ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04B |
---|---|
管理番号 | 1350504 |
審判番号 | 不服2018-1219 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-30 |
確定日 | 2019-04-04 |
事件の表示 | 特願2014-248605「角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-108868〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月9日の出願であって、平成29年5月1日付け(発送日:平成29年5月9日)で拒絶理由通知がされ、平成29年7月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月26日付け(謄本送達日:同年10月31日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正がされ、本件審判手続において、同年10月11日付け(発送日:同年10月16日)で当審より拒絶理由通知がされ、同年12月14日に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年1月30日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造であって、4枚のL字形鋼片が、各L字形鋼片の端部が隣に位置するL字形鋼片の端部と突き合された状態で、角形鋼管柱と溶接接合されることで、外ダイアフラムが形成されていて、該外ダイアフラムを介して角形鋼管柱とH形鋼梁が溶接接合されており、前記L字形鋼片は、圧延によって製造された山形鋼をスライスして製作したものであることを特徴とする、角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造。」 第3 拒絶の理由 平成30年10月11日付けの当審が通知した拒絶理由は次のとおりである。 本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献一覧 1.特開2007-162368号公報 2.特開2011-94406号公報 3.特開2004-316260号公報 第4 引用文献の記載、引用発明等 1 引用文献1について 当審の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は本審決で付した。以下同様。)。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、鋼管柱と鋼製梁との接合構造に関する。」 (2)「【背景技術】 【0002】 従来、鋼管柱と鉄骨梁(鋼製梁)の接合構造の一例としてダイアフラム構造が知られており、このダイアフラム構造としては、内ダイアフラム構造、通しダイアフラム構造、外ダイアフラム構造等が知られている。外ダイアフラム構造は、鋼管柱を切断することなく、梁との接合のために鋼管柱の外側に外ダイアフラムとなる鋼板を取り付けたもので、この外ダイアフラムを介して梁の応力が柱や他の梁等に伝達されるようになっている。この外ダイアフラム構造によれば、溶接量が少なく、かつ溶接が容易であり、また構造計算が簡単となる長所がある。 しかし、1枚板からなるダイアフラムを使用した外ダイアフラム構造では、ダイアフラムとなる鋼板を一枚の板から切断加工して製造するため、切り落とされて無駄となる部分が多いので、ダイアフラム板採取の歩留まり向上の観点からダイアフラムを分割する技術として、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に記載の技術が提案されている。・・・ 【0005】 【特許文献1】特開2002-173978号公報 【特許文献2】特開2003-27590号公報 【特許文献3】特開2002-220876号公報 【特許文献4】実開平6-29768号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 ところで、前記特許文献1および特許文献2に記載の技術では、ダイアフラムと梁とをボルト接合することを前提としているため、ダイアフラムはボルト孔による断面欠損を考慮する必要があり、ダイアフラム幅あるいはダイアフラム板厚の増加を招く。また、ボルトを配置するため、ダイアフラムと梁とを溶接接合する場合に比べ、ダイアフラムの軸方向の長さが長くなり、ダイアフラムの材料費の高騰、運搬効率の低下等の問題点を有する。 また、前記特許文献3に記載の技術では、ダイアフラム相互をボルト接合しているが、ボルト孔欠損による断面積を補うためにダイアフラム相互の取り付け位置のダイアフラム幅あるいは板厚の増加を招き、ダイアフラムの材料費の高騰、運搬効率の低下等の問題点を有する。前記特許文献4に記載の技術では、4枚板で構成された分割形外ダイアフラム相互の溶接は完全溶け込み溶接を前提としており、完全溶け込み溶接は加工工数の増加、溶接熱による歪や鋼材の材質劣化を招くことになる。 【0007】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、分割ダイアフラムを採用した鋼管柱と鋼製梁との接合構造において、品質が安定しかつ安価な接合構造を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らが鋭意研究したところ、鋼製梁からの応力は分割ダイアフラムおよびこの分割ダイアフラムを介して鋼管柱にも伝達されるので、分割ダイアフラム相互の接合部には梁からの応力の一部を伝達できるだけの強度を有すればよいという知見を得て、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、鋼管柱にダイアフラムを介して鋼製梁が接合される柱・梁接合構造において、前記ダイアフラムは、このダイアフラムを前記鋼管柱の周方向に複数に分割してなる複数の分割ダイアフラムで構成されており、前記分割ダイアフラムに前記鋼製梁が溶接接合されており、隣接する分割ダイアフラム相互は部分溶け込み溶接されていることを特徴とする。 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、分割ダイアフラムに鋼製梁が溶接接合されているので、従来のボルト接合と異なり、ダイアフラムにボルト孔による断面欠損を考慮する必要がないので、ダイアフラム幅あるいはダイアフラム板厚の増加を招くことがなく、またボルト接合のようにダイアフラムの軸方向の長さを長くする必要がない。したがって、ダイアフラムの材料費の高騰、運搬効率の低下等を抑制できる。 また、隣接する分割ダイアフラム相互は部分溶け込み溶接されているので、従来のダイアフラム相互をボルト接合するものと異なり、ボルト孔欠損による断面積を補う必要がないので、ダイアフラム相互の取り付け位置のダイアフラム幅あるいは板厚の増加を招くことがない。したがって、この点においてもダイアフラムの材料費の高騰、運搬効率の低下等を抑制できる。また、溶接熱による歪や鋼材の劣化等を抑制できる。 よって、品質が安定しかつ安価な柱・梁接合構造とすることができる。」 (3)「【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。 (第1の実施の形態) 図1?図5は本発明の第1の実施の形態に係る柱・梁接合構造を示す図であって、図1は平面図、図2は分割ダイアフラムを鋼管柱とともに示す分割平面図、図3は分割ダイアフラム相互の部分溶け込み溶接部を示す平面図、図4は分割ダイアフラムの部分溶け込み溶接部を示す縦断面図、図5は分割ダイアフラム相互の部分溶け込み溶接部を示す断面図である。 【0011】 これらの図に示すように、鋼管柱1は円筒状の柱であり、その内部にはコンクリートが充填されている。鋼管柱1の外周面には、リング状のダイアフラム2が溶接接合されている。このダイアフラム2は全体として八角形リング状のものであり、4つの分割ダイアフラム2aによって構成されている。分割ダイアフラム2aは、ダイアフラム2を鋼管柱1の周方向に等分で4つに分割してなるもので、全て同形状となっている。また、ダイアフラム2における分割位置は、八角形の一辺の中央部であるが、この分割位置がある一辺は周方向に一つおきに配置された一辺である。さらに、分割線は前記一辺と直角であり、かつ鋼管柱1の中心を向いている。 【0012】 前記分割ダイアフラム2aは鋼管柱1側を向く平面視円弧状の部位が隅肉溶接Cによって鋼管柱1の外周面に溶接接合されている。 また、分割ダイアフラム2aの外周部には、鉄骨梁3のフランジの端部が当接されており、この分割ダイアフラム2aに前記フランジが溶接接合されている。 さらに、周方向に隣接する分割ダイアフラム2a,2a相互は部分溶け込み溶接されている。すなわち、隣接する分割ダイアフラム2a,2aの分割線に沿って部分溶け込み溶接部Bが形成されており、この部分溶け込み溶接部Bは、分割ダイアフラム2aの鋼管柱1の表面に当接する部位から外周部にかけて形成されている。また、部分溶け込み溶接部Bは分割ダイアフラム2aの上下両面に形成されている。 【0013】 このような柱・梁接合構造によれば、分割ダイアフラム2aに鉄骨梁3が溶接接合されているので、従来のボルト接合と異なり、ダイアフラム2にボルト孔による断面欠損を考慮する必要がないので、ダイアフラム幅あるいはダイアフラム板厚の増加を招くことがなく、また、ボルト接合のようにダイアフラム2の軸方向の長さを長くする必要がない。したがって、ダイアフラムの材料費の高騰、運搬効率の低下等を抑えることができる。 また、隣接する分割ダイアフラム2a,2a相互は部分溶け込み溶接されているので、従来のダイアフラム相互をボルト接合するものと異なり、ボルト孔欠損による断面積を補う必要がないので、分割ダイアフラム相互の取り付け位置のダイアフラム幅あるいは板厚の増加を招くことがない。この点においてもダイアフラムの材料費の高騰、運搬効率の低下等を抑えることができる。また、溶接熱による歪や鋼材の劣化等を抑えることができる。 よって、品質が安定しかつ安価な柱・梁接合構造とすることができる。 【0014】 (第2の実施の形態) 図6および図7は本発明の第2の実施の形態に係る柱・梁接合構造を示す図であって、図6は平面図、図7は分割ダイアフラムを鋼管柱とともに示す分解平面図である。 これらの図に示す柱・梁接合構造が、前記第1の実施の形態の柱・梁構造と異なる点は、ダイアフラム2の分割位置であり、その他の構成は第1の実施の形態と共通であるので、共通部分には同一符号を付してその説明を省略する。 【0015】 図6および図7に示すように、ダイアフラム2の分割位置は、鉄骨梁3の中心部、つまりフランジの幅方向中央に対応している。そして、このような位置で分割されてなる分割ダイアフラム2aの形状は、第1の実施の形態の分割ダイアフラム2aと等しくなっている。 鉄骨梁3のフランジは、隣接する分割ダイアフラム2a,2aの外周部に、分割線を跨ぐようにして当接されたうえで、これら分割ダイアフラム2a,2aに溶接接合されている。 また、分割ダイアフラム2aは第1の実施の形態と同様に、鋼管柱1側を向く平面視円弧状の部位が隅肉溶接によって溶接接合され、周方向に隣接する分割ダイアフラム2a,2a相互は部分溶け込み溶接されている。 【0016】 本実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる他、分割ダイアフラム2a,2aの部分溶け込み溶接部Bに鉄骨梁3から上下方向に曲げモーメントが作用しないので、分割溶け込み溶接部Bの耐力の低下は生じないという効果が得られる。」 (4)「【0019】 なお、本実施の形態では、ダイアフラムを外ダイアフラム形式としたが、本発明は通しダイアフラム形式でも適用することができる。 また、本実施の形態では、鋼管柱を円筒状としたが、角形鋼管柱であってもよいし、鋼管柱内には、コンクリート充填してもしなくてもよい。」 (5)「【図5】 」 図5から、以下のことが看取できる。 「分割ダイアフラム2aの端部が、隣に位置する分割ダイアフラム2aの端部と突き合されていること。」 (6)上記(2)の【特許文献1】ないし【特許文献3】には、以下の事項が記載されている。 ア 【特許文献1】特開2002-173978号公報について 「【0024】図1(A),(B)に示される第1の具体的実施形態の角形鋼管柱と鉄骨梁の接合構造は、1本の角形鋼管柱1に4本の鉄骨梁3,…を直交状に接合する具体的構造を示し、角形鋼管柱1に溶接されて4本の鉄骨梁3,…を接合する上下一対の分割型外ダイアフラム(以下、ダイアフラムと称する)22,22を特徴とする。図2(A)(B)は、ダイアフラム22,22の形状を理解容易なように、ダイアフラム22を一部分解して示す。上下一対のダイアフラム22,22は、同一形状で、各ダイアフラム22,22は角形鋼管柱1の柱面1aと直交する水平鋼板で、ある柱面1aの外周方向で幅方向の約1/2とその柱面1aに隣接する柱面1aの幅方向の約1/2の範囲に亘って取り付けられる4枚の分割ダイアフラム23,…で構成され、角形鋼管柱1の各柱面1aごとに左右一対の各分割ダイアフラム23,…の先端部で各1本の鉄骨梁3のフランジ部3bの端部が溶接で、あるいは、後述するように高力ボルト等の別部材を介して接合される。 ・・・ 【0029】そして、図1(A),(B)に示すように、角形鋼管柱1の各柱面1aに接合された、左右一対の分割ダイアフラム23,23の先端部にH形鋼の鉄骨梁3のフランジ部3bを突き合わせるとともに、鉛直スチフナー30の角形鋼管柱1の柱面1aと反対側端面にH形鋼の鉄骨梁3のウェブ部3aを突き合わせる。さらに、上記のようにして突き合わせた分割ダイアフラム23,23と鉄骨梁3のフランジ部3bとの上下両面にそれぞれカバープレート41,42を当てて、高力ボルト51で接合する。また、鉛直スチフナー30の両面と鉄骨梁3のウェブ部3aの両面にそれぞれウェブ継手板61を当てて、高力ボルト52で接合する。このとき、鉛直スチフナー30の上下面と上下ダイアフラム22,22の上下面から若干突出するようにしているから、カバープレート41,42の上面は鉛直スチフナー30の上面と略同一高さになる。」 イ 【特許文献2】特開2003-27590号公報について 「【0015】実施形態1 図1は、本発明の一実施形態に係る建築物における柱・梁の接合部の構造を示す斜視図である。図に示すように、CFT柱(以下鋼管柱という。)1には、H形鋼或いはI形鋼等の梁2が、その角柱の4周側壁面に各々接合される実施例である。梁2のウェブ3は、当該鋼管柱1に固定されたガセットプレート4とスプライスプレートを介してハイテンションボルトによって連結され、梁2の上下のフランジ5、6と外ダイアフラム7、8は、スプライスプレートとハイテンションボルトを介して連結される。 【0016】当該外ダイアフラム7、8は、矩形形状の鋼板をその対角線に沿って4分割した形状で、略二等辺三角形形状の板状体を形成している。そして該略二等辺三角形の頂点となる側を、鋼管柱1の外形形状に沿って矩形形状に切断し切欠部9を形成している。従って、全体として、二山形状の板状体として形成されている。」 ウ 【特許文献3】特開2002-220876号公報について 「【0025】柱1には、H形断面鉄骨からなる梁2の上下両フランジ部2A,2Aが接合部材であるリング状の上下一対のダイアフラム3,3を介して接合されている。」 上記(3)に記載のとおり、「鉄骨梁3」がフランジを有する点を踏まえつつ、アないしウの記載をみれば、【特許文献1】ないし【特許文献3】に記載された発明の課題を解決した引用文献1に記載の「鉄骨梁3」は、H形鋼梁であると解するのが自然である。 なお、仮に、「鉄骨梁3」がH形鋼梁であるとまで認定できず、本願発明と相違するとしても、H形鋼梁とすることは設計的事項に過ぎない。 また、上記(2)、(3)に記載のとおり、「分割ダイアフラム2a」が、鋼管柱1の外周面及び鉄骨梁3のフランジに溶接され、周方向に隣接する「分割ダイアフラム2a,2a」相互が部分溶け込み溶接されていること、及び背景技術であるア及びイの記載事項を参酌すれば、引用文献1に記載の「分割ダイアフラム2a」は、鋼製であると解するのが自然である。 (7)上記(4)により、引用文献1には、「鋼管柱1」を「角形鋼管柱」とすることが記載されている。 (8)したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「角形鋼管柱とH形鋼梁との柱・梁接合構造であって、 ダイアフラム2は外ダイアフラム形式であり、 ダイアフラム2を角形鋼管柱の周方向に等分で4つに分割してなる鋼製の分割ダイアフラム2aの端部が、周方向に隣接する分割ダイアフラム2aの端部と突き合されて部分溶け込み溶接されており、 ダイアフラム2の分割位置は、H形鋼梁のフランジの幅方向中央に対応しており、 分割ダイアフラム2aは角形鋼管柱の外周面に溶接接合されており、 分割ダイアフラム2aの外周部には、H形鋼梁のフランジの端部が当接されており、この分割ダイアフラム2aにフランジが溶接接合されている、 角形鋼管柱とH形鋼梁との柱・梁接合構造。」 2 引用文献2について 当審の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (1)「【0001】 本発明は、鉄骨構造物などに使用される外ダイアフラム形式の角形鋼管柱に関する。」 (2)「【0036】 以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。 図1を参照して、本発明に係る外ダイアフラム1形式の角形鋼管柱2及びこの角形鋼管柱2に梁部材5が直接接続されてなる柱梁接合部の構成(柱梁接合部の構造)について説明する。 【0037】 本発明の角形鋼管柱2は、鉄骨構造物などの柱となる角形の鋼管であって断面角筒状である。この角形鋼管柱2には、断面H型の梁部材5が取り付けられ、建築構造物を構成する柱梁接合構造が形成される。 すなわち、図1に示すごとく、外ダイアフラム1形式の柱梁接合部は、角形鋼管柱2の外壁面に外ダイアフラム1を配備した上で、角形鋼管柱2と外ダイアフラム1の基端とを溶接し、外ダイアフラム1の先端に梁部材5を溶接する。その後、溶接した梁部材5に梁材3をボルト等で接続する。なお、梁部材5とそれに接続された梁材3とを合わせたものを単に梁と呼ぶ場合もある。 【0038】 特に、図1(a)に示すように、外ダイアフラム1は厚板鋼板から切り出された平板状の部材であり、外ダイアフラム1の張出し幅Hdを、鋼管の外径Dに対してHd=0.15D?0.4Dとしている。望ましくは、Hd=0.20D?0.35D(0.20D以上0.35D以下)とするとよい。 さらに、図1(b)に示すように、外ダイアフラム1の断面の面積Adを、接合されるH型断面の梁からの作用応力に対してせん断抵抗力にて耐え得る面積としている。なお、外ダイアフラム1の断面の面積Ad=張出し幅Hd×板厚tdである。 【0039】 詳しくは、図1(a)に示すように、外ダイアフラム1は平面視で角枠形(角環状形)を呈していて、梁部材5が取り付く部分は直線部(外縁直線部L)となっている。角枠形の中央部に形成された内孔6が角形鋼管柱2の外壁面に嵌り込むものとなっている。 外ダイアフラム1は角形角形鋼管柱2に嵌り込んだ上で上下に一対設けられる。上側の外ダイアフラム1aと下側の外ダイアフラム1bとの間隔は、それに取り付く梁部材5に接続されるH型梁材3の梁せいと同じとされる。」 (3)「【0051】 図1に示すように、外縁直線部Lの長さは外ダイアフラム1の加工負荷を考慮すれば単純に延長した四角形でよいが、実建築構造物では鉄骨架構以外に柱近くにパイプや配管等の付属設備が取り付く場合があり、その場合は四角形の角部を切り取った図3(a)?図3(c)、すなわち、八角形や12角形のいずれかの形状にすることも可能である。いずれであっても、角形鋼管柱2の外側壁に取り付く角枠形を呈している。また、この外ダイアフラム1は一枚の鋼板からくり抜いてもよく、分割した形状の鋼板を溶接接合して作製してもよい。」 したがって、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「鉄骨構造物を構成する角形鋼管柱2と断面H型の梁部材5との柱梁接合構造において、角形鋼管柱2の外壁面に、厚板鋼板から切り出された平板状かつ角枠形(角環状形)の外ダイアフラム1を配備した上で、角形鋼管柱2と外ダイアフラム1の基端とを溶接し、外ダイアフラム1の先端に梁部材5を溶接し、外ダイアフラム1は、分割した形状の鋼板を溶接接合して作製されており、加工負荷を考慮して四角形の形状を呈している、柱梁接合構造。」 3 引用文献3について 当審の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (1)「【0017】 さらに、蓋15の部分およびこれを形成するまでの手順について、図4?図6を参照して説明すると、横断面円形の鋼管柱部材1の上端5から下方に離れた上部内面6に、短尺に切断された圧延山形鋼製アングル等からなる複数の抜け止めブラケット9が周方向に間隔をおいて配置されて、抜け止めブラケット9の縦部分が鋼管柱部材1の内面に溶接により固定されて設けられ、かつ抜け止めブラケット9の下方に、短尺に切断された圧延山形鋼製アングルからなる複数の底板受け用のブラケット10が周方向に間隔をおいて配置されて、底板受け用のブラケット10の縦部分が鋼管柱部材1の内面に溶接により固定されて設けられている。圧延によって製造された山形鋼を短尺に切断して形成した抜け止めブラケット9であると、後記のずれ止め部材として機能させる場合、剛性の高い部材となる。」 (2)「【図4】(a) 」 図4(a)から、以下の点が看取できる。 「ブラケット9、10を、L字形とすること。」 したがって、引用文献3には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「L字形のブラケット9、10を、圧延によって製造された山形鋼を短尺に切断することにより形成する。」 第5 対比・判断 1 対比 (1)引用発明の「角形鋼管柱とH形鋼梁との柱・梁接合構造」は、本願発明の「角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造」に相当する。 (2)一般的なダイアフラムは、上記第4の1(2)「外ダイアフラムとなる鋼板」との記載を参酌すれば、「板状」であるから、引用発明において、「ダイアフラム2」を「4つに分割してなる鋼製の分割ダイアフラム2a」は、「枚」で数えられるものと認められるから、「4枚の鋼片」である。 (3)引用発明において、「ダイアフラム2」を「4つに分割してなる分割ダイアフラム2a」は、「角形鋼管柱の外周面に溶接接合され」るものであり、「ダイアフラム2」は、「外ダイアフラム形式」であるから、引用発明の「ダイアフラム2」は、本願発明の「外ダイアフラム」に相当する。 (4)引用発明において、「分割ダイアフラム2aの端部が、周方向に隣接する分割ダイアフラム2aの端部と突き合されて部分溶け込み溶接され」、「分割ダイアフラム2aは角形鋼管柱の外周面に溶接接合されて」いることは、本願発明の「鋼片の端部が隣に位置する」「鋼片の端部と突き合された状態で、角形鋼管柱と溶接接合される」ことに相当する。 (5)引用発明において、外ダイアフラムである「ダイアフラム2」が分割された、「分割ダイアフラム2a」が、「角形鋼管柱の外周面」と「H形鋼梁のフランジの端部」に溶接接合されていることから、本願発明のように、「外ダイアフラムを介して角形鋼管柱とH形鋼梁が溶接接合されて」いるといえる。 (6)以上(1)ないし(5)から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造であって、4枚の鋼片が、各鋼片の端部が隣に位置する鋼片の端部と突き合された状態で、角形鋼管柱と溶接接合されることで、外ダイアフラムが形成されていて、該外ダイアフラムを介して角形鋼管柱とH形鋼梁が溶接接合されている、角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造。」 (相違点) 「鋼片」が、本願発明では「L字形」であって「圧延によって製造された山形鋼をスライスして製作」されるのに対し、引用発明ではその形状と製作方法について特定されていない点。 2 相違点についての判断 引用文献2には、上記第4の2で述べたように、「外ダイアフラム1」は、「分割した形状の鋼板を溶接接合して作製してもよい」ことが記載されていることから、引用発明と引用文献2に記載された技術事項は、「分割されている外ダイアフラムを用いたH形鋼梁と角形鋼管柱の柱梁接合構造」という共通の技術分野に属するものである。 加えて、引用文献2に記載された技術事項には、「加工負荷を考慮」して、外ダイアフラムを「四角形」の「角枠状」としたことが特定されている。 そして、引用発明においても、加工負荷を考慮することは、当然内在した課題であるから、引用発明に、引用文献2に記載された技術事項を適用して、「ダイアフラム2」を四角形の角枠形とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 その際に、引用発明では、「ダイアフラム2の分割位置は、H形鋼梁のフランジの幅方向中央に対応して」いることから、四角形の角枠形の外ダイアフラムの分割位置は、H形鋼梁のフランジの幅方向中央に対応した位置となり、「分割フランジ2a」の形状がL字形となるのは当業者であれば明らかなことである。 また、例えば、引用文献3に記載された技術事項のように、「L字形」の部材を、「圧延によって製造された山形鋼を短尺に切断することにより形成する」ことは、周知技術である。 そして、引用発明に、引用文献2に記載された技術事項を適用することにより得られる「L字形鋼片」をどのように製作するかは、当業者が適宜決定し得ることであるから、上記周知技術を参酌して、「圧延によって製造された山形鋼を短尺に切断する」ことにより製作することは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、本願発明の「スライスして製作する」事項について、「スライス」との用語の意味は、「薄く切ること。また、その薄片。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であることから、本願発明の「スライスして製作する」ことは、「薄く切って製作する」ことであると解することができるものの、本願発明においては、「L字形鋼片」の板厚や長さが特定されていないから、引用文献3に記載された周知の技術事項である「短尺に切断することにより形成する」ことと実質的な区別がつかない。 仮に、本願発明の「スライス」することと、引用文献3に記載された周知の技術事項である「短尺に切断する」ことの意味が異なるとしても、「L字形鋼片」を製作するに際し、所望の「L字形鋼片」の厚さを考慮して、「スライス」することは、当業者が適宜なし得ることに過ぎないし、引用文献2に記載された技術事項の外ダイアフラムが「平板状」であることからみても、「スライス」するといえる程度の厚みで切断することは、当然のことである。 よって、引用発明に、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術(引用文献3に記載された技術事項)を適用して、本願発明の相違点に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術(引用文献3に記載された技術事項)に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。 3 請求人の主張について 請求人は、意見書の2.(2)において、「しかしながら、本願発明と引用文献3とでは、以下に述べるように、技術的意味が大きく異なっています。まず、引用文献3では、圧延によって製造された長尺の山形鋼(原文では「鋼」は「綱」。以下同様。)を短尺に切断して、抜け止めブラケットとして使用することが記載されています。この抜け止めブラケット(山形鋼)は、長さ方向が水平方向を向くようにし、どちらかの一辺の表面を鋼管柱の内面に当接させて固定し、他の一辺が鋼管柱の内面から鋼管柱の内部に向かって水平方向に突出するように設置されます。そして、この山形鋼(抜け止めブラケット)に作用する力は、水平方向に突出した辺に対して鉛直方向に作用するものであり、いわば片持ち梁のような挙動を期待したものです。この場合、山形鋼の長さはその板厚に比べて充分に大きくなければ効果は期待できません。したがって、引用文献3では、圧延によって製造された長尺の山形鋼を、板厚に比べて充分大きな長さに切断することになります。これに対して、本願発明では、圧延によって製造された山形鋼をスライスして製作した4枚のL字形鋼片を組み合わせて外ダイアフラムとしています。ここで、スライス前の山形鋼の長さ方向をL字形鋼片(山形鋼)の長さ方向とし、スライス前の山形鋼の板厚をL字形鋼片(山形鋼)の板厚とした時に、このL字形鋼片(山形鋼)は、長さ方向が鉛直方向を向くようにして、角形鋼管柱の外面に設置されます。つまり、二辺とも板厚方向が水平方向になるように設置されます。そして、この山形鋼(L字形鋼片)に作用する力は、山形鋼の板厚方向(水平方向)に作用することを想定しています。この場合、山形鋼の長さは板厚に比べてそれほど大きくする必要はありません。取り付くH形鋼梁の板厚や強度によっては、板厚と同程度であっても問題がありません。逆に、山形鋼(L字形鋼片)の長さが長過ぎると、自重の増加等の弊害を招いてしまいます。よって、本願発明では、圧延によって製造された山形鋼をスライスして、長さが非常に短いL字形鋼片(L字形薄鋼片)を切り出すことになります。以上述べたように、引用文献3に示された、圧延によって製造された山形鋼を短尺に切断して形成した抜け止めブラケットと、本願発明における、圧延によって製造された山形鋼をスライスして製作したL字形鋼片とでは、山形鋼に期待する力学的挙動が全く異なるものです。しかも、引用文献3に示されるような、長尺の山形鋼を購入し、必要な長さに切断して使用することは、山形鋼に限らず、ごく普通に行われる作業であり、本願発明のように、山形鋼をスライスして、非常に長さが短いL字形鋼片(L字形薄鋼片)を切り出すのとは、技術的に全く異なることです。」と主張するので検討する。 出願人が主張するように、本願発明のように「スライスして製作した」L字鋼片と、引用文献3に記載された周知の技術事項である「短尺に切断」した「L字状のブラケット9、10」とでは、切断する際の長さは両者で異なる可能性は認められる。 しかしながら、引用発明に適用している周知技術(引用文献3に記載された技術事項)は、「圧延によって製造された山形鋼を短尺に切断することにより形成する。」という製作方法を適用しているのであり、「L字型のブラケット9、10」の形状を適用しているわけではない。また、上記2(2)で示したように、本願発明において、「L字状鋼片」の構成を特定するにあたり、「スライスして製作した」L字鋼片の具体的な長さや板厚が不明であるため、「短尺に切断することにより形成した」ことと具体的な違いは認められない上、仮に、「スライス」することと「短尺に切断」することが異なることを指すとしても、ダイアフラムを製作するにあたり、「スライス」するといえる程度の厚みで切断することは、当業者であれば容易になし得ることである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-01-22 |
結審通知日 | 2019-01-29 |
審決日 | 2019-02-18 |
出願番号 | 特願2014-248605(P2014-248605) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(E04B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 星野 聡志 |
特許庁審判長 |
小野 忠悦 |
特許庁審判官 |
富士 春奈 住田 秀弘 |
発明の名称 | 角形鋼管柱とH形鋼梁との柱梁接合構造 |
代理人 | 坂井 哲也 |
代理人 | 尾崎 大介 |
代理人 | 磯村 哲朗 |
代理人 | 熊坂 晃 |