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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1349886
審判番号 不服2018-907  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-23 
確定日 2019-03-13 
事件の表示 特願2015-551196「ピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月17日国際公開、WO2014/108400、平成28年1月21日国内公表、特表2016-502033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)1月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)1月8日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年6月2日付け(発送日:平成29年6月13日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月21日付け(発送日:同年9月26日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年1月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年1月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年1月23日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の平成29年9月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
ディーゼルエンジン用のピストン(10)であって、
中心軸(P)の周りにクラウン(14)を有する本体(12)と、
前記本体(12)に横方向に位置し、前記クラウン(14)から奥まっている燃焼室(11)と、
前記燃焼室(11)内において前記中心軸(P)の周りに位置する中央ピップ(22)と、
前記中央ピップ(22)の前記中心軸(P)に位置する凹所(24)と、
ある角度(A2)で前記クラウン(14)に対して傾いているリップ(18)と、
前記中央ピップ(22)から前記リップ(18)へ延在するボウル(20)と、
前記リップ(18)と前記クラウン(14)との間を連結し、前記燃焼室(11)から出てきた燃料蒸気の角度分布を制限する壁(16)とからなることを特徴とする、ピストン(10)。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。

「【請求項1】
ディーゼルエンジン用のピストン(10)であって、
中心軸(P)の周りにクラウン(14)を有する本体(12)と、
前記本体(12)に横方向に位置し、前記クラウン(14)から奥まっている燃焼室(11)と、
前記燃焼室(11)内において前記中心軸(P)の周りに位置する中央ピップ(22)と、
前記中央ピップ(22)の前記中心軸(P)に位置する凹所(24)と、
前記中央ピップ(22)の前記凹所(24)周りに位置する半径3mmの凹所遷移部(26)と、
ある角度(A2)で前記クラウン(14)に対して傾いているリップ(18)と、
前記中央ピップ(22)から前記リップ(18)へ延在するボウル(20)と、
前記リップ(18)と前記クラウン(14)との間を連結し、前記燃焼室(11)から出てきた燃料蒸気の角度分布を制限する壁(16)とからなることを特徴とする、ピストン(10)。」

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ピストン(10)」について「中央ピップ(22)の凹所(24)周りに位置する半径3mmの凹所遷移部(26)と」からなるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、2011-226435号(以下、「引用文献1」という。)には、「エンジンの燃焼室構造」に関して、図面(特に、図1ないし図3を参照。)とともに次の記載が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)

(ア)「【0013】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るエンジンの燃焼室構造Aは、直接噴射式ディーゼルエンジンのピストン1の頂部に凹設され、燃焼室を区画する窪んだキャビティ2を備えている。キャビティ2には、ピストン1の上方に配置されたインジェクター3から燃料が噴射される。
【0014】
また、本実施形態に係るエンジンの燃焼室構造Aは、キャビティ2の底面に設けられた中央突起部11と、キャビティ2の壁面に、インジェクター3から噴射された燃料の噴霧F(図2参照)が衝突する部分に位置させて設けられ、キャビティ2側とスキッシュエリア4側とへの燃料の分割を狙った燃焼室壁面下部(キャビティ壁面下部)6と燃焼室壁面上部(キャビティ壁面上部)7とからなる第一突起部5とを備えている。本実施形態の第一突起部5は、キャビティ2の中心側(径方向内側)に向かい突出するものであって、キャビティ2の全周に亘って環状に形成されている。
【0015】
ここで、本発明者は、キャビティ2側とスキッシュエリア4側とに燃料を適量に分けるというコンセプトを守りつつ、高速高負荷域でのスモーク性能の悪化を改善すべく種々の燃焼室形状の検討を行った結果、図1及び図2に示されるように、燃焼室壁面上部7とピストン頂面8とを結ぶ口元部9(キャビティ2の開口部)がキャビティ2の径方向内側に向かい突出する第二突起部10を有することが良いことを見出した。
【0016】
すなわち、本実施形態に係るエンジンの燃焼室構造Aは、キャビティ2の壁面に、燃焼室壁面上部7とピストン頂面8とを結ぶ口元部9(キャビティ2の開口部)に位置させて設けられた第二突起部10を備えることを特徴とする。本実施形態の第二突起部10は、キャビティ2の径方向内側に向かい突出するものであって、キャビティ2の全周に亘って環状に形成されている。
【0017】
本実施形態では、ピストン頂面8のキャビティ2の径方向内側への延長線8aと燃焼室壁面上部7とが成す角度Rが鈍角(90°以上)である(図3(a)参照)。具体的には、第二突起部10が、断面略三角形状に形成されている。なお、図3(b)に示されるように、口元部9がピストン頂面8の先端部からの垂線8bよりキャビティ2の中心側(径方向内側)へ凸な形状を有していても良い。具体的には、第二突起部10が、断面略半円形状に形成されていても良い。
【0018】
本実施形態においては、第一突起部5の最小径(直径)d1と第二突起部10の最小径(直径)d2との間には、d2>d1という関係がある。つまり、本実施形態では、第二突起部10の最小径d2は、第一突起部5の最小径d1よりも大きい。また、本実施形態では、第一突起部5の最小径d1とピストン1の径(直径)Dとの間には、d1/D≒0.65?0.70という関係がある。つまり、本実施形態では、第一突起部5の最小径d1は、ピストン1の径Dの約0.65?0.70倍である。さらに、本実施形態では、第二突起部10の最小径d2とピストン1の径Dとの間には、d2/D≒0.75?0.82という関係がある。つまり、本実施形態では、第二突起部10の最小径d2は、ピストン1の径Dの約0.75?0.82倍である。」

(イ)「【0020】
本実施形態の作用を説明する。
【0021】
圧縮行程でピストン1が圧縮上死点付近に達したときに、インジェクター3によりキャビティ2の壁面(第一突起部5)へ向けて燃料が噴射される。図2に示されるように、第一突起部5に衝突した燃料の噴霧Fは、第一突起部5より下方の燃焼室壁面下部6側へと下方に流れる噴霧Flと、第一突起部5より上方の燃焼室上部7側へと上方に流れる噴霧Fuとに分割される。」

(ウ)上記(ア)の段落【0018】の「ピストン1の径(直径)D」との記載及び図1並びに図2の図示内容からみて、ピストン1は中心軸を有するといえる。

(エ)上記(ウ)並びに図1及び図2の図示内容からみて、ピストン1は中心軸の周りにピストン頂面8を有するといえる。

(オ)上記(ウ)並びに図1及び図2の図示内容からみて、中央突起部11はピストン1の中心軸の周りに位置するといえる。

(カ)上記(ア)の段落【0014】の「キャビティ2の壁面に、インジェクター3から噴射された燃料の噴霧F(図2参照)が衝突する部分に位置させて設けられ、キャビティ2側とスキッシュエリア4側とへの燃料の分割を狙った燃焼室壁面下部(キャビティ壁面下部)6と燃焼室壁面上部(キャビティ壁面上部)7とからなる第一突起部5とを備えている。本実施形態の第一突起部5は、キャビティ2の中心側(径方向内側)に向かい突出するものであって、キャビティ2の全周に亘って環状に形成されている。」との記載及び図2の図示内容からみて、燃焼室壁面上部7は、ある角度でピストン頂面8に対して傾いているといえる。

(キ)上記(ア)の段落【0014】の「キャビティ2の壁面に、インジェクター3から噴射された燃料の噴霧F(図2参照)が衝突する部分に位置させて設けられ、キャビティ2側とスキッシュエリア4側とへの燃料の分割を狙った燃焼室壁面下部(キャビティ壁面下部)6と燃焼室壁面上部(キャビティ壁面上部)7とからなる第一突起部5とを備えている。本実施形態の第一突起部5は、キャビティ2の中心側(径方向内側)に向かい突出するものであって、キャビティ2の全周に亘って環状に形成されている。」との記載及び図2の図示内容からみて、燃焼室壁面下部6は、中央突起部11から燃焼室壁面上部7へ延在しているといえる。

(ク)上記(ア)、上記(イ)及び図2の図示内容からみて、インジェクター3により噴射され、燃焼室壁面上部7側に流れる側へと上方に流れる噴霧Fuは、口元部9により流れの角度分布が制限されることが分かる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「直接噴射式ディーゼルエンジンのピストン1であって、
中心軸の周りにピストン頂面8を有し、
前記ピストン頂面8に凹設された燃焼室を区画する凹んだキャビティ2と、
前記キャビティ2の底面に設けられ前記中心軸の周りに位置する中央突起部11と、
ある角度で前記ピストン頂面8に対して傾いている燃焼室壁部上部7と、
前記中央突起部11から前記燃焼室壁面上部7へ延在する燃焼室壁面下部6と、
前記燃焼室壁部上部7と前記ピストン頂面8とを結び、噴霧Fuの角度分布を制限する口元部9からなる、ピストン1。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で周知技術として引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、米国特許出願公開第2011/0146613号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、「PISTON FOR INTERNAL COMBUSTION ENGINE」に関して、図面(特にFIG.2及びFIG.4を参照。)とともに次の記載が記載されている。

(ア)「[0018] The piston as shown in FIG. 2 has a land 160, a skirt 170, a crown 180, and a bowl 190. The land 160 has a first end portion 200 and a second end portion 210. The second end portion contains a ring groove 220. The crown portion 180 is proximate the second end portion 210 of the land portion 160. The skirt 170 is adjacent the first end portion 200 of the land 160. The bowl 190 has a bowl volume Vb defined by a crown transition portion 250, a reentrant portion 260, a torroidal portion 270, a floor portion 280, and a recess portion 290. In the present embodiment, the bowl volume Vb is about 57cc. The crown transition portion 250 is preferably a radius of 1.5mm that transitions from the crown 180 to the reentrant portion 260. However, a smaller radius or edge may also be used for the crown transition portion 250. The reentrant portion 260 is a partial conical surface connecting the crown transition portion 250 with the torroidal portion 270 and has a reentrant angle RA of between 63 and 68 degrees with the crown 180. The recess portion 290 is a partial spherical surface formed by a radius of about 9mm with a recess depth 295 of about 9.4mm from the crown 180. The recess portion 290 in the present embodiment has a volume Vr of about 0.1cc. The volume of the recess may also be described by the equation Vr≧KVb where K is a constant of about 0.002.
[0019] The crown 180 as best shown in FIG.3 is ring shaped and has an inner diameter 230 measured from the intersection of the crown transition portion with the crown 180. An outer diameter of the crown 240 is measured from the land 160. The recess portion 290 has a recess diameter 297 measured at a location where a line tangent to the recess portion is perpendicular with the piston central axis. In the present embodiment, the outer diameter is about 105mm. The ratio of the inner diameter 230 to outer diameter 240 is between 0.65 and 0.75. The ratio of the recess diameter 297 to the inner diameter 240 is about 0.09.
[0020] Greater detail of the floor portion in FIG. 4 shows a floor angle FA of between 65 and 70 degrees defined in reference to the piston central axis 140. The recess transition portion 300 connects the floor portion 280 with the recess portion 290. A floor transition portion 310 connects the floor portion 280 with the torroidal portion 270. Both the recess transition portion 300 and the floor transition portion 310 may be formed by radiuses of 3 mm or less. The torroidal portion 270 is formed by a radius 320 and connects the floor transition portion 310 with the reentrant portion 260. In this embodiment, the radius 320 is about 9 mm with maximum bowl depth 330 of about 16.8 mm.」

なお、当審で作成した段落[0018]ないし[0020]の仮訳は以下のとおりである。
「[0018] 図2に示すピストンは、ランド160、スカート170、クラウン180、およびボウル190を有する。ランド160は、第1の端部部分200および第2の端部部分210を有する。第2の端部部分はリング溝220を含む。クラウン部分180は、ランド部分160の第2の端部部分210に近接している。スカート170は、ランド160の第1の端部部分200に隣接している。ボウル190は、クラウン移行部分250、リエントラント部分260、トロイダル部分270、床部分280、および凹部部分290によって画定されるボウル容積Vbを有する。本実施形態では、ボウル容積Vbは約57ccである。クラウン180からリエントラント部分260に移行するクラウン移行部分250は、半径が1.5mmであるのが好ましい。ただし、クラウン移行部分250に、より小さい半径、またはエッジを使用することもできる。リエントラント部分260は、クラウン移行部分250をトロイダル部分270とつなぐ部分錐面であり、クラウン180に対して63°?68°のリエントラント角RAを有する。凹部部分290は、半径約9mmで形成された部分球面であり、クラウン180からの凹部深さ295は約9.4mmである。本実施形態の凹部部分290は、約0.1ccの容積Vrを有する。凹部の容積は、式Vr≧KVbによって表すこともでき、Kは約0.002の定数である。
[0019] クラウン180は、図3に最もよく示すように、リング形状であり、クラウン移行部分とクラウン180との交点から測定した内径230を有する。クラウンの外径240は、ランド160から測定される。凹部部分290は、凹部部分への接線がピストン中心軸に対して垂直である位置で測定した凹部直径297を有する。本実施形態では、外径は約105mmである。内径230対外径240の比は、0.65?0.75である。凹部直径297対内径240の比は約0.09である。
[0020] 図4の床部分の大詳細図は、ピストン中心軸140を基準として定義される、65°?70°の床角FAを示している。凹部移行部分300は、床部分280を凹部部分290とつないでいる。床移行部分310は、床部分280をトロイダル部分270とつないでいる。凹部移行部分300および床移行部分310はともに、3mm以下の半径で形成することができる。トロイダル部分270は半径320で形成され、床移行部分310をリエントラント部分260とつないでいる。この実施形態では、半径320は約9mmであり、最大ボウル深さ330は約16.8mmである。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されている。

「ピストンは床部分280を凹部部分290とつなぐ凹部移行部分300を有し、凹部移行部分300は、3mm以下の半径で形成することができること。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「直接噴射式ディーゼルエンジン」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「ディーゼルエンジン用」に相当し、以下同様に、「ピストン1」は「ピストン(10)」及び「本体(12)」に、「ピストン頂面8」は「クラウン(14)」に、「中央突起部11」は「中央ピップ(22)」に、「燃焼室壁部上部7」は「リップ(18)」に、「燃焼室壁面下部6」は「ボウル(20)」に、「噴霧Fu」は「燃料蒸気」に、「口元部9」は「壁(16)」にそれぞれ相当する。
また、後者の「ピストン頂面8に凹設された燃焼室を区画する凹んだキャビティ2」における「キャビティ2」は、ピストン1の燃焼室を区画するものであるから、前者の「燃焼室(11)」に相当するものである。そして、「キャビティ2」は、「ピストン頂面8に凹設」され、「凹んだ」ものであるから、前者の「本体(12)に横方向に位置し、前記クラウン(14)から奥まっている」に相当する事項も備えるものである。

したがって、両者は、
「ディーゼルエンジン用のピストンであって、
中心軸の周りにクラウンを有する本体と、
前記本体に横方向に位置し、前記クラウンから奥まっている燃焼室と、
前記燃焼室内において前記中心軸の周りに位置する中央ピップと、
ある角度で前記クラウンに対して傾いているリップと、
前記中央ピップから前記リップへ延在するボウルと、
前記リップと前記クラウンとの間を連結し、前記燃焼室から出てきた燃料蒸気の角度分布を制限する壁とからなるピストン。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
前者は「中央ピップ(22)の中心軸(P)に位置する凹所(24)と、中央ピップ(22)の前記凹所(24)周りに位置する半径3mmの凹所遷移部(26)」を備えるのに対し、後者はかかる構成を備えていない点。

(4)判断
相違点について検討する。
引用文献2の記載事項は以下のとおりである。
「ピストンは床部分280を凹部部分290とつなぐ凹部移行部分300を有し、凹部移行部分300は、3mm以下の半径で形成することができること。」

ここで、本件補正発明と引用文献2の記載事項を対比すると、後者の「床部分280」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「中央ピップ(22)」に相当し、同様に「凹部部分290」は「凹所(24)」に相当する。
また、後者の、「凹部移行部分300」は、「凹部部分290」の周りに位置し床部分280を凹部部分290とつなぐものであるから、前者の「凹所遷移部(26)」に相当する。そして、後者の「3mm以下の半径」は、前者の「半径3mm」を含むものである。
そして、引用文献2の記載事項は、本件補正発明の用語を用いて整理すると、以下のものということができる。

「ピストンに、中央ピップの中心軸に位置する凹所と、中央ピップの前記凹所周りに位置する半径3mmの凹所遷移部とを形成すること。」

また、ピストンの中央ピップの中心軸に凹所を位置させることは、引用文献2の記載事項の他に、例えば実願昭60-154464号(実開昭62-61931号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(2ページ11行ないし20行及び図を参照。)、実願昭49-86026号(実開昭51-15507号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(2ページ14行ないし3ページ1行及び図5ないし図7を参照。)等にも記載される周知技術といえる。さらに、該周知技術に基づいてピストンの中央ピップの中心軸に凹所を位置した場合において、その周りに凹所遷移部が形成されることは、当業者の通常の創作能力の範囲で容易に理解し得ることである。

そうすると、引用発明において、引用文献2の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者の通常の創作活動により上記相違点にかかる本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年1月23日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成29年9月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

A.特開2011-226435号(本審決の引用文献1)
B.特表2007-524512号公報
C.米国特許出願公開第2009/0044697号明細書
D.米国特許出願公開第2011/0271931号明細書
E.米国特許出願公開第2011/0146613号明細書(周知技術として引用した文献)(本審決の引用文献2)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2並びにその記載事項は、前記第2[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.で検討した本件補正発明から、「ピストン(10)」についての「中央ピップ(22)の凹所(24)周りに位置する半径3mmの凹所遷移部(26)と」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-11 
結審通知日 2018-10-16 
審決日 2018-10-30 
出願番号 特願2015-551196(P2015-551196)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
P 1 8・ 575- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
粟倉 裕二
発明の名称 ピストン  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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