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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1350291
審判番号 不服2017-17780  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-30 
確定日 2019-04-16 
事件の表示 特願2013-95265「蓄電素子製造方法、溶接制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月17日出願公開、特開2014-213374、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月30日の出願であって、平成29年3月24日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月26日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたものの、同年8月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成30年11月13日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成31年1月18日に手続補正がされるとともに、意見書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成29年8月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献A-Cに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開昭54-101596号公報
B.特開2005-279730号公報
C.特開2000-231908号公報


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2000-231908号公報(拒絶査定時の引用文献C)
2.特開昭54-101596号公報(拒絶査定時の引用文献A)
3.特開2012-218030号公報(当審において新たに引用した文献)
4.特開2000-158170号公報(当審において新たに引用した文献)


第4 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成31年1月18日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-4は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
容器体、および、前記容器体を封止する蓋体のいずれか一方である第一部材と他方である第二部材とを当接させ、前記第一部材と前記第二部材との境界線と交差する方向にレーザー光を照射し、前記境界線に沿ってレーザー光の照射位置を相対的に進行させることにより前記第一部材と前記第二部材とを溶接し、蓄電素子を製造する蓄電素子製造方法であって、
前記レーザー光の前記照射位置の進行方向と交差し、前記レーザー光の光軸と交差する方向である幅方向に前記レーザー光の前記照射位置を相対的に往復動させる幅方向往復動ステップと、
前記レーザー光の焦点位置を前記レーザー光の光軸に沿って相対的に往復動させる光軸方向往復動ステップと、
前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に進行させた後、前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に後退させる進行方向往復動ステップと
を含み、
前記光軸方向往復動ステップでは、前記焦点位置を、前記第一部材及び前記第二部材である被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させる
蓄電素子製造方法。
【請求項2】
前記幅方向往復動ステップにおいて、前記レーザー光の前記照射位置を幅方向に第一周期で周期的に往復動させ、
前記光軸方向往復動ステップにおいて、前記レーザー光の前記焦点位置を光軸に沿って前記第一周期と同期させた第二周期で周期的に往復動させる
請求項1に記載の蓄電素子製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光を照射する側と反対側において、前記境界線を跨ぐように前記境界線に沿って延在する第三部材を配置し、
前記レーザー光の光軸が当接状態の前記第一部材と前記第二部材との境界面に沿うように前記レーザー光を照射する
請求項1または2に記載の蓄電素子製造方法。
【請求項4】
容器体、および、前記容器体を封止する蓋体のいずれか一方である第一部材と他方である第二部材とを当接させ、前記第一部材と前記第二部材との境界線と交差する方向にレーザー光を照射し、前記境界線に沿ってレーザー光の照射位置を相対的に進行させることにより前記第一部材と前記第二部材とを溶接する溶接装置を制御する蓄電素子用の溶接制御プログラムであって、
前記レーザー光の前記照射位置の進行方向と交差し、前記レーザー光の光軸と交差する方向である幅方向に前記レーザー光の前記照射位置を相対的に往復動させる幅方向往復動ステップと、
前記レーザー光の焦点位置を前記レーザー光の光軸に沿って相対的に往復動させる光軸方向往復動ステップと、
前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に進行させた後、前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に後退させる進行方向往復動ステップと
を実行させるようにコンピュータを用いて前記溶接装置を制御し、
前記光軸方向往復動ステップでは、前記焦点位置を、前記第一部材及び前記第二部材である被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させる
蓄電素子用の溶接制御プログラム。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線部は当審で付与したものである。以下同じ。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、密閉型電池およびその封口方法に関し、とくに金属缶を用いたリチウムイオン電池等の密閉型の電池を溶接によって封口して製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】電池使用機器においては、一般には直方体状の電池収納部が用いられている。このような直方体状の形状の機器の電池収納部においては、円筒形状の電池では無効な容積が大きくなるという問題があった。さらに、電池収納部の厚さによって円筒型の電池の径が制限を受けるので、小型、あるいは薄型の機器においては、円筒型の電池に代えて、厚みの薄い角柱状の密閉型電池が用いられている。
【0003】これらの角型の密閉型電池は、発電要素を収納したステンレス、ニッケルメッキ鋼板、アルミニウム等からなる電池缶の開口端部に電池蓋を溶接することによって製造されている。溶接方法としてはアーク溶接、抵抗溶接、ガス溶接に比べて、溶接部の位置決め精度が高く溶接部周囲への熱的影響が少ない、レーザー溶接による方法がひろく用いられている。
【0004】レーザー溶接を用いた封口方法では、角型の金属缶の一端に形成された開口に金属板から形成された蓋体を嵌入し、嵌合部をレーザー溶接している。
【0005】本発明者らは、溶接不良品の分解、断面観察からこのような密閉不良が以下の原因に基づく見いだした。図3は、従来の電池缶の開口部の封口方法を説明する図である。図3(A)は、電池缶の外観を示す斜視図であり、図3(B)および図3(C)は、図3(A)において、A-A線で切断した断面図であり、電池内部の発電要素を省略した図である。電池缶1の上端の開口端部2に蓋体3を嵌入し、図3(B)に示すように蓋体3の外周縁を電池缶1の開口端部2の内周に突き合わせた状態を保ちつつこれら嵌合部の所定部位にレーザー4を照射してレーザー溶接する。」

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、レーザー溶接によって密閉型電池の蓋体を溶接する際に、蓋体の位置ずれ等を生じることなくレーザー溶接することができ、確実な溶接が可能な密閉型電池を提供することを課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、電池缶の上部の開口部に電池蓋を設けて溶接によって封口した密閉型電池において、電池缶の上部の開口部の内面に、電池蓋を構成する金属板が、その厚みの少なくとも一部を嵌入する段差部を形成し、段差部に嵌入した電池蓋を溶接して封口した密閉型電池である。密閉型電池の封口方法において、電池缶の上部の開口部の内面に、電池蓋を構成する金属板が、その厚みの少なくとも一部が嵌入する段差部を形成し、段差部に電池蓋を形成する金属板の少なくとも一部を嵌合した後に、電池缶と電池蓋とを溶接によって封口する密閉型電池の封口方法である。」

「【0009】以下に図面を参照して本発明を説明する。図1は、本発明の密閉型電池の電池缶および蓋体の断面を説明する図である。図1(A)は、密閉型電池の外観を示す斜視図であり、図1(B)は、図1(A)においてA-Aで切断した断面を示す断面図であり、発電要素を省略して表現したものである。また、図1(C)は、開口部を上面からみた平面図である。電池缶1の上端の開口端部2の上端部の内面には、厚みが薄くなった段差部5が形成されている。段差部5において上端部の内面に形成される空間は、蓋体3の大きさに合致している。
【0010】図1(B)は、蓋体を電池缶の上端部から導入した断面図を示しており、段差部4で、蓋体3が保持されるので、蓋体3は電池缶1の上部の一定の位置に常に正確に保持されることとなり、蓋体3を自動組立装置等によって電池缶1の上部に取り付ける場合にも蓋体と電池缶との接触面を常に一定することができる。その結果、レーザー4によって溶接を行う場合には、溶接箇所が同一平面に存在するので、溶接箇所への焦点を正確に保持することができ、確実な溶接が可能となる。電池缶の上端部に設ける段差部4は、板材から絞り加工等によって電池缶を製造する際に、最終工程において段差部形成用ダイス等を用いて段差部を形成する。その後電池缶の開口部を切断して高さを一定にすることによって製造することができる。
【0011】図2は、電池缶の開口端部と蓋体の関係を説明する断面図である。電池缶1の開口端部2に形成される段差部5の深さtは開口部の上部から蓋体3の少なくとも一部が嵌合する深さであればよいが、蓋体を嵌合した場合に開口部の上端面と蓋体の周囲を同一平面とすることによって、蓋体の上方から照射されるレーザー4にとって影を生じる部分が無くすることができるので、レーザー溶接の際に焦点の位置あわせが容易となる。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「角型の密閉型電池の電池缶の開口部に電池蓋を溶接し製造する方法であって、
前記溶接は、蓋体1の外周縁を電池缶1の開口端2の内周に開口部の上端面と蓋体の周囲を同一平面として突き合わせた状態を保ちつつこれら嵌合部の所定部位にレーザー4を照射して溶接する
密閉型電池の製造方法。」

2.引用文献2?4について
当審拒絶理由通知に引用され、原査定にも主たる引用発明として引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「この発明は上記欠点を解消するため,加工物に照射されるレ-ザ光を振動し,この加工物の加工線上を連続蛇行して照射すると共に,上記振動に対応して周期的に上記照射されるレーザ光のパワー密度を変化させ,加熱される加工部分の温度分布をなだらかにして行うようにしたものである。
以下,本発明を実施例を参照して説明する。
第1図は本発明を達成するための装置の一例で,レ-ザ発振器(図示せず)から発振された水平の平行レーザ光(1)は平面鏡(2)で反射され下方直角の光路となる。上記反射されたレ-ザ光(1)は集光レンズ(3)で集光され加工物(4a)、(4b)の加工線X-X′上に照射される。上記平面鏡(2)はその一端部を支点(5)にし、裏面側他端部が固定部(6)に取付けたばね(7)で持着され、上記裏面側に当接するカム機構(8)で反射角度が周期的に変化されるようになっている。この場合、集光レンズ(3)の位置は固定されているので、カム機構(8)で動かされる平面鏡(2)の反射角はレーザ光(1)が集光レンズ(3)で集光される範囲で変化する。そして、前記した図示せぬレーザ発振器には、カム機構(8)によって動かされた平面鏡(2)の反射角度の変化で、加工線X-X′上をこの線と直角のY-Y’方向に振動されるレーザスポットに同期して発振パワーの変調機構が内蔵されている。したがって、加工物(4a)、(4b)が互いに当接している加工線X-X′上にレーザ光を照射して、例えば図中矢印方向に加工物(4a)、(4b)を移動させながら上記両者を溶接するような場合、レーザ光(1)は加工線X-X’上を走査しY-Y’方向に振動されながら集光する。このとき上記振動周波数の2倍の周波数で前記変調機構を動作させ、レーザ発振の強度を変化させれば、Y-Y’方向の温度勾配はゆるやかになる。第2図(A)はレーザ光(1)に振動を与え加工線X-X’上をY-Y’方向に蛇行させて照射したレーザスポットの中心部の軌跡を示すもので、同図(B)は上記振動周波数に同期して2倍の周波数で変調されたレーザパワーである。すなわち、この図からも明らかなように崇2図(A)において、走査速度の早い加工線X-X′上には強いパワーが当り、加工線X-X′から離れた走査速度のおそい位置ではそれぞれ弱いパワーが当るため、前記したようにゆるやかな温度勾配の下で加工物(4a)、(4b)の接合部は一様に加熱され良好に浴接される。」(1ページ右欄9行?2ページ右上欄12行)

「なお、上記実施例ではレーザ光を振動させ、かつこの振動と同期してレーザパワー等を発振器内で変調させて行なったが、上記振動を行わず加工物に照射されるレーザ光のスポット径を、例えば集光レンズの上下移動で周期的に変化させ、かつスポット径に応じてレーザパワーを変調させる手段、または上記実施例の如く、レーザ光に振動を加えた場合、レーザパワーの変調を単にスポット径の変化で置き換えることでも、上記実施例と同様の効果を得ることができる。」(2ページ左下欄1行?10行)

したがって、引用文献2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。

(引用文献2の技術的事項)
「加工物4aと加工物4bとが互いに当接している加工線X-X’上にレーザ光を照射して両者を溶接する方法であって、
前記照射するレーザ光は、前記当接した加工物4a及び4bを移動させながら、前記加工線X-X’上を、該加工線に直交するY-Y’方向に蛇行させて照射し、加工線上で強いパワーのレーザ光が当たり、加工線から離れた位置では弱いパワーが当たるように、レーザ光を集光させる集光レンズを上下移動させ、加工物4a、4b上のレーザ光スポット径を変化させる
加工物レーザ溶接方法。」

また、当審拒絶理由通知に引用された引用文献3(当審拒絶理由において新たに引用した文献)には、「ウィービング軌跡」という表記にて、溶接に用いるレーザ光の照射位置の軌跡を、始点Wsから終点Weへ向かう方向に対して前進と後進を連続して略円形状または略楕円形状に繰り返す技術的事項が、段落【0012】の記載及び図8、11-13の図示として記載されていると認められる。

更に、当審拒絶理由通知に引用された引用文献4(当審拒絶理由において新たに引用した文献)には、「ウィービング加工」という表記にて、溶接に用いるレーザ光の照射位置の軌跡を、ワークW1とワークW2とで形成される溶接線SまたはGの隙間を跨ぎつつ回転及び直進することで作られる略楕円形状の軌跡とする技術的事項が、段落【0002】-段落【0004】、段落【0028】及び第図6、図8の図示として記載されていると認められる。


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「電池缶1」、「蓋体1」、「蓋体1の外周縁を電池缶1の開口端2の内周に開口部の上端面と蓋体の周囲を同一平面として突き合わせた」、「レーザー4を照射して」、「溶接する」、「密閉型電池の製造方法」は、各々本願発明1における「容器体」、「容器体を封止する蓋体」、「第一部材と他方である第二部材とを当接させ」、「レーザー光を照射し」、「前記第一部材と前記第二部材とを溶接し」、「蓄電素子を製造する蓄電素子製造方法」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「容器体、および、前記容器体を封止する蓋体のいずれか一方である第一部材と他方である第二部材とを当接させ、レーザー光を照射し、前記第一部材と前記第二部材とを溶接し、蓄電素子を製造する蓄電素子製造方法。」

(相違点)
本願発明1はレーザー照射の照射位置を動かすことに関し、「前記レーザー光の前記照射位置の進行方向と交差し、前記レーザー光の光軸と交差する方向である幅方向に」、「相対的に往復動させる幅方向往復動ステップ」という構成と、「前記レーザー光の焦点位置を前記レーザー光の光軸に沿って相対的に往復動させる光軸方向往復動ステップ」という構成と、「前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に進行させた後、前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に後退させる進行方向往復動ステップ」という構成を備え、かつ「前記光軸方向往復動ステップでは、前記焦点位置を、前記第一部材及び前記第二部材である被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させる」という発明特定事項を有するのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
相違点に係る本願発明1の「前記レーザー光の前記照射位置の進行方向と交差し、前記レーザー光の光軸と交差する方向である幅方向に」、「相対的に往復動させる幅方向往復動ステップ」と、「前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に進行させた後、前記レーザー光の前記照射位置を前記境界線に沿って相対的に後退させる進行方向往復動ステップ」との2つについては、前者は上記引用文献2の技術的事項として、後者は上記引用文献3及び4に「ウィービング軌跡」ないし「ウィービング加工」として記載されているため、レーザー光の照射位置を幅方向に往復動させる「幅方向往復動ステップ」や、境界線に沿って相対的に後退させる「進行方向往復動ステップ」を単に採用することは、公知技術の単なる採用にて当業者が容易になし得た事項にすぎない。
ところが、レーザ光の焦点位置を光軸に沿って往復動し、かつ、被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させるとした特定事項についてみると、引用文献2の技術的事項は、レーザ光の焦点位置を光軸に沿って往復動している点で共通するものの、往復動する範囲は、添付図面の第2図を見る限り、加工線X-X’上でパワーが最も強くなるスポット位置と、加工線X-X’から最も離れた位置でパワーが最小となるスポット位置との間を周期的にとることが明らかである。
してみると、引用文献2の焦点位置の上下動とは、加工線上で被加工物表面に焦点位置を迎え、レーザー光の焦点位置が加工線から最も離れた位置で被加工物表面から最も離れた位置に来る、あるいは、被加工物表面から一番深く進入した位置に来る、のいずれかの2点を周期的に移動することになると見るのが相当である。すなわち、本願発明の文言で言い換えれば、引用文献2のレーザー光の焦点移動は、被溶接部材の表面から離れた位置から、境界線上で被溶接部材の表面位置に達して、再び被溶接部材の表面から離れた位置に戻る、あるいは、被溶接部材に進入する位置から、境界線上で被溶接部材の表面位置に達して、再び被溶接部材に進入する位置に戻る、のいずれかとなる。
そうすると、本願発明1で特定された該「被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させる」ものとは明らかに相違していることになる。
そして、引用文献2を見ても、上下動の範囲を該「被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させる」ことへ変更することへの十分な示唆はなく、技術常識であるとも認められない。

そうすると、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし3について
本願発明2ないし3も、本願発明1の「光軸方向往復動ステップ」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明4について
本願発明4は、本願発明1の方法を実行するプログラムを請求対象とする発明であり、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項を見ても、「光軸方向往復動ステップ」そのものを実行させる点で相違することとなるため、同様の理由により、当業者であっても引用発明、引用文献2-6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定についての判断
平成31年1月18日に提出された手続補正書に係る補正により、補正後の請求項1ないし4は、いずれも「光軸方向往復動ステップ」に関し、「前記光軸方向往復動ステップでは、前記焦点位置を、前記第一部材及び前記第二部材である被溶接部材の表面から離れた位置から前記被溶接部材に進入する位置まで、前記境界線を跨ぐように往復動させる」という技術的事項を有するものとなった。追加して特定された当該技術的事項は、原査定における引用文献A及びC(当審拒絶理由における引用文献2がAに、引用文献1がCに対応)には記載されておらず、また、引用文献Bは、レーザー溶接ではなく、レーザー切断の実行中に、レーザーの焦点位置を被切断材表面を境に振動させるものであるため、レーザー溶接とは加工中の状況や作用効果が自ずと異なり、そのまま転用できるものではない。
そうすると、本願発明1-4は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-01 
出願番号 特願2013-95265(P2013-95265)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奥隅 隆  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 西村 泰英
篠原 将之
発明の名称 蓄電素子製造方法、溶接制御プログラム  
代理人 中原 正樹  

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