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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1349704
異議申立番号 異議2018-701024  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-19 
確定日 2019-03-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6344253号発明「巻き出しクリンカの処理方法および巻き出しクリンカの処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6344253号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6344253号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年2月12日の出願であって、平成30年6月1日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月20日に特許掲載公報が発行されたものである。その後、平成30年12月19日付けで特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人」という。)により、請求項1?6に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
セメントキルンを休転したときに排出した巻き出しクリンカを貯蔵する巻き出しクリンカ貯蔵工程、
複数のクリンカ原料を調合し、混合し、粉砕して焼成用原料を作製する原料系に、前記巻き出しクリンカ貯蔵工程で貯蔵されていた巻き出しクリンカを投入する巻き出しクリンカ投入工程、
前記原料系で、前記巻き出しクリンカおよび前記複数のクリンカ原料を含む焼成用原料を作製する焼成用原料作製工程、
プレヒータによって前記焼成用原料を予熱する予熱工程、および
前記予熱した焼成用原料をセメントキルンにより焼成し、セメントクリンカを作製するクリンカ焼成工程を含む巻き出しクリンカの処理方法。
【請求項2】
前記原料系は、原料粉砕機、石灰石を配合する石灰石調合部および石灰石以外の副原料を配合する副原料調合部を含み、
前記巻き出しクリンカ投入工程は、前記副原料調合部に前記巻き出しクリンカを投入する請求項1に記載の巻き出しクリンカの処理方法。
【請求項3】
前記巻き出しクリンカにおける塩素の含有率が600?6000ppmであり、前記巻き出しクリンカにおける硫黄の含有率が1.5?5.0質量%であり、前記巻き出しクリンカにおけるクロムの含有率が前記巻き出しクリンカの質量に対して250?2500ppmであり、前記セメントクリンカにおける塩素の含有率が前記セメントクリンカの質量に対して50?350ppmであり、前記セメントクリンカにおける硫黄の含有率が前記セメントクリンカの質量に対して0.8?1.0質量%であり、前記セメントクリンカにおけるクロムの含有率が前記セメントクリンカの質量に対して60?90ppmである請求項1または2に記載の巻き出しクリンカの処理方法。
【請求項4】
セメントキルンを休転したときに排出した巻き出しクリンカを貯蔵する巻き出しクリンカ貯蔵部、
複数のクリンカ原料を調合し、混合し、粉砕して焼成用原料を作製する原料系、
複数のサイクロンおよび仮焼炉によって焼成用原料を予熱するプレヒータ、および
前記予熱した焼成用原料を焼成し、セメントクリンカを作製するセメントキルンを含み、
前記巻き出しクリンカ貯蔵部に貯蔵された巻き出しクリンカは、前記原料系に投入され、
前記原料系は、前記巻き出しクリンカを含む焼成用原料を作製する巻き出しクリンカの処理システム。
【請求項5】
前記原料系は、原料粉砕機、石灰石を配合する石灰石調合部および石灰石以外の副原料を配合する副原料調合部を含み、
前記巻き出しクリンカ貯蔵部に貯蔵されていた巻き出しクリンカは、前記副原料調合部に投入される請求項4に記載の巻き出しクリンカの処理システム。
【請求項6】
前記巻き出しクリンカにおける塩素の含有率が600?6000ppmであり、前記巻き出しクリンカにおける硫黄の含有率が1.5?5.0質量%であり、前記巻き出しクリンカにおけるクロムの含有率が前記巻き出しクリンカの質量に対して250?2500ppmであり、前記セメントクリンカにおける塩素の含有率が前記セメントクリンカの質量に対して50?350ppmであり、前記セメントクリンカにおける硫黄の含有率が前記セメントクリンカの質量に対して0.8?1.0質量%であり、前記セメントクリンカにおけるクロムの含有率が前記セメントクリンカの質量に対して60?90ppmである請求項4または5に記載の巻き出しクリンカの処理システム。」

3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証?甲第7号証を提出し、本件発明1?6は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張している。

甲第1号証:特開2006-182638号公報
甲第2号証:セメント技術年報 XIII、昭和34年、第86頁?第90頁
甲第3号証:THOMAS MILLER, 'Characterization of Clinker Coatings in Rotary Cement Kilns', Conf. Rec. IEEE/PCA Cem. Ind. Tech. Conf. Vol.1981, Pages 258-271、及び抄訳
甲第4号証:CSRレポート2012、太平洋セメント株式会社、2012年9月、第43頁、第47頁
甲第5号証:環境報告書2005、住友大阪セメント株式会社、2005年10月、第17頁?第20頁
甲第6号証:セメントの常識、社団法人セメント協会、2009年12月、第3頁、第19頁、第20頁
甲第7号証:特開2007-290881号公報

4 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証について
甲第1号証には以下の記載がある。(なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は強調のために当審が付与したものである。以下同様。)

(甲1a)「【請求項1】
原料工程で混合した複数のセメント原料からなる調合原料を焼成工程で焼成して得られ、エーライトを含むセメントクリンカにおいて、
セメントクリンカ中の液相の温度より高い融点を有し、かつエーライトの生成の核となる物質または該エーライトの生成の核となる物質を含む核含有物を、前記焼成工程の以前に、セメント原料および調合原料のうち、少なくとも1つの中に混入し、その後、前記物質が混入された調合原料を焼成して得られたセメントクリンカ。
・・・
【請求項5】
原料工程で混合した調合原料を焼成工程で焼成し、エーライトを含むセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法において、
前記焼成工程の以前に、セメントクリンカ中の液相の温度より高い融点で、かつエーライトの生成の核となる物質を、セメント原料および調合原料のうち、少なくとも1つに混入するセメントクリンカの製造方法。
・・・
【請求項9】
前記焼成は、プレヒータ、仮焼炉およびロータリーキルンを有したクリンカ焼成設備により行われ、
該クリンカ焼成設備における前記物質の投入位置は、前記プレヒータ、仮焼炉、ロータリーキルンの窯前または窯尻のうち、少なくとも1箇所である請求項5?請求項8のうち、何れか1項に記載のセメントクリンカの製造方法。」

(甲1b)「【0008】
原料工程とはセメント製造プロセスの初期工程であって、石灰石、粘土、珪石、鉄原料などのセメント原料を原料ミルに投入し、これらの原料を混合しながら所定の粒度まで粉砕する。また、粉砕前の粘土類は、必要により粘土ドライヤなどで乾燥させる。
焼成工程では、調合原料がクリンカ焼成設備の主要機器であるキルンに投入され、その後、キルン内を徐々に下流に移動しながら、焼成帯で1450℃程度まで加熱される。その途中、調合原料は乾燥、脱水、分解などの過程を経ながら、焼成帯の近傍で調合原料中のライム(酸化カルシウム)、シリカ、アルミナなどが互いに再結合し、クリンカ組成化合物が生成される。その過程で液相が生成する。液相の生成温度(以下、液相温度)は1200?1300℃付近である。」

(甲1c)「【0012】
生成の核となる物質または核含有物質は、原料工程で予めセメント原料および調合原料のうち、少なくとも1つの中に混入してもよい。具体的には、この物質をセメント原料とともに原料ミルに投入したり、粘土ドライヤに投入してもよい。
・・・
核含有物としては、例えばセメントクリンカ、セメント、生石灰、耐火レンガの微粉末などを採用することができる。その場合、核含有物中において、エーライトの生成の核となる物質の成分比は限定されない。」

上記(甲1a)?(甲1c)の記載によれば、甲第1号証には、セメントクリンカの製造方法及び製造設備に関し、以下の発明が記載されていると認める。

「複数のセメント原料を原料ミルに投入し、これらの原料を混合しながら所定の粒度まで粉砕して調合原料を製造する原料工程、及び、原料工程で混合した調合原料をプレヒータ、仮焼炉およびロータリーキルンを有するクリンカ焼成設備により焼成する焼成工程を有するセメントクリンカの製造方法であって、
前記原料工程において、セメント原料の中に、セメントクリンカ中の液相の温度より高い融点で、かつエーライトの生成の核となる物質を混入する、セメントクリンカの製造方法。」(以下、「甲1発明A」という。)

「複数のセメント原料を混合しながら所定の粒度まで粉砕して調合原料を製造する原料ミル、調合原料を焼成するプレヒータ、仮焼炉およびロータリーキルンを有するクリンカ焼成設備を含む、セメントクリンカ製造設備であって、
セメント原料の中に、セメントクリンカ中の液相の温度より高い融点で、かつエーライトの生成の核となる物質を混入する、セメントクリンカ製造設備。」(以下、「甲1発明B」という。)

(2)甲第2号証について
甲第2号証には、以下の記載がある。

(甲2a)「キルンの操業に際して生産予定,能力,熱消費などの目的遂行上,しばしば異状生成したリングにより思わざる支障をきたすことがある。・・・大きな犠牲と知りつつ,キルン休止冷却後はぎとり整理する手段をとってきた工場が数多いと考えられる。」(第86頁左欄下から13行?右欄下から11行)

(甲2b)「リングの生成範囲はキルン型式などによって多分に異なるが,キルン出口から20?25m付近にいたるまで,ほぼ一様に付着を見るのが通例である。
冷却帯より焦点までのリングはよく焼結され,硬質ち密でクリンカーとほぼ同様な成分を示し,通常クリンカーリングあるいは単にコーチングと呼ばれている。この種のリングは焼成に際しては伝導効率を増し,能力,熱消費面での役割は大きい。また異常発達の恐れはほとんどない。
焼成帯入口付近よりカ焼帯にいたるリングは一般にケイ酸分多く熱間では軟質,粘着性に富み,表面平滑ないわゆるリング状を呈するが、ときにより峯状発達を来すことがある。リングは薄い層の累積で,冷間で硬化,強度を増して容易にリングとしての形態をくずさない。15?25mの範囲に生成することが多く,その発達にともなってドラフトは阻害され,燃焼状態の悪化を来たし,生産,熱消費,品質の面で,重大な結果を招くことになる。この種のリングはアッシュリング,または単にリングと呼んで,その迅速確実な除去方法に腐心していた。」(第87頁左欄第18?36行)

(甲2c)「間接操作で成果が認められなかった場合はキルンは休転を余儀なくされる。完全に冷却後バールではきとり整理を行なうのに最低15時間の休転は必要であり,特別な人員の手配として30工数を予定しなければならない。」(第87頁右欄第15?18行)

(甲2d)「筆者らは米国レミントン社製の工業用銃に着目し,31年10月購入して以来,運転中の間接操作と併用することによって良好な結果をえている。」(第87頁右欄第21?23行)

(甲2e)「脱落したリングの塊りは再点火後の加熱で小片になりクーラーおよび輸送機の故障の原因となることはほとんど考えられない。またクリンカー,煙道ダストの分析から,鉛弾がクリンカー品質に影響を及ぼさないことが認められている。」(第89頁右欄第5?9行)

(甲2f)「リング処理を目的とした運転中の間接操作と工業用銃による直接処理を併用することによって,3時間内外の休転で完全な処理が可能になり,休転時間の短縮に伴って生産減,熱損失が大幅に減少した。」(第89頁右欄第17?20行)

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、以下の記載がある(和訳は、申立人が提出した甲第3号証の抄訳を参考に作成した。)。

(甲3a)「The primary purpose of this work was to establish a procedure for the analysis and characterization of clinker coatings formed in rotary kilns.」(ABSTRACT)
(和訳)この研究の主な目的は、ロータリーキルンで形成されたクリンカーコーティングの分析と特性評価のための手順を確立することであった。

(甲3b)「Therefore, an ideal coating should be composed of the most refractory phases available, C_(3)S and C_(2)S, in order to withstand the operating temperatures within a cement kiln.」(第1頁第5段落第1?3行)
(和訳)それゆえに、理想的なコーティングは、セメントキルン内の動作温度に耐えるために、最も耐火性を有する利用可能な相である、C_(3)S及びC_(2)Sで構成されるべきである。

(甲3c)「The brick should ideally build a coating rapidly upon initial start-up by reacting with the burden in a manner not extremely corrosive to itself. It should maintain the coating throughout changing conditions within the kiln as well as subsequent start-ups and shutdowns. If the coating is lost or stripped, the brick should be able to withstand the operating conditions of the kiln and quickly build another coating.」(第1頁第6段落全体)
(和訳)レンガは、理想的には、初期起動時に、過度に腐食しないような負荷で反応することによって、コーティングを迅速に構築する。それは、その後の起動及び停止操作と同様にキルン内の変化する条件を通じて、コーティングを維持しなければならない。コーティングが失われたり剥がれたりすると、レンガはキルンの運転条件に耐え、すぐに別のコーティングを形成する。

(甲3d)「This work was undertaken to more fully understand the nature of coating; to characterize its physical as well as chemical properties.」(第2頁第2段落第1?2行)
(和訳)この研究は、コーティングの性質、すなわち、その物理的性質および化学的性質を解析し、より十分に理解するために行われた。

(甲3e)「Prior to microscopic examination, each sample was chemically analyzed with a Perkin-Elmer 603 Atomic Absorption unit for major oxides, alkalies, and sulfates. The data is tabulated in Table I. As may be expected, the chemistries are very similar to clinker chemistries although it is interesting to note the relatively low levels of alkalies and sulfates.」(第2頁第4段落第1?5行)
(和訳)顕微鏡検査の前に、原子吸光分析装置(Perkin-Elmer 603)を用いて、各試料の主要な酸化物、アルカリ及び硫酸塩を化学分析した。データは表1にまとめられている。予想されたとおり、化学物質はクリンカーの化学物質と非常に類似しているが、比較的低いレベルのアルカリ及び硫酸塩に注目することは興味深い。

(甲3f)「The alite in most of the samples examined was the dominant crystalline phase found. It was generally formed into continuous networks of large well defined crystals. From material presented in the literature [2], the alite in coating appears very similar to that in well burnt clinker. This is not surprising since coatings normally have rather long residence times in kilns and are able to grow due to cannibalism of the smaller crystalline species.」(第6頁第4段落第1?7行)
(和訳)調査されたサンプルの大部分では、エーライトが支配的な結晶相であった。それは一般的に、大きく十分に明瞭な結晶の連続的なネットワーク内に形成されていた。文献[2]に示されている物質から、コーティング中のエーライトは、「よく焼けた」クリンカーのエーライトと非常によく似ていると思われる。コーティングは、通常、キルン中にかなり長い滞留時間を有し、小さな結晶粒の「共食い」によって成長できることから、このことは驚くべきことではない。

5 当審の判断
(1)本件発明1?3について
本件発明1と甲1発明Aを対比する。
甲1発明Aにおける「セメント原料」、「調合原料」、「ロータリーキルン」及び「原料工程」は、それぞれ、本件発明1の「クリンカ原料」、「焼成用原料」、「セメントキルン」及び「焼成用原料作成工程」に相当する。また、甲1発明Aの「原料ミル」は、「原料工程」を構成する装置の一つであるから、本件発明1の「原料系」に相当する。また、甲1発明Aの「焼成工程」のうちプレヒータ及び仮焼炉による処理は、本件発明1の「予熱工程」に相当し、ロータリーキルンによる処理は、本件発明1の「クリンカ焼成工程」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明Aの一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「複数のクリンカ原料を調合し、混合し、粉砕して焼成用原料を作製する原料系で、前記複数のクリンカ原料を含む焼成用原料を作製する焼成用原料作製工程、プレヒータによって前記焼成用原料を予熱する予熱工程、および前記予熱した焼成用原料をセメントキルンにより焼成し、セメントクリンカを作製するクリンカ焼成工程を含む方法。」

(相違点1)
本件発明1は、セメントキルンを休転したときに排出した巻き出しクリンカを貯蔵する巻き出しクリンカ貯蔵工程、及び、前記巻き出しクリンカ貯蔵工程で貯蔵されていた巻き出しクリンカを原料系に投入する巻き出しクリンカ投入工程を有するのに対し、甲1発明Aは、セメントクリンカ中の液相の温度より高い融点で、かつエーライトの生成の核となる物質を原料工程で混入する工程を有する点。

上記相違点1について検討する。
本件特許明細書の「セメントキルンの内面に形成されたコーチングは、セメントキルン内の原料の移動や、バーナにより発生する高熱ガスの流れを妨げる。このため、一定期間ごとにセメントキルンを停止させて、コーチングを除去する必要がある・・・。コーチングを除去するときに排出されるのは、コーチングの他に、セメントキルンに残っているクリンカである。セメントキルンを休転したときに排出されるこれらのものは、巻き出しクリンカと呼ばれている。」(段落【0002】)の記載から、本件発明1における「巻き出しクリンカ」とは、セメントキルンを休転したときに排出される、キルン内面のコーチングや、セメントキルンに残っているクリンカ等の物質を意味すると認められるが、甲第1号証には、そもそもセメントキルンを休転することについて、記載も示唆もない。
次に、甲第2号証(上記(甲2b)を参照)には、キルン内面にはセメントクリンカとほぼ同様な成分を示すコーチング(クリンカーリング)が生成することが記載されているが、当該コーチングは、焼成に際して伝熱効率を増すことから能力、熱消費面での役割が大きく、異常発達の恐れもないことが記載されており、当該コーチングを除去すべきとの記載はないから、甲第2号証には、セメントクリンカとほぼ同様な成分を示すコーチングをキルンから除去して巻き出しクリンカとすることは記載されていない。
なお、甲第2号証(上記(甲2a)?(甲2f)を参照)には、キルン内面に異状生成するアッシュリングを工業用銃を用いた射撃により脱落させること、脱落したアッシュリングは再点火後の加熱で小片になることが記載されているが、「鉛弾がクリンカー品質に影響を及ぼさない」(上記(甲2e)を参照)との記載からみて、小片化されたアッシュリングは、新たなセメント原料とともにキルン内で焼成されてセメントクリンカ製品とされるものと認められるから、甲第2号証には、キルン内面に生成する物質を巻き出しクリンカとして別途取り出すことが記載されているとはいえない。
また、甲第3号証(上記(甲3a)?(甲3e)を参照)には、キルン内面に形成されるコーティングは、エーライトを支配的な結晶相として含み、当該エーライトは焼成されたクリンカのエーライトと非常によく似ていることが記載されているが、当該コーティングは、ロータリーキルン内の条件が変化しても維持すべきものとされており(上記(甲3c)を参照)、これを積極的に除去することの記載や示唆はない。
すなわち、甲第3号証にも、焼成されたセメントクリンカと同様な成分を示すキルン内面のコーティングを剥ぎ取って巻き出しクリンカとすることが、そもそも記載されていない。
そして、甲第4号証?甲第7号証には、セメントキルンを休転することやコーチング等の物質についての記載はない。
そうすると、甲第1号証?甲第7号証には、セメントキルンを休転したときに巻き出しクリンカが排出されることが記載されていない。
したがって、甲1発明Aにおいて上記相違点1を解消することは、当業者が容易になし得たことではないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2及び本件発明3についても同様である。

(2)本件発明4?6について
本件発明1と甲1発明Bを対比すると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「複数のクリンカ原料を調合し、混合し、粉砕して焼成用原料を作製する原料系、複数のサイクロンおよび仮焼炉によって焼成用原料を予熱するプレヒータ、および前記予熱した焼成用原料を焼成し、セメントクリンカを作製するセメントキルンを含み、前記原料系は、焼成用原料を作製する、システム。」

(相違点1’)
本件発明4は、セメントキルンを休転したときに排出した巻き出しクリンカを貯蔵する巻き出しクリンカ貯蔵部を有し、巻き出しクリンカ貯蔵部に貯蔵された巻き出しクリンカを原料系に投入して、巻き出しクリンカを含む焼成用原料を作製するのに対し、甲1発明Bは、セメントクリンカ中の液相の温度より高い融点で、かつエーライトの生成の核となる物質を原料系に投入するものである点。

(相違点2)
本件発明4のプレヒータは、複数のサイクロンを有するのに対し、甲1発明Bのプレヒータは、複数のサイクロンを有するものであるか否か不明である点。

そして、上記相違点1’は、上記(1)において検討した相違点1と実質的に同じ内容であるから、甲1発明Bにおいて上記相違点1’を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、本件発明4は、他の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件発明4を引用し、本件発明4の発明特定事項を全て有する本件発明5及び本件発明6についても同様である。

(3)小括
したがって、申立人が主張する申立理由には理由がない。

6 むすび
上記のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-25 
出願番号 特願2015-25794(P2015-25794)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 橋本 憲一郎
後藤 政博
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6344253号(P6344253)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 巻き出しクリンカの処理方法および巻き出しクリンカの処理システム  
代理人 大谷 保  

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