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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1350169
審判番号 不服2017-11725  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-04 
確定日 2019-04-09 
事件の表示 特願2014-539058「ベクトル・プロセッサおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日国際公開、WO2013/063440、平成27年 1月22日国内公表、特表2015-502597、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2012年10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月27日(以下,「優先日」という。),米国)を国際出願日として出願したものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 4月25日 :国内書面の提出
平成26年 6月 9日 :翻訳文の提出
平成28年 5月19日付け :拒絶理由の通知
平成28年11月24日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 3月30日付け :拒絶査定(原査定)
平成29年 8月 4日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成30年 1月15日 :上申書の提出
平成30年 6月28日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成31年 1月 4日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,平成31年1月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
N1+N2-1個の入力サンプルで構成されたベクトルを有する1つまたは複数のベクトル畳み込みソフトウェア命令に応答して,入力信号とフィルタのインパルス応答との間の畳み込みを実行するためにベクトル・プロセッサによって実行される方法であって,
少なくとも前記N1+N2-1個の入力サンプルで構成されるベクトルを取得することと,
それぞれの時間シフトされたバージョンがN1個のサンプルを含む,前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンを取得することと,
前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンに対して並列に,前記ベクトルの前記時間シフトされたバージョンの重み付けされた和を,N1個の係数のベクトルにより実行することと,
前記重み付けされた和のそれぞれに対して1つの出力値を含む出力ベクトルを生成することと,を含み,
前記フィルタのインパルス応答は複数の係数を用いて表され,ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数はフィルタにおける係数の個数よりも少なく,前記方法は,より大きなフィルタのより小さな塊を反復的に処理するステップを更に含み,それぞれの反復の出力は前記より大きなフィルタのすべてが処理されるまでそれぞれの塊に対して累積される,
方法。」

なお,本願発明2-6の概要は以下のとおりである。

本願発明2-3は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明4は,本願発明1に対応する「ベクトル・プロセッサ」の発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。

本願発明5-6は,本願発明4を減縮した発明である。

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表平11-505640号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「本発明は,入力データ・ベクトルのたたみ込みを必要とするマルチメディア・データを処理するためのデータ処理システムを含んでいる。このたたみ込みは入力データ・ストリームを取り,それをある種類のフィルタ関数でたたみ込んで,出力データ・ストリームを生成する。入力データ・ストリーム及び出力データ・ストリームの長さは任意である。たとえば,これらのストリームは,連続するデジタル化オーディオまたはデジタル化ビデオ・データを表すであろう。
デジタル・フィルタ関係の用語では,フィルタ中のタップ数を表すのに変数nを使用することがある。たとえば7タップ・デジタル・フィルタは,入力データ・ストリームを7つの係数からなるフィルタでたたみ込むことからなる。このたたみ込み操作は,フィルタ係数と入力データ・ストリームとの積の和を実行することによって所与の出力を生成するものである。kビット・データに対してたたみ込みを実行する場合,入力データ・ベクトルIN_(0),IN_(1),...IN_(n-1)は入力データ信号のn個の要素を表し,n個の要素のそれぞれは次式で表される。
IN_(i)=2^(0)×IN_(i)(0)+2^(1)×IN_(i)(1)+...±2^(k-1)×IN_(i)(k-1)
たたみ込みで,次式で表される出力データ・ベクトルが生成する。
OUT_(i)=(A_(0)×IN_(i))+(A_(1)×IN_(i+1))+...+(A_(n-1)×IN_(i+n-1))
上式で,A_(0),A_(1),...,A_(n-1)は定数ベクトルを表し,i,k,nは整数である。
…(中略)…
本発明の装置及び方法は,データのビット・スライスを取ることによってこのたたみ込みを実行する。本発明の手順を概略的に理解するため,フィルタ中のタップの数が入力データ・ストリーム中のビット数に等しい(すなわち,k=n)と仮定する。(タップ数の方が少ない場合は,出力にゼロを挿入することができる。タップ数の方が多い場合は,フィルタを多数のkタップ・フィルタに分解し,出力を合計することができる。)さらに,k=n=8(すなわち8タップ・フィルタかつ8ビット・データに適用)と仮定する。」(第11頁第1行-第12頁第11行)

B「 新規のデータ処理エンジン
上述の方法では,ある関数と他の定数関数とのたたみ込みの多数の出力を同時に発生できるデータ・プロセッサ・アーキテクチャを構成することができる。本発明のデータ処理エンジンは,それぞれそれ自体の専用テーブル・ルックアップ・メモリ,シフタ/アキュムレータおよびその隣接する処理装置への通信データ・パスを含むN個の処理装置を含む。通信データ・パスにより,プロセッサP_(0)がプロセッサP_(1)に情報を送り,プロセッサP_(1)がプロセッサP_(2)に情報を送り,プロセッサP_(N-1)がプロセッサP_(0)に情報を送ることができる。
N個のプロセッサは,N個のデータを入力し,(前述のように)ビットスライス動作を実施し,次いでビット・ベクトルと出力内のその点におけるたたみ込み関数とのたたみ込みを表すそれらのスライスの値のルックアップを同時に実行することによってOUT_(0...n-1)を同時に計算することができる。
例えば,4個のサンプル関数b_(0...3)について,プロセッサP_(0)が入力IN_(0-3)をb_(0-3)にたたみ込み,プロセッサP_(1)が入力IN_(1-4)をb_(0-3)にたたみ込むことが望まれる。各プロセッサのテーブル値は次のようになる。
Processoro_(0) Table_(1)=b_(0) Table_(3)=b_(0)+b_(1) Table_(7)=b_(0)+b_(1)+b_(2)
Processor_(1) Table_(1)=0 Table_(3)=b_(0) Table_(7)=b_(0)+b_(1)
Processor_(2) Table_(1)=0 Table_(3)=0 Table_(7)=0
プロセッサは,テーブル・ルックアップを実施し,その後シフトおよび累積動作を実施すると同時に,プロセッサはまた,その前方の隣接するプロセッサにデータ・スライス情報を送る。一方,そのプロセッサは,その後方の隣接するプロセッサから次のスライスを受け取る。これは,各プロセッサが次のスライスに対してルックアップを実行し,データをシフトし,結果を累積する準備が直ちにできることを意味する。N個のクロックの後,N個のすべてのプロセッサは,入力データ・ストリーム中の異なるN個の点においてたたみ込みの値を累積していることになる。したがって,本発明のアーキテクチャの総帯域は,前例のないクロック当たり1つのサンプルである。」(第25頁第6行-第26頁第4行)

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「入力データ・ベクトルのたたみ込みを必要とするマルチメディア・データをデータ処理システムによって処理する方法であって,
入力データ・ストリーム(IN_(0),IN_(1),・・・IN_(n-1))を受け取り,複数タップのフィルタで,入力データ・ストリームに定数ベクトル(A_(0),A_(1),・・・A_(n-1))で重み付けした和を出力データ・ベクトル(OUT_(i)=(A_(0)×IN_(i))+(A_(1)×IN_(i+1))+...+(A_(n-1)×IN_(i+n-1)))として生成し,
例えば,入力データ・ストリーム(IN_(0),IN_(1),・・・IN_(5))の6個の要素に対して,3個の定数ベクトル(A_(0),A_(1),・・・A_(2))で重み付けした和として4個の出力データ・ベクトル(OUT_(0),OUT_(1),・・・OUT_(3))を生成するものであって,
前記たたみ込みは,複数のプロセッサがデータのビット・スライスを取ることによって,出力データ・ベクトル(OUT_(0),OUT_(1),・・・OUT_(3))の生成を同時に実行し,
入力データ・ストリーム中のビット数よりフィルタ中のタップ数の方が多い場合は,フィルタを多数のkタップ・フィルタに分解し,出力を合計し,
入力データ・ストリーム中のビット数よりフィルタ中のタップ数の方が少ない場合は,出力にゼロを挿入する,
方法。」

2 引用文献2について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平10-222476号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

C 「【0045】図2を参照すると,ベクトルプロセッサ206はマルチメディア信号プロセッサ104のデジタル信号処理エンジンである。ベクトルプロセッサ206は単一命令マルチプルデータアーキテクチャーを備え,離散コサイン変換(DCT, Discrete Cosine Transforms) ,FIRフィルタリング,畳み込み(convolution) ,動画推定,および他の処理動作のような信号処理機能を並列に実行するためにマルチプルデータ要素上で動作するパイプラインのRISCエンジンを具備する。ベクトルプロセッサ206はベクトル処理と同様に,複数個のベクトル実行ユニットによりマルチプルデータ要素が並列に動作されるベクトル演算を支援する。ベクトルプロセッサ206はスカラー演算および結合されたベクトル-スカラー演算の全てを実行する。ベクトルプロセッサ206の多重データ要素は,1サイクル当たり(例えば12.5ns) ,32の割合で8/9ビットの固定小数点演算処理,16の割合で16ビット固定小数点演算処理,または8の割合で32ビット固定小数点演算処理または浮動小数点演算処理が計算される576ビットベクトルにまとめられる。32ビットスカラー演算の大部分は1サイクル当たり1命令速度でパイプラインされ,一方576ビットベクトル演算の大部分は2サイクル内で1命令速度でパイプラインされる。ロードおよび記憶動作は算術動作と並行され,別のロードおよび記憶回路により独立的に実行される。」

したがって,上記引用文献2には,「FIRフィルタ等の畳み込み演算をベクトル・プロセッサで実行する」という技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特表2004-514374号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

D 「【0009】
まず,無線チャネルをシミュレートするチャネル・シミュレータの従来技術の部分を検討する。無線チャネル・シミュレーションは,ディジタルFIRフィルタによって行われ,そのブロック図を図1に示す。FIRフィルタは,シフト・レジスタにおけるように配列された遅延素子100,重み係数ブロック102,及び加算器104を備えている。入力信号X(n)は,各遅延素子100において遅延され,それらの遅延の時間は等しくても異なっていてもよい。遅延信号は,重み係数ブロック102において所望の重み係数h(i)によって重み付けされる。ここで,i=[1, ..., N]である。重み係数h=[h(1), ...,h(N)]は,無線チャネルのチャネル推定値であり,FIRフィルタのタップ係数とも呼ばれる。重み係数は,実際の無線チャネルの特性が変化したと思われる毎に同様に変更される。大抵の場合,重み係数は短い時間範囲では概ね一定であるが,信号の変化速度と比較すると,ゆっくりと変化する。遅延され重み付けされた信号は,加算器104において加算される。
【0010】
概して言えば,重み係数は,実数又は複素数とすることができる。複素重み係数が必要となるのは,例えば,GSM(Global System for Mobile Communication)又はCDMA(符号分割多重アクセス)システムの無線チャネルが直交変調を用いているからであり,この場合信号は2つの部分に分割される。実信号部I(同相)に位相シフトのない搬送波を乗算し,虚信号部Q(直交)に位相シフトした搬送波を乗算する。全体の信号は,これらの部分の組み合わせとなる。位相シフトのない搬送波との乗算を行うには,例えば,cos(ω_(c) t)という形式の余弦搬送波を信号に乗算する。一方,位相シフトした搬送波との乗算を行うには,sin(ω_(c) t)という形式の正弦搬送波を信号に乗算する。これにより,搬送波の間にはπ/2の位相シフトができ,これを用いて信号を乗算する。信号の異なる部分が,π/2の位相シフトのために相互に直交しているので,信号は複素数で表すことができる。次に,信号XをX=I+jQとして表す。ここで,Iは実信号部,Qは虚信号部,jは虚数単位である。
【0011】
数学的形式では,FIRフィルタの出力信号y(n)は,畳み込み(コンボリューション)として表すことができる。これは,遅延信号及び重み係数の積の和である。
y(n)=x*h
=Σh(k)X(n-k) (1)
ここで,Σはk=1?Nの加算を表し,*は畳み込み演算であり,nは信号要素である。信号x及びy,ならびにチャネル・インパルス応答hは,スカラー,ベクトル又はマトリクスとして,それ自体公知の方法で処理することができる。」

したがって,上記引用文献3には,「FIRフィルタ等の畳み込み演算において,信号データおよび重み係数を,実数又は複素数とする」という技術的事項が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明は「入力データ・ベクトルのたたみ込みを必要とするマルチメディア・データをデータ処理システムによって処理する方法」であるところ,本願発明1は「N1+N2-1個の入力サンプルで構成されたベクトルを有する1つまたは複数のベクトル畳み込みソフトウェア命令に応答して,入力信号とフィルタのインパルス応答との間の畳み込みを実行するためにベクトル・プロセッサによって実行される方法」であって,引用発明の「データ処理システム」と本願発明1の「ベクトル・プロセッサ」とは,上位概念では“プロセッサ”である点で一致し,引用発明の「入力データ・ベクトル」,「たたみ込み」はそれぞれ,本願発明1の「入力信号」,「畳み込み」に相当することは明らかである。
また,引用発明の「たたみ込み」は「複数タップのフィルタで,入力データ・ストリームに定数ベクトル(A_(0),A_(1),・・・A_(n-1))で重み付けした和を出力データ・ベクトル(OUT_(i)=(A_(0)×IN_(i))+(A_(1)×IN_(i+1))+...+(A_(n-1)×IN_(i+n-1)))として生成」することから,引用発明の「入力データ・ストリーム」,「定数ベクトル」はそれぞれ,本願発明1の「入力信号」,「フィルタのインパルス応答」に相当するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,“入力信号とフィルタのインパルス応答との間の畳み込みを実行するためにプロセッサによって実行される方法”である点で共通するといえる。

イ 引用発明では,「例えば,入力データ・ストリーム(IN_(0),IN_(1),・・・IN_(5))の6個の要素に対して,3個の定数ベクトル(A_(0),A_(1),・・・A_(2))で重み付けした和として4個の出力データ・ベクトル(OUT_(0),OUT_(1),・・・OUT_(3))を生成する」ところ,本願発明1は,「少なくとも前記N1+N2-1個の入力サンプルで構成されるベクトルを取得」し,「それぞれの時間シフトされたバージョンがN1個のサンプルを含む,前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンを取得」し,「前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンに対して並列に,前記ベクトルの前記時間シフトされたバージョンの重み付けされた和を,N1個の係数のベクトルにより実行」し,「前記重み付けされた和のそれぞれに対して1つの出力値を含む出力ベクトルを生成する」ことから,“畳み込み”に係る入出力ベクトルについて,引用発明の「入力データ・ストリームの要素」,「定数ベクトル」,「出力データ・ベクトル」はそれぞれ,本願発明1の「入力サンプルで構成されたベクトル」,「係数のベクトル」,「出力ベクトル」に相当するといえる。

ウ また,引用発明では,6個の「入力データ・ストリームの要素」と3個の「定数ベクトル」の「たたみ込み」を実行することにより,4個の「出力データ・ベクトル」を生成するといえることから,「定数ベクトル」の個数を“N1個”,「出力データ・ベクトル」の個数を“N2個”とすれば,「入力データ・ストリームの要素」の個数は“N1+N2-1個”であるといえる。
そうすると,引用発明の「入力データ・ストリームの要素」は“N1+N2-1個の入力サンプルで構成されるベクトル”とみることができるから,引用発明と本願発明1とは,“少なくともN1+N2-1個の入力サンプルで構成されるベクトルを取得する”点で一致するといえる。
そして,引用発明では,「たたみ込み」を実行するときに,「入力データ・ストリームの要素」のうち「定数ベクトル」の個数である“N1個のサンプル”によって「入力データ・ストリームの要素」の1つの“バージョン”を生成し,前記“バージョン”について「出力データ・ベクトル」の個数である“N2個の時間シフトされたバージョン”を取得して利用するとみることができるから,引用発明と本願発明1とは,“それぞれの時間シフトされたバージョンがN1個のサンプルを含む,前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンを取得する”点で一致するといえる。

エ 引用発明では,「前記たたみ込みは,複数のプロセッサがデータのビット・スライスを取ることによって,出力データ・ベクトル(OUT_(0),OUT_(1),・・・OUT_(3))の生成を同時に実行」するところ,上記アでの検討より,引用発明の「たたみ込み」は「複数タップのフィルタで,入力データ・ストリームに定数ベクトル(A_(0),A_(1),・・・A_(n-1))で重み付けした和を出力データ・ベクトル(OUT_(i)=(A_(0)×IN_(i))+(A_(1)×IN_(i+1))+...+(A_(n-1)×IN_(i+n-1)))として生成」すること,上記ウでの検討より,引用発明では,「入力データ・ストリームの要素」のうち「定数ベクトル」の個数である“N1個のサンプル”によって「入力データ・ストリームの要素」の1つの“バージョン”を生成し,前記“バージョン”について「出力データ・ベクトル」の個数である“N2個の時間シフトされたバージョン”を取得して利用するとみることができるから,「入力データ・ストリームの要素」の“N2個の時間シフトされたバージョン”に対して“並列”に,“N1個”の「定数ベクトル」で重み付けした和を“1つの出力値を含む”「出力データ・ベクトル」として生成するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンに対して並列に,前記ベクトルの前記時間シフトされたバージョンの重み付けされた和を,N1個の係数のベクトルにより実行”し,
“前記重み付けされた和のそれぞれに対して1つの出力値を含む出力ベクトルを生成する”点で一致するといえる。

オ 上記アでの検討より,引用発明の「定数ベクトル」は本願発明1の「フィルタのインパルス応答」に相当するといえ,本願発明1では,「畳み込み」を,「前記ベクトルの前記時間シフトされたバージョンの重み付けされた和を,N1個の係数のベクトルにより実行」し,「前記フィルタのインパルス応答は複数の係数を用いて表され」ることから,引用発明の「定数ベクトル」は本願発明1の「係数のベクトル」に相当するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,“前記フィルタのインパルス応答は複数の係数を用いて表され”る点で共通するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「入力信号とフィルタのインパルス応答との間の畳み込みを実行するためにプロセッサによって実行される方法であって,
少なくともN1+N2-1個の入力サンプルで構成されるベクトルを取得することと,
それぞれの時間シフトされたバージョンがN1個のサンプルを含む,前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンを取得することと,
前記ベクトルのN2個の時間シフトされたバージョンに対して並列に,前記ベクトルの前記時間シフトされたバージョンの重み付けされた和を,N1個の係数のベクトルにより実行することと,
前記重み付けされた和のそれぞれに対して1つの出力値を含む出力ベクトルを生成することと,を含み,
前記フィルタのインパルス応答は複数の係数を用いて表される,
方法。」

(相違点)
(相違点1)
入力信号とフィルタのインパルス応答との間の畳み込みを実行する方法について,本願発明1では,「N1+N2-1個の入力サンプルで構成されたベクトルを有する1つまたは複数のベクトル畳み込みソフトウェア命令に応答して」,「ベクトル・プロセッサ」が実行するのに対して,
引用発明は,「入力データ・ベクトルのたたみ込み」を処理する方法であるものの,「マルチメディア・データ」を「データ処理システム」が処理する点。

(相違点2)
フィルタのインパルス応答を表す複数の係数に関し,本願発明1では,「ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数はフィルタにおける係数の個数よりも少なく,前記方法は,より大きなフィルタのより小さな塊を反復的に処理するステップを更に含み,それぞれの反復の出力は前記より大きなフィルタのすべてが処理されるまでそれぞれの塊に対して累積される」のに対して,
引用発明は,「入力データ・ストリーム中のビット数」と「フィルタ中のタップ数」との大小関係に基づく異なる処理について特定されるものの,「定数ベクトル」の要素の個数と「フィルタ中のタップ数」との大小関係に基づく,たたみ込み処理の詳細についてはそのように特定されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点2について
事案に鑑みて,上記相違点2を先に検討すると,引用発明の入力データ・ストリームのたたみ込み処理において,フィルタ中のタップ数がフィルタのインパルス応答を表す定数ベクトルの要素の数よりも少なく,より大きなフィルタのより小さな塊を反復的に処理するステップを更に含み,それぞれの反復の出力は前記より大きなフィルタのすべてが処理されるまでそれぞれの塊に対して累積されることは特定されておらず,そのように設計変更することの動機付けもない。
また,ベクトル・プロセッサにおいて,ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数がフィルタにおける係数の個数よりも少ない場合に,より大きなフィルタのより小さな塊を反復的に処理する旨の技術は,上記引用文献2-3には記載されておらず,本願の優先日前に当該技術分野において周知技術であったとまではいえず,当業者が適宜に選択し得た設計的事項であるとすることもできない。
そうすると,引用発明において,ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数はフィルタにおける係数の個数よりも少なく,より大きなフィルタのより小さな塊を反復的に処理するステップを更に含み,それぞれの反復の出力は前記より大きなフィルタのすべてが処理されるまでそれぞれの塊に対して累積されるようにすること,すなわち,本願発明1の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

イ まとめ
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-3について
本願発明2-3は本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の
「ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数はフィルタにおける係数の個数よりも少なく,前記方法は,より大きなフィルタのより小さな塊を反復的に処理するステップを更に含み,それぞれの反復の出力は前記より大きなフィルタのすべてが処理されるまでそれぞれの塊に対して累積される」(以下,「相違点2に係る構成」という。)
と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明4-6について
本願発明4は本願発明1に対応する「ベクトル・プロセッサ」の発明であり,本願発明5-6は本願発明4を減縮した発明であり,本願発明1の「相違点2に係る構成」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-10について上記引用文献1-3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
しかしながら,平成31年1月4日付け手続補正により補正された請求項1-6は,それぞれ「相違点2に係る構成」に対応する構成を有するものとなっており,
上記のとおり,本願発明1-6は,引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
(1)当審では,請求項1は発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっていることから,請求項1に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年1月4日付けの手続補正により,
「N1+N2-1個の入力サンプルで構成されたベクトルを有する1つまたは複数のベクトル畳み込みソフトウェア命令に応答して,」
を追加する補正がなされた結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項1を引用する請求項2-3についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,請求項1に対応する請求項4についても,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっていることから,請求項4に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年1月4日付けの手続補正により,
「N1+N2-1個の入力サンプルで構成されたベクトルを有する1つまたは複数のベクトル畳み込みソフトウェア命令に応答して,」
を追加する補正がなされた結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項4を引用する請求項5-6についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では,請求項1の「畳み込みによってサポートされる係数の個数」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年1月4日付けの手続補正により,
「ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数」
と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項1を引用する請求項2-3についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,請求項1に対応する請求項4についても,「畳み込みによってサポートされる係数の個数」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年1月4日付けの手続補正により,
「ベクトル畳み込み関数ユニットによってサポートされる係数の個数」
と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,請求項4を引用する請求項5-6についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-6は,当業者が引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-28 
出願番号 特願2014-539058(P2014-539058)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 宏一  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 山崎 慎一
辻本 泰隆
発明の名称 ベクトル・プロセッサおよび方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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