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審決分類 審判 査定不服 その他 取り消して特許、登録 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07C
管理番号 1350389
審判番号 不服2018-5652  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-24 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2016-246301「不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 88606、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月31日(優先権主張平成23年2月2日、2件)を出願日とする特願2012-17554号の出願の一部を平成28年12月20日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月28日に手続補正書及び上申書が提出され、同年8月24日付けの拒絶理由に対し同年10月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成31年1月17日付けの拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」)に対し同年2月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
なお、本件については、平成29年7月18日付けで刊行物等提出書が提出されている。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年8月24日付けの拒絶理由通知における理由2であり、その理由2の概要は、この出願の請求項1?4に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2?3に記載された発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができないものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献2.特開平10-168003号公報
引用文献3.特開2005-170909号公報

第3 本願発明
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成31年2月14日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定された以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
固定床多管型反応器を用いて、(i)プロピレン、または、(ii)イソブチレンおよびターシャリーブタノールから選ばれる少なくとも1種、を分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法において、
A)一般式
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を成型した活性の異なる複数種の触媒を使用し、
B)反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
C)反応管の原料ガス入口部に触媒と不活性物質を重量比3:1?19:1の混合割合で混合した触媒層を設け、
D)原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、原料ガス出口側に設置する触媒の焼成温度よりも高いことを特徴とするアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。
【請求項2】
各触媒層における触媒の粒径が同一である請求項1記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。
【請求項3】
各触媒層における触媒が不活性物質に活性粉末を担持してなる球状担持触媒である請求項1または2記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。
【請求項4】
各触媒層における触媒の担持量(活性粉末の重量/(活性粉末の重量+担体の重量))が同一である請求項3記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。」(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】固定床多管型反応器を用いてプロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法において、
イ)一般式
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)Y_(g)Z_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Yは錫、亜鉛、タングステン、クロム、マンガン、マグネシウム、アンチモンおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zはカリウム、ルビジウム、タリウム、およびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、hおよびxはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0?1およびx=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を担持した活性の異なる複数種の担持触媒を使用し、
ロ)反応管の管軸方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
ハ)上記複数種の担持触媒を、反応管管軸方向の原料ガス入口部から出口部に向かって、活性がより高くなるように配置することを特徴とするアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。」

(2b)「【0007】しかしながら、触媒を不活性物質で希釈する方法では、希釈用の不活性物質と触媒とを均一に混合するために非常な努力が行われているが、それでもこの方法では必ずしも均一な充填ができないためホットスポットを生じ易く、その上反応管毎にホットスポット部の位置および温度が異なるといった反応操作上の不都合が生じるため、ホットスポットの抑制法として満足のいく方法ではない。」

(2c)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記従来技術の問題点を解決して、プロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を、効率良く製造する方法を提供しようとするものである。
【0012】すなわち、プロピレンを高負荷反応条件下で気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸を製造するに際し、触媒層におけるホットスポット部の蓄熱を抑制し、目的生成物を高収率で得るとともに、熱負荷による触媒の劣化を防止することにより長期間にわたり安定した生産を行う簡便な方法を提供することである。」

(2d)「【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の気相接触酸化反応のような発熱反応においては、従来、触媒活性成分を種々の形状に成型したものが使用されており、その成分は、触媒活性成分が大半を占めている。触媒は気相接触酸化反応の反応場として考えられるため、発熱はまさに触媒上で起こる。従って、反応に供される触媒の成型品では、反応によって生じた熱が集中することになり、ホットスポットの発生を誘起する。そこで、本発明者らは、触媒上で生じる反応熱の集中を回避し、長期間安定的に目的生成物を得ることを目的として、種々の検討を行った結果、触媒活性成分を不活性担体に担持(被覆)する際の触媒活性成分を含有する粉末の担持量およびその触媒の焼成処理温度、焼成処理時間を制御して調製した活性の異なる複数種の担持触媒を特定の配置で使用することによって、上記の目的を達成することができることを見出した。なお、本発明における活性とは、プロピレンの反応性を示し、転化率と同じ意味である。」

(2e)「【0021】触媒の活性を触媒活性成分の担持量で調整する場合は、担持量を増やすと活性は高くなる。好ましい担持量は5?80重量%、より好ましくは10?60重量%である。なお、担持量は触媒活性成分の重量/(触媒活性成分の重量+担体の重量+強度向上剤(任意成分)の重量)で表され、以下触媒担持率という。ここで、触媒活性成分の重量とは、予備焼成粉末の重量を意味する。本発明において、触媒の活性を焼成処理温度で調整する場合は、焼成処理温度が低くなると活性は高くなる。好ましい焼成温度は450?650℃、より好ましくは480?600℃である。また、焼成処理時間は通常3?30時間、好ましくは4?15時間である。この焼成処理時間においては、焼成処理時間を短くすると触媒の活性は高くなる。」

(2f)「【0025】
【発明の効果】本発明によれば、原料濃度を上げたり、空間速度を上げたりする高負荷反応条件下においても、工業的に不利な方法をとらずに、ホットスポットの発生に伴う暴走反応や過度の酸化反応を回避することができ、しかも定常的な運転が長時間可能になることから、本発明の方法は従来法に比べて特に優れた方法である。本発明に従って、触媒活性成分を含有する粉末を担体に担持させた後、これを焼成して得られる複数の活性の異なる触媒を、反応管管軸方向に設けられた複数の反応帯に充填して反応を行うことにより、高負荷反応条件下でもホットスポットの発生に伴う暴走反応の危険を回避でき、また過度の酸化反応による副生成物の抑制により、高選択率かつ高収率で目的とするアクロレインおよびアクリル酸を得ることができる。 さらに、熱負荷による触媒の劣化が防止され、触媒を長期間安定して使用することができるため、生産性も大幅に向上させることが可能となる。従って、本発明の製造方法はアクロレインおよびアクリル酸の製造に極めて有用な方法である。」

(2g)「【0027】実施例1
(触媒の調製-1)蒸留水3000mlを加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8gと硝酸カリウム2.02gを溶解して水溶液(A)を得た。別に、硝酸コバルト302.7g、硝酸ニッケル162.9g、硝酸第二鉄145.4gを蒸留水1000mlに溶解して水溶液(B)を、また濃硝酸25mlを加えて酸性にした蒸留水200mlに硝酸ビスマス164.9gを溶解して水溶液(C)をそれぞれ調製した。上記水溶液(B)、(C)を混合し、その混合液を上記水溶液(A)に激しく攪拌しながら滴下した。生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し、440℃で3時間予備焼成し、予備焼成粉末570gを得た。その後、この予備焼成粉末200gと、成型助剤として結晶性セルロース10gを混合した。平均粒径3.5mmのアルミナ担体300gを転動造粒器に投入し、その後上記混合物と、バインダーとして33重量%グリセリン水溶液90gを同時に添加し、担体に上記混合物を担持させ、担持率40重量%の粒子(以下、活性成分担持粒子という)を得た。上記活性成分担持粒子を室温で15時間乾燥した後、空気流通下560℃で5時間焼成し触媒(1)を得た。また、得られた触媒の平均粒径は4.0mmであり、触媒活性成分の酸素を除いた組成は、原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.1であった。
【0028】(触媒の調製-2)触媒の調製-1において得た予備焼成粉末300gと成型助剤として結晶性セルロース15gを混合した。平均粒径3.5mmのアルミナ担体300gを転動造粒器に投入し、その後上記混合物と、バインダーとして33重量%グリセリン水溶液135gを同時に添加し、担体に上記混合物を担持させ、担持率50重量%の粒子を得た。上記活性成分担持粒子を室温で15時間乾燥した後、空気流通下520℃で5時間焼成し触媒(2)を得た。また得られた触媒の平均粒径は4.1mmであり、触媒活性成分の酸素を除いた組成は、原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.1であった。
【0029】(酸化反応)熱電対を設置した内径21mmステンレス製(SUS304)反応管に上記触媒(1)、触媒(2)を原料ガス入口部から出口部に向かって、それぞれ105cm、295cm充填した。反応浴温度を337℃、触媒層入口圧力を1.53kg/cm^(2) Gに保ってプロピレン8容量%、酸素14容量%、水蒸気25容量%、窒素53容量%からなる混合ガスを空間速度1860hr^(-1)で通し反応させた。このときの各触媒層の最高温度はそれぞれ入口から388℃、400℃、プロピレン転化率は、97.1%、アクロレイン収率は80.9%、アクリル酸収率は8.1%、アクロレインとアクリル酸の合計選択率は91.7%であり、反応を1000時間以上続けた後も、反応成績の低下は認められなかった。」

(2h)「【0032】実施例3
(触媒の調製-4)触媒の調製-1において得た予備焼成粉末100gと成型助剤として結晶性セルロース5gを混合した。平均粒径4mmのアルミナ担体300gを転動造粒器に投入し、その後上記混合物と、バインダーとして33重量%グリセリン水溶液45gを同時に添加し、担体に上記混合物を担持させ、担持率25重量%の粒子を得た。上記活性成分担持粒子を室温で15時間乾燥した後、空気流通下520℃で5時間焼成し触媒(4)を得た。また得られた触媒の平均粒径は4.3mmであり、触媒活性成分の酸素を除いた組成は、原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.1であった
【0033】(触媒の調製-5)触媒の調製-1において得た予備焼成粉末150gと成型助剤として結晶性セルロース7.5gを混合した。平均粒径4mmのアルミナ担体300gを転動造粒器に投入し、その後上記混合物と、バインダーとして33重量%グリセリン水溶液70gを同時に添加し、担体に上記混合物を担持させ、担持率33重量%の粒子を得た。上記活性成分担持粒子を室温で15時間乾燥した後、空気流通下520℃で5時間焼成し触媒(5)を得た。また得られた触媒の平均粒径は4.5mmであり、触媒活性成分の酸素を除いた組成は、原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.1であった。
【0034】(触媒の調製-6)触媒の調製-1において得た予備焼成粉末200gと成型助剤として結晶性セルロース10gを混合した。平均粒径4mmのアルミナ担体300gを転動造粒器に投入し、その後上記混合物と、バインダーとして33重量%グリセリン水溶液90gを同時に添加し、担体に上記混合物を担持させ、担持率40重量%の粒子を得た。上記活性成分担持粒子を室温で15時間乾燥した後、空気流通下520℃で5時間焼成し触媒(6)を得た。また得られた触媒の平均粒径は4.5mmであり、触媒活性成分の酸素を除いた組成は、原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.1であった。
【0035】(酸化反応)熱電対を設置した内径27mmステンレス製(SUS304)反応管に上記触媒(4)、触媒(5)、触媒(6)を原料ガス入口部から出口部に向かって、それぞれ100cm、100cm、150cmを充填した。反応浴温度を334℃、触媒層入口圧力を1.35kg/cm^(2) Gに保ってプロピレン7容量%、酸素13容量%、水蒸気10容量%、窒素70容量%からなる混合ガスを空間速度1800hr^(-1)で通し反応させた。このときの各触媒層の最高温度は入口からそれぞれ404℃、385℃、352℃、プロピレン転化率は、96.6%、アクロレイン収率は84.2%、アクリル酸収率は6.2%、アクロレインとアクリル酸の合計選択率は93.6%であり、反応を1000時間以上続けた後も、反応成績の低下は認められなかった。」

2 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】
管軸方向に1層以上の触媒層が具備された反応管を複数本有し、これら反応管の外側が反応温度調整用の熱媒体が流通し得る構造の多管式反応器を使用して、プロピレン、プロパン、イソブチレン、及び(メタ)アクロレインの内の少なくとも1種の被酸化物質を分子状酸素または分子状酸素含有ガスとの気相接触酸化反応を行い(メタ)アクリル酸または(メタ)アクロレインを製造する方法において、
該気相接触酸化反応の反応温度を高める変更を該反応温度調整用の熱媒体の入り口温度の変更で行うと共に、
(1)該反応温度調整用の熱媒体入り口温度の変更を、該変更操作1回当たり2℃以下で行い、しかも
(2)引き続き変更操作を行なう場合は、直前の変更操作との時間間隔を10分以上あけて変更操作を行なうこと
を特徴とする(メタ)アクリル酸または(メタ)アクロレインの製造方法。」

(3b)「【0011】
本発明の目的は、管軸方向に1層以上の触媒層が具備された管型反応器を複数個有する多管式反応器を使用し、(メタ)アクロレイン又は(メタ)アクリル酸の製造原料と分子状酸素または分子状酸素含有ガスとの気相接触酸化反応を行い、(メタ)アクロレイン又は(メタ)アクリル酸を製造する方法にあって、生産速度を上昇させるために反応温度を上昇させる反応条件変更後も急激な温度の上昇を抑制し触媒の失活を防止して安定して、効率良く製造を行なう方法を提供することにある。」

(3c)「【0013】
管軸方向に1層以上の触媒層が具備された多管式反応器を使用して(メタ)アクロレインまたは(メタ)アクリル酸の製造原料と、分子状酸素または分子状酸素含有ガスとの気相接触酸化反応を行なう(メタ)アクロレインまたは(メタ)アクリル酸の製造方法において、生産速度を上げるために温度を上昇させる反応条件を変更する際に、反応温度調整用の熱媒体入り口温度の変化を上記で特定された方法で行うことにより、急激な温度上昇もなく安定的に温度条件の変化を実施することができ、その結果、触媒の劣化もなく生産速度を上昇させるための製造条件に変更することができ、安定した効率の良い生産が続行し得る。」

(3d)「【0040】
(ホットスポット)
反応管内を通過する原料ガスは、初めは反応管の原料ガス入口部分に充填された活性が低い触媒層を通過する間に加熱され反応開始温度に達する。反応管に次の層として充填された触媒によって原料(プロピレン、プロパン、イソブチレンあるいは(メタ)アクロレイン)が酸化反応され、その酸化反応熱でさらに温度上昇する。反応量は原料ガス入口近くの触媒層がもっとも多く、通常は熱媒体による除熱量より大きく発生する反応熱は原料ガスの温度上昇として働き、ホットスポットが形成される。
ホットスポットは触媒活性の調整にもよるが、反応管の原料ガス入口から反応管長さ全体の10?80%の位置となることが多く、例えば、3?4mの反応管を用いた場合、反応管原料ガス入口の0.3?3.2mの位置に形成される。
ここで発生する反応熱の発生量が、熱媒体の反応管外よりの除熱能力を超えたときには、原料ガス温度は益々上昇しさらに反応熱の発生量も拡大して、ついには暴走反応にいたり、触媒の耐えうる最高温度を超えて触媒が質的な変化を受け劣化や破壊に繋がる。プロピレンの分子状酸素含有ガスによる酸化反応でアクロレインを製造する前段反応器を例に説明すれば、熱媒体温度は250?350℃であり、該ホットスポットの許容最高温度は400?500℃である。またアクロレインを分子状酸素含有ガスにて酸化しアクリル酸を得る後段反応器の熱媒体温度は200?300℃であり、ホットスポットの許容最高温度は300?400℃である。」

(3e)「【0048】
(触媒層、活性の調整等)
反応管内の触媒層の活性は変化させることができる。
反応管内の触媒層の活性を変化するための調整方法としては、例えば、触媒の組成を調節して各触媒層に異なる活性の触媒を用いたり、触媒粒子を不活性物質粒子と混合し触媒を希釈することにより、各触媒層の活性の調整をする方法が挙げられる。
後者の方法の具体例として、触媒層を例えば2層となし、反応管の原料ガス入口部分の触媒層は不活性物質粒子割合の高い触媒層として、不活性物質粒子の使用割合を触媒に対して例えば0.3?0.7としとして低活性の層とし、反応管の出口側の触媒層はこの割合を例えば0?0.5と低くするか或いは希釈しない触媒を充填して高活性の層とする方法が挙げられる。」

(3f)「【0061】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
(触媒)
パラモリブテン酸アンモン94重量部を純水400重量部に加熱溶解した。一方、硝酸第二鉄7.2重量部、硝酸コバルト25重量部及び硝酸ニッケル38重量部を純水60重量部に加熱溶解させた。これらの溶液を十分に攪拌しながら混合し、スラリー状の溶液を得た。
次に、純水40重量部にホウ砂0.85重量部及び硝酸カリウム0.36重量部を加熱下で溶解させ、上記スラリーに加えた。次に粒状シリカ64重量部を加えて攪拌した。次に予めMgを0.8重量%複合した次炭酸ビスマス58重量部を加えて攪拌混合し、このスラリーを加熱乾燥した後、空気雰囲気で300℃、1時間熱処理し、得られた粒状固体を成型機を用いて直径5mm、高さ4mmの錠剤に打錠成型し、次に500℃、4時間の焼成を行って前段触媒を得た。
得られた触媒前段は、Mo(12)Bi(5)Ni(3)Co(2)Fe(0.4)Na(0.2)Mg(0.4)B(0.2)K(0.1)Si(24)O(x)の組成の触媒粉(酸素の組成xは各金属の酸化状態によって定まる値である)の組成比を有するMo-Bi系複合酸化物であった。
【0062】
(プロピレンからアクリル酸およびアクロレインの製造)
本実施例では、図1に示すものと同様の多管式反応器を用いた。
具体的には、反応管の長さが3.5m、内径27mmのステンレス製反応管を10,000本有する反応器シェル(内径4,500mm)の多管式反応器を用いた。反応管は、反応器シェルの中央部付近に開口部を有する穴あき円盤形邪魔板6a中央の円形開口部領域には配置されていない。邪魔板は、反応器シェルの中央部付近に開口部を有する穴あき円盤形邪魔板6aと、反応器シェルの外周部との間に開口部を有するように配置された穴あき円盤形邪魔板6bが6a-6b-6aの順に等間隔に設置されていて、邪魔板の開口比は各々18%であった。
【0063】
熱媒体として硝酸塩類混合物溶融塩(ナイター)を用い、反応器下部より供給し反応器上部より抜き出し循環した。
この熱媒体は、8bより一部を抜き出し除熱され、8aへ戻された。これによって反応器へ供給する熱媒体の温度が調整され、この温度は温度計15で測定された。
各反応管に充填する触媒としては、上記前段触媒と触媒活性を有しない直径5mmのシリカ製ボールを混合して触媒活性を調節したものを使用し、反応管入口から触媒活性の比が0.5、0.7、1となるように充填し、3層の触媒層を形成した。
原料ガスは反応器上部より供給することで熱媒体と向流式とし、75kPa(ゲージ圧)でプロピレン濃度9モル%、分子状酸素濃度14.5モル%、水9モル%、窒素67.5モル%の原料ガスを12,300Nm^(3)/hで供給した。反応管には管軸方向に10点の測定点を有する温度計を挿入して温度分布を測定した。」

3 引用文献に記載された発明
(1)引用文献2に記載された発明
引用文献2の(1a)には、
「固定床多管型反応器を用いてプロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法において、
イ)一般式
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)Y_(g)Z_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Yは錫、亜鉛、タングステン、クロム、マンガン、マグネシウム、アンチモンおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zはカリウム、ルビジウム、タリウム、およびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、hおよびxはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0?1およびx=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を担持した活性の異なる複数種の担持触媒を使用し、
ロ)反応管の管軸方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
ハ)上記複数種の担持触媒を、反応管管軸方向の原料ガス入口部から出口部に向かって、活性がより高くなるように配置することを特徴とするアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。」ことが記載されている。
そして、触媒の活性については、「本発明において、触媒の活性を焼成処理温度で調整する場合は、焼成処理温度が低くなると活性は高くなる。好ましい焼成温度は450?650℃、より好ましくは480?600℃である。また、焼成処理時間は通常3?30時間、好ましくは4?15時間である。この焼成処理時間においては、焼成処理時間を短くすると触媒の活性は高くなる。」ことが記載されており(摘記(2e))、実施例1においては、ステンレス製(SUS304)反応管に560℃で5時間焼成し触媒(1)、520℃で5時間焼成し触媒(2)を原料ガス入口部から出口部に向かって充填したことが記載されている(摘記(2g))。
そうすると、引用文献2においては、「原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、原料ガス出口側に設置する触媒の焼成温度よりも高い」といえる。

してみると、引用文献2には、
「固定床多管型反応器を用いてプロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法において、
イ)一般式
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)Y_(g)Z_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Yは錫、亜鉛、タングステン、クロム、マンガン、マグネシウム、アンチモンおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Zはカリウム、ルビジウム、タリウム、およびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、hおよびxはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0?1およびx=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を担持した活性の異なる複数種の担持触媒を使用し、
ロ)反応管の管軸方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
ハ)上記複数種の担持触媒を、反応管管軸方向の原料ガス入口部から出口部に向かって、活性がより高くなるよう、原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、原料ガス出口側に設置する触媒の焼成温度よりも高いように配置するアクロレイン及びアクリル酸の製造方法。」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「固定床多管型反応器を用いてプロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法」は、本願発明1の「固定床多管型反応器を用いて、(i)プロピレン、または、(ii)イソブチレンおよびターシャリーブタノールから選ばれる少なくとも1種、を分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法」に相当する。
引用発明の「一般式Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)Y_(g)Z_(h)O_(x)で表される組成の触媒活性成分」は、Yが錫、亜鉛、タングステン、クロム、マンガン、マグネシウム、アンチモンおよびチタンであり、hが0.005?1である限りにおいて、本願発明1の触媒活性成分に相当する。
引用発明の「反応管の管軸方向に複数個分割して形成された触媒層を設け」は、本願発明1の「反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け」に相当し、引用発明の「上記複数種の担持触媒を、反応管管軸方向の原料ガス入口部から出口部に向かって、活性がより高くなるよう、原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、原料ガス出口側に設置する触媒の焼成温度よりも高いように配置」は、本願発明1の「原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、原料ガス出口側に設置する触媒の焼成温度よりも高いこと」に相当する。
引用発明の「触媒活性成分を含有する粉末を担持した活性の異なる複数種の担持触媒」は、実施例3において、予備焼成粉末と成型助剤である結晶性セルロースを混合し、アルミナ担体に混合物を担持させた後に焼成して触媒を得たことが記載されているから(摘記(2h))、「粉末を成型した触媒」であるといえ、本願発明1の「触媒活性成分を含有する粉末を成型した活性の異なる複数種の触媒」に相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明は、「固定床多管型反応器を用いてプロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法において、
A)一般式
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?1、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を成型した活性の異なる複数種の触媒を使用し、
B)反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
D)原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、原料ガス出口側に設置する触媒の焼成温度よりも高いアクロレインおよびアクリル酸の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
本願発明1は、B)とD)の間に「C)反応管の原料ガス入口部に触媒と不活性物質を重量比3:1?19:1の混合割合で混合した触媒層を設け」ることを特定しているのに対して、引用発明ではそのような特定がない点

(2)判断
上記相違点について検討する。
(メタ)アクリル酸または(メタ)アクロレインの製造方法である引用文献3の実施例1においては、各反応管に充填する触媒として、触媒と触媒活性を有しない直径5mmのシリカ製ボールを混合して触媒活性を調節したものを使用し、反応管入口から触媒活性の比が0.5、0.7、1となるように充填し、3層の触媒層を形成したこと(摘記(3f))が、また、反応管内の触媒層の活性を変化させる調製方法として、触媒層を2層となし、反応管の原料ガス入口部分の触媒層は不活性物質粒子割合の高い触媒層として、不活性物質粒子の使用割合を触媒に対して例えば0.3?0.7として低活性の層とし、反応管の出口側の触媒層はこの割合を0?0.5と低くするか或いは希釈しない触媒を充填して高活性の層とすること(摘記(3e))がそれぞれ記載されている。
そうすると、反応管の原料ガス入口部における触媒と不活性物質の比率が0.5、すなわち1:1であることが記載され、また、反応管の原料ガス入口部において、不活性物質粒子を触媒に対して0.3、すなわち2.3:1とすることまでは記載されているといえる。
しかしながら、引用文献3には、反応管の原料ガス入口部における触媒と不活性物質の比率を1:1?2.3:1とすることまでは記載されているものの、3:1?19:1と触媒の混合割合を高めることまでは記載されているとはいえず、本願発明はこの構成により、原料転化率が低くなる反応管においても、その反応管に充填された触媒の温度は原料ガス出口側のほうが原料ガス入口側よりも相当高くなることで異常反応が発生するという現象を回避することができるという効果を奏するものである。
よって、当業者といえども、上記相違点に係る「反応管の原料ガス入口部に触媒と不活性物質を重量比3:1?19:1の混合割合で混合した触媒層を設け」ることは容易に想到することはできないといえる。

(3)本願発明2?4と引用発明について
本願発明2?4も、本願発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、触媒の粒径や担持量などを特定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて容易に発明することができたものとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明1?4は、当業者が引用文献2?3に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
本願発明1?4は、上記第5で検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献2?3に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?4は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできず、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-12 
出願番号 特願2016-246301(P2016-246301)
審決分類 P 1 8・ 5- WY (C07C)
P 1 8・ 121- WY (C07C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桜田 政美水野 浩之  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 瀬下 浩一
菅原 洋平
発明の名称 不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法  

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