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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正しない H01M
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正しない H01M
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない H01M
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正しない H01M
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない H01M
管理番号 1350065
審判番号 訂正2018-390147  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-09-27 
確定日 2019-03-14 
事件の表示 特許第4171897号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求(以下「本件訂正請求」という。)に係る特許第4171897号(以下「本件特許」という。)は、平成15年 4月24日を出願日とする出願(特願2003-119210号)の請求項1?7に係る発明について、平成20年 8月22日に特許権の設定登録がなされ、その後、平成30年 9月27日に本件訂正審判の請求がなされ、同年11月28日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、審判請求人から何らの応答もなかったものである。

第2 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第4171897号の明細書を、平成30年 9月27日付け審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。
そして、上記請求の趣旨によれば、本件訂正請求は、特許権全体に対して訂正を請求するものである。

第3 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正された箇所を表す。
1 訂正事項1
訂正前の請求項1、2、7について、
「【請求項1】 リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。」
「【請求項2】 複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が黒鉛と融合していることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材。」
「【請求項7】 リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末のうち、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜がラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する導電性粉末を高充放電容量及びサイクル特性を与えるリチウムイオン二次電池用負極活物質として選定することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の選定方法。」とあるのを、それぞれ
「【請求項1】 リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を炭素皮膜で被覆した導電性粉末であり、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ炭素被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該炭素皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。」
「【請求項2】 複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が炭素と融合していることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材。」
「【請求項7】 リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を炭素皮膜で被覆した導電性粉末のうち、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ炭素被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該炭素皮膜がラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する導電性粉末を高充放電容量及びサイクル特性を与えるリチウムイオン二次電池用負極活物質として選定することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の選定方法。」と訂正する。

2 訂正事項2
訂正前の明細書の【0007】について、
「【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者らは、上記目的を達成するため種々検討を行った結果、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆することで著しい電池特性の向上が見られることを確認すると同時に、単なる黒鉛被覆では市場の要求特性に応えられないことがわかった。そこで、本発明者らは更なる特性向上を目指し、詳細検討を行った結果、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面に被覆する黒鉛皮膜の物性を特定範囲に制御することで、市場の要求する特性レベルに到達し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」とあるのを、
「【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者らは、上記目的を達成するため種々検討を行った結果、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を炭素皮膜で被覆することで著しい電池特性の向上が見られることを確認すると同時に、単なる炭素被覆では市場の要求特性に応えられないことがわかった。そこで、本発明者らは更なる特性向上を目指し、詳細検討を行った結果、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面に被覆する炭素皮膜の物性を特定範囲に制御することで、市場の要求する特性レベルに到達し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」と訂正する。

3 訂正事項3
訂正前の明細書の【0008】について、
「【0008】
即ち、本発明者らは検討過程において、種々の条件にて得られたリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を黒鉛皮膜で覆った材料の電池特性評価を行った結果、各材料によって特性の相違があることを確認した。そこで、得られた各種材料の分析を行った結果、電池特性とラマン分光スペクトル、黒鉛被覆量、BET比表面積とは明らかなる相関が見られ、これら物性をある特定範囲にすることで、非常に特性の良好な非水電解質二次電池用負極材料が得られることを見出したものである。」とあるのを、
「【0008】
即ち、本発明者らは検討過程において、種々の条件にて得られたリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を炭素皮膜で覆った材料の電池特性評価を行った結果、各材料によって特性の相違があることを確認した。そこで、得られた各種材料の分析を行った結果、電池特性とラマン分光スペクトル、炭素被覆量、BET比表面積とは明らかなる相関が見られ、これら物性をある特定範囲にすることで、非常に特性の良好な非水電解質二次電池用負極材料が得られることを見出したものである。」と訂正する。

4 訂正事項4
訂正前の明細書の【0009】について、
「【0009】
従って、本発明は、下記の非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法を提供する。
(1)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
(2)複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が黒鉛と融合していることを特徴とする(1)記載の非水電解質二次電池用負極材。
(3)複合構造粒子における珪素系化合物が二酸化珪素であることを特徴とする(1)又は(2)記載の非水電解質二次電池用負極材。
(4)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料として、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物を用い、該材料をメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン及びその混合物、1環乃至3環の芳香族炭化水素及びその混合物、ガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油及びその混合物から選ばれる有機物ガス及び/又は蒸気中、1000?1400℃で化学蒸着処理を行うことを特徴とする(1)記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
(5)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料として、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物を用い、該材料をメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン及びその混合物、1環乃至3環の芳香族炭化水素及びその混合物、ガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油及びその混合物から選ばれる有機物ガス及び/又は蒸気中、500?1200℃で化学蒸着処理した後、不活性ガス雰囲気下1000?1400℃で熱処理することを特徴とする(1)記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
(6)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.3)で表される酸化珪素粉末であることを特徴とする(4)又は(5)記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
(7)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末のうち、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜がラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する導電性粉末を高充放電容量及びサイクル特性を与えるリチウムイオン二次電池用負極活物質として選定することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の選定方法。」とあるのを、
「【0009】
従って、本発明は、下記の非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法を提供する。
(1)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を炭素皮膜で被覆した導電性粉末であり、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物でありかつ、炭素被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該炭素皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
(2)複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が炭素と融合していることを特徴とする(1)記載の非水電解質二次電池用負極材。
(3)複合構造粒子における珪素系化合物が二酸化珪素であることを特徴とする(1)又は(2)記載の非水電解質二次電池用負極材。
(4)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料として、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物を用い、該材料をメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン及びその混合物、1環乃至3環の芳香族炭化水素及びその混合物、ガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油及びその混合物から選ばれる有機物ガス及び/又は蒸気中、1000?1400℃で化学蒸着処理を行うことを特徴とする(1)記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
(5)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料として、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物を用い、該材料をメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン及びその混合物、1環乃至3環の芳香族炭化水素及びその混合物、ガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油及びその混合物から選ばれる有機物ガス及び/又は蒸気中、500?1200℃で化学蒸着処理した後、不活性ガス雰囲気下1000?1400℃で熱処理することを特徴とする(1)記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
(6)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.3)で表される酸化珪素粉末であることを特徴とする(4)又は(5)記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
(7)リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を炭素皮膜で被覆した導電性粉末のうち、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物でありかつ、炭素被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該炭素皮膜がラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する導電性粉末を高充放電容量及びサイクル特性を与えるリチウムイオン二次電池用負極活物質として選定することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の選定方法。」と訂正する。

5 訂正事項5
訂正前の明細書の【0011】について、
「【0011】
この場合、Si及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子の物性については特に限定されるものではないが、平均粒子径は0.01?50μm、特に0.1?10μmが好ましい。平均粒子径が0.01μmより小さいと表面酸化の影響で純度が低下し、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、充放電容量が低下したり、嵩密度が低下し、単位体積あたりの充放電容量が低下する場合がある。逆に50μmより大きいと化学蒸着処理における黒鉛析出量が減少し、結果としてリチウムイオン二次電池負極材として用いた場合にサイクル性能が低下するおそれがある。 なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すことができる。」とあるのを、
「【0011】
この場合、Si及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子の物性については特に限定されるものではないが、平均粒子径は0.01?50μm、特に0.1?10μmが好ましい。平均粒子径が0.01μmより小さいと表面酸化の影響で純度が低下し、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、充放電容量が低下したり、嵩密度が低下し、単位体積あたりの充放電容量が低下する場合がある。逆に50μmより大きいと化学蒸着処理における炭素析出量が減少し、結果としてリチウムイオン二次電池負極材として用いた場合にサイクル性能が低下するおそれがある。 なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すことができる。」と訂正する。

6 訂正事項6
訂正前の明細書の【0018】について、
「【0018】
本発明における非水電解質二次電池用負極材は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆したものであり、被覆方法としてはメカニカルアロイング法、化学蒸着法(CVD法)等が挙げられるが、黒鉛皮膜の均一形成の点で化学蒸着法が優れており、より好適に用いられる。」とあるのを、
「【0018】
本発明における非水電解質二次電池用負極材は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を炭素皮膜で被覆したものであり、被覆方法としてはメカニカルアロイング法、化学蒸着法(CVD法)等が挙げられるが、炭素皮膜の均一形成の点で化学蒸着法が優れており、より好適に用いられる。」と訂正する。

7 訂正事項7
訂正前の明細書の【0019】について、
「【0019】
次に本発明の特徴をなす黒鉛皮膜及び黒鉛被覆を施した導電性粉末の物性について説明する。
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する黒鉛被覆量は3?40重量%であり、特に5?30重量%が好ましい。黒鉛被覆量が3重量%未満では、導電性膜形成といった点で不十分であり、十分な導電性を維持できなく、結果として非水電解質二次電池用負極材とした場合にサイクル性が低下する。逆に黒鉛被覆量が40重量%を超えても、効果の向上が見られないばかりか、負極材料に占める黒鉛の割合が多くなり、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、充放電容量が低下する。」とあるのを、
「【0019】
次に本発明の特徴をなす炭素皮膜及び炭素被覆を施した導電性粉末の物性について説明する。
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する炭素被覆量は3?40重量%であり、特に5?30重量%が好ましい。炭素被覆量が3重量%未満では、導電性膜形成といった点で不十分であり、十分な導電性を維持できなく、結果として非水電解質二次電池用負極材とした場合にサイクル性が低下する。逆に炭素被覆量が40重量%を超えても、効果の向上が見られないばかりか、負極材料に占める炭素の割合が多くなり、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、充放電容量が低下する。」と訂正する。

8 訂正事項8
訂正前の明細書の【0020】について、
「【0020】
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を黒鉛皮膜で被覆した導電性材料のBET比表面積は、2?30m^(2)/gであり、特に3?25m^(2)/gが好ましい。BET比表面積が2m^(2)/g未満では、表面活性が小さくなり、結果として非水電解質二次電池用負極材とした場合に充放電容量が低下する。逆に、BET比表面積が30m^(2)/gを超えると、電極作製時の結着剤量が多くなり、電極としての容量が低下するし、経済的にも不利となる。」とあるのを、
「【0020】
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を炭素皮膜で被覆した導電性材料のBET比表面積は、2?30m^(2)/gであり、特に3?25m^(2)/gが好ましい。BET比表面積が2m^(2)/g未満では、表面活性が小さくなり、結果として非水電解質二次電池用負極材とした場合に充放電容量が低下する。逆に、BET比表面積が30m^(2)/gを超えると、電極作製時の結着剤量が多くなり、電極としての容量が低下するし、経済的にも不利となる。」と訂正する。

9 訂正事項9
訂正前の明細書の【0021】について、
「【0021】
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する黒鉛被覆膜は、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有することが必須である。この黒鉛皮膜を有する導電性材料を非水電解質二次電池用負極材として用いることで電池特性が飛躍的に向上する。この原因については、不明であるが、結果として、上記構造を有することにより、充放電時に伴う電極材料の膨張・収縮による電極破壊を防止できることで、黒鉛皮膜が、強度を維持する外殻の役割を果たしていることが推測できる。」とあるのを、
「【0021】
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する炭素被覆膜は、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有することが必須である。この炭素皮膜を有する導電性材料を非水電解質二次電池用負極材として用いることで電池特性が飛躍的に向上する。この原因については、不明であるが、結果として、上記構造を有することにより、充放電時に伴う電極材料の膨張・収縮による電極破壊を防止できることで、炭素皮膜が、強度を維持する外殻の役割を果たしていることが推測できる。」と訂正する。

10 訂正事項10
訂正前の明細書の【0022】について、
「【0022】
次に、本発明におけるリチウムイオン二次電池負極材の製造方法について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池負極材は、以下に示す2つの方法により製造することができる。第1の方法は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を少なくとも有機物ガス又は蒸気(例えばCH_(4)等)を含む雰囲気下、1000?1400℃、より好ましくは1020?1200℃の温度域で熱処理(CVD)する方法である。ここで、熱処理温度が1000℃より低いと、目的とするグラファイト構造を有する膜ができない場合があるし、逆に1400℃より高いと、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性皮膜が形成されず、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがあるためである。特に珪素を母材として用いた場合には珪素の融点に近い温度となるため、珪素が溶融し、粒子表面への導電性皮膜の被覆処理が困難となる。この第1の方法では、CVD処理条件によって、あるいは製造バッチによって所望とする結晶性の高い(即ち、特定のラマン分光スペクトルを有する)黒鉛皮膜で被覆された導電性粉末を定量的に確実に得ることが必ずしもできない場合がある。」とあるのを、
「【0022】
次に、本発明におけるリチウムイオン二次電池負極材の製造方法について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池負極材は、以下に示す2つの方法により製造することができる。第1の方法は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を少なくとも有機物ガス又は蒸気(例えばCH_(4)等)を含む雰囲気下、1000?1400℃、より好ましくは1020?1200℃の温度域で熱処理(CVD)する方法である。ここで、熱処理温度が1000℃より低いと、目的とするグラファイト構造を有する膜ができない場合があるし、逆に1400℃より高いと、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性皮膜が形成されず、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがあるためである。特に珪素を母材として用いた場合には珪素の融点に近い温度となるため、珪素が溶融し、粒子表面への導電性皮膜の被覆処理が困難となる。この第1の方法では、CVD処理条件によって、あるいは製造バッチによって所望とする結晶性の高い(即ち、特定のラマン分光スペクトルを有する)炭素皮膜で被覆された導電性粉末を定量的に確実に得ることが必ずしもできない場合がある。」と訂正する。

11 訂正事項11
訂正前の明細書の【0023】について、
「【0023】
第2の方法は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を少なくとも有機物ガス又は蒸気を含む雰囲気下、500?1200℃、より好ましくは700?1100℃の温度域で熱処理した処理物を再度不活性ガス雰囲気中1000?1400℃、より好ましくは1020?1200℃の温度域で熱処理する方法である。ここで、処理温度を限定した理由は上記1と同様である。なお、この第2の方法による導電性粉末製造は工程が増えるといった課題があるものの、第1の方法に比べ、より確実に、結晶性の高い(即ち、ラマン分光スペクトルを有する)黒鉛皮膜で被覆された導電性粉末を得ることができ、品質が安定するといった利点を有する。」とあるのを、
「【0023】
第2の方法は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を少なくとも有機物ガス又は蒸気を含む雰囲気下、500?1200℃、より好ましくは700?1100℃の温度域で熱処理した処理物を再度不活性ガス雰囲気中1000?1400℃、より好ましくは1020?1200℃の温度域で熱処理する方法である。ここで、処理温度を限定した理由は上記1と同様である。なお、この第2の方法による導電性粉末製造は工程が増えるといった課題があるものの、第1の方法に比べ、より確実に、結晶性の高い(即ち、ラマン分光スペクトルを有する)炭素皮膜で被覆された導電性粉末を得ることができ、品質が安定するといった利点を有する。」と訂正する。

12 訂正事項12
訂正前の明細書の【0027】について、
「【0027】
また、化学蒸着処理を行う原料については、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料単独、若しくはリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を有機珪素系表面処理剤で処理した処理物に黒鉛を添加した混合物が挙げられる。ここで、黒鉛を添加する理由はより導電性を向上させるためである。いずれにしても、本発明においては、表面の黒鉛皮膜がラマン分光スペクトルによりラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する結晶性の高い黒鉛皮膜で被覆されていることが必須であり、上記第1の方法あるいは第2の方法で製造されたもののうち、上記特性を満足するもののみを選定して負極材料に適用することが重要である。」とあるのを、
「【0027】
また、化学蒸着処理を行う原料については、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料単独、若しくはリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を有機珪素系表面処理剤で処理した処理物に黒鉛を添加した混合物が挙げられる。ここで、黒鉛を添加する理由はより導電性を向上させるためである。いずれにしても、本発明においては、表面の炭素皮膜がラマン分光スペクトルによりラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する結晶性の高い炭素皮膜で被覆されていることが必須であり、上記第1の方法あるいは第2の方法で製造されたもののうち、上記特性を満足するもののみを選定して負極材料に適用することが重要である。」と訂正する。

13 訂正事項13
訂正前の明細書の【0041】について、
「【0041】
[実施例1]
平均粒子径4μmの一般式SiO_(x)(x=1.02)で表される酸化珪素粉末200gを流動層型処理装置内に仕込んだ。その後、Arガスを2NL/min流入しながら、300℃/hrの昇温速度で1150℃まで昇温、保持した。次に、CH_(4)ガスを1NL/min追加流入し、5時間の黒鉛被覆処理を行った。処理後は降温し、約240gの黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、平均粒子径=4.2μm、BET比表面積=15.2m^(2)/g、黒鉛被覆量22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。」とあるのを、
「【0041】
[実施例1]
平均粒子径4μmの一般式SiO_(x)(x=1.02)で表される酸化珪素粉末200gを流動層型処理装置内に仕込んだ。その後、Arガスを2NL/min流入しながら、300℃/hrの昇温速度で1150℃まで昇温、保持した。次に、CH_(4)ガスを1NL/min追加流入し、5時間の炭素被覆処理を行った。処理後は降温し、約240gの黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、平均粒子径=4.2μm、BET比表面積=15.2m^(2)/g、炭素被覆量22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。」と訂正する。

14 訂正事項14
訂正前の明細書の【0044】について、
「【0044】
[比較例1、実施例2]
実施例1で用いた一般式SiO_(x)(x=1.02)で示される酸化珪素粉末を処理温度950℃で7時間の黒鉛被覆処理した他は、実施例1と同様な方法で約240gの導電性粉末を製造した。得られた導電性粉末は、平均粒子径=4.5μm、BET比表面積=25.3m^(2)/g、黒鉛被覆量=22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルは有していなかった。
この導電性粉末を用いて実施例1と同じ方法で試験用電池を作製し、同様な電池評価を行った結果、初回充放電容量1360mAh/g、初回放電容量1100mAh/g、初回充放電効率81%、50サイクル目の放電容量720mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率65%の実施例1に比べサイクル性の劣るリチウムイオン二次電池であった。」とあるのを、
「【0044】
[比較例1、実施例2]
実施例1で用いた一般式SiO_(x)(x=1.02)で示される酸化珪素粉末を処理温度950℃で7時間の炭素被覆処理した他は、実施例1と同様な方法で約240gの導電性粉末を製造した。得られた導電性粉末は、平均粒子径=4.5μm、BET比表面積=25.3m^(2)/g、炭素被覆量=22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルは有していなかった。
この導電性粉末を用いて実施例1と同じ方法で試験用電池を作製し、同様な電池評価を行った結果、初回充放電容量1360mAh/g、初回放電容量1100mAh/g、初回充放電効率81%、50サイクル目の放電容量720mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率65%の実施例1に比べサイクル性の劣るリチウムイオン二次電池であった。」と訂正する。

15 訂正事項15
訂正前の明細書の【0045】について、
「【0045】
次に、この上記導電性粉末を窒化珪素製トレイに100g仕込み、バッチ炉内に静置後、Ar雰囲気中1200℃にて3時間熱処理を行い、平均粒子径=4.3μm、BET比表面積=20.5m^(2)/g、黒鉛被覆量=22重量%の熱処理品を製造し、この熱処理品についても実施例1と同様な電池評価を行った。
なお、この導電性粉末はラマン分光スペクトルにより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。その結果、初回充放電容量1320mAh/g、初回放電容量1190mAh/g、初回充放電効率90%、50サイクル目の放電容量1120mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率94%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であった。」とあるのを、
「【0045】
次に、この上記導電性粉末を窒化珪素製トレイに100g仕込み、バッチ炉内に静置後、Ar雰囲気中1200℃にて3時間熱処理を行い、平均粒子径=4.3μm、BET比表面積=20.5m^(2)/g、炭素被覆量=22重量%の熱処理品を製造し、この熱処理品についても実施例1と同様な電池評価を行った。
なお、この導電性粉末はラマン分光スペクトルにより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。その結果、初回充放電容量1320mAh/g、初回放電容量1190mAh/g、初回充放電効率90%、50サイクル目の放電容量1120mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率94%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であった。」と訂正する。

16 訂正事項16
訂正前の明細書の【0046】について、
「【0046】
[比較例2?4]
黒鉛被覆処理温度、熱処理温度を変えた他は実施例1及び2と同様な方法で導電性粉末を製造した。導電性膜被覆条件及び導電性粉末物性を表1に示す。次に実施例1と同様な方法にて電池評価を行った。評価結果を表2に記す。」とあるのを、
「【0046】
[比較例2?4]
炭素被覆処理温度、熱処理温度を変えた他は実施例1及び2と同様な方法で導電性粉末を製造した。導電性膜被覆条件及び導電性粉末物性を表1に示す。次に実施例1と同様な方法にて電池評価を行った。評価結果を表2に記す。」と訂正する。

17 訂正事項17
訂正前の明細書の【0047】の表1中において、
「黒鉛被覆量」とあるのを、
「炭素被覆量」と訂正する。

第4 訂正拒絶理由の概要
訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもなく、同条第6項の規定にも適合しないので、訂正事項1に係る訂正を認めることはできない。
また、訂正事項2?訂正事項17は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載との整合性を図るための訂正であるところ、訂正事項1が適法な訂正とはいえないから、訂正事項2?訂正事項17も、同様に、適法な訂正とはいえない。
以上のとおりであるから、特許権全体に対して訂正を請求する本件訂正は、適法な訂正とはいえず、拒絶すべきものである。

第5 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
ア 訂正前の請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】 リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であり、かつ黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。」

イ 訂正前の請求項1の上記「黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」との特定事項について、明瞭か否か検討する。

ウ 訂正前の請求項1の上記「黒鉛皮膜」は、「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料」である「珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物」の「表面」を「被覆」するものであり、請求項4、請求項5に記載されているように、「1000?1400℃で化学蒸着処理を行う」か、「500?1200℃で化学蒸着処理した後、不活性ガス雰囲気下1000?1400℃で熱処理する」という比較的低い温度で生成されたものであって、黒鉛の結晶度が高いものでないことは明らかだから、当該「黒鉛皮膜」の「黒鉛」は、ラマン分光スペクトルで、1580cm^(-1)にラマンシフトのスペクトルが観測されるが、1330cm^(-1)にラマンシフトのスペクトルが観測されない天然黒鉛と同等のものでないことは明らかである。

エ また、甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。
甲第1号証:稲垣道夫、外3名「黒鉛化度の評価」国際炭素会議1982要旨集、(株)科学技術社、第165頁?第175頁
「図10に天然黒鉛を含めた各種の炭素のラマンスペクトルを示した。天然黒鉛では期待されるように1580cm^(-1)に1本のラマンバンドが観測される。しかし、コークスやグラッシーカーボンでは3000℃処理後であるにもかかわらず、1360cm^(-1)にもう一つのバンドが認められる。このバンドは黒鉛化過程にある炭素や磨砕などによって欠陥を導入された不完全な結晶で常に認められるもので、結晶局部での構造が六方晶対称性からより低い対称性へ移行したり、あるいは失われることによって生じると考えられている。したがって、1360cm^(-1)のラマンバンドの相対強度はこのような結晶構造の乱れを反映しており、それは黒鉛化度に対応している。図10において、天然黒鉛には1360cm^(-1)のバンドは現れず、易黒鉛化性炭素に属するケンダルコークスの3000℃処理物が比較的弱い1360cm^(-1)バンドを示すのに対して、難黒鉛化性炭素であるグラッシーカーボンは3000℃で加熱しても1360cm^(-1)バンドの強度はほとんど減少せず、多くの構造欠陥が除去されずに残っていることを示している。この結果はX線回折から得られる結果と対応している。
図11は直径10μm程度の1本のメソフェースピッチ系炭素繊維から得られたラマンスペクトルである。加熱処理温度が高くなるにつれてラマンバンド全体がシャープになるとともに、1360cm^(-1)バンドの強度が2000℃以上で急激に減少し、黒鉛化が急速に進行していることを示している。図12は難黒鉛化性炭素であるグラッシーカーボンの加熱処理温度にともなう変化を示したものである。図11の炭素繊維の場合と違って、加熱処理温度が2000℃から3000℃に上昇しても、バンド幅が幾分シャープになるだけで、1360cm^(-1)バンドの強度に大きな変化はない。これは、1000℃までの炭化初期に形成された多くの欠陥を含んだ構造が、3000℃のような高温でも修復されずにそのまま凍結されていることを示している。
これらの実験結果から明らかなように、ラマンスペクトルにおいて1360cm^(-1)バンドの1580cm^(-1)バンドに対する相対強度は試料炭素の黒鉛化度となんらかの対応を示しており、その評価のためのパラメーターの一つとして使いうる。表2はコークス、炭素繊維、ガラス状炭素について1360cm^(-1)バンドの強度I_(1360)を1580cm^(-1)バンドの強度I_(1580)に対する比R(=I_(1360)/I_(1580))で表したものである。いずれの炭素材についても、加熱処理温度の上昇とともにR値は減少し、局部的な構造の乱れが徐々に減少し、六方晶対称性が回復している、言い換えれば、黒鉛化が進行していることがわかる。そして、ガラス状炭素は難黒鉛化性であるのに対して、メソフェースピッチ系炭素繊維が高い黒鉛化性を示すことはX線回折などからの結果とよく一致している。R値が0.2以下のものは平均面間隔d(-)_(002)(当審注:「d(-)」は、dの上に-があることを表す。)が天然黒鉛の値に近く、黒鉛化度の高い炭素であると言える。また、表中には、天然黒鉛を磨砕することによって機械的に欠陥を導入したものについてのR値も示してある。黒鉛化過程が構造欠陥を除去するプロセスであるのに対して、機械的磨砕は全く逆のプロセスであり、磨砕時間の増加とともにR値が大きくなり、構造破壊が起こっていることがわかる。」(第170頁左欄第4行?第171頁左欄第21行)

















オ 上記エの、図10、表2によれば、易黒鉛化性炭素に属するケンダルコークスの2540℃?3000℃処理物は、「易黒鉛化炭素」を、黒鉛化可能な温度で加熱処理したものであるから、一般的に「黒鉛」であるといえ、「ラマンシフトが」「1360cm^(-1)と1580cm^(-1)付近」に「スペクトルを有する」ものである。
また、メソフェースピッチ系炭素繊維について、「2000℃以上で急激に減少し、黒鉛化が急速に進行している」、「メソフェースピッチ系炭素繊維が高い黒鉛化性を示す」との記載や、図11、表2によれば、メソフェースピッチ系炭素繊維を2000℃以上で加熱処理したものも、一般的に「黒鉛」であるといえ、「ラマンシフトが」「1360cm^(-1)と1580cm^(-1)付近」に「スペクトルを有する」ものである。
また、表2によれば、メソフェーズピッチ系炭素繊維の2000℃での熱処理物のR値は、0.56であり、ケンダルコークスの2540℃での熱処理物のR値は0.60である。これらは、上記のとおり、一般的に「黒鉛」といえるから、R値が0.60以下程度のものは、天然黒鉛(R値=0)ほど結晶性は高くないものの、一般的に「黒鉛」とみなされるといえる。

カ 上記オのとおり、一般的に「黒鉛」とは、1580cm^(-1)に1本のラマンバンドが観測される天然黒鉛のみならず、「ラマンシフトが」「1360cm^(-1)と1580cm^(-1)付近」に「スペクトルを有する」もののうち、黒鉛化度が高いものも含むものであるといえる。
そして、本件明細書の図1、甲1の図10?図12によれば、甲1に記載される1360cm^(-1)のラマンピークは、本件発明1の「1330cm^(-1) 」「付近」の「ラマンシフト」の「スペクトル」に相当すると認められる。

キ 上記ウ?カのとおりであるから、訂正前の請求項1の「黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」との特定事項における「黒鉛皮膜」とは、「ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」もののうち、黒鉛化度の高いものであるといえるから、請求項1の上記記載は明瞭であるといえるし、請求項1の「黒鉛皮膜」、「黒鉛被覆」との記載も、「ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」との記載と整合しているといえるから、訂正前の請求項1は明瞭である。

ク そうすると、訂正前の請求項1は、明瞭であるから、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはいえない。

ケ そして、請求項1の「黒鉛皮膜」、「黒鉛被覆」との記載が誤記であるともいえないから、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものとはいえないし、「炭素」は、「黒鉛」の上位概念であるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものともいえないし、訂正事項1が、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものでもないことは明らかである。

コ 以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 上記(1)のとおり、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもないが、仮に、正確性を期すという意味で明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとして検討する。

イ 甲1の図10、図12と表2によれば、「ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」炭素材には、R値が1を超えるガラス状炭素も含まれるが、一般的に、「ガラス状炭素」は、「黒鉛」とはみなされないから、訂正前の「黒鉛皮膜」には含まれないものである。

ウ そうすると、訂正前の「黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」との特定事項について、黒鉛化度の高いものから、ガラス状炭素まで含む「ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近」に2本のスペクトルを有する「炭素」のうち、どの程度の「黒鉛」化度のものまでが含まれるのかが明示的には特定されていないけれども、「黒鉛」と特定しているから、少なくとも、ガラス状炭素を含まないものであると解することができる。

エ 上記ウのとおり、訂正前の「黒鉛皮膜」には、ガラス状炭素皮膜は含まれないと解するのが相当であるところ、訂正事項1によって訂正される「炭素皮膜」は、新たに「ガラス状炭素」を含むものとなるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当する。

(3)訂正事項1の訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き各号に掲げるいずれの事項を目的とするものではなく、仮に同条同項第3号に掲げる事項を目的とするものであったとしても、同条第6項の規定に適合しないので、訂正事項1に係る訂正を認めることはできない。

2 訂正事項2?訂正事項17について
訂正事項2?訂正事項17は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載との整合性を図るための訂正であるところ、上記1のとおり、訂正事項1が適法な訂正とはいえないから、訂正事項2?訂正事項17も、同様に、適法な訂正とはいえない。

第6 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、特許権全体に対して訂正を請求する本件訂正は、適法な訂正とはいえないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2019-01-17 
結審通知日 2019-01-21 
審決日 2019-02-01 
出願番号 特願2003-119210(P2003-119210)
審決分類 P 1 41・ 851- Z (H01M)
P 1 41・ 854- Z (H01M)
P 1 41・ 852- Z (H01M)
P 1 41・ 857- Z (H01M)
P 1 41・ 853- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
結城 佐織
登録日 2008-08-22 
登録番号 特許第4171897号(P4171897)
発明の名称 非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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