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審決分類 審判 一部申し立て 特29条の2  H05B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 一部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1349676
異議申立番号 異議2017-700211  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-02 
確定日 2019-01-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6007680号発明「点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6007680号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕、〔10-14〕、15について訂正することを認める。 特許第6007680号の請求項1?4、6?9に係る特許を維持する。 特許第6007680号の請求項10?13、15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6007680号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成24年8月31日に特許出願され、平成28年9月23日に特許権の設定登録がされ、平成28年10月12日に特許掲載公報が発行され、その後、平成29年3月2日付けで特許異議申立人特許業務法人前田特許事務所(以下、「異議申立人」という。)より請求項1?4、6?13、15に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、特許異議申立に関する手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 3月 2日 特許異議申立
6月27日付け 取消理由通知
8月22日 意見書の提出、訂正請求(特許権者)
9月21日付け 訂正拒絶理由通知
10月26日 意見書、補正書の提出(特許権者)
12月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 2月23日 意見書の提出、訂正請求(特許権者)
3月20日付け 訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
4月17日 意見書の提出(異議申立人)
5月18日付け 訂正拒絶理由通知
6月20日 意見書(特許権者)
7月27日付け 取消理由通知(決定の予告)
8月27日 意見書の提出、訂正請求(特許権者)
10月 9日付け 訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
11月13日 意見書の提出(異議申立人)

なお、平成29年8月22日の訂正請求及び平成30年2月23日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年8月27日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、それぞれ「本件特許の明細書」及び「本件特許の特許請求の範囲」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めたものであり、その内容は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。以下、この項において同様。)
なお、本件訂正請求の訂正請求書における、「(1)一群の請求項1?9に係る訂正」の「訂正事項1?4」を「訂正事項1?4」とし、「(2)一群の請求項10?14に係る訂正」の「訂正事項1?5」を「訂正事項5?9」とし、「(3)請求項15に係る訂正」の「訂正事項1」を「訂正事項10」として、以下検討する。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。」
とあるのを、
「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。」
とする。
請求項1の記載を引用する請求項2?5、9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0009】に、
「【0009】
本発明の点灯制御回路は、商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする。」
とあるのを、
「【0009】
本発明の点灯制御回路は、商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする。」
とする。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、
「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電流供給ラインに介挿され、前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を閉成状態にするタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。」
とあるのを、
「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電流供給ラインに介挿され、前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を閉成状態にするタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。」
とする。
請求項6の記載を引用する請求項7?9も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求に範囲の請求項8に、
「前記短絡用スイッチング素子は、前記電子安定器と前記整流部との間に介装されていることを特徴とする請求項6に記載の点灯制御回路。」
とあるのを、
「前記短絡用スイッチング素子は、前記電子安定器と前記整流部との間の電流供給ラインに介装されていることを特徴とする請求項6に記載の点灯制御回路。」
とする。
請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項12を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

訂正前の請求項2?5、9は訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項7?9は訂正前の請求項6を引用するものであり、訂正事項3によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項1?9に対応する訂正後の請求項〔1?9〕は、一群の請求項である。
したがって、訂正事項1、3、4は、一群の請求項ごとに請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

訂正事項2は、訂正事項1の訂正に伴いなされた明細書の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

訂正前の請求項11?14は訂正前の請求項10を引用するものであるところ、訂正事項5?9によって請求項10?14は削除された。
したがって、訂正事項5?9は、一群の請求項ごとに請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧」に対して、「前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに」との事項を付加し、前記の「等価な出力電圧」を特定するとともに明瞭にするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「起動電圧として生成するインピーダンス素子」との事項を、「起動電圧として設定するインピーダンス素子」とするものであり、インピーダンス素子の機能を明瞭にするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」及び第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か
本件特許の明細書には次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。以下同様である。
「【0001】
本発明は、固体発光素子の点灯を制御するのに用いる点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィラメント電極を有する蛍光灯に代えて、消費電力の少ない固体発光素子として例えば発光ダイオード(LED)を用いた照明灯が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
・・・(省略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、蛍光灯の電子安定器に整流回路、平滑回路、固体発光素子を有する照明灯を取り付けると、市販の蛍光灯とは異なる照明灯が電子安定器に接続されるため、電子安定器の保護動作が作動し、照明灯が点灯しないことがある。
【0005】
その照明灯が安定して点灯しない現象があるという事実はそれ自体公知であり、この照明灯の不安定動作を回避するために、従来、照明灯を蛍光灯の代わりに電子安定器に接続した場合に、電子安定器の出力電圧を蛍光灯が接続されているときの出力電圧に近い電圧(等価な電圧)としている。
【0006】
しかしながら、照明灯が安定器に接続されているときの出力電圧を蛍光灯が電子安定器に接続されているときの出力電圧に近づけると、電子安定器の保護動作が働きにくくなるため、照明灯を安定して点灯させることができるというメリットはあるものの、電力節約を図りにくくなるという不都合がある。
【0007】
その一方、照明灯が電子安定器に接続されているときの出力電圧を蛍光灯が電子安定器に接続されているときの出力電圧よりも低く設定すると、電力節約の向上を図ることができるが、電子安定器の保護動作が作動し、照明灯の点灯が不安定となるという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、固体発光素子用いた照明灯を電子安定器に接続した場合でも、安定して点灯させることができかつ省電力化を図ることが可能な点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法を提供することにある。
・・・(省略)・・・
【0010】
本発明によれば、起動時には電子安定器の出力電圧を蛍光灯に近い電圧を用いて照明灯を起動させ、照明灯の動作安定後は、電子安定器の出力電圧を下げることにしたので、固体発光素子を用いた照明灯でも安定して点灯させることができると共に、消費電力の低減を図ることができる。」
「【0020】
インピーダンス素子15は、ここでは、整流部12と直列発光体9との間の電流供給ライン10に直列に介装されている。このインピーダンス素子15は、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧を照明灯4(直列発光体9)の起動時に起動電圧として生成する機能を有する。」
上記の段落【0020】には、「インピーダンス素子」が「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として」生成するとの事項が記載されている。
また、上記の段落【0001】?【0010】の記載によれば、本件特許に係る発明は、既存の蛍光灯用の照明器具に、直列発光体からなる照明灯を取り付けた場合に、照明器具が備えている電子安定器が蛍光灯を取り付けたときと同様に動作し、電子安定器の保護動作が作動しないようにしつつ省電力化を図ることを課題としたものであり、インピーダンス素子は、照明灯の起動時に電子安定器が出力する出力電圧を、蛍光灯が取り付けられた場合と等しくなるように設定するためのものと理解できる。
そうすると、本件特許の明細書には、インピーダンス素子は「電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定する」ものであることが記載されているといえる。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項1は、訂正前の請求項1に発明を特定する事項を付加するとともに明瞭でない記載を明瞭にする訂正であるので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する明細書の段落の記載が整合するようにする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項2の内容は、実質的に訂正事項1の内容と等しいので、上記(1)イ、ウで述べたと同様に、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項6の「前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧」に対して、「前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに」との事項を付加し、前記の「等価な出力電圧」を特定するとともに明瞭にするものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項6の「短絡用スイッチング素子」について、「起動電圧として生成するために起動時に開成状態にあり」との事項を、「起動電圧として設定するために起動時に開成状態にあり」とするものであり、短絡用スイッチング素子インピーダンス素子の機能を明瞭にするものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」及び第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か
本件特許の明細書には次の記載がある。(下線は当審で付したものである。)
「【0030】
(実施例2)
図6は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例2の結線図である。
この実施例2では、平滑用コンデンサ13と直列発光体9との間の電流供給ライン10に、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体9の起動時に起動電圧V1として生成するために直列発光体9の起動時に開成状態にありかつ直列発光体9の起動時から少なくとも一定時間t経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子16が介装されている。また、インピーダンス素子は整流部12と平滑用コンデンサ13の間等、整流部12と直列発光体9の間に適宜設けることができる。」
上記の段落【0030】には、「短絡用スイッチング素子」が「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として生成するため」のものであるとの事項が記載されている。
また、本件特許に係る発明は、上記(1)イで述べたとおり本件特許の明細書の段落【0001】?【0010】の記載から、既存の蛍光灯用の照明器具に、直列発光体からなる照明灯を取り付けた場合に、照明器具が備えている電子安定器が蛍光灯を取り付けたときと同様に動作し、電子安定器の保護動作が作動しないようにしつつ省電力化を図ることを課題としたものであり、短絡用スイッチング素子は、照明灯の起動時に電子安定器が出力する出力電圧を、蛍光灯が取り付けられた場合と等しくなるように設定するためのものと理解できる。
そうすると、本件特許の明細書の段落【0001】?【0010】及び【0030】から、短絡用スイッチング素子は「電子安定器に・・・起動電圧として設定する」ものであることが記載されているといえる。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項3は、訂正前の請求項6に発明を特定する事項を付加するとともに明瞭でない記載を明瞭にする訂正であるので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、「短絡用スイッチング素子」の配置を特定するとともに明瞭にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」及び第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か
本件特許の明細書には次の記載がある。(下線は当審で付したものである。)
「【0030】
(実施例2)
図6は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例2の結線図である。
この実施例2では、平滑用コンデンサ13と直列発光体9との間の電流供給ライン10に、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体9の起動時に起動電圧V1として生成するために直列発光体9の起動時に開成状態にありかつ直列発光体9の起動時から少なくとも一定時間t経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子16が介装されている。また、インピーダンス素子は整流部12と平滑用コンデンサ13の間等、整流部12と直列発光体9の間に適宜設けることができる。」
当該段落は、【図6】に示される実施例2に関する説明であり、【図6】と併せみれば当該段落中の「インピーダンス素子」は「短絡用スイッチング素子」の誤記と認められる。
実施例2の「短絡用スイッチング素子」が、実施例1の「インピーダンス素子」及び「インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子」と同様に、電子安定器の起動時の出力電圧を設定するものであることは、本件特許の明細書全体の記載からみて明らかである。
そうすると、上記段落の「整流部12と平滑用コンデンサ13の間等、整流部12と直列発光体9の間に適宜設けることができる」との記載や、段落【0029】及び【図5】に記載されている実施例1の変形例に鑑みれば、請求項8における短絡用スイッチング素子を電子安定器と整流部との間の電流供給ラインに設けることも、記載されているに等しいといえる。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項4は、訂正前の請求項8に発明を特定する事項を付加するとともに明瞭でない記載を明瞭にする訂正であるので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5?10
ア 訂正の目的について
訂正事項5?10は、訂正前の請求項10?15を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
イ 本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項5?10は、請求項を削除する訂正であるので、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
よって、訂正事項5?10は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正前の請求項1?4、6?13、15について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項5に係る訂正事項1及び訂正前の請求項14に係る訂正事項9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の要件が課されることとなる。
訂正事項1による訂正後の請求項5に係る発明及び訂正事項9に係る訂正後の請求項14に係る発明について、特許出願の際に独立して特許を受けることができるか否かについて、検討を要するところ、請求項14は削除されたので、特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由は存在しない。
訂正後の請求項5に係る発明は、訂正後の請求項1の記載を引用し、請求項1に係る発明の事項の全てを有するものである。そして、訂正後の請求項1に係る発明は、後記第4及び第5で述べるとおり、取消理油通知の取消理由及び特許異議申立書において主張する異議申立理由によっては特許を受けることができないとする理由はないので、訂正後の請求項5に係る発明も同様に、特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由は存在しない。

(7)異議申立人の意見書における主張について
異議申立人は、平成30年11月13日の意見書(「3(1)」の「・訂正事項1について」、「・訂正事項3について」)において、訂正事項1、3について、概ね次の主張をしている。
(ア)蛍光灯には種類や仕様があり、その内部のインピーダンスも各製品で同一ではなく、ばらつきがあるため、「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧」は、電子安定器に接続される蛍光灯の種類や仕様によって異なる。出願当初明細書には、「蛍光灯」の種類、仕様について、何ら説明はない。
(イ)インピーダンス素子のインピーダンスを具体的にどのように設定すれば、「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧」を起動電圧として設定できるのか、出願当初明細書には何ら開示されていない。
(ウ)短絡用スイッチング素子が「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧」をいかにして「設定」するのか、出願当初明細書には何ら開示されていない。
(エ)以上から、訂正事項1、3は、特許法第120条の5第2項ただし書各号のいずれを目的とするものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合しない。

しかしながら、上記(1)イで述べたとおり、本件特許に係る発明は、既存の蛍光灯用の照明器具に取り付けられている蛍光灯を直列発光体からなる照明灯に置換したときに、照明器具が備えている電子安定器が蛍光灯を取り付けたときと同様に動作することを課題としているので、「蛍光灯」が照明灯に置換される前のものを意味することは明確に理解できる。
蛍光灯が、形状、ワット数等により規格化されており、蛍光灯用の照明器具には特定の規格の蛍光灯が取り付けられるように、器具の形状及び安定器が設計されていることは技術常識であるので、上記の照明灯に置換される前の蛍光灯がいずれかの規格の蛍光灯であることは明らかである。
また、蛍光灯の両端の口金間は、起動前は絶縁状態にあり、点灯すると放電状態へと遷移すること、及び、電子安定器はそのような蛍光灯の状態の遷移に合わせて電圧を出力するものであることも、技術常識である。
請求項1に係る発明において、電子安定器に蛍光灯起動時と等価な電圧を出力させるには、蛍光灯が装着されていると看做せる程度のインピーダンスを備えればよいことは、前記技術常識を踏まえれば十分に理解できるといえる。
同様に、請求項6に係る発明において、電子安定器に蛍光灯起動時と等価な電圧を出力させるには、蛍光灯が装着されていると看做せるよう、「短絡用スイッチング素子」は「起動時に開成状態に」あればよいことは、前記技術常識を踏まえれば十分に理解できるといえる。
以上のとおりであるので、異議申立人の主張する上記(ア)?(ウ)の事項は、本件特許の明細書の記載から当業者が十分に理解でき、記載されているに等しい事項といえる。
よって、異議申立人の上記の主張を採用することはできない。

(9)小括
以上のとおりであるので、訂正事項1?10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-9〕、〔10-14〕、15について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1?9」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。
【請求項2】
前記インピーダンス素子は、前記整流部と前記直列発光体との間の電流供給ラインに直列に介装されていることを特徴とする請求項1に記載の点灯制御回路。
【請求項3】
前記インピーダンス素子は、前記電子安定器と前記整流部との間に介装されていることを特徴とする請求項1に記載の点灯制御回路。
【請求項4】
前記インピーダンス素子は、ツェナーダイオード、抵抗器、インダクタのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の点灯制御回路。
【請求項5】
前記短絡用スイッチング素子は、半導体スイッチング素子であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の点灯制御回路。
【請求項6】
商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電流供給ラインに介挿され、前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を閉成状態にするタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。
【請求項7】
前記短絡用スイッチング素子は、前記整流部と前記直列発光体との間の電流供給ラインに直列に介装されていることを特徴とする請求項6に記載の点灯制御回路。
【請求項8】
前記短絡用スイッチング素子は、前記電子安定器と前記整流部との間の電流供給ラインに介装されていることを特徴とする請求項6に記載の点灯制御回路。
【請求項9】
一対の電極ピンをそれぞれ有する口金により両端部が封止された直管の内部に、
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の点灯制御回路と、
複数個の個体発光素子の直列接続体からなる直列発光体と、
を有することを特徴とする照明灯。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
平成30年7月27日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

[取消理由1]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(備考)
請求項1?4、6?9、10?13、15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
[取消理由2]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(備考)
請求項1?4、6?9、10?13、15に係る発明は、明確でない。
[取消理由3]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(備考)
この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2.当審の判断
上記の取消理由について以下検討する。
なお、取消理由中の請求項は訂正前のものであるので、適宜読み替えて検討する。後記第5においても同様である。

(1)取消理由1について
ア 本件発明1?4、9について
取消理由1は、訂正前の請求項1に係る発明の「前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するインピーダンス素子」との事項は、発明の詳細な説明に記載されたものでないというものであったが、当該事項は本件訂正請求の訂正事項1により「前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子」となった。
そして、訂正事項1は、上記第2の2.(1)イで述べたとおり、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件発明2?4、9も同様である。
イ 本件発明6?9について
取消理由1は、訂正前の請求項6に係る発明の「前記電流供給ラインに介挿され、前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子」との事項は、発明の詳細な説明に記載されたものでないというものであったが、当該事項は本件訂正請求の訂正事項3により「前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子」となった。
そして、訂正事項3は、上記第2の2.(3)イで述べたとおり、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件発明7?9も同様である。
(2)取消理由2について
ア 本件発明1?4、9について
取消理由2は、訂正前の請求項1に係る発明の「前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するインピーダンス素子」との事項は明確でないというものであったが、当該事項は本件訂正請求の訂正事項1により「前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子」となった。
そして、「電子安定器から出力される出力電圧」は「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに」出力される電圧であることが明確となり、「インピーダンス素子」は「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として設定する」ものであることが明確となった。
よって、本件発明1は、明確であり、本件発明2?4、9も同様である。
イ 本件発明6?9について
取消理由2は、訂正前の請求項6に係る発明の「前記電流供給ラインに介挿され、前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として生成するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子」との事項は明確でないというものであったが、当該事項は本件訂正請求の訂正事項3により「前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子」となった。
そして、「電子安定器から出力される出力電圧」は「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに」出力される電圧であることが明確となり、「短絡用スイッチング素子」は「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として設定するため」のものであることが明確となった。
よって、本件発明6は、明確であり、本件発明7?9も同様である。
ウ 本件発明8について
取消理由2は、訂正前の請求項8に係る発明の「前記短絡用スイッチング素子は、前記電子安定器と前記整流部との間に介装されている」との事項は明確でないというものであったが、当該事項は本件訂正請求の訂正事項4により「前記短絡用スイッチング素子は、前記電子安定器と前記整流部との間の電流供給ラインに介装されている」となった。
そして、「短絡用スイッチング素子」が電子安定器と整流部との間の「電流供給ラインに介装されている」ことが明確となった。
よって、本件発明8は、明確であり、本件発明9も同様である。

(3)小括
以上のとおりであるので、本件発明1?4、6?9に対する取消理由は解消しているといえる。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許異議申立理由
異議申立人は特許異議申立書において、次の異議申立理由を主張している。
[異議申立理由1]
請求項1?4、9、10?13に係る発明は、甲第1号証記載の発明と実質同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
[異議申立理由2]
請求項1?4、9、10?13に係る発明は、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明及び甲第4?7号証記載の事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特願2012-125015号(特開2013-251132号)
甲第2号証:特開2008-277188号公報
甲第3号証:特開2011-100668号公報
甲第4号証:特開平10-105256号公報
甲第5号証:特開2012-99334号公報
甲第6号証:特開2012-146647号公報
甲第7号証:特開平10-336881号公報

上記の異議申立理由について以下検討する。
2.各甲号証
(1)甲第1号証に記載された事項及び甲1発明
甲第1号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面には、次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、半導体発光素子を点灯可能な照明装置に関する。」

「【0019】
図2の照明装置20は、外部の交流電源ACとスイッチSW1を介して電気的に接続された直流電源部1を備えている。照明装置20は、スイッチSW1をオフ状態からオン状態に切替えたときに電源投入が行われる。直流電源部1は、交流電源ACと接続され交流電源ACからの交流電力を整流して直流電力にすることができる。直流電源部1は、たとえば、全波整流器たるダイオードブリッジ回路DBを備えた構成とすることができる。直流電源部1は、交流電力を全波整流するものだけに限られず、半波整流するものでもよい。したがって、直流電源部1は、ダイオードブリッジ回路DBだけに限られるものではなく、他の回路構成でもよい。なお、直流電源部1は、交流電源ACからの交流電力に混入しているノイズを除去するフィルタ回路部などを備えた構成としてもよい。また、交流電源ACと直流電源部1との間には、照明装置20に過電流が流れることにより照明装置20が損傷することを防止するためのヒューズを好適に設けることもできる。
【0020】
照明装置20は、直流電源部1の両端間と電気的に接続される容量部品2を備えている。すなわち、照明装置20は、直流電源部1の一端側を容量部品2の一端側と接続し、直流電源部1の他端側を容量部品2の他端側と接続している。容量部品2は、直流電源部1の直流電圧を平滑化することができる。容量部品2は、たとえば、電解コンデンサC1などにより構成することができる。照明装置20において、交流電源ACからの交流電圧は、ダイオードブリッジ回路DBで整流され、電解コンデンサC1で平滑化される。」

「【0022】
出力回路部3は、スイッチング回路部3aと電気的に接続し、スイッチング回路部3aの出力を平滑化する出力平滑用の電解コンデンサC2を備えている。出力回路部3は、スイッチング回路部3aと電解コンデンサC2との直列回路を、容量部品2の両端と電気的に接続している。また、出力回路部3の出力端間には、半導体発光素子L1たるLEDが複数個電気的に直列接続されたLEDユニット11を光源として接続している。なお、出力回路部3は、電解コンデンサC2の両端間にLEDユニット11を直接電気的に接続させているが、所望に応じて、巻線部品や整流用のダイオードを適宜に組み合わせて構成してもよい。出力回路部3は、電解コンデンサC1の両端間で平滑化した電圧を、降圧や昇圧させLEDユニット11側に適した電圧として、LEDユニット11側に印加できればよい。出力回路部3は、LEDユニット11に流れる電流をフィードバック制御して、LEDユニット11を定電流駆動することが好ましい。出力回路部3は、LEDユニット11と接続させた検出抵抗(図示していない)などを介して、LEDユニット11に流れる電流を検出してもよい。出力回路部3は、たとえば、上記検出抵抗の検出値が一定となるように、上記スイッチング素子のオン・オフをPWM(Pulse Width Modulation)制御することで、定電流制御を行うことができる。出力回路部3は、上記スイッチング素子のオン時間を調整などすることにより、LEDユニット11に供給する出力電流の出力値を変えることも可能となる。
【0023】
照明装置20は、照明光を照射可能な光源として、複数個のLEDを電気的に接続させたLEDユニット11を用いている。照明装置20は、光源を一体として備えたものでもよいし、光源を交換可能に備えるものでもよい。また、光源は、LEDユニット11を用いたものだけに限られずLD(Laser Diode)などを利用するものであってもよい。半導体発光素子L1たるLEDは、たとえば、発光層に青色光が放射可能なInGaNなどの窒化ガリウム系化合物半導体を用いたLEDチップを用いることができる。LEDは、たとえば、青色光を吸収して補色となる黄色光などを放射する蛍光体が含有された封止部材で、LEDチップを封止するものでもよい。これにより、LEDは、たとえば、LEDチップからの青色光と、封止部材に含有された蛍光体からの黄色光との混色により、白色光などを放射させることができる。なお、照明装置20は、光源として、複数個の半導体発光素子L1を電気的に直列接続させたものだけに限られず、複数個の半導体発光素子L1を電気的に並列接続や直並列接続させたものを用いてもよい。
【0024】
照明装置20は、電源投入の際、直流電源部1から容量部品2へ流れる突入電流を抑制するインピーダンス素子4を直流電源部1の他端側と容量部品2の他端側との間に電気的に接続している。インピーダンス素子4は、電源投入の際に直流電源部1から容量部品2へ流れる突入電流を抑制可能なものであればよく、たとえば、抵抗器を用いて構成することができる。
【0025】
照明装置20は、インピーダンス素子4が挿入された第1の電気経路よりもインピーダンスが小さく、且つ直流電源部1からの電流を容量部品2に流す第2の電気経路に電源投入時から所定時間経過後に切替える切替回路部5を備えている。切替回路部5は、インピーダンス素子4に流れる電流をバイパス可能なバイパス用スイッチング部としてサイリスタ5aを備えている。照明装置20は、インピーダンス素子4とバイパス用スイッチング部たるサイリスタ5aのアノードおよびカソード間とを並列接続させている。なお、バイパス用スイッチング部は、サイリスタ5aだけに限られず大電力にも耐えれる限り、たとえば、pnp型のトランジスタとnpn型のトランジスタとを組み合わせサイリスタ5aと等価の複合回路で構成してもよい。サイリスタ5aと等価の複合回路は、pnp型のトランジスタのベースとnpn型のトランジスタのコレクタとを電気的に接続させる。また、複合回路は、pnp型のトランジスタのコレクタとnpn型のトランジスタのベースとを電気的に接続させることにより構成することができる。
【0026】
切替回路部5は、電源投入時から照明装置20が定常状態に移行した所定時間経過後に上記バイパス用スイッチング部をオン状態とする遅延回路部5bを備えている。遅延回路部5bは、一端を直流電源部1の一端側と電気的に接続させ、他端をサイリスタ5aのゲートと電気的に接続させている。遅延回路部5bは、電源投入時から照明装置20が定常動作に移行する所定時間経過後にサイリスタ5aのアノードとカソード間を導通させるゲート電流をサイリスタ5aのゲートに出力可能に構成している。遅延回路部5bは、たとえば、タイマー部を備えたマイクロコンピュータによって構成することができる。タイマー部を備えたマイクロコンピュータは、遅延回路部5bの一端として、照明装置20に電源が投入された時点を検出可能な入力部を備えた構成とすることができる。また、タイマー部を備えたマイクロコンピュータは、遅延回路部5bの他端として、タイマ部で計時した電源投入時から照明装置20が定常動作に移行する所定時間経過後にサイリスタ5aのゲートにゲート電流を出力可能な出力部を備えた構成とすることができる。切替回路部5は、電源投入時から所定時間が経過後、遅延回路部5bの信号たるゲート電流がサイリスタ5aのゲートに入力される。サイリスタ5aは、ゲートに遅延回路部5bの信号が入力されるとアノードとカソード間を導通させインピーダンス素子4に流れる電流をバイパスさせることができる。すなわち、上記バイパス用スイッチング部は、オン状態において、インピーダンス素子4に流れる電流をバイパスさせて流すことができる。そのため、上記バイパス用スイッチング部は、インピーダンス素子4が挿入された第1の電気経路よりもインピーダンスが小さく、且つ直流電源部1からの電流を容量部品2に流す第2の電気経路の一部を構成している。
【0027】
照明装置20は、電源投入の際、電源投入直後では突入電流を抑制するためにインピーダンス素子4が挿入された第1の電気経路をとる。また、照明装置20は、電源投入時から所定時間が経過後、照明装置20が定常動作に移行するタイミングでバイパス用スイッチング部をオン状態とし、第1の電気経路から第2の電気経路へと電気経路を切り替える。
【0028】
本実施形態と比較のために示す照明装置20では、電源投入時には比較的に大きいインピーダンスとなるインピーダンス素子4が挿入された第1の電気経路により、突入電流を抑制することができる。また、照明装置20は、照明装置20の定常動作時に電気経路を電源投入時の第1の電気経路よりもインピーダンスの小さい第2の電気経路に切替えて、インピーダンス素子4による照明装置20における電力損失を抑制することが可能となる。」

以上の記載事項及び【図2】の記載からみて、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
〔甲1発明〕
「交流電源ACからの交流電力を整流して出力するダイオードブリッジ回路DBからなる直流電源部1と、
直流電源部1の出力端間に接続され、直流電圧を平滑化する容量部品2と、
容量部品2の両端に接続され、容量部品2からの電流をスイッチング素子のオン・オフ動作により直流電源部1からの直流電力を所定の直流電力に変換してLEDユニット11側に出力する出力回路部3と、
前記直流電源部1の直流電圧が前記出力回路部3側に印加される電源投入の際に前記直流電源部1から前記容量部品2へ流れる突入電流を抑制するインピーダンス素子4と、
前記インピーダンス素子4が挿入された第1の電気経路よりもインピーダンスが小さくインピーダンス素子4に流れる電流をバイパス可能なバイパス用スイッチング部5aと、
電源投入時から照明装置20が定常状態に移行した所定時間経過後にバイパス用スイッチング部5aをオン状態とする遅延回路部5bと、を備えた照明装置20。」

(2)甲第2号証に記載された事項及び甲2発明
甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0013】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、グロースタータ式蛍光灯器具、インバータ式蛍光灯器具、ラピッドスタート式蛍光灯器具等の何れの蛍光灯器具に対しても支障が生じず、何れの蛍光灯器具にも対応することが出来るLED照明灯を提供することにある。」

「【0036】
光源部10は、一面に複数の白色LED11,11,11,…が半田付けされている回路基板12とからなるLEDモジュール16を備えている。LEDモジュール16には白色LED11,11,11,…の直列回路が複数並列接続している。・・・一方、天井と対向する回路基板12の他面には定電流回路13、全波整流器14,14を備えている。各口金30,30からの商用電源の交流を直流に変換する全波整流器14,14及び、全波整流器14,14と接続されて白色LED11,11,11,…に供給する電流を一定電流に制御する定電流回路13が接続されている。全波整流器14,14は後述の全波整流回路141a,141bを備えている。・・・」

「【0049】
図6は実施の形態2に係るLED照明灯1がインバータ式蛍光灯器具に取り付けられた場合の概略回路図である。図中一点鎖線により囲まれた部分は実施の形態2に係るLED照明灯1を示す。
【0050】
実施の形態2に係るLED照明灯1は、LEDモジュール16、定電流回路13、第1全波整流器14a、第2全波整流器14b、第1抵抗171a、第2抵抗171b、第1コンデンサー172a、第2コンデンサー172b、第1口金30a及び第2口金30bを備えており、LEDモジュール16は第1端子ピン対15a及び第2端子ピン対15bに対してOR回路を構成している。
【0051】
第1端子ピン対15aの端子151a及び端子152b(当審注;段落【0052】及び【図6】の記載からみて、「152a」の誤記と認める。)並びに、第2端子ピン対15bの端子151b及び端子152bは共に電子安定器A5を通じて商用電源Pと接続している。インバータ式蛍光灯器具においては、電子安定器A5がフィラメントを加熱する加熱回路(図示せず)及び蛍光灯の放電のための電圧印加回路(図示せず)を共に備えているからである。また、インバータ式蛍光灯器具においては、電子安定器A5が、第1端子ピン対15a又は第2端子ピン対15bの何れか一方の2つの端子間の電流を検知し、一定以上である場合のみ放電のための電圧(以下、放電電圧)を印加し、一定以下である場合、つまりフィラメントが切れている場合は放電電圧の印加を中止する制御等を行っていた。
【0052】
第1口金30aの端子151a及び152aには第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aが並列接続されており、第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aには、第1全波整流器14aの入力側端子が接続している。第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aのインピーダンスは10Ωである。また、第2口金30bの端子151b及び152bも第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bが並列接続されており、第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bには、第2全波整流器14bの入力側端子が接続されている。第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bのインピーダンスは10Ωである。第1全波整流器14aの出力側の正側端子には、定電流回路13を通じてLEDモジュール16のアノード側端子が接続されており、LEDモジュール16のカソード側端子は第2全波整流器14b出力側の負側端子に接続されている。第1全波整流器14a及び第2全波整流器14bの出力側の各正側端子は相互接続されており、該出力側の各負側端子も相互接続されている。
【0053】
以下、本発明の実施の形態2に係るLED照明灯1の点灯について説明する。スイッチ(図示せず)をオンにした場合、電子安定器A5の働きにより、加熱のための加熱電流が第1端子ピン対15aの端子152a又は第2端子ピン対15bの端子152bに流れると共に、放電電圧が印加され、端子151a又は端子151bに流れる。端子151a又は端子151bを経由した交流電流は、第1全波整流器14a又は第2全波整流器14bに流れ、第1全波整流器14a又は第2全波整流器14bにて全波整流されて直流電流に変換される。変換された直流電流は定電流回路13に流れ、定電流回路13にて電流が適宜調整される。調整された電流はLEDモジュール16に流れ、白色LED11,11,11,…が白色に発光する。
【0054】
一方、第1端子ピン対15aの端子151a及び端子152aは、第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aを通じて相互接続されており、第2端子ピン対15bの端子151b及び端子152bは、第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bを通じて相互接続されている。例えば電子安定器A5から加熱電流が端子152a又は端子152b流れる場合、前記加熱電流は、第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aを通じて或いは、第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bを通じて、端子151a又は端子151bに流れ、ひいては端子151a及び端子151bを接続している電子安定器A5に流れることとなる。従って、第1端子ピン対15a及び第2端子ピン対15bの何れに対しても、2つの端子の間の電流の検知が可能である。この際、第1抵抗171a及び第1コンデンサー172a並びに、第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bのインピーダンスは既存の蛍光灯のフィラメントに近似する10Ωであるので、電子安定器A5は放電電圧の印加を続ける。また、商用電源Pからの大電流(過電流)が直接電子安定器A5の加熱回路に流れないで、第1抵抗171a及び第1コンデンサー172a(又は第2抵抗171b及び第2コンデンサー172b)を通じて流れることにより制限され、大電流(過電流)による電子安定器A5の加熱回路の故障が未然に防止される。」

上記ウの段落【0052】の記載を【図6】と併せみれば、第1端子ピン対15aは、第1全波整流器14aの入力側端子に接続され、第2端子ピン対15bは、第2全波整流器14bの入力側端子に接続されていることが理解できる。
以上の記載事項及び【図6】の記載からみて、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
〔甲2発明〕
「電子安定器A5を通じて商用電源Pと接続している第1端子ピン対15a及び第2端子ピン対15bと、
第1端子ピン対15aは、第1全波整流器14aの入力側端子に接続され、第2端子ピン対15bは、第2全波整流器14bの入力側端子に接続され
第1端子ピン対15aの端子151a及び152aには第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aが並列接続され、
第2端子ピン対15bの端子151b及び152bには第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bが並列接続され、
第1全波整流器14a及び第2全波整流器14bの出力側の各正側端子は相互接続されるとともに、定電流回路13を通じてLEDモジュール16のアノード側端子に接続され、
第1全波整流器14a及び第2全波整流器14bの出力側の各負側端子は相互接続されるとともに、LEDモジュール16のカソード側端子に接続された、LED照明灯1。」

(3)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、既存の白熱灯用電子トランスに接続して発光ダイオード等のランプを点灯させるLED用電源回路に関する。」

「【0011】
しかしながら、既存の電子トランス1は、LED8に比べて電力消費量が大きなハロゲンランプ(例えば、50W)を点灯するのに適した回路設計がなされており、このような電子トランス1にLED用電源回路9を接続してLED8を点灯させた場合、LED8の電力消費量が小さい(例えば、10W)ことから、電子トランス1には、白熱灯の点灯に使用されることを前提とした本来の設計電流値よりも小さな電流しか流れないことになる。
【0012】
加えて、LED8は「ダイオード」であるから、白熱灯のような「抵抗」とは異なり、順方向電圧が印加されることで電流が流れる非線形性を有している。このため、電子トランス1に流れる電流は、商用交流電源7から出力される交流電圧Vinの半サイクル中において一時的に著しく低下することになる。すなわち、LED8の順方向電圧(LED1灯当たり例えば3Vであり、図8に示すようにLEDが2灯の場合は約6V)を考慮すると、電子トランス1の出力電圧Viが上記順方向電圧(約6V)よりも小さい期間は、電流がほとんど流れない。
【0013】
このように、電子トランス1に流れる電流値が低下した場合、インバータ回路3の自励発振用のスイッチング素子Q1、Q2の増幅率が低下し、当該スイッチング素子Q1、Q2が発振できない、あるいは発振が停止して、LED8が点灯しない、あるいは点灯した後で不所望に消灯してしまうという問題があった。
【0014】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みて開発されたものである。それゆえに本発明の主たる課題は、既存の白熱灯用電子トランスに接続して使用するLED用電源回路であって、当該電子トランスのインバータ回路が発振できない、あるいは発振が停止するのを回避して、LEDを定常点灯させることのできるLED用電源回路を提供することにある。」

「【0022】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載したLED用電源回路10に関し、「前記起動回路22は、前記抵抗42を構成する少なくとも2つの抵抗体46a、46bと、リレー48とを有しており、
前記リレー48は、前記2つの抵抗体46a、46bいずれか一方をバイパス状態として他方を使用するか、両者を非バイパス状態として使用するかを切り替えることにより、あるいは互いに抵抗値の異なる前記2つの抵抗体46a、46bにおける一方の前記抵抗体をバイパスするとともに他方の前記抵抗体を非バイパス状態にして使用するように切り替えることにより、前記スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後における前記抵抗42の抵抗値を、前記スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前における前記抵抗42の抵抗値よりも大きくする」ことを特徴とする。
【0023】
本発明は、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する際に必要な電流Itrの電流値と、発振を開始した後、発振を維持するのに必要な電流Itrの電流値とを比較すると、後者の方が小さいことを利用したものである。
【0024】
すなわち、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前において、起動回路22のリレー48が抵抗42を構成する2つの抵抗体46a、46bのいずれか一方をバイパス状態として他方を使用することにより、抵抗42の抵抗値が小さくなって起動回路22に流れる電流Istの電流値が大きくなり、その結果、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する際に十分な電流Itrが流れる。そして、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後において、リレー48が上記バイパス状態を解除する(=両者を非バイパス状態として使用する)ことにより、抵抗42の抵抗値が(発振開始前に比べて)大きくなって起動回路22に流れる電流Istの電流値が小さくなり、その結果、スイッチング素子Q1、Q2の発振を維持しつつ、起動回路22における消費電力量を低減させることができる。もちろん、互いに抵抗値の異なる2つの抵抗体46a、46bの一方の抵抗体をバイパスするとともに他方の抵抗体を非バイパス状態にして使用するように切り替えて抵抗42の抵抗値を上述のように変化させてもよい。」

「【0032】
LED用電源回路10は、商用交流電源12から電子トランス14を介して入力された交流電圧Viを整流し、定電流をLED16に供給する回路であり、大略、整流回路18と、定電流回路20と、起動回路22とで構成されている(なお、商用交流電源12から電子トランス14に供給される交流電圧を「Vin」とする。)。
【0033】
なお、本実施例では2つのLED16a、16bを順方向に直列接続したLED16を使用している。なお、使用するLEDの種類および個数に関する限定は特にないが、LED16の順方向電圧(複数のLEDを直列に接続した場合は各LEDの順方向電圧の総和)は電子トランス14から出力された交流電圧Vi以下にしなければならない。
【0034】
整流回路18は、上述のように、電子トランス14から出力された交流電圧Viを脈流の直流電圧Vdcに整流する回路であり、本実施例では、交流電圧Viを全波整流して脈流の直流電圧に変換する、4つのダイオード24a?24dで構成されたフルブリッジ回路26と、フルブリッジ回路26の二次側において並列に接続された平滑用コンデンサ28とを備えている。なお、商用交流電源12から供給された交流電圧Viの利用効率は悪くなるが、上記全波整流回路に替えて半波整流回路を使用することもできる。
・・・
【0036】
平滑用コンデンサ28は、必要に応じて設けられる、フルブリッジ回路26から供給される脈流の直流電圧をより平滑にすると同時に定電流回路20から発生するスイッチングノイズを低減するコンデンサであり、その種類としては、例えば、温度特性の良好なフィルムコンデンサ等が用いられる。」

「【0040】
起動回路22は、整流回路18の一次側、すなわち電子トランス14から出力された電圧Viを整流回路18に給電する一対の給電ライン40間において、整流回路18に並列に接続された回路であり、本実施例では、抵抗42のみで構成されている。もちろん、抵抗42は、1つの抵抗体であってもよいし、複数の抵抗体を直列および/または並列に組み合わせたものであってもよい。」

「【0046】
一方、起動回路22(本実施例の場合は、抵抗42)に電圧Viが印加されることにより、起動回路22には、抵抗42の抵抗値に応じた大きさの電流Istが流れることから、電子トランス14には、整流回路18および定電流回路20に流れる電流Ireと、起動回路22に流れる電流Istとを合わせた電流Itrが流れることとなる。
【0047】
これにより、LED16の消費電力量が小さく、整流回路18および定電流回路20に流れる電流Ireが小さい場合であっても、起動回路22における抵抗42の抵抗値を小さくして当該起動回路22に流れる電流Istを大きくすることにより、電子トランス14に流れる電流Itrを当該電子トランス14におけるインバータ回路3のスイッチング素子Q1、Q2が発振できない、あるいは発振が停止するような電流値よりも大きくして、LED16を定常点灯させることができる。
・・・
【0049】
上記実施例では、起動回路22が抵抗42のみで構成されている場合について説明したが、起動回路22は、図2に示すように、抵抗42と、コイル等のようにインダクタンスを有するインダクタ44とを互いに直列に接続することによって構成してもよい。」

「【0055】
また、起動回路22を、抵抗42を構成する少なくとも2つの抵抗体46a、46bと、リレー48とで構成し、リレー48によって、抵抗体46a、46bのいずれか一方をバイパス状態として他方を使用するか、両者を非バイパス状態として使用するかを切り替えることにより、あるいは、2つの抵抗体46a、46bの抵抗値を互いに異なるものとし、一方の抵抗体をバイパスするとともに他方の抵抗体を非バイパス状態にして使用するように切り替えることにより、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後における抵抗42の抵抗値を、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前における抵抗42の抵抗値よりも大きくしてもよい。もちろん、抵抗値を大きくした後でも、スイッチング素子Q1、Q2の発振状態が維持される程度の抵抗値が選択されることは言うまでもない。
【0056】
このような起動回路22は、例えば図3に示すように、互いに直列に接続された2つの抵抗体46a、46b(つまり、2つの抵抗体46a、46bで抵抗42が構成されている。)と、1つのリレー48とで構成することができる。」

「【0060】
このような起動回路22を備えるLED用電源回路10を用いた場合、電子トランス14のスイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前は、整流回路18と定電流回路20との間における一対の直流供給ライン56間に電圧Vdcが印加されておらず、リレー48の電磁石50が励磁されていないことから、継電部52の共通端子52aは、接続端子52cと導通状態になっている。このため、一方の抵抗体46aはバイパスされ、他方の抵抗体46bの抵抗値に応じた電流Ist(電流値=大、消費電力量=大)が起動回路22に流れることとなる。
【0061】
電子トランス14のスイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後は、一対の直流給電ライン56間に電圧Vdcが印加されるので、リレー48の電磁石50が励磁されて継電部52の共通端子52aと接続端子52cとは非導通状態になり、替わりに共通端子52aと開放端子52bとが導通状態になることから、両方の抵抗体46a、46bの合計抵抗値に応じた電流Ist(電流値=小、消費電力量=小)が起動回路22に流れる。
【0062】
本実施例の起動回路22によれば、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前には、起動回路22における抵抗42の抵抗値を小さくして(=抵抗体46bの抵抗値のみ)当該起動回路22に流れる電流Istの電流値を大きくすることにより、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する際に十分な電流Itrが流れるようにする。そして、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後には、抵抗42の抵抗値を(発振開始前に比べて)大きくして(=抵抗体46aの抵抗値+抵抗体46bの抵抗値)起動回路22に流れる電流Istの電流値を小さくすることにより、スイッチング素子Q1、Q2の発振を維持しつつ、起動回路22における消費電力量を低減させることができる。
・・・
【0064】
さらに、図4に示すように、直列接続した2つの抵抗体46a、46bに加えて、インダクタ58を直列に接続してもよい。
・・・
【0066】
具体例を示すと、電子トランス14が12V-50Wの白熱灯(ハロゲンランプ)を点灯するために設計されたものである場合において、一方の抵抗体46aの抵抗値を150Ω、他方の抵抗体46bの抵抗値を50Ω、インダクタ58のインダクタンスを100μHに設定することにより、電子トランス14のスイッチング素子Q1、Q2の発振開始時には、50Ωの抵抗と100μHのインダクタンスとによるR-L回路で、起動回路22における消費電力量が約2Wとなり、発振開始後は、200Ω(=150Ω+50Ω)の抵抗と100μHのインダクタンスとによるR-L回路で、消費電力量を約0.7Wに低減することができた。
・・・
【0069】
抵抗体46aにPTCサーミスタを用いることにより、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前で未だPTCサーミスタ自身の温度が低いときには、PTCサーミスタの抵抗値は小さいことから、起動回路22に流れる電流Istは大きく、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する際に十分な電流Itrを流すことができる。そして、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後には、PTCサーミスタに印加される電圧が増加していくとともに(あるいはLED用電源回路10全体の温度が上昇することにより)PTCサーミスタ自身の温度が上昇し、これに伴いPTCサーミスタの抵抗値も大きくなる。これにより、起動回路に流れる電流Istは小さくなるので、起動回路22における消費電力量を低減させることができる。」

(4)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0019】ついで、リレー接点13と負荷14との間の出力線12上にはインピーダンス回路17を形成する抵抗R_(1)が接続されている。この抵抗R_(1)はリレー接点13の閉時に流れる突入電流を抑制し得る抵抗値(インピーダンス値)を有する素子が用いられている。この抵抗値は、例えば1MΩとされている。このような抵抗R_(1) に対しては無効回路18が付加されている。この無効回路18は、抵抗R_(1)の両端間に並列に接続されて短絡回路19を形成するFET20と、このFET20のオン・オフを制御する遅延回路21とにより構成されている。遅延回路21は短絡制御回路として機能するもので、直流電源11の両端間にリレー接点13を介して接続された抵抗R_(2)とコンデンサC_(2)との時定数回路と、抵抗R_(2)とコンデンサC_(2)との接続中点にベース抵抗R_(3)を介してベースが接続されたトランジスタQ_(1)とよりなり、トランジスタQ_(1)のコレクタが抵抗R_(4)を介してFET20のゲートに接続されている。」

「【0022】一方、リレー接点13が閉じられた時点から遅延回路21中の時定数回路にも電流が流れ、コンデンサC_(2)の充電電荷がトランジスタQ_(1)のベースをバイアスできる遅延時間だけ経過すると、この時点でトランジスタQ_(1)がオンする。これにより、FET20もオンし、抵抗R_(1)の両端間を短絡する。即ち、直流電源11にはリレー接点13と負荷14だけが接続された状態となり、通常動作中に高抵抗の抵抗R_(1)が介在していることによる回路効率の低下が防止される。ここに、遅延回路21の遅延時間は突入電流がなくなる時間(この時点ではコンデンサCCも充電されており、負荷短絡状態にない)を考慮して設定されているので、突入電流の心配はない。また、遅延回路21の時定数回路はリレー接点13の閉状態への変化をトリガとして動作するので、突入電流が問題となるリレー接点13の閉時に同期した制御となり、安定した制御を行える。」

(5)甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0013】
実施の形態1.
図1を参照して実施の形態1の光源点灯装置110を説明する。本実施の形態1においては、光源としてLED(発光ダイオード)を用いて説明する。
図1は光源点灯装置110の回路図である。光源点灯装置110は、商用交流電源1より電力の供給を受けて、それぞれ複数のLED素子からなるLED8a、8bを点灯させる装置である。図1において、商用交流電源1と、LED8a、8bと、色温度・調光コントローラ16以外は、光源点灯装置110の構成要素である。
【0014】
(光源点灯装置110の構成)
光源点灯装置110は、交流-直流変換部29(変換部)、第1降圧チョッパ回路30(定電流電源部)、第2降圧チョッパ回路31(定電流電源部)、駆動回路10a(駆動部)、駆動回路10b(駆動部)、制御電源回路11(制御電源回路部)、遮断スイッチ12、制御回路13(制御電源供給制御部)を備えている。
(1)交流-直流変換部29は、整流回路2と、第1平滑コンデンサ3と、商用電源検出回路14とを備えている。
(2)第1降圧チョッパ回路30は、スイッチング素子4a、還流ダイオード5a、インダクタ6a、第2平滑コンデンサ7a、LED電流検出抵抗9a及び絶縁回路15aを備えている。
(3)第2降圧チョッパ回路31は、第1降圧チョッパ回路30と同様の構成である。
(4)駆動回路10aは、第1降圧チョッパ回路30のスイッチング素子4aを駆動する。
(5)駆動回路10bは、第2降圧チョッパ回路31のスイッチング素子4bを駆動する。
(6)制御電源回路11は、駆動回路10a、10bに制御電源を供給する。
(7)遮断スイッチ12は、制御電源の供給・遮断を制御する。
(8)制御回路13は、遮断スイッチ12のオン・オフ制御及び、駆動回路10a、10bに目標LED電流を指示するLED電流目標信号を出力する。制御回路13は、例えばマイクロコンピュータを使用する。」

【図1】には、第1平滑コンデンサ3が整流回路2の出力端間に設けられ、第2平滑コンデンサ7aが複数のLED素子からなるLED8aに列に設けられていることが記載されている。

(6)甲第6号証に記載された事項
甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0035】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る発光ダイオード点灯回路10は、LEDを点灯させるためのLED点灯回路であって、LEDを点灯するために外部から所定の電圧の入力を受ける入力端子P1及びP2と、交流電圧を整流する整流回路11と、LEDを点灯させるための所定の電圧を生成するインバータ12と、LEDに対して所定の電圧を出力する出力端子P3及びP4とを備える。
・・・
【0037】
整流回路11(DB)は、4つのダイオードで構成されるブリッジ型全波整流回路(例えば、定格600V/0.8A)であって、インバータ12に対して一定方向の電圧が供給されるように、交流電圧を全波整流して出力する。整流回路11において、入力側の2端子は入力端子P1及びP2に接続され、出力側の2端子は平滑コンデンサC1等に接続されている。平滑コンデンサC1は、整流回路11の出力電圧を平滑化させるために設けられており、本実施形態では、アルミ電解コンデンサ(160V/0.47μF)を用いた。」

(7)甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項2】 インピーダンス素子はツェナーダイオードであることを特徴とする請求項1記載の3相4線中性線欠相検出装置。」

3.当審の判断
(1)異議申立理由1について
ア 本件発明1
本件発明1と甲1発明とを対比する。
後者の「交流電源AC」は、前者の「商用交流電力」に相当し、後者の「交流電源ACからの交流電力を整流して出力するダイオードブリッジ回路DBからなる直流電源部1」は、前者の「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部」と、「商用交流電力が供給されて交流電流を直流電流に変換する整流部」である限りにおいて一致する。
後者の「直流電源部1の直流電圧を平滑化する容量部品2」は、前者の「整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサ」に相当する。
後者の「容量部品2」は、「直流電源部1の出力端間に接続され」るものであるとともに、その両端に「容量部品2からの電流をスイッチング素子のオン・オフ動作により直流電源部1からの直流電力を所定の直流電力に変換してLEDユニット11側に出力する出力回路部3」が接続されるので、容量部品2は、直流電源部1とLEDユニット11を含む出力回路部3との間で出力回路部3と並列に設けられているといえる。そうすると、後者の「LEDユニット11」を含んだ「出力回路部3」は、前者の「直列発光体」と、「直列発光体を含む負荷回路」である限りにおいて一致し、後者の「容量部品2」の配置に関する構成は、前者の「整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに直列発光体と並列に設けられ」ることと、「整流部と直列発光体を含む負荷回路との間の電流供給ラインに直列発光体を含む負荷回路と並列に設けられ」る限りにおいて一致する。
後者の「直流電源部1の直流電圧が出力回路部3側に印加される電源投入の際に直流電源部1から容量部品2へ流れる突入電流を抑制するインピーダンス素子4」は、前者の「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子」と、「インピーダンス素子」である限りにおいて一致する。
後者の「インピーダンス素子4が挿入された第1の電気経路よりもインピーダンスが小さくインピーダンス素子4に流れる電流をバイパス可能なバイパス用スイッチング部5a」は、前者の「インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子」に相当する。
後者の「電源投入時から照明装置20が定常状態に移行した所定時間経過後にバイパス用スイッチング部5aをオン状態とする遅延回路部5b」は、前者の「直列発光体の起動時から一定時間経過後に短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路」に相当する。
後者の「照明装置20」は、点灯回路を含むことは明らかなので、前者の「点灯制御回路」と、「点灯回路」である限りにおいて一致する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点1〕
「商用交流電力が供給されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体を含む負荷回路との間の電流供給ラインに前記直列発光体を含む負荷回路と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
インピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、を有する点灯回路。」
〔相違点1〕
本件発明1は、「整流部」が商用交流電力が供給される「電子安定器に接続され」るものであり、「平滑用コンデンサ」が「直列発光体と並列に設けられ」るものであり、「インピーダンス素子」が「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として設定する」ものである、「点灯制御回路」であるのに対して、甲1発明は、そのような構成を備えていない点。

上記相違点1について以下検討する。
本件発明1は、上記第2の2.(1)イで述べたとおり、既存の蛍光灯用の照明器具に、直列発光体からなる照明灯を取り付けた場合に、照明器具が備えている電子安定器が蛍光灯を取り付けたときと同様に動作し、電子安定器の保護動作が作動しないようにしつつ省電力化を図ることを課題としたものであり、整流部に電子安定器を介して商用交流電力が供給される構成を前提としているといえる。
そして、そのような課題及び前提構成の下、本件発明1のインピーダンス素子は、「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として設定する」と特定されているといえる。
これに対して、甲1発明は、交流電源ACからの交流電力をダイオードブリッジ回路DBで整流するものであり、甲第1号証には、交流電源ACとダイオードブリッジ回路DBとの間に電子安定器が介在することは記載されておらず、交流電源AC以外の回路を、電子安定器を備えた既存の蛍光灯用の照明器具に取り付けることを示唆する記載もない。
そうすると、甲1発明の「ダイオードブリッジ回路DBからなる直流電源部1」が、「電子安定器に接続され」ることは設計上の微差ということはできないし、甲1発明の「インピーダンス素子4」が、電子安定器の出力電圧を設定するために設けられたものとすることも、設計上の微差ということはできない。

また、甲1発明は、交流電源ACからの交流電力を整流し容量部品2により平滑化した電圧を、出力回路部3により所定の直流電力に変換し、LEDユニット11に電力を供給するものであり、容量部品2は出力回路部3の直流電圧源であり、直接、LEDユニット11に電力供給するものではない。
そうすると、甲1発明の「容量部品2」を、「直列発光体と並列に設けられ」るようにすることは、設計上の微差とはいえない。
以上のとおりであるので、相違点に係る本件発明1の構成は、設計上の微差ということはできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明と実質同一ということはできない。

イ 本件発明2?4、9
本件発明2?4及び9は、本件発明1のすべての事項を含むものである。
そして、本件発明1は、上記アで述べたとおり、甲第1号証記載の発明と実質同一ということはできないので、本件発明2?4及び9も同様の理由により、甲第1号証記載の発明と実質同一ということはできない

ウ 小括
したがって、本件発明1?4、9は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(2)異議申立理由2について
ア 本件発明1
本件発明1と甲2発明とを対比する。
後者の「商用電源P」、「電子安定器A5」は、前者の「商用交流電力」、「電子安定器」にそれぞれ相当する。
後者の「電子安定器A5を通じて商用電源Pと接続している第1端子ピン対15a及び第2端子ピン対15b」は、それぞれ「第1全波整流器14aの入力側端子」及び「第2全波整流器14bの入力側端子」に接続されるものであるので、後者の「第1全波整流器14a」及び「第2全波整流器14b」は、その構成からみて、前者の「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部」に相当する。
後者の「LEDモジュール16」は、前者の「直列発光体」に相当する。
後者の「第1全波整流器14a及び第2全波整流器14bの出力側の各正側端子は相互接続されるとともに、定電流回路13を通じてLEDモジュール16のアノード側端子に接続され、第1全波整流器14a及び第2全波整流器14bの出力側の各負側端子は相互接続されるとともに、LEDモジュール16のカソード側端子に接続され」ることは、第1全波整流器14a及び第2全波整流器14bとLEDモジュール16との間に電流供給ラインがあることにほかならないので、前者の「整流部と直列発光体との間の電流供給ライン」を備えているといえる。
後者の「LED照明灯1」は、定電流回路13を備えているので、前者の「点灯制御回路」と、「点灯回路」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点2〕
「商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインを有する、点灯回路。」
〔相違点2-1〕
本件発明1は、「直列発光体と並列に設けられ、整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサ」を有しているのに対して、甲2発明は、そのような構成を備えていない点。
〔相違点2-2〕
本件発明1は、「電子安定器に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子」と、「インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子」と、「直列発光体の起動時から一定時間経過後に短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路」とを有しているのに対して、甲2発明は、第1端子ピン対15aの端子151a及び152aには第1抵抗171a及び第1コンデンサー172aが並列接続され、第2端子ピン対15bの端子151b及び152bには第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bが並列接続されているものの、これらの抵抗及びコンデンサーが、電子安定器の出力電圧を上記のようにするとは特定されておらず、これらの抵抗及びコンデンサーに並列に短絡用のスイッチング素子が設けられておらず、タイマー制御回路も設けられていない点。

事案に鑑み、相違点2-2について以下検討する。
(ア)
甲2発明の、第1端子ピン対15aの端子151a及び152a間に並列接続される第1抵抗171a及び第1コンデンサー172a、第2端子ピン対15bの端子151b及び152b間に並列接続される第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bについて、甲第2号証の記載(段落【0054】、上記2.(2)ウを参照)によれば、これらの抵抗及びコンデンサーは、インピーダンスが既存の蛍光灯の端子ピン対に設けられているフィラメントと同様であり、電子安定器A5から蛍光灯のフィラメントに供給されるのと同様に加熱電流が供給された際に、当該加熱電流が流れるように回路を構成し、当該加熱電流を検知することで電子安定器A5からの放電電圧の印加を継続するためのものであり、また、商用電源Pからの大電流(過電流)が直接電子安定器A5の加熱回路に流れ込むのを防止するためのものでもある。
そうすると、甲2発明の、第1抵抗171a及び第1コンデンサー172a、並びに、第2抵抗171b及び第2コンデンサー172bは、電子安定器A5からの放電電圧の出力を継続させるためのものではあるものの、LED照明灯1起動時の電子安定器A5の出力電圧を蛍光灯接続時と等価に設定するためのものとまではいえないし、また、これらの抵抗及びコンデンサーに並列に、LEDモジュール16の起動から一定時間後に短絡動作するスイッチング素子を設ける動機付けもない。
(イ)
甲第3号証には、白熱灯用の電子トランス1にLED用電源回路9を接続してLED8を点灯させた場合に、電子トランス1に流れる電流値が低下し、電子トランス1のインバータ回路3の自励発振用のスイッチング素子Q1、Q2の増幅率が低下し、当該スイッチング素子Q1、Q2が発振できない、あるいは発振が停止して、LED8が点灯しない、あるいは点灯した後で不所望に消灯してしまうという問題を解決するために(上記2.(3)ア及びイを参照)、電子トランス14の一対の給電ライン40間に、整流回路18と並列に起動回路22を設け(上記2.(3)オを参照)、起動回路22は2つの抵抗体46a、46bと、抵抗体46a、46bのいずれか一方をバイパス状態とするリレー48とからなり(上記2.(3)キを参照)、電子トランス14のスイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前は、一方の抵抗体46aをバイパスし、他方の抵抗体46bの抵抗値に応じた電流Ist(電流値=大、消費電力量=大)が起動回路22に流れるようにし、電子トランス14のスイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後は、両方の抵抗体46a、46bの合計抵抗値に応じた電流Ist(電流値=小、消費電力量=小)が起動回路22に流れるようにすることで、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する前には、起動回路22における抵抗42の抵抗値を小さくして(=抵抗体46bの抵抗値のみ)当該起動回路22に流れる電流Istの電流値を大きくすることにより、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始する際に十分な電流Itrが流れるようにし、スイッチング素子Q1、Q2が発振を開始した後には、抵抗42の抵抗値を(発振開始前に比べて)大きくして(=抵抗体46aの抵抗値+抵抗体46bの抵抗値)起動回路22に流れる電流Istの電流値を小さくすることにより、スイッチング素子Q1、Q2の発振を維持しつつ、起動回路22における消費電力量を低減させる(上記2.(3)クを参照)ことが記載されている。
甲第3号証に記載の抵抗体46a、46bは、白熱灯用の電子トランス1の照明負荷をLEDにした際、電子トランス1のスイッチング素子Q1、Q2の発振を維持する程度の電流を流すために設けられたものであり、また、抵抗体46aのバイパス、すなわち短絡は、電子トランス1の始動時に行われるものである。
そうすると、甲第3号証に記載の抵抗体46a、46bは、本件発明1の蛍光灯用の電子安定器の出力電圧を設定するためのインピーダンス素子ということはできず、また甲第3号証に記載の抵抗体46aをバイパスするリレー48は、本件発明1の直列発光体の起動時から一定時間経過後に、インピーダンス素子の両端を短絡する短絡用スイッチング素子ということはできない。
したがって、甲2発明に、甲第3号証に記載の事項を適用しても、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることはできない。
(ウ)
甲第4号証には、突入電流を抑制する抵抗R_(1)の両端間に並列に短絡回路19を形成するFET20が接続され、リレー接点13が閉じられた時点から所定時間経過後に、FET20もオンし、抵抗R_(1)の両端間を短絡することが記載されている(上記2.(4)ア及びイを参照)。
しかしながら、甲第4号証の抵抗R1は、突入電流を抑制するものであり、本件発明1のインピーダンス素子のように、蛍光灯用の電子安定器の出力電圧を設定するためのものではない。
したがって、甲2発明に、甲第3号証に記載の事項を適用しても、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることはできない。
(エ)
甲第5号証には、整流回路2とLED8aとの間に、第1平滑コンデンサ3及び第2平滑コンデンサ7aが設けられることが記載されている(上記2.(5)ア及びイを参照)。
甲第6号証には、整流回路11の出力側の2端子が平滑コンデンサC1に接続されることが記載されている(上記2.(6)を参照)。
甲第7号証には、インピーダンス素子をツェナーダイオードとすることが記載されている(上記2.(7)を参照)。
しかしながら、甲第5?7号証には、本件発明1のインピーダンス素子は記載も示唆もされていない。
(オ)
以上のとおりであるので、甲2発明に、甲第3?7号証に記載の事項を適用しても、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることはできない。
したがって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第3?7号証に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4、9
本件発明2?4及び9は、本件発明1のすべての事項を含むものである。
そして、本件発明1は、上記アで述べたとおり、甲2発明及び甲第3?7号証に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、本件発明2?4及び9も同様の理由により、甲2発明及び甲第3?7号証に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1?4、9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、6?9に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1?4、6?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項10?15に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立について、請求項10?13、15に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体発光素子の点灯を制御するのに用いる点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィラメント電極を有する蛍光灯に代えて、消費電力の少ない固体発光素子として例えば発光ダイオード(LED)を用いた照明灯が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この特許文献1に開示の技術によれば、グロースタータ式蛍光灯用の照明器具、ラピッドスタート式蛍光灯用の照明器具に固体発光素子を有する照明灯を取り付けることができるのみならず、蛍光灯用のインバータ式の電子安定器を備えた照明器具に交換可能に固体発光素子を有する照明灯を取り付けることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、蛍光灯の電子安定器に整流回路、平滑回路、固体発光素子を有する照明灯を取り付けると、市販の蛍光灯とは異なる照明灯が電子安定器に接続されるため、電子安定器の保護動作が作動し、照明灯が点灯しないことがある。
【0005】
その照明灯が安定して点灯しない現象があるという事実はそれ自体公知であり、この照明灯の不安定動作を回避するために、従来、照明灯を蛍光灯の代わりに電子安定器に接続した場合に、電子安定器の出力電圧を蛍光灯が接続されているときの出力電圧に近い電圧(等価な電圧)としている。
【0006】
しかしながら、照明灯が安定器に接続されているときの出力電圧を蛍光灯が電子安定器に接続されているときの出力電圧に近づけると、電子安定器の保護動作が働きにくくなるため、照明灯を安定して点灯させることができるというメリットはあるものの、電力節約を図りにくくなるという不都合がある。
【0007】
その一方、照明灯が電子安定器に接続されているときの出力電圧を蛍光灯が電子安定器に接続されているときの出力電圧よりも低く設定すると、電力節約の向上を図ることができるが、電子安定器の保護動作が作動し、照明灯の点灯が不安定となるという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、固体発光素子用いた照明灯を電子安定器に接続した場合でも、安定して点灯させることができかつ省電力化を図ることが可能な点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の点灯制御回路は、商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、起動時には電子安定器の出力電圧を蛍光灯に近い電圧を用いて照明灯を起動させ、照明灯の動作安定後は、電子安定器の出力電圧を下げることにしたので、固体発光素子を用いた照明灯でも安定して点灯させることができると共に、消費電力の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の実施例に係る固体発光素子を有する照明灯が取付け可能な既存の蛍光灯用の電子安定器を備えた照明器具の概要を示す断面図である。
【図2】図2は図1に示す照明器具に取付可能な照明灯の外観を概略示す正面図である。
【図3】図3は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例1の結線図である。
【図4】図4は図3に示す整流部から出力される電圧波形の説明図である。
【図5】図5は図3に示す点灯制御回路の変形例を示す結線図である。
【図6】図6は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例2の結線図である。
【図7】図7は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例3の結線図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0012】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施例に係る点灯制御回路、その点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法を説明する。
図1は本発明に係る固体発光素子を有する照明灯が取付け可能な既存の蛍光灯用の電子安定器を備えた照明器具の概要を示す外観図である。
【0013】
(共通構成)
その図1において、1は後述する直管式の照明灯が装着される反射傘である。その反射傘1には、その延びる方向両端に、一対のソケット2が間隔を開けて設けられている。その反射傘1には、商用交流電源Eからの電力が供給可能な蛍光灯用の既存の電子安定器3が設けられている。
【0014】
この照明器具には、既存の直管式の蛍光灯が装着可能であるが、ここでは、この既存の直管式の蛍光灯に代えて、図2に示す直管式の照明灯4が取り付けられる。この照明灯4は、直管5の両端部が一対の口金6により封止されている。その各口金6には電力供給系統の一部を構成する一対の電極ピン7a、7aが設けられている。
【0015】
電子安定器3には商用交流電源Eが接続されている。その商用交流電源Eの周波数は例えば50Hz/60Hzである。この電子安定器3の出力側は一対のソケット2に接続されている。その一対のソケット2はそれぞれ一対の電極端子2a、2bを有する。この一対の電極端子2a、2bには一対の電極ピン7a、7aが接続される。
【0016】
直管5の内部には、図3に示すように、複数個の固体発光素子(例えば、発光ダイオード(LED))8と、点灯制御回路11とが設けられている。その複数個の固体発光素子8は直列接続されて直列接続体からなる直列発光体9を構成している。この直列発光体9はここでは少なくとも3列並列に設けられている。
【0017】
(実施例1)
その点灯制御回路11は、電流供給ライン10と、整流部12と、平滑用コンデンサ13と、タイマー制御回路14と、インピーダンス素子15と、短絡用スイッチング素子(SW1)16とから構成されている。その整流部12は、商用交流電源Eから電力が供給される電子安定器3に接続されて交流電流を直流電流に変換する役割を果たす。
【0018】
この整流部12は、整流ダイオードD1?D4を有するブリッジ型の全波整流回路からなるのが望ましい。この各整流部12の入力側は一対の電極ピン7a、7aに接続されている。この各整流部12の出力側は平滑用コンデンサ13の両端の電極に接続されている。
【0019】
その平滑用コンデンサ13は、出力側から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する役割を有する。その平滑用コンデンサ13の両端の電極には各直列発光体9の両端が電流供給ライン10により並列に接続されている。
【0020】
インピーダンス素子15は、ここでは、整流部12と直列発光体9との間の電流供給ライン10に直列に介装されている。このインピーダンス素子15は、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧を照明灯4(直列発光体9)の起動時に起動電圧として生成する機能を有する。
【0021】
そのインピーダンス素子15には、ここでは、ツェナーダイオード(ZD1)が用いられているが、抵抗器又はインダクタを用いても良い。短絡用スイッチング素子16は、インピーダンス素子15と並列に接続されている。この短絡用スイッチング素子16には、半導体スイッチング素子を用いることができるが、リレースイッチ、メカニカルスイッチでも良い。
【0022】
タイマー制御回路14は、照明灯4の起動時から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間(蛍光灯のフィラメントの予熱時間に相当する)経過後に短絡用スイッチング素子16を短絡させて電子安定器3から出力される出力電圧を起動電圧よりも低下させる役割を果たす。
【0023】
すなわち、図3に示す電源スイッチSWをオンすると、電子安定器3がオンされ、直列発光体9の起動開始から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間tの間、図4に示すように、電子安定器3に蛍光灯が接続されて起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な起動電圧V1が生成される。
【0024】
ついで、タイマー制御回路14は、その起動開始から一定時間t経過後に短絡用スイッチング素子16を閉成する。これにより、インピーダンス素子15が短絡され、図4に示すように電子安定器3から出力される出力電圧Vが起動電圧V1よりも低下される。
【0025】
このように、この実施例によれば、蛍光灯が電子安定器3に接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3ら出力される出力電圧V1と等価な出力電圧を直列発光体9の起動時にこの直列発光体9に印加する制御ステップと、直列発光体9の起動開始から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間t経過後に、電子安定器3から出力される出力電圧Vを起動電圧V1よりも低下させる制御ステップとが実行される。
【0026】
言い換えると、直列発光体9に電気的に並列に平滑用コンデンサ13が接続されて直列発光体9に電流を供給する電流供給ライン10にインピーダンス素子15を介挿すると共にインピーダンス素子15に並列に短絡用スイッチング素子16を設けることにより、短絡用スイッチング素子16を直列発光体9の起動時から一定時間t経過するまでの間、開成状態に保持することにより、蛍光灯が電子安定器3に接続されて起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧Vを直列発光体9の起動時に直列発光体9に印加する制御ステップと、一定時間t経過後に電子安定器3から出力される出力電圧を起動電圧V1よりも低下させる制御ステップとが実行される。
【0027】
その結果、照明灯4の起動時には電子安定器3の出力電圧Vを蛍光灯に近い電圧を用いて照明灯4を起動させ、照明灯4の動作安定後は、電子安定器3の出力電圧Vを起動電圧V1よりも下げることができるので、固体発光素子8を用いた照明灯4でも安定して点灯させることができると共に、消費電力の低減を図ることができる。
【0028】
なお、蛍光灯のフィラメントへの通電開始からそのフィラメントへの通電停止とみなされるまでの時間(予熱時間;蛍光灯が放電を開始して点灯するまでに要する時間)よりも若干多めの時間を一定時間として設定するのが、安定して固体発光素子8を点灯させる観点から望ましい。
【0029】
(変形例)
以上の実施例では、整流部12と直列発光体9との間の電流供給ライン10に直列にインピーダンス素子15を介装する構成としたが、図5に示すように、電子安定器3と整流部12との間にインピーダンス素子15を介装する構成としても良い。残余の構成及び作用は実施例1と同様であるので、符合のみを示し、その詳細な説明は省略する。
なお、この場合には、電子安定器3から出力される交流成分を考慮して、互いに逆向きのインピーダンス素子15を電流供給ライン10に一対設けるのが望ましい。
【0030】
(実施例2)
図6は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例2の結線図である。
この実施例2では、平滑用コンデンサ13と直列発光体9との間の電流供給ライン10に、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧を直列発光体9の起動時に起動電圧V1として生成するために直列発光体9の起動時に開成状態にありかつ直列発光体9の起動時から少なくとも一定時間t経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子16が介装されている。また、インピーダンス素子は整流部12と平滑用コンデンサ13の間等、整流部12と直列発光体9の間に適宜設けることができる。
【0031】
タイマー制御回路14は、直列発光体9の起動開始から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間t経過後に短絡用スイッチング素子16を閉成する機能を有し、これにより電子安定器3から出力される出力電圧が低下される。
【0032】
この実施例2による場合にも、起動時から一定時間t経過するまでの間、短絡用スイッチング素子16を開成状態に保持することにより蛍光灯が電子安定器3に接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な出力電圧V1を直列発光体9に印加する制御ステップと、一定時間t経過後に電子安定器3から出力される出力電圧Vを起動電圧V1よりも低下させる制御ステップとが実行されるので、実施例1と同様の効果を奏する。
【0033】
(実施例3)
図7は本発明に係る固体発光素子を用いた照明灯の点灯制御回路の実施例3の結線図である。
この実施例3では、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な起動電圧を照明灯4の起動時に生成するために、直列発光体9は固体発光素子8が42個直列に接続された直列接続体から構成されている。この直列接続体はここでは3個並列に設けられているが、図7には、図面上の煩雑さを避けるために1個の直列発光体9のみが示されている。
【0034】
照明灯4には、その直列発光体9の起動開始から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間t経過後に直列発光体9を複数個の固体発光素子8からなる並列接続体9’に切り替えることにより電子安定器3から出力される出力電圧Vを起動電圧V1よりも低下させる切り替え回路17が設けられている。その並列接続体9’はここでは、21個の固体発光素子8の直列接続体から構成される。
【0035】
この切り替え回路17は、ここでは、タイマー回路17aと、リレースイッチ回路17bと、タイマー回路ー17a、リレースイッチ回路17b、に安定電圧を供給する電源安定化回路17cとから構成されている。
【0036】
リレースイッチ回路17bは、通電コイル18、この通電コイル18と並列の逆流防止用ダイオード19、可動接点TW1、TW2、固定接点T1?T4から構成されている。
直列発光体9には、その42個の固体発光素子8からなる直列接続体を21個の固体発光素子8からなる並列接続体9’に切り替えたときに通電電流の逆流を防止する逆流防止用ダイオード20、21、22が設けられている。
【0037】
なお、この実施例3においては、電流供給ライン10には平滑用コンデンサ13と並列に抵抗R1、R2、バリスタBaが回路設計上の観点から設けられているが、この発明においては、本質的ではない。
【0038】
この実施例3によれば、電子安定器3に蛍光灯が接続されて蛍光灯が起動されたときに電子安定器3から出力される出力電圧と等価な起動電圧を照明灯4の起動時に生成するために、リレー接点TW1が固定接点T3に接続され、リレー接点TW2が固定接点T1に接続されているので、電流iが実線で示すように、42個の固体発光素子8に流れる。
従って、電子安定器3から起動電圧V1が直列発光体9に印加される。
【0039】
また、切り替え制御回路17は、照明灯4の起動時から一定時間t経過後に、リレー接点TW1を破線で示すように固定接点T4の側に切り替えると共に、リレー接点TW2を破線で示すように固定接点T2の側に切り替える。
【0040】
その結果、電流iが破線で示すように、21個の固体発光素子8の直列接続からなる並列接続体9’に流れることになり、直列発光体9の起動開始から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間t経過後には安定器3から出力される出力電圧Vが起動電圧V1よりも低下される。
【0041】
すなわち、この実施例3によれば、直列発光体9の起動開始から蛍光灯のフィラメントへの通電時間に対応するとみなされる少なくとも一定時間t経過後に、直列発光体9の接続状態が直列接続状態から固体発光素子の直列接続からなる並列接続状態に切り替える制御ステップが実行され、これにより、起動時には電子安定器の出力電圧を蛍光灯に近い電圧を用いて照明灯を起動させ、照明灯の動作安定後は、電子安定器の出力電圧を下げることにしたので、固体発光素子を用いた照明灯でも安定して点灯させることができると共に、消費電力の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0042】
3…電子安定器
8…固体発光素子
9…直列発光体
10…電流供給ライン
12…整流部
13…平滑用コンデンサ
14…タイマー制御回路
15…インピーダンス素子
16…短絡用スイッチング素子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】特開2008-277188号公報
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するインピーダンス素子と、
該インピーダンス素子に並列に設けられた短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を短絡させるタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。
【請求項2】
前記インピーダンス素子は、前記整流部と前記直列発光体との間の電流供給ラインに直列に介装されていることを特徴とする請求項1に記載の点灯制御回路。
【請求項3】
前記インピーダンス素子は、前記電子安定器と前記整流部との間に介装されていることを特徴とする請求項1に記載の点灯制御回路。
【請求項4】
前記インピーダンス素子は、ツェナーダイオード、抵抗器、インダクタのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の点灯制御回路。
【請求項5】
前記短絡用スイッチング素子は、半導体スイッチング素子であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の点灯制御回路。
【請求項6】
商用交流電力が供給される電子安定器に接続されて交流電流を直流電流に変換する整流部と、
前記整流部と直列発光体との間の電流供給ラインに前記直列発光体と並列に設けられ、前記整流部から出力された直流電流に含まれる交流成分を除去する平滑用コンデンサと、
前記電流供給ラインに介挿され、前記電子安定器に蛍光灯が接続されて前記蛍光灯が起動されたときに前記電子安定器から出力される出力電圧と等価な出力電圧を前記直列発光体の起動時に起動電圧として設定するために起動時に開成状態にあり、かつ前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に閉成状態とされる短絡用スイッチング素子と、
前記直列発光体の起動時から一定時間経過後に前記短絡用スイッチング素子を閉成状態にするタイマー制御回路と、
を有することを特徴とする点灯制御回路。
【請求項7】
前記短絡用スイッチング素子は、前記整流部と前記直列発光体との間の電流供給ラインに直列に介装されていることを特徴とする請求項6に記載の点灯制御回路。
【請求項8】
前記短絡用スイッチング素子は、前記電子安定器と前記整流部との間の電流供給ラインに介装されていることを特徴とする請求項6に記載の点灯制御回路。
【請求項9】
一対の電極ピンをそれぞれ有する口金により両端部が封止された直管の内部に、
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の点灯制御回路と、
複数個の個体発光素子の直列接続体からなる直列発光体と、
を有することを特徴とする照明灯。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-15 
出願番号 特願2012-191133(P2012-191133)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H05B)
P 1 652・ 16- YAA (H05B)
P 1 652・ 537- YAA (H05B)
P 1 652・ 536- YAA (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 友章  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 尾崎 和寛
平田 信勝
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6007680号(P6007680)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 点灯制御回路及びその点灯制御回路を用いた照明灯及び点灯制御回路の制御方法  
代理人 西脇 民雄  
代理人 西脇 民雄  

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