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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1350323
審判番号 不服2018-4538  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-04 
確定日 2019-03-27 
事件の表示 特願2016-123222「結晶形およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日出願公開、特開2016-196490〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2008年3月28日(パリ条約による優先権外国庁受理 2007年3月29日(US)米国)を国際出願日とする特願2010-501013号の一部を平成26年7月25日に特願2014-152252号として新たな特許出願とし、さらにその一部を平成28年6月22日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日に意見書および手続補正書が提出され、同年11月30日付けで拒絶査定され、平成30年4月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月23日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明の認定
この出願の請求項1に係る発明は、平成29年11月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
式1で示される化合物:

[式中、前記化合物は窒素について(R)立体配置である]
のA形態の結晶であって、13.6±0.2度、13.9±0.2度、16.85±0.2度、17.35±0.2度、23±0.2度、23.85±0.2度、24.7±0.2度、26.75±0.2度、および34.75±0.2度の2θから選択される150±1Kの温度での粉末X線回折パターンにおける全てのピークを有する単一結晶形態である、結晶。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものと認める。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1?12
引用文献1 国際公開第2006/127899号

なお、拒絶査定の対象となった本願発明は、平成29年4月27日付け拒絶理由通知の対象となった出願当初の請求項5に対応するものである。

第4 当審の判断
当審は,原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明および本願優先日時点の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
理由は以下のとおりである。

刊行物1 国際公開第2006/127899号(原査定で引用された引用文献1)
刊行物2 岡野定舗編著,新・薬剤学総論(改訂第3版),南江堂,(1987年4月10日),p.26,111,256,257
刊行物3 C. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,最新 創薬化学 下巻,株式会社テクノミック,(1999年9月25日),p.452-453
刊行物4 日本化学会編,化学便覧 応用化学編 第6版,丸善(2003年1月30日),p.178
刊行物5 平山令明編,有機結晶作製ハンドブック,丸善,(2000年4月20日)p.110?112,125
刊行物6 結晶多形の基礎と応用,株式会社シーエムシー出版,(2005年8月31日),p.105?109
刊行物7 芦澤一英編,医薬品の多形現象と晶析の科学,丸善プラネット,(2002年9月20日),p.307,314,317
刊行物8 日本化学会編,第4版 実験化学講座1 基本操作I,丸善,(1996年4月5日),p.184-186
刊行物9 長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,岩波 理化学辞典 第5版,第5版第8刷,岩波書店,(2004年12月20日),p.504
刊行物10 長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,岩波 理化学辞典 第5版,第5版第8刷,岩波書店,(2004年12月20日),p.1510
なお、刊行物2?10は、本願優先日時点の技術常識を示すためのものである。

1 引用文献及びその記載事項
(1)引用文献1:国際公開第2006/127899号(原審の引用文献1)
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献1」には、次の記載がある。
訳文にて示す。
(1a)「1.R-MNTXを含む組成物であって、0.02%の検出限界および0.05%の定量限界において、HPLCによって検出可能なS-MNTXが存在しない前記組成物。
2.組成物中に存在するMNTXが、塩のカチオンであり、アニオンと対になっている、請求項1に記載の組成物。
3.アニオンが、ハロゲン化合物、硫酸、リン酸、硝酸または有機荷電アニオン種である、請求項2に記載の組成物。
4.アニオンがハロゲン化合物であり、該ハロゲン化合物が臭化物、塩化物、ヨウ化物またはフッ化物である、請求項3に記載の組成物。
5.ハロゲン化合物が臭化物である、請求項4に記載の組成物。
・・・
81.R-MNTX臭化物塩の立体選択的合成方法であって、
(a)3-O-保護-ナルトレキソンをメチル化剤でメチル化して3-O-保護-R-MNTXヨウ素塩を生じること;
(b)3-ヒドロキシル保護基の除去してR-MNTX臭化物/ヨウ化物塩を生じるための、臭化水素酸による加水分解;および
(c)R-MNTX臭化物/ヨウ化物塩をアニオン交換(臭化物型)に通してR-MNTX臭化物塩を生じること、
を含む前記方法。
82.メチル化剤がヨウ化メチルである、請求項81に記載の方法。
83.保護基の除去の前に、3-O-保護-R-MNTXヨウ化物塩を精製する、請求項81に記載の方法。
84.R-MNTX臭化物塩の精製を更に含む、請求項81に記載の方法。
85.R-MNTX臭化物塩が98%以上の純度を有する、請求項84に記載の方法。
86.R-MNTXを再結晶によって精製する、請求項84に記載の方法。
87.再結晶の溶媒がメタノールである、請求項86に記載の方法。
88.R-MNTXをクロマトグラフィーによって精製する、請求項84に記載の方法。
89.純度をC18逆相カラムを用いたHPLCによって決定する、請求項85に記載の方法。
90.細孔のサイズが5ミクロンである、請求項89に記載の方法。
・・・
92.クレーム81?88のいずれか一つの手法により製造されるR-MNTX臭化物塩
」(CLAIMS)

(1b)「本発明の分野
本発明は、(R)-N-メチルナルトレキソン(R-MNTX)及びその中間体の立体選択的合成、R-MNTX又はその中間体を含む医薬製剤及びそれらの使用方法に関する。
発明の背景
メチルナルトレキソン(MNTX)は、純粋なオピオイドアンタゴニストであるナルトレキソンの第四級誘導体である。これは塩として存在する。文献においてMNTXの臭化物塩に使用される名称としては、以下が挙げられる:メチルナルトレキソン臭化物;N-メチルナルトレキソン臭化物;ナルトレキソンメトブロミド;ナルトレキソンメチルブロミド;MRZ 2663BR。 」(1頁3?12行)

(1c)「この発明は、R-MNTX[モルフィナニウム、17R,17-(シクロプロピルメチル)-4,5-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-17-メチル-6-オキソ塩(5α)-(9C1)]の立体選択的合成のための合成経路、実質的に純粋なR-MNTX、実質的に純粋なR-MNTXの結晶、実質的に純粋なR-MNTXを含む医薬製剤、およびこれらの使用方法を提供する。
R-MNTXは、下記式の構造を有する:

ここで、X^(-)は対イオンである。
・・・対イオンは、ハロゲン化物・・・を含む。・・・好ましい態様において、ハロゲン化物は臭化物である。」(16頁9?22行)

(1d)「図面の簡単な説明
図1は、R-MNTXおよびS-MNTXの臭化物塩の化学構造を提供する。
・・・
図6は、好ましいヒドロキシル保護基を用いた、R-MNTXの合成のための反応スキームを示す。」(15頁21行?16頁2行)

(1e)「
例2
R-MNTXの立体選択的合成
例2の合成スキームを図6に示す。
一般:全ての無水反応を炉乾(130℃)ガラス製品において、乾燥窒素(N_(2))の雰囲気下で行った。全ての市販の試薬および溶媒は、さらなる精製なしに使用した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルを、Varian GeminiまたはVarian Mercury 300 MHzスペクトロメータのいずれかを用いて得た。質量スペクトルは、Finnigan LCQで測定した。HPLC純度は、Waters 717 AutosamplerおよびWaters 996 Photodiode Array Detectorを用いて測定した。
3-O-イソブチリル-ナルトレキソン(2)。化合物(1)(1.62g,4.75mmol)の無水テトラヒドロフラン(THF)(120mL)溶液へ、0℃でトリエチルアミン(NEt_(3))(1.4mL,10mmol)を加えた。反応物を15分間、0℃で撹拌した後、塩化イソブチリル(1.05mL,10mmol)を滴下で加えた。反応混合物を0℃で1時間、そして室温で18時間撹拌し、飽和重炭酸ナトリウム(NaHCO_(3))(aq)(70mL)および30mlのH_(2)Oでクエンチした。反応物を塩化メチレン(CH_(2)Cl_(2))(2x200mL)で抽出した。抽出物を混ぜ合わせ、塩水(130ml)で洗浄し、硫酸ナトリウム(Na_(2)SO_(4))(50g)で乾燥し、真空内で濾過し濃縮した。粗製品をシリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(カラムサイズ40X450mm,シリカゲルを40X190mm充填したもの)(9.8:0.2→9.6:0.4→9.4:0.6CH_(2)Cl_(2)/MeOH)で精製し、化合物(2)(1.5g76.8%)を白色固体として得た。
^(1)H NMR・・・MS[M+H]^(+):412.
3-O-イソブチリル-N-メチルナルトレキソンヨウ化物塩(3)。化合物(2)(689mg,1.67mmol)をスパチュラでガラス圧力容器へ移動した。容器をマニホールドにおいて5分間窒素で穏やかにパージし、高真空で真空にした。真空が一定となったとき場合、容器の下部を液体窒素に浸した。ヨウ化メチル(973mg,6.85mmol)をマニホールド上の別のフラスコへ窒素雰囲気中に分注し、液体窒素で凍結した。凍結ヨウ化メチル容器を高真空下で真空にした。主マニホールドチャンバーを高真空ポンプから分離した。ヨウ化メチルを周辺温度まで加温させ、液体窒素冷却した3-O-イソブチリル-ナルトレキソンに主チャンバーを介して昇華させた。
昇華が完了すると、窒素をガラス圧力容器へゆっくりと浸出させた。そして容器を密封し、マニホールドから外し、88?90℃で17時間油槽で加熱した。窒素を容器に流れ込ませる前に、容器を周辺温度まで冷却させた。そして容器を高真空下で真空にし、不反応ヨウ化メチルの残留物を取り除き、白色固体を得た。固体のサンプルを^(1)H NMR分析のために取り除いた。これは優れた生成物への変換を示した。生成物の薄層クロマトグラフィー(TLC)[ジクロロメタン/メタノール9:1(v/v),順相シリカ,UV検出]は、出発材料(2)(Rf=0.8)の痕跡および拡散領域(Rf=0?0.4)を示した。
固体をジクロロメタン/メタノール(4:1、最小体積)に溶解し、シリカゲルカラム(超高純度シリカゲル、ジクロロメタン中に22g、床寸法:200mmx20mm内径)に適用した。カラムは以下のように溶出した:
ジクロロメタン/メタノール98:2(300ml)
ジクロロメタン/メタノール97:3(300ml)
ジクロロメタン/メタノール94:6(200ml)
ジクロロメタン/メタノール92:8(400ml)
分画をTLC[ジクロロメタン/メタノール9:1(v/v),順相シリカ,UV検出]で分析した。主成分のみを含んでいる分画(Rf=0.4)を混ぜ合わせてメタノールで共にリンスし、濃縮し、867mgの白色固体を得た。これは3-O-イソブチリル-ナルトレキソンに基づいて91%の収率を表す。^(1)H NMRは一貫している。

N-メチルナルトレキソン臭化物/ヨウ化物塩(4)。化合物(3)(862mg,1.56mmol)をメタノール(13ml)に溶解した。この混合物に滅菌水(11.5ml)を加え、続けて48%水性臭化水素酸(1.5ml)を加えた。得られた混合物を窒素下で撹拌し、油槽で64?65°Cで6.5時間加熱した。(メタノールに分散した)反応混合物のサンプルのTLC分析は、残留した出発材料(3)(Rf=0.4)を示さず、Rf=0?0.15での材料への変換を示した。混合物を22?25℃のバスを有する回転型蒸発器で、およそ1mlの油性液体が残るまで濃縮した。アセトニトリル(10ml)を加え、混合物を再濃縮した。10mlのアセトニトリルを用いて、これを更に3回繰り返し、ジンジャー色のクリスプな発泡体(590mg,86%粗収率)を得た。
アニオン交換樹脂カラムの調製。
30gのAG 1-X8樹脂を中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)カラム(20mm内径)に、100mlの水を用いて充填し、樹脂スラリーを作った。樹脂床を1.0N水性臭化水素酸(200ml)で、次いで滅菌水で、水性溶出液のpHがpH6?7になるまで洗浄した。およそ1.5Lの水が必要であった。
N-メチルナルトレキソン臭化物(5)。発泡体(4)(597mg)を水(6ml)/メタノール(2ml)中に分散した。いくらかの暗色の油が溶解せずに残った。透明な上清を調製したアニオン交換樹脂カラムに静かに注ぎ込み適用した。残留物をメタノール(0.2ml)/水(3ml)で2度洗浄した。脱離液をカラムに適用した。カラムを4.2Lの滅菌水で溶出し、?20mlの画分を集めた。N-メチルナルトレキソン塩の存在を液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)によって検出した。N-メチルナルトレキソンの大部分は、最初の1.5Lの溶出液にあり、TLC(4:1ジクロロメタン/メタノール,順相シリカ)により、そのうち最初の600mlが最も純粋な材料を含んでいた。最初の600mlの溶出液を混ぜ合わせ、回転型蒸発器で濃縮し、白みがかったガラスを得た。水槽を?35度に保持した。蒸発させながら溶出液の泡立ちを制御するために、注意が必要であった。

N-メチルナルトレキソン臭化物(5)の精製 メタノールからの再結晶
残留物を、メタノール(60ml)中、窒素雰囲気下で還流の直下まで加温し、少量の不溶性物質を取り除くためガラス焼結物をとおしてろ過した。このろ過液を、窒素流束中おおよそ10mlまでブローダウンさせ、氷/水中窒素下冷却された。いくらか白い沈殿が形成されたが、明らかに多くの固体が溶液中に残存した。そして、混合物は、蒸留によって濃縮され、わずかに色づいた粘着物を得た。これをメタノールを用いて砕いた(3ml×2)。メタノールは粉砕の間ピペットで慎重に静かに注がれた。白色残留物をメタノール(60ml)に溶解さし、ガラス焼結物を通してろ過された。ろ過液はおおよそ1mlまで濃縮され、さらにメタノール(1ml)の一部を加え、固体を粉砕した。・・・固体は、乾燥され白色固体,バッチA(178.0mg)。HPLC分析は、97.31%のR-MNTX、2.69%のS-MNTXを示した。
メタノール中の全ての濾液/脱離液を混ぜ合わせ、濃縮し、白色ガラスを得た。この残留物をメタノール(3mlx2)を用いて砕き、前述のように注意深く脱離液を取り除いた。残留物をメタノール(50ml)に溶解し、ガラスシンターを通して濾過した。濾液を濃縮し、およそ1mlの溶液を得て、さらにメタノール(1ml)の一部を加えて、固体を砕いた。前述のように脱離液を静かに注ぎ、残留物をさらにメタノール(2ml)を用いて砕いた。脱離液を静かに注ぎ、残留物を乾燥し、白色固体、バッチB(266.0mg)を得た。バッチBのHPLC分析は、97.39%のR-MNTX、および2.61%のS-MNTXを示した。バッチAおよびBは共に全収率436.8mg(64%)
を示した。^(1)H NMRは一貫している。MS[M+H]^(+):356。
バッチAおよびBで実証されたように、メタノールからの再結晶は、高率のR-MNTXの生成物をもたらす。^(14)CH_(3)-標識材料を用いて、同じ条件下で行われた反応において、メタノールからの再結晶前の粗反応混合物の組成物は94.4%のR-MNTX^(*)および4.7%のS-MNTX^(*)であることが分かった。メタノールからの再結晶は、98.0%のR-MNTX^(*)および1.5%のS-MNTX^(*)を含む生成物をもたらした。メタノールからの2度目の再結晶は、98.3%のR-MNTX^(*)および1.2%のS-MNTX^(*)をもたらした。
当該合成プロトコルは、少ない率のS体のみを有する、94%より多いR体をもたらすと考えられる。合成スキーム1を用いて、実質的に純粋な材料を、クロマトグラフィーカラム、調製HPLCまたは再結晶でさらに処理することが可能である。イオン交換に続いての1回の再結晶において、R体の純度は98%より高かった。2度目の再結晶は、98.3%のR-MNTXをもたらした。さらに、再結晶および/又はクロマトグラフィーを1?4回(あるいは少なくとも6回あるいは10回程度)行えば99.95%以上のR体を保証し、微量のS体が存在したとしてもそれを除くと考えられる。」(57頁20行?61頁27行)

(1f)「

」(図面図1/6、図1)

(1g)「

」(図面図4/6、図6)

(2)刊行物2:岡野定舗編著,新・薬剤学総論(改訂第3版),南江堂,(1987年4月10日),p.26,111,256,257
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物2」には、次の記載がある。
(2a)「1.2.3 化学構造と溶解性
・・・
ix.結晶多形では準安定形(低融点)のものの方が安定形(高融点)のものより溶けやすい(例.インドメタシン).^(*)
x.同種薬品で無晶性のものは結晶より溶けやすい(例.novobiocin)^(**).」(26頁10?27行)
(2b)「多形polymorphism:同一化合物が異なる結晶構造,結晶形をもつ現象を多形という.多形の結晶はX線回折像,融点,屈折率,溶解度などが異なる.多くの化合物は多形で,医薬品でも,アスピリン,インドメタシン,カカオ脂,グリセリド,脂肪酸,スルホンアミド類,セファロリジン,バルビタール酸,chloramphenicol palmitate,ステロイドホルモン(プレドニゾロン,エストロンなど),リボフラビンなど多くのものについて結晶多形が報告されている.^(3)) プロゲステロンには5種の結晶形が知られている.
結晶多形によって溶解度が異なる事実は製剤学的に重要で,多くの場合,結晶の溶解度(または溶解速度)は消化管吸収を律速するが,溶解度の大きい方が吸収が速い.多形のうち安定性の低い結晶(準安定形meta-stable form)の方が安定形stable formより融点が低く,溶解度も大きい.Ostwaldによれば,溶液から結晶が析出するさいには,準安定形の方がさきに結晶化する(逐次転移の法則law of successive transformation).結晶形の移行は,再結溶媒,結晶化の速さ(冷却温度)および保存の温度条件,粉砕などによって起きる.たとえばアスピリンを95%エタノールから再結したものと,n-ヘキサンから再結したものは結晶形が異なるが,後者の方がはるかに速やかに水に溶解する.」(111頁3?18行)
(2c)「c)結晶形crystal form
すでに述べたように,多くの薬物は結晶多形^(* )を示し,多形のうち準安定形の方が安定形より溶解度が大きい.
Chloramphenicol palmitateの結晶には少なくともA,B2種の多形があり,B型の方が易溶性である.懸濁液を経口投与するとき,B型のCmax はA型の7倍であることが報告されている.^(5)) また,インドメタシンには3種の結晶多形があるが,このうちα,γ両型が実用される.坐剤にした場合,α型の溶出性はγ型の約2倍とすぐれており・・・血中濃度もα型の坐剤の方が高い・・・.
・・・
結晶多形のうち,溶解度の大きい準安定形は安定形より熱力学的に不安定で,時間がたつにつれて前者は後者に転移する.したがって準安定形の薬物を用いて製剤をつくる場合は,そのバイオアベイラビリティが保存中に低下することに留意する必要がある.
薬物の無晶形のものは溶解時に結晶の格子エネルギーに打ち勝つ必要がないので,結晶性のものに比べて溶解しやすい.インスリン-亜鉛錯体には結晶性のものと無晶性のものがあるが,後者の方が吸収が速やかである・・・.」(256頁下から3行?257頁下から8行)

(3)刊行物3: C. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,最新 創薬化学 下巻,株式会社テクノミック,(1999年9月25日)p.452-453
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物3」には、次の記載がある。
(3a)「IV.メソモルフィック結晶(mesomorphic crystalline)^(〔訳註5〕) の取扱い□
ある種の物質は結晶となるときに複数の結晶状態をとりうることが知られている.その結晶状態に決定する要因には,結晶化溶媒の物性,結晶化するときの温度,不純物の有無などがある.このような性質を結晶多形または単に多形(polymorphism)という.可能な結晶状態のなかには準安定な結晶がある.準安定状態(metastable state)の結晶はより安定な状態に変化して異なる物理化学性質を示すことになる.この変化は2つのタイプに分けられる.可逆的転移である互変(enantiotropy)と不可逆的転移の単変(monotropy)である.前者は文字どおり多形のそれぞれの状態が相互変換可能な場合である.後者は,熱力学的に不安定な状態からより安定な状態へ変化する現象であり,一般的にはこの種の転移が多い.ある薬物が異なる結晶形を示すときに,それぞれの結晶形を識別する方法には,融点測定,溶解度測定,示差走査熱量測定,熱重量分析,赤外分光,X線回折,走査電子顕微鏡による形態観察などがある.
一般論として,準安定状態の物質には安定状態に比べてその溶解度および溶解速度が大きいという特徴がある.極端な場合,両状態の溶解度の差が4倍以上にもなることがあるが^(21,22),通常よく観察されるのは溶解度が50?100%程度上昇する現象である^(23).一例としてここではリボフラビン(riboflavin)を挙げる.この薬物には3種の多形があり,その溶解度はそれぞれ60mg/L,810mg/L,1200mg/Lと大きな開きがみられる^(24).また,準安定状態の結晶を溶媒と接触できるようにしておくと,この結晶は最も安定な状態に徐々に変化し,これに伴って溶解度が低下することがある.たとえば,ノボビオシン(novobiocin)は酸性のアモルファス固体(無定形または非晶質固体)であるが,溶解度の非常に低い結晶に変化しやすい^(25).このためにノボビオシンを懸濁液として投与することは困難である.薬物を噴霧乾燥(spray drying)によって溶解度の高いアモルファス固体とすることがある.この場合,純粋な薬物を噴霧しても良いが,実際には均質な分散薬物を得るために添加剤を加えることが多い^(26).
ある結晶状態が他の状態に変化する現象すなわち転移は,工業的な製造プロセスにおいても起こりうる.たとえば,クロロキン二リン酸(chloroquine diphosphate)の一水和物の結晶を高温で保存しておくと無水物となることがある.この脱水反応は薬物を粉砕する際にも起こりやすい.さらにクロロキン二リン酸無水物を湿度の高い状態で保存していると他の水和物に転移することもある.また,薬物の原末を圧縮する際にも結晶形の変化が起こりうる^(27).クロラムフェニコール(chloramphenicol)のステアリン酸塩の場合は,A結晶(form A)をコロイドシリカ(coloidal silica)の存在下で粉砕するとB結晶(form B)に変化することが知られている^(28).以上の事例から明らかなことではあるが,固体の薬物を製造する場合は,プロセスを標準化するのと同時に,品質管理の一環として固体薬物の結晶状態に関するより精密な検査を行うことが特に重要であることをここで強調しておきたい.」(452頁下から12行?453頁20行)

(4)刊行物4:日本化学会編,化学便覧 応用化学編 第6版,丸善(2003年1月30日),p.178
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物4」には、次の記載がある。
(4a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe^(2)O^(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

(5)刊行物5:平山令明編,有機結晶作製ハンドブック,(平成12年4月20日)丸善,p.125
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物5」には、次の記載がある。

(5a)「6.5 医薬品の結晶化例
6.5.1 一般的な結晶化条件
医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する。その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある。したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である。ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する。
一般に使用される晶析溶媒としては,・・・メタノール・・・などである。
結晶化はおよそ以下のような方法を用いる。
・・・
(4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレータなどを用いて脱溶媒する。
・・・」(125頁1?24行)
(5b)「6.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表6.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide[図6.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表6.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(110頁25行?111頁16行)
(5c)「

」(111?112頁表6.1)

(6)刊行物6 結晶多形の基礎と応用(2005年?月31日)株式会社シーエムシー出版,p.105?109
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物6」には、次の記載がある。

(6a)「1 医薬品研究開発における結晶多形スクリーニングの重要性
同一化合物であっても,それぞれの結晶多形の間で溶解性,物理化学的安定性は異なる^(1))。医薬品の吸収性に影響する溶解性,貯法・使用期限に影響する物理化学的安定性は重要な物性であり,最終的に医薬品の有効性,安全性をも左右する。
結晶多形は,溶解性,物理化学的安定性が異なるばかりでなく,多形間で準安定形は再安定形へ転移する。・・・結晶多形スクリーニングを適切に実施し,存在し得る結晶多形を見出し,熱力学的に安定な結晶形を明らかにしなければならない。」(105頁8?17行)
(6b)「2 結晶多形スクリーニングの実際
網羅的な結晶多形スクリーニング法の概念は,この数年で一般化し,2002年から2004年の間に約20の報告がなされている。これらの報告を参考に結晶多形スクリーニングの実際を概説する。
・・・
2.2 結晶多形スクリーニングで用いられる結晶化方法と結晶化条件
報告された結晶多形スクリーニング法に採用されている結晶化方法は,溶液状態(スラリー状態を含む)からの結晶化法がほとんどであり,冷却法,蒸発法,貧溶媒法(沈殿法),スラリーコンバージョン法等が行われている^(16))。
・・・
表1 結晶多形スクリーニングで用いられる主な結晶化方法と結晶化条件

結晶化方法 主な結晶化条件
・・・
蒸発法 結晶化溶媒の種類,溶質濃度,蒸発温度,蒸発速度
・・・
2.3 結晶化溶媒
溶液からの結晶化において,結晶化溶媒は結晶核生成と結晶成長に大きく影響を与える重要な結晶化条件の一つである。一般的に用いられる溶媒には,・・・Methanol・・・などがある^(25))。
・・・
2.4 結晶化の実施
報告されているすべてのスクリーニング法において,結晶化で必要な分注,ろ過,加熱,冷却等の操作は,分注ロボットで自動化し省力化している。・・・
結晶化の最初の操作は化合物の秤取であり,化合物を溶解した溶液を各バイアルまたはWellへ分注し,加熱等により乾固する方法が主に行われている。秤取後,各結晶化条件で結晶化溶媒を分注し,加熱等により化合物を溶解する。続いて,冷却,溶媒の蒸発,貧溶媒の添加等の過飽和を生成する操作を実施する。」(106頁12行?109頁1行)

(7)刊行物7 芦澤一英編,医薬品の多形現象と晶析の科学(2002年9月20日)丸善プラネット,p.307,314,317
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物7」には、次の記載がある。

(7a)「第1節 開発候補の塩・結晶形の検討
・・・
(1)結晶性の評価
結晶は,化学的な安定性,溶解性,経口吸収性,物理的な安定性(結晶化度,水和度)並びに原薬・製剤の製造性に対して影響を与える重要な基礎物性である。・・・」(307頁1?20行)

(7b)「また,多形探索は,溶媒の種類だけでなく冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせた方法,温度や過飽和度の異なる条件などを設定することにより,ある程度,多形の存在を明らかにすることはできるが,現実には試行錯誤を繰り返し,偶然に見いだされることを期待する以外に,定まった方法があるわけではない。
松田らは,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法でフロセミドの多形探索を行いその条件を報告しており^(5)),結晶化の条件検討の参考になる。表9は,松田ら^(5))のフロセミドの晶析条件と,析出結晶の種類をまとめたものである。
・・・
表9 松田らのフロセミドの結晶多形の検索事例

」(314頁18?24行,317頁表9)

(8)刊行物8 日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,(平成8年4月5日),p.184-186
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物8」には、次の記載がある。

(8a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のRf 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい1).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値ET;ε,δ,ET は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの危機分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(8b)「


」(186頁表4・5)

刊行物9:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,岩波 理化学辞典 第5版,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物9」には、次の記載がある。

(9a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄017の項)

刊行物10:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,岩波 理化学辞典 第5版,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.1510
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「刊行物10」には、次の記載がある。

(10a)「

」(1510頁左欄040の項)

2 刊行物1に記載された発明について
刊行物1は、摘記(1a)(1b)によれば、R-MNTXと略称されるR-N-メチルナルトレキソンに関する文献であり、N-メチルナルトレキソンは、オピオイドアンタゴニストであるナルトレキソンの第四級誘導体であって臭化物塩などの塩として存在すること、摘記(1d)(1f)によれば、N-メチルナルトレキソン臭化物として、第四級の窒素が以下のR又はS立体配置であり得ることが記載されている。
そして、刊行物1には、摘記(1c)によれば、刊行物1記載の発明として、MNTXのうちR立体配置を有するR-MNTXに着目して、実質的に純粋なR-MNTXを提供するものであることも記載され、R-MNTXは以下の構造

を有し、X^(-)は対イオンであって臭化物イオンなどであることが記載されている。
そして、例2には、実際に、図6の合成スキームに従って、以下の化合物1

から出発してN-メチルナルトレキソン臭化物/ヨウ化物塩を取得し、アニオン交換樹脂カラムで処理して分取した溶出液を濃縮してN-メチルナルトレキソン臭化物をガラス状物として取得し、バッチA及びBにおいてメタノール溶液からの濃縮による再結晶により白色固体を取得したこと、バッチAではR-MNTX97.31%及びS-MNTX2.69%であり、バッチBではR-MNTX97.39%及びS-MNTX2.61%であったこと、また、^(14)CH_(3)-標識材料を用いた別の実験では、メタノールからの2度の再結晶により、R-MNTX98.3%及びS-MNTX1.2%であったことが、記載されている。
上記の、バッチA、バッチB及び別の実験は、再結晶と明記されていることから得られた固体は結晶であって、それぞれ、N-メチルナルトレキソン臭化物の97.31%、97.39%及び98.3%がR-MNTXである結晶であると認められる。

そうすると、刊行物1には、

「(R)-N-メチルナルトレキソン臭化物の結晶」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用化合物である「(R)-N-メチルナルトレキソン臭化物」は、本願発明の「化合物1:

[式中、前記化合物は窒素について(R)立体配置である]」と、立体配置を含め同じ化学構造の化合物であり(以下、この化合物を「化合物M」という。)、また、結晶として取得できるものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「化合物Mの結晶」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:
本願発明においては、化合物Mが、「13.6±0.2度、13.9±0.2度、16.85±0.2度、17.35±0.2度、23±0.2度、23.85±0.2度、24.7±0.2度、26.75±0.2度、および34.75±0.2度の2θから選択される150±1Kの温度での粉末X線回折パターンにおける全てのピークを有する単一結晶形態である」と、150±1Kの温度での特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンによって特徴付けられると特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点

(2)相違点についての判断

ア 化合物Mを特定の2θピークの組を含む150±1Kの温度でのX線粉末回折パターンを有する結晶とすることについて検討
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討したり、結晶多形を調べたりすることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている(摘記(2a)?(2c)、摘記(3a))。
そうすると、化合物Mについても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。
そして、本願発明の上記「13.6±0.2度、13.9±0.2度、16.85±0.2度、17.35±0.2度、23±0.2度、23.85±0.2度、24.7±0.2度、26.75±0.2度、および34.75±0.2度の2θから選択される150±1Kの温度での粉末X線回折パターンにおける全てのピークを有する単一結晶形態である」結晶とは、本願明細書の【0014】に「ある態様において、2θの度数値は、本明細書に記載する場合、小数第2位まで報告する。他の態様において、2θの度数値は、本明細書に記載する場合、小数第1位まで報告する。さらに他の態様において、2θの度数値は、本明細書に記載する場合、小数位なしで報告する。用語「約」を本明細書で引用する任意の2θの度数値を参照して用いる場合、この用語は、値が報告される小数位に従って、示された値±0.2度の2θを意味することが理解される。
他の態様によれば、A形態の化合物1は、その計算されたXRPDパターンにおいて1または2以上のピークを、150±1°Kの温度で収集した単結晶データについて、約13.6、13.9、16.85、17.35、23、23.85、24.7、26.75、および34.75度の2θにおけるものから選択して有することを特徴とする。他の態様において、A形態の化合物1は、その計算された粉末X線回折パターンにおいて2もしくは3以上の、または3もしくは4以上のピークを、150±1°Kの温度で収集した単結晶データについて、約13.6、13.9、16.85、17.35、23、23.85、24.7、26.75、および34.75度の2θにおけるものから選択して有することを特徴とする。さらに他の態様において、A形態の化合物1は、その計算されたXRPDパターンにおいて実質的に全てのピークを、150±1°Kの温度で収集した単結晶データについて、約13.6、13.9、16.85、17.35、23、23.85、24.7、26.75、および34.75度の2θにおけるものから選択して有することを特徴とする。」(下線は当審にて追加。以下同様。)と記載されていることからみて、本願明細書において、A形態として記載されている結晶であると認められる。
そして、本願明細書には、本願発明の化合物M(審決注;上記4のとおり、化合物1と同じ)のA形態を製造するための方法については、【0080】?【0089】の例6に、
「 【0080】
例6
化合物の多形スクリーニング
本明細書に記載の化合物1の形態を、多形スクリーンによって同定した。このスクリーンにおいて、化合物1を種々の溶媒および条件下で結晶または沈殿を生じさせた。このスクリーンの結果を下の表7?13にまとめた。これらの表は、用いた溶媒および条件、得られた形態(XRPDにより決定)、および晶癖の記載を示す。これらの表において、条件は、スラリー、FE、SC、FD、CP、RE、またはSEとして指定した。これらの用語の各々は以下に詳細に定義する。
本明細書において、用語「衝撃沈殿」(「CP」)とは、化合物1の飽和溶液を種々の溶媒中に調製し、これを0.2μmのナイロンフィルターを通してオープンバイアル中にろ過する方法を意味する。種々の抗溶媒のアリコートを撹拌しつつ分取して、沈殿を生じさせた。いくつかのケースにおいては、試料は冷蔵庫または冷凍庫に入れて、沈殿を促進した。固体は、溶媒をピペットで取り出して、固体を周囲条件下で空気乾燥させることにより、解析前に収集した。
【0081】
本明細書において、用語「凍結乾燥」(「FD」)とは、化合物1の飽和溶液を水中に調製し、溶液を0.2μmのナイロンフィルターを通してオープンバイアル中にろ過する方法を意味する。溶液は、液体窒素浴中またはドライアイス中で回転させ、イソプロパノールで洗浄することにより、バイアルの壁に薄い層として凍結させた。凍結試料を含むバイアルを凍結乾燥容器内に入れ、これを次にFlexi-Dry凍結乾燥機に1?3日間取り付けた。温度は実験期間中、-50?-60℃に維持した。
用語「高速蒸発」(「FE」)とは、化合物1の溶液を種々の溶媒中に調製し、ここで試料を、アリコートの添加の間音波破砕する方法を意味する。混合物が目視観察により判定して完全に溶解すると、溶液を0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過した。ろ過した溶液は、周囲条件下でオープンバイアル中で蒸発させた。固体を分離して分析した。
【0082】
用語「回転蒸発」(「RE」)とは、化合物1または非晶質の化合物1の濃縮溶液を、種々の有機溶媒中に調製し、0.2μmのナイロンフィルターを通してオープンバイアル中にろ過する方法を意味する。いくつかのケースにおいては、ろ過した溶液の4?5mLのアリコートを、透明バイアル中に分取した。バイアルを回転蒸発器に取り付けて、溶媒を蒸発させて乾燥した。水浴は通常は周囲温度で行ったが、いくつかのケースにおいては水浴は約50℃に加熱して蒸発を促進した。回転蒸発後に試料が完全に乾燥していない場合は、バイアルを真空オーブン中に25℃で18時間入れた。固体を分離して分析した。 本明細書において、用語「除冷」(「SC」)とは、化合物1の飽和溶液を種々の溶媒中に高い温度において調製し、溶液を0.2μmのナイロンフィルターを通して暖かいバイアル中に温ろ過する方法を意味する。バイアルは蓋をしてホットプレート上に置き、ホットプレートはスイッチを切り、試料が周囲温度に徐々に冷却されるようにした。
【0083】
用語「除蒸発」(「SE」)とは、化合物1の溶液を種々の溶媒中に調製し、ここで試料を、アリコート添加の間に音波破砕する方法を意味する。目視観察により判断して混合物が完全に溶解したら、溶液を0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過した。いくつかのケースにおいては、抗溶媒のアリコートをろ過した溶液に撹拌しつつ加えた。溶液を、ピンホールを開けたアルミニウムホイルで蓋をしたバイアル中で、周囲条件にて蒸発させた。固体を分離して分析した。
用語「スラリー実験」とは、化合物1の懸濁液を、周囲条件または上昇温度にて、所与の溶媒に十分な固体を加えることにより調製し、不溶解の固体が存在するようにした方法を意味する。混合物は次に、周囲温度または上昇温度のどちらかでの密封バイアル内の軌道シェーカー(orbit shaker)に7日間入れた。固体を真空ろ過により、または液体相をピペットで取って分離し、固体を分析前に周囲条件にて空気乾燥させた。
【0084】
本明細書において、用語「蒸気拡散実験」とは、化合物1の濃縮溶液を種々の溶媒中に調製し、0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過する方法を意味する。ろ過した溶液は1ドラム-バイアルに分取し、これを次に約2mLの抗溶媒を含有する20mLのバイアル内に入れた。1ドラム-バイアルは蓋をせず、20mLバイアルは蓋をして、蒸気の拡散を生じさせた。固体は真空ろ過により収集して分析した。
用語「毛細管結晶化技術」とは、毛細管多形スクリーンを化合物1について行う方法を意味する。種々の結晶化技術を用いた。これらの技術は以下に記載する。粉末X線回折品質の毛細管を用いた。結晶化の試みから固体が観察されると、これらを顕微鏡で複屈折および形態について分析した。あらゆる結晶形が見られたが、しかし時には、固体は未知の形態を示し、これはいくつかのケースにおいては毛細管への充填のため、または小さな粒子サイズのためであった。十分に存在する場合は、試料を次にXRPDで解析し、結晶パターンを互いに比較して、新しい結晶形を同定した。
【0085】
用語「遠心蒸発(CentriVap)結晶化:(「遠心蒸発」)とは、所与の溶媒または溶媒混合物中に化合物1の溶液を調製し、0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過する方法を意味する。毛細管に45μLの溶液をシリンジを介して充填した。毛細管を遠心分離した。溶媒を減圧下で、機械的真空ポンプを用いて、Labconco CentriVap(登録商標)遠心蒸発器で蒸発させた。蒸発器温度は、周囲温度に維持した。
【0086】
用語「毛細管中蒸発」(「EC」)とは、所与の溶媒または溶媒混合物中に化合物1の溶液を調製し、0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過する方法を意味する。毛細管に45μLの溶液をシリンジを介して充填した。毛細管を遠心分離した。蒸発は、開いた毛細管中で周囲温度および上昇温度で行った。
用語「毛細管中の溶媒/抗溶媒結晶化」とは、所与の溶媒中に化合物1の溶液を調製し、0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過する方法を意味する。毛細管に15μLの溶液を充填し、遠心分離した。30μLの抗溶媒を加えた。毛細管を遠心分離した。透明な溶液が得られたら、毛細管を周囲温度に置いて溶媒を蒸発させるか、またはLabconco CentriVap遠心蒸発器で、減圧下、周囲条件で機械ポンプを用いて蒸発させた。
【0087】
用語「固体または気体ストレス下での蒸気拡散」(「VS」)とは、毛細管に約1cmの化合物1を充填する方法を意味する。約5mLの種々の溶媒を含有する背の高いバイアル中に毛細管を置くことにより、固体を溶媒蒸気に暴露した。毛細管は約14日後に取り除いた。
【0088】
表7.化合物1の多形スクリーン
溶媒 条件 ・・・ XRPD結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
FE A
SE A
メタノール ・・・・・・
RE B
RE B
(スケールアップ)
RE A+ピーク
45℃から周囲・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・
と記載されている。

ここで、「条件」の欄の用語「高速蒸発」(「FE」)とは、【0081】に記載されるように、「化合物1の溶液を種々の溶媒中に調製し、ここで試料を、アリコートの添加の間音波破砕する方法を意味する。混合物が目視観察により判定して完全に溶解すると、溶液を0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過した。ろ過した溶液は、周囲条件下でオープンバイアル中で蒸発させた。」というものであり、用語「回転蒸発」(「RE」)とは、
「化合物1または非晶質の化合物1の濃縮溶液を、種々の有機溶媒中に調製し、0.2μmのナイロンフィルターを通してオープンバイアル中にろ過する方法を意味する。いくつかのケースにおいては、ろ過した溶液の4?5mLのアリコートを、透明バイアル中に分取した。バイアルを回転蒸発器に取り付けて、溶媒を蒸発させて乾燥した。水浴は通常は周囲温度で行ったが、いくつかのケースにおいては水浴は約50℃に加熱して蒸発を促進した。回転蒸発後に試料が完全に乾燥していない場合は、バイアルを真空オーブン中に25℃で18時間入れた。」というものであり、用語「除蒸発」(「SE」)とは、「化合物1の溶液を種々の溶媒中に調製し、ここで試料を、アリコート添加の間に音波破砕する方法を意味する。目視観察により判断して混合物が完全に溶解したら、溶液を0.2μmのナイロンフィルターを通してろ過した。いくつかのケースにおいては、抗溶媒のアリコートをろ過した溶液に撹拌しつつ加えた。溶液を、ピンホールを開けたアルミニウムホイルで蓋をしたバイアル中で、周囲条件にて蒸発させた。」というものである。

上記例6の化合物MのA形態の製造方法は、それぞれ、化合物Mをメタノールに溶かし、オープンバイアル中で周囲条件下で溶媒のメタノールを蒸発させる(FE)、回転蒸発器を用いて周囲温度にて溶媒のメタノールを蒸発させる(RE)、蒸発速度を抑えるため蓋をしたバイアル中で周囲条件で蒸発させる(SE)というものである。
このような操作は、ごく一般的な、溶液の濃縮による結晶化であって(摘記(4a)(5a)(6b)(7b)(8a)(9a))、溶媒の選択にしても、メタノールのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められ(摘記(5a)(8b))、しかも、メタノールは、刊行物1において再結晶のために用いられている溶媒でもある(摘記(1e))。

蒸発をどのような蒸発速度で行うかは、蒸発法における主な結晶化条件であり(摘記(6b))、蒸発温度も蒸発法における主な結晶化条件である(摘記(6b))。
さらに、減圧を用いるかどうかも、当業者が通常選択し得る事項である(摘記(5c))。 回転蒸発器とは、ロータリーエバポレーターを意味するものと解されるが、ロータリーエバポレーターは減圧・回転を用いて溶液の溶媒を速やかに比較的低い温度で蒸発させる装置として、実験室で溶液の濃縮に普通に用いられるものであって(摘記(10a))、ロータリーエバポレーターによる周囲温度すなわち室温での濃縮も、当業者が通常選択することであると認められる。
また、溶解に際して音波破砕している点も、超音波による溶解法は当業者が通常試みる手段である(摘記(8a))。

したがって、本願発明の化合物MのA形態の結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
そして、相違点に係る、150±1Kの温度での特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する結晶である点は、当業者が、結晶性が期待される医薬化合物の分析において通常用いるX線回折を、温度因子を減少させた特定の低温で測定した場合の結果として提示しただけのことに過ぎない(低温X線回折の測定技術自体は、本願優先日時点の技術常識である。)。
以上によれば、引用発明において、化合物Mの結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成29年11月8日付け意見書3頁14?43行や審判請求書の平成30年5月23日付けの手続補正書(方式)3頁8?37行において、本願発明の化合物1をメタノール中で45℃以上で加熱すると単一結晶が得られないのに対して、引用文献1の実施例2で還流温度直下に加熱している点を指摘して、引用文献1においては、45℃以上で加熱することになる旨主張している。

しかしながら、上述のとおり、本願発明の化合物Mをメタノールに溶かし、オープンバイアル中で周囲条件下で溶媒のメタノールを蒸発させたり、回転蒸発器を用いて周囲温度にて溶媒のメタノールを蒸発させたり、蒸発速度を抑えるため蓋をしたバイアル中で周囲条件で蒸発させたりすることは、ごく一般的な、溶液の濃縮による結晶化であって、溶媒の選択にしても、メタノールのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられているのであるから、本願発明の化合物MのA形態の結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

ウ 効果についての検討
本願発明の効果は、本願明細書の【0005】に「本発明は、末梢μオピオイド受容体アンタゴニストである化合物1の、固体形態を提供する」と記載され、【0013】に「ある態様において、本発明はA形態の化合物1を提供する」と記載され、例7にA形態の種々の溶媒中での溶解度(表14)が記載されている。
結晶の溶解度が結晶毎に異なることは技術常識であり(摘記(2a)?(2)摘記(3a)(4a)(6a))、表14の結果があるからといって、A形態の結晶が当業者の予測を超えた溶解性を有しているとはいえず、顕著な効果を奏しているとはいえない。

エ 審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成29年11月8日付け意見書4頁19?40行や審判請求書の平成30年5月23日付けの手続補正書(方式)2頁11?37行において、本願発明の結晶「A形態」の水への溶解度が73.5mg/mlであることを指摘し、参考資料のメチルナルトレキソンの水溶解度が≧5mg/mlと記載されていることを示して、15倍近い溶解度の差を生じており、顕著な効果である旨主張している。

しかしながら、参考資料のメチルナルトレキソンの水溶解度は、R体の溶解度を示しているわけではないし、下限を示して≧5mg/mlと示されている以上、A形態の水への溶解度が73.5mg/mlと正確に対比できるわけでもない。
そして、上述のとおり、結晶の溶解度が結晶毎に異なることは技術常識であり、表14において、水の溶解度がメタノールやエタノール溶媒の場合の溶解度に比較して高いという結果があるからといって、A形態の結晶が当業者の予測を超えた溶解性を有しているとはいえず、顕著な効果を奏しているとはいえない。
したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明および技術的事項及び本願優先日時点の技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-25 
結審通知日 2018-10-30 
審決日 2018-11-13 
出願番号 特願2016-123222(P2016-123222)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊佐地 公美  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬良 聡機
瀬下 浩一
発明の名称 結晶形およびその使用  
代理人 山尾 憲人  
代理人 森本 靖  
代理人 山尾 憲人  
代理人 森本 靖  

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