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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R
管理番号 1350127
審判番号 不服2017-12027  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-10 
確定日 2019-03-22 
事件の表示 特願2013- 81979「端子付き電線の止水構造及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開、特開2014-203807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月10日を出願日とする特許出願であって、平成28年11月24日(起案日)付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月11日に意見書及び手続補正書の提出がなされ、同年6月7日(起案日)付けで拒絶査定がされ、同年8月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がされ、これに対し、当審より平成30年7月25日(起案日)付けで拒絶理由を通知し、同年9月18日に意見書の提出がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)のうち本願発明1は、平成29年1月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
複数の素線からなる導体と前記導体を被覆する絶縁被覆部とを有する電線と、
電気接続部と電線接続部を有し、前記電線接続部は前記絶縁被覆部を加締めて固定する被覆固定部と前記絶縁被覆部が剥離して露出された前記導体を加締めて固定する導体固定部とを有した端子とを備え、
前記絶縁被覆部内の隙間に止水剤を充填して前記電線内の止水を行う端子付き電線の止水構造であって、
前記被覆固定部と前記導体固定部との間に止水剤溜まり部が設けられており、前記止水剤溜まり部に露出する前記絶縁被覆部の長さをL1、前記止水剤溜まり部に露出する前記導体の長さをL2としたとき、L2がL1以上の長さに設定されており、
前記止水剤溜まり部を形成する一対の側壁部は、前記絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることができる高さに設定されていることを特徴とする端子付き電線の止水構造。」

第3 拒絶の理由
平成30年7月25日(起案日)付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願発明1?3は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2006-228709号公報
引用文献2:特開2010-140740号公報
引用文献3:特開2007-287634号公報

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審にて付したものである(以下同様)。
ア「【0022】
このアース接続端子20の前記両バレル22,24が開いた状態で、前記のように被覆材14が除去されたアース用電線10の端末をセットし、その後、前記導体バレル22及びインシュレーションバレル24をそれぞれ閉じて前記導体12及び被覆材14に圧着(かしめ)固定する。」
イ「【0026】
3)減圧工程
前記止水剤供給工程によって止水剤をアース用電線10の一方の端末(アース接続端子20が固定された端末)に滴下した後、アース用電線10の他方の端末(アース接続端子20を固定した端末と反対側の端末)から被覆材14の内側のエアを吸引する減圧工程を開始する。これにより、当該止水剤を強制的に被覆材14の内側に浸透させる。」
ウ「【0042】
(実施形態2)
本発明の第2の実施形態では、図5?図7に示すようなアース接続端子120を用いる。図5(a)はアース接続端子120をアース用電線10の一方の端末に圧着固定した状態を示す平面図、同図(b)は側面図である。図6(a)は図5(a)のI-I断面、図6(b)は図5(a)のII-II断面を示す断面図である。図7は端子圧着前の状態におけるアース接続端子120を示す平面図である。
【0043】
図5および図7に示すように、この第2実施形態で用いられるアース接続端子120は、単一の金属板から構成され、アース接続部121と、導体バレル122およびインシュレーションバレル124とを一体に有している。ただし、このアース接続端子120は、前記第1実施形態と異なり、導体バレル122とインシュレーションバレル124との間に、アース用電線10の左右両側側方を囲むような壁面を形成する側壁部126を一体に有している。図5(a)に示すように、この側壁部126は、その内側面がアース用電線10(導体12および被覆材14)の側面部から所定距離だけ離間するように形成されており、この側壁部126とアース用電線10との間に隙間Cが形成されるようになっている。また、図5(b)に示すように、アース接続端子120の底面部には、前記導体バレル122とインシュレーションバレル124との間にあたる部分に、周囲よりも下方に突出した下凸部128が形成されており、この下凸部128の内面とアース用電線10の下面部との間に隙間Dが形成されるようになっている。
【0044】
図5(a)および図6(a)に示すように、前記インシュレーションバレル124の前方部分(電線端末側部分)は、比較的幅広に形成されており、この前方部分の内周面と被覆材14の側面部との間にある程度の隙間が形成されるようになっている。一方、図5(a)および図6(b)に示すように、前記インシュレーションバレル124の後方部分(反端末側部分)は、前記前方部分よりも幅寸法が小さくなるように絞られており、この後方部分の内周面と被覆材14との間にほとんど隙間が形成されないようになっている。なお、導体バレル122については、導体12との間にほとんど隙間が形成されないように一様に絞られている。
【0045】
この第2実施形態では、止水剤供給工程を、前記第1実施形態と同様に、前記アース接続端子120の導体バレル122とインシュレーションバレル124との間の領域(図5に示す滴下領域B)に止水剤を滴下してこれを溜めるようにして行う。ただしこの第2実施形態では、導体バレル122とインシュレーションバレル124との間に、滴下領域Bの側方を囲むような状態で前記側壁部126が形成されているため、この側壁部126によって止水剤が側方に溢れ出すのを防止しながら、より安定した状態で止水剤を滴下領域Bに溜めることができる。しかもこのとき、アース用電線10と側壁部126との間や、アース用電線10と下凸部128との間に形成された隙間C,Dにより、止水剤を溜めるためのスペースが広く確保されているため、充分な量の止水剤を確実に滴下領域Bに溜めることができる。さらには、前記隙間Cを確保するために前方部分を幅広に形成したインシュレーションバレル124に対し、その後方部分を絞るようにしたことにより、この後方部分においてインシュレーションバレル124と被覆材14との間にほとんど隙間を形成しないようにしたため、これら両部材の間を通って止水剤が外部に漏れ出すのを防止でき、より安定した状態で止水剤を溜めることができる。
【0046】
なお、上記第2実施形態においてアース接続端子120の底面部に設けられた下凸部128は省略してもよい。このようにすると、アース用電線10の下方に形成されていた前記隙間Dは存在しなくなるが、その場合でも、アース用電線10と側壁部126との間の隙間Cに、必要な量の止水剤を確実に溜めることができる。」
エ 上記イにて摘記した事項によれば、滴下された止水剤は、減圧工程により、「強制的に被覆材14の内側に浸透させる」ものである。そして、上記ウに摘記した事項によれば、その止水剤については、滴下領域Bの側方を囲む側壁部126との関係で、「側壁部126によって止水剤が側方に溢れ出すのを防止しながら、・・・止水剤を滴下領域Bに溜める」ことが記載されており、そのとき「充分な量の止水剤を確実に滴下領域Bに溜めることができる」ことも記載されている。なお、下凸部128は省略してもよく、「その場合でも、アース用電線10と側壁部126との間の隙間Cに、必要な量の止水剤を確実に溜めることができる」。してみれば、引用文献1には、「滴下領域Bを形成する一対の側壁部126は、前記被覆材14内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている」点が記載されている。

(2)引用発明1
上記(1)に摘記した記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「複数の素線からなる導体12と前記導体12を被覆する被覆材14とを有するアース用電線10と、
アース接続部121とインシュレーションバレル124及び導体バレル122を有し、前記インシュレーションバレル124及び導体バレル122は前記被覆材14をかしめて固定するインシュレーションバレル124と前記被覆材14が剥離して露出された前記導体12をかしめて固定する導体バレル122とを有したアース接続端子120とを備え、
前記被覆材14内の隙間に止水剤を充填して前記アース用電線10内の止水を行う端子付き電線の止水構造であって、
前記インシュレーションバレル124と前記導体バレル122との間に止水剤を溜める滴下領域Bが設けられており、前記滴下領域Bに露出する前記被覆材14の部分及び前記滴下領域Bに露出する前記導体12の部分があり、
前記滴下領域Bを形成する一対の側壁部126は、前記被覆材14内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている端子付き電線の止水構造。」

2 引用文献2の記載事項
引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。
「この位置決め部26は、前記基板1の両側面21cが内側に折り込まれることで形成された基板21の両側部から内側に突出する一対の突片26a,26bからなり、これら突片26a,26bの電線10の長さ方向における前記インシュレーションバレル部24側の端部26c,26dが前記境界Aにおける被覆材14の端面14aと当接することで、この端面14aの位置ひいては前記境界Aの位置を決定する。」(【0024】段落)
「本実施形態では、前記導体バレル部22と突片26a,26bの端部26c,26dとの距離L2は、前記導体バレル部22の幅W(当審注:図2における「t」)の1.5倍に設定されている。なお、本実施形態では、前記バレル部間の距離L1が導体バレル部22の幅Wの2.5倍に設定されているため、前記突片26a,26bの端部26c,26dと前記インシュレーションバレル部24の電線10の長さ方向における前記導体バレル部22側の端部との距離L3は前記導体バレル部22の幅W(当審注:図2における「t」)と等しい。」(【0025】段落)
「この工程では、図4および図6に示すように、図略のディスペンサを用いて前記導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間、主にこのバレル部間に配置された前記導体露出部分に止水剤18を上方から滴下する。」(【0032】段落)

3 引用文献3の記載事項
引用文献3には、図面とともに、次の記載がある。
「図例の圧着端子20は、単一の金属板を曲げ加工することにより形成されたものであり、電線の長さ方向に延びる基板21と、この基板21の側部から上方に延びて各電線10,50の導体12,52を束ねつつ、この導体12,52と圧着される導体バレル部22と、電線50の被覆材54に圧着されるインシュレーションバレル部24と、この導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間に設けられて、基板21の側部から上方に延びて、電線50の被覆材54が除去された領域と除去されていない領域との境界部分(図中網掛け部分A)を下方から覆うような形状を有する受け部26とを一体に有している。」(【0019】段落)
「第二の電線50において前記被覆材54が除去された領域と除去されていない領域との境界部分Aに対し、図略のディスペンサを用いて止水剤18を滴下し、これにより、止水剤18が導体52と被覆材54との隙間を塞ぐ状態にする。」(【0023】段落)
「ここで、前記止水剤18を滴下する部分Aの下方には、前記圧着端子20の受け部26が配設されており、この止水剤滴下部分Aの左右には壁面部26aが形成されているので、この壁面部26aによって止水剤18が外方にあふれ出すのを抑止しながら、より安定した状態で止水剤18をこの止水剤滴下部分Aに溜めることができる。」(【0024】段落)
また、図2及び図4には、インシュレーションバレル部24と導体バレル部22との間の、受け部26が設けられた領域において、当該領域に露出する導体52の長さが当該領域に露出する被覆材54の長さ以上の長さとなるようにした構成が記載されている。

第5 対比・判断
1 本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ここで、後者の「導体12」は前者の「導体」に、後者の「被覆材14」は前者の「絶縁被覆部」に、後者の「アース用電線10」は前者の「電線」に、後者の「アース接続部121」は前者の「電気接続部」に、後者の「インシュレーションバレル124及び導体バレル122」は前者の「電線接続部」に、後者の「インシュレーションバレル124」は前者の「被覆固定部」に、後者の「導体バレル122」は前者の「導体固定部」に、後者の「アース接続端子120」は前者の「端子」に、後者の「滴下領域B」は前者の「止水剤溜まり部」に、後者の「側壁部126」は前者の「側壁部」に、それぞれ相当する。
前者の「絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることができる高さに設定されている」点は、後者の「被覆材14内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている」点と、「絶縁被覆部内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている」限りで共通する。
以上の点からみて、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点1を有するとともに、相違点2を一応有する。

[一致点]
「複数の素線からなる導体と前記導体を被覆する絶縁被覆部とを有する電線と、
電気接続部と電線接続部を有し、前記電線接続部は前記絶縁被覆部を加締めて固定する被覆固定部と前記絶縁被覆部が剥離して露出された前記導体を加締めて固定する導体固定部とを有した端子とを備え、
前記絶縁被覆部内の隙間に止水剤を充填して前記電線内の止水を行う端子付き電線の止水構造であって、
前記被覆固定部と前記導体固定部との間に止水剤溜まり部が設けられており、
前記止水剤溜まり部を形成する一対の側壁部は、前記絶縁被覆部内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている端子付き電線の止水構造。」

[相違点1]
「止水剤溜まり部」に関し、本願発明1では、「前記止水剤溜まり部に露出する前記絶縁被覆部の長さをL1、前記止水剤溜まり部に露出する前記導体の長さをL2としたとき、L2がL1以上の長さに設定」されているのに対し、引用発明1では、「前記滴下領域Bに露出する前記被覆材14の部分及び前記滴下領域Bに露出する前記導体12の部分」があるものの、「前記滴下領域Bに露出する前記導体12の部分」の長さが「前記滴下領域Bに露出する前記被覆材14の部分」の長さ以上の長さに設定されているか否かは不明である点。

[相違点2]
「止水剤溜まり部を形成する一対の側壁部」に関し、本願発明1では、「絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることができる高さに設定されている」のに対し、引用発明1では、「被覆材14内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている」点。

2 判断
そこで、上記相違点1及び2について検討する。

[相違点1について]
上記「第4」における2及び3に摘記した引用文献2及び3の記載事項に鑑みると、引用文献2及び3には、止水剤を滴下する、被覆固定部と導体固定部との間の領域において、当該領域に露出する導体の長さが当該領域に露出する絶縁被覆部の長さ以上の長さになるように設定することが記載されているといえる。
そして、引用文献1には、上記「第4」における1(1)に摘記したとおり、アース用電線10において、その被覆材14の内側のエアを吸引する減圧工程により、滴下した止水剤を強制的に被覆材14の内側に浸透させること、並びに、アース用電線10と側壁部126との間に形成された隙間C及びアース用電線10と下凸部128との間に形成された隙間Dにより、滴下した止水剤を溜めるためのスペースが広く確保されているため、充分な量の止水剤を確実に滴下領域Bに溜めることができることが記載されている。また、両側壁部126の間の距離が同じであれば、滴下領域Bに露出する導体12の部分に対応する隙間Cのほうが、当該滴下領域Bに露出する被覆材14の部分に対応する隙間Cよりも大きいことは、導体12の外径が被覆材14の外径よりも小さい以上、明らかである。
してみると、引用発明1において、隙間Cを大きく取ることにより、滴下した止水剤を溜めるためのスペースを広く確保し、被覆材14の内側に浸透させるに充分な量の止水剤を確実に滴下領域Bに溜めることができるようにすべく、上記引用文献2及び3に記載された事項に鑑みて、インシュレーションバレル124と導体バレル122との間の滴下領域Bにおいて、当該領域に露出する導体12の長さが当該領域に露出する被覆材14の長さ以上の長さになるよう設定することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

[相違点2について]
「止水剤溜まり部を形成する一対の側壁部」に関し、本願発明1では、「絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることができる高さに設定されている」とされているが、その「必要浸透長さ」については、本願の請求項1を含む各請求項にも発明の詳細な説明にも、定義はなされておらず、具体的な特定もなされていない。かえって、本願の発明の詳細な説明における段落【0026】には、「必要浸透長さNLは、電線3の設置環境(仕様)等によって相違する。」と記載されており、不定のものであることが示唆されている。そうすると、本願発明1において、上記の「絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることができる高さに設定されている」とする特定は、実質的に、側壁部の高さが、止水目的に鑑みて必要な止水剤の絶縁被覆部内への浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されていることを特定するにすぎない、というほかはない。
してみれば、本願発明1における当該特定は、引用発明1において、「止水剤溜まり部を形成する一対の側壁部」に関し、「被覆材14内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている」点と、実質的に異なるところはない。
よって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

そして、本願発明1の奏する作用効果について総合的に検討しても、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別なものということはできない。

3 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年9月18日提出の意見書において、次の事項を含む主張を行っている。
「止水剤による止水性能には、いろいろなレベルがあります。例えば、引用文献1、3の発明では、電線の隙間(導体とその外側の被覆材との隙間)内にむらなく確実に止水剤を充填させることを目的としていますから、止水剤の十分な量とは、滴下領域にあって、導体と被覆材との隙間を全周にわたって覆う状態とする量です(段落0023)。
これに対し、本願請求項1、3の発明では、絶縁被覆部内に浸透する止水剤の必要浸透長さは、電線の設置環境(仕様)等によって相違することに着目し(段落0026)、止水剤溜まり部が絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることが必要であります。」
「引用文献1?3には、止水性能のパラメータとして絶縁被覆部内の止水剤の浸透長さについてなんら記載がなく、着目されていません。」
しかしながら、引用文献1に「滴下領域Bを形成する一対の側壁部126は、前記被覆材14内への必要な浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されている」点が記載されていることは、上記「第4」における1(1)エにて検討したとおりであり、他方、本願発明1における「絶縁被覆部内に必要浸透長さに相当する容量を溜めることができる高さに設定されている」とする特定が、実質的に、側壁部の高さについて、止水目的に鑑みて必要な止水剤の絶縁被覆部内への浸透のための容量を溜めることができる高さに設定されていることを特定するにすぎないと解するほかないことは、上記2にて相違点2に関し説示したとおりである。
そして、審判請求人は上記のとおり「引用文献1?3には、止水性能のパラメータとして絶縁被覆部内の止水剤の浸透長さについてなんら記載がなく」と主張するが、本願においても、「止水性能のパラメータ」としての「浸透長さ」について、請求項1を含む各請求項はもとより発明の詳細な説明にも、何ら定義ないし具体的な特定はなされていないから、当該主張に基づいて本願発明1と引用発明1との実質的な相違を認めることはできない。
さらに、審判請求人が「絶縁被覆部内に浸透する止水剤の必要浸透長さは、電線の設置環境(仕様)等によって相違する」としている点は、かえって、本願発明1にいう「必要浸透長さ」が「電線の設置環境(仕様)等」によって種々に変動しうる不定の量にすぎず、引用発明1との相違点のゆえんとなる発明特定事項にはあたらないことを示唆している。
よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-18 
結審通知日 2019-01-22 
審決日 2019-02-07 
出願番号 特願2013-81979(P2013-81979)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 晋司  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
大町 真義
発明の名称 端子付き電線の止水構造及びその製造方法  
代理人 三好 秀和  

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