• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F
管理番号 1350164
審判番号 不服2016-16659  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-07 
確定日 2019-03-20 
事件の表示 特願2014-209102「マルチモード動作のための切替型出力整合を備えた電力増幅器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年3月12日出願公開、特開2015-46913〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)7月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年7月24日(US)アメリカ合衆国、2009年11月20日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願の一部を平成26年10月10日に新たな特許出願としたものであって、平成26年11月6日に手続補正がなされ、平成27年9月1日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月5日に手続補正がなされたが、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月7日に拒絶査定不服の審判が請求され、同時に手続補正がなされた。
その後、当審において平成29年7月26日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年11月30日付けで手続補正がなされ、平成30年2月22日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年6月26日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成30年6月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
ワイヤレス通信のための装置であって、
入力無線周波数(RF)信号を受信して、増幅されたRF信号を供給するための電力増幅器と、
前記増幅されたRF信号を受信するように構成された出力整合回路網と、
前記出力整合回路網に、切替可能に結合された複数の出力パスであって、各出力パスは、それぞれ、インダクタおよびキャパシタを含む整合回路網を備え、前記電力増幅器のための動作モードによって異なる目標出力インピーダンスを与えるように構成され、前記出力パスが選択されたときに、前記電力増幅器から1つのアンテナへ前記増幅されたRF信号を送る、複数の出力パスと、ここにおいて、前記出力整合回路網の出力インピーダンスは、各出力パスに関する前記電力増幅器のための前記動作モードによって各異なる目標出力インピーダンスよりも高く、前記複数の出力パスのうちの少なくとも1つの出力パスの前記整合回路網は、調節可能に構成され、前記複数の出力パスは、複数の動作モードをサポートし、各動作モードは、前記電力増幅器に関する異なる動作特性と関連づけられ、前記複数の動作モードは、第1の動作モードおよび第2の動作モードを含み、前記第1の動作モードは、前記第2の動作モードよりも高い最大出力電力をサポートし、前記第2の動作モードは、前記第1の動作モードよりも高い線形性を提供し、前記電力増幅器は、前記第1の動作モードでのより高い効率のために飽和領域において動作し、前記第2の動作モードでのより高い線形性のために前記飽和領域外で動作する、
を備え、
ここにおいて、前記第2の動作モードをサポートする出力パスが前記調節可能な整合回路網を有しており、前記調節可能な整合回路網を有している前記第2の動作モードをサポートする出力パスの、前記アンテナが接続される側には、デュプレクサが設けられており、受信機は前記デュプレクサに接続され、前記調節可能な整合回路網は前記第2の動作モードにおいてより良い整合および改善された線形性を得るために変化され得るキャパシタンスを有する調節可能なキャパシタを有している、
前記複数の出力パスは、複数の無線技術をサポートし、各出力パスは、少なくとも1つの無線技術の異なるセットをサポートする、
装置。」

第3 拒絶の理由
当審において、平成30年2月22日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。

本件出願の請求項1ないし18に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載されている周知技術、並びに、引用文献3及び4に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2005-294894号公報
引用文献2.国際公開第2007/113726号
引用文献3.特開2008-288769号公報
引用文献4.特開2005-102099号公報

第4 引用文献の記載等
1.引用文献1
当審の拒絶理由通知に引用された引用文献1(特開2005-294894号公報)には、「高周波回路装置及びそれを用いた移動体通信端末」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信端末に適用して好適な高周波回路装置に係り、特に周波数帯域や変調方式が異なる複数の信号に対応する高周波回路装置及びそれを用いた移動通信端末に関する。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
移動体通信端末の普及の鍵を握るのは小型化、低コスト化であり、更に周波数帯域や変調方式が異なる複数の信号への対応が重要である。その対応に、複数の周波数帯域に対応するマルチバンド化と、複数の変調方式に対応するマルチモード化がある。移動体通信端末を構成する高周波回路装置においては、小型・低コストかつマルチバンド・マルチモードに対応するため、回路の一部分を複数の周波数帯域や複数の変調方式で共有することが求められる。」
(3)「【0009】
特許文献1に開示されている増幅器においては、パワーFETが複数の周波数帯域で共有されている。しかしながら、インピーダンスが低いトランジスタ出力端と整合回路との間にスイッチが配置されているため、スイッチの有する寄生抵抗によりトランジスタ出力端以降の回路損失が増加し、高周波電力増幅器の性能が低下することが避けられない。」
(4)「【0012】
本発明の目的は、マルチバンド・マルチモードに対応する回路損失が少ない高周波回路装置及びそれを用いた移動体通信端末を提供することにある。」
(5)「【0015】
増幅器の出力端子に整合回路が接続され、かつ、互いに異なる変調方式に対応する第1の経路と第2の経路とが増幅器と整合回路を共有し、更にインピーダンスを高くすることが可能な整合回路の出力側で第1の経路と第2の経路の選択が行なわれるので、マルチバンド・マルチモードに対応する回路損失が少ない高周波回路装置の実現が期待される。」
(6)「【0018】
(実施の形態1)
図1に本発明の実施の形態1を示す。図1において、1はマイクロホン、2はベースバンド信号処理装置、3はベースバンド信号を高周波信号に変換する、或いは高周波信号をベースバンド信号に変換する周波数変換回路装置(以下「RF-IC」と記す)である。また、10aは高周波電力増幅器、20及び21は整合回路、30はスイッチ、40aはフィルタ、50はデュプレクサ、4aはアンテナスイッチ、5はアンテナである。図1で点線で囲んだ110、及び一点鎖線で囲んだ111は、それぞれデュプレクサ50を含む第1の送信経路及びデュプレクサ50を含まない第2の送信経路である。更に、40bはフィルタ、120及び121は高周波受信回路装置、6はスピーカである。図1に示した全体によって移動体通信端末が構成され、RF-IC3からアンテナスイッチ4aに至る範囲で高周波回路装置が構成される。」
(7)「【0019】
本実施の形態は、周波数帯域の数(バンド数)、変調方式の数(モード数)に依存しないが、説明の簡便性を考慮し、以下の説明においては、欧州・アジアを中心に広く用いられている1800MHz帯のDCS(Digital Communication System)方式と第3世代移動体通信方式である1900MHz帯のW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式の二バンド・二モードへの対応を例に挙げることとする。」
(8)「【0020】
以下に本実施の形態の動作を説明する。マイクロホン1から入力された音声信号はベースバンド信号処理装置2においてデータ圧縮やコーディングなどの信号処理がなされベースバンド送信信号として出力され、RF-IC3においてベースバンド信号から高周波送信信号に周波数変換される。RF-IC3はW-CDMA方式に対応した高周波送信信号TxA(図示せず)及びDCS方式に対応した高周波送信信号TxB(図示せず)のいずれか一方を選択して出力する。
【0021】
RF-IC3から出力された高周波送信信号TxAは、高周波電力増幅器10aにおいて所望の電力まで増幅され整合回路20、スイッチ30及び整合回路21を介してデュプレクサ50へ伝送され、更にデュプレクサ50からアンテナスイッチ4aを介してアンテナ5から送信される。
【0022】
また、RF-IC3から出力された高周波送信信号TxBは、高周波電力増幅器10aにおいて所望の電力まで増幅され整合回路20、スイッチ30及びフィルタ40aを介してアンテナスイッチ4aへ伝送され、アンテナ5から送信される。」
(9)「【0023】
一方、アンテナ5で受信されたW-CDMA方式に対応した高周波受信信号RxA(図示せず)は、アンテナスイッチ4a、デュプレクサ50及び高周波受信回路装置120を介してRF-IC3へ伝送され、RF-IC3においてベースバンド受信信号に周波数変換され、ベースバンド信号処理装置2において音声信号に変換され、スピーカ6から出力される。」
(10)「【0025】
従って、スイッチ30は、W-CDMA方式で送信する場合は整合回路21側に接続され、DCS方式で送信する場合はフィルタ40a側に接続される。また、アンテナスイッチ4aは、W-CDMA方式で送信・受信する場合はデュプレクサ50側に接続され、DCS方式で送信する場合はフィルタ40a側に接続され、DCS方式で受信する場合はフィルタ40b側に接続される。
【0026】
以上より、RF-IC3からアンテナスイッチ4aまでの間の高周波回路装置は、W-CDMA方式に対応した高周波送信信号TxAの信号経路110及びDCS方式に対応した高周波送信信号TxBの信号経路111の二経路を有する。」
(11)「【0027】
次に、図2に高周波電力増幅器10aの最終段からスイッチ4aの間の構成の詳細を示す。図2において、70は高周波電力増幅器10aの最終段を構成するトランジスタであり、80aはトランジスタ70の駆動電源電圧供給ラインに直列に配置されたインダクタである。
【0028】
図2を用いて本実施の形態の回路特性を説明する。図2において、Z_(L1)はW-CDMA方式の周波数及び出力電力に対応したトランジスタ70の最適負荷インピーダンスであり、Z_(in1)は整合回路20の入力端からデュプレクサ50側を見込んだインピーダンスであり、Z_(out1)は整合回路21の出力端からトランジスタ70側を見込んだインピーダンスであり、Z_(inD)はデュプレクサ50の入力インピーダンスである。また、Z_(L2)はDCS方式の周波数及び出力電力に対応したトランジスタ70の最適負荷インピーダンスであり、Z_(in2)は整合回路20の入力端からフィルタ40a側を見込んだインピーダンスであり、Z_(out2)はスイッチ30のDCS側出力端からトランジスタ70側を見込んだインピーダンスであり、Z_(inF)はフィルタ40aの入力インピーダンスである。
【0029】
送信する高周波信号の周波数或いは出力電力が異なると、同一のトランジスタの最適負荷インピーダンスは一般的に異なる。従って、Z_(L1)≠Z_(L2)である。
【0030】
インピーダンスはZ=X+jYのように複素数で記述され、共役複素数はZ^(*)=X-jYで表される。また、回路上のある点Aから一方を見込んだインピーダンスがZであり、点Aから反対側を見込んだインピーダンスがZ^(*)である場合、点Aにおいて「共役整合」が実現され、点Aにおけるインピーダンス不整合による反射損失がゼロとなる。これより、回路上のある点でインピーダンス整合をとる場合、一般的に共役整合が用いられる。
【0031】
本実施の形態において、Z_(out1)=Z_(inD)^(*)、Z_(out2)=Z_(inF)^(*)である。また、整合回路21、スイッチ30及び整合回路20によりZ_(out1)はZ_(in1)^(*)にインピーダンス変換され、Z_(L1)=Z_(in1)となり、トランジスタ70の出力端において共役整合が実現される。更にまた、スイッチ30及び整合回路20によりZ_(out2)はZ_(in2)^(*)にインピーダンス変換され、Z_(L2)=Z_(in2)となり、トランジスタ70の出力端において共役整合が実現される。」
(12)【0033】
続いて、図3?図5を用いて、本実施の形態の高周波回路装置を実現する回路の一例を説明する。図3において、80b及び80cはインダクタであり、90a?90dはコンデンサであり、100a及び100bは伝送線路である。
【0034】
コンデンサ90a及びインダクタ80bにより整合回路21が構成され、コンデンサ90b?90d、インダクタ80c及び伝送線路110a及び100bにより整合回路20が構成される。」
(13)「【0038】
図3及び図4を用いて、W-CDMA方式で送信する場合の送信経路110におけるインピーダンス整合の原理を説明する。
【0039】
図4において、スミスチャートの中心にあるインピーダンス点200はZ_(out1)=75+j0[Ω]であり、インピーダンス点208はZ_(in1)^(*)=5+j3[Ω]である。コンデンサ90aによりインピーダンス点200からインピーダンス点201に、インダクタ80bによりインピーダンス点201からインピーダンス点202に各々インピーダンス変換される。続いて、コンデンサ90bによりインピーダンス点202からインピーダンス点203に、コンデンサ90cによりインピーダンス点203からインピーダンス点204に、伝送線路100aによりインピーダンス点204からインピーダンス点205に各々インピーダンス変換される。更に続いて、コンデンサ90dによりインピーダンス点205からインピーダンス点206に、伝送線路100bによりインピーダンス点206からインピーダンス点207に、インダクタ80cによりインピーダンス点207からインピーダンス点208に、各々インピーダンス変換される。」
(14)「【0040】
次に、図3及び図5を用いてDCS方式で送信する場合の送信経路111におけるインピーダンス整合の原理を説明する。
【0041】
図5のスミスチャートの中心にあるインピーダンス点300は、Z_(out2)=50+j0[Ω]であり、インピーダンス点306はZ_(in2)^(*)=3+j0[Ω]である。コンデンサ90bによりインピーダンス点300からインピーダンス点301に、コンデンサ90cによりインピーダンス点301からインピーダンス点302に、伝送線路100aによりインピーダンス点302からインピーダンス点303に各々インピーダンス変換される。続いて、コンデンサ90dによりインピーダンス点303からインピーダンス点304に、伝送線路100bによりインピーダンス点304からインピーダンス点305に、インダクタ80cによりインピーダンス点305からインピーダンス点306に、各々インピーダンス変換される。」

上記各記載から引用文献1には以下の事項が記載されているといえる。
ア.上記(1)によれば、高周波回路装置は、移動体通信端末に用いられるものである。
イ.上記(2)及び(4)によれば、高周波回路装置は、マルチバンド・マルチモードに対応するためのものであり、さらに上記(7)によれば、DCS方式とW-CDMA方式の二バンド・二モードに対応したものである。
ウ.上記(6)によれば、高周波回路装置は、高周波電力増幅器10a、整合回路20及び21、スイッチ30、フィルタ40a、デュプレクサ50、アンテナスイッチ4aを備えるものである。また、それらの接続関係について図1を参照すると、前記高周波電力増幅器10aの出力側には前記整合回路20が接続され、前記整合回路20に出力側には前記スイッチ30が接続され、前記スイッチ30の出力側には前記整合回路21又は前記フィルタ40aが接続され、前記整合回路21の出力側には前記デュプレクサ50が接続され、前記アンテナスイッチ4aの入力側には前記デュプレクサ50又は前記フィルタ40aが接続され、前記アンテナスイッチ4aの出力側にはアンテナ5が接続され、さらに、前記デュプレクサ50には高周波受信回路装置120も接続されている。
ここで、上記(12)及び図3によれば、整合回路21はコンデンサ90a及びインダクタ80bにより構成される。
エ.上記(10)によれば、W-CDMA方式で送信する場合は、スイッチ30は整合回路21側に接続されるとともに、アンテナスイッチ4aはデュプレクサ50側に接続され、DCS方式で送信する場合は、スイッチ30はフィルタ40a側に接続されるとともに、アンテナスイッチ4aはフィルタ40a側に接続される。
そして、そのように接続することにより、高周波回路装置は、W-CDMA方式に対応した信号経路及びDCS方式に対応した信号経路の二経路を有し、上記(8)によれば、RF-IC3から出力されたW-CDMA方式に対応した高周波送信信号TxAは、高周波電力増幅器10aにおいて所望の電力まで増幅され、整合回路20、スイッチ30、整合回路21、デュプレクサ50、及びアンテナスイッチ4aからなる経路を介してアンテナ5から送信され、また、RF-IC3から出力されたDCS方式に対応した高周波送信信号TxBは、高周波電力増幅器10aにおいて所望の電力まで増幅され、整合回路20、スイッチ30、フィルタ40a、及びアンテナスイッチ4aからなる経路を介してアンテナ5から送信される。
オ.上記(9)によれば、アンテナ5で受信されたW-CDMA方式に対応した高周波受信信号RxAは、アンテナスイッチ4a及びデュプレクサ50を介して高周波受信回路装置120に伝送される。
カ.上記(11)によれば、高周波電力増幅器10aは、その最終段を構成するトランジスタ70を備えており、W-CDMA方式に対応した前記トランジスタ70の最適負荷インピーダンスをZ_(L1)、DCS方式に対応した前記トランジスタ70の最適負荷インピーダンスをZ_(L2)とすると、Z_(L1)≠Z_(L2)である。
また、整合回路20の入力端からデュプレクサ50側、すなわち、W-CDMA方式で送信する場合の経路側を見込んだインピーダンスをZ_(in1)、整合回路20の入力端からフィルタ40a側、すなわち、DCS方式で送信する場合の経路側を見込んだインピーダンスZ_(in2)とすると、Z_(L1)=Z_(in1)及びZ_(L2)=Z_(in2)となり、前記トランジスタ70の出力端において共役整合が実現される。
キ.上記(13)の記載によれば、W-CDMA方式で送信する場合、整合回路20の出力端側のインピーダンス点202のインピーダンスは、前記整合回路20の入力端側のインピーダンス点208のインピーダンスよりも高いことは明らかである。そうすると、前記整合回路20の出力インピーダンスは、W-CDMA方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L1)よりも高いといえる。
ク.上記(14)の記載によれば、DCS方式で送信する場合、整合回路20の出力端側のインピーダンス点300のインピーダンスは、整合回路20の入力端側のインピーダンス点306のインピーダンスよりも高いことは明らかである。そうすると、前記整合回路20の出力インピーダンスは、DCS方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L2)よりも高いといえる。
ケ.上記(3)及び(5)によれば、高周波電力増幅器10aの出力端子に整合回路20が接続され、かつ、W-CDMA方式に対応した経路とDCS方式に対応した経路とが高周波電力増幅器10aと整合回路20を共有し、更にインピーダンスを高くすることが可能な整合回路20の出力側で二つの経路の選択が行なわれるので、「インピーダンスが低いトランジスタ出力端と整合回路との間にスイッチが配置されているため、スイッチの有する寄生抵抗によりトランジスタ出力端以降の回路損失が増加し、高周波電力増幅器の性能が低下することが避けられない。」という課題を解決し、「マルチバンド・マルチモードに対応する回路損失が少ない高周波回路装置の実現」が可能となる。

したがって、上記(1)ないし(14)並びにアないしケの記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「移動体通信端末に用いられ、W-CDMA方式とDCS方式の二バンド・二モードに対応した高周波回路装置であって、
RF-IC3から出力されたW-CDMA方式に対応した高周波送信信号TxA又はDCS方式に対応した高周波送信信号TxBを増幅する高周波電力増幅器10aと、
前記高周波電力増幅器10aの出力側に接続された整合回路20と、
前記整合回路20の出力側に接続されたスイッチ30、前記スイッチ30の出力側に接続される整合回路21又はフィルタ40a、前記整合回路21の出力側に接続されたデュプレクサ50、入力側に前記デュプレクサ50又は前記フィルタ40aが接続されるとともに出力側にアンテナ5が接続されたアンテナスイッチ4aとを備え、
前記整合回路21は、コンデンサ90a及びインダクタ80bにより構成され、
W-CDMA方式で送信する場合は、前記スイッチ30は前記整合回路21側に接続されるとともに、前記アンテナスイッチ4aは前記デュプレクサ50側に接続され、DCS方式で送信する場合は、スイッチ30はフィルタ40a側に接続されるとともに、アンテナスイッチ4aはフィルタ40a側に接続され、
そうすることにより、W-CDMA方式で送信する場合は、前記高周波電力増幅器10aで増幅された前記高周波送信信号TxAは、前記整合回路20、前記スイッチ30、前記整合回路21、前記デュプレクサ50、及び前記アンテナスイッチ4aからなる経路を介してアンテナ5から送信され、DCS方式で送信する場合は、前記高周波電力増幅器10aで増幅された前記高周波送信信号TxBは、前記整合回路20、前記スイッチ30、前記フィルタ40a、及び前記アンテナスイッチ4aからなる経路を介してアンテナ5から送信され、
前記高周波電力増幅器10aは、その最終段を構成するトランジスタ70を備え、W-CDMA方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L1)とDCS方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L2)は異なり(Z_(L1)≠Z_(L2))、
前記整合回路の入力側からW-CDMA方式で送信する場合の経路側を見込んだインピーダンスZ_(in1)は前記最適負荷インピーダンスZ_(L1)と同じであり(Z_(L1)=Z_(in1))、前記整合回路の入力側からDCS方式で送信する場合の経路側を見込んだインピーダンスZ_(in2)は前記最適負荷インピーダンスZ_(L2)と同じであり(Z_(L2)=Z_(in2))、
前記整合回路20の出力インピーダンスは、W-CDMA方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L1)よりも高く、かつ、DCS方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L2)よりも高く、
前記デュプレクサ50には高周波受信回路装置120も接続されている、
高周波回路装置。」

2.引用文献2
当審の拒絶理由通知に周知技術を示す文献として引用された引用文献2(国際公開第2007/113726号)には、図面とともに以下の記載がある。(なお、仮訳は、引用文献2のパテントファミリーである特表2009-531929号公報を参考にした。また、下線は当審で付与した。)

(15)「BACKGROUND ART
One of the key drivers in determining what constitutes the best architecture for a radio transmitter, especially for battery-powered applications, is the achievement of high power efficiency.
The Global System for Mobile Communications (GSM) is a second- generation (2G) cellular radio standard that uses constant-envelope modulation. It is therefore comparatively easy to achieve a high power efficiency in the transmitter of handsets targeted at this standard, as the power amplifier (PA) can be operated in saturation. Operating the PA in saturation has established a benchmark for power efficiency that the market expects to be maintained in products targeted at more advanced cellular radio standards than GSM.
Third-generation (3G) cellular radio standards, such as Code Division Multiple Access 2000 (CDMA2000) and the Universal Mobile Telecommunication System (UMTS), as well as transitional (2.5G) standards, such as Enhanced Data Rates for GSM Evolution (EDGE), all use non- constant-envelope modulation schemes. Standard architectures for the transmitter of handsets targeted at these applications necessarily operate the PA linearly, and this makes it difficult to achieve a power efficiency that looks attractive.」
(仮訳)「背景技術
無線送信機の最良なアーキテクチャを構成するものを、特にバッテリ駆動される応用において決定するにあたって、重要な要素の1つは、高い電力効率の達成である。
移動体通信用グローバルシステム(GSM)は、定エンベロープ変調を使用する第二世代(2G)のセルラー無線規格である。従って、この規格を対象とするハンドセットの送信機では、電力増幅器(PA)が飽和状態で動作可能であるため、高い電力効率の達成が比較的容易である。PAを飽和状態で動作させることは、GSMよりも進んだセルラー無線規格を対象とする製品において維持されることを市場が期待する、電力効率についてのベンチマークを確立した。
符号分割多重アクセス2000(CDMA2000)およびユニバーサル移動電話システム(UMTS)などの第3世代(3G)セルラー無線規格、ならびにGSM進化型高速データレート(EDGE)などの過渡的な(2.5G)規格は、全て不定エンベロープ変調スキームを使用する。これらの応用を対象とする送信機のハンドセットについての標準的なアーキテクチャは、必然的にPAを線形動作させ、これは、魅力的に見えるような電力効率の達成を困難にする。」

上記(15)の記載から、引用文献2には以下の技術事項が記載されているといえる。

「移動体通信用グローバルシステム(GSM)を対象とする送信機においては、電力増幅器(PA)を飽和状態で動作させ、符号分割多重アクセス2000(CDMA2000)を対象とする送信機においては、電力増幅器(PA)を線形動作させること。」


3.引用文献3
当審の拒絶理由通知に引用された引用文献3(特開2008-288769号公報)には、「高周波回路、半導体装置、および高周波電力増幅装置」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(16)「【0003】
最近、携帯電話の多機能化が進み、送信する信号のマルチバンド化や異なる変調信号を扱うマルチモード化が進んできた。良く知られているように、高周波電力増幅器の効率を最適化するためには、周波数や出力等の各条件において入力および出力のインピーダンス整合をそれぞれ合わせ込むことが必要である。上述のようにマルチバンドおよびマルチモードに対応するためには、個別にインピーダンスを最適化した整合回路を有する複数の高周波電力増幅器が必要である。
【0004】
一方、これらに対応する構成として、スイッチ素子を用い複数の出力端子を有する高周波増幅器の従来例がある。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図18は、特開平10-65466号公報で開示された従来例を示している。最終段の増幅素子246の出力に1入力2出力(SPDT:Single-Pole/Double-Throw)のスイッチ265が形成される。各出力整合回路264、266は、増幅器240が増幅する2つの周波数の信号に対して、整合が取れるように予め設計される。1入力2出力スイッチ265は、増幅素子246の出力をそれぞれの出力整合回路264、266に切替えることができる。
(中略)
【0007】
このような従来例の構成の場合、最終段増幅素子の直後にスイッチ素子を接続する必要があるため、スイッチ素子による増幅素子出力の損失が大きくなるという課題があった。
【0008】
本発明は、増幅素子の出力側に形成されたスイッチ素子による損失を低減し、インピーダンスおよび出力経路の切替えを容易に行い、マルチバンドおよびマルチモードに対応する多機能で小型・高性能の高周波回路、半導体装置、および高周波電力増幅装置を提供することを目的とする。」
(17)「【0016】
(原理説明)
最初に、本発明の原理を説明する。図1は、原理説明用の高周波回路のブロック図である。原理説明用の高周波回路は、入力端子150、最終増幅部100、整合回路102、スイッチ部101、整合回路103、出力端子151、および制御部170を含む。最終増幅部100は、例えばアンテナ(不図示)に出力する最終段の増幅素子を含む増幅回路である。最終増幅部100は、入力端子150に入力する入力信号S150を電力増幅し、増幅信号S100を出力インピーダンス160で出力する。出力インピーダンス160は、通常、50オームよりも低い。特に最終増幅部100が高出力の場合、例えば携帯電話のように1Wから数Wの場合、出力インピーダンス160は大略3ないし8オームとなる。
【0017】
整合回路102は、出力インピーダンス160の共役複素数に大略等しい入力インピーダンス161で増幅信号S100を入力する。すなわち、整合回路102は、出力インピーダンス160に対してインピーダンス整合をとることにより、最終増幅部100から最大の電力を取り出す。入力インピーダンス161は、出力インピーダンス160と同様に、代表的には3ないし8オームである。整合回路102は、増幅信号S100をインピーダンス変換し、インピーダンス変換信号S102を出力インピーダンス162で出力する。制御部170は、スイッチ部101の経路の選択情報を表す制御信号S170を生成する。整合回路102は、制御信号S170に基づいて、出力インピーダンス162を制御する。スイッチ部101は、制御信号S170に基づいて、インピーダンス変換信号S102の通過をオン/オフし、オン状態の場合オンインピーダンス163で通過させ、通過信号S101を出力する。
【0018】
整合回路103は、出力インピーダンス162とオンインピーダンス163との複素数上の和の共役複素数に大略等しい入力インピーダンス164で、通過信号S101を入力する。すなわち、整合回路103は、出力インピーダンス162およびオンインピーダンス163に対してインピーダンス整合をとることにより、整合回路102から最大の電力を取り出す。さらに、整合回路103は、通過信号S101をインピーダンス変換し、インピーダンス変換信号S103を、負荷インピーダンス166に大略等しい出力インピーダンス165で出力端子151に出力する。負荷インピーダンス166は、出力端子151に接続される負荷のインピーダンスである。例えば、負荷インピーダンス166が50オームの純抵抗の場合、例えば50オームの伝送線路(不図示)を介して、50オームのアンテナが接続される。すなわち、整合回路103は、負荷インピーダンス166に対してインピーダンス整合をとることにより、負荷に最大の電力を供給するとともに、負荷からの反射波による波形歪みを抑圧する。スイッチ部101および各整合回路102、103は、負荷整合回路105を構成する。各インピーダンスは、実部を表す抵抗成分と、虚部を表すリアクタンス成分で複素表示される。
【0019】
最終増幅部100の出力側にスイッチ部101を設ける場合、スイッチ部101による信号の損失を避ける必要がある。整合回路102の出力インピーダンス162の絶対値を、オンインピーダンス163の絶対値よりも十分に高く設定すれば、出力インピーダンス162とオンインピーダンス163との複素数上の和は、大略出力インピーダンス162に等しくなる。すなわち、オンインピーダンス163は、その位相状態にかかわらず無視できる大きさとなり、スイッチ部101による信号の損失は、無視できる程度に低減される。例えば、オンインピーダンス163は代表的には1オーム程度であり、出力インピーダンス162は、好ましくは10オーム以上に、さらに好ましくは数10オーム程度に設定される。このように、整合回路102は、代表的には3ないし8オームの入力インピーダンス161を、入力インピーダンス161よりも高い出力インピーダンス162にインピーダンス変換し、スイッチ部101による信号損失を低減する。上述したように整合回路103の入力インピーダンス164は、出力インピーダンス162とオンインピーダンス163との複素数上の和の共役複素数に大略等しいから、入力インピーダンス164の絶対値は、出力インピーダンス162の絶対値と同程度に高くなる。
【0020】
次に、出力インピーダンス162を負荷インピーダンス166と比較する。上述したように、入力インピーダンス164は、出力インピーダンス162の共役複素数に大略等しいから、両方のリアクタンス成分は互いに相殺される。それゆえ、実質的には、出力インピーダンス162の抵抗成分が、大略抵抗成分で構成される負荷インピーダンス166と比較される。出力インピーダンス162の絶対値がオンインピーダンス163の絶対値よりも十分に高いのであれば、出力インピーダンス162の抵抗成分は、負荷インピーダンス166より高くても低くてもよい。出力インピーダンス162の抵抗成分が負荷インピーダンス166に大略等しい場合、整合回路103は省略することが可能である。出力インピーダンス162の抵抗成分が負荷インピーダンス166と異なる場合、整合回路103は、入力インピーダンス164を負荷インピーダンス166に大略等しい出力インピーダンス165にインピーダンス変換する。なお、出力インピーダンス162の抵抗成分が負荷インピーダンス166と異なる場合であっても、負荷インピーダンス166に対するインピーダンス整合が必要でなければ、整合回路103は省略することができる。
【0021】
このように、負荷整合回路105は、入力側において、最終増幅部100の出力インピーダンス160に整合することにより、最終増幅部100から最大の電力を取り出すことができる。同時に負荷整合回路105は、出力側において、50オームの負荷インピーダンス166に整合することにより、負荷に最大の電力を供給するとともに、負荷からの反射波による波形歪みを抑圧する。さらに、負荷整合回路105は、その内部において、整合回路102の出力インピーダンス162の絶対値をスイッチ部101のオンインピーダンス163の絶対値よりも十分に高く設定することにより、オンインピーダンス163を相対的に無視できる大きさにする。すなわち、整合回路102は、最終増幅部100の出力インピーダンス160に整合するように入力インピーダンス161を相対的に低く設定するとともに、出力インピーダンス162を、オンインピーダンス163が無視できる程度に、入力インピーダンス161よりも高く設定する。これにより、最終増幅部100の出力側にスイッチ部101を設ける場合、スイッチ部101による損失が低減されるとともに、波形歪みを抑圧しつつ負荷に最大電力を供給することが可能となる。」
(18)「【0022】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態における高周波回路のブロック図である。第1の実施形態の高周波回路は、入力端子150、最終増幅部100、整合回路102A、スイッチ部101A、各整合回路103a、103b、各出力端子151a、151b、および制御部170Aを含む。最終増幅部100は、例えばアンテナ(不図示)に出力する最終段の増幅素子を含む増幅回路である。最終増幅部100は、入力端子150に入力する入力信号S150を電力増幅し、増幅信号S100を出力インピーダンス160で出力する。出力インピーダンス160は、通常、50オームよりも低い。特に最終増幅部100が高出力の場合、例えば携帯電話のように1Wから数Wの場合、出力インピーダンス160は大略3ないし8オームとなる。
【0023】
整合回路102Aは、出力インピーダンス160の共役複素数に大略等しい入力インピーダンス161で増幅信号S100を入力する。すなわち、整合回路102Aは、出力インピーダンス160に対してインピーダンス整合をとることにより、最終増幅部100から最大の電力を取り出す。入力インピーダンス161は、出力インピーダンス160と同様に、代表的には3ないし8オームである。整合回路102Aは、増幅信号S100をインピーダンス変換し、インピーダンス変換信号S102を出力インピーダンス162で出力する。スイッチ部101Aは、1入力2出力(SPDT:Single-Pole/Double-Throw)のスイッチを構成する。制御部170Aは、スイッチ部101Aの経路の選択情報を表す制御信号S170Aを生成する。整合回路102Aは、制御信号S170Aに基づいて、出力インピーダンス162を制御する。スイッチ部101Aは、制御信号S170Aに基づいて、経路171aまたは経路171bのうちいずれか1つを選択し、選択された経路により、インピーダンス変換信号S102をオンインピーダンス163で通過させる。これにより、スイッチ部101Aは、通過信号S101aまたは通過信号S101bのうち、選択された経路に対応する信号を出力する。
【0024】
整合回路103a、103bは、出力インピーダンス162とオンインピーダンス163との複素数上の和の共役複素数に大略等しい入力インピーダンス164a、164bで、通過信号S101a、S101bをそれぞれ入力する。すなわち、各整合回路103a、103bは、出力インピーダンス162に対してインピーダンス整合をとることにより、整合回路102Aから最大の電力を取り出す。さらに、整合回路103a、103bは、通過信号S101a、S101bをインピーダンス変換し、インピーダンス変換信号S103a、S103bを、負荷インピーダンス166に大略等しい出力インピーダンス165a、165bで出力端子151a、151bにそれぞれ出力する。負荷インピーダンス166は、各出力端子151a、151bに接続される負荷のインピーダンスである。例えば、負荷インピーダンス166が50オームの純抵抗の場合、例えば50オームの伝送線路(不図示)を介して、50オームのアンテナが接続される。各整合回路103a、103bは、負荷インピーダンス166に対してインピーダンス整合をとることにより、負荷に最大の電力を供給するとともに、負荷からの反射波による波形歪みを抑圧する。スイッチ部101Aおよび各整合回路102A、103a、103bは、負荷整合回路105Aを構成する。各インピーダンスは、実部を表す抵抗成分と、虚部を表すリアクタンス成分で複素表示される。」
(19)「【0027】
次に、出力インピーダンス162を負荷インピーダンス166と比較する。上述したように、各入力インピーダンス164a、164bは、出力インピーダンス162の共役複素数に大略等しいから、両方のリアクタンス成分は互いに相殺される。それゆえ、実質的には、出力インピーダンス162の抵抗成分が、大略抵抗成分で構成される負荷インピーダンス166と比較される。出力インピーダンス162の絶対値がオンインピーダンス163の絶対値よりも十分に高いのであれば、出力インピーダンス162の抵抗成分は、負荷インピーダンス166より高くても低くてもよい。出力インピーダンス162の抵抗成分が負荷インピーダンス166に大略等しい場合、各整合回路103a、103bは省略することが可能である。出力インピーダンス162の抵抗成分が負荷インピーダンス166と異なる場合、整合回路103a、103bは、入力インピーダンス164a、164bを負荷インピーダンス166に大略等しい出力インピーダンス165a、165bにそれぞれインピーダンス変換する。なお、出力インピーダンス162の抵抗成分が負荷インピーダンス166と異なる場合であっても、負荷インピーダンス166に対するインピーダンス整合が必要でなければ、各整合回路103a、103bは省略することができる。」

上記各記載から引用文献3には以下の事項が記載されているといえる。
コ.上記(16)によれば、マルチバンドおよびマルチモードに対応した高周波回路において、増幅素子の出力側に形成されたスイッチ素子による損失を低減することを目的とする。
サ.発明の原理を記載した上記(17)及び図1によれば、最終増幅部とスイッチ部との間に整合回路を設け、当該整合回路の出力インピーダンスの絶対値を、前記スイッチ部のオンインピーダンスの絶対値よりも十分に高く設定すれば、前記スイッチ部による信号の損失は、無視できる程度に低減される。また、前記スイッチ部と出力端子との間にも整合回路を設けることで、負荷インピーダンスとの整合をとるが、最終増幅部とスイッチ部との間の整合回路の出力インピーダンスと前記負荷インピーダンスが大略等しい場合や、負荷インピーダンスに対する整合が必要ない場合には、前記スイッチ部と前記出力端子との間の整合回路は省略することができる。
シ.第1の実施形態を記載した上記(18)及び図2によれば、最終増幅部100とスイッチ部101Aとの間に整合回路102Aを設けるとともに、前記スイッチ部101Aが選択する経路171a及び経路171bのそれぞれに整合回路103a、103bを設ける。なお、上記(19)によれば、前記整合回路103a、103bは省略することが可能である。

したがって、上記(16)ないし(19)並びにコないしシの記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、引用文献3には、次の技術事項が記載されている。

「最終増幅部の出力側に形成されたスイッチ部による損失を低減するために、前記最終増幅部と前記スイッチ部との間に整合回路を設け、当該整合回路の出力インピーダンスの絶対値を、前記スイッチ部のオンインピーダンスの絶対値よりも十分に高く設定した、マルチバンドおよびマルチモードに対応した高周波回路において、
(a)負荷インピーダンスとの整合をとるために、前記スイッチ部が選択する2つの経路のそれぞれに整合回路を設けること、
及び、
(b)前記スイッチ部が選択する前記2つの経路のそれぞれに設けられた前記整合回路は、省略することが可能であること。」

4.引用文献4
当審の拒絶理由通知に引用された引用文献4(特開2005-102099号公報)には、「高周波無線回路モジュール及び無線通信装置」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(20)「【背景技術】
【0002】
一般に、高周波無線回路モジュールは、図13に示されるような回路構成を有している。図13において、1はアンテナ接続端子、2はアンテナ共用器、91はアイソレータ、3は電力増幅素子、6は送信信号入力端子、7は受信信号出力端子である。
送信信号入力端子6から入力された送信信号は、電力増幅素子3で信号増幅され、アイソレータ91を介して、アンテナ共用器2へ入力される。アイソレータ91は、アンテナ接続端子1の負荷インピ-ダンスが変化しても電力増幅素子3の送信特性が変動しないようにするために設けられている。アンテナ共用器2から出力される送信信号は、アンテナ共用器2、アンテナ接続端子1を通してアンテナから空中へ放射される。一方、アンテナ接続端子1から入力された受信信号は、アンテナ共用器2に入力され、受信信号端子7に出力される。」
(21)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況は、使用される通信システムによっても異なる。例えば、ある国のCDMA方式の携帯電話システムにて使用される場合においては、音声通信に加えてデータ通信の用途が多く、データ量が多くなるため隣接チャネル漏洩電力等の、歪に関係する規格を満足できない場合がある。一方、他の国のCDMA方式の携帯電話システムにて使用される場合においては、音声通信のみの用途が多く、送受信するデータ量が少ないため、隣接チャネル漏洩電力等の、歪に関する規格があまり問題にならず、この場合は効率を優先した調整をした方がよい。したがって、通信システムの用途に応じて適正化することが望まれる。
【0007】
また、アンテナ共用器の入力インピーダンスは、通過帯域内においても周波数特性を持っているため、一部の周波数では歪特性が規格から外れてしまう問題があった。
一方、歪特性と効率とは、電力増幅素子へ接続されている負荷インピーダンスによって変化する。すなわち、電力増幅素子の負荷インピーダンスは、アイソレータを使用しない場合においてはアンテナ共用器の入力インピーダンスが支配的となり、アイソレータを使用する場合においては、アイソレータの入力インピーダンスとなり、これらの負荷インピーダンスにより、歪特性と効率が決まってしまう。」
(22)「【0012】
前記整合回路の伝送特性は、送信周波数に応じて調整可能となっていることが好ましい。アンテナ共用器又はフィルタ回路の入力インピーダンスは、周波数特性を持っているが、この調整により、周波数に応じてアンテナ共用器又はフィルタ回路の入力インピーダンスに合わせることができる。
前記整合回路は、好ましくは、インダクタンスおよび/又はキャパシタンスを含む回路により構成されている。」
(23)「【0043】
図9は整合回路の動作を説明するためのスミスチャートである。スミスチャートの単位は、特性インピーダンス(50Ω)で正規化している。800MHzにおける整合回路の動作を説明する。
図9(a)は、図8の整合回路の動作を説明するためのスミスチャートである。
図9(a)において、インダクタンスL1を3.2nHに設定することにより、インピーダンスをb点の5+j16Ωまで変換できる。次にキャパシタンスC1を11pFに設定することによりd1点の50+j0Ωまで変換できる。これにより、電力増幅素子の出力インピーダンスとアンテナ共用器の入力インピーダンスとの整合をとることができる。
【0044】
さらに、図6に示したように、可変容量ダイオードD1を用いることにより、制御端子11の電圧を制御することによりコンデンサC2の値を変化させることができる。例えば可変容量ダイオードD1に1.4Vを印加すると、キャパシタンスCdが30pFとなり、コンデンサC3=20pFとの合成容量が12pFとなる。この場合、図9(b)に示すように、インピーダンスは、a→b→c2→d2という推移で変換され、整合回路の出力側から電力増幅素子をみたインピーダンスが54-j29Ωとなる。また、可変容量ダイオードD1に2.5Vを印加すると、キャパシタンスCdが15pFとなり、コンデンサC3=20pFとの合成容量が8.6pFとなる。この場合、図9(c)に示すように、インピーダンスは、a→b→c3→d3という推移で変換され、整合回路の出力側から電力増幅素子をみたインピーダンスが36+j9Ωとなる。このように、可変容量ダイオードD1に印加するバイアス電圧を設定することにより、インピーダンスを任意に設定することができる。
【0045】
さらに、一般的に、アンテナ共用器の通過帯域内の入力インピーダンスは、周波数特性を持っているので、前記設定された制御端子の電圧を、さらに送信周波数に応じて制御することができる。送信周波数に対応した電圧の調整方法としては、送信周波数と制御端子の電圧との対応関係を記したデータをテーブルに記憶しておき、D/A変換器を用いて、アナログ電圧に変換することにより実現できる。
【0046】
本発明の整合回路の回路構成は、以上に限定されるものではない。図6の整合回路4は、直列接続したインダクタンスL1とキャパシタンスC1の接続点に、キャパシタンスC3を並列接続した構成であったが、高調波の特性を改善したり、1個の素子のばらつきによる影響を軽減するために、さらに直列接続のインダクタンスと並列接続のコンデンサとを、電力増幅素子との感に追加した多段の整合回路としてもよい。また、可変キャパシタンス素子として可変容量コンデンサを例にあげているが、これ以外の可変キャパシタンス素子を用いてもよい。」

上記各記載から引用文献4には以下の事項が記載されているといえる。
ス.上記(20)ないし(22)によれば、CDMA方式の携帯電話システムにて使用される高周波無線回路モジュールに含まれるアンテナ共用器の入力インピーダンスは、通過帯域内においても周波数特性を持っているが、整合回路の伝送特性を送信周波数に応じて調整することにより、周波数に応じてアンテナ共用器の入力インピーダンスに合わせることができる。
セ.上記(23)によれば、整合回路として、可変容量コンデンサ等の可変キャパシタンス素子を用いる。

したがって、上記(20)ないし(23)並びにスないしセの記載事項と図面の記載とを総合勘案すると、引用文献4には、次の技術事項が記載されている。

「CDMA方式で使用されるアンテナ共用器の入力インピーダンスは周波数特性を持っているため、可変容量コンデンサ等の可変キャパシタンス素子を用いた整合回路でインピーダンス整合をとること。」

第5 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明の「高周波回路装置」は、「移動体通信端末に用いられ」るものであるから、「ワイヤレス通信のための装置」であるといえる。
(2)引用発明の「RF-IC3から出力されたW-CDMA方式に対応した高周波送信信号TxA又はDCS方式に対応した高周波送信信号TxB」は、本願発明の「入力無線周波数(RF)信号」に相当する。また、引用発明の「高周波電力増幅器10a」は、前記高周波送信信号TxA又はTxBを増幅するものであるから、本願発明の「増幅されたRF信号を供給するための電力増幅器」に相当する。
(3)引用発明の「整合回路20」は、前記高周波電力増幅器10aの出力側に接続された整合回路であるから、本願発明の「前記増幅されたRF信号を受信するように構成された出力整合回路網」に相当する。
(4)引用発明は、「W-CDMA方式で送信する場合は、前記スイッチ30は前記整合回路21側に接続されるとともに、前記アンテナスイッチ4aは前記デュプレクサ50側に接続され、DCS方式で送信する場合は、スイッチ30はフィルタ40a側に接続されるとともに、アンテナスイッチ4aはフィルタ40a側に接続され、
そうすることにより、W-CDMA方式で送信する場合は、前記高周波電力増幅器10aで増幅された前記高周波送信信号TxAは、前記整合回路20、前記スイッチ30、前記整合回路21、前記デュプレクサ50、及び前記アンテナスイッチ4aからなる経路を介してアンテナ5から送信され、DCS方式で送信する場合は、前記高周波電力増幅器10aで増幅された前記高周波送信信号TxBは、前記整合回路20、前記スイッチ30、前記フィルタ40a、及び前記アンテナスイッチ4aからなる経路を介してアンテナ5から送信され」るものであるから、高周波電力増幅器10aで増幅された高周波送信信号をアンテナ5から送信するための経路は2つあり、スイッチ30及びアンテナスイッチ4aによってそれらの経路を切り替えている。そして、上記2つの経路のうち、スイッチ30及びアンテナスイッチ4aの間の部分は、高周波電力増幅器10aからアンテナ5へ増幅された高周波送信信号を送るためのものであるから、本願発明の「出力パス」に相当する。したがって、引用発明は、「出力整合回路網に、切替可能に結合された複数の出力パス」を備えている点及び「前記出力パスが選択されたときに、前記電力増幅器から1つのアンテナへ前記増幅されたRF信号を送る」点で本願発明と共通する。
さらに、前記「複数の出力パス」を含む2つの経路によって、「W-CDMA方式」と「DCS方式」という2つの無線技術による送信を可能にしているから、引用発明も、本願発明と同様に「前記複数の出力パスは、複数の無線技術をサポートし、各出力パスは、少なくとも1つの無線技術の異なるセットをサポートする」ものであるといえる。
ただし、本願発明においては、「各出力パスは、それぞれ、インダクタおよびキャパシタを含む整合回路網を備え」るのに対して、引用発明においては、W-CDMA方式で送信する場合の経路にのみ「コンデンサ90a及びインダクタ80bにより構成され」る「整合回路21」(本願発明の前記「整合回路網」に相当する)を備えており、DCS方式で送信する場合の経路には前記「整合回路網」に相当する手段は備えていない点で相違する。
また、引用発明においては、前記「整合回路21」が「調節可能に構成され」ていること、より具体的には、「変化され得るキャパシタンスを有する調節可能なキャパシタを有している」ことは、特定されていない。
(5)本願発明の「目標出力インピーダンス」は、平成29年11月30日付けの意見書の記載を参酌すると、本願の明細書の【0017】に記載のとおり「Z1」及び「Z2」のことであり、図2によれば、当該「Z1」及び「Z2」は出力整合回路網の入力側からアンテナにつながる経路側を見込んだインピーダンスである。そうすると、引用発明における「前記整合回路の入力側からW-CDMA方式で送信する場合の経路側を見込んだインピーダンスZ_(in1)」及び「前記整合回路の入力側からDCS方式で送信する場合の経路側を見込んだインピーダンスZ_(in2)」はいずれも本願発明の「目標出力インピーダンス」に相当する。そして、引用発明において、前記「インピーダンスZ_(in1)」は「W-CDMA方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L1)」と同じであり、前記「インピーダンスZ_(in2)」は「DCS方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L2)」と同じであり、かつ、前記「最適負荷インピーダンスZ_(L1)」と前記「最適負荷インピーダンスZ_(L2)」は異なるから、引用発明における前記2つの経路は、送信する方式によって「異なる目標出力インピーダンスを与えるように構成され」ているといえる。そうすると、前記2つの経路の一部分である、上記(4)で述べた「出力パス」に相当する部分も、「異なる目標出力インピーダンスを与えるように構成され」ているといえる。
(6)引用発明において、本願発明の「出力整合回路網」に相当する「整合回路20」の出力インピーダンスは、「W-CDMA方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L1)よりも高く、かつ、DCS方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L2)よりも高く」されており、上記(5)で述べたように、前記「最適負荷インピーダンスZ_(L1)」と前記「最適負荷インピーダンスZ_(L2)」は、それぞれ本願発明の「目標出力インピーダンス」に相当する「インピーダンスZ_(in1)」及び「インピーダンスZ_(in2)」と同じであるから、引用発明の「整合回路20」の出力インピーダンスは、各出力パスが与える「異なる目標出力インピーダンスよりも高」いといえる。
(7)上記(5)で述べたように、「W-CDMA方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L1)」と「DCS方式で送信する場合のトランジスタ70の最適負荷インピーダンスZ_(L2)」が異なることからみて、引用発明の「高周波電力増幅器10a」も本願発明の「電力増幅器」と同様に「複数の動作モード」で動作するものであるといえる。また、上記(5)で述べたように、前記2つの経路のうちの「出力パス」に相当する部分は、「異なる目標出力インピーダンスを与えるように構成され」ているから、「複数の動作モードをサポートし」ているともいえる。
ただし、本願発明においては、「各動作モードは、前記電力増幅器に関する異なる動作特性と関連づけられ、前記複数の動作モードは、第1の動作モードおよび第2の動作モードを含み、第1の動作モードは、前記第2の動作モードよりも高い最大出力電力をサポートし、前記第2の動作モードは、前記第1の動作モードよりも高い線形性を提供し、前記電力増幅器は、前記第1の動作モードでのより高い効率のために飽和領域において動作し、前記第2の動作モードでのより高い線形性のために前記飽和領域外で動作する」のに対して、引用発明においては、「W-CDMA方式」及び「DCS方式」で送信する場合に、「高周波電力増幅器10a」が具体的にどのような動作特性又は動作モードで動作するのかまでは特定されていない。
(8)引用発明の「デュプレクサ50」及び「高周波受信回路装置120」は、本願発明の「デュプレクサ」及び「受信機」にそれぞれ相当する。そうすると、本願発明と引用発明とは、「複数の出力パス」のうちの1つの出力パス(本願発明においては「第2の動作モードをサポートする出力パス」。引用発明においては「W-CDMA方式で送信する場合の出力パス」。)に「受信機」が接続された「デュプレクサ」を備えている点で共通する。さらに、引用発明の前記「デュプレクサ50」は、「整合回路21」と「アンテナスイッチ4a」との間に設けられているから、「前記アンテナが接続される側に」設けられている点でも本願発明と共通する。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「ワイヤレス通信のための装置であって、
入力無線周波数(RF)信号を受信して、増幅されたRF信号を供給するための電力増幅器と、
前記増幅されたRF信号を受信するように構成された出力整合回路網と、
前記出力整合回路網に、切替可能に結合された複数の出力パスであって、各出力パスは、前記電力増幅器のための動作モードによって異なる目標出力インピーダンスを与えるように構成され、前記出力パスが選択されたときに、前記電力増幅器から1つのアンテナへ前記増幅されたRF信号を送る、複数の出力パスと、ここにおいて、前記出力整合回路網の出力インピーダンスは、各出力パスに関する前記電力増幅器のための前記動作モードによって各異なる目標出力インピーダンスよりも高く、前記複数の出力パスは、複数の動作モードをサポートし、
を備え、
ここにおいて、前記複数の出力パスのうちの1つの出力パスの、前記アンテナが接続される側には、デュプレクサが設けられており、受信機は前記デュプレクサに接続され、
前記複数の出力パスは、複数の無線技術をサポートし、各出力パスは、少なくとも1つの無線技術の異なるセットをサポートする、
装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明においては、「各動作モードは、前記電力増幅器に関する異なる動作特性と関連づけられ、前記複数の動作モードは、第1の動作モードおよび第2の動作モードを含み、第1の動作モードは、前記第2の動作モードよりも高い最大出力電力をサポートし、前記第2の動作モードは、前記第1の動作モードよりも高い線形性を提供し、前記電力増幅器は、前記第1の動作モードでのより高い効率のために飽和領域において動作し、前記第2の動作モードでのより高い線形性のために前記飽和領域外で動作する」のに対して、引用発明においては、W-CDMA方式で送信する場合及びDCS方式で送信する場合のそれぞれにおいて、電力増幅器(高周波電力増幅器10a)が具体的にどのような動作特性(動作モード)で動作するのかまでは特定されていない点。

<相違点2>
本願発明においては、「各出力パスは、それぞれ、インダクタおよびキャパシタを含む整合回路網を備え」るのに対して、引用発明においては、W-CDMA方式で送信する場合の経路の出力パスは整合回路網(整合回路21)を備えているものの、DCS方式で送信する場合の経路の出力パスは整合回路網を備えていない点。

<相違点3>
本願発明においては、「前記複数の出力パスのうちの少なくとも1つの出力パスの前記整合回路網は、調節可能に構成され」、具体的には、「第2の動作モードをサポートする出力パスが前記調節可能な整合回路網を有して」おり、「前記調節可能な整合回路網は前記第2の動作モードにおいてより良い整合および改善された線形性を得るために変化され得るキャパシタンスを有する調節可能なキャパシタを有している」のに対して、引用発明においては、上記<相違点2>で述べたとおりW-CDMA方式で送信する場合の経路の出力パスは整合回路網(整合回路21)を備えているものの、当該整合回路網(整合回路21)が調節可能であることは特定されていない点。

第6 判断
1.相違点1について
引用発明は、「W-CDMA方式とDCS方式の二バンド・二モードに対応した高周波回路装置」であるが、前記DCS方式が1800MHz帯のGSM方式と同じ方式であることは当業者において周知の事項であり、また、W-CDMA方式はCDMA方式に含まれるものであるから、引用発明は実質的にGSM方式とCDMA方式とをサポートしているということもできる。
そして、GSM方式に対応する場合には電力増幅器を飽和領域において動作させ、CDMA方式に対応する場合には電力増幅器を線形領域において動作させることも、例えば引用文献2に記載されている(上記「第4」の「2.」の「(15)」参照。)ように周知技術にすぎずない。
そうすると、引用発明において、DCS方式(GSM方式)に対応する場合には電力増幅器を飽和領域において動作させて、本願発明の第1の動作モードのようにより高い最大出力電力をサポートするようにするとともに、W-CDMA方式(CDMA方式)に対応する場合には電力増幅器を線形領域において動作させて、本願発明の第2の動作モードのようにより高い線形性を提供するようにすることによって、本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者にとって格別の創意工夫を要することではない。
また、電力増幅器をそのように動作させることによる効果も、上記周知技術からみて、当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものではない。

2.相違点2について
引用発明は、上記「第4」の「1.」の「ケ.」で説示したとおり、インピーダンスを高くすることが可能な整合回路20の出力側で、W-CDMA方式に対応した経路とDCS方式に対応した経路の選択を行うようにすることによって、「インピーダンスが低いトランジスタ出力端と整合回路との間にスイッチが配置されているため、スイッチの有する寄生抵抗によりトランジスタ出力端以降の回路損失が増加し、高周波電力増幅器の性能が低下することが避けられない。」という課題を解決し、「マルチバンド・マルチモードに対応する回路損失が少ない高周波回路装置の実現」を可能としたものである。
そして、引用文献3には、上記「第4」の「3.」で説示したとおり、「マルチバンドおよびマルチモードに対応した高周波回路」において、引用発明と同様に、最終増幅部(引用発明の「高周波電力増幅器10a」に相当。)とスイッチ部(引用発明の「スイッチ30」に相当。)との間に整合回路(引用発明の「整合回路20」に相当。)を設けることによって、引用発明と同様に「最終増幅部の出力側に形成されたスイッチ部による損失を低減する」ことが記載されている。さらに、引用文献3には、(a)「負荷インピーダンスとの整合をとるために、前記スイッチ部が選択する2つの経路のそれぞれに整合回路を設けること。」及び(b)「前記スイッチ部が選択する前記2つの経路のそれぞれに設けられた前記整合回路は、省略することが可能であること。」も記載されており、これらの記載からみて、負荷インピーダンスとの整合をとるために、前記スイッチ部が選択する前記2つの経路の一方にのみ整合回路を設けるか、両方に整合回路を設けるかは、高周波回路の設計時に当業者が適宜選択し得る事項であると認められる。
そうすると、平成30年2月22日付け拒絶理由通知において示したように、引用発明において、DCS方式に対応した送信経路においても、本願発明の「整合回路網」に相当する整合回路を設けるようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような整合回路を設けることによる効果も、引用発明及び引用文献3に記載の技術事項からみて、当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものではない。

3.相違点3について
引用文献4には、上記「第4」の「4.」で説示したとおり、「CDMA方式で使用されるアンテナ共用器の入力インピーダンスは周波数特性を持っているため、可変容量コンデンサ等の可変キャパシタンス素子用いた整合回路でインピーダンス整合をとること。」が記載されている。
したがって、引用発明においても、W-CDMA方式で送信する場合の経路の出力パスに備えられた整合回路網(整合回路21)に、引用文献4に記載のような可変容量コンデンサ等の可変キャパシタンス素子を用いることによって、本願発明の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、整合回路をそのように構成することによる効果も、引用発明及び引用文献4に記載の技術事項からみて、当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものではない。

4.まとめ
以上を総合すると、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載されている周知技術、並びに、引用文献3及び4に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載されている周知技術、並びに、引用文献3及び4に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-10 
結審通知日 2018-10-16 
審決日 2018-11-06 
出願番号 特願2014-209102(P2014-209102)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 國分 直樹
東 昌秋
発明の名称 マルチモード動作のための切替型出力整合を備えた電力増幅器  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ