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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1350216
審判番号 不服2017-18474  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-12 
確定日 2019-03-28 
事件の表示 特願2014- 1877「エネルギー管理装置、およびエネルギー管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開、特開2015-130768〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年1月8日に出願したものであって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成29年 5月19日(起案日)
意見書 :平成29年 7月18日
手続補正 :平成29年 7月18日
拒絶査定 :平成29年 9月 7日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成29年12月12日
手続補正 :平成29年12月12日
上申書 :平成30年 3月 5日

第2 平成29年12月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年12月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成29年12月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、請求項1については、本件補正前に、
「 【請求項1】
蓄電池と、発電時に湯を生成してこの生成した湯を貯める貯湯タンクの貯湯量が所定量以上になれば発電を停止するコージェネレーション装置とを用いた負荷への電力供給を管理するエネルギー管理装置であって、
前記負荷の消費電力、前記蓄電池の蓄電電力、貯湯タンクの貯湯量の各情報を取得する情報取得部と、
前記貯湯量に基づいて前記コージェネレーション装置が発電を継続できる発電可能時間を導出する時間演算部と、
前記蓄電池の蓄電電力、前記コージェネレーション装置の前記発電可能時間、前記負荷の消費電力に基づいて、前記蓄電池と前記コージェネレーション装置とを用いて前記負荷に供給可能な電力に関する給電情報を生成し、この給電情報を報知部へ出力する給電情報生成部と
を備え、
前記情報取得部は、計測装置との通信により、前記負荷の消費電力の情報を取得する
ことを特徴とするエネルギー管理装置。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項1】
蓄電池と、発電時に湯を生成してこの生成した湯を貯める貯湯タンクの貯湯量が所定量以上になれば発電を停止するコージェネレーション装置とを用いた複数の負荷への電力供給を管理するエネルギー管理装置であって、
前記複数の負荷は、停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給される特定負荷と、前記停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給されない一般負荷とを含み、
前記特定負荷の消費電力、前記蓄電池の蓄電電力、貯湯タンクの貯湯量の各情報を取得する情報取得部と、
前記貯湯量に基づいて前記コージェネレーション装置が発電を継続できる発電可能時間を導出する時間演算部と、
前記蓄電池の蓄電電力、前記コージェネレーション装置の前記発電可能時間、前記特定負荷の消費電力に基づいて、前記蓄電池と前記コージェネレーション装置とを用いて、停電時に前記特定負荷に供給可能な電力に関する給電情報を生成し、この給電情報を報知部へ出力する給電情報生成部と
を備え、
前記情報取得部は、計測装置との通信により、前記特定負荷の消費電力の情報を取得する
ことを特徴とするエネルギー管理装置。」
とするものである。

上記本件補正の内容は、請求項1について、発明特定事項である「負荷」について「複数の負荷」及び「前記複数の負荷は、停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給される特定負荷と、前記停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給されない一般負荷とを含み」と限定し、「前記負荷の消費電力」について「前記特定負荷の消費電力」と限定し、「前記負荷に供給可能な電力」について「停電時に前記特定負荷に供給可能な電力」と限定したものである。
本件補正は、発明特定事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2013/069174号(2013年5月16日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「[0001]
本発明は、少なくとも電力と熱を供給する熱電併給システムに関し、特に、熱電併給システムが自立運転している時に、ユーザーに対して電力供給の停止に対する備えを注意喚起することが可能な熱電併給システムに関する。」

(2)「[0045]
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る熱電併給システム101は、熱電併給装置102備えている。この熱電併給装置102は、供給された燃料ガスを用いて発電を行い、電力および熱を供給する装置であり、本発明の実施の形態1では燃料電池を用いて構成されている。なお、熱電併給装置102は、固体高分子形燃料電池および固体酸化物形燃料電池など様々なタイプの燃料電池を用いることができ、さらに、ガスエンジンなどでもよい。」

(3)「[0047]
また、熱電併給システム101は、さらに、熱電併給装置102で発電の際に発生する熱を蓄熱するための蓄熱器103を備えている。この蓄熱器103は、熱電併給装置102が供給する熱を蓄熱する装置であり、本発明の実施の形態1では貯湯タンクを用いて構成されており、熱電併給装置102で発生する熱を、熱交換器(図示しない)を介して温水に変換し、その温水を貯湯タンクに蓄えることで蓄熱する。なお、蓄熱器103の構成はこれに限定されることはなく、熱電併給装置102で発生した熱を蓄熱できる構成であれば如何なる構成を用いてもよく、例えば熱容量の大きな耐熱煉瓦等でも構わない。」

(4)「[0048]
また、この熱電併給システム101は、さらに、ユーザーと対話を行うための入出力装置である表示器104を備える。表示器104は、熱電併給装置102が発電できる時間である残発電時間を含む各種情報を表示する表示部171と、貯湯タンクから風呂にお湯を供給する時刻である風呂時間の設定を含むユーザーからの各種設定を受け付ける操作部105とを備えている。本発明の実施の形態1では、この表示器104は液晶ディスプレイを、操作部105はタクトSWを用いて構成されている。」

(5)「[0049]
また、この熱電併給システム101は、さらに、制御器106を備えている。この制御器106は、少なくとも熱電併給装置102の起動および停止を制御する処理部であり、本実施の形態では、熱電併給システム101内部に備えられたポンプや弁などを制御して、熱電併給装置102の起動、発電、停止の一連の動作と、蓄熱器103への熱の供給(蓄熱)を制御する。また、制御器106は、操作部105からの信号を取り込んで熱電併給システム101の制御に反映させると共に、熱電併給システム101に関する情報を表示器104に表示させる。具体的には、制御器106は、蓄熱器103が蓄熱できる熱量である最大蓄熱量と蓄熱器103が蓄熱している熱量である現在蓄熱量との差である空き蓄熱量に基づいて残発電時間を算出し、算出した残発電時間を表示器104に表示させる。」

(6)「[0050]
この制御器106は、例えば、図1では特に図示しないが、中央演算処理装置(CPU)やメモリ等を備えている。なお、熱電併給システム101の各構成要素の動作に係るプログラムは予め制御器106のメモリに記憶されており、このメモリに記憶されているプログラムに基づいて、制御器106が熱電併給システム101の動作を適宜制御する。」

(7)「[0051]
また、この熱電併給システム101は分電盤131を介して電気事業者の系統電源152の電力ラインに接続されている。これにより熱電併給装置102が発電した電力は家庭内の電力負荷153に電力を供給することが可能となっている。」

(8)「[0062]
しかしながら、熱電併給システム101が上述のように非常用電源として動作している場合には、二つの大きな制約事項がある。一つの制約事項は、蓄熱器103の蓄熱量の限界による発電停止である。先に述べたように熱電併給装置102は発電時に熱が発生するが、その熱が処理(放熱)できなくなると、熱電併給装置102の温度が上昇しすぎて、発電を継続することが出来ない。熱電併給装置102が燃料電池である場合は、スタックの温度が上昇しすぎて、発電を継続することができなくなる。本実施の形態1では熱を蓄熱器103に蓄熱している。すなわちこの蓄熱量が上限に達すると発生した熱を処理することが出来ないために熱電併給装置102の発電を停止させなければならない。この発電停止を回避するためには、蓄熱器103に蓄熱されている熱を使用する、つまり、本発明の実施の形態1であれば貯湯タンクに蓄えられた温水をユーザーが給湯に使用する必要がある。」

(9)「[0066]
また、貯湯タンク103aの下部は市水155と、貯湯タンク103aの上部は家庭内の熱負荷154と配管で接続されている。また、貯湯タンク103aの蓄熱量を測定する温度検知器(図示せず)が貯湯タンク103aに複数配置されている。」

(10)「[0084]
表示172aは熱電併給装置102の起動、発電、停止などの状態表示を行っている表示部171の表示内容である。表示172bは貯湯タンク103aに貯まっているお湯の量を4段階表示で行っている表示部171の表示内容である。」

(11)「[0085]
また、表示部171の表示内容である表示171aは熱電併給装置102の発電電力に関する表示であり、具体的には、表示171aには、現在の発電電力の表示173a、定格発電電力の表示173b、すなわち最大発電電力の表示、および、最大発電電力(表示173bの値)に対する現在の発電電力(表示173aの値)の割合(パーセント)の表示173cが含まれる。

[0086]
また、表示部171の表示内容である表示171bには、現在の発電電力(表示173aの値)で発電を継続した場合の残発電時間の表示174a、および、最大の発電電力(表示173bの値)で発電を継続した場合の残発電時間の表示174b、すなわち最短発電時間の表示が含まれる。」

(12)「[0103]
(実施の形態2)
以下に、本発明にかかる実施の形態2の熱電併給システム101aについて説明する。図7は、本発明の実施の形態2における熱電併給システム101aの構成を模式的に示すブロック図である。実施の形態1と同一構成のものについては同一符号を付し、説明を省略する。実施の形態1と異なる点は、蓄電池201を備えた点と、制御器106a内に記憶部202を備えた点である。この蓄電池201は熱電併給システム101aと電気的に同じ接続点で、分電盤131を介して電気事業者の系統電源152の電力ラインに接続されている。」

(13)「[0105]
また、記憶部202には電力負荷153の電力需要データと、熱負荷154の熱需要データが随時記録されている。そして、制御器106aがその電力需要データと熱需要データから今後のユーザー宅における電力需要と熱需要を予測し、その結果を記憶部202が予測電力負荷と予測熱負荷として記憶している。本発明の実施の形態2においては、電力需要データおよび熱需要データの記録と、電力負荷および熱負荷の今後の予測を1時間毎に行っている。具体的には、制御器106aは、電力需要データと熱需要データのそれぞれについて、1日、1週間、1ヶ月、あるいは、1年の単位で、記憶して平均化する(例えば、より新しいデータほど大きな重みづけをした平均化をする)ことで、1日における時間ごと、1週間における曜日ごと、1ヶ月における日ごと、あるいは、1年における月ごとの予測電力負荷と予測熱負荷とを算出する。」

(14)「[0108]
このような動作によって、熱電併給システム101aは系統電源152が停電した際の非常用電源として機能する。しかも、蓄電池201を備えているので、実施の形態1に比べ、少なくとも以下の2点で優れている。一つは、熱電併給装置102が蓄熱量の限界によって発電を停止しても、蓄電池201による電力供給を継続できる点である。もう一つは、熱電併給装置102の発電電力を超過した電力使用があっても、超過分を蓄電池201が補える点である。」

(15)「[0124]
図8において、表示部171には、蓄電池201の表示である表示272として、蓄電池201の充電状態が5段階で表示される。」

(16)「[0125]
また、表示部171には、蓄電池201の供給電力に関する表示である表示273が表示され、具体的には、現在の供給電力量の表示273a、定格電力量の表示273b、すなわち最大供給電力量の表示、および、最大供給電力量(表示273bの値)に対する現在の供給電力量(表示273aの値)の割合(パーセント)の表示273cが含まれる。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)引用例には、「熱電併給システム」が記載されている(摘示事項(1))。

(b)熱電併給システムは、「熱電併給装置」を備えている(摘示事項(2))。

(c)熱電併給システムは、熱電併給装置で発電の際に発生する熱を蓄熱するための「蓄熱器」を備えている。蓄熱器は、貯湯タンクを用いて構成されており、熱電併給装置で発生する熱を、熱交換器を介して温水に変換し、その温水を貯湯タンクに蓄えることで蓄熱する(摘示事項(3))。

(d)熱電併給システムは、「表示器」を備える(摘示事項(4))。

(e)熱電併給システムは、「制御器」を備えている。制御器は、蓄熱器が蓄熱できる熱量である最大蓄熱量と蓄熱器が蓄熱している熱量である現在蓄熱量との差である空き蓄熱量に基づいて残発電時間を算出し、算出した残発電時間を表示器に表示させる(摘示事項(5))。

(f)制御器が熱電併給システムの動作を制御する(摘示事項(6))。

(g)熱電併給装置が発電した電力は家庭内の「電力負荷」に電力を供給することが可能となっている(摘示事項(7))。

(h)熱電併給装置は発電時に熱が発生するが、その熱を蓄熱器に蓄熱している。この蓄熱量が上限に達すると熱電併給装置の発電を停止させなければならない(摘示事項(8))。

(i)貯湯タンクの蓄熱量を測定する温度検知器が貯湯タンクに複数配置されている(摘示事項(9))。

(j)表示器には、貯湯タンクに貯まっているお湯の量が4段階で表示される(摘示事項(10))。

(k)表示器には、熱電併給装置の現在の発電電力と現在の発電電力で発電を継続した場合の残発電時間とが表示される(摘示事項(11))。

(l)熱電併給システムは、「蓄電池」を備え、制御器内に記憶部を備える(摘示事項(12))。

(m)記憶部には電力負荷の電力需要データが随時記録されている(摘示事項(13))。

(n)熱電併給システムは系統電源が停電した際の非常用電源として機能する(摘示事項(14))。

(o)表示器には、蓄電池の充電状態が5段階で表示される(摘示事項(15))。

(p)表示器には、蓄電池の現在の供給電力が表示される(摘示事項(16))。

以上を総合勘案し、「熱電併給システムの制御器」の発明として捉えると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「熱電併給システムの制御器であって、
熱電併給システムは、熱電併給装置と、蓄熱器と、表示器と、制御器と、蓄電池とを備え、系統電源が停電した際の非常用電源として機能し、
蓄熱器は、熱電併給装置で発電の際に発生する熱を蓄熱するためのものであり、貯湯タンクを用いて構成されており、熱電併給装置で発生する熱を、熱交換器を介して温水に変換し、その温水を貯湯タンクに蓄えることで蓄熱し、
制御器は、蓄熱器が蓄熱できる熱量である最大蓄熱量と蓄熱器が蓄熱している熱量である現在蓄熱量との差である空き蓄熱量に基づいて残発電時間を算出し、算出した残発電時間を表示器に表示させ、熱電併給システムの動作を制御し、
熱電併給装置が発電した電力は家庭内の電力負荷に電力を供給することが可能となっており、
熱電併給装置は発電時に熱が発生するが、その熱を蓄熱器に蓄熱しており、この蓄熱量が上限に達すると熱電併給装置の発電を停止させなければならず、
貯湯タンクの蓄熱量を測定する温度検知器が貯湯タンクに複数配置されており、
表示器には、貯湯タンクに貯まっているお湯の量が4段階で、蓄電池の充電状態が5段階で表示されるとともに、熱電併給装置の現在の発電電力と現在の発電電力で発電を継続した場合の残発電時間と蓄電池の現在の供給電力とが表示され、
制御器内の記憶部には電力負荷の電力需要データが随時記録されている、 熱電併給システムの制御器。」

3.対比

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)エネルギー管理装置
引用発明の制御器は、熱電併給システムの動作を制御し、熱も電気もエネルギーであるから、引用発明の「熱電併給システムの制御器」は、「エネルギー管理装置」といえる。そして、引用発明の熱電併給システムは、「蓄電池」を備える。さらに、引用発明において、蓄熱器は、熱電併給装置で発電の際に発生する熱を蓄熱するためのものであり、貯湯タンクを用いて構成されており、熱電併給装置で発生する熱を、熱交換器を介して温水に変換し、その温水を貯湯タンクに蓄えることで蓄熱しており、この蓄熱量が上限に達すると熱電併給装置の発電を停止させなければならないとともに、蓄熱量が上限に達するのは、貯湯タンクがお湯で満たされたときであるから、引用発明の「熱電併給装置」は、「発電時に湯を生成してこの生成した湯を貯める貯湯タンクの貯湯量が所定量以上になれば発電を停止するコージェネレーション装置」といえる。また、熱電併給装置が発電した電力は家庭内の電力負荷に電力を供給することが可能となっている。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「蓄電池と、発電時に湯を生成してこの生成した湯を貯める貯湯タンクの貯湯量が所定量以上になれば発電を停止するコージェネレーション装置とを用いた負荷への電力供給を管理するエネルギー管理装置」である点で一致する。
もっとも、「負荷」について、本件補正発明は「複数の負荷」であるのに対し、引用発明は、そのような明示的な特定がない点で相違する。

(2)特定負荷と一般負荷
本件補正発明は、「前記複数の負荷は、停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給される特定負荷と、前記停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給されない一般負荷とを含」むのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

(3)情報取得部
本件補正発明は、「前記特定負荷の消費電力、前記蓄電池の蓄電電力、貯湯タンクの貯湯量の各情報を取得する情報取得部」を備えるのに対し、引用発明は、そのような明示的な特定がない点で相違する。

(4)時間演算部
引用発明の制御器は、蓄熱器が蓄熱できる熱量である最大蓄熱量と蓄熱器が蓄熱している熱量である現在蓄熱量との差である空き蓄熱量に基づいて残発電時間を算出する。そして、引用例の[0069]、[0070]に記載されているように、現在蓄熱量は、熱交換器による温度上昇と蓄えられた湯量との積として算出され、[0075]に記載されているように、熱電併給装置は発電時に発生した熱を回収できなくなると発電を停止するので、空き蓄熱量を満たす(つまり、貯湯タンクを温水で満たす)のに必要な時間がすなわち残発電時間となるから、残発電時間の長短は蓄えられた湯量の多少による。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記貯湯量に基づいて前記コージェネレーション装置が発電を継続できる発電可能時間を導出する時間演算部」を備える点で一致する。

(5)給電情報生成部
引用発明において、系統電源が停電した際に、表示器には、貯湯タンクに貯まっているお湯の量が4段階で、蓄電池の充電状態が5段階で表示されるとともに、熱電併給装置の現在の発電電力と現在の発電電力で発電を継続した場合の残発電時間と蓄電池の現在の供給電力とが表示され、表示器に表示されるこれらの情報は、「停電時に前記負荷に供給可能な電力に関する給電情報」といえる。そして、制御器が熱電併給システムの動作を制御して、熱電併給装置の現在の発電電力と蓄電池の現在の供給電力との和が電力負荷の電力需要となるようにしていることは、明らかである。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記蓄電池の蓄電電力、前記コージェネレーション装置の前記発電可能時間、前記負荷の消費電力に基づいて、前記蓄電池と前記コージェネレーション装置とを用いて、停電時に前記負荷に供給可能な電力に関する給電情報を生成し、この給電情報を報知部へ出力する給電情報生成部」を備える点で一致する。
もっとも、「負荷の消費電力」、「負荷に供給可能な電力」について、本件補正発明は、それぞれ、「特定負荷の消費電力」、「特定負荷に供給可能な電力」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

(6)計測装置との通信
本件補正発明は、「前記情報取得部は、計測装置との通信により、前記特定負荷の消費電力の情報を取得する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「蓄電池と、発電時に湯を生成してこの生成した湯を貯める貯湯タンクの貯湯量が所定量以上になれば発電を停止するコージェネレーション装置とを用いた負荷への電力供給を管理するエネルギー管理装置であって、
前記貯湯量に基づいて前記コージェネレーション装置が発電を継続できる発電可能時間を導出する時間演算部と、
前記蓄電池の蓄電電力、前記コージェネレーション装置の前記発電可能時間、前記負荷の消費電力に基づいて、前記蓄電池と前記コージェネレーション装置とを用いて、停電時に前記負荷に供給可能な電力に関する給電情報を生成し、この給電情報を報知部へ出力する給電情報生成部と
を備えるエネルギー管理装置。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点1>
「負荷」について、本件補正発明は、「複数の負荷」であって、「停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給される特定負荷と、前記停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給されない一般負荷とを含」むのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

<相違点2>
「負荷の消費電力」、「負荷に供給可能な電力」について、本件補正発明は、それぞれ、「特定負荷の消費電力」、「特定負荷に供給可能な電力」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

<相違点3>
本件補正発明は、「前記特定負荷の消費電力、前記蓄電池の蓄電電力、貯湯タンクの貯湯量の各情報を取得する情報取得部」を備えるのに対し、引用発明は、そのような明示的な特定がない点(「特定」については、<相違点2>と重複する)。

<相違点4>
本件補正発明は、「前記情報取得部は、計測装置との通信により、前記特定負荷の消費電力の情報を取得する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点(「特定」については、<相違点2>と重複する)。

4.判断

そこで、上記相違点について検討する。

相違点1について
引用例の[0059]、[0060]には、家庭内の電力負荷として、照明、TV、エアコンなどの電気製品が例示されている。そして、家庭内で複数の電気製品を使用することは、ごく普通のことである。
また、引用例の[0017]には、系統電源の停電時などの非常用電源として自立運転をしている時には、ユーザーにとって優先度の低い電気製品の電源をオフして電力消費量を低減し、発電時間を延長して優先度の高い電気製品への電力供給を長く継続させることが記載されている。そして、停電時において、一般負荷への電力の供給を停止し、電力を特定負荷に供給することは、周知である(例えば、特開2013-247846号公報の【0074】及び図1、特開2006-230147号公報の【0017】及び図1参照。ただし、特開2006-230147号公報においては、「重要負荷」が本件補正発明の「特定負荷」に相当する。)。
したがって、引用発明において、「家庭内の電力負荷」を「複数の負荷」とし、「家庭内の電力負荷」をユーザーにとって優先度の低い電気製品と優先度の高い電気製品とに分けて、優先度の高い電気製品を停電時に熱電併給装置の発電電力が供給される「特定負荷」とし、優先度の低い電気製品を停電時に熱電併給装置の発電電力が供給されない「一般負荷」として、相違点1の構成とすることは、当業者が適宜為し得る。

相違点2について
引用発明において、熱電併給システムは、系統電源が停電した際の非常用電源として機能する。そして、停電時において、「電力負荷の電力需要」は、停電時に熱電併給装置の発電電力が供給される電力負荷の電力需要であり、「電力負荷への電力供給」は、停電時に熱電併給装置の発電電力が供給される電力負荷への電力供給である。
したがって、引用発明において、「電力負荷」を停電時に熱電併給装置の発電電力が供給される電力負荷として、相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る。

相違点3について
引用発明においては、貯湯タンクの蓄熱量を測定する温度検知器が貯湯タンクに複数配置されている。また、表示器には、貯湯タンクに貯まっているお湯の量が4段階で、蓄電池の充電状態が5段階で表示される。さらに、制御器内の記憶部には電力負荷の電力需要データが随時記録されている。
よって、制御器が貯湯タンクに貯まっているお湯の量、蓄電池の充電状態、電力負荷の電力需要の各情報を用いていることは明らかである。
したがって、制御器にこれらの情報を取得する情報取得部を備えて、相違点3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る。

相違点4について
引用発明において、制御器内の記憶部には電力負荷の電力需要データが随時記録されているから、熱電併給システムが電力負荷の電力需要データを計測する装置を備えることは、明らかである。そして、消費電力を通信により取得することは周知である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2013-219935号公報の【0024】ないし【0029】及び図1ないし2、国際公開第2013/141039号の[0014]ないし[0015]及び図1参照)。
したがって、引用発明において、制御部が、計測装置との通信により、熱電併給装置の発電電力が供給される電力負荷の電力需要データを取得して、相違点4の構成とすることは、当業者が適宜為し得る。

また、明細書に記載された本件補正発明が奏する効果についてみても、本件補正発明の構成のものとして当業者であれば予測し得る程度のものに過ぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

したがって、本件補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、上申書において、「特定負荷」のみを想定して、「一般負荷」を想定していない引用例に記載された発明に、特定負荷と一般負荷とを備える周知技術を適用することには阻害要因がある旨主張している。
しかしながら、引用発明においては、「負荷」に「特定負荷」と「一般負荷」との区別がないとするのがごく普通の解釈であって、該「負荷」を「特定負荷」と「一般負荷」とに区別して取り扱う周知技術を適用することに阻害要因があるとはいえない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成29年12月12日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年7月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2[理由]3.及び4.」で検討した本件補正発明から、発明特定事項である「負荷」について「複数の負荷」及び「前記複数の負荷は、停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給される特定負荷と、前記停電時に前記コージェネレーション装置の発電電力が供給されない一般負荷とを含み」との構成を削除し、「前記負荷の消費電力」について「前記特定負荷の消費電力」との構成を削除し、「前記負荷に供給可能な電力」について「停電時に前記特定負荷に供給可能な電力」との構成を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]3.及び4.」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、上記削除された構成に係る対比・判断を除いて、同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-25 
結審通知日 2019-01-29 
審決日 2019-02-12 
出願番号 特願2014-1877(P2014-1877)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 誠治  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 関谷 隆一
東 昌秋
発明の名称 エネルギー管理装置、およびエネルギー管理システム  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  

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