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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1350175 |
審判番号 | 不服2016-19587 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-27 |
確定日 | 2019-04-09 |
事件の表示 | 特願2013-533015「同軸駆動真空ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日国際公開,WO2012/048346,平成25年10月31日国内公表,特表2013-540361,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2011年(平成23年)10月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月11日,米国,2010年10月8日(以下,「本願優先日」という。),米国,2011年5月27日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成27年8月25日付け拒絶理由通知に対して,平成28年3月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年8月23日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたところ,当審から,平成30年5月11日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年11月15日に意見書が提出されるとともに誤訳訂正(以下,「本件訂正」という。)がされたものである。 第2 本願発明 本願請求項1ないし5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は,本件訂正で訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし5は以下のとおりである。 「【請求項1】 同軸駆動スピンドル機構及び少なくとも一つのハーモニックモータ組立部品を含み,前記同軸駆動スピンドル機構が少なくとも二つの駆動軸を含み,前記少なくとも一つのハーモニックモータ組立部品が少なくとも二つの駆動軸と対応する複数のモータ回転子及び複数のモータ固定子を含む駆動システムと, 前記同軸駆動スピンドル機構に取り付けられた少なくとも一つの直線状にスライドする搬送アームと,を含むロボット式搬送装置において, 前記少なくとも一つのハーモニックモータ組立部品は,前記同軸駆動スピンドル機構を通して前記少なくとも一つの搬送アームに結合され,前記搬送アームを移動させるために前記同軸駆動スピンドル機構の少なくとも二つの駆動軸を実質的に直接駆動するように構成されており, 前記同軸駆動スピンドル機構は密閉環境の中にあり,前記複数のモータ固定子は前記密閉環境の外に隔離され,前記同軸駆動スピンドル機構を前記密閉環境内に密閉するすべてのシールは静的シールであり,前記静的シールのすべてによって前記密閉環境の密閉をもたらす各密閉接合部位が静的接合部位であるように構成されている,ロボット式搬送装置。 【請求項2】 前記少なくとも一つの直線状にスライドする搬送アームは,直線状にスライドするエンドエフェクタ配列を有する,請求項1に記載のロボット式搬送装置。 【請求項3】 前記少なくとも一つの直線状にスライドする搬送アームは,互いに積み重ねられた少なくとも二つのエンドエフェクタと,それぞれのエンドエフェクタが,少なくとも二つのエンドエフェクタの他方とは独立してスライドして取り付けられる基板部材と,を含む,請求項1に記載のロボット式搬送装置。 【請求項4】 前記ロボット式搬送装置はさらにZ軸駆動モータを含む,請求項1に記載のロボット式搬送装置。 【請求項5】 前記駆動システムは,前記密閉環境を保持する内部を有する筐体,駆動軸に対応した前記モータ固定子及び前記モータ回転子,並びに,少なくとも一つの静的隔離バリアを形成する前記静的シールを含み,前記モータ固定子は前記筐体の前記内部の外側の前記筐体内に配置され,前記モータ回転子は前記内部に配置され,前記少なくとも一つの静的隔離バリアは前記内部を閉じる前記筐体内に配置されることで,前記少なくとも一つの静的隔離バリアは,前記モータ固定子は,前記筐体の前記内部で前記密閉環境の外側に配置され,前記筐体の前記内部が前記密閉環境に開かれているように,前記モータ固定子を前記筐体の前記内側で前記密閉環境から遮断するように構成されている,請求項1に記載のロボット式搬送装置。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1.(明確性)本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.(サポート要件)本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.(進歩性)本願発明1ないし5は,本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1 特開2004-146714号公報 引用文献2 特開平11-307609号公報 引用文献3 特開2003-170384号公報 引用文献4 特表2004-500521号公報 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について (1) 引用文献1の記載 当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開2004-146714号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下同じ。)。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,半導体ウエハ等の被処理体の搬送機構に関する。」 イ 「【0023】 次に,図2?図6も参照して,上記共通搬送室6内に設けた第2搬送機構14について説明する。 まず,この第2搬送機構14は,図5に示すように,共通搬送室6の底板6Aに形成した取付孔に気密状態で設けた3つの回転軸50,52,54によって動作される。これらの3つの回転軸50,52,54は,例えば特開平11-198070号公報等にも開示されているように,各回転中心が同一となるように3軸同軸構造になされており,その中心より外側に向けて最内周回転軸(第1の回転軸)50,中間回転軸(第3の回転軸)52,最外周回転軸(第2の回転軸)54として順次同軸状に構成される。そして,同軸状に隣り合う回転軸50,52,54間及び最外周回転軸52と底板6Aの取付孔区画面との間には,それぞれ軸受56が介設されており,各回転軸50,52,54をそれぞれ個別に回転自在としている。 【0024】 また,各回転軸50,52,54の下部は,上記底板6AにOリング等のシール部材58を介して取付られたケーシング60により気密に囲まれている。そして,上記各回転軸50,52,54の下部と,ケーシング60の内壁との間には,ロータとステータとよりなる例えばステップモータのような駆動モータ62,64,66がそれぞれ設けられており,各回転軸50,52,54を正逆回転し得るようになっている。 【0025】 図2乃至図4に戻って,この第2搬送機構14は,前述したようにウエハを直接的に保持する2つのピック14A,14Bを有している。具体的には,まず,この第2搬送機構14は,略V字形状に成形された板状のベース部材68を有しており,このベース部材68は,水平状態になるように中間回転軸(第3の回転軸)52に取り付け固定され,旋回可能になされている(図5参照)。尚,ここで”第1?第3の回転軸”の用語は,回転軸の配列位置を示すものではなく,単に3つの回転軸を形式的に区別するために用いている。上記ベース部材68のV字形状は,例えばその開き角度が60度程度に設定されている。この開き角度は,第2の搬送機構14の回転中心に対する隣接された処理室4A?4D同士の取り付け方向及び第1と第2のロードロック室8A,8Bの取り付け方向の開き角度と同一になるように設定されている。 【0026】 そして,図3にも示すようにこのベース部材68の上面の一側には,第1の案内レール70Aが直線状に設けられており,この第1の案内レール70Aにはこのレールに沿って移動可能に第1の移動体72Aが外れないように嵌装されている。 そして,この第1の移動体72Aの上面側には,L字状に成形されて,先端側が上記第1の案内レール70Aと略平行になるようになされた第1の保持部材74Aが取り付け固定されている。そして,この第1の保持部材74Aの先端部に上記一方のピック14Aが取り付けられている。 【0027】 また,上記第1の保持部材74Aの基部側には,第1の運動方向変換機構76Aが設けられている。そして,上記最内周回転軸(第1回転軸)50には,その基部側を連結させて第1のアーム78Aが取り付けられており,この第1のアーム78Aの先端部は上記第1の運動方向変換機構76Aに連結されて,この第1のアーム78Aの回転運動を上記第1の移動体72Aの直線運動に変換するようになっている。具体的には,この第1の運動方向変換機構76Aは,上記第1の保持部材74Aの基端部,すなわち第1の移動体72A側に取り付けた短い第1の補助案内レール80Aと,この第1の補助案内レール80Aに沿って移動可能に外れないように嵌装させて設けられた第1の補助移動体82Aとよりなり,上記第1のアーム78Aの先端部が,上記第1の補助移動体82Aの上部に回転軸84Aを介して回転自在に取り付けられている。この場合,上記第1の補助案内レール80Aは,この下部の第1の案内レール70Aに対して平面的に見て略直交するように配置されている。 【0028】 このように構成することにより,上記最内周回転軸50を回転して第1のアーム78Aを正逆方向へ旋回することにより,上記第1の運動方向変換機構76Aの第1の補助移動体82Aが第1の補助案内レール80A上をスライド移動し,この時,この下部の第1の移動体72Aは第1の案内レール70Aに沿ってスライド移動するので,第1の保持部材74Aの先端に設けたピック14Aは,上記第1の案内レール70Aに沿って前進及び後退することになる。 ここで他方のピック14Bに対しても,ベース部材68の下面側(裏面側)に全く同様な構成で取り付けられている。」 ウ 「【0033】 次に,以上のように構成された本実施例の動作について説明する。 まず,図1に示すように,3つの導入ポート18A?18Cの内のいずれかの導入ポートに設置されたカセット容器20内からは,第1の搬送機構22を用いて未処理の半導体ウエハWが取り出され,このウエハWはオリエンタ26に搬送されてここで位置合わせが行われる。 この位置合わせ後のウエハWは,再度,第1の搬送機構22に保持されて,第1及び第2のロードロック室8A,8Bの内のいずれか一方のロードロック室へ搬入される。このロードロック室内のウエハWは,共通搬送室6内に設けた本発明に係る第2の搬送機構14を用いて予め真空状態になされている共通搬送室6内に取り込まれ,そして,このウエハWは,4つの処理室4A?4Dの内の所定の処理室内に搬入されてこのウエハWに対して所定の処理が行われる。このウエハWを処理室内へ搬入する際には,一般的には,先に処理室内に搬入されて処理済みになっている処理済みウエハと未処理ウエハとの置き換えが行われる。このようにして,ウエハWは,上記第2の搬送機構14を用いて必要に応じて順次他の処理室へ搬送され,その都度,所定の処理が行われる。そして,全ての処理が完了したウエハWは2つのロードロック室8A,8Bの内のいずれか一方のロードロック室を介して,元のカセット容器20内に戻されることになる。 【0034】 次に,上記第2の搬送機構14の動作について図2?図6も参照して詳しく説明する。 また,第2の搬送機構14の特定のピックが特定の方向,例えば特定の処理室やロードロック室に向くように方向付けする場合には,この中間回転軸52を回転することによってベース部材68を旋回させて,特定のピック,例えばピック14Aをその方向に向ける(図6(A)参照)。この際,両ピック14A,14Bを,これらの旋回方向以外の方向に対する静止状態を維持するためには,最内周回転軸50及び最外周回転軸54も上記中間回転軸52と同期させて周方向に回転する。 【0035】 そして,この状態で第1のピック14Aを進退させるには,最内周回転軸50を正逆回転して第1のアーム78Aを正逆方向へ旋回することにより,第1の運動変換機構76Aの第1の補助移動体82Aが第1の補助案内レール80A上をスライド移動し,この時,第1の移動体72Aは第1の案内レール70Aに沿ってスライド移動するので,第1の保持部材74Aの先端に設けたピック14Aは,第1の案内レール70Aに沿って前進及び後退することになる。このようにして,各処理室4A?4D内や第1及び第2のロードロック室8A,8B内に対してウエハWの搬出入を行うことができる(図6(B)及び図6(C)参照)。」 (2) 引用発明 上記(1)によれば,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「第2搬送機構14であって,該第2搬送機構14は, 共通搬送室6の底板6Aに形成した取付孔に気密状態で設けた3つの回転軸50,52,54によって動作され,これらの3つの回転軸50,52,54は,各回転中心が同一となるように3軸同軸構造になされており,その中心より外側に向けて最内周回転軸50,中間回転軸52,最外周回転軸54として順次同軸状に構成され,同軸状に隣り合う回転軸50,52,54間及び最外周回転軸52と底板6Aの取付孔区画面との間には,それぞれ軸受56が介設されており,各回転軸50,52,54をそれぞれ個別に回転自在であり, 各回転軸50,52,54の下部は,底板6AにOリング等のシール部材58を介して取付られたケーシング60により気密に囲まれており,上記各回転軸50,52,54の下部と,ケーシング60の内壁との間には,ロータとステータとよりなる駆動モータ62,64,66がそれぞれ設けられ,各回転軸50,52,54を正逆回転し得るようになっており, この第2搬送機構14は,略V字形状に成形された板状のベース部材68を有しており,このベース部材68の上面の一側には,第1の案内レール70Aが直線状に設けられており,この第1の案内レール70Aにはこのレールに沿って移動可能に第1の移動体72Aが外れないように嵌装されており,この第1の移動体72Aの上面側には,L字状に成形されて,先端側が上記第1の案内レール70Aと略平行になるようになされた第1の保持部材74Aが取り付け固定されており,この第1の保持部材74Aの先端部に上記一方のピック14Aが取り付けられており, 上記第1の保持部材74Aの基部側には,第1の運動方向変換機構76Aが設けられており,上記最内周回転軸50には,その基部側を連結させて第1のアーム78Aが取り付けられており,この第1のアーム78Aの先端部は上記第1の運動方向変換機構76Aに連結されて,この第1のアーム78Aの回転運動を上記第1の移動体72Aの直線運動に変換するようになっており, 最内周回転軸50を正逆回転して第1のアーム78Aを正逆方向へ旋回することにより,第1の運動変換機構76Aの第1の補助移動体82Aが第1の補助案内レール80A上をスライド移動することにより,第1の移動体72Aは第1の案内レール70Aに沿ってスライド移動するので,第1の保持部材74Aの先端に設けたピック14Aは,第1の案内レール70Aに沿って前進及び後退する, 第2搬送機構14。」 2 引用文献2について 当審拒絶理由で引用された引用文献2(特開平11-307609号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,半導体ウェハまたは液晶基板等の製造プロセスに使用される搬送用アームロボットのアーム駆動装置に関する。」 「【0002】 【従来の技術】従来より半導体チップの製造工程における回路形成の最も一般的な方法としては円形平板形状の半導体ウェハの表面に成膜,エッチング,不純物拡散等,種々の処理を繰り返し施す方法である。 【0003】また図5は上記のウェハ表面処理を行う装置として利用されるクラスタツール1の一例を示す上面図である。この図において,各ウェハ処理を行うための仕切り部屋(以下チャンバという)であるプロセスチャンバ2a,2b,2c,2dおよび処理前のウェハと処理後のウェハをそれぞれ外部と受け渡しするための2つのカセットモジュールチャンバ3a,3bが,中央に搬送用アームロボット4を設置した搬送領域5を囲むようにして設置されている。そしてこの場合使用される搬送用アームロボット4は,アーム駆動装置6の上部に並設された2つのアーム7,7’が半径方向(図中矢印Reの方向,以下Re方向という。但し,図示の矢印方向はあくまで一例であり,Re方向は矢印以外の他の径方向全てを含む。)に伸縮する運動,および公転軸(図中矢印θ方向の回転軸,以下θ軸という)回りの運動,および鉛直方向(図面直交方向,以下上下方向という)の運動を行ってウェハ8(図中破線部)を搬送する構成となる。またこのようなアームが2つ並設するデュアルアーム型は各チャンバに対しての効率的な入れ換えを行うものとなる。 【0004】ここでクラスタツール1内の搬送領域5およびプロセスチャンバ2a,2b,2c,2d等の作業領域においては,気体によるウェハ表面の汚染(変質)の防止および防塵を目的として真空の状態に維持され,開閉可能であり高気密性を有するゲートバルブ9a,9b,9c,9dにより外気と隔離された密閉構造となる。 【0005】しかし,その中で作動させる搬送用アームロボット4の駆動源となるモータは非常に高い発塵性を有し,また内部のコイルの放熱の問題もあるために大気中で作動させることが前提となっており,そのため該モータを設置するアーム駆動装置6の内部は前記真空状態にある外部と摺接部を介してシール(気密,密閉)することが重要なポイントとなる。以上の問題は同じ目的で搬送領域・作業領域が真空状態に維持されている液晶基板の製造プロセス中において使用される搬送用アームロボットにもあてはまる。 【0006】図6は上記問題に対応して構成された従来のアーム駆動装置の側断面図である。この図において,2つのモータ10,10’(以下アーム制御モータという)は,減速機(ハーモニックドライバ)32,32’を介して,それぞれの出力軸11,11’に軸設される不図示の搬送用アームを駆動するアーム駆動手段であり,1本の該出力軸の軸回転(図中矢印Rr)により1つのアームのRe方向の伸縮運動の制御を行う。 【0007】・・・ 【0008】前述したようにモータを設置するアーム駆動装置6の内部と真空状態にある外部とをシールする必要があるため,モータ10,10’の出力軸11,11’と内ケース12との間における回転摺接部には径の小さい磁性流体シール19,19’が,また内ケース12と中ケース14との間における回転摺接部には径の大きい磁性流体シール20が挿設され,また中ケース14と外ケース15との間における滑動摺接部にはベローズ21が張設されている。 【0009】ここで磁性流体シールとは磁性流体を回転軸周りに磁化固着させることにより回転摺接部分に気密膜を形成させる軸受けシールであり,ベローズとはそれが張設された2つの滑動摺接部材間で伸縮自在となるジャバラ型の気密シールである。 【0010】そして従来のアーム駆動装置の構成においては前記2つのアーム駆動モータ10,10’とθ軸モータ13の3つのモータ,および公転回転を行う内ケース12,とそれらを一体に内設する中ケース14,そしてそれら各々の部材間の回転摺接部をシールする磁性流体シール19,19’,20,を一体に構成した3軸磁性流体シールユニット22の完成品が市販されており,それを購入してアーム駆動装置6に組み込む構成となっていた。」 3 引用文献3について 当審拒絶理由で引用された引用文献3(特開2003-170384号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する分野】本発明は,平板状物を搬送するスカラ型ロボットに関し,特には,半導体ウエハ,液晶表示板用透明基板,プリント配線基板等の平板状物の移送,運搬に用いられるロボットに関するものである。また本発明は,そのスカラ型ロボットが組み込まれた平板状物の処理システムにも関するものである。」 「【0015】駆動手段に使用するモータは,制御装置による回転角度制御ができるモータであれば,サーボモータ,ステッピングモータ,ダイレクトドライブモータ等,公知のいずれのモータであってもよい。ここで,回転角度の測定手段として通常,エンコーダが用いられるが,ステッピングモータの場合は,必要がなければ用いなくてもよい。 【0016】モータの回転速度を下げるための減速機構としては,プーリとタイミングベルトとを組み合わせたベルト式減速機,内部に固定軸ギアを持つ独立した減速機,遊星歯車型減速機,偏芯遊星歯車型減速機(商品名ハーモニックドライブ等),モータと変速機との筐体が同一である減速機一体型モータ等公知の技術を用いることができる。ここで,回動軸と同一軸線上にダイレクトドライブモータを二段直結して配置する場合は,減速機の設置は必要ない。」 4 引用文献4について 当審拒絶理由で引用された引用文献4(特表2004-500521号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0004】 【発明の概要】 本発明は,半導体製造自動化に使用するシールアセンブリに属し,より詳細にはロボット駆動機構がベローズ,リップシール,ラビリンスシール,又は磁性流体タイプシールを使用することなく流体,気体,及び汚染物質からシールし且つ隔離することを可能とする改良に関する。」 「【0007】 【好適な実施例の詳細な説明】 図1は,基板搬送装置10の斜視図を示している。基板搬送装置10は,駆動ハウジング14と,駆動シャフト22と,駆動アーム26及びマウンティングフランジ18とを含んでいる。マウンティングフランジ18は,作業表面13に固定されている。流体,腐食性液体及び腐食性気体等の汚染物質は,作業表面13とマウンティングフランジ18の側面に限定され,駆動アーム26は,クランピング,ガスケット,Oリングの何れかによってマウンティングフランジ18を作業表面13に静的にシーリングすることによって動作する。作業表面13は,流体,腐食性液体及び腐食性気体等の汚染物質に駆動ハウジング14の外側が曝されることを防止する障壁として作用している。駆動アーム26は,基板32を搬送する際に真空グリップが利用され得る又は利用され得ないエンドエファクタ28を含んでいる。駆動シャフト22は,駆動ハウジング14に対して垂直方向16又は回転方向12又はその両方向に移動し得る。シールアセンブリ34は,流体,腐食性液体及び腐食性気体等の汚染物質が駆動アーム26を動作する作業表面13及びマウンティングフランジ18の側面から駆動アーム26が駆動するためのロボット駆動機構が存在する駆動ハウジング14の内部に通過することを防止する。シールアセンブリ34は,粒子等の汚染物質が,駆動ハウジング14の内側から駆動アーム26が動作する作業表面13及びマウンティングフランジの側面に通過することを更に防止している。・・・ 【0010】 下部シールギャップ88は,下部シーリング表面76と下部台座表面78との間の空間である。上部シールギャップ90は,上部台座表面74と上部シーリング表面72との間の空間である。下部シーリングギャップ88と上部シーリングギャップ90の好ましい総計値は,シールリング54がマウンティングフランジ18中で浮上する略0.0254mm(0.001インチ)から0.127mm(0.005インチ)の間に維持され,その結果シール54はシャフト22と実質的に同軸に位置する。しかしながら,他の距離が提供され得,且つ企図された目的を作用する範囲が使用可能である。この特性は,調整不良,フランジ18に対するシャフト22の偏心及び撓みを補正する。変形実施例として,下部シーリングギャップ88と上部シーリングギャップ90は,フランジ18に対してゼロ又はより少なくして有効な固定シール54とすることが可能であり,この場合シャフト22は,シール54の第1シーリング表面56と第2シーリング表面58に接触しないように正確に案内されなければならない。・・・」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1) 対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「3つの回転軸50,52,54」は,「各回転中心が同一となるように3軸同軸構造になされており,その中心より外側に向けて最内周回転軸50,中間回転軸52,最外周回転軸54として順次同軸状に構成され」ているから,「同軸駆動スピンドル機構」ということができる。 イ 引用発明の「駆動モータ62,64,66」は,「ロータとステータ」からなり,「各回転軸50,52,54の下部と,ケーシング60の内壁との間に」「それぞれ設けられ,各回転軸50,52,54を正逆回転し得るようになって」いる。そうすると,本願発明1の「ハーモニックモータ組立部品」とは,「少なくとも一つのモータ組立部品が少なくとも二つの駆動軸と対応する複数のモータ回転子及び複数のモータ固定子を含む」点で共通する。 ウ 引用発明の「3つの回転軸50,52,54」(同軸駆動スピンドル機構)と「駆動モータ62,64,66」は,合わせて「駆動システム」ということができる。 エ 引用発明は,「略V字形状に成形された板状のベース部材68を有しており,このベース部材68の上面の一側には,第1の案内レール70Aが直線状に設けられており,この第1の案内レール70Aにはこのレールに沿って移動可能に第1の移動体72Aが外れないように嵌装されており,この第1の移動体72Aの上面側には,L字状に成形されて,先端側が上記第1の案内レール70Aと略平行になるようになされた第1の保持部材74Aが取り付け固定されており,この第1の保持部材74Aの先端部に上記一方のピック14Aが取り付けられており」,「上記第1の保持部材74Aの基部側には,第1の運動方向変換機構76Aが設けられており,上記最内周回転軸50には,その基部側を連結させて第1のアーム78Aが取り付けられており,この第1のアーム78Aの先端部は上記第1の運動方向変換機構76Aに連結されて,この第1のアーム78Aの回転運動を上記第1の移動体72Aの直線運動に変換するようになって」いる。そうすると,引用発明は,「同軸駆動スピンドル機構に取り付けられた少なくとも一つの直線状にスライドする搬送アーム」を備えているということができ,また,「モータ組立部品」は,「同軸駆動スピンドル機構を通して前記少なくとも一つの搬送アームに結合され,前記搬送アームを移動させるために前記同軸駆動スピンドル機構の少なくとも二つの駆動軸を実質的に直接駆動するように構成されて」いるということができる。 オ 引用発明の「各回転軸50,52,54」(同軸駆動スピンドル機構)の「下部は,底板6AにOリング等のシール部材58を介して取付られたケーシング60により気密に囲まれて」いるから,引用発明の「各回転軸50,52,54」(同軸駆動スピンドル機構)は,「密閉環境の中」にあるといえる。 カ 引用発明の「第2搬送機構14」は,「ロボット式搬送装置」といえる。 したがって,本願発明1と引用発明とは,以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「同軸駆動スピンドル機構及び少なくとも一つのモータ組立部品を含み,前記同軸駆動スピンドル機構が少なくとも二つの駆動軸を含み,前記少なくとも一つのモータ組立部品が少なくとも二つの駆動軸と対応する複数のモータ回転子及び複数のモータ固定子を含む駆動システムと, 前記同軸駆動スピンドル機構に取り付けられた少なくとも一つの直線状にスライドする搬送アームと,を含むロボット式搬送装置において, 前記少なくとも一つのモータ組立部品は,前記同軸駆動スピンドル機構を通して前記少なくとも一つの搬送アームに結合され,前記搬送アームを移動させるために前記同軸駆動スピンドル機構の少なくとも二つの駆動軸を実質的に直接駆動するように構成されており, 前記同軸駆動スピンドル機構は密閉環境の中にある,ロボット式搬送装置。」 (相違点) (相違点1) 「モータ組立部品」について,本願発明1は,「ハーモニックモータ組立部品」であるのに対し,引用発明の「駆動モータ62,64,66」は,「ロータ(モータ回転子)とステータ(モータ固定子)」とよりなるものの,「ハーモニックモータ組立部品」ではない点。 (相違点2) 本願発明1の「複数のモータ固定子」は「前記密閉環境の外に隔離され」ており,「前記同軸駆動スピンドル機構を前記密閉環境内に密閉するすべてのシールは静的シールであり,前記静的シールのすべてによって前記密閉環境の密閉をもたらす各密閉接合部位が静的接合部位であるように構成されている」のに対し,引用発明の「駆動モータ62,64,66」の「ステータ」(モータ固定子)は,「気密に囲まれて」おり,「前記3つの回転軸50,52,54(同軸駆動スピンドル機構)を前記密閉環境内に密閉する」ものの,「密閉するすべてのシールは静的シールであり,前記静的シールのすべてによって前記密閉環境の密閉をもたらす各密閉接合部位が静的接合部位であるように構成されている」か否か不明である点。 (2) 相違点についての判断 まず,(相違点2)について検討するに,引用発明では,「駆動モータ62,64,66」の「ステータ」(モータ固定子)は,「気密に囲まれて」いるところ,本願発明1のように,「密閉環境の外に隔離」するように構成する動機付けはないし,引用文献1ないし4の記載をみても,そのような構成とする記載や示唆もない。 そうすると,引用発明において,仮に,(相違点1)に係る構成である「ハーモニックモータ組立部品」を採用することが可能であったとしても,その「ロータ(モータ回転子)とステータ(モータ固定子)」のうち,「ステータ」(モータ固定子)は,「気密に囲まれて」いるように構成されるにとどまり,「ステータ」(モータ固定子)を「密閉環境の外に隔離」するように構成することは,当業者であっても容易に想到することはできない。 (3) まとめ したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし5について 本願発明2ないし5は,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,上記1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 当審拒絶理由について 1 明確性(特許法第36条第6項第2号)について 当審では,請求項1ないし5の記載は不明であるから,当該請求項に係る発明は明確でなく,本願は特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないとの拒絶の理由を通知しているが,本件訂正によってこの拒絶の理由は解消した。 2 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について 当審では,請求項1ないし5の記載は発明の詳細な説明に記載したものではないから,本願は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとの拒絶の理由を通知しているが,本件訂正によってこの拒絶の理由は解消した。 3 進歩性(特許法第29条第2項)について 当審では,本願発明1ないし5は,本願優先日前に頒布された引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶の理由を通知しているが,上記第4及び第5のとおり,本件訂正によってこの拒絶の理由は解消した。 第7 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は,審判請求と同時にした補正の前の請求項1ないし11,17ないし21に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら,同補正によって,当該補正前の請求項1ないし11,17ないし21は削除された。 したがって,原査定を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり,本願は,明確性及びサポート要件を満たしている。また,本願発明1ないし5は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして,原査定の対象であった請求項は,審判請求と同時にした補正により削除されたから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-03-25 |
出願番号 | 特願2013-533015(P2013-533015) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 内田 正和 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
鈴木 和樹 梶尾 誠哉 |
発明の名称 | 同軸駆動真空ロボット |
代理人 | 特許業務法人朝日奈特許事務所 |