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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B42D |
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管理番号 | 1349660 |
異議申立番号 | 異議2017-700521 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-26 |
確定日 | 2019-01-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6036105号発明「金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6036105号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6036105号の請求項1乃至4に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6036105号の請求項1乃至4に係る特許についての出願は、平成24年9月27日に出願され、平成28年11月11日付けでその特許権の設定登録がされ、同年11月30日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して、平成29年5月26日付けで特許異議申立人 赤松智信より請求項1乃至4に対して特許異議の申立てがされ、同年8月4日付けで取消理由が通知され、同年10月6日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年11月24日に特許異議申立人 赤松智信から意見書が提出され、平成30年1月17日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年3月23日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年5月1日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年5月24日付けで訂正拒絶理由通知が通知され、同年6月19日に面接が行われ、同年6月27日に意見書が提出され、平成30年7月19日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年9月21日に意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。 ア 訂正事項1 請求項1に「磁気テープ転写面に金属蒸着層を積層し」とあるのを、「磁気テープ転写面に、ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し」と訂正する。 イ 訂正事項2 請求項1に「磁気カードにおいて」とあるのを、「金属色調と光輝感を有する磁気カードにおいて」と訂正する。 ウ 訂正事項3 請求項2に「磁気テープ転写面に金属蒸着層を積層し」とあるのを、「磁気テープ転写面に、ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し」と訂正する。 エ 訂正事項4 請求項2に「磁気カードにおいて」とあるのを、「金属色調と光輝感を有する磁気カードにおいて」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び一群の請求項について ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「磁気隠蔽カード」における「金属蒸着層」について、「ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 (ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 当該訂正事項1に関する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】に「基材21の金属蒸着層23側面には、ヘアライン等の浅く切削した凹凸溝模様を形成しておいても良い。その場合には、金属薄膜層の装飾性が高いものとなる。」と記載され、段落【0018】に「ヘアラインの形成は、例えば、サンドペーパーベルトを巻いたロールをフィルム基材21の流れ方向に逆らって回転させ、フィルム基材21の表面にヘアライン目を形成することによりできる。」と記載されているから、「磁気テープ転写面に、凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。 したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 イ 訂正事項2について (ア)訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「磁気隠蔽カード」における「磁気カード」について、「金属色調と光輝感を有する磁気カード」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 (ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 当該訂正事項2に関する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】に「表面が、金属光沢を有するカードは、独特の金属色調と光輝感を有することから、高級カードとして従来から好まれている。」と記載され、段落【0017】に「基材21の金属蒸着層23側面には、ヘアライン等の浅く切削した凹凸溝模様を形成しておいても良い。その場合には、金属薄膜層の装飾性が高いものとなる。」と記載されているから、「金属色調と光輝感を有する磁気カード」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。 したがって、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 訂正事項3について (ア)訂正の目的について 訂正事項3は、訂正前の請求項2の「磁気隠蔽カード」における「金属蒸着層」について、「ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 (ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 当該訂正事項3に関する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】に「基材21の金属蒸着層23側面には、ヘアライン等の浅く切削した凹凸溝模様を形成しておいても良い。その場合には、金属薄膜層の装飾性が高いものとなる。」と記載され、段落【0018】に「ヘアラインの形成は、例えば、サンドペーパーベルトを巻いたロールをフィルム基材21の流れ方向に逆らって回転させ、フィルム基材21の表面にヘアライン目を形成することによりできる。」と記載されているから、「磁気テープ転写面に、凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。 したがって、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 エ 訂正事項4について (ア)訂正の目的について 訂正事項4は、訂正前の請求項2の「磁気隠蔽カード」における「磁気カード」について、「金属色調と光輝感を有する磁気カード」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 (ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 当該訂正事項4に関する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】に「表面が、金属光沢を有するカードは、独特の金属色調と光輝感を有することから、高級カードとして従来から好まれている。」と記載され、段落【0017】に「基材21の金属蒸着層23側面には、ヘアライン等の浅く切削した凹凸溝模様を形成しておいても良い。その場合には、金属薄膜層の装飾性が高いものとなる。」と記載されているから、「金属色調と光輝感を有する磁気カード」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。 したがって、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 オ 一群の請求項についての適否 訂正事項に係る訂正前の請求項3、及び4について、請求項3、及び4は、すべて直接的又は間接的に「請求項1」または「請求項2」を引用しているものであって、訂正事項によって記載が訂正される請求項1または請求項2に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1乃至請求項4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当するものである。 よって、訂正事項による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項ごとに」適法に請求されたものである。 また、訂正後の請求項1乃至請求項4は、一群の請求項である。 (3)まとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。 3.取消理由の概要 訂正前の請求項1乃至4に係る特許に対して、当審が平成30年7月19日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 請求項1、3、及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1乃至4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 4.当審の判断 (1)本件訂正特許発明 上記「2.訂正の適否」のとおり、本件訂正は認められるから、上記訂正請求により訂正された請求項1乃至4に係る発明(以下、順に「本件訂正特許発明1」乃至「本件訂正特許発明4」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 白色のコアシートを中心層としてその両面にオーバーシートを積層し、1のオーバーシートの磁気テープ転写面に、ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し、さらに金属蒸着層面にデザイン印刷を施した金属色調と光輝感を有する磁気カードにおいて、 該金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のものであり、 該1のオーバーシートと接するコアシート面にはシルクスクリーンによる黒色印刷がされていることを特徴とする金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 【請求項2】 黒色のコアシートを中心層としてその両面にオーバーシートを積層し、1のオーバーシートの磁気テープ転写面に、ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し、さらに金属蒸着層面にデザイン印刷を施した金属色調と光輝感を有する磁気カードにおいて、 該金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のものであることを特徴とする金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 【請求項3】 金属蒸着層が、錫(Sn)または錫-アルミニウム(Sn-Al)合金からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 【請求項4】 金属蒸着層の表面抵抗率が、10^(10)?10^(25)Ω/□の範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項記載の金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。」 (2)各刊行物の記載 ア 刊行物1(甲第1号証) 本件特許の出願日前の平成10年1月26日に頒布された特許第2703370号公報(甲第1号証)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。) (ア)「〔産業上の利用分野〕 本発明は、磁気カードに関し、特に、磁気ストライプ等の磁気層を表面側から視認できないようにした磁気層隠蔽カード及びその製造方法に関する。」(2頁4欄24?27行) (イ)「〔発明が解決しようとする課題〕 したがって、本発明の目的は、上記した従来の磁気層隠蔽カードの問題点を解決して、磁気層隠蔽層とその上の印刷層の厚さを書込み読み出しに充分なだけ薄くし、それにもかかわらず隠蔽性が充分であり、また、隠蔽層の導電性による問題がなく、かつ、カードにエンボスを施しても隠蔽層の割れによって地肌が見えることのない磁気層隠蔽カードを提供することである。」(3頁5欄26?33行) (ウ)「また、微細な蒸着部が非蒸着部によって遮断されている海・島構造の金属蒸着層は、環化ゴム、塩化ゴム、塩素化ポリプロピレンの1つ又は複数をブレンドしたものからなる蒸着下地層の上に蒸着されていることが、磁気層の境界の段差を目立たなくし、金属蒸着層の磁気層への接着性を上げる上で望ましい。」(3頁6欄20?25行) (エ)「第1図に本発明に基づいた最も基本的な構造の磁気ストライプを隠蔽した磁気カードの実施例の要部断面を示す。第10図と同様の部分は同じ参照番号を付してある。このカード1は、酸化チタンの粉末を混入した白色塩化ビニルからなる0.56mmの厚さの基板2、その両側に接着された透明塩化ビニルからなる0.1mmの厚さのオーバーシート3、3、オーバーシート3に表面を露出して埋め込まれている磁気ストライプ4、オーバーシート3表面と磁気ストライプ4表面全体を覆っている隠蔽層7、隠蔽層7の上に印刷された絵柄層6からなっている。基板2、オーバーシート3、3にIC等の電子部品を埋め込むこともある。このカード1の第10図に示した従来の銀インキを用いるものとの本質的な違いは隠蔽層7にある。この層7は、金属蒸着層であるが、ミクロに見ると、非蒸着部と蒸着部が海・島構造をとっているものである。すなわち、第2図にその例の拡大平面図を示すように、各蒸着部8は非蒸着部9によって取り囲まれ孤立している。そのため、蒸着部8自身は導電性であっても、絶縁性の非蒸着部9によって遮断されているので、マクロに見れば、隠蔽層7は絶縁性を呈する。そして、マクロに見たとき、このような非蒸着部と金属の蒸着部が海・島構造をとっているものは、蒸着部の寸法及びその間隔が0.1mm以下の場合、反射性を呈し、その背後にあるものは見えず、隠蔽性を充分に備えている。したがって、このような絶縁性であって、隠蔽性を有する隠蔽層7を従来の第10図の銀インキ層5の代わりに用いれば、磁気ストライプ4を隠蔽してその上に綺麗な印刷ができるとともに、隠蔽層7の厚みは数100Å?数1000Å程度であり、印刷層6及びオーバーシート、接着層等の厚みを加えても、従来のものに比較して相当に薄くなるため、磁気ストライプ4への情報の書込み、その読み出しが容易に行え、しかも、従来のような導電性に基づく問題点を有しないものとなる。そして、この隠蔽層7は、少なくとも蒸着基板に可塑性に富む加圧成形可能な樹脂を用いれば、カードにJIS X 6301-1979に規定されているようなエンボス加工を施しても、単に島間隔が伸びるだけで、蒸着部に割れが生じないから、白い地肌が目立つようになることはない。蒸着部8と非蒸着9の配列は、第2図の(a)のように規則的であっても、(b)のように不規則であってもよい。ただし、(a)のように規則的に並んでいると、回折により虹が発生することがあるので、この点を考慮して用途によりいずれかのものを選択すればよい。 このような非蒸着部と蒸着部が海・島構造をとっている隠蔽層の製造方法をいくつかの例について説明する。最も簡単には、金属蒸着膜をエッチングして、第2図の海部すなわち非蒸着部9に相当する部分を除去すればよい。蒸着部8のサイズ及びその間の距離については、エッチングの容易性と隠蔽性を考慮して要求に合う値を選択すればよい。また、別の方法として、蒸着基板に予め例えば水溶性の樹脂を非蒸着部9に相当する部分に印刷しておき、その上に金属を蒸着し、その後水洗いによって非蒸着部9に相当する部分の蒸着膜のみを除去する、所謂リフトオフ加工により製造することもできる。以上のいずれの方法によっても、第2図の(a)のように規則的にも、(b)のように不規則にもこの海・島構造を作成できる。さらに、蒸着金属材料、蒸着速度、蒸着膜厚等の蒸着条件を選択することでも、第2図(b)のような非蒸着部と蒸着部が不規則に並んでいる海・島構造のものを直接作成できる(特開昭63-157858号公報)。この場合、材料としては融点の低い金属や貴金属がよく、特にスズが好ましい。その場合、島サイズは200Å?1μm、島間隙は100?5000Åである。島サイズが200Åより小さいと金属光沢がなく充分な隠蔽ができない。1μm以上では導電してしまう。島間隔は100Å以下では絶縁が悪く、5000Åより広いと金属光沢がなく、充分な隠蔽ができない。」(4頁7欄26行?8欄42行) (オ)「第8図に示した製造方法は、磁気ストライプ4を押し込んだオーバーシート3上に蒸着下地層12を塗布し、その上に本発明の海・島構造の金属蒸着層からなる隠蔽層7、絵柄層6、保護層(OP層)10の順で設けた後、この積層体を1枚又は2枚の基板(コアシート)2の上に配置し、またその下に別のオーバーシート3を配置し、全体を熱プレスして一体にする方法であり、薄いオーバーシート3単体状態で印刷等の加工をするので、作業性がよく、安価にカードを製造できる。また、印刷表面もプレスされるので、印刷し放しより平滑で艶が出る特徴を有する。具体的には、磁気ストライプ4を熱転写した0.1mmの厚さのポリ塩化ビニルのオーバーシート3の上に、蒸着下地層12として塩素化ポリプロピレン樹脂をグラビア印刷し、その上にスズの海・島構造の金属蒸着層からなる隠蔽層7を蒸着し、その上に図示していないがリン酸アルキッド樹脂からなる防蝕層をグラビア印刷し、その上に絵柄層6として、まず塩化ビニル樹脂からなる白ベタインキ層をシルクスクリーン印刷し、さらに塩化ビニル樹脂からなる赤絵柄インキ層をスクリーン印刷した。そして、その表面に保護層10として紫外線硬化型のアクリル樹脂をシルクスクリーン印刷して硬化させた。これを、0.56mmの厚さの白色コアシート2の上に重ね、その下に0.1mmの厚さのオーバーシート3を配置し、全体を150℃、10分間熱プレスして一体のカードにしたところ、磁気ストライプ4に対する磁気特性もよく、磁気層4の黒はよく隠蔽されていた。」(5頁10欄43行?6頁11欄18行) (カ)「なお、8図、第9図の方法においては、1枚又は2枚のコアシート2の上下にオーバーシート3、3を配置して、0.76mmの厚さのカード本体としていたが、0.76mmの厚さの1枚の支持体に磁気層4を少なくとも一部に設けた後、磁気層4を持つ面に隠蔽層7、絵柄層6等を設けるようにしてもよい。また、オーバーシート、コアシート、0.76mmの厚さの支持体等に磁気層と同色調に着色して、磁気層がより目立たないようにしてもよい。 〔発明の効果〕 本発明においては、上記したように、微細な蒸着部が非蒸着部によって遮断されている海・島構造の金属蒸着層を磁気ストライプ等の磁気層を視認できないようにする隠蔽層として用いているため、隠蔽層は反射性で隠蔽効果に優れており、表面側からは磁気ストライプ等の磁気層は視認できない。そして、その上全面に綺麗な印刷を施すことができ、磁気カードの商品価値が向上する。しかし、このように印刷しても、磁気ストライプ等の磁気層と保護層との間の厚さは磁気層の情報書込み読み出しに充分な薄さとなり、確実に書込み読み出しができる。そして、隠蔽層は絶縁性であるため、磁気カードを積み重ねておいてもコンデンサーを形成して静電気を持つことはなく、書込読出機を破壊することはない。また、磁気カードの中にIC等の電子部品を埋め込んでも、導通による問題は発生しない。さらに、磁気カードに文字等をエンボスしても、割れが発生して白い地肌が見えるようなことはなく、磁気カードの商品価値を阻害しない。 また、本発明の磁気層隠蔽カードの製造方法によれば、上記のような磁気層隠蔽カードを安価に、作業適性よく製造することができ、小ロット品を安価に速く作ることができる。」(6頁12欄9?40行) (キ)上記(オ)より、「1枚又は2枚の基板(コアシート)2」と「白色コアシート2」とは、同じものをさすことはあきらかである。また、図8より、オーバーシート3上の磁気ストライプ4を押し込んだ面に、蒸着下地層12を塗布していることが看取できる。 (ク)金属蒸着層について、上記(エ)には、「非蒸着部と蒸着部が海・島構造をとっている隠蔽層の…島サイズが200Åより小さいと金属光沢がなく…島間隔は100Å以下では絶縁が悪く、5000Åより広いと金属光沢がなく」と記載されていることから、海・島構造の金属蒸着層からなる隠蔽層は、蒸着部の寸法及びその間隔が0.1mm以下の場合、反射性を呈し、島サイズが200Å?1μm、島間隙が100?5000Åである場合、金属光沢があり、充分な隠蔽ができるといえる。 これらの記載を総合すると、刊行物1(甲第1号証)には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「磁気ストライプ4を押し込んだオーバーシート3上の磁気ストライプ4を押し込んだ面に、蒸着下地層12を塗布し、その上に島サイズが200Å?1μm、島間隙が100?5000Åである海・島構造の金属蒸着層からなり金属光沢がある隠蔽層7、絵柄層6、保護層(OP層)10の順で設けた後、この積層体を白色コアシート2の上に配置し、またその下に別のオーバーシート3を配置し、スズの海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7を蒸着し、絵柄層6として、塩化ビニル樹脂からなる白ベタインキ層をシルクスクリーン印刷し、さらに塩化ビニル樹脂からなる赤絵柄インキ層をスクリーン印刷し、これを、白色コアシート2の上に重ね、その下にオーバーシート3を配置し、白色コアシート2に磁気層と同色調に着色して、磁気層がより目立たないようにした、カード1。」 イ 刊行物2(甲第2号証) 本件特許の出願日前の平成20年9月25日に頒布された特開2008-226070号公報(甲第2号証)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 半導体チップ上にコイルを形成した構造のコイルオンチップが、ベースフィルム面に固定されており、当該コイルオンチップおよびベースフィルム面には、外面に蒸着による絶縁性金属光沢層を有するプラスチックフィルムまたは紙基材からなる表面基材が積層されていることを特徴とする絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項2】 半導体チップ上にコイルを形成した構造のコイルオンチップが、ベースフィルム面に固定されており、当該コイルオンチップおよびベースフィルム面には、外面に蒸着による絶縁性金属光沢層を有し、内面に隠蔽印刷層を有するプラスチックフィルムまたは紙基材からなる表面基材が積層されていることを特徴とする絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項3】 ベースフィルムのコイルオンチップとは反対側の面に、剥離紙で保護された粘着剤層を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項4】 前記絶縁性金属光沢層表面の粗さを原子間力顕微鏡で測定した場合の中心線平均粗さRaが、14nm以上であって、100nm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項5】 絶縁性金属光沢層の表面抵抗率が、10^(12)?10^(25)Ω/□の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項6】 絶縁性金属光沢層が、錫-アルミニウム(Sn-Al)、または錫-珪素(Sn-Si)からなる合金、の蒸着層であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項7】 絶縁性金属光沢層が海・島構造からなり、当該海・島構造の、島サイズが20nm?1μm、島間の間隔が25nm?500nmの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。 【請求項8】 コイルオンチップの周囲に、ブースタアンテナを形成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグに関する。詳しくは、蒸着した金属層からなるが絶縁性である層を有するフィルムまたは紙基材が、コイルオンチップ(登録商標)を固定するベースフィルムに積層されているため、外観が金属光沢を有しながら金属層に基づく、通信性能の阻害または低下を生じない非接触ICタグに関する。 【0002】 本発明の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグは、通常の非接触ICタグ用途として用いられ、特に金属調の装飾効果が求められる用途に好適に利用できるものである。 【0003】 本発明の技術分野は非接触ICタグの製造や利用に関し、当該非接触ICタグの利用分野は、運送や流通、販売管理、商品の配送や荷物の取り扱い、遊戯用途等であり、具体的な用途例としては、荷札、ラベル、伝票、チケット、カード類、がある。」 (ウ)「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 従来技術では、非接触ICタグに使用するいずれかの基材に金属蒸着した場合には、通信特性の低下が生じるので金属調の光沢感を持たせることは実現できなかった。そこで、本発明では、金属蒸着に海・島構造といわれる絶縁性蒸着層を採用することで、上記問題を解決できることを着想し、鋭意研究の結果、本発明の完成に至ったものである。 【0012】 特許文献5、特許文献6に提案の非接触ICタグと異なり、本願は特に、コイルオンチップを利用したことを特徴とする。」 (エ)「【発明の効果】 【0020】 本発明の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグは、表面に蒸着による金属光沢層を有する表面基材が積層されているので金属光沢感の優れた独特の意匠性を有するが、当該金属光沢層が絶縁性であるので、通信性能の阻害または低下を生じることがない。 【0021】 本発明の絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグは、表面に金属光沢層を設けたので、隠蔽性と光反射性を有し、非接触ICタグの位置を明確にできる。 【0022】 蒸着による金属光沢層は、一般に薄層からなるので、アルミ箔を使用する場合よりも金属使用量の低減を図ることができ、しかも同等の金属光沢感や意匠効果が得られる。」 (オ)「【0044】 海・島構造は蒸着原子の核の生成や成長、島どうしの合体等複雑な条件が絡み合って成膜される。蒸着金属材料、蒸着速度等の蒸着条件の選定により島サイズや島間隔の設定は可能であるが、かなり複雑な制御が必要であり材料が限定される。 【0045】 一般に融点の低い金属や貴金属は制御が比較的容易であり、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、の単体金属またはその群から選ばれた二種以上の金属からなる合金、または錫-アルミニウム(Sn-Al)、錫-珪素(Sn-Si)が用いられるが、中でも錫(Sn)は特に容易である。錫-アルミニウムの蒸着は、錫とアルミニウムの単体金属を別個のるつぼに入れて蒸気化し、基材上で合金として蒸着させることができる。錫-珪素も同様である。 【0046】 アルミニウムは金属光沢に優れるが、アルミニウム自体の単体金属は、表面エネルギーが高く基板上でマイグレーションが生じやすく、島状蒸着になり難い金属材料になる。 【0047】 絶縁性金属光沢層6mの表面抵抗率は、10^(12)?10^(25)Ω/□の範囲であることが好ましい。10^(12)Ω/□よりも小さい場合は導体により近くなり通信阻害が生じ、10^(25)Ω/□より大きい場合は、金属光沢が失われ意匠性も損ねることになる。」 これらの記載を総合すると、刊行物2(甲第2号証)には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「半導体チップ上にコイルを形成した構造のコイルオンチップが、ベースフィルム面に固定されており、当該コイルオンチップおよびベースフィルム面には、外面に蒸着による絶縁性金属光沢層を有するプラスチックフィルムまたは紙基材からなる表面基材が積層され、 絶縁性金属光沢層の表面抵抗率が、10^(12)?10^(25)Ω/□の範囲であり、 絶縁性金属光沢層が、錫-アルミニウム(Sn-Al)、または錫-珪素(Sn-Si)からなる合金、の蒸着層であり、 絶縁性金属光沢層が海・島構造からなり、当該海・島構造の、島サイズが20nm?1μm、島間の間隔が25nm?500nmの範囲である、 金属光沢感の優れた絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ(カード)。」 (3)本件訂正特許発明1について ア 対比 本件訂正特許発明1と引用発明1とを対比すると、 (ア)後者の「白色コアシート2」、「オーバーシート3」、「『オーバーシート3』に押し込まれた『磁気ストライプ4』」、「金属蒸着層」、「赤絵柄インキ層をスクリーン印刷し」、「カード1」、及び「スズの海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7」は、それぞれ、前者の「白色のコアシート」、「オーバーシート」、「1のオーバーシートの磁気テープ」、「金属蒸着層」、「デザイン印刷を施し」、「カード」、及び「金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のもの」に相当する。 (イ)後者の「白色コアシート2」は、その上に積層体が配置され、その下に別のオーバーシート3が配置されるものであるから、前者の「『その両面にオーバーシートを積層』した『中心層』」に相当する。 (ウ)後者の「海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7」は、オーバーシート3上の磁気ストライプ4を押し込んだ面に、蒸着下地層12を塗布し、その上に設けているから、前者の「『1のオーバーシートの磁気テープ転写面』に『積層し』た『金属蒸着層』」に相当する。 (エ)後者の「絵柄層6」は、「海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7」の上に設けられているから、「『金属蒸着層面に』『施した』『デザイン印刷』」に相当する。 (オ)上記「(2) ア (オ)」に「磁気層4の黒」との記載より、後者の「磁気層と同色調に着色して」とは、黒色に着色してといえるから、後者の「白色コアシート2に磁気層と同色調に着色して」は、前者の「1のオーバーシートと接するコアシート面には黒色印刷がされている」に相当する。 (カ)本件特許明細書に「表面が、金属光沢を有するカードは、独特の金属色調と光輝感を有することから、高級カードとして従来から好まれている。しかし、金属蒸着層等を使用する従来のこの種カードは、該金属層の帯電に起因する静電気障害を生じることから、カードの金属面側には、磁気記録層(磁気テープまたはストライプ)を有しない形態にするのが通常であった。そこで、磁気記録が必要な場合は、止むを得ずカードの金属光沢面とは反対側面にのみ磁気テープを設けていた。」(【0002】参照。)、「次に、絶縁性金属蒸着層の構造について説明する。図4は、絶縁性金属蒸着層の構造を説明する模式平面図、図5は、絶縁性金属蒸着層の模式断面図、である。絶縁性金属蒸着層は、一般的には、海・島構造の金属蒸着層からなっている。この従来から知られている海・島構造は、蒸着材料や蒸着条件等の選定により形成できるもので、金属蒸着層23には微小な島3aと島と島間を画する間隔3bからなる蒸着層3mが形成されている。」(【0022】参照。)、及び「このような島3aのサイズ(平均差し渡し径)は、20nm?1μm、島間の間隔(平均間隔)3bは、10nm?500nmの範囲であることが好ましい。島サイズが20nmより小さいと金属が粗になり過ぎ十分な金属光沢が得られない。」(【0023】参照。)と記載されていることから、前者の「金属光沢層」とは、「『海・島構造からなる』『金属蒸着層』」を指すものである。そして、後者の「隠蔽層」は、島サイズが200Å?1μm、島間隙が100?5000Åである海・島構造の金属蒸着層からなり、金属光沢があるものであるから、前者の「金属光沢層」に相当する。 (キ)後者の「カード1」は、磁気層がより目立たないようにしたものであるから、前者の「磁気隠蔽カード」に相当する。 したがって、両者は、 「白色のコアシートを中心層としてその両面にオーバーシートを積層し、1のオーバーシートの磁気テープ転写面に金属蒸着層を積層し、さらに金属蒸着層面にデザイン印刷を施した磁気カードにおいて、 該金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のものであり、 該1のオーバーシートと接するコアシート面には黒色印刷がされている金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本件訂正特許発明1が、「ヘアラインの凹凸溝模様が形成された」金属蒸着層を積層し、金属蒸着面にデザイン印刷を施した「金属色調と光輝感を有する」磁気カードであるのに対し、引用発明1は、そのようなものでない点。 [相違点2] 本件訂正特許発明1が、「コアシート面にはシルクスクリーンによる」黒色印刷がされているのに対し、引用発明1は、白色コアシート2に磁気層と同色調に着色している点。 イ 判断 上記相違点1、及び相違点2について、以下検討する。 (ア)[相違点1]について 引用発明2は「金属光沢感の優れた絶縁性金属光沢層付き非接触ICタグ(カード)」の発明が記載されているところ、当該発明においては、引用発明1の遮蔽層として用いられている海・島構造の金属蒸着層と同様の海・島構造からなる絶縁性の金属蒸着層を金属光沢感の優れた絶縁性のものとして用いるものである。 してみると、引用発明1及び引用発明2に接した当業者であれば、引用発明1において遮蔽層として用いられている海・島構造の絶縁性の金属蒸着層を金属光沢感の優れた装飾層として転用できることは容易に理解し得ることである。 そして、カードの技術分野において、カードに金属光沢感を持たせ意匠性を高めることは、従来より周知の課題である(必要であれば、特開2008-226070号公報(【0007】、【0011】参照。)、特開2007-219902号公報(【0004】、【0007】参照。)、特開2002-192869号公報(【0002】、【0003】参照。))ことに鑑みれば、引用発明1における金属蒸着層を金属光沢感の優れた装飾層として転用しようとすることにも動機付けが存在するものといえ、その際には、引用発明1の金属蒸着層を引用発明2のもののように表面から直接目視できるように構成すれば良いことも自明のことというべきである、 ここで、引用発明1において、海・島構造の金属蒸着層を磁気ストライプ4を視認できないようにする隠蔽層として用いており、塩化ビニル樹脂からなる白ベタインキ層をシルクスクリーン印刷し設けることは、引用発明1における課題を解決するための必須の手段といえるものではないから、白ベタインキ層をなくしたとしても、引用発明1の課題が達成できないものでもないことからすれば、そのようにすることに阻害要因が存在するものでもない。 さらに、プラスチック基材の装飾加工技術の技術分野において、意匠性を高めるためにプラスチック基材を構成する金属蒸着層にヘアライン加工を施すことは、従来より周知の技術手段にすぎず(必要であれば、特開2005-349581号公報(【0001】、【0028】参照。)、特開2005-111865号公報(【0004】、【0016】、【0017】参照。)、特開2000-355072号公報(【0002】、【0004】、【0027】参照。)、以下「周知の技術手段1」という。)、金属蒸着層を用いて金属光沢感のある意匠を実現するにあたり、ヘアライン加工を採用することは、金属蒸着層による意匠を構成するにあたって当業者が通常行う程度のことにすぎない。。 以上のことからすれば、引用発明1の金属蒸着層を金属光沢感の優れた装飾層として転用するために、表面から直接目視できる層として構成し、その際にヘアライン加工を施すようにして、相違点1に係る本件訂正特許発明1の構成のようにすることは、引用発明1、引用発明2、及び上記周知の技術手段1に基づいて当業者が容易になし得る程度のことというべきである。 (イ)[相違点2]について 一般に、磁気カードにおける印刷方法としてのシルクスクリーンによる印刷は、周知の技術手段である(例えば、特開2010-89276号公報(【0004】参照。)、特開2005-22297号公報(【0032】参照。)、特開2004-280081号公報(【0125】参照。)、以下「周知の技術手段2」という。)。 そして、引用発明1は、絵柄層6における赤絵柄インキ層をスクリーン印刷しており、上記周知の技術手段2を踏まえれば、引用発明1において、白色コアシート2に磁気層と同色調に着色する際に、シルクスクリーンによる印刷を行うことは、当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、引用発明1において、上記周知の技術手段2を参酌し、上記相違点2に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 そして、本件訂正特許発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1、引用発明2、上記周知の技術手段1、及び上記周知の技術手段2から、当業者が予測しうる範囲内のものである。 よって、本件訂正特許発明1は、引用発明1、引用発明2、上記周知の技術手段1、及び上記周知の技術手段2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。 (4)本件訂正特許発明2について ア 対比 本件訂正特許発明2と引用発明1とを対比すると、 (ア)後者の「コアシート2」、「オーバーシート3」、「『オーバーシート3』に押し込まれた『磁気ストライプ4』」、「金属蒸着層」、「赤絵柄インキ層をスクリーン印刷し」、「カード1」、及び「スズの海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7」は、それぞれ、前者の「コアシート」、「オーバーシート」、「1のオーバーシートの磁気テープ」、「金属蒸着層」、「デザイン印刷を施し」、「カード」、及び「金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のもの」に相当する。 (イ)後者の「コアシート2」は、その上に積層体が配置され、その下に別のオーバーシート3が配置されるものであるから、前者の「『その両面にオーバーシートを積層』した『中心層』」に相当する。 (ウ)後者の「海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7」は、オーバーシート3上の磁気ストライプ4を押し込んだ面に、蒸着下地層12を塗布し、その上に設けているから、前者の「『1のオーバーシートの磁気テープ転写面』に『積層し』た『金属蒸着層』」に相当する。 (エ)後者の「絵柄層6」は、「海・島構造の金属蒸着層からなり、絶縁性を呈する隠蔽層7」の上に設けられているから、前者の「『金属蒸着層面に』『施した』『デザイン印刷』」に相当する。 (オ)本件特許明細書に「表面が、金属光沢を有するカードは、独特の金属色調と光輝感を有することから、高級カードとして従来から好まれている。しかし、金属蒸着層等を使用する従来のこの種カードは、該金属層の帯電に起因する静電気障害を生じることから、カードの金属面側には、磁気記録層(磁気テープまたはストライプ)を有しない形態にするのが通常であった。そこで、磁気記録が必要な場合は、止むを得ずカードの金属光沢面とは反対側面にのみ磁気テープを設けていた。」(【0002】参照。)、「次に、絶縁性金属蒸着層の構造について説明する。図4は、絶縁性金属蒸着層の構造を説明する模式平面図、図5は、絶縁性金属蒸着層の模式断面図、である。絶縁性金属蒸着層は、一般的には、海・島構造の金属蒸着層からなっている。この従来から知られている海・島構造は、蒸着材料や蒸着条件等の選定により形成できるもので、金属蒸着層23には微小な島3aと島と島間を画する間隔3bからなる蒸着層3mが形成されている。」(【0022】参照。)、及び「このような島3aのサイズ(平均差し渡し径)は、20nm?1μm、島間の間隔(平均間隔)3bは、10nm?500nmの範囲であることが好ましい。島サイズが20nmより小さいと金属が粗になり過ぎ十分な金属光沢が得られない。」(【0023】参照。)と記載されていることから、前者の「金属光沢層」とは、「『海・島構造からなる』『金属蒸着層』」を指すものである。そして、後者の「隠蔽層」は、島サイズが200Å?1μm、島間隙が100?5000Åである海・島構造の金属蒸着層からなり、金属光沢があるものであるから、前者の「金属光沢層」に相当する。 (カ)後者の「カード1」は、磁気層がより目立たないようにしたものであるから、前者の「磁気隠蔽カード」に相当する。 したがって、両者は、 「コアシートを中心層としてその両面にオーバーシートを積層し、1のオーバーシートの磁気テープ転写面に金属蒸着層を積層し、さらに金属蒸着層面にデザイン印刷を施した磁気カードにおいて、 該金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のものである金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点3] 本件訂正特許発明2が、「黒色の」コアシートであるのに対し、引用発明1は、「白色」コアシート2に「磁気層と同色調に着色」している点。 [相違点4] 本件訂正特許発明2が、「ヘアラインの凹凸溝模様が形成された」金属蒸着層を積層し、金属蒸着面にデザイン印刷を施した「金属色調と光輝感を有する」磁気カードであるのに対し、引用発明1の金属蒸着層は、そのようなものでない点。 イ 判断 上記相違点3、及び相違点4について、以下検討する。 (ア)[相違点3]について 本件特許明細書には「磁気テープの背面のコアシートに黒色の印刷がされているか(請求項1)、黒色に着色されているコアシートを使用するので(請求項2)、磁気テープの濃色の磁気材料のコントラストを低減して、磁気テープの色を適切に隠蔽することができ、しかも読み取り性能を低下させない。」(【0010】)、及び「コアシート11,12自体を黒色として黒色印刷を省略するものである。」(【0015】)と記載されている。 このことからすると、本件訂正特許発明2において、コアシート自体を黒色とすることに格別な作用効果は認められず、コアシートが黒色と視認できさえすればよいこととなる。 そして、引用発明1は「白色コアシート2に磁気層と同色調に着色して、磁気層がより目立たないようにした」と記載されていることから、引用発明1が磁気層と同色調に着色することによる「磁気層がより目立たないようにした」という作用は、本件訂正特許発明2が、黒色のコアシートを採用することによる作用と共通するものである。 また、コアシートを黒色と視認できるようにすることは、コアシート自体を黒色とするか、コアシートの表面に黒色印刷するかのいずれかであって、このいずれかを選択するかは、当業者において、設計的事項といえる。 以上を踏まえれば、引用発明1において、上記相違点3に係る本件訂正特許発明2の発明特定事項とすること、すなわち、黒色のコアシートとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 (イ)[相違点4]について 上記「(3)本件訂正特許発明1について イ 判断 (ア)[相違点1]について」のとおりであるから、上記相違点4に係る本件訂正特許発明2の発明特定事項は、引用発明1、引用発明2、及び上記周知の技術手段1より、当業者が容易に想到し得るものである。 そして、本件訂正特許発明2の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1、引用発明2、及び上記周知の技術手段1から、当業者が予測しうる範囲内のものである。 よって、本件訂正特許発明2は、引用発明1、引用発明2、及び上記周知の技術手段1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。 (5)本件訂正特許発明3について 本件訂正特許発明3は、本件訂正特許発明1または2の発明特定事項に加え、「金属蒸着層が、錫(Sn)または錫-アルミニウム(Sn-Al)合金からなること」という発明特定事項を追加して限定を付したものである。 ここで、引用発明1の「スズの海・島構造の金属蒸着層」は、本件訂正特許発明3の「金属蒸着層が、錫(Sn)からなること」に相当する。 そうすると、本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明3と引用発明1とを対比すると、上記「(3)本件訂正特許発明1について ア 対比」における、上記相違点1及び2のみとなるから、上記「(3)本件訂正特許発明1について イ 判断」と同様の理由により、本件訂正特許発明3は、引用発明1、引用発明2、上記周知の技術手段1、及び上記周知の技術手段2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。 (6)本件訂正特許発明4について 本件訂正特許発明4は、本件訂正特許発明1ないし3のいずれかの発明特定事項に加え、「金属蒸着層の表面抵抗率が、10^(10)?10^(25)Ω/□の範囲である」という発明特定事項を追加して限定を付したものである。 そうすると、本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明4と引用発明1とを対比すると、上記「(3)本件訂正特許発明1について ア 対比」における、上記相違点1及び2に加え、本件訂正特許発明4が「金属蒸着層の表面抵抗率が、10^(10)?10^(25)Ω/□の範囲である」という事項を有する点でも相違する。(以下「相違点5」という。) 上記相違点1については、上記「(3)本件訂正特許発明1について イ 判断 (ア)[相違点1]について」のとおりであるから、引用発明1、引用発明2、及び上記周知の技術手段1より、当業者が容易に想到し得るものである。 上記相違点2については、上記「(3)本件訂正特許発明1について イ 判断 (イ)[相違点2]について」のとおりであるから、引用発明1において、上記周知の技術手段2を参酌し、上記相違点2に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 ここで、引用発明2の「絶縁性金属光沢層」の表面抵抗率は、10^(12)?10^(25)Ω/□の範囲であるから、本件訂正特許発明4の「金属蒸着層の表面抵抗率が、10^(10)?10^(25)Ω/□の範囲である」に包含されるものである。そうすると、相違点5に係る本件訂正特許発明4の発明特定事項は、引用発明2に示されているといえる。 そして、引用発明1と引用発明2とは、カードという共通の技術分野に属し、引用発明1と引用発明2はともに、海・島構造の金属蒸着層を採用しており、絶縁性を付与するという点で作用が共通するものである。 そうすると、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、上記相違点5に係る本件訂正特許発明4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 よって、本件訂正特許発明4は、引用発明1、引用発明2、上記周知の技術手段1、及び上記周知の技術手段2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。 5.むすび 以上のとおり、本件訂正特許発明1乃至本件訂正特許発明4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件訂正特許発明1乃至本件訂正特許発明4に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 白色のコアシートを中心層としてその両面にオーバーシートを積層し、1のオーバーシートの磁気テープ転写面に、ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し、さらに金属蒸着層面にデザイン印刷を施した金属色調と光輝感を有する磁気カードにおいて、 該金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のものであり、 該1のオーバーシートと接するコアシート面にはシルクスクリーンによる黒色印刷がされていることを特徴とする金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 【請求項2】 黒色のコアシートを中心層としてその両面にオーバーシートを積層し、1のオーバーシートの磁気テープ転写面に、ヘアラインの凹凸溝模様が形成された金属蒸着層を積層し、さらに金属蒸着層面にデザイン印刷を施した金属色調と光輝感を有する磁気カードにおいて、 該金属蒸着層が海・島構造からなる絶縁性のものであることを特徴とする金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 【請求項3】 金属蒸着層が、錫(Sn)または錫-アルミニウム(Sn-Al)合金からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 【請求項4】 金属蒸着層の表面抵抗率が、10^(10)?10^(25)Ω/□の範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項記載の金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-11-22 |
出願番号 | 特願2012-214761(P2012-214761) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(B42D)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 青山 玲理 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
森次 顕 藤本 義仁 |
登録日 | 2016-11-11 |
登録番号 | 特許第6036105号(P6036105) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 金属光沢層を備えた磁気隠蔽カード |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 立石 英之 |
代理人 | 伊藤 裕介 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 深町 圭子 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 後藤 直樹 |
代理人 | 伊藤 英生 |
代理人 | 藤枡 裕実 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 深町 圭子 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 伊藤 英生 |
代理人 | 後藤 直樹 |
代理人 | 藤枡 裕実 |
代理人 | 立石 英之 |
代理人 | 伊藤 裕介 |