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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F24J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F24J
管理番号 1350301
審判番号 不服2018-7234  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-28 
確定日 2019-04-16 
事件の表示 特願2014- 67606号「熱媒排出装置および熱媒排出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月2日出願公開,特開2015-190671号,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 経緯の概略
本願は,平成26年3月28日の出願であって,平成29年8月23日付けで拒絶の理由が通知され,平成29年12月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成30年2月21日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し,平成30年5月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,平成30年11月26日付けで拒絶の理由が通知され,平成31年1月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本願発明1」などという。)は,平成31年1月24日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
熱媒流路を有する太陽熱収集装置の前記熱媒流路から熱媒を排出する熱媒排出装置であって,
前記熱媒流路の最高位置に設けられ,前記熱媒の排出時に前記熱媒流路に空気を導入するベント部と,
前記熱媒流路に接続されるとともに水平面に対して傾斜する傾斜配管と,
前記傾斜配管の前記熱媒流路が接続された部分より低い位置に接続されて,前記熱媒流路から前記傾斜配管を経て流れた熱媒を受け入れるドレイン容器と,
前記ドレイン容器から前記熱媒を,前記熱媒を貯留するタンクに送り出すポンプとを備え,
前記タンクは,前記太陽熱収集装置によって加熱される前の熱媒を貯留するコールド側タンクと,前記太陽熱収集装置によって加熱された後の熱媒を貯留するホット側タンクとを有し,
前記熱媒の排出時に,前記ベント部を開放して前記熱媒流路に空気を導入し,
前記熱媒流路から前記傾斜配管に熱媒が重力によって流れ込み,さらにこの熱媒が重力によって前記傾斜配管を流れて,前記ドレイン容器に受け入れられ,このドレイン容器に受け入れられた熱媒が前記ポンプによって前記コールド側タンクに送り出されることを特徴とする熱媒排出装置。
【請求項2】
前記傾斜配管に複数の前記太陽熱収集装置のそれぞれの熱媒流路が接続され,
前記ドレイン容器は,複数の前記太陽熱収集装置のうち最も低い位置に配置されている前記太陽熱収集装置の前記熱媒流路が接続された位置より低い位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の熱媒排出装置。
【請求項3】
水平面に対して異なる方向に傾斜する傾斜配管がそれらの傾斜方向の最下端で接続され,この接続された接続部に前記ドレイン容器が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の熱媒排出装置。
【請求項4】
熱媒流路を有する太陽熱収集装置の前記熱媒流路から熱媒を排出する熱媒排出方法であって,
前記熱媒流路の最高位置において,前記熱媒の排出時に前記熱媒流路に空気を導入することによって,前記熱媒流路に接続されるとともに水平面に対して傾斜する傾斜配管に熱媒を流し,
この傾斜配管を流れた前記熱媒を前記熱媒流路が接続された部分より低い位置に接続されたドレイン容器に受け入れ,
前記熱媒を貯留するタンクは,前記太陽熱収集装置によって加熱される前の熱媒を貯留するコールド側タンクと,前記太陽熱収集装置によって加熱された後の熱媒を貯留するホット側タンクとを有するものであって,
前記ドレイン容器からポンプによって前記熱媒を前記コールド側タンクに送り出すことを特徴とする熱媒排出方法。
【請求項5】
前記傾斜配管および前記熱媒流路を流れる前記熱媒は,それが固化しないような温度に保持されるとともに,前記ドレイン容器内は,当該ドレイン容器内に受け入れた前記熱媒が固化しない温度に保温されていることを特徴とする請求項4に記載の熱媒排出方法。」

第3 原査定の概要
原査定(平成30年2月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。すなわち,本願発明1?5は,以下の引用文献1?3に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献)
1 国際公開第2013/034587号
2 特開2008-014627号公報(周知技術を示す文献)
3 国際公開第2011/024647号(周知技術を示す文献)

第4 当審にて通知した拒絶の理由の概要
当審にて通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。すなわち,本願は,特許請求の範囲の記載が以下の点で不備であり,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
請求項4には,「前記熱媒を貯留するタンクを,前記太陽熱収集装置によって加熱される前の熱媒を貯留するコールド側タンクと,前記太陽熱収集装置によって加熱された後の熱媒を貯留するホット側タンクとを有するものとし,」と記載されているが,請求項4に係る「熱媒排出方法」と,当該タンクに係る事項との関係が明確でない。この点は,請求項4を引用する請求項5についても同様である。よって,請求項4,5に係る発明は明確でない。

第5 原査定についての判断
1 引用文献,引用発明等
(1) 引用文献1
ア 引用文献1には,以下の事項が記載されている。なお,a-umlaut,o-umlaut,u-umlaut,eszetは,それぞれae,oe,ue,ssで代用表記した。訳は,引用文献1に対応する日本語特許公報(特表2014-531552号公報)による(下線は,当審にて付与した。)。
・「Die Erfindung betrifft ein Rohrleitungssystem zur Foerderung einer Salzschmelze, umfassend mindestens eine von der Salzschmelze durchstroemte Rohrleitung, mindestens einen Zulauf und mindestens einen Ablauf. Weiterhin betrifft die Erfindung ein Verfahren zur Entleerung eines Rohrleitungssystems zur Foerderung einer Salzschmelze. 」(1頁3?6行)
(本発明は,溶融塩が通流する少なくとも1本のパイプラインと,少なくとも1つの供給部と,少なくとも1つの排出部と,を備える,溶融塩を圧送するパイプラインシステムに関する。更に本発明は,溶融塩を圧送するパイプラインシステムをドレンする方法に関する。(【0001】))
・「Figur 1 zeigt ein Solarfeld eines Parabolrinnen-Solarkraftwerks mit einem Entleerungs- behaelter gemaess dem Stand der Technik.…Ueber den Sammler 9 und den Verteiler 15 laeuft die Salzschmelze in den Entleerungsbehaelter 17.」(10頁9行?11頁4行)
(図1には,背景技術によるドレン容器を備えるパラボラ・トラフ型の太陽熱発電プラントのソーラフィールドが示されている。
パラボラ・トラフ型の太陽熱発電プラントのソーラフィールド1は,複数のソーラループ3を有する。ソーラループ3は,熱媒体が通流するそれぞれ1本のパイプライン(管路)から形成されている。熱媒体として,本発明では,溶融塩,好適にはソーラソルト,つまり40:60の比の,もしくは共晶として44:56の混合比を有する硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとから成る混合物,又は亜硝酸塩が用いられる。
ソーラループ3内で,熱媒体は,入射する太陽エネルギにより加熱される。このために,パイプライン5は,区分ごとに個別にガラスパイプ7により包囲されている。パイプライン5とガラスパイプ7との間の空間は排気される。ガラスパイプ7の下側に更に放物面鏡が設けられている。放物面鏡において,入射する太陽光が反射されて,ガラスパイプ7に向けられる。ガラスパイプ7に入射する放射線により,熱が,パイプライン5を通流する熱媒体に導かれ,これにより熱媒体が加熱される。
ソーラループ3のパイプライン5を通流する熱媒体は,集合器9に流れ,集合器9から引き続き熱媒体流出部11に流れる。熱媒体流出部11を通して流れる熱媒体は,通常,熱交換器に導かれ,熱交換器において,この熱は,蒸気循環路に放出される。蒸気循環路において,例えば発電のためにタービンが運転される。熱交換器から流出した冷却された熱媒体は,熱媒体供給部13を介して分配器15に導かれ,分配器15からソーラループ3のパイプラインに導かれる。
停止状態で太陽熱発電プラントのパイプラインをドレンするために,ドレン容器17が設けられている。この場合,ドレン容器17は,分配器15及び集合器9に結合されている。集合器9及び分配器15を介して,溶融塩は,ドレン容器17に流れる。(【0041】?【0045】))
・「In Figur 2 ist beispielhaft eine Solarschleife mit erfindungsgemaess ausgebildetem Rohrleitungssystem dargestellt.…Um bei Bedarf den Entleerungsbehaelter 17 entleeren zu koennen, weist dieser weiterhin ein Ablassventil 31 auf.」(11頁9行?下から4行)
(図2には,本発明に基づいて構成されたパイプラインシステムを備えるソーラループが例示されている。
ソーラループ3は,パイプライン5を備え,パイプライン5は,略U字形に構成されていて,第1の枝部で集合器9に,第2の枝部で分配器15に結合されている。集合器9もしくは分配器15に対するパイプライン5の結合は,結合パイプ21を介して行われる。
本発明によれば,パイプライン5は,水平面に対して傾斜した勾配を有する。この場合,勾配は,好適には0?1%の範囲にある。1つの態様では,勾配は,好適には0.1?0.5%の範囲にあり,特に好適には0.2?0.4%の範囲にある。択一的な態様では,勾配は,0?0.3%の範囲にあり,好適には0.01?0.2%の範囲にある。この場合,パイプライン5の勾配は,それぞれ通気弁23からドレン弁25に向けて延在している。図示の態様では,U字形のパイプライン5の各枝部は,ドレン弁25に結合されている。ドレン弁25は,ドレンライン27と,パイプライン5及び結合パイプ21との結合部を開閉する。通常運転では,ドレン弁25は閉じられている。ドレンライン27は,ドレン容器17に通じている。ドレン容器17は,パイプライン5内に含まれる全ての溶融塩を収容できるような大きさに構成されている。
ドレン容器17は,排気弁29を備えて構成されている。排気弁29は,パイプライン5がドレンされるときに開放される。これによりドレン容器17内の圧力上昇が回避される。必要な場合にドレン容器17をドレンするために,ドレン容器17は,更に出口弁31を備える。(【0047】?【0050】))
・「Im Normalbetrieb sind das Belueftungsventil 23 und die Entleerungsventile 25 geschlos- sen.…Zusaetzlich oder alternativ ist es auch moeglich, den Entleerungsbehaelter 17 zu evakuieren, um den Entleerungsprozess weiter zu beschleunigen.」(12頁12行?下から6行)
(通常運転では,通気弁23及びドレン弁25は閉じられている。溶融塩は,分配器15からパイプライン5に通流し,ガラスループ7と放物面鏡とにより形成されたレシーバにおいて加熱される。この場合,そのように加熱された溶融塩又はソーラ溶融物は,第2の結合パイプ21及び集合器9を介して熱交換器に流れ,そこで,熱は,接続された蒸気循環路に放出される。
設備の機能障害,又は例えば給電不能(停電)によるエネルギ損失の場合や所望のドレンの場合に,通気弁23は開かれる。同時に,集合弁35及び分配弁37は閉じられるので,溶融塩はもはや集合器9もしくは分配器15から結合パイプ21を介してパイプライン5に至ることはない。更に,パイプライン5からドレンライン27への結合部が開かれるように,ドレン弁25が切り換えられる。パイプライン5の勾配により,重力により運ばれて,溶融塩は,パイプライン5から浸漬パイプ41を通してドレン容器17にドレンされる。ドレン過程を補助するために,通気弁23に圧縮ガスを供給し,これにより,形成された圧力により溶融塩はパイプライン5からドレン容器に押し出される。追加的または択一的に,ドレン容器17を排気して,ドレンプロセスを更に時間短縮することもできる。(【0053】,【0054】))
・「Um die Solarschleife nach einer Entleerung wieder anzufahren, wird zunaechst das Ent- lueftungsventil 29 geschlossen.…Die Befuellung und Entleerung jeweils einer Solarschleife 3 in einen Entleerungsbehaelter 17 erlaubt ein schnelles Befuellen und Entleeren der Solarschleifen 3, so das mit einer hohen Funktionssicherheit eine abendliche Entleerung und eine morgendliche Befuellung des Leitungssystems durchge- fuehrt werden kann.」(12頁下から2行?14頁5行)
(ドレン後にソーラループを再始動するために,先ず,排気弁29が閉じられる。続いて,ドレン弁25が,溶融塩がドレン容器17からパイプライン5に還流できるように,切り換えられる。続いて,通気弁39を介して圧縮ガスがドレン容器17に供給される。この場合,圧縮ガスは,使用される塩に応じて,例えば圧縮空気,合成空気,CO_(2)が除かれた空気又は不活性ガス,例えば窒素である。圧縮空気は,空気の成分と塩の成分とが化学反応を行わない場合にのみ使用することができる。
通気弁39を通して圧縮ガスがドレン容器17に供給されることにより,ドレン容器17内に圧力が形成される。形成される圧力は,容器17内に含まれる熱媒体を,上昇管として働く浸漬パイプ41を通してドレンライン27に,そこからドレン弁25を通してパイプライン5に運び戻す。この場合,ドレン弁25は,充填過程の開始時にゆっくりと開かれる。充填過程の予想される終了時に,弁25は,再びゆっくりと閉じられる。充填過程の実際の終了は,通流が最も僅かな状態で場合によっては脈動運転において見い出される。充填停止は,進入パイプ41の端部に設けられた相検出器43を介して惹起される。充填過程の終了と共に,通気弁23は閉じられる。更に,ドレン弁25も閉じられるので,流れは,今やパイプライン5から結合パイプ21を介して集合器9及び分配器15に向かって行われる。この場合,運転を開始するために,集合弁35及び分配弁37も開かれる。パイプライン内にあるガスは,溶融塩と共に搬送され,相分離器33及び通気弁23により実現される不活性ガス分離により,導出される。
ドレン容器17にある塩が多すぎる場合,通気弁39を介する圧縮ガスの供給と,ドレン弁25の開放(同時に開いた集合弁35又は分配弁37及び閉じた通気弁23)とにより,余剰量が塩循環路に排出される。
溶融塩がパイプライン9,15,21,5を通して流れる速度は,各弁35,37の開放度により制御することができる。
圧縮空気の供給によるドレン容器17からの溶融塩の供給に対して択一的に,浸漬ポンプを使用してもよい。浸漬ポンプは,圧縮空気の供給に対して追加的に使用してもよい。
ドレン弁25及び通気弁23は,好適には,フェールセーフ機能を有する弁として構成されていて,機能障害時にそれぞれ開くように切り換えられるので,パイプライン5内に含まれる溶融塩は,ドレン容器17に流出することができる。ドレン容器17における各ソーラループ3の充填及びドレンは,ソーラループ3の素早い充填及びドレンを可能にするので,高い機能確実性をもって,ラインシステムの夕方のドレン及び朝方の充填を行うことができる。」(【0056】?【0061】)
・「1. Rohrleitungssystem zur Foerderung einer Salzschmelze, umfassend mindestens eine von der Salzschmelze durchstroemte Rohrleitung (5), mindestens einen Zulauf und mindestens einen Ablauf, dadurch gekennzeichnet, dass die von der Salzschmelze durchstroemte Rohrleitung (5) mindestens ein gegenueber der Waagerechten geneigtes Gefaelle aufweist und jeweils an den niedrigsten Positionen ueber ein Entleerungsventil (25) mit einer Entleerungsleitung (27) und an den hoechsten Positionen mit einem Belueftungsventil (23) verbunden ist. 」(17頁2?8行)
(1. 溶融塩が通流する少なくとも1本のパイプライン(5)と,
少なくとも1つの供給部と,
少なくとも1つの排出部と,
を備える,溶融塩を圧送するパイプラインシステムであって,
溶融塩が通流する前記パイプライン(5)は,水平に対して傾斜した少なくとも1つの勾配を有し,それぞれ最も低い位置でドレン弁(25)を介してドレンライン(27)に結合されていて,最も高い位置で通気弁(23)に結合されていることを特徴とする,パイプラインシステム。(【請求項1】))
・「14. Verfahren zur Entleerung eines Rohrleitungssystems zur Foerderung einer Salzschmelze gemaess einem der Ansprueche 1 bis 13 bei dem zur Entleerung die Entleerungsventile (25) und das Belueftungsventil (23) geoeffnet werden, so dass die Salzschmelze durch die Entleerungsleitung (27) aus der Rohrleitung (5) aus- stroemen kann. 」(18頁下から11?下から7行)
(14. 請求項1から13までのいずれか1項記載の,溶融塩を圧送するパイプラインシステムをドレンする方法であって,
ドレンのために,ドレン弁(25)及び通気弁(23)を開いて,溶融塩がドレンライン(27)を通りパイプライン(5)から流出できるようにすることを特徴とする,パイプラインシステムをドレンする方法。(【請求項14】))
・「16. Verfahren gemaess Anspruch 14 oder 15, dadurch gekennzeichnet, dass bei einer Entleerung durch das Belueftungsventil (23) ein unter Druck stehendes Gas in die Rohrleitung (5) eingeleitet wird.
17. Verfahren gemaess Anspruch 16, dadurch gekennzeichnet, dass das unter Druck stehende Gas Stickstoff, synthetische Luft, C0_(2)-gereinigte Luft oder Luft ist.」(19頁1?5行)
(16. ドレン時に,前記通気弁(23)を通して,圧力下にあるガスを,前記パイプライン(5)に導入する,請求項14又は15記載の方法。
17. 前記圧力下にあるガスは,窒素,合成空気,CO_(2)が除かれた空気又は空気である,請求項16記載の方法。」(【請求項16】,【請求項17】)
イ 図2において,U字形のパイプライン5の両端が,それぞれ,傾斜したドレンライン27を介して,ドレン容器17に接続されている点が見て取れる。
そうすると,上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下,それぞれ「引用発明1」,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
(引用発明1)
「パイプライン5を有するソーラループ3の前記パイプライン5から熱媒体をドレンするパイプラインシステムであって,
前記パイプライン5の最も高い位置に設けられ,前記熱媒体のドレン時に前記パイプライン5に空気を導入する通気弁23と,
前記パイプライン5に接続されるとともに水平面に対して傾斜するドレンライン27と,
前記ドレンライン27の前記パイプライン5が接続された部分より低い位置に接続されて,前記パイプライン5から前記ドレンライン27を経て流れた熱媒体を受け入れるドレン容器17とを備え,
前記熱媒体のドレン時に,前記通気弁23を開放して前記パイプライン5に空気を導入し,
前記パイプライン5から前記ドレンライン27に熱媒が重力によって流れ込み,さらにこの熱媒体が重力によって前記ドレンライン27を流れて,前記ドレン容器17に受け入れられるパイプラインシステム。」
(引用発明2)
「パイプライン5を有するソーラループ3の前記パイプライン5から熱媒体をドレンする方法であって,
前記パイプライン5の最も高い位置において,前記熱媒体のドレン時に前記パイプライン5に空気を導入することによって,前記パイプライン5に接続されるとともに水平面に対して傾斜するドレンライン27に熱媒体を流し,
このドレンライン27を流れた前記熱媒体を前記パイプライン5が接続された部分より低い位置に接続されたドレン容器17に受け入れる熱媒体をドレンする方法。」

(2) 引用文献2,3
ア 引用文献2には,以下の事項が記載されている。
・「【0007】
図1に高温溶融塩を使用する太陽エネルギ塔システム10の概略を示す。太陽エネルギ塔システム10は概して,低温貯蔵タンク12,太陽集熱器14,ヘリオスタット16,高温貯蔵タンク18,およびエネルギ変換システム20を備えている。高温溶融塩は,太陽エネルギ塔システム10を通じて熱伝達媒体として使われる。高温溶融塩および高温熱貯蔵タンク18の利用により,太陽エネルギ塔システム10が,1日に24時間まで電気(および熱エネルギ)を供給し,かつ十分に高温で稼動することが可能になり,熱エネルギを合理的に効率よくガスタービンエンジンの動作に使用し,太陽エネルギ変換システム20を簡略化し,ランキン蒸気サイクルなどの他のサイクルと比較してシステムの水への依存を減らすことができる。
【0008】
熱伝達媒体は,上記の低温貯蔵タンク12に貯蔵されている。熱伝達媒体が必要とされると,太陽集熱器14に圧送され,複数のヘリオスタット16の領域から反射される太陽放射によって熱せられる。…
【0009】
熱伝達媒体は,所望の温度に熱せられると,高温貯蔵タンク18に圧送され,エネルギ変換システム20で必要とされるまで貯蔵される。熱せられた熱伝達媒体が,エネルギ変換システム20に圧送されて発電する。…
【0010】
熱伝達媒体が熱交換システム20を通過すると,熱エネルギを奪われた熱伝達媒体は温度が急激に下がり,低温貯蔵タンク12に送り返される。熱伝達媒体は閉サイクルの太陽エネルギ塔システム10で再利用され,必要とされるまで低温貯蔵タンク12に貯蔵される。」
イ 引用文献3には,以下の事項が記載されている。
・「[0010] 更に,太陽光集光システムでは,熱媒体を150?500℃で液相となる硝酸ナトリウム等の溶融塩を使用することが多い。この溶融塩を使用する場合,曇りの日や夜間は,レシーバーから溶融塩を抜き取り,保温槽に移動する必要がある。これは,溶融塩が冷めると固化し,レシーバー管内で閉塞を起こすためである。」

2 本願発明1について
(1) 対比
ア 本願発明1と引用発明1とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明1における「パイプライン5」,「ソーラループ3」,「熱媒体」は,それぞれ,本願発明1の「熱媒流路」,「太陽熱収集装置」,「熱媒」に相当し,引用発明1における「前記パイプライン5から熱媒体をドレンする」ことは,本願発明1における「前記熱媒流路から熱媒を排出する」ことに相当するから,引用発明1における「パイプラインシステム」は,本願発明1における「熱媒排出装置」に相当する。
イ 引用発明1における「前記パイプライン5の最も高い位置に設けられ(る)」こと,「前記熱媒体のドレン時に前記パイプライン5に空気を導入する」ことは,それぞれ,本願発明1における「前記熱媒流路の最高位置に設けられ(る)」こと,「前記熱媒の排出時に前記熱媒流路に空気を導入する」ことに相当するから,引用発明1における「通気弁23」は,本願発明1における「ベント部」に相当する。
ウ 引用発明1における「前記パイプライン5に接続されるとともに水平面に対して傾斜する」ことは,本願発明1における「前記熱媒流路に接続されるとともに水平面に対して傾斜する」ことに相当するから,引用発明1における「ドレンライン27」は,本願発明1における「傾斜配管」に相当する。
エ 引用発明1における「前記ドレンライン27の前記パイプライン5が接続された部分より低い位置に接続され(る)」こと,「前記パイプライン5から前記ドレンライン27を経て流れた熱媒体を受け入れる」ことは,それぞれ,本願発明1における「前記傾斜配管の前記熱媒流路が接続された部分より低い位置に接続され(る)」こと,「前記熱媒流路から前記傾斜配管を経て流れた熱媒を受け入れる」ことに相当するから,引用発明1における「ドレン容器17」は,本願発明1における「ドレイン容器」に相当する。
オ 引用発明1における「前記熱媒体のドレン時に,前記通気弁23を開放して前記パイプライン5に空気を導入し」,「前記パイプライン5から前記ドレンライン27に熱媒が重力によって流れ込み,さらにこの熱媒が重力によって前記ドレンライン27を流れて,前記ドレン容器17に受け入れられる」ことは,本願発明1における「前記熱媒の排出時に,前記ベント部を開放して前記熱媒流路に空気を導入し」,「前記熱媒流路から前記傾斜配管に熱媒が重力によって流れ込み,さらにこの熱媒が重力によって前記傾斜配管を流れて,前記ドレイン容器に受け入れられ(る)」ことに相当する。
カ そうすると,本願発明1と引用発明1とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点1)
「熱媒流路を有する太陽熱収集装置の前記熱媒流路から熱媒を排出する熱媒排出装置であって,
前記熱媒流路の最高位置に設けられ,前記熱媒の排出時に前記熱媒流路に空気を導入するベント部と,
前記熱媒流路に接続されるとともに水平面に対して傾斜する傾斜配管と,
前記傾斜配管の前記熱媒流路が接続された部分より低い位置に接続されて,前記熱媒流路から前記傾斜配管を経て流れた熱媒を受け入れるドレイン容器とを備え,
前記熱媒の排出時に,前記ベント部を開放して前記熱媒流路に空気を導入し,
前記熱媒流路から前記傾斜配管に熱媒が重力によって流れ込み,さらにこの熱媒が重力によって前記傾斜配管を流れて,前記ドレイン容器に受け入れられる熱媒排出装置。」
(相違点1)
本願発明1は,「前記ドレイン容器から前記熱媒を,前記熱媒を貯留するタンクに送り出すポンプ」を備え,「前記タンクは,前記太陽熱収集装置によって加熱される前の熱媒を貯留するコールド側タンクと,前記太陽熱収集装置によって加熱された後の熱媒を貯留するホット側タンクとを有し」,「前記熱媒の排出時に」,「ドレイン容器に受け入れられた熱媒が前記ポンプによって前記コールド側タンクに送り出される」のに対し,引用発明1は,「ドレン容器17」を備え,「熱媒体のドレン時に」,「熱媒体」が「前記ドレン容器17に受け入れられる」ものの,熱媒体を貯留するタンク(コールド側タンク及びホット側タンク)を有しない上,「ドレン容器17」から熱媒体を当該タンクに送り出すポンプを備えておらず,熱媒体のドレン時に,「ドレン容器17」に受け入れられた熱媒体をポンプによってコールド側タンクに送り出すように構成されていない点。

(2) 判断
ア 引用文献1には,ドレン容器17に加え,さらにタンクを備えることに関し記載も示唆もない。「ドレン容器17は,パイプライン5内に含まれる全ての溶融塩を収容できるような大きさに構成されている。」(前記1(1)ア)ことからしても,さらにタンクを備えることの動機付けは特段認められない。
また,引用文献2には,太陽熱収集装置において,熱媒を貯留するタンク(コールド側タンク及びホット側タンク)が記載されているが,タンクとドレイン容器との関係は示されておらず(前記1(2)ア),引用文献3にも,タンクとドレイン容器に関する記載は特段ない(前記1(2)イ)。たとえ,太陽熱収集装置において,タンク(コールド側タンク及びホット側タンク)を設けることが周知であっても,引用発明1において,ドレン容器17に加え,さらにタンク(コールド側タンク及びホット側タンク)を備え,熱媒体のドレン時に,ドレン容器17に受け入れられた熱媒体をポンプによってコールド側タンクに送り出すように構成することについて,動機付けは認められない。
なお,引用文献1には,パイプライン5を「集合器9」,「分配器15」に結合する点が記載されているが(前記1(1)ア),この「集合器9」,「分配器15」は,ソーラフィールド1における複数のソーラループ3を,熱媒体流出部11,熱媒体供給部13に対し接続するための管路であって,これらがタンク(コールド側タンク及びホット側タンク)の機能を有する旨の記載はない。
また,引用文献1には,熱媒体のドレン後にソーラループ3を再始動する過程で,浸漬ポンプを使用して,ドレン容器17からドレンライン27を介して,パイプライン5,集合器9,分配器15に熱媒体を充填し得る旨記載されているが(前記1(1)),熱媒体のドレン時に関する動作ではなく,集合器9,分配器15をタンク(コールド側タンク及びホット側タンク)とみなすことはできないから,当該記載から,前記相違点1に係る構成が示唆されるとは認められない。
イ 他方,本願発明1は,「熱媒を排出する場合,タンクを太陽熱収集装置より低いところに設置すれば,熱媒を重力によってタンクに送り込むことができる。しかし,タンクは高さが15m以上もあり非常に高いので,タンクを太陽熱収集装置より低いところに設置するには,タンクを設置すべき地盤に大きな孔を施工し,この孔にタンクを挿入して設置する必要があり,この孔の施工やタンクの設置に非常に手間がかかるという問題がある。」(本願明細書【0006】)といった事情に鑑み,「熱媒を貯留するタンクを太陽熱収集装置より低い位置に設置することなく,太陽熱収集装置から熱媒を重力によって排出できる熱媒排出装置および熱媒排出方法を提供することを目的」(同【0007】)としてなされたものである。
そして,本願発明1は,相違点1に係る構成を有することにより,「タンクを太陽熱収集装置より低い位置に設置することなく,太陽熱収集装置から熱媒を重力によって排出できる。」(同【0010】,【0019】),といった顕著な効果を奏するものである。
ウ したがって,引用発明1及び引用文献2,3に記載された事項に基いて,相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明1及び引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

3 本願発明2,3について
本願発明1を特定するための事項をすべて含む本願発明2,3は,さらに限定された事項について検討するまでもなく,本願発明1と同様の理由により,引用発明1及び引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

4 本願発明4について
(1) 対比
本願発明1と引用発明1との関係を参考に(前記2(1)),本願発明4と引用発明2とを,その有する機能に照らして対比すると,本願発明4と引用発明2とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点2)
「熱媒流路を有する太陽熱収集装置の前記熱媒流路から熱媒を排出する熱媒排出方法であって,
前記熱媒流路の最高位置において,前記熱媒の排出時に前記熱媒流路に空気を導入することによって,前記熱媒流路に接続されるとともに水平面に対して傾斜する傾斜配管に熱媒を流し,
この傾斜配管を流れた前記熱媒を前記熱媒流路が接続された部分より低い位置に接続されたドレイン容器に受け入れる熱媒排出方法。」
(相違点2)
本願発明4は,「前記熱媒を貯留するタンクは,前記太陽熱収集装置によって加熱される前の熱媒を貯留するコールド側タンクと,前記太陽熱収集装置によって加熱された後の熱媒を貯留するホット側タンクとを有するものであって」,「前記ドレイン容器からポンプによって前記熱媒を前記コールド側タンクに送り出す」のに対し,引用発明2は,「熱媒体のドレン時に」,「熱媒体」を「ドレン容器17に受け入れる」ものの,タンク(コールド側タンク及びホット側タンク)を備えておらず,熱媒体のドレン時に,ドレン容器17からポンプによって熱媒体をコールド側タンクに送り出すように構成されていない点。

(2) 判断
相違点2は,前記相違点1と実質的に同じであるから,同様の理由により,本願発明4は,引用発明2及び引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

5 本願発明5について
本願発明4を特定するための事項をすべて含む本願発明5は,さらに限定された事項について検討するまでもなく,本願発明4と同様の理由により,引用発明2及び引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

6 以上のとおりであるから,原査定を維持することはできない。

第6 当審にて通知した拒絶の理由についての判断
平成31年1月24日の手続補正書により補正された特許請求の範囲は前記のとおりであるところ(前記第2),当該補正により,特許請求の範囲の記載に関する不備は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由及び当審にて通知した拒絶の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-02 
出願番号 特願2014-67606(P2014-67606)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F24J)
P 1 8・ 537- WY (F24J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大谷 光司  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 莊司 英史
窪田 治彦
発明の名称 熱媒排出装置および熱媒排出方法  
代理人 三木 友由  

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