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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1349903
審判番号 不服2018-6890  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-21 
確定日 2019-04-02 
事件の表示 特願2014-246057「レールボンド用はんだ合金」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-107294、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年12月 4日の出願であって、平成29年12月 5日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年 1月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 3月 5日付けで拒絶査定がされ、同年 5月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1?3に係る発明(以下、総称して「本願発明」という。)は、平成30年 1月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる、レールボンド用はんだ合金。
【請求項2】
Znの含有量が4?8質量%である、請求項1に記載のレールボンド用はんだ合金。
【請求項3】
Sn、Zn、In、Tiからなり、
Znの含有量が1?12質量%、Inの含有量が0.1?4質量%、Tiの含有量が0.001?0.5質量%であり、
残部がSnである、レールボンド用はんだ合金。」


第3 原査定の概要
原査定(平成30年 3月 5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1、2に係る発明は、以下の引用文献1?7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平8-19892号公報
2.特開2004-114124号公報
3.特開2000-326088号公報
4.特開2002-241858号公報
5.特開2011-235294号公報
6.米国特許出願公開第2004/0208779号明細書
7.特開平8-267270号公報

なお、本願の請求項3に係る発明については、拒絶の理由を発見しない。


第4 引用文献、引用発明
1.引用文献1について

本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開平8-19892号公報)には、次の事項が記載されている。(「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)

ア 「【請求項1】 亜鉛:7?10重量%、インジウム:3?5重量%を含有し、残部が不純物を別にして錫からなる鉛無含有半田合金。」

イ 「【0004】特に近時におけるポリイミド、ポリエステル等を用いたフレキシブルなプリント基板等に適用する半田には通常、約30%程度の伸びが必要であり、上記の半田合金では到底使用に耐え得ないものであり、さらに高温の半田付け作業は基板及びICチップの寿命を著しく短くするものであった。」

ウ 「【0005】本発明は、有害な鉛等を含まず、しかも機械的強度、伸びに優れ、融点が従来のPb-Sn共晶合金とほぼ等しく、従って従来の半田付けラインがそのまま使用できる鉛無含有の半田合金を提供することを目的とする。」

エ 「【0007】以下、本発明における各組成成分の限定理由につき説明する。Zn及びInが上記範囲より少ないと、融点が200℃付近まで高くなり、半田付け作業温度がそれに伴って280?300℃程度にまで上昇し、前述したようにプリント基板等を損傷したり、あるいはICチップ等の寿命を短くするようになる。逆にZnが上記範囲より多くても融点が上昇し、またInが上記範囲より多いと融点が下がりすぎてプリント基板の使用時の発熱等により半田付け部が溶融するのみならず、経済性に劣るようになる。・・・」

オ 「【0009】以下に実施例を示す。
【実施例】表1に示すような組成のSn-Zn-In合金からなる半田合金を調製し、機械的強度及び濡れ性を試験し、それらの結果を表1に示す。比較のため従来のSn-Pb共晶半田合金についても同様に試験した。引張強度はJIS Z 2201の4号試験片を用いJIS Z 2241に準拠して試験した。また伸びは同じくJISに示される伸び試験方法に従って試験した。また、濡れ性試験はメニスコグラフ法(MIL-STD-833D,(米軍規格))に従い、ロジンフラックスを用い、銅板に240℃で半田付けした場合の試験結果として示す。」

カ 「【0010】
【表1】



上記事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用文献1には、上記ア、オ、カによれば、実施例、特に【表1】の上から一?三番目の組成のSn-Zn-In合金として、「Znが6.5wt%、Inが2.5wt%、残部が不純物を別にしてSnからなる鉛無含有半田合金。」、「Znが8.5wt%、Inが4wt%、残部が不純物を別にしてSnからなる鉛無含有半田合金。」、「Znが10.5wt%、Inが4wt%、残部が不純物を別にしてSnからなる鉛無含有半田合金。」が記載されている。

b.引用文献1に記載された半田合金の用途について、上記イ、エによれば、「プリント基板」及び「ICチップ」に用いることが記載されている。

そこで、上記実施例、特に【表1】の上から一?三番目の組成のSn-Zn-In合金に注目すると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。

「Znが6.5wt%、Inが2.5wt%、残部が不純物を別にしてSnからなるプリント基板又はICチップ用鉛無含有半田合金。」(以下、「引用発明1-1」という。)
「Znが8.5wt%、Inが4wt%、残部が不純物を別にしてSnからなるプリント基板又はICチップ用鉛無含有半田合金。」(以下、「引用発明1-2」という。)
「Znが10.5wt%、Inが4wt%、残部が不純物を別にしてSnからなるプリント基板又はICチップ用鉛無含有半田合金。」(以下、「引用発明1-3」という。)

2.引用文献2について

本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2004-114124号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】
エレクトロニクス分野では、電子部品と回路を構成するための配線板を電気的に接続する手法としてはんだ接合が用いられている。・・・
【0003】
また別の候補としてSn-Zn系はんだが検討されている。・・・」

イ 「【0008】
本発明の目的は、Agを主成分とする端子部を具備する電子部品における端子部の食われを抑制し、接合強度の改善を行なうことである。」

ウ 「【0011】
・・・
また、好ましくはSnとZnを主成分とするはんだは質量%でZnを5?12%含み、且つBiを1?10%またはInを1?5%含み、残部実質的にSnからなる。」

エ 「【0017】
本発明のSnとZnを主成分とするはんだは質量%でZnを5?12%含み、残部実質的にSnからなることが好ましい。
Znを5?12質量%とする理由は、この範囲でははんだの液相線温度と固相線温度との差が小さいからである。この差が小さいことにより、凝固過程での偏析や、固液共存時間が長くなることにより生じる接続欠陥等を抑制できる。加えて、Znが12質量%以下では、溶融はんだに溶存可能なAg濃度が特に低く、より端子部における食われを抑制できるからである。また、12質量%以下とすることで、はんだ表面の酸化や、表面の酸化により生じる濡れ性の劣化を抑制することができる。
・・・
【0019】
Inを含有させる理由は、Agの食われを抑制する効果を損なうことなく融点を低下させることと、濡れ性を改善することにある。Inによる融点低下、濡れ性改善の効果は、その含有量が1.0質量%で明確となる。一方、Inの含有量が5質量%以上では、常温においてβ-Sn相がα-Sn相に相転移しやすくなり、接合部の熱疲労特性が低下する。それゆえ、Inの含有量は1?5質量%の範囲とすることが好ましい。」

オ 「【0022】
【実施例】
質量%で・・・Sn-9Zn-1In・・・の組成を有する、直径760umのはんだボールを用意した。これらのはんだボールを、Ag-Pd端子部に載せた後、リフローを施すことによりはんだバンプを形成した。リフロー温度は240℃とした。
【0023】
次に上述した各条件におけるはんだバンプと該端子部との接合強度を評価するため、はんだバンプの引き剥がし試験を実施した。この手法では、端子部を形成した基板を固定した状態で、はんだバンプをツイーザで掴み、はんだバンプを引き剥がすことにより接合強度を測定する。引き剥がし速度は100μm/sとし、20個のはんだバンプに関して測定した。また引き剥がし試験後に破面観察を行い端子部の剥離確率を求めた。
また、各条件につき5個のはんだバンプについて、端子部の食われ量を測定した。測定は、端子部を樹脂埋めした後、断面研磨を行い、光学顕微鏡像をもとに該端子部の厚さ変化を測定した。端子部の厚さ変化は、はんだ接合前の端子部の厚みから、接合後の端子部の厚さを引いた値として求めた。・・・」

上記事項から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用文献2には、上記ウ?オによれば、実施例、特に【0022】に記載されるはんだ組成として、「質量%でZnを9%含み、且つInを1%含み、残部実質的にSnからなるはんだ。」が記載されている。

b.引用文献2に記載されたはんだの用途について、上記ア、イによれば、「Agを主成分とする端子部を具備する」「電子部品と回路を構成するための配線板を電気的に接続する」際に用いることが記載されている。

そこで、上記実施例、特に【0022】に記載される組成のはんだに注目すると、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる。

「質量%でZnを9%含み、且つInを1%含み、残部実質的にSnからなる、Agを主成分とする端子部を具備する電子部品と回路を構成するための配線板を電気的に接続する際に用いるはんだ。」(以下、「引用発明2」という。)

3.引用文献3について

本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開2000-326088号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低温で作業可能なセラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用の無鉛ハンダに関する。」

イ 「【0009】本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、有害物質の鉛を含まず、ガラス、セラミックス等の酸化物材料に対して十分な接合強度を有する無鉛ハンダを提供することを目的とする。」

ウ 「【0030】(実施例1?24)被接合材としてソーダ石灰ガラス(50×50×3mm)を用い、その板ガラス上に、表1、2、3に示した組成からなる無鉛ハンダを、60kHzの周波数でこて先が振動する超音波ハンダごてを使用して溶解接着し、本実施例のサンプルを作製した。表中の組成は、いずれも重量%表示である。
【0031】板ガラスと無鉛ハンダの接着性の評価は、板ガラス表面に接着された無鉛ハンダ層をナイフで削った際の無鉛ハンダの剥離度合いにより行った。表1、2、3中の接着性の欄において、○印はハンダ層の半分以上が剥離せずに板ガラス上に残留したもの、×印はハンダ層がすべて剥離してしまったものである。」

エ 「【0032】
【表1】



オ 「【0033】
【表2】



上記事項から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用文献3には、上記ウ?オによれば、実施例、特に【表1】の実施例1、3、5、6に記載されるハンダ組成として、「重量%で表示して、90.85%のSn、8.99%のZn、0.16%のTiを含有する無鉛ハンダ。」、「重量%で表示して、91.5%のSn、8.35%のZn、0.15%のTiを含有する無鉛ハンダ。」、「重量%で表示して、92.5%のSn、7.1%のZn、0.4%のTiを含有する無鉛ハンダ。」、「重量%で表示して、88.6%のSn、11.1%のZn、0.3%のTiを含有する無鉛ハンダ。」が記載され、【表2】の実施例19に記載されるはんだ組成として、「重量%で表示して、90.05%のSn、9.9%のZn、0.05%のTiを含有する無鉛ハンダ。」が記載されている。

b.引用文献3に記載された無鉛ハンダの用途について、上記ア、イによれば、「セラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用」に用いることが記載されている。

そこで、上記実施例、特に【表1】の実施例1、3、5、6、【表2】の実施例19に記載される組成の無鉛ハンダに注目すると、引用文献3には、次の発明が記載されていると認められる。

「重量%で表示して、90.85%のSn、8.99%のZn、0.16%のTiを含有するセラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用無鉛ハンダ。」(以下、「引用発明3-1」という。)
「重量%で表示して、91.5%のSn、8.35%のZn、0.15%のTiを含有するセラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用無鉛ハンダ。」(以下、「引用発明3-2」という。)
「重量%で表示して、92.5%のSn、7.1%のZn、0.4%のTiを含有するセラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用無鉛ハンダ。」(以下、「引用発明3-3」という。)
「重量%で表示して、88.6%のSn、11.1%のZn、0.3%のTiを含有するセラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用無鉛ハンダ。」(以下、「引用発明3-4」という。)
「重量%で表示して、90.05%のSn、9.9%のZn、0.05%のTiを含有するセラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用無鉛ハンダ。」(以下、「引用発明3-5」という。)


4.引用文献4について

本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(特開2002-241858号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】従来より、溶融金属を構成材料として利用した物品は、種々知られている。例えば、国際公開WO00/58234号公報はガラスパネルに係るものであり、同公報には、一対の板ガラスの対向面をその外縁全周に亘って封止材で接着接合し、空隙部を減圧状態に密閉したガラスパネルにおいて、前記封止材として溶融状態にある金属材料(溶融金属)を用いることが開示されている。また同公報には、溶融金属を貯留する貯留容器と、貯留容器の下方部から延出して板ガラスに溶融金属を供給する流路とを具備した設備装置が開示されている。
【0003】また、板ガラス等の酸化物材料同士の接合に適した金属材料として、特開2000-326088公報には、実質的にSn、ZnおよびTiを含有する無鉛ハンダが開示されている。」

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】貯留容器内の溶融金属は、溶融金属を板ガラス間の外縁へ連続供給している間に、貯留容器表面および溶融金属表面からの放熱により次第に温度低下することがありうる。・・・
【0005】溶融金属の温度を保持するに際して、保温用ヒーターの配置状態によっては、溶融金属中に相対的に高温領域と低温領域が生じる。そのため、特に低温領域では、溶融金属を構成する金属成分同士が反応することにより、化合物が析出して溶融金属の流路および排出口に堆積したり、これが溶融金属の流れを妨げる要因になることがある。
・・・
【0009】本願の発明者は、実質的にSn、ZnおよびTiの3成分からなる溶融金属を融液状態で保持する際の化合物析出について詳細に調査した結果、本発明の組成範囲においてはZnTi系化合物が析出することを見出し、さらに、そのZnTi系化合物の析出抑制に効果的な融液温度範囲を見出した。
【0010】本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、簡便な方法で溶融金属中の化合物の析出抑制を実現する方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0014】また、前記溶融金属は凝固組織内に化合物が含まれることがなく組織が微細であるため、前記ガラスパネルの封止材として使用した場合には、ガラスパネルの使用時において外力が加わった場合でも、機械的強度に優れるため組織が破壊することはない。」

エ 「【0017】(実施例)溶融金属として、実質的にSn、ZnおよびTiの3成分からなる無鉛ハンダを使用した。前記無鉛ハンダの組成は重量%で表示して、Sn90.91%、Zn8.99%およびTi0.1%であった。前記無鉛ハンダの組成から、微量含まれるTiを除いたSn91%、Zn9%の組成はSn-Zn二元系の共晶点組成であり、その共晶温度は198℃であった。
【0018】熱源によって300℃に保持した貯留容器内の溶融金属を、表1に示す温度まで冷却して、そのまま24時間保持した。
【0019】保持後の溶融金属を少量サンプリングしたものを本実施例の試料とし、急冷凝固させて試料の断面組織を観察した。表1において、「無」はこの組織観察で試料中にSn-Znの共晶組織以外の析出物が確認されなかったもの、「有」は析出物が確認されたものであることを示す。また、観察された析出物はすべてZnTi系化合物であることが、別途行った成分毎のマッピング分析により判明した。」

上記事項から、引用文献4には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用文献4には、上記エによれば、実施例、特に【0017】に記載される無鉛ハンダの組成として、「重量%で表示して、Sn90.91%、Zn8.99%およびTi0.1%」であるものが記載されている。

b.引用文献4に記載された無鉛ハンダの用途について、上記ア?ウによれば、板ガラスの接合用に用いることが記載されている。

そこで、上記実施例、特に【0017】に記載される組成の無鉛ハンダに注目すると、引用文献4には、次の発明が記載されていると認められる。

「重量%で表示して、Sn90.91%、Zn8.99%およびTi0.1%の組成の、板ガラスの接合用無鉛ハンダ。」(以下、「引用発明4」という。)


5.引用文献5について

本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5(特開2011-235294号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、例えばガラスやセラミックといった酸化物材料への優れた接合強度を維持しつつ、経時変化によるはんだ合金の素材酸化と接合部の表面黒化を抑制する、はんだ合金およびこれを用いた接合体に関するものである。」

イ 「【実施例1】
【0021】
表1の組成になるように、Sn、Zn、Sb、TiおよびAlを秤量した後、Ar雰囲気中で高周波溶解を行い、得られた合金溶湯を鋳型へ流し込み、はんだ合金を作製した。また、比較例であるSn、ZnおよびSbを添加したNo.6?No.11は、大気中で溶解し、鋳型へ流し込みはんだ合金を作製した。なお、表1に記載していない不純物元素である、P、Si、Bi、Gaは、合計で20ppm以下であった。・・・」

ウ 「【0027】
【表1】



エ 「【実施例2】
【0028】
表2の組成になるようにSn、Zn、Sb、TiおよびAlを秤量した後、Ar雰囲気中で高周波溶解を行い、得られた合金溶湯を鋳型へ流し込み、はんだ合金を作製した。そして、得られたはんだ合金は、以下に記する試験方法で評価した。なお、表2に記載していない不純物元素である、P、Si、Bi、Gaは、合計で20ppm以下であった。また、本評価において、はんだ合金は、はんだ付けしやすいように直径1mmの線材に加工してから使用した。
【0029】
(評価試験1)
被接合材として、30mm角・厚さ3mmにカットしたホウケイ酸ガラス(製品名TEMPAX)を用い、予めホットプレート上で約260℃に加熱した。その後、はんだ合金をガラス板上に置き、約370℃に加熱したはんだこて(黒田テクノ社製 超音波はんだ付け装置 SUNBUNDER USM-III)に超音波振動を印加しながら、はんだ合金の厚みが約110μmとなるようにガラス板一面に塗布して大気中で徐冷した。
【0030】
次に、室温まで冷却した試料のはんだ表面を5mm角の格子状の5×5のマス目になるようにカッターで切れ目を入れ、ピール試験片を作製した。
そして、経時変化によるはんだの接合強度の変化を確認するため、加速環境試験として、85℃85RH%とした高温高湿試験機(楠本化成社製 HIFLEX FH06C)内で試験片を1000時間放置した。
【0031】
加速環境試験前後の試験片のはんだ・ガラス板の接続界面のピール試験を実施した。ピール試験は、粘着テープ(ニチバン社製 CT-405AP-24)を試験片の一面に貼り付け、3度の引き剥がし試験を行い、はんだの剥がれが生じた領域を数えた。なお、ピール試験は、5×5のマス目のうち、エッジ部分の影響を無視するために、中央部の3×3のマス目で試験した。
【0032】
加速環境試験前では、本発明例および比較例のはんだ合金ともに、剥がれが生じず十分な強度を有していることが確認できた。また、加速環境試験後も同じく、本発明例および比較例のはんだ合金ともに、剥離が生じなかった。これより、本発明例のはんだ合金は、加速環境試験後において十分な接合強度を有していることが確認できた。」

オ 「【0040】
【表2】




上記事項から、引用文献5には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用文献5には、上記イ?オによれば、実施例、特に【表1】の比較例である試料No.11、【表2】の比較例である試料No.16に記載されるはんだ合金として、「質量%で、Zn:3.50%、Ti:0.01%を含み、残部Snおよび不可避的不純物からなるはんだ合金。」が記載されている。

b.引用文献5に記載されたはんだ合金の用途について、上記アによれば、ガラスやセラミックといった酸化物材料の接合用に用いることが記載されている。

そこで、上記実施例、特に【表1】の比較例である試料No.11、【表2】の比較例である試料No.16に記載されるはんだ合金に注目すると、引用文献5には、次の発明が記載されていると認められる。

「質量%で、Zn:3.50%、Ti:0.01%を含み、残部Snおよび不可避的不純物からなる、ガラスやセラミックといった酸化物材料の接合用はんだ合金。」(以下、「引用発明5」という。)

6.引用文献6について

本願の出願前に外国において、電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6(米国特許出願公開第2004/0208779号明細書)には、次の事項が記載されている。なお、括弧内は当審による仮訳を記載したものである。

ア 「

Fig.1
Alloys Composition and Liquidus-Solidus Temperatures

(合金組成及び液相線固相線温度)

イ 「

Fig.2
Atomized alloys Composition and liquidus-Solidus Temperatures

(アトマイズ合金組成及び液相線固相線温度)


ウ 「[0001] The present invention relates to a Lead-free Tin-Zinc alloy suitable for use as a solder. By the term “solder” here is meant a metal alloy, which when melted and applied to the joint between metal objects unites them without heating the objects to the melting point.
[0002] By virtue of the present invention the solder ensures strong and chemically stable joint between copper, brass, nickel, stainless steel and other frequently soldered metallic materials, which are used in a variety of applications including, but not limited to, electronics and general purpose soldering applications.」
([0001] 本発明は、はんだとして使用するのに適した鉛フリースズ-亜鉛合金に関する。ここで、「はんだ」という用語は、溶融して金属物体間の接合部に塗布されたときに、その物体を融点まで加熱することなくそれらを一体化する金属合金を意味する。
[0002] 本発明により、銅、黄銅、ニッケル、ステンレス鋼及びその他の頻繁にはんだ付けされる金属材料において、強固で化学的に安定な接合部を確実にし、限定されるものではないが、エレクトロニクスや一般的なはんだの用途に用いられる。)

エ 「[0021] In still further preferred embodiment the composition of the Lead-free alloy consists (in weight %) essentially of about 7.5-8.5% of Zinc, about 0.4-0.5% of Manganese and the balance is Tin.
[0022] In yet another preferred embodiment the composition of the Lead-free alloy consists (in weight %) essentially of about 7.5-9.0% of Zinc, about 0.001-0.15% of Manganese and the balance is Tin.
[0023] According to the additional preferred embodiment the composition of the Lead-free alloy consists (in weight %) essentially of about 8.3-8.5% of Zinc, about 0.005-0.02% of Manganese and the balance is Tin.」
([0021] 好ましくは、鉛フリー合金の組成は、(重量%)で実質的に約7.5?8.5%の亜鉛、約0.4?0.5%のマンガン、及び残部は錫からなる。
[0022] また好ましくは、鉛フリー合金の組成は、(重量%)で実質的に約7.5?9.0%の亜鉛、約0.001?0.15%のマンガン、及び残部は錫からなる。
[0023] また好ましくは、鉛フリー合金の組成は、(重量%)で実質的に約8.3?8.5%の亜鉛、約0.005?0.02%のマンガン、及び残部は錫からなる。)

オ 「[0040] It has been unexpectedly experimentally revealed, that various compositions based on Tin-Zinc alloy, which contain small alloying addition, mainly Manganese (Mn), have improved properties that render the alloy very suitable and efficient for use in soldering in electronics, automotive industries and in general purpose soldering applications.」
([0040] 予想外に実験的に明らかにされたことは、スズ-亜鉛合金をベースとする種々の組成物において、少量の合金添加物、主にマンガン(Mn)を含有することで、電子機器、自動車産業及び一般用途のはんだ付け用途におけるはんだ付けに用いるために非常に適切かつ効果的に特性を改善することである。)

カ 「[0070] Specimens for shear strength testing of the soldered joint were prepared from the compositions of the invention and from the conventional 63Sn37Pb alloy.
[0071] The specimens were prepared and tested according to the ASTM D1876 standard (Standard Test Method for Peel Resistance of Adhesive, T-peel test).」
([0070] はんだ接合の剪断強度試験用の試験片は、本発明の組成物および従来の63Sn37Pb合金から調製された。
[0071] 試験片を調製し、ASTM D1876標準規格(接着剤の剥離抵抗の標準試験方法であるT-剥離試験)に従って試験した。」

キ 「[0089] ・・・Examples of such alternative applications are manufacturing of coatings on cans made of stainless steel, copper based alloys etc., casting or powder metallurgy manufacturing of small details for electronic industry etc.」
([0089] ・・・このような代替用途の例としては、ステンレス鋼や銅ベース合金等から作られた缶上にコーティングを施すことや、電子産業用の小さな細部の鋳造又は粉末冶金製造に用いることが挙げられる」

上記事項から、引用文献6には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用文献6には、上記ア、イ、エによれば、特にFig.1のElement(試料)1?8、Fig.2のElement(試料)15?24に記載されるはんだ合金として、「重量%で、Zn:3.46%、Mn:0.22%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:4.28%、Mn:0.27%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:5.10%、Mn:0.33%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:5.93%、Mn:0.38%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:6.32%、Mn:0.40%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:6.71%、Mn:0.43%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:7.20%、Mn:0.46%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.49%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.001%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.015%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.120%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.005%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.016%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.046%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.006%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.020%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.050%を含み、残部Snからなるはんだ。」、「重量%で、Zn:8.80%、Mn:0.015%を含み、残部Snからなるはんだ。」が記載されている。

b.引用文献6に記載されたはんだの用途について、上記ウ、オ、キによれば、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途に用いることが記載されている。

そこで、特にFig.1のElement(試料)1?8、Fig.2のElement(試料)15?24に記載されるはんだ合金に注目すると、引用文献6には、次の発明が記載されていると認められる。

「重量%で、Zn:3.46%、Mn:0.22%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-1」という。)
「重量%で、Zn:4.28%、Mn:0.27%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-2」という。)
「重量%で、Zn:5.10%、Mn:0.33%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-3」という。)
「重量%で、Zn:5.93%、Mn:0.38%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-4」という。)
「重量%で、Zn:6.32%、Mn:0.40%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-5」という。)
「重量%で、Zn:6.71%、Mn:0.43%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-6」という。)
「重量%で、Zn:7.20%、Mn:0.46%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-7」という。)
「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.49%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-8」という。)
「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.001%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-9」という。)
「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.015%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-10」という。)
「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.120%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-11」という。)
「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.005%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-12」という。)
「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.016%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-13」という。)
「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.046%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-14」という。)
「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.006%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-15」という。)
「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.020%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-16」という。)
「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.050%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-17」という。)
「重量%で、Zn:8.80%、Mn:0.015%を含み、残部Snからなる、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途用はんだ。」(以下、「引用発明6-18」という。)

7.引用文献7について

本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献7(特開平8-267270号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属接合用合金、特にレールボンド用低温溶接ろうに関する。
【0002】
【従来の技術】鉄道のレールは夏の暑さで熱膨張するため、レールとレールの継ぎ目は、この熱膨張する分だけ隙間があけられている。従って、この間は電気的に完全に導通してなく、信号用電流や帰線電流が途切れてしまう。そのため、レールとレールの継ぎ目にはレールボンドを接合して電気的な導通を行っている。
【0003】レールボンドとは、複数の銅線を束ね、その両端を端子と称する黄銅製の金具で結束したもので、このレールボンドのそれぞれの端子とレールとを金属的に接続することにより、継ぎ目を挟んだレールとレールを電気的に導通するものである。
【0004】一方、このレールとレールボンドの接続 (以下、単にレールボンドの接続という) は、電気的に接続されてさえいればよいというものでなく、ある程度強い接合強度を有していなければならない。そのように強い接合強度が要求される理由は、最近の鉄道が高速化され、また車体の重量も重くなってきていることから、レールにかかる捩れや振動が大きくなってきており、レールボンドに強い力がかかるようになってきているからである。かかる傾向はますます強くなり、要求される接合特性はますます厳しいものとなってきている。
・・・
【0006】そのため従来よりレールボンドの接合には低い温度で接合のできるはんだが用いられてきた。このレールボンドの接合に用いるはんだ合金としては、レールへの熱影響を考慮して、ピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいとされている。このピーク温度とは、合金を加熱して溶融させる段階で溶融時の熱吸収量が一番多い時の温度であり、このピーク温度でほとんどが溶融状態になってしまうもので、実質上の溶融温度である。
【0007】レールボンドのはんだ付け温度は、ピーク温度+80℃が適当とされているが、レールに熱影響を与えないはんだ付け温度としては300 ℃以下、すなわちピーク温度は220 ℃以下でなければならない。
【0008】一般にレールボンドの接合強度は剪断力で表されている。この剪断力はレールの側面にレールボンドをはんだ付けし、そのレールボンドの端子の上から加重をかけて、端子が剥離する値である。高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であると言われている。」

イ 「【0010】
【発明が解決しようとする課題】ここに、本発明の目的は、有害なカドミウムや鉛を全く含有せず、しかもはんだ付け時にレールに対して熱影響を与えないばかりか、レールボンド接合用として要求される強い剪断力を発揮できるレールボンド用低温溶接ろうを提供することである。
【0011】本発明のより具体的な目的は、カドミウムや鉛を全く含有せず、ピーク温度220 ℃以下、剪断力4000kgf 以上を発揮でき、さらに作業性をも満足できるレールボンド用低温溶接ろうを提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、Sn-Zn系合金は共晶温度が199 ℃であり、鉄や銅に対して優れた剪断力を有していることに着目して本発明を完成させた。」

ウ 「【0017】本発明は、Sn-Zn系合金をレールボンド接合の条件に合うように改良したものであり、その要旨とするところは、Ag:0.5 ?2重量%、Zn:7?15重量%、残部Snからなることを特徴とするレールボンド用低温溶接ろうである。
【0018】また、別の面からは、本発明は、Ag:0.5 ?2重量%、Zn:7?15重量%、Sb:5重量%以下、および/またはIn:5重量%以下、残部Snからなることを特徴とするレールボンド用低温溶接ろうである。」

エ 「【0020】Agは剪断力と作業性を向上させるものであり、0.5 重量%より少ないと、その効果が現れない。しかるに2重量%よりも多く添加するとピーク温度が高くなり過ぎて、はんだ付け時にレールに対して熱影響を与えるようになってしまう。好ましくは、0.5 ?1.5 重量%である。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1-1?1-3との対比について
本願発明1と引用発明1-1?1-3とを対比する。

ア 引用発明1-1?1-3の「半田合金」は、本願発明1における「はんだ合金」に相当する。

イ 引用発明1-1の「Znが6.5wt%、Inが2.5wt%、残部が不純物を別にしてSnからなる」合金組成、
引用発明1-2の「Znが8.5wt%、Inが4wt%、残部が不純物を別にしてSnからなる」合金組成、
引用発明1-3の「Znが10.5wt%、Inが4wt%、残部が不純物を別にしてSnからなる」合金組成において、wt%表示の数値は質量%表示の数値と結果的に同等であるから、これらの合金組成は、本願発明1における「Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる」合金組成に包含される。

ウ そうすると、本願発明1と引用発明1-1?1-3の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「Snと、Znと、Inを含有し、Znの含有量が6.5質量%であり、Inの含有量が2.5質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明1-1)
「Snと、Znと、Inを含有し、Znの含有量が8.5質量%であり、Inの含有量が4質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明1-2)
「Snと、Znと、Inを含有し、Znの含有量が10.5質量%であり、Inの含有量が4質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明1-3)

(相違点)
本願発明1では、はんだ合金の用途について「レールボンド用」と特定するのに対し、引用発明1-1?1-3の半田合金の用途は「レールボンド用」ではない点。

以下、相違点について検討する。

ア 相違点について検討するにあたり、本願発明1における「レールボンド用」という用途に求められる特性について本願明細書の記載に基づいて確認すると、本願明細書には、レールボンド用に関する特性について以下の記載がある。
「【0007】
しかしながら、本発明者らが、レールボンド用はんだ合金について検討したところ、昨今の鉄道車両の高速化などに伴い、レール上の鉄道車両の通過による捩れや振動に対する接合強度(以下、「耐衝撃性」という。)の改善に余地があることが明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明は、耐衝撃性に優れた接合を形成することができるレールボンド用はんだ合金を提供することを課題とする。」
「【0029】
<耐衝撃性>
鉄製の鋼板(長さ120mm×幅30mm×厚み1mm)の中央部に、下記表1に示す合金組成を有するはんだ合金を用いて、銅片(長さ30mm×幅10mm×厚み2mm)を接合した試験片(以下、「接合試験片」という。)を作製した。
作製した接合試験片をJEDEC(半導体技術協会)で規格された落下衝撃試験を実施できる落下衝撃試験機(例えば、図2参照)を用いて、衝撃加速度2000m/sec^(2)で落下させる落下試験を行い、鋼板と銅片が剥離またはこれらの接合部が破壊されるまでの回数(落下回数)を調べた。
その結果、落下回数が5000回以上であったものを耐衝撃性に優れるものとして「○」と評価し、落下回数が1000?4999回であったものを耐衝撃性にやや劣るものとして「△」と評価し、落下回数が999回以下であったものを耐衝撃性に劣るものとして「×」と評価した。・・・」
以上の記載から、本願明細書においてレールボンド用はんだ合金に必要とされる特性は、「JEDEC(半導体技術協会)で規格された落下衝撃試験を実施できる落下衝撃試験機を用いて、衝撃加速度2000m/sec^(2)で落下させる落下試験を行い、鋼板と銅片が剥離またはこれらの接合部が破壊されるまでの回数(落下回数)が5000回以上である、耐衝撃性」である。

イ これに対し、引用発明1-1?1-3の半田合金は、前記第4の1.イ、エによれば、「プリント基板」及び「ICチップ」に用いられるものであり、機械的強度に関して、前記第4の1.オによれば、「引張強度」、「伸び」は評価されているものの、引用文献1には、引用発明1-1?1-3の半田合金の耐衝撃性について何ら示されていない。

ウ 一方、引用文献7には、前記第4の7.ア、イによれば、レールボンド用に用いるはんだ合金は、レールへの熱影響を考慮して、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であること、が記載されている。

エ しかしながら、引用文献7に記載されたはんだ合金は、前記第4の7.ウ、エによれば、レールボンド用に用いるための特性として剪断力と作業性を向上させるための合金元素としてAgの含有を必須とするものであるから、Agを含有しない引用発明1-1?1-3の半田合金をそのままレールボンド用として用いることが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ そして、原査定では、引用文献7に記載される技術的事項として、前記第4の7.ア、イに摘記した、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、及び、はんだ合金であるSn-Zn系合金が鉄や銅に対して優れた剪断力を有することを根拠として、溶融温度が低いSn-Zn系合金である引用発明1-1?1-3の半田合金をレールボンド用に用いることが当業者にとって容易であるとしているが、仮に、引用発明1-1?1-3の半田合金をレールボンド用に用いることについて当業者が想到し得たとしても、本願発明1が有する上記耐衝撃性については、引用文献1?7のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術水準から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

カ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明1-1?1-3及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願発明1と引用発明2との対比について
本願発明1と引用発明2とを対比する。

ア 引用発明2の「はんだ」は、本願発明1における「はんだ合金」に相当する。

イ 引用発明2の「質量%でZnを9%含み、且つInを1%含み、残部実質的にSnからなる」合金組成は、本願発明1における「Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる」合金組成に包含される。

ウ そうすると、本願発明1と引用発明2の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「Snと、Znと、Inを含有し、Znの含有量が9質量%であり、Inの含有量が1質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」

(相違点)
本願発明1では、はんだ合金の用途について「レールボンド用」と特定するのに対し、引用発明2のはんだの用途は「レールボンド用」ではない点。

以下、相違点について検討する。

ア 上記(1)において検討したとおり、本願発明1における「レールボンド用」という用途には、「耐衝撃性」に優れることが求められる。

イ これに対し、引用発明2のはんだは、前記第4の2.ア、イによれば、「Agを主成分とする端子部を具備する電子部品と回路を構成するための配線板を電気的に接続する際に用い」られるものであり、機械的強度に関して、前記第4の2.オによれば、はんだバンプと端子部の接合強度を評価する「引き剥がし試験」は実施されているものの、引用文献2には、引用発明2のはんだの耐衝撃性について何ら示されていない。

ウ 一方、引用文献7には、前記第4の7.ア、イによれば、レールボンド用に用いるはんだ合金は、レールへの熱影響を考慮して、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であること、が記載されている。

エ しかしながら、引用文献7に記載されたはんだ合金は、前記第4の7.ウ、エによれば、レールボンド用に用いるための特性として剪断力と作業性を向上させるための合金元素としてAgの含有を必須とするものであり、Agを含有しない引用発明2をレールボンド用として用いることが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ そして、原査定では、引用文献7に記載される技術的事項として、前記第4の7.ア、イに摘記した、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、及び、はんだ合金であるSn-Zn系合金が鉄や銅に対して優れた剪断力を有することを根拠として、溶融温度が低いSn-Zn系合金である引用発明2のはんだをレールボンド用に用いることが当業者にとって容易であるとしているが、仮に、引用発明2のはんだをレールボンド用に用いることについて当業者が想到し得たとしても、本願発明1が有する上記耐衝撃性については、引用文献1?7のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術水準から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

カ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明2及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(3)本願発明1と引用発明3-1?3-5との対比について
本願発明1と引用発明3-1?3-5とを対比する。

ア 引用発明3-1?3-5の「ハンダ」は、本願発明1における「はんだ合金」に相当する。

イ 引用発明3-1の「重量%で表示して、90.85%のSn、8.99%のZn、0.16%のTiを含有する」合金組成、
引用発明3-2の「重量%で表示して、91.5%のSn、8.35%のZn、0.15%のTiを含有する」合金組成、
引用発明3-3の「重量%で表示して、92.5%のSn、7.1%のZn、0.4%のTiを含有する」合金組成、
引用発明3-4の「重量%で表示して、88.6%のSn、11.1%のZn、0.3%のTiを含有する」合金組成、
引用発明3-5の「重量%で表示して、90.05%のSn、9.9%のZn、0.05%のTiを含有する」合金組成において、重量%は質量%と実質的に同等であり、また、引用発明3-1?3-5は、いずれもSn、Zn、Tiの総和が100重量%であるから、これらの合金組成は、本願発明1における「Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる」合金組成に包含される。

ウ そうすると、本願発明1と引用発明3-1?3-5の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.99質量%であり、Tiの含有量が0.16質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明3-1)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.35質量%であり、Tiの含有量が0.15質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明3-2)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が7.1質量%であり、Tiの含有量が0.4質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明3-3)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が11.1質量%であり、Tiの含有量が0.3質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明3-4)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が9.9質量%であり、Tiの含有量が0.05質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明3-5)

(相違点)
本願発明1では、はんだ合金の用途について「レールボンド用」と特定するのに対し、引用発明3-1?3-5のはんだの用途は「レールボンド用」ではない点。

以下、相違点について検討する。

ア 上記(1)において検討したとおり、本願発明1における「レールボンド用」という用途には、「耐衝撃性」に優れることが求められる。

イ これに対し、引用発明3-1?3-5のハンダは、前記第4の3.ア、イによれば、「セラミックス、ガラス等の酸化物材料接合用」に用いられるものであり、機械的強度に関して、前記第4の3.オによれば、板ガラスとの接着性を評価する「引き剥がし試験」は実施されているものの、引用文献3には、引用発明3-1?3-5のハンダの耐衝撃性について何ら示されていない。

ウ 一方、引用文献7には、前記第4の7.ア、イによれば、レールボンド用に用いるはんだ合金は、レールへの熱影響を考慮して、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であること、が記載されている。

エ しかしながら、引用文献7に記載されたはんだ合金は、前記第4の7.ウ、エによれば、レールボンド用に用いるための特性として剪断力と作業性を向上させるための合金元素としてAgの含有を必須とするものであり、Agを含有しない引用発明3-1?3-5のハンダをレールボンド用として用いることが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ そして、原査定では、引用文献7に記載される技術的事項として、前記第4の7.ア、イに摘記した、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、及び、はんだ合金であるSn-Zn系合金が鉄や銅に対して優れた剪断力を有することを根拠として、溶融温度が低いSn-Zn系合金である引用発明3-1?3-5のハンダをレールボンド用に用いることが当業者にとって容易であるとしているが、仮に、引用発明3-1?3-5のハンダをレールボンド用に用いることについて当業者が想到し得たとしても、本願発明1が有する上記耐衝撃性については、引用文献1?7のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術水準から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

カ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明3-1?3-5及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(4)本願発明1と引用発明4との対比について
本願発明1と引用発明4とを対比する。

ア 引用発明4の「ハンダ」は、本願発明1における「はんだ合金」に相当する。

イ 引用発明4の「重量%で表示して、Sn90.91%、Zn8.99%およびTi0.1%」という合金組成において、重量%は質量%と実質的に同等であり、また、引用発明4は、Sn、Zn、Tiの総和が100重量%であるから、その合金組成は、本願発明1における「Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる」合金組成に包含される。

ウ そうすると、本願発明1と引用発明4の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.99質量%であり、Tiの含有量が0.1質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」

(相違点)
本願発明1では、はんだ合金の用途について「レールボンド用」と特定するのに対し、引用発明4のハンダの用途は「レールボンド用」ではない点。

以下、相違点について検討する。

ア 上記(1)において検討したとおり、本願発明1における「レールボンド用」という用途には、「耐衝撃性」に優れることが求められる。

イ これに対し、引用発明4のハンダは、前記第4の4.ア?ウによれば、板ガラスの接合用に用いられるものであり、機械的強度に関して、引用文献4には、引用発明4のハンダの耐衝撃性について何ら示されていない。

ウ 一方、引用文献7には、前記第4の7.ア、イによれば、レールボンド用に用いるはんだ合金は、レールへの熱影響を考慮して、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であること、が記載されている。

エ しかしながら、引用文献7に記載されたはんだ合金は、前記第4の7.ウ、エによれば、レールボンド用に用いるための特性として剪断力と作業性を向上させるための合金元素としてAgの含有を必須とするものであり、Agを含有しない引用発明4のハンダをレールボンド用として用いることが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ そして、原査定では、引用文献7に記載される技術的事項として、前記第4の7.ア、イに摘記した、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、及び、はんだ合金であるSn-Zn系合金が鉄や銅に対して優れた剪断力を有することを根拠として、溶融温度が低いSn-Zn系合金である引用発明4のハンダをレールボンド用に用いることが当業者にとって容易であるとしているが、仮に、引用発明4のハンダをレールボンド用に用いることについて当業者が想到し得たとしても、本願発明1が有する上記耐衝撃性については、引用文献1?7のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術水準から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

カ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明4及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(5)本願発明1と引用発明5との対比について
本願発明1と引用発明5とを対比する。

ア 引用発明5の「はんだ合金」は、本願発明1における「はんだ合金」に相当する。

イ 引用発明5の「質量%で、Zn:3.50%、Ti:0.01%を含み、残部Snおよび不可避的不純物からなる」合金組成について、合金の技術分野において「不可避的不純物」は本願発明1においても含まれうるといえるから、その合金組成は、本願発明1における「Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる」合金組成に包含される。

ウ そうすると、本願発明1と引用発明5の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が3.50質量%であり、Tiの含有量が0.01質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明5)

(相違点)
本願発明1では、はんだ合金の用途について「レールボンド用」と特定するのに対し、引用発明5のはんだ合金の用途は「レールボンド用」ではない点。

以下、相違点について検討する。

ア 上記(1)において検討したとおり、本願発明1における「レールボンド用」という用途には、「耐衝撃性」に優れることが求められる。

イ これに対し、引用発明5のはんだ合金は、前記第4の5.アによれば、ガラスやセラミックといった酸化物材料の接合用に用いられるものであり、機械的強度に関して、前記第4の5.エによれば、ガラス板との接合強度を評価する「ピール試験」は実施されているものの、引用文献5には、引用発明5のはんだ合金の耐衝撃性について何ら示されていない。

ウ 一方、引用文献7には、前記第4の7.ア、イによれば、レールボンド用に用いるはんだ合金は、レールへの熱影響を考慮して、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であること、が記載されている。

エ しかしながら、引用文献7に記載されたはんだ合金は、前記第4の7.ウ、エによれば、レールボンド用に用いるための特性として剪断力と作業性を向上させるための合金元素としてAgの含有を必須とするものであり、Agを含有しない引用発明5のはんだ合金をレールボンド用として用いることが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ そして、原査定では、引用文献7に記載される技術的事項として、前記第4の7.ア、イに摘記した、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、及び、はんだ合金であるSn-Zn系合金が鉄や銅に対して優れた剪断力を有することを根拠として、溶融温度が低いSn-Zn系合金である引用発明5のはんだ合金をレールボンド用に用いることが当業者にとって容易であるとしているが、仮に、引用発明5のはんだ合金をレールボンド用に用いることについて当業者が想到し得たとしても、本願発明1が有する上記耐衝撃性については、引用文献1?7のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術水準から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

カ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明5及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(6)本願発明1と引用発明6-1?6-18との対比について
本願発明1と引用発明6-1?6-18とを対比する。

ア 引用発明6-1?6-18の「はんだ」は、本願発明1における「はんだ合金」に相当する。

イ 引用発明6-1の「重量%で、Zn:3.46%、Mn:0.22%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-2の「重量%で、Zn:4.28%、Mn:0.27%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-3の「重量%で、Zn:5.10%、Mn:0.33%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-4の「重量%で、Zn:5.93%、Mn:0.38%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-5の「重量%で、Zn:6.32%、Mn:0.40%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-6の「重量%で、Zn:6.71%、Mn:0.43%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-7の「重量%で、Zn:7.20%、Mn:0.46%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-8の「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.49%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-9の「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.001%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-10の「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.015%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-11の「重量%で、Zn:7.66%、Mn:0.120%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-12の「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.005%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-13の「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.016%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-14の「重量%で、Zn:8.26%、Mn:0.046%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-15の「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.006%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-16の「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.020%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-17の「重量%で、Zn:8.48%、Mn:0.050%を含み、残部Snからなる」合金組成、
引用発明6-18の「重量%で、Zn:8.80%、Mn:0.015%を含み、残部Snからなる」合金組成において、重量%は質量%と実質的に同等であるから、これらの合金組成は、本願発明1における「Snと、Znと、In、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択される1種と、を含有し、
Znの含有量が1?12質量%であり、
Inを選択する場合の含有量が0.1?4質量%であり、かつ、Ti、Co、Mn、VおよびNiからなる群から選択する場合の含有量がそれぞれ0.001?0.5質量%であり、
残部がSnからなる」合金組成に包含される。

ウ そうすると、本願発明1と引用発明6-1?6-18の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が3.46質量%であり、Mnの含有量が0.22質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-1)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が4.28質量%であり、Mnの含有量が0.27質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-2)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が5.10質量%であり、Mnの含有量が0.33質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-3)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が5.93質量%であり、Mnの含有量が0.38質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-4)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が6.32質量%であり、Mnの含有量が0.40質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-5)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が6.71質量%であり、Mnの含有量が0.43質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-6)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が7.20質量%であり、Mnの含有量が0.46質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-7)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が7.66質量%であり、Mnの含有量が0.49質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-8)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が7.66質量%であり、Mnの含有量が0.001質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-9)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が7.66質量%であり、Mnの含有量が0.015質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-10)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が7.66質量%であり、Mnの含有量が0.120質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-11)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.26質量%であり、Mnの含有量が0.005質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-12)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.26質量%であり、Mnの含有量が0.016質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-13)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.26質量%であり、Mnの含有量が0.046質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-14)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.48質量%であり、Mnの含有量が0.006質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-15)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.48質量%であり、Mnの含有量が0.020質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-16)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.48質量%であり、Mnの含有量が0.050質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-17)
「Snと、Znと、Tiを含有し、Znの含有量が8.80質量%であり、Mnの含有量が0.015質量%であり、残部がSnからなる、はんだ合金。」(引用発明6-18)

(相違点)
本願発明1では、はんだ合金の用途について「レールボンド用」と特定するのに対し、引用発明6-1?6-18のはんだの用途は「レールボンド用」ではない点。

以下、相違点について検討する。

ア 上記(1)において検討したとおり、本願発明1における「レールボンド用」という用途には、「耐衝撃性」に優れることが求められる。

イ これに対し、引用発明6-1?6-18のはんだは、前記第4の6.ウ、オ、キによれば、電子機器、自動車産業、缶へのコーティング、鋳造、粉末冶金及び一般用途に用いられるものであり、機械的強度に関して、前記第4の6.カによれば、はんだ接合の剪断強度を評価する剥離試験は実施されているものの、引用文献6には、引用発明6-1?6-18のはんだの耐衝撃性について何ら示されていない。

ウ 一方、引用文献7には、前記第4の7.ア、イによれば、レールボンド用に用いるはんだ合金は、レールへの熱影響を考慮して、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、高速鉄道のレールでは、レールボンドの剪断力は4000kgf 以上が必要であること、が記載されている。

エ しかしながら、引用文献7に記載されたはんだ合金は、前記第4の7.ウ、エによれば、レールボンド用に用いるための特性として剪断力と作業性を向上させるための合金元素としてAgの含有を必須とするものであり、Agを含有しない引用発明6-1?6-18のはんだをレールボンド用として用いることが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ そして、原査定では、引用文献7に記載される技術的事項として、前記第4の7.ア、イに摘記した、実質上の溶融温度であるピーク温度が220 ℃以下のものが好ましいこと、及び、はんだ合金であるSn-Zn系合金が鉄や銅に対して優れた剪断力を有することを根拠として、溶融温度が低いSn-Zn系合金である引用発明6-1?6-18のはんだをレールボンド用に用いることが当業者にとって容易であるとしているが、仮に、引用発明6-1?6-18のはんだをレールボンド用に用いることについて当業者が想到し得たとしても、本願発明1が有する上記耐衝撃性については、引用文献1?7のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術水準から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

カ したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明6-1?6-18及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3も、本願発明1の「レールボンド用」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1-1?6-18及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、当業者が引用発明1-1?6-18及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-19 
出願番号 特願2014-246057(P2014-246057)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川口 由紀子  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 池渕 立
松本 要
発明の名称 レールボンド用はんだ合金  
代理人 伊東 秀明  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  
代理人 三橋 史生  

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