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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:なし  H05B
管理番号 1349705
異議申立番号 異議2018-700211  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-09 
確定日 2019-02-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6196995号発明「有機半導体素子用の液状組成物の保管方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6196995号の請求項1-11に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6196995号の請求項1-請求項11に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」-「本件特許11」といい、総称して「本件特許」という。)についての特許出願は、平成23年1月11日(優先権主張 平成22年1月15日)に出願された特願2011-3071号の一部を、平成27年4月3日に新たな出願としたものであって、平成29年8月25日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について平成29年9月13日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である平成30年3月9日に、特許異議申立人 森川 真帆から特許異議の申立がされた(異議2018-700211号)。
その後、平成30年5月31日付けで取消理由が通知され、平成30年8月3日に意見書が提出され、平成30年8月30日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年11月6日に特許権者から意見書の提出がなされたものである。

第2 本件発明
特許第6196995号の請求項1-11に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

「【請求項1】
内部に保管対象物を保管するための空間であるキャビティを規定し、かつ、該キャビティと容器外部とを連通させるための開口部を規定する開口端部を有する、容器本体と、該容器本体の開口部を覆うパッキンと、蓋とを有する保管容器の内部に、1気圧、25℃において固体である有機半導体素子形成用有機化合物と、1気圧、25℃において液体である有機溶媒とを含む有機半導体素子用液状組成物を保管する工程を包含する、有機半導体素子用液状組成物の保管方法であって、
該容器本体が、該有機溶媒及び該有機化合物に対して化学的に作用しない材料から形成された内壁を有し、
容器本体にパッキンと蓋とを装着して密閉状態にする際に、容器本体の開口部を覆い、開口端部に接する該パッキンの表面が、フッ素原子を有する樹脂を含む材料から成り、
該有機半導体素子用液状組成物が三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体又は白金錯体を含むものであり、
800nm以下の波長を遮光して前記液状組成物を保管する有機半導体素子用液状組成物の保管方法。
【請求項2】
前記有機半導体素子用液状組成物がドーパントとして三重項励起状態からの発光を有する金属錯体を含むものである、請求項1に記載の有機半導体素子用液状組成物の保管方法。
【請求項3】
前記容器本体の内壁を形成している材料がガラスである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機化合物が高分子化合物である請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、炭素、水素、酸素及び窒素からなる群から選ばれる2種以上の元素からなる化合物である請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機化合物が、前記液状組成物の全重量に対して0.01重量%以上、5.0重量%以下の割合で前記液状組成物に含まれる請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素原子を有する樹脂がポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体から成る群から選択される少なくともひとつである請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
0℃以上、50℃以下の温度で前記液状組成物を保管する請求項1?7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
不活性ガスを含む雰囲気下で前記液状組成物を保管する請求項1?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記有機化合物が、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層を形成するために用いる有機化合物である請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
内部に保管対象物を保管するための空間であるキャビティを規定し、かつ、該キャビティと容器外部とを連通させるための開口部を規定する開口端部を有する、容器本体と、該容器本体の開口部を覆うパッキンと、蓋とを有する保管容器の内部に、1気圧、25℃において固体である有機半導体素子形成用有機化合物と、1気圧、25℃において液体である有機溶媒とを含む有機半導体素子用液状組成物を保管する、有機半導体素子用液状組成物の保管容器であって、
該容器本体が、該有機溶媒及び該有機化合物に対して化学的に作用しない材料から形成された内壁を有し、
容器本体にパッキンと蓋とを装着して密閉状態にする際に、容器本体の開口部を覆い、開口端部に接する該パッキンの表面が、フッ素原子を有する樹脂を含む材料から成り、
該有機半導体素子用液状組成物が三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体又は白金錯体を含むものであり、
800nm以下の波長を遮光する、
有機半導体素子用液状組成物の保管容器。」

第3 引用文献の記載
特許異議申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2009-149617号公報
甲第2号証:特開2009-227663号公報
甲第3号証:特開2006-257409号公報
甲第4号証:特表2005-500652号公報
甲第5号証:特開2005-324165号公報
甲第6号証:柴田科学株式会社のパンフレット「ねじ口びんシリーズ」、表紙(第1頁)-最終頁(第20頁)
甲第7号証:関谷理化株式会社の商品紹介「商品コード:21-426-030 デュラン瓶用パッキン 赤キャップGL-45用」
http://www.sekiyarika.com/bis/products/detail627.html
甲第8号証:関谷理化株式会社の商品紹介「商品コード:21-421-030 デュラン瓶用パッキン 赤キャップGL-45」
http://www.sekiyarika.com/bis/products/detail614.html
甲第9号証:関谷理化株式会社の商品紹介「商品コード:21-430-010 デュラン プレミアムキャップ パッキンン付」
http://www.sekiyarika.com/bis/products/detail651.html

1 甲第1号証の記載事項及び甲1発明
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲第1号証に記載された発明の認定に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノキサリン骨格を含有する金属錯体、およびこの金属錯体を含む組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発光素子などに用いる発光材料や電荷輸送性材料として様々な金属錯体が研究されており、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)発光素子の発光層に用いる発光材料として三重項励起状態からの発光を示す金属錯体が検討されている。APPLIED PHYSICS LETTERS,vol.75,No.1,pp.4-6(1999)(非特許文献1)には、中心金属としてIrを用いたオルトメタル化錯体が高発光効率を示すことが開示されている。
【0003】
また、赤色に発光するイリジウム錯体を共役系高分子にドープしたEL素子として、Thin Solid Films,499,359-363(2006)(非特許文献2)には、フェニルイソキノリンを配位子とするイリジウム錯体をポリフルオレンにドープしたEL発光素子が開示されている。国際公開第03/040256号パンフレット(特許文献1)には、ピロリルピリジン、ピロリルイソキノリンまたはフェニルイソキノリンを配位子とするイリジウム錯体およびこのイリジウム錯体を用いた発光素子が開示されている。特開2005-314414号公報(特許文献2)には、ピラジン骨格を含有する有機金属錯体およびこの有機金属錯体を用いた発光素子が開示されている。
【0004】
しかしながら、未だ、発光効率や光電効率、素子寿命について実用的に満足できる赤色発光素子は得られていなかった。
【特許文献1】国際公開第03/040256号パンフレット
【特許文献2】特開2005-314414号公報
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS、vol.75,No.1,pp.4-6(1999)
【非特許文献2】Thin Solid Films,499,359-363(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、良好な発光特性または光電特性を有し且つ寿命特性に優れた素子を得ることができる組成物、およびこれに用いる金属錯体を提供することを目的とする。」
イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0032】
<金属錯体>
先ず、本発明の金属錯体について説明する。本発明の金属錯体は、下記式(1):
【0033】
【化5】


【0034】
で表される部分構造を含有するものであり、ピロロキノキサリン骨格と環構造とを含有することを特徴とするものである。このようなピロロキノキサリン骨格と環構造とを含有する金属錯体を素子材料に使用すると寿命特性に優れた素子を得ることができる。
【0035】
前記式(1)中、Mは遷移金属原子を表す。具体的には、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、およびランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLu)などが挙げられる。これらの遷移金属原子のうち、発光効率または光電効率が高いという観点から、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt、およびAuが好ましく、Re、Os、Ir、およびPtがさらに好ましい。」

ウ 「【0097】
<組成物>
次に、本発明の組成物について説明する。なお、この組成物は、通常、材料として用いられる。
【0098】
(第一の組成物)
本発明の第一の組成物は、前記式(1)で表される部分構造を含有する金属錯体を含むことを特徴とするものであり、さらに電荷輸送性材料(以下、「第一の電荷輸送性材料」という。)を含有することが好ましい。前記金属錯体は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記式(1)で表される部分構造を含有する金属錯体を用いることによって、寿命特性に優れた素子を得ることができる。
【0099】
前記第一の組成物中の前記金属錯体の含有量は、前記第一の電荷輸送性材料100質量部に対して0.01?80質量部であることが好ましく、0.1?60質量部であることがより好ましい。前記金属錯体の含有量が上記下限未満になると前記金属錯体から十分な強さの発光が得られにくい傾向にあり、他方、上記上限を超えると前記金属錯体からの発光強度が弱くなったり、薄膜形成時に均質な膜を形成しにくい傾向にある。
【0100】
前記第一の電荷輸送性材料としては正孔輸送材料および電子輸送材料が挙げられる。前記正孔輸送材料としては、フルオレンおよびその誘導体、芳香族アミンおよびその誘導体、カルバゾール誘導体、およびポリパラフェニレン誘導体など、有機EL素子の正孔輸送材料として使用される公知のもの使用することができる。また、前記電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンおよびその誘導体、ジフェノキノン誘導体、ならびに8-ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体など、有機EL素子の電子輸送材料として使用される公知のもの使用することができる。
【0101】
このような第一の電荷輸送性材料は、低分子有機化合物、高分子、またはオリゴマーのいずれであってもよい。また、前記第一の電荷輸送性材料が高分子またはオリゴマーの場合には、高分子またはオリゴマーは共役系のものであることが好ましい。
【0102】
前記低分子化合物としては、低分子有機EL素子に用いられるホスト化合物、電荷注入輸送化合物が挙げられ、例えば「有機ELディスプレイ」(時任静士、安達千波矢、村田英幸 共著、オーム社)、107頁、月刊ティスプレイ、vol9、No9、2003年、26-30頁;特開2004-244400号公報;特開2004-277377号公報などに記載の化合物が挙げられる。
【0103】
前記高分子およびオリゴマー(以下、「第一の高分子」および「第一のオリゴマー」という。)のうち、非共役系のものとしてはポリビニルカルバゾールが挙げられる。また、共役系の高分子およびオリゴマー(以下、「第一の共役系高分子」および「第一の共役系オリゴマー」という。)としては、芳香環を主鎖に含むもの、ならびに酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、リン原子、ホウ素原子、硫黄原子、セレン原子、およびテルル原子からなる群から選ばれる少なくとも1つの原子を含有する2価の複素環基を主鎖に含むものが挙げられる。前記第一の共役系高分子およびオリゴマーの繰り返し単位としては、例えば、ベンゼン類、ピリジン類、ピリミジン類、ナフタレン類、カルバゾール類、フルオレン類、ジベンゾチオフェン類、ジベンゾフラン類、またはジベンゾシロール類から誘導される2価の基が挙げられる。
【0104】
前記繰り返し単位は置換基を有していてもよい。前記置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、イミン残基、アミド基、酸イミド基、1価の複素環基、カルボキシ基、置換カルボキシ基およびシアノ基などが挙げられる。前記繰り返し単位が複数の置換基を有する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。また、前記第一の高分子およびオリゴマーは単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0105】
これらの第一の高分子およびオリゴマーのうち、本発明の金属錯体と組み合わせることによって適切な電圧および電流で発光素子を駆動でき、また、高発光効率、長寿命を実現できる観点から、置換基を有していてもよいフェニレン基および/または下記式(2):
【0106】
【化17】


【0107】
で表される部分構造を含有するものが好ましい。」

エ 「【0157】
<液状組成物>
本発明の組成物は、溶媒に添加して液状組成物(一般的には、インク、インク組成物、溶液などともいう。)を調製することによって容易に取り扱うことができ、高分子発光素子などの発光素子や有機トランジスタの作製の際に有用となる。なお、液状とは、常圧(即ち、1気圧)、25℃において液状であることを意味する。
【0158】
前記液状組成物中の溶媒の割合は、液状組成物の全質量に対して1?99.9質量%であることが好ましく、60?99.9質量%であることがより好ましく、90?99.8質量%であることが特に好ましい。
【0159】
前記液状組成物の粘度はその用途によって異なるが、例えば、25℃において0.5?500mPa・sであることが好ましく、インクジェットプリント法などの吐出装置を使用する方法で使用する場合には、吐出時の目づまりや飛行曲がりを防止するために粘度が25℃において0.5?20mPa・sであることが好ましい。
【0160】
前記液状組成物において、液状組成物から溶媒を除いた全成分の合計量に対する本発明の組成物の割合は、20?100質量%であることが好ましく、40?100質量%であることがより好ましい。
【0161】
前記溶媒としては、前記液状組成物中の溶媒以外の成分を溶解または分散できるものであればよい。例えば、クロロホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-へプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルベンゾエート、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2-ヘキサンジオールなどの多価アルコールおよびその誘導体、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、およびN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒が挙げられる。
【0162】
前記溶媒のうち、液状組成物中の溶媒以外の成分の溶解性、成膜時の均一性、粘度特性など観点から、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、およびケトン系溶媒が好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メシチレン、n-プロピルベンゼン、i-プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、i-ブチルベンゼン、s-ブチルベンゼン、アニソール、エトキシベンゼン、1-メチルナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロヘキシルベンゼン、ビシクロヘキシル、シクロヘキセニルシクロヘキサノン、n-ヘプチルシクロヘキサン、n-ヘキシルシクロヘキサン、メチルベンゾエート、2-プロピルシクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、ジシクロヘキシルケトンが好ましく、キシレン、アニソール、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、およびビシクロヘキシルメチルベンゾエートがより好ましい。特に、粘度、成膜性透などの観点から、ベンゼン環を含み、かつ融点が0℃以下、沸点が100℃以上である有機溶媒が好ましい。
【0163】
前記溶媒は、前記液状組成物に含まれる溶媒以外の成分の溶解性の観点から、溶媒の溶解度パラメータと本発明の組成物の溶解度パラメータとの差が10以下であるものが好ましく、7以下であるものがより好ましい。これらの溶解度パラメータは、「溶剤ハンドブック(講談社刊、1976年)」に記載の方法で求めることができる。
【0164】
前記溶媒は、1種単独で用いてもよいが、成膜性や素子特性などの観点から、2種以上を併用することが好ましく、2?3種類を併用することがより好ましく、2種類を併用することが特に好ましい。」

オ 「【実施例】
【0230】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、高分子(P-1)は以下の方法により合成した。
【0231】
(合成例1)
9,9-ジオクチル-2,7-ジブロモフルオレン(439mg)、下記式:
【0232】
【化23】


【0233】
で表される臭素化合物(148mg)、および2,2’-ビピリジン(422mg)を反応容器に仕込んだ後、反応系内を窒素ガスで置換した。これに、脱水溶媒として予めアルゴンガスでバブリングして脱気したテトラヒドロフラン(THF)(72ml)を添加した。次いで、この混合溶液に、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(COD)_(2))(743mg)を添加し、窒素ガス雰囲気下、60℃で3時間攪拌して合成反応を実施した。
【0234】
反応終了後、この溶液を冷却し、次いで、25質量%のアンモニア水(3.6ml)とメタノール(72ml)とイオン交換水(72ml)とからなる混合溶液を注ぎ、約1時間攪拌した。これにより生成した沈殿物をろ過により回収した。この沈殿物を減圧乾燥した後、トルエン(300ml)に溶解した。得られた溶液をろ過して不純物を除去した後、アルミナを充填したカラムに通して精製した。
【0235】
次に、精製した溶液を5.2質量%の塩酸水で洗浄した後、分液して得られたトルエン相を4質量%のアンモニア水で洗浄した。さらに洗浄後の溶液を分液し、得られたトルエン相をイオン交換水で洗浄した後、分液してトルエン相を回収した。このトルエン溶液に攪拌しながらメタノールを注ぎ、再沈精製した。沈殿物を回収し、メタノールで洗浄した後、沈殿物を減圧乾燥して下記式:
【0236】
【化24】

【0237】
(式中、*は結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位(p1)および(p2)をp1:p2=80:20のモル比で含有する高分子(P-1)290mgを得た。この高分子(P-1)の標準ポリスチレン換算の数平均分子量Mnは2.2×10^(4)であり、重量平均分子量Mwは2.5×10^(5)であった。」

カ 「【0238】
(実施例1)
・・・(中略)・・・
【0253】
(2)金属錯体(Ir-2)の合成
次に、金属錯体(Ir-2)を下記反応式に沿って合成した。
【0254】
【化26】


【0255】
反応容器に前記配位子(L-1)(1.17g(2.0mmol))、塩化イリジウム三水和物(319mg(0.91mmol))、2-エトキシエタノール(7.5mL)および水(2.5mL)を量り取り、窒素気流下、140℃で9時間加熱した。空冷後、得られた反応物を濾別し、水、メタノール、ヘキサンの順で洗浄することにより、金属錯体(Ir-1)(1.22g(0.44mmol))を得た。
【0256】
反応容器に金属錯体(Ir-1)(837mg(0.30mmol))、前記配位子(L-1)(1.05g(1.8mmol))、トリフルオロメタンスルホン酸銀(154mg(0.60mmol))およびジグライム(6mL)を量り取り、窒素気流下、140℃で20時間撹拌した。反応溶液に水(50mL)を加え、生じた沈殿を濾別回収した。この沈殿をメタノールで洗浄した後、塩化メチレンで抽出した。この抽出液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで2回精製(1回目の溶離液:塩化メチレン、2回目の溶離液:トルエン)した。溶媒を留去し、残渣をトルエン/ジエチルエーテル溶媒を用いて結晶化させた。生じた結晶を濾別回収することにより金属錯体(Ir-2)(185mg(0.095mmol))を得た。」

キ 「【0260】
(実施例2)
(1)発光材料の調製
キシレンに、合成例1で得た高分子(P-1)と実施例1で得た金属錯体(Ir-2)とを、質量比((P-1):(Ir-2))=95:5で添加し、前記高分子(P-1)と前記金属錯体(Ir-2)とからなる発光材料のキシレン溶液(濃度1.4質量%)を調製した。
【0261】
(2)インターレイヤー材料の調製
キシレンに、9,9-ジオクチルフルオレン単位とN-(4-sec-ブチルフェニル)ジフェニルアミン単位からなる共重合体(サメイション(株)製。以下、「TFB」と略す。)を添加し、インターレイヤー材料TFBのキシレン溶液(濃度0.5質量%)を調製した。
【0262】
(3)EL素子の作製
スパッタ法により厚み150nmのITO膜を形成したガラス基板のITO膜表面に、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(バイエル社製、商品名「BaytronP」)を乾燥後の膜厚が50nmとなるようにスピンコーティングして成膜し、ホットプレート上で200℃で10分間乾燥した。次に、この膜の上に、前記TFBのキシレン溶液を回転速度2000rpmでスピンコーティングして成膜し、窒素ガス雰囲気下、180℃で15分間乾燥した。
【0263】
この基板を室温まで冷却したのち、TFB膜上に、前記発光材料のキシレン溶液を回転速度1000rpmでスピンコーティングして成膜した。前記発光材料からなる塗膜の膜厚は約100nmであった。これを窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥した後、陰極としてバリウムを約5nmの厚みで蒸着し、次いでアルミニウムを約80nmの厚みで蒸着して、EL素子を作製した。なお、前記蒸着処理の際、真空度が1×10^(-4)Pa以下に到達した時点で金属の蒸着を開始した。得られたEL素子に電圧を印加して645nmにピークを有する赤色のEL発光が得られることを確認した。また、このEL素子の最大輝度は2669cd/m^(2)であった。
【0264】
さらに、このEL素子を340cd/m^(2)の初期輝度で定電流駆動を一定時間施したところ、輝度が前記初期輝度の80%になるまでの時間は130時間であった。」

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)より、甲第1号証には、実施例2に関連して、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「 キシレンに、高分子(P-1)と金属錯体(Ir-2)とを、質量比((P-1):(Ir-2))=95:5で添加して調製した、高分子(P-1)と金属錯体(Ir-2)とからなる発光材料のキシレン溶液(濃度1.4質量%)。」
(当合議体注: 「高分子(P-1)」及び「金属錯体(Ir-2)」の化学式は、それぞれ以下の式1及び式2のとおりである。
【式1】

(式中、*は結合部位を表し、繰り返し単位(p1)および(p2)をp1:p2=80:20のモル比で含有)
【式2】


)

2 甲第2号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。

「【0138】
[7]有機電界発光素子用組成物の保存方法
本発明の有機電界発光素子用組成物は、紫外線の透過を防ぐことのできる容器、例えば、褐色ガラス瓶等に充填し、密栓して保管することが好ましい。保管温度は、通常-30℃以上、好ましくは0℃以上で、通常35℃以下、好ましくは25℃以下である。」

3 甲第3号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。

「【0194】
〈有機電界発光素子用組成物の保存方法〉
本発明の有機電界発光素子用組成物は、紫外線の透過を防ぐことのできる容器、例えば、褐色ガラス瓶等に充填し、密栓して保管することが好ましい。保管温度は、通常-30℃以上、好ましくは0℃以上で、通常35℃以下、好ましくは25℃以下である。」

4 甲第4号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。

「【0135】
実施例3:転写層の溶液の調製
以下の溶液を調製した。
(a)コビオングリーン(Covion green)
ドイツ、フランクフルトのコビオンオーガニックセミコンダクターズGmbH製のコビオングリーンPPVポリマーHB 1270(100mg)を、PTFEキャップを有するコハクガラス瓶中に秤量した。これに、トルエン(ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチケミカル(Aldrich Chemical,Milwaukee,WI)から得られたHPLC銘柄)9.9gを添加した。前記溶液を保有するガラス瓶を、60分間、75℃のシリコーン油槽中に置いた。高温の溶液を、0.45μmのポリプロピレン(PP)シリンジフィルターを通して濾過した。
(b)コビオンスーパーイエロー(Covion super yellow)コビオンPDY 132「スーパーイエロー」(75mg)を、PTFEキャップを有するコハクガラス瓶中に秤量した。これにトルエン(アルドリッチケミカルから得られたHPLC銘柄)9.925gを添加し、撹拌棒で撹拌した。溶液を一晩、撹拌した。溶液を、5μmのミリポアミレックスシリンジフィルターを通して濾過した。
(c)mTDATA
容器中に100mgのmTDATA(フロリダ州、ジュピターのH. W.サンズコーポレーション製のOSA 3939)を秤量した。これにトルエン(ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチケミカルから得られたHPLC銘柄)3.9gを添加した。溶液を、25分間、シリコーン油槽中で撹拌しながら75℃に加熱した。高温の溶液を、ワットマンピュラディスク(Whatman Puradisc)TM0.45μmのポリプロピレン(PP)フィルターを通して濾過した。
(d)t-ブチルPBD
容器中に100mgのt-ブチルPBD(2-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-(1,1-ジメチルエチル)フェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチケミカルカンパニー製)を秤量した。これにトルエン(アルドリッチケミカルから得られたHPLC銘柄)3.9gを添加した。溶液を、25分間、撹拌し、ワットマンピュラディスク(Whatman Puradisc)TM0.45μmのポリプロピレン(PP)フィルターを通して濾過した。」

5 甲第5号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。

(1)「【0003】
前述のように、有機EL素子形成用のインクジェット装置は、従来の紙に印字するタイプのインクジェット装置と基本的な構造は同じである。しかし、従来のインクジェット装置をそのまま転用すると、得られる有機EL素子の発光特性が不均一になったり、十分な発光輝度が得られない等の問題があることがわかってきた。この原因は、インクの流路、特に、インクが長期間保存されるインクパックの材質が、有機EL素子形成用に最適化されていないことにある。つまり、紙に印字するタイプのものでは、インクの溶媒に水系の溶媒が使用されており、これに合わせて、インクパックのインクに接する面(接液面)には、係る溶媒に対して化学的に安定なポリエチレン樹脂等が使用されている。しかし、有機EL素子の高分子有機発光層を形成するためのインクには、シクロへキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族化合物からなる有機溶媒(芳香族有機溶媒)が使用されるため、このインクに対して従来のインクパックを適用すると、接液面であるポリエチレン樹脂等が腐食され、膨潤等を生じることがある。また従来のインクパックでは、このポリエチレン樹脂等に酸化防止剤,滑剤,安定剤,紫外線防止剤,アンチブロッキング剤等の各種添加材を含ませているため、腐食によってこれらの添加剤がインク中に溶出し、有機EL素子の特性を劣化させることもある。」

(2)「【0028】
本実施形態では、この栓体50においてインクに接触する部材、例えば可動体50bをインクに対して耐食性の高い材料によって形成している。例えば、使用するインクが芳香族有機溶媒を含むインクからなる場合には、可動体50bはフッ素ゴムやフロロシリコーンゴム等のフッ素系エラストマーによって形成される。なお、このような耐食性の高い材料は少なくともインクとの接液面に形成されていればよく、例えば、可動体50bが多層構造を有する場合には、これらのうち最も外側(インクと接触する側)の層が上述の材料によって形成されていればよい。」

6 甲第6号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。なお、甲第2号証の最終頁には「このカタログに掲載の価格および仕様、外観は2009年4月のものです。」との記載がある。

(1)「


(2)「



(3)「



(4)「



(5)「



7 甲第7号証の記載事項
甲第7号証は、以下のものである。なお、甲第7号証の詳細表の下には、「※上記の価格情報は2009年に作成された物です。」との記載がある。





8 甲第8号証の記載事項
甲第8号証は、以下のものである。なお、甲第8号証の詳細表の下には、「※上記の価格情報は2009年に作成された物です。」との記載がある。





9 甲第9号証の記載事項
甲第9号証は、以下のものである。なお、甲第9号証の詳細表の下には、「※上記の価格情報は2009年に作成された物です。」との記載がある。





第4 判断
1 本件特許発明1
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 有機半導体素子形成用組成物、有機溶媒
甲1発明の「高分子(P-1)」及び「金属錯体(Ir-2)」は、技術的にみて、いずれも本件特許発明1の「1気圧、25℃において固体である有機半導体素子形成用有機化合物」に相当する。
また、甲1発明の「キシレン」は、技術的にみて、「1気圧、25℃において液体である有機溶媒」に相当する。

イ 有機半導体素子用組成物
甲1発明の「発光材料のキシレン溶液」は、甲第1号証の【0005】や【0263】の記載からみて、本件特許発明1の「有機半導体素子用組成物」に相当する。

ウ イリジウム錯体
甲1発明の「金属錯体(Ir-2)」は、その化学式及び【0263】の記載からみて、本件特許発明1の「三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体」に相当する。

エ 保管方法
複数の有機半導体素子形成用組成物を製造する工程と、これら複数の組成物を積層して有機半導体素子を製造する工程とは、連続的に行うのではなく、それぞれを別の製造設備で行うことは通常のことである。そうしてみると、甲1発明の「発光材料のキシレン溶液」は使用前に保管されるものということができるから、当業者は、甲1発明とともに、甲1発明の「発光材料のキシレン溶液」の保管方法の発明をも理解することができる。そして、当該保管方法の発明は、本件特許発明1の「保管方法」という要件を満たすものと認められる。

(2)一致点及び相違点
ア 以上のことから、本件特許発明1と甲1発明(の保管方法)は、次の構成で一致する。
【一致点】
「 1気圧、25℃において固体である有機半導体素子形成用有機化合物と、1気圧、25℃において液体である有機溶媒とを含む有機半導体素子用液状組成物であって、該有機半導体素子用液状組成物が三重項励起状態からの発光を有するイリジウム錯体又は白金錯体を含むものである、有機半導体素子用液状組成物の保管方法。」

イ 本件特許発明1と甲1発明は、次の点で相違する。
【相違点1】
本件特許発明1は、「内部に保管対象物を保管するための空間であるキャビティを規定し、かつ、該キャビティと容器外部とを連通させるための開口部を規定する開口端部を有する、容器本体と、該容器本体の開口部を覆うパッキンと、蓋とを有する保管容器の内部に」、「有機半導体素子形成用有機化合物と」、「有機溶媒とを含む有機半導体素子用液状組成物を保管する工程を包含する、有機半導体素子用液状組成物の保管方法であって、 該容器本体が、該有機溶媒及び該有機化合物に対して化学的に作用しない材料から形成された内壁を有し、容器本体にパッキンと蓋とを装着して密閉状態にする際に、容器本体の開口部を覆い、開口端部に接する該パッキンの表面が、フッ素原子を有する樹脂を含む材料から成」るのに対して、甲1発明はこのような構成であることを特定していない点。
【相違点2】
本件特許発明1は、「800nm以下の波長を遮光して前記液状組成物を保管する」のに対して、甲1発明はこのような構成であることを特定していない点。

(3)判断
以下、相違点1及び2について検討する。

ア 相違点1について
甲第2号証の【0138】及び甲第3号証の【0194】には、それぞれ、有機電界発光用組成物を褐色ガラス瓶に充填し密栓して保管することが記載されており、この「褐色ガラス瓶」は、本件特許発明1の「内部に保管対象物を保管するための空間であるキャビティを規定し、かつ、該キャビティと容器外部とを連通させるための開口部を規定する開口端部を有する、容器本体」に相当し、容器本体の開口部を覆う蓋を有するものと認められる。
そして、保管容器の気密性を高めるためにパッキンを用いることは広範な技術分野における周知慣用の技術的事項であるところ、甲第6号証-甲第9号証には表面がポリテトラフルオロエチレンでコーティングされた瓶のパッキンが記載されていることから、表面がポリテトラフルオロエチレンでコーティングされたパッキンを用いることは、周知技術であると認められる。
また、甲第6号証の第6頁には、PTFE素材のキャップは、耐溶剤性に優れ有機溶媒を使用する際に推奨されること、液体の揮発を防ぎ酸化や劣化を防ぐことが記載されており、PTFE素材を保管容器に用いることによって、有機溶媒の揮発を防ぎ保管物の酸化や劣化を防ぐことができることは周知の技術的事項であると認められる。
さらに、甲第4号証の【0135】には、PTFEキャップを有するガラス瓶中で発光材料を含有する溶液を調製することが記載されており(当合議体注:当該PTFEキャップにおける、ガラス瓶中の溶液に接する部分はPTFEで構成されているものと認められる。)、甲第5号証の【0003】や【0028】にみられるようにフッ素系の樹脂は耐食性が高いことは周知の技術的事項であると認められる。
したがって、甲1発明において、発光材料のキシレン溶液を保管する際に、甲第6号証-甲第9号証にみられる上記周知技術、甲第6号証の記載事項、甲第4号証の記載事項及び甲第5号証に記載された上記周知技術に基づいて、発光材料のキシレン溶液による容器の腐食を防止して保存性を高めるとともに、キシレンの揮発による発光材料の劣化を防ぐために、発光材料のキシレン溶液を褐色ガラス瓶に充填し、表面がポリテトラフルオロエチレンでコーティングされたパッキンと蓋を用いて密栓することで、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

特許権者は、平成30年11月6日付け意見書において、概略、(A)保管とは静置した状態で行われる行為であり、本件特許発明1の保管方法では保管物とパッキンは保管時に接液しないものであって、(B)甲第6号証-甲第9号証の記載からでは、パッキンの材質が保管物の機能低下に関係することを理解することはできず、(C)甲第5号証において発光機能を低下させる添加剤には、酸化防止剤、脂肪族エステル(可塑剤)、低分子量PE、フタル酸エステルであり、これらは全て不揮発性物質であって保管物に混入することは想定できず、(D)甲1発明において、気体として存在するキシレンがパッキンと直接的に接するとしてもパッキン中の発光機能を素材する添加剤が保管物に混入することは想定できないため、(E)当業者は、パッキンの種類によって有機半導体素子用液状組成物の発光機能が低下するという課題を認識することはできないことから、甲1発明において、相違点1を採用する動機付けは存在しない旨主張している。
しかしながら、次のとおり、特許権者の主張は採用できない。
(B)に関し、上述のとおり、甲第6号証の第6頁には、PTFE素材のキャップは、耐溶剤性に優れ有機溶媒を使用する際に推奨され、液体の揮発を防ぎ酸化や劣化を防ぐことが記載されている。そうしてみると、当業者ならば、パッキンの材質が保管物の機能低下に関係することを理解することができる。
(C)に関し、例えば、フタル酸エステルには常温で不揮発性とはいえないものも存在し(例えば、特許異議申立人が平成30年12月7日に提出した上申書に添付された参考資料1の9.にはフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)は20℃における蒸気圧が0.001kPaであることが記載されており、常温においても微量ながらも揮発するといえる。)、パッキンの添加剤の一部の成分は、微量であるが保管物に混入するといえる。そして、こうした添加剤の保管物への混入が微量である場合、パッキンの表面状態は肉眼では確認できるほどのものではないが、一般にイリジウム錯体の発光特性は極微量の不純物によっても変化するものであるから、保管物に混入した微量の添加剤によって輝度寿命の低下が引き起こされるといえる。
(D)に関しては特許権者の主張どおりであるとしても、上記(C)のとおり、添加剤の一部の成分は微量であるが保管物に混入するといえる。
(E)に関し、イリジウム錯体は、一般に高価な材料であって微量の不純物の存在によって発光特性が低下するものである。加えて、静置した状態にある保管物であっても地震時等の振動によって保管物とパッキンが接液することは想定される。そして、万が一の場合も想定して製品としての信頼性を確保することは、引用発明のイリジウム錯体の劣化が、直ちに有機EL表示装置の性能を左右することに鑑みると当然のことといえる。そうしてみると、不純物の混入を防ぐためのあらゆる手段を採用することによって発光特性の低下を防止することは、当業者にしてみれば当然の事項であるといえる。したがって、不純物の混入を防ぐための一手段として、表面が耐食性の高いフッ素原子を含む樹脂からなるパッキンを用いることに動機があるといえる。
以上のとおり、当業者は、パッキンの種類によって有機半導体素子用液状組成物の発光機能が低下するという課題を認識することができ、また、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用する動機付けがあるといえる。
なお、(A)に関し、本件特許明細書には保管とは静置した状態で行われる行為であることは記載されておらず、また、上述のとおり、静置した状態にある保管物であっても地震時等の振動によって保管物とパッキンが接液することは想定される。そうしてみると、必ずしも、本件特許発明1の保管方法が保管物とパッキンが接液しないものであるとはいえない。

イ 相違点2について
甲第3号証の【0368】-【0370】には、溶媒及びイリジウム錯体を含有する有機電界発光素子用組成物を暗所で保存することが記載されている。ここで、暗所とは、技術的にみて、光がささない場所、すなわち、800nm以下の波長の光を遮光する場所であると認められる。また、例えば、特開2008-219053号公報の【0151】には、正孔輸送性高分子(P1)及びPPBを溶媒に溶解した後に4週間遮光して保管することが記載されている。ここで、組成物を遮光して保管するのは、技術的にみて、組成物の劣化を抑えるためであると認められる。また、「遮光して保管」とは、遮光された下での保管、すなわち、暗所での保管と理解するのが自然である(仮にそうでないとしても、試薬瓶(褐色ガラス瓶)をホイル等で包んだ上で、冷蔵庫等の冷暗所で保管することは、一般に行われている事項にすぎない。)。
そうしてみると、組成物を暗所で保管することは周知技術であって、甲1発明において、発光材料のキシレン溶液を保管する際に、発光材料の劣化を抑えるために、当該周知技術を採用することは当業者が容易に想到することができたものである。
ここで、上述のとおり、甲1発明において組成物を暗所で保管するという周知技術を採用した構成は、相違点2に係る「800nm以下の波長を遮光して前記液状組成物を保管する」という要件を満たすものと認められる。

特許権者は、平成30年8月3日付け意見書において、概略、甲第3号証の実施例は、技術思想として紫外線の照射から保管物を保護することを開示するだけであって、紫外線以外の光(500nm以上の波長の光)を遮光することの技術的意義を開示するものではなく、甲第3号証等の周知技術からは、保管物を保護する際に500-800nmの光を遮光する意義乃至理由が理解できず、また、当該周知技術には、保管対象物としてイリジウム錯体等を含む液状組成物は含まれていないため、イリジウム錯体等を含む液体組成物を保管する際に800nm以下の光を遮光する手段を当該周知技術から想起することはできず、その手段を採用することでイリジウム錯体等の劣化が抑制されるという効果を予測することはできない旨主張している。また、乙第3号証として提出した実験成績証明書の各実験例の対比から、波長500-750nmの光を照射した状態でイリジウム錯体等を含む液体組成物を保管すると、有機EL素子の寿命が低下するのに対して、光を遮光することで有機EL素子の寿命低下を抑制できる旨主張している。
しかしながら、イリジウム錯体は、一般に光吸収性を有することから、保存の観点からは、紫外線以外の光を遮光した方が好ましいことは、当業者にとって自明の事項であり、上述のとおり、周知技術に基づいて800nm以下の波長を遮光して液状組成物を保管する構成とすることは当業者が容易に想到することができたものであって、その効果も当業者が予測し得る範囲を超えた格別なものとはいえない。
したがって、特許権者の主張は採用できない。

(4)本件特許発明1の効果について
ア 特許権者は、平成27年5月1日付け上申書において、概略、実施例2の輝度半減寿命は比較例2の約208%にまで向上しているのに対し、参照例13の輝度半減寿命の向上は参照比較例15の150%にすぎず、本件特許発明による効果は、イリジウム錯体又は白金錯体を含まない有機半導体用液状組成物と比較した場合に量的な顕著性が認められる旨主張している。確かに、実施例2の比較例2に対する向上は、参照例13の参照比較例15の向上よりも顕著なものである。しかしながら、実施例2の組成物を保管せずに用いた参考例3とを比較すると、実施例2と参考例3の輝度半減寿命は同程度であって、これは、上述のとおり、上記(3)アに記載した第5号証及び第6号証にみられる周知の技術的事項より、当業者が予測し得るものである。
イ また、特許権者は、平成30年11月6日付け意見書において、概略、相違点1は、当業者が容易に想到することができない構成であり、本件特許発明は、フッ素系樹脂のパッキンを用いることでイリジウム錯体等を含む有機半導体液状組成物の発光機能が維持されるという顕著な効果を奏するものであって、当業者が予測することができない旨主張している。
しかしながら、相違点1に係る本件特許発明1の構成は、上記(3)アに記載したとおり、当業者が容易に想到することができない構成であるとはいえない。また、上記(3)アに記載したとおり、甲第6号証の第6頁及び甲第5号証の【0003】や【0028】にみられるようにPTFE素材を保管容器に用いることによって、有機溶媒の揮発を防ぎ保管物の酸化や劣化を防止できること及びフッ素系の樹脂は耐食性が高いことは周知の技術的事項であるから、相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備することによる効果は、当該周知の技術的事項から予測し得るものであるといえる。
ウ さらに、特許権者は、平成30年11月6日付け意見書において、概略、(A)本件特許明細書には、相違点1、2の両方を備える実施例4、6、7の輝度半減寿命を開示しており、相違点1、2の両方を備える場合の効果は本件特許明細書に開示されており、当業者であれば、相違点1、2の両方を備えることにより輝度半減寿命が延長することを認識でき、出願後に補充した比較例等のデータを参酌しても、出願人と第三者との公平を害することはなく、当該補充したデータについては参酌されるべきであって、(B)平成30年8月3日付けの意見書とともに乙第3号証として提出した実験成績証明書(以下「実験成績証明書」という。)における実験例2及び比較実験例2、4、6について、実験例2の輝度寿命を100とした場合、相違点1を具備しない比較実験例4の輝度寿命は83%、相違点2を具備しない比較実験例2の輝度寿命は16%であるから、相違点1、2の両方を具備しない場合の輝度寿命は13%に低下すると予想されるが、相違点1、2の両方を具備しない比較実験例6の輝度寿命は実際には7%であって、相違点1、2の両方を具備する実験例2の輝度寿命は、相違点1、2の両方を具備しない比較実験例6の14.3倍であり、上記予想の約2倍も延長しており、本件特許発明1は相違点1と相違点2による効果を組み合わせた相乗効果を奏するものである旨主張している。
特許権者が主張するとおり、当業者であれば、本件特許明細書の記載から相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を備えることにより輝度半減寿命が延長することは認識できるといえる。しかしながら、本件特許明細書には、相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を具備することによって、相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を具備しない構成に比してどの程度優れた効果が奏されるのかについては記載も示唆もされていない。また、イリジウム錯体の純度や劣化による状態変化が発光特性等にどの程度影響するかは、当業者であっても予測することは困難であるといえる。そうしてみると、技術常識等を考慮しても、実験成績証明書に記載されたデータによって認識できる効果を、当業者が明細書の記載から推論できるともいえない。したがって、実験成績証明書に記載されたデータは参酌できない。なお、仮に、実験成績証明書に記載されたデータによって認識できる効果が、当業者が技術常識等から推論できるものであるとすると、相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を具備することによって奏される効果も当業者の予測し得るものであって顕著なものであるとはいえない。
また、実験成績証明書に記載されたデータをみると、相違点1に係る本件特許発明1の構成のみを備えた比較実験例4は、比較実験例6と比較すると輝度寿命は29時間(以下「比較実験例4延長時間」という。)延長し、相違点2に係る本件特許発明1の構成のみを備えた比較実験例2は、比較実験例6と比較すると輝度寿命は3.2時間(以下「比較実験例2延長時間」という。)延長し、相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を備えた実験例2は、比較実験例6と比較すると輝度寿命は35.5時間(以下「実験例2延長時間」という。)延長している。比較実験例2延長時間と比較実験例4延長時間を合計すると32.2時間(以下「合計時間」という。)であって、実験例2延長時間は合計時間の1.1倍(35.2/32.2)であり、実験例2延長時間は、比較実験例2延長時間と比較実験例6延長時間の総和と同程度であるといえる。したがって、相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を備える本件特許発明1が相違点1と相違点2に係る本件特許発明1の両構成を備えない構成に比して相乗的な効果を奏するとまではいえない。
あるいは、輝度寿命は、材料の劣化に起因するものと考えられ、また、材料の劣化は、全ての劣化要因を防いで初めて防止できるものと考えられる。そうしてみると、相違点1、2に係る本件特許発明1の両構成を備えたものが最も良い結果となるのは、当業者が予測可能なことといえる。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件特許発明2
(1)対比、相違点及び一致点
甲1発明の「金属錯体(Ir-2)」は、技術的にみて、本件特許発明2の「ドーパント」に相当し、「三重項励起状態からの発光を有する金属錯体」に相当するものであると認められる。
そうしてみると、甲1発明は、本件特許発明2の「有機半導体素子用液状組成物がドーパントとして三重項励起状態からの発光を有する金属錯体を含む」という要件を満たすものである。
したがって、本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。

(2)判断
相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明2は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件特許発明3
(1)対比、相違点及び一致点
本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2に加えて以下の点でさらに相違し、その余の点で一致する。
【相違点3】
本件特許発明3は、「容器本体の内壁を形成している材料がガラス」であるのに対し、甲1発明は、このような構成であることを特定していない点。
(2)判断
ア 相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

イ 相違点3について検討するに、甲第2号証の【0138】及び甲第3号証の【0194】には、それぞれ、有機電界発光素子用組成物を褐色ガラス瓶に充填して密栓して保管することが記載されている。
そうしてみると、本件特許発明3の「容器本体の内壁を形成している材料がガラス」である構成とすることは周知技術であると認められる。
したがって、甲1発明において発光材料のキシレン溶液を保管する際に、当該周知技術に基づいて、容器本体としてガラス瓶を用い、相違点3に係る本件特許発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明3は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 本件特許発明4
(1)対比、相違点及び一致点
甲1発明の「高分子(P-1)」が本件特許発明4の「高分子化合物」に相当することは、技術的にみて明らかである。
したがって、本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。

(2)判断
相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明4は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件特許発明5
(1)対比、相違点及び一致点
甲1発明の「キシレン」の分子式はC_(8)H_(10)であるから、甲1発明は、本件特許発明5の「有機溶媒が、炭素、水素、酸素及び窒素」からなる群から選ばれる2種以上の元素からなる化合物である」という要件を満たすものである。
したがって、本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。

(2)判断
相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明5は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件特許発明6
(1)対比、相違点及び一致点
甲1発明の「発光材料のキシレン溶液」は「(濃度1.4質量%)」である。
そうしてみると、甲1発明は、本件特許発明6の「有機化合物が、前記液状組成物の全重量に対して、0.01重量%以上、5.0重量%以下の割合で前記液状組成物に含まれる」という要件を満たすものである。
したがって、本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。

(2)判断
相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 本件特許発明7
(1)対比、相違点及び一致点
本件特許発明7と甲1発明とを対比すると、上記相違点2に加えて以下の点でさらに相違し、その余の点で一致する。
【相違点1’】
本件特許発明7は、「内部に保管対象物を保管するための空間であるキャビティを規定し、かつ、該キャビティと容器外部とを連通させるための開口部を規定する開口端部を有する、容器本体と、該容器本体の開口部を覆うパッキンと、蓋とを有する保管容器の内部に」、「有機半導体素子形成用有機化合物と」、「有機溶媒とを含む有機半導体素子用液状組成物を保管する工程を包含する、有機半導体素子用液状組成物の保管方法であって、 該容器本体が、該有機溶媒及び該有機化合物に対して化学的に作用しない材料から形成された内壁を有し、容器本体にパッキンと蓋とを装着して密閉状態にする際に、容器本体の開口部を覆い、開口端部に接する該パッキンの表面が、フッ素原子を有する樹脂を含む材料から成」り、「前記フッ素原子を有する樹脂がポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体から成る群から選択される少なくともひとつである」であるのに対して、甲1発明は、このような構成であることを特定していない点。

(2)判断
相違点2についての判断は、前記1(3)イに記載したとおりである。
相違点1’については、前記1(3)アに記載した相違点1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に想到することができたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明7は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 本件特許発明8
(1)対比、相違点及び一致点
本件特許発明8と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2に加えて以下の点でさらに相違し、その余の点で一致する。
【相違点4】
本件特許発明8は、「0℃以上、50℃以下の温度で前記液状組成物を保管する」のに対し、甲1発明は、このような構成であることを特定していない点。

(2)判断
ア 相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

イ 相違点4について検討するに、甲第2号証の【0138】及び甲第3号証の【0194】には、それぞれ、有機電界発光素子用組成物の保管温度は、好ましくは0℃以上、25℃以下であることが記載されており、0℃以上、25℃以下で保存することは周知技術であると認められる。
したがって、甲1発明において発光材料のキシレン溶液を保管する際に、保管温度を0℃以上、25℃以下として、相違点4に係る本件特許発明8の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明8は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

9 本件特許発明9
(1)対比、相違点及び一致点
本件特許発明9と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2に加えて以下の点でさらに相違し、その余の点で一致する。
【相違点5】
本件特許発明9は、「不活性ガスを含む雰囲気下で前記液状組成物を保管する」のに対し、甲1発明は、このような構成であることを特定していない点。

(2)判断
ア 相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

イ 相違点5について検討するに、組成物等を不活性ガス中で保管することは、広範な技術分野における周知技術である。例えば、特表2009-521436号公報の【0053】-【0056】には、イオン液体触媒を窒素中でガラスびんに保管すること及びイオン液体触媒とo-キシレンの混合物を窒素中で保管することが記載されている。また、特開2002-109793号公報の【請求項1】、【請求項10】及び【請求項11】には、溶媒に色素を溶解して得られた色素溶液を、不活性ガス雰囲気下で銅製金属容器に保管することが記載されている。

(3)小括
したがって、甲1発明において発光材料のキシレン溶液を保管する際に、不活性ガス中で保管することとして、相違点5に係る本件特許発明9の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものである。

10 本件特許発明10
(1)対比、相違点及び一致点
甲1発明の「高分子(P-1)」及び「金属錯体(Ir-2)」は、甲第1号証の【0263】の記載より、有機EL素子の発光層を形成するものであると認められる。
そうしてみると、甲1発明は、本件特許発明10の「前記有機化合物が、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層を形成するために用いる有機化合物である」という要件を満たすものである。
したがって、本件特許発明10と甲1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。

(2)判断
相違点1及び相違点2についての判断は、前記1(3)に記載したとおりである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明10は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

11 本件特許発明11
本件特許発明11は、本件特許発明1の発明のカテゴリーを単に「保管方法」から「保管容器」に変更したただけのものであって、本件特許発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、当業者が容易に想到することができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、請求項1-11に係る発明は、甲1発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-11に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-07 
出願番号 特願2015-77007(P2015-77007)
審決分類 P 1 651・ - Z (H05B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
川村 大輔
登録日 2017-08-25 
登録番号 特許第6196995号(P6196995)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 有機半導体素子用の液状組成物の保管方法  
代理人 西下 正石  
代理人 松谷 道子  

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