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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1350435
審判番号 不服2017-12226  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-17 
確定日 2019-04-02 
事件の表示 特願2016-545351「入れ子ガラス貫通ビア変圧器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月23日国際公開、WO2015/108652、平成29年 2月 9日国内公表、特表2017-504969〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年1月14日:米国)を国際出願日とした特許出願であって、平成28年11月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月2日付けで手続補正がなされたが、同年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成29年8月17日付けの手続補正書についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年8月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成29年8月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前(平成29年3月2日付け手続補正書参照。)に、

「3次元入れ子変圧器であって、
第1の表面および反対側の第2の表面を有する基板を備え、前記基板は、複数のトレースとともにデイジーチェーン接続される複数の基板貫通ビアを有し、前記複数の基板貫通ビアのうちの少なくともいくつかは第1の導電性領域および第2の導電性領域を有し、前記第1の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの内側コアを含み、前記第2の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの外側シェルを含み、各内側コアは分離層によって前記外側シェルから分離され、
前記複数のトレースは、前記基板の前記第1の表面および前記第2の表面の各々において前記複数の基板貫通ビアの第1の基板貫通ビアの内側コアを第2の基板貫通ビアの内側コアに互いに結合する一次巻線に対応する第1の組のトレースのうちの第1のトレースと、前記基板の前記第1の表面及び前記第2の表面の各々において前記第1の基板貫通ビアの外側シェルを前記第2の基板貫通ビアの外側シェルに互いに結合する二次巻線に対応する第2の組のトレースの第2のトレースとを含み、前記第1の組のトレースおよび前記第2の組のトレースは前記基板の両側にある第1の表面および第2の表面上にあり、前記複数の基板貫通ビアによって蛇行するように互いに結合される、3次元入れ子変圧器。」

とあったものが、

「3次元入れ子変圧器であって、
第1の表面および反対側の第2の表面を有する基板を備え、前記基板は、複数のトレースとともにデイジーチェーン接続される複数の基板貫通ビアを有し、前記複数の基板貫通ビアのうちの少なくともいくつかは第1の導電性領域および第2の導電性領域を有し、前記第1の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの内側コアを含み、前記第2の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの外側シェルを含み、各内側コアは分離層によって前記外側シェルから分離され、
前記複数のトレースは、前記基板の前記第1の表面および前記第2の表面の各々において前記複数の基板貫通ビアの第1の基板貫通ビアの内側コアを第2の基板貫通ビアの内側コアに互いに結合する一次巻線に対応する第1の組のトレースのうちの第1のトレースと、前記基板の前記第1の表面及び前記第2の表面の各々において前記第1の基板貫通ビアの外側シェルを前記第2の基板貫通ビアの外側シェルに互いに結合する二次巻線に対応する第2の組のトレースの第2のトレースとを含み、前記第1の組のトレースおよび前記第2の組のトレースは前記基板の両側にある第1の表面および第2の表面上にあり、前記複数の基板貫通ビアによって蛇行するように互いに結合され、
前記基板は、ガラス、サファイア、石英または高抵抗シリコンを含む、3次元入れ子変圧器。」

と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1において、「基板」が「ガラス、サファイア、石英または高抵抗シリコンを含む」ことの限定を付加したものである。

よって、本件補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項の限定を目的にするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。


2.引用例

(1)原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第5300911号明細書(1994年4月5日公開。以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

ア.「In one aspect of the present invention, a transformer which can be surface mounted is provided. The transformer has a plate of flux permeable, substantially noncurrent conducting material. A first layer of electrical current conductive material extends between faces of the plate and forms a first single turn winding. An electrically insulating layer covers the first layer of electrical current conductive material. A second layer of electrical current conductive material covers the insulating layer between faces of the plate and forms a second single turn winding. Means for electrically connecting to the first layer of conductive material is provided, as well as means for electrically connecting to the second layer of conductive material.
In another aspect of the present invention a method of fabricating a magnetic device for surface mounting on a circuit board is provided. A plurality of holes are formed through a plate of flux permeable material. A first layer of current conductive material is plated in the holes to form a plurality of first windings. A first layer of current conductive material is plated on both sides of the plate with a pattern which interconnects at least a portion of the plurality of first windings. A first layer of current conductive material is also formed on several regions of the plate for use in surface mounting. Each of the regions is connected to at least a portion of the first windings. The first layer of current conductive material is covered with an insulating layer. A second layer of current conductive material is plated in the holes on the insulating layer to form a plurality of second windings. The second layer is plated on both sides of the plate with a pattern which interconnects at least a portion of the plurality of second windings. A second layer of current conductive material is also formed on several regions on the plate for use in surface mounting. Each of the regions connected to at least a portion of the second windings」(第1欄第55行目-第2欄第23行目)
(当審仮約)
「本発明の一態様では、表面実装可能な変圧器が提供される。変圧器は、透磁性で実質的に絶縁材料のプレートを有する。第1の導電性材料層は、プレートの表面上に延在し、第1の単一ターン巻線を形成する。電気絶縁層は、第1の導電性材料層を覆う。第2の導電性材料層は、プレートの表面上の絶縁層を覆い、第2の単一ターン巻線を形成する。第1の導電性材料層に電気的に接続するための手段と、第2の導電性材料層に電気的に接続するための手段が提供される。
本発明の別の態様では、回路基板上に表面実装するための磁気デバイスを製造する方法が提供される。透磁性材料のプレートを貫通する複数の孔が形成される。第1の導電性材料層は、複数の第1の巻線を形成するために、孔内にメッキされる。第1の導電性材料層は、複数の第1の巻線の少なくとも一部を相互接続するパターンとしてプレートの両面にメッキされる。第1の導電性材料層は、表面実装で使用するための、プレートの複数の領域としても形成されている。領域の各々は、第1の巻線の少なくとも一部に接続されている。第1の導電性材料層は、絶縁層で覆われる。第2の導電性材料層は、複数の第2の巻線を形成するために、孔内の絶縁層上にメッキされる。第2の導電性材料層は、複数の第2の巻線の少なくとも一部を相互接続するパターンとしてプレートの両面にメッキされる。第2の導電性材料層は、表面実装で使用するための、プレートの複数の領域としても形成されている。領域の各々は、第2の巻線の少なくとも一部に接続されている。」

イ.「A multiple element magnetic device which can be configured as a transformer with different turns ratios or arranged as multiple transformers is shown in FIGS. 6A, 6B, 6C, and 6D. The multiple element device has a single plate of magnetic flux permeable, high electrical resistance material 36, such as ferrite, conforming to the outline of a ceramic leadless chip carrier having dimensions of 0.35 inches by 0.35 inches by 0.1 inches ,for example, and a plurality of indentations 37 about the perimeter to provide surface solder connection to a printed circuit board The leadless chip carrier outline has an index corner 38 for orientation purposes. Ceramic leadless chip carriers come in a variety of sizes and different sizes can be used depending on the number of elements and the power capability desired. A plurality of single turn primary, single turn secondary, transformer elements are located on the ferrite plate, with sixteen elements shown in the embodiment of FIG. 6. As described in connection with FIG. 1, each of the transformer elements shown in FIG. 6 includes a hole 39, extending through the ferrite plate. A coating of electrically conductive material, such as copper, is plated on the bottom and top of the plate with the pattern 41 and 43 shown in FIGS. 6A and 6B, respectively, using printed circuit technology. The pattern on the top of the plate 43 surrounds each of the holes and together with pattern on the bottom of the plate and plating on the interior walls of the holes connects the sixteen elements in series. The pattern on the bottom of the plate 41 provides a conductive pattern, around each of the holes and extends. The conductive pattern to the edge of the chip to form interconnect regions 41A and 41B for the first and last element in the series connection of the elements. The plates holes 39 serve as vias connecting plated areas surrounding the holes at the top and bottom of the plate. The first layer of conductive plating in the hole provides the primary winding of the transformer element. A layer of electrically insulating material, such as Parylene C thermoplastic polymer, is deposited on the plated conductive material including the vias, as was discussed in connection with FIG. 2.
A second layer of electrical current conductive material, such as copper is plated on the bottom and top of the insulating material including the vias, with the second layer of plating in the vias forming the transformer element secondary as shown in FIGS. 6C and 6D. Note the location of the indexing corner 38 in determining the relative orientation of FIGS. 6C and 6D. The pattern of conductive material on the bottom of the plate 45 again surrounds the holes and together with the pattern 46 on the top of the plate providing two groups of eight, series connected elements. The pattern on the bottom of the ferrite plate brings out four termination regions 45A, 45B, 45C, and 45D to the edge of the plate. The termination regions are connected to the first and last element of the first eight series connected elements and the first and last element of the second group of eight series connected elements.」(第5欄第3行目-第54行目)
(当審仮約)
「異なる巻数比を有する変圧器または複数の変圧器として構成することができる複数素子の磁気デバイスが、図6A,6B,6Cおよび6Dに示されている。複数素子デバイスは、例えば、0.35インチ×0.35インチ×0.1インチの寸法を有するセラミックリードレスチップキャリアの外形に合致した、フェライトのような透磁性高電気抵抗材料36の単一のプレートを有し、プリント基板とのハンダ接続面の周囲に凹部37を有している。セラミックリードレスチップキャリアは様々なサイズであり、必要とされる要素の数および電力容量に応じて、様々なサイズを使用することができる。複数の単一ターンの一次巻線、単一ターンの二次巻線、変圧器素子は、図6の実施形態で示した16個の素子としてフェライトプレート上に配置される。図1に関連して説明したように、図6に示された変圧器素子の各々は、フェライトプレートを貫通する孔39を含む。銅のような導電性材料のコーティングは、プリント回路技術を使用して、図6Aと6Bに示したパターン41および43として、それぞれ、プレートの底部および頂部にメッキされる。プレート43頂部のパターンは孔の周囲を囲み、プレート底部のパターンと孔の内壁上のメッキと共に16の素子を直列に接続する。プレート41の底部のパターンは、各穴孔の周囲と延長部の導電性パターンを形成する。チップ端部の導電パターンは、直列接続された素子の最初と最後の素子への相互接続領域41A及び41Bを形成する。メッキされた孔39は、プレートの頂部および底部の孔周辺のメッキされた領域を接続するビアとして機能する。孔内の導電性メッキの第1の層は、変圧器素子の一次巻線を提供する。図2に関連して議論したように、ビアを含むメッキされた導電材料上にパリレンC熱可塑性ポリマーのような電気的絶縁材料層が積層される。
銅のような第2の導電性材料層が、ビアを含む絶縁材料の底面および頂面にメッキされ、ビア内の第2のメッキ層は、図6C及び6Dに示すように、変圧器素子の二次側を形成する。図6Cおよび6Dの相対的な向きを決定する際に、インデックスコーナー38の位置に留意されたい。プレート45の底面の導電性材料のパターンはまた、孔を取り囲み、プレートの頂部上のパターン46と共に、8つの直列に接続された素子の2つのグループを提供する。」

上記ア、イ、及び図1Aないし3、6Aないし7の記載によれば、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記ア、イによれば、引用例1に記載の発明は、変圧器に関するものであり、変圧器はフェライトのような透磁性高電気抵抗材料のプレートを有するものであり、プレートは頂部と底部を有するものである。
・上記ア、イ及び図2、図6A、6Bによれば、プレートには、プレートを貫通する複数の孔が形成されている。
・上記ア、イ及び図2、図6A、6Bによれば、プレートの頂部、底部および孔内には、一次巻線である複数の第1の巻線を形成するために第1の導電性材料層がメッキされている。そして、プレートの頂部および底部の第1の導電性材料層は複数のパターンを形成しており、孔の内壁上のメッキによって、複数のパターンが直列に接続されており、メッキされた孔はプレートの頂部および底部の孔周辺のメッキされた領域を接続するビアとして機能しているものである。
・上記ア、イ及び図2によれば、ビアを含む第1の導電性材料層の上に絶縁材料層が積層されている。
・上記ア、イによれば、ビアを含む絶縁材料層上には、変圧器の二次側を形成する複数の第2の巻線を形成するために第2の導電性材料層がメッキされている。そして、プレートの頂部および底部の第2の導電性材料層は、複数のパターンを形成しており、孔の絶縁材料層上のメッキによって各パターンが直列に接続されている。

そうすると、上記摘示事項、図1Aないし3、6Aないし7を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「変圧器であって、
頂部と底部を有するフェライトのような透磁性高電気抵抗材料のプレートを備え、
プレートには、プレートを貫通する複数の孔が形成されており、
プレートの頂部、底部および孔内には、一次巻線である複数の第1の巻線を形成するために第1の導電性材料層がメッキされ、プレートの頂部および底部の第1の導電性材料層は、複数のパターンを形成するとともに、孔の内壁上のメッキによって複数のパターンが直列に接続されており、メッキされた孔は、プレートの上下面の孔周辺のメッキされた領域を接続するビアとして機能しており、
ビアを含む第1の導電性材料層の上に絶縁材料層が積層され、
ビアを含む絶縁材料層上には、変圧器の二次側を形成する複数の第2の巻線を形成するために第2の導電性材料層がメッキされ、プレートの頂部および底部の第2の導電性材料層は、複数のパターンを形成するとともに、孔の絶縁材料層上のメッキによって各パターンが直列に接続された、
変圧器。」

(2)新たに引用する特表2013-524488号公報(平成25年6月17日公開。以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ウ.「本開示は、概して集積回路デバイスに関し、より詳細には、集積回路デバイスで使用される高抵抗率基板において実現されるインダクタおよび変圧器に関する。」(段落【0001】)
エ.「図1は、ガラス基板102と、デバイス層104と、複数のバックエンドオブライン(BEOL)層106とを含むガラス技術ダイ100を示している。ガラス基板102は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)基板よりも抵抗率が高く、かつ誘電率が低い(約4.7)。集積回路ダイでは抵抗率のより高い他の基板材料、たとえばサファイアまたは石英を使用してもよい。」(段落【0021】)

上記ウ、エの記載によれば、「集積回路デバイスで使用される高抵抗率基板において実現されるインダクタおよび変圧器において、高抵抗率基板に、ガラス、サファイアまたは石英を使用する」という技術的事項が記載されている。

(3)新たに引用する特開2007-180436号公報(平成19年7月12日公開。以下「引用例3」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

オ.「従来から、平面型インダクタあるいは平面型トランスと称する薄型の電磁誘導部品が種々提案されている。また、コイル基板として半導体基板を用いることにより半導体製造プロセスを利用して小型化することも考えられている」(段落【0001】)
カ.「コイル基板10にはガラス基板やフェライトのような磁性体基板を用いることが可能である」(段落【0022】)

上記オ、カの記載によれば、「平面型インダクタあるいは平面型トランスと称する薄型の電磁誘導部品のコイル基板として、半導体基板のほか、ガラス基板やフェライトのような磁性体基板を用いることが可能である」という技術的事項が記載されている。

(4)新たに引用する特開2001-127439号公報(平成13年5月11日公開。以下「引用例4」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

キ.「従来より、外側スルーホール導体とこれと略同軸の中心スルーホール導体とからなる複合同軸スルーホール導体を備える配線基板が知られている。」(段落【0002】)

ク.「次に、中心導体形成工程において、内側貫通孔17内に外側スルーホール導体8と略同軸の中心導体16を形成する。まず、中心スルーホール導体形成工程において、図4(a)に示すように、内側貫通孔17の内周面17Cに、略筒状の中心スルーホール導体18を形成する。」(段落【0032】)

ケ.「次いで、実施形態2の配線基板及びその製造方法について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の配線基板51は、中心導体66が内側貫通孔67内に充填された導電性樹脂68からなる点が、上記実施形態1と異なり、その他の部分は上記実施形態1と同様である(図6参照)。」(段落【0045】)

上記の記載キないしケによれば、「外側スルーホール導体とこれと略同軸の中心スルーホール導体とからなる複合同軸スルーホールにおいて、中心(スルーホール)導体を、略筒形状の中心スルーホール導体、または、導電性樹脂が充填された中心(スルーホール)導体とする」という技術的事項が記載されている。

(5)新たに引用する特開2001-244635号公報(平成13年9月7日公開。以下「引用例5」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

コ.「図8に示すように、同軸スルーホール66は、外層スルーホール36及び内層スルーホール62から成る。外層スルーホール36及び内層スルーホール62は、それぞれビルドアップ配線層80Aとビルドアップ配線層80Bとを接続している。外層スルーホール36は、コア基板30の貫通孔33の壁面に金属膜38が形成されて成る。そして、外層スルーホール36の内側には、外層樹脂絶縁層42が形成されている。外層樹脂絶縁層42の内側には、内層スルーホール62が形成されている。
【0035】内層スルーホール62は、金属層50、無電解めっき膜52、電解めっき膜56の3層からなる。あるいは、各2層で形成されてもよい。また、内層スルーホール62の内側には、内層樹脂絶縁層64が形成されている。」(段落【0034】-【0035】)

サ.「第1実施形態では、内層スルーホール62内に樹脂充填剤が充填されたが、第3実施形態では、内層スルーホール62がめっきにより充填されている。」(段落【0066】)

上記コ、サの記載によれば、「外層スルーホールと内層スルーホールから成る同軸スルーホールにおいて、内層スルーホールを、内部に樹脂充填剤を充填した内層スルーホールとすること、または、めっきにより充填された内層スルーホールとすること」という技術的事項が記載されている。


3.対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「頂部と底部を有するプレート」は本願補正発明の「第1の表面および反対側の第2の表面を有する基板」に相当する。
・引用発明の「パターン」は、本願補正発明の「トレース」に相当する。
・引用発明の「プレートを貫通する複数の孔」は、孔の内壁上のメッキおよび孔の絶縁材料層上のメッキにより、プレートの頂部のパターンと底部のパターンを接続する「ビア」として機能するものである。また、引用発明の複数のパターンは、孔内のメッキを介して直列に接続されており、このような接続形状は、デイジーチェーン接続とも呼ばれている。
よって、引用発明の「プレートを貫通する複数の」「メッキされた孔」が「プレートの上下面の孔周辺のメッキされた領域を接続するビアとして機能」していることは、本願補正発明の「前記基板は、複数のトレースとともにデイジーチェーン接続される複数の基板貫通ビアを有し」ていることに相当する。
・引用発明の「複数の孔」は、孔内に第1の導電性材料層がメッキされ、第1の導電性材料層の上に絶縁材料層が積層され、絶縁材料層上には、第2の導電性材料層がメッキされている。よって、孔の中心から見て「第1の導電性材料層」は外側に設けられ、「第2の導電性材料層」は内側に設けられるものである。したがって、引用発明の「複数の孔」は、第2の導電性材料層および第1の導電性材料層を有するものであるから、本願補正発明の「第1の導電性領域および第2の導電性領域を有」する「複数の基板貫通ビア」に相当する。また、孔の内側にメッキされたものを含む「第2の導電性材料層」は、本願補正発明の「複数の基板貫通ビアの内側コアを含」む「前記第1の導電性領域」に相当し、孔の外側にメッキされたものを含む「第1の導電性材料層」は、本願補正発明の「複数の基板貫通ビアの外側シェルを含」む「前記第2の導電性領域」に相当する。
そして、「絶縁材料層」は、「第1の導電性材料層」と「第2の導電性材料層」とを電気的に絶縁するための層であり、換言すると、電気的に分離するための層ともいえるから、本願補正発明の「内側コア」を「外側シェルから分離する」「分離層」に相当する。
・引用発明の「複数のパターン」には、複数の第一の巻線を形成するために、「第1の導電性材料層」により形成された複数のパターンを含み、当該複数のパターンは、孔の内壁上のメッキによって直列に接続されている。よって、引用発明の「第1の導電性材料層」により形成された「複数のパターン」は、本願補正発明の「前記基板の前記第1の表面及び前記第2の表面の各々において前記第1の基板貫通ビアの外側シェルを前記第2の基板貫通ビアの外側シェルに互いに結合する」「第2の組のトレースの第2のトレースとを含」むことに相当する。
また、引用発明の「複数のパターン」には、複数の第2の巻線を形成するために、「第2の導電性材料層」により形成された複数のパターンを含み、当該複数のパターンは、孔の絶縁材料層上のメッキによって直列に接続されている。よって、引用発明の「第2の導電性材料層」により形成された「複数のパターン」は、本願補正発明の「前記複数の基板貫通ビアの第1の基板貫通ビアの内側コアを第2の基板貫通ビアの内側コアに互いに結合する」「第1の組のトレースのうちの第1のトレース」に相当する。
ただし、本願補正発明では、基板貫通ビアの内側コアに結合する第1のトレースが「一次巻線」に対応し、基板貫通ビアの外側シェルに結合する第2のトレースが「二次巻線」に対応するのに対して、引用発明では、孔の内側に設けられた第2の導電性材料層が「二次側」に対応し、孔の外側に設けられた第1の導電性材料層が「一次巻線」に対応する点、すなわち、本願補正発明と引用発明において一次巻線と二次巻線の位置関係が逆である点で一応相違している。
・引用発明の「第1の導電性材料層」により形成された「複数のパターン」と、引用発明の「第2の導電性材料層」により形成された「複数のパターン」のそれぞれは、「プレート」の頂部及び底部の表面上において、複数の孔内のメッキにより直列に接続されており、引用例1の図6Aないし6Dを参照すると、「複数のパターン」は複数の孔によって、蛇行するように接続することが図示されているから、本願補正発明の「前記第1の組のトレースおよび前記第2の組のトレースは前記基板の両側にある第1の表面および第2の表面上にあり、前記複数の基板貫通ビアによって蛇行するように互いに結合され」ることに相当する。
・引用発明の「変圧器」は、第1の巻線を形成する第1の導電性材料層の上に、絶縁層を挟んで第2の導電性材料層が設けられた立体的な2層構造となっている。このような2層構造は、いわゆる入れ子とよばれる構造であり、立体的な構造とはすなわち3次元構造であることから、引用発明の「変圧器」は本願補正発明の「3次元入れ子変圧器」に相当する。
・ただし、本願補正発明の「基板」は「ガラス、サファイア、石英または高抵抗シリコンを含む」ものであるのに対して、引用発明の「プレート」は、「フェライト」である点で相違している。

よって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「3次元入れ子変圧器であって、
第1の表面および反対側の第2の表面を有する基板を備え、前記基板は、複数のトレースとともにデイジーチェーン接続される複数の基板貫通ビアを有し、前記複数の基板貫通ビアのうちの少なくともいくつかは第1の導電性領域および第2の導電性領域を有し、前記第1の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの内側コアを含み、前記第2の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの外側シェルを含み、各内側コアは分離層によって前記外側シェルから分離され、
前記複数のトレースは、前記基板の前記第1の表面および前記第2の表面の各々において前記複数の基板貫通ビアの第1の基板貫通ビアの内側コアを第2の基板貫通ビアの内側コアに互いに結合する一次巻線に対応する第1の組のトレースのうちの第1のトレースと、前記基板の前記第1の表面及び前記第2の表面の各々において前記第1の基板貫通ビアの外側シェルを前記第2の基板貫通ビアの外側シェルに互いに結合する二次巻線に対応する第2の組のトレースの第2のトレースとを含み、前記第1の組のトレースおよび前記第2の組のトレースは前記基板の両側にある第1の表面および第2の表面上にあり、前記複数の基板貫通ビアによって蛇行するように互いに結合される、3次元入れ子変圧器。」

<相違点>
本願補正発明の「基板」は、「ガラス、サファイア、石英または高抵抗シリコンを含む」ものであるのに対して、引用発明の基板は、「フェライトのような透磁性高電気抵抗材料」である点。

<一応の相違点>
本願補正発明では、基板貫通ビアの内側コアに結合する第1のトレースが「一次巻線」に対応し、基板貫通ビアの外側シェルに結合する第2のトレースが「二次巻線」に対応するのに対して、引用発明では、孔の内側に設けられた第2の導電性材料層が「二次側」に対応し、孔の外側に設けられた第1の導電性材料層が「一次巻線」に対応する点、すなわち、本願補正発明と引用発明において一次巻線と二次巻線の位置関係が逆である点で、一応相違している。


4.判断

上記<相違点>について検討する。
引用例2ないし3に記載されているように、変圧器(トランス)に用いる基板として「ガラス」を用いることは、当該技術分野において周知技術である。
よって、引用発明のトランスにおけるプレートの材料として、フェライトに代えて「ガラス」を用いるようにすること、すなわち、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

請求人は、平成30年2月13日付けの上申書において、「引用文献1に記載の発明では、高透磁性のフェライトプレート(11)の使用が必須となっているものでありますので、そのフェライトプレートを、ガラス基板等の透磁性に劣る物質に置換する動機付けが当業者には全く存在せず、むしろ、そのような置換には阻害要因があると言えるものであると思料します。」と主張している。
しかし、引用例1には、プレートとして「フェライト11のような透磁性高電気抵抗材料の単一のプレート」を用いることが記載され、プレートの材料が「高透磁性」の材料であることは記載されているものの、高透磁性のフェライトプレート(11)の使用が「必須」であることが明記されているとは認められない。
一般に、トランスのコアとなる基板に高透磁性の材料であるフェライトを用いることは、トランス動作時の効率を向上させる点において好ましいことではあるものの、トランスを構成する上での必須事項ではない。事実、引用例2、3に記載されているように、トランスのコアとなる基板にガラス等を用いることも周知技術である。従って、トランスに用いる基板の材料として周知のフェライトとガラスのいずれを採用するかは、要求される効率等を勘案して当業者が適宜決定し得るものであると認められる。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

上記<一応の相違点>について検討する。
変圧器においては、電源が接続される側の巻線を一次巻線と称し、電力が出力される側の巻線を二次巻線と称するものであって、何れの巻線を一次巻線と称するかは実装時に何れの巻線を電源側に接続するかによって決定されるものであるといえる。そして、引用例1の「変圧器」における「第1の導電性材料層」の「複数のパターン」と「第2の導電性材料層」の「複数のパターン」は構造上格別な差異もなく、「第1の導電性材料層」と「第2の導電性材料層」の位置関係により、一次巻線と二次巻線の関係が決定されるものとも認められない。
よって、本願補正発明と引用発明において一次巻線と二次巻線の位置関係が逆である点は、実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1ないし5から当業者が予測できる範囲のものである。


5.予備的見解

仮に、本願補正発明における基板貫通ビアの「内側コア」なる文言が、中心まで導電性材料で満たされていることまで特定するものであると解釈すると、引用発明における孔内にメッキされた第2の導電性材料層は、その中心まで導電性材料で満たされていない点で本願補正発明と相違する。
しかし、引用例4、5に記載されているように、同軸スルーホールにおいて、内側の導体を、筒状の導体とすること、または、中心まで導電性材料で充填されてなるものとすることの何れも周知技術であり、当業者が適宜選択しえたことであると認められる。
よって、引用発明における孔内にメッキされた第2の導電性材料層を引用例4、5に記載の周知技術を適用して、中心まで導電性材料で満たされている構造とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。


6.むすび

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

上記のとおり、平成29年8月17日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年3月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「3次元入れ子変圧器であって、
第1の表面および反対側の第2の表面を有する基板を備え、前記基板は、複数のトレースとともにデイジーチェーン接続される複数の基板貫通ビアを有し、前記複数の基板貫通ビアのうちの少なくともいくつかは第1の導電性領域および第2の導電性領域を有し、前記第1の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの内側コアを含み、前記第2の導電性領域は前記複数の基板貫通ビアの外側シェルを含み、各内側コアは分離層によって前記外側シェルから分離され、
前記複数のトレースは、前記基板の前記第1の表面および前記第2の表面の各々において前記複数の基板貫通ビアの第1の基板貫通ビアの内側コアを第2の基板貫通ビアの内側コアに互いに結合する一次巻線に対応する第1の組のトレースのうちの第1のトレースと、前記基板の前記第1の表面及び前記第2の表面の各々において前記第1の基板貫通ビアの外側シェルを前記第2の基板貫通ビアの外側シェルに互いに結合する二次巻線に対応する第2の組のトレースの第2のトレースとを含み、前記第1の組のトレースおよび前記第2の組のトレースは前記基板の両側にある第1の表面および第2の表面上にあり、前記複数の基板貫通ビアによって蛇行するように互いに結合される、3次元入れ子変圧器。」


2.引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。


3.対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の「基板」は、「ガラス、サファイア、石英または高抵抗シリコンを含む」との限定、すなわち、<相違点>に係る構成を削除したものである。
そして、上記「第2 4.」で前述したように、引用発明と本願発明において一次巻線と二次巻線の位置関係が逆である点(<一応の相違点>)は、実質的な相違点とはいえない。
そうすると、本願発明と引用例1に記載された発明とは相違点を有していないから(上記「第2 3.」を参照)、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

また、上記「第2 5.」で前述したように、本願発明における基板貫通ビアの「内側コア」なる文言が、中心まで導電性材料で満たされていることまで特定するものであり、引用発明における孔内にメッキされた第2の導電性材料層は、その中心まで導電性材料で満たされていない点で本願発明と相違すると解釈しても、引用例4、5に記載の周知技術を適用して、中心まで導電性材料で満たされている構造とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。


4.むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明における基板貫通ビアの「内側コア」なる文言が、中心まで導電性材料で満たされていることまで特定するものであり、引用発明における孔内にメッキされた第2の導電性材料層は、その中心まで導電性材料で満たされていない点で本願発明と相違すると解釈しても、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-29 
結審通知日 2018-11-05 
審決日 2018-11-16 
出願番号 特願2016-545351(P2016-545351)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 秀介池田 安希子堀 拓也田中 崇大  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
田中 慎太郎
発明の名称 入れ子ガラス貫通ビア変圧器  
代理人 黒田 晋平  
代理人 村山 靖彦  

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