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審決分類 |
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C07D 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C07D 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C07D 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C07D 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C07D |
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管理番号 | 1349873 |
審判番号 | 訂正2018-390146 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-09-21 |
確定日 | 2019-02-28 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5733800号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5733800号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第5733800号(以下「本件特許」という。)は、2010年11月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年11月4日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願(特願2012-537372号)の請求項1?11に係る発明について、平成27年4月24日に特許権の設定登録がなされたものである。 そして、平成30年9月21日に本件訂正審判の請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされた。 第2 請求の趣旨及び理由 本件訂正審判請求の趣旨は「特許第5733800号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?11について訂正することを認める、との審決を求める。」というものであり、すなわち、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を下記訂正事項のとおりに訂正することを求めるというものである。 請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。 1 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」及び「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」とあるのを、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」及び「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」と訂正する(審決注:下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。 また、請求項1の記載を直接引用する請求項2?11も同様に訂正する。 2 訂正事項2 明細書の段落【0001】、【0002】、【0012】、【0027】及び【0030】にそれぞれ記載された「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ブトロール)」及び「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」とあるのを、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ブトロール)」及び「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」と訂正する。 第3 当審の判断 1 一群の請求項ごとに訂正を請求すること(特許法第126条第3項及び第4項)について 本件訂正請求は、二以上の請求項が記載された特許請求の範囲の訂正を請求し、また、明細書の訂正を請求するものであるので、本件訂正請求が、特許法第126条第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであるかを検討する。 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1?11について、訂正事項1は、請求項1の記載を訂正するものであるところ、請求項2?11は請求項1を直接引用しており、請求項1についての訂正事項1により内容が訂正されるものであるから、請求項2?11についての訂正を含むものであるといえる。 したがって、訂正事項1に係る訂正前の請求項1?11は、特許法第126条第3項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。 (2)訂正事項2について 本件特許明細書の段落【0001】、【0002】、【0012】、【0027】及び【0030】に記載されている訂正事項2は、訂正事項1に係る、訂正後の請求項1及びその請求項1を直接引用して特定されている訂正後の請求項2?11に対応する訂正事項である。 したがって、訂正事項2は、一群の請求項である請求項1?11全てについて行われるものであるから、特許法第126条第4項の記載に適合するものである。 (3)以上のとおり、本件訂正請求は、前記の一群の請求項がある特許請求の範囲について、当該一群の請求項ごとに訂正を請求するものであるから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。 2 訂正の目的(特許法第126条第1項ただし書)について (1)訂正事項1について 請求人は、訂正事項1は「誤記・・の訂正」を目的とするものである旨を主張しているので、この点について検討する。 ア 「誤記・・の訂正」を目的とする訂正について 特許法第126条第1項ただし書第2号は、「誤記・・の訂正」を目的とする場合には、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。 イ 特許請求の範囲の請求項1の記載に何らかの誤記があることに当業者が気付くかどうか そこで、まず、本件特許請求の範囲の請求項1に接した当業者が、請求項1の記載は原則として正しい記載であることを前提として、本件訂正前の請求項1の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうかを検討する。 (ア)請求項1には、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」の製造方法であって、原料化合物として「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」を脱錯化剤を用いて解離させ[a)工程]、沈殿したガドリニウム塩を除去し[b)工程]、(ガドリニウム塩除去後の)遊離のリガンドを酸性イオン交換樹脂に結合させ[c)工程]、該樹脂をアルカリ水溶液で溶出し[d)工程]、該溶出液を酸性イオン交換樹脂で処理し[e)工程]、リガンドをCa^(2+)イオンと錯体化し結晶化させる[f)工程]ことを含む方法が記載されている。 a)工程?f)工程の各処理方法は技術的に理解できるため、前記原料化合物及び前記製造化合物の各記載を、以下検討する。 (イ)原料化合物である「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」の記載について 原料化合物である「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」(以下「原料化合物」という。)は、その名称から、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」部分、「(ガドブトロール)」部分、「ガドリニウム」部分及び「錯体」部分に分けることができ、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」部分は、有機化学命名法による有機化合物を、「ガドリニウム」部分は、ガドリニウムのイオンであることを、「錯体」部分は、前記有機化合物と前記ガドリニウムのイオンが配位していることを、「(ガドブトロール)」部分は、前記有機化合物と前記ガドリニウムのイオンが配位している錯体の別名(本件特許明細書段落【0002】参照)を、それぞれ表している。 そして、前記有機化合物である「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」(以下「化合物A」という。)は、「1,4,7,10-テトラアザシクロデカン」との名称から、炭素原子を含む10員環であって(シクロデカン)、1,4,7,10位(10員環における位置)に窒素原子を4つ有する(テトラアザ)環状化合物であり、1,4,7,10位の窒素原子のうち、1,4,7位の窒素原子に、それぞれの位置に1個ずつ「酢酸」基(アセテート基:-CH_(2)-COOH)が、また、10位の窒素原子に「(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル」基が、それぞれ置換している化学構造を有していることを表している。 これらのことから、当業者は、原料化合物を、4つの窒素原子に特定の置換基を有する10員環の環状化合物である化合物Aとガドリニウムのイオンが配位している錯体(別名ガドブトロール)、と理解することができる。 一方、当業者は、イオンと配位することが知られている窒素原子を4つもつ環状化合物(例えば、ポルフィリン環構造等)が、4つの窒素原子が炭素原子を介して均等に環状化合物上に配置された構造を有しており、いずれの窒素原子も窒素原子どうし直接結合していない構造であることを、技術常識として理解している。 そこで、前記化合物Aについてみると、化合物Aは、10員環の環状化合物であることから、その環を構成する原子の数は4つの窒素原子を含めて10個であり、そのうち1,4,7,10位に窒素原子があることが明らかであることから、1位と10位の窒素原子が隣り合った、すなわち、窒素原子が直接結合した環構造を有する環状化合物を表していることになる。 そうすると、当業者は、前記技術常識に照らして、原料化合物における、化合物Aに少なくとも何らかの誤記があることに気付くものと認められる。 (ウ)製造される化合物である「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」の記載について 製造される化合物である「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」(以下「製造化合物」という。)は、その名称から、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」部分、「(カルコブトロール)」部分、「カルシウム」部分及び「錯体」部分に分けることができ、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」部分は、有機化学命名法による有機化合物を、「カルシウム」部分は、カルシウムのイオンであることを、「錯体」部分は、前記有機化合物と前記カルシウムのイオンが配位していることを、「(カルコブトロール)」部分は、前記有機化合物と前記カルシウムのイオンが配位している錯体の別名(本件特許明細書段落【0001】参照)を、それぞれ表している。 そして、前記有機化合物である「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」は、前記(イ)の「化合物A」と同じ化学構造を有していることを表している。 これらのことから、当業者は、製造化合物を、4つの窒素原子に特定の置換基を有する10員環の環状化合物である化合物Aとカルシウムのイオンが配位している錯体(別名カルコブトロール)、と理解することができる。 そうすると、化合物Aについては、前記(イ)で既に検討したとおりであるから、当業者は、前記技術常識に照らして、製造化合物における、化合物Aに少なくとも何らかの誤記があることに気付くものと認められる。 ウ 特許請求の範囲の請求項1の誤記が、本件訂正に係る訂正前の前記化合物Aのどこにあるのか当業者が分かるかどうか 当業者は、前記イ(イ)及び(ウ)で述べたとおり、原料化合物及び製造化合物における、化合物Aに少なくとも何らかの誤記があることに気付くものと認められる。 そこで、化合物A、すなわち、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」のいずれに誤記があると当業者が分かるかどうかを検討する。 化合物Aについてみると、前記イ(イ)及び(ウ)で述べたとおり、化合物Aは、10員環の環状化合物であることから、その環を構成する原子の数は4つの窒素原子を含めて10個であり、そのうち1,4,7,10位に窒素原子があることが明らかであることから、1位と10位の窒素原子が隣り合った、すなわち、窒素原子が直接結合した環構造を有する環状化合物を表していることになる。 そこで、化合物Aの10員環の構造に着目すると、10員環の環状化合物のうち、窒素原子の位置は、1,4,7,10位であることから、1位の窒素原子と4位の窒素原子の間、4位の窒素原子と7位の窒素原子の間、及び、7位の窒素原子と10位の窒素原子の間には、それぞれ炭素原子が2個存在し、10位の窒素原子と1位の窒素原子は、直接結合しており、その間には、炭素原子が存在していない。 そして、前記イ(イ)及び(ウ)で述べたとおり、当業者は、イオンと配位することが知られている窒素原子を4つもつ環状化合物(例えば、ポルフィリン環構造等)が、4つの窒素原子が炭素原子を介して均等に環状化合物上に配置された構造を有しており、いずれの窒素原子も窒素原子どうし直接結合していない構造であることを、技術常識として理解していることを考慮すると、1位の窒素原子と4位の窒素原子の間、4位の窒素原子と7位の窒素原子の間、及び、7位の窒素原子と10位の窒素原子の間に、それぞれ炭素原子が2個存在しているのに対し、10位の窒素原子と1位の窒素原子の間に2個の炭素原子が存在していない状況は、明らかに不自然であり、当業者は、化合物Aが「10員環」、すなわち、シクロ環の原子数に誤記があることが分かると認められる。 なお、化合物Aの10員環の環状化合物が有している1,4,7,10位の窒素原子に結合している特定の置換基は、化学的に矛盾がなく、そこに誤記があるとは認められない。 エ 正しい記載が本件訂正に係る訂正後の化合物Aの「シクロドデカン」部分であると当業者が分かるかどうか 前記ウのとおり、特許請求の範囲の請求項1の原料化合物及び製造化合物に共通して記載されている化合物Aの「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」における誤記が、「シクロデカン」部分にあることに気付いた当業者が、正しい記載が「シクロドデカン」であると分かるかどうかを検討する。 前記ウで述べたとおり、化合物Aは、1位の窒素原子と4位の窒素原子の間、4位の窒素原子と7位の窒素原子の間、及び、7位の窒素原子と10位の窒素原子の間に、それぞれ炭素原子が2個存在するのに対し、10位の窒素原子と1位の窒素原子の間には、2個の炭素原子が存在していない状況は、明らかに不自然であり、当業者は、化合物Aが「10員環」、すなわち、シクロ環の原子数に誤記があることが分かると認められる。 そして、前記のとおり、化合物Aは、10位の窒素原子と1位の窒素原子の間に、前記他の窒素原子間と同様に、炭素原子が2個存在しないことが不自然であることから、10位の窒素原子と1位の窒素原子の間も、前記他の窒素原子間と同様に、炭素原子が2個存在すると理解するのが自然である。すなわち、窒素原子4個及び炭素原子8個の合計12個の原子を有する12員環の環状化合物が正しい化学構造であると理解するのが合理的であり、12員環は、「シクロドデカン」にほかならない。 このことは、本件特許明細書の段落【0004】記載された論文「Inorg. Chem. 1997, 36, 6086-6093」の「図式3」[審決注:p.6088-6089に記載されている図式は「スキーム3」であるから、「スキーム3」を意味するものと認める。]中の化合物番号12のカルシウム錯体化合物の化学構造式からも裏付けられている。 したがって、当業者は、化合物Aの誤記である「シクロデカン」部分の正しい記載が「シクロドデカン」であると分かるといえるから、化合物Aの正しい記載は、「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸」であるといえる。 オ 小括 以上によると、本件特許明細書に接した当業者であれば、本件訂正事項1に係る訂正前の請求項1の原料化合物及び製造化合物に共通の化合物Aにおける「シクロデカン」部分の記載に誤りがあり、訂正後の「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸」という記載が正しいことが、本件特許明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者の技術常識などから明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるということができる。 したがって、本件訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記・・の訂正」を目的とするものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0001】、【0002】、【0012】、【0027】及び【0030】にそれぞれ記載された、製造化合物の「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体」、原料化合物の「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体」、及び、化合物Aの「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸(ブトロール)」という記載について、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載とを整合させ、原料化合物、製造化合物及び化合物Aに共通して記載されている化合物Aの「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」における「シクロデカン」部分の誤記を、「シクロドデカン」に訂正するという、訂正事項1と実質的に同じ訂正をするものである。 したがって、前記(1)で述べたとおりであるから、本件訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記・・の訂正」を目的とするものである。 (3)以上のとおり、訂正事項1及び2は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記・・の訂正」を目的とするものである。 3 新規事項の追加の有無(特許法第126条第5項)について (1)前記2で判断したとおり、訂正事項1及び2は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記・・の訂正」を目的とするものであるから、訂正事項1及び2が特許法第126条第5項の規定に適合するかどうかについては、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)を基準として判断する(特許法第126条第5項括弧書)。 (2)本件当初明細書等の請求項4?14の記載、段落【0001】、【0002】及び【0004】の記載(それぞれ、前記2で示した本件特許明細書の段落【0001】、【0002】及び【0004】と同一の記載である。)並びに前記2で示した技術常識を踏まえると、前記2で示したことと同様の理由により、本件当初明細書等に接した当業者であれば、本件当初明細書等の請求項4?14、段落【0001】、【0002】、【0012】、【0027】及び【0030】の、原料化合物、製造化合物及び化合物Aに共通して記載されている、化合物Aの「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1,4,7-三酢酸」における「シクロデカン」という記載が誤りであり、これを「シクロドデカン」の趣旨に理解するのが妥当であるといえる。 したがって、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11、並びに、本件特許明細書の段落【0001】、【0002】、【0012】、【0027】及び【0030】の、原料化合物、製造化合物及び化合物Aに共通して記載されている、化合物Aの「10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸」は、本件当初明細書等の記載から自明な事項として定まるものであるということができるから、訂正事項1及び2が、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。 (3)以上によると、訂正事項1及び2は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであるといえ、特許法第126条第5項括弧書の規定に適合するものである。 4 特許請求の範囲の拡張・変更(特許法第126条第6項)について 前記2のとおり、訂正事項1及び2は、いずれも誤記を正しい記載に訂正するものであるから、実質上、特許請求の範囲は、拡張・変更されないものと認められる。 したがって、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。 5 独立特許要件(特許法第126条第7項)について 前記訂正事項1及び2の訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1?11に係る発明は、いずれも発明の特定事項の誤記を訂正するものであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、本件訂正請求により特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たさなくなるものでもないから、独立特許要件を満たし、訂正事項1及び2は、特許法第126条第7項に規定される要件に適合するものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1及び2は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第3項?第7項の規定に適合するものであるから、本件訂正請求による訂正を認める。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 カルコブトロールの製造方法 【技術分野】 【0001】 (本発明の分野) 本発明は、カルコブトロールとしても知られる、10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸のカルシウム錯体の製造方法、およびガレノス製剤の製造のためのその使用に関する。本発明は、さらにこれまでに知られていない純度レベルを有するカルコブトロール(Calcobutrol)に関する。 【背景技術】 【0002】 (本発明の背景) カルコブトロールは、ガドブトロールのガレノス製剤における添加剤であり、該製剤(溶液)中での遊離ガドリニウムの放出を防止するという課題を解決する。ガドブトロールは、核スピン断層撮影法のためのガドリニウム含有造影剤であり、適応“筋肉と脊椎の核磁気共鳴断層撮影法(MRT)による造影増強法”(EP 0 448 181 B1、EP 0 643 705 B1、EP 0 986 548 B1、EP 0 596 586 B1およびCA特許第1341176号)として、ドイツで2000年からGadovist^((登録商標))として認められている。ガドブトロールは、非イオン錯体であって、ガドリニウム(III)および大環状リガンドである10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ブトロール)からなるものである。Gadovistは、1molの水溶液として販売され、該注射用製剤中に以下の成分を有する:ガドブトロール、カルコブトロールナトリウム塩、トロメタモール、塩酸および水。 【0003】 殆どのガドリニウム含有造影剤については、カルシウム錯体形態の製剤(EP 0 270 483 B2)中で過剰量の錯体形成リガンドを用いることが有利であると判っている。カルシウム錯体の役割は、該製剤中の遊離のガドリニウムの放出を防止することである(例えば、数年間の貯蔵による、そのガラスに由来する外来のイオンとの錯体再形成)。 【0004】 カルシウム錯体(カルコブトロール)の合成は、Inorg.Chem.1997,36,6086-6093に詳細に記述される。しかし、この文献に開示された方法は、当分野の専門家が必要とする純度を有するカルコブトロールを提供しない。図式3の方法の正確な再現(p6088-6089)により、HPLC(固定相:SHANDONのHypersil phenyl(5μm);移動相:アセトニトリル/ホウ酸塩緩衝液(pH8)、容量比20/100;検出:UV検出器(200nm);注入量:10μl)により測定した場合にわずか約94%の純度を有する物質が得られる。ガドブトロール(ブトロール)の合成から得られる該リガンドは、それをカルシウム錯体へと直接変換するために必要な高純度を有さない。該リガンドのさらなる精製は、このリガンドが両性イオンの性質をもつので困難である。1.7-1.8のpHにて結晶化する(US 5,595,714に従えば)リガンドBOPTA、DTPA、およびDOTAとは異なり、いずれのpHであってもブトロールを結晶化することはできず(後記の比較例を参照されたい)、かくして結晶化によりそれを精製することは不可能である。特定の理論に縛られないが、結晶化する能力の差違は、BOPTA、DTPA、またはDOTAにおいて存在しないブトロールのジヒドロキシ-ヒドロキシメチル-プロピル側鎖にある。結晶化がおこらない理由は、極性または水素結合の形成能の相違のようである。最後に、別の起こり得る理由は、いわゆるジヒドロキシ-ヒドロキシメチル-プロピル側鎖に由来する“グリセロール効果”、即ち水の結晶中の水素結合を妨害する0℃で水の結晶化を防止するグリセロールの能力であり得る。 【0005】 中性のガドリニウム錯体(ガドブトロール)は、イオン交換カラム(例えば、Amberlite IRC 50,Amberlite FPC3500,またはAmberlite IRA 67)にて精製でき、その後非常に効率的な結晶化により(例えば、エタノールから、好ましくは200ppm未満の水と共に)非常に高純度(>99.7%)で得られるが、過剰な酸性官能基のためにカルコブトロールには不可能である。カルシウム錯体の精製は、分取HPLCであっても分離できない不純物が主要ピーク付近に存在するために成功しなかった。カルコブトロールをHPLCにより分離するいくつかの異なる方法が試みられたが(移動相、勾配などの改変)、それら何れの方法もかかる分離を達成していない。 【0006】 カルコブトロールの熱力学安定度定数および酸解離定数は、Ca^(2+)イオン(25℃で、0.1N KCl中)の存在下で、Ca^(2+):リガンドの様々な割合にて、該リガンド(ブトロール)のpH-電位差滴定法により決定される: 【表1】 これらの測定値に基づいて、遊離のカルシウムイオン、中性錯体(カルコブトロール、リガンドが2つの負の電荷を有する)およびアニオン錯体(リガンドが3つの負の電荷をする)の間のカルシウムの分布を、様々なpH値について計算できる。該結果を図1に示す。該中性錯体が任意のpHで20%以上のカルシウム含有種を構成しないことは明白である。カルシウム含有種の間のこの平衡により、水溶液中の分取方法は何らかの不純物をもたらす。 【0007】 このアニオン錯体は、より高いpH値で優勢な種であるが、これは精製目的のためには全く有用ではない。該錯体との塩(例えば、ナトリウム塩)は、処理(work-up)のためには好適ではない。該錯体のナトリウム塩は、吸湿性が高いガラス状物質であって、これを何れの実用スケールであっても取り扱うことが出来ない。それ故、Gadovist溶液の調製において、該ナトリウム塩は、水酸化ナトリウムをカルコブトロールに添加することによりイン・サイチュで調製される。 【0008】 ガドブトロールとカルコブトロールとの安定性における大きな相違は、第一にGadovist製剤においてカルコブトロールが有用となること、即ち、該ガドリニウム錯体と該カルシウム錯体との安定性における大きな相違は、該ガドリニウム錯体を形成することによりあらゆる遊離のガドリニウムイオンを該カルシウム錯体が取り除くことを意味する。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明の目的は、最大の可能な収率で、好ましくは結晶形態にて、非常に純粋なカルコブトロールを得ることである。 【0010】 (本発明の詳細な説明) 驚くべきことに、非常に純粋なガドブトロールから開始することにより、効率的にカルコブトロールを調製できることが判った。該ガドリニウムは、後にCa^(2+)イオンと錯体を形成する高純度のリガンドを得るために、該ガドブトロール錯体からの解離により除去される。 【0011】 無機酸(好ましくは塩酸)の添加によるガドリニウム錯体とシュウ酸の解離が、ブトロールとは異なるリガンドについて文献に記述されている。ガドリニウムならびに遊離のリガンドが、どのようにシュウ酸/塩酸を用いる脱錯体によりガドリニウム含有造影剤から得られるのかが米国第5,595,714号に開示されている。カルシウム塩の製造方法の用途は米国第5,595,714号に開示されていない。 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明は、10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体の製造方法に関する: a)10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体を、脱錯化剤を用いて解離させる、 b)沈殿したガドリニウム塩を除去する、 c)b)から得られる該溶液中の遊離のリガンドを、酸性イオン交換樹脂に結合させる、 d)該樹脂を、アルカリ水溶液で溶出する、 e)該溶出液を、酸性イオン交換樹脂で処理する、そして f)該リガンドを、Ca^(2+)イオンと錯体化して、結晶化する。 【図面の簡単な説明】 【0013】 【図1】図1は、カルコブトロール錯体と関連化合物についてpHの関数としてカルシウム含有種の分布を示す。 【発明を実施するための形態】 【0014】 本発明の内容において、該用語「脱錯化剤」は、水に難溶性のGd塩を形成できる物質を意味することが意図される。脱錯化試薬の例は、シュウ酸イオン源、例えばシュウ酸、およびリン酸イオン源、例えばリン酸であって、それぞれ不溶性シュウ酸ガドリニウムおよびリン酸ガドリニウム塩を形成する。好ましい脱錯化剤は、シュウ酸およびリン酸であり、最も好ましいのはシュウ酸である。 【0015】 錯体の解離は、75?100℃の温度、例えば80?95℃、例えば87.5?92.5℃、好ましくは約90℃にて水中で十分おこる。 【0016】 該リガンド(ブトロール)の解離後、酸性イオン交換樹脂による処置を、特にpH3.65?3.80、好ましくは約3.72にて行う。Amberlite 252 CまたはAmberlite IR 120は、有用なイオン交換樹脂の例である。 【0017】 溶出のための好ましい水性アルカリ試薬は、蒸留により水溶液から除去し得る塩基である。かかる試薬の利点は、水の蒸発により、それらがリガンド含有溶出液から除去される点である。水性アルカリ試薬は、アンモニアまたは揮発性アミンであってもよい。本明細書において、該用語“揮発性アミン”は、中心の窒素原子と結合したアルキル鎖中1?4個の炭素原子を独立して有し、かつ大気圧が95℃以下、例えば80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、好ましくは30℃以下、または15℃以下の沸点を有するあらゆる第一級、第二級または第三級脂肪族アミンを意味すると意図される。揮発性アミンの例は、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、1-アミノ-2,2-ジメチルプロパン、2-アミノ-2-メチルブタン、2-アミノ-3-メチルブタン、2-アミノペンタン、および3-アミノペンタンである。好ましい実施態様において、溶出のためのアルカリ性試薬はアンモニア、ジメチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、イソ-プロピルアミン、またはその混合物、より好ましいアンモニアまたはジメチルアミン、またはその混合物、最も好ましいものはアンモニアである。 【0018】 一実施態様において、遊離のリガンドを、イオン交換樹脂による処置後、即ち最初に該リガンドを単離せずにCa^(2+)イオンと直接錯体形成させる。別の実施態様において、遊離のリガンドを、最初に、Ca^(2+)イオンとの錯体形成前に凍結乾燥により単離する。 【0019】 炭酸カルシウム、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムは、錯体形成のためのCa^(2+)イオンの好ましい源である。該錯体形成は、75?100℃、例えば、80?95℃、例えば87.5?92.5℃、好ましくは約90℃の温度の水溶液中で実施されることが好ましい。 【0020】 驚くべきことに、US 5,595,714に記載したような無機酸の添加は解離には必要ではないということを見出した。高純度のガドブトロールを、水中で化学量論のシュウ酸などの脱錯化剤と直接反応させれば、定量的な脱錯体およびシュウ酸ガドリニウムの濾去後に、優れた品質および純度のブトロールの無色水溶液が得られる。即ち、一実施態様において、シュウ酸などの脱錯化剤を、例えば2よりも高いpHにて、例えば3よりも高いpH、例えば4よりも高いpH、好ましくは4.5よりも高いpHにてガドブトロールに添加する。該カルコブトロール錯体を、さらなる精製ステップの後にブトロール溶液から直接調製し得る。 【0021】 遊離のガドリニウムがブトロール溶液に存在しないことを確かめるために、それをイオン交換処理に供する。あらゆる残存イオンを除去するために、ブトロール溶液を、イオン交換カラム上に重層し、水により完全に洗浄する。次に、該リガンドを、水性アルカリ試薬、例えばアンモニア水により溶出し、該溶出水溶液を真空下で穏やかに蒸留させた。該残留液を水で希釈した。活性炭素による処置後、pH値は、酸性イオン交換樹脂の添加により3.7に設定される。該交換樹脂を濾去し、その後該溶液を凍結乾燥した。 【0022】 リン酸を、シュウ酸の代わりに使用し得る。この場合、ガドリニウムリン酸塩(GdPO_(4))は沈殿する。該リガンドを、同様の方法で処理できる。 【0023】 原理上は、直接継続させて、カルシウム塩との錯体化を行うことができる。しかし、穏やかに凍結乾燥することにより、該リガンドを単離できることを見出した、即ち便利な貯蔵形態がこの方法で得られる。 【0024】 カルコブトロールに対する最終反応は、加熱しながら水中でブトロールを化学量論の炭酸カルシウムと錯体化することにより行われる。しかし、CaOおよびCa(OH)_(2)を使用してもよい。 【0025】 粒子および核を除去するために、活性炭素による処置に続いて濾過を用いる。該濾液を、出来る限り真空で蒸発させて、エタノールの添加により結晶化させる。このために、還流加熱およびその後冷却を適用した。沈殿した結晶生成物を、濾去し、少量のエタノールで洗浄した。次に、70℃で真空チャンバー内にて乾燥させた。アセトンまたはイソプロパノールからも結晶化を行い得ることが判ったが、しかしエタノールが好ましい溶媒である。 【0026】 特定の論理にしばられないが、エタノールまたは他の好適な溶媒中でのカルコブトロールの結晶化は、一方で遊離のカルシウムイオンおよびリガンドの間の水溶液中の平衡、もう一方では安定な結晶化錯体に向かうカルコブトロール錯体(図1で説明した)を推し進める。即ち、錯体形成段階の開始時のカルシウムイオンおよびブトロールの化学量論の量にて、該錯体のみが結晶化後に残存する。しかし、該錯体形成法として、純粋なカルコブトロールを得るためには純粋なブトロールを使用すべきであることも判った。もしブトロールが純粋でなければ、カルコブトロールは同等レベルの不純物を含有する。このことは、Inorg.Chem.1997,36,6086-6093の方法について観察された。 【0027】 一実施態様において、本発明は、10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)の該ガドリニウム錯体を、加熱しながら水中でシュウ酸またはリン酸で脱錯体化し、沈殿したガドリニウムシュウ酸塩/リン酸塩を濾去し、遊離のリガンドを、酸性イオン交換樹脂に結合させ、該樹脂をアンモニア水溶液により溶出させ、溶液蒸発後にpHを酸性イオン交換樹脂により3.6-3.8に設定し、該溶液を凍結乾燥させ、該リガンドを加熱しながらCa^(2+)イオンと錯体化させて、該錯体を反応完了後にエタノールから結晶化させ、該結晶単離後に真空下で乾燥させる、方法に関する。 【0028】 この方法で調製したカルコブトロールは、非常に高い品質を特徴とする。該生成物は、無色であり、水溶性であり、99.0%以上の純度、あるバッチ内では99.4%以上の純度(HPLC法に従う純度100%)を有する。ガドブトロールからカルコブトロールへのこの全ての過程は、高い再現性および作業性を特徴とする。91.2%の全収率は非常に良好である。該生成物は、貯蔵に安定であって、Gadovist溶液の製剤のために使用され得る。カルコブトロールのナトリウム塩を、イン・サイチュにて化学量論の水酸化ナトリウムの添加により得ことができる。この方法で調製したGadovist溶液は、数年間安定であり、毒性のガドリニウムが該溶液中には決して放出されないという安全性を提供する。 【0029】 即ち、専門家や施術者の要望を満たし、さらなる処理およびGadovistの製造に直接使用できる低コストで高い純度を有するカルコブトロールを提供することを達成する。 【0030】 本発明はまた、ガドブトロールの市販ガレノス製剤の調製のためのカルシウム錯体の10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸の使用に関する。 【実施例】 【0031】 実施例 HPLC100%方法 【表2】 勾配スケジュール 【表3】 【表4】 【0032】 比較例 カルコブトロールの調製のためには、US 5,595,714に開示された方法を使用することはできない。このUS特許に記述されたとおりに、ガドブトロールを、塩酸、次いで水(pH0.8)中でシュウ酸と20℃で約6h攪拌し、沈殿したシュウ酸ガドリニウムを濾去した。該濾液を、いくつかの分割容量に分けて、20%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH値を調整した。該リガンドが結晶化するpHが知られていないため、各々0.1のpHの差違毎に、いくつかの溶液を試験した。結晶化実験の結果を以下の表に提供される: 【表5】 【0033】 US特許の教示による該リガンドの結晶化に対する試みは成功していない。HPLC試験により、強酸性条件下では新規の不純物の出現が認められ、該リガンドの品質を低下させることが示された。さらに、元々無色のリガンドが6時間後に黄色に変色すること、および該不純物を除去できないことが認められた。従って、このリガンドのさらなる処理が93%の純度の着色したカルコブトロールを生じさせる(HPLC、100%方法)ので、上記US特許による方法は、カルコブトロールの調製のためには不適切である。 【0034】 しかし、驚くべきことに、結晶化による単離は必要ではないということを見出した。溶液中で高純度のリガンドを直接反応させ得るか、または凍結乾燥により単離できるような、該錯体からガドリニウムを除去することができる非常に穏やかな条件を見出した。 【0035】 実施例1:ブトロールの調製 ガドブトロール(水分含量4.78%、純度>99%、イオン交換および結晶化により確認した)(26.255kg)およびシュウ酸二水和物(固体、99%)(10.108kg)を、攪拌しながら容器内に入れて、脱塩水(175l)を添加し、該混合物を90℃で5時間攪拌した。該混合物を、20℃に冷却した(pH測定により3.1?3.5の値を示した)。沈殿したシュウ酸ガドリニウムをサイホンで吸い上げて、水(50l)で2回洗浄した。該濾液を、Amberlite 252 C(250l)により充填したカチオン交換カラム上に重層し、次いで該カラムを水で洗浄した。 【0036】 脱塩水(250l)および25%アンモニア(125l)の混合物を用いて該カラムから生成物を溶出し、13画分に集めた。 【表6】 ^(1)画分が生成物を含有するかどうかはTLC(薄層クロマトグラフィー)により決定した。 【0037】 溶出画分5から10を、真空下に70℃の浴温度のロータリーエバポレーターにて約35lまで蒸発させた。この濃縮物のpH値は6.7である。 【0038】 油状残渣を、脱塩水(125l)中に取り出して、活性炭素(3.75kg)(Norit SX PLUS,最初に水で完全に洗浄した)を添加し、次いで該溶液を1時間90℃の内部温度まで加熱した。この温溶液を濾過し、活性炭素を除去し、炭素を各時点で70℃の水(25l)を用いて3回洗浄した。 【0039】 混合物を20℃に冷却して、pHを酸性イオン交換樹脂の添加によりpH3.72に調整した(Amberlite IR 120,該樹脂を分割容量で6.5l-全体で45.5lにて添加した;プローブ(100ml)を取る-追加の樹脂はpH交換しなかった)。イオン交換樹脂を、濾去し、各時点で4回、脱塩水(25l)を用いて洗浄した。洗浄水と共に濾液を、真空下に70℃で熱攪拌器内で蒸発させて約100lの容量とした。該溶液を、20℃に冷却し、その後凍結乾燥器内で凍結乾燥させた。 収量:18.15kg(17.69kg=95%理論値、水で補正)の無色無定型粉末。 【0040】 水分含量(Karl-Fischer):2.60% 元素分析(水で補正): 【表7】 HPLC純度(100%方法):>99% 【0041】 実施例2:カルコブトロールの調製 全量3.356kgの炭酸カルシウム(99.3%)を、分割容量にて脱塩水(120l)に溶解したブトロール(水含量:2.6%)(15.39kg)を添加し、1時間90℃の内部温度で攪拌した。次に、20℃に冷却し、活性炭素(1.5kg)(Norit SX PLUS;該炭素を、最初に水を用いて完全に洗浄した)を加えた。それを20℃で1時間攪拌し、次に該炭素を濾去した。該炭素を、各時点で3回水(15l)により洗浄した。 【0042】 次に、洗浄水と共に濾液を、加熱攪拌器において80℃で真空の下で蒸発させて油状物とし、これは依然攪拌可能であり、1.4倍の元々のブトロールに相当する。エタノール(150l)を該油状物に添加し、次に3時間還流下で沸騰させた。それを20℃に冷却し、沈殿した結晶懸濁液を濾去した。該結晶を、各時点でエタノール(15l)にて2回洗浄した。 【0043】 エタノール由来の湿気を依然として有する該生成物を、重量が一定となるまで、70℃に設定した真空乾燥器内で乾燥させる。 収量:16.27kg(96%理論値)の無色結晶 【0044】 元素分析: 【表8】 HPLC純度(100%方法):>99.0% 【0045】 この実施例に対応する研究室規模での実験を、結晶化のための溶媒としてエタノールの代わりにアセトンおよびイソプロパノールを用いて行った。同様の純度を得た。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(カルコブトロール)のカルシウム錯体の製造方法であって、以下を含む方法: a)10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(ガドブトロール)のガドリニウム錯体を、脱錯化剤を用いて解離させる、 b)沈殿したガドリニウム塩を除去する、 c)ステップb)から得られる溶液中の遊離のリガンドを、酸性イオン交換樹脂に結合させる、 d)樹脂を、アルカリ水溶液で溶出する、 e)溶出液を、酸性イオン交換樹脂で処理する、そして f)リガンドを、Ca^(2+)イオンと錯体化し、結晶化させる。 【請求項2】 ステップa)における脱錯化剤が、シュウ酸イオン源またはリン酸イオン源である、請求項1記載の方法。 【請求項3】 ステップa)における脱錯化剤がシュウ酸である、請求項1または2記載の方法。 【請求項4】 ステップa)の錯体解離反応が、75?100℃の温度にて水中で実施される、請求項1?3いずれか一項記載の方法。 【請求項5】 ステップd)のアルカリ水溶液が、アンモニアまたは揮発性アミン、あるいはその混合物の溶液である、請求項1?4いずれか一項記載の方法。 【請求項6】 ステップd)におけるアルカリ水溶液が、アンモニア、ジメチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、イソ-プロピルアミン、またはその混合物の溶液である、請求項1?5いずれか一項記載の方法。 【請求項7】 ステップd)におけるアルカリ水溶液が、アンモニア溶液である、請求項1?6いずれか一項記載の方法。 【請求項8】 ステップe)から得られる生成物が、凍結乾燥により単離される、請求項1?7いずれか一項記載の方法。 【請求項9】 ステップe)から得られる生成物を、最初にそれを単離せずに、カルシウムイオン源と直接反応させる、請求項1?7いずれか一項記載の方法。 【請求項10】 ステップf)におけるカルシウムイオン源が、炭酸カルシウム、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムである、請求項1?9いずれか一項記載の方法。 【請求項11】 脱錯化剤を添加する前のステップa)におけるpHが、2より高い、請求項1?10いずれか一項記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2019-02-04 |
結審通知日 | 2019-02-06 |
審決日 | 2019-02-19 |
出願番号 | 特願2012-537372(P2012-537372) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Y
(C07D)
P 1 41・ 856- Y (C07D) P 1 41・ 854- Y (C07D) P 1 41・ 841- Y (C07D) P 1 41・ 855- Y (C07D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 早川 裕之 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
菅原 洋平 齊藤 真由美 |
登録日 | 2015-04-24 |
登録番号 | 特許第5733800号(P5733800) |
発明の名称 | カルコブトロールの製造方法 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |