水とハイドロキノンの20質量%水溶液とを添加した以外は実施例7と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0063】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、水の濃度は0.50±0.08質量%、ハイドロキノンの濃度は50±4ppmの範囲で調整できたことがわかった。図13に、4秒毎に測定した水及びハイドロキノンの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0064】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5、流量調節弁70では、アクリロニトリル重合物による閉塞は発生しなかった。
【0065】
[実施例11]
図2に示す装置と同様の構成を有する精製装置を用いた。その装置において、第1の重合防止剤タンク2に収容される重合防止剤としてTBCを用い、第2の重合防止剤タンク3は使用しなかった。また、精製塔1から抜き出される含モノマー液はスチレンを主成分として99質量%以上含むものであり、その含モノマー液を最終的に製品タンク7に貯留した。精製塔1から約24±1t/hrで流出する含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が10ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中のTBCの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を、流量調節弁20の開度調節によって添加した。そして、重合防止剤を添加した含モノマー液を、製品タンク7に直接貯留した。
【0066】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は10±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図14に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0067】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。
【0068】
[実施例12]
含モノマー液100質量%に対して、TBCの濃度が20ppmになるように、製品分析計6が示す含モノマー液中のTBCの濃度からDCSにより重合防止剤の添加量を演算し、その添加量のデータを流量調節弁に送信し、そのデータに基づいて、TBCの30質量%水溶液を添加した以外は実施例11と同様にして、重合防止剤を添加した含モノマー液を製品タンク7に直接貯留した。
【0069】
製品分析計6により、含モノマー液における重合防止剤の濃度を4秒毎に測定した。その結果、TBCの濃度は20±5ppmの範囲で調整できたことがわかった。図15に、4秒毎に測定したTBCの濃度を1日平均値にしたものを、重合防止剤の添加を開始してからの経過日数に対して示す。
【0070】
なお、抜出ライン10、熱交換器4、流量計5及び流量調節弁70では、スチレン重合物による閉塞は発生しなかった。」

カ 「【図1】

【図2】

」(図1及び図2)

(2)「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」について
ア 本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」との記載は、その技術的意味が不明確であるか否かついて検討する。
本件特許明細書には、前記(1)アによれば「【0003】
蒸留系の最も後段に設けられた蒸留塔で蒸留され、そこから抜き出された易重合性モノマーを含む液(以下、「含モノマー液」という。)は、抜き出す段によっては実質的に重合防止剤を含んでいないため、配管内を流れる段階でモノマーが重合しやすい。」、前記(1)ウによれば「【0017】
・・・・精製塔1の含モノマー液の抜き出し段における液のレベルを一定の範囲に維持するように、流量調節弁70の開度が調節されるようになっている。流量調節弁70の開閉操作(開度調節)により、精製塔1からの含モノマー液の流出量を連続的に調製することができる。」と記載されるように、蒸留塔の特定の段から液体として抜き出す態様が記載されている。
また、本件特許明細書の前記(1)ウには、「【0017】
抜出ライン10は、精製塔1から抜き出された含モノマー液を製品タンク7まで移送するための配管であり、・・・・」と、前記(1)エには、「【0020】・・・・精製塔1から流出した直後の含モノマー液は実質的に重合防止剤を含まない・・・・」と、それぞれ記載されている。
さらに、本件特許明細書には、前記(1)オの実施例をみても、すべて、「精製塔1から抜き出される含モノマー液」と記載され、少なくとも精製塔から気体を含む状態で抜き出された態様は一切記載されていない。
してみると、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」とは、「モノマーを主成分として含む液」が「精製塔から抜き出され」るものと解することができ、本件特許明細書の記載とも整合するので、「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」とは、精製塔から抜き出されたときに液体であるものを意味するものと解するのが自然である。
そうすると、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」との記載は、その技術的意味が明確であるというほかない。

イ 特許権者は、平成29年5月1日に提出した意見書、平成29年7月25日に提出した意見書、及び、平成30年3月19日に提出した意見書において、一貫して、本件の特許請求の範囲及び本件特許明細書には記載されていないが、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」とは、「精製塔から抜き出され」た、「モノマーを主成分として含む液」であればよいので、例えば、精製塔(蒸留塔)から抜き出されたときは気化したモノマーを含み、その後、熱交換などにより液化されて「モノマーを主成分として含む液」となるものも「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」に当たると主張している。
しかしながら、技術的に特許権者の主張する解釈が可能であったとしても、本件特許明細書全体の記載からは、上記アのとおり、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」の記載は、自然な解釈である「モノマーを主成分として含む液」が「精製塔から抜き出され」たものを意味することが明確であり、加えて、当該「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」に「精製塔から抜き出されたときは気化したモノマーを含んでいて、その後、熱交換により液化されたものをも含む」ことは、本件特許明細書には、何ら記載されていないし、「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」に「精製塔から抜き出されたときは気化したモノマーを含んでいて、その後、熱交換により液化されたものをも含む」ことが当業者における技術常識であることの根拠に足りる証拠を見いだすこともできない。
そうすると、上記特許権者の主張は、本件の特許請求の範囲及び本件特許明細書の記載並びに技術常識に基づかない主張であり、特許権者の主張を採用することはできない。

ウ 本件発明3?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、上記アのとおり、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」が明確であることから、同様に明確であるといえる。

エ 本件発明2には、本件訂正により「精製塔から液体として抜き出されモノマーを主成分として含む液」と訂正されており、精製塔から液体として抜き出されることが明らかであるから、その技術的意味が明確である。
そして、本件発明8?10は、本件発明2を直接又は間接的に引用しており、本件発明2は、精製塔から液体として抜き出されることが明らかであるから、同様に明確であるといえる。

(3)「重合防止剤の添加位置」が「精製塔から150cm以内の位置」であることについて

ア 上記(2)アのとおり、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」は、精製塔から抜き出されたときに液体であることが明確であるから、本件発明1に記載された「重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である」との発明特定事項は、文字どおり、「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」に「重合防止剤を添加する」際の「重合防止剤の添加位置」が「前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置」であることを表している。
液体中に添加剤を添加することは、通常行われている添加方法であり、その意味するところは明確である。
また、「精製塔から150cm以内の位置」とは、本件特許明細書の記載(前記(1)エ参照)を参酌すれば、精製塔の接続点から150cm以内の位置を意味することが明記されており、重合防止剤の添加位置は明確である。
してみると、本件発明1は、「重合防止剤の添加位置」が「精製塔から150cm以内の位置」であることについて明確であり、本件発明1を直接又は間接に引用する本件発明3?5も同様に明確である。

イ 本件発明2にも、上記(3)アのとおりの記載があり、「重合防止剤の添加位置」が「精製塔から150cm以内の位置」であることについて明確であり、本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明8?10についても、同様に明確であるといえる。

(4)「重合防止剤の前記液への添加量」について
ア 本件発明1の「液の流量を測定する工程」は、「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」を測定する工程であり、通常用いられる流量計により、その液の流量が決定されることから、本件発明1の「重合防止剤の前記液への添加量」を決定することができ、この点でも、本件発明1は明確である。
本件発明1を直接又は間接に引用する本件発明3?5も、本件発明1と同様に明確である。

イ 本件発明2にも、上記(4)アのとおりの記載があり、「重合防止剤の前記液への添加量」について明確であり、本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明8?10についても、同様に明確であるといえる。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1?5、8?10については、その特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確であるから、特許請求の範囲請求項1?5、8?10の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものである。

2 取消理由2について
(1)サポート要件について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)本件発明の課題について
発明の詳細な説明の記載(上記1(1)イ参照)からみて、本件発明1?5、8?10が解決しようとする課題は、「重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法を提供する」ことにあるものと認める。

(3)本件特許明細書の記載について
発明の詳細な説明には、上記1(1)ア?エで摘示した事項が記載されており、実施例としては、上記1(1)オ?カで摘示した事項を記載されている。

(4)判断
本件発明1?5、8?10は、上記1(2)?(5)で述べたとおり、その請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明は明確であるといえる。
そして、上記発明の詳細な説明には、本件発明1、3?5の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」及び本件発明2、8?10の「精製塔から液体として抜き出されモノマーを主成分として含む液」について、精製塔から抜き出した時点でモノマーを主成分として含む液である態様が記載されている(上記1(1)ウ、1(1)エ及び1(1)オ参照)。
加えて、「重合防止剤の添加位置」が「精製塔から150cm以内の位置」であることも記載されており(上記1(1)エ参照)、本件発明1?5及び本件発明8?10の実施例である図1及び図2には、添加位置について、精製塔からの具体的な長さ(150cm以内であること)が明記されていないが、当該図1及び図2に示された「重合防止剤の添加位置」は、精製塔の直近であることが見てとれること(上記1(1)カ参照)から、この記載に接した当業者は、「重合防止剤の添加位置」が「精製塔から150cm以内の位置」にあることによって、上記本件発明が解決しようとする課題を解決できることを十分、理解することができると認められる。
また、本件特許明細書に記載された技術的事項により、本件発明が解決しようとする課題が解決することができないとする技術常識が存在することの根拠に足りる証拠を見いだすこともできない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件の請求項1?5及び8?10に記載された特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲請求項1?5及び8?10の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

3 取消理由3について
本件発明6は、「精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程」を発明特定事項とするものであり、「精製塔」において、「モノマーを主成分として含む液」が得られることが要件となっている。精製塔から抜き出されたときは気体の状態で、その後、精製塔とは異なる装置である熱交換器などにより液化されて「モノマーを主成分として含む液」となる発明が本件発明6に含まれないことは、文言上明らかである。
同様に、本件発明7も、「モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔」を発明特定事項とするものであり、本件発明6と同様に、「モノマーを主成分として含む液」を「精製塔」で得ることが要件となっている。精製塔から抜き出されたときは気体の状態で、その後、精製塔とは異なる装置である熱交換器などにより液化されて「モノマーを主成分として含む液」となる発明が本件発明7に含まれないことは、文言上明らかである。
また、本件発明6及び本件発明7の「重合防止剤の添加位置」が前記液の流れ方向に沿って前記「精製塔から150cm以内の位置」であることについては、上記1(3)で既に検討したとおりであるから、本件発明6及び本件発明7は、「重合防止剤の添加位置」が前記液の流れ方向に沿って前記「「精製塔から150cm以内の位置」であることは、明確である。
同様に、本件発明6及び本件発明7の「重合防止剤の前記液への添加量」についても、上記1(4)で既に検討したとおり、明確である。

(4)小括
以上のとおり、本件発明6?7については、その特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確であるから、特許請求の範囲請求項6?7の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものである。

4 取消理由4について
本件発明6?7について
(1)本件発明の課題について
発明の詳細な説明の記載(上記1(1)イ参照)からみて、本件発明6?7が解決しようとする課題は、「重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法を利用した精製方法及び精製装置を提供する」ことにあるものと認める。

(2)本件特許明細書の記載について
発明の詳細な説明には、上記1(1)ア?エで摘示した事項が記載されており、実施例としては、上記1(1)オ?カで摘示した事項を記載されている

(3)判断
本件発明の発明の詳細な説明の記載は、上記2(4)で既に検討したとおり、「重合防止剤の添加により製品規格を満足することが確認されたモノマーを含む液を、連続的に製品タンクに移送することができる、重合防止剤の添加方法」という本件発明が解決しようとする課題を解決できることを十分、理解することができると認められる。
また、本件特許明細書に記載された技術的事項により、本件発明が解決しようとする課題が解決することができないとすることが技術常識であることの根拠に足りる証拠を見いだすこともできない。
そうすると、本件発明6?7は、上記2(4)で既に検討した発明が解決しようとする課題を前提に、それを利用した精製方法及び精製装置を提供することであり、この点についても、当業者は、本件発明6?7が上記4(1)の発明が解決しようとする課題を解決できると、十分認識できるものであると認める。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件の請求項6?7に記載された特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲請求項6?7の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

5 申立理由1について
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(ア1)「【請求項3】 少なくとも水を含む(メタ)アクリル酸エステルを精製する方法であって、
(2a)水を含む(メタ)アクリル酸エステルを蒸留塔(I)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させ、
(2b)蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮器(J)により凝縮させ、その凝縮液をデカンター(K)に送り、
(2c)蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液に第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加し、
(2d)第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加した蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気の凝縮液をデカンター(K)で主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層と主に水からなる下層とに二層分離し、得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層の一部は蒸留塔(I)の塔頂部へ還流し、残りの上層は蒸留塔(M)へ送り、
(2e)デカンター(K)で得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層を蒸留塔(M)で蒸留し、低沸物を塔頂から留出させて除去し、蒸留塔(M)の塔底から(メタ)アクリル酸エステルを含有する缶出液を取り出し、
(2f)蒸留塔(M)の塔底から取り出した缶出液を蒸留塔(Q)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、塔頂から(メタ)アクリル酸エステルを留出させる
ことを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの精製方法。」

(ア2)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、効率よく、かつ、簡便な方法で着色不純物を除去でき、さらには長期間安定に運転できる(メタ)アクリル酸エステルの精製方法、および、(メタ)アクリル酸エステルを提供することを目的とする。」

(ア3)「【0015】また、本発明の方法が適用できる(メタ)アクリル酸エステルは、どのような方法によって製造されたものでもよく、特に限定されない。メタクリル酸エステルの工業的な製造方法としては、アセトンシアンヒドリンを原料とするACH法、炭素数4の化合物(イソブタン、イソブチレン等)の気相接触酸化反応で得られるメタクロレインをさらに気相接触酸化し、得られたメタクリル酸とアルコールのエステル化反応を行うC4酸化法、炭素数4の化合物の気相接触酸化反応で得られるメタクロレインをパラジウム含有化合物を用いてアルコールと反応させ直接エステル体を得る方法等が知られている。アクリル酸エステルの工業的な製造方法としては、プロピレンの気相接触酸化反応で得られるアクロレンをさらに気相接触酸化し、得られたアクリル酸とアルコールとのエステル化反応を行う方法等が知られている。
【0016】このような方法で製造された(メタ)アクリル酸エステルは、通常、着色不純物として、例えば、ジアセチル、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、およびピルビン酸メチル等を含有する。その含有量は、製造方法、製造条件等によって変化するが、通常、5?200質量ppm程度である。」

(ア4)「【0022】(メタ)アクリル酸エステルに第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加すると主にアセチル基を有する着色不純物がアミノ基含有化合物と反応し、その反応物は水に溶解するのでデカンテーションで(メタ)アクリル酸エステルと水とを分離することにより除去される。
【0023】本発明で用いる第1級および/または第2級アミノ基含有化合物としては、
【0024】
【化1】

【0025】を有していれば特に限定されず、脂肪族、芳香族アミンのいずれでもよく、1分子中に複数個のアミノ基を有するアミン類、アンモニア、ヒドラジンおよびその誘導体、さらにはヒドロキシルアミンおよびその無機酸塩等の化合物が含まれる。第1級および/または第2級アミノ基含有化合物としては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロピルアミン、メチルエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、フェニレンジアミン、ベンジルアミン等が挙げられる。特にトリエチレンテトラミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンを用いることが好ましい。第1級および/または第2級アミノ基含有化合物は1種を用いても2種以上を用いてもよい。
【0026】第1級および/または第2級アミノ基含有化合物の添加量は、着色不純物を十分に除去できるので処理する(メタ)アクリル酸エステルに対して0.0001質量%以上、特に0.001質量%以上が好ましく、処理する(メタ)アクリル酸エステルに対して5質量%以下、特に1質量%以下が好ましい。」

(ア5)「【0047】本発明の第二の方法で使用できる(メタ)アクリル酸エステルの精製装置の一例を図2に示し、図を用いて本発明の第二の(メタ)アクリル酸エステルの精製方法の説明を行う。
【0048】精製対象の水を含む(メタ)アクリル酸エステルはライン(8)から蒸留塔(I)へ供給され、ここで、主に水、低沸物および(メタ)アクリル酸エステルを含有する留出物と、重合物等の高沸物を含む缶残液とに分離する。缶残液は、一部はリボイラー(L)を通して蒸留塔(I)へ還流され、残りは系外へ除去してもよく、または、更に缶残液から(メタ)アクリル酸エステルを回収する工程へ移してもよい。蒸留塔(I)の操作条件は適宜決めればよい。
【0049】蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気(留出物)は、ライン(9)から供給される第1級および/または第2級アミノ基含有化合物およびライン(10)から供給される後述のデカンター(K)下層と混合され、凝縮器(J)で凝縮される。
・・・・・・・
【0058】低沸物が除去された(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸留塔(M)の缶出液はライン(14)から蒸留塔(Q)へ供給される。蒸留塔(Q)は精製塔である。蒸留塔(M)の缶出液の一部は、リボイラー(P)を通して蒸留塔(M)へ還流される。そして、蒸留塔(Q)塔頂から留出させた蒸気は凝縮器(R)で凝縮され、その一部は蒸留塔(Q)の塔頂部へ還流され、残りはライン(15)から取り出されて高純度の精製(メタ)アクリル酸エステルが得られる。一方、重合物等の高沸物を含む缶残液は、一部はリボイラー(T)を通して蒸留塔(Q)へ還流され、残りは系外へ除去してもよく、または、更に缶残液から(メタ)アクリル酸エステルを回収する工程へ移してもよい。蒸留塔(Q)の操作条件は適宜決めればよい。」

(ア6)「【0068】・・・・
<実施例3>実施例1で用いたメタクリル酸メチルを図2のような(メタ)アクリル酸エステルの精製装置を用いて精製した。
【0069】実施例1で用いたメタクリル酸メチルを塔頂部に凝縮器およびデカンターを備えた30段のオールダーショウ型蒸留塔(高沸除去塔)へ1000g/hで供給し、高沸物除去を行った。高沸除去塔は、塔頂温度45℃、操作圧力19kPa、缶出速度212g/hで運転した。
【0070】塔頂から留出させた蒸気に、トリエチレンテトラミンを0.2g/hで供給し、後で得られるデカンター下層を35.7g/hで供給した後、凝縮器で凝縮し、この凝縮液をデカンターへ導いた。そして、デカンターでの滞在時間が1時間になるように調節し、40℃で1時間処理をした。得られた主に水からなるデカンター下層を35.7g/hで蒸留塔の塔頂から留出させた蒸気に添加して循環させた。
【0071】一方、主にメタクリル酸メチルからなるデカンター上層の一部を360g/hで高沸除去塔の塔頂部へ還流し、残りの上層は730g/hで30段のオールダーショウ型蒸留塔(低沸除去塔)へ供給し、低沸物除去を行った。低沸除去塔は、塔底温度82℃、操作圧力47kPa、缶出速度721g/hで運転した。
【0072】そして、低沸除去塔塔底から得られる缶出液を721g/hで10段のオールダーショウ型蒸留塔(精製塔)へ供給して精製し、699g/hでメタクリル酸メチルを得た。精製塔は、塔頂温度56℃、操作圧力20kPaで運転した。
【0073】得られた精製メタクリル酸メチル中のジアセチル濃度は2ppmであり、色数はAPHA0であった。また、15日間運転を行ったが、蒸留塔およびリボイラーに付着物等の汚れは確認されなかった。」

(ア7)「【図2】



イ 甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(イ1)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らの検討によれば、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルを蒸留する際に、蒸留塔に付随する竪型多管式熱交換器を蒸留塔に支持させ、これらを連結する蒸気ラインを蒸留塔直胴部から取り出すこと、または蒸留塔の塔頂に凝縮器を直接設置し、気相容積を小さくすることで重合防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち、本発明の目的は、易重合性物質含有物を熱交換器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法によって、達成される。」

(イ2)「【0017】本発明では、蒸留塔と熱交換器との間の連結管または連結管相当部における蒸気の線速度を毎秒5m以上、好ましくは5?60m、さらに好ましくは20?60m、かつ、滞留時間を3秒以下、好ましくは2秒以下とすることが望ましい。ここで、蒸気とは、蒸気状または窒素ガスなどの同伴ガスを含む易重合性物質含有物を意味する。ただし、蒸気の線速度は、蒸留の開始時および終了時を除く、定常的な操作または運転時の条件である。蒸気の線速度は、蒸留塔と熱交換器との間を連結管で結合する場合にはその連結管の入口から出口までにおける線速度をいう。言うまでもないことであるが、蒸留塔の連結管への接ぎ手までの距離、および熱交換器の連結管への接ぎ手までの距離は、本発明の趣旨から接ぎ手の取り外しに支障のない限りできる限り短くする。蒸気の線速度が毎秒5m以下の場合には、易重合性物質含有物の管壁への付着が認められるようになり、一方、蒸気の線速度が毎秒60m以上の場合には、圧力損失の増大、温度上昇が認められるために好ましくない。また、蒸気の滞留時間が3秒を越える場合には、易重合性物質含有物の管壁への付着が認められるようになり、好ましくない。
【0018】本発明で用いる滞留時間は次に定める方法により計算で求める。
【0019】滞留時間=A/(B×C)
ここで、式中、A:連結管内容積 [m^(3)]
B:連結管における蒸気線速度 [m/s]
C:連結管断面積 [m^(2)] を示す。」

(イ3)「【0035】実施例1
内径1100mm、段数50段のステンレス鋼製(SUS316)のシーブトレーを内装した蒸留塔を用い、アクリル酸の精製を行った。蒸留は、アクリル酸98重量%、酢酸2重量%でフィードし、塔頂圧力40mmHg、温度63℃、塔底90mmHg、温度84℃、還流比7の条件で1週間連続運転したのち停止した。なお、凝縮器(竪型多管式熱交換器)は塔頂直胴部から蒸気ラインを取り出し、塔に支持させた。この場合、蒸気ラインにおける蒸気の線速度は20m/sで、滞留時間は0.1秒であった。(ここで、滞留時間は上記の式から求めた。滞留時間=A/(B×C)=2.1/(20×1.1)=0.1)蒸留中の塔頂から凝縮器間の圧力損失は一定で、開放点検の結果、塔頂から凝縮器管板面に重合物の付着は見られなかった。」

ウ 甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(ウ1)「【0011】
【発明の実施の形態】蒸留装置を用いて易重合性化合物を蒸留する際には、易重合性化合物が蒸留装置内部の構成部材表面で停滞することにより(即ち、同一の液が同一の場所に停滞することにより)重合するものである。特に、気相が凝縮した液が構成部材上で停滞した場合には、重合禁止剤がほとんど含まれていない液体として停滞するので、重合物の量が多くなりやすく、しばしば運転をストップさせる原因となっていた。
【0012】本発明者らは、アクリル酸等の易重合性化合物を蒸留する際に、蒸留装置内部の構成部材表面で液体の滞留がないようにして蒸留を行うと蒸留装置内での重合を効果的に防止でき、そのためには構成部材表面の全面に亘って構成部材の周囲に存在している液と実質的に同一組成の液を用いて散布すればよいことを見出し、本発明に想到した。さらに散布液の液温を構成部材の周囲に存在している液の温度と同一にするか、或いは低くすることが好ましく、更には重合禁止剤を含有させれば望ましく、蒸留装置内に分子状酸素が存在すると一層効果が顕著である。」
(ウ2)「【0021】図3?8は、いずれも本発明例を示す概略説明図であり、図3は蒸留装置1の下部に設けられているマンホール4に対して、塔底から導出された精製液を蒸留装置1に戻し、噴霧化投入手段5によりスプレーする方法を示している。図4は、塔頂に配設された鏡板7及び/又は塔頂から次工程の凝縮器へのベーパーライン8に対して、噴出口を4か所に有する噴霧化投入手段9により還流液をスプレーする方法を示している。」

(ウ3)「【図4】



エ 甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(エ1)「【0046】
(実施例1)
図1に示す装置を使用してアクリル酸を製造した。
【0047】
理論段数18段相当の無堰多孔板トレイを有する蒸留塔によりアクリル酸の蒸留を行った。また本蒸留塔は、塔頂部にコンデンサーを備え、塔頂部より理論段9段目にフィード口を、理論段17段目に塔側流抜出し口及びコンデンサーを備え、塔底部にはリボイラーを備えていた。該蒸留塔に酢酸3.6質量%、水3.7質量%、アクリル酸二量体1.0質量%、無水マレイン酸0.6質量%を含むアクリル酸溶液(APHA;2000)をフィード口より12kg毎時で供給し、還流ラインより重合防止剤としてジブチルジチオカルバミン酸銅40質量ppm、フェノチアジン100質量ppm(対アクリル酸蒸発蒸気量)を投入し、塔頂操作圧100hPa(絶対圧)となるようにスチームエゼクターにより減圧し、かつ塔側流抜出し口と真空装置との間の調節弁により塔側部抜出し蒸気質と塔頂部留出液の流量比が4対1となるように塔側部と塔頂部との差圧を95hPaに制御し、塔側流抜出し口より蒸気質として精製アクリル酸を8.6kg毎時となるように塔底液を1.2kg毎時で抜き出し、また塔底液面を塔底部リボイラー供給蒸気量で制御し、還流比3.4とした。蒸気質で得られた塔側流は、不純物として酢酸2400質量ppm、水1質量ppm(検出限界)以下、アクリル酸二量体20質量ppm、無水マレイン酸3200質量ppmを含む精製アクリル酸であった。また、本溶液中の色調を測定したところAPHAは300であった。」

オ 甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

(オ1)「【0031】
ところで、製品化塔8で蒸留して得られた凝縮液には重合防止剤が殆ど含まれていないため、凝縮器10や凝縮液タンク12などの塔付帯設備において重合物が生じ易い。また凝縮液の一部を還流液として製品化塔8の上部に供給する場合、該還流液に重合防止剤が含まれていないと製品化塔8で重合物が生じ易い。」

(オ2)「【0044】
循環液および/または凝縮液に添加する重合防止剤の添加量は、凝縮液や塔付帯設備での重合物発生を十分抑制できる様に調整すればよいが、例えば循環液に添加する重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテルを添加する場合、凝縮液中のアクリル酸に対して重合防止剤が10?200ppm程度の濃度となる様に添加すればよい。この程度の添加量であれば、凝縮液や塔付帯設備でのアクリル酸の純度を維持しつつ塔内の重合防止を図るという本発明の目的を達成できる。
【0045】
また上記アクリル酸の蒸留においてハイドロキノンモノメチルエーテルを還流液に添加する場合、該還流液に添加するハイドロキノンモノメチルエーテルの添加量は、塔内のアクリル酸に対して100?5000ppm程度の濃度となる様に添加することが製品化塔8での重合を抑止するには望ましい。尚、飛沫同伴により凝縮液中のハイドロキノンモノメチルエーテル濃度が上昇する場合には、図3に示す様に還流液の一部を製品化塔8の上部から供給する還流液よりも下側から供給する様に構成し、該下側から供給する還流液に重合防止剤を供給して塔内のアクリル酸に対してハイドロキノンモノメチルエーテルが100?5000ppm程度となる様に調整することが望ましい。」

カ 甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

(カ1)「【0013】
重合禁止剤の代表例としては、p-ベンゾキノン、メトキシハイドロキノン、ヒドロキノン、p-t-ブチルカテコール、2、6-ジ-t-ブチルフェノールなどのフェノール系化合物; 4‐ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルなどのN-オキシル化合物; 塩化銅、硫酸銅、酢酸銅、酢酸マンガン、塩化鉄、酢酸鉄、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化マンガン、酢酸マンガン、塩化コバルト、酢酸コバルトなどの金属塩; アルキル化ジフェニルアミン、フェノチアジン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミンなどのアミノ化合物; 4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、1-ヒドロキシ-4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセチルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-プロピオニルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルなどのピペリジン化合物などが挙げられる。」

キ 甲第7号証
甲第7号証には,以下の事項が記載されている。

(キ1)「【0023】反応分解塔に供給する供給液(以下、高沸液ということがある。)には、アクリル酸またはアクリル酸エステル類を製造する工程で発生、もしくは使用する物質も含まれている。具体的には、アクリル酸、アクリル酸エステル類、マレイン酸、マレイン酸エステル類、フルフラール、ベンズアルデヒド、ポリマー、オリゴマー、エステル製造原料として使用するアルコール類、重合禁止剤(アクリル酸銅、ジチオカルバミン酸銅、フェノール化合物、フェノチアジン化合物等)である。
【0024】ジチオカルバミン酸銅としては、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジプロピルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等のジアルキルジチオカルバミン酸銅、エチレンジチオカルバミン酸銅、テトラメチレンジチオカルバミン酸銅、ペンタメチレンジチオカルバミン酸銅、ヘキサメチレンジチオカルバミン酸銅等の環状アルキレンジチオカルバミン酸銅、オキシジエチレンジチオカルバミン酸銅等の環状オキシジアルキレンジチオカルバミン酸銅等である。
【0025】フェノール化合物としては、ハイドロキノン、メトキノン、ピロガロール、カテコール、レゾルシン、フェノール、またはクレゾール等である。
【0026】フェノチアジン化合物としては、フェノチアジン、ビスー(α?メチルベンジル)フェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、ビスー(α?ジメチルベンジル)フェノチアジン等である。」

ク 甲第8号証
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

(ク1)「【0022】
【実施例】内径2200mm、段数50段のステンレス鋼製(SUS316)のシーブトレーを内装したステンレス鋼製(SUS316)の蒸留塔を用い、下記の従来例及び本発明例の方法によりアクリル酸の精製を行った。原料液としては、アクリル酸の濃度が96重量%で、酢酸の濃度が2重量%であり、重合禁止剤としてハイドロキノンを50ppmを含有する液を用いて9200kg/hrで蒸留塔内(塔頂から10段目のトレイ上)に供給した。蒸留中の塔頂の温度は63℃、圧力は40mmHgに設定した。還流液量は8400kg/hr、還流液中のハイドロキノン濃度は100ppm、塔頂からの留出液量は1200kg/hr、塔下部からの酸素供給量は10Nm^(3)/hrの条件で蒸留を行い、塔底の酢酸濃度を測定すると共に、原料液を投入したトレイ上の任意の8か所で液を採取してハイドロキノンの濃度のばらつきを調べた。更に、1か月間連続運転した後、解体点検して塔内の重合物量を測定した。」

ケ 甲第9号証
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。

(ケ1)「【0014】また、上記第1及び2発明において、本第3発明に示す様に、上記捕捉剤中に、重合防止剤を含有させてもよい。本第3発明は、本第1及び2発明の目的をより一層、確実に達せんとするものである。即ち、「捕捉剤に捕捉されたアクリル酸若しくはメタクリル酸」の重合を防止せんとしている。上記「重合防止剤」は、従来技術において重合性液体を取り扱う際に用いられるものと同様であり、フェノチアジン等の芳香族アミン類やハイドロキノン及びその誘導体等のフェノール類化合物等の重合防止剤等が挙げられる。例えば、p-ハイドロオキシ・ジフェニールアミン、N、N’-ジフェニールジアミン及び2,5-ジ-tert.-ブチルハイドロキノン等である。更に好ましくは、ハイドロキノン、モノメチルエーテルハイドロキノン、フェノチアジン等が挙げられる。」

コ 甲第10号証
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。

(コ1)「【0010】本発明において使用する易重合性物質としては、重合性のモノマーが該当し、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル、またはこれらのエステル体や誘導体が例示でき、これらにさらに高沸点物質や溶媒、易重合性物質生成時の副生物を含む混合物でもよい。好ましくは、アクリル酸、アクリル酸エステル(メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、2-エチルヘキシルエステルなど)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、ターシャリーブチルエステル、シクロヘキシルエステルなど)、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。」

サ 甲第11号証
甲第11号証には、以下の事項が記載されている。

(サ1)「【請求項1】 蒸留塔の運転制御において、波長範囲が700nm?2500nmである近赤外線スペクトルで塔内液の塔頂液及び塔底液の一方もしくは両方の組成分析を行い、得られた測定値を用いて、蒸留塔のフィード量、環流比、塔底抜き出し液量、塔頂抜き出し液量、リボイラー供給熱量、重合防止剤の供給量及び塔内温度から選んだ1つもしくは2つ以上を操作量として変更することによって、塔頂液の組成もしくは塔底液の組成の一方または両方の組成を一定にすることを特徴とする蒸留塔制御方法。」
(11b)「【0014】近赤外線による分析では多成分を同時にしかも高速に約1分位で測定できる。分析した結果をオペレーターが監視してそれをマニュアルで運転に反映することも可能であるが、分析器を直接調節器と連結し分析結果を塔の制御に自動で反映させることも可能である。
【0015】ここで制御とは蒸留塔のフィード量、環流比、塔底抜き出し液量、塔頂抜き出し液量、リボイラー供給熱量及び塔内温度の中から選んだ1つもしくは2つ以上を操作量として変更することによって、塔頂液の組成もしくは塔底液の組成の一方または両方の組成を一定にすることを指す。したがってオペレーターは分析結果を見て、蒸留塔の環流比を変更したり、フィード量を変更したり、塔頂または塔底からの抜き出し量を変更したり、リボイラーへの供給熱量を変更することにより制御することが可能になる。
【0016】分析器と調節器を連結する場合は、以上の操作をオペレーターの手を介さずに自動で行わせ、塔頂液の組成もしくは塔底液の組成が管理目標値になるように調節器が自動で蒸留塔の環流比を変更したり、フィード量を変更したり、塔頂または塔底からの抜き出し量を変更したり、リボイラーへの供給熱量を変更することが可能である。」

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記(ア1)の請求項3、上記(ア7)の図2と上記(ア2)?(ア5)における図2の説明、上記(ア6)にその実施態様である実施例3が、それぞれ記載されている。

そうすると、甲第1号証には、
「少なくとも水を含む(メタ)アクリル酸エステルを精製する方法であって、(2a)水を含む(メタ)アクリル酸エステルを蒸留塔(I)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させ、(2b)蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮器(J)により凝縮させ、その凝縮液をデカンター(K)に送り、(2c)蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液に第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加し、(2d)第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加した蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気の凝縮液をデカンター(K)で主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層と主に水からなる下層とに二層分離し、得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層の一部は蒸留塔(I)の塔頂部へ還流し、残りの上層は蒸留塔(M)へ送り、(2e)デカンター(K)で得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層を蒸留塔(M)で蒸留し、低沸物を塔頂から留出させて除去し、蒸留塔(M)の塔底から(メタ)アクリル酸エステルを含有する缶出液を取り出し、(2f)蒸留塔(M)の塔底から取り出した缶出液を蒸留塔(Q)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、塔頂から(メタ)アクリル酸エステルを留出させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの精製方法。」の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。
そして、甲第1号証には、甲1発明Aを実施するための図2で示される、
「少なくとも水を含む(メタ)アクリル酸エステルを精製する装置であって、水を含む(メタ)アクリル酸エステルが送られ、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させる蒸留塔(I)、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮させる凝縮器(J)、その凝縮液がデカンター(K)に送られるライン、蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液に第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加するライン、第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加した蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気の凝縮液を主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層と主に水からなる下層とに二層分離するデカンター(K)、デカンター(K)で得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層の一部を蒸留塔(I)の塔頂部へ還流するライン、デカンター(K)で得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層を蒸留塔(M)に供給するライン、低沸物を塔頂から留出させて除去し、塔底から(メタ)アクリル酸エステルを含有する缶出液を取り出す蒸留塔(M)、)蒸留塔(M)の塔底から取り出した缶出液を蒸留塔(Q)に送るライン、高沸物を塔底より缶出させて除去し、塔頂から(メタ)アクリル酸エステルを留出させる蒸留塔(Q)を備えることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの精製装置。」の発明(以下「甲1発明B」という。)も記載されているといえる。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aの「(2a)水を含む(メタ)アクリル酸エステルを蒸留塔(I)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させ、(2b)蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮器(J)により凝縮させ、その凝縮液をデカンター(K)に送り、(2c)蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液」は、蒸留塔から水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する凝縮液を得ていることから、本件発明1の「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液」に相当する。
甲1発明Aの凝縮液に「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加」することは、上記(ア2)?(ア4)より、(メタ)アクリル酸エステルを製造した際に含まれる主にアセチル基を有する着色不純物と反応させ、水に溶解させることによって(メタ)アクリル酸エステルと水を分離することにより、(メタ)アクリル酸エステルを精製することであるから、本件発明1の「重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法」において、「添加剤を添加する、添加剤の添加方法」という点で共通している。
そうすると、本件発明1と甲1発明Aは、「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に添加剤を添加する、添加剤の添加方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
添加する成分について、本件発明1は、「重合防止剤」であるのに対して、甲1発明Aは、「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物」である点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有し、前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である」ことが特定されているのに対して、甲1発明Aはそのような特定がない点。

(ア)相違点1について
重合防止剤(重合禁止剤も含む)は、甲第5号証(上記(オ2)参照)、甲第6号証(上記(カ1)参照)、甲第7号証(上記(キ1)参照)、甲第8号証(上記(ク1)参照)、甲第9号証(上記(ケ1)参照)に記載されているように当業者によく知られたものではある。
また、甲第4号証には、上記(エ1)より、蒸留塔から排出されるアクリル酸の流量に基づき、蒸留塔に重合防止剤の投入量を一定に保つこと、甲第5号証には、上記(オ1)?(オ2)より、循環液および/または凝縮液に添加する重合防止剤の添加量を所定濃度に調整すること、がそれぞれ記載されていることも当業者によく知られた技術的事項である。
しかしながら、甲1発明Aにおける「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物」は、甲第1号証の上記(ア2)?(ア4)より、(メタ)アクリル酸エステルを製造した際に含まれる主にアセチル基を有する着色不純物と反応させ、水に溶解させることを目的にしており、重合防止剤とは添加目的の異なる添加剤である。
そうすると、甲1発明Aの「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物」を添加目的の異なる「重合防止剤」に置き換えることは、当業者が容易に行い得ることとはいえない。

(イ)相違点2について
甲第2号証には、上記(イ1)?(イ3)より「易重合性物質含有物を熱交換器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法」において、滞留時間は「滞留時間=A/(B×C)ここで、式中、A:連結管内容積 [m^(3)]B:連結管における蒸気線速度 [m/s]C:連結管断面積 [m^(2)] を示す。」の関係式から求められ、当該式を用いることにより連結管のおおよその長さが求められること、甲第3号証には、上記(ウ1)?(ウ2)より、蒸留装置内部の重合を効果的に防止するために、噴出口を4か所に有する噴霧化投入手段により環流液をスプレイすること、甲第4号証には、上記(エ1)より、蒸留塔から排出されるアクリル酸の流量に基づき、蒸留塔に重合防止剤の投入量を一定に保つこと、甲第5号証には、上記(オ1)?(オ2)より、循環液および/または凝縮液に添加する重合防止剤の添加量を所定濃度に調整すること、甲第10号証には、上記(コ1)より、易重合性物質として、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の重合性モノマーが該当すること、甲第11号証には、蒸留塔内液の塔頂液及び塔底液の一方もしくは両方の組成分析を行い、得られた測定値を用いて、蒸留塔のフィード量、環流比、塔底抜き出し液量、塔頂抜き出し液量、リボイラー供給熱量、重合防止剤の供給量及び塔内温度から選んだ1つもしくは2つ以上を操作量として変更することによって、塔頂液の組成もしくは塔底液の組成の一方または両方の組成を一定にする蒸留塔制御方法等が、それぞれ記載されている。
しかしながら、これらの甲第2号証?甲第5号証及び甲第10号証?甲第11号証に記載された技術的事項は、蒸留装置内に重合防止剤を添加してアクリル酸のような易重合性物質の蒸留中における重合を防止し、モノマーなどの易重合性物質を精製する方法及び、その際に蒸留装置内の分析を行いながら蒸留塔を制御することなどが、それぞれ記載されているにとどまる。
そして、本件発明1は上記相違点2の発明特定事項を有することによって、蒸留塔から抜き出されたモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加し、連続的に製品タンクに移送することができるという効果を奏するものである。
そうすると、相違点2は、甲1発明Aに、甲第2号証?甲第5号証及び甲第10号証?甲第11号証に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、これらの技術的事項から本件発明1の発明特定事項を導き出すことは困難といわざるを得ない。

(ウ)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明A及び甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aの「(2a)水を含む(メタ)アクリル酸エステルを蒸留塔(I)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させ、(2b)蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮器(J)により凝縮させ、その凝縮液をデカンター(K)に送り、(2c)蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液」は、蒸留塔から水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する凝縮液を得ていることから、本件発明2の「精製塔から液体として抜き出されモノマーを主成分として含む液」に相当する。
甲1発明Aの凝縮液に「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加」することは、上記(ア2)?(ア4)より、(メタ)アクリル酸エステルを製造した際に含まれる主にアセチル基を有する着色不純物と反応させ、水に溶解させることによって(メタ)アクリル酸エステルと水を分離することにより、(メタ)アクリル酸エステルを精製することであるから、本件発明2の「重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法」において、「添加剤を添加する、添加剤の添加方法」という点で共通している。
そうすると、本件発明2と甲1発明Aは、「精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に添加剤を添加する、添加剤の添加方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
添加する成分について、本件発明2は、「重合防止剤」であるのに対して、甲1発明Aは、「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物」である点。
<相違点4>
本件発明2は、「前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有し、前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置であり、前記流量を計量計により測定する」ことが特定されているのに対して、甲1発明Aはそのような特定がない点。

(ア)相違点3について
相違点3は、上記(3)アの相違点1と同じであるから、上記(3)ア(ア)で既に検討したとおり、当業者が容易に行い得ることとはいえない。

(イ)相違点4について
甲第2号証には、上記(イ1)?(イ3)より「易重合性物質含有物を熱交換器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法」において、滞留時間は「滞留時間=A/(B×C)ここで、式中、A:連結管内容積 [m^(3)]B:連結管における蒸気線速度 [m/s]C:連結管断面積 [m^(2)] を示す。」の関係式から求められ、当該式を用いることにより連結管のおおよその長さが求められること、甲第3号証には、上記(ウ1)?(ウ2)より、蒸留装置内部の重合を効果的に防止するために、噴出口を4か所に有する噴霧化投入手段により環流液をスプレイすること、甲第4号証には、上記(エ1)より、蒸留塔から排出されるアクリル酸の流量に基づき、蒸留塔に重合防止剤の投入量を一定に保つこと、甲第5号証には、上記(オ1)?(オ2)より、循環液および/または凝縮液に添加する重合防止剤の添加量を所定濃度に調整すること、甲第10号証には、上記(コ1)より、易重合性物質として、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の重合性モノマーが該当すること、甲第11号証には、蒸留塔内液の塔頂液及び塔底液の一方もしくは両方の組成分析を行い、得られた測定値を用いて、蒸留塔のフィード量、環流比、塔底抜き出し液量、塔頂抜き出し液量、リボイラー供給熱量、重合防止剤の供給量及び塔内温度から選んだ1つもしくは2つ以上を操作量として変更することによって、塔頂液の組成もしくは塔底液の組成の一方または両方の組成を一定にする蒸留塔制御方法等が、それぞれ記載されている。
しかしながら、これらの甲第2号証?甲第5号証及び甲第10号証?甲第11号証に記載された技術的事項は、蒸留装置内に重合防止剤を添加してアクリル酸のような易重合性物質の蒸留中における重合を防止し、モノマーなどの易重合性物質を精製する方法及び、その際に蒸留装置内の分析を行いながら蒸留塔を制御することなどが、それぞれ記載されているにとどまる。
そして、本件発明1は上記相違点2の発明特定事項を有することによって、蒸留塔から抜き出されたモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加し、連続的に製品タンクに移送することができるという効果を奏するものである。
そうすると、相違点4は、甲1発明Aに、甲第2号証?甲第5号証及び甲第10号証?甲第11号証に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、これらの技術的事項から本件発明2の発明特定事項を導き出すことは困難といわざるを得ない。

(ウ)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明2は、甲1発明A及び甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

ウ 本件発明3?5について
本件発明3?5は、本件発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、本件発明3は、「前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、を更に有する」ことを、本件発明4は、「前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である」ことを、本件発明5は、「前記モノマーはアクリロニトリルである」ことを、それぞれ特定したものである。しかしながら、上記(3)アで検討したとおり、本件発明1が甲1発明A及び甲第2?11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本件発明3?5も、甲1発明A及び甲第2?11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ 本件発明6について
本件発明6と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aの「(2a)水を含む(メタ)アクリル酸エステルを蒸留塔(I)に送り、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させ、(2b)蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮器(J)により凝縮させ、その凝縮液をデカンター(K)に送り、(2c)蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液」は、蒸留塔から水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する凝縮液を得ていることから、本件発明6の「精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程」に相当する。
甲1発明Aの凝縮液に「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加」することは、上記(ア2)?(ア4)より、(メタ)アクリル酸エステルを製造した際に含まれる主にアセチル基を有する着色不純物と反応させ、水に溶解させることによって(メタ)アクリル酸エステルと水を分離することにより、(メタ)アクリル酸エステルを精製することであるから、本件発明6の「前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程」において「前記精製塔から抜き出された前記液に添加剤を添加する工程」という点で共通する。
さらに、甲1発明Aの「(メタ)アクリル酸エステルの精製方法」は、本件発明6の「精製方法」に相当する。
そうすると、本件発明6と甲1発明Aは、「精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、前記精製塔から抜き出された前記液に添加剤を添加する工程と、を含む精製方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
添加する成分について、本件発明6は、「重合防止剤」であるのに対して、甲1発明Aは、「第1級および/または第2級アミノ基含有化合物」である点。
<相違点6>
本件発明6は、「前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有し、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である」ことが特定されているのに対して、甲1発明Aはそのような特定がない点。

(ア)相違点5について
相違点5は、上記(3)アの相違点1と同じであるから、上記(3)ア(ア)で既に検討したとおり、当業者が容易に行い得ることとはいえない。

(イ)相違点6について
甲第2号証には、上記(イ1)?(イ3)より「易重合性物質含有物を熱交換器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法」において、滞留時間は「滞留時間=A/(B×C)ここで、式中、A:連結管内容積 [m^(3)]B:連結管における蒸気線速度 [m/s]C:連結管断面積 [m^(2)] を示す。」の関係式から求められ、当該式を用いることにより連結管のおおよその長さが求められること、甲第3号証には、上記(ウ1)?(ウ2)より、蒸留装置内部の重合を効果的に防止するために、噴出口を4か所に有する噴霧化投入手段により環流液をスプレイすること、甲第4号証には、上記(エ1)より、蒸留塔から排出されるアクリル酸の流量に基づき、蒸留塔に重合防止剤の投入量を一定に保つこと、甲第5号証には、上記(オ1)?(オ2)より、循環液および/または凝縮液に添加する重合防止剤の添加量を所定濃度に調整すること、甲第10号証には、上記(コ1)より、易重合性物質として、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の重合性モノマーが該当すること、甲第11号証には、蒸留塔内液の塔頂液及び塔底液の一方もしくは両方の組成分析を行い、得られた測定値を用いて、蒸留塔のフィード量、環流比、塔底抜き出し液量、塔頂抜き出し液量、リボイラー供給熱量、重合防止剤の供給量及び塔内温度から選んだ1つもしくは2つ以上を操作量として変更することによって、塔頂液の組成もしくは塔底液の組成の一方または両方の組成を一定にする蒸留塔制御方法等が、それぞれ記載されている。
しかしながら、これらの甲第2号証?甲第5号証及び甲第10号証?甲第11号証に記載された技術的事項は、蒸留装置内に重合防止剤を添加してアクリル酸のような易重合性物質の蒸留中における重合を防止し、モノマーなどの易重合性物質を精製する方法及び、その際に蒸留装置内の分析を行いながら蒸留塔を制御することなどが、それぞれ記載されているにとどまる。
そして、本件発明6は上記相違点2の発明特定事項を有することによって、蒸留塔から抜き出されたモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する工程を含む精製方法とすることで、連続的に製品タンクに移送することができるという効果を奏するものである。
そうすると、相違点6は、甲1発明Aに、甲第2号証?甲第5号証及び甲第10号証?甲第11号証に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、これらの技術的事項から本件発明6の発明特定事項を導き出すことは困難といわざるを得ない。

(ウ)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明6は、甲1発明A及び甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

オ 本件発明7について
本件発明7と甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Bの「水を含む(メタ)アクリル酸エステルが送られ、高沸物を塔底より缶出させて除去し、水および(メタ)アクリル酸エステルを含有する蒸気を塔頂から留出させる蒸留塔(I)、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気を凝縮させる凝縮器(J)、その凝縮液がデカンター(K)に送られるライン、蒸留塔(I)の塔頂からデカンター(K)の間で、蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気またはその凝縮液に第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加するライン、第1級および/または第2級アミノ基含有化合物を添加した蒸留塔(I)の塔頂から留出させた蒸気の凝縮液を主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層と主に水からなる下層とに二層分離するデカンター(K)、デカンター(K)で得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層の一部を蒸留塔(I)の塔頂部へ還流するライン、デカンター(K)で得られる主に(メタ)アクリル酸エステルからなる上層を蒸留塔(M)に供給するライン、低沸物を塔頂から留出させて除去し、塔底から(メタ)アクリル酸エステルを含有する缶出液を取り出す蒸留塔(M)、)蒸留塔(M)の塔底から取り出した缶出液を蒸留塔(Q)に送るライン、高沸物を塔底より缶出させて除去し、塔頂から(メタ)アクリル酸エステルを留出させる蒸留塔(Q)を備える」は、本件発明7の「モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔」に相当し、甲1発明Bの「少なくとも水を含む(メタ)アクリル酸エステルを精製する装置」及び「(メタ)アクリル酸エステルの精製装置」は、本件発明7の「精製装置」に相当する。
そうすると、本件発明7と甲1発明Bは、「モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔を備える精製装置」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7>
精製装置に備える物として、本件発明7は、「精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンク」、及び「前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定内になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置」を特定しているのに対して、甲1発明Bには、さらに精製装置に備える物の特定がない点。
<相違点8>
本件発明7は、「重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である」ことを特定しているのに対して、甲1発明は、このような特定がない点。

(ア)相違点7及び8について
甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項は、上記(3)ア、イ及びエで示したとおりであり、甲1発明Bに甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、相違点7及び8で摘示した本件発明7の発明特定事項を、これらの技術的事項から導き出すことは困難であるといわざるを得ない。
そして、本件発明7は上記相違点7及び8の発明特定事項を有することによって、蒸留塔から抜き出されたモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する工程を含む精製装置とすることで、連続的に製品タンクに移送することができるという効果を奏するものである。
そうすると、相違点7及び8は、甲1発明Bに、甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、これらの技術的事項から本件発明7の発明特定事項を導き出すことは困難といわざるを得ない。

(イ)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明7は、甲1発明B及び甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

カ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、本件発明2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、本件発明8は、「前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、を更に有する」ことを、本件発明9は、「前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である」ことを、本件発明10は、「前記モノマーはアクリロニトリルである」ことを、それぞれ特定したものである。
しかしながら、上記(3)イで検討したとおり、本件発明2が甲1発明A及び甲第2?11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本件発明8?10も、甲1発明A及び甲第2?11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

キ 小括
以上のとおり、本件発明1?10は、本件出願前に頒布された甲第1号証(主引例)及び甲第2?11号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。


第6 むすび
したがって、上記取消理由1?4及び申立理由1によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製塔から抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有し、
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、添加方法。
【請求項2】
精製塔から液体として抜き出されモノマーを主成分として含む液に重合防止剤を添加する、重合防止剤の添加方法であって、
前記液の流量を測定する工程と、
前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、
を有し、
前記添加する工程において、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置であり、
前記流量を流量計により測定する、添加方法。
【請求項3】
前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項1に記載の添加方法。
【請求項4】
前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は3に記載の添加方法。
【請求項5】
前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の添加方法。
【請求項6】
精製塔において、モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得る工程と、
前記精製塔から抜き出された前記液に重合防止剤を添加する工程と、
を含む精製方法であって、
前記添加する工程は、前記精製塔から抜き出された前記液の流量を測定する工程と、前記液中の前記重合防止剤の濃度が一定になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算して、前記添加量の前記重合防止剤を前記液に添加する工程と、を有し、前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、精製方法。
【請求項7】
モノマーを含む混合物を精製して前記モノマーを主成分として含む液を得るための精製塔と、前記精製塔から抜き出された前記液を貯蔵するための製品タンクと、を備える精製装置であって、
前記液の流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとを接続するラインを流れる前記液の流量を測定するための流量計と、前記液中の重合防止剤の濃度が一定内になるように前記重合防止剤の前記液への添加量を前記流量から演算する制御システムと、前記ラインを流れる前記液に前記添加量の前記重合防止剤を添加するための添加装置と、を更に備え、
前記重合防止剤の添加位置が、前記液の流れ方向に沿って前記精製塔から150cm以内の位置である、精製装置。
【請求項8】
前記重合防止剤を添加された前記液を製品タンクに貯蔵する工程と、
前記流れ方向に沿って前記精製塔と前記製品タンクとの間に設けられる冷却装置により前記液を冷却する工程と、
を更に有する請求項2に記載の添加方法。
【請求項9】
前記重合防止剤は、水、メトキノン及びハイドロキノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は8に記載の添加方法。
【請求項10】
前記モノマーはアクリロニトリルである、請求項2、8及び9のいずれか1項に記載の添加方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-19 
出願番号 特願2010-225129(P2010-225129)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 直子  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 木村 敏康
佐々木 秀次
登録日 2016-06-10 
登録番号 特許第5945739号(P5945739)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 重合防止剤の添加方法、精製方法及び精製装置  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 内藤 和彦  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 大貫 敏史  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  

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