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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1349714
異議申立番号 異議2018-700900  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-09 
確定日 2019-03-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6319438号発明「ダイシングシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6319438号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6319438号の請求項1?6に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、2015年5月18日(優先権主張2014年6月10日、日本国)を国際出願日として出願したものであって、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年11月9日に特許異議申立人石川郁亮により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6319438号の請求項1?6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材と、
前記基材の第1の面側に積層された粘着剤層と、
前記粘着剤層の前記基材とは反対の面側に積層された剥離シートと
を備えたダイシングシートであって、
前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり、
前記基材の第2の面における、前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下である
ことを特徴とするダイシングシート。
【請求項2】
前記基材の融点は、90?180℃であることを特徴とする請求項1に記載のダイシングシート。
【請求項3】
前記基材の130℃における貯蔵弾性率は、1?100MPaであることを特徴とする請求項1または2に記載のダイシングシート。
【請求項4】
前記基材の前記加熱後における波長1064nmの光線透過率は、40%以上であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のダイシングシート。
【請求項5】
前記基材は、エチレンとプロピレンとの共重合体から構成されるフィルムであることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のダイシングシート。
【請求項6】
前記ダイシングシートは、前記粘着剤層の前記基材側とは反対側の周縁部に積層された治具用粘着剤層を備えたことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のダイシングシート。」

第3 申立理由の概要
(1)申立理由1
特許異議申立人石川郁亮は、主たる証拠として、特開2010-73897号公報(以下「文献1」という。)及び特開2014-63803号公報(以下「文献2」という。)、並びに従たる証拠として、文献2、特開2001-164202号公報(以下「文献3」という。)、特開平11-35709号公報(以下「文献4」という。)、特開2006-140348号公報(以下「文献5」という。)、国際公開第2012/172959号(以下「文献6」という。)、特開2012-15236号公報(以下「文献7」という。)、特開2011-216671号公報(以下「文献8」という。)、特開2001-11207号公報(以下「文献9」という。)、及び特開2013-95842号公報(以下「文献10」という。)を提出し、請求項1?6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである。

(2)申立理由2
請求項1?6に係る特許は同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた(以下「申立理由2」という。)ものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである。

(3)申立理由3
請求項1?6に係る特許は同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである。

(4)申立理由4
請求項1?6に係る特許は同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである。

第4 文献の記載
1 文献1の記載と引用発明1
(1)文献1の記載
「【請求項1】
基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなるレーザーダイシングシートであって、
300?400nmの波長領域における全光線透過率が60%以上であり、
ヘイズが20%以下であり、
光学くしの幅が0.25mmにおける透過鮮明度が30以上であるレーザーダイシングシート。
【請求項2】
該基材の片面の中心線平均粗さRaが他面の中心線平均粗さRaよりも大きく、中心線平均粗さRaの大きい面に粘着剤層が形成されてなる請求項1に記載のレーザーダイシングシート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハをレーザー光照射により回路毎に個片化し、半導体チップを作成する際に、半導体ウエハを固定するために好ましく使用されるレーザーダイシングシートに関する。また、本発明は該ダイシングシートを使用した半導体チップの製造方法に関する。特に本発明のレーザーダイシングシートは、表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハを固定、切断し、チップを製造する際に好ましく用いられる。」
「【0013】
一方、回路面側に貼付されたダイシングシートを通してレーザー光を照射し、ウエハのダイシングを行うことも提案されている(たとえば特許文献6)。この方法では、レーザー光はダイシングシートを透過した後、ウエハに照射される。したがって、ダイシングシートには、高いレーザー光透過性と、レーザー光に対する耐久性が要求される。
【0014】
ところで、一般にダイシングシートなどの粘着シートに用いられる基材は、樹脂のロール成形により製造されている。樹脂のロール成形の際には、ゴムロールと金属ロールのように、2種の材質の異なるロールが用いられる。得られる樹脂シートは、ゴムロールに接する表面の表面粗さ(中心線平均粗さRa)が、金属ロールに接する他面の中心線平均粗さRaよりも大きくなる。ダイシングシートにおいては、エキスパンド時にシートの滑り性が要求されるため、通常は平滑面側に粘着剤層が積層され、粗面側が露出して基材面となる。
【0015】
したがって、上記のようなダイシングシートを用いて、シート側からレーザー光を照射する場合には、レーザー光は基材の粗面側から入射する。この場合、照射されたレーザー光は粗面で散乱するため、レーザー光の有効利用が図れない。」
「【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体ウエハの回路面側にダイシングシートを貼付し、シート側からの短波長のレーザー光照射によりウエハを回路毎に個片化し、半導体チップを作成する際に好ましく使用されるレーザーダイシングシートが提供される。特に本発明のレーザーダイシングシートは、ウエハ裏面の内周部のみが研削され、外周部に環状凸部を有し、内周部平面と環状凸部との間に段差が形成されたウエハを、レーザー光を用いてフルカットダイシングする際に好ましく用いられる。」
「【0023】
図1に示すように、本発明に係るレーザーダイシングシート10は、基材1と、その片面に形成された粘着剤層2とからなる。
【0024】
レーザーダイシングシート10の300?400nmの波長領域における全光線透過率は60%以上であり、好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上である。全光線透過率の上限の制限はないが、通常100%である。
【0025】
また、レーザーダイシングシート10のヘイズは、20%以下であり、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。ヘイズの下限の制限はないが、通常0%である。
【0026】
さらに、レーザーダイシングシート10の光学くしの幅が0.25mmにおける透過鮮明度は、30以上であり、好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上である。
【0027】
レーザーダイシングシート10の光学物性が上記範囲にあることで、レーザー光、特に短波長レーザー(たとえば波長355nm)の透過性が良好となり、ダイシングシート10の基材面に照射されたレーザー光が減衰することなくウエハに到達する。この結果、レーザー光によるウエハのフルカットが可能になる。また、上記のダイシングシート10によれば、照射されたレーザー光が透過するため、レーザー光によりシートが受ける損傷も少なく、レーザーダイシング時にシート10が切断されることもない。
【0028】
このようなレーザーダイシングシート10は、図1に示すように、たとえば基材1の粗面側に粘着剤層2を形成して得られる。…(略)…
【0029】
一般にダイシングシートなどの粘着シートに用いられる基材は、樹脂のロール成形により製造されている。樹脂のロール成形の際には、ゴムロールと金属ロールのように、2種の材質の異なるロールが用いられる。得られる樹脂シートは、ゴムロールに接する表面の中心線平均粗さRaが、金属ロールに接する他面の中心線平均粗さRaよりも大きくなる。ダイシングシートにおいては、特にエキスパンド時にシートの滑り性が要求されるため、通常は、平滑面側に粘着剤層が積層され、粗面側が露出して基材面となる。したがって、上記のようなダイシングシートを用いて、シート側からレーザー光を照射する場合には、レーザー光は基材の粗面側から入射することになる。この場合、照射されたレーザー光は粗面で散乱するため、レーザー光の有効利用が図れない。
【0030】
そこで、本発明では、樹脂シート(基材)の粗面側に粘着剤層を形成し、上記課題の解決を図っている。粗面側の凹凸は、ダイシングシートの粘着剤層により吸収される。この結果、前記したような光学物性を有するダイシングシートが得られる。このシート内でのレーザー光の直進性は良好であり、基材1と粘着剤層2との界面での光の散乱や吸収は抑制され、透明性の高いダイシングシートが得られる。また、基材の平滑面が露出面となり、平滑面側からレーザー光が入射するため、基材表面でのレーザー光の散乱が防止され、レーザー光の有効利用が図られる。
【0031】
粘着剤層2が設けられる基材1の粗面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.15?1μm、さらに好ましくは0.2?0.9μm、特に好ましくは0.25?0.8μm程度であり、一方、平滑面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.08?0.3μm、さらに好ましくは0.1?0.2μm、特に好ましくは0.12?0.16μm程度である。粗面側の中心線平均粗さが大きすぎる場合には、粘着剤層を設けても表面の凹凸が十分に吸収されず、シート内でレーザー光が散乱してしまうことがある。一方、平滑面側の表面粗さが大きすぎる場合には、基材表面でレーザー光が散乱してしまい、また小さすぎる場合には、シートの滑り性が損なわれる。」
「【0041】
粘着剤層2は、従来より公知の種々の粘着剤により形成され得る。このような粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、たとえばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が用いられる。また、エネルギー線硬化型や加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤も用いることができる。エネルギー線硬化(紫外線硬化、電子線硬化)型粘着剤としては、特に紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。なお、粘着剤層2には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよい。」
「【0044】
次に、本発明のダイシングシート10を使用した半導体チップの製造方法について説明する。本発明のチップ製造法について、表面に回路13が形成され、裏面外周部に環状凸部17を有する半導体ウエハ11をチップ化する場合を例にとり説明する。図2に表面に回路が形成され、裏面外周部に環状凸部を有する半導体ウエハ11の回路面側の平面図を示し、図3に裏面側からの斜視図、図4に図3の断面図を示す。
…(略)…
【0049】
裏面研削工程後、図5に示すように、ウエハ11の回路面側に本発明のレーザーダイシングシート10を貼付し、ウエハ11のダイシングを行う。…(略)…
【0050】
ダイシングシート10のウエハ回路面への貼付は、マウンターと呼ばれる装置により行われるのが一般的だが特に限定はされない。…(略)…また、ダイシングテープ10の周辺部はリングフレーム5により固定する。
【0051】
次いで、図5に示すように、ダイシングシート10の基材面側からレーザー光を照射し、ウエハ11をダイシングする。…(略)…
【0053】
本発明によれば、上記特定の光学物性を有するレーザーダイシングシート10を用い、ウエハ11の回路面側を保持し、回路面側からレーザー光を照射し、ウエハのダイシングを行っている。回路面にシート10を貼付しているため、裏面側の凹凸による影響を受けることなくウエハを保持できる。このため、本発明の方法は、特にウエハ裏面の内周部のみが研削され、外周部に環状凸部を有し、裏面の内周部平面と環状凸部との間に段差が形成されたウエハに対して好ましく適用できる。
【0054】
また、レーザーダイシングシート10は、特定の光学物性を有するため、レーザー光の透過性が高く、レーザー光が照射されてもシートの受ける損傷は小さい。したがって、シート中を透過する際のレーザー光の減衰が少なく、レーザー光が有効利用されるため、ウエハのフルカットダイシングが可能になる。」

(2)引用発明1
そうすると、文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなるレーザーダイシングシートであって、
300?400nmの波長領域における全光線透過率が60%以上であり、ヘイズが20%以下であり、光学くしの幅が0.25mmにおける透過鮮明度が30以上であり、
粘着剤層が設けられる基材の粗面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.15?1μm程度であり、平滑面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.08?0.3μm程度であり、
粘着剤層には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよく、
半導体ウエハの回路面側にダイシングシートを貼付し、シート側からの短波長のレーザー光照射によりウエハを回路毎に個片化し、半導体チップを作成する際に好ましく使用され、
特定の光学物性を有するため、レーザー光の透過性が高く、また、基材の平滑面が露出面となり、平滑面側からレーザー光が入射するため、基材表面でのレーザー光の散乱が防止され、レーザー光の有効利用が図られる、
レーザーダイシングシート。」

2 文献2の記載と引用発明2
(1)文献2の記載
「【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面に積層された粘着剤層とを備えたレーザーダイシングシートであって、
前記基材の前記粘着剤層に対向する側と反対側の面である背面は、その表面の粗さが算術平均粗さRaで0.1μm未満である第1の領域および0.3μm以上である第2の領域を備え、
前記第1の領域は使用時にレーザーが照射されるレーザー入射領域を含み、
前記第2の領域は、前記レーザー入射領域よりも平面視で前記レーザーダイシングシートの外周側に設けられること
を特徴とするレーザーダイシングシート。
…(略)…
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載されるレーザーダイシングシートと、前記レーザーダイシングシートの前記粘着剤層側の面にその剥離面が対向するように積層された剥離シートとを備え、前記剥離シートの剥離面には、前記レーザーダイシングシートが積層されていない領域を有するレーザーダイシングシート-剥離シート積層体。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどの板状部材をダイシングするダイシング工程においてレーザー光を用いる場合に使用されるダイシングシートであるレーザーダイシングシート、そのレーザーダイシングシートと剥離シートとの積層体であるレーザーダイシングシート-剥離シート積層体およびそのレーザーダイシングシートを用いて板状部材を個片化して得られるチップ体の製造方法に関する。」
「【0006】
上記のような、ダイシング工程において加工手段としてレーザーが用いられる場合もあれば、ダイシング工程の際に半導体ウエハなどの板状部材を正確にアライメントするためのツールとしてもレーザーが用いられる場合もある。これらの場合のような、ダイシング工程においてレーザー光を用いる場合に使用されるダイシングシート(本明細書において、「レーザーダイシングシート」ともいう。)は、その使用にあたりこのレーザーダイシングシートをレーザーが透過するため、レーザー光に対する優れた透過性を有していなければならない。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に開示されるように、基材樹脂フィルムの粘着剤層が形成された面の反対側の面を平滑面とすることは、レーザーダイシングシートにとってダイシング加工性を高めるなどの利点を有する。しかしながら、レーザーダイシングシートの基材における粘着剤層に対向する側と反対側の面(本明細書において「基材背面」ともいう。)を平滑面とすると、次のような問題が生じることが明らかになった。
…(略)…
【0011】
DR積層体が巻取体やスタック体の形態で保管されると、DR積層体のレーザーダイシングシートの基材背面と、そのDR積層体に最近位の別のDR積層体における剥離シート剥離面とは反対側の面(本明細書において「剥離シート裏面」ともいう。)とが接した状態となる。保管状態によっては(具体的には、巻取体の巻き取り力が強い場合や、スタック体が積層方向に加圧された場合などが例示される。)、このDR積層体の基材背面と、当該背面に接する別のDR積層体の剥離シート裏面との密着性が高まることがあった。
【0012】
この密着性が高まったときの問題について、長尺体の形態を有するDR積層体がそのレーザーダイシングシートが内側になるように巻き取られた巻取体を一具体例として説明する。この巻取体からDR積層体を繰り出すときには、最外層にある剥離シートが引っ張られ、その剥離シートの内周側(巻芯側)に位置する剥離面に貼付するレーザーダイシングシートも、この最外周の剥離シートとともに巻取体から繰り出されることによって、繰り出し作業が正常に行われる。しかしながら、基材背面と、巻取体において一回り内周側に位置するDR積層体の剥離シート裏面との密着性が高い場合には、本来繰り出されるべきレーザーダイシングシートが、そのレーザーダイシングシートの粘着剤側の面と最外周の剥離シートの剥離面との界面で剥離してしまう。その結果、レーザーダイシングシートは最外周の剥離シートとともに繰り出されずに、一回り内周側に位置するDR積層体の剥離シート裏面上に残留する。
【0013】
かかる事態が生じると、繰り出されたDR積層体はレーザーダイシングシートがはぎとられているため、その後のレーザーダイシングシートと板状部材との貼付作業を実施することができなくなる。さらに、DR積層体の剥離シート裏面に付着した状態のレーザーダイシングシートは、その後の剥離シートの巻き取り作業の作業性を著しく低下させる可能性がある。具体的には、剥離シートの巻取のためのピンチローラに巻き付いてしまうことが例示され、このような場合には巻取体の形態のDR積層体の繰り出し作業を停止しなければならない。以下、このような不具合を「DR積層体供給不良」ともいう。」
「【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明者らが検討したところ、DR積層体が備えるレーザーダイシングシートの基材背面が複数の部分から構成されるものとし、その複数の部分の一つ(本明細書において面の一部分を「領域」という。)を、レーザー入射面として適した第1の領域とし、上記の複数の部分の別の一つを剥離シート裏面(自らが構成要素となるDR積層体の剥離シート裏面である場合もあれば、自らが構成要素となるDR積層体とは別のDR積層体の剥離シート裏面である場合もある。)に対する密着性が低い第2の領域とすることで、上記のDR積層体供給不良が生じにくくなるとの知見を得た。」
「【発明の効果】
【0029】
本発明に係るレーザーダイシングシートは、基材背面における第1の領域の少なくとも一部をレーザー入射領域として用いることで、使用時にレーザーダイシングシートに照射されたレーザー光が基材によって散乱されたり位相の均一性が低下したりしにくく、適切なレーザー光を板状部材に照射することができる。しかも、このようなレーザーダイシングシートを備える本発明に係るDR積層体によれば、使用前のDR積層体が積層された状態(具体的には、巻取体の形態にある場合やスタック体の形態にある場合が例示される。)においてDR積層体の剥離シート裏面に接する面、すなわち基材背面は、第1の領域のみならず第2の領域をも備え、この第2の領域は、相対的に粗な面から構成される。また、第2の領域は通常レーザーダイシングシートの大部分を占める、レーザーが照射されるレーザー入射領域よりも平面視でレーザーダイシングシートの外周側に設けられている。このため、あるDR積層体をその基材背面に剥離シート裏面が接するように配置されていた剥離シートから引き剥がそうとしたときに、剥離シートの剥離面と粘着剤層の面との密着性、粘着剤層と基材との密着性、および基材背面のうち第2の領域と剥離シートの裏面との密着性の間で最も密着性の低い界面にて剥離が生じるところ、平面視でダイシングシートの外周に近い位置に設けられている粗な面から構成される第2の領域と、剥離シートの裏面との密着性が最も低くなって、この界面での剥離が生じやすくなっている。それゆえ、本発明に係るDR積層体は、巻取体やスタック体の形態であっても、DR積層体供給不良が生じにくい。」

(2)引用発明2
そうすると、文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「レーザーダイシングシートと、前記レーザーダイシングシートの前記粘着剤層側の面にその剥離面が対向するように積層された剥離シートとを備え、前記剥離シートの剥離面には、前記レーザーダイシングシートが積層されていない領域を有するレーザーダイシングシート-剥離シート積層体であって、
前記レーザーダイシングシートは、
基材と、前記基材の一方の面に積層された粘着剤層とを備えたレーザーダイシングシートであって、
前記基材の前記粘着剤層に対向する側と反対側の面である背面は、その表面の粗さが算術平均粗さRaで0.1μm未満である第1の領域および0.3μm以上である第2の領域を備え、
前記第1の領域は使用時にレーザーが照射されるレーザー入射領域を含み、
前記第2の領域は、前記レーザー入射領域よりも平面視で前記レーザーダイシングシートの外周側に設けられる、
レーザーダイシングシート-剥離シート積層体。」

3 文献3?文献10の記載
(1)文献3の記載
「【請求項1】 ポリテトラフルオロエチレン層の接着処理面に粘着剤層を形成してなる粘着テープを、前記ポリテトラフルオロエチレン層の背面を外側にして巻回してなる粘着テープ巻回体において、
前記背面の表面粗さRaが0.1μm以下であり、前記粘着テープの巻き戻し力が4.0N/19mm幅以下であることを特徴とする粘着テープ巻回体。」
「【0002】
【従来の技術】従来よりポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと呼ぶ)を基材とした粘着テープが、数多く上市されている。PTFEを基材とした粘着テープは、電気特性、耐熱性、耐薬品性、非粘着性等の多くの優れた特性を持っており、電線被覆や電子部品の絶縁、各種ロールの被覆、ヒートシール用離型材等の各種用途に使用されている。」
「【0018】PTFE層1の原料シートの製法は、各種用途によって使い分けられるが、主として(1)粒子径0.02?0.50mmのPTFE粉末を、金型内で5?50Mpaの条件で圧縮成形したのち、350?400℃のオーブン中で全体が焼結出来るまで加熱し、得られた成形品を旋盤加工しPTFE切削シートを得る方法、(2)乳化重合されたPTFEデイスパージョンから分離、造粒して得られたパウダー状の粉末に有機溶剤を混合してぺースト状にして押し出し成形し、その成形品を熱ロール(例えば50?120℃)にて圧延したのち溶剤を除去し、焼成(例えば350?450℃で1?5分間)することによりPTFEシートを得る方法が挙げられる。これらの製法で得られた原料シートは、通常、表面粗さRaが0.2?0.4μmであり、未処理物を基材として使用すると、粘着テープの巻き戻し力が大きくなり、作業性に問題を生じる。なお、(3)PTFEディスパージョンを金属製などの鏡面板に塗布し、乾燥、焼成後、金属板より剥離してPTFEシート得る方法も採用でき、その場合、鏡面板として表面粗さRaが小さいものを使用することで、直接、後述の如き表面粗さR を有する原料シートを得ることができる。
【0019】本発明では、PTFE層1の背面1aの表面粗さRaが0.1μm以下であり、表面粗さRaが0.1μmを超えると、表面の平滑性が低くなり、粘着テープの巻き戻し力を十分低減することができない。
【0020】このような背面1aの平滑化は、上記(1)又は(2)の方法で作られたPTFE原料シートをロール間で加熱加圧することで行うことができる。具体的には、例えば150?300℃、好ましくは150℃?200℃の熱ロールにて圧力5?30MPa、好ましくは5?15MPaの条件で圧延するなどすればよい。その際、少なくとも片方のロールは、表面粗さRaが0.1μm以下となるように鏡面仕上げしておくのが好ましい。」
「【0035】得られたシートを200℃の熱ロールにて、圧力12MPaで圧延し、0.05mm厚さのPTFEシートにした。このシートの表面粗さRaは両面ともに0.07μmであった。なお、表面粗さRaは、東京精密機器社製サーフコム554Aを用いて、スピード0.3mm/min、長さ2.5mm間の条件で測定した。」
「【0041】得られたシートを200℃の熱ロールにて、圧力12MPaで圧延し、0.05mm厚さのPTFEシートにした。このシートの表面粗さRaは両面ともに0.08μmであった。」

(2)文献4の記載
「【請求項1】 ポリテトラフルオロエチレンの焼成体から切削により作製された焼成ポリテトラフルオロエチレンシートの少なくとも表面部分を無荷重下に該焼成ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度に加熱する焼成ポリテトラフルオロエチレンシートの平滑化方法。
…(略)…
【請求項4】 加熱処理により表面粗度(Ra)が1/2以下に減少する請求項1?3のいずれかに記載の平滑化方法。
【請求項5】 請求項1?4のいずれかに記載の方法で平滑化された焼成ポリテトラフルオロエチレンシート。
【請求項6】 表面粗度(Ra)が350nm以下である請求項5記載の焼成ポリテトラフルオロエチレンシート。」
「【0002】
【従来の技術】PTFEは耐薬品性、非粘着性、耐熱性、電気絶縁性、耐候性、滑り性、不燃性などに特に優れており、種々の分野で成形品、シートなどの形で使用されている。しかし、PTFEは溶融成形ができないため、特にシートライニング用のPTFEシートを作製するには、PTFEを粉体成形法などで円柱状の予備成形品(ブロック)としたのちPTFEの融点(340?350℃)以上の340?450℃で焼成した焼成PTFE予備成形品を旋盤などにより所望の厚さのシート状に切削する方法によっている。」
「【0007】本発明において、焼成PTFEシートの加熱処理はシートの状態で行なってもよく、基材などにラミネート(またはライニング)したのち行なってもよい。
【0008】本発明の方法によれば、加熱処理によって表面粗度(Ra)が通常1/2以下に減少する。
【0009】本発明はまた、前記平滑化方法によりえられる好ましくは表面粗度(Ra)が350nm以下の焼成PTFEシートに関する。」
「【0018】本発明の平滑化処理により、表面粗度(Ra)が350nm以下、通常100?250nmのシートがえられる。」
「【0023】実施例1
ダイキン工業(株)のポリフロンM-15(テトラフルオロエチレンの単独重合体)を150kgf/cm^(2)の圧力のもとで圧縮成形し、外径290mm、内径97mm、高さ約300mmのブロックをえた。つぎに、このブロックを電気炉中で370℃にて15時間焼成したのち20℃/時間の速度で室温まで冷却した。えられた焼成PTFEブロックから旋盤加工により、厚さ2mmのシートを切削した。
【0024】この未処理のPTFEシートの表面状態を後述する方法で測定したところ、表面粗度(Ra)は660nm(Rmax7.2μm)であった。
【0025】ついで、未処理シートを370℃に昇温された電気炉中で5分間無荷重状態で加熱処理を行なった。えられた処理シートの表面状態を同じ方法で測定したところ、表面粗度(Ra)は280nm(R_(max)3.4μm)であった。
【0026】実施例2
ダイキン工業(株)のポリフロンM-111(パーフルオロアルキルビニルエーテルで微量変性したPTFE)を実施例1と同じ条件と方法で成形焼成してえられた焼成PTFEブロックから旋盤加工により、厚さ2mmのシートを切削した。
【0027】この未処理の変性PTFEシートの表面状態を後述する方法で測定したところ、表面粗度(Ra)は400nm(R_(max)5.2μm)であった。
【0028】ついで、未処理シートを実施例1と同じ条件と方法で加熱処理を行ない、えられた処理シートの表面状態を同じ方法で測定したところ、表面粗度(Ra)は160nm(R_(max)2.5μm)であった。」

(3)文献5の記載
「【請求項6】
保護膜形成層からなる略円形の領域と、前記領域を取り囲む再剥離粘着材からなる環状の領域と、を上面に有するシートからなる保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項7】
支持フィルムと、該支持フィルム上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層と、該支持フィルム上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材と、からなる請求項6に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項8】
支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された再剥離粘着材と、該再剥離粘着材上の中央部に形成された略円形の保護膜形成層と、からなる請求項6に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項9】
支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された保護膜形成層と、該保護膜形成層上の周辺部に形成された環状の再剥離粘着材と、からなる請求項6に記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。
【請求項10】
保護膜形成層が熱硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる請求項6?9のいずれかに記載の保護膜形成兼ダイシング用シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに保護膜を形成し、該保護膜にマーキングをする方法、およびそのような方法に好適に用いられる保護膜形成兼ダイシング用シートに関する。」
「【0021】
図2に示した保護膜形成兼ダイシング用シート12は、支持フィルム1と、支持フィルム1上に形成された再剥離粘着材3と、再剥離粘着材3上の中央部に形成された略円形の保【0024】
支持フィルム1としては、保護膜にレーザーマーキングによる印字が可能となるように、使用するレーザーの波長に透過性であるものが使用される。たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、…(略)…。またこれらの架橋フィルム、放射線・放電等による改質フィルムも用いられる。またこれらの積層フィルムであってもよい。
【0025】
さらに、耐熱性を考慮すると支持フィルム1としては、中でも高融点のものが好ましい。具体的には、融点は150℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。融点が150℃未満であると、保護膜形成層2を加熱硬化させる場合において、支持フィルム1が溶融し形状を保てなくなったり、周辺の装置と融着してしまうことがある。…(略)…」
「【0061】
保護膜形成兼ダイシング用シート12のような再剥離粘着材3上に保護膜形成層2が積層された構造の場合、再剥離粘着材3と保護膜形成層2の間に、上面に剥離面を有する剥離フィルムを設けて、保護膜の剥離性を向上させることができる。剥離フィルムとしては、支持フィルム1として例示したものを用いることができる。」

(4)文献6の記載
「[0023] 基材2は、貯蔵弾性率G´が例えば0.2?2.0(×10^( 8 )Pa)又は0.5?2.0(×10^( 8 )Pa)となるようにされる。貯蔵弾性率G´は、具体的には例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0(×10^( 8 )Pa)であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。基材2の貯蔵弾性率G´は、基材2の材料および厚さを適宜選択、変更することによって調整可能である。」
「請求の範囲
[請求項1] 基材と、基材の片面に形成された光硬化型の粘着剤層とを備える粘着シートであって、以下の条件で測定した粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率が0.5?2.0(×10^( 8 )Pa)であり、かつ粘着剤層の光硬化後の貯蔵弾性率/基材の貯蔵弾性率の値が1?3である粘着シート。
周波数:1Hz
歪み:0.1%
温度:30℃
…(略)…
[請求項6] 請求項1?5の何れか1つに記載の粘着シートに電子部品を貼り合わせる貼合工程と、貼合工程後の電子部品のダイシングを行うダイシング工程と、ダイシング工程後、基材の粘着剤層が形成されていない面側から光を照射し、電子部品を粘着剤層からピックアップするピックアップ工程と、を含む電子部品の製造方法。」

(5)文献7の記載
「【請求項1】
基材樹脂フィルムと、前記基材樹脂フィルム上に粘着剤層が形成された粘着シートであって、400?1100nmの波長領域における平行光線透過率が80%以上であることを特徴とするウエハ貼着用粘着シート。
【請求項2】
前記基材樹脂フィルムの前記粘着剤層が形成された面の反対側の面の算術平均粗さRaが、0.1?0.3μmであることを特徴とする請求項1に記載のウエハ貼着用粘着シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明はウエハ貼着用粘着シートおよびそれを用いたウエハの加工方法に関し、さらに詳しくは、レーザー光を用いたウエハ加工の際に、ウエハ貼着用粘着シート側からレーザー光を照射できるウエハ貼着用粘着シートおよびそれを用いたウエハの加工方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一般的に半導体加工用テープの基材樹脂フィルム側表面は、巻き状態でのブロッキング防止やハンドリング上の点から粗面処理されているのが通常であり、そのためフィルム側からレーザーを入射するとその凹凸により散乱し、十分な透過性がなかった。
【0009】
また、特許文献2においては、粘着シートを複数枚使用するため、コスト面の課題があった。また、特許文献2の粘着シートは、1064nmの全反射透過率が70%以上、平行光線透過率が30%以上である基材フィルムを特定しているが、CCD等で回路面側のストリートをモニタリングするには、さらに透過性が高いことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、ウエハの回路面を粘着シートに貼合した場合でも、粘着シート側からの回路面の位置合わせおよび粘着シート側からの赤外波長レーザー光の入射による改質層の形成が可能となることである。」
「【0018】
…(略)…
この2回のアライメントはいずれも回路面側のCCD等でストリートを読み取って行われるため、可視波長領域の平行光線透過率は80%以上必要となる。
【0019】
一方で、アライメント後、特許文献2のように、粘着シート側より赤外レーザー光を照射し、ウエハに改質層を形成する個片化工程を含む場合は可視波長領域(400?760nm)以外に赤外波長領域(760?1100nm、特に1064nm付近)の透過性も必要となる。なお、ウエハは、回路面側を粘着シートに貼着してもよいし、特許文献2のように回路面と反対側を粘着シートに貼着してもよいが、必要とされる透過率は同じである。
十分な改質層形成を行うためには可視波長から1100nmまでの波長領域での平行光線透過率は80%以上必要であり、それ以下では、十分な改質層が形成できず、ウエハの個片化ができなくなる。…(略)…」

(6)文献8の記載
「【請求項1】
基材フィルム上に粘着剤層を有し、
前記粘着剤層が、ドット状パターンの粘着領域を有することを特徴とするウエハ加工用テープ。」
「【0019】
本発明に係る半導体ウエハ1は、回路などが形成されたパターン面(図示せず)を一方に有するシリコンウエハなどであり、既に裏面研削(バックグラインド)工程が完了しており、半導体ウエハの薄層化がされている。」
「【0021】
(基材フィルム)
基材フィルム5を構成する材料としては、従来公知のものであれば特に制限することなく使用することができるが、粘着剤層7として、エネルギー硬化性の材料のうち放射線硬化性の材料を使用する場合は、放射線透過性を有するものを使用する。なお、粘着剤層7として、エネルギー硬化性の材料のうち放射線硬化性の材料を使用する場合、放射線としては紫外線を用いることが好ましく、基材フィルム5は紫外線透過性を有し、粘着剤層7として紫外線硬化性の材料を使用することが好ましい。
【0022】
例えば、その材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのα-オレフィンの単独重合体または共重合体あるいはこれらの混合物、ポリウレタン、スチレン-エチレン-ブテンもしくはペンテン系共重合体、ポリアミド-ポリオール共重合体等の熱可塑性エラストマー、およびこれらの混合物を列挙することができる。また、基材フィルム5はこれらの群から選ばれる2種以上の材料が混合されたものでもよく、これらが単層又は複層化されたものでもよい。基材フィルム5の厚さは、特に限定されるものではなく、適宜に設定してよいが、50?200μmが好ましい。
…(略)…
【0024】
また基材フィルム5の粘着剤層7が塗布されない側の基材フィルム5背面に、例えばシボ加工を施す等の方法により、表面粗さRaは0.3μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは基材フィルム5背面の表面粗さRaは0.5μm以上である。このような表面粗さRaを有することにより、ブロッキング防止、加工用テープのエキスパンド時の治具との摩擦を減少することによる接着剤層9の分断性向上の効果が得られ、好ましい。その他基材フィルム5背面に潤滑剤を塗布するのでもよい。」
「【0060】
まず、図1(b)に示すように、裏面研削した半導体ウエハ1の裏面を、ウエハ加工用テープ11の粘着剤層7上に積層された接着剤層9に接着する。ウエハ加工用テープ11は、予めリングフレーム15の下面に貼着されており、半導体ウエハ1は、リングフレーム15に固定される。リングフレーム15に固定された半導体ウエハ1の斜視図を、図2に示す。このとき、チップの分割予定ラインに沿った位置には粘着剤13は塗布されていない。
続いて、フルカットダイシングもしくはレーザーグルービングによるウエハダイシングまたはステルスダイシング法によりウエハへの切断の起点となる部位の形成した図1(c)に示す半導体ウエハ1を得る。」

(7)文献9の記載
「【請求項1】少なくとも片面の表面粗度Raが0.15以上であり、伸張前の面内位相差R_(0)が300nm以下、25%伸張後の面内位相差R_(25)とR_(0)との比R_(25)/R_(0)が1.50以下であることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。
【請求項2】結晶性ポリオレフィンを主成分とする層(A)とプロピレン成分及び/又はブテン-1成分を50重量%以上含有する非晶質ポリオレフィンを含む層(B)とが(A)/(B)/(A)の構成をとる請求項1記載のポリオレフィン系フィルム。
…(略)…
【請求項6】請求項5記載のポリオレフィン系フィルムを基材とする半導体ウエハのダイシング用テープ。」
「【0011】フィルム表面の凹凸の程度を本発明では表面粗度Raで示す。本発明のフィルムの少なくとも片面は表面粗度Raが0.15以上、好ましくは0.17以上、さらに好ましくは0.20以上であるので、滑性に優れる。」
「【0016】層(B)と積層する層(A)の結晶性ポリオレフィンとは、前記ポリオレフィンの内、示差走査熱量計で結晶融解ピークを示す、好ましくは95?168℃で結晶融解ピークを示すものである。例えば、ホモポリプロピレンやプロピレンとエチレン等他のオレフィンとの共重合体、ホモポリエチレンやエチレンとプロピレン等他のオレフィンとの共重合体が例示できる。」
「【0018】次に本発明フィルムの用途の1つである半導体ウエハのダイシング用テープ(ダイシング用テープは本発明のポリオレフィン系フィルムの非凹凸面側に粘着剤を塗布したものである)について説明する。回路パターンが形成された半導体ウエハをチップ状に分離する、いわゆるダイシング加工は以下のような工程からなる。
[1](合議体注:丸数字1等は[1]等とした。以下同様。)ダイシング用テープの粘着面にリング状のフレームを張り付ける(図1参照)。
[2]次いで、ダイシング用テープを所定の大きさにカットする。
[3]次いで、フレーム中央の粘着面上にウエハを貼着する。
[4]次いで、ダイシング用テープに貼着したウエハをダイヤモンドブレード等で格子状に切り分け(この時、一般にはダイシング用テープのほぼ中央部までブレードの刃先が入る)、個々の半導体素子とする(図2参照)。
[5]次いで、ステンレス製押し上げ具によってフレーム内のダイシング用テープを拡張し、切り取った半導体素子同士の間隔を広げる(図3、図4参照)。
[6]次いで、ピックアップ装置によって、個々の半導体素子をピックアップする。」

(8)文献10の記載
「【請求項1】
基材シートと、
前記基材シートの一方の面に設けられた第1接着剤層と、
前記基材シートの一方の面に前記第1接着剤層を囲むように設けられた第2接着剤層とを備え、
前記第1接着剤層は、複数の被着体の被着面の形状に対応した形状に形成され、当該複数の被着体を接着可能に設けられていることを特徴とする接着シート。」
「【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、接着シートAS1は、被着体としてのウェハWFと被着体としてのリングフレームRFとに貼付されることで、リングフレームRFでウェハWFを保持させるものである。」
「【0058】
さらに、図9に示すように、接着シートAS6において、基材シートBSの一方の面の全領域に第1接着剤層AD1を設け、当該第1接着剤層AD1における複数のチップCPを接着可能な領域を囲むように第1接着剤層AD1を設けることで、基材シートBSの一方の面に第1接着剤層AD1を介して第2接着剤層AD2を積層してもよい。
前記実施形態では、第2接着剤層AD2は、その外縁部が周方向に連続して形成されていたが、外縁部を周方向に沿って断続的に形成してもよい。
また、第1接着剤層AD1は、感圧接着性の接着剤でもよいし、第2接着剤層AD2は、熱可塑性、熱重合性等を有する接着剤でもよい。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)申立理由〔1-1〕:引用発明1に基づく第29条第2項違反
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1とを対比する。

a 本件発明1の基材は、粘着剤層が積層された「基材の第1の面」と、「基材の第2の面」の2つの面を有するものであり、引用発明1の基材も、粘着剤層が形成された「粗面」と、「平滑面」の2つの面を有するものであるから、引用発明1の基材の「粗面」、基材の「平滑面」は、それぞれ本件発明1の「基材の第1の面」、「基材の第2の面」に相当する。

b 引用発明1において、「粘着剤層には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよ」いものであるから、本件発明1と、引用発明1のダイシングシートは、「粘着剤層の基材とは反対の面側に積層された剥離シート」を備えたものである点で一致する。

c 本件発明1の「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり」と、引用発明1の「平滑面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.08?0.3μm程度であり」とを対比すると、両者は、「前記基材の第2の面における平均粗さは、所定の数値にある」点で共通する。

d そうすると、本件発明1と引用発明1との間には、次の一致点と相違点がある。
<一致点>
「基材と、
前記基材の第1の面側に積層された粘着剤層と、
前記粘着剤層の前記基材とは反対の面側に積層された剥離シートと
を備えたダイシングシートであって、
前記基材の第2の面における平均粗さは、所定の数値範囲にある
ダイシングシート。」
<相違点A>
基材の第2の面における粗さについて、本件発明1では、「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり、前記基材の第2の面における、前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下」であるのに対し、引用発明1では、「平滑面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.08?0.3μm程度」であるものの、本件発明1のような特定はなされていない点。

(イ)以下、上記相違点Aについて検討する。
a 最初に、「算術平均粗さRa」と「中心線平均粗さRa」について、検討する。
本件明細書の段落【0021】には、「加熱前の算術平均粗さ(Ra1)および加熱後の算術平均粗さ(Ra2)は、JIS B601:2001」に基づいて測定したもの」と記載されているところ、例えば、特開2004-109929号公報(段落【0047】を参照。)、特開2010-126776号公報(段落【0039】を参照。)に記載されているように、JIS B601:2001に定められる「算術平均粗さ」はいわゆる「中心線平均粗さ」を意味することと認められる。

b 本件発明1では、基材の第2の面の粗さについて、「130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)」の数値範囲「0.25μm以下」は、加熱前の「算術平均粗さ(Ra1)」の数値範囲「0.47μm以上」よりも小さいものである。すなわち、基材の第2の面の粗さは、「130℃で2時間」の「加熱」により低減されるものである。
また、本件の明細書の発明の詳細な説明には、基材の背面(第2の面)について、段落【0026】には、「一方、基材2の背面の上記条件による加熱後の算術平均粗さ(Ra2)が0.25μm以下であることにより、ダイシングシート1の加熱後、基材2の背面側からレーザ光を照射した時に、レーザ光が基材2の背面の凹凸で乱されることなくダイシングシート1を透過し、ワーク(半導体ウエハ)に効率良く到達し、レーザ光透過性に優れる。したがって、ステルスダイシングによるワークの分割性に優れる。」と記載されている。
したがって、本件発明1の「算術平均粗さ(Ra2)」の数値範囲「0.25μm以下」は、基材2の背面側からレーザ光を照射した時に、レーザ光が基材2の背面の凹凸で乱されることなくダイシングシート1を透過するものである。

c 一方、引用発明1のダイシングシートの、「基材」の「第2の面」に相当する「平滑面」は、「中心線平均粗さRaは、好ましくは0.08?0.3μm程度」であり、「基材の平滑面が露出面となり、平滑面側からレーザー光が入射するため、基材表面でのレーザー光の散乱が防止され、レーザー光の有効利用が図られる」ものであるから、当業者であっても、基材として、さらに、平滑面側の中心線平均粗さRaが「加熱により低減される」ものを採用する動機付けを見出すことはできない。

d また、引用発明1の「平滑面側の中心線平均粗さRa」の好ましい数値範囲「0.08?0.3μm程度」は、本件発明1の「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)」の数値範囲「0.47μm以上」とは異なるものであるといえるところ、引用発明1において、上記cで検討したように、「基材の平滑面が露出面となり、平滑面側からレーザー光が入射するため、基材表面でのレーザー光の散乱が防止され、レーザー光の有効利用が図られる」、基材の平滑面側の「中心線平均粗さ(算術平均粗さ)Ra」の数値範囲を「0.47μm以上」と大きいものに替える動機付けはなく、レーザー光の散乱を防止するためには、むしろ阻害要因があるといえる。

e 以上のとおりであるから、引用発明1において、「平滑面側の中心線平均粗さRa」を、「算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり」、「前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下」のものとすることは、当業者であっても容易になし得るものではない。
また、仮に、JIS B601:2001に定められる「算術平均粗さ」はいわゆる「中心線平均粗さ」を意味することとはいえないとしても、上記cで検討したように、引用発明1において、当業者であっても、基材として、平滑面側の中心線平均粗さRaを、「加熱により低減される」ものを採用する動機付けがなく、さらに、ダイシングシートにおいて、加熱前のブロッキング防止と、加熱後のレーザー光の散乱防止のために、基材の第2の面における算術平均粗さを、加熱前は大きいものとし、加熱後は小さいものとすることは、文献2?10には記載も示唆もされていないことから、引用発明1において、「平滑面側の中心線平均粗さRa」を、「前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下」のものとすることは、当業者であっても容易になし得るものではない。
よって、本件発明1は、文献2?10に記載された技術的事項を参照したとしても、引用発明1に基いて、当業者が容易になし得るものではない。

(ウ)特許異議申立人石川郁亮は、理由〔1-1〕について、「3)甲第1号証〔0031〕によれば、…(略)…当該基材の両面において二種の中心線平均粗さ(表面粗さ)Raを規定すべきとする示唆及び開示があることは明らかである。
そして、甲第1号証〔0031〕によれば、このような二種の表面粗さRaを規定するのは、「…(略)…また小さすぎる場合には、シートの滑り性が損なわれる。」ということを防止することであるとしている。
従って、この甲第1号証の課題又は効果は、即ち、光透過性の向上と、ブロッキング防止という本件特許発明の課題又は効果と同一である(本件特許明細書【0016】、【0023】、及び【0026】)。」旨を主張する(異議申立書27?28ページを参照。)。

しかしながら、甲第1号証には、以下のように記載されている(再掲)。
「【0013】
一方、回路面側に貼付されたダイシングシートを通してレーザー光を照射し、ウエハのダイシングを行うことも提案されている(たとえば特許文献6)。この方法では、レーザー光はダイシングシートを透過した後、ウエハに照射される。したがって、ダイシングシートには、高いレーザー光透過性と、レーザー光に対する耐久性が要求される。
【0014】
ところで、一般にダイシングシートなどの粘着シートに用いられる基材は、樹脂のロール成形により製造されている。樹脂のロール成形の際には、ゴムロールと金属ロールのように、2種の材質の異なるロールが用いられる。得られる樹脂シートは、ゴムロールに接する表面の表面粗さ(中心線平均粗さRa)が、金属ロールに接する他面の中心線平均粗さRaよりも大きくなる。ダイシングシートにおいては、エキスパンド時にシートの滑り性が要求されるため、通常は平滑面側に粘着剤層が積層され、粗面側が露出して基材面となる。」
「【0031】
粘着剤層2が設けられる基材1の粗面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.15?1μm、さらに好ましくは0.2?0.9μm、特に好ましくは0.25?0.8μm程度であり、一方、平滑面側の中心線平均粗さRaは、好ましくは0.08?0.3μm、さらに好ましくは0.1?0.2μm、特に好ましくは0.12?0.16μm程度である。粗面側の中心線平均粗さが大きすぎる場合には、粘着剤層を設けても表面の凹凸が十分に吸収されず、シート内でレーザー光が散乱してしまうことがある。一方、平滑面側の表面粗さが大きすぎる場合には、基材表面でレーザー光が散乱してしまい、また小さすぎる場合には、シートの滑り性が損なわれる。」

したがって、甲第1号証には、ダイシングシートに対して、高いレーザ光透過性が要求されること、及び、一般に、ロール成形による樹脂の基材は両面の表面粗さが異なること、並びに、平滑面側の表面粗さが大きすぎる場合には、基材表面でレーザー光が散乱してしまい、また小さすぎる場合には、エキスパンド時のシートの滑り性が損なわれることは開示されているものの、本件特許明細書の段落【0016】及び【0023】に記載されている「ロール状に巻き取った状態からダイシングシートを繰り出した際」の「ブロッキング防止」という課題が開示されているとは認められないことから、甲第1号証の課題又は効果が、本件発明1の課題又は効果と同一であるということはできない。
よって、申立人の上記主張には理由がない。

イ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、それぞれ、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記アに示した理由と同様の理由により、本件発明2?6は、文献2?10に記載された技術的事項を参照したとしても、引用発明1に基いて、当業者が容易になし得るものではない。

(2)申立理由〔1-2〕:引用発明2に基づく第29条第2項違反
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件発明1と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2の「基材の一方の面」、「基材の粘着剤層に対向する側と反対側の面である背面」は、それぞれ本件発明1の「基材の第1の面」、「基材の第2の面」に相当する。

b 本件発明1の「ダイシングシート」は、剥離シートを備えたものであるから、引用発明2の「レーザーダイシングシート-剥離シート積層体」は、本件発明1の「ダイシングシート」に相当する。

c 本件発明1の「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり」と、引用発明2の「前記基材の前記粘着剤層に対向する側と反対側の面である背面は、その表面の粗さが算術平均粗さRaで0.1μm未満である第1の領域および0.3μm以上である第2の領域を備え」とを対比する。
引用発明2において、基材の背面の「算術平均粗さ」は所定の数値範囲にあるといえるから、本件発明1と引用発明2は、「前記基材の第2の面における算術平均粗さは、所定の数値にある」点で共通する。

d そうすると、本件発明1と引用発明2との間には、次の一致点と相違点がある。
<一致点>
「基材と、
前記基材の第1の面側に積層された粘着剤層と、
前記粘着剤層の前記基材とは反対の面側に積層された剥離シートと
を備えたダイシングシートであって、
前記基材の第2の面における算術平均粗さは、所定の数値範囲にある
ダイシングシート。」
<相違点B>
基材の第2の面における粗さについて、本件発明1では、「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり、前記基材の第2の面における、前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下」であるのに対し、引用発明2では、「前記基材の前記粘着剤層に対向する側と反対側の面である背面は、その表面の粗さが算術平均粗さRaで0.1μm未満である第1の領域および0.3μm以上である第2の領域を備え」るものの、本件発明1のような特定はなされていない点。

(イ)以下、上記相違点Bについて検討する。
a 上記(1)ア(イ)bで検討したように、本件発明1では、基材の第2の面の粗さは、「130℃で2時間」の「加熱」により低減されるものであり、また、本件発明1の「130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)」の数値範囲「0.25μm以下」は、基材2の背面側からレーザ光を照射した時に、レーザ光が基材2の背面の凹凸で乱されることなくダイシングシート1を透過するものである。

b 一方、文献2の段落【0011】?【0013】、【0016】、【0029】の記載(上記「第4」の2(1)を参照。)から、引用発明2のレーザーダイシングシート-剥離シート積層体(DR積層体)は、「前記基材の前記粘着剤層に対向する側と反対側の面である背面は、その表面の粗さが算術平均粗さRaで0.1μm未満である第1の領域および0.3μm以上である第2の領域」を備えることで、使用時にレーザーダイシングシートに照射されたレーザー光が基材によって散乱されたり位相の均一性が低下したりしにくく、適切なレーザー光を板状部材に照射することができ、しかも、巻取体やスタック体の形態であっても、DR積層体供給不良が生じにくいとの効果を奏するものである。
そうすると、基材の背面に算術平均粗さの異なる2つの領域を備えることで、適切なレーザー光を板状部材に照射すること、及び、DR積層体供給不良が生じにくいことを実現している引用発明2において、それら2つの領域を備えずに、「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり、前記基材の第2の面における、前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下」のものを採用する動機付けを見出すことはできない。
したがって、本件発明1は、引用発明2に基いて、当業者が容易になし得るものではない。

なお、ダイシングシートにおいて、加熱前のブロッキング防止と、加熱後のレーザー光の散乱防止のために、基材の第2の面における算術平均粗さを、加熱前は大きいものとし、加熱後は小さいものとすることは、文献3?10には記載も示唆もされていないことから、本件発明1は、文献3?10に記載された技術的事項を参照したとしても、引用発明2に基いて、当業者が容易になし得るものではない。

(ウ)特許異議申立人石川郁亮は、〔理由1-2〕について、「3)先ず、甲第2号証によれば、…(略)…であることが明らかに開示及び教示されている。
そして、甲第2号証発明は、本件特許発明の発明構成要素と略同様のものを採用することにより、レーザー光が基材において散乱せず適切なレーザー光を板状部材に照射することがことができ、かつ「DR積層体供給不良」を抑制することが可能なことが明らかに開示されている。(〔0029〕)
そうすると、甲第2号証発明と、光透過性の向上と、ブロッキング防止という本件特許発明とは、従来技術の問題、解決すべき課題及び発明の効果という点において明らかに同一のものである(…(略)…)。
4)次に、甲第2号証…(略)…開示が明らかなされている。
5)以上のことを全て勘案すると、甲第2号証には、…(略)…を容易に採用することの理論付けが明らかに開示されていることが理解される。」(下線は合議体が付与した。)旨を主張する(異議申立書35?36ページを参照。)。

上記主張において、「本件特許発明の発明構成要素と略同様のもの」とは、どのようなことをいうのか定かではなく、また、「5)」における「理論付け」とは、どのような理論であるのか不明であるが、上記(イ)で検討したように、引用発明2は、「その表面の粗さが算術平均粗さRaで0.1μm未満である第1の領域および0.3μm以上である第2の領域」を備え、適切なレーザー光を板状部材に照射することができるものであり、かつ、巻取体やスタック体の形態であっても、DR積層体供給不良が生じにくいとの効果を奏するものであるから、引用発明2において、当業者であっても、基材の背面の表面粗さの数値範囲を「0.47μm以上」と大きいものであって、かつ、その背面の表面の粗さが「加熱により低減される」ものを採用する動機付けを見出すことはできない。
よって、申立人の上記主張には理由がない。

イ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、それぞれ、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記アに示した理由と同様の理由により、本件発明2?6は、文献3?10に記載された技術的事項を参照したとしても、引用発明2に基いて、当業者が容易になし得るものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?6は、文献1に記載された発明又は文献2に記載された発明並びに文献2?10に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
特許異議申立人石川郁亮は、特許異議申立書の「3 申立の理由」の《4》「〔2〕理由2」(43?44ページを参照。)において、要するに、基材の「表面粗さ」は、基材及び粘着剤層等の種類、構造、物性、化学的及び物理的性状等によって可変するものであるが、基材と粘着剤層が如何なる物質であるかを全く規定していない本件特許発明では、基材の表面粗さは、一義的かつ直接的に定まるものではなく、不明確であると主張している。
しかしながら、本件発明1は、「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり、前記基材の第2の面における、前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下」と特定したことで、基材と粘着剤層を構成する物質が規定されていなくても、「基材」の「表面粗さ」は明らかになっていることから、本件発明1が不明確であるとする特許異議申立人の主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、特許を受けようとする発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
よって、特許異議申立人の「3 申立の理由」の《4》「〔2〕理由2」における上記主張は、理由がない。

3 申立理由3(特許法第36条第6項第1号違反)について
特許異議申立人石川郁亮は、特許異議申立書の「3 申立の理由」の《4》「〔3〕理由3」(45ページを参照。)において、要するに、本件特許明細書の段落【0102】?【0108】及び【表1】に記載された実施例以外の物質を採用した場合における加熱前後の「当該基材の表面粗さ」は全く開示も示唆もされていないので、本件特許は、発明の詳細な説明に記載されたものであるという要件(サポート要件)に適合するものではないと主張している。

ところで、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する必要がある。

そこで、本願発明の課題について検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】及び【0016】の記載から、本件発明1の課題は、「ロール状に巻き取った状態から前記ダイシングシートを繰り出した際のブロッキングの発生を抑制することができ、レーザ光照射時にはレーザ光透過性に優れるダイシングシートを提供すること」にあると理解できる。

そして、発明の詳細な説明の段落【0021】?【0028】等には、基材の第2の面における粗さについて記載されており、さらに、発明の詳細な説明の段落【0102】?【0108】及び【表1】には、特許請求の範囲に記載された「前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra1)は、0.47μm以上であり」、「前記基材の第2の面における、前記ダイシングシートを130℃で2時間加熱した後の算術平均粗さ(Ra2)は、0.25μm以下である」との構成により、実施例1?6に記載されているように、耐ブロッキング性については全く問題がなく、また、ダイシング分割性についても許容される分割性を有するものとなることから、上記発明の課題を解決できたものとなっている。
すなわち、当業者であれば、本願の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1?6において特定される範囲において、本件発明1?6の課題が解決されることを、発明の詳細な説明の記載及び本願の出願時の技術常識から理解することができるものと認められる。

したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
よって、特許異議申立人の「3 申立の理由」の《4》「〔3〕理由3」における上記主張は、理由がない。

4 申立理由4(特許法第36条第4項第1号違反)について
特許異議申立人石川郁亮は、特許異議申立書の「4 申立の理由」の《4》「〔4〕理由4」(46?47ページを参照。)において、要するに、本件特許明細書の段落【0102】?【0108】及び【表1】に記載された実施例以外の物質を採用した場合における加熱前後の「当該基材の表面粗さ」は全く開示も示唆もされていないので、当業者は本件特許発明を実施することができないと主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0102】?【0108】及び【表1】には、本件発明1?6に係るダイシングシートを製造する実施例1?6が記載されており、また、発明の詳細な説明の段落【0030】?【0042】には、実施例1?6以外の基材の物質が記載され、段落【0043】?【0075】には、実施例1?6以外の粘着剤層の物質が記載されているので、本件特許明細書には、実施例1?6以外の物質を採用した場合においても、当業者が実施可能に記載されているものと認められる。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということができ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
よって、特許異議申立人の「3 申立の理由」の《4》「〔4〕理由4」における上記主張は、理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-12 
出願番号 特願2016-527710(P2016-527710)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 祐一郎  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
恩田 春香
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6319438号(P6319438)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 ダイシングシート  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
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