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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1349913
審判番号 不服2017-19172  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-25 
確定日 2019-04-04 
事件の表示 特願2016-2303「屈折率整合された格子刻印」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月16日出願公開、特開2016-106250、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月21日に出願した特願2014-32171号(パリ条約による優先権主張2013年(平成25年)2月21日及び2014年(平成26年)2月20日、米国)の一部を平成28年1月8日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年12月20日付け:拒絶理由通知書
平成29年 3月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 8月17日付け:拒絶査定(同年同月24日送達)
平成29年12月25日 :審判請求書の提出
平成30年10月23日付け:当審拒絶理由通知書
平成31年 1月25日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は、特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、以下の引用文献AないしDに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献等一覧
A.米国特許出願公開第2007/0201793号明細書
B.特表2002-533743号公報
C.米国特許出願公開第2003/0108802号明細書
D.特表2001-519540号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

1 特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許出願公開第2007/0201793号明細書
2.特表2002-533743号公報
3.特表2001-519540号公報
4.米国特許出願公開第2003/0108802号明細書

第4 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、平成31年1月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。

「【請求項1】
光ファイバ上に格子を刻印するための製造方法であって、
屈折率n_(surround)を有する材料で前記光ファイバを取り囲むステップと、
オフセット・セグメント上に格子を書き込むステップと、
を含み、
前記光ファイバが、
軸中心と、
前記軸中心から計測される外半径(R_(fiber))と、
ファイバ屈折率(n_(fiber))と、
前記光ファイバの軸方向に沿った螺旋状軌跡であって、該螺旋状軌跡が、
ツイスト周期と、
前記光ファイバの前記軸中心からオフセット距離R_(offset)だけ偏位するオフセット・セグメントと、
を備える、螺旋状軌跡と、
前記螺旋状軌跡をたどるコアと、
を含み、
前記格子が、
前記ツイスト周期の十分の一(1/10)よりも大きい格子長と、
最大格子強度と、
最小格子強度と、
前記最小格子強度と前記最大格子強度の比
【数1】

と、を有し、上式で
η=n_(fiber)/n_(surround)、
n_(fiber)≠n_(surround)、
ρ<1/η、および
ρ=R_(offset)/R_(fiber)である、
格子と、
を備える、光ファイバ上に格子を刻印するための製造方法。
【請求項2】
R_(offset)がR_(fiber)の40パーセント(%)よりも大きく、
前記格子が、20センチメートル(cm)よりも長く、
前記格子が、前記ツイスト周期にわたって約3デシベル(dB)未満の強度変動を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
R_(offset)が、R_(fiber)のρ_(max)=1/η倍よりも大きい、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記格子が、前記ツイスト周期全体にわたって約10デシベル(dB)未満の格子強度変動を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記格子が1センチメートル(cm)よりも長い、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記格子が15センチメートル(cm)よりも長い、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記格子が1メートル(m)よりも長い、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記格子が、前記ツイスト周期全体にわたって約2デシベル(dB)未満の屈折率変調の変動を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記光ファイバを取り囲む材料の屈折率が、クラッディング屈折率および被覆屈折率の平均と整合する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記光ファイバを取り囲む材料の屈折率が、
クラッディング屈折率、
被覆屈折率、
コア屈折率とクラッディング屈折率の組合せ、
クラッディング屈折率と被覆屈折率の組合せ、または
コア屈折率、クラッディング屈折率、および被覆屈折率の組合せ、
に整合する、請求項1に記載の製造方法。」

第5 引用文献
1 引用文献1について
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審の付与による。以下同じ。)

(1)「An embodiment of the invention includes an apparatus, shown by way of example in FIG. 1. The apparatus includes a fiber 10 comprising an axial center, a central single-mode waveguiding core 20 and a plurality of peripheral single-mode waveguiding cores 30, 32, 34. The central single mode core 20 is located at a first distance from the axial center. The plurality of peripheral cores 30, 32, 34 is located at respective second distances from the axial center. Each of the respective second distances is greater than the first distance, and each peripheral core of the plurality of peripheral cores 30, 32, 34 follows a respective first helix about the axial center.」(段落[0017])
(当審仮訳:「発明の実施例は図1の例で示される装置を含む。装置は、軸中心、中心シングルモード光導波コア及び複数の周辺シングルモード光導波コア30、32、34を含む光ファイバ10を含む。中心シングルモードコア20は軸中心から第1の距離に位置している。周辺コア30、32、34は軸中心から第2の距離に位置している。第1の距離のそれぞれは第1の距離よりも大きく、周辺コア30、32、34のそれぞれの周辺コアは軸中心の周りにそれぞれ第1の螺旋をたどっている。」)

(2)「Optionally, the central core 20 and the plurality of peripheral cores 30, 32, 34 include a plurality of optical strain sensor rosettes. (For simplicity, only one optical strain sensor rosette is shown in FIG. 1). Optionally, each optical strain sensor rosette 50 of the plurality of optical strain sensor rosettes comprises a plurality of optical strain sensors 60, 62, 64, 66 located at a substantially same fiber length coordinate. Optionally, each optical strain sensor of the plurality of optical strain sensors 60, 62, 64, 66 includes a fiber Bragg grating or an optical cavity.」(段落[0019])
(当審仮訳:「中心コア20及び複数の周辺コア30、32、34は複数の光学歪みセンサロゼットを含んでいてよい。(単純化のため、1つの光学歪みセンサロゼットのみが図1に示されている)。それぞれの光学歪みセンサロゼットは実質的に同じ光ファイバ長軸上に位置する複数の光学歪みセンサ60、62、64、66を含んでいてよい。複数の光学歪みセンサ60、62、64、66の光学歪みセンサはそれぞれ光ファイバ回折格子又は光学キャビティを含んでいてよい。」)

(3)「The outer cores are further described as following a helical path about the central core, such that the helices rotate about the center approximately 10 to 30 times per meter of distance along the fibre's length (i.e., the pitch length is approximately 0.1 to 0.03 meters). ...」(段落[0021])
(当審仮訳:「外側のコアは、光ファイバの長さに沿った距離1メートルごとに螺旋が約10から30回回転するように中心コアの周りで螺旋をたどることがさらに記載される(すなわち、ピッチ長さは約0.1から0.03メートルである)。以下略。」)

(4)「Because the diameter of the fiber is nominally small (?100 microns) relative to the pitch length, the cores are approximately parallel to the fiber's length. ...」(段落[0022])
(当審仮訳:「光ファイバの半径はピッチ長さに比べて通常小さい(?100ミクロン)ため、コアは光ファイバ長に対して近似的に平行である。以下略。」)

(5)「Gratings are optionally written in the multicore fiber by various sequences. Each set of four gratings can be written in one pulse during fiber draw, or by an extended process with the fiber held stationary. ...」(段落[0025])
(当審仮訳:「回折格子は様々な手順によって書き込まれ得る。4つの回折格子のセットのそれぞれは、ファイバの線引きの間に1パルスで書き込まれるか、定置された光ファイバに対する延長プロセスとして書き込まれ得る。以下略。」)

上記記載及び図面によると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「軸中心及び半径を有し、軸中心から第2の距離に位置し、軸中心の周りにそのピッチ長さが約0.1から0.03メートルである第1の螺旋をたどり、光ファイバ回折格子を含む複数の光学歪みセンサ60、64、66を含む複数の光学歪みセンサロゼットを含む複数の周辺シングルモード光導波コア30、32、34を含む光ファイバ10を、回折格子を書き込むことにより製造する製造方法。」

2 引用文献2について
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「管120の外径d1を約3mm、長さL1を約10mmとすることができる。描かれるべき回折格子112の長さは、約5mmとすることができる。代わりの実施例として、例えば回折格子を長くするか、もしくは管を短くすることによって、管120の長さL1を回折格子112の長さとほぼ同じにすることもできる。管120および回折格子112の寸法および長さを、別の大きさにすることもできる。さらに、管20の断面を円形以外の形状(例えば、正方形、矩形、楕円形、クラムシェル形など)とすることもでき、側方からみた断面を方形以外の形状(例えば、円形、正方形、楕円形、クラムシェル形など)とすることもできる。また、光ファイバ28を管120の中心部に融接する必要はなく、管120のどの部分に融接することもできる。また、管120の全長に亘ってファイバ10を溶融する必要はない。さらに、ファイバ28および/または回折格子112は、管120内部で所望の方向に向けることができ、例えば、長手方向、横方向(つまり径方向)、円周方向に向けることができ、もしくは、傾けたり、湾曲させたりすることもできる。さらに、ファイバ28に予め初期歪み(圧縮もしくは引張り)を加えた状態でこれを管120に収容することもでき、もしくは初期歪みを加えない状態でこれを収容することもできる。」(段落【0020】)

(2)「このような問題を軽減するために、本発明は、光学的に平坦な境界媒体122を提供し、これを管120に隣接させるか、もしくは接触させる。より具体的には、媒体122は、光学的に平坦な上方表面126(これに描込みビーム26,34が投射される)を有しているとともに、描込みビーム26,34の波長(例えば、紫外(UV)光)に対して実質的に透過性の材料からなる。このような材料として、シリカSiO_(2)(例えば、溶融シリカ、合成溶融シリカ、溶融水晶、合成水晶)もしくはこれと同様なもの(例えば、CVI社製の光学的に平坦な窓(製品番号PW-0643-UV))が挙げられる。描込みビーム26,34の波長に対して実質的に透過性のものであれば、他のガラスもしくは材料を、媒体122に用いることもできる。媒体122の長さLは約0.5?2.0cmであり、厚さTは約1mmであり、幅Wm(側方からみた幅)は約1cmである(図3)。媒体122の寸法を別の大きさにすることもできる。」(段落【0026】)

(3)「図4を参照すると、ビーム26,34の幅Wbが、中間材料124(例えば、透過性屈折率整合油)の幅Woilよりも小さく設定されている場合には、管120の消耗が起こらないことがわかる。」(段落【0033】)

(4)「代わりの実施例を示す図7を参照すると、ビーム26,34の幅を減少させる代わりに、側方からみた媒体122の形状が、光学的に平坦な上方面126と、下方面における半円形湾曲部174と、を有するカラー形状(collar shape)とされている。湾曲面174は、管120の形状とほぼ合致させることができるとともに、管120の外径と接触させることができる。代わりの実施例として、中間材料124を用いて、湾曲面174と管120との間の空隙を埋めることもできる。このような実施例では、ビーム26,34の光線が、管120に焦点を形成することなく、カラー形状の媒体122および管120を真っ直ぐに通過する。代わりの実施例として、管120の外形と合致する湾曲部174を有する下方部分176を媒体122とともに用いることによって、クラムシェル型構成とすることもできる。また、湾曲部174からなるとともに管120が挿入される孔を備えた単一部材である下方部176を、媒体122に設けることもできる。」(段落【0033】)

(3)また、引用文献2の図2において、管120は媒体122とほぼ同じ長さを有することが示され、図7において、屈折率整合材料である中間材料124及び管120は光ファイバ28を取り囲んでいることが示されている。

上記記載及び図面によると、引用文献2には、以下の発明(以下「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。
「約5mmから、約0.5?2.0cmを有する媒体122とほぼ同じ長さの管とほぼ同じ長さまでの長さを有する回折格子112を有する光ファイバ28」

上記記載及び図面によると、引用文献2には、以下の技術(以下「引用文献2技術」という。)も記載されていると認められる。

「屈折率整合材料によって光ファイバを取り囲み、回折格子を書き込む技術」

3 引用文献3について
引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「実施例
長さLの回折格子20を有する光ファイバが、図1に示されている。当業者に公知の他の実施例はプラスチック化合物を包含するが、本ファイバ10は通常、二酸化ケイ素を包含する。光ファイバ10は、コア12および1つ以上のクラッディング14を含む。回折格子20は、ファイバのコア12および/または1つ以上のクラッディング14にある一連の周期的、非周期的または擬似周期的な変動である。図1に示された合致した図面に見られるように、回折格子20はファイバ10の屈折率の変動からなる。」(段落【0018】)

(2)「1ステップの描画工程で、特殊な位相マスク、減衰光学系または制御されたレーザビーム減衰がなくても、ピュアアポディゼーションを有するチャープファイバブラッグ回折格子を製作することができる。たとえば、レーザビーム変調の周波数が1859.98?1864.76Hzまで(4.784033Hzスパン)直線的に変化する場合に、周期1.0739μmの位相マスクに沿って速度1mm/sでファイバを並進させることによって、長さ160cmである幅4nmの直線チャープファイバブラッグ回折格子を製作することができる。回折格子は描画に1600秒かかるため、0.312ミリヘルツの正弦波によって関数発生器の出力を変調した振幅を用いてレイズドシノソイドアポディゼーションを実現することができる。特定の適用例では、ファイバブラッグ回折格子に適応させるために他の振幅変調波形を使用してもよい。」(段落【0035】)

上記記載によると、引用文献3には、以下の発明(以下「引用文献3発明」という。)が記載されていると認められる。

「長さ160cmである幅4nmの直線チャープファイバブラッグ回折格子を有する光ファイバ」

4 引用文献4について
引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「Referring to FIG. 24B, substrate 102 receives incident radiation 16a having plane wavefront 89a through its upper surface 107a. Radiation 16b with wavefront 89b continues through and exits substrate 102 without distortion. Upon exiting substrate 102 at lower surface 107b, radiation component 16c enters cladding 86 and continues in the direction normal to surface 107b. Radiation components 16d, 16e, 16f, 16g, 16h, 16i pass into index matching material 160 and subsequently into cladding 86 without distortion of wavefront 89. Index matching material 160 is able to substantially eliminate wavefront distortion.」(段落[0118])
(当審仮訳:「図24Bを参照すると、基板102は、平坦な波面89aを有する放射16の入射をその助譜面107aから受ける。波面89aを有する放射16bは、歪みを受けることなく基板102中を進み、そこから出る。この基板1023の下面107b上で、放射コンポーネント16cはクラッディング86に入り、面107bに対して通常の方向に進む。放射コンポーネント16d、16e、16f、16g、16h、16iは屈折率整合材料160へ入り、その後に波面89の歪みを受けることはくクラッディング86に入る。屈折率整合材料160は、実質的に波面の歪みを除去することができるものである。」)

(2)「Referring to FIG. 25, index matching material 160 is used with volume hologram phase mask 100, and optical media 8 in accordance with the invention to essentially eliminate wavefront distortion during the actinic exposure process of optical media 8. Optical media 8 may be an optical fiber 82, planar media 8b, media having a non-flat surface, or actinicly susceptible media of other shapes that can benefit by the elimination of wavefront distortion.」(段落[0119])
(当審仮訳:「図25を参照すると、屈折率整合材料160は、ボリューム・ホログラム・フェーズマスク100とともに使用され、本発明による光学媒体8は、光学媒体8の化学線露光プロセスの間の波面の歪みを本質的に除去する。光学媒体8は光ファイバ82、平面媒体8b、平面を有する媒体、又は、波面の歪みの除去の利益を受けることができる他の形状の化学線に感度を有する媒体であり得る。」)

(3)また、引用文献4の図24B及び図25において、屈折率整合材料160は光ファイバである光学媒体8を実質的に取り囲み、回折格子を書き込むことが示されている。

上記記載及び図面によると、引用文献4には、以下の技術(以下「引用文献4技術」という。)が記載されていると認められる。

「屈折率整合材料によって光ファイバを取り囲み、回折格子を書き込む技術」

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号に基づく拒絶理由について
(1)平成31年1月25日にされた手続補正により、本願発明1ないし10は、「光ファイバ上に格子を刻印するための製造方法」という製造方法の発明とされ、「屈折率n_(surround)を有する材料で前記光ファイバを取り囲むステップ」が含まれるものとされた。この補正により、当審拒絶理由の物の発明として不明確であるという拒絶理由は解消された。

(2)元の請求項3は削除されたことから、元の請求項3に対する拒絶理由も解消された。

(3)元の請求項9及び10の記載についても、請求項9において、上記補正により、光ファイバを取り囲む材料の屈折率が、クラッディング屈折率および被覆屈折率の「平均」と整合するという補正が加えられ、また、請求項10にも補正が加えられた。この補正により、ファイバ屈折率が複数の屈折率の組合せを含む場合、光ファイバを取り囲む材料の屈折率が、平均のような手法によってファイバ屈折率と整合することが明確となり、元の請求項9及び10に対する不明確性についての拒絶理由も解消された。

2 特許法第36条第4項第1号に基づく拒絶理由について
平成31年1月25日の意見書も踏まえて、本願の発明の詳細な説明を見ると、本願の明細書の段落【0063】の「あるコアを別のコアの影で覆う」という記載は、ツイスト・マルチコア・ファイバにおけるマルチコア内のあるコアが別のコアと書込みビームの間に介在するときの介在するコアの別のコアに対する影であることがわかり、また、従来技術がどのようなものであるか及びコア・オフセットとレンズ効果による変動との関係もわかるといえる。

したがって、当審拒絶理由の特許法第36条第4項第1号に基づく拒絶理由も解消された。

3 特許法第29条第2項に基づく拒絶理由について
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と引用文献1発明を対比する。

引用文献1発明の、「光ファイバ10」、「軸中心」、「半径」、「第2の距離」、「ピッチ長さ」、「第1の螺旋」、「光ファイバ回折格子」、「周辺シングルモード光導波コア30、32、34」、「光ファイバ10を、回折格子を書き込むことにより製造する製造方法」は、それぞれ本願発明1の「光ファイバ」、「軸中心」、「外半径」、「オフセット距離」、「ツイスト周期」、「螺旋状軌跡」、「格子」、「コア」、「光ファイバ上に格子を刻印するための製造方法」に相当する。

引用文献1発明においても、軸中心から第2の距離において第1の螺旋をたどる光導波コア中にファイバ回折格子は書き込まれており、軸中心から第2の距離だけ偏位したオフセット・セグメントを備える螺旋状軌跡をたどるコアと、オフセットセグメント上に書き込まれる格子を有しているといえる。そして、引用文献1発明も、回折格子を書き込むことから、オフセット・セグメント上に格子を書き込むステップを有しているといえる。

また、光ファイバは当然ある屈折率を有している。

したがって、本願発明1と引用文献1発明は、以下の相違点で相違し、他の点で一致する。

[相違点1]
本願発明1においては、光ファイバ上に格子を刻印するための製造方法が、「屈折率n_(surround)を有する材料で前記光ファイバを取り囲むステップ」を含み、格子が、「前記ツイスト周期の十分の一(1/10)よりも大きい格子長」を有しているのに対し、引用文献1発明は、このようなステップを有しておらず、光ファイバ回折格子の長さも不明である点。

[相違点2]
本願発明においては、格子が、
最大格子強度と、
最小格子強度と、
前記最小格子強度と前記最大格子強度の比
【数1】

と、を有し、上式で
η=n_(fiber)/n_(surround)、
n_(fiber)≠n_(surround)、
ρ<1/η、および
ρ=R_(offset)/R_(fiber)である、
のに対し、引用文献1発明においては、このような数式が特定されていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。

引用文献2技術又は引用文献4技術は、「屈折率整合材料によって光ファイバを取り囲み、回折格子を書き込む技術」であるが、引用文献2又は4において、引用文献1発明のように、螺旋をたどるコア中にファイバ回折格子を書き込むために、このような技術を用い、上記相違点1に係る構成のように、「前記ツイスト周期の十分の一(1/10)よりも大きい格子長」を有する格子を得ることまでは記載されていない。

また、屈折率整合材料によって光ファイバを取り囲み、回折格子を書き込むことは、引用文献3には記載されていない。

仮に、引用文献2技術又は引用文献4技術は周知技術であるとして、このような技術が周知であることを考慮して、引用文献1発明に「屈折率整合材料によって光ファイバを取り囲み、回折格子を書き込む」という技術を適用することを当業者が想到し得たとしても、このような適用において、回折格子の格子長が、上記相違点1に係る構成のように、「前記ツイスト周期の十分の一(1/10)よりも大きい格子長」を有し、回折格子が、上記相違点2に係る数式の関係を満たすことによって、コアが螺旋状軌跡をたどることから生じるレンズ効果による変動を低減できるという効果まで当業者に自明であったとすることはできない。

したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1ないし4に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(2)本願発明2ないし10
また、本願発明2ないし10は、請求項1に従属する請求項に係るものであり、本願発明1の全ての構成を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定の理由について
原査定における引用文献Aは当審拒絶理由通知の引用文献1であり、引用文献Bは引用文献2であり、引用文献Cは引用文献4であり、引用文献Dは引用文献3であるから、これらの引用文献に基づく検討は、上記第6の3に記載したとおりであって、本願発明1ないし10は、原査定時の引用文献AないしDに基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえないから、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。

他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2016-2303(P2016-2303)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 下村 一石廣崎 拓登  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 古田 敦浩
近藤 幸浩
発明の名称 屈折率整合された格子刻印  
代理人 岡部 讓  

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