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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1350319
審判番号 不服2018-723  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-18 
確定日 2019-03-27 
事件の表示 特願2015-510717「電子ビームを生成するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日国際公開、WO2013/167391、平成27年 9月 3日国内公表、特表2015-525428〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成25年 4月25日 国際特許出願(パリ条約による優先権主張20
12年5月9日、2013年3月14日、何れ
も米国)
平成29年 2月 9日 拒絶理由通知(同年2月14日発送)
平成29年 4月25日 意見書・手続補正書
平成29年 9月22日 拒絶査定(同年10月3日送達)
平成30年 1月18日 本件審判請求・手続補正書

第2 平成30年1月18日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成30年1月18日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の概略
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に、

「 プラズマ電子源装置であって、
その中でプラズマが生成される陰極放電チャンバと、
前記陰極放電チャンバ内に提供された出口穴であって、前記出口穴から、前記陰極放電チャンバと陽極との間に提供された加速場によって前記プラズマからの電子が抽出される、出口穴と、
少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスと、
前記プラズマからの電子抽出を可能にする第一の値と前記プラズマからの電子抽出を防止する第二の値との間で、前記少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスをスイッチングするためのスイッチング機構と、
電子ビームを成形、走査および/または集束するためのビーム成形オプティクスであって、前記ビーム成形オプティクスが前記陽極の下流に配置される、ビーム成形オプティクスと、
を含む、装置。」

とあるものを、

「 プラズマ電子源装置であって、
その中でプラズマが生成される陰極放電チャンバと、
前記陰極放電チャンバ内に提供された出口穴であって、前記出口穴から、前記陰極放電チャンバと陽極との間に提供された加速場によって前記プラズマからの電子が抽出される、出口穴と、
少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスと、
前記プラズマからの電子抽出を可能にする第一の値と前記プラズマからの電子抽出を防止する第二の値との間で、前記少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスをスイッチングするためのスイッチング機構と、
電子ビームを成形、走査および集束するためのビーム成形オプティクスであって、前記ビーム成形オプティクスが前記陽極の下流に配置される、ビーム成形オプティクスと、
を含む、装置。」(当審注:下線は、請求人が補正箇所に付した下線である。以下「本願補正発明」という。)

とする補正を含むものである。
上記補正は、補正前に「電子ビームを成形、走査および/または集束する」と択一的に特定されているものを、「電子ビームを成形、走査および集束する」に限定する補正であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たすか)否かについて検討する。

2 引用する刊行物と引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2011/0080093号明細書(以下「引用例」という。)には、以下の記載がある。(注:訳は当審によるものである。)
ア 「What is claimed is:
1 . An apparatus for controlling a flow of electrons within a plasma, comprising:
a cathode operatively connected to a plasma;
a first anode configured to receive a flow of electrons from the plasma;
a voltage source operatively connected to both the cathode and the first anode; and
a second anode configured to receive a flow of electrons from the plasma, the second anode being operatively connected to the plasma and operatively connected to the voltage source via a switch between the second anode and the first anode;
wherein when the switch is open when the voltage is applied, the electrons from the plasma discharge flow to the first anode; and
wherein when the switch is closed when the voltage is applied, the electrons from the plasma discharge flow to the second anode. 」
(特許請求の範囲
1.プラズマ内の電子の流れを制御するための装置であって、
プラズマに動作可能に接続されたカソードと、
前記プラズマから電子の流れを受けるように構成された第1のアノードと、
前記カソードと前記第1のアノードの両方に動作可能に接続された電圧源と、
前記プラズマからの電子の流れを受け取るように構成された第2のアノードであって、前記第2のアノードは、前記プラズマから動作可能に接続され、そして前記第2のアノードと前記第1のアノードとの間のスイッチを介して前記電圧源に動作可能に接続され、
前記電圧が印加されたときに前記スイッチが開いていると、前記プラズマ放電からの電子が前記第1のアノードへ流れ、
電圧が印加されたときにスイッチが閉じられると、プラズマ放電からの電子が第2のアノードへ流れる。 注:下線は当審が付加した。以下同様である。)

イ 「[0041] As noted above, the present invention provides an apparatus and method for controlling the flow of electrons from a plasma source such as a hollow cathode plasma source to create a controlled, pulsed electron beam output. In accordance with the present invention, an additional anode, referred to herein as a #control anode,# is placed within a plasma source.
[0042] An exemplary configuration of such an apparatus in accordance with the present invention is illustrated in FIG. 3 .
[0043] Thus, as shown in FIG. 3 , an apparatus for controlling the electron flow within a plasma source can include a control anode 312 situated within a plasma 302 and connected to voltage source 303 by means of a switch 313 between the control anode 312 and acceleration anode 305 . In the exemplary configuration shown in FIG. 3 , the plasma 302 fills the interior of the hollow cavity cathode 301 such as that described above with respect to FIG. 1 , but one skilled in the art would recognize that other embodiments are possible, and such other embodiments are also within the scope of the present disclosure.
[0044] In accordance with the present invention, the electron flow within the plasma 302 can be controlled by electrically connecting or disconnecting the control anode 312 to the acceleration anode 305 via switch 313 . In an exemplary embodiment such as that illustrated in FIG. 3 , control anode 312 can be a small wire loop located at the back side of the cathode opposite the exit orifice 304 which has an exposed surface area AC that is approximately the same as the effective surface area 306 of acceleration anode 305 such that the criterion for formation of an electron sheath at the control anode is satisfied, i.e.,

[0045] In the same manner as described above with respect to the plasma-filled hollow cathode shown in FIG. 1 , when a neutral gas flows through the hollow cathode 301 and a negative DC voltage 303 is applied across the cathode and anode, a plasma 302 is produced within cathode 301 . When switch 313 is open, control anode 312 is electrically isolated and floats close to the plasma potential. This state is essentially identical to the case described above with respect to FIG. 1 where the control anode is absent; i.e., the positive ions flow to the walls of the cathode 301 and the electrons flow out of exit orifice 304 to the acceleration anode 305 where they are then accelerated across acceleration gap 309 by applying a potential difference 307 between acceleration anode 305 and electrode 308 to form an electron beam.
[0046] However, when switch 313 is closed, control anode 312 is at the same potential as acceleration anode 305 . In such a case, the two anodes do not share the discharge current; instead, the discharge current is routed entirely through the electron sheath formed at control anode 312 . Since the discharge current is carried by electrons at the anode and ions at the cathode in a hollow cathode plasma discharge with the appropriate ratio of cathode surface area to effective anode surface area, control anode 312 is now collecting all of the electrons leaving the hollow cathode plasma 302 . Consequently, when switch 313 is closed, the flow of electrons from the plasma is diverted entirely to control anode 312 , with no electrons flowing out of exit orifice 304 to acceleration anode 305 . The absence of electron flow to acceleration anode 305 when the switch is closed means that the beam has been turned off. Thus, in accordance with the present invention, the flow of the electrons from the plasma source can be controlled to produce a pulsed electron beam simply by opening or closing the switch 313 .」
([0041] 上述のように、本発明は、制御されたパルス電子ビーム出力を生成するために、ホローカソードプラズマ源などのプラズマ源からの電子の流れを制御するための装置および方法を提供する。本発明によれば、本明細書では「制御アノード」と呼ばれる追加のアノードがプラズマ源内に配置される。
[0042] 本発明によるこのような装置の例示的な構成が図3に示されている。
[0043] このように、図3に示すように、プラズマ源内の電子流を制御する装置は、プラズマ302内に位置し、制御アノード312と加速アノード305との間のスイッチ313によって電圧源303に接続された制御アノード312を含むことができる。図3に示される例示的な構成において、図1に関して上述したように、プラズマ302は、ホロー空洞カソード301の内部を満たすが、しかし、当業者は、他の実施形態が可能であり、このような他の実施形態も本開示の範囲内にあることを認識するであろう。
[0044] 本発明によれば、プラズマ302内の電子の流れは、制御アノード312をスイッチ313を介して加速アノード305に電気的に接続または切断することによって制御することができる。図3に示されるような例示的な実施形態において、制御アノード312は、出口オリフィス304と反対側のカソードの裏側に位置する小さなワイヤループであってもよく、このアノードは、加速アノード305の有効表面領域306とほぼ同じ露出表面積A_(C)を有し、制御アノードにおける電子シースの形成が満足される、すなわち、


[0045] 図1に示すプラズマ充填型ホローカソードについて説明したのと同様にして、中性ガスが中空カソード301を通って流れ、負の直流電圧303がカソードとアノードとの間に印加されると、プラズマ302がカソード301内に生成される。スイッチ313が開かれると、制御アノード312は電気的に絶縁され、プラズマ電位に近接して浮遊する。この状態は、制御アノードが存在しない、すなわち、陽イオンがカソード301の壁に流れ、電子が出口オリフィス304から加速アノード305に流入し、加速アノード305と電極308の間に電位差307を加えることによって加速ギャップ309を横切って加速される電子ビームを形成する図1に関して上述した場合と本質的に同じである。
[0046] しかしながら、スイッチ313が閉じているとき、制御アノード312は加速アノード305と同じ電位にある。このような場合、2つのアノードは放電電流を分配しない。その代わりに、放電電流は、制御アノード312に形成された電子シース全体を通って流れる。中空カソードプラズマ放電において、カソード表面積と有効アノード表面積との適切な比で、放電電流はアノードでの電子とカソードでのイオンによって流れるので、制御アノード312は、ホローカソードプラズマ302を離れるすべての電子を収集する。その結果、スイッチ313が閉じられると、プラズマからの電子の流れは、電子が出口オリフィス304から加速アノード305に流出することなく、制御アノード312に完全に分流される。スイッチが閉じているときに加速アノード305への電子の流れがないことは、ビームがオフになったことを意味する。したがって、本発明によれば、スイッチ313を開閉するだけで、プラズマ源からの電子の流れを制御してパルス電子ビームを生成することができる。

ウ 図3は、以下のとおりである。

(2) 引用発明の認定
ア 上記(1)アの記載によれば、
「プラズマ内の電子の流れを制御するための装置であって、
プラズマに動作可能に接続されたカソードと、
前記プラズマから電子の流れを受けるように構成された第1のアノードと、
前記カソードと前記第1のアノードの両方に動作可能に接続された電圧源と、
前記プラズマからの電子の流れを受け取るように構成された第2のアノードであって、前記第2のアノードは、前記プラズマから動作可能に接続され、そして前記第2のアノードと前記第1のアノードとの間のスイッチを介して前記電圧源に動作可能に接続され、
前記電圧が印加されたときに前記スイッチが開いていると、前記プラズマ放電からの電子が前記第1のアノードに流れ、
電圧が印加されたときにスイッチが閉じられると、プラズマ放電からの電子が第2のアノードに流れる、
装置。」
が記載されている。

イ 上記(1)イの記載によれば、特許請求の範囲に記載された「第1のアノード」は実施形態に記載された「加速アノード」であり、特許請求の範囲に記載された「第2のアノード」は実施形態に記載された「制御アノード」である。

ウ 上記(1)イの記載を踏まえて図3を見ると、
(ア)制御アノード312はプラズマ源内に配置されること、
(イ)出口オリフィス304は、カソード301に設けられること、
(ウ)スイッチ313が開かれると、制御アノード312はプラズマ電位に近接し、陽イオンがカソード301の壁に流れ、電子が出口オリフィス304から加速アノード305に流入し、加速アノード305と電極308の間に電位差を加えることによって加速ギャップを横切って加速される電子ビームを形成すること、
(エ)スイッチ313が閉じられると、制御アノード312は加速アノード305と同じ電位にあり、制御アノード312は、ホローソードプラズマを離れるすべての電子を収集し、プラズマからの電子の流れは、電子が出口オリフィス304から加速アノード305に流出しないこと、
(オ)そして、スイッチ313を開閉するだけで、プラズマ源からの電子の流れを制御してパルス電子ビームを生成すること、
が理解できる。

エ してみると、引用例には以下の発明が開示されている。
「プラズマ内の電子の流れを制御するための装置であって、
プラズマに動作可能に接続されたカソードと、
前記プラズマから電子の流れを受けるように構成された加速アノードと、
前記カソードと前記加速アノードの両方に動作可能に接続された電圧源と、
前記プラズマからの電子の流れを受け取るように構成された制御アノードであって、前記制御アノードは、プラズマ源内に配置され、前記プラズマから動作可能に接続され、そして前記制御アノードと前記加速アノードとの間のスイッチを介して前記電圧源に動作可能に接続され、
スイッチが開かれると、制御アノードはプラズマ電位に近接し、陽イオンがカソードの壁に流れ、電子がカソードに設けられた出口オリフィスから加速アノードに流入し、加速アノードと電極の間に電位差を加えることによって加速ギャップを横切って加速される電子ビームを形成し、
スイッチが閉じられると、制御アノードは加速アノードと同じ電位にあり、制御アノードは、ホローソードを離れるすべての電子を収集し、プラズマからの電子の流れは、電子が出口オリフィスから加速アノードに流出せず、
スイッチを開閉するだけで、プラズマ源からの電子の流れを制御してパルス電子ビームを生成する、
装置。」(以下「引用発明」という。)

3 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「プラズマ内の電子の流れを制御するための装置」は本願補正発明の「プラズマ電子源装置」に相当し、以下同様に、「プラズマに動作可能に接続されたカソード」は「プラズマが生成される陰極放電チャンバ」に、「加速アノード」は「陽極」に、「スイッチ」は「スイッチング機構」に、それぞれ相当する。

(2)引用発明の「カソードに設けられた出口オリフィス」は本願補正発明の「前記陰極放電チャンバ内に提供された出口穴」に、相当する。そして、一般に、加速アノードの電位はカソードの電位より高い電位に設定されるから、カソードと加速アノードとの間に電子が加速される電場が形成される。してみると、引用発明において「プラズマに動作可能に接続されたカソード」「に設けられた出口オリフィスから」「電子が」「加速アノードに流入」することは、本願補正発明において「前記出口穴から、前記陰極放電チャンバと陽極との間に提供された加速場によって前記プラズマからの電子が抽出される」ことに相当する。

(3)本願補正発明の「プラズマ閉じ込めデバイス」の技術的意味について検討する。本願の請求項1を引用する請求項15に係る発明は、「前記プラズマ閉じ込めデバイスが少なくとも一つの電子ビーム制御板であり、…」と特定している。してみると、本願補正発明の「プラズマ閉じ込めデバイス」は、「電子ビーム制御板」であってよいものと解される。
一方、引用発明の「制御アノード」は、「プラズマ源内に配置され」、「電圧源に動作可能に接続」する「スイッチ」「を開閉するだけで、プラズマ源からの電子の流れを制御してパルス電子ビームを生成」する。
してみると、引用発明の「制御アノード」は、電子ビームを制御する部材であるから、引用発明の「制御アノード」は本願補正発明の「プラズマ閉じ込めデバイス」に相当する。
そして、引用発明のスイッチが「開かれると、制御アノードはプラズマ電位に近接し」、「電子が出口オリフィスから加速アノードに流入」し、「スイッチが閉じられると、制御アノードは加速アノードと同じ電位にあり」、「プラズマからの電子の流れは、電子が出口オリフィスから加速アノードに流出」しないことは、本願補正発明の、「スイッチング機構」が「前記プラズマからの電子抽出を可能にする第一の値と前記プラズマからの電子抽出を防止する第二の値との間で、前記少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスをスイッチングする」ことに相当する。

(4)以上によれば、本願補正発明と引用発明は、
「プラズマ電子源装置であって、
その中でプラズマが生成される陰極放電チャンバと、
前記陰極放電チャンバ内に提供された出口穴であって、前記出口穴から、前記陰極放電チャンバと陽極との間に提供された加速場によって前記プラズマからの電子が抽出される、出口穴と、
少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスと、
前記プラズマからの電子抽出を可能にする第一の値と前記プラズマからの電子抽出を防止する第二の値との間で、前記少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスをスイッチングするためのスイッチング機構と、
を含む、装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願補正発明は、「電子ビームを成形、走査および集束するためのビーム成形オプティクスであって、前記ビーム成形オプティクスが前記陽極の下流に配置される、ビーム成形オプティクス」を備えるのに対し、引用発明は、そのような特定を有していない点。

4 判断
以下、上記相違点について検討する。
電子ビームを生成する装置は、処理装置、加工装置、溶接装置、加熱装置、露光装置など種々の用途に使用されるところ、用途に応じて電子ビームの断面形状を成形したり、集束、走査することは、周知の技術事項である(例えば、日本学術振興会第132委員会編 電子・イオンビームハンドブック(第2版)S63.1.30第2版第2刷発行 日刊工業新聞社 p383-p388 「11・1 電子ビーム加工の特徴」の「11・1・3 ビーム制御系」には、「ビーム制御系は、ビームのブランキング、軸合わせ、集束、偏向などの回路から構成される。」との記載があり、また、「11・1・4 補正制御系」には、ビームスポットを偏向によっても初期の状態のまま保持すること(偏向によって変化しないことは、ビームスポットの形状(断面形状)を成形しているものと認められる。)が開示されている。また、特開2005-303024号公報には、「【0027】…電子ビーム源1から放出された電子ビーム10は、第1の集束レンズ2により集束され、第1のアパーチャ板5に形成されたアパーチャ5aを通過する。これにより、電子ビーム10には第1段階での成形が施される。【0028】第1のアパーチャ板5のアパーチャ5aを通過した電子ビーム10は、第1の偏向器7により偏向された後、第2の集束レンズ3によって集束される。第2の集束レンズ3により集束された電子ビーム10は、第2のアパーチャ板6に形成されたアパーチャ6aを通過する。…」と記載され、電子ビームが、集束、成形、偏向、集束されることが開示されている。)。
してみると、パルス電子ビームを生成している引用発明の装置において、上記周知の技術事項を採用し、生成した電子ビームを成形したり、集束、走査する手段を付加し、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
そして、本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明と上記周知の技術手段に基づいて当業者が容易に予測しうる程度のものであり、格別顕著なものとは認められない。

5 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年4月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 プラズマ電子源装置であって、
その中でプラズマが生成される陰極放電チャンバと、
前記陰極放電チャンバ内に提供された出口穴であって、前記出口穴から、前記陰極放電チャンバと陽極との間に提供された加速場によって前記プラズマからの電子が抽出される、出口穴と、
少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスと、
前記プラズマからの電子抽出を可能にする第一の値と前記プラズマからの電子抽出を防止する第二の値との間で、前記少なくとも一つのプラズマ閉じ込めデバイスをスイッチングするためのスイッチング機構と、
電子ビームを成形、走査および/または集束するためのビーム成形オプティクスであって、前記ビーム成形オプティクスが前記陽極の下流に配置される、ビーム成形オプティクスと、
を含む、装置。」(以下「本願発明」という。)

2 引用する刊行物と引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、「ビーム成形オプティクス」に関し、「電子ビームを成形、走査および集束する」との限定の一部を解除して「電子ビームを成形、走査および/または集束する」にしたものである。
そうすると、本願発明を減縮する本願補正発明が、前記「第2 4」に記載したとおり引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をするとができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と周知の技術事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(周知の技術事項であることを示す文献は、上記「第2 4」で示した文献とともに、原査定で引用された、特開2003-149399号公報(【0001】、【0019】-【0028】、図1)、特開昭63-200442号公報(2頁左上4行?同頁左下6行、第2図)、特公昭49-028718号公報(2頁3欄27行?4欄15行、第2図)が挙げられる。)。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-22 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-09 
出願番号 特願2015-510717(P2015-510717)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 仁美  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 小松 徹三
山村 浩
発明の名称 電子ビームを生成するための方法および装置  
代理人 小田 直  
代理人 高岡 亮一  
代理人 高橋 香元  

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